特許拒絶査定不服審判
2015-021966
N-ベンゾイルスタウロスポリンの多形相IIIおよびIV
- 審判番号
- 2015-021966
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-540449外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年12月11日
- 審決日
- 2017年07月10日
- 公報発行日
- 2018年01月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ノバルティス アーゲー
- 【請求人代理人】小林 浩
- 【請求人代理人】大森 規雄
- 【請求人代理人】岩田 耕一
- 【請求人代理人】鈴木 康仁
- 分類
- P18 .536-WZ (C07D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-540449「N-ベンゾイルスタウロスポリンの多形相IIIおよびIV」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月 3日国際公開、WO2011/064355、平成25年 4月11日国内公表、特表2013-512230〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2010年11月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年11月30日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、その後の手続の経緯の概要は次のとおりである。
平成24年 7月30日 手続補正書の提出
平成26年10月28日付け 拒絶理由通知
平成27年 3月 4日 意見書・手続補正書の提出
同年 8月 5日付け 拒絶査定
同年12月11日 拒絶査定不服審判の請求・手続補正書の提 出
平成28年 2月 4日 審判請求書を補正対象とする手続補正書の 提出
同年12月 5日付け 補正の却下の決定、拒絶理由通知、特許庁 長官名による指令書
平成29年 6月 6日 意見書・手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~6に係る発明は、平成29年6月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次のとおりのもの(以下「本願発明1~6」という。)である。
「【請求項1】
5.3、6.9、7.9、15.9、18.7、20.1±0.2°の屈折角2シータで、波長1.54060ÅでのX線回折ピークを示す、N-ベンゾイルスタウロスポリンの結晶形IIIの化合物。
【請求項2】
示差走査熱量計DSCで測定して、206±10℃の融点Tmを有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
7.9、10.0、12.0、15.8、17.8±0.2°の屈折角2シータで、波長1.54060ÅでのX線回折ピークを示す、N-ベンゾイルスタウロスポリンの結晶形IVの化合物。
【請求項4】
示差走査熱量計DSCで測定して、215±10℃の融点Tmを有する、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の化合物および/または請求項3または4に記載の化合物、ならびに少なくとも1種の薬学的に許容される添加剤を含む、医薬組成物。
【請求項6】
溶融押出による医薬組成物の調製のための、請求項1または2に記載の化合物および/または請求項3または4に記載の化合物の使用。」
第3 当審において通知した拒絶理由
当審において通知した拒絶理由のうち、理由2は次のとおりである。
「[理由2]この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で特許法第36条第4項第1号に適合しないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」
具体的には次の事項を指摘している。
「本願発明1~14について、結晶形III及びIVを製造する際には、原料であるN-ベンゾイルスタウロスポリンとテトラヒドロフラン及び二酸化炭素の使用割合、二酸化炭素の圧縮の程度、二酸化炭素の添加速度、二酸化炭素の温度、プロセスの温度、結晶化容器内の圧力等の種々の条件設定が必要とされると認められるところ、これらの点については上述のとおりの一般的な記載があるか、一般的な記載もなされておらず、一般的な記載についても、結晶形IIIとIVとで同様の記載があるだけである。しかし、一般に有機化合物の結晶化においては、溶媒の使用量、攪拌、温度等の条件によって、結晶生成の有無、結晶形の種類が異なることは周知であって、具体的にどのような製造条件であれば、目的とする結晶形III及IVが得られるか、また、結晶形IIIとIVを作り分けることができるかを示す技術常識も存在しない。
してみると、発明の詳細な説明は、本願発明1~14を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできないから、その記載は、特許法第36条第4項第1号に適合しない。」
第4 当審の判断
1 発明の詳細な説明の記載
本願明細書には、次の記載がある。
「【0042】
本発明はまた、以下のステップ:
(i)結晶化容器にアセトニトリルまたはテトラヒドロフラン中N-ベンゾイルスタウロスポリンの溶液を供給するステップ、
(ii)結晶化容器中の溶液に圧縮二酸化炭素をプロセス温度Tpで加えるステップ、および
(iii)沈殿した結晶N-ベンゾイルスタウロスポリンを結晶化容器から分離するステップ
を含む、結晶N-ベンゾイルスタウロスポリン、例えば、結晶形IIIまたは結晶形IVの調製方法を提供する。
【0043】
結晶化容器は、高圧で使用され得る任意の容器(vesselまたはcontainer)であってもよい。それは、圧力上昇下で操作されるように特別に適合されている別の容器(圧力容器)の一部であってもよい。しかし、このような容器は、当業者に公知である。
【0044】
好ましくは、ステップ(i)で調製される溶液中のN-ベンゾイルスタウロスポリンの濃度は、プロセス温度Tpにおいて、1mg/mlから50mg/ml、より好ましくは5mg/mlから20mg/mlの溶解性である。
【0045】
好ましくは、非晶質N-ベンゾイルスタウロスポリンは、ステップ(i)の溶液を得るためにテトラヒドロフランに溶解させる。非晶質N-ベンゾイルスタウロスポリンの調製は、例えば、国際公開第2006/048296号に記載されている。しかし、N-ベンゾイルスタウロスポリンの他の公知の形態、例えば、国際公開第2006/048296号に開示された結晶形が、同様に使用され得る。
【0046】
ステップ(ii)において、圧縮二酸化炭素は、THF中N-ベンゾイルスタウロスポリンの溶液中に導入される。本発明において、「圧縮された」という用語は、大気圧より高い圧を有する任意の二酸化炭素を指す。好ましくは、圧縮二酸化炭素の圧は、6MPaから12MPa、より好ましくは7MPaから9MPaの範囲内である。より好ましくは、圧縮二酸化炭素は、超臨界状態である。本発明において、「超臨界の」という用語は、その一般に受け入れられた意味に従って解釈されるべきであり、すなわち、それは、その臨界点より上の温度および圧力における二酸化炭素を指す。
【0047】
本発明の方法において、圧縮二酸化炭素(超臨界二酸化炭素が好ましい)は、THF溶媒に当初に可溶化されている溶質(すなわち、N-ベンゾイルスタウロスポリン)のための貧溶媒として作用する。ステップ(i)の溶液は、圧縮二酸化炭素を加えることによって膨張させる。この溶液の体積膨張のために、THF中のN-ベンゾイルスタウロスポリンの溶解性は低下する。
【0048】
このような種類の方法は、GAS(気体貧溶媒)再結晶化とも称される。GAS再結晶化についての一般情報は、例えば、Ind. Eng.Chem. Res. 2000年、39、2260~2268頁、M. Mullerら;およびJ. of Supercritical Fluids、27(2003年)、195~203頁、M. Mazzottiらに見出され得る。
【0049】
好ましくは、結晶形IIIまたは結晶形IVの形成は、適切な温度および圧力条件を選択することによって制御される。
【0050】
結晶形IIIの調製のための好ましい実施形態において、ステップ(ii)のプロセス温度Tpは、圧縮二酸化炭素を添加後、結晶形IIIの沈殿した結晶N-ベンゾイルスタウロスポリンを得るために、20℃から60℃、より好ましくは23℃から45℃の範囲内である。
【0051】
結晶形IVの調製のための好ましい実施形態において、ステップ(ii)のプロセス温度Tpは、圧縮二酸化炭素を添加後、20℃から60℃、より好ましくは23℃から45℃の範囲内である。
【0052】
好ましくは、圧縮二酸化炭素は、1ml/分から20ml/分、より好ましくは1ml/分から5ml/分の範囲内の流量で溶液に供給される。
【0053】
本発明の方法において、結晶N-ベンゾイルスタウロスポリンの沈殿後、結晶化容器の出口バルブが開けられ、結晶化容器は二酸化炭素でパージされ、その後、減圧されて、結晶N-ベンゾイルスタウロスポリンは、結晶化容器から分離されることが好ましい場合がある。
【0054】
好ましくは、パージステップは、N-ベンゾイルスタウロスポリンの溶媒を含まない、より好ましくは溶媒和を含まない結晶形を得るために時間で十分な期間継続される。」
「【0064】
・・・
【実施例1】
【0065】
実施例1において、N-ベンゾイルスタウロスポリンの結晶形IIIは、GAS再結晶化によって調製した。結晶形IIIのX線ディフラクトグラムを図1に示し、結晶形IIIおよび国際公開第2006/048296号に開示されたとおりの結晶形IIのX線ディフラクトグラムを図2に示す。
【実施例2】
【0066】
実施例2において、N-ベンゾイルスタウロスポリンの結晶形IVは、GAS再結晶化によって調製した。結晶形IVのX線ディフラクトグラムを図3に示し、結晶形IVおよび国際公開第2006/048296号に開示されたとおりの結晶形IIのX線ディフラクトグラムを図4に示す。」
また、段落【0014】~【0040】には、結晶形III及びIVについて、屈折角2シータでのX線回折ピーク、融点、分解温度、残留溶媒又は水、X線回折パターンの回折ピークのピーク位置、面間隔、相対強度等についての記載がある。
さらに、図1~4として、N-ベンゾイルスタウロスポリンの結晶形III及びIV並びに国際公開2006/048296号に開示されたとおりの結晶形IIのX線ディフラクトグラムの記載がある。
2 判断
本願発明1について、結晶形IIIの化合物を製造する際には、原料であるN-ベンゾイルスタウロスポリン、テトラヒドロフラン又はアセトニトリル及び二酸化炭素の使用割合、二酸化炭素の圧縮の程度、二酸化炭素の添加速度、二酸化炭素の温度、プロセスの温度、結晶化容器内の圧力等の種々の条件設定が必要とされると認められるところ、これらの点については上述のとおりの一般的な記載があるか、一般的な記載もなされておらず、一般的な記載についても、結晶形IIIとIVとで同様の記載があるだけである。しかし、一般に有機化合物の結晶化においては、溶媒の使用量、攪拌、温度等の条件によって、結晶生成の有無、結晶多形が存在する場合に生成する結晶形の種類が異なることは周知であって、具体的にどのような製造条件であれば、目的とする結晶形IIIの化合物が得られるか、また、同様の製造条件の記載しかない結晶形IIIの化合物と結晶形IVの化合物を作り分けることができるかを示す技術常識も存在しないから、本願発明1を実施するには、当業者に過度の試行錯誤を要求するものといえる。
してみると、発明の詳細な説明は、本願発明1を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできないから、その記載は、特許法第36条第4項第1号に適合しない。
本願発明2~6についても同様である。
3 審判請求人の主張について
審判請求人は平成29年6月6日付けの意見書において、「本願明細書(段落[0042]~[0054]、[0065]及び[0066])には、N-ベンゾイルスタウロスポリンの結晶形III及び結晶形IVの化合物を作製するための各種条件の設定値の範囲が開示されております。また、本願明細書には、得られたN-ベンゾイルスタウロスポリンがどのような結晶型の化合物かを特定(確認)できるように、X線粉末回折(XRPD)及び溶融温度(融点:Tm)の両特性を用いて、N-ベンゾイルスタウロスポリンの結晶形III及び結晶形IVを特徴づけし区別しております。具体的には、本願明細書の表1には、結晶形IIIの化合物についてのXRPDパターンが、表2には、結晶形IIIの化合物についてのXRPDパターンが示されており、また、本願明細書の段落[0023]及び[0038]等には、結晶型IIIのTmは206±10℃であり、結晶型IVのTmは215±10℃であることが示されております。さらに、本願実施例においても結晶化方法として採用しているGAS再結晶化の一般情報の知見ついては、本願明細書の段落[0048]にも示すとおり、本願優先日前に発行されているM. Mullerら(Ind. Eng. Chem. Res. 2000年、39、2260~2268頁)及びM. Mazzottiら(J. of Supercritical Fluids、27(2003年)、195~203頁)の文献により当業者であれば理解し得ることであります。
このような状況下であれば、審判官が述べておられるように、たとえ本願明細書に当該結晶形III及び結晶形IVの化合物のそれぞれについての種々の製造条件が記載されていなかったとしても、上述した文献の知見も含む一般的な条件記載と、最終的に得られたものが当該結晶形III及び結晶形IVの化合物であるかが確認・判断できるXRPD及びTmの両特性とを組み合わせれば、当業者であれば、過度の試行錯誤を必要とせずとも、十分に当該結晶形III及び結晶形IVの化合物を得ることができるといえます。」などと主張する。
しかし、上記2で述べたとおり、一般に有機化合物の結晶化においては、溶媒の使用量、攪拌、温度等の条件によって、結晶生成の有無、結晶多形が存在する場合に生成する結晶形の種類が異なることは周知であるところ、発明の詳細な説明には、圧縮二酸化炭素の圧力、プロセス温度、圧縮二酸化炭素の流量等について一般的な記載があるのみであって、どのような製造条件で結晶形III及び結晶形IVの化合物を製造するのかについての具体的な記載はなく、当業者が結晶形III及び結晶形IVの化合物を製造するには、製造条件を種々変更しながら製造された物質について逐一そのXRPD、Tmを確認して、それが結晶形III又は結晶形IVの化合物であるかどうかを確認するという作業が必要であり、圧力、プロセス温度等が連続的な値として設定できることを考慮すれば、当該作業が一定数であるとはいえないので、当該作業が過度の試行錯誤でないとはいえない。
したがって、上記審判請求人の主張を採用することはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合しないため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、その余の点を検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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