特許拒絶査定不服審判
2025-002865
量子センシングデバイス、量子センシング方法、およびプログラム
- 審判番号
- 2025-002865
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-030666
- 請求日
- 2025年02月25日
- 審決日
- 2026年03月02日
- 公報発行日
- 2026年05月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日本電気株式会社
- 【請求人代理人】浜野 絢子
- 【請求人代理人】北嶋 啓至
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 浩
- 審判官 藏田 敦之
- 審判官 萩田 裕介
- 分類
- P18 .121-Z (G01V)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021- 30666「量子センシングデバイス、量子センシング方法、およびプログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 9月 7日出願公開、特開2022-131633〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件出願(以下「本願」という。)は、令和3年2月26日の出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。
令和 6年 7月10日付け 拒絶理由通知書
同年 9月12日 意見書・手続補正書の提出
同年11月12日付け 拒絶査定
令和 7年 2月25日 審判請求書・手続補正書の提出
以下では、令和6年11月12日付け拒絶査定を「原査定」という。
第2 本願発明
本願の請求項1~4に係る発明は、令和7年2月25日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち本願の請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次に特定されるとおりである。
「 【請求項3】
海底に配置されている光格子時計によって計測された時刻を示す時刻情報を受信し、
送信された前記時刻情報に基づいて前記光格子時計が配置されている位置の地殻変動を検出する量子センシング方法であって、
前記時刻情報には、前記光格子時計が刻む時刻のデータに加えて、前記光格子時計の識別情報、および、前記光格子時計の位置情報が含まれており、
前記光格子時計の前記位置情報および前記識別情報に基づいて、前記時刻情報を、海底地図上にマッピングする
ことを特徴とする量子センシング方法。」
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由2は、この出願の請求項6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
具体的には、この出願の請求項6に係る発明は、引用文献1に記載された発明、及び、引用文献4、5等に例示される周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであると説示している。
なお、原査定時における、令和6年9月12日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項6に係る発明は、令和7年2月25日提出の手続補正書による請求項の削除を目的とする補正により、請求項3となった。
引用文献1:科学技術・学術審議会 先端研究基盤部会 量子科学技術委員会,光格子時計の現状と今後の展開可能性について,2016年06月20日,https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11293659/www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/089/houkoku/1385518.htm,検索日2024/7/8
引用文献4:特許第3808861号公報
引用文献5:米国特許第6024344号明細書
第4 引用文献の記載等
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった“科学技術・学術審議会 先端研究基盤部会 量子科学技術委員会,光格子時計の現状と今後の展開可能性について,2016年06月20日,https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11293659/www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/089/houkoku/1385518.htm,検索日2024/7/8”(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の記載がある。
ア 「超高精度の2台の光格子時計の時間の進み方の差を計測することは、重力で曲がった相対論的な「時空のゆがみ」の計測を可能とし、従来の時計概念を超越した新しい計測ツール・時空間プローブ(重力ポテンシャル計)としての応用も可能となる。相対性理論によると重力の強い場所は弱い場所よりも時間の進み方が遅くなり、例えば一般的に標高が低くなると重力は強くなるため、時間の進み方が遅くなる。これは日常生活では全く実感できないが、18桁の精度の光格子時計を用いれば、2台の時計の高さが数cm違うだけで、時間の進み方の差が観測できる。
2015年には東京大学地震研究所と理化学研究所の間で、直線距離にして約15km離れた光格子時計を光ファイバーでリンクし、その時間の進み方の差を計測することにより、両地点間の約15mの高低差を数cmの精度で観測することに成功している。将来的には、捕捉する原子の数を増加させること等による光格子時計の更なる精度向上で、mm単位の高低差を数分間で計測できる可能性がある。
なお、光格子時計を長距離にわたってリンクする研究については欧州が進んでおり、全欧州での光ファイバーリンク網の構築や衛星経由でのリンクによる光格子時計の比較が進められているところである。」(第2頁第24行~第3頁第1行)
イ 「●「時空のゆがみ」の計測を用いた経済・社会的利用
光格子時計の小型化・可搬化や耐環境性向上が今後進むことで、場所を選ばずに光格子時計の設置が可能となり、それらを安定した光ファイバー・ネットワークで結べば、設置場所における「時空のゆがみ」や高低差及び変化、微小な重力ポテンシャルの変化が高精度に計測できることとなる。つまり、全く新しい計測インフラであり、将来社会の安全・安心に貢献する時空間計測インフラとなる可能性がある。
例えば、測地分野においては、我が国の標高体系の根幹となる基準点としての利用(従来の水準測量よりも迅速で高精度な標高の決定、水準測量と組み合わせた効率的な復旧・復興測量の実施)や、GNSS5水準測量に必要となる高精度な標高基準(ジオイド・モデル6)の維持管理といった相対論的測地への展開や、地震やひずみ集中帯等の地殻変動に関する研究での利用が期待される。また、GNSS衛星測位においては、高度計測の高精度補完による位置情報の高度利用が考えられ、国土の監視・探査・防災の観点からは、地上での地殻変動の観測のみならず、地下資源探査、マグマだまりの変化検知や、GPS信号の届かない海底のような場所での地殻変動観測といった領域への展開も考えられ、これらの時空間情報は地震・火山に関わる防災研究の更なる進展に貢献する可能性もある。」(第3頁第21行~第4頁第2行)
ウ 「●さらに、光格子時計の設置場所における「時空のゆがみ」や高低差及び変化、微少な重力ポテンシャルの変化が計測可能な将来社会の安全・安心に貢献する全く新しい時空間計測インフラとなる可能性がある。
時空間計測インフラの応用例:
現在の水準測量より迅速で高精度な標高の決定等の測地分野、GPS高度利用、地下資源探査、マグマだまりの変化検知やGPSの届かない海底の地殻変動など地震・火山に関わる防災研究
[図:0001434968000001.jpg]
」(第5頁右欄第8~末行)
上記ア~ウの記載事項及び図面から、以下の事項が導かれる。
エ 上記アより、引用文献1には、「超高精度の2台の光格子時計の時間の進み方の差を計測することは、重力で曲がった相対論的な「時空のゆがみ」の計測を可能とし、」と記載されており、時空のゆがみの計測に関して、上記イより、引用文献1には、「「時空のゆがみ」の計測を用いた経済・社会的利用・・・GPS信号の届かない海底のような場所での地殻変動観測といった領域への展開も考えられ、」と記載されているから、引用文献1には、光格子時計の時間の進み方の差を計測することで重力で曲がった相対論的な時空のゆがみを計測し、GPS信号の届かない海底での地殻変動観測を行う方法が記載されているといえる。
オ 上記ウの図には、地上及び海底にそれぞれ複数設置された光格子時計と国土監視センターが図示されている。また、ウの「GPSの届かない海底の地殻変動など地震・火山に関わる防災研究」との記載より、海底に設置された光格子時計が、上記イにおける「GPS信号の届かない海底のような場所での地殻変動観測」に用いられるものであることは、明らかである。
さらに、上記ウの図には、それぞれの光格子時計と国土監視センターを結ぶ線が図示されており、上記アの「なお、光格子時計を長距離にわたってリンクする研究については欧州が進んでおり、全欧州での光ファイバーリンク網の構築や衛星経由でのリンクによる光格子時計の比較が進められているところである。」との記載を参酌すると、上記ウの図におけるそれぞれの光格子時計と国土監視センターを結ぶ線が、複数の光格子時計と国土監視センターとをリンクする手段を意味することは、明らかである。
以上より、引用文献1には、地上及び海底にそれぞれ複数の光格子時計を設置し、複数の光格子時計と国土監視センターとをリンクする点が記載されているといえる。
(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)ア~ウの記載事項及び図面、エ~オの認定事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「地上及び海底にそれぞれ複数の光格子時計を設置し、複数の光格子時計と国土監視センターとをリンクし、光格子時計の時間の進み方の差を計測することで重力で曲がった相対論的な時空のゆがみを計測し、GPS信号の届かない海底での地殻変動観測を行う方法。」
2 引用文献4
原査定の拒絶の理由で引用文献4として引用され、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特許第3808861号公報(以下「引用文献4」という。)には、図面とともに次の記載がある。
(1)「【0001】
海底で生じた物理現象や海底に向けて意図的に発信した波動の反射波等、海底から直接的或いは間接的に得られる物理的変化を検出することによって、海底観測を行うシステムに関する。」
(2)「【0032】
前記海上装置(8)は、GPSによって測位する位置確認手段(16)と、この位置確認手段(16)からの位置情報を入力しつつ光信号として時刻情報を合わせて出力出来る時刻確認手段(17)と、各検出部(5)からの光信号を受信して光信号を電気信号に変換する光/電気変換手段(18)と、電気信号に変換された合波されているデータを各地震計の個別データに分波して分離する個別データ分離手段(19)と、分離された個別の観測データの集積、処理の制御を行う集積・処理制御手段(20)と、この集積・処理制御手段(20)によって制御しながら前記個別の観測データの記録を行う記録手段(21)と、記録されたデータをモニタすることが出来るデータモニタ手段(22)と、前記検出部(5)に対して電力を供給するための電源装置(23)とを備えて構成され、位置情報、時刻情報及び地震計からの受信情報とを対応させながら情報処理を行うことが出来るようになっている。このように本実施の形態例における海上装置(8)は、以上の説明のように構成されているが、各地震計(6)からの情報と位置情報及び時刻情報とを対応させながら情報処理を行うことが出来るように構成されていればよく、海上装置(8)の構造や構成自体は特に限定されるものではない。また前記電源装置(23)から出力された電力は光ファイバケーブル(7)に併設される給電路(24)を経て、各検出部(5)に配置されている前記給電手段(15)に送電出来るように構成されている。
【0033】
本例の海底観測システムは以上のように構成され、ウインチに取り付けて前記ケーブル型観測装置(1)を搭載した観測船(2)を、所望の側線上を運航して、その進行速度に同調させながらウインチを展開方向に作動させつつケーブル型観測装置(1)を海底に敷設して、ケーブル型観測装置(1)の各部に配置されている地震計(6)を被観測地点に設置する。各被観測地点に対する各地震計(6)の設置の際には、観測船(2)に載置したGPSによって測位することが出来る位置確認手段(16)を作動させて設置の都度、設置位置の情報を含む位置情報を得て、この位置情報を、予め地震計(6)各々に固有に割り当てた他の地震計(6)とを区別するための識別情報と対応させて、設置された地震計(6)とその設置場所を初期情報として海上装置(8)の前記記録手段(21)に記録しておく。この操作を設置する全ての地震計(6)について行い、設置後に各地震計(6)から得られる随時情報がどの位置に設置した地震計(6)からの情報であるかを解析出来るように構成する。こうしてケーブル型観測装置(1)を側線上に敷設し、敷設後には観測船を所定の場所で定点保持して、エアガン(4)或いは発破のためのダイナマイト等の音波探査手段を装備した発震船(3)を所定の海域を運航させ、所定の位置毎に前記音波探査手段を用いて発音させることによって、その周辺の海域を起震させる。この起震によって発生した、海底の状況や海域によって様々に異なる波動を、側線上に敷設した各地震計(6)によって感知し、地震計(6)から出力された観測情報は、その地震計(6)を識別するための識別情報を含む形で、光信号として検出部(5)から出力され、より海上装置(8)に近い側の隣に位置する検出部(5)へ光ファイバケーブル(7)を介して伝送される。このようにして、各地震計(6)から出力された観測データが次々と多重化されて、或いは順次伝送されて最終的に観測船(2)上に載置されている海上装置(8)に伝送される。海上装置(8)によって受信された多重化された観測データは、個別の観測データに分離され、予め記録しておいた前記初期情報と関連付けが可能で、随時得られる観測データを記録、解析が出来るように構成されているている。」
3 引用文献5
原査定の拒絶の理由で引用文献5として引用され、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった米国特許第6024344号明細書(以下「引用文献5」という。)には、図面とともに次の記載がある。また、原文の摘記の後に当審による日本語訳を示す。
(1)「The present invention provides a method for collecting seismic data in a marine environment. The method comprises the steps of deploying a wire free end into water, of engaging a plurality of recorders with said wire at selected locations along said wire, of lowering said wire and engaged recorders into the water until said recorders are positioned at selected positions relative to the seafloor underlying the water, of operating said recorders to detect seismic source energy reflections and to record seismic data representing such reflections, and of raising said wire to retrieve said recorders to the water surface.」(第2欄第51~61行)
(本発明は、海洋環境において地震データを収集する方法を提供する。この方法は、ワイヤの自由端を水中に展開するステップと、ワイヤに沿った所定の位置で複数の記録計をワイヤに係合させるステップと、ワイヤと係合した記録計を水中に降ろして、記録計が水面下の海底に対して所定の位置に配置されるようにするステップと、記録計を操作して地震源エネルギーの反射を検出し、そのような反射を表す地震データを記録するステップと、ワイヤを上昇させて記録計を水面まで回収するステップとを含む。)
(2)「Cable engine 18 can retain one end of wire 16 during operation of recorders 20, or the entire length of wire 14 can be paid out from cable engine 18 as shown in FIG. 4 so that vessel 10 is unencumbered to release another wire 14 in an array. The location of wire 14 and recorders 20 can be mapped by acoustic positioning, by first-break positioning with a seismic source, by computer cable lay monitoring and control modeling software, or a combination of these techniques.」(第5欄第23~31行)
(ケーブルエンジン18は、レコーダー20の作動中にワイヤ16の一端を保持することができる、あるいは、図4に示すようにワイヤ14の全長をケーブルエンジン18から繰り出すことで、船舶10が邪魔されずにアレイ状に別のワイヤ14を放出することができる。ワイヤ14とレコーダー20の位置は、音響測位、振動源を用いたファーストブレイクポジショニング、コンピュータによるケーブル敷設監視・制御モデリングソフトウェア、またはこれらの技術の組み合わせによってマッピングすることができる。)
(3)「18. A method as recited in claim 12,further comprising the step of generating a map identifying the location of each recorder relative to the seafloor.」(第8欄第28~30行)
(18.請求項12に記載の方法であって、海底に対する各記録装置の位置を識別する地図を生成するステップをさらに含む。)
第5 対比、判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明は、「地上及び海底にそれぞれ複数の光格子時計を設置し」たものであって、引用発明において「海底に」「設置し」た「複数の光格子時計」は、本願発明の「海底に配置されている光格子時計」に相当する。
また、引用発明は、「複数の光格子時計と国土監視センターとをリンクし、光格子時計の時間の進み方の差を計測することで重力で曲がった相対論的な時空のゆがみを計測し、GPS信号の届かない海底での地殻変動観測を行う」するものであるから、「国土監視センター」において、コンピュータ又は人が、「光格子時計の時間の進み方の差を計測」し「地殻変動観測を行う」ために各「光格子時計」が計測した時間を取得していることは、明らかである。そして、引用発明において、「国土監視センター」において、コンピュータ又は人が、各「光格子時計」が計測した時間を取得することは、本願発明における「光格子時計によって計測された時刻を示す時刻情報を受信」することに相当する。
よって、引用発明は、本願発明における「海底に配置されている光格子時計によって計測された時刻を示す時刻情報を受信」することに相当する構成を有するといえる。
(2)引用発明において、「光格子時計の時間の進み方の差を計測することで重力で曲がった相対論的な時空のゆがみを計測し、GPS信号の届かない海底での地殻変動観測を行う」際に、「光格子時計」が配置されている各位置における地殻変動が観測できることは、明らかである。よって、引用発明において、「光格子時計の時間の進み方の差を計測することで重力で曲がった相対論的な時空のゆがみを計測し、GPS信号の届かない海底での地殻変動観測を行う」ことは、本願発明において、「送信された前記時刻情報に基づいて前記光格子時計が配置されている位置の地殻変動を検出する」ことに相当する。
また、引用発明は、「光格子時計」を用いて「地殻変動観測を行う方法」であるから、量子センシング方法であるといえる。
よって、引用発明は、本願発明における「送信された前記時刻情報に基づいて前記光格子時計が配置されている位置の地殻変動を検出する量子センシング方法」に相当する構成を有するといえる。
(3) 一致点、相違点
上記(1)、(2)のとおりであるから、本願発明と引用発明とは、下記アの点で一致し、下記イの点で相違する。
ア 一致点
「海底に配置されている光格子時計によって計測された時刻を示す時刻情報を受信し、
送信された前記時刻情報に基づいて前記光格子時計が配置されている位置の地殻変動を検出する量子センシング方法。」
イ 相違点1
本願発明は、
「前記時刻情報には、前記光格子時計が刻む時刻のデータに加えて、前記光格子時計の識別情報、および、前記光格子時計の位置情報が含まれており、
前記光格子時計の前記位置情報および前記識別情報に基づいて、前記時刻情報を、海底地図上にマッピングする」
と特定されているのに対し、引用発明はそのように特定されていない点。
2 判断
(1)相違点1について
ア 引用発明は、「時空のゆがみを計測し、」「海底での地殻変動観測を行う方法」であり、また、「地殻変動観測」について、上記1(2)に示したとおり、「光格子時計」が配置されている各位置における地殻変動を観測するものであることは、明らかであるから、時間すなわち「光格子時計」が計測した時間と、空間すなわち各「光格子時計」の位置の情報を、「国土監視センター」で得る必要があることは、明らかである。
さらに、地球上に複数のセンサを設置して観測する方法において、センサの位置情報を取得しておくことは、例えば引用文献4、引用文献5に例示されるように一般的に行われていることであって、技術常識であることを考慮すれば、引用発明において、「国土監視センター」においてコンピュータ又は人が「地殻変動観測」のために各「光格子時計」が計測した時間を取得、すなわち受信する際に、「光格子時計」の位置情報も合わせて取得していることは自明である。また、仮に自明であるとまではいえないとしても、そのようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。
さらに、複数のセンサを用いて観測する方法において、測定した情報と共にセンサの識別情報を取得しておくことは、引用文献4に例示されるように周知技術にすぎないから、引用発明において、「国土監視センター」においてコンピュータ又は人が各「光格子時計」が計測した時間を取得、すなわち受信する際に、「光格子時計」の位置情報及び識別情報を合わせて取得する構成とすること、すなわち、本願発明における「受信し」た「前記時刻情報には、前記光格子時計が刻む時刻のデータに加えて、前記光格子時計の識別情報、および、前記光格子時計の位置情報が含まれて」いることに相当する構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
イ 引用発明は、「国土監視センター」において、「相対論的な時空のゆがみを計測し」「海底での地殻変動観測を行う」ものである。また、引用発明は、上記1(2)に示したとおり、「光格子時計」が配置されている各位置における地殻変動が観測できるものであることは明らかであり、また、当該「地殻変動観測」においては、地図上のどの位置でどのような「時空のゆがみ」が計測されたかの情報が重要であることは、明らかである。
そして、地図と対応づけて観測結果等を確認することは、慣用的に行われている技術であることを考慮すれば、引用発明において、「国土監視センター」において各「光格子時計」が計測した時間を取得したコンピュータ又は人が「地殻変動観測を行う」際に、当該時刻を海底地図上にマッピングする構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
ウ 以上のとおりであるから、引用発明において、周知技術及び技術常識に基づき、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(2) 効果について
本願発明により奏される効果も、引用発明、周知技術及び技術常識から当業者が予期し得るものであり、格別顕著なものではない。
(3) 請求人の主張について
請求人は、令和7年2月25日提出の審判請求書において、
「引用文献1には、「前記光格子時計の前記位置情報および前記識別情報に基づいて、前記時刻情報を、海底地図上にマッピングする」ことは開示されていないが、引用文献5には、「generating a map identifying the location of each recorder relative to the seafloor」ことが開示されている。
すなわち、引用文献5には、「記録媒体の位置を海底にマッピングする」ことが記載されているが、本願の請求項1に係る発明のように、「前記時刻情報を、海底地図上にマッピングする」ことは記載されていない。そして、本願の請求項1に係る発明によれば、海底地図上にマッピングされた時刻情報を、ユーザが一覧することができるため、ある位置の時刻情報と他の位置の時刻情報とを比較したときに、当該ある位置での重力異常を発見しやすいという技術的効果を奏する。
他の引用文献2-4にも、請求項1に係る発明の上記の技術的特徴に相当する構成は開示されていない。」
との主張をしているので、検討する。
上記(1)イで示したとおり、地図と対応づけて観測結果等を確認することは、慣用的に行われている技術であることを考慮すれば、引用発明において、「国土監視センター」において各「光格子時計」が計測した時間を取得したコンピュータ又は人が「地殻変動観測を行う」際に、当該時刻を海底地図上にマッピングする構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、地図上に天気の情報を表示することや、地図上に地震発生時における震度の情報を表示することが一般的に行われているように、地図にその地点における情報を表示することで、各地点の情報が一覧できることは、表示方法における技術常識であるといえる。そうすると、審判請求人の主張する「海底地図上にマッピングされた時刻情報を、ユーザが一覧することができるため、ある位置の時刻情報と他の位置の時刻情報とを比較したときに、当該ある位置での重力異常を発見しやすい」との効果も、当業者が予測できる範囲内のものであって、当該技術常識に照らして格別なものともいえない。
よって、審判請求人の上記主張は採用できない。
3 小括
以上より、本願発明は、引用発明、周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の理由及び他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2025-002865