特許拒絶査定不服審判
2024-020555
秘密分散ベースのマルチパーティ計算のための装置
- 審判番号
- 2024-020555
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-022997
- 請求日
- 2024年12月23日
- 審決日
- 2025年12月09日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】株式会社野村総合研究所
- 【請求人代理人】弁理士法人大塚国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 林 毅
- 審判官 山崎 慎一
- 審判官 福西 章人
- 分類
- P18 .121-WYA(G09C) / P18 .56 -WYA(G09C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020- 22997「秘密分散ベースのマルチパーティ計算のための装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 9月 2日出願公開、特開2021-128261、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
理 由
第1 主な手続の経緯
本件出願(以下、「本願」という。)は、令和2年2月14日を出願日とする特許出願であって、令和5年9月25日付けで拒絶理由が通知され,令和6年1月31日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲および明細書が補正され、同年4月25日付けでいわゆる最後の拒絶理由が通知され、同年6月26日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲および明細書が補正され(以下、この補正を「本件補正」という。)、同年9月24日付けで本件補正が決定により却下されるとともに(以下、この決定を「本件却下決定」という。)、拒絶査定がされた。
この査定に対して、同年12月23日に拒絶査定不服審判が請求された。なお、本件審判では、査定の取消とともに、本件却下決定の取消が併せて請求されている。
その後、令和7年9月11日付けで、本件却下決定を取り消すことを前提とした拒絶理由通知が通知され、同年11月4日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲および明細書が補正された。
第2 本件却下決定に対する不服の申し立てについて
1 本件却下決定に対する不服の申し立てに対する結論
本件補正についてされた本件却下決定を取り消す。
2 理由
(1)本件却下決定に対する不服の申し立ての概要
審判請求人は、審判請求書において、本件却下決定に対して不服を申し立てている。その主な主張は以下のとおりである。
[主張1]
補正後の請求項1に係る発明は、シェア更新用乱数を更新することによって、対攻撃性を高めることを目的とし、「所定のルールに基づいて更新されるシェア更新用乱数を、前記シェア更新用乱数が更新されるたびに取得する手段と、前記装置のシェアを、取得されたシェア更新用乱数に基づいて更新する手段」を発明特定事項として備えている。これに対して、引用文献1に記載の乱数は、もとの秘密情報Sを再構成するためのものであり、引用文献1には、「シェアの更新」については何ら記載がなく、引用文献1記載の再構成するための乱数は、更新されるものではなく、また、「シェアの更新」に用いられるものでもない。
[主張2]
補正の却下の決定の引用文献1に、引用文献2~5を組み合わせる動機付けがない。
[主張3]
補正の却下の決定の引用文献1に、引用文献2~5を組み合わせたとしても、本願補正発明の構成に到達しない。
[主張4]
[主張1]~[主張3]より、本件補正後の各請求項に係る発明は独立特許要件を満たすものであるから、この補正は特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものではない。よって、令和6年9月24日付けの補正の却下の決定は違法なものであるので取り消されるべきである。
(2)本件却下決定の適否について
ア 本件却下決定の概要
本件却下決定の概要は以下のとおりである。
令和6年6月26日に提出された手続補正書でした請求項1についての補正は、特許請求の範囲の減縮を目的としているところ、当該補正後の請求項1に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明および引用文献2-5に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないから、当該補正は同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
特に、審判請求書において争点となっている「シェアの更新」について、「引用文献1に記載の発明(特に、段落[0027]-[0045]を参照)において、秘密情報Sから秘密分散法により計算された、各メンバが持つ分散情報Xj(段落[0027],[0028])と乱数(段落[0038])とから、もとの秘密情報Sの分散情報Sjを計算し出力する(段落[0039])ことは、秘密情報Sの再構成時に得られる秘密情報Sの分散情報Sjと、秘密情報Sの分散時に得られる秘密情報Sの分散情報Xjとは異なるものである(段落[0039])ことから、分散情報Xjを、乱数に基づいて、異なる分散情報Sjに更新することであるといえる。」としている。
<本件却下決定で引用された引用文献の一覧>
引用文献1:特開2004-279526号公報
引用文献2:FRANKEL,Y. et al., Proactive RSA, Lecture Notes in Computer Science, [online], 2006年1月1日, Vol.1294, pp.440-454, The Internet<URL:https://link.springer.com/chapter/10.1007/BFb0052254>, [2024年4月25日検索]
引用文献3:特開平9-205422号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:米国特許出願公開第2018/0351754号明細書(周知技術を示す文献)
引用文献5:電子情報通信学会 編,情報セキュリティハンドブック,2004年11月30日,株式会社オーム社,pp.212-213(周知技術を示す文献)
イ 当審の判断
(ア)引用文献1の記載事項
本件却下決定で引用された引用文献1(以下、単に「引用文献1」という。)には、以下の記載が存在する。
「【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した方法により、もとの秘密情報Sの再構成を行う場合には、集まったメンバのメンバID_m’1,m’2,…,m’tや、そのメンバの分散情報Xm’1,Xm’2,…,Xm’tを公開しなければ、もとの秘密情報Sを計算することができない。また、秘密再構成を行うセンターのようなものがあった場合であっても、集まったメンバのメンバID_m’1,m’2,…,m’tや分散情報Xm’1,Xm’2,…,Xm’tをセンターに対して申告しなければ、もとの秘密情報Sを計算することができない。すなわち、集まったメンバを匿名にしたまま秘密情報Sを計算することはできなかった。
【0010】
また、秘密再構成を行うセンターのようなものがない場合には、集まったメンバに、自分の持つ分散情報Xm’1,Xm’2,…,Xm’tを公開しなければ、もとの秘密情報Sを求めることができない。すなわち、一旦、もとの秘密情報の再構成を行ってしまうと、メンバに配布した分散情報が露呈してしまうので、その露呈した分散情報を再利用することができず、もう一度秘密情報の分散処理を行う必要があった。
【0011】
そこで、本発明は上記したような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、各メンバを匿名にしたまま、各メンバの保有する分散情報を公開せずに、もとの秘密情報の再構成を行うことができる秘密再構成方法、この秘密再構成方法を実施する際に使用する分散秘密再構成装置、及びこの分散秘密再構成装置を含む秘密再構成システムを提供することにある。」
「【0037】
図6は、図5の分散秘密再構成計算部301-j(j=1,2,…,n)の構成を示すブロック図である。図6を用いて分散秘密再構成計算部301-jを説明する。図6に示されるように、分散秘密再構成計算部301-jは、秘密分散計算部401-jと、入力の数がn個である“(n)加算部”402-jとを有する。秘密分散計算部401-jからの出力が“(n)加算部”402-jへ入力され、“(n)加算部”402-jからの出力が、分散秘密再構成計算部301-jの出力となる。
【0038】
秘密分散計算部401-jへは、メンバjが持っているもとの秘密情報Sの分散情報Xjが入力される。秘密分散計算部401-jは、入力された分散情報Xjを加算秘密分散法を用いて分散し、他のメンバと通信する秘密通信路303を経由して配布する。分散情報Xjの分散情報Xj,nの計算は、Xj,1,Xj,2,…,Xj,n-1を、乱数として有限体GF(q)上の値をn-1個選び、次式(20)で、Xj,n求める。
Xj,n=Xj-(Xj,1+Xj,2+…+Xj,n-1) …(20)
値Xj,1,Xj,2,…,Xj,nのうち、自分自身に対する分散情報Xj,jは、“(n)加算部”402-jへ出力し、その他の分散情報Xj,p(p=1,2,…,nであり、p≠jであるもの)は、秘密通信路303を通して各メンバに配布される。
【0039】
“(n)加算部”402-jは、秘密分散計算部401-jから、もとの秘密情報Sの分散情報Xjの分散情報Xj,jを受け取る。さらに、秘密通信路303を経由して、他のメンバから配布された、もとの秘密情報Sの分散情報Xp(p=1,2,…,nであり、p≠jであるもの)の分散情報X1,j,…,Xj-1,j,Xj+1,j,…,Xn,jを受け取る。これらn個ある、もとの秘密情報Sの分散情報の分散情報Xp,j(p=1,2,…,n)から、もとの秘密情報Sの分散情報Sj(秘密情報Sの再構成時に得られる秘密情報Sの分散情報Sjと、秘密情報Sの分散時に得られる秘密情報Sの分散情報Xjとは異なるものである)を計算し出力する。“(n)加算部”402-jは、次式(21)のような計算を行い、秘密情報Sの分散情報Sjを出力する。」
「【0044】
[第1の実施形態の効果]
以上説明したように、第1の実施形態によれば、もとの秘密情報Sを再構成するために集まったメンバ(演算記憶装置)の持つ分散情報Xjを、他のメンバに公開せずに、もとの秘密情報Sを再構成することができる。したがって、各メンバが持つ分散情報Xjを、次回の秘密再構成の際に再利用することができる。しかも、秘密再構成を行う第三者的なセンターのようなものを設けなくても、上記の効果を達成することができる。また、第1の実施形態においては、分散情報Xjを持つメンバ全員が集まらないと、もとの秘密情報Sを再構成することができないが、各メンバの匿名性は保たれており、さらに、秘密再構成の際のメンバ間の相互通信は、最初の分散情報を分散配布するための1回のみで済むため、通信量及び計算量の両方とも少ない。
【0045】
さらに、秘密情報Sの分散情報Xjを持たない人(演算記憶装置)が、この再構成に参加しようとしても、秘密情報Sの再構成に失敗することから、第1の実施形態においては、集まった複数人数からなるグループ全員が正当メンバ(予め秘密情報Sの分散情報Xjを配布されたメンバ)か、そうでない人(演算記憶装置)が混在するか、ということを認証するような機能が備わる。さらにまた、第1の実施形態においては、前述したように分散情報を再利用可能なので、この認証機能は、秘密情報Sの分散情報を更新せずとも何度も利用できる。また、この認証機能は、集まったメンバから他へ送信される情報は、認証(秘密情報Sの再構成)のたびに異なるので、盗聴による“なりすまし”に非常に強い。このような認証機能は、秘密分散法の秘密再構成の性質と、マルチパーティ・プロトコルによる分散計算の性質との単なる組み合わせによって得られる機能ではなく、新しい機能である。なお、上記認証機能は、「もとの秘密情報S」を照合秘密情報S(予め登録されている情報で、認証が成立するか否かを、再構成結果と照らし合わせる情報)として用いる利用形態であるので、もとの秘密情報Sを各メンバに秘密にしない場合であっても、実現できる。」
(イ) 判断
a [主張1]について
引用文献1の上記の記載(特に、段落【0037】~【0039】)によると、各メンバが自身の保持する分散情報Xj(シェア)を、加算分散方式で各メンバに配布して、各メンバが自分宛の分散情報Xp,jを合計して分散情報Sjを作ることが記載されている。
しかしながら、このSjは、秘密情報Sを算出するための一時的な値にすぎず、各メンバが保持する分散情報Xjを更新するものではない。
引用文献1に記載の発明は、「一旦、もとの秘密情報の再構成を行ってしまうと、メンバに配布した分散情報が露呈してしまうので、その露呈した分散情報を再利用することができず、もう一度秘密情報の分散処理を行う必要があった」(【0010】)という課題を解決するために、分散情報Xjを公開せずに、分散情報Sjを計算して公開することで、「各メンバが持つ分散情報Xjを、次回の秘密再構成の際に再利用する」(【0044】)ものであり、「分散情報を再利用可能なので、この認証機能は、秘密情報Sの分散情報を更新せずとも何度も利用できる」(【0045】)ものであるから、秘密情報の再構成のために公開したSjを、各メンバの分散情報Xjとして更新することは、引用文献1に記載の発明が有する課題や効果の記載と矛盾するものであり、Sjの算出はXjの更新にあたるということはできない。
そうすると、引用文献1には「シェアの更新」に係る構成が存在せず、引用文献1に対して「分散情報Xjを、乱数に基づいて、異なる分散情報Sjに更新することであるといえる」とした原審の認定には誤りが存在する。そして、当該「シェアの更新」に係る構成は、原審において相違点とされておらず、当該「シェアの更新」に係る構成が他の引用文献から導き出せることも説示されていないため、本件補正後の請求項1に係る発明が特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないとした原審の判断は妥当なものとはいえない。
b [主張4]について
上記aのとおり、本件却下決定は、独立特許要件の判断の基礎となる、主たる引用文献である引用文献1に記載された発明の認定に誤りがあるから、審判請求書における[主張2]及び[主張3]について検討するまでもなく、妥当性を欠く。
(3)まとめ
よって、本件却下決定は不適法なものであって、取り消されるべきものであるから、上記第2の1「本件却下決定に対する不服の申し立てに対する結論」のとおり決定する。
第3 本願発明
上記のとおり、本件却下決定は取り消されるべきものであり、本願の特許請求の範囲は、令和6年6月26日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~4に対して、令和7年11月4日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される、次のとおりのものであると認める。
「 【請求項1】
秘密分散ベースのマルチパーティ計算に利用されるシェアを保持する装置であって、前記装置が有するシェアと他の装置が有する対応するシェアとを合わせると元のデータを復元可能であり、前記装置は、
所定のルールに基づいて更新されるシェア更新用乱数を、前記シェア更新用乱数が更新されるたびに取得する手段と、
前記装置のシェアを、取得されたシェア更新用乱数に基づいて更新する手段と、
前記装置のシェアと、当該シェアのリビジョンを特定する値と、を対応付けて保持する手段と、
を備え、
前記更新する手段における更新の方法は、取得されたシェア更新用乱数に基づいて更新された前記装置のシェアと、当該シェア更新用乱数に基づいて更新された前記他の装置の対応するシェアと、を合わせると、当該シェア更新用乱数による影響が相殺されて元のデータが復元されるように設計され、
前記装置は、取得されたシェア更新用乱数を用いる第1の種別の演算を適用することにより、前記装置のシェアを更新し、前記他の装置の対応するシェアは、前記第1の種別の演算とは異なる、当該シェア更新用乱数を用いる第2の種別の演算が適用されて更新されたシェアを含み、
さらに、前記更新する手段は、前記他の装置と通信することによって、取得されたシェア更新用乱数に基づいて更新された前記装置のシェアのリビジョンと、当該シェア更新用乱数に基づいて更新された前記他の装置の対応するシェアのリビジョンと、を一致させるための処理を行う、
装置。
【請求項2】
前記装置のシェアのリビジョンと、当該リビジョンのシェアに対するアクセスの情報と、を対応付けて保持する手段をさらに備える請求項1に記載の装置。」
そして、本願の特許請求の範囲は、令和7年9月11日付けの拒絶理由通知において、拒絶の理由を発見しないとした請求項3、4を新たな請求項1、2とするものであるから、上記拒絶理由通知における拒絶の理由は解消した。また、本願を拒絶すべき他の理由も発見しない。
第4 むすび
よって、結論のとおり審決する。
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