特許拒絶査定不服審判
2021-009887
設計された微小構造を有する剥離性ケーブルジャケット及び設計された微小構造を有する剥離性ケーブルジャケットを製作するための方法
- 審判番号
- 2021-009887
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-512168
- 請求日
- 2021年07月26日
- 審決日
- 2022年04月18日
- 公報発行日
- 2022年10月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
- 【請求人代理人】小林 浩
- 【請求人代理人】片山 英二
- 【請求人代理人】大森 規雄
- 【請求人代理人】新井 剛
- 審判長/審判官
- 審判長 辻本 泰隆
- 審判官 恩田 春香
- 審判官 小田 浩
- 分類
- P18 .121-Z (H01B) / P18 .572-Z (H01B) / P18 .575-Z (H01B) / P18 .56 -Z (H01B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-512168「設計された微小構造を有する剥離性ケーブルジャケット及び設計された微小構造を有する剥離性ケーブルジャケットを製作するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月 6日国際公開,WO2017/058470,平成30年10月25日国内公表,特表2018-531482〕について,次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は,成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2016年(平成28年) 9月 6日(優先権主張 2015年(平成27年) 9月28日 米国)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 3月 5日 :国内書面の提出
令和 2年10月23日付け:拒絶理由通知
令和 3年 1月 8日 :意見書,手続補正書の提出
令和 3年 3月18日付け:拒絶査定(以下,「原査定」という。)
令和 3年 7月26日 :審判請求書,手続補正書の提出
第2 令和 3年 7月26日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和 3年 7月26日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1-8の記載は次のとおりである。(下線部は,補正箇所である。以下,それぞれ,「補正後の請求項1」-「補正後の請求項8」という。)
「 【請求項1】
被覆導体であって,
(a)導体と,
(b)前記導体の少なくとも一部を取り囲む剥離性重合体被覆物と
を備え,
前記剥離性重合体被覆物が,MDPEまたはLDPEである重合体マトリクス材料と,実質的に前記剥離性重合体被覆物の伸長方向に延在する2~4本の範囲にある微小毛細管とを備え,
前記微小毛細管が,別々の空隙空間を画定し,前記空隙空間の各々は,気体で充填されており,
前記微小毛細管は,前記微小毛細管の前記伸長方向と直交に取られた断面として見られたときに,前記重合体マトリクス材料によって完全に取り囲まれており,
前記剥離性重合体被覆物は,微小毛細管を有しないことを除いて同じマトリクス材料から作製された同一の被覆物と比較して20~45%の引張強度の低減を有し,前記剥離性重合体被覆物は,微小毛細管を有しないことを除いて同じマトリクス材料から作製された同一の被覆物と比較して10~25%の破断時伸長度の低減を有する,前記被覆導体。
【請求項2】
前記空隙空間が,空気で充填されている,請求項1に記載の被覆導体。
【請求項3】
前記微小毛細管によって画定された空間の集合体が,前記微小毛細管の前記伸長方向と直交に取られた前記剥離性重合体被覆物の断面として見られたときに,前記剥離性重合体被覆物の断面の総面積の20面積%未満を構成する,請求項1または2のいずれかに記載の被覆導体。
【請求項4】
前記微小毛細管が,0.5μm~2,000μmの範囲にある平均直径を有し,前記微小毛細管が,円形,長方形,楕円形,星形,ダイヤモンド形,三角形,正方形,五角形,六角形,八角形,曲線形,及びそれらの組み合わせから成る群から選択される断面形状を有し,前記剥離性重合体被覆物が,10~180ミルの範囲にある厚さを有する,請求項1~3のいずれか一項に記載の被覆導体。
【請求項5】
前記剥離性重合体被覆物の厚さの前記微小毛細管の平均直径に対する比率が,2:1~400:1の範囲にある,請求項1~4のいずれか一項に記載の被覆導体。
【請求項6】
前記剥離性重合体被覆物が,前記微小毛細管の内部位置に対応する外部の印を備える,請求項1~5のいずれか一項に記載の被覆導体。
【請求項7】
前記微小毛細管が,前記剥離性重合体被覆物の長さに沿って実質的に長手方向に連続的である,請求項1~6のいずれか一項に記載の被覆導体。
【請求項8】
前記微小毛細管が,前記剥離性重合体被覆物の長さに沿って長手方向に断続的である,請求項1~6のいずれか一項に記載の被覆導体。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,令和 3年 1月 8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-10の記載は次のとおりである。(以下,それぞれ,「補正前の請求項1」-「補正前の請求項10」という。)
「 【請求項1】
被覆導体であって,
(a)導体と,
(b)前記導体の少なくとも一部を取り囲む剥離性重合体被覆物と
を備え,
前記剥離性重合体被覆物が,MDPEまたはLDPEである重合体マトリクス材料と,実質的に前記剥離性重合体被覆物の伸長方向に延在する1~8本の範囲にある微小毛細管とを備え,
前記微小毛細管が,別々の空隙空間を画定し,前記空隙空間の各々は,気体またはオレフィンエラストマーで充填されており,
前記微小毛細管は,前記微小毛細管の前記伸長方向と直交に取られた断面として見られたときに,前記重合体マトリクス材料によって完全に取り囲まれている,前記被覆導体。
【請求項2】
前記空隙空間が,空気で充填されている,請求項1に記載の被覆導体。
【請求項3】
前記微小毛細管によって画定された空間の集合体が,前記微小毛細管の前記伸長方向と直交に取られた前記剥離性重合体被覆物の断面として見られたときに,前記剥離性重合体被覆物の断面の総面積の20面積%未満を構成する,請求項1または2のいずれかに記載の被覆導体。
【請求項4】
前記微小毛細管が,0.5μm~2,000μmの範囲にある平均直径を有し,前記微小毛細管が,円形,長方形,楕円形,星形,ダイヤモンド形,三角形,正方形,五角形,六角形,八角形,曲線形,及びそれらの組み合わせから成る群から選択される断面形状を有し,前記剥離性重合体被覆物が,10~180ミルの範囲にある厚さを有する,請求項1~3のいずれか一項に記載の被覆導体。
【請求項5】
前記剥離性重合体被覆物の厚さの前記微小毛細管の平均直径に対する比率が,2:1~400:1の範囲にある,請求項1~4のいずれか一項に記載の被覆導体。
【請求項6】
前記剥離性重合体被覆物が,微小毛細管を有しないことを除いて同じマトリクス材料から作製された同一の被覆物と比較して50%未満の引張強度の低減を有し,前記剥離性重合体被覆物が微小毛細管を有しないことを除いて同じマトリクス材料から作製された同一の被覆物と比較して30%未満の破断時伸長度の低減を有する,請求項1~5のいずれか一項に記載の被覆導体。
【請求項7】
前記空隙空間が,エチレン/オクテンエラストマーで充填されている,請求項1に記載の被覆導体。
【請求項8】
前記剥離性重合体被覆物が,前記微小毛細管の内部位置に対応する外部の印を備える,請求項1~7のいずれか一項に記載の被覆導体。
【請求項9】
前記微小毛細管が,前記剥離性重合体被覆物の長さに沿って実質的に長手方向に連続的である,請求項1~8のいずれか一項に記載の被覆導体。
【請求項10】
前記微小毛細管が,前記剥離性重合体被覆物の長さに沿って長手方向に断続的である,請求項1~8のいずれか一項に記載の被覆導体。」
2 補正の目的
(1)本件補正は,補正前の請求項1の発明特定事項である「微小毛細管」について,その本数を「2~4本の範囲」と,また「微小毛細管」が画定する「空隙空間」の各々に充填される物質を「気体」と限定すると共に,「剥離性重合体被覆物」について「微小毛細管を有しないことを除いて同じマトリクス材料から作製された同一の被覆物と比較して20~45%の引張強度の低減を有し,前記剥離性重合体被覆物は,微小毛細管を有しないことを除いて同じマトリクス材料から作製された同一の被覆物と比較して10~25%の破断時伸長度の低減を有する」と限定し,補正後の請求項1とするものであるから,特許請求の範囲の減縮(限定的減縮)を目的とする補正を含むものである。
そして,補正前の請求項1-10に記載された発明と補正後の請求項1-8に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であることは明らかである。
3 独立特許要件
(1)以上のように,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものである。
そこで,補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。
本件補正発明は,上記「1(1)」に補正後の請求項1として記載したとおりのものである。
(2)引用文献1に記載されている技術的事項及び引用発明
ア 原査定の拒絶の理由において引用された,特開2004-264473号公報(以下,「引用文献1」という。)には,以下の事項が記載されている。(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。以下同じ。)
「【0008】
本発明は上記のような事情を考慮してなされたものであり,その目的は,多数本を同時に布設する際に光ファイバケーブルに外傷を発生させることなく,かつ端末処理の際に光ファイバコードの損傷が防止できる光ファイバケーブルを提供することである。」
「【0011】
第2の発明の光ファイバケーブルは,少なくとも1本のテンションメンバーと,上記テンションメンバーと並列配置された少なくとも1本の光ファイバコードと,上記テンションメンバー及び光ファイバコードの外周部を覆うように形成され,外周部がほぼ楕円形状にされたシースと,端末処理時に前記光ファイバコードの取り出しを容易にするため上記シース内部の少なくとも1箇所に形成された空孔とを具備している。」
「【0016】
(第1の実施の形態)
図1は,第1の実施の形態に係る光ファイバケーブルの断面図を示している。
【0017】
図1に示す光ファイバケーブル1は,1本のテンションメンバー2と,このテンションメンバー2の両側に並列するように配置された2本の光ファイバコード3と,この2本の光ファイバコード3及びテンションメンバー2の外周部を覆い,外周部がほぼ楕円形状となるシース4とから構成されている。
【0018】
テンションメンバー1は,ケーブルの強度を保つために設けられているものであり,鋼線5の外周部をシース6で覆った構造を有する。
【0019】
2本の光ファイバコード3のそれぞれは,光ファイバ7の外周部を樹脂層8で覆い,さらにその外周部をシース9で覆った構造を有する。
【0020】
テンションメンバー2及び光ファイバコード3を覆うシース4の内周面の,楕円形状にされたシースの長円部の一対の頂部に対応した位置付近には,断面形状が三角形状の切り裂き用の溝10a,10bが形成されている。
【0021】
このような構成の光ファイバケーブル1の端末処理を行う場合,シース4端部の切り裂き用の溝10aもしくは10bが設けられた位置付近のシース4の外周部に,カッターナイフやニッパー等で切れ目を入れ,シース4を図中の上下方向に引き裂いて光ファイバコード3を取り出すことにより行われる。」
「【0041】
(第6の実施の形態)
図6は,本発明の第6の実施の形態に係る光ファイバケーブルの断面図を示している。なお,図1と対応する箇所には同じ符号を付してその説明は省略する。
【0042】
第1ないし第5の各実施の形態に係る光ファイバケーブルでは,シース4の内周面に,種々の断面形状を有する切り裂き用の溝を形成する場合について説明したが,この実施の形態に係る光ファイバケーブルでは,楕円形状にされたシース4の長円部の一対の頂部に対応した位置付近のシース4内部に,断面形状が円形状の切り裂き用の空孔11a,11bを設けるようにしたものである。
【0043】
この実施の形態でも,第1の実施の形態の場合と同様の効果を得ることができる。
【0044】
なお,第1の実施の形態の場合と同様に,シース4内に設けられるテンションメンバー2及び光ファイバコード3の本数は図示の本数に限定されるものではない。
【0045】
さらに,空孔11a,11bの断面形状も円形状に限定されるものではなく,どのような断面形状であってもよい。」
「【0050】
本発明は上記各実施の形態に限定されるものではなく,種々の変形が可能であることはいうまでもない。例えばシース4に溝または空孔を2箇所形成する場合について説明したが,これは3箇所以上形成するようにしてもよい。
【0051】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば,多数本を同時に布設する際に光ファイバケーブルに外傷を発生させることなく,かつ端末処理の際に光ファイバコードの損傷が防止できる光ファイバケーブルを提供することができる。」
「【図1】
[図:0001388911000001.jpg]
」
「【図6】
[図:0001388911000002.jpg]
」
イ ここで,引用文献1に記載されている事項を検討する。
(ア)段落0011,0041-0045,及び図6を参照すると,引用文献1の「光ファイバケーブル1」は,「少なくとも1本の光ファイバコード3」と,テンションメンバー及び光ファイバコードの外周部を覆うように形成された「シース4」と,上記シース内部に形成された,切り裂き用の「空孔11a,11b」とを具備している。
(イ)段落0011及び図6から,「シース4」は,「光ファイバコード3」の少なくとも一部を覆うように形成されていることは明らかである。
ウ 以上から,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「シース4を上下方向に引き裂いて光ファイバコード3を取り出す光ファイバケーブル1であって,
少なくとも1本の光ファイバコード3と,
上記光ファイバコード3の少なくとも一部を覆うように形成されたシース4と,
上記シース内部に形成された,切り裂き用の空孔11a,11bとを具備している
光ファイバケーブル1。」
(3)その他の文献に記載されている技術的事項
ア 原査定の拒絶の理由において引用された,特開2001-110243号公報(以下,「引用文献5」という。)には,以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,ケーブルコアの外方に設けたプラスチック被覆に被覆突出部を形成したケーブル及びその製造方法並びにケーブルの中間部での被覆除去方法に関する。」
「【0006】本発明は,このような従来技術によるケーブルの問題点を解消し,ケーブルの中間部においてもケーブルコアを傷つけずに被覆除去が容易なケーブル及びその製造方法並びに被覆除去方法を提供するものである。」
「【0009】
【発明の実施の形態】図1,図2は,それぞれ本発明のケーブルの実施形態を示す横断面図であって,1はケーブルコア,2はプラスチック被覆,3は被覆突出部,4は溝,4aは溝の底部,5は包絡面,6は紐状体である。
【0010】ケーブルコア1は,光ファイバ心線,通信用絶縁電線,電力用絶縁電線,制御用絶縁電線等を集合した集合体であって,中に含まれる線状体の種類は特に問わない。プラスチック被覆2は,ポリエチレン,塩化ビニル樹脂等のプラスチックからなり,通常押出し成形することによってケーブルコア1の外方に,厚さ1.3mm~2.0mm程度の略円筒状の成形体として設けられる。また,ケーブルコアと鋼撚り線等からなる支持線を平行にして,それらを断面だるま型のプラスチック被覆で一体的に覆った自己支持型ケーブルとすることもある。」
「【0017】例えば,ポリプロピレン等の硬質プラスチックからなる高さ1.8mm程度の断面3角形の紐状体を,ケーブルコア上に300mm~500mmのピッチで巻き付けて,それらを覆うように低密度ポリエチレン等の軟質プラスチックからなる厚さ1.5mmのプラスチック被覆を押出し被覆すれば,プラスチック被覆に所望の被覆突出部を形成することが出来る。」
「【図1】
[図:0001388911000003.jpg]
」
「【図2】
[図:0001388911000004.jpg]
」
イ 原査定の拒絶の理由において引用された,特表2013-531805号公報(以下,「引用文献6」という。)には,以下の事項が記載されている。
「【背景技術】
【0004】
光ファイバケーブルは,典型的には,保護ポリマージャケットで包囲された1本又は2本以上の光ファイバを有する。ジャケットは,種々の環境条件に耐えるのに十分堅牢でなければならないが,現場技術者が過度の労力及び時間を費やさないで包囲状態の光ファイバに接近できるようにする必要もある。ケーブルコア内の光ファイバへの接近を可能にする種々の手段が提案され,かかる手段としては,リップコード及び他の手段の組み込みが挙げられる。米国特許第5,970,196号の発明は,ケーブルコアへの接近を可能にするようケーブルジャケットから取り外し可能な大きなインサートを有する。しかしながら,インサートは,大きすぎるので,ケーブルの機械的性能が損なわれる場合がある。というのは,インサートのサイズにより,ケーブル/チューブジャケットの大きな部分が互いに異なるモードで曲がったり撓んだりする可能性があるからである。」
「【0013】
図1は,本実施形態の光ファイバケーブル10の部分切除図である。ケーブル10は,ジャケット30により包囲されたコア20を有している。ジャケット30は,コア20に向いた内面34と,外面38とを有している。ジャケット30は,主として一般に「ポリマー」と呼ばれることがある高分子物質で作られるのが良い。本明細書では,「ポリマー」という用語は,例えばコポリマー,及び例えば充填剤のような添加剤を含む高分子物質のような材料が挙げられる。コア20は,例えば,データ伝送及び/又は電力送電能力を備えた組立体又は構造体であるのが良い。図示の実施形態では,コア20は,逆螺旋巻き結合材44,46内に包まれた光ファイバ40の束を含む。」
「【0021】
図示のジャケット30の主要部分55は,中密度ポリエチレン(MDPE)から押出し成形されており,不連続部50は,ポリプロピレン(PP)から押出し成形されている。ジャケット30は,同時押出し成形法で形成されており,その結果,主要部分55と不連続部50は,冷却中に結合され,それにより,インターフェース54のところに比較的強固な結合部が形成されている。この方法で形成されたケーブル(図示せず)は,ケーブル20中に結合材としての細線の下に吸水膨潤性テープを更に有している。ケーブルジャケット30は,堅牢であるが,ジャケット30を不連続部50に沿って剪断し又は引き裂くのに比較的弱い引張り力で十分である。」
「【図1】
[図:0001388911000005.jpg]
」
ウ 以上から,引用文献5,6には,次の技術的事項(以下,「周知技術記載事項」という。)が記載されているものと認められる。
「 コアとコアを被覆する剥離性の樹脂とを備える光ファイバケーブルにおいて,樹脂として,低密度ポリエチレンや中密度ポリエチレンを用いること。」
(3)対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)本願明細書の段落0046の「『導体』は,熱,光,及び/もしくは電気を伝導するための1つ以上のワイヤ(複数可)またはファイバ(複数可)を表わす。導体は,単一のワイヤ/ファイバまたは複数のワイヤ/ファイバであってもよく,かつストランド型形態またはチューブ型形態にあってもよい。」旨の記載を参酌すると,引用発明の「光ファイバコード3」が,本件補正発明の「導体」に相当する。
(イ)引用発明は「シース4を上下方向に引き裂いて光ファイバコード3を取り出す光ファイバケーブル1」であるから,引用発明の「シース4」は「剥離性」のものであるといえる。
そして,引用発明の「シース4」は,「上記光ファイバコード3の少なくとも一部を覆うように形成され」ているから,本件補正発明の「剥離性重合体被覆物」と,「前記導体の少なくとも一部を取り囲む剥離性」「被覆物」である点で共通する。
(ウ)引用発明の「シース4」が何らかの「マトリクス材料」を備えていることは明らかである。
(エ)引用発明の「空孔11a,11b」が,シース4の伸長方向に延在することは明らかであるから,引用発明の「空孔11a,11b」は,本件補正発明の「微小毛細管」と,「実質的に前記剥離性」「被覆物の伸長方向に延在する2~4本の範囲にある微小毛細管」である点で共通する。
(オ)引用文献1の図6を参照すると,引用発明の「空孔11a,11b」は,別々の空隙空間を画定しているといえる。
そして,引用発明の「空孔11a,11b」内には,空気が入っていることは明らかであるから,本件補正発明の「微小毛細管」と,「別々の空隙空間を画定し,空隙空間の各々は,気体で充填されて」いる点で一致する。
(カ)引用文献1の図6を参照すると,引用発明の「空孔11a,11b」は,伸長方向と直交に取られた断面として見られたときに,シース4によって完全に取り囲まれているといえるから,本件補正発明の「微小毛細管」と,「前記伸長方向と直交に取られた断面として見られたときに,前記」「マトリクス材料によって完全に取り囲まれて」いる点で一致する。
(キ)引用発明の「シース4」は,「空孔11a,11b」を有することにより,「空孔11a,11b」を有しないことを除いて同じマトリクス材料から作製された同一の物と比較して,「引張強度」及び「破断時伸長度」が低減することは明らかである。
すると,引用発明の「シース4」は,本件補正発明の「剥離性重合体被覆物」と,「微小毛細管を有しないことを除いて同じマトリクス材料から作製された同一の被覆物と比較して」「引張強度の低減を有し」,「微小毛細管を有しないことを除いて同じマトリクス材料から作製された同一の被覆物と比較して」「破断時伸長度の低減を有する」ものである点で共通するといえる。
(ク)引用発明の「光ファイバーケーブル1」が,本件補正発明の「被覆導体」に対応する。
イ 以上から,本件補正発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。
<一致点>
「被覆導体であって,
(a)導体と,
(b)前記導体の少なくとも一部を取り囲む剥離性被覆物と
を備え,
前記剥離性被覆物が,マトリクス材料と,実質的に前記剥離性被覆物の伸長方向に延在する2~4本の範囲にある微小毛細管とを備え,
前記微小毛細管が,別々の空隙空間を画定し,前記空隙空間の各々は,気体で充填されており,
前記微小毛細管は,前記微小毛細管の前記伸長方向と直交に取られた断面として見られたときに,前記マトリクス材料によって完全に取り囲まれており,
前記剥離性被覆物は,微小毛細管を有しないことを除いて同じマトリクス材料から作製された同一の被覆物と比較して引張強度の低減を有し,前記剥離性被覆物は,微小毛細管を有しないことを除いて同じマトリクス材料から作製された同一の被覆物と比較して破断時伸長度の低減を有する,前記被覆導体。」
<相違点1>
剥離性被覆物の材料に関して,本件補正発明は「MDPEまたはLDPEである重合体マトリクス材料」を備える「剥離性重合体被覆物」であると特定されているのに対し,引用発明は,そのように特定されていない点。
<相違点2>
剥離性被覆物の特性に関して,本件補正発明は「微小毛細管を有しないことを除いて同じマトリクス材料から作製された同一の被覆物と比較して20~45%の引張強度の低減を有し」,「微小毛細管を有しないことを除いて同じマトリクス材料から作製された同一の被覆物と比較して10~25%の破断時伸長度の低減を有」すると特定されているのに対し,引用発明は,そのように特定されていない点。
(4)当審の判断
上記相違点1,2について検討する。
ア 相違点1について
周知技術記載事項に記載されているように,光ファイバケーブルにおいて,コア(導体)を被覆する剥離性の樹脂として,エチレン系重合体である,低密度ポリエチレン(すなわち,LDPE)や,中密度ポリエチレン(すなわち,MDPE)を用いることは,当該技術分野において周知技術にすぎない。
すると,光ファイバケーブルである引用発明において,光ファイバコード3,すなわち,導体を覆うシース4の材料として,MDPEまたはLDPEである「重合体マトリクス材料」を採用し,「剥離性重合体被覆物」とすることにより,相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは,当業者が容易になし得たものである。
イ 相違点2について
引用文献1の段落0002に「・・・端末処理の際に,シースの端部にカッターナイフやニッパー等で切れ目を入れ,シースを引き裂いて光ファイバコードを取り出す必要がある。このとき,内部の光ファイバコードに損傷を与えないようにするために,慎重にシースに切れ目を入れる必要があり,熟練技術を必要とする。」,段落0011に「・・・端末処理時に前記光ファイバコードの取り出しを容易にするため上記シース内部の少なくとも1箇所に形成された空孔とを具備している。」と記載されているように,引用発明において,「空孔11a,11b」は,シースを引き裂き易くし光ファイバコードの取り出しを容易にするために設けられたものであるから,引裂強度を低減させるものである。
そして,引用発明において,剥離性被覆物の引張強度及び破断時伸長度を,微小毛細管を有しないことを除いて同じマトリクス材料から作製された同一の被覆物と比較してどの程度低下させるのかは,微小毛細管を有しない剥離性被覆物が持つ引張強度及び破断時伸長度,引裂強度を考慮して,数値を最適化又は好適化するものであるから,当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
すると,引用発明において,引張強度及び破断時伸長度の数値の最適化又は好適化し,相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは,当業者が容易になし得たものである。
ウ 請求人の主張について
(ア) 請求人は審判請求書において,
「(ウ)また,本願発明の有利な効果について,本願明細書に下記記載の実施例によると,本願発明の構成「MDPEまたはLDPEである重合体マトリクス材料」,「前記空隙空間の各々は,気体で充填されており」,及び「前記剥離性重合体被覆物は,微小毛細管を有しないことを除いて同じマトリクス材料から作製された同一の被覆物と比較して20~45%の引張強度の低減を有し,前記剥離性重合体被覆物は,微小毛細管を有しないことを除いて同じマトリクス材料から作製された同一の被覆物と比較して10~25%の破断時伸長度の低減を有する」とにより,比較例(CS1,CS2)に比べ,例えば,引裂強度は,57~80%まで低減される([0138],[0139])ことが示されています。このような本願発明の効果は,引用文献1~5の発明からは予期することはできず,有利な効果であると思料します。」
と主張している。
(イ)上記主張について検討する。
まず,上記「イ」で検討したように,引用発明においても「空孔11a,11b」は,引裂強度を低減させるものであるから,その効果が予測出来ないものであるとはいえない。
さらに,本願明細書の段落0140の「上記の全ての発明に関するサンプルは42本の微小毛細管で作られることに留意されたい。かかる構築物は,データで示されるように,総体的な引張及び伸長特性に対して効果を有する。」の記載を参照すると,本願明細書の実施例のサンプルS1~S5は,「42本の微小毛細管」を有するものであると認められるから,上記主張は,「2~4本の範囲にある微小毛細管」を特定する補正後の請求項1の記載に基づくものでもなく,採用できない。
(5)小括
上記で検討したごとく,引用発明に相違点1,2に係る本件補正発明の構成を採用することは当業者が容易に想到し得たものであり,そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,上記引用発明及び当該技術分野の周知技術の奏する作用効果から予測される範囲のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。
したがって,本件補正発明は,上記引用発明及び当該技術分野の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。
4 補正却下の決定のむすび
以上から,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和 3年 7月26日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,上記「第2」の「1(2)」に,補正前の請求項1として記載されたとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,以下のとおりである。
理由1 この出願の請求項1-6,8-10に係る発明は,下記の引用文献1-6に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1 特開2004-264473号公報
引用文献2 特開2000-123641号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3 特開平11-224540号公報
引用文献4 実願昭47-66048号(実開昭49-24977号)のマイクロフィルム
引用文献5 特開2001-110243号公報
引用文献6 特表2013-531805号公報
3 引用例に記載されている技術的事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1,5,6は,上記「第2」の「3(2)」-「3(3)」に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は,上記「第2」の「3」で検討した本件補正発明に関する限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が,上記「第2」の「3」に記載したとおり,引用発明及び当該技術分野の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,上記限定事項を省いた本願発明も同様の理由により,引用発明及び当該技術分野の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
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2021-009887