特許拒絶査定不服審判
2016-010531
内燃機関の制御装置
- 審判番号
- 2016-010531
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-038850外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年07月12日
- 審決日
- 2017年05月09日
- 公報発行日
- 2017年08月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】いすゞ自動車株式会社
- 【請求人代理人】絹谷 信雄
- 分類
- P18 .121-Z (F02D) / P18 .575-Z (F02D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012- 38850「内燃機関の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月 5日出願公開、特開2013-174167〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件出願は、平成24年2月24日の出願であって、平成27年11月5日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成27年12月25日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年4月8日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成28年7月12日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。
第2 平成28年7月12日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年7月12日付けの手続補正を却下する。
[理由]
[1]補正の内容
平成28年7月12日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成27年12月25日付けで提出された手続補正書により補正された)下記の(a)に示す請求項1ないし3を下記の(b)に示す請求項1ないし3と補正するものである。
(a)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし3
「【請求項1】
圧縮行程時において、排気弁を開閉動作させる圧縮圧開放ブレーキが可能な内燃機関の制御装置において、
作動油の油圧により前記排気弁を開閉動作させて圧縮圧開放ブレーキを作動させる排気弁開閉手段と、
前記作動油の油温を検出する油温検出手段と、
前記排気弁開閉手段による圧縮圧開放ブレーキの作動を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記内燃機関が暖機された状態で停止され再始動された場合に、前記油温検出手段により検出される前記作動油の油温が所定の下限閾値未満の時は、前記排気弁開閉手段による圧縮圧開放ブレーキの作動を停止させると共に、前記油温検出手段により検出される前記作動油の油温が前記下限閾値以上の時は、前記排気弁開閉手段により圧縮圧開放ブレーキを作動させることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段はさらに、前記油温検出手段により検出される前記作動油の油温が所定の上限閾値を超えた時は、前記排気弁開閉手段による圧縮圧開放ブレーキの作動を停止させる請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記油温検出手段は、前記排気弁開閉手段の油路に設けられている請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。」
(b)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし3
「【請求項1】
圧縮行程時において、排気弁を開閉動作させる圧縮圧開放ブレーキが可能な内燃機関の制御装置において、
作動油の油圧により前記排気弁を開閉動作させて圧縮圧開放ブレーキを作動させる排気弁開閉手段と、
前記作動油の油温を検出する油温検出手段と、
前記排気弁開閉手段による圧縮圧開放ブレーキの作動を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記内燃機関が暖機された状態で停止され再始動された場合に、前記油温検出手段により検出される前記作動油の油温が所定の下限閾値未満の時は、前記排気弁開閉手段による圧縮圧開放ブレーキの作動を停止させると共に、前記油温検出手段により検出される前記作動油の油温が前記下限閾値以上の時は、前記内燃機関の冷却水温にかかわらず、前記排気弁開閉手段により圧縮圧開放ブレーキを作動させることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段はさらに、前記油温検出手段により検出される前記作動油の油温が所定の上限閾値を超えた時は、前記排気弁開閉手段による圧縮圧開放ブレーキの作動を停止させる請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記油温検出手段は、前記排気弁開閉手段の油路に設けられている請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。」
(なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)
[2]本件補正の目的
本件補正後の請求項1は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の「前記油温検出手段により検出される前記作動油の油温が前記下限閾値以上の時は、前記排気弁開閉手段により圧縮圧開放ブレーキを作動させること」に「前記内燃機関の冷却水温にかかわらず、」との記載を追加するものであるから、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「前記油温検出手段により検出される前記作動油の油温が前記下限閾値以上の時は、前記排気弁開閉手段により圧縮圧開放ブレーキを作動させること」の条件について限定したものであるといえる。
よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定したものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。
[3]独立特許要件の判断
1.刊行物
(1)刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平8-144796号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、圧縮上死点付近のシリンダ内圧縮開放をして圧縮空気を逃がし、ブレーキ力を確保するようにしたエンジンリターダ(圧縮エンジンブレーキ装置)に関するものである。」(段落【0001】)
b)「【0008】圧縮開放型リターダは、図略のロッカシャフトサポートから電磁弁3及びコントロールバルブ4を通って油が供給される油通路5と、前記プッシュロッド1によりロッカアーム13を介して作動し、前記油通路5内に供給されている油に圧力を発生させるマスタピストン2と、油通路5内の発生油圧によって作動され、エンジンのピストン7aが上死点付近で他の気筒の排気弁8を開口するスレーブピストン6とから構成されている。」(段落【0008】)
c)「【0012】上記構成の圧縮開放型リターダにおいて、エンジンの油温又は水温を検出する油温又は水温センサ12と、前記油温又は水温センサ12の検出信号を入力し、油温又は水温が一定温度以下では前記電磁弁3を閉弁して前記圧縮開放型リターダを非作動制御するコントローラ11とを設けたものである。
【0013】上記の構成において、エンジンの油温又は水温が一定温度以上の場合、圧縮開放型リターダを作動する信号Eがコントローラ11に入力されると、電磁弁3のソレノイド3dに通電され、油の供給ポート3aを塞いでいた弁3cは排出ポート3bを塞ぐ位置に切り替えられ、供給ポート3aを開口し、供給ポート3aから導入される油はコントロールバルブ4のチェックバルブ4bを押し上げ、油通路5に供給する。
【0014】このため、マスタピストン2はロッカアーム13に当接するまで押し下げられ、同時にマスタピストン2はプッシュロッド1による押し上げによって油通路5内油に圧力を発生させる。このため、コントロールバルブ4のチェックバルブ4bが閉じ、前記発生油圧によりスレーブピストン6をスプリング6aに抗して押し下げられ、膨脹行程のシリンダ7の排気弁8を開口し、排気ポート9より圧縮空気を逃がし、ピストン7aを押し下げる力の発生をなくし、ブレーキ力を損失することなく有効に活用する。
【0015】そこで、本発明は、前記圧縮開放型リターダを作動する信号Eがコントローラ11に入力された時に、油温又は水温センサ12で検出するエンジンの油温又は水温が一定温度以下の場合では、コントローラ11は電磁弁3のソレノイド3dへの通電を抑止し、電磁弁3の弁3cを油の供給ポート3aを塞いだ状態に維持し油の供給を遮断する。
【0016】このため、コントロールバルブ4はバルブスプリング4aによって押し下げられ、油通路5の油圧を下げ、同時にマスタピストン2は図略のフラットスプリングにより押し上げられ、ロッカアーム13から離間した状態となり、排気弁8を開くための油圧は発生しない。
【0017】しかしながら、エンジンの油温又は水温が一定温度以上に昇温した時には、コントローラ11は前記したように電磁弁3を切り替え作動して圧縮開放型リターダを作動する。」(段落【0012】ないし【0017】)
(2)上記(1)及び図面の記載より分かること
a)上記(1)a)及びb)の記載から、刊行物に記載された発明は、圧縮開放型リターダが作動可能な圧縮エンジンブレーキ装置であることが分かる。
b)上記(1)b)の記載から、圧縮開放型リターダは、プッシュロッド1、マスタピストン2、電磁弁3、コントロールバルブ4、油通路5、スレーブピストン6からなる排気弁開閉手段により作動されることが分かる。
(3)刊行物に記載された発明
したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物には次の発明(以下、「刊行物に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。
<刊行物に記載された発明>
「圧縮上死点付近で、排気弁8を開口させる圧縮開放型リターダが作動可能な圧縮エンジンブレーキ装置において、
油の発生油圧により前記排気弁8を開口させて圧縮開放型リターダを作動させる排気弁開閉手段と、
油の油温又は水温を検出する油温又は水温センサ12と、
排気弁開閉手段による圧縮開放型リターダの作動を制御するコントローラ11と、を備え、
コントローラ11は、油温又は水温センサ12により検出される油の油温又は水温が一定温度以下の場合では、排気弁開閉手段による圧縮開放型リターダの作動を非作動制御すると共に、油温又は水温センサ12により検出される油の油温又は水温が一定温度以上の場合は、排気弁開閉手段により圧縮開放型リターダを作動させる内燃機関の制御装置。」
2.対比・判断
本件補正発明と刊行物に記載された発明とを対比すると、その機能及び構造又は技術的意義からみて、刊行物に記載された発明における「圧縮上死点付近で」、「排気弁8」、「開口」、「圧縮開放型リターダ」「作動可能」、「圧縮エンジンブレーキ装置」、「油」、「発生油圧」、「コントローラ11」、「一定温度以下の場合では」、「非作動制御する」及び「一定温度以上の場合は」は、それぞれ、本件補正発明における「圧縮行程時において」、「排気弁」、「開閉動作」、「圧縮圧開放ブレーキ」、「可能」、「内燃機関の制御装置」、「作動油」、「油圧」、「制御手段」、「所定の下限閾値未満の時は」、「停止させる」及び「下限閾値以上の時は」に相当する。
また、刊行物に記載された発明における「油の油温又は水温」と本願補正発明における「作動油の油温」とは、「作動油の温度に関連する温度」という限りにおいて一致し、刊行物に記載された発明における「油温又は水温センサ12」と本願補正発明における「油温検出手段」とは、「温度検出手段」という限りにおいて一致する。
してみると、本件補正発明と刊行物に記載された発明とは、
「圧縮行程時において、排気弁を開閉動作させる圧縮圧開放ブレーキが可能な内燃機関の制御装置において、
作動油の油圧により前記排気弁を開閉動作させて圧縮圧開放ブレーキを作動させる排気弁開閉手段と、
前記作動油の温度に関連する温度を検出する温度検出手段と、
前記排気弁開閉手段による圧縮圧開放ブレーキの作動を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記温度検出手段により検出される前記作動油の温度に関連する温度が所定の下限閾値未満の時は、前記排気弁開閉手段による圧縮圧開放ブレーキの作動を停止させると共に、前記温度検出手段により検出される前記作動油に関連する温度が前記下限閾値以上の時は、前記排気弁開閉手段により圧縮圧開放ブレーキを作動させる内燃機関の制御装置。」の点で一致し、次の点で相違する。
<相違点>
「作動油の温度に関連する温度」及び「温度検出手段」並びに「制御手段」に関し、
本願補正発明においては、それぞれ、「作動油の油温」及び「油温検出手段」であり、「制御手段」は、「前記内燃機関が暖機された状態で停止され再始動された場合に、前記油温検出手段により検出される前記作動油の油温が所定の下限閾値未満の時は、前記排気弁開閉手段による圧縮圧開放ブレーキの作動を停止させると共に、前記油温検出手段により検出される前記作動油の油温が前記下限閾値以上の時は、前記内燃機関の冷却水温にかかわらず、前記排気弁開閉手段により圧縮圧開放ブレーキを作動させる」ものであるのに対し、
刊行物に記載された発明においては、それぞれ、「油の油温又は水温」、「油温又は水温センサ12」であり、「コントローラ11」は、「油温又は水温センサ12により検出される油の油温又は水温が一定温度以下の場合では、排気弁開閉手段による圧縮開放型リターダの作動を非作動制御すると共に、油温又は水温センサ12により検出される油の油温又は水温が一定温度以上の場合は、排気弁開閉手段により圧縮開放型リターダを作動させる」ものであるところ、「内燃機関が暖機された状態で停止され再始動された場合」に限定するものではなく、また、作動油の温度に関連する温度が水温である場合には、「水温にかかわらず」圧縮開放型リターダを作動させるものではなく、作動油の温度に関連する温度が油の油温である場合には、「水温にかかわらず」圧縮開放型リターダを作動させるものであるか不明である点(以下、「相違点」という。)。
上記相違点について検討する。
作動油により作動する車両用機器において、機器の作動に適した作動油の油温を冷却水温度を検出する水温センサを用いて推定する場合、作動油と冷却水とは両者の比熱が異なることから、水温センサから油温を精度良く推定することに困難が生じ得ることは、例えば、特開2003-155907号公報(特に、段落【0002】、【0004】、【0005】)、特開平8-233081号公報(特に、段落【0004】)、特開2001-182565号公報(特に、段落【0006】)、特開2010-53709号公報(特に、段落【0002】、【0003】)に記載されるように技術常識であるところ、特に、上記特開2003-155907号公報の段落【0004】、【0005】や上記特開平8-233081号公報の段落【0004】に記載されるように、機関を停止してから再始動するような場合には油温と水温が大きく乖離することも明らかであり、かかる技術常識を踏まえれば、刊行物に記載された発明において、油温又は水温センサのうち、より油温を精度良く計測するために油温センサを採用し、その際、油温と水温が大きく乖離することが明らかである内燃機関が暖機された状態で停止され再始動された場合に、水温にかかわらず、油温センサの値を用いて圧縮開放型リターダの作動の制御をすることとして、相違点に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは当業者であれば容易に想到できたことである。
そして、本件補正発明は、全体としてみても、刊行物に記載された発明及び技術常識から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
したがって、本件補正発明は、刊行物に記載された発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。
3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本件発明について
1.本件発明
平成28年7月12日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明は、平成27年12月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに出願当初の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記第2[理由][1](a)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。
2.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、刊行物(特開平8-144796号公報)には、上記第2[理由][3]1.(1)ないし(3)のとおりのものが記載されている。
3.対比・判断
本件発明は、上記第2[理由][2]で検討した本件補正発明の発明特定事項のうち、「前記内燃機関の冷却水温にかかわらず、」という発明特定事項を削除したものに相当する。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、上記第2[理由][3]に記載したとおり、刊行物に記載された発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、刊行物に記載された発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本件発明は、全体としてみても、刊行物に記載された発明及び技術常識から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
4.まとめ
以上のとおり、本件発明は、刊行物に記載された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第4 むすび
上記第3のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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