特許拒絶査定不服審判
2015-021460
フードプロセッサのすりおろし用ディスク
- 審判番号
- 2015-021460
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-543958
- 請求日
- 2015年12月03日
- 審決日
- 2016年12月21日
- 公報発行日
- 2017年07月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
- 【請求人代理人】津軽 進
- 【請求人代理人】笛田 秀仙
- 審判長/審判官
- 審判長 千壽 哲郎
- 審判官 結城 健太郎
- 審判官 佐々木 正章
- 分類
- P18 .121-Z (A47J) / P18 .575-Z (A47J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第6項、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-543958号「フードプロセッサのすりおろし用ディスク」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月23日国際公開,WO2011/073873,平成25年 4月25日国内公表,特表2013-514120号〕について,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は,成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は,2010年(平成22年)12月10日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2009年12月17日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,平成26年8月13日付けで拒絶理由通知がなされ,平成27年2月18日付けで意見書及び手続補正書の提出があった後,同年8月18日付けで拒絶査定がなされ,これに対して同年12月3日に拒絶査定不服審判が請求され,同時に手続補正がされたものである。
第2 平成27年12月3日にされた手続補正の却下の決定
1 結論
平成27年12月3日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
2 理由
(1) 補正の概要
本件補正は,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1である
「フードプロセッサ内に回転可能に取り付けられ、回転方向に回転し、処理される食物をするための複数のすり歯を有するすり用ディスクであって、
当該すり用ディスクは、前記フードプロセッサの使用の際に、食物片を外方向へと案内するのを助けるための、当該すり用ディスクの内側領域から外縁部へと延在する少なくとも1本の溝を有し、
前記複数のすり歯は、前記内側領域から前記外縁部へと向かって延在している少なくとも1本の線上に配置され、前記少なくとも1本の溝が前記少なくとも1本の線に沿って少なくとも部分的に延在している、すり用ディスク。」を,
「フードプロセッサ内に回転可能に取り付けられ、回転方向に回転し、処理される食物をするための複数のすり歯を有するすり用ディスクであって、
当該すり用ディスクは、前記フードプロセッサの使用の際に、食物片を外方向へと案内するのを助けるための、当該すり用ディスクの内側領域から外縁部へと延在する少なくとも1本の溝を有し、
前記複数のすり歯は、前記内側領域から前記外縁部へと向かって延在している少なくとも1本の線上に配置され、前記少なくとも1本の溝が前記少なくとも1本の線に沿って少なくとも部分的に延在し、
前記少なくとも一つのすり歯は、前記フードプロセッサの使用の際に前記食物と交差することを意図されたすり面を有し、
前記少なくとも1本の溝が、前記線上のすり歯の前記すり面と並んで延在する、すり用ディスク。」と補正することを含むものである。(下線は当審による。以下同様。)
(2) 補正の目的
上記補正は,本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である,「すり歯」及び「溝」について,それぞれ「前記少なくとも一つのすり歯は、前記フードプロセッサの使用の際に前記食物と交差することを意図されたすり面を有し」及び「前記少なくとも1本の溝が、前記線上のすり歯の前記すり面と並んで延在する」と限定する補正であって,本件補正前の請求項1に係る発明と本件補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について検討する。
(3)引用例
ア 引用例1
(ア) 原査定の拒絶の理由に引用され,本願優先日前に頒布された刊行物である特開平5-161555号公報(以下「引用例1」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。(下線は当審にて付与した。以下同様。)
(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、大根,人参等をおろす調理器のおろしカッター装置に関する。」
(ウ)「【0008】本発明は上記従来の問題点を解決するもので、調理材料の円板後方側にできやすい皮状のものの発生を防ぎ、食べた際の異物感をなくした調理器のおろしカッター装置を提供することを第1の目的としている。
【0009】また第2の目的は、第1の目的とともに、切削済のおろしを早く円板外周に導き口あたりの良いおろしを得ることにある。
【0010】また第3の目的は、第2の目的において、押し込み棒にて調理材料を押し込む際の上下方向の衝撃をなくすことにある。」
(エ)「【0014】
【課題を解決するための手段】上記第1の目的を達成するために本発明の課題解決手段は、円板のおろし刃を有する側の面上に調理材料に当接する突起を設けたものである。
【0015】また第2の目的を達成するために、前記突起をリブ形状とし、このリブを円板の回転軸芯付近より外周方向に向けて配したものを第2の手段としている。
【0016】また第3の目的を達成するために、円板のおろし刃を有する側の面上に円板の回転軸芯付近より円板の外周端に及ぶ溝を配したものを第3の手段としている。」
(オ)「【0022】
【作用】本発明は上記した第1の手段により、突起が調理材料を傾け、調理材料の回転後方端を斜めに押しつけるようになるため、未切削の薄い皮状のものは発生しにくくなる。
【0023】また第2の手段により、前記作用の他に、おろされた(切削された)ものが早期に調理材料にこすられリブに沿って円板外周方向へ導かれることとなり、円板上で長時間こすられたおろし刃により何度も切削されることなく、すなわち水分が分離したりせずに口あたりの良いおろしが得られるのである。
【0024】また第3の手段により、第2の手段により発生する問題点、すなわち調理材料がリブを乗り越える際の押し込み棒を介して受ける上下方向の衝撃を溝ということで、なくすことができる。」
(カ)「【0030】
【実施例】以下、本発明の実施例を添付図面にもとづいて説明する。
【0031】図9は調理器全体の構成を示す組み立て部分断面図である。図において、20は調理器の本体でモータ(図示せず)を内蔵している。21は回転軸で前記モータによりベルト等の伝達部(図示せず)を通じて回転運動を行う。22は容器で上端が開口しており回転軸21を貫通させて本体20に載置されている。23は容器22の上端開口部を覆う蓋で、下端部に円板状の押さえ板24と、これと一体化した調理材料を投入する筒状開口部25を内蔵しており、この押さえ板24と筒状開口部25は蓋23により上下摺動可能に支持されている。26は筒状開口部25の内側を摺動自在に嵌合する押し込み棒で調理材料を押し込むものである。27はおろしカッターで、回転軸21と着脱自在で回り止めされ回転運動する係合軸28と、複数個のおろし刃(突起刃)29を配した円板30とから形成されている。
【0032】図1~図8は、本発明のおろしカッター部についての実施例であり、図9の回転軸21に着脱可能状となっている。なお、図1~図4においてBは筒状開口部25の投影位置を示したものである。おろし刃は一部しか描いていないが円板全体に同様に配している。」
(キ)「【0037】(実施例3)次に、本発明の第3の実施例について図3を参照しながら説明する。図において39は円板で円板39は前述同様多数列に複数個設けたおろし刃(突起刃)40を有している。このおろし刃40の列間には溝41を円板39の回転中心付近より円板39の外周端に及ぶように配設している。なお42は調理材料である。
【0038】上記構成のおろしカッター装置の動作を説明する。おろし刃40によりおろされたものは、溝41に落ち調理材料42とは当接しない状態となる。円板39は高速回転しているため、おろされたものは遠心力により外周方向へと移動し落下する。このようにすることで、押込み棒26(図9)を介して上下方向の衝撃を受けることなく、おろされたものはこすられたりせず、すなわち、水分の分離のない口あたりの良いおろしが得られるようになる。
【0039】(実施例4)次に、本発明の第4の実施例について図4を参照しながら説明する。図において43は円板で、円板43には前述同様多数列に複数個設けたおろし刃(突起刃)44を有している。このおろし刃44より離れた位置、この場合は、おろし刃44の列間に長孔45を円板43の回転中心付近より円板43の外周端付近におよぶよう配設している。なお46は調理材料である。
【0040】上記構成のおろしカッター装置の動作を説明する。おろし刃44によりおろされたものは、長孔45に落ち、調理材料46とは当接しない状態で早期に下方へ落下する。このようにすることで、前述と同様に押込み棒26(図9)を介して上下方向の衝撃を受けることなく、おろされたものはこすられたりせず、すなわち、より水分の分離のない口あたりの良いおろしが得られる。
【0041】(実施例5)次に、本発明の第5の実施例について図5を参照しながら説明する。図において47は円板で、円板47には前述同様多数列に複数個設けたおろし刃(突起刃)48を有している。このおろし刃48の回転方向側の近部には円板47の回転中心付近より外周方向に向けて長孔49を配設している。円板47の裏面には円板47より突出したフック51を有し、フック51を介して円板47の裏面に着脱自在に係合する補助円板50を設けている。また補助円板50には補助円板50を円板47に装着したとき長孔49と係合し長孔49を塞ぐ突起部52を突設している。なお53は調理材料である。
【0042】上記構成のおろしカッター装置の動作を説明する。まず細かくおろす場合は、図5(b)に示すように、円板47のフック51に補助円板50の係合孔を挿入セットし円板47に補助円板50を固定すると図5(c)のように突起部52も同時に長孔49を塞ぐように嵌合する。そして調理材料53をおろし刃48によりおろすと、おろされたものは行き場がないためある程度の長さになると分離し細かくおろせることとなる。次に粗くおろす場合は、図5(d)に示すように、補助円板50を円板47より取り外せばよい。調理材料53の切削片は長孔49よりほぼ開放的に垂れ下がり、大根等ということで脆いためある程度の大きさでちぎれ粗くおろすことができる。このように、2種類のおろし度合いのものを得ることができる。」
(ク)「【図面の簡単な説明】
・・・
【図3】(a)同第3の実施例のおろしカッターの平面図
(b)同おろしカッターで調理材料の切削中を示す部分拡大断面図
(c)同おろしカッターの部分斜視図
【図4】(a)同第4の実施例のおろしカッターの平面図
(b)同おろしカッターで調理材料の切削中を示す部分拡大断面図
【図5】(a)同第5の実施例のおろしカッターの平面図
(b)同おろしカッターのフック部の断面図
(c),(d)同おろしカッターで調理材料の切削中を示す部分拡大断面図」
(ケ)【図3】(b)におけるおろし刃40の断面の様子,及び(c)において三角錐状に描かれたおろし刃40の外観から,おろし刃40は進行方向前方に円板39に対して略垂直な面を有していることが見てとれる。
「
」
(コ)「
」
(サ)「
」
(シ) 上記(イ)~(ケ)に記載された事項を総合し,実施例3の「円板39」について整理すると,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「調理器の本体20に載置される容器22を貫通し回転運動を行う回転軸21と着脱自在で回り止めされ回転運動する係合軸28と,複数個のおろし刃(突起刃)40を配した円板39とから形成されているおろしカッター27の円板39であって,
多数列に複数個設けたおろし刃(突起刃)40の列間に,溝41を円板39の回転中心付近より円板39の外周端に及ぶように配設しており,おろし刃40によりおろされたものが,溝41に落ち調理材料42とは当接しない状態となって,遠心力により外周方向へと移動し落下する,円板39」
イ 引用例2
(ア) 原査定の拒絶の理由に引用され,本願優先日前に頒布された刊行物である実願昭56-23784号(実開昭57-137408号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。
(イ)「本考案は回転駆動軸に連結された遠心分離籠の底部にカツター板が設けられていて、このカツター板上の回転中心を含むような形状をした材料投入筒がその下端を前記カツター板上のカツター小刃と近接するほどに臨ませられていて、材料がこの投入筒より前記カツター小刃に押し付けられるようにして投入され、細片状とされた材料が遠心分離籠の斜面を上つてその途中でジユースとされる時に、一般的に材料がカツター板上に押し付けられているので、従来では切削した細片状材料がスムーズに遠心力で外方へ移動する事が容易でなく目づまりすることが多く、切れが悪くなつたり、ジユース化されるのに時間が掛かつたりしていたのを簡単な方法により解決したものである。」(明細書1頁12行~2頁5行)
(ウ)「(9)は円形をしたカツター板で、そこにはカツター小刃(10)(10)…が多数個、直線的にカツター刃列(11)(11)…を作つて放射状に等角度でもつて配列されている。そしてこのカツター板(9)上に於いて前記直線的なカツター刃列(11)(11)…の夫々回転方向(a)前方には細長い凹条溝(12)(12)…が形設されている。」(明細書3頁1~6行)
(エ)「第4図のようにカツター板(9)は(a)方向に回転しているのでカツター小刃(10)(10)…が材料(P)下部に図の如く喰い込み、細片状に切り取られて行く。材料が切り取られるとその小片はカツター小刃(10)(10)…前方の凹条溝(12)(12)…内に落ち込む。そして次に遠心力の作用により材料小片は凹条溝(12)(12)…内を外周方向に次々に押しやられる。よつて切り取り材料片は凹条溝(12)(12)…内に溜まる事なく送出され、遠心分離籠(3)の傾斜面(6)を上り、そこがフイルター部となつているのでここでジユース液と粕とに分離されてジユースとされる。」(明細書4頁2~12行)
(オ)「本考案の如くカツター刃列(11)(11)…の前方に凹条溝(12)(12)…を放射状に設けると材料片(P)(P)…はスムーズに凹条溝(12)(12)…内を移動して外周方向へ押しやられるので、目づまりはなくなり切れ味の低下は免れる。又、材料(P)が第4図の様に凹条溝(12)(12)…内に入り込んで切られるので、凹条溝(12)の内壁部分(12')も有効な刃として働き、この厚み部分(t0)即ち材厚も加わつた全体の刃高さ(H)なるカツター小刃(10)となるのでカツター小刃(10)の高さ(h0)を従来刃の如く(h)ほどに高くする必要もなくなる。よつて刃を加工するのが容易となり又カツター板(9)全体の厚みも薄く出来、材料の軽減化が図られ、コスト安価となると共に、駆動力の小さいモーターで済む等の利点がある。更にカツター板(9)が軽くなる事により遠心分離籠(3)全体のアンバランス量が小さくなり、回転時の振動も減少する。」(明細書5頁9行~6頁4行)
(カ) 「
」
(キ) 「
」
(4)対比
ア 本願補正発明と引用発明との対比
本願補正発明と引用発明を対比すると,引用発明の「調理器」,「おろし刃(突起刃)40」,「(おろしカッター27の)円板39」,「多数列に複数個設けたおろし刃(突起刃)40」,「円板39の回転中心付近より円板39の外周端に及ぶように配設し」た「溝41」,「おろ」す,「おろされたもの」,「調理材料42」は,本願補正発明の「フードプロセッサ」,「すり歯」,「すり用ディスク」,「前記内側領域から前記外縁部へと向かって延在している少なくとも1本の線上に配置され」た「処理される食物をするための」「複数のすり歯」,「当該すり用ディスクの内側領域から外縁部へと延在する少なくとも1本の溝」,「する」,「食物片」,「処理される食物」にそれぞれ相当する。
また,引用発明において,「おろしカッター27」の「円板39」は,
「おろしカッター27」の「係合軸28」を介して「回転軸21」に「着脱自在で回り止めされ」ていることから,「おろしカッター27」の「係合軸28」が「容器22を貫通し回転運動を行う回転軸21と着脱自在で回り止めされ回転運動する」ことにより,「おろしカッター27」の「円板39」もまた「容器22」の内側で回転運動することとなる。このことは,「円板39」が「調理器」内に回転可能に取り付けられ,回転方向に回転することを意味している。
そして,上記(3)ア(ケ)に記載の事項である【図3】(b),(c)を参照すると,引用発明の「おろし刃(突起刃)40」は,進行方向前方((b)では右方向,(c)では手前の方向)に三角形状の面を有し,この面が「調理材料42」と当接してこれを切削するから,このことは,本件補正発明における,「前記少なくとも一つのすり歯は、前記フードプロセッサの使用の際に前記食物と交差することを意図されたすり面を有し」に相当する。
さらに,引用発明において,「おろし刃40によりおろされたものが,溝41に落ち」「遠心力により外周方向へと移動し落下する」ことは,本願補正発明において,「少なくとも1本の溝」が,「前記フードプロセッサの使用の際に、食物片を外方向へと案内するのを助けるための」ものであることに相当する。
イ 一致点
したがって,本願補正発明と引用発明とは,以下の点で一致している。
「フードプロセッサ内に回転可能に取り付けられ,回転方向に回転し,処理される食物をするための複数のすり歯を有するすり用ディスクであって,
当該すり用ディスクは,前記フードプロセッサの使用の際に,食物片を外方向へと案内するのを助けるための,当該すり用ディスクの内側領域から外縁部へと延在する少なくとも1本の溝を有し,
前記複数のすり歯は,前記内側領域から前記外縁部へと向かって延在している少なくとも1本の線上に配置され,
前記少なくとも一つのすり歯は,前記フードプロセッサの使用の際に前記食物と交差することを意図されたすり面を有する,すり用ディスク」
ウ 相違点
そして,本願補正発明と引用発明とは,以下の点で相違している。
(ア)相違点1
本願補正発明では,すり用ディスクの内側領域から外縁部へと延在する少なくとも1本の溝が,該内側領域から該外縁部へと延在する,複数のすり歯が配置される少なくとも1本の線に沿って少なくとも部分的に延在するのに対し,引用発明では,溝41が,多数列に複数個設けたおろし刃(突起刃)40の列間に配設されている点
(イ)相違点2
本願補正発明では,すり用ディスクの内側領域から外縁部へと延在する少なくとも1本の溝が,線上のすり歯のすり面と並んで延在するのに対し,引用発明では,そのような特定がない点
(5)判断
ア 相違点1についての検討
相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項である「前記少なくとも1本の溝が前記少なくとも1本の線に沿って少なくとも部分的に延在し、」に関して,広辞苑第六版の記述「そ・うソフ【沿う・添う・副う】一〔自五〕線条的なもの、または線条的に移動するものに、近い距離を保って離れずにいる意。」,及び「◇長く連なるものから離れずに進んだり続いたりする場合に『沿』を使う。」を参照して解釈すれば,上記発明特定事項は「少なくとも1本の溝」の少なくとも一部が,「少なくとも1本の線」から近い距離を保って延在することを特定したものといえる。そして,以下に述べるように,この解釈は,本願の発明の詳細な説明の記載や審判請求の理由とも矛盾しない。
本願の発明の詳細な説明の段落【0013】には,「本願明細書における『沿って』とは、『基本的に』沿っている、及び『殆ど』沿っている、を含むよう意図していることが強調されねばならない。したがって溝が、歯の並ぶ線から僅かな距離を隔てて同線に沿って延在するよう例えば配置されてもよい。」なる記載があり,段落【0027】においては,「溝28が線27の全長に沿って延在している」例として,「第1の実施例」が挙げられていることから,「第1の実施例」にあたる【図2】に記載のものは,「溝28が線27の全長に沿って延在している」ものと認められる。
また,段落【0031】では,「この第2の実施例では、溝328が必ずしも各々の格子状の歯が並ぶ線327の全長に沿って延在する必要がないことが証明される。」とされているから,「第2の実施例」にあたる【図3】に記載のものは,「溝328が」「線327の全長に沿って延在する」ものではなく,溝が「部分的に」線に沿って延在するものと考えられる。段落【0013】においては,上記引用箇所に続けて「更にまた、溝の第1の部分が、歯の並ぶ線の第2の部分に対する溝の第2の部分よりも、歯の並ぶ線の第1の部分のより近くに例えば配置されてもよい。」とも記載されており,溝と線の間隔が一様である必要はないとしている。
審判請求書の請求の理由において,審判請求人が,「引用文献1に記載された構成は、溝が、すり歯を有する線上に沿って配置されていない。そのため、すり歯から溝までに無駄な距離が空くなどして、効率よく適切に食物片を溝に誘導できない欠点がある。」と述べていることからも,溝と線が隔たり過ぎていないことが,「溝が線に沿って延在」することの必要条件であると考えられる。
引用例2の「カツター板(9)」,「凹条溝(12)(12)…」,「直線的にカツター刃列(11)(11)…を作つて放射状に等角度でもつて配列されている」「多数個」の「カツター小刃(10)(10)…」(上記(3)イ(ウ)参照)は,それぞれ本願補正発明の「すり用ディスク」,「少なくとも1本の溝」,「前記内側領域から前記外縁部へと向かって延在している少なくとも1本の線上に配置され」た「複数のすり歯」に相当する。よって,上記(3)イ(カ)も考慮すれば,引用例2には,少なくとも1本の溝が,すり用ディスクの内側領域から外縁部へと向かって延在する線であって,複数のすり歯がその上に配置された線に沿って少なくとも部分的に延在する発明が記載されている。
ここで,上記(3)ア(キ)並びにイ(イ)及び(エ)を参照すると,引用発明と引用例2に記載された発明とは,ともに回転板によって食物を「する」調理器具であって,遠心力により切削された食物片を案内するために回転板に溝を設けたものである点で共通する。そして,上記(3)イ(オ)及び(キ)のとおり,引用例2に記載された発明は,「凹条溝(12)の内壁部分(12')も有効な刃として働」くように,溝を線に近い距離を保って延在させることによって,「カツター小刃(10)の高さ(h0)を従来刃の如く(h)ほどに高くする必要」なしに「材厚も加わつた全体の刃高さ(H)」,すなわち本願でいう「実効高さ」を確保したものと認められ,これによって,コストを安価としつつ,目づまりによる切れ味の低下を免れている。
そして,コストを下げることや切れ味の低下を防ぐことは,調理器具における一般的な課題であって,引用発明においても当然に内在する課題であるといえる。よって,引用発明における溝とおろし刃列の配置について,上記一般的な課題に基づいて引用例2に記載された発明を適用し,おろし刃の高さを抑えつつ実効高さを確保することとして,相違点1に係る本願補正発明の構成を得ることは,当業者が容易に想到し得たことである。
なお,引用発明において,溝41の配設位置が必ずしもおろし刃40の列と列の中間に限られないことは,上記(3)ア(キ),(コ)及び(サ)に記載された実施例4,5からも示唆されるといえる。
イ 相違点2についての検討
相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項である「前記少なくとも1本の溝が、前記線上のすり歯の前記すり面と並んで延在する」に関して,広辞苑第六版の記述「なら・ぶ【並ぶ】一〔自五〕二つ以上のものが同じ方向に向いて同列に位置する意。1同列に揃う。」,及び「4近く接している。遠くない前後にある。」を参照して解釈すれば,上記発明特定事項は「少なくとも1本の溝」が,「線上のすり歯の」「すり面」と近接し,同じ方向に向いて延在することを特定したものと考えられる。そして,以下に述べるように,この解釈は本願の発明の詳細な説明の記載とも矛盾しない。
本願の発明の詳細な説明段落【0012】には,「すりおろし面と並んで配置された溝があると、高さを増したすりおろし面が提供されることができる点において、改善された切断特性が実現されることができる。更にまた、溝が加工された食物を外方向に運ぶので、すりおろし面の前にあるディスク領域が食物片に対してクリーンに保たれることができ、したがって、格子状の歯が最適な機能を提供できる。」及び「本願明細書における『並んで』とは、『基本的に』並んでいる、及び『近接して』並んでいることを意味している。したがって、溝は例えばすりおろし面からわずかな距離をおいて配置されてもよいし、又は例えば、湾曲した溝の第1の部分が、すりおろし面の第2の部分から離れて放射状にひろがる溝の第2の部分よりも、すりおろし面の第1の部分により近接して配置されてもよい。」と記載されており,段落【0027】においては,「格子状の歯24の切断機能を高めるために、各々の溝28が、対応する線27にある格子状の歯24のすりおろし面25と並んで延在するよう配置される」例として,「第1の実施例」が挙げられていることから,「第1の実施例」にあたる【図2】に記載のものは,「溝28が…すりおろし面25と並んで延在する」ものと認められる。
審判請求書の請求の理由において,審判請求人は,「引用文献1及び2には、すり歯が有するすり面と、溝と、が並んで延在するという特徴が開示されていない。」としているが,上記解釈に基づけば,引用例2には,溝がすり面と並んで延在する点が記載されている。すなわち,上記(3)イ(オ)及び(キ)から,引用例2の「カツター小刃(10)」のうち,「凹条溝(12)の内壁部分(12')」に連なる部分(「凹条溝(12)」に臨む部分)は,本件補正発明における「すり面」に相当するところ,「凹条溝(12)」はこの部分と近接し,同じ方向に向いて延在しているからである。
上記アで述べたように,引用発明において,溝とおろし刃列の配置について引用例2に記載された発明を適用することは,当業者が容易に想到し得たことであり,そうすることによって,溝とすり面は「近接」することとなるから,溝がすり面と「並んで」延在するもの,すなわち相違点2に係る本願補正発明の構成が得られるといえる。
ウ 本願補正発明の奏する効果について
本願補正発明の全体構成によって奏される作用効果についてみても,引用発明及び引用例2に記載された発明から当業者が予測し得る範囲内のものである。
エ まとめ
したがって,本願補正発明は,引用発明及び引用例2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6)小括
以上のとおり,本願補正発明は,本願優先日前に頒布された刊行物である引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下された。よって,本願請求項1~8に係る発明は,平成27年2月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして,その請求項1に係る発明は,上記第2 2(1)の補正前の請求項1に記載されたとおりのもの(以下「本願発明」という。)であると認める。
2 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び2,並びにその記載事項は,上記第2 2(3)に記載した引用例1及び2,並びにその記載事項のとおりである。
3 対比・判断
本願発明は,本願補正発明の,「すり歯」及び「溝」について,それぞれ「前記少なくとも一つのすり歯は、前記フードプロセッサの使用の際に前記食物と交差することを意図されたすり面を有し」及び「前記少なくとも1本の溝が、前記線上のすり歯の前記すり面と並んで延在する」との限定事項を除いたものである。そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらなる限定を付加したものに相当する本願補正発明が,上記第2 2(5)に記載したとおり,引用発明及び引用例2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用発明及び及び引用例2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 むすび
以上のとおり,本願発明は,本願優先日前に頒布された刊行物である引用例1及び2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることはできない。
よって,本願は,その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
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2015-021460