特許拒絶査定不服審判
2016-006183
車両用配光制御システム
- 審判番号
- 2016-006183
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2011-209029外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年04月26日
- 審決日
- 2017年04月03日
- 公報発行日
- 2017年07月28日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-Z (B60Q) / P18 .575-Z (B60Q)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2011-209029号「車両用配光制御システム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月18日出願公開、特開2013- 67343号〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
本願は、平成23年9月26日の出願であって、平成27年6月18日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、同年8月6日に意見書及び手続補正書が提出され、これに対して、平成28年1月22日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、同年4月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
第2.平成28年4月26日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年4月26日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、請求人が付与した補正箇所を示す。)
「車両前方を照明する左右一対の前照灯と、車両前方を撮影するカメラと、カメラの映像データに基づいて前照灯の配光を制御する制御ユニットとを備えた車両用配光制御システムにおいて、
前記左右の前照灯に、それぞれ、車両前方に左右対称の基本配光パターンを形成する光軸が固定のメインランプユニットと、基本配光パターンよりも車両側方に追加配光パターンを形成するサブランプユニットとを設け、
前記制御ユニットがカメラの映像データに基づいて左右のサブランプユニットの光出力を別々に制御することにより、前記前照灯が前記基本配光パターンの左側および右側に前記追加配光パターンを組み合わせた全体として左右対称な配光パターンと前記基本配光パターンの左側または右側に前記追加配光パターンを組み合わせた全体として左右非対称の配光パターンを選択的に形成することを特徴とする車両用配光制御システム。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の平成27年8月6日にされた手続補正による特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「車両前方を照明する左右一対の前照灯と、車両前方を撮影するカメラと、カメラの映像データに基づいて前照灯の配光を制御する制御ユニットとを備えた車両用配光制御システムにおいて、
前記左右の前照灯に、それぞれ、車両前方に左右対称の基本配光パターンを形成するためのメインランプユニットと、基本配光パターンよりも車両側方に追加配光パターンを形成するサブランプユニットとを設け、
前記制御ユニットがカメラの映像データに基づいて左右のサブランプユニットの光出力を別々に制御することにより、前記前照灯が前記基本配光パターンに前記追加配光パターンを組み合わせて、車両前方に全体として左右対称な配光パターンと全体として左右非対称の配光パターンを選択的に形成することを特徴とする車両用配光制御システム。」
2.本件補正の適否
上記補正は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「メインランプユニット」に関し、「光軸が固定の」との限定を付加し、「前記基本配光パターンに前記追加配光パターンを組み合わせて、車両前方に全体として左右対称な配光パターン」の「前記基本配光パターン」に「の左側および右側」との限定を付加し、さらに「全体として左右非対称の配光パターン」に、「前記基本配光パターンの左側または右側に前記追加配光パターンを組み合わせた」との限定を付加するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と、補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。
3.独立特許要件(特許法第29条第2項)
(1)本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項及び引用発明
(2-1)原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用し、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2006-248246号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、摘記した段落の後に関連する図面を挿入している。(下線は、当審で付与した。以下同様。)
ア.「【請求項1】
道路を照明するための照明手段の照明範囲を制御する照明範囲制御手段と、道路に設けられたレーンマークを検知するレーンマーク検知手段とを備え、前記照明範囲制御手段は前記レーンマーク検知手段がレーンマークを検知しないときに、当該レーンマークが検知されない領域に向けて前記照明手段の照明範囲を広げる制御を行うことを特徴とする車両用照明装置。」
イ.「【0001】
本発明は自動車等の車両の前照灯装置に適用される車両用照明装置に関し、特に走行状況に対応してランプの照射方向や照射範囲を追従変化させる配光制御手段、例えば適応型照明システム(以下、AFS(Adaptive Front-lighting System))を備える車両用照明装置に関するものである。」
ウ.「【0009】
次に、本発明の実施例を図面を参照して説明する。図1は本発明のAFS制御を実現した自動車の概略構成図であり、自動車CARのステアリング装置SWには操舵角を検知するステアリングセンサSSWが配設され、また自動車の駆動機構には車速を検知する車速センサSVが配設されている。前記各センサSSW,SVの出力はECU1に入力され、ECU1は各センサ出力に基づいて自動車CARの走行状態を認識し、この認識に基づいて自動車の左右前部に配設したヘッドランプLHL,RHLを水平左右方向にスイブルして各ヘッドランプLHL,RHLの照射方向を偏向制御するようになっている。また、前記左右のヘッドランプLHL,RHLの各隣接位置にはそれぞれ自動車CARの実質的な照明範囲を拡大するための補助ランプとして左右のベンディングランプLBL,RBLが備えられる。両ベンディングランプLBL,RBLは照射方向が固定されており、それぞれ点灯されたときに左ベンディングランプLBLは自動車の左斜め前方から側方の領域を照明し、右ベンディングランプRBLは自動車の右斜め前方から側方の領域を照明する。
【0010】
図2は前記左右のヘッドランプLHL,RHLとベンディングランプLBL,RBLのうち、左側のヘッドランプLHLとベンディングランプLBLの概略構成を示す水平断面図である。ここではヘッドランプLHLとベンディングランプLBLは一体に形成されており、ランプボディ11と前面カバー12とでヘッドランプ室13とベンディングランプ室14が構成される。ヘッドランプ室13内にはプロジェクションランプ15が内装されており、このプロジェクションランプ15はその下側に配設されたアクチュエータ16によって回転軸Oxを中心に水平左右方向に傾動されるスイブル機構17に搭載されている。また、プロジェクションランプ15の周囲を覆い隠すエクステンション18が内装されている。このヘッドランプLHLでは、前記ECU1からの制御信号に基づいてアクチュエータ16が駆動され、スイブル機構17がスイブル動作することによってプロジェクションランプ15を回転軸Oxを中心に左右方向に偏向制御することが可能とされている。一方、ベンディングランプLBLは前記ベンディングランプ室14内にリフレクタ19と光源(白熱バルブ)20が内装されている。このベンディングランプLBLでは光源20が点灯されたときに出射される光はリフレクタ19により光軸方向に出射されるが、ここではこの光軸は自動車の左斜め前方に向けて固定されている。右側のヘッドランプRHLとベンディングランプRBLについてもほぼ同様の構成である。
【0011】
また、実施例では図1に示すように、前記自動車CARには自動車の走行先の道路状況を認識するために、道路に描かれたレーンマークを認識するレーンマーク検知手段2が設けられている。ここではレーンマーク検知手段2は、自動車の前方領域を撮像するための-CCDカメラ等で構成される撮像カメラ3と、当該撮像カメラ3で撮像して得られる前方領域の画像、すなわち前方領域画像からレーンマークを検知する処理を行う画像処理装置4とで構成されている。そして、この画像処理装置4において検知したレーンマークの情報、特にレーンマークが検出できない領域を特定するための情報を前記ECU1に出力するように構成されている。」
エ.「【0015】
以上の構成のAFS制御について説明する。図4は実施例1における制御フローを示す図である。自動車CARのステアリングセンサSSWからの操舵角と車速センサSVからの車速を取得すると(S101)、ECU1は左右ヘッドランプLHL,RHLの各スイブル機構17を制御し、プロジェクションランプ115を左右にスイブル動作して左右ヘッドランプLHL,RHLを操舵方向に追従して偏向制御する(S102)。これにより、左右ヘッドランプLHL,RHLの照明光は操舵方向に偏向制御され、自車の走行先を先行して照明する。次いで、レーンマーク検知手段2により左右のレーンマークLMを検知する(S103)。この検知の結果から、左レーンマーク検知領域LLMDについてレーンマークを検知したか否かを判定し(S104)、左レーンマーク検知領域LLMDにおいてレーンマークLMを検知したときには左ベンディングランプLBLを点灯する(S105)。次いで、右レーンマーク検知領域RLMDについてレーンマークを検知したか否かを判定し(S106)、右レーンマーク検知領域RLMDにおいてレーンマークLMを検知したときには右ベンディングランプRBLを点灯する(S107)。したがって、両側のレーンマーク検知領域LLMD,RLMDのそれぞれにおいてレーンマークLMが検知されないときには両側のベンディングランプを点灯し、両側のレーンマーク検知領域LLMD,RLMDにおいてレーンマークLMが検知されたときには両側のベンディングランプは点灯しないことになる。
【0016】
次に、自動車の走行に伴う種々の異なる制御例について説明する。図5(a)に示すように、レーンマークLMのある直進道路を自動車CARが走行している場合には、撮像カメラ3で撮像した前方道路画像5は図5(b)のようになる。この前方道路画像5では左右のレーンマーク検知領域LLMD,RLMDにそれぞれレーンマークLMが存在しているので、レーンマーク検知手段2では左右のレーンマークLMを検知する。このように左右のレーンマーク検知領域LLMD,RLMDの全領域においてレーンマークLMが検知される場合は自動車CARは直進走行を行うため左右に照明範囲を拡大する必要はなく、図5(a)に示したように、左右のヘッドランプLHL,RHLを点灯している場合でも左右のベンディングランプLBL,RBLは
点灯しない。
【0017】
図6(a)に示すように、交差点、分岐路、合流地点等のように走行先のレーンマークの一部が存在しない場合、ここでは左分岐路の場合には、撮像カメラ3で撮像した前方道路画像5は図6(b)のようになる。この前方道路画像5の例では左側のレーンマーク検知領域LLMDの中心寄りの一部領域X1に左側のレーンマークLMが存在しておらず、レーンマーク検知手段2ではレーンマークが存在していないことを検知する。この場合にはレーンマークが存在していない領域X1が分岐路であり、自車が当該分岐路に向けて左折する場合もあることから、図6(a)に示したように、左右のヘッドランプLHL,RHLを点灯するとともに分岐路側に照明範囲を拡大すべく左側のベンディングランプLBLを点灯する。これにより、自動車CARがさらに進行したときに、点灯した左ベンディングランプLBLによって左側のレーンマークLMが存在しない領域、すなわち分岐路を広い範囲でより明るく照明し、分岐路への自車の進行先を確認し易くし、同時に分岐路を先行する先行車や対向車を認識し易くする。
【0018】
図7(a)に示すように、カーブ路、ここでは右カーブでは撮像カメラ3で撮像した前方道路画像5は図7(b)のようになる。この前方道路画像5の例では左側のレーンマーク検知領域LLMDにはレーンマークLMは道路先まで存在しているが、右側のレーンマーク検知領域RLMDでは中心寄りの一部領域X2においてレーンマークLMがレーンマーク検知領域RLMDから外れて存在しないため、レーンマーク検知手段2ではレーンマークが存在していないとして検知する。この場合には道路が右側にカーブしていて対向車が走行してくる可能性があり、あるいは自車が右方向にカーブすることになるため、図7(a)に示したように、カーブ側の照明範囲を拡大すべく右側のベンディングランプRBLを点灯する。これにより、自車の右側前方のカーブ先を広い範囲で照明し、自車の進行先を確認し易くするとともに、対向車を認識し易くする。」
オ.「【0019】
図8(a)に示すように、地方道、特にいわゆる田舎道のようにレーンマークが存在しない道路では、撮像カメラ3で撮像した前方道路画像5は図8(b)のようになる。この前方道路画像5では左右のレーンマークが存在していないため左右のレーンマーク検知領域LLMD,RLMDにおいては全領域X3においてレーンマークを全く検知できない。この場合には自車が道路の路肩から逸脱するおそれがあるので左側の照明範囲を拡大すべく左ベンディングランプLBLを点灯するとともに、道路幅が狭い場合には右側の路肩から逸脱し、あるいは対向車と衝突するおそれがあるので右側の照明範囲を拡大すべく右ベンディングランプRBLも点灯する。これにより、自車の走行先の左右両側を広い範囲で照明し、自車の進行先を確認し易くするとともに、他車を認識し易くする。」
カ.上記記載事項ア.~オ.により、以下の事項が認定できる。
(ア)記載事項エ.の段落【0015】の「左右ヘッドランプLHL,RHLの照明光は操舵方向に偏向制御され、自車の走行先を先行して照明する」との記載、及び【図5】(a)の図示内容を参酌すると、左右ヘッドランプLHL,RHLは、自車の走行先に配光パターンを形成することが理解できる。
(イ)記載事項ウ.の段落【0009】の「両ベンディングランプLBL,RBLは照射方向が固定されており、それぞれ点灯されたときに左ベンディングランプLBLは自動車の左斜め前方から側方の領域を照明し、右ベンディングランプRBLは自動車の右斜め前方から側方の領域を照明する」との記載、記載事項エ.の段落【0017】及び段落【0018】の記載内容並びに【図6】(a)及び【図7】(a)の図示内容を参酌すると、左右ベンディングランプLBL、RBLは、それぞれ点灯されたときに、自動車の左斜め前方から側方の領域に配光パターン及び自動車の右斜め前方から側方の領域に配光パターンをそれぞれ形成することが理解できる。
(ウ)記載事項エ.の段落【0015】の「両側のレーンマーク検知領域LLMD,RLMDのそれぞれにおいてレーンマークLMが検知されないときには両側のベンディングランプを点灯し」との記載、及び記載事項オ.の記載内容並びに【図8】(a)の図示内容を参酌すると、前照灯装置が、左右ヘッドランプLHL,RHLを点灯している状態で左ベンディングランプLBL及び右ベンディングランプRBLを点灯して自車の走行先の左右両側を広い範囲で照明する配光パターンを形成し得ることが理解できる。
(エ)記載事項エ.の段落【0017】及び段落【0018】の記載内容並びに【図6】(a)及び【図7】(a)の図示内容を参酌すると、左ベンディングランプLBLと右ベンディングランプRBLの点灯と非点灯を別々に制御することにより、左右のヘッドランプLHL,RHLを点灯している状態で、左側のベンディングランプLBLを点灯して左側の照明範囲を拡大する配光パターンまたは右側のベンディングランプRBLを点灯して右側の照明範囲を拡大する配光パターンをそれぞれ形成し得ることが理解できる。
(オ)上記認定事項(ウ)及び(エ)によれば、照明範囲制御手段が、左ベンディングランプLBLと右ベンディングランプRBLの点灯と非点灯を別々に制御することにより、【図8】(a)に示された配光パターンと、【図6】(a)または【図7】(a)に示された配光パターンを選択的に形成することが理解できる。
以上の記載事項ア.~オ.、認定事項カの(ア)~(オ)並びに図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「車両の前照灯装置と、自動車の前方領域を撮像するための撮像カメラ3と、撮像カメラ3で撮像して得られる前方領域の画像に基づいて前照灯装置の照明範囲を広げる制御を行う照明範囲制御手段とを備えた車両用照明装置において、
前記前照灯装置に、プロジェクションランプ15を水平左右方向に傾動させるスイブル機構17に搭載し、自車の走行先に配光パターンを形成する左右ヘッドランプLHL,RHLと、それぞれ点灯されたときに、自動車の左斜め前方から側方の領域に配光パターン及び自動車の右斜め前方から側方の領域に配光パターンをそれぞれ形成する左ベンディングランプLBL及び右ベンディングランプRBLとを設け、
前記照明範囲制御手段が撮像カメラの画像に基づいて左ベンディングランプLBLと右ベンディングランプRBLの点灯と非点灯を別々に制御することにより、前記前照灯装置が、前記左右ヘッドランプLHL,RHLを点灯している状態で左ベンディングランプLBL及び右ベンディングランプRBLを点灯して自車の走行先の左右両側を広い範囲で照明する配光パターンと、前記左右のヘッドランプLHL,RHLを点灯している状態で、左側のベンディングランプLBLを点灯して左側の照明範囲を拡大する配光パターンまたは右側のベンディングランプRBLを点灯して右側の照明範囲を拡大する配光パターンを選択的に形成する車両用照明装置。」
(2-2)原査定の拒絶の理由において引用文献2として引用し、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2005-255009号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、摘記した段落の後に関連する図面を挿入している。
あ.「【0001】
本発明は自動車等の車両が曲路を走行する際に車両前方を補助的に照明する追加点灯用灯具を備える車両用照明装置に関するものである。」
い.「【0002】
自動車の走行安全性を高めるために、自動車が曲路を走行する際に前照灯の照明範囲を操舵方向に向ける方式、あるいは照明範囲を拡大する方式のAFS(適応型照明システム:Adaptive Front-lighting System)が提案されている。このAFSにおいて、前者の照明範囲を操舵方向に向けて偏向(スイブル)させる方式では、操舵に対応した好適な範囲を照明することができるという利点はあるが、前照灯を偏向させるための機構が必要になり、構造が複雑なものになる。一方、後者の主となる前照灯(主灯具)に対して追加点灯用灯具として副灯具を備えておき、操舵時に副灯具を点灯させて操舵方向の照明範囲を拡大する方式は、図2を参照すると、図2(a)に示すような左右の前照灯LL,LRの各主灯具1L,1Rのみの照明範囲に対して、左右の各追加点灯用灯具2L又は2Rを点灯することで図2(b),(c)に示すように操舵方向の照明範囲を拡大することができる。この方式では、前照灯に駆動機構を付設することが不要であるために簡易かつ低価格に構成できるという利点があるが、操舵時における照明拡大範囲は追加点灯用灯具2L又は2Rの光軸に沿った方向の領域に一義的に決められてしまう。」
う.「【0011】
次に、本発明の実施例を図面を参照して説明する。図1(a)は追加点灯用灯具を備える自動車の概略図である。自動車CARの前部の左に左前照灯LLが、右に右前照灯RLがそれぞれ配設されており、これらの前照灯LL,LRはそれぞれ自動車の直進方向を照明する主灯具1L,1Rと、それぞれ自動車の左前方、右前方を照明する副灯具としての追加点灯用灯具2L,2Rとを備えている。図2(a)に配光特性を示すように、前記左右の前照灯LL,LRは各主灯具1L,1Rの光軸が自動車CARの直進方向に向けられており、これらの主灯具1L,1Rによって自動車CARの直進方向前の所要の範囲を照明する。また、図2(b)に示すように、左の前照灯LLの追加点灯用灯具2Lはその光軸が自動車の直進方向に対して所要の角度だけ左方向に傾けられており、点灯したときには主灯具1L,1Rによる直進方向の照明に加えてそれよりも左側の近い領域を照明する。逆に、図2(c)に示すように、右の前照灯LRの追加点灯用灯具2Rはその光軸が自動車の直進方向に対して所要の角度だけ右方向に傾けられており、点灯したときには主灯具1L,1Rによる直進方向の照明に加えてそれよりも右側の近い領域を照明する。
【図2】
【0012】
図1(b)は前記前照灯LL,LRの電気系統のブロック図であり、前記左右の前照灯LL,LRは制御回路3により点灯が制御されるように構成されている。前記制御回路3には、自動車CARのステアリングホイールSWで操作される自動車の操舵角を検出するための操舵角センサ4と、自動車CARの車速を検出するための車速センサ5と、カーナビゲータを備えた自動車の場合には当該カーナビゲータ6がそれぞれ接続される。前記操舵角センサ4からは検出した自動車の操舵角信号が制御回路3に入力され、前記車速センサ5からは検出した自動車の車速信号が制御回路3に入力される。また、前記カーナビゲータ6からは自動車CARの走行先の道路の状況を示す走行状況信号が制御回路3に入力される。
【0013】
このような前照灯LL,LRを含む照明装置によれば、自動車CARの走行時に図外の点灯スイッチをオンすることにより主灯具1L,1Rが点灯される。自動車CARが曲路に進入してステアリングホイールSWにより操舵を行なうと、制御回路3には操舵角センサ4からの操舵角信号が入力され、制御回路3はこの操舵角信号に基づいて左右の前照灯LL,LRのうち操舵方向側の前照灯の追加点灯用灯具2L又は2Rを点灯する。これにより、図2(a)に示したように主灯具1L,1Rによる配光と、追加点灯用灯具2L又は2Rによる配光とによって自動車の直進方向及び操舵方向が照明され、運転者が曲路の走行先を確認し易くなる。また、曲路の終点に近づいてステアリングホイールSWを直進方向ないしは反対方向に操舵し、運転者の視線が走行先に向けられる状態になると、操舵角センサ4からの操舵角信号によって制御回路3は追加点灯用灯具2L又は2Rを消灯し、運転者に対する違和感を無くすようにする。」
(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、
ア.後者の「車両の前照灯装置」は、左右ヘッドランプLHL,RHLと左ベンディングランプLBL及び右ベンディングランプRBLを設けるものであるから、前者の「車両前方を照明する左右一対の前照灯」に相当する。
イ.後者の「自動車の前方領域を撮像するための撮像カメラ3」は前者の「車両前方を撮影するカメラ」に相当し、後者の「撮像カメラ3で撮像して得られる前方領域の画像に基づいて前照灯装置の照明範囲を広げる制御を行う照明範囲制御手段」は前者の「カメラの映像データに基づいて前照灯の配光を制御する制御ユニット」に相当し、後者の「車両用照明装置」は前者の「車両用配光制御システム」に相当する。
ウ.後者の「プロジェクションランプ15を水平左右方向に傾動させるスイブル機構17に搭載し、自車の走行先に配光パターンを形成する左右ヘッドランプLHL,RHL」と前者の「車両前方に左右対称の基本配光パターンを形成する光軸が固定のメインランプユニット」とは、「車両前方に所定の配光パターンを形成するメインランプユニット」という限度で共通する。
エ.後者の「それぞれ点灯されたときに、自動車の左斜め前方から側方の領域に配光パターン及び自動車の右斜め前方から側方の領域に配光パターンをそれぞれ形成する左ベンディングランプLBL及び右ベンディングランプRBL」と前者の「基本配光パターンよりも車両側方に追加配光パターンを形成するサブランプユニット」とは、「所定の配光パターンよりも車両側方に追加配光パターンを形成するサブランプユニット」という限度で共通する。
オ.前者の「左右のサブランプユニットの光出力を別々に制御すること」は、本件明細書の段落【0017】を参酌すると、左右のサブランプユニットを別々に点消灯することを含むと解されるから、後者の「左ベンディングランプLBLと右ベンディングランプRBLの点灯と非点灯を別々に制御すること」は前者の「左右のサブランプユニットの光出力を別々に制御すること」に相当する。
カ.後者の「前記左右ヘッドランプLHL,RHLを点灯している状態で左ベンディングランプLBL及び右ベンディングランプRBLを点灯して自車の走行先の左右両側を広い範囲で照明する配光パターン」と前者の「前記前照灯が前記基本配光パターンの左側および右側に前記追加配光パターンを組み合わせた全体として左右対称な配光パターン」とは、「前記前照灯が前記所定の配光パターンの左側および右側に前記追加配光パターンを組み合わせた配光パターン」という限度で共通する。
キ.後者の「前記左右のヘッドランプLHL,RHLを点灯している状態で、左側のベンディングランプLBLを点灯して左側の照明範囲を拡大する配光パターンまたは右側のベンディングランプRBLを点灯して右側の照明範囲を拡大する配光パターン」は、引用文献1の【図6】(a)及び【図7】(a)に示されるように、全体として左右非対称の配光パターンといえるから、前者の「前記基本配光パターンの左側または右側に前記追加配光パターンを組み合わせた全体として左右非対称の配光パターン」とは、「前記所定の配光パターンの左側または右側に前記追加配光パターンを組み合わせた全体として左右非対称の配光パターン」という限度で共通する。
以上のことから、本件補正発明と引用発明とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。
[一致点]
「車両前方を照明する左右一対の前照灯と、車両前方を撮影するカメラと、カメラの映像データに基づいて前照灯の配光を制御する制御ユニットとを備えた車両用配光制御システムにおいて、
前記左右の前照灯に、それぞれ、車両前方に所定の配光パターンを形成するメインランプユニットと、所定の配光パターンよりも車両側方に追加配光パターンを形成するサブランプユニットとを設け、
前記制御ユニットがカメラの映像データに基づいて左右のサブランプユニットの光出力を別々に制御することにより、前記前照灯が前記所定の配光パターンの左側および右側に前記追加配光パターンを組み合わせた配光パターンと前記所定の配光パターンの左側または右側に前記追加配光パターンを組み合わせた全体として左右非対称の配光パターンを選択的に形成する車両用配光制御システム。」
[相違点1]
「所定の配光パターンを形成するメインランプユニット」に関し、
本件補正発明は、「左右対称の基本配光パターン」を形成し、かつ「光軸が固定」であるのに対し、
引用発明は、「左右対称の基本配光パターン」であるか明らかでなく、かつ「プロジェクションランプ15を水平左右方向に傾動させるスイブル機構17に搭載」するものである点。
[相違点2]
「前記所定の配光パターンの左側および右側に前記追加配光パターンを組み合わせた配光パターン」に関し、
本件補正発明は、「所定の配光パターン」が「基本配光パターン」であり、「追加配光パターンを組み合わせた配光パターン」が「全体として左右対称」であるのに対し、
引用発明は、「所定の配光パターン」が「基本配光パターン」であるか明らかでなく、「左ベンディングランプLBL及び右ベンディングランプRBLを点灯して自車の走行先の左右両側を広い範囲で照明する配光パターン」が、全体として左右対称であるか明らかでない点。
(4)相違点についての判断
ア. 相違点1について
(ア)引用文献2には、先の(2-2)あ.~う.の記載事項を総合すると、「照明範囲を操舵方向に向けて偏向(スイブル)させる方式では、操舵に対応した好適な範囲を照明することができるという利点はあるが、前照灯を偏向させるための機構が必要になり、構造が複雑なものになる」との課題を含むなかで、「車両前方を補助的に照明する追加点灯用灯具を備える車両用照明装置において、左右の前照灯LL,LRに、主灯具1L,1Rと、追加点灯用灯具2L,2Rを設け、前記主灯具1L,1Rの光軸が車両の直進方向に向けられ、車両の直進方向前の所要の範囲を照明すること」が記載されている。(以下「引用文献2に記載されている事項」という。)
ここで、引用文献2に記載されている事項の「主灯具1L,1R」に関し、記載事項う.を参酌すると、主灯具1L,1Rは自動車の直進方向前の所要の範囲を照明するものであり、操舵角信号に基づいて制御されるのは、前照灯LL,LRのうち追加点灯用灯具2L又は2Rであること、発明の詳細な説明全体をとおしてみてもスイベル機構等の傾働させる機構や操舵角信号に基づいて主灯具1L,1Rを傾働制御する旨の記載は一切ないこと、加えて引用文献2の上記課題をも総合勘案すると、引用文献2に記載されている事項の「主灯具1L,1R」は、偏向させるための機構を有していないと考えるのが自然であるから、本件補正発明の「光軸が固定のメインランプユニット」に相当するといえる。
ところで、引用発明の課題は、引用文献1の段落【0005】に記載されているように「レーンマークが存在しない道路状況においても走行先の照明範囲を拡大し、運転者の視認性を高めて安全運転に有効な車両用照明装置を提供」するものであるところ、「左右のヘッドランプLHL,RHL」に関し、「プロジェクションランプ15を水平左右方向に傾動させるスイブル機構17に搭載」する構成は、引用文献1の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2のいずれにも特定されておらず、引用文献1の発明の詳細な説明全体をとおしてみても、自動車の走行安全性をより高める上で有効であるとはいえても、上記引用発明の課題を解決する上で、必須の構成とまではいえない。また、一般的に自動車の走行安全性を高めるために設置する装置は、設置コストと効果を考慮の上、装置を設置することを選択することが通常行われている。
そうすると、引用発明において、前照灯装置の機構の複雑化を避け、またコストの削減を図るために、引用文献2に記載されている事項を参考にして、左右のヘッドランプLHL,RHLにおいて、プロジェクションランプ15を水平左右方向に傾動させるスイブル機構17を省いて、光軸が固定なものに変更することは当業者であれば適宜になし得ることである。
(イ)また、引用文献2の【図2】(a)を参酌すると、「前記主灯具1L,1Rの光軸が車両の直進方向に向けられ、車両の直進方向前の所要の範囲を照明する」際の配光パターンが左右対称であることが示唆されている。加えて、先の(ア)で述べた引用発明の課題を達成する上で、左右のヘッドランプLHL,RHLの配光パターンを左右対称にすることが阻害要因となることはないので、引用発明の左右のヘッドランプLHL,RHLにおいて、車両前方に左右対称の配光パターンを形成することも当業者であれば適宜になし得ることである。
(ウ)そして、引用発明の「左右ヘッドランプLHL,RHL」が形成する「配光パターン」は、「自動車の左斜め前方から側方の領域に」形成する「配光パターン」及び「自動車の右斜め前方から側方の領域に」形成する「配光パターン」の両方またはいずれかが追加される対象であるところ、上記(ア)及び(イ)で述べた変更を加えた「左右のヘッドランプLHL,RHL」は、左右対称の基本配光パターンを形成するものといえる。
よって、引用発明において、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
イ.相違点2について
先のア.「相違点1について」で検討したとおり、引用発明の「左右のヘッドランプLHL,RHL」が、車両前方に左右対称の基本配光パターンを形成するように変更すれば、引用発明の「前記左右ヘッドランプLHL,RHLを点灯している状態で左ベンディングランプLBL及び右ベンディングランプRBLを点灯して自車の走行先の左右両側を広い範囲で照明する配光パターン」における、「前記左右ヘッドランプLHL,RHLを点灯している状態」では、「左右対称の基本配光パターン」を形成している状態であり、さらに「左ベンディングランプLBL及び右ベンディングランプRBLを点灯して自車の走行先の左右両側を広い範囲で照明する配光パターン」は、全体として左右対称であるといえるから、引用発明において、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
ウ.そして、本件補正発明の効果についても、引用発明及び引用文献2に記載されている事項から予測し得る程度のものであり、格別のものとはいえない。
5)まとめ
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3.本願発明について
1.平成28年4月26日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~5に係る発明は、平成27年8月6日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記「第2.[理由]1.(2)」に記載のとおりのものである。
2.引用文献の記載事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された引用文献には、上記「第2.[理由]3.(2)」に記載したとおりの事項が記載されている。
3.対比・判断
本願発明は、本件補正発明から、前記「第2.[理由]2.」に記載した限定事項を省くものである。そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、前記「第2.[理由]2.」の限定事項により減縮したものに相当する本件補正発明が、前記「第2.[理由]3.(4)」に記載したとおり、引用発明、引用文献2に記載されている事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明、引用文献2に記載されている事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載されている事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-006183