特許拒絶査定不服審判
2016-011811
水生生物付着防止用織布
- 審判番号
- 2016-011811
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-127605外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年08月05日
- 審決日
- 2017年10月16日
- 公報発行日
- 2018年01月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ダイキン工業株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人 安富国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (A01M) / P18 .575-Z (A01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第6項、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014-127605「水生生物付着防止用織布」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月12日出願公開、特開2015- 27291〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成26年6月20日(優先権主張 平成25年6月24日)の出願であって、平成27年8月19日付けで拒絶理由が通知され、同年10月22日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月5日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成28年1月12日に意見書及び手続補正書が提出されたが、当該手続補正書でした手続補正について同年4月21日付けで補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされたものである。
第2 平成28年8月5日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年8月5日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に係る発明について、平成27年10月22日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載の、
「【請求項1】
フッ素樹脂のみを含む糸、又は、フッ素樹脂を含まない糸の表面の一部若しくは全部をフッ素樹脂で被覆した糸からなる水生生物付着防止用織布。」
を、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項(特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮)を目的として、
「【請求項1】
フッ素樹脂のみを含む糸からなる水生生物付着防止用織布。」
と補正することを含むものである。(下線は補正箇所を示す。)
すなわち、この補正は、発明特定事項である「フッ素樹脂のみを含む糸、又は、フッ素樹脂を含まない糸の表面の一部若しくは全部をフッ素樹脂で被覆した糸」について、選択肢のうち「フッ素樹脂を含まない糸の表面の一部若しくは全部をフッ素樹脂で被覆した糸」を削除し、「フッ素樹脂のみを含む糸」に限定することを含むものである。
2 独立特許要件についての検討
(1)そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について検討する。
(2)引用例
ア 平成28年4月21日付けの補正の却下の決定で引用され、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開昭63-22908号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加した。)。
(引1-ア)第1頁左下欄11行~右下欄7行
「 本発明は水中構造物表面に水中生物が付着するのを防止する方法に関する。
本発明における水中構造物とは、長期間にわたって水(海水も含む、以下同様)と常時接触している構造物であって、海、河川、湖沼、池などの水面もしくは水中に設けられる装置、器具および導水路ならびに水処理装置などがある。上記水面もしくは水中に設けられる装置、器具としては、例えば、石油掘削リグなどの海洋建造物、浮き桟橋、浮標灯、消波用構造物、筏のフロート、浮体構造物のフロート、ブイ、防油用構造物、係留用ロープ、魚網、船舶などがあげられ、導水路としては、例えば、導水管、水門、発電所における冷却水の取水路ならびに循環水管などがあげられ、水処理装置としては淡水化装置、浄水装置、下水処理装置などをあげることができる。」
(引1-イ)第2頁右上欄16行~左下欄7行
「 そこで、本発明者はこれらの状況に鑑みて、毒性物質を使用することなしに、水中構造物の表面に水中生物が付着するのを防止する方法に関して鋭意研究を行なった。その結果、該水中構造物表面を布、網もしくは多孔質シートで被覆することによって、該表面に水中生物が付着しないことを見い出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、水中構造物表面を、厚さ1mm以上で、かつ水の置換が容易に起る空隙部を有する布、網もしくは多孔質シートで被覆せしめることを特徴とする水中構造物表面に水中生物が付着するのを防止する方法に関する。」
(引1-ウ)第2頁左下欄末行~第3頁左上欄10行
「 本発明において使用できる布、網および多孔質シートは、水中に長期間(少なくとも12ヶ月)浸漬しても溶解、変質、劣化せず、ある程度の空隙部を有しており、該空隙部に水が浸入して、水中において該空隙部の内部で水の置換(流れ)が容易に起るものであればよい。
まず、布としては、各種繊維をそれ自体公知の方法で織ったものが使用できる。繊維としては、毛状体および糸状体から選ばれた1種もしくは2種以上が用いられる。
毛状体としては、動物毛が適しており、例えばヒツジ、ウシ、ウマ、ネコ、ネズミ、シカ、アシ力、クマ、トラ、ウサギ、ヤギ、キツネ、タヌキ、リス、ヒョウ、ロバ、ブタ、ライオン、ラクダなどの毛があげられる。また、糸状体としては天然繊維、合成繊維、加工糸状体などが使用でき、天然繊維としては例えば絹などのタンパク繊維、木綿、麻などのセルロース繊維、アスベストなどの鉱物繊維などがあげられ、合成繊維としては例えばポリアミド系、ポリエステル系、ポリアクリロニトリル系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリビニルアルコール系、ポリ塩化ビニル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリスチレン系、ポリテトラフルオロエチレン系、ビスコース、アセテート、レーヨンなどがあげられ、加工糸状体としては例えば金属(鉄鋼、ステンレス、銅、アルミニウム、しんちゅう、アルミニウムならびにこれらを含む合金)ならびにガラスなどを上記の太さの細線状に加工したものなどがあげれられ、これ以外にしゅろの毛なども使用できる。」
イ 引用例1に記載された発明の認定
(引1-イ)の「水中構造物の表面に水中生物が付着するのを防止する方法に関して鋭意研究を行なった。その結果、該水中構造物表面を布、網もしくは多孔質シートで被覆することによって、該表面に水中生物が付着しないことを見い出し、本発明を完成した」との記載から、「水中構造物の表面に水中生物が付着するのを防止するための布、網及び多孔質シート」を把握することができる。
よって、(引1-ア)ないし(引1-ウ)の記載から、引用例1には、
「 水中構造物の表面に水中生物が付着するのを防止するための、糸状体である各種繊維を公知の方法で織った布。」
の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
(3)本願補正発明と引用発明1との対比
ア 対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「糸状体である各種繊維」は、その構造において、本願補正発明の「糸」に相当する。
(イ)引用発明1の「水中構造物の表面に水中生物が付着するのを防止するための」は、本願補正発明の「水生生物付着防止用」に相当する。
(ウ)本願の発明の詳細な説明の「本発明において、織布とは、経糸と緯糸とが一定の規則に従って交錯している物品をいう。」(段落【0067】)との記載によれば、本願補正発明の「織布」は、経糸と緯糸とが一定の規則に従って交錯しているものである。
引用発明1の「布」は、「糸状体である各種繊維を公知の方法で織った」ものであるから、経糸と緯糸とが一定の規則に従って交錯しているものであるといえる。
したがって、引用発明1の「布」は、本願補正発明の「織布」に相当する。
イ 一致点及び相違点
よって、本願補正発明と引用発明1とは、
「 糸からなる水生生物付着防止用織布。」
の発明である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
糸が、本願補正発明においては、「フッ素系樹脂のみを含む」ものであるのに対し、引用発明1においては、そのような特定がなされていない点。
(4)当審の判断
ア 上記相違点1について検討する。
(引1-ウ)には、布を織るための繊維として糸状体が挙げられ、糸状体である合成繊維の具体例の1つとしてポリテトラフルオロエチレン系が記載されている。
そして、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂が水生生物の付着を防止する点で優れていることは、例えば、原査定の拒絶の理由で引用された実願昭62-149711号(実開昭64-56660号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)、平成27年8月19日付け拒絶理由で引用された特開2012-214739号公報に記載されているように、本願優先権主張日当時において周知な事項である。
また、(引1-ウ)には、「繊維としては、毛状体および糸状体から選ばれた1種もしくは2種以上が用いられる。」と1種の繊維のみを用いることも記載されている。
さらに、一般に、部材を作成する際に、特定の成分の有する効果を十分に享受するために、当該成分の含有量を高めることは、普通に行われている事項である。
してみると、引用発明1において、水生生物の付着防止効果を高めるために、上記周知な事項に基づき、(引1-ウ)に列挙された繊維の中から水生生物の付着を防止する点で優れているポリテトラフルオロエチレン系の合成繊維を選択し、ポリテトラフルオロエチレン系のみを用いた合成繊維で布を織り、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。
イ 本願補正発明の奏する作用効果
本願補正発明によってもたらされる効果は、引用例1の記載事項及び上記周知な事項から当業者が予測し得る程度のものである。
ウ まとめ
以上のとおりであるから、本願補正発明は、引用発明1及び上記周知な事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(5)補正の却下の決定のむすび
したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年8月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成27年10月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記第2[理由]1の記載参照。)
2 引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である引用例2には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加した。)。
(引2-ア)第2頁4~6行
「 本考案は、貝の幼生や海藻の胞子等が付着せず、したがって網目が閉塞されず、しかも水中を汚染することのない漁網に関する。」
(引2-イ)第4頁8~18行
「 かかる目的を達成するために、本考案に係る漁網は、繊維束の外周面にフッ素樹脂層を形成したロープで網状に編組したことを特徴としている。
このような本考案に係る漁網によれば、漁網を構成するロープの表面に、摩擦抵抗が極端に小さいフッ素樹脂層が形成してあるため、たとえば海水中で固定網としても、貝の幼生や海藻の胞子がほとんど付着せず、これらが繁殖することにより網目が詰まって潮の流れが悪くなることがなくなり、固定網内で養殖される魚が酸欠状態になることがなくなる。」
(引2-ウ)第5頁6~11行
「 第1図は本考案の一実施例に係る漁網を構成するロープの一部破断正面図である。第1図に示す実施例では、繊維束2の外周面にフッ素樹脂層4を形成した三本のロープ6を三つ編みにしてロープ束8を形成し、このロープ束8を網状に編組して漁網を構成している。」
(引2-エ)第5頁19行~第6頁1行
「 本発明で用いられる繊維束2としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン繊維等を数十本束ねた繊維束が好ましく用いられる。」
(引2-オ)第6頁5~9行
「 繊維束2の外周にフッ素樹脂層4を形成する手段としては、たとえば、フッ素樹脂から成る生テープもしくは延伸テープを繊維束2の外周に巻回する手段が好ましく用いられる。製作工程が容易だからである。」
(引2-カ)第1図
「
」
(2)引用例2に記載された発明の認定
(引2-ア)ないし(引2-カ)の記載から、引用例2には、
「 ポリオレフィン繊維を数十本束ねた繊維束2の外周面にフッ素樹脂から成る生テープを巻回してフッ素樹脂層4を形成したロープ6三本を三つ編みにしてロープ束8を形成し、このロープ束8を網状に編組して構成した、貝の幼生や海藻の胞子等が付着しない漁網。」
の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。
3 対比
(1)本願発明と引用発明2とを対比する。
ア
(ア)一般に、ポリオレフィン繊維はフッ素樹脂を含まないものであるから、引用発明2の「ポリオレフィン繊維を数十本束ねた繊維束2」と本願発明の「フッ素樹脂を含まない糸」とは、「フッ素樹脂を含まない線状体」である点において共通する。
(イ)引用発明2において「外周面にフッ素樹脂から成る生テープを巻回してフッ素樹脂層4を形成」することは、本願発明において「表面の一部若しくは全部をフッ素樹脂で被覆」することに相当する。
(ウ)上記(ア)及び(イ)を踏まえると、引用発明2の「ポリオレフィン繊維を数十本束ねた繊維束2の外周面にフッ素樹脂から成る生テープを巻回してフッ素樹脂層4を形成したロープ6」と本願発明の「フッ素樹脂を含まない糸の表面の一部若しくは全部をフッ素樹脂で被覆した糸」とは、「フッ素樹脂を含まない線状体の表面の一部若しくは全部をフッ素樹脂で被覆した線状体」である点において共通する。
イ 引用発明2において「貝の幼生や海藻の胞子等が付着しない」ものであることは、本願発明において「水生生物付着防止用」であることに相当する。
ウ
(ア)本願の発明の詳細な説明の「本発明において、織布とは、経糸と緯糸とが一定の規則に従って交錯している物品をいう。」(段落【0067】)、「本発明の織布を適用する態様は特に限定されず、本発明の織布を水中構造物の表面に設けることもできるし、ネットのように、本発明の織布そのものを水中構造物として使用することもできる。」(段落【0081】)、及び「上述した中でも、織布であることの利点を活かしやすいことから、ネット、漁網及びロープが好ましい。」(段落【0084】)との記載によれば、本願発明における「織布」は、経糸と緯糸とが一定の規則に従って交錯している漁網を包含するものである。
(イ)引用発明2の「ロープ束8を網状に編組して構成した」「漁網」は、縦のロープ束8と横のロープ束8とが一定の規則に従って交錯している漁網であるといえる。
(ウ)上記(ア)及び(イ)を踏まえると、引用発明2の「ロープ束8を網状に編組して構成した」「漁網」は、その構造において、本願発明の「織布」に相当する。
(2)一致点及び相違点
よって、本願発明と引用発明2とは、
「 フッ素樹脂のみを含む糸、又は、フッ素樹脂を含まない線状体の表面の一部若しくは全部をフッ素樹脂で被覆した線状体からなる水生生物付着防止用織布。」
の発明である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点2)
水生生物付着防止用織布を構成する、表面の一部若しくは全部をフッ素樹脂で被覆されたフッ素樹脂を含まない線状体が、本願発明においては、「糸」であるのに対し、引用発明2においては、「繊維を数十本束ねた繊維束2」である点。
4 当審の判断
(1)上記相違点2について検討する。
ア 線状体の構造について
繊維を複数本まとめて線状体として用いる場合に、複数本の繊維を撚って糸状とすることは普通に行われていることであり、引用例2において、繊維束2を形成する際にポリオレフィン繊維を数十本束ねるのみではなく、それらを撚って糸状の繊維束2とすることは、当業者にとって格別困難なこととは認められない。
イ 線状体の太さについて
引用発明2の「繊維束2」は、「ロープ6」となることから一般的な糸よりも太いものと認められる。
しかしながら、本願発明は「糸」の太さを特定するものではなく、上記(1)ウ(ア)で説示したように本願発明は漁網を包含するものであることから、本願発明における「糸」は、一般的な糸よりも太いものをも包含するものといえる。
してみると、線状体の太さは、実質的な相違点であるとは認められない。
また、実質的な相違点ではないといえないとしても、引用発明2において、使用する繊維の太さ及び本数は、所望の強度、網目の細かさ等に応じて選択し得る事項であり、引用発明2の繊維束2ひいてはロープ6を糸と認識できる太さのものとすることは、当業者にとって格別困難なこととは認められない。
ウ 小括
したがって、引用発明2において、繊維束2を数十本のポリオレフィン繊維を撚った糸状のものとし、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。
(2)本願発明の奏する作用効果
本願発明によってもたらされる効果は、引用例2の記載事項から当業者が予測し得る程度のものである。
(3)まとめ
したがって、本願発明は、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2016-011811