特許無効審判
2024-800048
しぼ加工樹脂製食器
- 審判番号
- 2024-800048
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2005-142479
- 登録番号
- 4683413
- 請求日
- 2024年03月27日
- 審決日
- 2025年03月03日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】信濃化学工業 株式会社
- 【請求人代理人】下田 茂
- 【被請求人】三信化工 株式会社
- 【被請求人代理人】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 柿崎 拓
- 審判官 関口 哲生
- 審判官 米倉 秀明
- 分類
- P1113.113-Y (A47G) / P1113.121-Y (A47G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第123条第1項第2号、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第4683413号発明「樹脂製食器を成形する製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許第4683413号(以下、「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成17年5月16日を出願日としたものであって、平成23年2月18日に特許権の設定登録(請求項の数2)がなされ、その後、令和5年8月7日に本件特許についての訂正審判が請求され、当該訂正審判についての訂正を認容する審決が確定したものである。
本件は、これに対し、令和6年3月27日に請求人信濃化学工業株式会社(以下、「請求人」という。)から請求項1及び2に係る特許について請求された特許無効審判であって、特許無効審判が請求された以降の経緯の概要は、以下のとおりである(以下、被請求人三信化工株式会社を「被請求人」という。)。
令和6年 3月27日 審判請求書提出
令和6年 7月11日 審判事件答弁書提出
令和6年 9月 4日付け 審理事項通知書
令和6年10月 8日 口頭審理陳述要領書(請求人)提出
令和6年10月30日 口頭審理陳述要領書(被請求人)提出
令和6年11月15日付け 審理事項通知書
令和6年11月21日 口頭審理
令和6年12月 4日 上申書(請求人)提出
令和6年12月 5日 上申書(被請求人)提出
令和6年12月19日 上申書(被請求人)提出
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件特許発明1」などといい、これらの発明をまとめて「本件特許発明」という。)は、令和5年8月7日に請求された訂正審判により、訂正が認容された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
上方に拡径すると共に食品が直接収容される積み重ね可能な椀型又は皿型の樹脂製食器において前記樹脂製食器を積み重ねた際に上方の樹脂製食器の糸尻が直接接触する部位を含む内表面積の30%以上に相当する金型表面の全面に、エッチング法によって断面視で滑らかな曲線を描いて凹凸が形成されているしぼ加工した金型を用いて、射出成形法によって皮しぼ又は梨地と呼ばれる凹凸を備えた樹脂製食器を成形する製造方法。
【請求項2】
前記樹脂製食器を構成する樹脂が、ポリプロピレン、ポリカーボネートおよびポリエチレンナフタレートから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂製食器を成形する製造方法。」
第3 当事者の主張
1 請求人の主張及び証拠方法
(1)請求人の主張の概要
請求人は、特許第4683413号発明の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、審判請求書、口頭審理陳述要領書、口頭審理調書、請求人上申書によれば、概略以下の無効理由1を主張している。
また、証拠方法として甲第1号証~甲第6号証を提出している(以下、「甲第1号証」については、「甲1」と表記する。「甲第2号証」等についても同様に表記する。)。
[無効理由1]
本件特許発明1及び2は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許受けることができないものである。仮に、本件特許発明1及び2が、甲1に記載された発明と相違するとしても、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許発明1及び2に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(2)証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。
甲1:特開昭61-134215号公報
甲2:特開平7-148016号公報
甲3:実開平2-23865号公報
甲4:特開平11-245234号公報
甲5:特開平1-301316号公報
甲6:プラスチック成形技能検定の解説、三光出版社、平成19年2月28日発行、第107ページ左欄第5行目~第6行目
2 被請求人の主張及び証拠方法
(1)被請求人の主張の概要
これに対し、被請求人は、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めている。
また、証拠方法として乙第1号証~乙第4号証を提出している(以下、「乙第1号証」については、「乙1」と表記する。「乙第2号証」等についても同様に表記する。)。
(2)証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。
乙1:射出成形における金型コアとは何か、金型キャビティとどう違うのか、[online]、令和6年6月14日(掲載日)、インターネット<URL: https://ja.boyiprototyping.com/injection-molding-guide/mold-core-in-injection-molding/>
乙2:機械設計エンジニアの基礎知識「金型のキャビティとコア」、[online]、令和6年12月12日(出力日)、インターネット<URL: https://d-engineer.com/mold/cavicore.html>
乙3:金型設計の基礎知識 金型のキャビティとコア、[online]、令和6年12月12日(出力日)、インターネット<URL: https://ja.nc-net.or.jp/company/72537/product/detail/92388/>
乙4:プラスチック射出成形の基礎(射出成形金型編)、[online]、令和6年12月12日(出力日)、インターネット<URL: https://www.tetras.uitec.jeed.go.jp/files/data/200205/20020512/20020512.pdf>
第4 請求人提出の証拠の記載内容等
1 甲1に記載された事項について
甲1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同様。)。
(1)第1頁左下欄13行~20行
「〔技術分野〕
本発明は立体感のある表面模様を施した模様付き成形品の製造方法に関するものである。
〔背景技術〕
電気器具の握りやコンセント、スイッチ、または食品等の模様を施した成形品がその大理石調や木目調、陶磁器調模様によって好まれて使用されている。」
(2)第1頁右下欄17行~第2頁左上欄2行
「〔発明の目的〕
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであって、模様用成形材料の流動性が特に限定されることなく鮮明な立体感を伴う模様を施した成形品を得ることができる模様付き成形品の製造法を提供することを目的とするものである。」
(3)第2頁右上欄8行~20行
「実施例
メラミン樹脂成形材料(松下電工株式会社製、MMタイプ、アイボリー色)100重量部にくるみ粉0.05重量部を混合し、該混合物を金型キャビティー表面に網目状のシボ加工を施した食器用金型を用い、100トン型射出成形機に投入し、シリンダー後部温度70℃、シリンダー前部温度90℃、金型温度150℃の条件で射出成形することにより食器を得た。このものはアイボリー色の下地に黒色の模様が鮮明に陶磁器調に立体感を伴なって表現されていた。又、この模様は再現性良好に形成されるもので、連続して安定した成形品を得ることができた。」
2 甲1発明について
上記1(1)~(3)を総合すると、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「メラミン樹脂成形材料100重量部にくるみ粉0.05重量部を混合し、該混合物を金型キャビティー表面に網目状のシボ加工を施した食器用金型を用いて、射出成形することにより、食器を成形する製造方法。」
3 甲2に記載された事項について
(1)「【0001】
【技術分野】本発明は、衛生弁当箱に係り、特に雑菌の繁殖を防ぐ抗菌効果に優れると共に、御飯粒等の食品乃至はそのかすの剥離性を高めた、衛生的な弁当箱に関するものである。」
(2)「【0005】
【解決課題】ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その課題とするところは、優れた抗菌効果の実現と共に、食品の剥離性乃至は離型性を高めて、雑菌の栄養素を取り除き、雑菌の繁殖を阻止するようにした衛生的な弁当箱を提供することにある。
【0006】
【解決手段】そして、本発明は、そのような課題を解決する為に、食品を収容する容器本体と該容器本体の開口部を覆蓋する蓋体とを有する弁当箱にして、少なくとも該容器本体を、抗菌剤及び離型剤を配合した合成樹脂材料を用いて、成形すると共に、かかる容器本体の内面に部分的に若しくは全体的にシボ模様を付与したことを特徴とする衛生弁当箱を、その要旨とするものである。」
(3)「【0009】先ず、図1は、本発明に従う弁当箱の蓋体と容器本体とを分離した状態を示す斜視説明図であり、図2は、そのような蓋体と容器本体とを組付けてなる弁当箱の断面図を示すものであるが、それらの図において、蓋体2及び容器本体4は、何れも、合成樹脂の射出成形品にて構成されている。そして、蓋体2が、図2に示される如く、容器本体4の開口縁部に嵌め込まれて、その対向する辺部にそれぞれ回動可能に設けられた係止部材6、6が容器本体4の上端開口部に設けられたフランジ部に係止せしめられることによって、かかる容器本体4を覆蓋するようになっている。なお、8は、蓋体2の周縁部に嵌め込まれた、シリコーンゴム等からなるシールであり、かかるシール8が容器本体4の上端部周縁に押圧された形態にて、係止部材6が容器本体4の上端フランジ部に係止せしめられることによって、弾性的なシール機構が形成され、以て弁当箱内部が、外部に対して液密にシールされるようになっている。
【0010】そして、このような構成の弁当箱において、その容器本体4の内面における底面部位に対して、シボ加工が施されており、これによって、所定のシボ模様(凹凸模様)10が付与されているのである。」
(4)「【0012】ここで用いられる合成樹脂としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリアミド、PBT樹脂、ポリアセタール、ポリカーボネート、アクリル樹脂等の公知の各種の樹脂が挙げられ、それらの中から、適宜に選択されることとなる。」
(5)「【0017】ところで、かかる容器本体4の内面に、部分的に若しくは全体的に付与されるシボ模様10は、各種の形態において形成され得るものであるが、特に、本発明にあっては、図3に拡大して示されているように、円ドームを適宜な間隔を隔てて突設した形状、換言すればシボの凹部、凸部がなだらかに変位して、湾曲面にて接続され、明確な角部が形成されないようにした形状において、形成されていることが望ましい。かかる図3に示される如く、シボ模様10の凹凸の谷部が滑らかな湾曲面にて、連続して接続されていることにより、洗浄等の時に谷部の汚れが移動し易く、汚れ落ちが良好となるのである。
【0018】なお、かかるシボ模様10は、容器本体4の成形と同時に、或いはその成形後に、公知の手法に従って形成されることとなるが、有利には、所定のシボ模様を成形金型の製品面に付与しておき、所定の合成樹脂材料の成形時に、成形金型のシボ面が得られる成形品の表面に転写されて、製品にシボ面が形成される手法が採用される。また、かかる金型の製品面に対するシボ加工には、種々なる手法が採用され得るが、図3の如きシボの凹部、凸部がなだらかに変位する形状を実現するには、公知のエッチング法によるシボ加工を金型の製品面に対して施すのが望ましく、これに対してサンドブラスト法のように、金型の表面を機械的に削り取って、金型の表面を粗す方法では、シボの凹部、凸部にはっきりとした角部が形成され、御飯粒等の汚れを拭った時に、この汚れが角部にひっ掛かり、汚れ落ちが悪くなることがある。」
(6)「【0020】また、この容器本体4の内面に形成されるシボ模様10におけるシボ(凹凸)の平均深さ(d)としては、一般に、10~100μm程度、望ましくは20~70μm程度とされる。このシボの深さが浅いと、シボ面に擦り傷が入った時、そのような傷がシボの深さより深くなり、連続した線状となるところから、傷が目立ち易く、傷に入り込んだ汚れも落ち難くなるからである。また、深いシボを入れるためには、金型のシボ加工費が高くなるのであり、更にシボが深すぎる場合には、洗浄の際にスポンジ等で拭っても、シボの谷部の底に入り込んだ汚れにスポンジ等が接触せず、汚れ落ちが悪くなり易い。しかも、エッチング等にて深いシボを入れるために、シボを粗くすると、シボ面の見栄えが悪化するようになる。このため、シボ深さを適宜な深さとすることにより、シボ面に擦り傷が入っても、傷はシボの突出した頂部を削ることになり、シボの谷部の底は傷付かないため、細かい破線状の傷となり、傷が目立ち難く、汚れ落ちにも悪影響が少なくなるのである。」
(7)「【0030】例えば、上記の実施例では、蓋体2と容器本体4とから構成される弁当箱において、容器本体4のみが、抗菌剤及び離型剤を配合した合成樹脂材料を用いて成形されているが、蓋体2を、そのような合成樹脂材料を用いて成形することも可能であり、またシボ模様10の形成される部位にあっても、容器本体4の内面の底面部位のみの部分的な部位に止まることなく、容器本体4の内面の全体に、所定のシボ模様を付与することが出来、更には蓋体2の内面に対しても、シボ模様を部分的に或いは全体的に付与することが可能である。それら蓋体2及び容器本体4の内面の全体に亘ってシボ模様が付与されることによって、本発明の目的とする抗菌効果並びに離型乃至は剥離効果はより一層有利に発揮されることとなるのである。」
(8)「【0033】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明に従う衛生弁当箱は、抗菌剤及び離型剤を配合した合成樹脂材料を用いて、少なくとも、その容器本体が形成されていると共に、更に該容器本体の内面に、部分的に若しくは全体的にシボ模様が付与されているところから、抗菌効果並びに食品の剥離効果乃至は離型効果が相乗的に高められ得ることとなるのである。従って、御飯粒等の食品かすも容易に綺麗に洗い流すことが出来るところから、雑菌の繁殖の原因になる栄養素が洗い落とされることにより、弁当箱を衛生的に使用することが出来ることとなり、また万一僅かな食品かすが擦り傷やシボの谷部に残ったとしても、抗菌剤の働きで殺菌され、その衛生効果は更に高められ得ることとなるのである。」
第5 当審の判断
1 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、シボ加工が金属や樹脂の表面に凹凸の模様をつける表面加工であることは例示するまでもなく技術常識であるから、甲1発明の「金型キャビティー表面に網目状のシボ加工を施した食器用金型」は、本件特許発明1の「金型」と、「金型表面」に「凹凸が形成されているしぼ加工した金型」である点で共通し、甲1発明の「食器」は、本件特許発明1の「樹脂製食器」と、「凹凸を備えた」「樹脂製食器」である点で共通する。
してみると、両者は、以下の<一致点1>で一致し、以下の<相違点1>で相違している。
<一致点1>
「金型表面に凹凸が形成されているしぼ加工した金型を用いて、射出成形法によって凹凸を備えた樹脂製食器を成形する製造方法。」
<相違点1>
本件特許発明1の「樹脂製食器」は、「上方に拡径すると共に食品が直接収容される積み重ね可能な椀型又は皿型」であり、「前記樹脂製食器を積み重ねた際に上方の樹脂製食器の糸尻が直接接触する部位を含む内表面積の30%以上に相当する金型表面の全面に、エッチング法によって断面視で滑らかな曲線を描いて」凹凸が形成されているしぼ加工した金型を用いて射出成形された「皮しぼ又は梨地と呼ばれる」凹凸を備えた樹脂製食器であるのに対し、甲1発明の「食器」は、形状が特定されておらず、「上方に拡径すると共に食品が直接収容される積み重ね可能な椀型又は皿型」であるかが不明であり、金型キャビティー表面に網目状のシボ加工を施した食器用金型を用いて射出成形されているものの、「前記樹脂製食器を積み重ねた際に上方の樹脂製食器の糸尻が直接接触する部位を含む内表面積の30%以上に相当する金型表面の全面に、エッチング法によって断面視で滑らかな曲線を描いて」凹凸が形成されているしぼ加工した金型を用いて射出成形されたといえるか不明であり、そのような金型を用いて射出成形された食器が「皮しぼ又は梨地と呼ばれる」凹凸を備えた食器といえるかが不明である点。
(2)判断
ア <相違点1>が実質的な相違点かについて
(ア)本件特許発明1は、食器を積み重ねるときに、上方の食器の糸尻と当接して傷がつき易いために、樹脂製食器の内表面の一部にしぼ加工を施す(【0017】)という技術的思想を有するものである。
(イ)一方で、第4 1(2)に記載したとおり、甲1発明は、鮮明な立体感を伴う模様を施した成形品を得ることができる模様付き成形品の製造法を提供することを目的とするものであり、金型キャビティー表面に網目状のシボ加工を施した食器用金型を用いて、射出成形することにより、食器を成形するものであるから、その技術的思想は、本件特許発明1の上記した技術的思想とは異なるものである。
(ウ)また、甲1の記載をみても、甲1発明の食器として、どのような形状の食器を想定しているのか明らかではなく、網目状のシボが食器のどの部分に施されているのかも明らかではないが、甲1発明は、上記したように、鮮明な立体感を伴う模様を施した成形品を得るためのものであるから、食器の形状を問わず、また、網目状のシボが施される箇所にも特段の制限はないものと解される。なお、甲1発明の上記した技術的思想を踏まえると、甲1に「金型キャビティー表面」という記載があることをもって、甲1に示される食器用金型が、凹部を備えた金型と、凸部を備えた金型とからなるとはいえず、甲1発明において、凹部を備えた金型のみに網目状のシボ加工が施されているともいえない。
そして、上記したように、甲1発明の食器として、どのような形状の食器を想定しているのか明らかでないところ、食器には、コップ等、糸尻のない食器が種々あり、また、食器だからといって必ずしも、積み重ね可能とはいえないことを踏まえると、甲1発明は、糸尻があり、積み重ね可能な椀型又は皿形の食器の成形を前提としたものではない。さらに、甲1発明は、食器用金型を用いて成形された網目状のシボが食器のどの部分に施されているのかも明らかではないが、仮に内表面に網目状のシボが施されているとしても、その網目状のシボは、鮮明な立体感を伴う模様を施した成形品を得るためのものであって、上方の食器の糸尻と当接して傷がつかないように、「前記樹脂製食器を積み重ねた際に上方の樹脂製食器の糸尻が直接接触する部位を含む内表面積の30%以上に相当する」部分に「断面視で滑らかな曲線を描いて凹凸が形成されているしぼ加工した金型を用いて」成形された「皮しぼ又は梨地と呼ばれる凹凸」ではない。
(エ)したがって、本件特許発明1と甲1発明とは、上記<相違点1>で相違し、この相違は、両者の技術的思想の相違や、糸尻があり、積み重ね可能な椀型又は皿形の食器の成形を前提とするか否かに起因するものであるから、<相違点1>は実質的な相違点である。
イ <相違点1>に係る構成が容易に想到できるかについて
(ア)上記ア(ウ)に示したように、甲1発明が、糸尻があり、積み重ね可能な椀型又は皿形の食器の成形を前提としたものではない以上、甲1発明において、鮮明な立体感を伴う模様を施した成形品を得るための網目状のシボに代えて、あるいは該網目状のシボに加えて、「前記樹脂製食器を積み重ねた際に上方の樹脂製食器の糸尻が直接接触する部位を含む内表面積の30%以上に相当する」部分に「断面視で滑らかな曲線を描いて凹凸が形成されているしぼ加工した金型を用いて」成形された「皮しぼ又は梨地と呼ばれる凹凸」を設ける理由はない。
(イ)次に、甲2に記載された事項について検討すると、第4 3(2)に記載したとおり、甲2には、優れた抗菌効果の実現と共に、食品の剥離性乃至は離型性を高めて、雑菌の栄養素を取り除き、雑菌の繁殖を阻止するようにした衛生的な弁当箱を提供することを目的とし、その解決手段として、少なくとも該容器本体を、抗菌剤及び離型剤を配合した合成樹脂材料を用いて、成形すると共に、かかる容器本体の内面に部分的に若しくは全体的にシボ模様を付与することが記載されている。より具体的には、第4 3(3)及び(5)に記載したとおり、弁当箱の容器本体4の内面における底面部位に対して、凹部、凸部がなだらかに変位して、湾曲面にて接続された形状のシボ模様10が付与されることが記載されている。
また、第4 3(6)に記載したとおり、シボ深さを適宜な深さとすることにより、シボ面に擦り傷が入っても、傷はシボの突出した頂部を削ることになり、シボの谷部の底は傷付かないため、細かい破線状の傷となり、傷が目立ち難く、汚れ落ちにも悪影響が少なくなるものであり、シボ模様を付与することで、傷が目立ち難くなることも記載されている。
したがって、甲2の記載から、衛生的な弁当箱を提供するため、及び弁当箱の傷を目立ち難くするために、弁当箱の容器本体の内面における底面部位に、凹部、凸部がなだらかに変位して、湾曲面にて接続された形状のシボ模様を付与するという技術的思想が把握できる。しかしながら、弁当箱は糸尻を備えず、積み重ね可能とも必ずしもいえないから、甲2に記載された事項の技術的思想は、本件特許発明1の上記した、食器を積み重ねるときに、上方の食器の糸尻と当接して傷がつき易いために、樹脂製食器の内表面の一部にしぼ加工を施すという技術的思想とは異なるものである。
(ウ)そうすると、甲1発明の技術的思想も、甲2に記載された事項の技術的思想も、本件特許発明1の技術的思想と異なり、また、甲1発明も、甲2に記載された事項も、糸尻があり、積み重ね可能な椀型又は皿形の食器の成形を前提としたものではないから、仮に甲1発明に、甲2に記載された事項を組み合わせたとしても、本件特許発明1の技術的思想に想到することはなく、また、糸尻があり、積み重ね可能な椀型又は皿形の食器の成形を前提とした、本件特許発明1の<相違点1>に係る構成には想到し得ない。
このことは、参考資料として示された甲3~甲5に記載された事項を考慮しても同様である。
(エ)また、そもそも、甲1発明に甲2に記載された事項を組み合わせる動機はない。すなわち、甲1発明と、甲2に記載された事項とは、技術的思想が異なるものであり、それに起因して、成形に用いられる樹脂の材料、成形の条件等が異なるものであるから、甲1発明における、鮮明な立体感を伴う模様を施した成形品を得るための網目状のシボに代えて、甲2に記載された事項の衛生的な弁当箱を提供するため、及び弁当箱の傷を目立ち難くするための、凹部、凸部がなだらかに変位して、湾曲面にて接続された形状のシボ模様を採用することは、甲1発明の作用効果を阻害するものである。したがって、甲1発明において、網目状のシボに代えて、甲2に記載された事項のシボ模様を採用することはできない。
また、甲1発明における、上記網目状のシボに加えて、甲2に記載された事項の上記シボ模様を採用する場合、上記網目状のシボと上記シボ模様は、上記したように、成形する際の樹脂の材料や、条件がそれぞれ異なるから、上記網目状のシボと上記シボ模様を、それぞれの作用効果を奏しつつ、両立させることはできない。したがって、甲1発明において、網目状のシボに加えて、甲2に記載された事項のシボ模様を採用することはできない。
(オ)以上によると、甲1発明において、甲2に記載された事項を考慮しても、本件特許発明1の<相違点1>に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
(3)請求人の主張について
ア 請求人は審判請求書第6~9頁において、本件特許発明1と甲1発明との相違点を、以下の3点であると主張している。
「<相違点1> 本件特許発明1は、「上方に拡径すると共に食品が直接収容される積み重ね可能な椀型又は皿型の樹脂製食器」を前提とするものであるが、甲第1号証は、「樹脂製の食器」と記載され、具体的な形状については特定していない点で相違する。」
「<相違点2> 本件特許発明1には、「樹脂製食器を積み重ねた際に上方の樹脂製食器の糸尻が直接接触する部位を含む内表面積の30%以上に相当する金型表面の全面に、エッチング法によって断面視で滑らかな曲線を描いて凹凸が形成されているしぼ加工した金型を用いる」点が記載されている。
一方、甲第1号証を見た場合、
(a) 「糸尻が直接接触する部位を含む内表面積の30%以上に相当する金型表面の全面」に、しぼ加工を施しているか否か、
(b) 「エッチング法によって断面視で滑らかな曲線を描いて凹凸」が形成されているか否か、
が不明である点で両者は相違する。」
「<相違点3> 発明の効果として、本件特許発明1では、段落0026に記載のように、「本発明の樹脂製食器は、食器同士が接触しても、内面に傷が生じにくいため、その結果、食器内面に傷による汚れや、食品成分が傷に浸透することによる汚れが生じにくいので、学校、病院や企業の社員食堂など大規模に給食する施設において、耐傷つき性が改善された樹脂製食器として安心して使用できる」との効果が認められる。
要約すれば、(a)内面に傷が生じにくい。
(b)汚れが生じにくい。
(c)これにより、耐傷つき性が改善される。
ものと認められ、この点は、甲第1号証に具体的な記載はない。」
しかしながら、第5 1(1)及び(2)に示したとおり、本件特許発明1は、「樹脂製食器」が「上方に拡径すると共に食品が直接収容される積み重ね可能な椀型又は皿型」であることに起因し、その積み重ねの際、上方の食器の糸尻と当接して傷がつき易いため、「前記樹脂製食器を積み重ねた際に上方の樹脂製食器の糸尻が直接接触する部位を含む内表面積の30%以上に相当する金型表面の全面に、エッチング法によって断面視で滑らかな曲線を描いて」凹凸が形成されているしぼ加工した金型を用いて射出成形された「皮しぼ又は梨地と呼ばれる」凹凸を備えた樹脂製食器を成形するものであるから、「上方に拡径すると共に食品が直接収容される積み重ね可能な椀型又は皿型」であることと、「前記樹脂製食器を積み重ねた際に上方の樹脂製食器の糸尻が直接接触する部位を含む内表面積の30%以上に相当する金型表面の全面に、エッチング法によって断面視で滑らかな曲線を描いて」凹凸が形成されているしぼ加工した金型を用いて射出成形されることと、当該しぼ加工が「皮しぼ又は梨地と呼ばれる」凹凸であることとは、密接に関連するといえる。
してみると、本件特許発明1と甲1発明とは、第5 1(1)に記載した<相違点1>で相違するのであり、<相違点1>を複数に分割して、それぞれ別々に判断した請求人の当該主張は採用することができない。
イ 請求人は令和6年10月8日提出の口頭審理陳述要領書第2頁において、以下のとおり主張している。
「(ア) 本件特許発明の請求項1に記載する「(A)上方に拡径すると共に食品が直接収容される積み重ね可能な椀型又は皿型の樹脂製食器において」、について
(a) 「上方に拡径すると共に食品が直接収容される積み重ね可能な」の記載部分は、一般常識として広く知られている食器の機能を記載しているにすぎません。
(b) 即ち、通常、流動性の料理を盛り付けるものが「椀」であり、また、非流動性の料理を盛り付けるものが「皿」の常識的な概念です。この点は説明を要しないものと思慮します。そして、これらの食器は、積み重ね可能である点も特に説明を要しないものと思慮します。
(c) 換言すれば、「樹脂製食器」が固有の形態を有し、或いは「樹脂製食器」が特別の機能を呈するなどの形態を有するものであれば、「樹脂製食器」はその形態により特徴付けられます。しかし、本件特許発明のように、「上方に拡径すると共に食品が直接収容される積み重ね可能な」機能は、そもそも常識的な一般な機能であり、「樹脂製食器」の言葉の概念に包含されるものと思慮します。
(d) したがって、本件特許発明の「樹脂製食器」と甲第1号証の「樹脂製食器」における「上方に拡径すると共に食品が直接収容される積み重ね可能な」機能の相違点は、そもそも両者間の相違点として捕らえる必要のない記載部分と思慮します。」
しかしながら、甲1には、単に「食器」と記載されるのみで、具体的な食器の記載はなく、また、食器の語義は「食事に使う器具・容器。茶碗・皿・鉢・箸・ナイフ・フォークの類。」(広辞苑第五版)であることに鑑みると、甲1発明の食器を「上方に拡径すると共に食品が直接収容される積み重ね可能な椀型又は皿型の樹脂製食器」と限定的に解することはできない。
してみると、請求人の当該主張は採用することができない。
ウ 請求人は令和6年10月8日提出の口頭審理陳述要領書第2頁~第3頁において、以下のとおり主張している。
「(イ) 本件特許発明の請求項1に記載する「(B)前記樹脂製食器を積み重ねた際に上方の樹脂製食器の糸尻が直接接触する部位を含む内表面積の30%以上に相当する金型表面の全面に、エッチング法によって断面視で滑らかな曲線を描いて凹凸が形成されているしぼ加工した金型を用いて」、についても同様となります。
(a) 「前記樹脂製食器を積み重ねた際に上方の樹脂製食器の糸尻が直接接触する部位を含む」の記載部分は、単なる作用の記載であって、特に、本件特許発明の構成を特定するものではありません。
(b) 即ち、「前記樹脂製食器を積み重ねた際に上方の樹脂製食器の糸尻が直接接触する部位」は、いわば、他の別の「樹脂製食器」との関係により成立する「作用」上の関係にすぎません。
(c) したがって、「前記樹脂製食器を積み重ねた際に上方の樹脂製食器の糸尻が直接接触する部位を含む」の記載を除く、「内表面積の30%以上に相当する金型表面の全面に」、の記載部分が本件特許発明における技術的範囲を特定するものであり、前記樹脂製食器を積み重ねた際に上方の樹脂製食器の糸尻が直接接触する部位を含む」の作用部分は、そもそも本件特許発明と甲第1号証間における相違点としての地位を有するものではありません。」
しかしながら、「前記樹脂製食器を積み重ねた際に上方の樹脂製食器の糸尻が直接接触する部位」との記載は、本件特許発明1で成形される樹脂製食器のどの部位に皮しぼ又は梨地と呼ばれる凹凸を備えるかを特定するための記載であり、本件特許発明1及び2の構成を特定するものである。
してみると、請求人の当該主張は採用することができない。
(4)小括
(2)アに記載のとおり、本件特許発明1は、甲1発明と実質的な相違点があり、特許法第29条第1項第3号に該当するものでない。
また、(2)イに記載のとおり、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
したがって、本件特許発明1に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当せず、当該証拠方法によって、無効とすべきものではない。
2 本件特許発明2について
上記1に記載したとおり、本件特許発明1は、甲1発明と実質的な相違点があり、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
してみると、本件特許発明1に従属する本件特許発明2は、少なくとも1(1)に記載した<相違点1>に係る発明特定事項を有する点で、甲1発明と実質的な相違点があり、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が、容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、本件特許発明2は特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもないから、本件特許発明2に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当せず、当該証拠方法によって、無効とすべきものではない。
3 まとめ
以上のとおり、請求人が主張する無効理由1には理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1及び2の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-800048