特許拒絶査定不服審判
2015-022264
代替フッ化ホウ素前駆体を使用するホウ素イオン注入および注入のための大きな水素化ホウ素の形成
- 審判番号
- 2015-022264
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-000137外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年12月17日
- 審決日
- 2017年09月20日
- 公報発行日
- 2017年11月24日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】インテグリス・インコーポレーテッド
- 【請求人代理人】鮫島 睦
- 【請求人代理人】玄番 佐奈恵
- 分類
- P18 .121-WY (H01L) / P18 .537-WY (H01L) / P18 .538-WY (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014- 137「代替フッ化ホウ素前駆体を使用するホウ素イオン注入および注入のための大きな水素化ホウ素の形成」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月 3日出願公開,特開2014- 60461,請求項の数(3)〕について,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は,特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は,2006年8月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年8月30日,アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願(特願2008-529239号)の一部を平成26年1月6日に新たな特許出願としたものであって,平成26年1月6日に手続補正書が提出され,平成27年1月13日付けで拒絶理由通知がされ,同年7月17日に意見書と手続補正書が提出され,同年8月13日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,同年12月17日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され,平成29年3月30日付けで当審から拒絶理由(当審拒絶理由)を通知し,同年6月29日に手続補正書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は,平成29年6月29日に提出された手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1ないし本願発明3は以下のとおりである。
「【請求項1】
B2F4から成るホウ素含有前駆体をイオン化条件にてイオン化すること,および引き出し電極を使用してホウ素含有イオンのコリメートされたイオンビームを生成すること,ならびに
ホウ素含有イオンのコリメートされたイオンビームを電場により加速してホウ素含有イオンをマイクロ電子デバイスの基体に注入すること
を含む,ホウ素含有イオンを注入する方法。
【請求項2】
B2F4のみをガスボックス中の供給容器からイオン注入ツールに供給すること;
前記B2F4を前記イオン注入ツールにおいてイオン化して,ホウ素含有イオンを生成すること;
前記イオン注入ツールの引き出し電極を作動させて,前記ホウ素含有イオンを,コリメートされたイオンビームとして開口部を通過させること;
コリメートされたイオンビームを電場により加速して,ホウ素含有イオンをマイクロ電子デバイス用の基体に注入すること
を含む,マイクロ電子デバイスの製造においてホウ素含有イオンを注入する方法。
【請求項3】
前記イオン化を90ボルトより低いアーク電圧にて行うことをさらに含む,請求項2に記載の方法。」
第3 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(国際公開2005/20306号)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審付与。以下同様。)
・「発明を実施するための最良の形態
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
FIG.1は,本発明の一実施例で用いた装置100を示す。装置100は,高周波電源1,マッチングボックス2,コイル及びアンテナ3,マスフローコントローラ(MFC)4及び5,ターボ分子ポンプ6,コンダクタンスバルブ7,ドライポンプ8,サークレータ9,電源10,マッチングボックス11,高周波電源12及び下部電極14を有する。被処理物としてのシリコン基板13は下部電極14上に置かれる。
電源10は,バイアス電源を印加するものである。周波数が600kHzの交流電源を用いた。本明細書でプラズマドーピングに関して加速電圧を数値で記述したものは,Vdcである。Vdcは,交流で印加されたバイアス電圧の平均の値である。バイアス電圧のピークとピークの差はVdcの2倍程度である。
なお,以降の説明において,被処理物は半導体基板の1つであるシリコン基板を例として説明する。しかし,化合物半導体基板,歪みシリコン基板,SOI基板など他の固体基体も本発明の被処理物に相当することを理解されたい。
FIG.1は,シリコン基板13をプロセスチャンバー15内に搬送した後,下部電極14上に設置した状態を示す。プロセスチャンバー15にはプラズマ照射アモルファス化用ガスの導入管16とジボランガスの導入管17を別々に配設した。なお,プラズマ照射アモルファス化とはプラズマを固体基体であるたとえばシリコン基板の一主面に照射してシリコン基板13の表面をアモルファス化させる工程である。なお,以降の説明又は図面において「プラズマ照射アモルファス化」なる語句を用いるが,アモルファス化を行うにはプラズマ照射に限定されない。たとえば,Ge,Siのイオン化したものをイオン注入してアモルファス化しても良い。
また,プラズマ照射アモルファス化に用いるプラズマは,ヘリウムやネオン,アルゴン,キセノンなどの希ガスプラズマや水素プラズマ,或いはそれらを混合したガスのプラズマを用いる。或いは,ゲルマニウム(Ge),シリコン(Si)を含むプラズマを照射しても良い。ジボランガスは,プラズマ化されてB2H6プラズマドーピングするために用いられたり,ガスのままプロセスチャンバー15に導入されてガスドーピングに用いられたりする。ジボランガスの代わりに,B4H10,B5H9,B5H11,B6H10,B10H14などのボロンを含む水素化合物のガスを用いても良い。ボロンを含む水素化合物のガスは,プラズマ照射中に削るSiのエッチングレートが小さいので,シリコン基板をほとんど削らずにプロセスができるのでより望ましい。或いは,BF3,B2F4などのボロンを含むフッ化物のガスを用いても良い。B2Cl4,BCl3などのボロンを含む塩化物のガスを用いても良い。また,固体をプラズマ化して用いる場合には,BI3,BBr3,B2O3,B2S3,BNを用いても良い。
プロセスチャンバー15に導入するガス流量はマスフローコントローラ4,5で別々に制御できる構成としている。さらに,FIG.1には図示しないが,ジボランガスの希釈割合を変化させるために,希釈用ガスの導入管とマスフローコントローラもプロセスチャンバー15の周囲に設置されている。なお希釈ガスとしては,ヘリウムガスを用いた。
FIG.2は,本発明の一実施の形態を説明するためのプロセスフローの概要図である。シリコン基板13を下部電極14上に設置した後,ジボランガスプラズマによるB2H6プラズマドーピングS23を行う。ジボラン(B2H6)ガスはヘリウム(He)ガスで希釈したものを用いた。なお,以降の説明において記述を簡易にするために「B2H6プラズマドーピングS23」は単に「プラズマドーピングS23」と記す。
さて,プラズマドーピング23は,イオンモードS23aとガス・ラジカルモードS23bの2種類のモードで行った。イオンモードS23aによるプラズマドーピングS23とは,主にプラズマ中のイオンがシリコン基板13に打ち込まれる不純物の導入方法である。
一方,ガス・ラジカルモードS23bによるプラズマドーピングS23は,主にプラズマ中のガスとラジカルをイオンと共にシリコン基板13に導入し,或いはシリコン基板13の一主面に付着,堆積させる不純物の導入方法である。」(第8ページ第22行ないし第10ページ第21行)
・「FIG.21は実施例8のプロセスフローを示す。実施例8では,不純物導入は低エネルギーイオン注入,ガスドーピングから選ばれる方法を用いても良い。不純物導入の前にプラズマ照射アモルファス化S22を行う。低エネルギーイオン注入の場合には,プラズマ照射アモルファス化S22を行うことでチャネリング効果を低減でき,ボロンをより浅く導入できるので望ましい。
ガスドーピングの場合には,プラズマ照射アモルファス化S22を行うことでガスに含まれるボロンがシリコン基板31の内部に浸透しやすくなるので望ましい。なお,ガスドーピングとは,プロセスチャンバー15内でシリコン基板13(31)にプラズマ照射アモルファス化S22を行った後,プラズマ照射を止め,その後,ジボランなどのボロンを含むガスをプロセスチャンバー15の内部に導入する不純物導入方法である。
アモルファス層にガスが浸透することを利用するものであり,非常に低エネルギーの不純物導入が可能となる。
FIG.21を参照すると,シリコン基板31を用意した後(S31),レジストパターニングS27を行い,その後,プラズマ照射アモルファス化S22を行って,開口部32から露出しているシリコン基板31の一主面をアモルファス化する。こうした一連の処理は他の実施例とほぼ同じである。その後,低エネルギーイオン注入,ガスドーピングから選ばれる方法を用いてシリコン基板31に不純物を導入する。
そして,不純物導入後に酸化膜29を形成する工程を有する。酸化膜29を形成する工程の後に,レジスト除去,洗浄S32から選ばれる1つ,或いは複数の工程を行うものとする。なお,酸化膜形成S29はレジスト除去,洗浄S30から選ばれる1つ,或いは複数の工程と同時に行っても良い。その後,熱処理S26を行う。このような一連の処理を施すことで,低エネルギーで導入したボロンのドーズロスを低減することができる。
(同様の効果を得る方法,事例)
全ての実施の形態でプラズマドーピングの前のアモルファス化S22は,前にも述べたがプラズマを照射する代わりにイオン注入で行っても良い。例えば,Ge,Siのイオンをイオン注入してアモルファス化しても良い。或いは,希ガスのイオンをイオン注入しても良い。さらには,イオンシャワーを用いても同様の効果を期待できる。イオンシャワーでは,プラズマ発生室とメッシュとシリコン基板を載置する台を有する装置を用いる。メッシュは,プラズマとシリコン基板の間に配置され,メッシュに所望の電位を印加できる。この方法によれば,所定の電位としたメッシュを介してプラズマをシリコン基板表面に照射することにより,イオンシャワーと呼ばれるいわゆる分散したイオン照射がなされ,効率よくアモルファス化を実現することができる。この方法ではイオンの質量分離を行わないので,シリコン基板表面に照射されるイオンビーム電流量は,プラズマに直接曝すプラズマドーピングに比べれば小さいが,イオン注入と比較すると桁違いに大きい。そのため,比較的原子量の小さい軽元素でも効率良くアモルファス化できる。例えばヘリウムや水素などの最も原子量の小さい元素でもアモルファス化できる可能性が期待できる。
また,FIG.7,FIG.8,FIG.9A,FIG.9B,FIG.16,FIG.17A,FIG.17B,FIG.22A及びFIG.22Bではアニール(熱処理)はハロゲンランプで1100℃,3分間のアニールを行った結果を示したが,1075℃のspikeRTAを用いてもドーズロスの割合に関しては1100℃,3分間のアニールと同様の結果を得た。
また,全ての実施例でイオンモードS23aのプラズマドーピングS23は,イオンシャワーと置き換えても同様の効果を得る。ここでのイオンシャワーは,前記アモルファス化に用いるものと基本的に同様のもので,プラズマに所望の不純物粒子を含ませておくことが異なる。つまり,ボロンなどの所望の不純物を含むプラズマを,メッシュを介して,シリコン基板表面に導き所望の粒子を含むイオンを照射する方法である。イオンの質量分離を行わないので,固体基体に照射される所望の粒子を含むイオンビーム電流量は,プラズマに直接曝すプラズマドーピングに比べれば小さいが,イオン注入と比較すると桁違いに大きいので,効率良く不純物の導入ができる。イオンシャワーの不純物導入の原理から,主に低エネルギーのイオンが主体として導入されるイオンモードS23aのプラズマドーピングS23と同様の効果を得ることが期待できる。
低エネルギーイオン注入は,ガスクラスターイオンビーム,分子イオンビームによるイオン注入も含む。ガスクラスターイオンビームによるイオン注入とは,例えばアルゴンガスとB2H6ガスの混合ガスから,アルゴンとボロンが緩やかに結合した質量の大きなガスクラスターをつくり,それをイオン化して電磁場によって加速,輸送し,シリコン基板に照射するものである。ガスクラスターは,シリコン基板の表面で緩やかな結合が解けてばらばらになり,加速エネルギーはガスクラスターの各分子に配分される。
よって,実際上,1つのボロンの加速エネルギーは非常に小さくなる。例えば,アルゴンをn個とボロンをm個含むガスクラスターを用いて,一価にイオン化し,10kVの電圧で加速した場合,1個のボロンが有する加速エネルギーは10/(n+m)keVとなる。例えばn=100,m=2となるようにガスクラスターをつくった場合には,1個のボロンが有する加速エネルギーは約100eV相当の低エネルギーとなる。分子イオンビームによるイオン注入とは,例えばデカボリンのイオンであるB10Hx+を加速する。この場合もシリコン基板表面で分子がばらばらになるので,1つのボロン当たりの加速エネルギーは小さくなる。例えば,加速電圧を5kVとすると1つのボロンは約500eVの低エネルギーで注入されたことに相当する。
このように,ガスクラスターイオンビーム,分子イオンビームによるイオン注入は,クラスターイオンや分子イオンに与えるエネルギーはkV以上と比較的高いが,ボロンなどの所望の粒子が有する実効的なエネルギーは小さいので,浅い注入となる。これらを用いて,粒子を導入後,熱処理を施す前の,粒子の原子濃度が1E18atoms/cm3となる深さが15nm以下,特に10nm以下になるような低エネルギーで導入した場合には,ドリフトモードのボロンの場合と同様に本発明で記載した課題が発現し,本実施例により解決できることが容易に推測できる。」(第34ページ第1行ないし第36ページ第27行)
したがって,上記引用文献1には,次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「高周波電源1,マッチングボックス2,コイル及びアンテナ3,マスフローコントローラ(MFC)4及び5,ターボ分子ポンプ6,コンダクタンスバルブ7,ドライポンプ8,サークレータ9,電源10,マッチングボックス11,高周波電源12及び下部電極14を有する装置100を用いて,下部電極14上に置かれたシリコン基板13に,ジボランガスを,プラズマ化してB2H6プラズマドーピングする方法。」
2 引用文献2について
また,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開平6-204160号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
価電子制御可能な元素と前記価電子制御可能な元素と同程度かあるいはそれ以下のイオン注入飛程を有する元素とからなる少なくとも2種類以上の元素で構成されている不純物ガスをプラズマ状に分解し,生成したイオン種を不純物源として前記イオン種を電場により加速し,試料に不純物を添加して前記試料上に不純物層を形成することを特徴とする不純物添加法。
【請求項2】
前記不純物ガスとして,弗素との化合物ガスを用いることを特徴とする請求項1記載の不純物添加法。」
・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,非質量分離で不純物イオンを試料に添加し,任意の不純物層を形成する不純物添加法に関する。」
・「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,この不純物添加法では水素化物系不純物ガスを不純物源として非質量分離で不純物添加が行われるため,目的とした不純物以外の不純物,すなわち水素まで添加されることになってしまう。
【0006】
図4に示すような試料にPH3 やB2 H6 を不純物ガスとして用いた非質量分離型イオン注入法で不純物添加を行いn層あるいはp層7cを形成する場合,そのプラズマ中で生成したH関連イオン(HX=1-3 + ,HX=1-6 + )6e,6hは,同一イオン加速条件下ではP関連イオン(PHX=0-3 + )6dや,B関連イオン(BHX=0-6 + ,B2 HX=0-6 + )6f,6g等の不純物イオンに対して数倍から十数倍の大きさのイオン注入飛程を有するため,同一イオン加速条件下では目的とした不純物よりも深く試料に侵入してしまう。このためH関連イオン6e,6hは,不純物添加時のマスクとして用いられる保護絶縁膜5を貫通してしまい,図4に示すような試料にダメージを与え,試料の特性を劣化させてしまうという問題があった。この問題を回避するためには,(1)マスク膜厚を厚くする,(2)加速エネルギーを低くする等の手段をこうじなければならず,(1)の場合ではスループットの低下,(2)の場合では水素の飛程に制限された不純物分布しか得られない,試料の最適作成条件を再検討しなければならない等の問題があった。 本発明の目的は,前述した問題点を解決し,高スループットでしかも低コストである不純物添加法を提供することにある。」
・「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の不純物添加法は,価電子制御可能な元素と前記価電子制御可能な元素と同程度かあるいはそれ以下のイオン注入飛程を有する元素とからなる少なくとも2種類以上の元素で構成されている不純物ガスをプラズマ状に分解し,生成したイオン種を不純物源として前記イオン種を電場により加速し,試料に不純物を添加して前記試料上に不純物層を形成することを特徴とする。
【0008】
【作用】価電子制御可能な元素と,前記価電子制御可能な元素と同程度かあるいはそれ以下のイオン注入飛程を有する元素とからなる少なくとも2種類以上の元素で構成されている不純物ガスをプラズマ状に分解し,生成したイオン種を不純物源として前記イオン種を電場により加速し試料に不純物を添加することによって,生成した全てのイオン種は目的としている不純物の飛程と同程度かあるいはそれ以下であるため,目的としている不純物以外の不純物が不純物添加時に使用するマスクを貫通することを回避でき,試料にダメージを与えることを阻止できるようになる。従って,マスク膜厚の変更をする必要はなく,さらに目的としている不純物の飛程を基準に不純物分布を設定できるため,不純物添加条件等の試料の作製条件を変更する必要がなくなる。このため,工程の変更による手間を省くことができ,高スループットでしかも低コストの不純物添加を行うことが可能となる。」
・「【0013】図3は請求項1と請求項2記載の不純物添加法による別の実施例を示したものである。図3に示すような試料は次のような工程を経て作製される。n型単結晶シリコン基板8上に酸化シリコンあるいは窒化シリコン等の絶縁層3を100nmの厚さで形成する。そして絶縁層3上に,AlやCr等の金属あるいはそのシリサイドからなるゲート電極2を300nmの厚さで形成する。このゲート電極は,不純物添加時にそのマスクとしても用いられる。
【0014】前述の状態まで作製された試料は,この後請求項1と請求項2記載の不純物添加法によってソース/ドレイン領域9に不純物を絶縁膜越しに添加し,任意の不純物層を絶縁層3の下部に形成する。不純物添加は3価の不純物ガスとして弗化物系不純物ガスであるBとFの化合物の3弗化ボロン(BF3 )を用い,13.56MHzの高周波電場によりプラズマ分解し,プラズマ中に生成したB関連イオン(BFX=0-3 + )6cやF関連イオン(FX=0-3 + )6bを非質量分離で電場により60keVの加速エネルギーで前述の試料に不純物添加してp型単結晶シリコン層(p層)9を形成する。LSS理論によるこの加速エネルギーでのAl電極に対するBおよびFの飛程はそれぞれ195.2nmと110.4nmであり,Cr電極に対してはそれよりも小さな値をとる。前述のようにBの方がFの飛程よりも大きいため,Bを阻止できる電極膜厚ならばFも十分に阻止できる。従来の水素化物系不純物ガスのB2 H6 を用いた場合では,HのAlに対するLSS理論による飛程は前述の条件で1077.9nmであり,このHを阻止しようとする場合,Al電極の厚さを5倍近く厚くしなくてはならずスループットという点で問題があった。しかし,請求項1記載の不純物添加法により前述の問題は解決され,スループットを損なうこと無く,また試料の作製条件も大幅に変更することなく所定の不純物添加処理が可能となり,その結果,飛躍的なスループットの向上をはかることができる。
【0015】一方,前述のB関連イオン6cの一つであるBF2 イオンをイオン注入して半導体素子上にp型の不純物層を形成する半導体素子の製造方法として,特開昭63-155720号公報「半導体装置の製造方法」に記載の内容が知られている。前記公報の内容は,第1イオンのイオン注入により半導体素子上に非晶質層を形成した後,第2のイオンを第1のイオン注入により形成された非晶質層の深さよりも浅くイオン注入し,熱処理により第2のイオン注入により導入した不純物を拡散させ,不純物層の深さを前記非晶質層の深さよりもやや深くすることを最も特徴としている。ここで用いられているBF2 イオンは低エネルギーのBイオンを得るためのものであり,浅い接合を実現することを目的とした従来の質量分離型イオン注入法である。従って,本発明で特徴とする非質量分離型イオン注入法における価電子制御可能な不純物元素よりも数倍以上の大きいイオン注入飛程を有した元素イオンの影響を,価電子制御可能な不純物元素のイオン注入飛程と同程度かあるいはそれ以下の元素イオンと置き換えることにより排除しようとする本発明の目的とは根本的に異なっている。」
・「【0016】図3の実施例では3価の不純物ガスとして弗化物系不純物ガスのBF3 を用いたが,4弗化ボロン(B2 F4 )を用いても同様である。他に塩化物系不純物ガスとして3塩化ボロン(BCl3 ),4塩化ボロン(B2 Cl4 )もまた使用可能である。またインジウム(In)とClの化合物の塩化インジウム(InCl),2塩化インジウム(InCl2 ),3塩化インジウム(InCl3 )を用いても同様の効果を得ることができる。さらにFとClと目的とする不純物とから構成されている混合ハロゲン化物系不純物ガスもまた使用可能である。この場合,3価の混合ハロゲン化物系不純物ガスとして2弗化1塩化ボロン(BClF2 ),1弗化2塩化ボロン(BCl2 F)等が使用できる。」
・「【0017】
【発明の効果】本発明により,非質量分離で不純物添加を行う不純物添加法において同一のイオン加速エネルギー条件でも,目的としている不純物以外の不純物も同様にその不純物分布を制御でき,従来,水素化物系不純物ガスを用いていた場合に問題となっていたHの大きい飛程により生じる問題を回避するためのマスク膜厚の変更や注入条件の変更といった工程上の変更をする必要がなくなり,試料の特性を損なうことなく高スループットと低コストを実現しながら試料に不純物添加を行うことが可能となる。さらに,水素化非晶質シリコンを半導体領域として用いているTFTにおいて,弗素物系不純物ガスを不純物源として用い,半導体領域に不純物添加を行った場合,前述の半導体領域においてシリコンの未結合手を終端しているHがFにとって代わったような場合では,Si-F結合はSi-H結合よりもその結合エネルギーが大きいため熱的に安定となり,Hの場合よりも試料の高信頼化が期待できる。」
・図3には,引用文献2に記載された発明の,別の実施例を示す断面図が図示されている。
したがって,上記引用文献2には,引用文献2の図3に示された,引用文献2の請求項1と請求項2記載の不純物添加法に係る実施例である次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「価電子制御可能な元素と前記価電子制御可能な元素と同程度かあるいはそれ以下のイオン注入飛程を有する元素とからなる少なくとも2種類以上の元素で構成されている不純物ガスをプラズマ状に分解し,生成したイオン種を不純物源として前記イオン種を電場により加速し,試料に不純物を添加して前記試料上に不純物層を形成することを特徴とする不純物添加法であって,
前記試料は,n型単結晶シリコン基板上に酸化シリコンあるいは窒化シリコン等の絶縁層を100nmの厚さで形成し,前記絶縁層上に,AlやCr等の金属あるいはそのシリサイドからなる,後のソース/ドレイン領域への不純物添加時にそのマスクとしても用いられるゲート電極を300nmの厚さで形成したものであり,
前記不純物ガスは,BとFの化合物の3弗化ボロン(BF3 )である,不純物添加法。」
第4 対比・判断
・引用文献1を主引例とした検討
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると,次のことがいえる。
ア 引用発明1の「シリコン基板13」と,本願発明1の「マイクロ電子デバイスの基体」とは,「基体」である点で一致する。
イ 引用文献1には,上記第3 1で示したように,「プラズマドーピング23は,イオンモードS23aとガス・ラジカルモードS23bの2種類のモードで行った。イオンモードS23aによるプラズマドーピングS23とは,主にプラズマ中のイオンがシリコン基板13に打ち込まれる不純物の導入方法である。一方,ガス・ラジカルモードS23bによるプラズマドーピングS23は,主にプラズマ中のガスとラジカルをイオンと共にシリコン基板13に導入し,或いはシリコン基板13の一主面に付着,堆積させる不純物の導入方法である。」と記載されている。
そうすると,引用発明1の「B2H6プラズマドーピング」は,「B2H6」のプラズマ中に存在するイオンをシリコン基板13に導入する成分を含む工程であると理解される。
してみれば,引用発明1の「シリコン基板13に,ジボランガスを,プラズマ化してB2H6プラズマドーピングする」と,本願発明1の「B2F4から成るホウ素含有前駆体をイオン化条件にてイオン化すること,および引き出し電極を使用してホウ素含有イオンのコリメートされたイオンビームを生成すること,ならびに ホウ素含有イオンのコリメートされたイオンビームを電場により加速してホウ素含有イオンをマイクロ電子デバイスの基体に注入すること」とは,「ホウ素含有前駆体をイオン化条件にてイオン化すること,および,ホウ素含有イオンを基体に注入すること」である点で一致する。
したがって,本願発明1と引用発明1との間には,次の一致点,相違点があるといえる。
(一致点)
「ホウ素含有前駆体をイオン化条件にてイオン化すること,および,ホウ素含有イオンを基体に注入することを含む,ホウ素含有イオンを注入する方法。」
(相違点)
(相違点1)ホウ素含有前駆体が,本願発明1では,「B2F4から成るホウ素含有前駆体」であるのに対し,引用発明1では,「ジボランガス」である点。
(相違点2)本願発明1が,「引き出し電極を使用してホウ素含有イオンのコリメートされたイオンビームを生成」すること,ならびに「ホウ素含有イオンのコリメートされたイオンビームを電場により加速」してホウ素含有イオンを基体に注入するという構成を備えるのに対し,引用発明1は,このような構成を備えていない点。
(相違点3)本願発明1は,イオン注入の対象が,「マイクロ電子デバイスの基体」であるのに対して,引用発明1では,「シリコン基板13」である点。
(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討する。
ア 本願の発明の詳細な説明には以下の記載がある。
・「【0003】
現在,当該分野のデバイスの製造において,10~15以上の注入工程が存在する。ウエハ寸法を大きくし,限界寸法を減少させ,および回路の複雑さを増大させることは,より良好なプロセス制御,低エネルギで,高いビーム電流を解放すること,および平均故障間隔(mean time between failures;MTBT)の減少に関して,イオン注入ツールに対し,より大きな要求がなされている。
【0004】
三フッ化ホウ素(BF3)は,従来,ホウ素ドーパント不純物の供給源であった。しかしながら,BF3は,イオン注入で一般的に用いられる他のドーパント種(AsH=274kJ mole-1およびP-H(=297kJ mole-1)と比較して,B-F結合(757kJ mole-1)を破壊するためには,相当の量のエネルギを必要とする点で問題である。その結果,ホウ素注入の際に,イオン供給源は高アーク電圧にて運転しなければならない。高アーク電圧はイオン供給源領域で熱いフィラメント又はカソードを攻撃する高エネルギイオンを生成し,カソードの故障又はスパッタ腐食を助長する。
【0005】
イオン注入器に供給されるBF3ドーパントの公称80%は,そのまま排出され,このことは,BF3がイオン化されていないか,あるいはイオン化されても,フラグメントが再結合するかのいずれかを示していることが既に報告されている。明らかに,高アーク電圧におけるBF3の低イオン化は,既に非常に非効率的であるプロセスをさらに悪化させている。
【0006】
このように,MTBF,プロセス効率,およびツールの寿命を向上させ,イオン供給領域にて不揮発性種の蓄積を低くするために,ホウ素元素ガスとして使用する代替のホウ素含有ドーパント前駆体を提供することが,継続的に必要とされている。」
・「【0007】
ホウ素クラスター注入は,三フッ化ホウ素を使用する注入に必要とされるエネルギレベルよりも低いエネルギレベルにて,イオン注入効率を上昇させる方法である。ホウ素クラスター注入の典型的な方法は,デカボラン(B10)およびオクタデカボラン(B18)水素化ホウ素前駆体を,使用する。これらの前駆体は,室温にて固体であり,比較的低い蒸気圧を有する。これらの前駆体の使用は,遠く離れた容器(またはコンテナ)から前駆体物質を昇華させること,および得られた蒸気を,流体フローのラインに沿ってクラスター注入のための半導体ツールへ移動させることを伴う。これらのプロセスは,不十分な物質のフローおよび濃縮という,潜在的な副次的悪影響を伴う。前者に対抗するために,固体供給源を含む容器は,一定且つ正確な温度に加熱することを要する。不必要な濃縮を避けるために,ツールに至るラインを,熱追跡する必要がある。
【0008】
デカボランおよびオクタデカボランを前駆体として使用する,ホウ素クラスターの注入は,さらなる課題を呈しており,課題として下記に特定されたものが挙げられる。
・固体コンテナおよび輸送ラインを熱追跡することは,費用がかかり,煩わしく,イオン注入器においては実施することが難しく,装置の改装が困難であり,失敗しやすい。
・バランスのとれていない熱負荷は,冷たいスポットでの濃縮に至る可能性があり,詰まり又は不均一な流量をもたらす。
・固体物質に加えられた過剰な熱は,分解に至る可能性があり,不純物および不均一な流量をもたらす。
・昇華した物質の流量は,蒸発器の利用可能な表面積に左右される。時が経つにつれて,固体が使い尽くされ(または劣化し),再結晶されるので,蒸発器の表面積が減少し,詰められる蒸発器の寿命の間に,流量の減少を招く。
・ツール内の物質の量を測定することが非常に困難であり,蒸気圧のみに基づいている。
・ツールへの物質の供給を制御することが困難であり,かつ費用がかかる。
・デカボランおよびオクタデカボラン物質は,高価である。
・イオン供給源に隣り合う蒸発器の設置は,熱追跡される輸送ラインを注入器内部に設置することに関する問題を最小限にするように,多くの場合,行われるが,安全および法律上の懸念に帰結し得る危険な行為である。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって,当該分野において,クラスターホウ素注入のための新しいシステム,方法,および前駆体に対する要求があり,当該要求には,従来のホウ素含有イオンの注入と比較して,クラスターホウ素注入のための前駆体を注入のためのツールに送る,改良された方法であって,前駆体がツールへ容易に輸送をされることおよびホウ素イオン注入の増加を可能にする方法に対する要求も含まれている。」
・「【0034】
本発明者らは,ホウ素含有ドーパント化合物の結合エネルギを低下させることは,必要とされるアーク電圧が付随して低下することに帰結し,イオン供給源の寿命を長くすると,仮定した。
【0035】
したがって,本発明の一つの形態は,ホウ素含有イオンを注入する方法であって,常套の熱カソードイオンの供給源を使用して,100ボルト未満,好ましくは90ボルト未満,より好ましくは80ボルト未満,最も好ましくは70ボルト未満のアーク電圧を使用して,または別のイオン供給源を使用して,それに匹敵する電圧を使用して,高いイオン化効率(少なくとも15%)にて,ホウ素含有ドーパント種をイオン化することを含む方法に関する。そのために,一つの要旨において,本発明は,ホウ素含有イオンをマイクロ電子デバイスの基体に注入する方法であって,ホウ素含有前駆体原料を気化させて,気化ホウ素含有ドーパント種を生成すること(ホウ素含有前駆体供給原料が液体または固体であるとき),気化したホウ素含有ドーパント種をイオン化して,ホウ素含有イオンを生成すること,およびホウ素含有イオンを電場により加速して,それをマイクロ電子デバイスの基体に注入することを含み,ホウ素含有前駆体原料が,実質的な量の三フッ化ホウ素を含まない,方法に関する。好ましくは,ホウ素含有前駆体は,ハロゲン種を含む。ハロゲン種として,フッ素,塩素,臭素およびヨウ素が挙げられる。より好ましくは,ホウ素含有前駆体は,フッ化ホウ素前駆体である。以下において,フッ化ホウ素前駆体への言及は,何らかの形で制限することを意味しているものではないことが,理解されるべきである。
【0036】
ここで意図されるホウ素含有前駆体として,B2F4,・・・<途中省略>・・・およびその組み合わせが挙げられるが,これらに限定されるわけではない。・・・<途中省略>・・・特に好ましい形態において,ホウ素含有前駆体は,B2F4を含む。B2F4は,BF3におけるB-F結合を劈開するのに必要とされるアーク電圧よりも低いアーク電圧にて,B-B結合でのホモリティックな劈開(または開裂)に付されると期待される。したがって,本発明の別の形態は,ホウ素含有イオンを注入する方法であって,ホウ素含有前躯体をB-B結合にて劈開することを含む方法に関する。本発明の別の形態は,少なくとも一つのB-B結合を有する,ホウ素含有前駆体を含む,組成物または供給システム(またはデリバリー・システム)に関する。」
イ そうすると,上記記載から,本願発明1は,デバイスの製造において,イオン注入ツールに対し,より大きな要求がなされているところ,
従来,ホウ素ドーパント不純物の供給源であった三フッ化ホウ素(BF3)は,イオン注入で一般的に用いられる他のドーパント種と比較して,B-F結合を破壊するためには,相当の量のエネルギを必要とするため,ホウ素注入の際に,イオン供給源は高アーク電圧にて運転しなければならず,カソードの故障又はスパッタ腐食を助長し,さらに,イオン注入器に供給されるBF3ドーパントの公称80%は,そのまま排出され,高アーク電圧におけるBF3の低イオン化は,既に非常に非効率的であるプロセスをさらに悪化させている点で問題があり,
他方,ホウ素クラスター注入は,三フッ化ホウ素を使用する注入に必要とされるエネルギレベルよりも低いエネルギレベルにて,イオン注入効率を上昇させる方法であるが,デカボラン(B10)およびオクタデカボラン(B18)水素化ホウ素前駆体の使用には,種々の課題が存在するという課題があったこと。及び,
ホウ素含有前駆体をイオン化条件にてイオン化すること,および引き出し電極を使用してホウ素含有イオンのコリメートされたイオンビームを生成すること,ならびに ホウ素含有イオンのコリメートされたイオンビームを電場により加速してホウ素含有イオンをマイクロ電子デバイスの基体に注入することを含む,ホウ素含有イオンを注入する方法において,前記「ホウ素含有前駆体」として,「『BF3におけるB-F結合を劈開するのに必要とされるアーク電圧よりも低いアーク電圧にて,B-B結合でのホモリティックな劈開(または開裂)に付されると期待される』『B2F4から成るホウ素含有前駆体』」を選択することによって前記課題が解決されたことが理解される。
ウ 他方,引用文献1には,「ジボランガスの代わりに,B4H10,B5H9,B5H11,B6H10,B10H14などのボロンを含む水素化合物のガスを用いても良い。ボロンを含む水素化合物のガスは,プラズマ照射中に削るSiのエッチングレートが小さいので,シリコン基板をほとんど削らずにプロセスができるのでより望ましい。或いは,BF3,B2F4などのボロンを含むフッ化物のガスを用いても良い。B2Cl4,BCl3などのボロンを含む塩化物のガスを用いても良い。また,固体をプラズマ化して用いる場合には,BI3,BBr3,B2O3,B2S3,BNを用いても良い。」と記載されている。
エ しかしながら,引用文献1には,前記列挙された各種ホウ素含有前駆体の中から,「B2F4」を,特に選択する動機が記載も示唆もされていない。
そして,本願発明1は,これらホウ素含有前駆体の中から,「B2F4」を選択したことによって,そのほかのホウ素含有前駆体,例えば,「BF3」等を選択した場合と比べて,上記イに記載した課題を解決することができるという格別の効果を奏するものと認められる。
オ したがって,引用発明1において,相違点1について本願発明1の構成を採用することは,引用文献1に記載された技術的事項からは,当業者が容易になし得たこととは認められない。
したがって,他の相違点については判断をするまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明1,引用文献1に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
2 本願発明2について
本願発明2は,本願発明1の「B2F4から成るホウ素含有前駆体」という事項に対応する,「B2F4のみをガスボックス中の供給容器からイオン注入ツールに供給する」という構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明1,引用文献1に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
3 本願発明3について
本願発明3は,本願発明2を引用する発明であり,本願発明2の「B2F4のみをガスボックス中の供給容器からイオン注入ツールに供給する」に対応する構成を備えるものであるから,本願発明2と同様の理由により,当業者であっても,引用発明1,引用文献1に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
・引用文献2を主引例とした検討
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明2とを対比すると,次のことがいえる。
ア 引用文献2の「3弗化ボロン(BF3 )」と,本願発明1の「B2F4から成るホウ素含有前駆体」とは,「ホウ素含有前駆体」である点で一致する。
イ 引用発明2の「n型単結晶シリコン基板上に酸化シリコンあるいは窒化シリコン等の絶縁層を100nmの厚さで形成し,前記絶縁層上に,AlやCr等の金属あるいはそのシリサイドからなる,後のソース/ドレイン領域への不純物添加時にそのマスクとしても用いられるゲート電極を300nmの厚さで形成した」「試料」は,本願発明1の「マイクロ電子デバイスの基体」に相当する。そうすると,引用文献2の「価電子制御可能な元素と前記価電子制御可能な元素と同程度かあるいはそれ以下のイオン注入飛程を有する元素とからなる少なくとも2種類以上の元素で構成されている不純物ガスをプラズマ状に分解し,生成したイオン種を不純物源として前記イオン種を電場により加速し,試料に不純物を添加して前記試料上に不純物層を形成することを特徴とする不純物添加法」と,本願発明1の「ホウ素含有前駆体をイオン化条件にてイオン化すること,および引き出し電極を使用してホウ素含有イオンのコリメートされたイオンビームを生成すること,ならびに ホウ素含有イオンのコリメートされたイオンビームを電場により加速してホウ素含有イオンをマイクロ電子デバイスの基体に注入することを含む,ホウ素含有イオンを注入する方法」とは,「ホウ素含有前駆体をイオン化条件にてイオン化すること,および,ホウ素含有イオンをマイクロ電子デバイスの基体に注入することを含む,ホウ素含有イオンを注入する方法」である点で一致する。
したがって,本願発明1と引用発明2との間には,次の一致点,相違点があるといえる。
(一致点)
「ホウ素含有前駆体をイオン化条件にてイオン化すること,および,ホウ素含有イオンをマイクロ電子デバイスの基体に注入することを含む,ホウ素含有イオンを注入する方法。」
(相違点)
(相違点1)「ホウ素含有前駆体」が,本願発明1では「B2F4から成るホウ素含有前駆体」であるのに対して,引用発明2では「3弗化ボロン(BF3 )」である点。
(相違点2)本願発明1が,「イオン化条件にてイオン化すること,および引き出し電極を使用してホウ素含有イオンのコリメートされたイオンビームを生成すること,ならびに ホウ素含有イオンのコリメートされたイオンビームを電場により加速してホウ素含有イオンを注入する」ものであるのに対して,引用発明2は,このような構成を備えていない点。
(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討する。
ア 本願の発明の詳細な説明には以下の記載がある。
・「【0003】
現在,当該分野のデバイスの製造において,10~15以上の注入工程が存在する。ウエハ寸法を大きくし,限界寸法を減少させ,および回路の複雑さを増大させることは,より良好なプロセス制御,低エネルギで,高いビーム電流を解放すること,および平均故障間隔(mean time between failures;MTBT)の減少に関して,イオン注入ツールに対し,より大きな要求がなされている。
【0004】
三フッ化ホウ素(BF3)は,従来,ホウ素ドーパント不純物の供給源であった。しかしながら,BF3は,イオン注入で一般的に用いられる他のドーパント種(AsH=274kJ mole-1およびP-H(=297kJ mole-1)と比較して,B-F結合(757kJ mole-1)を破壊するためには,相当の量のエネルギを必要とする点で問題である。その結果,ホウ素注入の際に,イオン供給源は高アーク電圧にて運転しなければならない。高アーク電圧はイオン供給源領域で熱いフィラメント又はカソードを攻撃する高エネルギイオンを生成し,カソードの故障又はスパッタ腐食を助長する。
【0005】
イオン注入器に供給されるBF3ドーパントの公称80%は,そのまま排出され,このことは,BF3がイオン化されていないか,あるいはイオン化されても,フラグメントが再結合するかのいずれかを示していることが既に報告されている。明らかに,高アーク電圧におけるBF3の低イオン化は,既に非常に非効率的であるプロセスをさらに悪化させている。
【0006】
このように,MTBF,プロセス効率,およびツールの寿命を向上させ,イオン供給領域にて不揮発性種の蓄積を低くするために,ホウ素元素ガスとして使用する代替のホウ素含有ドーパント前駆体を提供することが,継続的に必要とされている。」
・「【0007】
ホウ素クラスター注入は,三フッ化ホウ素を使用する注入に必要とされるエネルギレベルよりも低いエネルギレベルにて,イオン注入効率を上昇させる方法である。ホウ素クラスター注入の典型的な方法は,デカボラン(B10)およびオクタデカボラン(B18)水素化ホウ素前駆体を,使用する。これらの前駆体は,室温にて固体であり,比較的低い蒸気圧を有する。これらの前駆体の使用は,遠く離れた容器(またはコンテナ)から前駆体物質を昇華させること,および得られた蒸気を,流体フローのラインに沿ってクラスター注入のための半導体ツールへ移動させることを伴う。これらのプロセスは,不十分な物質のフローおよび濃縮という,潜在的な副次的悪影響を伴う。前者に対抗するために,固体供給源を含む容器は,一定且つ正確な温度に加熱することを要する。不必要な濃縮を避けるために,ツールに至るラインを,熱追跡する必要がある。
【0008】
デカボランおよびオクタデカボランを前駆体として使用する,ホウ素クラスターの注入は,さらなる課題を呈しており,課題として下記に特定されたものが挙げられる。
・固体コンテナおよび輸送ラインを熱追跡することは,費用がかかり,煩わしく,イオン注入器においては実施することが難しく,装置の改装が困難であり,失敗しやすい。
・バランスのとれていない熱負荷は,冷たいスポットでの濃縮に至る可能性があり,詰まり又は不均一な流量をもたらす。
・固体物質に加えられた過剰な熱は,分解に至る可能性があり,不純物および不均一な流量をもたらす。
・昇華した物質の流量は,蒸発器の利用可能な表面積に左右される。時が経つにつれて,固体が使い尽くされ(または劣化し),再結晶されるので,蒸発器の表面積が減少し,詰められる蒸発器の寿命の間に,流量の減少を招く。
・ツール内の物質の量を測定することが非常に困難であり,蒸気圧のみに基づいている。
・ツールへの物質の供給を制御することが困難であり,かつ費用がかかる。
・デカボランおよびオクタデカボラン物質は,高価である。
・イオン供給源に隣り合う蒸発器の設置は,熱追跡される輸送ラインを注入器内部に設置することに関する問題を最小限にするように,多くの場合,行われるが,安全および法律上の懸念に帰結し得る危険な行為である。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって,当該分野において,クラスターホウ素注入のための新しいシステム,方法,および前駆体に対する要求があり,当該要求には,従来のホウ素含有イオンの注入と比較して,クラスターホウ素注入のための前駆体を注入のためのツールに送る,改良された方法であって,前駆体がツールへ容易に輸送をされることおよびホウ素イオン注入の増加を可能にする方法に対する要求も含まれている。」
・「【0034】
本発明者らは,ホウ素含有ドーパント化合物の結合エネルギを低下させることは,必要とされるアーク電圧が付随して低下することに帰結し,イオン供給源の寿命を長くすると,仮定した。
【0035】
したがって,本発明の一つの形態は,ホウ素含有イオンを注入する方法であって,常套の熱カソードイオンの供給源を使用して,100ボルト未満,好ましくは90ボルト未満,より好ましくは80ボルト未満,最も好ましくは70ボルト未満のアーク電圧を使用して,または別のイオン供給源を使用して,それに匹敵する電圧を使用して,高いイオン化効率(少なくとも15%)にて,ホウ素含有ドーパント種をイオン化することを含む方法に関する。そのために,一つの要旨において,本発明は,ホウ素含有イオンをマイクロ電子デバイスの基体に注入する方法であって,ホウ素含有前駆体原料を気化させて,気化ホウ素含有ドーパント種を生成すること(ホウ素含有前駆体供給原料が液体または固体であるとき),気化したホウ素含有ドーパント種をイオン化して,ホウ素含有イオンを生成すること,およびホウ素含有イオンを電場により加速して,それをマイクロ電子デバイスの基体に注入することを含み,ホウ素含有前駆体原料が,実質的な量の三フッ化ホウ素を含まない,方法に関する。好ましくは,ホウ素含有前駆体は,ハロゲン種を含む。ハロゲン種として,フッ素,塩素,臭素およびヨウ素が挙げられる。より好ましくは,ホウ素含有前駆体は,フッ化ホウ素前駆体である。以下において,フッ化ホウ素前駆体への言及は,何らかの形で制限することを意味しているものではないことが,理解されるべきである。
【0036】
ここで意図されるホウ素含有前駆体として,B2F4,・・・<途中省略>・・・およびその組み合わせが挙げられるが,これらに限定されるわけではない。・・・<途中省略>・・・特に好ましい形態において,ホウ素含有前駆体は,B2F4を含む。B2F4は,BF3におけるB-F結合を劈開するのに必要とされるアーク電圧よりも低いアーク電圧にて,B-B結合でのホモリティックな劈開(または開裂)に付されると期待される。したがって,本発明の別の形態は,ホウ素含有イオンを注入する方法であって,ホウ素含有前躯体をB-B結合にて劈開することを含む方法に関する。本発明の別の形態は,少なくとも一つのB-B結合を有する,ホウ素含有前駆体を含む,組成物または供給システム(またはデリバリー・システム)に関する。」
イ そうすると,上記記載から,本願発明1は,デバイスの製造において,イオン注入ツールに対し,より大きな要求がなされているところ,
従来,ホウ素ドーパント不純物の供給源であった三フッ化ホウ素(BF3)は,イオン注入で一般的に用いられる他のドーパント種と比較して,B-F結合を破壊するためには,相当の量のエネルギを必要とするため,ホウ素注入の際に,イオン供給源は高アーク電圧にて運転しなければならず,カソードの故障又はスパッタ腐食を助長し,さらに,イオン注入器に供給されるBF3ドーパントの公称80%は,そのまま排出され,高アーク電圧におけるBF3の低イオン化は,既に非常に非効率的であるプロセスをさらに悪化させている点で問題があり,
他方,ホウ素クラスター注入は,三フッ化ホウ素を使用する注入に必要とされるエネルギレベルよりも低いエネルギレベルにて,イオン注入効率を上昇させる方法であるが,デカボラン(B10)およびオクタデカボラン(B18)水素化ホウ素前駆体の使用には,種々の課題が存在するという課題があったこと。及び,
ホウ素含有前駆体をイオン化条件にてイオン化すること,および引き出し電極を使用してホウ素含有イオンのコリメートされたイオンビームを生成すること,ならびに ホウ素含有イオンのコリメートされたイオンビームを電場により加速してホウ素含有イオンをマイクロ電子デバイスの基体に注入することを含む,ホウ素含有イオンを注入する方法において,前記「ホウ素含有前駆体」として,「BF3におけるB-F結合を劈開するのに必要とされるアーク電圧よりも低いアーク電圧にて,B-B結合でのホモリティックな劈開(または開裂)に付されると期待される」「B2F4から成るホウ素含有前駆体」を選択することによって前記課題が解決されたことが理解される。
ウ 他方,引用文献2には,「【0016】図3の実施例では3価の不純物ガスとして弗化物系不純物ガスのBF3 を用いたが,4弗化ボロン(B2 F4 )を用いても同様である。他に塩化物系不純物ガスとして3塩化ボロン(BCl3 ),4塩化ボロン(B2 Cl4 )もまた使用可能である。またインジウム(In)とClの化合物の塩化インジウム(InCl),2塩化インジウム(InCl2 ),3塩化インジウム(InCl3 )を用いても同様の効果を得ることができる。さらにFとClと目的とする不純物とから構成されている混合ハロゲン化物系不純物ガスもまた使用可能である。この場合,3価の混合ハロゲン化物系不純物ガスとして2弗化1塩化ボロン(BClF2 ),1弗化2塩化ボロン(BCl2 F)等が使用できる。」との記載がある。
エ しかしながら,引用文献2には,前記列挙された各種ホウ素含有前駆体の中から,「B2F4」を,特に選択する動機は記載も示唆もされていない。
そして,本願発明1は,これらホウ素含有前駆体の中から,「B2F4」を選択したことで,そのほかのホウ素含有前駆体,例えば,「BF3」等を選択した場合と比べて,上記イに記載した課題を解決することができるという格別の効果を奏するものと認められる。
オ したがって,引用発明2において,相違点1について本願発明1の構成を採用することは,引用文献2に記載された技術的事項からは,当業者が容易になし得たこととは認められない。
したがって,他の相違点については判断をするまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明2,引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
2 本願発明2について
本願発明2は,本願発明1の「B2F4から成るホウ素含有前駆体」という事項に対応する,「B2F4のみをガスボックス中の供給容器からイオン注入ツールに供給する」という構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明2,引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
3 本願発明3について
本願発明3は,本願発明2を引用する発明であり,本願発明2の「B2F4のみをガスボックス中の供給容器からイオン注入ツールに供給する」に対応する構成を備えるものであるから,本願発明2と同様の理由により,当業者であっても,引用発明2,引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は,請求項1-4について上記引用文献1,2に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら,平成29年6月29日付け手続補正書により補正された請求項1ないし3は,それぞれ「B2F4から成るホウ素含有前駆体」という事項,「B2F4のみをガスボックス中の供給容器からイオン注入ツールに供給する」という事項に対応する構成を有するものとなっており,上記のとおり,本願発明1ないし3は,上記引用文献1に記載された発明及び上記引用文献2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。
第6 当審拒絶理由について
1 特許法第36条第6項第1号について
当審では,「本願発明1ないし4について,ホウ素含有組成物が,B2F4以外の材料を含む態様の全ての範囲においてまで,本願発明の課題を解決できると認識することはできないというべきである。そうすると,本願の特許請求の範囲の記載は,いずれも,本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願の出願当時の技術常識に照らして,当業者が本願明細書に記載された本願発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えており,サポート要件に適合しないものというべきである。」との拒絶の理由を通知しているが,平成29年6月29日付けの補正において,補正後の請求項1が,「B2F4から成るホウ素含有前駆体・・・」と,また,補正後の請求項2が,「B2F4のみをガスボックス中の供給容器からイオン注入ツールに供給する・・・」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。
2 特許法第36条第6項第2号について
当審では,「請求項4の『フッ素含有種を前記イオン化に導入』,『希ガスを前記イオン化に導入』における,『イオン化に導入』の意味を,日本語として理解することができない。したがって,請求項4の記載は不明確である。」及び「請求項4の『前記イオン化を少なくとも15%のイオン化効率にて行う』の『イオン化効率』の定義が明確でない。したがって,請求項4に係る発明を明確に把握することができない。」との拒絶の理由を通知しているが,平成29年6月29日付けの補正において,補正後の請求項3が,「前記イオン化を90ボルトより低いアーク電圧にて行うことをさらに含む,請求項2に記載の方法。」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。
3 特許法第36条第4項第1号について
当審では,「請求項4に係る発明は,『前記イオン化を少なくとも15%のイオン化効率にて行うこと』を発明特定事項として含むものである。しかしながら,イオン化の際のイオン化効率を測定する方法が,本願明細書には記載されておらず,また,本願のもとの出願の優先権主張の日前において,当業者が共通して用いていた測定方法(例えば,標準規格)が存在していたとも認められない。したがって,発明の詳細な説明の記載は,当業者が請求項4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分なものとは認められない。」との拒絶の理由を通知しているが,平成29年6月29日付けの補正において,補正後の請求項3が,「前記イオン化を90ボルトより低いアーク電圧にて行うことをさらに含む,請求項2に記載の方法。」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。
第7 むすび
以上のとおり,本願発明1ないし3は,当業者が引用発明1又は引用発明2に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
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2015-022264