特許拒絶査定不服審判
2025-004526
誘導結合プラズマ分析用のレーザーアブレーション装置および分析装置
- 審判番号
- 2025-004526
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-137089
- 請求日
- 2025年03月24日
- 審決日
- 2025年11月17日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社エス・テイ・ジャパン
- 【請求人代理人】亀井 岳行
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 浩
- 審判官 ▲高▼見 重雄
- 審判官 遠藤 直恵
- 分類
- P18 .121-Z (G01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-137089「誘導結合プラズマ分析用のレーザーアブレーション装置および分析装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 3月25日出願公開、特開2021- 47176〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件出願(以下「本願」という。)は、令和2年8月14日(優先権主張 令和元年9月10日)の出願であって、令和6年1月26日付けの拒絶理由の通知に対し、同年4月5日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年7月10日付けの拒絶理由の通知に対し、同年9月24日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年12月19日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して令和7年3月24日に審判請求書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1~4に係る発明は、令和6年9月24日に手続補正がなされた特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。そのうち本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次に特定されるとおりである。
「 【請求項1】
セルに収容された試料をアブレーションするレーザー光を出力するレーザー光源と、
前記レーザー光源からのレーザー光を前記試料に向けて照射する光学系であって、第1の軸を中心に回転可能な第1のミラーと、前記第1の軸とは異なる第2の軸を中心に回転可能な第2のミラーと、前記第1のミラーを前記第1の軸を中心に回転させる第1の駆動源と、前記第2のミラーを前記第2の軸を中心に回転させる第2の駆動源と、を有し、前記レーザー光源からのレーザー光を前記第1のミラーで反射し、前記第1のミラーで反射されたレーザー光を前記第2のミラーで前記試料に向けて反射すると共に、前記各ミラーを回転させる周波数である繰り返し周波数が10kHz以上である前記光学系と、
を備えたことを特徴とする誘導結合プラズマ分析用のレーザーアブレーション装置。」
第3 原査定
原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
(進歩性)本願発明(本願の請求項1に係る発明)は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、との拒絶の理由を含むものである。
引用文献1.平田岳史 他,レーザーアブレーションICP-MSの進歩と展望,ぶんせき,2016年,1号,PP.9-16
第4 引用文献等
1 引用文献1の記載
本願の優先権主張の日前に頒布され、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、図面とともに次の記載がある(下線は当審において付与した。)。
(引1-ア)9頁前文(タイトル)
「レーザーアブレーションICP-MSの進歩と展望
レーザーアブレーション-ICP質量分析法は固体中のng/gレベルの微量元素の分析や,2μm程度の微小領域の元素・同位体分析が可能となり応用研究も急速に進んでいる。さらに最近では,固体試料中の元素・同位体のマッピング(イメージング分析)にも急速に応用されつつあり,工業材料あるいは生体試料の分析に新しい展開をみせつつある。本稿では,レーザーアブレーションの動作原理から最新の応用分析を紹介する。」
(引1-イ)9頁左欄1行~右欄6行
「1 レーザーアブレーション試料導入法
高エネルギー密度のレーザー光を固体試料表面に照射すると,レーザー照射点では試料の温度が10000℃以上になる。これにより固体試料表面の元素は気化し,さらにその一部はイオン化される。さらにレーザー光は試料内部にまで入り込み,レーザーエネルギーの大部分は試料内部で放出される。これにより試料内部で試料構成成分の気化と試料の破砕が起こり,様々なサイズの試料破片が爆発的に放出される。これがレーザーアブレーション(laser ablation,LA)である1)。LAでは試料構成元素のイオンや蒸気(気体),これらの一部が再凝縮した固体粒子,さらには試料から直接放出された大小様々な試料破片(エアロゾル)が生成される。したがってLAは「元素の気化」と「機械的な破砕・掘削」が並行して起こっていると考えるべきであり,レーザーによる単なる「気化」あるいは「機械的な破砕」と表現するのは適切ではない。このLA現象を用いることで,固体試料の化学分析に利用することが可能である。例えば,高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)法やICP質量分析(ICP-MS)法の励起・イオン源(ICP)に,LAにより生成された元素蒸気や試料エアロゾルを導入することで,固体試料の化学組成を迅速かつ高感度で調べることができる。LAの試料導入法としての応用は様々な分析法で実用化されているが,現時点では,大気圧励起源を持ち,なおかつ最も高感度な元素検出法であるICP-MS法との組み台わせが主流である(図1)。LAを利用した試料導入法を組み合わせたICP-MS法(以後,LA-ICPMS法と略記)は,固体試料を化学分解・溶液化処理する必要がないため,迅速かつ高感度な元素・同位体分析法として,ICP-MSの実用化当初から注目されていた2)。最近のICP-MS装置の分析性能の向上,特に分析感度の向上に伴い,レーザー照射径や
[図:0001431950000001.jpg]
レーザーエネルギー(掘削深さあるいは掘削速度を決定する因子)を幅広く自由に設定できるようになり,固体試料全体の平均化学組成(バルク組成)から,固体試料のごく表面層の分析(厚さ5~20nm程度),さらには固体試料中の特定微小部位(約2μm~30μm程度)の元素・同位体分析に活用され始めている3)~6)。」
(引1-ウ)14頁左欄9行~15頁左欄3行
「6 LA-ICPMSの工業材料への応用
前述のとおり,得られる分析結果の信頼性はどのような標準物質を用いるかに大きく左右される。正確な濃度値を得るために必要な標準物質としては,(a)未知試料に類似したマトリックス組成,物性(光学特性,硬度,熱伝導率)を持つ,(b)未知試料中の分析元素濃度と同程度の濃度範囲を持つ,そして(c)均質性と濃度値の信頼性が高いこと,などが要求される。溶液試料の場合は,元素標準液を希釈・混合することで適当な標準物質を調製することができるのに対し,固体試料の場合は以上の三つの条件を満足するものを調製するのは非常に難しい。これがLA-ICPMS法の分析データの信頼性が溶液分析(solution nebulization-ICPMS)のものと比較して低いと考えられている主因である。こうした問題背景から,標準物質の選択性を広げるための努力も続いている。例えばFernandezらは,ガルバノ光学系と呼ばれる特殊なレーザー光学系を用いることで,二つの試料をほぽ同時にLAする装置を開発した36)。ガルバノ光学系は90゜の角度で直交する2枚の可動式反射鏡を組み込んだ光学システムで,反射鏡の角度を変化させることでレーザー照射点を高速で移動させることが可能となる(図7)。Fernandezらは,濃縮同位体をドープした標準物質と未知試料を交互にLAすることで,両者を混合し,同位体希釈法による定量分析を行った36)。このガルバノ光学系を用いることで,同位体希釈法だけではなく,様々な定量手法を適用することができる。筆者らの研究グループでは,ガルバノ光学系の制御系を高速化するとともに,レーザー照射位置や,各点でのアブレーション時間の設定に対して自由度を高めることで,複数の固体物質をほぼ同時に(時間差10ms以下),任意の時間割合でアブレーションするシステムを開発した37)。この疑似同時アブレーション法を応用し,固体試料間でのレーザー照射の時間割合を変化させることで,未知試料と標準物質を任意の割合で混合させることができる(図8)。これを活用することで,標準添加法により分析元素を定量することが可能である37)。標準添加法では,プラズマに導入されるエアロゾルのマトリックス組成や導入量の変化を抑えることができるため,定量分析の系統誤差の主因であるマトリックス効果の低減が図れる。ただし末知試料と標準物質において
[図:0001431950000002.jpg]
レーザー照射によるサンプリング量(掘削速度)に違いがある場合は,標準添加法で得られる定量値には系統誤差が生じる点は注意が必要である。本測定では,フェム卜秒レーザーを用いているため,主成分元素組成あるいは結晶構造,物性等に由来するサンプリング量には大きな違いがなく27),系統誤差が抑制されている。このようにフェムト秒レーザーとガルバノ光学系を組み合わせることで,標準物質が入手できない場合での定量分析の信頼性が向上できる。
ガルバノ光学系による同時アブレーションを活用することで,試料あるいは未知試料に含まれない元素(内部標準元素)を添加することが可能となり,この濃度既知の内標準元素と分析元素の信号強度を比較することで半定量分析が可能となる。このガルバノ光学系による擬似同時アブレーションを用いることで固体試料を混合することができる。これは溶液分析において未知試料に元素を添加することと同じ意味を持つ。固体試料においても溶液と同じ操作,つまり試料の混合や元素の添加が可能となることから,今後は定量分析における更なる信頼性の向上が期待できる。」
2 引用文献1に記載された技術的事項
上記1の(引1-ア)~(引1-ウ)を整理すると、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
(1)(引1-ウ)の「6 LA-ICPMSの工業材料への応用」欄の中で、「図7 ガルバノ光学系を組み込んだLA装置」が紹介されている。そして、(引1-ア)に記載のタイトル「レーザーアブレーションICP-MSの進歩と展望」や(引1-イ)に記載の略語「レーザーアブレーション(laser ablation,LA)」及び「高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)法やICP質量分析(ICP-MS)法」などを踏まえると、図示された図7のLA装置は、誘導結合プラズマ質量分析法(ICPMS)に用いられるレーザーアブレーション(LA)装置であると認められる。
(2)図示された図7のLA装置は、内部に試料を収容したセルを備えることが看て取れる。
(3)図示された図7のLA装置は、試料にレーザーを照射するレーザー光源を備えることが看て取れる。
(4)図示された図7には、「ガルバノ光学系(2個の回転式ミラーを使用)」との記載が看て取れる。また、図示された図7のLA装置は、レーザー光源からのレーザー光を一方の回転式ミラーで反射し、当該回転式ミラーで反射されたレーザー光を他方の回転式ミラーで試料に向けて反射することが看て取れる。また、図7から、回転式ミラーがその軸線(点線)を中心に往復回転すること(両矢印)が看て取れるから、図示された図7のLA装置が、回転式ミラーをその軸線を中心に往復回転させる駆動源を備えていることは明らかである。また、(引1-ウ)には「ガルバノ光学系は90゜の角度で直交する2枚の可動式反射鏡を組み込んだ光学システムで,反射鏡の角度を変化させることでレーザー照射点を高速で移動させることが可能となる(図7)。」との記載があり、可動式反射鏡と回転式ミラーが同じ意味で用いられていることは明らかである。してみれば、図示された図7のLA装置は、90゜の角度で直交する2枚の可動式反射鏡と、その一方の可動式反射鏡をその軸線を中心に往復回転させる一方の駆動源と、その他方の可動式反射鏡をその軸線を中心に往復回転させる他方の駆動源と、を備えるガルバノ光学系であって、レーザー光源からのレーザーを一方の可動式反射鏡で反射し、一方の可動式反射鏡で反射されたレーザーを他方の可動式反射鏡で試料に向けて反射すると共に、2枚の可動式反射鏡の角度を変化させることでレーザー照射点を高速で移動させるガルバノ光学系を備えるものと認められる。
(5)(引1-ウ)には、「このガルバノ光学系を用いることで,同位体希釈法だけではなく,様々な定量手法を適用することができる。筆者らの研究グループでは,ガルバノ光学系の制御系を高速化するとともに,レーザー照射位置や,各点でのアブレーション時間の設定に対して自由度を高めることで,複数の固体物質をほぼ同時に(時間差10ms以下),任意の時間割合でアブレーションするシステムを開発した37)。・・・本測定では,フェム卜秒レーザーを用いているため,主成分元素組成あるいは結晶構造,物性等に由来するサンプリング量には大きな違いがなく27),系統誤差が抑制されている。このようにフェムト秒レーザーとガルバノ光学系を組み合わせることで,標準物質が入手できない場合での定量分析の信頼性が向上できる。」と記載されている。当該記載を踏まえると、筆者らの研究グループでは、図示された図7のLA装置において、そのレーザとして、フェム卜秒レーザーを用いているものと認められる。
3 引用発明
上記2(1)~(5)の技術的事項から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(各構成単位末尾の括弧内には根拠箇所を示す。)。
「誘導結合プラズマ質量分析法に用いられるレーザーアブレーション装置であって、(2(1))
内部に試料を収容したセルと、(2(2))
試料にレーザーを照射するレーザー光源と、(2(3))
90゜の角度で直交する2枚の可動式反射鏡と、その一方の可動式反射鏡をその軸線を中心に往復回転させる一方の駆動源と、その他方の可動式反射鏡をその軸線を中心に往復回転させる他方の駆動源と、を備えるガルバノ光学系であって、レーザー光源からのレーザーを一方の可動式反射鏡で反射し、一方の可動式反射鏡で反射されたレーザーを他方の可動式反射鏡で試料に向けて反射すると共に、2枚の可動式反射鏡の角度を変化させることでレーザー照射点を高速で移動させるガルバノ光学系と、(2(4))
を備え、
そのレーザーとしてフェム卜秒レーザーを用いる、(2(5))
レーザーアブレーション装置。」
第5 当審の判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明は「レーザーアブレーション装置」の発明であるところ、「レーザーアブレーション装置」が「備え」る「レーザー光源」から「照射」される「レーザー」は、「試料」を「アブレーション」するための「レーザー」であることが明らかであるから、引用発明の「セル」に「収容」された「試料」を「アブレーション」するための「レーザーを照射するレーザー光源」は、本願発明の「セルに収容された試料をアブレーションするレーザー光を出力するレーザー光源」に相当する。
(2)
ア 引用発明の「レーザー光源」からの「レーザー」を「試料に向けて」「照射」する「ガルバノ光学系」は、本願発明の「前記レーザー光源からのレーザー光を前記試料に向けて照射する光学系」に相当する。
イ 引用発明の「一方の可動式反射鏡」、「他方の可動式反射鏡」、「一方の駆動源」及び「他方の駆動源」は、それぞれ、本願発明の「第1のミラー」、「第2のミラー」、「第1の駆動源」及び「第2の駆動源」に相当する。そして、引用発明の「2枚の可動式反射鏡」は、「90゜の角度で直交する」から、引用発明の「その軸線を中心に往復回転」する「一方の可動式反射鏡」と「その軸線を中心に往復回転」する「他方の可動式反射鏡」は、本願発明の「第1の軸を中心に回転可能な第1のミラーと、前記第1の軸とは異なる第2の軸を中心に回転可能な第2のミラー」に相当する。そうすると、引用発明の「90゜の角度で直交する2枚の可動式反射鏡と、その一方の可動式反射鏡をその軸線を中心に往復回転させる一方の駆動源と、その他方の可動式反射鏡をその軸線を中心に往復回転させる他方の駆動源と、を備える」ことは、本願発明の「第1の軸を中心に回転可能な第1のミラーと、前記第1の軸とは異なる第2の軸を中心に回転可能な第2のミラーと、前記第1のミラーを前記第1の軸を中心に回転させる第1の駆動源と、前記第2のミラーを前記第2の軸を中心に回転させる第2の駆動源と、を有」することに相当する。
ウ 引用発明の「レーザー光源からのレーザーを一方の可動式反射鏡で反射し、一方の可動式反射鏡で反射されたレーザーを他方の可動式反射鏡で試料に向けて反射する」ことは、本願発明の「前記レーザー光源からのレーザー光を前記第1のミラーで反射し、前記第1のミラーで反射されたレーザー光を前記第2のミラーで前記試料に向けて反射する」ことに相当する。
エ 本願発明の「前記各ミラーを回転させる周波数である繰り返し周波数が10kHz以上である」点について、本願明細書の【0030】には、「ガルバノミラー24,25が10kHzの高繰り返し周波数で駆動される。」と記載され、ここでの10kHzは高繰り返し周波数である。そして、引用発明も、「2枚の可動式反射鏡の角度を変化させることでレーザー照射点を高速で移動させる」ことから、各「可動式反射鏡」を「往復回転」させる周波数は高周波数である。そうすると、引用発明の「往復回転」させる周波数が本願発明の「繰り返し周波数」に相当するところ、引用発明の各「可動式反射鏡」を「往復回転」させる周波数が高周波数であることと、本願発明の「前記各ミラーを回転させる周波数である繰り返し周波数が10kHz以上である」こととは、「前記各ミラーを回転させる周波数である繰り返し周波数が」高繰り返し周波数「である」点で共通する。
オ 上記ア~エでの対比をまとめると、
引用発明の「レーザー光源」からの「レーザー」を「試料に向けて」「照射」する「ガルバノ光学系であって、」「90゜の角度で直交する2枚の可動式反射鏡と、その一方の可動式反射鏡をその軸線を中心に往復回転させる一方の駆動源と、その他方の可動式反射鏡をその軸線を中心に往復回転させる他方の駆動源と、を備え」、「レーザー光源からのレーザーを一方の可動式反射鏡で反射し、一方の可動式反射鏡で反射されたレーザーを他方の可動式反射鏡で試料に向けて反射する」と共に、各「可動式反射鏡」を「往復回転」させる周波数が高周波数である「ガルバノ光学系」と、
本願発明の「前記レーザー光源からのレーザー光を前記試料に向けて照射する光学系であって、第1の軸を中心に回転可能な第1のミラーと、前記第1の軸とは異なる第2の軸を中心に回転可能な第2のミラーと、前記第1のミラーを前記第1の軸を中心に回転させる第1の駆動源と、前記第2のミラーを前記第2の軸を中心に回転させる第2の駆動源と、を有し、前記レーザー光源からのレーザー光を前記第1のミラーで反射し、前記第1のミラーで反射されたレーザー光を前記第2のミラーで前記試料に向けて反射すると共に、前記各ミラーを回転させる周波数である繰り返し周波数が10kHz以上である前記光学系」とは、
「前記レーザー光源からのレーザー光を前記試料に向けて照射する光学系であって、第1の軸を中心に回転可能な第1のミラーと、前記第1の軸とは異なる第2の軸を中心に回転可能な第2のミラーと、前記第1のミラーを前記第1の軸を中心に回転させる第1の駆動源と、前記第2のミラーを前記第2の軸を中心に回転させる第2の駆動源と、を有し、前記レーザー光源からのレーザー光を前記第1のミラーで反射し、前記第1のミラーで反射されたレーザー光を前記第2のミラーで前記試料に向けて反射すると共に、前記各ミラーを回転させる周波数である繰り返し周波数が」高繰り返し周波数「である前記光学系」の点で共通する。
(3)引用発明の「誘導結合プラズマ質量分析法に用いられるレーザーアブレーション装置」は、本願発明の「誘導結合プラズマ分析用のレーザーアブレーション装置」に相当する。
2 一致点・相違点
上記1(1)~(3)での対比から、本願発明と引用発明とは、次の(1)の点で一致し、次の(2)の点で相違する。
(1)一致点
「セルに収容された試料をアブレーションするレーザー光を出力するレーザー光源と、
前記レーザー光源からのレーザー光を前記試料に向けて照射する光学系であって、第1の軸を中心に回転可能な第1のミラーと、前記第1の軸とは異なる第2の軸を中心に回転可能な第2のミラーと、前記第1のミラーを前記第1の軸を中心に回転させる第1の駆動源と、前記第2のミラーを前記第2の軸を中心に回転させる第2の駆動源と、を有し、前記レーザー光源からのレーザー光を前記第1のミラーで反射し、前記第1のミラーで反射されたレーザー光を前記第2のミラーで前記試料に向けて反射すると共に、前記各ミラーを回転させる周波数である繰り返し周波数が」高繰り返し周波数「である前記光学系と、
を備えた」「誘導結合プラズマ分析用のレーザーアブレーション装置。」
(2)相違点
各ミラーの高繰り返し周波数が、本願発明では、「10kHz以上」であるのに対し、引用発明では、その数値範囲について不明である点。
3 判断
上記相違点について検討する。
(1)上記1(2)エで説示したとおり、引用発明は、「2枚の可動式反射鏡の角度を変化させることでレーザー照射点を高速で移動させる」ことから、各「可動式反射鏡」を「往復回転」させる周波数(繰返し周波数)は高周波数である。そして、引用発明を実施するにあたり、各「可動式反射鏡」を「往復回転」させる周波数(繰返し周波数)の数値範囲を具体的に設定する必要があるところ、引用発明において、その繰返し周波数を高周波数とすることが示唆されている。そうすると、引用発明において、その繰返し周波数の数値範囲を高周波数でどの程度とするかは、当業者が適宜設定しうる事項であって、「10kHz以上」とすることは、当業者が容易になし得ることである。また、「10kHz以上」とすることによる効果は、当業者が予測できる範囲のものであって、顕著な効果を奏するとはいえない。
(2)なお、各ミラーの高繰り返し周波数が「10kHz以上」である点に関し、本願明細書には次の記載がある。
「【0030】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1の分析装置1では、試料Sにおいて目的の分析位置をアブレーションする場合、ガルバノ光学系23でフェムト秒レーザー光22aが照射される位置が制御される。このとき、実施例1では、ガルバノミラー24,25が10kHzの高繰り返し周波数で駆動される。したがって、同じ個数の位置にレーザー光22aを照射するのに必要な時間が短縮される。例えば、繰り返し周波数が10Hzの場合は、6000発のレーザー光を照射するには600秒=10分かかるが、繰り返し周波数が10kHzの実施例1では、6000発のレーザー光を照射するには、0.6秒で済む(1秒間であれば1万発)。したがって、繰り返し周波数が低い場合に比べて、実施例1では、短時間にアブレーションされる微粒子の数が増大し、発生するエアロゾルの量を多くすることができる。よって、質量分析計2に導入されるエアロゾルの量を多くすることができ、質量分析計2で計測される信号強度も強くなる。」
本願明細書では、【0030】の記載によれば、フェムト秒レーザー光とガルバノ光学系とを用いて、フェムト秒レーザー光を、短時間(例えば0.6秒)かつ目的の分析位置(例えば6000発)に照射することによって、短時間にアブレーションされる微粒子の数が増大し、発生するエアロゾルの量を多くすることができる、との効果を述べている。当該効果は、フェムト秒レーザー光とガルバノ光学系とを少なくとも用いることで奏し得る効果であって、例えば、0.6秒間に6000発つまり10kHzの発振周波数で発振するフェムト秒レーザー光とともに、10kHzの高繰り返し周波数で駆動されるガルバノ光学系を用いることなどで達成し得る効果であると理解される。
上記の理解を前提にすると、本願発明は、レーザー光の発振周波数についての特定はなく、また、フェムト秒レーザー光を用いることの特定もないから、【0030】に記載された効果は、本願発明の効果ではない。
してみると、引用発明において、各ミラーの高繰り返し周波数を「10kHz以上」にすることは、上記(1)で説示したとおり、当業者が適宜設定しうる程度のことであって、本願明細書の記載を参酌してもその数値限定に臨界的意義は認められない。
4 請求人の主張について
(1)審判請求書での主張
請求人は、審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由」の欄において、次のように主張している。
ア「(1)本願発明の説明
本願の請求項1に係る発明の特徴は、特許請求の範囲に記載された・・・「前記レーザー光源からのレーザー光を前記第1のミラーで反射し、前記第1のミラーで反射されたレーザー光を前記第2のミラーで前記試料に向けて反射すると共に、前記各ミラーを回転させる周波数である繰り返し周波数が10kHz以上である」ことを特徴とするものであって、このような構成を採用したことにより「レーザー光でアブレーションされた試料から放出される微粒子不足を解消する」という顕著な作用効果を奏するものであります。」と主張する。
イ「(3)本願発明と引用発明との対比
・・・
一方、本願請求項1記載の発明のように、10kHz以上とすることで、インパルス的な結果が得られ、ノイズと測定対象からの信号とを明確に分けることが可能です。
・・・したがって、引用文献1-3の開示内容からでは、「繰り返し周波数を高めればノイズとの差が明確になりそうだ」といった本願請求項1に記載の技術的思想の根幹の発想はどこからも得られず、本願請求項1に記載の発明に到る着想を得ることは引用文献1-3からでは不可能です。
本願発明のように、繰り返し周波数を高めることで、ノイズと測定対象からの信号が明確になることについては、本願図4の実験結果により、初めて知見が得られたものであって、そのような知見について記載も示唆もない引用文献1-3に基づいて、本願請求項1に記載の発明に想到することは不可能です。」と主張する。
(2)審判請求書での主張に対する当審の見解
上記(1)での各主張について検討する。
ア 上記3で検討したとおり、上記(1)アで主張する効果は、本願発明により奏される効果であるとはいえない。よって、請求人の上記(1)アの主張は採用できない。
イ 本願図4の実験結果に関し、本願明細書には次の記載がある。
「【0031】
図4は実験結果の説明図であり、横軸に時間、縦軸に信号強度を取ったグラフである。
次に、鉄に含まれるリンの量を測定する実験を行った。実験は、繰り返し周波数を10Hz、100Hz、1kHz、10kHzと変えた以外は、同一の試料S、同一の照射領域(500μm×500μm)で行った。実験結果を図4に示す。
図4において、10Hzの場合は、測定対象であるPの信号強度がノイズに紛れてほとんどわからなかった。100Hzの場合は、10Hzの場合よりも信号強度は強くなったが、やはりノイズとの区別がつきにくかった。1kHzの場合は、信号の強度がノイズによる変動の標準偏差の3倍以上となり、10Hzに比べて信号の強度が2オーダ以上になっている。したがって、ノイズの部分との差が区別できるようになった。すなわちSN比が改善した。さらに、1kHzの場合は、明確に測定対象の信号を確認でき、SN比は大幅に改善された。したがって、実験の結果から、繰り返し周波数は1kHz以上とすることができ、10kHz以上であることがさらに好適であることが確認された。」、
図4「
[図:0001431950000003.jpg]
」
本願明細書では、【0031】及び図4の記載によれば、各ガルバノミラーの繰り返し周波数を、10Hz、100Hz、1kHz、10kHzと変化させた場合、それぞれ、600秒、60秒、6秒、0.6秒かかることが理解されるから、目的の分析位置(6000発)に照射するのに、フェムト秒レーザー光を、それぞれ、10Hz、100Hz、1kHz、10kHzで発振させることが想定される。仮にそうであるならば、図4の実験結果は、それぞれ、10Hz、100Hz、1kHz、10kHzで発振するフェムト秒レーザー光とともに、それぞれ、10Hz、100Hz、1kHz、10kHzの繰り返し周波数で駆動されるガルバノ光学系を用いることで得られた結果であることが理解される。
してみると、【0031】に記載の「繰り返し周波数は1kHz以上とすることができ、10kHz以上であることがさらに好適であることが確認された」との図4の実験結果は、少なくともフェムト秒レーザー光とガルバノ光学系とを用いることで得られた結果であり、請求人が上記(1)アで主張する効果を裏付けるものであると解し得る。しかしながら、請求人が上記(1)アで主張する効果は、上記アで説示したとおり、本願発明により奏される効果であるとはいえない。よって、請求人の上記(1)イの主張も採用できない。
5 小括
よって、本願発明(本願の請求項1に係る発明)は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-004526