特許拒絶査定不服審判
2024-018924
フレイルの判定方法
- 審判番号
- 2024-018924
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-081907
- 請求日
- 2024年11月27日
- 審決日
- 2025年06月30日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】国立大学法人大阪大学
- 【請求人代理人】勝又 政徳
- 【請求人代理人】酒井 善典
- 【請求人代理人】上田 ▲茂▼
- 【請求人代理人】小川 有佳子
- 【請求人代理人】岩谷 龍
- 審判長/審判官
- 審判長 松田 直也
- 審判官 岡北 有平
- 審判官 佐藤 智康
- 分類
- P18 .1 -Z (G06Q)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第2条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020- 81907「フレイルの判定方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年11月11日出願公開、特開2021-177282〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年5月7日を出願日とする特許出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和 6年 1月18日付け:拒絶理由通知書
令和 6年 5月10日 :意見書、手続補正書の提出
令和 6年 8月26日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 6年11月27日 :審判請求書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~7に係る発明は、令和6年5月10日に提出された手続補正書により補正された請求項1~7(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)に記載された事項により特定されるものであって、その請求項1は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
被検者の状態についての、漢方医学の腎虚概念を踏まえたフレイル判定スコアに基づいた質問に対する回答の合計点数を算出しフレイルまたはプレフレイル以上を判定する方法であって、
前記質問が、フレイルの有無を目的変数、漢方医学の腎虚概念を踏まえた症状に関する質問の点数を説明変数とするロジスティック回帰分析において、有意な相関が認められた症状に関する質問であり、有意な相関が認められた症状が、夜間尿、腰の痛み、身体のだるさ、および足元の冷えであることを特徴とする、方法。」
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
「●理由1(特許法第29条第1項柱書)
この出願の請求項1~7に記載されたものは、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない、
●理由2(特許法第29条第2項)
この出願の請求項1~7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2019-21146号公報 」
というものである。
第4 本願明細書の記載事項等について
本願明細書の発明の詳細な説明等には、次のような記載がある。
「【0001】
本発明は、フレイルの判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
急激な超高齢化社会を迎える我が国では、高齢者に対する効果的な介護予防対策の確立が課題である。「フレイル」とは、身体や精神、または社会的なネットワークの脆弱化により介護が必要となる前段階を意味し、2014年5月に日本老年医学会から提唱された多面的概念である。「フレイル」は以前から老年医学の分野で用いられてきた「Fraility」の日本語訳であり、しかるべき介入により健常な状態に戻るという可逆性を包含する概念である。フレイル診療における問題点として、治療法が確立されていないこととともに、国際的に統一された診断基準がないことが挙げられる。
【0003】
Friedらは、体重減少(過去1年間に4.5kg以上)、易疲労感、筋力低下、歩行スピードの低下、身体活動性の低下のうち3項目以上該当した場合をフレイル、1~2項目に該当した場合をプレフレイルと定義した(非特許文献1)。しかし、近年フレイルの定義は拡張され、身体面だけでなく、精神心理面および社会的側面も合わせて評価することが必要となっている。
【0004】
我が国では、介護保険の認定を受けていない高齢者を対象として、要介護状態に陥るリスクの高い高齢者をスクリーニングするために、2006年から25項目の基本チェックリストが用いられている。この基本チェックリストはフレイルの身体面、精神心理面、社会的側面を含む優れたフレイル診断ツールと考えられるが、日本独自のものであり、そのままの形では国際比較には適さない。そこで、より簡便なフレイルの指標を作成することができれば、日常診療に使用することができ、国際比較も可能になると考えられる。
・・・途中省略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、日常診療で簡便に実施することができるフレイルまたはプレフレイル以上の判定方法および診断補助方法を提供することを課題とする。」
「【0011】
本発明の方法は、被検者に過去2~3年の状態について以下の質問1~4を行い、回答の合計点数を算出することを特徴とする。被検者の性別、年齢は特に限定されないが、65歳以上の高齢者を被検者とすることが好ましい。また、被検者は要支援・要介護認定を受けていないことが好ましい。
【0012】
本発明の方法における質問の内容、その回答および点数は以下のとおりである。
質問1:トイレのために、夜何回起きますか?
質問1の回答:0回(0点)、1回(1点)、2回以上(2点)
質問2:腰の痛み
質問2の回答:痛みはない(0点)、ときどき痛むことがある(1点)、常に痛む、あるいはよく痛む(2点)
質問3:身体のだるさ
質問3の回答:だるさはない、あるいはほとんどない(0点)、ときどきだるくなるときがある(フレイル判定時1点、プレフレイル以上判定時2点)、常にだるい、あるいはよくだるくなる(フレイル判定時2点、プレフレイル以上判定時4点)
質問4:足元の冷え
質問4の回答:冷えはない、あるいはほとんどない(0点)、ときどき冷えを感じることがある(1点)、常に冷えを感じる、あるいはよく冷えを感じる(2点)。
【0013】
本発明の方法によりフレイルを判定する場合、前記質問1~3に対する回答の合計点数が3点以上の被検者をフレイルと判定することができる。または、前記質問1~4に対する回答の合計点数が4点以上の被検者をフレイルと判定することができる。なお、フレイルを判定する場合、「質問3:身体のだるさ」に対する回答の点数は0点、1点および2点が採用される。
【0014】
本発明の方法によりプレフレイル以上を判定する場合、前記質問1~4に対する回答の合計点数が2点以上の被検者をプレフレイル以上と判定することができる。なお、プレフレイル以上を判定する場合、「質問3:身体のだるさ」に対する回答の点数は0点、2点および4点が採用される。
【0015】
本発明の方法における質問は、漢方医学の「腎虚」概念を踏まえた症状に関する質問である。漢方では、生長・発育・生殖をつかさどる生命エネルギーを腎気と呼び、腎気が加齢によって減少した状態を腎虚と呼ぶ。腎虚になると、関節痛、下肢のしびれ、耳鳴り、夜間の頻尿などのいわゆる老化の症状を示す。腎虚の諸症状を改善する漢方薬は補腎剤と呼ばれ、牛車腎気丸、八味丸(八味地黄丸、八味腎気丸とも称される)、六味丸(六味地黄丸とも称される)などが知られている。それゆえ、本発明の方法によりフレイルまたはプレフレイル以上と判定された被検者に対して、牛車腎気丸等の補腎剤を投与することにより、要介護状態への移行を遅らせることができると考えられる。
【0016】
本発明の方法は、非常に簡単な質問によりフレイルまたはプレフレイル以上を判定することができ、従来のフレイル診断に必要な高価な測定機器や測定のための人員を必要としない。本発明の方法で質問される腎虚症状は、被検者が日常生活の中で自身の健康状態としてチェックすることができる症状であり、被検者自身が定期的にチェックすることにより、高度な医療を適用することなく、健康回復やフレイルの進行を防止できるという効果が期待される。」
「【0018】
〔実施例1:フレイル判定スコアの開発〕
1-1 目的
漢方医学の腎虚概念を踏まえたフレイル判定尺度を開発し、腎虚スコアの信頼性、予測的妥当性を検証すること。さらにフレイルにおける身体、精神・心理、社会的要因の因果関係、腎虚スコアとの関連について検討すること。
1-2 対象
奈良県三郷町に在住する65才以上の要支援・要介護認定を受けていない高齢男女
【0019】
1-3 調査項目
(1)J-CHS(日本版Cardiovascular Health Study)基準によるフレイル評価(表1)
(2)基本チェックリスト(表2)
(3)サルコペニアの判定(握力、四肢骨格筋量、通常歩行速度):Chen LK.et al., Sarcopenia in Asia: consensus report of the Asian Working Group for Sarcopenia.J Am Med Dir Assoc 2014;15:95-101参照
(4)ロコモティブシンドロームの判定
ロコモ5:日本運動器科学会のロコモ5フォーム(http://www.jsmr.org/documents/locomo_5_rev2.pdf)参照
2ステップテスト:ロコモ ON LINE(日本整形外科学会公式ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト、https://locomo-joa.jp/assets/pdf/two-step.pdf)参照
(5)本発明者らが作成した「腎虚」概念を踏まえた症状8項目(表3)
(6)精神機能の判定
高齢者用うつ尺度短縮版-日本版(GDS-S-J):認知神経科学、2009年 11巻 1号、p.87-90 参照
(7)心理状態の判定(レジリエンスに関する20項目)
(8)社会的状態の判定(社会とのつながりに関する5項目)
【0020】
【表1】
[図:0001426711000001.jpg]
【0021】
【表2】
[図:0001426711000002.jpg]
【0022】
【表3】
[図:0001426711000003.jpg]
【0023】
1-4 ロジスティック回帰分析(第1回)
349例の調査結果が得られた時点で、基本チェックリストによるフレイルの有無(フレイルあり:8点以上、フレイルなし:7点以下)を目的変数とし、性別、年齢、腎虚概念を踏まえた症状8項目を説明変数として強制投入し、ロジスティック回帰分析を行った。結果を表4に示した。腎虚5(夜間尿)、腎虚6(腰の痛み)および腎虚8(身体のだるさ)の3項目について有意な相関が認められた。
【0024】
【表4】
[図:0001426711000004.jpg]
【0025】
腎虚5(夜間尿)、腎虚6(腰の痛み)および腎虚8(身体のだるさ)の3項目を説明変数として採用した時の調整オッズ比を表5に示した。
【表5】
[図:0001426711000005.jpg]
【0026】
上記のロジスティック回帰分析の結果から、腎虚5、6および8の3項目について表6のようにスコア化を行い、腎虚スコアを作成した。
【表6】
[図:0001426711000006.jpg]
【0027】
上記腎虚5、6および8の3項目より作成した腎虚スコアと基本チェックリストによるフレイルの有無の関係を評価するためにROC曲線を作成し、図1に示した。図1のROC曲線の曲線下面積(AUC)は0.790であった。また、腎虚スコアが3点以上の場合にフレイルと診断することについて、感度が0.929、特異度が0.521であった。この結果から、上記腎虚5、6および8の3項目を用いて、フレイルの診断をアシストできると考えられた。
【0028】
1-5 ロジスティック回帰分析(第2回)
433例の調査結果が得られた時点で、基本チェックリストによるプレフレイル以上の有無(プレフレイル以上あり:4点以上、健常:3点以下)を目的変数とし、性別、年齢、腎虚概念を踏まえた症状8項目を説明変数として強制投入し、ロジスティック回帰分析を行った。結果を表7に示した。腎虚6(腰の痛み)、腎虚7(足元の冷え)および腎虚8(身体のだるさ)の3項目について有意な相関が認められた。
【0029】
【表7】
[図:0001426711000007.jpg]
【0030】
上記のロジスティック回帰分析の結果、有意な相関が認められた腎虚6、7、8および相関傾向が認められた腎虚5の4項目を説明変数として採用した時の調整オッズ比を表8に示した。
【表8】
[図:0001426711000008.jpg]
【0031】
上記のロジスティック回帰分析の結果から、腎虚5、6、7および8の4項目について表9のようにスコア化を行い、腎虚スコアを作成した。
【表9】
[図:0001426711000009.jpg]
【0032】
上記腎虚5、6、7および8の4項目より作成した腎虚スコアと基本チェックリストによるプレフレイル以上の有無の関係を評価するためにROC曲線を作成し、図2に示した。図2のROC曲線の曲線下面積(AUC)は0.731であった。また、腎虚スコアが2点以上の場合にプレフレイル以上と診断することについて、感度が0.971、特異度が0.189であった。この結果から、上記腎虚5、6、7および8の4項目を用いて、プレフレイル以上の診断をアシストできると考えられた。
【0033】
1-6 ロジスティック回帰分析(第3回)
433例の調査結果が得られた時点で、基本チェックリストによるフレイルの有無(フレイルあり:8点以上、フレイルなし:7点以下)を目的変数とし、性別、年齢、腎虚概念を踏まえた症状8項目を説明変数として強制投入し、ロジスティック回帰分析を行った。結果を表10に示した。腎虚5(夜間尿)、腎虚6(腰の痛み)、腎虚7(足元の冷え)および腎虚8(身体のだるさ)の4項目について有意な相関が認められた。
【表10】
[図:0001426711000010.jpg]
【0034】
上記のロジスティック回帰分析の結果、有意な相関が認められた腎虚5,6、7および腎虚8の4項目を説明変数として採用した時の調整オッズ比を表11に示した。
【表11】
[図:0001426711000011.jpg]
【0035】
上記のロジスティック回帰分析の結果から、腎虚5、6、7および8の4項目について表12のようにスコア化を行い、腎虚スコアを作成した。
【表12】
[図:0001426711000012.jpg]
【0036】
上記腎虚5、6、7および8の4項目より作成した腎虚スコアと基本チェックリストによるフレイルの有無の関係を評価するためにROC曲線を作成し、図3に示した。図3のROC曲線の曲線下面積(AUC)は0.786であった。また、腎虚スコアが4点以上の場合にフレイルと診断することについて、感度が0.870、特異度が0.561であった。この結果から、上記腎虚5、6、7および8の4項目を用いて、フレイルの診断をアシストできると考えられた。」
第5 判断
1 特許法の「発明」の意義
特許法で「発明」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なものをいう。」(第2条第1項)ことから、自然法則を利用していないものは、例えば、単なる精神活動、純然たる学問上の法則、人為的な取決めなどは、「発明」に該当しない。
そして、かかる「発明」は、一定の技術的課題の設定、その課題を解決するための技術的手段の採用、その技術的手段により所期の目的を達成し得るという効果の確認という段階を経て完成されることからすると、特許請求の範囲(請求項)に記載された「特許を受けようとする発明」が上記「発明」に該当するか否かは、それが、特許請求の範囲の記載や願書に添付した明細書の記載及び図面に開示された、「特許を受けようとする発明」が前提とする技術的課題、その課題を解決するための技術的手段の構成、その構成から導かれる効果等の技術的意義に照らして、全体として「自然法則を利用した」技術的思想の創作に該当するか否かによって判断すべきものである。
したがって、「特許を受けようとする発明」に何らかの技術的手段が提示されているとしても、全体として考察した結果、その発明の本質が、単なる精神活動、純然たる学問上の法則、人為的な取決めなど自体に向けられている場合には、上記「発明」に該当するとはいえない。
2 本願発明の技術的意義について
(1)本願発明が前提とする技術的課題
本願発明は、本願明細書の段落【0004】及び【0006】の記載を踏まえると、フレイル診断ツールとして2006年から用いられている25項目の基本チェックリストは日本独自のものであり、そのままの形では国際比較には適さないため、より簡便なフレイルの指標を作成し、作成されたフレイルの指標を用いることで、日常診療で簡便に実施することができるフレイルまたはプレフレイル以上の判定方法および診断補助方法を提供することを課題とするものである。
(2)課題を解決するための技術的手段の構成
上記「(1)」で言及した課題を解決するための構成として、本願発明は以下の構成を採用したものである。
ア 「被検者の状態についての、漢方医学の腎虚概念を踏まえたフレイル判定スコアに基づいた質問に対する回答の合計点数を算出する」との構成
イ 「前記質問が、フレイルの有無を目的変数、漢方医学の腎虚概念を踏まえた症状に関する質問の点数を説明変数とするロジスティック回帰分析において、有意な相関が認められた症状に関する質問であり、有意な相関が認められた症状が、夜間尿、腰の痛み、身体のだるさ、および足元の冷えであること」との構成
ここで、上記「イ」の構成における「フレイルの有無を目的変数、漢方医学の腎虚概念を踏まえた症状に関する質問の点数を説明変数とするロジスティック回帰分析において、有意な相関が認められた症状に関する質問であり、有意な相関が認められた症状が、」との事項は、本願明細書に、【表3】で示された本発明者らが作成した「腎虚」概念を踏まえた症状8項目のうち、どの項目をフレイルまたはプレフレイル以上を判定するための質問として採用するかを決定するために用いた手法が明示されており、その具体的なものとして、ロジスティック回帰分析の第1回~第3回の記載(段落【0023】~【0036】)を参照すると、当該「イ」の構成は、結局のところ、被験者がフレイルまたはプレフレイル以上であるかを判定するために日常診療で用いる質問の内容としては、「夜間尿」、「腰の痛み」、「身体のだるさ」、および「足元の冷え」の4つを用いる旨特定していると解される。
(3)技術的手段の構成から導かれる効果
本願明細書の段落【0016】の記載によると、本願発明の効果としては、「非常に簡単な質問によりフレイルまたはプレフレイル以上を判定することができ、従来のフレイル診断に必要な高価な測定機器や測定のための人員を必要としないこと、及び、質問される腎虚症状は、被検者が日常生活の中で自身の健康状態としてチェックすることができる症状であり、被検者自身が定期的にチェックすることにより、高度な医療を適用することなく、健康回復やフレイルの進行を防止できる」というものである。
(4)本願発明の技術的意義
上記「(1)」~「(3)」で言及した事項を踏まえると、本願発明の技術的意義は、より簡便なフレイルの指標を作成し、作成されたフレイルの指標を用いることで、日常診療で簡便に実施することができるフレイルまたはプレフレイル以上の判定方法および診断補助方法を提供するために、「日常診療において、漢方医学の腎虚概念を踏まえたフレイル判定スコアに基づいた質問である「夜間尿」、「腰の痛み」、「身体のだるさ」、および「足元の冷え」に対する被験者の回答の合計点数を算出し、その合計点数によって被験者がフレイルまたはプレフレイル以上であるかを判定する」との構成を採用することで、従来のフレイル診断に必要な高価な測定機器や測定のための人員を必要としないこと、及び、質問される腎虚症状は、被検者が日常生活の中で自身の健康状態としてチェックすることができる症状であり、被検者自身が定期的にチェックすることにより、高度な医療を適用することなく、健康回復やフレイルの進行を防止できるというものと解される。
3 発明該当性について
上記「2 本願発明の技術的意義について」で言及したとおり、本願発明の技術的課題、その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等に基づいて検討した本願発明の技術的意義に照らすと、本願発明は、その本質が専ら、フレイル診断に必要な高価な測定機器や測定のための人員を必要としない、被検者自身が定期的にチェックすることのできる、日常診療において被験者がフレイルまたはプレフレイル以上であるかを判定するための方法という人為的な取決めそのものに向けられたものであると認められる。
したがって、本願発明は、その本質が専ら人為的な取決めそのものに向けられているものであり、自然界の現象や秩序について成立している科学的法則を利用するものではないから、全体として「自然法則を利用した」技術的思想の創作には該当しない。
以上によれば、本願発明は、特許法第2条第1項に規定する「発明」に該当しないものである。
4 審判請求人の主張について
審判請求人は参考資料を提示しつつ審判請求書において、(1)「出願人は、意見書において、請求項1は「前記質問が、フレイルの有無を目的変数、漢方医学の腎虚概念を踏まえた症状に関する質問の点数を説明変数とするロジスティック回帰分析において、有意な相関が認められた症状に関する質問」であることを必須の構成要件としており、この構成要件は、単なる人為的な取り決めではなく、自然法則を利用するものであることを、本願発明者・出願人が本願出願後に公表した論文である参考資料1(Gene 844: 146775, 2022)を提示して説明しました。
要約すると、本願明細書の実施例1において実施されたロジスティック回帰分析およびROC曲線作成には、R version 4.1.2 (R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria)が使用され、また、ROC曲線はRパッケージpROCでプロットされ、較正はRパッケージrmsで評価されていること、これらの解析は、適切な統計ソフトをインストールしたコンピュータを用いて行われることを説明しました。」、(2)「また、意見書には、「本願明細書の実施例1では、各調査項目を提示し被験者が回答を行っておりますが、当該回答の入力処理も、コンピュータを使用することが一般的であり、この点も、上述した本願出願後に公表した参考資料1におい て説明されています。」との記載がありますが、これに関連して、出願人が本願発明の創出の過程で実際に使用したタブレット端末、および実施する際に実際に使用するアプリケーション(以下「アプリ」という)のプロトタイプの説明を補足します。・・・以下省略」、(3)「このように、実施例においてタブレットやパソコンを用いてデータを収集し、またロジスティック回帰分析を行うことによって創出した請求項1に係る発明は、その実施にあたってもパソコン、タブレット等の情報処理装置を利用した演算処理が必然であること、つまり、発明全体として自然法則を利用するものであることは明らかです。したがって、請求項1に係る発明および請求項1に従属する請求項2~7に係る発明は、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たすものであると思料します。」と主張している。
そこで、審判請求人による上記主張について以下検討する。
審判請求人による上記(1)の主張については、本願発明の「フレイルの有無を目的変数、漢方医学の腎虚概念を踏まえた症状に関する質問の点数を説明変数とするロジスティック回帰分析」は、本願発明の発明らが作成した「腎虚」概念を踏まえた症状8項目(表3)のどの項目に有意な相関が認められるのかを判断するための情報を求める処理を、コンピュータに行わせていると推定されるとしても、本願明細書において、当該情報を求める処理では、【表7】や【表10】で示される「B」、「標準偏差」、「Wald」、「自由度」、「有意確率」、「Exp(B)」を算出するためにコンピュータを道具として用いていることが記載されているに等しいと解釈することができるにすぎない。
さらに、上記「症状8項目のどの項目」に有意な相関が認められるか否かの判断指標である「有意確率」の具体的な値については、本願明細書の発明の詳細な説明等にその決め方に関しての技術的に特別な事情や手法がある旨の記載や示唆はないことを鑑みると、人為的に決められるものであると解される。
してみると、本願発明の上記「ロジスティック回帰分析」を適切な統計ソフトをインストールしたコンピュータを用いて行っているとしても、本願明細書において、その統計ソフトに基づく処理を、コンピュータを単に道具として用いて行っていることが記載されているに等しいと解釈することができるにすぎないから、技術常識を考慮したとしても、本願発明は、人為的な取決めに向けられたものであるといわざるを得ないため、審判請求人の主張は採用できない。
続いて、上記(2)の主張については、回答の入力処理などはコンピュータを使用することが一般的であることに関して、請求項1及び本願明細書の発明の詳細な説明等には何ら記載されておらず、また示唆もされていないから、当該主張は、請求項1の記載及び/又は本願明細書の発明の詳細な説明等の記載に基づく主張とは認められないので採用できない。
さらに、上記(3)の主張については、「ロジスティック回帰分析」や「回答の入力処理のため」に「コンピュータ」を用いるとしても、上述したとおり、本願明細書には、コンピュータを単なる道具として用いていることが記載されているに等しいと解釈することができるにすぎず、このような場合、一見技術的手段に見える事項が記載されていることが想定できるとしても、本願発明は、全体として「自然法則を利用した」技術的思想の創作には該当しないというべきであるから、審判請求人の主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、他の請求項に係る発明、及び、原査定の拒絶の他の理由である「理由2(特許法第29条第2項)」を検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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