特許異議申立
2025-700529
無細胞系血漿又は血清の製造方法
- 審判番号
- 2025-700529
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-177310
- 登録番号
- 7584176
- 請求日
- 2025年05月15日
- 審決日
- 2025年10月15日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】セルプロジャパン株式会社
- 【異議申立人】荻原 守
- 審判長/審判官
- 審判長 松波 由美子
- 審判官 冨永 みどり
- 審判官 伊藤 幸司
- 分類
- P1651.537-Y (A61M) / P1651.536-Y (A61M) / P1651.113-Y (A61M) / P1651.121-Y (A61M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7584176号発明「無細胞系血漿又は血清の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7584176号の請求項1~24に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7584176号(以下「本件特許」という。)の請求項1~24に係る特許についての出願は、令和5年5月26日の出願(特願2023-86831号)の一部を、令和5年10月13日に新たな出願(特願2023-177310号)としたものであって、令和6年11月7日に特許権の設定登録がされ、同年同月15日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和7年5月15日に、その請求項1~24に係る特許に対し、特許異議申立人 荻原 守(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~24に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1~24に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項の項番に従い「本件特許発明1」~「本件特許発明24」といい、これらをまとめて「本件特許発明」という。)。
「【請求項1】
血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を5W~100Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)から細胞を除去して、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清の製造方法であって、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞血清を得る工程が、フィルタによって細胞を除去する工程を含む、製造方法。
【請求項2】
超音波破砕処理における出力が、7W~100Wである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
超音波破砕処理の時間が、5秒~30分である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)から細胞を除去して、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清の製造方法であって、超音波破砕処理が、1回で行われる、又は2回~6回に分けて行われ、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞血清を得る工程が、フィルタによって細胞を除去する工程を含む、製造方法。
【請求項5】
血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)から細胞を除去して、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清の製造方法であって、超音波破砕処理が、チップ式又はカップホーン式により、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞血清を得る工程が、フィルタによって細胞を除去する工程を含む、製造方法。
【請求項6】
フィルタが、孔径0.1μm~1μmのメンブレンフィルタである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)から細胞を除去して、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清の製造方法であって、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は血清を得る工程が、フィルタを介する遠心分離処理によって細胞を除去する工程を含む、製造方法。
【請求項8】
遠心分離処理の回転数が、500rpm~4500rpmである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
遠心分離処理をする時間が、1分~30分である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項10】
血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)から細胞を除去して、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清の製造方法であって、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)が、血液を遠心分離処理して回収された上清であり、遠心分離処理の回転数が、500~4000rpmであり、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞血清を得る工程が、フィルタによって細胞を除去する工程を含む、製造方法。
【請求項11】
血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)から細胞を除去して、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清の製造方法であって、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)が、血液を遠心分離処理して回収された上清であり、遠心分離処理の時間が、1分~30分であり、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞血清を得る工程が、フィルタによって細胞を除去する工程を含む、製造方法。
【請求項12】
血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)から細胞を除去して、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清の製造方法であって、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)が、血液を遠心分離処理して回収された上清であり、遠心分離処理を行う際の温度が、4℃~40℃であり、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞血清を得る工程が、フィルタによって細胞を除去する工程を含む、製造方法。
【請求項13】
血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)から細胞を除去して、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清の製造方法であって、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)が由来する血液が、生体からの採取から、血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を取得する処理までに、0℃~10℃において0分~144時間保存されたものであり、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞血清を得る工程が、フィルタによって細胞を除去する工程を含む、製造方法。
【請求項14】
5W~100Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)が、生体からの採取の後に血液凝固阻止剤を添加された血液から得られたものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項15】
血液凝固阻止剤が、ヘパリン塩、クエン酸又はクエン酸誘導体である、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
5W~100Wの出力で超音波破砕処理する血清(細胞を含まない血清を除く)が、生体からの採取の後に血液凝固剤を添加された血液から得られたものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項17】
VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清が、凍結乾燥物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項18】
フィルタによって細胞を除去する工程を含む製造方法によってVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清を製造するための血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)の処理産物の製造方法であって、血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を5W~100Wの出力で超音波破砕処理して、血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)の処理産物を得る工程を含む、方法。
【請求項19】
フィルタによって細胞を除去する工程を含む製造方法によってVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞血清を製造するための血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)の処理産物の製造方法であって、血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)の処理産物を得る工程を含み、超音波破砕処理が、1回で行われる、又は2回~6回に分けて行われる、方法。
【請求項20】
フィルタによって細胞を除去する工程を含む製造方法によってVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞血清を製造するための血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)の処理産物の製造方法であって、血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)の処理産物を得る工程を含み、超音波破砕処理が、チップ式又はカップホーン式による、方法。
【請求項21】
フィルタによって細胞を除去する工程を含む製造方法によってVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞血清を製造するための血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)の処理産物の製造方法であって、血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)の処理産物を得る工程を含み、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)が、血液を遠心分離処理して回収された上清であり、遠心分離処理の回転数が、500~4000rpmである、方法。
【請求項22】
フィルタによって細胞を除去する工程を含む製造方法によってVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞血清を製造するための血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)の処理産物の製造方法であって、血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)の処理産物を得る工程を含み、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)が、血液を遠心分離処理して回収された上清であり、遠心分離処理の時間が、1分~30分である、方法。
【請求項23】
フィルタによって細胞を除去する工程を含む製造方法によってVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞血清を製造するための血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)の処理産物の製造方法であって、血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)の処理産物を得る工程を含み、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)が、血液を遠心分離処理して回収された上清であり、遠心分離処理を行う際の温度が、4℃~40℃である、方法。
【請求項24】
フィルタによって細胞を除去する工程を含む製造方法によってVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞血清を製造するための血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)の処理産物の製造方法であって、血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)の処理産物を得る工程を含み、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)が由来する血液が、生体からの採取から、血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を取得する処理までに、0℃~10℃において0分~144時間保存されたものである、方法。」
第3 申立理由の概要及び証拠1 申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、下記2に示す甲第1~17号証(以下、それぞれの番号順に「甲1」等という。)を証拠方法として添付して提出し、本件特許の請求項1~24に係る特許を取り消すべきとの申し立てをしており、その理由(以下「申立理由」という。)の概要は、次に示すとおりである。
(1)申立理由1(明確性要件違反)
本件特許の請求項1~24に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(サポート要件違反)
本件特許の請求項1~24に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(実施可能要件違反)
本件特許の請求項1~24に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(新規性欠如)
ア 請求項1~24に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲14に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、当該各請求項に係る発明についての特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 請求項1~24に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲15に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、当該各請求項に係る発明についての特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)申立理由5(進歩性欠如)
ア 請求項1~24に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲14に記載された発明及び周知技術(甲9、甲11~甲13、甲15、甲16にそれぞれ記載された事項)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、当該各請求項に係る発明についての特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 請求項1~24に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲15に記載された発明及び周知技術(甲9、甲11~甲14、甲16にそれぞれ記載された事項)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、当該各請求項に係る発明についての特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 証拠方法
甲1:生化学辞典(第4版)、p.440、441、444、2007年12月10日発行、
(株)東京化学同人
甲2:岩波生物学辞典(第4版)、p.396~398、2000年3月8日発行、(株)岩波書店
甲3:本件特許出願の審査過程において令和6年7月19日に特許庁に提出された意見書
甲4:新井規仁ら、「特集/運動器の新しい治療法とリハビリテーション診療 PRP治療を併用した運動器リハビリテーション」、MB Med Reha、2022、No.280、p.14-21
甲5:新井規仁ら、「特集/多血小板血漿(PRP)の上手な使い方 整形外科疾患とPRP-PRPについての意識調査-」、PEPARS、2023、No.204、p.75-84
甲6:Dhurat,R. et al.,“Principles and Methods of Preparation of Platelet-Rich Plasma:A Review and Author’s Perspective”, Journal of Cutaneous and Aesthetic Surgery, 2014, Volume 7, Issue 4, p.189-197(及びその抄訳文)
甲7:荒木淳、「論文題目 血小板製剤を用いた創傷治療に関する研究」、博士論文、東京大学医学系研究科外科学専攻、公開日:2016年8月10日
甲8:Araki, J. et al.,“Optimized Preparation Method of Platelet-Concentrated Plasma and Noncoagulating Platelet-Derived Factor Concentrates: Maximization of Platelet Concentration and Removal of Fibrinogen”,TISSUE ENGINEERING: PartC, 2012, Volume 18, Number 3, p.176-185(及びその抄訳文)
甲9:特開2021-109875号公報
甲10:本件特許出願の審査過程において令和6年4月10日に特許庁に提出された意見書
甲11:特開2017-171597号公報
甲12:特開2019-178116号公報
甲13:特開2013-209409号公報
甲14:中国特許出願公開第107446036号明細書(及びその抄訳文)
甲15:中国特許出願公開第110028571号明細書(及びその抄訳文)
甲16:米国特許出願公開第2007/0280959号明細書(及びその抄訳文)
甲17:本件特許公報
第4 当審の判断
当審は、本件請求項1~24に係る特許は、上記第3に示した申立理由及び証拠によっては、取り消すことはできないと判断する。その理由は以下のとおりである。
1 申立理由1(明確性要件違反)について
(1)判断の前提
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載のみならず、本件特許明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかという観点から判断されるべきである。
(2)判断
ア 申立人の主張
申立人は、以下の点を主張する。
(ア)「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)」との記載について
「血漿」との用語は、「血液から赤血球、白血球、血小板等の血球を取除いた液体成分」を意味し、「多血小板血漿」との用語は、「遠心分離によって調製され、血小板を多く含む血漿」を意味するものと解されるところ、「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)」との記載は、血小板を実質的に含まないことを前提とする「血漿」から、血小板を含むことを前提とする「多血小板血漿」を除外しようとするものであって、技術的に矛盾しており、その意味内容を明確に理解できない。
(イ)「血清(細胞を含まない血清を除く)」との記載について
「血清」との用語は、「血漿からフィブリノゲン等の血液凝固因子を取除いたもの」を意味するところ、「血清」が、実質的に細胞を含まないことは当然であって、「細胞を含まない血清」という表現自体当業者にとって意味をなさないのであるから、「細胞を含まない血清を除く」という限定によって、「血清」からどのような血清を除外しようとするものなのか、技術的に理解できない。
イ 本件特許の出願時の技術常識について
(ア)血漿及び血清について
a 血漿について
血漿に関し、生化学に関する技術用語を集約した辞典である甲1には、「血液中から血球を取除いた成分.通常は血液凝固阻止剤を加えて遠心することより血球が沈殿するので、上に透明な淡黄色の液体として得られる.遠沈条件を軽くすると血小板を多く含んだ血漿(platelet-rich plasma)が得られる.」と記載され、また、同じく生化学に関する技術用語を集約した辞典である甲2にも、「血液の液性成分.[1]脊椎動物では、新鮮な全血から赤血球その他の有形成分を除いた部分に相当する.採血後、直ちに蓚酸塩などの血液凝固防止剤を加えるか、あるいは低温に保って血液凝固の進行を阻止したのち、放置または遠心操作によって有形成分を分離すれば、上清として淡黄色の血漿をうる.」と記載されている。
そうすると、血漿とは、血液から赤血球その他の有形成分を取除いた液性成分であり、採血後の血液から、血液凝固の進行を防止したのち、遠心操作等により分離することにより得られる上清であって、その分離の条件によって、血小板を多く含んだ態様も、細胞を全く含まない態様も包含し得ることは、本件特許の出願時の技術常識であったものと認められる。
b 血清について
血清に関し、甲1には、「血液から血球といくつかの血液凝固因子[フィブリノーゲン(I因子)、プロトロンビン(II因子)、V因子、VIII因子など]を取除いたもの」と記載され、また、甲2にも、「血液から凝固成分をとり除いた部分」であり「その成分はほぼ血漿からフィブリノゲンを除いたものにあたる」と記載されている。
そうすると、血清とは、血液から赤血球その他の有形成分を取除いた液性成分から更に血液凝固因子を取除いたものであることは、本件特許の出願時の技術常識であったものと認められる。
(イ)多血小板血漿について
a 甲4~甲9、甲12、甲13に記載された事項
甲4~甲9、甲12、甲13には次の記載がある。なお、「・・・」は記載の省略を表す。
(a) 甲4
・甲4a(14頁左欄3段落)
「PRPは末梢血を遠心分離して得られる「血小板を多量に含有する血漿分画」と定義され2)、成長因子などが生体内のバランスを保った状態で複合的に作用することにより、運動器組織の修復を促進すると考えられている.」
・甲4b(14頁右欄1~2段落)
「2.PRPに含まれる生理活性物質
成長因子は損傷組織において細胞の遊走・増殖・分化を調整する役割を担っている.血小板内のα顆粒内にはplatelet-derived growth factor (PDGF)、transforming growth factor-β(TGF-β)、 vascular endothelial growth factor(VEGF)、epidermal growth factor(EGF)、fibroblast growth factor(FGF)などの成長因子が含まれる.また、血漿中にはhepatocyte growth factor(HGF)、insulin-like growth factor-1(IGF-1)などが含まれる(表1)3).
3.PRPの分類
一般にPRPといってもその成分は調整方法によって大きく異なり、その分類も様々である.白血球(leukocyte)を含むか否か、フィブリン(fibrin)として使用するか否かで4つのPRPに分類できる(表2)4).」
(b) 甲5
・甲5a(75頁左欄1段落)
「その成長因子を多く含む自己由来産物として、多血小板血漿(platelet-rich plasma:PRP)が挙げられる.PRPは全血を遠心分離して得られる「血小板を多量に含有する血漿分画」と定義1)され、血小板にあるα顆粒内の様々な成長因子と血漿内の成長因子や接着因子・糖蛋白が生体内のバランスを保った状態で複合的に作用することにより、腱・靱帯・軟骨などの運動器組織の再生を促進すると考えられている.」
・甲5b(75頁右欄1段落)
「一概にPRPと言ってもその成分は調整方法によって大きく異なり、その分類も様々である.Dohan Ehrenfestら2)」は、白血球を含むか否か、フィブリンとして使用するか否かで4つのPRPに分類し、DeLongら3)は調整されたPRPの成分と活性化方法によって分けるPAW分類を提唱した.臨床的にはbuffy-coatと呼ばれる白血球層を含むか否かで、その対象疾患を使い分けていることが多い.」
(c) 甲6(抄訳文による。)
・甲6a(要約)
「PRPは長年にわたり使用されていますが、血小板濃縮物のさまざまなバリエーションを定義・分類・説明するための適切な用語に関しては依然として混乱がある。また、PRPの標準化および調製に関して報告されているプロトコルには大きなばらつきがあり、多くの文献では試験された製品の正確な特性評価がなされていないという問題もある。」
・甲6b(190頁左欄2段落)
「分類
PRP(多血小板血漿)に関する文献は非常に多く存在するが、発表されている結果はしばしば矛盾している。これは、数多くの調製技術、用語、製剤形態、さらには無限に存在する応用可能性のために、既存のデータを整理し解釈することが極めて困難であることに起因する。」
・甲6c(190頁右欄5段落~191頁左欄1段落)
「PRPの調製方法には多くの手法が存在する。PRP法またはバフィーコート法によって調製することができる。
PRP法では、まず最初に遠心分離を行って赤血球(RBC)を分離し、その後、2回目の遠心分離によって血小板を濃縮する。濃縮された血小板は、最小限の血漿量に懸濁される。」
(d) 甲7
・甲7a(4頁1段落~5頁1段落)
「血小板製剤、特に多血小板血漿(Platelet-rich plasma;PRP)は、血液を分離することによって得られる、血小板を多く含む血漿のことである。・・・使用の際には静脈より採取した全血から1回目の遠心にてPRPを分離し、2回目の遠心で濃縮する。1回目は血小板が血球層に落ち込まないように弱く、2回目は血小板を底に落とすために強く遠心を行う。本研究では2回遠心後上清を除去し体積を減らすことによって濃縮されたPRPをPlatelet-Concentrated Plasma(PCP)とし、1回目の遠心後の通常のPRPと区別した。」
(e) 甲8(抄訳文による。)
・甲8a(176頁右欄2段落~177頁1段落)
「治療目的においては、全血(WB)から単回の遠心分離で得られたPRPを、さらにもう一度遠心分離して濃縮することがよく行われている。最初の遠心分離は、血小板が沈降しないように低速で行われ、一方で2回目の遠心分離は血小板を沈降させるために高速で実施される。本研究においては、2回目の遠心操作によって濃縮されたPRPを、通常のPRPと区別するために「血小板濃縮血漿(PCP:platelet-concentrated plasma)」と呼ぶこととする。」
(f) 甲9
・甲9a(【0002】)
「【0002】
多血小板血漿(platelet-rich plasma,PRP)は、ヒトまたは動物の全血を遠心することによって得られる高濃度の血小板を有する血漿であり、血小板溶解物は、多血小板血漿をさらに処理した派生物質で、再生に関わる多種の成長因子を含む。したがって、多血小板血漿および血小板溶解物は、再生医学に応用できることがわかっている。」
・甲9b(【0040】)
「【0040】
その後、ステップc)を実行し、第1上層部12(または第2上層部13)と中間部14を混合して、多血小板血漿(platelet-rich plasma,PRP)部15を得る。本実施形態において、第1上層部12(または第2上層部13)と中間部14を混合する方法は、例えば、遠心管30を均一に揺動させて、第1上層部12(または第2上層部13)と中間部14を混合する方法である。しかし、本発明はこれに限定されず、第1上層部12(または第2上層部13)と中間部14を均一に混合できる方法であれば、いずれもこのステップにおいて応用することができる。」
(g) 甲12
・甲12a(【0002】)
「【0002】
自己の血液を遠心分離することで調製される血小板を濃縮した血漿、多血小板血漿(planet rich plasma:以下、「PRP」とも呼ぶ)を用いる治療法がある。」
・甲12b(【0023】~【0029】)
「【0023】
本発明の方法は、血液から多血小板血漿を分離する工程を含む。
【0024】
この工程の間において、血液および多血小板血漿の温度は、約4~約25℃に制御することが好ましい。
【0025】
血液(全血)から多血小板血漿を分離する手段に制限はなく、公知の任意の手段が使用可能である。通常は、血液について比較的低速度の第1の遠心分離処理を施して、赤血球を含む画分と、多血小板血漿(PRP)と、少血小板血漿(platelet poor plasma)とに分離して得られる。
【0026】
比較的低速度の第1の遠心分離処理は、約100~約1000G(通常の遠心分離器においては約200~約2000rpm程度に相当)の遠心分離である。約150~約750G、約200~約500Gとしてもよい。処理時間は約3~約30分、約5~約20分、約10~約15分である。
【0027】
比較的低速度の第1の遠心分離処理単独によって多血小板血漿を取得してもよい。また上清である血漿画分全て(多血小板血漿および少血小板血漿)を回収した後、第2の遠心分離処理を施して多血小板血漿を得てもよい。
【0028】
第1の遠心分離処理後に回収した血漿画分について比較的高速度の第2の遠心分離処理によって血小板をペレット化させ、その後再懸濁させることで純化・濃縮化することができる。
【0029】
比較的高速度の第2の遠心分離処理は、約1000~約2500G(通常の遠心分離器においては約2000~約5000rpm程度に相当)の遠心分離である。約1100~約2000G、約1200~約1500Gとしてもよい。処理時間は約1~約30分、約5~約20分、約10~約15分である。」
・甲12c(【0068】、【0069】)
「【0068】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
(検体1~4の作製)
4人(男性1人、女性3人)の協力者からそれぞれ約40mLの全血を採取した。これらを恒温槽において4℃で一晩(約16時間)冷蔵保存した。保存後、第1の遠心分離処理(1200rpm(280G相当)、10分間、24℃)を行い、上清である血漿(約20mL)を回収した。この血漿について第2の遠心分離処理(2680rpm(1400G相当)、10分間、24℃)を行い、上清(血漿)を除去した(約1mLの上清は残した)。残った上清によってペレットを再懸濁させ、再懸濁液(多血小板血漿)を得た。この1mLの多血小板血漿に対して、5mLの後述する所定バッファー液および1.5mLの2%塩化カルシウム水溶液(ニプロ株式会社製、商品名:塩化カルシウム注2%「NP」)を添加し、よく撹拌して、7.5mLの多血小板血漿を得た。これを25℃において20分静置した。この間、カルシウムイオンによって血小板が活性化され、PDGFが血小板から放出された。」
(h) 甲13
・甲13a(【0020】)
「【0020】
ここで、本発明における「血液」とは、少なくとも血小板を含み、血球(赤血球、白血球)と液体成分である血漿(血清)からなる全血、及びこれらの少なくとも1種を含んだ液体(例えば成分献血で採取された血液)をいう。
また、「血清」とは、採取した血液を放置すると流動性が低下し、その後に赤い凝固塊(血餅)から分離される淡黄色の液体、又は細胞増殖因子を多く含む淡黄色の血液の液性成分をいう。
また、「多血小板血漿」とは、通常の全血中の血小板濃度よりも、より多くの血小板を含む血液の液性成分をいう。」
b 「多血小板血漿」についての技術常識について
上記甲4~甲9、甲12、甲13の記載からみて、「多血小板血漿」とは、血液を遠心分離して得られる「血小板を多量に含有する血漿分画」であって、甲12に「比較的低速度の第1の遠心分離処理単独によって多血小板血漿を取得してもよい。また上清である血漿画分全て(多血小板血漿および少血小板血漿)を回収した後、第2の遠心分離処理を施して多血小板血漿を得てもよい。」(甲12b)とあるとおり、血液を比較的低速度で遠心分離処理し、その上清として回収される「血漿画分全て」が、多血小板血漿と少血小板血漿を含むものであるのに対し、「多血小板血漿」は、少血小板血漿を含まないものである点において、別異のものであることは、本件特許の出願時の技術常識であったものと認められる。
ウ 検討
(ア)「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)」との記載について
「血漿」とは、一般に、「血液から赤血球その他の有形成分を取除いた液性成分」と定義され、「採血後の血液から、血液凝固の進行を防止したのち、遠心操作等により分離すること」により得られるものであり、その分離の条件によって、「多血小板血漿」及び「少血小板血漿」を含む「血漿画分全て」である態様も、「多血小板血漿」である態様も、「細胞を含まない血漿」である態様も包含するものである(上記イ(ア)a)。
他方、「多血小板血漿」とは、一般に、血液を遠心分離して得られる「血小板を多量に含有する血漿分画」と定義され、「多血小板血漿及び少血小板血漿」を含む「血漿画分全て」から、更に分離回収されるものである(上記イ(イ)b)。
そうすると、「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)」との記載は、「血液から赤血球その他の有形成分を取除いた液性成分」であって、「多血小板血漿」及び「少血小板血漿」を含む「血漿画分全て」である態様も、「多血小板血漿」である態様も、「細胞を含まない血漿」である態様も包含する「血漿」から、「多血小板血漿」である態様と、「細胞を含まない血漿」である態様を除くものであり、請求項の記載がそれ自体で明確であるといえる。
この点、本件特許明細書中にこれと異なる用語の定義又は説明があるかどうかを検討すると、本件特許明細書には、
「【0009】
血漿成分は遠心分離することで簡単に回収できるため成長因子の増量を目的とした加工知見が乏しく、また、試薬などの添加物は安全性の観点からできるだけ避けることが好ましい。」、
「【0022】
本発明の製造方法において、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿又は血清は、好ましくは、血液を遠心分離処理して回収された上清である。ここで、遠心分離処理の回転数は、好ましくは、500~4000rpmであり、より好ましくは、1000~4000rpmであり、更に好ましくは、1000~2000rpmであり、更に好ましくは、1000~1500rpmである。」、
「【0029】
実施例1:
成人男性(1名)の協力者から約40mLの全血を採取し、採取した全血を血液抗凝固剤入りスピッツであるヘパリン管(株式会社ビー・エム・エル)に入れ、転倒混和をした後、保管した。なお、当該ヘパリン管には、血液凝固阻止剤であるヘパリンナトリウムやACD液(成分:クエン酸ナトリウム水和物、クエン酸水和物、ブドウ糖)が含まれる。これらを恒温槽において4℃で一晩(約16時間)冷蔵保存した。冷蔵保存後、遠心分離処理(1300rpm、10分間、24℃)を行い、上清である血漿(約20mL)を回収した。非滅菌タイプの超音波発生機(超音波ホモジナイザー)(トミー精工、HandySonic、UR-20P)を用いて、この血漿について超音波破砕処理を出力0W、2W、又は10Wで、それぞれ10秒間を3回ずつ処理することで3種類の検体を得た。超音波破砕処理後、これをシリンジに移し替え、孔径0.22μmのメンブレンフィルタによってフィルタリングして、細胞成分を除去した。このフィルタリングによってフィルタ上に残留する血球系細胞と、フィルタを通過した液体(無細胞系血漿)とに分離された。約18mLの無細胞系血漿を2mLずつ9本のバイアルに分注して-80℃で冷凍保管して検体を得た。」(下線は、当審合議体が付した。)
との記載があり、上記用語の解釈と異なる用語ないし説明がされているわけではない。
したがって、本件特許発明の「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)との記載は、それ自体明確であり、特許請求の範囲の記載のみならず、本件特許明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎とすれば なおのこと、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(イ)「血清(細胞を含まない血清を除く)」との記載について
前記イ(ア)bのとおり、「血清」とは、「血漿」から血液凝固因子を取除いたものであり、当該「血漿」は、分離の条件によって、「多血小板血漿」及び「少血小板血漿」をともに含む「血漿画分全て」である態様も、「多血小板血漿」である態様も、「細胞を含まない血漿」である態様も包含するものであるから、「血漿」から血液凝固因子を取り除いた「血清」が、血小板を含む態様も、血小板その他の細胞を含まない態様も包含することは明らかである。そうすると、本件特許発明における「血清(細胞を含まない血清を除く)」との記載は、血小板を含む態様や、血小板その他の細胞を含まない態様をも包含する血清から、「細胞を含まない血清」を除外することを特定するものであるから、何ら技術的に矛盾するものではなく、その意味内容は技術的に明確である。
そうしてみると、本件特許発明の「血清(細胞を含まない血清を除く)」との記載は、それ自体明確であり、特許請求の範囲の記載のみならず、本件特許明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎とすればなおのこと、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(3)まとめ
したがって、本件特許発明1~24は明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に適合するから、申立理由1によっては本件特許発明1~24に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(サポート要件違反)について
(1)判断の前提
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件特許発明が解決しようとする課題
本件特許発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0001】~【0009】にあるとおり、「VEGF、IGF1などの成長因子を濃縮した無細胞系血漿又は血清の製造が求められる」ところ、「成長因子を濃縮する方法として超音波処理を用いることは、現実の実験結果の裏付けはなく、抽象的に提案され」るにとどまり、「血漿成分は遠心分離することで簡単に回収できるため成長因子の増量を目的とした加工知見が乏しく、また、試薬などの添加物は安全性の観点からできるだけ避けることが好まし」く、「さらに、遠心分離後の血漿分画には様々なタンパク質成分などが含まれるため、フィルタ濾過などを行う無細胞処理工程で目詰まりすることがしばしば見られる」といった、「血漿加工サービスの課題となっている」との技術的背景のもとなされたものであって、その解決しようとする課題は、【0010】に記載されるとおり、「フィルタ濾過の際に目詰まりを起こさず、短い時間で濾過を行うことができ、フィルタ交換が不要であるなど、優れた操作性をもって、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿又は血清を製造することができる方法を提供すること」にあると認められる。
(3)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明について以下の記載がある。なお、下線は当審合議体が付したものであり、「・・・」は記載の省略を示す。
ア 【0009】
「【0009】
血漿成分は遠心分離することで簡単に回収できるため成長因子の増量を目的とした加工知見が乏しく、また、試薬などの添加物は安全性の観点からできるだけ避けることが好ましい。さらに、遠心分離後の血漿分画には様々なタンパク質成分などが含まれるため、フィルタ濾過などを行う無細胞処理工程で目詰まりすることがしばしば見られる。このような点が、血漿加工サービスの課題となっている。」
イ 【0011】
「【0011】
本発明者は、鋭意検討したところ、意外なことに、5W~500Wの出力で超音波破砕処理をして、超音波破砕処理後の血漿又は血清を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿又は血清から細胞を除去して、無細胞系血漿又は血清を得る工程を含む方法により、優れた操作性をもって、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿又は血清を製造することができることを見出した。成長因子のうち、VEGFやIGF1については、超音波処理をしても、これらを濃縮した無細胞系血漿又は血清を製造することができず、むしろ、超音波処理をすると無細胞系血漿又は血清におけるこれらの含有量が低下することが認められていたことに鑑みれば、本発明者が見出したこの知見は、きわめて意外なことである。」
ウ 【0013】
「【0013】
より具体的な態様の本発明の製造方法によれば、フィルタ濾過の際に目詰まりを起こさず、短い時間で濾過を行うことができ、フィルタ交換が不要であるなど、優れた操作性をもって、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿又は血清を製造することができる。これは、遠心分離後の血漿又は血清分画にタンパク質の複合体などが混在することで、フィルタの目詰まりなどが生じてその後の処理を煩雑にして、VEGF又はIGF1の濃度を低下させていることを、5W~500Wの出力での超音波破砕処理が解消するためであると推察される。」
エ 【0015】~【0026】
「【0015】
本発明は、血漿又は血清を5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿又は血清を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿又は血清から細胞を除去して、無細胞系血漿又は血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿又は血清の製造方法を提供する。
【0016】
超音波破砕処理における出力は、好ましくは、5W~500Wであり、好ましくは、7W~500Wであり、好ましくは、10W~500Wであり、より好ましくは、5W~400Wであり、より好ましくは、7W~400Wであり、より好ましくは、10W~400Wであり、更に好ましくは、5W~300Wであり、更に好ましくは、7W~300Wであり、更に好ましくは、10W~300Wであり、更に好ましくは、5W~200Wであり、更に好ましくは、7W~200Wであり、更に好ましくは、10W~200Wであり、更に好ましくは、5W~100Wであり、更に好ましくは、7W~100Wであり、更に好ましくは、10W~100Wである。
【0017】
超音波破砕処理の時間は、好ましくは、1秒~45分であり、より好ましくは、1秒~30分であり、より好ましくは、5秒~30分であり、更に好ましくは、10秒~30分であり、更に好ましくは、1秒~10分であり、更に好ましくは、5秒~10分であり、更に好ましくは、10秒~10分であり、更に好ましくは、1秒~5分であり、更に好ましくは、5秒~5分であり、更に好ましくは、10秒~5分である。超音波破砕処理の時間は、例えば、1秒~1分や、5秒~1分や、10秒~1分や、1秒~40秒や、5秒~40秒や、10秒~40秒などでもよい。なお、超音波破砕処理の時間は、超音波破砕処理が複数回に分けて行われる場合には、当該複数回行われる超音波破砕処理の時間の合計を言う。
【0018】
超音波破砕処理は、1回で行われてもよく、分けて行われてもよく、好ましくは、2回~10回に分けて行われ、より好ましくは、2回~8回に分けて行われ、更に好ましくは、2回~6回に分けて行われ、更に好ましくは、2回~4回に分けて行われる。
【0019】
超音波破砕処理は、制限はなく、公知の超音波破砕処理を含め、任意の超音波破砕処理が使用可能であるが、好ましくは、チップ式(例えば、トミー精工、UD-100)又はカップホーン式(例えば、トミー精工、UD-211)による。チップ式としては、例えば、超音波発生器(細長い棒)を検体に直接入れて処理するものが挙げられる。そのため、1W~50Wなどの低いW数で効率的に処理することができる。チップ式による超音波破砕処理における出力は、好ましくは、5W~100Wであり、好ましくは、7W~100Wであり、より好ましくは、5W~90Wであり、より好ましくは、7W~90Wであり、更に好ましくは、5W~70Wであり、更に好ましくは、7W~70Wであり、更に好ましくは、5W~50Wであり、更に好ましくは、7W~50Wであり、更に好ましくは、5W~30Wであり、更に好ましくは、7W~30Wである。カップホーン式としては、例えば、水浴槽全体を超音波振動させ、そこに浸かった検体入りチューブを、チューブ壁面を超えて処理するものが挙げられる。したがって、100W~500Wなどの高い出力が求められる。カップホーン式による超音波破砕処理における出力は、好ましくは、10W~500Wであり、より好ましくは、20W~400Wであり、更に好ましくは、30W~300Wであり、更に好ましくは、40W~250Wであり、更に好ましくは、50W~200Wである。なお、超音波破砕処理は、例えば、滅菌下又は非滅菌下で行われる。
【0020】
超音波破砕処理後の血漿又は血清から細胞を除去して、無細胞系血漿又は血清を得る工程としては、例えば、加熱処理を行う工程、酸処理を行う工程のほか、フィルタによって細胞を除去する工程などが挙げられる。これらのうち、成長因子の変性を招くリスクが小さいことからフィルタによって細胞を除去する工程が好ましい。ここで、フィルタは、血球系細胞を除去できるものであれば制限はないが、血球系細胞の最小サイズは血小板の約2μmであるため、フィルタとしては、好ましくは、孔径が1μm以下である、より好ましくは、孔径が0.7μm以下である、更に好ましくは、孔径が0.5μm以下である、メンブレンフィルタを使用することができる。なお、メンブレンフィルタの孔径の下限値に制限はないが、過度に小さいものは目詰まりを起こすリスクが大きくなる。そのため、孔径は、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましい。通常市販されているメンブレンフィルタのうち、この範囲を満たすものとしては、孔径が約0.2μmのメンブレンフィルタと、孔径が約0.45μmのメンブレンフィルタがあり、本発明においては、いずれも使用することができる。フィルタとしては、例えば、ミリポア社によるマイレクスGV(SLGVR33RS)などのシリンジに取り付けて手押しで濾過するものが挙げられる。
【0021】
また、超音波破砕処理後の血漿又は血清から細胞を除去して、無細胞系血漿又は血清を得る工程は、好ましくは、フィルタを介する遠心分離処理によって細胞を除去する工程を含む。フィルタとしては、前述と同様のフィルタが挙げられる。遠心分離処理の回転数は、好ましくは、500rpm~4500rpmであり、より好ましくは、750rpm~4000rpmであり、更に好ましくは、1000rpm~3000rpmであり、更に好ましくは、1500rpm~2000rpmである。遠心分離処理をする時間は、好ましくは、1~30分であり、より好ましくは、3~20分であり、更に好ましくは、4~15分であり、更に好ましくは、5~10分である。
【0022】
本発明の製造方法において、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿又は血清は、好ましくは、血液を遠心分離処理して回収された上清である。ここで、遠心分離処理の回転数は、好ましくは、500~4000rpmであり、より好ましくは、1000~4000rpmであり、更に好ましくは、1000~2000rpmであり、更に好ましくは、1000~1500rpmである。遠心分離処理の時間は、好ましくは、1~30分であり、より好ましくは、5~30分であり、更に好ましくは、5~15分である。遠心分離処理を行う際の温度は、好ましくは、4℃~40℃であり、より好ましくは、4℃~30℃であり、更に好ましくは、4℃~25℃である。遠心分離処理を行う際の温度は、10℃~40℃や、15℃~30℃や、20℃~25℃であってもよい。
【0023】
上記の遠心分離処理される血液など、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿又は血清が由来する血液は、生体からの採取から、遠心分離処理などの血漿又は血清を取得する処理までに、保存される時間が0分であることが好ましいが、1分~144時間保存されたものであってもよく、より好ましくは、2分~120時間保存されたものであってもよく、更に好ましくは、3分~96時間保存されたものであってもよく、更に好ましくは、4分~72時間保存されたものであってもよい。保存する際の温度は、例えば、0℃~10℃であり、より好ましくは、2℃~8℃であり、更に好ましくは、4℃~6℃であり、更に好ましくは、4℃~5℃である。本発明の製造方法は、これらの保存によっても大きな変化が生じず、検体である血液の輸送の必要に応えることができる。ここで、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿又は血清が由来する血液は、好ましくは、血液凝固阻止剤又は血液凝固剤を添加された血液である。この場合には、保存する時間の始期は、血液凝固阻止剤又は血液凝固剤を添加した時としてもよい。
【0024】
本発明の製造方法において、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿は、好ましくは、生体からの採取の後に血液凝固阻止剤を添加された血液から得られたものである。ここで、血液凝固阻止剤としては、例えば、ヘパリンナトリウムなどのヘパリン塩;クエン酸水和物などのクエン酸;クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム水和物などのクエン酸塩、クエン酸デキストロースなどのクエン酸誘導体;EDTA-2Na、EDTA-2KなどのEDTA塩などが挙げられる。
【0025】
本発明の製造方法において、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血清は、例えば、血液凝固剤を使わない血餅形成により得られたものであってもよいが、生体からの採取の後に血液凝固剤を添加された血液から得られたものであってもよい。ここで、血液凝固剤としては、例えば、トロンビン、フィブリノーゲンなどが挙げられる。
【0026】
血液凝固阻止剤又は血液凝固剤を添加する血液は、生体からの採取の後であって、血液凝固阻止剤又は血液凝固剤を添加する前に、保存されたものであってもよい。ここで、保存する時間は、好ましくは、0分~72時間であり、より好ましくは、0分~48時間であり、更に好ましくは、0分~24時間であり、更に好ましくは、0分~1時間である。保存する際の温度は、好ましくは、0℃~10℃であり、より好ましくは、1℃~8℃であり、更に好ましくは、2℃~6℃であり、更に好ましくは、3℃~5℃である。本発明の製造方法は、これらの保存によっても大きな変化が生じず、検体である血液の輸送の必要に応えることができる。
オ 【0029】~【0032】
「【0029】
実施例1:
成人男性(1名)の協力者から約40mLの全血を採取し、採取した全血を血液抗凝固剤入りスピッツであるヘパリン管(株式会社ビー・エム・エル)に入れ、転倒混和をした後、保管した。なお、当該ヘパリン管には、血液凝固阻止剤であるヘパリンナトリウムやACD液(成分:クエン酸ナトリウム水和物、クエン酸水和物、ブドウ糖)が含まれる。これらを恒温槽において4℃で一晩(約16時間)冷蔵保存した。冷蔵保存後、遠心分離処理(1300rpm、10分間、24℃)を行い、上清である血漿(約20mL)を回収した。非滅菌タイプの超音波発生機(超音波ホモジナイザー)(トミー精工、HandySonic、UR-20P)を用いて、この血漿について超音波破砕処理を出力0W、2W、又は10Wで、それぞれ10秒間を3回ずつ処理することで3種類の検体を得た。超音波破砕処理後、これをシリンジに移し替え、孔径0.22μmのメンブレンフィルタによってフィルタリングして、細胞成分を除去した。このフィルタリングによってフィルタ上に残留する血球系細胞と、フィルタを通過した液体(無細胞系血漿)とに分離された。約18mLの無細胞系血漿を2mLずつ9本のバイアルに分注して-80℃で冷凍保管して検体を得た。
【0030】
得られた検体についてELISA法によって成長因子であるVEGFとIGF1の濃度を解析した。VEGFについての結果を図1に示し、IGF1についての結果を図2に示す。図1及び図2において、条件1は、0W(未処理)の超音波破砕を処理した検体についての結果である。条件4は、10Wで10秒間の超音波破砕を3回処理した検体についての結果である。条件5は、2Wで10秒間の超音波破砕を3回処理した検体についての結果である。
【0031】
図1及び図2に示すように、2Wで10秒間の超音波破砕処理を3回行うなど、2Wなどの出力で超音波破砕処理を行う場合には、サイトカインであるVEGFの濃度は高くなるどころか、むしろ、低くなるものであったにもかかわらず、全く意外なことに、10Wで10秒間の超音波破砕処理を3回行うなど、10Wなどの出力で超音波破砕処理を行うことにより、サイトカインであるVEGFの濃度が高くなることが分かり、サイトカインであるIGF1の濃度についても同様の傾向が認められた。
【0032】
また、0.22μmフィルタなどの濾過においては、超音波破砕処理することによってスムーズな濾過が可能であった。すなわち、0Wでは濾過をするにあたり、15秒の濾過時間を要し、時にはフィルタ目詰まりによる交換が必要だったが、2Wの場合には同条件において5秒で濾過を行うことができ、5W(合議体註解:「10W」の誤記)の場合には1秒で濾過を行うことができ、また、フィルタ交換の必要性はなく、本工程に要する時間が大幅に減縮した。」
カ 【図1】
「
[図:0001430025000001.jpg]
」
キ 【図2】
「
[図:0001430025000002.jpg]
」
(4)本件特許発明1について
ア 判断
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には、前記(3)ア~エにあるとおり、「血漿成分は遠心分離をすることで簡単に回収できる」ところ、「好ましくは、生体からの採取の後に血液凝固防止剤を添加された」「血液を遠心分離処理して回収された上清」である「血漿」又は「例えば、血液凝固剤を使わない血餅形成により得られ」る、あるいは「生体からの採取の後に血液凝固剤を添加された血液から得られ」る「血清」を、「5W~500Wの出力で」、「公知の超音波破砕処理を含め、任意の超音波破砕処理」、「好ましくは、チップ式」「又はカップホーン式」による「超音波破砕処理して、超音波破水処理後の血漿又は血清を得る工程、及び得られた超音波破砕処理の血漿又は血清から」「フィルタによって細胞を除去して、無細胞系血漿又は血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿又は血清の製造方法」により、「フィルタ濾過の際に目詰まりを起こさず、短い時間で濾過を行うことができ、フィルタ交換が不要であるなど、優れた操作性をもって、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿又は血清を製造することができる」ことが記載されている。そして、上記製造方法により、VEGF又はIGF1を濃縮することができるメカニズムとして、「遠心分離後の血漿又は血清分画にタンパク質の複合体などが混在することで、フィルタの目詰まりなどが生じてその後の処理を煩雑にして、VEGF又はIGF1の濃度を低下させていることを、5W~500Wの出力での超音波破砕処理が解消するためである」と説明されている。
そして、これを具現化した実施例として、「実施例1」には、「成人男性(1名)の協力者から約40mLの全血を採取し、採取した全血を血液抗凝固剤入りスピッツであるヘパリン管(株式会社ビー・エム・エル)に入れ、転倒混和をした後、保管し」「恒温槽において4℃で一晩(約16時間)冷蔵保存した」「後、遠心分離処理(1300rpm、10分間、24℃)を行い、上清である血漿(約20mL)を回収し」、「非滅菌タイプの超音波発生機(超音波ホモジナイザー)(トミー精工、HandySonic、UR-20P)を用いて、この血漿について超音波破砕処理を出力」「10Wで、」「10秒間を3回ずつ処理」し、「検体を得」、「超音波破砕処理後、これをシリンジに移し替え、孔径0.22μmのメンブレンフィルタによってフィルタリングして、細胞成分を除去し」、「このフィルタリングによってフィルタ上に残留する血球系細胞と、フィルタを通過した液体(無細胞系血漿)とに分離され」、「約18mLの無細胞系血漿を2mL」「のバイアルに分注して-80℃で冷凍保管して検体を得」、この「得られた検体についてELISA法によって成長因子であるVEGFとIGF1の濃度を解析した」ところ、「VEGFについての結果」である「図1」、「IGF1についての結果を」である「図2」に「示すように、」「10Wで10秒間の超音波破砕を3回処理した検体についての結果である」「条件4」では、「0W(未処理)の超音波破砕を処理した検体についての結果である」「条件1」、「2Wで10秒間の超音波破砕を3回処理した検体についての結果である」「条件5」に比して、「サイトカインであるVEGFの濃度が高くな」り、「サイトカインであるIGF1の濃度についても同様の傾向が認められ」たこと、また、「0.22μmフィルタなどの濾過においては、超音波破砕処理することによってスムーズな濾過が可能であ」り、「すなわち、0Wでは濾過をするにあたり、15秒の濾過時間を要し、時にはフィルタ目詰まりによる交換が必要だったが、2Wの場合には同条件において5秒で濾過を行うことができ、5W(合議体註解:「10W」の誤記)の場合には1秒で濾過を行うことができ、また、フィルタ交換の必要性はなく、本工程に要する時間が大幅に減縮した」が具体的なデータによる裏付けとともに記載されている(前記(3)オ~キ)。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、生体から採取された血液を、1300rpm程度の遠心分離により回収された上清である血漿に対し、超音波破砕処理を施すことによって、遠心分離後の血漿又は血清分画に混在するタンパク質の複合体などによるフィルタの目詰まりを防止したうえで、フィルタ濾過により細胞を除去することで、フィルタ濾過の際に目詰まりを起こすことなく短時間で濾過を行うことができ、フィルタ交換を必要とせずにVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿を調製できることを、当業者が認識できるように記載されているといえる。
そして、上記1(2)イのとおりの本件特許の出願時の技術常識に照らせば、上記実施例1において具体的に開示された1300rpm程度の遠心分離によって回収した「上清である血漿」は、いわゆる「多血小板血漿」ではなく、多血小板血漿と少血小板血漿を含む「血漿画分全て」であると解され、甲1のとおり、血小板とは「血液中に存在する直径2~3μmの無核の扁平な細胞」であるから、多血小板血漿と少血小板血漿を含む「上清である血漿」は「細胞」を含むものである。したがって、本件特許明細書の実施例1において、出発原料として具体的に開示された「上清である血漿」が、本件特許発明1において特定される「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)」であることは明らかである。
また、出発原料が、本件特許発明1において特定される「血清(細胞を含まない血清を除く)」である態様については実施例の開示はないものの、血清が血漿から血液凝固因子を取り除いたものであることを考慮すれば、本件特許発明1において、血漿を出発原料とした場合と同様に、血清に混在するタンパク質の複合体を超音波破砕処理し、続いてフィルタ濾過することにより、フィルタの目詰まりを起こすことなく、効率的にVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血清を製造できることを、当業者であれば認識できる。
そうしてみると、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、「フィルタ濾過の際に目詰まりを起こさず、短い時間で濾過を行うことができ、フィルタ交換が不要であるなど優れた操作性をもって、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿又は血清を製造することができる方法を提供するという課題」を当業者が解決できると認識できる範囲のものであり、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
イ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張の概要
申立人は、特許異議申立書において、主に以下の点を主張している。
a 本件特許発明では、超音波破砕処理の出力範囲の上限として、「100W」又は「500W」が特定されている一方で、本件特許明細書の実施例において、VEGF、IGF1を濃縮できたことが確認できるのは「10W」に限られており、高出力条件では成長因子が失活・変性したり、多量の細胞デブリの発生によりフィルタの目詰まりが生じるおそれがある(91頁4段落~93頁1段落)。
b 本件特許発明では、超音波破砕処理に使用する超音波ホモジナイザーの種類が特定されておらず、本件特許明細書の実施例ではチップ式に限られており、他方、装置の違いにより、超音波の伝播方式や処理対象へのエネルギーの伝達効率も大きく異なり、結果として、タンパク質複合体を破砕する能力や、処理過程における発熱の温度が変化し、フィルタの目詰まりや成長因子の安定性に影響を及ぼすことから、チップ式以外の超音波装置を用いた場合でも本件特許発明が目詰まりの抑制とVEGF、IGF1の効率的回収という課題を解決できるかは不明である(93頁2段落~94頁1段落)。
(イ)検討
a 前記(ア)aについて
前記(3)エのとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、【0016】において、超音波破砕処理における出力は、「5W~500W」の範囲内で選択し得ることが記載されているのであるから、所望の成長因子であるVEGFやIGF1が破壊されることなく、また、フィルタの目詰まりの原因となる多量の細胞デブリが発生しないよう、超音波破砕処理における出力について上記の出力範囲内で適宜選択すれば足りることであり、また、実施例にある10Wを超えた出力を選択できないことを予想させるような特段の事情も見当たらない。よって、申立人の主張を採用できない。
b 前記(ア)bについて
前記(3)エのとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、【0019】において、超音波破砕処理は、制限はなく、公知の超音波破砕処理を含め、任意の超音波破水処理が使用可能であってよいとされており、好ましい態様として、チップ式、カップホーン式が挙げられており、態様に応じて好ましい出力範囲についても記載されているのであるから、所望の成長因子であるVEGFやIGF1が破壊されることなく、また、フィルタの目詰まりの原因となる多量の細胞デブリが発生しないよう、出力範囲に応じた装置を適宜選択すれば足りることであり、また、チップ式以外の超音波破砕処理を選択できないことを予想させるような特段の事情も見当たらない。よって、申立人の主張を採用できない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものであるから、申立理由2によっては本件特許発明1に係る特許を取り消すことはできない。
(5)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の製造方法において、超音波破砕処理における出力が、「7W~100Wである」ことが特定されたものである。
ここで、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、【0016】において、超音波破砕処理における出力は、「5W~500W」の範囲内で選択することができ(前記(3)エ)、「更に好ましくは、7W~100Wであ」ることが記載されており、【0029】~【0032】において、実施例として、その範囲内である「10W」の出力とすることで、フィルタの目詰まりを起こすことなく、効率的にVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿を製造できることも具体的に記載されている(前記(3)オ)。したがって、超音波破砕処理における出力について、フィルタの目詰まりの原因となる多量の細胞デブリが発生しないように、かかる出力範囲内で適宜選択すれば足りることであり、また、実施例にある10Wを超えた出力を選択できないことを予想させるような特段の事情も見当たらない。
そうしてみると、前記(4)において本件特許発明1について説示したものと同様に、本件特許発明2は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。
(6)本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1の製造方法において、超音波破砕処理の時間が、「5秒~30分である」ことが特定されたものである。
ここで、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、【0017】において、超音波破砕処理の時間は、「1秒~45分」の範囲内で選択することができ、「より好ましくは、5秒~30分であ」ることが記載されており(前記(3)エ)、【0029】~【0032】において、実施例として、その範囲内である「10秒」の時間とすることで、フィルタの目詰まりを起こすことなく、効率的にVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿を製造できることも具体的に記載されている(前記(3)オ)。したがって、超音波破砕処理における時間について、フィルタの目詰まりの原因となる多量の細胞デブリが発生しないように、かかる範囲内で適宜選択すれば足りることである。
そうしてみると、前記(4)において本件特許発明1について説示したものと同様に、本件特許発明3は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。
(7)本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明1の製造方法において、超音波破砕処理の出力を「5W~500W」に変更し、かつ超音波破砕処理が「1回で行われる、又は2回~6回に分けて行われ」ることが特定されたものである。
ここで、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、【0016】において、超音波破砕処理における出力は、「5W~500W」の範囲内で選択することができ、好ましい範囲内が段階的に記載されており、「更に好ましくは、5W~100Wであ」るとされている(前記(3)エ)。また、【0018】において、超音波破砕処理は、「1回で行われてよく、分けて行われてもよく」、「更に好ましくは、2回~6回に分けて行われ」ることも記載されている(前記(3)オ)。その上で、【0029】~【0032】において、実施例として、その範囲内である「10W」の出力の超音波破砕処理を「3回」行うことで、フィルタの目詰まりを起こすことなく、効率的にVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿を製造できることも具体的に記載されている。したがって、超音波破砕処理における出力について、フィルタの目詰まりの原因となる多量の細胞デブリが発生しないように、かかる出力範囲内や回数の範囲内で適宜選択すれば足りることであり、また、実施例にある10Wを超えた出力を選択できないことを予想させるような特段の事情も見当たらない。
そうしてみると、前記(4)において本件特許発明1について説示したものと同様に、本件特許発明4は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。本件特許発明4は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。
(8)本件特許発明5について
本件特許発明4は、本件特許発明1の製造方法において、超音波破砕処理の出力を「5W~500W」に変更し、かつ超音波破砕処理が「チップ式又はカップホーン式」により行われることが特定されたものである。
ここで、超音波破砕処理の出力を「5W~500W」に変更する点に関しては、前記(7)で説示したとおりである。そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、【0019】において、超音波破砕処理は、「制限はなく、公知の超音波破砕処理を含め、任意の超音波破砕処理が使用可能であるが、好ましくは、チップ式(例えば、トミー精工、UD-100)又はカップ本式(例えば、トミー精工、UD-211)による。」が記載されており(前記(3)エ)、【0029】~【0032】において、実施例として、「非滅菌タイプの超音波発生機(超音波ホモジナイザー)(トミー精工、HandySonic、UP-20P)」を用いることで、フィルタの目詰まりを起こすことなく、効率的にVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿を製造できることも具体的に記載されている(前記(3)オ)。また、フィルタの目詰まりの原因となる多量の細胞デブリが発生しないよう、汎用の超音波破砕処理の中から適宜選択すれば足りることであり、また、チップ式以外の超音波破砕処理を選択できないことを予想させるような特段の事情も見当たらない。
そうしてみると、前記(4)において本件特許発明1について説示したものと同様に、本件特許発明5は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。
(9)本件特許発明6について
本件特許発明6は、本件特許発明1の製造方法において、フィルタが、「孔径0.1μm~1μmのメンブレンフィルタ」であることが特定されたものである。
ここで、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、【0020】において、フィルタは、「血球系細胞を除去できるものであれば制限はないが、血球系細胞の最小サイズは約2μmであるため、フィルタとしては、好ましくは、孔径が1μm以下であ」る「メンブレンフィルタを用いることができ」、「メンブレンフィルタの孔径の下限値に制限はないが、過度に小さいものは目詰まりを起こすリスクが大きくなる」「ため、孔径は、0.1μm以上が好ましく」、「通常市販されているメンブレンフィルタのうち、この範囲を満たすものとしては、孔径が約0.2μmのメンブレンフィルタと、孔径が約0.45μmのメンブレンフィルタがあり、本発明においては、いずれも使用することができ」ることが記載されており(前記(3)エ)、【0029】~【0032】において、実施例として、「孔径0.22μmのメンブレンフィルタ」を用いることで、フィルタの目詰まりを起こすことなく、効率的にVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿を製造できることも具体的に記載されている(前記(3)オ)。したがって、メンブレンフィルタの孔径について、フィルタの目詰まりの原因となる多量の細胞デブリが発生しないように、かかる範囲内で適宜選択すれば足りることである。
そうしてみると、前記(4)において本件特許発明1について説示したものと同様に、本件特許発明6は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。
(10)本件特許発明7について
本件特許発明7は、本件特許発明1の製造方法において、超音波破砕処理の出力を「5W~500W」に変更し、かつ細胞を除去する工程におけるフィルタが「フィルタを介する遠心分離処理」に特定されたものである。
ここで、超音波破砕処理の出力を「5W~500W」に変更する点に関しては、前記(7)で説示したとおりである。そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、【0021】において、「超音波破砕処理後の血漿又は血清から細胞を除去して、無細胞系血清又は血清を得る工程は、好ましくは、フィルタを介する遠心分離処理によって細胞を除去する工程を含む。フィルタとしては、前述と同様のフィルタ(合議体註解:前記(9)において本件特許発明6について説示した【0020】に記載されたフィルタ)が挙げられる。」と記載されており(前記(3)エ)、【0029】~【0032】において、実施例として、「孔径0.22μmのメンブレンフィルタ」を用いることで、フィルタの目詰まりを起こすことなく、効率的にVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿を製造できることも具体的に記載されているところ(前記(3)オ)、フィルタを介する遠心分離処理によっても同様に細胞を除去できることを当業者は理解することができる。
そうしてみると、前記(4)において本件特許発明1について説示したものと同様に、本件特許発明7は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。
(11)本件特許発明8について
本件特許発明8は、本件特許発明7の製造方法において、フィルタを介する遠心分離処理の回転数が、「500rpm~4500rpm」であることが特定されたものである。
ここで、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、【0021】において、フィルタを介する遠心分離処理の回転数は、「好ましくは、500rpm~4500rpmであ」ると記載されているところ(前記(3)エ)、本件特許発明7におけるフィルムを介する遠心分離処理の際の回転数を「500rpm~4500rpm」とする場合であっても同様に細胞を除去できることを当業者は理解することができる。
そうしてみると、前記(10)において本件特許発明7について説示したものと同様に、本件特許発明8は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。
(12)本件特許発明9について
本件特許発明9は、本件特許発明7の製造方法において、フィルタを介する遠心分離処理をする時間が「1分~30分」であることが特定されたものである。
ここで、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、【0021】において、フィルタを介する遠心分離処理の時間は、「好ましくは、1~30分であ」ると記載されているところ(前記(3)エ)、本件特許発明7におけるフィルムを介する遠心分離処理の際の時間を「1分~30分」とする場合であっても同様に細胞を除去できることを当業者は理解することができる。
そうしてみると、前記(10)において本件特許発明7について説示したものと同様に、本件特許発明9は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。
(13)本件特許発明10について
本件特許発明10は、本件特許発明1の製造方法において、超音波破砕処理の出力を「5W~500W」に変更し、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)が「血液を遠心分離処理して回収された上清」であり、その遠心分離処理の回転数が「500~4000rpm」であることが特定されたものである。
ここで、超音波破砕処理の出力を「5W~500W」に変更する点に関しては、前記(7)で説示したとおりである。そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、【0022】において、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿又は血清は、「好ましくは、血液を遠心分離処理して回収された上清である」とされており(前記(3)エ)、このことは前記上記1(2)イで認定した血漿、血清に関する本件特許の出願時の技術常識とも符合するものである。さらに、【0022】には、その遠心分離処理の回転数は「好ましくは、500~4000rpmであ」りとした上でより好ましい回転数が段階的に記載され、「更に好ましくは、1000~1500rpmである」でされており、その上で、【0029】~【0032】において、実施例として、血液を「1300rpm」の回転数で遠心分離して上清である血漿を回収し、当該血漿を出発原料とし、超音波破砕処理、続くフィルタ濾過により、フィルタの目詰まりを起こすことなく、効率的にVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿を製造できることも具体的に記載されている(前記(3)オ)。
そうしてみると、前記(4)において本件特許発明1について説示したものと同様に、本件特許発明10は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。
(14)本件特許発明11について
本件特許発明11は、本件特許発明1の製造方法において、超音波破砕処理の出力を「5W~500W」に変更し、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)が「血液を遠心分離処理して回収された上清」であり、その遠心分離処理の時間が「1分~30分」であることが特定されたものである。
ここで、超音波破砕処理の出力を「5W~500W」に変更する点に関しては、前記(7)で、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)が「血液を遠心分離処理して回収された上清」であると特定する点に関しては、前記(13)で説示したとおりである。そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、【0022】には、遠心分離処理の時間は「好ましくは、1~30分であり」とした上でより好ましい時間が段階的に記載され、「更に好ましくは、5~15である」とされており(前記(3)エ)、その上で、【0029】~【0032】において、実施例として、血液を「10分間」遠心分離して上清である血漿を回収し、当該血漿を出発原料とし、超音波破砕処理、続くフィルタ濾過により、フィルタの目詰まりを起こすことなく、効率的にVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿を製造できることも具体的に記載されている(前記(3)オ)。
そうしてみると、前記(4)において本件特許発明1について説示したものと同様に、本件特許発明11は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。
(15)本件特許発明12について
本件特許発明12は、本件特許発明1の製造方法において、超音波破砕処理の出力を「5W~500W」に変更し、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)が「血液を遠心分離処理して回収された上清」であり、その遠心分離処理を行う際の温度が「4℃~40℃」であることが特定されたものである。
ここで、超音波破砕処理の出力を「5W~500W」に変更する点に関しては、前記(7)で、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)が「血液を遠心分離処理して回収された上清」であると特定する点に関しては、前記(13)で説示したとおりである。そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、【0022】には、遠心分離処理を行う際の温度は「好ましくは、4℃~40℃であり」とした上でより好ましい温度が段階的に記載され、「更に好ましくは、4℃~25℃であ」り、「20℃~25℃であってもよい」とされており(前記(3)エ)、その上で、【0029】~【0032】において、実施例として、血液を「24℃」で遠心分離して上清である血漿を回収し、当該血漿を出発原料とし、超音波破砕処理、続くフィルタ濾過により、フィルタの目詰まりを起こすことなく、効率的にVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿を製造できることも具体的に記載されている(前記(3)オ)。
そうしてみると、前記(4)において本件特許発明1について説示したものと同様に、本件特許発明12は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。
(16)本件特許発明13について
本件特許発明13は、本件特許発明1の製造方法において、超音波破砕処理の出力を「5W~500W」に変更し、5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)が由来する血液が、「生体からの採取から、血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を取得する処理までに、0℃~10℃において0分~144時間保存されたものであ」ることが特定されたものである。
ここで、超音波破砕処理の出力を「5W~500W」に変更する点に関しては、前記(7)で説示したとおりである。そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、【0023】には、「5W~500Wの出力で超音波破砕処理する血漿又は血清は、生体からの採取から、遠心分離処理などの血漿又は血清を取得するまでに、保存される時間が0分であることが好ましいが、1分~144時間保存されたものであってよく」、「保存する際の温度は、例えば、0℃~10℃であ」ことが記載されており(前記(3)エ)、【0029】~【0032】において、実施例として、「4℃で一晩(約16時間)冷蔵保存した」「採取した全血」を遠心分離して上清である血漿を得、超音波破砕処理、続くフィルタ濾過により、フィルタの目詰まりを起こすことなく、効率的にVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿を製造できることも具体的に記載されている(前記(3)オ)。
そうしてみると、前記(4)において本件特許発明1について説示したものと同様に、本件特許発明13は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。
(17)本件特許発明14、本件特許発明15について
本件特許発明14は、本件特許発明1の製造方法において、5W~100Wの出力で超音波破砕処理する血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)が、「生体からの採取の後に血液凝固防止剤を添加された血液から得られたものである」ことを特定し、本件特許発明15は、本件特許発明14の製造方法について、血液凝固防止剤が、「ヘパリン塩、クエン酸又はクエン酸誘導体である」ことが特定されたものである。
ここで、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、【0024】において、「超音波破砕処理する血漿は、好ましくは、生体からの採取の後に血液凝固防止剤を添加された血液から得られたものである」こと、「血液凝固阻止剤としては、例えば、ヘパリンナトリウムなどのヘパリン塩;クエン酸水和物などのクエン酸;クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム水和物などのクエン酸塩、クエン酸デキストロースなどのクエン酸誘導体;EDTA-2Na、EDTA-2KなどのEDTA塩などが挙げられる」ことが記載されており(前記(3)エ)、このことは前記(2)(ア)aで説示した血漿に関する本件特許の出願時の技術常識とも符合するものである。そして、【0029】~【0032】において、実施例として、超音波破砕処理する血漿は、「採取した全血を血液抗凝固入りスピッツである」「血液凝固阻止剤であるヘパリンナトリウムやACD液(成分:クエン酸ナトリウム水和物、クエン酸水和物、ブドウ糖)が含まれる」「ヘパリン管(株式会社ビー・エム・エル)に入れ」られ、遠心分離により回収された上清である血漿であり、当該血漿を出発原料とし、超音波破砕処理、続くフィルタ濾過により、フィルタの目詰まりを起こすことなく、効率的にVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿を製造できることも具体的に記載されている(前記(3)オ)。
そうしてみると、前記(4)において本件特許発明1について説示したものと同様に、本件特許発明14及び15は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。
(18)本件特許発明16について
本件特許発明16は、本件特許発明1の製造方法において、5W~100Wの出力で超音波破砕処理する血清(細胞を含まない血清を除く)が、「生体からの採取の後に血液凝固防止剤を添加された血液から得られたものである」ことが特定されたものである。
ここで、前記(3)エに記載されるように、本件特許発明の血漿は生体からの採取の後に血液凝固防止剤を添加された血液から得られたものであってよく、このことは前記1(2)イで認定した血漿に関する本件特許の出願時の技術常識とも符合するものであり、また、前記1(2)イのとおり、血清が、血漿から血液凝固因子を取り除いたものであることも技術常識である。そして、前記(3)オにあるように、本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例として、生体から採取した後に血液凝固防止剤が添加された血液から遠心分離により回収された上清である血漿を出発原料とし、超音波破砕処理、続くフィルタ濾過により、フィルタの目詰まりを起こすことなく、効率的にVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿を製造できることが具体的に記載されているところ、そのような上清の血漿から血液凝固因子を取り除くことで調製される血漿を出発原料として同様の処理を行うことでVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿を製造できることを当業者は認識することができる。
そうしてみると、前記(4)において本件特許発明1について説示したものと同様に、本件特許発明16は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。
(19)本件特許発明17について
本件特許発明17は、本件特許発明1の製造方法において、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清が、「凍結乾燥物」であることが特定されたものである。
ここで、本件明細書の発明の詳細な説明には、【0027】において「本発明の製造方法により製造される無細胞系血漿又は血清は、凍結乾燥物であってよい」と記載されており(前記(3)エ)、また、通常、液性成分を安定化のために凍結乾燥物とすることは文献を挙げるまでもなく本件特許の出願時の技術常識であったものと認められるところ、本件特許発明1の製造方法により得られたVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清を凍結乾燥物とすることは当業者が理解することができる。
そうしてみると、前記(4)において本件特許発明1について説示したものと同様に、本件特許発明17は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。
(20)本件特許発明18について
本件特許発明18は、表現上の差異はあるものの、本件特許発明1と実質的に同一の発明である。
そうしてみると、前記(4)において本件特許発明1について説示したものと同様に、本件特許発明18は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。
(21)本件特許発明19について
本件特許発明19は、表現上の差異はあるものの、本件特許発明4と実質的に同一の発明である。
そうしてみると、前記(7)において本件特許発明4について説示したものと同様に、本件特許発明19は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。
(22)本件特許発明20について
本件特許発明20は、表現上の差異はあるものの、本件特許発明5と実質的に同一の発明である。
そうしてみると、前記(8)において本件特許発明5について説示したものと同様に、本件特許発明20は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。
(23)本件特許発明21について
本件特許発明21は、表現上の差異はあるものの、本件特許発明10と実質的に同一の発明である。
そうしてみると、前記(13)において本件特許発明10について説示したものと同様に、本件特許発明21は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。
(24)本件特許発明22について
本件特許発明22は、表現上の差異はあるものの、本件特許発明11と実質的に同一の発明である。
そうしてみると、前記(14)において本件特許発明11について説示したものと同様に、本件特許発明22は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。
(25)本件特許発明23について
本件特許発明23は、表現上の差異はあるものの、本件特許発明12と実質的に同一の発明である。
そうしてみると、前記(15)において本件特許発明12について説示したものと同様に、本件特許発明23は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。
(26)本件特許発明24について
本件特許発明24は、表現上の差異はあるものの、本件特許発明13と実質的に同一の発明である。
そうしてみると、前記(16)において本件特許発明13について説示したものと同様に、本件特許発明24は、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であり、上記詳細な説明の記載又は本件特許の出願時の技術常識に照らして、当業者が前記のような本件特許発明の課題を解決するものと認識できる範囲のものであるといえる。
(27)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1~24は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものであって、申立理由2によっては本件特許発明1~24に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(実施可能要件違反)について
(1)判断の前提
本件特許発明は、物を生産する方法とする発明であるところ、これらの発明について、発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、「方法の発明」については、当業者がその方法を使用できるように記載されていなければならず、「物を生産する方法」については、当業者がその物を製造できるように記載されていることが要される。
(2)判断
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を5W~100W又は5W~500Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)から細胞を除去して、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清の製造方法であって、無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞血清を得る工程が、フィルタによって細胞を除去する工程を含む、製造方法」である本件特許発明について、「血液を遠心分離処理して回収された上清」である「血漿」を出発材料として、これを「5W~500Wの出力で」、「公知の超音波破砕処理を含め、任意の超音波破砕処理」ことによって、遠心分離後の血漿又は血清分画に混在するタンパク質の複合体などによるフィルタの目詰まりを防止し、その後、フィルタ濾過により細胞を除去することで、フィルタ濾過の際に目詰まりを起こすことなく短時間で濾過を行うことができ、フィルタ交換を必要とせずにVEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿を調製できることが説明されるとともに、実施例には、これらの工程を含む方法により、「無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清を得る工程を含む、VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清」を製造することができたことが具体的に示されている。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「物を生産する方法」である本件特許発明について、当業者がその物を製造できるように記載されているといえる。
(3)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書において、前記2(4)イ(ア)a、bと同趣旨の主張をしている。
しかしながら、前記2(4)イ(イ)a、bで説示したとおりであるから、申立人の主張を採用することはできない。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1~24について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであって、申立理由3によっては本件特許発明1~24に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由4及び5(新規性欠如及び進歩性欠如)
(1)申立理由4(1)及び5(1)(甲14を主引例とする新規性欠如及び進歩性欠如)
ア 甲14に記載された事項及び甲14に記載された発明
(ア)甲14に記載された事項
甲14には以下の事項が記載されている(原文は中国語であるので、甲14の抄訳文に基づき摘記する。)。なお、下線は当審合議体が付したものであり、「・・・」は記載の省略を示す。
・甲14a(請求項1~9)
「【請求項1】
血小板細胞因子濃縮物の濃縮方法であって、以下の工程を含む方法。
すなわち、全血を採取し、血小板を回収して生理食塩水に懸濁して細胞懸濁液とし、超音波出力100~200Wの条件下で複数回超音波破砕を行い(各回の破砕時間は1~60秒)、その破砕混合液をろ過し、得られたろ液から血小板細胞因子濃縮物を得る方法。
【請求項2】
請求項1に記載の血小板細胞因子濃縮物の濃縮方法であって、
前記超音波破砕は、直径2~6mmのプローブを備えた超音波細胞破砕装置により行うことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、
前記超音波破砕の回数が1回~6回であることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、
前記超音波破砕条件が、出力200W、破砕1回、破砕時間60秒であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、
前記細胞懸濁液の細胞濃度が104~108個/mLであることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、
前記ろ過が、孔径0.22~0.45μmのフィルターを用いて行われることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、前記血小板の調製方法が以下の工程を含むことを特徴とする方法:
(1)ヒトまたは動物由来の全血を抗凝固剤と十分に混合し、遠心管aに入れて1000rpmで10分間遠心し、上層・中間層・下層の3層に分離し(下層:赤血球、上層:貧血小板層、中間層:富血小板層)、上層および中間層を遠心管bに回収する。抗凝固剤はクエン酸ナトリウム、ヘパリン、またはヒルジンである;
(2)ステップ(1)で中間および上層を取り除いた後の遠心管aに生理食塩水を加え、再度1000rpmで10分間遠心し、再び3層に分離させ、上層および中間層をステップ(1)の遠心管bに加えて混合する;
(3)ステップ(2)の遠心管bに赤血球溶解液を加え、混合して30分間静置した後、1500rpmで20分間遠心し、上清層・中間の白色フロック層・沈殿層に分離し、上清および白色層をそれぞれ遠心管cおよびdに移す;遠心管cを1500rpmで20分間遠心し、得られた沈殿を遠心管dに加えて混合し、生理食塩水を加えて再度1500rpmで20分後遠心し、中間の白色層を回収して血小板とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、ステップ(1)における抗凝固剤と全血の体積比が1:9であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法であって、ステップ(1)における赤血球溶解液が、質量濃度1%の塩化アンモニウム水溶液であることを特徴とする方法。」
・甲14b((1)技術分野、(2)背景技術)
「(1)技術分野
[0002]本発明は、軟骨および骨組織の損傷修復に利用可能な血小板細胞因子濃縮物の濃縮方法に関する。
(2)背景技術
血小板(platelet)は哺乳類の血液中に存在する無核細胞であり、細胞内のα顆粒の脱顆粒作用を通じて多くの細胞増殖因子を放出することができる。これらには、血小板由来成長因子(PDGF)、トランスフォーミング成長因子-β(TGF-β)、インスリン様成長因子-1(IGF-1)、線維芽細胞成長因子(FGF)、上皮成長因子(EGF)、血管内皮成長因子(VEGF)などが含まれる・・・血小板が放出するこれらの細胞増殖因子は生物学的活性が非常に高く、骨細胞の分裂・増殖やコラーゲン合成を誘導し、骨組織の修復および再構築を促進することが知られている・・・。」
・甲14c([0021]、[0022])
「[0021]既知の同種技術としては、PRP(多血小板血漿)を凍結と再溶解により処理した血小板裂解液(PL)がある。これと比較して、本発明の有利な点は以下のとおりである:
[0022]1)PL(血小板裂解液)はPRP(多血小板血漿)を基に調製されたものであるが、PRPには赤血球、白血球、および血漿が残存することを避けられず、PL中に多数の異物細胞や血漿成分が混在する。そのため、含有されるサイトカインの効果を阻害し、潜在的な安全性の懸念を生じさせる可能性がある。これに対し、本発明は、先行特許技術(中国特許第ZL 2014 1 0508458.8号)に基づいて得られた精製血小板を用いて調製しており、異物細胞や血漿の影響を排除することができ、より高い安全性および生物学的効果を有する。」
・甲14d([0025])
「[0025]本発明により得られる血小板超音波破砕液(サイトカイン濃縮物)は、TGF-β、PDGF、IGFs、FGFs、EGF、VEGFなど、多種類の生物活性因子を含有する。これらは軟骨細胞の活性を向上させ、幹細胞の増殖および分化を促進し、軟骨および骨組織の再生・修復に貢献する、また、本組成物は注射剤、粉末剤などの形態で製剤化することができ、医療用骨組織工学分野において極めて応用の可能性を有している。」
・甲14e([0032]~[0043])
「[0032]実施例1
[0033](1)ヒト全血9mlを、質量濃度3.2%のクエン酸ナトリウム水溶液1mL(抗凝固剤)を含む容器に採取する。抗凝固剤の全血の体積比は1:9とし、完全に混和して凝固を防止する。
[0034](2)ステップ(1)で混合した血液を遠心チューブaに分注し、1000rpmで10分間遠心する。遠心後、血液は3層に分けられ、下層は赤血球層、上層は貧血小板層とし、中間層は血小板および白血球を含む富血小層となる。
[0035](3)ステップ(2)の遠心チューブaの上層および中間層をピペットで吸引し、新たな遠心チューブbに移す。この際、赤血球を意図的に避ける必要はない。
[0036](4)ステップ(3)で上層および中間層を取り除いた後の遠心チューブaに生理食塩水を加え、1000rpmで10分間遠心する。再び3層に分かれるので、上層(貧血小板層)および中間層(富血小板層)をピペットで吸引し、ステップ(3)の遠心チューブbに加えて混合する。
[0037](5)ステップ(4)遠心チューブbに、1mlの1%とする塩化アンモニウム水溶液を加え、混合後30分間静置する。その後1500rpmで20分間遠心し、上清、中間の白色絮状層、下部の沈殿層に分かれる。上清及び中間層をそれぞれ遠心チューブcおよびdに移す。遠心チューブcを1500rpmでさらに10分間遠心し、得られた白色沈殿をチューブdに加えて混合し、生理食塩水を加えた後、1500rpmで10分間遠心する。中間の白色層を回収することで、精製された血小板が得られる。この精製血小板100μLを用いて、BD社製のフローサイトメーターで血小板濃度を測定し、eBioscience社製のCD41a-PE抗体を用いて陽性率を測定する(図4a参照)。血小板濃度は3.1×1011/L、陽性率97.87%であり、本製法の品質管理に使用する。
[0038](6)ステップ(5)で得られた精製血小板を用い、生理食塩水で104/mLの細胞懸濁液5mLを作製する。これを2mmプローブ付きの超音波破砕機(VCX500,500W/20KHz、SONICS&MATERIALS社製)により、超音波出力200W、60秒、1回の条件で破砕処理を行う。0.22μmのフィルターを通して混合液をろ過し、血小板細胞因子濃縮物を得る。BD社製のフローサイトメトリーを用いて、ろ過前の細胞懸濁液および破砕後の超音波混合液の濃度を測定し、CD41a-PE抗体で陽性率を測定する(図4c参照)。血小板濃度は<1×109/L、陽性割合7.67%であり、破砕および濾過の程度を明確に示す。得られた濃縮物について、酵素免疫測定法(ELISA法)により、TGF-β、PDGF-BB、IGF-1、VEGFの含有量を測定した(表1および図5参照)。
[0039]比較として、PL法で調製した血小板凍結融解裂解液についても濃度および陽性率を測定(図4b参照)し、ELISA測定結果を図5に示した。
[0040](7)ステップ(6)で得られた血小板細胞因子濃集物を、高濃度(原液)、中濃度(原液の1/10、生理食塩水で希釈)、低濃度(原液の1/50)に希釈し、それぞれ50μLを96ウェルプレート中の間葉系幹細胞を摂取済みのDMEM培地150μLに添加し、37℃で24時間、48時間、72時間培養した。各時間点でMTT法により細胞活性を評価し、PL法との比較を行った(図1参照)。その結果、本発明の濃縮物は24時間以降、幹細胞の増殖活性を有意に向上させ、時間依存性および濃度依存性を示し、PL法よりも優れていた。
[0041]PL法はステップ(5)の精製血小板を-20℃で凍結し、その後37℃で急速解凍する操作を3回繰り返して調製される。PLについても同様に濃度設定し、MTTおよびELISAによる比較を実施した(表1および図1)。
[0042]対照として、生理食塩水のみを同量添加して評価した。
[0043](8)RayBiotech社製抗体アレイ(AAH-BLG-507)を用い、ステップ(6)で得られた血小板細胞因子濃縮物とPL法による裂解液の成分分析を行った。各サンプル400μLを2本の透析管に分け、pH8.0のPBS(500mL)に入れ、4℃で一晩透析した(途中2回PBSを交換・撹拌)。透析後のサンプル(透過液)を1.5mL遠心チューブに移し、4℃・10000rpm、5分間遠心し、上清を新しいチューブに移す。透析済みサンプル(180μL)に36μLBiotin/mgProteinの比で標識試薬を加え、室温で30分間撹拌した後、StopSolution(ItemD)3μLを添加して混合。再度PBSに入れ一晩透析(途中PBS交換2回)。透析後に同様に延伸し、上清を回収してチップ検出に用いた。表2に示すように、PLに比べ、本発明の方法で得られた濃縮物には、BMP-3b、GDF-10、BMP-4、BMP-8、CCR4、CCR6、FGFR4など、より多くの種類の細胞因子が含まれていたことが確認された。これは、本方法によりより多様な細胞因子が効果的に抽出できることを示している。」
・甲14f([0048]~[0051])
「[0048]実施例2
[0049]操作手順は実施例1と同様でアルが、異なるのはラットのサンプルを用いた点であり、ステップ(6)では、細胞懸濁液の濃度が106/mL、超音波破砕装置に装着するプローブの使用が4mm、超音波出力が150W、各回の破砕時間が30秒、間隔10秒で、計3回破砕を行った。
[0050]調製された細胞因子濃縮物中のTGF-β、PDGF、IGF-1およびVEGFの含有量は、それぞれ100pg/ml、50pg/ml、300pg/ml、70pg/mlを上回っており、詳細は表3に示す。
[0051]実施例1のステップ(7)と同様に、実施例2で得られた血小板細胞因子濃集物を高濃度(原液)、中濃度(原液の1/10)、低濃度(原液の1/50)に設定し、それぞれ間充織幹細胞を培養したプレートに添加し、37℃で24時間、48時間、72時間の各時間で細胞活性(MTT法)およびELISAによる検出を行い、PL法と比較した。結果は図2と表3に示す。結果は、ラット血小板細胞因子濃縮物が24時間から顕著に幹細胞の増殖活性を高めることを示しており、時間依存性および濃度依存性を有し、PL法よりも優れた効果を示した(図2)。」
・甲14g([0054]~[0057])
「[0054]実施例3
[0055]操作手順は実施例1と同様であるが、異なる点はマウスのサンプルを使用したことであり、ステップ(6)においては、細胞懸濁液の濃度が108/ml、超音波破砕装置に装着されたプローブの仕様が6mm、超音波出力は100Wとし、毎回の破砕時間が10秒、間隔10秒、合計6回破砕を行った。
[0056]この条件で得られた細胞因子濃縮物中のTGF-β、PDGF、IGF-1およびVEGFの含有量を調製してそれぞれ100pg/ml、50pg/ml、300pg/ml、70pg/mlを上回っていた。
[0057]実施例1のステップ(7)と同様に、実施例3で得られた血小板細胞因子濃集物を、高濃度(原液)、中濃度(原液の1/10)、低濃度(原液の1/50)に設定し、それぞれ間葉系幹細胞を培養したプレートに添加し、37℃で24時間、48時間、72時間の各時間で細胞活性(MTT法)およびELISAによる検出を行い、PL法と比較した。結果は図3よび表4に示す。結果は、マウスの血小板細胞因子濃集物が48時間以降に幹細胞の増殖活性を有意に向上させ、時間依存性および濃度依存性を有し、PL法よりも優れた効果を示した(図3)。」
(イ)甲14に記載された発明
甲14には、「哺乳類の血液中に存在する無核細胞であ」る「血小板」は、「細胞内のα顆粒の脱顆粒作用を通じて」「インスリン様成長因子-1(IGF-1)」、「血管内皮成長因子(VEGF)」といった「多くの細胞増殖因子を放出することがで」き、「これらの細胞増殖因子は生物学的活性が非常に高く、骨細胞の分裂・増殖やコラーゲン合成を誘導し、骨組織の修復および再構築を促進することが知られている」との背景技術のもと、「医療用骨組織工学分野において極めて応用の可能性を有している」「IGFs」、「VEGFなど、多種類の生物活性因子を含有する」「血小板細胞因子濃縮物」を調製することを目的とし、「全血を採取し、血小板を回収して生理食塩水に懸濁して細胞懸濁液とし、超音波出力100~200Wの条件下で複数回超音波破砕を行い(各回の破砕時間は1~60秒)、その破砕混合液をろ過し、得られたろ液から血小板細胞因子濃縮物を得る」「工程」「を含む」「血小板細胞因子濃縮物の濃縮方法」が記載されている(甲14a、14b、14d)。
そして、甲14の実施例には、全血を採取し、血小板を回収して生理食塩水に懸濁して細胞懸濁液とし、「超音波出力200W」、「150W」又は「100W」の条件下で超音波破砕を行い、その破砕粉砕液をフィルターを用いてろ過処理することにより、「IGF-1」、「VEGF」などの多種類の生物活性因子を含有する「血小板細胞因子濃縮物」を調製することができたことが裏付けをもって記載されている(甲14e~14g)。
そうしてみると、甲14には次の発明が記載されていると認められる。
「血小板細胞因子濃縮物の濃縮方法であって、以下の工程を含む方法、すなわち、全血を採取し、血小板を回収して生理食塩水に懸濁して細胞懸濁液とし、超音波出力100~200Wの条件下で各回1~60秒の破砕時間である超音波破砕を複数回行い、その破砕混合液をろ過し、得られたろ液から血小板細胞因子濃縮物を得る方法。」(以下「甲14発明」という。)
イ 甲9、甲11~甲13、甲15、甲16に記載された事項
甲9、甲11~甲13、甲15、甲16には、それぞれ以下の事項が記載されている(甲15は、中国語による記載であるため、甲15の抄訳文に基づき摘記する。また、甲16は、英語による記載であるため、甲16の抄訳文に基づき摘記する。)なお、下線は当審合議体が付したものであり、「・・・」は記載の省略を示す。
(ア) 甲9
・甲9c(【0002】)
「【0002】
多血小板血漿(platelet-rich plasma,PRP)は、ヒトまたは動物の全血を遠心することによって得られる高濃度の血小板を有する血漿であり、血小板溶解物は、多血小板血漿をさらに処理した派生物質で、再生に関わる多種の成長因子を含む。したがって、多血小板血漿および血小板溶解物は、再生医学に応用できることがわかっている。」
(イ) 甲11
・甲11a(【0002】)
「【0002】
多血小板血漿(Platelet Rich Plasma:以下「PRP」と略称する)は、血液中に含まれる3種類の血球(赤血球、白血球、血小板)のうちの血小板のみを高濃度に濃縮させたものであり、細胞の再生を促す種々の成分、例えば、EGF(表皮増殖因子:Epidermal Growth Factor)、PDGF(血小板増殖因子:Platelet-Derived Growth Factor)、VEGF(血管内皮細胞増殖因子:Vascular Endothelial Growth Factor)、IGF(インスリン様成長因子:Insulin-like Growth Factor)、FGF(線維芽細胞増殖因子:Fibroblast Growth Factor)、HGF(肝細胞増殖因子:Hepatocyte Growth Factor)、TGF(トランスフォーミング増殖因子:Transforming Growth Factor)などの増殖因子などが含まれていることから、骨、血管、皮膚などの再生促進機能を有することが知られており、難治性皮膚潰瘍などの治療に用いられている。PRPの調製は、例えばPRPを適用する患者から採血した血液を遠心分離することで行われているが(特許文献1)、こうした方法で調製されるPRPには、血小板と分離しきれなかった白血球が含まれている場合がある。しかしながら、PRPに白血球が含まれていても、その数はわずかであるので、PRPに含まれている白血球の有核細胞としての機能を喪失させるための措置は行われていない。」
・甲11b(【0008】)
「【0008】
本発明において、血小板濃縮製剤の原料となる血小板濃縮物としては、例えばPRPが挙げられる。PRPは、例えば、PRPを適用する患者から採血した血液を、採血に用いたシリンジのままやシリンジからスピッツや真空採血管に移し替えて遠心分離することによって調製することができる。遠心分離の条件は公知の条件を採用することができる。また、血小板濃縮製剤の原料となる血小板濃縮物は、iPS細胞やES細胞などの幹細胞由来の血小板を、その取得態様に応じて濃縮したものであってもよい。」
・甲11c(【0012】)
「【0012】
実施例1:
抗凝固剤として600μlのクエン酸ナトリウム液(扶桑薬品工業株式会社)を20mlのシリンジ(テルモ株式会社)に分取し、3名の健常者から12mlの採血を行った。それぞれの血液10mlを真空採血管(日本ベクトン・ディッキンソン)に移し、2回遠心分離法を実施して(1回目:200Gで15分間、2回目:1200Gで15分間)、0.5mlのPRPを調製した。調製されたそれぞれのPRP0.4mlに対し、超音波破砕機(東京超音波技研株式会社)を用いて20分間の超音波破砕を行った。超音波破砕の条件は、150W出力、氷冷下、15秒照射と20秒停止のサイクルを7回とした。超音波破砕を行ったPRPに白血球が含まれるかどうかを検査会社に依頼して調べたところ、3名のPRPすべてにおいて、超音波破砕を行う前に認められた白血球の存在が超音波破砕を行った後は認められなかった。また、超音波破砕を行ったPRPを-20℃で冷凍し、7日後、自然解凍し、血小板に含まれている増殖因子の含有量をR&D System社のELISAキットを用いて調べたところ、EGF:1800~4000pg/ml、PDGF:16300~24000pg/ml、VEGF:600~2600pg/ml、IGF:10~50pg/ml、FGF:200~400pg/ml、HGF:700~900pg/ml、TGF:2400~6000pg/mlであって、超音波破砕を行う前の含有量とほぼ同じであり、PRPに対して超音波破砕を行ったこととその後に冷凍したことによる増殖因子の含有量の低下は認められなかった。」
(ウ) 甲12
・甲12d(請求項1~4)
【請求項1】
血液から成長因子混合物を調製する方法であって、
血液から多血小板血漿を分離する工程と、
多血小板血漿から細胞を除去して無細胞系血漿を得る工程と、
無細胞系血漿を凍結乾燥して成長因子混合物を得る工程と、
を含む方法。
【請求項2】
血液から多血小板血漿を分離する工程の前に、0~10℃、0~72時間に亘って血液を予冷蔵する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
血液から多血小板血漿を分離する工程が、100~1000G、3~30分による遠心分離処理を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
多血小板血漿から細胞を除去して無細胞系血漿を得る工程が、フィルタリング処理を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。」
・甲12e(【0002】)
「【0002】
自己の血液を遠心分離することで調製される血小板を濃縮した血漿、多血小板血漿(platelet rich plasma:以下、「PRP」とも呼ぶ)を用いる治療法がある。この多血小板血漿は、血小板由来増殖因子(platelet-derived growth factor:以下、「PDGF」とも呼ぶ)などの多種の増殖因子を豊富に含む。これら成長因子が創傷治癒や組織再生に効果的な役割を果たすため、多血小板血漿は再生医療分野において有望な材料である(例えば、特許文献1)。」
・甲12f(【0021】~【0029】)
「【0021】
本発明の方法は、血液から多血小板血漿を分離する工程と、多血小板血漿から細胞を除去して無細胞系血漿を得る工程と、無細胞系血漿を凍結乾燥して成長因子混合物を得る工程と、を少なくとも含む方法。本発明の方法は、血液から多血小板血漿を分離する工程の前に血液を予冷蔵する工程をさらに含んでもよい。
【0022】
血液を予冷蔵する工程における冷蔵温度は0~10℃である。血液を予冷蔵する工程の工程時間は通常0~72時間である。下限値は1時間以上、2時間以上、4時間以上、8時間以上としてもよい。上限値は60時間以下、48時間以下、36時間以下、24時間以下としてもよい。
【0023】
本発明の方法は、血液から多血小板血漿を分離する工程を含む。
【0024】
この工程の間において、血液および多血小板血漿の温度は、約4~約25℃に制御することが好ましい。
【0025】
血液(全血)から多血小板血漿を分離する手段に制限はなく、公知の任意の手段が使用可能である。通常は、血液について比較的低速度の第1の遠心分離処理を施して、赤血球を含む画分と、多血小板血漿(PRP)と、少血小板血漿(platelet poor plasma)とに分離して得られる。
【0026】
比較的低速度の第1の遠心分離処理は、約100~約1000G(通常の遠心分離器においては約200~約2000rpm程度に相当)の遠心分離である。約150~約750G、約200~約500Gとしてもよい。処理時間は約3~約30分、約5~約20分、約10~約15分である。
【0027】
比較的低速度の第1の遠心分離処理単独によって多血小板血漿を取得してもよい。また上清である血漿画分全て(多血小板血漿および少血小板血漿)を回収した後、第2の遠心分離処理を施して多血小板血漿を得てもよい。
【0028】
第1の遠心分離処理後に回収した血漿画分について比較的高速度の第2の遠心分離処理によって血小板をペレット化させ、その後再懸濁させることで純化・濃縮化することができる。
【0029】
比較的高速度の第2の遠心分離処理は、約1000~約2500G(通常の遠心分離器においては約2000~約5000rpm程度に相当)の遠心分離である。約1100~約2000G、約1200~約1500Gとしてもよい。処理時間は約1~約30分、約5~約20分、約10~約15分である。」
・甲12g(【0041】~【0044】)
「【0041】
細胞を完全に除去する手段は、特に制限はなく、任意のものが使用可能である。例えば加熱処理、酸処理、フィルタリング処理等が挙げられる。これらのうち、成長因子の変性を招くリスクが小さいことからフィルタリング処理が好ましい。すなわち本工程は、フィルタリング処理によって多血小板血漿から細胞を除去して無細胞系血漿を得るフィルタリング工程であることが好ましい。
【0042】
フィルタリング処理に使用するフィルタは、血小板を除去できるものであれば制限はない。血小板の大きさは約2μmであるため、例えば、孔径が約1μm以下、約0.7μm以下、約0.5μm以下のメンブレンフィルタを使用することができる。なお、メンブレンフィルタの孔径の下限値に制限はないが過度に小さいものは目詰まりを起こすリスクが大きくなる。そのため、孔径は約0.2μm以上、約0.3μm以上、約0.4μm以上が好ましい。通常市販されているメンブレンフィルタのうち、この範囲を満たすものとしては孔径が約0.2μmのメンブレンフィルタと孔径が約0.45μmのメンブレンフィルタがある。本発明においてはいずれも使用可能であり、孔径が約0.45μmのメンブレンフィルタが最適なメンブレンフィルタである。
【0043】
フィルタリング処理は、前述のフィルタを介する遠心分離によって実行されてもよい。この際の遠心分離は、約800~約1800G(通常の遠心分離器においては約1500~約4000rpm程度に相当)の遠心分離である。工程時間は約1~約30分、約5~約15分、約10分である。
【0044】
この処理の結果、フィルタを通過した細胞を含まない液体(すなわち無細胞系血漿)を得ることができる。」
(エ) 甲13
・甲13b(【0046】)
「【0046】
次いで、全血貯留部11中の全血から血漿(以下、本実施形態では多血小板血漿とする)を分離する(以下、第1分離工程S3とする)。分離方法としては、遠心分離、ろ過、又はそれらの組み合わせ、等が挙げられる。本実施形態では、遠心分離を行う。遠心分離の条件は、貯留された血液の量及び分離する成分の種類によって設定されるものであるが、例えば110T0(G)×6(min.)、24(℃)に設定されることが好ましい。なお、遠心分離を行う際は、血清調製装置1を折りたたんで遠心分離機にかけることが好ましい。」
(オ) 甲15
・甲15a(請求項5)
「【請求項5】
血液破砕生理活性因子の製造方法であって、以下の工程を含む方法:
血液を800~2300g/分で3回遠心して高濃度血小板血漿を得る工程;
好ましくは、第1回を5~10分間、第2回を5~10分間、第3回を10~20分間遠心する方法;
高濃度血小板血漿を、少なくとも2回の凍結/解凍処理、または10分以上の超音波処理によって裂解し、生理活性因子抽出液を得る工程;
好ましくは、凍結/解凍条件が-50℃~-60℃で20~30分間凍結し、35℃~40℃で5~15分間解凍する工程であり、より好ましくは2~5回繰り返す方法;
または、好ましくは超音波条件が185W、40kHzで10~20分間である方法;および、任意に、生理活性因子抽出液をろ過後、凍結乾燥保存する工程。」
・甲15b([0039]~[0050])
「[0039]【第1工程:PRP(多血小板血漿)の採取】
[0040]治療用途に供するための成長因子を含む血小板を保存する目的で、血液サンプルを採取する。通常、この血液サンプルは非ヒト動物(好ましくは魚類など)から静脈採血により得られる。推奨される血液量は30mL~60mLであり、輸送の便を考慮してクエン酸ナトリウム中に保存される。
[0041]採取した血液サンプルを遠心分離機にかけ、3,800~4,000rpmで遠心する。より好ましくは、以下の条件で3回遠心する:第1回5分間、第2回5分間、第3回20分間。これによりPRP層と血球層とを分離し、PRP中の成長因子濃度を高める。
[0042]【第2工程:PRPのpH安定化】
[0043]pH値の変動を抑制し、低温条件下でも成長因子の活性が変化しないよう、緩衝液を添加してPRPのpHを安定化する。具体的には、0.6~1.0%のHEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)をPRPの体積に応じて添加し、凍結乾燥保護剤として使用する。好ましくは、0.8%HEPESを使用する。
[0044]【第3工程:血小板からの成長因子の放出】
[0045]成長因子を得るために、PRPを-50°C~-60°Cで30分間凍結し、その後37°Cの水浴中で10分間解凍する。これにより、血小板内に氷晶が形成され、細胞膜が膨張・破裂し、成長因子が放出される。この凍結/解凍処理は、成長因子の収率を高めるため、少なくとも2回繰り返すことが望ましい。血小板は低温下でアポトーシスを起こしやすく、抑制因子を放出して成長因子を損なう可能性があるが、本法により放出された成長因子は長期保存が可能である。
[0046]なお、血小板の破砕は、凍結/解凍のほか、低温下での超音波処理や手動による粉砕等、機械的方法でも達成できる。例として、185W・40kHzの超音波を10分以上照射する方法が挙げられる。
[0047]【第4工程:濾過滅菌】
[0048]得られた成長因子抽出液は、0.2μmの酢酸セルロース膜などを用いて濾過処理を行う。濾過の目的は、病原体やその他の汚染物質を除去し、溶液の安定性と成長因子の寿命を維持することである。
[0049]【第5工程:凍結乾燥】
[0050]任意に、濾過された成長因子抽出液を凍結乾燥して保存することができる。」
・甲15c([0053]~[0062])
「[0053]【実施例1】
[0054]本実施例は、破砕成長因子の製造方法を例示的に提供するものであり、使用する血液はヒトまたは非ヒト動物(例えばブタ、ニワトリ、魚類など)に由来することができる。
[0055]本実施例において提供される破砕成長因子の製造方法は、以下の工程を含む:
[0056]a)高濃度血小板血漿の取得
30mL~60mLの血液サンプルを、3,000~5,000rpmで5分間遠心し、得られた上清を再度3,000~5,000rpmで5分間遠心し、さらに得られた上清を3,000~5,000rpmで20分間遠心する。この三段階の遠心操作によって、高濃度血小板血漿(PRP)を得る。
[0057]b)血小板の破砕および成長因子抽出
得られた高濃度血小板血漿を、-50°C~-60°Cで30分間冷凍した後、37°Cで10分間解凍する凍結/再溶解処理、または185W・40kHzの条件下で超音波処理を行い、血小板を破砕することによって、VEGF、EGF、PDGFなどを含む破砕成長因子抽出液を得る。
[0058]c)濾過および凍結乾燥
得られた抽出液を0.2μmの酢酸セルロース膜で濾過し、濾液を一80°Cに保存した後、150mTorrの真空条件下で16時間凍結乾燥を行い、4°Cにて保存する。
[0059]本実施例では、血液サンプルの遠心条件を最適化した。図1は、第3回遠心の時間が高濃度血小板血漿から放出される成長因子量に与える影響を示す。図1から明らかなように、第3回遠心の時間を延長することで各種成長因子の放出量が顕著に増加するが、20分を超えると変化が見られない、あるいは減少する傾向も示される。したがって、第3回遠心の時間は10~20分が好ましく、20分が最適である。
[0060]また、血小板の破砕には凍結/再溶解または超音波処理のいずれも使用可能であり、本実施例ではそれぞれの条件についても最適化を行った。
[0061]図2は、凍結/再溶解回数が成長因子放出量に与える影響を示す。図2によれば、凍融回数が増加するにつれて放出量が有意に増加するが、5回を超えると放出量はほとんど変化せず、またはむしろ減少する。したがって、凍融回数は少なくとも2回、好ましくは2~5回、最適は5回である。
[0062]図3は、超音波処理時間が成長因子の放出量に与える影響を示す。図3から、超音波処理時間の延長に伴い、成長因子の放出量は顕著に増加することが明らかとなった。したがって、超音波処理時間は少なくとも10分、好ましくは10~20分、最適は10分である。」
(カ) 甲16
・甲16a(実施例1、2)
「実施例 1
調製
[0014]
クエン酸で抗凝固処理された血液を、室温で200gの遠心力で10分間遠心した。上澄みを新しい チューブに移し、再度室温で200gで20分間遠心した。得られた上澄みの上位30~50%(血小板乏血漿:PPP)を除去し、ペレットを残りの上澄みに再懸濁することで、血小板濃厚血漿(PRP) を調製した。PRPには最終濃度10%となるようにCaCl2 を等量加えた。PRPの超音波処理は氷上 で行い、25kHzの周波数を15秒間加えた。これにより、血小板がメディエーターおよびサイトカ インを放出した。ゲルの固化には1時間を要した。すべての工程は無菌条件下で実施された。
実施例2
調製
[0015]
抗凝固処理された血液を、150~400g(好ましくは200g)の遠心力で10~60分間、室温で遠心(ブレーキ設定は弱)した。上層の血漿を新しいチューブに移し、再び室温で500~2000gで7~ 10分間遠心した。上澄みの50~70%PPPを含む)を除去し、残りの上澄みにペレットをボルテックスで再懸濁してPRPを作製した。この方法により、未処理血液80~130mLから7 ~15mLの非活 性化PRPが得られた。PRPは2~8℃で最大24時間、好ましくは8時間以内に保存された。PRPには最終体積の10%となるようにCaC12を添加し、クエン酸の抗凝固効果を中和して、フィブリノゲンをフィブリンゲルに重合させた。PRPの超音波処理は氷上で行い、20kHzの周波数を2回X5秒加えた。これにより血小板が脱顆粒を起こし、メディエーターおよびサイトカインを放出した。ゲルの固化には1~2時間を要した。すべての工程は無菌条件下で実施された。」
イ 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲14発明とを対比する。
a 血漿が、「血液から赤血球その他の有形成分を取除いた液性成分」であり、血小板を含有し得ることは当業者の技術常識であるから、甲14発明の「全血を採取し、血小板を回収して血小板を生理食塩水に懸濁」させた「細胞懸濁液」は、本件特許発明1の「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)」と、採取された全血から得られた血小板を含む液である点で共通する。
b 「VEGF」が血小板内のα顆粒内に含まれる成長因子であり、また「IGF1」が、血漿中に含まれることは当業者の技術常識であるから(前記1(2)イ(イ)a(a)の甲4b)、甲14発明の「血小板細胞因子濃縮物を得る方法」は、本件特許発明1の「VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清の製造方法」と、血小板あるいは血漿由来の成長因子濃縮物の製造方法である点で共通する。
c 甲14発明の「破砕混合液をろ過」することは、本件特許発明1の「細胞を除去する工程」に相当する。
そうしてみると、本件特許発明1と甲14発明は、
「採取された全血から得られた血小板を含む液を超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の液を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の液から細胞を除去する工程を含む、血小板あるいは血漿由来の成長因子濃縮物の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
超音波破砕処理に付される「採取された全血から得られた血小板を含む液」が、本件特許発明1では、「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)」であるのに対し、甲14発明では、「全血を採取し、血小板を回収して血小板を生理食塩水に懸濁し」た「細胞懸濁液」である点。
<相違点2>
濃縮される血小板あるいは血漿由来の成長因子が、本件特許発明1では、VEGF又はIGF1であるのに対し、甲14発明では、その特定がない点。
<相違点3>
超音波破砕処理の条件が、本件特許発明1では、「5W~100Wの出力で超音波破砕処理」すると特定されているのに対し、甲14発明では、「超音波出力100~200Wの条件下で各回1~60秒の破砕時間である超音波破砕を複数回行」うと特定されている点。
<相違点4>
細胞を除去する工程が、本件特許発明1では、フィルタによることが特定されているのに対し、甲14発明では、その特定がない点。
(イ)新規性についての判断
相違点1について検討する。
前記1(2)ウ(ア)、前記1(2)ウ(イ)において説示したとおり、本件特許発明1の超音波破砕処理の対象の成分である「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清)」は、その記載のとおり、血漿から、多血小板血漿である態様が除外されたものである。他方、甲14発明における「全血を採取し、血小板を回収して血小板を生理食塩水に懸濁し」た「細胞懸濁液」とは、甲14eにあるように、採取した全血について多段階の遠心分離を行うことで得られる多くの血小板が含まれる富血小板層から、さらに血小板を精製し、生理食塩水に懸濁したものであるから、血漿に由来する、血小板以外の成分が生理食塩水に置換されたものである点で、本件特許発明1の「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清)」と相違することは明らかである。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲14に記載された発明であるとは認められない。
(ウ)進歩性についての判断
相違点1について検討する。
甲14発明は、甲14b、甲14dにあるとおり、「血小板(platelet)は哺乳類の血液中に存在する無核細胞であり、細胞内のα顆粒の脱顆粒作用を通じて多くの細胞増殖因子を放出することができ」、「これらには、血小板由来成長因子(PDGF)、トランスフォーミング成長因子-β(TGF-β)、インスリン様成長因子-1(IGF-1)、線維芽細胞成長因子(FGF)、上皮成長因子(EGF)、血管内皮成長因子(VEGF)などが含まれ」るところ、「血小板が放出するこれらの細胞増殖因子は生物学的活性が非常に高く、骨細胞の分裂・増殖やコラーゲン合成を誘導し、骨組織の修復および再構築を促進することが知られ」、「軟骨細胞の活性を向上させ、幹細胞の増殖および分化を促進し、軟骨および骨組織の再生・修復に貢献」し、「注射剤、粉末剤などの形態で製剤化すること」により「医療用骨組織工学分野において極めて応用の可能性を有している」との背景技術のもと、なされた発明であって、出発材料として、精製された血小板の細胞懸濁液を用いるものである。すなわち、甲14には、超音波破砕処理に付される「採取された全血から得られた血小板を含む液」に関し、採取された全血から、遠心により富血小板層を得、更にこれを精製することにより得られた精製血小板を、生理食塩水に懸濁して用いることが記載されている。そして、甲14の記載全体をみても、当該精製された血小板を含有する細胞懸濁液に代えて、血小板が富化されていない血漿画分あるいは血清を用いることについては開示も示唆もされていない。
かえって、甲14には、「既知の同種技術として、PRP(多血小板血漿)を凍結と再溶解により処理した血小板裂解液(PL)」に関し、「PL(血小板裂解液)はPRP(多血小板血漿)を基に調製されたものであるが、PRPには赤血球、白血球、および血漿が残留することが避けられず、PLに多数の異物細胞や血漿成分が混在する。そのため、含有されるサイトカインの効果を阻害し、潜在的な安全性の懸念を生じさせる可能性がある。」(甲14c。下線は当審合議体が付した。)とあるように、血漿画分全てに比し血小板を多量に含む、多血小板血漿ついてですら、血小板が精製されていないことにより、異物細胞や血漿成分が混在するため、医療用骨組織工学分野における応用に際し望ましくないことが記載されている。
そうすると、医療用骨組織工学分野における応用を念頭におき、血小板が放出する細胞増殖因子である、血管内皮成長因子(VEGF)やインスリン様成長因子-1(IGF-1)を濃縮して得ようとする甲14の課題に照らせば、血小板を多く含む液を出発原料として選択することが自然であって、これに代えて、血小板の含有量もさまざまであり、異物細胞や血漿成分が混在する「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清)」を用いることは当業者にとり動機付けられたものとはいえない。
また、甲9、甲11~甲13、甲15、甲16をみても、甲14発明における出発原料として血小板を多く含む液に代えて「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清)」を用いることを動機付ける記載は見当たらない。
そうすると、本件件特許発明1の相違点1に係る構成は、甲14に記載された発明及び甲9、甲11~甲13、甲15、甲16・に示された周知技術から当業者が容易に想到し得たものではない。
そして、効果について検討すると、本件特許発明1は、本件特許明細書の実施例に裏付けられるように、「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清)」を出発原料とした場合において、フィルタ濾過の際に目詰まりを起こさず、短い時間で濾過を行うことができ、フィルタ交換が不要であるなど、優れた操作性をもって、VEGF又はIGFを濃縮した無細胞系血漿又は血清を製造することができるという効果を奏するものであり、当該効果は、甲14の記載事項及び周知技術から当業者が予測することができたものとは認められない。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲14及び甲9、甲11~甲13、甲15、甲16に示された周知技術から当業者が容易に想到し得たものではない 。
(エ)申立人の主張について
申立人は、甲14には、「遠心分離して純化した血小板層(1000~1000rpmで10~20分間)が記載されて」おり(実施例1)、「甲14では、100W,150W、200Wで60秒間の超音波処理が行われている(実施例1)」ことから、甲14には、本件特許発明1の「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を5W~100Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を得る工程、及び」との事項が記載されていると主張する(異議申立書95~96頁)。
しかしながら、甲14の実施例1には、出発原料として、あくまで、「精製された血小板」を生理食塩水に懸濁した「細胞懸濁液」を用いることが記載されているのであり、「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)」を出発原料とすることについては記載されていないのであるから、申立人の主張を採用することはできない。
(オ)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲14に記載された発明であるとはいえず、また、甲14に記載された発明に基いて、あるいは甲14に記載された発明及び周知技術(甲9、甲11~甲13、甲15、甲16)に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。
ウ 本件特許発明2~24について
本件特許発明2~24は、本件特許発明1において、超音波破砕処理の条件、濾過条件、原料の血漿や血清を得るための遠心分離処理などが変更・特定されたものであるが、上記イ(ア)で説示したと同様に、相違点を有するのであるから、いずれも甲14に記載された発明であるとはいえない。また、上記イ(ウ)で説示したと同様に、甲14に記載された発明に基いて、あるいは甲14に記載された発明及び周知技術(甲9、甲11~甲13、甲15、甲16)に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。
(2)申立理由4(2)及び5(2)(甲15を主引例とする新規性欠如及び進歩性欠如)
ア 甲15に記載された事項及び甲15に記載された発明
(ア)甲15に記載された事項
甲15には以下の事項が記載されている(原文は中国語であるので、甲15の抄訳文に基づく。)。なお、下線は当審合議体が付したものであり、「・・・」は記載の省略を示す。
・甲15d(請求項1、5~7、9)
「【請求項1】
以下の工程を含む、血液破砕生理活性因子の製造方法:
血液を分離して高濃度の血小板血漿を得る工程、
高濃度の血小板血漿を裂解して生理活性因子抽出液を得る工程、
生理活性因子抽出液をろ過して不純物を除去する工程、
および、任意に、ろ過された生理活性因子抽出液を凍結乾燥する工程。
・・・
【請求項5】
血液破砕生理活性因子の製造方法であって、以下の工程を含む方法:
血液を800~2300g/分で3回遠心して高濃度血小板血漿を得る工程;
好ましくは、第1回を5~10分間、第2回を5~10分間、第3回を10~20分間遠心する方法;
高濃度血小板血漿を、少なくとも2回の凍結/解凍処理、または10分以上の超音波処理によって裂解し、生理活性因子抽出液を得る工程;
好ましくは、凍結/解凍条件が-50℃~-60℃で20~30分間凍結し、35℃~40℃で5~15分間解凍する工程であり、より好ましくは2~5回繰り返す方法;
または、好ましくは超音波条件が185W、40kHzで10~20分間である方法;および、任意に、生理活性因子抽出液をろ過後、凍結乾燥保存する工程。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の方法であって、前記破砕生理活性因子が主にVEGF、EGFおよびPDGFを含む方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の方法であって、前記血液が哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類又は魚類に由来する方法;
好ましくは、該血液が魚類に由来する方法。
・・・
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載の方法によって製造された破砕生理活性因子であって、皮膚創傷の治癒、皮膚再生、皮膚の美白、または皮膚の抗酸化/抗老化に用いられるもの。」
・甲15e([0001])
「[0001]本出願はバイオテクノロジ一分野に属し、血液破砕成長因子の製造方法およびその用途に関する。」
・甲15f([0030]、[0037])
「[0030]本出願において、「血液破砕成長因子」または「破砕成長因子」とは、血液中の血小板に内在する各種の成長因子を意味し、超音波処理または冷凍/再溶解(凍結融解サイクル)によって血小板膜を破壊することで得られるものである。これらには、血小板由来成長因子(PDGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、表皮成長因子(EGF)などが主に含まれる。
・・・
[0037]一方、本発明は、血液由来破砕成長因子の製造方法も提供する。この方法は低コストであり、操作が簡便で、得られる成長因子抽出液には主にVEGF、EGFおよびPDGFなどの成長因子が含まれる。」
・甲15g([0039]~[0051])
「[0039]【第1工程:PRP(多血小板血漿)の採取】
[0040]治療用途に供するための成長因子を含む血小板を保存する目的で、血液サンプルを採取する。通常、この血液サンプルは非ヒト動物(好ましくは魚類など)から静脈採血により得られる。推奨される血液量は30mL~60mLであり、輸送の便を考慮してクエン酸ナトリウム中に保存される。
[0041]採取した血液サンプルを遠心分離機にかけ、3,800~4,000rpmで遠心する。より好ましく
は、以下の条件で3回遠心する:第1回5分間、第2回5分間、第3回20分間。これによりPRP層と血球層とを分離し、PRP中の成長因子濃度を高める。
[0042]【第2工程:PRPのpH安定化】
[0043]pH値の変動を抑制し、低温条件下でも成長因子の活性が変化しないよう、緩衝液を添加してPRPのpHを安定化する。具体的には、0.6~1.0%のHEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)をPRPの体積に応じて添加し、凍結乾燥保護剤として使用する。好ましくは、0.8%HEPESを使用する。
[0044]【第3工程:血小板からの成長因子の放出】
[0045]成長因子を得るために、PRPを-50°C~-60°Cで30分間凍結し、その後37°Cの水浴中で10分間解凍する。これにより、血小板内に氷晶が形成され、細胞膜が膨張・破裂し、成長因子が放出される。この凍結/解凍処理は、成長因子の収率を高めるため、少なくとも2回繰り返すことが望ましい。血小板は低温下でアポトーシスを起こしやすく、抑制因子を放出して成長因子を損なう可能性があるが、本法により放出された成長因子は長期保存が可能である。
[0046]なお、血小板の破砕は、凍結/解凍のほか、低温下での超音波処理や手動による粉砕等、機械的方法でも達成できる。例として、185W・40kHzの超音波を10分以上照射する方法が挙げられる。
[0047]【第4工程:濾過滅菌】
[0048]得られた成長因子抽出液は、0.2,μmの酢酸セルロース膜などを用いて濾過処理を行う。濾過の目的は、病原体やその他の汚染物質を除去し、溶液の安定性と成長因子の寿命を維持することである。
[0049]【第5工程:凍結乾燥】
[0050]任意に、濾過された成長因子抽出液を凍結乾燥して保存することができる。
[0051]本出願により提供される血液破砕成長因子の製造方法によって得られる非ヒト由来の破砕成長因子は、収率が高く、商業化が容易であり、美白効果において特に顕著で、抗酸化効果にも優れる。非ヒト動物の血液を使用することで、製造コストが大幅に削減され、医薬品、健康補助食品、食品、美容製品などの幅広い分野での応用が可能となる。言い換えれば、非ヒト血液から成長因子を抽出することにより、成長因子の生産量および商業価値を高めることができ、とりわけ皮膚再生、美白、抗老化製品などの製造において極めて有望である。」
・甲15h([0053]~[0062])
「[0053]【実施例1】
[0054]本実施例は、破砕成長因子の製造方法を例示的に提供するものであり、使用する血液はヒトまたは非ヒト動物(例えばブタ、ニワトリ、魚類など)に由来することができる。
[0055]本実施例において提供される破砕成長因子の製造方法は、以下の工程を含む:
[0056]a)高濃度血小板血漿の取得
30mL~60mLの血液サンプルを、3,000~5,000rpmで5分間遠心し、得られた上清を再度3,000~5,000rpmで5分間遠心し、さらに得られた上清を3,000~5,000rpmで20分間遠心する。この三段階の遠心操作によって、高濃度血小板血漿(PRP)を得る。
[0057]b)血小板の破砕および成長因子抽出
得られた高濃度血小板血漿を、-50°C~-60°Cで30分間冷凍した後、37°Cで10分間解凍する凍結/再溶解処理、または185W・40kHzの条件下で超音波処理を行い、血小板を破砕することによって、VEGF、EGF、PDGFなどを含む破砕成長因子抽出液を得る。
[0058]c)濾過および凍結乾燥
得られた抽出液を0.2μmの酢酸セルロース膜で濾過し、濾液を-80°Cに保存した後、150mTorrの真空条件下で16時間凍結乾燥を行い、4°Cにて保存する。
[0059]本実施例では、血液サンプルの遠心条件を最適化した。図1は、第3回遠心の時間が高濃度血小板血漿から放出される成長因子量に与える影響を示す。図1から明らかなように、第3回遠心の時間を延長することで各種成長因子の放出量が顕著に増加するが、20分を超えると変化が見られない、あるいは減少する傾向も示される。したがって、第3回遠心の時間は10~20分が好ましく、20分が最適である。
[0060]また、血小板の破砕には凍結/再溶解または超音波処理のいずれも使用可能であり、本実施例ではそれぞれの条件についても最適化を行った。
[0061]図2は、凍結/再溶解回数が成長因子放出量に与える影響を示す。図2によれば、凍融回数が増加するにつれて放出量が有意に増加するが、5回を超えると放出量はほとんど変化せず、またはむしろ減少する。したがって、凍融回数は少なくとも2回、好ましくは2~5回、最適は5回である。
[0062]図3は、超音波処理時間が成長因子の放出量に与える影響を示す。図3から、超音波処理時間の延長に伴い、成長因子の放出量は顕著に増加することが明らかとなった。したがって、超音波処理時間は少なくとも10分、好ましくは10~20分、最適は10分である。」
(イ)甲15に記載された発明
甲15には、「血管内皮成長因子(VEGF)など」を含む「血液破砕生理活性因子」は、「血液中の血小板に内在する各種の成長因子を意味し、超音波処理または冷凍/再溶解(凍結融解サイクル)によって血小板膜を破壊することで得られるもの」であって、「皮膚再生、美白、抗老化製品などの製造」に有望あるところ、「血液を分離して高濃度の血小板血漿を得る工程、高濃度の血小板血漿を裂解して生理活性因子抽出液を得る工程、生理活性因子抽出液をろ過して不純物を除去する工程、および、任意に、ろ過された生理活性因子抽出液を凍結乾燥する工程」「を含む」「製造方法」により「血液破砕生理活性因子」を「製造」することが記載されている。(甲15d~15g)。
そして、甲15には、これを具現化した実施例として、「以下の工程を含む方法:血液を800~2300g/分で3回遠心して高濃度血小板血漿を得る工程;好ましくは、第1回を5~10分間、第2回を5~10分間、第3回を10~20分間遠心する方法;高濃度血小板血漿を、」「10分以上の超音波処理によって裂解し、生理活性因子抽出液を得る工程;」「好ましくは超音波条件が185W、40kHzで10~20分間である方法;および、任意に、生理活性因子抽出液をろ過後、凍結乾燥保存する工程」により「血液破砕生理活性因子」を「製造」するとされており(甲15d、甲15g)、「30mL~60mLの血液サンプルを、3,000~5,000rpmで5分間遠心し、得られた上清を再度3,000~5,000rpmで5分間遠心し、さらに得られた上清を3,000~5,000rpmで20分間遠心する」という「三段階の遠心操作によって、高濃度血小板血漿(PRP)を得」、続いて「185W・40kHzの条件下で超音波処理を行い、血小板を破砕することによって、VEGFなどを含む破砕成長因子抽出液を得」、「得られた抽出液を0.2μmの酢酸セルロース膜で濾過し、濾液を-80°Cに保存した後、150mTorrの真空条件下で16時間凍結乾燥を行」ったことが裏付けをもって記載されている(甲15h)。
そうしてみると、甲15には次の発明が記載されていると認められる。
「以下の工程を含む、血液破砕生理活性因子の製造方法:
血液を分離して高濃度の血小板血漿を得る工程、
高濃度の血小板血漿を裂解して生理活性因子抽出液を得る工程、
生理活性因子抽出液をろ過して不純物を除去する工程、
および、任意に、ろ過された生理活性因子抽出液を凍結乾燥する工程。」(以下「甲15発明」という。)
イ 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲15発明とを対比する。
a 血漿が、「血液から赤血球その他の有形成分を取除いた液性成分」であり、血小板を含有し得ることは当業者の技術常識であるから、甲15発明の「血液を分離して」「得」られる「高濃度の血小板血漿」は、本件特許発明1の「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)」と、採取された全血から得られた血小板を含む液である点で共通する。
b 「VEGF」が血小板内のα顆粒内に含まれる成長因子であり、また「IGF1」が、血漿中に含まれることは当業者の技術常識であって(前記1(2)イ(イ)a(a)の甲4b)、甲15には、「「血液破砕成長因子」または「破砕成長因子」とは、血液中の血小板に内在する各種の成長因子を意味し、超音波処理または冷凍/再溶解(凍結融解サイクル)によって血小板膜を破壊することで得られるものであ」り、「これらには、血小板由来成長因子(PDGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、表皮成長因子(EGF)などが主に含まれる。」(甲15f)とあることから、甲15発明の「血液破砕生理活性因子の製造方法」は、本件特許発明1の「VEGF又はIGF1を濃縮した無細胞系血漿(多血小板血漿を除く)又は無細胞系血清の製造方法」と、血小板あるいは血漿由来の成長因子濃縮物の製造方法である点で共通する。
c 甲15発明の「高濃度の血小板血漿を裂解して生理活性因子抽出液を得る工程」とは、「高濃度血小板血漿を「10分以上の超音波処理によって裂解し、生理活性因子抽出液を得る工程」であるから(甲15d)、上記aの点を踏まえれば、甲15発明の「高濃度の血小板血漿を裂解して生理活性因子抽出液を得る工程」は、本件特許発明1の「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を5W~100Wの出力で超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)を得る工程」と、採血された全血から得られた血小板を含む液を超音波破砕処理する工程である点で共通する。
d 甲15発明の「生理活性因子抽出液をろ過して不純物を除去する工程」は、本件特許発明1の「細胞を除去する工程」に相当する。
そうしてみると、本件特許発明1と甲15発明は、
「採取された全血から得られた血小板を含む液を超音波破砕処理して、超音波破砕処理後の液を得る工程、及び得られた超音波破砕処理後の液成分から細胞を除去する工程を含む、血小板あるいは血漿由来の成長因子濃縮物の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点5>
超音波破砕処理に付される「採取された全血から得られた血小板を含む液」が、本件特許発明1では、「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)」であるのに対し、甲15発明では、「血液を分離して」「得」られる「高濃度の血小板血漿」である点。
<相違点6>
濃縮される血小板あるいは血漿由来の成長因子が、本件特許発明1では、VEGF又はIGF1であるのに対し、甲15発明では、その特定がない点。
<相違点7>
超音波破砕処理の条件が、本件特許発明1では、「5W~100Wの出力で超音波破砕処理」すると特定されているのに対し、甲15発明では、その特定がない点。
<相違点8>
細胞を除去する工程が、本件特許発明1では、フィルタによることが特定されているのに対し、甲15発明では、その特定がない点。
(イ)新規性についての判断
相違点5について検討する。
本件特許発明1の超音波破砕処理の対象の成分である「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清)」は、その記載のとおり、少なくとも多血小板血漿である態様が除外されたものである。他方、甲15発明における「血液を分離して」「得」られる「高濃度の血小板血漿」とは、甲15d、甲15g、甲15hにあるように、採取した全血について多段階の遠心分離を行うことで得られるPRP(多血小板血漿)である高濃度の血小板を含む血漿である点において、本件特許発明1の「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清)」と相違することは明らかである。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲15に記載された発明であるとは認められない。
(ウ)進歩性についての判断
相違点5について検討する。
甲15発明は、甲15d、甲15fにあるとおり、「血液破砕生理活性因子」、すなわち、「血液破砕成長因子」又は「破砕成長因子」とも呼ばれる、「血液中の血小板に内在する各種の成長因子」の製造方法に関し、「低コストであり、操作が簡便で、得られる成長因子抽出液には主にVEGF、EGFおよびPDGFなどの成長因子が含まれる」「血液由来破砕成長因子」の製造方法を提供することを解決すべき課題とするものであって、甲15には、甲15gにあるように、[0039]に、「PRP(多血小板血漿)の採取」として、「[0041]採取した血液サンプルを遠心分離機にかけ、3,800~4,000rpmで遠心」すること、より好ましくは、「第1回5分間、第2回5分間、第3回20分間」の条件で、「3回遠心する」ことにより、「PRP層と血球層とを分離し、PRP中の成長因子濃度を高める」こと、[0044]に、「血小板からの成長因子の放出」として、「凍結/解凍処理は、成長因子の収率を高めるため、少なくとも2回繰り返すことが望ましい」こと、「血小板の破砕は、凍結/解凍のほか、低温下での超音波処理や手動による粉砕等、機械的方法でも達成できる」こと、そして、[0051]に、このような工程を備える「血液破砕成長因子の製造方法によって得られる非ヒト由来の破砕成長因子は、収率が高く、商業化が容易であり、美白効果において特に顕著で、抗酸化効果にも優れる」ことが記載されている。すなわち、甲15発明は、得られる血液破砕生理活性因子の収率を向上させるべく、超音波破砕処理に付される「採取された」「血小板を含む血液サンプル」が、「PRP(多血小板血漿)」であることが前提とされた発明であるといえる。そして、甲15の記載全体をみても、当該「PRP(多血小板血漿)」に代えて、血小板が富化されていない血漿画分やそのような血漿画分から調製される血清を用いることについては開示も示唆もされていない。
そうすると、「低コストであり、操作が簡便で、得られる成長因子抽出液には主にVEGF、EGFおよびPDGFなどの成長因子が含まれる」「血液破砕生理活性因子」の製造方法を提供するという甲15発明の解決すべき課題に照らせば、血小板を多く含む液を出発原料として選択することが自然であって、これに代えて、血小板の含有量もさまざまな、「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清)」を用いることは当業者にとり動機付けられたものとはいえない。
また、甲9、甲11~甲14、甲16をみても、甲15発明における出発原料として血小板を多く含む液に代えて「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清)」を用いることを動機付ける記載は見当たらない。
そうすると、本件件特許発明1の相違点5に係る構成は、甲15に記載された発明及び甲9、甲11~甲15、甲16に示された周知技術から当業者が容易に想到し得たものではない。
そして、効果について検討すると、本件特許発明1は、本件特許明細書の実施例に示されるように、「血漿(多血小板血漿を除き、かつ、細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清)」を出発原料とした場合において、フィルタ濾過の際に目詰まりを起こさず、短い時間で濾過を行うことができ、フィルタ交換が不要であるなど、優れた操作性をもって、VEGF又はIGFを濃縮した無細胞系血漿又は血清を製造することができるという効果を奏するものであり、当該効果が、甲15の記載事項及び周知技術から当業者が予測することができるものとも認められない。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲15及び甲9、甲11~甲14、甲16に示された周知技術から当業者が容易に想到し得たものではない。
(エ)申立人の主張について
申立人は、「甲15には、遠心分離して高濃度血小板血漿(3000~5000rpmで5~20分)が記載されて」おり「(実施例1)」、「甲15では、185Wで10~20分間に超音波処理が行われて」おり「(請求項4,実施例1)」、「5W~100Wの出力」は明示されていないが、血小板の超音波破砕処理の出力として、「5W~100W」程度の出力を選択するのは、技術常識(例えば甲4)であるし、当業者が適宜行う設計事項である」と主張する(異議申立書101頁)。
しかしながら、甲15の実施例1には、出発原料として、あくまで「高濃度血小板血漿」を用いることが記載されているのであり、「血漿(多血小板血漿を除き、かつ細胞を含まない血漿を除く)又は血清(細胞を含まない血清を除く)」を出発原料とすることについては記載されていないのであるから、申立人の主張を採用することはできない。
(オ)小括
以上のとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲15に記載された発明であるとはいえず、また、甲15に記載された発明に基いて、あるいは甲15に記載された発明及び周知技術(甲9、甲11~甲14、甲16)に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。
ウ 本件特許発明2~24について
本件特許発明2~24は、本件特許発明1において、超音波破砕処理の条件、濾過条件、原料の血漿や血清を得るための遠心分離処理などが変更・特定されたものであるが、上記イ(ア)で説示したと同様に、相違点を少なくとも有するものであるから、いずれも甲15に記載された発明であるとはいえない。また、上記イ(ウ)で説示したと同様に、甲15に記載された発明に基いて、あるいは甲15に記載された発明及び周知技術(甲9、甲11~甲14、甲16)に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。
(3)申立理由4及び5のまとめ
したがって、本件特許発明1~24は、甲14に記載された発明ではなく、また、甲14に記載された発明及び周知技術(甲9、甲11~甲13、甲15、甲16に記載された事項)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、申立理由4及び5によっては、本件特許発明1~24を取り消すことはできない。
また、本件特許発明1~24は、甲15に記載された発明ではなく、また、甲15に記載された発明及び周知技術(甲9、甲11~甲14、甲16に記載された事項)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、申立理由4及び5によっては、本件特許発明1~24を取り消すことはできない。
第5 まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1~24に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1~24に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700529