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特許拒絶査定不服審判

2016-011299

有機発光ダイオード装置

審判番号
2016-011299
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2011-021920外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2016年07月27日
審決日
2017年10月10日
公報発行日
2017年11月24日
結論
原査定取消(特許/登録すべき)
審判長/審判官
分類
P18 .121-WY (H05B) / P18 .537-WY (H05B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第36条
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2011- 21920「有機発光ダイオード装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月27日出願公開,特開2011-216861,請求項の数(8)〕について,次のとおり審決する。

結論

【結 論】 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成23年2月3日(パリ条約による優先権主張2010年4月1日,韓国)の出願であって,平成26年10月29日付けで拒絶理由が通知され,平成27年2月4日に意見書及び手続補正書が提出され,同年7月2日付けで拒絶理由が通知され,同年10月6日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成28年3月22日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされたものである。 本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,同年7月27日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出され,当審において,平成29年6月12日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,同年9月12日に意見書及び手続補正書が提出された。 第2 本願の請求項1に係る発明 本願の請求項1ないし8に係る発明は,平成29年9月12日提出の手続補正書によって補正された請求項1ないし8に記載された事項によって特定されるとおりのものと認められるところ,そのうちの請求項1の記載は次のとおりである。なお,請求項2ないし8は,いずれも,請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであり,当該請求項2ないし8に係る発明は,請求項1に係る発明の発明特定事項を全て具備し,さらに他の発明特定事項を付加した発明に該当する。 「第1電極と, 前記第1電極と対向する第2電極と, 前記第1電極と前記第2電極との間に位置し,互いに異なる色を表示する第1発光ユニットおよび第2発光ユニットを含む発光部材と, を含み, 前記第1発光ユニットは,前記第1電極の直上に位置する第1正孔注入層,前記第1正孔注入層の直上に位置する第2正孔注入層,前記第2正孔注入層の上に位置する第1正孔輸送層,前記第1正孔輸送層の上に位置する第1発光層および前記第1発光層の上に位置する第1電子輸送層を含み, 前記第2発光ユニットは,第3正孔注入層,前記第3正孔注入層の上に位置する第2正孔輸送層および前記第2正孔輸送層の上に位置する第2発光層を含み, 前記第1正孔注入層は,N4,N4'-ジフェニル-N4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-2-イル)-N4'-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)ビフェニル-4,4'-ジアミンから形成され, 前記第2正孔注入層は,2,3,6,7,10,11-ヘキサシアノ-1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレンから形成され, 前記第2発光ユニットは,前記第1発光ユニットの上に位置し, 前記第2発光ユニット中の前記第3正孔注入層は,前記第1発光ユニット中の前記第1電子輸送層の直上に位置する,有機発光ダイオード装置。」(以下,「本願発明」という。) 第3 原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由は,概略次のとおりである。 本願の請求項1ないし12(平成27年10月6日提出の手続補正書による補正後の請求項1ないし12)に係る発明は,その優先権主張の日より前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明及び周知の事項に基いて,その優先権主張の日より前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1:特開2007-173779号公報 引用文献2:特開2007-173780号公報 周知例1:特開2006-324016号公報 周知例2:特開2005-32618号公報 引用文献1又は引用文献2に記載された発明において,周知例1や周知例2等に示される周知の事項を適用して,本願の請求項1ないし12に係る発明のように構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。 第4 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由は,概略次のとおりである。 理由1: (サポート要件違反) 本願の請求項1ないし10(平成28年7月27日提出の手続補正書による補正後の請求項1ないし10)の記載は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載により,あるいは,当該記載や示唆がなくとも出願時の技術常識に照らし,当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでないから,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 (明確性要件違反) 請求項1には,「前記第2発光ユニット中の前記第3正孔注入層は,前記第1発光ユニット中の前記第1電子輸送層の真上に位置し」との発明特定事項が記載されているが,当該発明特定事項が,第3正孔注入層と第1電子輸送層の間に他の層が存在しないこと(すなわち,第3正孔注入層が第1電子輸送層の「直上」に位置していること)を指しているのか,それとも,他の層が存在することを許容しているのかが明確でないから,本願の請求項1ないし10の記載は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。 理由2: 本願の請求項1ないし10に係る発明は,その優先権主張の日より前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その優先権主張の日より前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用例1:特開2007-123611号公報 引用例2:国際公開第2009/139607号 引用例1に記載された発明において,引用例2に記載された層構成を採用して,本願の請求項1ないし10に係る発明のように構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。 第5 当審拒絶理由についての判断 1 理由2について (1)引用例 ア 引用例1 (ア)引用例1の記載 引用例1は,本願の優先権主張の日(以下,「優先日」という。)より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用例1には次の記載がある。 a 「【技術分野】 【0001】 本発明は,有機エレクトロルミネッセント素子及び有機エレクトロルミネッセント表示装置に関するものである。 【背景技術】 【0002】 有機エレクトロルミネッセント素子(有機EL素子)は,ディスプレイや照明への応用の観点から活発に開発が行われている。有機EL素子の駆動原理は,以下のようなものである。すなわち,陽極及び陰極からそれぞれホールと電子が注入され,これらが有機薄膜中を輸送され,発光層において再結合し励起状態が生じ,この励起状態から発光が得られる。発光効率を高めるためには,効率良くホール及び電子を注入させ,有機薄膜中を輸送させることが必要である。 【0003】 有機EL素子においては,電極と発光層の間にホールまたは電子を移送させるための電荷輸送層や電荷注入層等が一般に設けられている。 ・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明の目的は,高い発光効率を有し,駆動電圧を低減させることができる有機EL素子及び有機EL表示装置を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明の有機EL素子は,陽極と,陰極と,陽極及び陰極の間に配置される発光層と,発光層及び陽極の間に配置される少なくとも3つの有機層とを備え,有機層のうち陽極側に設けられる第1の有機層の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルの絶対値│LUMO(A)│と,第1の有機層の陰極側に隣接して設けられる第2の有機層の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルの絶対値│LUMO(B)│とが,│LUMO(A)│<│LUMO(B)│の関係にあり,第2の有機層の陰極側に隣接して設けられる第3の有機層の最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーレベルHOMO(C)と,第2の有機層のLUMO(B)との差の絶対値│HOMO(C)-LUMO(B)│が,│HOMO(C)-LUMO(B)│≦1.5eVの関係にあることを特徴としている。 ・・・(中略)・・・ 【発明の効果】 【0026】 本発明によれば,高い発光効率を有し,駆動電圧を低減することができる有機EL素子とすることができる。 【0027】 本発明の有機EL表示装置は,上記本発明の有機EL素子を備えるものであるので,高い発光効率を有し,駆動電圧を低減化し,消費電力を低減させることができるものである。」 b 「【0037】 ・・・(中略)・・・ (実施例1~11及び比較例1~3) 表1に示す陽極,ホール注入ユニット,ホール輸送ユニット,オレンジ色発光層,青色発光層,電子輸送層,及び陰極を有する実施例1~11及び比較例1~3の有機EL素子を作製した。以下の表において,( )内の数字は,各層の厚み(nm)を示している。 【0038】 陽極は,ITO(インジウム錫酸化物)膜が形成されたガラス基板の上に,フルオロカーボン(CFx)層を形成することにより作製した。フルオロカーボン層は,CHF3ガスのプラズマ重合により形成した。フルオロカーボン層の厚みは,1nmとした。 【0039】 以上のようにして作製した陽極の上に,ホール注入ユニット,ホール輸送ユニット,オレンジ色発光層,青色発光層,電子輸送層,及び陰極を順次堆積して形成した。以下の表1及び表2においてホール注入ユニット及びホール輸送ユニットは,便宜上それらを区別しているが,ホール注入ユニットとホール輸送ユニットは,特に区別されるものではなく,全体としてホール注入及びホール輸送の機能を示すものである。 【0040】 実施例1~6及び比較例1~3においては,NPB及びHAT-CN6を,表1に示す順序で積層することにより,ホール注入ユニット及びホール輸送ユニットが形成されている。 【0041】 HAT-CN6は,ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボンニトリルであり,以下の構造を有している。 【0042】 【化3】 ・・・(中略)・・・ 【0044】 NPBは,N,N′-ジ(ナフタセン-1-イル)-N,N′-ジフェニルベンジジンであり,以下の構造を有している。 【0045】 【化4】 【0046】 NPBは,3級アリールアミン系の材料であり,ホール輸送性材料である。実施例7~10においては,3級アリールアミン系材料として,TPD,PhTPD,及びPPDを用いた。 【0047】 TPDは,N,N′-ビス(3-メチルフェニル)-N,N′-ジフェニル-ベンジジンであり,以下の構造を有している。 【0048】 【化5】 ・・・(中略)・・・ 【0055】 各実施例における第1の有機層,第2の有機層,及び第3の有機層は,ホール注入ユニット及びホール輸送ユニットにおける以下のような積層構造に相当している。 ・・・(中略)・・・ 【0058】 実施例7においては,TPD/HAT-CN6/NPBの積層構造が,第1の有機層/第2の有機層/第3の有機層の積層構造に対応している。 ・・・(中略)・・・ 【0063】 上記のように形成したホール輸送ユニットの上に,オレンジ色発光層及び青色発光層からなる白色発光の発光ユニットを形成している。オレンジ色発光層を陽極側に配置し,青色発光層を陰極側に配置している。なお,表において%は特に断らない限り,重量%である。 【0064】 オレンジ色発光層においては,NPBをホール輸送性のホスト材料として用い,TBADNを電子輸送性のホスト材料として用い,DBzRをドーパント材料として用いている。 【0065】 TBADNは,2-ターシャリー-ブチル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセンであり,以下の構造を有している。 【0066】 【化9】 【0067】 DBzRは,5,12-ビス{4-(6-メチルベンゾチアゾール-2-イル)フェニル}-6,11-ジフェニルナフタセンであり,以下の構造を有している。 【0068】 【化10】 【0069】 青色発光層は,TBADNを電子輸送性ホスト材料として用い,NPBをホール輸送性ホスト材料として用い,TBPをドーパント材料として用いている。 【0070】 TBPは,2,5,8,11-テトラ-ターシャリー-ブチルペリレンであり,以下の構造を有している。 【0071】 【化11】 【0072】 青色発光層の上には,Alq層とBCP層の積層構造からなる電子輸送層が形成されている。 【0073】 Alqは,トリス-(8-キノリラト)アルミニウム(III)であり,以下の構造を有している。 【0074】 【化12】 【0075】 BCPは,2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンであり,以下の構造を有している。 【0076】 【化13】 【0077】 電子輸送層の上には,LiF層とAl層の積層構造からなる陰極が形成されている。 【0078】 【表1】 ・・・(中略)・・・ 【0084】 〔有機EL素子の評価〕 以上のようにして作製した各有機EL素子について,駆動電圧及び発光効率を測定した。測定結果を表3に示す。なお,測定結果は,20mA/cm2の駆動電流における値である。 【0085】 【表3】 」 (イ)引用例1に記載された発明 前記(ア)bで摘記した引用例1の記載から実施例7の有機EL素子を把握でき,前記(ア)aの【0027】等の記載から当該実施例7の有機EL素子を用いた有機EL表示装置についての発明を把握することができるところ,当該発明の構成は次のとおりである。(なお,引用例1の記載と同様に,積層構造における各層の間を「/」で区切って表現した。) 「ITO膜が形成されたガラス基板の上に,CHF3ガスのプラズマ重合により1nm厚のフルオロカーボン層を形成することによって,ITO膜及びフルオロカーボン層からなる陽極を作成し,当該陽極の上に,ホール注入ユニット,ホール輸送ユニット,オレンジ色発光層,青色発光層,電子輸送層,及び陰極を順次堆積して形成した有機EL素子を用いた有機EL表示装置であって, 前記ホール注入ユニットは,5nm厚のHAT-CN6/45nm厚のTPD/5nm厚のHAT-CN6という積層構造を有しており, 前記ホール輸送ユニットは,45nm厚のNPB/5nm厚のHAT-CN6という積層構造を有しており, 前記オレンジ色発光層は,ホール輸送性のホスト材料としてNPBを70重量%,電子輸送性のホスト材料としてTBADNを30重量%含有する合計100重量%のホスト材料に,ドーパント材料としてDBzRを3重量%ドーピングしたものであって,厚みが60nmであり, 前記青色発光層は,電子輸送性ホスト材料としてTBADNを90重量%,ホール輸送性ホスト材料としてNPBを10重量%含有する合計100重量%のホスト材料に,ドーパント材料としてTBPを2.5重量%ドーパントしたものであって,厚みが50nmであり, 前記電子輸送層は,3nm厚のAlq/7nm厚のBCPという積層構造を有しており, 前記陰極は,1nm厚のLiF/200nm厚のAlという積層構造を有しており, 前記各層で用いているHAT-CN6,TPD,NPB,TBADN,DBzR,TBP,Alq,BCPの構造は,下記のとおりであり, 20mA/cm2の駆動電流における駆動電圧及び発光効率がそれぞれ4.5V及び22.0cd/Aである, 有機EL表示装置。 」(以下,「引用発明」という。) イ 引用例2 引用例2は,本願の優先日より前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ,当該引用例2には次の記載がある。 「 」 (日本語訳) 「[209] 実施例2 [210] 基板上にIZOをスパッタリングの方法により1000Å厚さの透明正極(第1電極)を形成し,その上にHATを熱真空蒸着して厚さが500Åであるn-型有機物を形成し,その上にNPBを真空蒸着して厚さが400Åである正孔輸送層を形成してNP接合を形成した。 [211] また,CBPにIr(ppy)3を10重量%でドーピングし,ドーピングされた有機層で厚さが300Åである発光層を構成した。 [212] また,その上に正孔遮断層材料であるBAlqを50Åの厚さで形成した。 [213] その上に電子輸送層材料を150Åの厚さで形成し,その上に電子輸送材料にCaを10重量%ドーピングし,ドーピングされた電子輸送層を厚さ50Åで形成し,HAT/NPB/CBP+Ir(ppy)3/BAlq/ETL/Ca+ETLの単位素子構造を作った。ドーピングされたCa電子輸送層上に上記の単位素子蒸着方法と同じ方法と厚さでHAT/NPB/CBP+Ir(ppy)3/BAlq/ETL/Ca+ETL単位素子層を形成して,2個の単位発光素子が積層されたIZO/HAT/NPB/CBP+Ir(ppy)3/BAÅlq(審決注:「BAlq」の誤記と解される。)/ETL/Ca+ETL/HAT/NPB/CBP+Ir(ppy)3/BAlq/ETL/Ca+ETL/Al有機物層を形成した。 [214] 2番目にCaドーピングされた電子輸送層上に第2電極としてアルミニウムを1000Åの厚さで形成して単位有機発光素子を作った。」 (2)本願発明について ア 対比 (ア) 本願発明及び引用発明の各層の順序からみて,引用発明の「陽極」,「陰極」,「『ホール注入ユニット』の積層構造中で最も下に位置する『5nm厚のHAT-CN6』」,「『ホール注入ユニット』の積層構造中の『45nm厚のTPD』」,「『ホール輸送ユニット』の積層構造中の『45nm厚のNPB』」,「オレンジ色発光層」,「青色発光層」及び「有機EL表示装置」は,本願発明の「第1電極」,「第2電極」,「第1正孔注入層」,「第2正孔注入層」,「第1正孔輸送層」,「第1発光層」,「第2発光層」及び「有機発光ダイオード装置」にそれぞれ相当する。 (イ) 引用発明のホール注入ユニット,ホール輸送ユニット及びオレンジ色発光層からなる層構成は,「陽極」(本願発明の「第1電極」に相当する。以下,「ア 対比」欄において,「」で囲まれた引用発明の構成に付した()中の文言は,当該引用発明の構成に相当する又は共通する関係にある本願発明の発明特定事項を指す。)上で「5nm厚のHAT-CN6」(第1正孔注入層)/「45nm厚のTPD」(第2正孔注入層)/5nm厚のHAT-CN6/「45nm厚のNPB」(第1正孔輸送層)/5nm厚のHAT-CN6/「オレンジ色発光層」(第1発光層)という積層構造を有しているから,本願発明の「第1発光ユニット」と,「第1電極の直上に位置する第1正孔注入層,第1正孔注入層の直上に位置する第2正孔注入層,前記正孔注入層の上に位置する第1正孔輸送層及び第1正孔輸送層の上に位置する第1発光層を含む第1の層構成」である点で共通する。 (ウ) 引用発明の青色発光層及び電子輸送層からなる層構成は,「青色発光層」(第2発光層)を含んでおり,前記(イ)で述べた「第1発光ユニット」の上に位置しているから,本願発明の「第2発光ユニット」と,「第2発光層を含む第2の層構成」であり,「第1の層構成の上に位置する」点で共通する。 (エ) 引用発明において,前記(イ)で述べた層構成と,前記(ウ)で述べた層構成とをあわせて「発光部材」ということができるところ,当該「発光部材」は,本願発明の「発光部材」と,「第1電極と前記第2電極との間に位置し,互いに異なる色を表示する第1の層構成および第2の層構成を含む」点で共通する。 (オ) 前記(ア)ないし(エ)に照らせば,本願発明と引用発明は, 「第1電極と, 前記第1電極と対向する第2電極と, 前記第1電極と前記第2電極との間に位置し,互いに異なる色を表示する第1の層構成および第2の層構成を含む発光部材と, を含み, 前記第1の層構成は,前記第1電極の直上に位置する第1正孔注入層,前記第1正孔注入層の直上に位置する第2正孔注入層,前記第2正孔注入層の上に位置する第1正孔輸送層及び前記第1正孔輸送層の上に位置する第1発光層を含み, 前記第2の層構成は,第2発光層を含み, 前記第2の層構成は,前記第1の層構成の上に位置する,有機発光ダイオード装置。」 である点で一致し,次の点で相違する。 相違点1: 本願発明では,「第1の層構成」が第1発光層の上に位置する「第1電子輸送層」を含む「第1発光ユニット」であり,「第2の層構成」が第1電子輸送層の直上に位置する「第3正孔注入層」と第3正孔注入層の上でかつ第2発光層の下に位置する「第2正孔輸送層」とを含む「第2発光ユニット」である(言い換えると,第1発光層と第2発光層の間に,第1電子輸送層,第3正孔輸送層及び第2正孔輸送層をこの順で含んでいる)のに対して, 引用発明では,「第1の層構成」が「第1電子輸送層」を含んでおらず,「第2の層構成」が「第3正孔輸送層」と「第2正孔輸送層」を含んでいない(言い換えると,「オレンジ色発光層」(第1発光層)と「青色発光層」(第2発光層)の間に,「第1電子輸送層」,「第3正孔輸送層」及び「第2正孔輸送層」はいずれも存在しない)点。 相違点2: 本願発明では,「第1正孔注入層」がN4,N4'-ジフェニル-N4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-2-イル)-N4'-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)ビフェニル-4,4'-ジアミンから形成され,「第2正孔注入層」が2,3,6,7,10,11-ヘキサシアノ-1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレンから形成されているのに対して, 引用発明では,「5nm厚のHAT-CN6」(第1正孔注入層)はHAT-CN6から形成され,「45nm厚のTPD」(第2正孔注入層)はTPDから形成されている点。 イ 判断 事案に鑑み,まず相違点2について判断する。 引用例1には,陽極の直上に形成される第1正孔注入層を「N4,N4'-ジフェニル-N4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-2-イル)-N4'-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)ビフェニル-4,4'-ジアミン」によって形成し,第1正孔注入層の直上に形成される第2正孔注入層を「2,3,6,7,10,11-ヘキサシアノ-1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン」によって形成することは,記載も示唆もされていない。 また,引用例2には,相違点1に関する事項が記載されているとしても,相違点2に係る本願発明の発明特定事項は,記載も示唆もされていない。 したがって,たとえ引用発明に引用例2に記載された事項を適用したとしても,相違点2に係る本願発明の発明特定事項を具備するものには至らない。 そして,本願発明は,相違点2に係る本願発明の発明特定事項を具備することによって,本件明細書に記載された「色特性を維持しながらも発光効率を改善することができる」(【0019】)という効果を奏するものと認められる。 したがって,相違点1について判断するまでもなく,本願発明は,引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)請求項2ないし8に係る発明について 請求項2ないし8は,請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであって,請求項2ないし8に係る発明は,いずれも,相違点2に係る本願発明の発明特定事項を具備しているところ,前記(1)で述べたとおり,請求項1に係る発明(本願発明)が,引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない以上,請求項2ないし8に係る発明も,同様の理由で,引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 理由1について (1)サポート要件違反 平成29年9月12日提出の手続補正書によって,請求項1において第1正孔注入層及び第2正孔注入層の材質を特定する補正がされたことで,補正後の各請求項の記載は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載や出願時の技術常識に照らし,当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとなり,サポート要件違反は解消された。 (2)明確性要件違反 平成29年9月12日提出の手続補正書によって,請求項1において「真上」という記載が「直上」という記載に補正されたことで,補正後の各請求項の記載は,第1電子輸送層と第3正孔注入層の間に他の層が存在しないことが明確に特定できるものとなり,明確性要件違反は解消された。 3 小括 前記1及び2のとおりであるから,当審拒絶理由によって,本願を拒絶することはできない。 第6 原査定の拒絶の理由についての判断 原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1又は2,並びに周知例として例示された周知例1及び2のいずれにも,本願の請求項1ないし8に係る発明の発明特定事項である「第1電極の直上に位置する第1正孔注入層が,N4,N4'-ジフェニル-N4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-2-イル)-N4'-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)ビフェニル-4,4'-ジアミンから形成され,第1正孔注入層の直上に位置する第2正孔注入層が,2,3,6,7,10,11-ヘキサシアノ-1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレンから形成され」る点は,記載も示唆もされていない。 そして,本願の請求項1ないし8に係る発明が,前記発明特定事項を具備することによって,本件明細書に記載された「色特性を維持しながらも発光効率を改善することができる」という効果を奏するものと認められることは,前記第5 1(1)イでも述べたとおりである。 したがって,本願の請求項1ないし8に係る発明は,引用文献1又は引用文献2に記載された発明及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第7 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。

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2016-011299

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