特許拒絶査定不服審判
2016-019074
殺虫エアゾール装置
- 審判番号
- 2016-019074
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-173268外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年12月20日
- 審決日
- 2018年01月09日
- 公報発行日
- 2018年04月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】フマキラー株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人前田特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (A01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-173268「殺虫エアゾール装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月20日出願公開、特開2014- 30391〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成24年8月3日の出願であって、平成28年3月11日付けで拒絶理由が通知され、同年5月16日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたが、同年9月12日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、これに対して、平成28年12月20日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。
第2 本願発明について
1 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成28年5月16日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「エアゾール容器にエアゾール組成物が収容され、噴射機構によって上記エアゾール組成物を上記エアゾール容器から噴射させるように構成された殺虫エアゾール装置において、
上記エアゾール組成物は、4-メトキシメチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル 3-(2-シアノ-1-プロペニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレートを主成分とする殺虫有効成分と、揮発性を有する噴射剤とを含有しており、
上記エアゾール容器内のエアゾール組成物中、噴射剤の含有量が80重量パーセント以上99重量パーセント以下に設定され、
上記噴射機構から水平方向に噴射された上記エアゾール組成物の平均粒子径は、該噴射機構の噴射口から水平方向に直線距離で50cm離れた箇所において15μm以上70μm以下となるように設定されていることを特徴とする殺虫エアゾール装置。」
2 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2003-12422号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審が付した。)
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は飛翔害虫駆除用エアゾールおよび飛翔害虫の駆除方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、飛翔害虫駆除用エアゾールとして、多くの製品が開発、販売されている。該エアゾールの重要な施用方法として、家屋内を飛翔する害虫や、あるいは壁などに止まっている害虫に直接噴霧し、墜落した害虫を処理する方法がある。この方法が適用されるためには、害虫に対してノックダウン効果が瞬時に得られることが望ましく、該効果がすぐに得られれば、駆除した害虫をその場で処理することができる。しかしながら従来のエアゾール製品を用いた場合、例えばイエバエなどは、直撃噴霧しても直ちにノックダウン、墜落させることが困難なために、飛翔し続ける害虫に対し何度もを噴射しなければならならないことが多かった。多量のエアゾールの噴霧は、家屋内の薬剤の濃度上昇にもつながるため、噴霧粒子の吸入等による噴霧者等への影響も懸念される事態となる。
【0003】そこで飛翔害虫に直撃噴霧する防除方法に使用したときに、噴霧された飛翔害虫が直ちにノックダウンし、これにより該害虫をその場で処理し得るような、より即効性の高い飛翔害虫駆除用エアゾールの開発が望まれている。また、エアゾール中の液剤の比率を高め、殺虫成分を含む粒子をより多く害虫に接触させることで、(殺虫剤含量%はエアゾール重量が分母なので、噴霧量が同じならば液剤比が高くなっても殺虫剤量は変わらないので)害虫駆除用エアゾールの即効性が高まる場合が多いが、一方で、液剤比率の高いエアゾールは、例えば壁に止まっているハエに向かって噴霧する場合などにおいて、壁面が液剤により濡れ、その部分が目立つことになりかねない。このような現象は、消費者が必ずしも好むものではなく、むしろエアゾール中の液剤に対する噴射剤の比率を高くし、噴霧した壁などの面がすぐ乾き、ドライ感が得られるタイプの方が好まれる傾向にある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、噴霧された面がすぐ乾く程度のドライ感が得られ、かつ飛翔害虫に対する即効性に優れる飛翔害虫駆除用エアゾールを提供することにある。特に1m程度の距離をおいて、目標害虫に直撃噴霧した際、該害虫が直ちにノックダウンし、使用者が駆除害虫を処理し得る程度の即効性を有する飛翔害虫駆除用エアゾールを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者は飛翔害虫駆除用エアゾールについて検討を行った結果、特定の殺虫有効成分を用い、使用する溶媒種を特定するのみならず、エアゾール中の液剤に対する噴射剤比率を高めに設定し、かつエアゾールを噴霧したときの噴霧粒子径を特定範囲とし得るように設計したエアゾールが前記の目的を達成しえることを見出し、本発明に至った。
【0006】即ち本発明は、飽和炭化水素を主とする溶剤と式(1)
で示されるカルボン酸エステル(以下、本化合物と記す)とを含有する液剤および噴射剤からなる混合物が噴霧口を備えた耐圧容器に内包されてなるエアゾールであって、液剤と噴射剤との重量比が4/6~1/9であり、噴霧粒子の体積平均粒子径が20~40μmである飛翔害虫駆除用エアゾール(以下、本エアゾールと記す)に関するものである。
【0007】
【発明の実施の形態】本エアゾールは、飽和炭化水素を主とする溶剤と有効成分として本化合物とを含有する液剤(以下、単に液剤と記すことがある。)と噴射剤からなる混合物が噴霧口を備えた耐圧容器に内包されている。
【0008】本化合物の化合物名は、3-メトキシイミノメチル-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボン酸(2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル)メチルであり、各種の光学異性体や幾何異性体が存在するが、本エアゾールにおいてはそれらのうち、殺虫活性を有する任意の異性体や該異性体を含む混合物を使用することができる。本化合物は、液剤中に、通常は0.01~5重量%、好ましくは0.05~1重量%程度含まれる。
【0009】本エアゾールにおいて用いられる溶剤は主として飽和炭化水素からなり、飽和炭化水素が溶剤中に好ましくは90重量%以上含有され、さらに好ましくは実質的に飽和炭化水素のみからなる溶剤が用いられる。また、飽和炭化水素としては、炭素数11~17の飽和炭化水素を90重量%以上含有するものが好ましく、さらに好ましくは実質的に炭素数11~15の飽和炭化水素のみからなるものである。」
(2)「【0012】本エアゾールにおける噴射剤としては、例えばプロパン、n-ブタン、イソブタン、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチラール等を挙げることができ、これらは2種以上の混合物であってもよい。
【0013】本エアゾールは、本エアゾールから液剤と噴射剤からなる混合物が噴霧されるときの噴霧口から50cmの距離における噴霧粒子の体積平均粒子径(以下単に噴霧粒子の体積平均粒子径と記した場合には、本エアゾールの噴射口から50cmの距離における噴霧粒子の体積平均粒子径を意味する。)が20~40μmとなるように設計されている。
【0014】かかる噴霧粒子の体積平均粒子径は例えば、マルバーン社の粒子径測定装置2600型を用いて測定することができる。
【0015】液剤と噴射剤からなる混合物の重量比が4/6~1/9の範囲で、本エアゾールの噴霧粒子の体積平均粒子径を20~40μmとするためには、エアゾールの初期缶圧に合わせてバルブシステム(バルブ及びアクチュエーターの両者を併せたシステムを意味する。)を構成する各部品の孔径、型等の仕様を適宜選択することにより調節すればよい。
【0016】粒子径の調節法としてまず液剤と噴射剤との重量比が25/75の場合をあげると、ステム孔0.51mm、ハウジング孔0.64mm、ベーパータップ孔なしの仕様の部品からなるバルブを装着し、3.6Kg/cm2(20℃におけるゲージ圧)のブタン/プロパン混合液化ガスを、液剤に対し上記重量比となるように充填した場合、孔径0.9~2mmの範囲のアクチュエーターを装着すると、体積平均粒子径20μm~40μmの粒子を噴出するエアゾールを得ることができる。また、あるバルブシステムを用いて、ある初期缶内圧におけるエアゾールの噴霧粒子の体積平均粒子径をまず測定し、体積平均粒子径が20μm~40μmの範囲外となった場合には、例えばアクチュエーターの孔径を変更せずに、ステム孔を複数個としたり、ステム孔径を大きくする、あるいはハウジング部に例えば0.3~0.5mm程度のベーパータップ孔を設けることにより噴霧粒子の体積平均粒子径を小さい側に調整することができ、また一方充填する噴射剤の圧力を下げることにより噴霧粒子の体積平均粒子径を大きい側に調整することができ、これらを必要により組み合わせて所望の噴霧粒子の体積平均粒子径に調整することができる。但し、噴射剤の圧力をあまりに低圧にしすぎると噴霧粒子の到達距離が短くなる傾向があるので、25℃におけるエアゾールの初期缶圧は3kg/cm2・ゲージ圧程度以上に、好ましくは4kg/cm2・ゲージ圧以上にするのがよい。
【0017】液剤と噴射剤との重量比が4/6付近の場合、バルブシステムが同一であると液剤と噴射剤との重量比25/75のエアゾールより粒子径は大きくなる傾向がある。そこで、孔径がより小さい0.5~1.5mm程度のアクチュエーターを選択することで噴霧粒子の体積平均粒子径を小さい側に調節することができる。具体的には、あるバルブシステムを用いて、ある初期缶内圧におけるエアゾールの噴霧粒子の体積平均粒子径をまず測定し、体積平均粒子径が20μm~40μmの範囲外となった場合には、例えばアクチュエーターの孔径を変更せずに、バルブのステム孔を大きくする、あるいは孔径0.3mm以上のベーパータップを設ける等によって噴霧粒子の体積平均粒子径をより小さい側に調整することができる。また、噴霧粒子の体積平均粒子径を大きくする場合は、上記の逆の仕様の部品を選択すればよい。これらを必要により組み合わせて所望の噴霧粒子の体積平均粒子径に調整することができるが、同時にエアゾールの初期缶圧は25℃において3~6kg/cm2・ゲージ圧程度の範囲となるようにするのが望ましい。
【0018】液剤と噴射剤との重量比が1/9付近の場合、バルブシステムが同一であると液剤と噴射剤との重量比25/75のエアゾールより粒子径は小さくなる傾向がある。充填する噴射剤としてより低圧のガスを使用するのが噴霧粒子の体積平均粒子径の調節において容易となる。バルブのステム孔は0.3~0.5mm程度で1孔とし、ハウジングのベーパータップ径を0(無し)~0.3mm、好ましくは無しとする。アクチュエーターは孔径1~2mm以上、粒子径を大きくするようなエクステンションチューブ等を付帯した仕様のものが好ましい。以上のような方法により噴霧粒子の体積平均粒子径を調節できるが、同時にエアゾール初期缶圧が2.5~5kg/cm2・ゲージ圧程度の範囲となるように実施するのが望ましい。」
(3)「【0040】
【表1】
」
上記(2)の記載(特に、段落【0015】)から、「耐圧容器」が「バルブ及びアクチュエーターの両者を併せたバルブシステム」を備えるものと認められる。
すると、上記引用文献1の記載事項から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「飽和炭化水素を主とする溶剤と有効成分として本化合物とを含有する液剤と噴射剤からなる混合物が噴霧口並びにバルブ及びアクチュエーターの両者を併せたバルブシステムを備えた耐圧容器に内包されている飛翔害虫駆除用エアゾールであって、
本化合物が、3-メトキシイミノメチル-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボン酸(2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル)メチルであり、
噴射剤は、プロパン、n-ブタン、イソブタン、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチラール等又はこれらの2種以上の混合物であり、
本エアゾールから液剤と噴射剤からなる混合物が噴霧されるときの噴霧口から50cmの距離における噴霧粒子の体積平均粒子径が20~40μmとなるように設計されており、
液剤と噴射剤からなる混合物の重量比が4/6~1/9の範囲である、
飛翔害虫駆除用エアゾール。」
3 対比
(1)本願発明と引用発明との対比
ア 引用発明の「耐圧容器」、「噴霧口並びにバルブ及びアクチュエーターの両者を併せたバルブシステム」、「有効成分として本化合物」、「噴射剤」、「飽和炭化水素を主とする溶剤と有効成分として本化合物とを含有する液剤と噴射剤からなる混合物」及び「飛翔害虫駆除用エアゾール」は、それぞれ、本願発明の「エアゾール容器」、「噴射機構」、「殺虫有効成分」、「噴射剤」、「エアゾール組成物」及び「殺虫エアゾール装置」に相当する。
イ 上記アから、引用発明の「飽和炭化水素を主とする溶剤と有効成分として本化合物とを含有する液剤と噴射剤からなる混合物が噴霧口並びにバルブ及びアクチュエーターの両者を併せたバルブシステムを備えた耐圧容器に内包されている飛翔害虫駆除用エアゾール」は、本願発明の「エアゾール容器にエアゾール組成物が収容され、噴射機構によって上記エアゾール組成物を上記エアゾール容器から噴射させるように構成された殺虫エアゾール装置」に相当する。
ウ 引用発明の「有効成分として本化合物とを含有」し、「本化合物が、3-メトキシイミノメチル-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボン酸(2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル)メチルであ」ることと、本願発明の「上記エアゾール組成物は、4-メトキシメチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル 3-(2-シアノ-1-プロペニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレートを主成分とする殺虫有効成分」「を含有して」いることは、「上記エアゾール組成物は、主成分とする殺虫有効成分」「を含有して」いることで共通する。
エ 引用発明の「プロパン、n-ブタン、イソブタン、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチラール等又はこれらの2種以上の混合物」が揮発性であることは自明であるから、引用発明の「混合物」に含まれる「噴射剤は、プロパン、n-ブタン、イソブタン、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチラール等又はこれらの2種以上の混合物であ」ることは、本願発明の「上記エアゾール組成物は、」「揮発性を有する噴射剤とを含有して」いることに相当する。
(2)一致点
してみると、両者は、
「エアゾール容器にエアゾール組成物が収容され、噴射機構によって上記エアゾール組成物を上記エアゾール容器から噴射させるように構成された殺虫エアゾール装置において、
上記エアゾール組成物は、主成分とする殺虫有効成分と、揮発性を有する噴射剤とを含有している、殺虫エアゾール装置。」
で一致し、次の点で相違する。
(3)相違点
ア 主成分とする殺虫有効成分について、本願発明では、「4-メトキシメチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル 3-(2-シアノ-1-プロペニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート」であるのに対して、引用発明では、「3-メトキシイミノメチル-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボン酸(2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル)メチル」(以下、「引用化合物」という。)である点。(相違点ア)
イ 噴射剤の含有量が、本願発明では、「上記エアゾール容器内のエアゾール組成物中、噴射剤の含有量が80重量パーセント以上99重量パーセント以下に設定され」るのに対して、引用発明では、「液剤と噴射剤からなる混合物の重量比が4/6~1/9の範囲である」、すなわち、「混合物」(本願発明の「エアゾール組成物」に相当)中の「噴射剤」(本願発明の「噴射剤」に相当)の含有量が60~90重量パーセントである点。(相違点イ)
ウ 平均粒子径について、本願発明では、「上記噴射機構から水平方向に噴射された上記エアゾール組成物の平均粒子径は、該噴射機構の噴射口から水平方向に直線距離で50cm離れた箇所において15μm以上70μm以下となるように設定されている」のに対して、引用発明では、「本エアゾールから液剤と噴射剤からなる混合物が噴霧されるときの噴霧口から50cmの距離における噴霧粒子の体積平均粒子径が20~40μmとなるように設計されて」いる、すなわち、まず、噴射方向について、本願発明では「水平方向」と規定されているのに対して、引用発明では噴射方向が特定されていない点、次に、本願発明では、「15μm以上70μm以下」であるのに対して、引用発明では、「20~40μm」である点。(相違点ウ)
4 判断
(1)相違点アについて
ア 殺虫有効成分として、4-メトキシメチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル 3-(2-シアノ-1-プロペニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート(以下、一般名の「モンフルオロトリン」という。)は、特開2010-77073号公報、特開2008-273944号公報などに示されるように、当業者には周知のものである。
そこで、引用発明の有効成分としての引用化合物に換えて、周知のモンフルオロトリンを使用できるか否かについて、以下、検討する。
イ 引用文献1には、「従来のエアゾール製品を用いた場合、例えばイエバエなどは、直撃噴霧しても直ちにノックダウン、墜落させることが困難なために、飛翔し続ける害虫に対し何度もを噴射しなければならならないことが多かった。」(段落【0002】)という課題を解決するために、「エアゾール中の液剤の比率を高め、殺虫成分を含む粒子をより多く害虫に接触させることで、(殺虫剤含量%はエアゾール重量が分母なので、噴霧量が同じならば液剤比が高くなっても殺虫剤量は変わらないので)害虫駆除用エアゾールの即効性が高まる」(段落【0003】)ことが考えられるものの、「液剤比率の高いエアゾールは、例えば壁に止まっているハエに向かって噴霧する場合などにおいて、壁面が液剤により濡れ、その部分が目立つことになりかねない。このような現象は、消費者が必ずしも好むものではなく、むしろエアゾール中の液剤に対する噴射剤の比率を高くし、噴霧した壁などの面がすぐ乾き、ドライ感が得られるタイプの方が好まれる傾向にある。」(段落【0003】)ところ、噴霧された面がすぐ乾く程度のドライ感が得られ、かつ飛翔害虫に対する即効性に優れる飛翔害虫駆除用エアゾールを提供すること」(段落【0004】)を目的として、「本発明者は飛翔害虫駆除用エアゾールについて検討を行った結果、特定の殺虫有効成分を用い、使用する溶媒種を特定するのみならず、エアゾール中の液剤に対する噴射剤比率を高めに設定し、かつエアゾールを噴霧したときの噴霧粒子径を特定範囲とし得るように設計したエアゾールが前記の目的を達成しえることを見出し」たものであることが開示されている。
ウ 上記「特定の殺虫有効成分を用い」たことについて、「噴霧された面がすぐ乾く程度のドライ感が得られ、かつ飛翔害虫に対する即効性に優れる飛翔害虫駆除用エアゾールを提供すること」との関係は、引用文献1の全記載を精査しても、明らかにされておらず、さらには、引用文献1では、実施例1~4及び比較例1~4のすべてにおいて、特定の殺虫有効成分である引用化合物を使用しており、引用化合物とは異なる殺虫有効成分を使用した比較例を挙げて、実施例1~4と比較した記載もない。
エ また、引用文献1に記載された「エアゾール中の液剤に対する噴射剤の比率を高くし、噴霧した壁などの面がすぐ乾き、ドライ感が得られる」ことや、即効性を考慮して、「エアゾールを噴霧したときの噴霧粒子径」を最適化することは、有効殺虫成分の種類にかかわらずに成り立つことは当業者には明らかであると、優に認められる。
エ すると、引用文献1の全記載からみて、「噴霧された面がすぐ乾く程度のドライ感が得られ、かつ飛翔害虫に対する即効性に優れる飛翔害虫駆除用エアゾールを提供する」ために、引用化合物が必須であるという技術事項を読み取ることはできない。
オ 以上のことから、引用発明において、引用化合物を、他の殺虫有効成分に換えることを阻害する要因はなく、また、引用化合物:3-メトキシイミノメチル-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボン酸(2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(メトキシメチル)フェニル)メチルと、モンフルオロトリン:4-メトキシメチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル 3-(2-シアノ-1-プロペニル)-2,2-ジメチルシクロプロパンカルボキシレート)とは、ピレスロイド系殺虫剤である点で共通し、化学構造が極めて類似したものであることも考慮すれば、引用発明において、引用化合物を周知のモンフルオロトリンに換えることは、当業者が容易になし得ることである。
(2)相違点イについて
ア 引用発明において、「混合物」中の「噴射剤」の含有量が60~90重量パーセントとしたのは、「エアゾール中の液剤に対する噴射剤の比率を高くし、噴霧した壁などの面がすぐ乾き、ドライ感が得られる」ためであって、噴射剤の含有量を大きくすれば、よりドライ感が増すことは自明のことである。
イ また、粒子径についても、引用文献1に「液剤と噴射剤との重量比が1/9付近の場合、バルブシステムが同一であると液剤と噴射剤との重量比25/75のエアゾールより粒子径は小さくなる傾向がある。充填する噴射剤としてより低圧のガスを使用するのが噴霧粒子の体積平均粒子径の調節において容易となる。バルブのステム孔は0.3~0.5mm程度で1孔とし、ハウジングのベーパータップ径を0(無し)~0.3mm、好ましくは無しとする。アクチュエーターは孔径1~2mm以上、粒子径を大きくするようなエクステンションチューブ等を付帯した仕様のものが好ましい。以上のような方法により噴霧粒子の体積平均粒子径を調節できる」(段落【0018】)と記載されるように、噴射剤の含有量を増やしても、所望の粒子径を得ることができることが記載されているから、噴射剤の含有量を増やすことを、特段、阻害する要因もない。
ウ すると、引用発明において、ドライ感を増すために、噴射剤の含有量を、60~90重量パーセントのうちの高い比率に、さらには、90重量パーセントより高い比率にすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
(3)相違点ウについて
ア 引用発明では、噴射の方向が特定されていないが、飛翔害虫をエアゾールで殺虫する際には、平均的には水平方向及びそれに近い角度で噴射することが多く、垂直方向(真下、真上方向)及びそれに近い角度で噴射することは少ないことは、常識的なことであるから、平均粒子径を測定するときにも、実際に噴射する角度に近い水平方向に噴射して測定するようにすることは、当業者が普通に考えることであると認められる。
イ 上記(1)で検討したとおり、引用発明の引用化合物を周知のモンフルオロトリンに換えたとき、エアゾールの即効性を高めるための最適な平均粒子径が変わることも考えられるが、引用発明の「20~40μm」をモンフルオロトリンで最適化した結果、「15μm以上70μm以下」となることは、当業者が通常行う最適化の範囲のものにすぎない。
ウ すると、引用発明において、水平方向に噴射して平均粒子径を測定し、エアゾールの即効性を高めるために、15μm以上70μm以下に最適化することは、当業者が容易になし得たことである。
(4)効果について
本願発明が奏し得る効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。
(5)請求人の主張について
ア 請求人は、審判請求書の【請求の理由】「3.」「(3)」において、
「本願発明では、上述のように水平方向に噴射した場合の平均粒子径を15μm以上としており、これにより、有効成分を含んだ粒子の1つあたりの質量を所定質量確保することができるので、対象害虫の周りの気流が対象害虫を避けるような流れであっても、その流れの影響が有効成分を含んだ粒子の慣性力に比べて相対的に小さくなり、その結果、有効成分を含んだ粒子が供試虫に付着し易くなり、殺虫効力を著しく高めることができる。
また、水平方向に噴射した場合の平均粒子径を70μm以下としたので、噴射機構から噴射した際に、粒子が噴射口の周りに付着しにくくなり、飛散する粒子数を多くすることができ、殺虫効力を著しく高めることができる。この殺虫効力の試験結果については、出願当初の明細書における段落[0048]、[0054]~[0058]で詳細に述べているとおりである。」
と主張している。
確かに、【表1】、【図4】を見ると、平均粒子径と、KT50やKT90との間に関係が見いだせるが、本願の明細書の全記載を精査しても、この関係が、「その流れの影響が有効成分を含んだ粒子の慣性力に比べて相対的に小さく」なることや、「噴射機構から噴射した際に、粒子が噴射口の周りに付着しにくくなり、飛散する粒子数を多くすること」によるものであることは確認できないから、本願の明細書には、KT50やKT90の観点から平均粒子径を最適化するという技術事項が開示されるのみであると認められる。
イ 請求人は、同じく、審判請求書の【請求の理由】「3.」「(3)」において、
「揮発性を有する噴射剤の含有量を80重量パーセント以上99重量パーセント以下としていることを特徴としている。これにより、噴射剤の含有量が他の組成物に比べて大幅に多くなり、その噴射剤は揮発性を有しているので、噴射口から水平方向に直線距離で50cm離れた箇所において15μm以上70μm以下の平均粒子径となるように、エアゾール組成物を該噴射口から噴射させることができる。」
と主張している。
これは、噴射剤が、50cm飛ぶ間に揮発して(粒子径が小さくなり?)、15μm以上70μm以下の平均粒子径となることを主張するものと思われる。
しかし、このような事項は、本願の明細書には記載されていないし、当業者の技術常識であるとも認められない。また、仮に、このような現象が当業者に知られているとしても、噴射剤の含有量にかかわらず、50cm離れた箇所で粒子径を測定して、所望の値になるように噴射機構の設計等を行うだけのことであって、噴射剤の含有量が80~99重量パーセントと高いことによる格別な効果であるとはいえないことは、明らかである。
(6)結論
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第3 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-019074