特許無効審判
2015-800173
旨み成分と栄養成分を保持した無洗米
- 審判番号
- 2015-800173
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2005-093152
- 登録番号
- 特許第4708059号(P4708059)
- 請求日
- 2015年09月04日
- 審決日
- 2019年01月18日
- 公報発行日
- 2019年06月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】幸南食糧 株式会社
- 【請求人代理人】井内 龍二
- 【請求人代理人】高田 一
- 【被請求人】東洋ライス 株式会社
- 【被請求人代理人】岡 健司
- 【被請求人代理人】平野 和宏
- 審判長/審判官
- 審判長 紀本 孝
- 審判官 松下 聡
- 審判官 窪田 治彦
- 分類
- P1113.854-YAA(A23L) / P1113.537-YAA(A23L) / P1113.121-YAA(A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第134条の2第1項、特許法第134条の2第9項、特許法第29条第2項、特許法第134条の2第6項、特許法第126条第6項、特許法第36条第6項第3号、特許法第131条の2第2項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第4708059号「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米」の特許無効審判事件についてされた平成29年3月24日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成29年(行ケ)第10083号、平成29年12月21日判決言渡)(以下、「取消判決」という。)があったので、審決が取り消され確定していない請求項1に係る発明について、さらに審理のうえ次のとおり審決する。
結論
【結 論】
特許第4708059号の明細書及び特許請求の範囲を、平成28年11月21日付け訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。
請求項1についての本件審判の請求は、成り立たない。
審判の費用は、請求人の負担とする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件特許第4708059号は、平成17年3月28日に出願され、平成23年3月25日に設定登録がされたものであって手続の経緯は、概略以下のとおりである。
平成27年9月4日 無効審判請求(請求項1ないし3に対して)
平成27年11月30日 訂正請求(第1回)及び答弁書
平成28年1月12日 弁駁書(第1回)
平成28年3月24日 審理事項通知書
平成28年5月18日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成28年5月23日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成28年6月2日 第1回口頭審理
平成28年9月14日 審決の予告
平成28年11月21日 訂正請求(第2回)
平成29年1月5日 弁駁書(第2回)
平成29年1月31日 答弁指令
平成29年3月2日 答弁書
平成29年3月24日 一次審決
平成29年12月21日 判決言渡(平成29年(行ケ)第10083号)
なお、一次審決のうち、請求項2及び3について訂正を認め、審判請求は成り立たないとした部分の審決は既に確定している。
第2 訂正請求について
1 本件訂正請求
被請求人は、平成28年11月21日付けの訂正請求書を提出し特許請求の範囲についての訂正を請求した。また、当該特許請求の範囲についての訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図る訂正を請求するものである(以下、「本件訂正請求」という。また、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)。
そして、特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る本件訂正請求の内容は、請求項1ないし3について、請求項ごと又は一群の請求項ごとに訂正することを求めるものであり、そのうち請求項1についての訂正は次のとおりのものである(以下、「訂正特許請求の範囲」という。また、下線部が訂正部分である。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、
「【請求項1】
外から順に、表皮(1)、果皮(2)、種皮(3)、糊粉細胞層(4)と、澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され、該表層部の内側は、前記糊粉細胞層(4)に接して、一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と、該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の、純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において、
前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で、摩擦式精米機により搗精され、表層部から糊粉細胞層(4)までが除去された、該一層の、マルトオリゴ糖類や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)が米粒の表面に露出しており、且つ米粒の50%以上に『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』または『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部が削り取られた基底部である胚盤(9)』が残っており、
更に無洗米機(21)にて、前記糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ、その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している『肌ヌカ』のみが分離除去されてなることを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米。」と訂正する。
(2)訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0007】を、「請求項1においては、外から順に、表皮(1)、果皮(2)、種皮(3)、糊粉細胞層(4)と、澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され、該表層部の内側は、前記糊粉細胞層(4)に接して、一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と、該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の、純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において、前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で、摩擦式精米機により搗精され、表層部から糊粉細胞層(4)までが除去された、該一層の、マルトオリゴ糖類や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)が米粒の表面に露出しており、且つ米粒の50%以上に『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』または『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部が削り取られた基底部である胚盤(9)』が残っており、更に無洗米機(21)にて、糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ、その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している『肌ヌカ』のみが分離除去されてなることを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米である。」と訂正する。
なお、平成27年11月30日付け訂正請求書による訂正請求(第1回)は、特許法第134条の2第6項の規定により取り下げられたものとみなす。
2 本件訂正請求の適否について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
本件特許の請求項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。したがって、請求項1に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第3号の規定に適合するものである。
イ 願書に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正か否かについて
請求項1に係る本件訂正は、特許明細書の【0026】ないし【0029】、【0037】及び【0041】ないし【0043】等の記載からして、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であることが明らかである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否かについて
最初に、請求項1に係る本件訂正により、訂正前の請求項1に係る発明を特定する次に列挙する(ア)ないし(イ)の特定事項が文言上削除されているといえるので、この点について検討する。
(ア)「該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して、」
(イ)「搗精後の(米粒)」
(ウ)「前記精米機による搗精後に、無洗米機(21)に供給し、」
(ア)の記載の削除については、訂正後の請求項1に係る発明の「亜糊粉細胞層(5)が米粒の表面に露出しており、」との特定により、亜糊粉細胞層(5)が米粒の外面に残されていることも特定されているといえるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
(イ)の記載の削除については、訂正後の請求項1に係る発明の「摩擦式精米機により搗精され、」の特定により「米粒」が「搗精後の」ものであることも特定されているといえるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
(ウ)の記載の削除については、訂正後の請求項1に係る発明の「摩擦式精米機により搗精され、」及びその後の「更に該無洗米機(21)にて、」との特定により、「精米機による搗精後に、無洗米機(21)に供給し」と同義の特定がされているといえるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
次に、訂正前の請求項1に係る発明を特定する「精米機による搗精により」を「摩擦式精米機により搗精され」と訂正した点は、実質的に請求の範囲を減縮するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
最後に、訂正前の請求項1に係る発明を特定する「糊粉細胞層(4)までを除去し」、「亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ」、「表層部や突出部を削り取り、残された基底部」、「『胚盤(9)』を残し、更に前記精米機による搗精後に、無洗米機(21)に供給し、該無洗米機(21)にて」及び「『肌ヌカ』のみを分離除去したこと」を、それぞれ「糊粉細胞層(4)までが除去された」、「亜糊粉細胞層(5)が米粒の表面に露出しており」、「表層部や突出部が削り取られた基底部」、「『胚盤(9)』が残っており、更に該無洗米機(21)にて」及び「『肌ヌカ』のみが分離除去されてなる」と訂正した点も、表現を変更しているものの実質的な内容を変更しているとはいえないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
したがって、請求項1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
発明の詳細な説明に係る本件訂正は、当該特許請求の範囲についての本件訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図る訂正をするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、特許法第134条の2第1項ただし書第3号の規定に適合するものである。
イ 願書に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正か否かについて
請求項1に係る訂正に伴う発明の詳細な説明に係る本件訂正は、特許明細書の【0026】ないし【0029】、【0037】及び【0041】ないし【0043】等の記載からして、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であることが明らかである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否かについて
請求項1に係る訂正に伴う発明の詳細な説明に係る訂正は、上記(1)ウと同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
3 まとめ
したがって、請求項1についての本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き、および同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1について訂正を認める。
第3 本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明は、本件訂正請求が認められたから、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである(以下、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を「特許発明1」という。)。
第4 無効理由(請求項1)についての当事者の主張の概要
1 請求人の主張
(1)無効理由1(方法的記載)
本件特許の請求項1の記載は、「無洗米」の発明でありながらその物の製造方法が記載されているから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
具体的には、次に列挙するアないしカの記載は方法的記載である。
ア 請求項1の「前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で、精米機による搗精により、表層部から糊粉細胞層(4)までを除去し、」なる記載。
イ 請求項1の「該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して、該一層の、マルトオリゴ糖類や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ、」なる記載。
ウ 請求項1の「且つ搗精後の米粒の50%以上に『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』または『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り、」なる記載。
エ 請求項1の「残された基底部である胚盤(9)を残し、」なる記載。
オ 請求項1の「更に前記精米機による搗精後に、無洗米機(21)に供給し、」なる記載。
カ 請求項1の「該無洗米機(21)にて、前記糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ、その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している『肌ヌカ』のみを分離除去した」なる記載。
(2)無効理由2(著しく不明確な記載)
本件特許の請求項1の記載は、著しく不明確な記載を含んでいるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
具体的には、次に列挙するアないしウの記載は著しく不明確な記載である。
ア 請求項1の「食味上もよくない黄茶色の物質の層」なる記載。
イ 請求項1の「亜糊粉細胞層(5)を外面に残して、該一層の、マルトオリゴ糖類や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ、」なる記載。
ウ 請求項1の「搗精後の米粒の50%以上に『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』または『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り、残された基底部である胚盤(9)』を残し、」なる記載。
(3)無効理由3(進歩性欠如)
本件特許の請求項1に係る発明は、その特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第7号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
<証拠方法>
甲第1号証:「加除式 農業技術大系 作物編 1 基本編・イネ基礎編」、第11刷、社団法人 農山漁村文化協会、1995年12月10日、p.技 676の2-技 676の3
甲第2号証:特公平5-21628号公報
甲第3号証:特開平6-63429号公報
甲第4号証:特開2004-283030号公報
甲第5号証:特開2002-355567号公報
甲第6号証:特開平3-154643号公報
甲第7号証:特開2001-246272号公報
なお、請求人は、平成29年1月5日付けの審判事件弁駁書2(2ページ23ないし27行、8ページ17ないし20行)において、本件特許の請求項1の記載は、簡潔な記載でなく特許法第36条第6項第3号に規定する要件を満たしていないので、本件特許の請求項1に係る発明は特許を受けることができないものである旨、主張している。
しかし、当該主張は、審判請求書に記載されていない新たな主張であるので採用できない。また、仮に、請求人は、当該主張を追加するように請求の理由を補正することの許可を求めるものであるとしても、当該補正はその要旨を変更するものであるところ、本件訂正請求により請求の理由を補正する必要が生じたものとは認められず、また、審判請求時の請求書に記載しなかったことにつき合理的な理由があるものとも認められないから、当該補正は許可できるものではない(特許法第131条の2第2項)。したがって、当該主張は認められない。
2 被請求人の主張
(1)無効理由1(方法的記載)
本件訂正により、本件特許の請求項1の記載は、「無洗米」の発明でありながらその物の製造方法が記載されているものの、「単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない場合」であることが明確となったから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしており、特許を受けることができないものではない。
(2)無効理由2(著しく不明確な記載)
本件特許の請求項1の記載は、著しく不明確な記載を含んでおらず、請求人主張は理由がない。
(3) 無効理由3(進歩性欠如)
本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第7号証の記載に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえず、作用効果を見ても予測しうる範囲内のものではなく、請求人の主張は失当である。
<証拠方法>
乙第1号証:松尾孝嶺 外編、「稲学大成第一巻 形態編」、第1刷、社団法人 農山漁村文化協会、1990年11月10日、p.67
乙第2号証:特願2005-93152号(特許第4708059号)の平成22年12月6日付け手続補足書
乙第3号証:乙第2号証添付の平成22年11月30日付け試験結果報告書
乙第4号証:「金芽米リーフレット」、平成26年6月被請求人作成
乙第5号証の1:被請求人企画部・間幹雄作成平成23年5月25日付けメール内容印刷物
乙第5号証の2:乙第5号証の1のメールに添付して送付された被請求人企画部・間幹雄作成に係る「金芽米早わかり(第二版)」
乙第6号証:「サタケ TASTY 『テイスティ』」、株式会社 サタケ 広報室、2007年、VOL. 38、p.10
乙第7号証:杣源一郎著、「ガンも認知症も寄せつけない『免疫ビタミン』のすごい力」、初版、株式会社ワニ・プラス、2015年12月25日、p.166-167
乙第8号証:杣源一郎氏の被請求人宛て2016年4月28日付け返信メール
乙第9号証:椎葉究編、「シリアルサイエンスおいしさと栄養の探究」、第1版第1刷、学校法人東京電機大学東京電機大学出版局、2014年7月20日、p.160-161
乙第10号証:松尾孝嶺 外編、「稲学大成第一巻 形態編」、第1刷、社団法人 農山漁村文化協会、1990年11月10日、p.300-301
乙第11号証:星川清親著、「米 イネからご飯まで」、初版、昭和54年2月1日、株式会社 柴田書店、p.120、173
乙第12号証:ホームページ印刷物(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構HP内のタイトル「無洗米糠の反芻家畜用飼料としての栄養価値」のページ。<URL:https:/www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/nilgs/2002/nilgs02-15.html>)
乙第13号証:被請求人従業員田宮徹弥作成に係る平成28年4月30日付け「試験報告書」
乙第14号証:米・食味鑑定士協会作成に係る2016年5月16日付け「呈色試験結果報告書」
乙第15号証の1:米・食味鑑定士協会作成に係る2016年5月17日付け「デンプン量測定に関する報告書」
乙第15号証の2:一般財団法人日本食品分析センター大阪支所作成に係る2016年5月16日付け「書類送付のご案内」及び「分析試験成績書」
第5 当審の判断
1 各甲号証の記載事項等及び記載された発明
(1)甲第1号証
本件出願の出願前に頒布された甲第1号証には、図面と共に以下の事項が記載又は示されている。
1a)「2.米粒の構造と食味
玄米の断面構造をみると,第1図のようにまず表面を覆う果皮や種皮などがある。その下にはコメ油やフィテン性ミネラルを貯えた糊粉層がある。また米粒の端には胚芽もある。以上がぬか層で,玄米重量を100%とすると約9%にあたる。その内側が白米で,重量では約91%を占める。大部分はデンプンであり,従来,白米の内部は均一とみなされてきた。
しかし白米を切断して薄いヨード試薬で染めてみると,中心部(重量で約70%の心白相当部分)は赤紫色に染まるが,白米表層部(同約21%部分)はほとんど染まらない(第2図)。これは,表層部にはタンパク質,脂質,ミネラルなどが高濃度に集積していて,デンプンは少ないためである。均一に見える白米内部にも,よく観察すると複雑な多重構造が存在しているのである(堀野ら,1992c)。」(技 676の2ページ左欄下から4行ないし右欄下から4行)
1b)「3.白米表層(サピオ層)の呈味成分
この白米表層部分を削り取って化学分析してみると,呈味物質のショ糖やグルタミン酸がたくさん含まれている。また,水に1時間ほど浸したあとでは,上質の甘味を示すマルトオリゴ糖も生成されて“味の閾値”に達する(堀野ら,1992a;三枝ら,1993)。さらにデンプン(アミロペクチン,アミロース)とは別種の水によく溶ける炭水化物(水溶性多糖)も15%ほど含まれている。この水溶性多糖と呈味物質の混合物が,ご飯のねばねばのもとではないかと考えられている(堀野ら,1993)。
次にミネラル(P,K,Mg,Caなど)をみると,その約1/2はぬか層に貯えられているが,残りの大半は白米表層の亜糊粉層付近に集まっている。後述するようにMgはコメの食味をよくするミネラルであるが,これも白米表層にとくに多い。実際に,白米表層から削り取った米粉を口に含んでみると,うまいコメほど特有の強い甘味やコクが感じられる。白米表層には各種の呈味成分が集積しているので,最近ではサピオ層(ラテン語で味わうの意味)とも呼ばれるようになった。」(技 676の2ページ右欄下から3行ないし技 676の3ページ24行)
1c)「第1図 玄米の内部構造
(農文協,稲学大成第1巻309,星川原画を改変)
注 糊粉層と亜糊粉層の間ははがれやすいので,この性質を利用して精米を行う。はぎとられた部分(糊粉層,種皮,果皮)はぬか,亜糊粉層とデンプン組織は白米と呼ばれる。」(技 676の2ページ 第1図の説明文)
1d)第1図には玄米の内部構造が図示されており、玄米粒は外から順に、果皮(表皮、中果皮、横細胞層、管細胞層)、種皮、胚乳(糊粉層、亜糊粉層、デンプン貯蔵組織)と胚(胚芽)があること、及び、ぬか層の内側は、糊粉層に接して、一段深層に位置する亜糊粉層と、該亜糊粉層の更に深層の、デンプン貯蔵組織により構成されていることも示されている。
これらの事項を総合すると、甲第1号証には、以下の甲1発明が記載されていると認められる。
「外から順に、表皮を含む果皮、種皮、糊粉層と、によりぬか層が構成され、該ぬか層の内側は、前記糊粉層に接して、一段深層に位置する亜糊粉層と、該亜糊粉層の更に深層の、デンプン貯蔵組織により構成された玄米粒において、糊粉層と亜糊粉層の間ははがれやすいので、この性質を利用して精米を行い糊粉層、種皮、果皮をぬかとしてはぎとった、亜糊粉層とデンプン貯蔵組織の白米。」
(2) 甲第2号証
本件出願の出願前に頒布された甲第2号証には、図面と共に以下の事項が記載又は示されている。
2a)「この発明は米の搗精に際して、胚芽の根の部分のみを残した状態に仕上げる精米方法に関する。」(1ページ1欄16ないし17行)
2b)「米粒は、その構造を大きく分けると、第1図の如く、内部の胚乳1と、外皮の糖層3と、胚芽2とからなる。精米とはこの内の糖層3を除去することであるが、胚芽の残存如何によつて精白後の米は2種に分けられる。即ち、ほとんどの米粒に胚芽が残存している胚芽米と、ほとんどの米粒から胚芽が除去されている通常精白米とである。一般の米粒の場合、胚芽は米粒本体から極めて離脱し易い。」(1ページ1欄19ないし2欄2行)
2c)「通常精白粒が大部分を占めるものが通常精白米であり、その胚芽残存率は20%以下または15%以下である。」(2ページ3欄2ないし5行)
2d)「本発明は以上の点に鑑み、胚芽の全体を残すのではなく、胚芽の根の部分のみを残して搗精するという、従来にない新規な胚芽米を作ることを目的とし、搗精方式としては摩擦式を採用し、・・・」(2ページ4欄18ないし21行)
2e)「精白ロールの回転数を1000RPM以上の高速回転に設定すると共に、被搗精米には米粒表面にひび割れの生じない範囲の上限または上限に近い量の加水を行い、糠層を湿潤軟化させて剥離除去する他、吸水性のよい胚芽に充分に水分を吸収させて軟化させ、この状態で高速・低圧での搗精を加えることにより、胚芽を表面から少しづつ層状に剥離除去していき、胚芽の根の部分のみが米粒に残つた状態で搗精を完了させる・・・」(2ページ4欄30ないし38行)
2f)「加水の時期は玄米時からでもよいが・・・」(2ページ4欄40ないし41行)
2g)「本発明では精白ロールが1000RPMという高速で回転させられるので、米粒には粒々間のマツサージ作用が充分に作用し、前記の吸水作用と相俟つて胚芽は適度な状態に軟化する。」(3ページ5欄39ないし42行)
2h)「精白ロールが高速回転であるが為に、ロール1回転当たりに米粒が受ける摩擦力が従来の場合よりも小さくなつていることも基因すると考えられる。このようにして胚芽は表面部から徐々に層状に剥離されていくが、最後の根の部分は奥まつた位置にある為、搗精作用を受けず、そのまま残留する。」(3ページ6欄2ないし8行)
2i)「胚芽の根の部分は表層の味と異なり、独特の味と香りがあつて、美味であり、消費者にも好まれる。」(3ページ6欄19ないし21行)
2j)「精白米:各試験に於いて、いずれも40°(ケツト白度計)となるように搗精条件を整えた。」(3ページ6欄35ないし36行)
2k)第1図には玄米の断面図が記載され、胚乳と胚芽と糠層で構成された玄米の構造が示され、第5図には精米方法によって得られた胚芽根残留粒、すなわち胚芽根残留精米の断面図が記載されている。
これらの事項を総合すると、甲第2号証には、以下の甲2発明が記載されていると認められる。
「胚乳と胚芽と糠層で構成された玄米粒において、加水して高速搗精により糠層を湿潤軟化させて剥離除去する他、吸水性のよい胚芽に充分に水分を吸収させて軟化させ、胚芽を表面から少しづつ層状に剥離除去していき、胚芽の根の部分のみが米粒に残った状態に、白度40°に仕上げる胚芽根残留精米。」
(3) 甲第3号証
本件出願の出願前に頒布された甲第3号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
3a)「【0014】本発明は以上の点に鑑み、食味マイナス物質の除去と、食味プラス物質の残存とを最大限効果的に行うことができ、米が本来的に持っている旨さを極力現出させることのできる精米処理法、及びその精白米を提供せんとするものである。
【0015】
【課題を解決するための手段】本発明の精米処理法の技術的手段は、第1工程では、玄米を低圧搗精して、糠の深皮層が残留した状態の低精白米となし、第2工程で、この低精白米を洗米し、米粒表面の残留糠分を除去して高精白米とすることにある。
【0016】本発明の精白米の技術的手段は、低圧搗精した後に、洗米処理したことにより、食味プラス物質が残り、食味マイナス物質のみが除去されていることにある。
【0017】
【作用】本発明の精米処理方法では、第1工程は低圧搗精である。この為、糠分の内の比較的やわらかな中果皮層までは除去されるが、頑強な深皮層は残り、深皮層に存在するアリューロン顆粒がすりつぶされることはない。また、低圧搗精である為、米肌に傷が付かない。この第1工程を終えた段階では米粒表面にまだかなりの糠分が残っており、低精白米の状態である。
【0018】第2工程では洗米処理を施す。第1工程における搗精が低圧で行われた為、深層部アリューロン顆粒はすりつぶされることなくそのままの状態で残っており、高圧搗精された時のように、すりつぶされたアリューロン断片が米肌に存在する無数の陥没部に塗り込められた状態にはなっていないので、その除去は比較的容易である。従って、短時間の洗米で、米粒表面に付着している残留糠を悉く除去でき、かつ、食味プラス物質の流出を押さえることができ、食味に優れた精白米を得ることができる。」
3b)「【0021】第2工程の洗米は、洗米機4を用い、数秒~数10秒、通常は20~30秒程度の極めて短時間で行う。洗米機としては、摩擦式精米機とほぼ同様の構造を有するもの、即ち、無孔の円形外筒内で、突条を有する内筒を回転させ、外筒の一方端から米と水とを送り込み、洗米したものを他端から排出させる形式のものを用いる。洗米機の作動設定は、低圧で、毎分1000回転程度の高速回転とし、米粒同士が軽く、かつ、極めて高速に摺り合わされるようにする。」
3c)「【0028】表3の試験結果から、第1工程の精米歩留りを92%以上、特に93%以上にしたものが食味に優れていることが分かる。従来一般に行われている歩留り90~91%に精米したものや、これ以上の88~89%に精米したものは、米肌の陥没部に入り込んだアリューロン断片の除去が不完全となり、食味の低下を招いているのである。」
3d)「【0032】表4の結果から分かるように、精米歩留りや最終歩留りには米によって多少の差はあるものの、全体の傾向としては皆同じである。即ち、第1工程の精米段階では歩留りを91~94%程度にし、第2工程の洗米では歩留りを87.0~88.5%程度に仕上げるのが、米の持っている食味を最大限に引き出す処理法であることが分かる。」
3e)図2には精米処理方法の工程図が記載されている。
これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第3号証には、以下の甲3発明が記載されていると認められる。
「糠の深皮層を有する玄米粒において、前記玄米粒を構成する糠の中で、低圧搗精により深皮層より上の中果皮を除去し、深皮層を外面に残して、低精白米に仕上げ、更に無孔の円形外筒内で、突条を有する内筒を回転させ、外筒の一方端から米と水とを送り込み、洗米したものを他端から排出させる形式の洗米機を低圧で、毎分1000回転程度の高速回転とし、洗米処理を行う高精白米の製造装置であって、搗精は摩擦式精米機を用い、及び、洗米機を備えた高精白米の製造装置で製造した高精白米。」
(4)甲第4号証
本件出願の出願前に頒布された甲第4号証には、図面と共に以下の事項が記載又は示されている。
4a)「【0002】
【従来の技術】
現在食用に供されている米として、玄米、精白米、分搗き米、発芽玄米、胚芽米が知られている。
「農業技術大系(作物編)1995」<追録第17号・1995年>(社)農文協編によれば、玄米は、図1に示すように、下端に胚芽1があり、最外層から順に、果皮2(外果皮2a、中果皮2b、横細胞層2c、管細胞層2d)、種皮3、胚乳4(糊粉層4a、亜糊粉層4b、胚乳4c)により構成されている。
玄米は、γ-アミノ酪酸(通称ギャバ)のほか各種アミノ酸、ミネラル等の栄養価に富む胚芽1や糊粉層4a、亜糊粉層4bを含むが、吸水性が悪く、炊飯の前に長時間水に漬けてアク出ししなくては渋みやエグ味がでるほか、かつ食感が悪く、そのため食味まで損なわれている。
【0003】
糊粉層4aと胚乳4cの間の亜糊粉層4bは軟弱ではがれやすいので、これを利用して精米が行われる。精米を行うと、亜糊粉層4bの一部とその外側(糊粉層4a、種皮3、果皮2)、及び胚芽1がはぎ取られて糠となり、残った亜糊粉層4bと胚乳4cからなるものが精白米である。このときの搗精歩合(搗精により除去される割合)は一般に約8~9%、内訳は、胚芽1が3%程度、他の糠分が5~6%程度である。なお、玄米に一般的に含まれる粉米、未熟米等(搗精により粉化して糠の一部になる)を含めると搗精歩合は10%程度となる。
精白米は吸水性がよく、うまみ成分が豊富な亜糊粉層4bを含み、食感も優れているが、栄養価が高い胚芽1や糊粉層4aが脱落し、亜糊粉層4bの一部も脱落している。」
4b)「【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、これまで食用に供されている各種の米のそれぞれの問題点に鑑み、食味、食感に優れ、栄養価が高く、さらに炊飯する場合に短時間で準備できる米を得ることを目的とする。
また、一般家庭では従来の発芽玄米、胚芽米等は市販されているものを購入するしかなく、かつこれらは一般に食味、食感が劣ることに鑑み、本発明は、上記のように食味、食感に優れ、栄養価の高い米を、精白米と同様に家庭でも容易に調整できるようにすることを目的とする。」
4c)「【0013】
この搗精方法によれば、玄米の品種にかかわらず、従来の精米機のように胚芽が脱落することがなく、玄米の表面は外層側から順に研磨され、亜糊粉層において一気にはがれ落ちることなく搗精される。一般に約2.5~3重量%の搗精歩合となったとき、搗精を停止すればよい。これにより、表面から少なくとも果皮層が取り除かれ、かつ糊粉層及び胚芽が残存する胚芽付き搗精米が製造できる。
みのる産業株式会社製の市販の米とぎ機(商品名「とぎたて」型式HRC-121;前記研米方式の米とぎ機)を使用し、平成14年産水稲上位5品種(コシヒカリ、ひとめぼれ、ヒノヒカリ、あきたこまち、きらら397)について各1合の玄米を搗精したとき、いずれもブラシ先端の回転速度10~11m/秒、回転時間30~40秒で、約2.5~3重量%の搗精歩合となる。この搗精歩合で搗精を終了し、製造された搗精米を観察すると、全ての品種について、全粒がほぼ均一に搗精され、果皮層は全て除去され、糊粉層はほぼ全てが残存し、胚芽は約85%が残存していた。このように、本発明に係る胚芽付き搗精米は、市販の米とぎ機を利用して、通常の品種を家庭でも調整することができる。
【0014】
本発明に係る胚芽付き搗精米において、糊粉層は全部又は大部分(50%以上)が残存し、胚芽は80%以上が残存していることが望ましい。本発明の搗精方法により糊粉層の全部又は大部分を残存させれば、品種によらず、この程度の胚芽残存率は容易に達成できる。
本発明に係る胚芽付き搗精米は、糠臭及び渋みやエグ味の原因である果皮が除去され、一方、栄養価に富む胚芽や糊粉層及び亜糊粉層を含み、また、うまみ成分が豊富な糊粉層及び亜糊粉層を含む。従って、炊飯すると糠臭がなく、精白米に近いふっくら感があり、食味、食感に優れ、かつγ-アミノ酪酸等のアミノ酸、マグネシウム等のミネラル及び不溶性の食物繊維(いずれも糊粉層や胚芽に多い)が多く含まれ、栄養価が高い。
【0015】
さらに、この胚芽付き搗精米を水に浸漬すると、胚芽及び糊粉層においてγ-アミノ酪酸が急速に富化する。果皮が残っていれば、γ-アミノ酪酸が富化するまで長時間を必要とするが、この胚芽付き搗精米は果皮が除去されているため吸水性がよく、前記特許文献3に記載されていると同様に、短時間(1~2時間で十分)でγ-アミノ酪酸が富化する。従って、炊飯前に短時間水に浸漬し、続いて炊飯すれば、γ-アミノ酪酸が豊富に含まれる米飯を食することができる。」
4d)「【0017】
【発明の効果】
本発明に係る胚芽付き搗精米は、食味、食感はほぼ精白米と同等であり、発芽玄米や胚芽米等と同等又はそれ以上に栄養価が高く、さらに炊飯する場合に精白米と余り違わない短時間でγ-アミノ酪酸が富化させ、栄養価の高い米飯を炊くことができる。しかも、特殊な銘柄の玄米を使用せずとも、このような米を精白米と同様に家庭でも容易に調整できるようになる。」
4e)図1には玄米の内部組織を説明する図が示されている。また、外から順に、果皮、種皮、胚乳と構成され、該胚乳は、糊粉層に接して、一段深層に位置する亜糊粉層と、該亜糊粉層の更に深層の胚乳により構成された玄米粒であることも示されている。
これらの事項を総合すると、甲第4号証には、以下の甲4発明が記載されていると認められる。
「外から順に、果皮、種皮、胚乳と構成され、該胚乳は、糊粉層に接して、一段深層に位置する亜糊粉層と、該亜糊粉層の更に深層の胚乳により構成された玄米粒を、筒型ブラシで研ぎ、前記玄米粒を構成する果皮と種皮と胚乳のうち、果皮層を取り除き、糊粉層及び胚芽が残存する胚芽付き搗精米搗精により精白米と余り違わない胚芽付き搗精米に仕上げる、胚芽付き搗精米。」
(5)甲第5号証
本件出願の出願前に頒布された甲第5号証には、図面と共に以下の事項が記載又は示されている。
5a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本願発明は、玄米を攪拌、対流させて精米するタイプの卓上精米器に関し、特に、簡単な構成で、精米後に米研ぎ(洗米)を行って、水で研がずにそのまま炊飯できる米(以下、無洗米と称す)を生成しうる洗米機能等の機能を備える洗米機能付き多機能卓上精米器に関する。
【0002】
【従来の技術】精米前の玄米は中から胚乳、うまみ層、肌糠、糠となっており、精米して白米とすると糠部分が取り除かれる。その後、水でとぐと残りの肌糠も落ちる。一方、精米後の白米を水でとぐ代わりに特殊な方法で肌糠を落としたものが無洗米として流通している。
【0003】精米後の白米を水でとぐと、水によく溶けるビタミンB1等がとぎ汁の中に流出してしまうと共に、うまみ、甘味等の食味が低下してしまう。また、水でとぐと、とぎ汁にはりん、窒素、脂肪分等が含まれるため、それが生活排水として河川等に流されるとヘドロや赤潮発生の原因となり環境破壊を招いていた。無洗米においては、とぎ汁が発生しないためビタミンB1等の流出を防止できうま味、甘味成分を多く残留できると共に環境汚染の心配も無いという利点がある。
【0004】従来、精米後の米を洗米する装置として、無洗米製造装置、米研ぎ機、研米機で米研ぎ(洗米)を行うもの等が、例えば、特開昭64-63051、実開昭62-59138等で知られている。また、精米から洗米までを行う精米器が知られているが、その方式はロール式、墳風式、バキューム式等であり、しかも卓上型ではなく大型で高価であった。また、水を使わずに遠心力とブラシにより米粒表面の糠を書き出すブラシ式の洗米器が市販されているが、卓上型ではなく大型で高価であるばかりでなく、砕米、米の亀裂の発生率が高い。」
5b)「【0006】ここで、洗米とは図1に示すように、精米後の白米から肌糠や糠片やごみを落とすことを言う。ここで、図1の(a)は玄米、(b)は精米後の白米、(c)は洗米後の米を示す。また、分付き米においては、所望の分付き終了後の米の表面に付着した糠片やごみを落とすことをいう。図1の(a)、(b)に示すように、精米後の白米においては、外側の『糠』の部分が取り除かれ、これを水でとぐと図1の(c)に示すように残りの『肌糠』も落ちる。また、市販の無洗米においては、図1の(c)に示すように、特殊な方法で『糠』も『肌糠』も取り除かれており、一切水でとぐ必要は無い。」
5c)「【0015】図4はこの卓上精米器の図2の線IV-IVに沿った断面図であり、図5はこの卓上精米器の要部の分解図である。図4及び図5において、5は玄米を収容する筒状、例えば、円筒(スリーブ)状の精米かご、9は回転することにより精米かご5内の玄米を精米する精米羽根組立体、6は精米かご5を収容すると共に精米かご5により玄米より削り落とされた糠を収容する例えばABS樹脂からなる円筒(スリーブ)状の糠ボックス、30は糠ボックス6を収容する例えばABS樹脂からなる円筒(スリーブ)状の糠ボックス収容ケースであり、その上端部30a及び底部開口端30bが本体ケース11に固定されることにより該糠ボックス収容ケース30は本体ケース11に固定される。なお、精米かご5の形状は円筒に限らず下部から上部に従って直径が増加するすりばち状、等の形状としても良い。」
5d)「【0049】図20の結果から、各精米量毎の好適な精米羽根の回転数を精米コースと洗米コースとで比較した図が図24である。これらの図から明らかなように、精米コースにおいては、精米時間は精米量の増加に応じて2~6分の間で増加し、精米羽根の回転数は1900から2400min-1 の間である。洗米コースにおいては、精米時間は4~9分の間であり、精米羽根回転数は精米量の増加に応じて1100から2100min-1 の間で増加している。また、図24に示すように、各精米量(洗米量)毎の好適な精米羽根の回転数の精米コースと洗米コースとの間での差は実質的に1000min-1 以内であり、即ち、精米時と洗米時との精米羽根の回転数の差は実質的に1000min-1 以内であり、精米量(洗米量)の増加に応じて差は減少する傾向にある。なお、精米コース時(または洗米コース時)の精米羽根の回転数は、精米(または洗米)の時間を多少長くすれば多少低くすることが可能となるが、砕米率の増加の防止及び適切な濁度の維持のためには、精米コース時と洗米コース時の精米羽根の回転数の差は1000min-1 以内とすることが望ましい。また、精米羽根組立体として、図10から図13の第2から第5の変形例を用いた場合にも同様の結果が得られる。また、精米羽根組立体として、図2等に示すもの、図15に示すものを用いることも可能であるが、図9から図13のものに比べてやや砕米率が上昇する。」
5e)「【0056】また、玄米から無洗米の自動連続生成、白米から無洗米の生成、玄米から分搗き米や胚芽米の生成等の諸機能を行い得るようにしたので極めて便利で使い勝手が良いものである。特に、胚芽コースを設けてあるため、食味や栄養を考慮した多機能精米器として使用できる。また、胚芽コースを設定する操作手段と分搗きを設定する操作手段とを兼用させたため、操作パネルを小型化できる。また、精米に関する選択手段が同一の手段であるため、いずれのコースを指示したかを容易に確認でき、誤操作を防止できる。更に、白米から無洗米の生成を指示する操作手段と玄米から無洗米の生成を指示する操作手段とを兼用させたため、操作パネルを小型化できる。また、洗米に関する選択手段が同一の手段であるため、いずれのコースを指示したかを容易に確認でき、誤操作を防止できる。」
5f)図1には(a)に玄米が、(b)に精米後の白米が、(c)に洗米後の米がそれぞれ示されており、(a)より玄米の内部構造について、外から順に、糠、肌糠、うまみ層、胚乳から構成されていること、(b)より玄米から糠が除かれた肌糠、うまみ層及び胚乳が残存している普通精米であること、(c)より普通精米から肌糠が除かれたうまみ層及び胚乳が残存している無洗米であることも示されている。
これらの事項を総合すると、甲第5号証には、以下の甲5発明が記載されていると認められる。
「精米コースとして、玄米を精米して胚芽米の生成を行う胚芽コースと、玄米を精米して所望の精白度の分搗き米及び白米の生成を行う分搗きコースとを備えると共に、洗米コースとして、白米を洗米して無洗米を生成する洗米コースと、玄米を精米して白米を生成後、連続的かつ自動的に該白米を洗米して無洗米を生成する精米/洗米コースとを備え、精米時と洗米時とでは同一の精米羽根組立体を使用し、洗米時には精米時より低い回転数で精米羽根を回転する卓上精米器を用い、
中から胚乳、うまみ層、肌糠、糠となっている玄米粒において、精米コースとして前記玄米粒を精米して糠部分を取り除き白米とし、また精白度の設定ができ、更に白米の表面に付着する『肌糠』を洗米して取り除く洗米処理を行った無洗米。」
(6)甲第6号証
本件出願の出願前に頒布された甲第6号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
6a)「2 特許請求の範囲
1 精白米に水を加え混合して攪拌する洗滌工程と、該洗滌工程と同時または直後に行ない、水洗した米穀粒が含有する水分の増加が1%を越えない範囲まで脱水する脱水工程とを具備し、処理する米に応じ、全工程が第1層澱粉複粒体列より下に水が侵入しない短時間でなされることを特徴とする無洗米の製造方法。」(1ページ左欄4ないし11行)
6b)「本発明は、米研ぎすることなく直ちに炊飯をすることかてき、しかも貯蔵性がよく簡易に製造できる無洗米の製造方法および製造装置に関する。」(3ページ左上欄11ないし13行)
6c)「ところで、普通市販の昭和63年ササニシキ、白度39で水分14.6%のものを後で説明する本発明の実施例の装置と同様のもので処理してみた。」(5ページ右下欄5ないし8行)
6d)「その結果、水分は15.8%に上昇し、白度は46度を示していた。」(5ページ右下欄14ないし15行)
これらの記載事項を総合すると、甲第6号証には、以下の甲6発明が記載されていると認められる。
「精白米粒において、水を加え混合して攪拌する洗滌行程と、水洗した米穀粒の脱水行程とを具備した無洗米の製造装置で製造した無洗米。」
(7)甲第7号証
本件出願の出願前に頒布された甲第7号証には、図面と共に以下の事項が記載又は示されている。
7a)「【要約】
【課題】 脂質その他の栄養分を消失することなく、白米と同様のうまさや粘りを保つ。
【解決手段】玄米に混入した異物を除去する粗選工程、次いで精米機を用いて、玄米の表面に傷を付けて果皮の表皮層と中果皮層をはがれやすくする研削工程を実行してから、米と米とを擦り合わせて果皮の表皮層と中果皮層を取り除き、横細胞層と管細胞層を残すとともに、胚芽部を残す摩擦工程を実行する粗精米工程を行う。その後、その粗精米工程後の米の中から、異物や割れ米を取り除き、良品に仕上げる精選工程、次に粗精米工程後の米の中の、ガラス・石・虫が食べた米を取り除くガラス選工程、最後に任意の重量ごとにパッキングする包装工程を行う。これにより、果皮の表皮層と中果皮層を取り除き、横細胞層と管細胞層を残すとともに、胚芽部を残す米を得る。」
7b)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、白米と同程度のうまみと粘りがあり、また胚芽米を越え玄米に近い栄養分を有する米、またはそのような米の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、玄米から『白米』にするときは、精米機を用いて、研削と摩擦の2工程で構成される2連座、研削と第1の摩擦と第2の摩擦の3工程で構成される3連座、または研削と第1の摩擦と第2の摩擦と第3の摩擦の4工程で構成される4連座による精米を行い、果皮と表皮のすべてを取り除くとともに、胚芽部も除去していた。
【0003】なお、ここで連座数を多くするのは、米粒間の摩擦熱を少なくするためであり、また徐々に取り除く量を多くして米の表面をきれいに仕上げるためである。取り除く量は米粒の約9~10重量%であり、仕上がった米の白度は玄米白度+19~20%であった。
【0003】『胚芽米』にするときは、第1の摩擦と第2の摩擦の2工程を数回繰り返して胚芽米精米を行い、精米と同様に果皮と表皮のすべてを取り除くが、胚芽部は70~80%残していた。取り除く量は米粒の約8重量%であり、仕上がった米の白度は玄米白度+15%位であった。」
7c)「【0020】『粗精米工程』では、精米機を用いて、研削と摩擦の2工程、または研削1工程と摩擦2工程の計3工程を実行し、研削で、求める白度の80%を仕上げ、摩擦で残りの20%を仕上げる。全取り除き量は、米粒の3重量%とする。」
7d)「【0026】なお、研がずに炊ける無洗米とするときは、『精選工程』を行った後に、米をあらかじめ洗う『無洗化処理工程』を行う。『無洗化処理工程』には、水によって米の表面をきれいに仕上げる、いわゆる湿式方式と、糠によって米の表面をきれいに仕上げる、いわゆるBG方式がある。
【0027】さて、以上により製造した米は、果皮20の硬い殻である表皮層22および中果皮層24を取り除くから、炊飯時の水浸透性がよく、白米と同程度の米のうまさや粘りを保つことができる。
【0028】また、果皮20の横細胞層26と管細胞層28を残すとともに、胚芽部14を残すから、以下の表1に示すように、脂質、無機質、ビタミン、ナイアシンなど、白米や胚芽米より多くの栄養分を残すことができる。」
7e)「【0032】
【発明の効果】以上説明したとおり、この発明によれば、果皮の硬い殻である表皮層および中果皮層を取り除くから、炊飯時の水浸透性がよく、水の浸積時間を長くしたり水の量を多くしたりすることなく、また果皮の硬さで食味が落ちたりすることなく、白米と同程度の米のうまさや粘りを保つことができる。
【0033】また、果皮の横細胞層と管細胞層を残すとともに、胚芽部を残すから、脂質、無機質、ビタミン、ナイアシンなど、白米や胚芽米より多くの栄養分を残すことができる。食物繊維も多く、便秘予防のみならず、有機物質を排除することもできる。
【0034】請求項4に係る発明によれば、精選を行って後に、米をあらかじめ洗う無洗化処理を行うから、米を洗う手間なく、また研ぎ汁を出さず、米を炊いて食することができる。」
7f)図2には外から順に、果皮(表皮層、中果皮層、横細胞層、管細胞層)、表皮(種皮層、外胚乳層、糊粉層)により玄米ゾーンが構成され、該玄米ゾーンの内側は、前記糊粉層に接して、一段深層に位置するデンプン層、更に深層の貯蔵細胞層により構成された玄米粒が示されている。
7g)【0020】の記載事項である、「『粗精米行程』では、精米機を用いて、」「研削1工程と摩擦2工程の計3工程を実行」することは、計3工程の全粗精米行程のうち終末寄りに摩擦2工程を行うことであるから、「全粗精米行程の終末寄りから3分の2の行程に摩擦工程を用い」ることと理解できる。
これらの事項を総合すると、甲第7号証には、以下の甲7発明が記載されていると認められる。
「外から順に、果皮(表皮層、中果皮層、横細胞層、管細胞層)、表皮(種皮層、外胚乳層、糊粉層)により玄米ゾーンが構成され、該玄米ゾーンの内側は、前記糊粉層に接して、一段深層に位置するデンプン層、更に深層の貯蔵細胞層により構成された玄米粒において、前記玄米粒を構成する果皮の中で、玄米の表面に傷を付けて果皮の表皮層と中果皮層をはがれやすくする研削工程を実行してから、果皮の表皮層と中果皮層を取り除き、横細胞層と管細胞層を残すとともに、胚芽部を残す摩擦工程を実行する粗精米行程を、精米機を用いて研削1工程と摩擦2工程の計3工程を行い、更に無洗化処理行程を行う栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって、全粗精米行程の終末寄りから3分の2の行程に摩擦工程を用い、及び、無洗化処理工程を行う装置を備えた無洗米の製造装置で製造した無洗米。」
2 無効理由について
(1)無効理由1(方法的記載)
ア 取消判決において、「請求項1における「摩擦式精米機により搗精され」という記載は,本件発明に係る無洗米の前段階である,玄米粒の表層部から糊粉細胞層までが除去され,亜糊粉細胞層が米粒の表面に露出しており,米粒の50%以上に「胚芽の表面部を削りとられた胚芽」又は「胚盤」が残っている米の製造方法を記載したものと解するのが相当である。また,請求項1における「無洗米機(21)にて」とは,上記無洗米の前段階である米から,糊粉細胞層の中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している「肌ヌカ」のみが分離除去された,本件発明に係る無洗米を製造する方法を記載したものと解するのが相当である。
以上のような特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載によれば,請求項1は全体として,物の発明である「無洗米」を特定する事項の一部に製造方法が記載されているということができる。」、
「以上のような特許請求の範囲及び本件明細書の記載によれば,本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の「摩擦式精米機により搗精され」という記載は,本件発明に係る無洗米の前段階である前記ウ(a)(b)の構造又は特性を有する精白米を製造する際に摩擦式精米機を用いることを意味するものであり,「無洗米機(21)にて」という記載は,上記精白米から前記ウ(c)の構造又は特性を有する無洗米を製造する際に無洗米機を用いることを意味するものであって,前記ウ(a)ないし(c)のほかに本件発明に係る無洗米の構造又は特性を表すものではないと解するのが相当である。そして,本件発明に係る無洗米とは,玄米粒の表層部から糊粉細胞層までが除去され,亜糊粉細胞層が米粒の表面に露出し,米粒の50%以上に「胚芽の表面部を削りとられた胚芽」又は「胚盤」が残っており,糊粉細胞層の中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している「肌ヌカ」が分離除去された米であるといえる。
そうすると,請求項1に「摩擦式精米機により搗精され」及び「無洗米機(21)にて」という製造方法が記載されているとしても,本件発明に係る無洗米のどのような構造又は特性を表しているのかは,特許請求の範囲及び本件明細書の記載から一義的に明らかである。よって,請求項1の上記記載が明確性要件に違反するということはできない。」と判断された。
この判断は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、本件無効審判事件について当合議体を拘束する。
したがって、本件訂正による請求項1の記載は、「無洗米」の発明でありながらその物の製造方法が記載されていることを理由に明確性要件に違反するとはいえない。
イ まとめ
以上のとおりであるから、無効理由1により、特許請求の範囲の請求項1の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
よって、特許発明1に係る特許は、無効理由1により無効とされるべきものではない。
(2)無効理由2(著しく不明確な記載)
請求人が著しく不明確な記載を含んでいると主張する具体的箇所を以下に検討する。
ア 請求項1の「食味上もよくない黄茶色の物質の層」なる記載は、本件特許明細書の「【0014】・・表皮1、果皮2、種皮3、糊粉細胞層4(これは数段堆積している個所もある)までの層は、澱粉を含まないし、食味上もよくない黄茶色の物質である。」という記載も参酌すれば、請求項1の「表皮(1)、果皮(2)、種皮(3)、糊粉細胞層(4)」のことを意味していることが理解できるから、当該記載により特許発明1が不明確になるものではない。
イ 本件訂正により、請求項1の「亜糊粉細胞層(5)を外面に残して、該一層の、マルトオリゴ糖類や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ、」なる記載は、請求項1の「該一層の、マルトオリゴ糖類や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)が米粒の表面に露出しており、」と訂正された。訂正後の上記記載は、マルトオリゴ糖類や食物繊維や蛋白質を含有する一層の亜糊粉細胞層が、米粒の表面にむき出しになる状態を意味すると解せられるから、その記載内容自体が明確でないとはいえず、特許発明1が不明確になるものではない。
ウ 本件訂正により、請求項1の「搗精後の米粒の50%以上に『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』または『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り、残された基底部である胚盤(9)』を残し、」なる記載は、「米粒の50%以上に『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』または『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部が削り取られた基底部である胚盤(9)』が残っており、」と訂正された。訂正後の上記記載は、本件特許明細書の「【0041】・・また全米粒のうち、胚盤9または表面部が除去された胚芽8が残存した米粒の合計数が50%以上を占めているのである。」との記載も参酌すれば、1粒の米粒に係るものではなく、複数の米粒の半数以上に胚芽の表面部を削りとられた胚芽又は舌触りの良くない胚芽の表層部や突出部が削り取られた基底部である胚盤が残っている状態を意味すると解せられるから、その記載内容自体が明確でないとはいえず、特許発明1が不明確になるものではない。
エ まとめ
以上のとおりであるから、無効理由2により、特許請求の範囲の請求項1の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
よって、特許発明1に係る特許は、無効理由2により無効とされるべきものではない。
(3)無効理由3(進歩性欠如)
ア 特許発明1について
特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「糊粉層」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、特許発明1の「糊粉細胞層」に相当し、以下同様に、「ぬか層」は「表層部」に、「亜糊粉層」は「亜糊粉細胞層」に、「デンプン貯蔵組織」は「澱粉細胞層」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「外から順に、表皮を含む果皮、種皮、糊粉層と、によりぬか層が構成され、」と、特許発明1の「外から順に、表皮(1)、果皮(2)、種皮(3)、糊粉細胞層(4)と、澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され、」とは、「外から順に、表皮、果皮、種皮、糊粉細胞層と、表層部が構成され、」
という限りにおいて一致し、
甲1発明の「糊粉層と亜糊粉層の間ははがれやすいので、この性質を利用して精米を行い糊粉層、種皮、果皮をぬかとしてはぎとった、亜糊粉層とデンプン貯蔵組織の白米」と、特許発明1の「前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で、摩擦式精米機により搗精され、表層部から糊粉細胞層(4)までが除去された、該一層の、マルトオリゴ糖類や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)が米粒の表面に露出しており、且つ米粒の50%以上に『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』または『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部が削り取られた基底部である胚盤(9)』が残っており、更に無洗米機(21)にて、前記糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ、その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している『肌ヌカ』のみが分離除去されてなる」「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米」とは、「搗精された米」という限りにおいて一致する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
[一致点]
「外から順に、表皮、果皮、種皮、糊粉細胞層と、表層部が構成され、該表層部の内側は、前記糊粉細胞層に接して、一段深層に位置する亜糊粉細胞層と、該亜糊粉細胞層の更に深層の、澱粉細胞層により構成された玄米粒において、搗精された米。」である点において一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
玄米粒に関し、特許発明1では、「澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され、」「薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と、」「純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒」であるのに対して、甲1発明では、「ぬか層」、「亜糊粉層」及び「デンプン貯蔵組織」について、そのような特定がなされていない点。
[相違点2]
搗精された米に関し、特許発明1では、「前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で、摩擦式精米機により搗精され、表層部から糊粉細胞層(4)までが除去された、該一層の、マルトオリゴ糖類や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)が米粒の表面に露出しており、且つ米粒の50%以上に『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』または『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部が削り取られた基底部である胚盤(9)』が残っており、更に無洗米機(21)にて、前記糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ、その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している『肌ヌカ』のみが分離除去されてなる」「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米」であるのに対して、甲1発明では、「糊粉層と亜糊粉層の間ははがれやすいので、この性質を利用して精米を行い糊粉層、種皮、果皮をぬかとしてはぎとった、亜糊粉層とデンプン貯蔵組織の白米」である点。
上記相違点について検討する。
[相違点1について]
玄米に係る一般常識からして、上記相違点1に係る特許発明1の特定事項は、特別な玄米を特定するものではなく、一般的な玄米が満たす事項であるといえる。そして、甲第1号証の記載からすると、甲1発明に係る玄米は一般的なものであり、特別な玄米ではないと解するのが合理的といえる。そうすると、一般的な玄米に係る甲1発明において、上記相違点1は実質的な相違点とはいえない。
[相違点2について]
甲1発明の「糊粉層と亜糊粉層の間ははがれやすいので、この性質を利用して精米を行い糊粉層、種皮、果皮をぬかとしてはぎとった、亜糊粉層とデンプン貯蔵組織の白米」は、玄米粒から糊粉層、種皮、果皮をぬかとしてはぎとったものではあるが、特許発明1の(a)表層部から糊粉細胞層(4)までが除去された、該一層の、マルトオリゴ糖類や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)が米粒の表面に露出しており、(b)米粒の50%以上に『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』または『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部が削り取られた基底部である胚盤(9)』が残っており、(c)糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ、その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に付着している『肌ヌカ』のみが分離除去されてなる、という構造又は特性を有するとまではいえない。
そして、上記(a)ないし(c)の構造又は特性を有することは、甲1発明のみならず、上記甲2発明ないし甲7発明のいずれにも開示や示唆がされていない。
なお、上記(b)に関し、甲2、甲4及び甲7には、特定の胚芽の状態にすることについて記載されている。
しかし、甲2に係る甲2発明における「胚芽の根の部分のみが米粒に残った状態」が、特許発明1における「『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』または『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部が削り取られた基底部である胚盤(9)』が残って」いる状態に相当するか明らかでないとともに、亜糊粉細胞層が米粒の表面に露出した状態となし得るかも明らかでない。
また、甲4に係る甲4発明における「胚芽付き搗精米」は、糊粉層が残存する搗精米であり、甲7に係る甲7発明における「無洗米」は、果皮の一部である横細胞層と管細胞層、種皮及び糊粉層を残す精米であるから、亜糊粉細胞層が米粒の表面に露出した状態となし得るかは明らかでない。
よって、これらを甲1発明に適用しても、上記(a)ないし(c)の構造又は特性を有するものが得られるとはいえない。
そうすると、甲1発明及び甲2発明ないし甲7発明に基いて上記相違点2に係る特許発明1とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
イ まとめ
以上のとおりであるから、無効理由3に係る理由について、特許発明1は甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。
よって、特許発明1に係る特許は、無効理由3により無効とされるべきものではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、無効理由1ないし無効理由3によっては特許発明1に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
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2015-800173