特許訂正審判
2024-390064
γ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法
- 審判番号
- 2024-390064
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 訂正審判(訂正の審決)
- 出願番号
- 特願2018-197376
- 登録番号
- 6778931
- 請求日
- 2024年06月25日
- 審決日
- 2024年11月25日
- 公報発行日
- 2025年02月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【請求人】株式会社 流通サービス
- 【請求人代理人】弁理士法人太陽国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 淺野 美奈
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 天野 宏樹
- 分類
- P141 .851-Y (A23F) / P141 .841-Y (A23F) / P141 .854-Y (A23F) / P141 .855-Y (A23F) / P141 .856-Y (A23F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法126条1項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第126条第1項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第126条第7項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6778931号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第6778931号の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正することを認める。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6778931号(請求項の数1。以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成30年10月19日の出願であって、令和2年10月15日に特許権の設定登録がされ、令和6年6月25日に請求人から本件訂正審判が請求され、同年8月9日付けで審尋がされ、同年8月21日に請求人から回答書が提出されたものである。
第2 請求の趣旨及び訂正の内容
1 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第6778931号の特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正することを認める、との審決を求めるものである。
2 訂正の内容
本件訂正審判による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「茶の木の新芽の育成期間に日光を遮って育成した茶葉を」という記載を、「茶の木の新芽の育成期間に日光を遮って育成した一番茶の茶葉を」という記載に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の「ことを特徴とするγ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法。」という記載を「ことを特徴とするギャバ臭味のないγ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法。」という記載に訂正する。
第3 当審の判断
1 特許法第126条第1項(訂正の目的)について
(1)訂正事項1について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、茶葉の種類についての限定が無かった「茶葉」を、茶葉の種類を「一番茶」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2による請求項1についての訂正は、臭味についての限定が無かった「γ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法」を、臭味を「ギャバ臭味のない」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(3)まとめ
したがって、本件訂正は特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
2 特許法第126条第5項(願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内かどうか)について
(1)訂正事項1について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「本件特許明細書等」という。)の【0019】の「1、品種 おくみどり」の「摘採日 2017年5月12日 (1茶)」、「2、品種 おくみどり」の「摘採日 2018年5月6日 (1茶)」、「3、品種 おくみどり」の「摘採日 2018年5月18日 (1茶)」及び「4、品種 あさひ」の「摘採日 2018年4月29日 (1茶)」という記載を根拠とするものである。
また、上記記載における「摘採日」がいずれも4月下旬から5月中旬の時期であることから、「1茶」が「一番茶」のことであることは本件特許の請求項1に係る発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)に明らかである。
したがって、訂正事項1による請求項1についての訂正は、本件特許明細書等の記載を根拠にして、特許請求の範囲を減縮するものであるから、本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2による請求項1についての訂正は、本件特許明細書等の【0004】の「本件発明者は、鋭意試行錯誤を重ねた結果、茶葉の原材料に着目して、従来生じていたギャバ臭味のないγ-アミノ酪酸含量を含んだγ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法を見出した。」、同【0005】の「本発明は、原材料に着目してなされた従来生じていたギャバ臭味のないγ-アミノ酪酸含量を含んだγ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法を提供することを目的とする。」、同【0010】の「従来生じていたギャバ臭味のない通常の玉露、碾茶に遜色のない色、味、香りを有するγ-アミノ酪酸含量を多く含んだγ-アミノ酪酸含量の高い茶を製造することができる。」並びに同【0019】の「1、品種 おくみどり」の項の「本実施例で得られたγ-アミノ酪酸含量の高い茶は、従来来生じていたギャバ臭味のない通常の玉露に遜色のない色、味、香りを有するγ-アミノ酪酸含量を多く含んだγ-アミノ酪酸含量の高い茶(γ-アミノ酪酸620mg/100g)であった。」、「2、品種 おくみどり」の項の「本実施例で得られたγ-アミノ酪酸含量の高い茶は、従来来生じていたギャバ臭味のない通常の玉露に遜色のない色、味、香りを有するγ-アミノ酪酸含量を多く含んだγ-アミノ酪酸含量の高い茶(γ-アミノ酪酸450mg/100g)であった。」、「3、品種 おくみどり」の項の「本実施例で得られたγ-アミノ酪酸含量の高い茶は、従来来生じていたギャバ臭味のない通常の玉露に遜色のない色、味、香りを有するγ-アミノ酪酸含量を多く含んだγ-アミノ酪酸含量の高い茶(γ-アミノ酪酸480mg/100g)であった。」及び「4、品種 あさひ」の項の「本実施例で得られたγ-アミノ酪酸含量の高い茶は、従来来生じていたギャバ臭味のない通常の玉露に遜色のない色、味、香りを有するγ-アミノ酪酸含量を多く含んだγ-アミノ酪酸含量の高い茶(γ-アミノ酪酸520mg/100g)であった。」という記載を根拠とするものである。
したがって、訂正事項2による請求項1についての訂正は、本件特許明細書等の記載を根拠にして、特許請求の範囲を減縮するものであるから、本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。
(3)まとめ
したがって、本件訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内でされたものであり、特許法第126条第5項の規定に適合する。
3 特許法第126条第6項(実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものかどうか)について
本件訂正は、本件特許明細書等の記載を根拠にして、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。
4 特許法第126条第7項(独立特許要件)について
(1)本件特許に係る侵害訴訟事件における被告からされた無効の抗弁
令和6年8月21日に請求人から提出された回答書に添付されて本件特許に係る侵害訴訟事件(令和5年(ワ)第70445号)の被告(以下、「被告」という。)から提出された特許無効の抗弁の主張を記載した以下の書面等が提出された。
・令和5年11月10日付けで上記侵害訴訟事件の被告から提出された準備書面(1)
・乙第2号証(CN107307104A)
・乙第2号証訳文
・乙第3号証(大辞林第3版第4刷、2017年5月20日発行、第1754及び1755ページ)
・乙第4号証(緑茶のできるまで 伊勢本かぶせ茶、www.suizawa.net/dekiru/、2023年10月18日印刷)
・乙第5号証(公益財団法人世界緑茶協会 O-CHANET、家庭でできる手作り新茶、https://www.o-cha.net/jiten/dekirumade/shincha2.html#:~:text=1.殺青,蓋を閉めて蒸す。2023年10月18日印刷)
・令和6年1月29日付けで上記侵害訴訟事件の被告から提出された準備書面(2)
・乙第6号証(KR10-2009-0124269)
・乙第6号証訳文
・乙第7号証(被覆茶安定生産マニュアル、2018年3月、農食研究推進事業27015Cコンソーシアム)
・乙第8号証の1(ギャバロン茶とその製造法、美味技術研究会誌 No.2:27~30,2002)
・乙第8号証の2(美味技術研究会誌、資料トップ この資料について、2002巻、2号、https://www.jstage.jst.go.jp/browse/bimi2002/2002/2/_contents/-char/ja)
・乙第9号証(茶業研究報告-第68号、昭和63年12月、日本茶業技術協会、表紙、第40ないし42ページ)
・令和6年5月28日付けで上記侵害訴訟事件の被告から提出された準備書面(5)
・乙第18号証の1(光合成はどのような光を使いますか、Laboratory of Plant Physiology,Waseda University、2024年5月7日印刷、www.photosynthesis.jp/faq/faq1-6.html#:~:text=光合成において使うことが,に使うことができません。)
・乙第18号証の2(光合成の研究室:研究室情報、Laboratory of Plant Physiology,Waseda University、2024年5月7日印刷、www.photosynthesis.jp/lab.html)
・乙第19号証(一般社団法人日本植物生理学会、みんなのひろば、植物Q&A、植物の生長に紫外線や赤外線は有益か有害か、必要か不必要か。2024年5月7日印刷、https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1733)
なお、書面等の表記は当審による。
上記書面等によると、被告は、上記侵害訴訟事件において次の無効の抗弁の主張をしている。
・無効の抗弁1:乙第2号証記載の公知発明1に基づく新規性の欠如
・無効の抗弁2:乙第6号証記載の公知発明2に基づく新規性の欠如
・無効の抗弁3:甲第6-1号証(特許第3038373号公報)記載の公知発明3に基づく進歩性の欠如
・無効の抗弁4:発明未完成
当業者としては、本件特許の明細書を見ても、特許請求の範囲に示された本件特許発明を実施すれば、本件特許発明が目的とする技術効果であるギャバ臭の改善の効果を挙げることができるとは認識できないというべきであり、よって、本件特許発明はその目的とする技術効果を挙げることができる程度に具体化され、客観化されているとはいえない。
よって、本件特許発明は未完成であり、そもそも特許法にいう「発明」とはいえない。
・無効の抗弁5:実施可能要件違反
特許請求の範囲に記載された本件特許発明を実施しても、本件特許発明が目的とする技術効果(ギャバ臭の改善)を挙げることができるとは認識できないというべきである。言い換えれば、当業者としては、本件特許の明細書に接しても、本件特許発明が目的とする技術効果を挙げるような発明を実施できるとはいえない。
無効の抗弁1及び2はいずれも新規性の欠如のみであるが、本件訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるという事情に鑑み、進歩性の欠如についても併せて検討する。
また、無効の抗弁4における「当業者としては、本件特許の明細書を見ても、特許請求の範囲に示された本件特許発明を実施すれば、本件特許発明が目的とする技術効果であるギャバ臭の改善の効果を挙げることができるとは認識できない」という主張は、特許法第36条第6項第1号のサポート要件違反の主張と解され、「そもそも特許法にいう「発明」とはいえない。」という主張は、特許法第29条第1項柱書に規定される発明に該当しないという主張と解されることから、当審は無効の抗弁4をサポート要件違反と特許法第29条第1項柱書に規定される発明該当性として検討する。
すなわち、当審は、無効の抗弁1ないし5を次の理由に整理し、これらについて検討する。
・無効理由1:乙第2号証記載の公知発明1に基づく新規性・進歩性の欠如
・無効理由2:乙第6号証記載の公知発明2に基づく新規性・進歩性の欠如
・無効理由3:甲第6-1号証(特許第3038373号公報)記載の公知発明3に基づく進歩性の欠如
・無効理由4:特許法第29条第1項柱書に規定される発明該当性
・無効理由5:サポート要件違反
・無効理由6:実施可能要件違反
(2)本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1の記載及び訂正発明
本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。また、本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明を、以下、「訂正発明」という。
<本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1の記載>
「茶の木の新芽の育成期間に日光を遮って育成した一番茶の茶葉を嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した後、嫌気処理を行った前記茶葉を原料として碾茶又は抹茶又は玉露に製造する
ことを特徴とするギャバ臭味のないγ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法。」
(3)無効理由1(乙第2号証記載の公知発明1に基づく新規性・進歩性の欠如)について
ア 乙第2号証記載の公知発明1
乙第2号証の特許請求の範囲の1及び4並びに明細書の【0017】及び【0018】等の記載を整理すると、乙第2号証には次の発明(以下、「公知発明1」という。)が記載されていると認める。
<公知発明1>
「夏及び秋の季節において、植栽、茶摘み、茶葉の前処理、殺青、乾燥の工程を経て作られ、その工程には、植栽から茶摘みまでの間に、茶畑に遮光ネットを使用することや、茶葉が生い茂り、若緑色になってから摘採するまでに少なくとも1ヶ月前までに遮光作業を行うことも含まれ、茶葉の前処理に関して、まず茶葉に真空嫌気処理を行い、次に好気処理、そして再び真空嫌気処理を行う、茶葉中のGABA成分が濃縮され、緑茶の品質が向上した、高濃度アミノ酸で苦味の少ない、夏秋緑茶の加工法。」
イ 対比・判断
(ア)対比
訂正発明と公知発明1を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「茶の木の新芽の育成期間に日光を遮って育成した茶の茶葉を嫌気処理した後、好気処理する操作をした後、嫌気処理を行った前記茶葉を原料とする
γ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点1-1>
訂正発明においては「一番茶の茶葉」と特定されているのに対し、公知発明1においては「夏及び秋の季節において、植栽、茶摘み」「の工程を経て作られ」る「茶葉」と特定されているが、「一番茶の茶葉」とは特定されていない点。
<相違点1-2>
訂正発明においては「嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した」と特定されているのに対し、公知発明1においては「まず茶葉に真空嫌気処理を行い、次に好気処理、そして再び真空嫌気処理を行う」と特定されているが、「嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した」とは特定されていない点。
<相違点1-3>
訂正発明においては「碾茶又は抹茶又は玉露に製造する」と特定されているのに対し、公知発明1においては「殺青、乾燥の工程を経て作られ」る「夏秋緑茶の加工方法」と特定されているが、「碾茶又は抹茶又は玉露に製造する」とは特定されていない点。
<相違点1-4>
訂正発明においては「ギャバ臭味のない」と特定されているのに対し、公知発明1においてはそのようには特定されていない点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点1-1及び相違点1-4について検討する。
・相違点1-1について
乙第2号証には、公知発明1における「夏及び秋の季節において、植栽、茶摘み」「の工程を経て作られ」る「茶葉」が「一番茶の茶葉」であることは記載されていない。
また、一般に「一番茶」とは「春一番に芽ぶいた茶葉を収穫し製造したせん茶」である(丸善食品総合辞典、第84ページ左欄、平成10年3月25日発行、丸善株式会社)ところ、公知発明1は、「夏及び秋の季節において、植栽、茶摘み」「の工程を経て作られ」る「茶葉」であるから、「一番茶の茶葉」である蓋然性が高いともいえない。
したがって、相違点1-1は実質的な相違点である。
そして、乙第2号証を含めいずれの証拠にも、公知発明1における「夏及び秋の季節において、植栽、茶摘み」「の工程を経て作られ」る「茶葉」を「一番茶の茶葉」にする動機付けとなる記載はない。
したがって、公知発明1において、相違点1-1に係る訂正発明の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
・相違点1-4について
訂正発明における「ギャバ臭味のない」という発明特定事項は、「ギャバ臭味のある」茶と「ギャバ臭味のない」茶があるなかで、「ギャバ臭味のない」ものに特定するものであるところ、乙第2号証には、公知発明1における「夏秋緑茶」が「ギャバ臭味のない」ものであることは記載されていない。
また、公知発明1における「夏秋緑茶」が「ギャバ臭味のない」ものである蓋然性が高いともいえない。
したがって、相違点1-4は実質的な相違点である。
そして、乙第2号証を含めいずれの証拠にも、公知発明1における「夏秋緑茶」を「ギャバ臭味のない」ものにする動機付けとなる記載はない。
したがって、公知発明1において、相違点1-4に係る訂正発明の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、訂正発明の奏する「従来生じていたギャバ臭味のない通常の玉露、碾茶に遜色のない色、味、香りを有するγ-アミノ酪酸含量を多く含んだγ-アミノ酪酸含量の高い茶を製造することができる。」(本件特許明細書等の【0010】)という効果は、当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、訂正発明は公知発明1であるとはいえないし、公知発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないので、訂正発明は公知発明1に基づき新規性・進歩性を欠如するものではない。
ウ 無効理由1についてのまとめ
したがって、無効理由1は訂正発明の独立特許要件を否定するものであるとはいえない。
(4)無効理由2(乙第6号証記載の公知発明2に基づく新規性・進歩性の欠如)について
ア 乙第6号証記載の公知発明2
乙第6号証の特許請求の範囲の請求項8及び9並びに明細書の段落309及び段落310等の記載を整理すると、乙第6号証には次の発明(以下、「公知発明2」という。)が記載されていると認める。
<公知発明2>
「茶園で収穫前30日から収穫期まで、紫外線75Wで日没の後から2時間ほどの保光処理をし、遮光網で収穫前20日から収穫期まで遮光し、摘葉前にメチルジャスモネート1,000ppmを葉面散布し、摘葉後には、常温で4時間ほど萎凋を行い、20℃、100%N2ガスで3時間くらい嫌気処理、あと3時間ずつの好気処理と嫌気処理を組み合わせることにより、ギャバの含量をより増進させてから100℃で40秒間蒸発させ、常温で送風乾燥し、続いて、80℃で90分間熱風で乾燥し、選別したボールミル用セラミックで粉砕してからポリエチレン材質の容器に20gを注入し、その後密封で製品を梱包する、ギャバが増進された、ギャバ粉末茶の製茶方法。」
イ 対比・判断
(ア)対比
訂正発明と公知発明2を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「茶葉を嫌気処理した後、好気処理する操作をした後、嫌気処理を行った前記茶葉を原料とする
γ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点2-1>
訂正発明においては「茶の木の新芽の育成期間に日光を遮って育成した」と特定されているのに対し、公知発明2においては「茶園で収穫前30日から収穫期まで、紫外線75Wで日没の後から2時間ほどの保光処理をし、遮光網で収穫前20日から収穫期まで遮光し」と特定されているが、「茶の木の新芽の育成期間に日光を遮って育成した」とは特定されていない点。
<相違点2-2>
訂正発明においては「一番茶の茶葉」と特定されているのに対し、公知発明2においては「茶園で収穫前30日から収穫期まで、紫外線75Wで日没の後から2時間ほどの保光処理をし、遮光網で収穫前20日から収穫期まで遮光し、摘葉前にメチルジャスモネート1,000ppmを葉面散布し、摘葉」と特定されているが、「一番茶の茶葉」とは特定されていない点。
<相違点2-3>
訂正発明においては「嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した」と特定されているのに対し、公知発明2においては「20℃、100%N2ガスで3時間くらい嫌気処理、あと3時間ずつの好気処理と嫌気処理を組み合わせる」と特定されているが、「嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した」とは特定されていない点。
<相違点2-4>
訂正発明においては「碾茶又は抹茶又は玉露に製造する」と特定されているのに対し、公知発明2においては「ギャバ粉末茶の製茶方法」と特定されているが、「碾茶又は抹茶又は玉露に製造する」とは特定されていない点。
<相違点2-5>
訂正発明においては「ギャバ臭味のない」と特定されているのに対し、公知発明2においては「ギャバが増進された」と特定されているが、「ギャバ臭味のない」とは特定されていない点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点2-2及び相違点2-5について検討する。
・相違点2-2について
乙第6号証には、公知発明2における「摘葉」される茶が「一番茶の茶葉」であることは記載されていない。
また、公知発明2における「摘葉」される茶が「一番茶の茶葉」である蓋然性が高いともいえない。
したがって、相違点2-2は実質的な相違点である。
そして、乙第6号証を含めいずれの証拠にも、公知発明2における「摘葉」される茶を「一番茶の茶葉」にする動機付けとなる記載はない。
したがって、公知発明2において、相違点2-2に係る訂正発明の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
・相違点2-5について
訂正発明における「ギャバ臭味のない」という発明特定事項は、「ギャバ臭味のある」茶と「ギャバ臭味のない」茶があるなかで、「ギャバ臭味のない」ものに特定するものであるところ、乙第6号証には、公知発明2における「ギャバが増進された」「ギャバ粉末茶」が「ギャバ臭味のない」ものであることは記載されていない。
また、公知発明2における「ギャバが増進された」「ギャバ粉末茶」が「ギャバ臭味のない」ものである蓋然性が高いともいえない。
したがって、相違点2-5は実質的な相違点である。
そして、乙第6号証を含めいずれの証拠にも、公知発明2における「ギャバ粉末茶」を「ギャバ臭味のない」ものにする動機付けとなる記載はない。
したがって、公知発明2において、相違点2-5に係る訂正発明の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、訂正発明の奏する「従来生じていたギャバ臭味のない通常の玉露、碾茶に遜色のない色、味、香りを有するγ-アミノ酪酸含量を多く含んだγ-アミノ酪酸含量の高い茶を製造することができる。」という効果は、当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、訂正発明は公知発明2であるとはいえないし、公知発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないので、訂正発明は公知発明2に基づき新規性・進歩性を欠如するものではない。
ウ 無効理由2についてのまとめ
したがって、無効理由2は訂正発明の独立特許要件を否定するものであるとはいえない。
(5)無効理由3(甲第6-1号証(特許第3038373号公報)記載の公知発明3に基づく進歩性の欠如)について
ア 甲第6-1号証(特許第3038373号公報)記載の公知発明3
甲第6-1号証(特許第3038373号公報)の特許請求の範囲の【請求項1】及び発明の詳細な説明の【0001】等の記載を整理すると、甲第6-1号証には次の発明(以下、「公知発明3」という。)が記載されていると認める。
<公知発明3>
「茶葉を嫌気処理したのち好気処理する操作を交互に繰り返した後、嫌気処理を行うγ-アミノ酪酸含有量の高い茶の製造法。」
イ 対比・判断
(ア)対比
訂正発明と公知発明3を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「茶葉を嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した後、嫌気処理を行った前記茶葉を原料とする
γ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3-1>
訂正発明においては「茶の木の新芽の育成期間に日光を遮って育成した」と特定されているのに対し、公知発明3においてはそのようには特定されていない点。
<相違点3-2>
訂正発明においては「一番茶の茶葉」と特定されているのに対し、公知発明3においてはそのようには特定されていない点。
<相違点3-3>
訂正発明においては「碾茶又は抹茶又は玉露に製造する」と特定されているのに対し、公知発明3においてはそのようには特定されていない点。
<相違点3-4>
訂正発明においては「ギャバ臭味のない」と特定されているのに対し、公知発明3においてはそのようには特定されていない点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点3-4について検討する。
訂正発明における「ギャバ臭味のない」という発明特定事項は、「ギャバ臭味のある」茶と「ギャバ臭味のない」茶があるなかで、「ギャバ臭味のない」ものに特定するものであるところ、甲第6-1号証には、公知発明3における「茶」が「ギャバ臭味のない」ものであることは記載されていない。
また、公知発明3における「茶」が「ギャバ臭味のない」ものである蓋然性が高いともいえない。
そして、甲第6-1号証を含めいずれの証拠にも、公知発明3における「茶」を「ギャバ臭味のない」ものとする動機付けとなる記載はない。
したがって、公知発明3において、相違点3-4に係る訂正発明の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、訂正発明の奏する「従来生じていたギャバ臭味のない通常の玉露、碾茶に遜色のない色、味、香りを有するγ-アミノ酪酸含量を多く含んだγ-アミノ酪酸含量の高い茶を製造することができる。」という効果は、当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、訂正発明は公知発明3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、訂正発明は公知発明3に基づき進歩性を欠如するものではない。
ウ 無効理由3についてのまとめ
したがって、無効理由3は訂正発明の独立特許要件を否定するものであるとはいえない。
(6)無効理由4(特許法第29条第1項柱書に規定される発明該当性)について
ア 発明に該当しないものの類型
特許法第29条第1項柱書に規定される「発明」といえるためには、「自然法則を利用した技術的思想の創作」である必要があり、以下の(i)から(vi)までの類型に該当するものは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではないから、「発明」に該当しないといえる。
(i)自然法則自体
(ii)単なる発見であって創作でないもの
(iii)自然法則に反するもの
(iv)自然法則を利用していないもの
(v)技術的思想でないもの
(vi)発明の課題を解決するための手段は示されているものの、その手段によっては、課題を解決することが明らかに不可能なもの
そこで、検討する。
イ 判断
本件訂正後の請求項1の記載及び本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の記載からみて、訂正発明が上記(i)から(vi)までの類型に該当しないことは明らかである。
したがって、訂正発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作」であり、特許法第29条第1項柱書に規定される「発明」に該当する。
ウ 無効理由4についてのまとめ
したがって、無効理由4は訂正発明の独立特許要件を否定するものであるとはいえない。
(7)無効理由5(サポート要件違反)について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
イ 判断
本件訂正後の特許請求の範囲の記載は上記(2)のとおりである。
発明の詳細な説明の【0005】によると、訂正発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は「従来生じていたギャバ臭味のないγ-アミノ酪酸を含んだγ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法」を提供することである。
発明の詳細な説明の【0004】には「鋭意試行錯誤を重ねた結果、茶葉の原材料に着目して、従来生じていたギャバ臭味のないγ-アミノ酪酸含量を含んだγ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法を見出した。」、同【0005】には「原材料に着目してなされた」、同【0007】には「γ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法は、茶の木の新芽の育成期間に日光を遮って育成した茶葉を嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した後、嫌気処理を行った前記茶葉を原料として碾茶又は抹茶又は玉露に製造するものである。」及び同【0010】には「茶葉を嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した後、嫌気処理を行うγ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法であって、原料である茶葉は、茶の木の新芽の育成期間に日光を遮って茶の葉を育成したものであるため、従来生じていたギャバ臭味のない通常の玉露、碾茶に遜色のない色、味、香りを有するγ-アミノ酪酸含量を多く含んだγ-アミノ酪酸含量の高い茶を製造することができる。」と記載されている。
発明の詳細な説明の【0011】ないし【0018】には、「嫌気処理」及び「好気処理」について具体的に記載されている。
発明の詳細な説明の【0019】には、「茶の木の新芽の育成期間に日光を遮って育成した茶葉」として「1茶」の茶葉(当審注:上記2(1)のとおり、「1茶」が「一番茶」のことであることは当業者に明らかである。)を用いた実施例1ないし4及び「2茶」の茶葉を用いた実施例5について具体的に記載され、「嫌気処理」(1回目)した後「好気処理」(1回目)を行い、その後、「嫌気処理」(2回目)した後「好気処理」(2回目)した茶葉を原料として通常の玉露の加工を行って得られた茶が、従来生じていた「ギャバ臭味のない」通常の玉露に遜色のない色、味、香りを有するγ-アミノ酪酸含量を多く含んだ「γ-アミノ酪酸含量の高い茶」であることを確認している。
そうすると、発明の詳細な説明には、訂正発明に対応する記載があるといえる。
また、発明の詳細な説明の上記記載から、当業者は「茶の木の新芽の育成期間に日光を遮って育成した茶葉を嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した後、嫌気処理を行った前記茶葉を原料として碾茶又は抹茶又は玉露に製造するギャバ臭味のないγ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法」は発明の課題を解決できると認識できる。
そして、訂正発明は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「ギャバ臭味のないγ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法」をさらに限定したものである。
したがって、訂正発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、訂正発明に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
ウ 無効理由5についてのまとめ
したがって、無効理由5は訂正発明の独立特許要件を否定するものであるとはいえない。
(8)無効理由6(実施可能要件違反)について
ア 実施可能要件の判断基準
訂正発明は「γ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法」という物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法の使用をし、その方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
イ 判断
発明の詳細な説明には、訂正発明の個々の発明特定事項に関し、その技術的意義を含め具体的に記載されており、訂正発明の実施例(発明の詳細な説明の【0019】の「1、品種 おくみどり」の項ないし「4、品種 あさひ」の項)についても具体的に記載されている。
そうすると、訂正発明について、発明の詳細な説明に、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、訂正発明の使用をし、訂正発明により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえる。
なお、被告は無効の抗弁4において「当業者としては、本件特許の明細書を見ても、特許請求の範囲に示された本件特許発明を実施すれば、本件特許発明が目的とする技術効果であるギャバ臭の改善の効果を挙げることができるとは認識できない」旨主張するが、訂正発明が目的とする技術効果(ギャバ臭の改善)を挙げることができると当業者は認識できることは、上記(7)イで示したとおりであるから、該主張は採用できない。
したがって、訂正発明に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
ウ 無効理由6についてのまとめ
したがって、無効理由6は訂正発明の独立特許要件を否定するものであるとはいえない。
(9)まとめ
上記(3)ないし(8)のとおり、無効理由1ないし6はいずれも訂正発明、すなわち本件訂正後の請求項1に係る発明の独立特許要件を否定するものであるとはいえない。
また、他に本件訂正後の請求項1に係る発明が特許を受けることができないとする理由を発見できない。
したがって、本件訂正後の請求項1に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
よって、本件訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合する。
第4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法第126条第5ないし7項の規定に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-390064