特許異議申立
2016-700630
魚釣用両軸受型リール
- 審判番号
- 2016-700630
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-063566
- 登録番号
- 特許第5872937号(P5872937)
- 請求日
- 2016年07月19日
- 審決日
- 2017年02月01日
- 公報発行日
- 2017年04月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】グローブライド株式会社
- 【権利者代理人】水野 浩司
- 【権利者代理人】松下 亮
- 【異議申立人】株式会社 シマノ
- 【異議申立人代理人】グローバル・アイピー東京特許業務法人
- 審判長/審判官
- 審判長 中田 誠
- 審判官 前川 慎喜
- 審判官 赤木 啓二
- 分類
- P1651.121-YAA(A01K) / P1651.536-YAA(A01K) / P1651.537-YAA(A01K) / P1651.55 -YAA(A01K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第17条の2第3項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項第3号、特許法第126条第4項、特許法第120条の5第5項、特許法第17条の2第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5872937号発明「魚釣用両軸受型リール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5872937号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について」訂正することを認める。
特許第5872937号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5872937号の請求項1ないし3に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成24年3月21日に特許出願され、平成28年1月22日にその特許権の設定登録がされた。
その後、その特許に対し、特許異議申立人株式会社シマノ(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成28年11月15日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年1月13日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)があったものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正内容
本件訂正請求による訂正内容は以下の(1)から(3)のとおりである
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載された
「・・・前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、
0.159≦φB/φA≦0.260
の関係式が成り立つように、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられること・・・」とあるのを、
「・・・前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、
0.159≦φB/φA≦0.260
の関係式が成り立つように寸法関係が設定されていると共に、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられていること・・・」(下線は訂正請求書のとおり。以下同様。)に訂正する。請求項1の記載を引用する請求項2及び請求項3も同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0007】に記載された「・・・前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式が成り立つように、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられること・・・」とあるのを、
「・・・前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式が成り立つように寸法関係が設定されていると共に、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられていること・・・」に訂正する。
(3) 訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0008】に記載された「・・・この請求項1に記載の発明によれば、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式を満たすように凹状の溝または貫通孔を巻回胴部およびリムに設けることにより・・・」とあるのを、
「・・・この請求項1に記載の発明によれば、スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに0.159≦φB/φA≦0.260の関係式を満たすように寸法関係が設定されていると共に、凹状の溝または貫通孔を巻回胴部およびリムに設けることにより・・・」に訂正する。
2 訂正の適否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、訂正前の請求項1の
「・・・前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、
0.159≦φB/φA≦0.260
の関係式が成り立つように、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられること・・・」という、
「スプールの糸巻き領域の平均径をφA、ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、0.159≦φB/φA≦0.260 の関係式」と「凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられること」との関係が不合理で、請求項1に記載した発明が技術的に正確に特定されない記載になっていたものを、
「・・・前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、
0.159≦φB/φA≦0.260
の関係式が成り立つように寸法関係が設定されていると共に、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられていること・・・」と訂正して発明を明確にし、また請求項1の記載を引用する請求項2及び請求項3も同様に訂正するものであるから、訂正事項1に係る訂正は明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
(ア) 訂正事項1における「スプールの糸巻き領域の平均径をφA、ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式が成り立つように寸法関係が設定されている」という事項を有する「魚釣用両軸受型リール」についての本件特許の明細書の記載の有無をみると、「釣用両軸受型リールの実施形態」の「第1の実施形態」(段落【0017】)として、「0.159≦φB/φA≦0.260の関係式を満たす13個の本発明例(比率φB/φAが異なる本発明例1a~本発明例4d)」(段落【0030】)が、段落【0032】の【表2】に記載されている。
(イ) 訂正事項1における「凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられている」という事項を有する「魚釣用両軸受型リール」についての本件特許の明細書の記載の有無をみると、まず段落【0036】には、「その一部が巻回胴部5bとリム5dとの接続領域60に位置され」、「リム5dを貫」く「貫通孔50が形成されている」「本発明の第2の実施形態」が記載されている。
次に、本件特許の明細書の段落【0038】には、「スプール5の巻回胴部5bの外周面30を基点としてスプール軸5の軸方向に対して垂直な方向・・・でリム5dへ向かって延びてリム5dに達して」いる「凹状の溝52」が「リム5dに」「設けられている」「本発明の第3の実施形態」が記載されている。
次に、本件特許の明細書の段落【0039】には、「第2の実施形態と第3の実施形態との組み合わせであり、第3の実施形態における溝52が巻回胴部5bとリム5dとのR形状の接続領域を越えて延び、リム5dの径方向外側にその周方向に沿って所定の角度間隔を隔てて配列される複数の貫通孔として且つ巻回胴部5bの中心部で周方向に沿って所定の角度間隔を隔てて配列される前記貫通孔に連通する複数の溝として形成される複合穴52Aを備える」「本発明の第4の実施形態」が記載されている。
(ウ) 上記(ア)、(イ)を踏まえ、訂正事項1における「スプールの糸巻き領域の平均径をφA、ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式が成り立つように寸法関係が設定されている」という事項と「凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられている」という事項を「共に」有する「魚釣用両軸受型リール」についての本件特許の明細書の記載の有無をみると、段落【0041】の【表4】には、上記(ア)で述べた「本発明例1a~本発明例4d」であると共に上記(イ)で述べた「第2ないし第4の実施形態」である各「実施例」が記載されている(【表4】中の「実施例2」~「実施例4」という記載が「第2の実施形態」~「第4の実施形態」に対応することは段落【0040】に記載されている。)。
(エ) 上記(ア)~(ウ)でみたように、本件特許の明細書には、「前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式が成り立つように寸法関係が設定されていると共に、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられている」「魚釣用両軸受型リール」が記載されている。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
ウ 特許請求の拡張・変更の存否
上記アで述べたように、訂正事項1に係る訂正は、不合理であり発明が技術的に正確に特定されない記載を訂正して発明を明確にするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2) 訂正事項2及び3について
訂正事項2及び3は、発明の詳細な説明の記載を、訂正後の請求項の記載と整合するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。
(3) 一群の請求項について
本件訂正請求では、訂正後の請求項1~3が請求の対象とされており、一群の請求項に対して請求をするものであるから、本件訂正請求は特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
(4) 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する特許法第126条第4項ないし第6項の規定に適合する。
よって、本件訂正請求による訂正を認める。
第3 特許異議の申し立てについて
1 本件特許の請求項1ないし3に係る発明
上記第2のとおり本件訂正請求による訂正は認められるから、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下「本件訂正発明1」などという。)は、訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
釣糸が巻回されるスプールに固定されるスプール軸の両端側がリール本体にボールベアリングを介して回転可能に支持されて成る魚釣用両軸受型リールであって、
前記スプールは、釣糸が巻回される巻回胴部と、前記スプール軸を固定するスプール軸支持部と前記巻回胴部とを接続するように径方向に延びるリムとを有し、
前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、
0.159≦φB/φA≦0.260
の関係式が成り立つように寸法関係が設定されていると共に、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられていることを特徴とする魚釣用両軸受型リール。
【請求項2】
前記巻回胴部の内周面から前記スプール軸の中心軸までの距離をL、前記スプール軸支持部の外周面から前記巻回胴部の内周面へ接続するように前記スプール軸側から径方向に延びる薄肉状の前記リムの長さをL1としたときに、
0.694≦L1/L≦0.780
の関係式が成り立つことを特徴とする請求項1に記載の魚釣用両軸受型リール。
【請求項3】
前記凹状の溝または前記貫通孔の少なくとも一部が前記巻回胴部と前記リムとの接続領域に設けられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の魚釣用両軸受型リール。」
2 取消理由の概要
(1) 取消理由が対象とする記載
ア 特許請求の範囲
特許請求の範囲の訂正前の請求項1には、以下の記載がある。
「前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、
0.159≦φB/φA≦0.260
の関係式が成り立つように、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられることを特徴とする魚釣用両軸受型リール。」
イ 明細書(訂正前)
(ア) 段落【0007】
「前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式が成り立つように、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられることを特徴とする。」
(イ) 段落【0008】
「この請求項1に記載の発明によれば、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式を満たすように凹状の溝または貫通孔を巻回胴部およびリムに設けることにより、すなわち、スプールの糸巻き領域の平均径φAに対するボールベアリングの外輪の外径φBの比率φB/φAをこれらの範囲内(15.9%以上26%以下)に低く抑えることにより、実釣時の釣糸に水分が含まれた状態を考慮したスプールのスプール軸周りの慣性モーメントを小さくできるとともに、ボールベアリングの慣性モーメントも小さくできるため、キャスト抵抗を極めて小さくでき、スプールのフリー回転性能を格段に向上させることができる。」
(2) 各取消理由の概要
ア 特許法第36条第6項第2号(明確性要件)(以下「取消理由1」という。)
上記(1)アで摘記した特許請求の範囲の記載について、本件図面等を参照しても、「φA」「φB」は、「凹状の溝または貫通孔」に係る寸法ではなく、「0.159≦φB/φA≦0.260の関係式」ということと、「凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられる」ということとは、「成り立つように・・・設けられる」という関係にないので、発明が不明確である。
よって、請求項1に係る特許および請求項1を引用する請求項2及び3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
イ 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)(以下「取消理由2」という。)
本件特許の発明の詳細な説明は、上記(1)アで摘記した発明特定事項を有するスプールを実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
すなわち、発明の詳細な説明には、「凹状の溝または貫通孔」が「巻回胴部およびリム」にいかに設ければ「0.159≦φB/φA≦0.260の関係式が成り立つように」設けられたことになるのか明確かつ十分な説明がなく、また出願時の技術常識であるとも考えられない。
この点、発明の詳細な説明中で、「凹状の溝または貫通孔」を設けることについて具体的に各「本発明例」を列挙している表4をみても、全「本発明例」が「凹状の溝または貫通孔」を設ける設けないによらず上記「関係式」が成り立っているものであり(「本発明例1a」~「本発明例4c」)、やはり明確かつ十分な説明は見出せない。
よって、請求項1に係る特許および請求項1を引用する請求項2及び3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ウ 特許法第17条の2第3項(新規事項を追加する補正)(以下「取消理由3」という。)
上記(1)アないしウで摘記した「・・関係式が成り立つように、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられる」(設ける)という事項は平成27年6月4日付け手続補正書による補正で付加されたものであるが、当該事項は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されていない。
よって、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 取消理由についての判断
上記第2のとおり本件訂正請求による訂正は認められるから、上記第2の1(1)ないし(3)のとおり「・・・0.159≦φB/φA≦0.260 の関係式が成り立つように、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられる・・・」という記載は「・・・0.159≦φB/φA≦0.260 の関係式が成り立つように寸法関係が設定されていると共に、凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられている・・・・」と訂正された。これにより上記2で述べた「成り立つように・・・設けられる」という記載ではなくなり、よって取消理由1ないし3が解消することは明らかである。
また他に明確性要件違反(取消理由1)、実施可能要件違反(取消理由2)、又は新規事項追加(取消理由3)に該当する点も発見しない。
4 取消理由通知において採用しなかった異議申立理由について
(1)取消理由通知において採用しなかった異議申立理由の概要
取消理由通知において採用しなかった異議申立理由の概要は以下ア、イのとおりである。
ア 特許法第29条第2項(進歩性)(同法第113条第2号)
申立人は、請求項1~3に係る特許発明は、「当業者は、甲第1~6号証を組み合わせることにより、」「容易に想到することとができる」(申立書15頁20~21行、16頁6~7行)、あるいは「甲第1~6号証の開示事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。」(申立書21頁下から4~3行)と主張し、その理由として概ね以下(ア)、(イ)のとおり主張している。
(ここで、申立書には、本理由は刊行物記載発明を主引例とする主張なのか、それとも公然実施発明あるいは公知発明を主引例とする主張なのか明記はない。しかし、申立書に甲第2号証の頒布性や公知性の記載がないことや、「請求項1に係る特許発明と甲第1~3号証に開示される製品との対比」(申立書11頁下から3行)と記載されていることから、概略、「”夢屋08バイオクラフトXHシャロースプール”(”夢屋08BIOCRAFT-XHシャロースプール”)を取り付けた”バイオクラフト300XH”(”BIOCRAFT 300XH”)のリール」(申立書13頁7~9行他)製品という公然実施発明を主引例とする主張と考えられる。)
(ア) 請求項1に係る発明について
甲第1ないし3号証の開示から、”夢屋08バイオクラフトXHシャロースプール”(”夢屋08BIOCRAFT-XHシャロースプール”)を取り付けた”バイオクラフト300XH”(”BIOCRAFT 300XH”)のリールは、
釣糸が巻回されるスプールに固定されるスプール軸の両端側がリール本体にボールベアリングを介して回転可能に支持されて成る魚釣用両軸受型リールであって、
前記スプールは、釣糸が巻回される巻回胴部と、前記スプール軸を固定するスプール軸支持部と前記巻回胴部とを接続するように径方向に延びるリムとを有し、
前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、
φB/φA=0.344
の寸法関係であり、
凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられている、
魚釣用両軸受型リール、
であるので、請求項1に係る特許発明とは、「0.159≦φB/φA≦0.260の関係式」を満たさない点で相違し、その余の点では一致する。
この相違点について検討すると、甲第4号証および第5号証の記載を参照すれば、当業者は、”夢屋08バイオクラフトXHシャロースプール”(”夢屋08BIOCRAFT-XHシャロースプール”)を取り付けた”バイオクラフト300XH”(”BIOCRAFT 300XH”)のリールにおいて、軸受けの外径、したがって、ボールベアリングの外輪の外径φBを、実釣時における軽負荷キャスト性能を実現するために、小さくしようとする。
甲第6号証には外径Dが7mmのボールベアリングが開示されていることから、当業者は、実釣時における軽負荷キャスト性能を実現するために、これらのボールベアリングを現在のφBよりも小さいボールベアリングとして、用いようとする。したがって、種々のφBを組み合わせて、実釣時における軽負荷キャスト性能を評価対象として試行錯誤し、当業者は、外径Dが7mmのボールベアリングを適用することができ、φB/φA=0.241となり、「0.159≦φB/φA≦0.260の関係式」を満たす。
なお、本特許明細書の段落【0020】に、「「実釣時の釣糸に水分が含まれた状態の慣性モーメント」とは、スプール自体の慣性モーメントと湿った状態の釣糸の慣性モーメントとを合わせた慣性モーメントを意味し、釣糸を考慮しない場合は、むしろ釣糸巻回胴部5bの外径が小さい方が慣性モーメントは小さくなるが、発明者は、多くの実験を行なうことで、スプール単体と水分を含んだ釣糸を巻回したスプールとでは、評価が反対となることを発見した。」と記載されているが、スプールは釣り糸を巻いて使用するものである限り、釣糸に水分が含まれていようが釣糸が乾燥していようが、釣糸の慣性モーメントを合わせて慣性モーメントを小さくする検討を行うことは当然のことである。どのように「評価が反対となる」のかの記載もない。
また、本特許明細書の段落【0024】に「実釣時の釣糸に水分が含まれた状態を考慮したスプール5のスプール軸5a周りの慣性モーメントを小さくできるとともに、ボールベアリング7の慣性モーメントも小さくできるため、キャスト抵抗を極めて小さくでき、スプール5のフリー回転性能を格段に向上させることができるため、軽い仕掛けを狙ったポイントへ正確に投入操作するキャスティングが可能となる。」と記載されていることからわかるように、請求項1に係る特許発明は、スプールのスプール軸周りの慣性モーメントを小さくするとき「「実釣時の釣糸に水分が含まれた状態」を考慮することとは無関係に、ボールベアリングの慣性モーメントを小さくすることを行っているに過ぎない。
このため、甲第4号証記載のようにスプールの慣性を低減させるために、甲第5号証記載の「軸受よりも小径の軸受を保持し所定の肉厚を有する環状支持体とを、交換可能に装着」する技術を適用することにより、「0.159≦φB/φA≦0.260の関係式」が成り立つようにすることは容易にできる。
(イ) 請求項2、3に係る発明について
甲第2号証に示される夢屋08BIOCRAFT-XHシャロースプールは、請求項2、3に係る発明の要件を充足する。
イ 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)(同法第113条第4号)
申立人は、請求項1に係る特許発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない旨主張し、その理由として概ね以下のとおり主張している。
請求項1に係る特許発明では、明細書の段落【0006】に記載するように「スプールのフリー回転性能の向上を図りつつ軸受(ボールベアリング)に作用する負荷を低減させて耐久性の向上も図ることができる魚釣用両軸受型リール」を提供することを目的としており、「0.159≦φB/φA≦0.260 の関係式が成り立つように」することにより、段落【0015】に記載するように、「スプールのフリー回転性能の向上を図りつつ軸受(ボールベアリング)に作用する負荷を低減させて耐久性の向上も図ることができる。」と記載されている。
しかし、φBとφAの比率が「0.159≦φB/φA≦0.260 」であれば、φBとφAがどのような寸法であっても、「スプールのフリー回転性能の向上」を測ることができるとはいえない。
本件明細書の段落【0026】の表1の本発明例1~4ではφA29.25~30.8mm、φB5~8mmの範囲で、段落【0032】の表2の本発明例1a~4dではφA29.25~31.5mm、φB5~8mmの範囲でキャスト抵抗の低減(スプールのフリー回転性能の向上)が確認されている。しかし請求項1ではφAとφBの寸法は限定されていないため、例えばφAが40mm以上、φBが10mm以上であっても「0.159≦φB/φA≦0.260 」の関係式が成り立つが、段落【0008】に「実釣時の釣糸に水分が含まれた状態を考慮したスプールのスプール軸周りの慣性モーメントを小さくできるとともに、ボールベアリングの慣性モーメントも小さくできるため、キャスト抵抗を極めて小さくでき、スプールのフリー回転性能を格段に向上させることができる。」と記載されていることからもわかるように、φAおよびφBが大きい場合、スプール軸周りの慣性モーメントおよびボールベアリングの慣性モーメントは大きくなるので、キャスト抵抗の低減(スプールのフリー回転性能の向上)は実現できない。この点で、明細書には、φAおよびφBの寸法がどのようなものであっても「0.159≦φB/φA≦0.260 」の関係式が成り立つようにすれば、キャスト抵抗が低減(スプールのフリー回転性能が向上)することができることまでは記載されておらず、また、一般化できることも記載されていない。
[証拠方法]
甲第1号証:カタログ“It's Wonderful Fishing 2008 Fishing Tackle Catalogue”、株式会社シマノ、2008年2月1日発行、p. 72
甲第2号証:“夢屋08BIOCRAFT-XHシャロースプール”図面
甲第3号証:製品パーツリスト兼分解図“BIOCRAFT 300XH”、株式会社シマノ
甲第4号証:特許第4365962号公報
甲第5号証:特許第4356837号公報
甲第6号証:カタログ“NMBミネベア株式会社 Precision Ball Bearing Products ミネチュア・小径転がり球軸受”、ミネベア株式会社、2003年7月改訂、p. 46-49
(2) 当審の判断
ア 特許法第29条第2項(進歩性)に係る異議申立理由について
(ア)甲第1号証ないし甲第3号証
甲第2号証について、申立人は、「夢屋08BIOCRAFT-XHシャロースプール」の図面である旨、また作成日等について等主張しているが(申立書9頁6~10行)、立証されているとはいえない。
また、甲第3号証も、申立人は、「製品パーツリスト兼分解図」であり”バイオクラフト300XH”」に添付の説明書である旨、また頒布日等主張しているが(申立書10頁3~8行)、頒布日等は何ら明らかではない。
しかしながら、念のため、仮に、公然実施された”夢屋08バイオクラフトXHシャロースプールを取り付けた”バイオクラフト300XH”のリールを特定するための状況証拠として甲第2、3号証を採用し得るとし、申立人の主張に沿って甲第1号証ないし甲第3号証より該リールを以下のとおり認定する。
「釣糸が巻回されるスプールに固定されるスプール軸の両端側がリール本体にボールベアリングを介して回転可能に支持されて成る魚釣用両軸受型リールであって、
前記スプールは、釣糸が巻回される巻回胴部と、前記スプール軸を固定するスプール軸支持部と前記巻回胴部とを接続するように径方向に延びるリムとを有し、
前記スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに、
φB/φA=0.344
の寸法関係であり、
凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられている、
魚釣用両軸受型リール。」(以下「公然実施発明」という。)
(イ) 本件訂正発明1と公然実施発明との対比
本件訂正発明1と公然実施発明とを対比すると、両者は、
「釣糸が巻回されるスプールに固定されるスプール軸の両端側がリール本体にボールベアリングを介して回転可能に支持されて成る魚釣用両軸受型リールであって、
前記スプールは、釣糸が巻回される巻回胴部と、前記スプール軸を固定するスプール軸支持部と前記巻回胴部とを接続するように径方向に延びるリムとを有し、
凹状の溝または貫通孔が前記巻回胴部および前記リムに設けられている魚釣用両軸受型リール。」
の点で一致し、そして以下の点で相違する。
[相違点] スプールの糸巻き領域の平均径φA、ボールベアリングの外輪の外径φBの寸法関係が、本件訂正発明1では0.159≦φB/φA≦0.260の関係式が成り立つよう設定されているのに対して、公然実施発明では上記関係式が成り立たないφB/φA=0.344である点。
(なお、上記相違点は、申立書記載の、訂正前の請求項1に係る発明と公然実施発明との相違点(申立書13頁13~15行)と変わりない。)
(ウ) 相違点についての検討
甲第4~6号証のいずれにも、φA、φBを0.159≦φB/φA≦0.260とすることは記載されていないのみならず、φB/φAの数値範囲を最適化・好適化するという技術思想も、あるいはφB/φAが0.159から0.260の範囲に入るリールも記載されていない。よって、相違点に係る本件訂正発明1の構成を得ることは、当業者が容易に想到できることではない。
以上のように、本件訂正発明1は、当業者が甲第1~6号証の開示事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
(エ) 申立人の主張について
上記(1)アに記載したように、申立人は、概略、甲第4号証および第5号証の記載を参照し、甲第6号証中の外径D7mmのボールベアリングを適用すれば、φB/φA=0.241となり、「0.159≦φB/φA≦0.260の関係式」を満たす旨を主張している。
しかし、甲第4号証および第5号証を参照しても具体的な寸法選択についての記載はない。そして甲第6号証の「ミネチュア・小径転がり球軸受」カタログの、証拠として提出された46~47頁及び48~49頁をみても、外径Dが3~20mmの26種(46~47頁)、3.4~21mmの30種(48~49頁)の球軸受が記載されているものであり、また外径Dの選択に関する記載もなく、よって、「0.159≦φB/φA≦0.260の関係式」を満たす外径Dの球軸受けを選択することは当業者にとり容易に想到できることではない。
よって、申立人の主張は採用できない。
(オ) 本件訂正発明2、3について
本件訂正発明2、3は、本件訂正発明1を更に減縮したものであるから、上記本件訂正発明1についての判断と同様の理由により、当業者が甲第1~6号証の開示事項に基づいて基づいて容易に発明をすることができたものではない。
(カ) 小括
以上のとおり、特許法第29条第2項(進歩性)に係る異議申立理由によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
イ 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に係る異議申立理由について
(ア) 検討
発明の詳細な説明には、発明の課題とその解決手段について、
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】 特許文献1では、小径の軸受を用いることで、軸受内部での回転時における摩擦抵抗を軽減して、スプールのフリー回転性能の向上が図られている。しかしながら、スプールのフリー回転性能に影響を及ぼす要因は、摩擦抵抗だけではない。スプールの慣性モーメントもスプールのフリー回転性能に大きな影響を及ぼす。特許文献1では、スプールのフリー回転性能の向上を図る上でこのスプールの慣性モーメントが考慮されていない。また、スプールのフリー回転性能の向上が図られても耐久性が軽視されては、前述したような通常の釣糸巻き取り操作やキャスティング操作に充分対応できる要求性能を達成できない。
【0006】 本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、スプールのフリー回転性能の向上を図りつつ軸受(ボールベアリング)に作用する負荷を低減させて耐久性の向上も図ることができる魚釣用両軸受型リールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】・・・
【0008】 この請求項1に記載の発明によれば、スプールの糸巻き領域の平均径をφA、前記ボールベアリングの外輪の外径をφBとしたときに0.159≦φB/φA≦0.260の関係式を満たすように寸法関係が設定されていると共に、凹状の溝または貫通孔を巻回胴部およびリムに設けることにより、すなわち、スプールの糸巻き領域の平均径φAに対するボールベアリングの外輪の外径φBの比率φB/φAをこれらの範囲内(15.9%以上26%以下)に低く抑えることにより、実釣時の釣糸に水分が含まれた状態を考慮したスプールのスプール軸周りの慣性モーメントを小さくできるとともに、ボールベアリングの慣性モーメントも小さくできるため、キャスト抵抗を極めて小さくでき、スプールのフリー回転性能を格段に向上させることができる。そのため、軽い仕掛けを狙ったポイントへ正確に投入操作するキャスティングが可能となる。また、凹状の溝または貫通孔の存在により、外周側の肉抜き効果でスプールの慣性モーメント低下に寄与でき、キャスト抵抗の低減が図れるだけでなく、リムの剛性も低くなるため、リムが変形し易くなり、したがって、釣糸からの衝撃をスプールが受けた際にその衝撃をリムの変形により緩和させることができ、ボールベアリングへの衝撃力の伝達を抑制できる。そのため、ボールベアリングの耐久性を向上させることができる。」と記載されている(下線は訂正箇所を示す。)。
そして、発明の詳細な説明の段落【0026】【表1】に評価実験のデータ結果が記載され、段落【0027】には「表1から分かるように、0.159≦φB/φA≦0.260の関係式を満たす4つの本発明例(比率φB/φAが異なる本発明例1~本発明例4)では、キャスト抵抗の評価値が4,5であり、キャスト抵抗の十分な低減が実証された。・・・」との記載がある。
以上のとおり、請求項1に係る発明の「0.159≦φB/φA≦0.260という関係式」は、「スプールのフリー回転性能の向上」という発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものでないことは明らかである。
また他に、サポート要件違反となる点もない。
(イ)申立人の主張について
上記(1)イに記載したように、申立人は、「φAおよびφBが大きい場合、スプール軸周りの慣性モーメントおよびボールベアリングの慣性モーメントは大きくなるので、キャスト抵抗の低減(スプールのフリー回転性能の向上)は実現できない。この点で、明細書には、φAおよびφBの寸法がどのようなものであっても「0.159≦φB/φA≦0.260 」の関係式が成り立つようにすれば、キャスト抵抗が低減(スプールのフリー回転性能が向上)することができることまでは記載されておらず、また、一般化できることも記載されていない。」と主張する。
しかし、請求項1に係る発明は、φA、φB自体の値を特定する発明ではなく、φB/φAなる比の値を特定する発明であり、それにより解決される発明の課題は、上記(ア)に記載したように、スプールのフリー回転性能の「向上」である。これに対する申立人の主張は、φA、φBが大きくなると慣性モーメントは大きくなると述べているに過ぎず、「0.159≦φB/φA≦0.260 」の関係式を満たすリールが、満たさないリールに対し、スプールのフリー回転性能が「向上」しないことを説明するものではない。
よって、申立人の主張は採用できない。
(ウ) 小括
以上のとおり、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に係る異議申立理由によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
第4 付記
申立人は、特許異議申立書において意見書の提出を希望しているが、特許法第120条の5第5項ただし書によれば、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるときは、意見書を提出する機会を与えなくてもよいとされている。
そして、本件訂正請求による訂正では、異議申立理由(特許法第17条の2第2項(同法第113条第1号) 新規事項の追加)で問題とされた「成り立つように・・・設けられる」なる記載自体がなくなったので、特許異議申立人に意見を聴くまでもないことは明らかである。
よって、申立人に、意見書を提出する機会を与えないものとする。
第5 むすび
したがって、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立てに記載した特許異議申立理由によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-700630