特許拒絶査定不服審判
2024-013822
導電性ロール
- 審判番号
- 2024-013822
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-538599
- 請求日
- 2024年08月28日
- 審決日
- 2025年06月20日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】NOK株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人旺知国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 殿川 雅也
- 審判官 濱本 禎広
- 審判官 山本 一
- 分類
- P18 .113-Z (G03G) / P18 .121-Z (G03G) / P18 .561-Z (G03G) / P18 .575-Z (G03G) / P18 .537-Z (G03G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第36条、特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-538599「導電性ロール」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 1月27日国際公開、WO2022/018934〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2021年(令和3年)5月10日を国際出願日とする日本語特許出願であって(優先権主張 令和2年7月20日)、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。なお、以下、令和2年7月20日を「優先日」という。
令和5年 9月 7日付け:拒絶理由通知
同年11月10日 :意見書、手続補正書の提出
令和6年 1月17日付け:拒絶理由通知(最後)
同年 3月25日 :意見書、手続補正書の提出
同年 5月23日付け:補正の却下の決定
同日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月28日 :原査定の謄本の送達)
同年 8月28日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和6年8月28日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年8月28日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 補正の内容
令和6年8月28日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について補正するものであり、この補正により、次の(1)に示す本件補正前(令和5年11月10日にされた手続補正後をいう。)の請求項1が、後記の(2)に示す本件補正後の請求項1に補正された。下線は、補正箇所を示す。
(1) 本件補正前の請求項1
「【請求項1】
軸線まわりに沿う外周面を有する基材と、
前記基材の外周面に配置される表層と、を備え、
前記基材は、芯材と、前記芯材と前記表層との間に配置される導電性の弾性層と、を有し、
前記表層は、粒子を有し、
前記基材の外周面の十点平均粗さRzは、6.0μm以上、8.0μm以下であり、
前記表層の外周面の十点平均粗さRzは、5.5μm以上、8.5μm以下であり、
前記弾性層の厚さが0.5mm以上5mm以下である、
ことを特徴とする導電性ロール。」
(2) 本件補正後の請求項1
「【請求項1】
軸線まわりに沿う外周面を有する基材と、
前記基材の外周面に配置される表層と、を備え、
前記基材は、芯材と、前記芯材と前記表層との間に配置される導電性の弾性層と、を有し、
前記表層は、絶縁性の有機粒子である表面粗さ付与剤を有し、
前記基材の外周面の十点平均粗さRzは、6.0μm以上、8.0μm以下であり、
前記表層の外周面の十点平均粗さRzは、5.5μm以上、8.5μm以下であり、
前記弾性層の厚さが0.5mm以上5mm以下であり、
前記表層は、前記絶縁性の有機粒子である表面粗さ付与剤以外の粒子を含まない、
ことを特徴とする導電性ロール。」
2 補正の目的
本件補正は、本件補正前の「前記表層は、粒子を有し」において、当該粒子が「絶縁性の有機粒子である表面粗さ付与剤」に限定されるとともに、「前記表層は、前記絶縁性の有機粒子である表面粗さ付与剤以外の粒子を含まない」ものに限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
3 本件補正の適否(新規事項の追加の有無)
本件補正が、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内においてしたものであるかについて以下検討する。
(1) 当初明細書等の記載
本件補正は、粒子を有する表層について限定するものであるところ、前記表層に関して、当初明細書等には次のア及びイの記載がある。下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。
ア 実施例1
「【実施例】
【0065】
以下、本発明の具体的に実施例を説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0066】
A.導電性ロールの製造
A-1.実施例1
<弾性層の形成>
・・・(中略)・・・
【0071】
<表層の形成>
まず、表層を形成するためのコーティング液を調製した。コーティング液の組成は、以下の通りである。
【0072】
希釈溶媒としての酢酸エチル:60.0質量部
樹脂材料としてのウレタン樹脂:19.9質量部(ポリオール(旭化成ケミカルズ株式会社製「T5650E」):10.8質量部、イソシアヌネート(旭化成ケミカルズ株式会社製「TPA-100」):9.1質量部)
導電材としてのカーボン分散液(御国色素株式会社社製「MHI-BK」(カーボン含有率20~30質量%)):18.4質量部
添加剤としてのアクリルシリコーンポリマー(日本油脂株式会社製「モディパーFS700」):1.0質量部
平均粒子径3μmの表面粗さ付与剤としてのウレタンビーズ(根上工業株式会社製):2.0質量部
以上の組成のコーティング液をボールミルで3時間分散混合した。また、コーティング液中の表面粗さ付与剤としてのウレタンビーズの含有率は、0.5質量%であった。
【0073】
以上のコーティング液を用いて前述の弾性層の外周面に表層を形成することにより、導電性ロールを得た。具体的には、撹拌後のコーティング液を基材の外周面にスプレーコートにより塗布し、その後、電気炉にて120℃で60分間乾燥することにより、平均厚さ5.0μmの表層を形成した。また、表層中の表面粗さ付与剤としてのウレタンビーズの含有率は、2.0質量%であった。
【0074】
表層の平均厚さの測定は、弾性層および表層を厚さ方向に切断した断面をレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製の「VK-X200」)により観察し、表層の外周面から表層と弾性層との境界までの距離を周方向での位置の異なる20箇所で計測し、その平均値を算出することにより行った。測定領域は、200.0×285.1μmである。測定倍率は、1000倍である。
【0075】
また、表層の外周面の十点平均粗さRzの測定は、以下のようにして行った。接触式の表面粗さ測定器(株式会社小坂研究所製サーフコーダ「SE-500」)を用いて以下に示した測定条件で表層の外周面の十点平均表面粗さRzを測定した。
【0076】
[測定条件]
カットオフ:λc=2.5mm
測定長:7.5mm
測定速度:0.5mm/sec
測定位置:導電性ロール1本あたり3箇所で十点平均粗さRzを測定し、当該3箇所で十点平均粗さRzの平均値を算出した。当該平均値、すなわち基材の外周面の十点平均表面粗さRzは、5.7μmであった。
【0077】
また、導電性ロールの抵抗値の測定は、以下のようにして行った。具体的には、まずステンレス鋼(SUS)で形成された直径30mmである金属ロールを準備する。次に、導電性ロールの軸線と金属ロールの軸線とを平行に配置し、導電性ロールと金属ロールとを密着させる。導電性ロールが有する芯材の両端のそれぞれに、導電性ロールから金属ロールに向けて4.9Nの荷重を与える。このため、総荷重は、9.8Nである。また、導電性ロールが有する芯材の一端と金属ロールの一端とに抵抗計を接続する。そして、帯電ロール21および金属ロールを周速度47.1mm/秒で回転させる。この状態で、200Vの電圧を印加し、抵抗計によって電圧印加中における抵抗値を測定した。抵抗値は、4.55logΩであった。なお、測定温度は23℃であり、湿度は55%である。抵抗計は、株式会社エーディーシー製「8340A」のデジタル・エレクトロメータである。」
イ 実施例2~4
「【0078】
A-2.実施例2~4および比較例1~6
前述の実施例1と同様にして、実施例2~4および比較例1~6の導電性ロールを製造した。ただし、基材の外周面の十点表面粗さRz、表層の外周面の十点表面粗さRz、抵抗値、表面粗さ付与材の平均粒子径および表層中の含有率、および表層の平均厚さを表1に示す値に変更した。
【0079】
【表1】
[図:0001426621000001.jpg]
」
(2) 新規事項の判断
ア 実施例1について
(ア) 当初明細書等の段落【0071】及び【0072】には、表層を形成するためのコーティング液の組成に、導電材としてのカーボン分散液(カーボン含有率20~30質量%)と、平均粒子径3μmの表面粗さ付与剤としてのウレタンビーズが含まれていることが記載されている。
(イ) そして、当初明細書等の段落【0073】には、前記コーティング液を用いて弾性層の外周面に表層を形成することにより、導電性ロールを得ることが記載されているから、実施例1の導電性ロールの表層は、絶縁性の有機粒子である表面粗さ付与剤に加えて、導電材であるカーボン粒子が含まれていることが認められる。
(ウ) したがって、当初明細書等に記載がある実施例1には、本件補正後の請求項1に記載された事項である、「導電性ロール」が「基材の外周面に配置される表層」を備え、「前記表層は、絶縁性の有機粒子である表面粗さ付与剤以外の粒子を含まない」ことは示されていない。
イ 実施例2~4について
(ア) 当初明細書等の段落【0078】には、次の記載がある。
「前述の実施例1と同様にして、実施例2~4および比較例1~6の導電性ロールを製造した。ただし、基材の外周面の十点表面粗さRz、表層の外周面の十点表面粗さRz、抵抗値、表面粗さ付与材の平均粒子径および表層中の含有率、および表層の平均厚さを表1に示す値に変更した。」
(イ) 上記(ア)の記載によれば、実施例2~4と実施例1が異なるのは、表面粗さ付与材の平均粒子径と表層中の含有率、及び、表層の平均厚さであると認められるから、実施例1と同様に、実施例2~4の導電性ロールの表層も、絶縁性の有機粒子である表面粗さ付与剤に加えて、導電材であるカーボン粒子が含まれていることが認められる。
(ウ) したがって、当初明細書等に記載がある実施例2~4にも、本件補正後の請求項1に記載された事項である、「導電性ロール」が「基材の外周面に配置される表層」を備え、「前記表層は、前記絶縁性の有機粒子である表面粗さ付与剤以外の粒子を含まない」ことは示されていない。
ウ 小括
(ア)a 前記ア及びイに示したとおり、前記1(2)に示した本件補正後の請求項1に記載された事項は、前記(1)に示した当初明細書等の実施例1~4に関する箇所に明示的な記載がなく、かつ、当該箇所の記載から自明であるとも認められない。
b これに対し、請求人は、審判請求の理由において、当初明細書等の段落【0072】、【0073】及び【0079】に本件補正に係る事項が記載されている旨主張するが、当該段落は、前記(1)に示した箇所に含まれているから、前記ア及びイに示した理由と同じ理由により採用できない。
(イ) また、当初明細書等のその他の箇所にも、前記1(2)に示した本件補正後の請求項1に記載された事項について記載も示唆もされていない。
(ウ) したがって、本件補正により補正された事項は、当初明細書等には記載がなく、当初明細書等の記載から自明でもないから、かかる事項を含む本件補正は、当初明細書等に記載された全ての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
4 本件補正の適否(独立特許要件)
前記2のとおり、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。
(1) 本願補正発明
本願補正発明は、前記1(2)に摘記した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
(2) 当審の判断(サポート要件違反)
ア 本願補正発明の課題
(ア) 発明の詳細な説明には、本件補正発明の課題について、次のとおり記載されている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、絶縁性粒子の添加量を多くすると、絶縁性粒子の密度が高くなってしまう。このため、帯電ロールの電気抵抗が必要以上に高くなってしまう。この結果、放電量が減少して、感光体の表面に必要な電位が不足してしまう。それゆえ、感光体の表面を均一な帯電状態にすることが難しく、画像ムラを充分に低減することが難しい。したがって、画像ムラの発生を低減するための新たな構成が望まれている。」
「【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、画像ムラの発生を低減することができる。」
(イ) 前記(ア)の記載によると、本願補正発明の課題は、「導電性ロール」において「画像ムラの発生を低減する」ことであると認められる。
イ 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、前記課題である「画像ムラの発生を低減する」ことに関して、次の記載がある。
「【0079】
【表1】
[図:0001426621000002.jpg]
【0080】
B.導電性ロールの評価
各実施例および各比較例に係る導電性ロールを帯電ロールとして複写機(シャープ株式会社製「A3-MFP」)に用いた場合の印刷画像について、以下の画像ムラの評価を行った。当該複写機は、帯電電圧として直流電圧を用いる。なお、印刷は、温度23℃および湿度55%の環境のもと、印刷速度20枚/分で行った。
【0081】
B-1.局所放電に起因する画像ムラの有無
ハーフトーン画像を印刷し、局所放電に起因する画像ムラとして印刷画像に発生する白点、黒点、白スジおよび黒スジの有無を目視で観察することにより、以下の基準で評価した。その評価結果のまとめが表1に示される。
【0082】
<基準>
P:局所放電に起因する画像ムラがなかった。
【0083】
F:局所放電に起因する画像ムラがあった。
【0084】
B-2.地汚れによる画像ムラの有無
白ベタ画像を印刷し、目視で観察することにより、地汚れによる画像ムラの有無を評価した。その評価結果のまとめが前述の表1に示される。
【0085】
<基準>
P:地汚れなし
F:地汚れあり
なお、「地汚れ」とは、「かぶり」とも呼ばれており、印刷されるべきでない箇所に印刷されることである。このため、白ベタ画像による印刷画像において地汚れが生じると、印刷画像の明度が低下する。
【0086】
B-3.総合評価
前述のB-1.およびB-2.の両方の評価がPである場合、Pとし、それ以外の場合、Fとし、総合評価した。その評価結果のまとめが前述の表1に示される。
【0087】
以上の評価結果から、表1に示すように、各実施例では、画像ムラを低減することができた。これに対し、各比較例では、画像ムラが生じた。」
ウ サポート要件の検討
(ア) 前記ア及びイを踏まえて、本願補正発明が、「画像ムラを低減する」課題を解決しているかについて検討する。
(イ)a 前記イの記載によると、「画像ムラを低減する」課題を解決しているのは、実施例1~4のみであると認められるところ、前記3(2)に示したとおり、実施例1~4の帯電ロールの表層は、絶縁性の有機粒子である表面粗さ付与剤以外に、導電材であるカーボン粒子も含まれている。
b 一方、本願補正発明は、「前記表層は、前記絶縁性の有機粒子である表面粗さ付与剤以外の粒子を含まない」、すなわち、導電材であるカーボン粒子を含まないものであるから、本願補正発明の帯電ロールの電気抵抗は、当然、カーボン粒子を含む実施例1~4の帯電ロールの電気抵抗より高いことになる。
c そうすると、本願明細書の段落【0006】に記載されているように、帯電ロールの電気抵抗が必要以上に高くなると、画像ムラを充分に低減することが難しいのであるから、実施例1~4が「画像ムラを低減する」課題を解決しているからといって、そのことが、実施例1~4より高い電気抵抗の帯電ロールである本願補正発明においても同様に当該課題を解決することを示すものではないことは明らかである。
d また、前記イには、粒子以外の導電材を使用して効果を確認した実施例はなく、同等の帯電特性が得られる粒子以外の導電材を使用した具体的な帯電ロールが当業者にとって明らかであるともいえない。
e 前記a~dのとおりであるから、前記イに示した箇所には、本願補正発明である、「絶縁性の有機粒子である表面粗さ付与剤以外の粒子を含まない」「表層」を備える「導電性ロール」が、「画像ムラを低減する」課題を解決することができることについて、記載も示唆もされていない。
(ウ) そして、発明の詳細な説明の、前記イに示した箇所以外のいずれの箇所にも、本願補正発明の「導電性ロール」が、「画像ムラを低減する」課題を解決することができることについて、記載も示唆もされていない。
(エ) したがって、本願補正発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えることになるから、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(3) 独立特許要件の判断についてのまとめ
前記(2)において検討したとおり、本願補正発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
5 本件補正の適否についてのまとめ
前記3において示したとおり、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものであるとはいえないから、特許法17条の2第3項に規定する要件に違反するものである。
そして、前記4において示したとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するものでもある。
したがって、本件補正は、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
本件補正は、前記第2に示したとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和5年11月10日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項(前記第2の1(1)参照)により特定されるとおりのものである。
なお、後記第6の対比の議論のために、本願発明の構成を便宜上次のように構成A~G、Xに分説する。
<本願発明の分説>
(構成A)軸線まわりに沿う外周面を有する基材と、
(構成B)前記基材の外周面に配置される表層と、を備え、
(構成C)前記基材は、芯材と、前記芯材と前記表層との間に配置される導電性の弾性層と、を有し、
(構成D)前記表層は、粒子を有し、
(構成E)前記基材の外周面の十点平均粗さRzは、6.0μm以上、8.0μm以下であり、
(構成F)前記表層の外周面の十点平均粗さRzは、5.5μm以上、8.5μm以下であり、
(構成G)前記弾性層の厚さが0.5mm以上5mm以下である、
(構成X)導電性ロール。
第4 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明に対する理由1(新規性の欠如)及び理由2(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
1 理由1(新規性の欠如)
本願発明は、優先日前に発行された下記の引用文献に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
2 理由2(進歩性の欠如)
本願発明は、優先日前に発行された下記の引用文献に記載された発明に基づいて、優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1.特開2008-276022号公報(主たる引用例)
第5 引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定
1 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、前記引用文献1(特開2008-276022号公報)には、以下の事項が記載されている。下線は、当審において付したものであり、以下同様である。
(1) 【0001】
「【技術分野】
【0001】
本発明は帯電部材、それを用いた画像形成装置、帯電装置及びプロセスカートリッジに関する。詳しくは、電圧を印加して被帯電体である電子写真感光体表面を所定の電位に帯電処理するための帯電部材、それを用いた画像形成装置及びプロセスカートリッジに関する。」
(2) 【0205】~【0214】
「【0205】
(樹脂粒子製造例2:アンモニウム塩使用)
<樹脂粒子[2-1]の作製例>
熱可塑性ポリエステル系ポリウレタン樹脂((株)クラレ製、クラミロンU8165)100質量部と過塩素酸四級アンモニウム塩の混合物(花王(株)製 KS-555 )2質量部とをタンブラーミキサーでドライブレンドした。その後、2軸押出機にて240℃で混練し、ペレタイズしてペレットを得た。得られたペレットをピンミルにて機械粉砕し、更に液体窒素温度下にて冷凍粉砕を行い、その後分級を行って、平均粒子径8.3μmの過塩素酸四級アンモニウム塩が均一に分散されたポリエステル系ポリウレタン樹脂粒子を得た。これを樹脂粒子[2-1]とする。なお、上記樹脂粒子[2-1]の体積抵抗率は8.0×107Ω・cmであった。
・・・(中略)・・・
【0214】
<樹脂粒子[2-10]の製造例>
平均粒子径2μmとなるように分級した以外は樹脂粒子[2-1]と同様にして、平均粒子径1.6μmの樹脂粒子を得た。これを樹脂粒子[2-10]とする。なお、上記樹脂粒子[2-10]の体積抵抗率は2.5×108Ω・cmであった。」
(3) 【0218】~【0229】
「【0218】
(実施例2-1)
<帯電ローラの作製>
(1)導電性弾性層の作製
次の成分を混合し、密閉型ミキサーで10分間混練した。
・エピクロルヒドリンゴム(エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド-アリルグリシジル
・エーテル三元共重合体、ダイソー(株)製 エピオン301)100質量部
・充填剤としての炭酸カルシウム50質量部
・滑剤としてのステアリン酸亜鉛1質量部
・研磨性改善のための補強材としてのカーボンブラック(FEF)5質量部
・酸化亜鉛5質量部
・可塑剤として、セバシン酸とプロピレングリコールの共重合体(分子量8000)を5質量部
・下記式の過塩素酸4級アンモニウム塩2質量部、
【0219】
【化15】
[図:0001426621000003.jpg]
【0220】
・老化防止剤としての2-メルカプトベンズイミダゾール1質量部
更に、加硫促進剤としてのDM(2-ベンゾチアゾリルジサルファイド)1質量部、加硫促進剤としてのTS(テトラメチルチウラムモノサルファイド)0.5質量部、加硫剤としての硫黄1質量部を加えて、更にオープンロールで5分間混練した。
【0221】
上記エピクロルヒドリンゴム混練物を押出し機を使用して、外径13.5mm、内径5.5mmの円筒形に押し出し、250mmの長さに裁断し、蒸気加硫缶を使用して、温度160℃の水蒸気中で40分間一次加硫し、導電性弾性層ゴム一次加硫チューブを得た。
【0222】
次に、直径6mm、長さ256mmの円柱形の導電性支持体(鋼製、表面はニッケルメッキ)の円柱面の軸方向中央部231mmに金属とゴムとの熱硬化性接着剤を塗布し、80℃で10分間乾燥した。この導電性支持体を、前記導電性弾性層ゴム一次加硫チューブに挿入し、その後、電気オーブンの中で温度150℃で1時間、加熱処理を行い、未研磨層ローラを得た。
【0223】
この未研磨層ローラのゴム部分の両端部を突っ切り、ゴム部分の長さを232mmとした後、ゴム部分を回転砥石で研磨し、中央部から両脇90mm位置を直径12.00mm、中央部を直径12.15mmのクラウン形状とした。また、表面の十点平均粗さRzjis 4.0μm、振れ25μmの導電性弾性層を有する基層ローラを得た。
【0224】
(2)表面層の作製
カプロラクトン変性アクリルポリオール溶液にメチルイソブチルケトンを加え、固形分が17質量%となるように調整した。
【0225】
この溶液588.2質量部に、上記アクリルポリオール溶液の固形分100質量部に対して以下の割合の各成分を添加し、混合溶液を調整した。
【0226】
カーボンブラック(HAF):15質量部
針状ルチル型酸化チタン微粒子:30質量部
(ヘキサメチレンジシラザンとジメチルシリコーンで表面処理した。また、一次粒子の平均粒子径0.015μm、縦:横=3:1である)
変性ジメチルシリコーンオイル:0.08質量部
ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)とイソホロンジイソシアネート(IPDI)の各ブタノンオキシムブロック体の7:3の混合物:80.14質量部
このとき、ブロックHDIとブロックIPDIの混合物は、「NCO/OH=1.0」となるように添加した。
【0227】
450mLのガラス瓶に上記混合溶液210gと、メディアとしての平均粒径0.8mmのガラスビーズ200gを混合し、ペイントシェーカー分散機を用いて24時間分散した。分散後、樹脂粒子[2-1]を5.44質量部(アクリルポリール100重量部に対して20重量部相当量)を添加した後、更に30分間分散して表面層形成用塗料を得た。
【0228】
この表面層形成用塗料を、導電性基体上に1回ディッピング塗布し、常温で30分間以上風乾し、次いで90℃に設定した熱風循環乾燥機にて1時間乾燥し、更に160℃に設定した熱風循環乾燥機にて1時間乾燥して、導電性基体上に表面層を形成した。ディッピング塗布浸漬時間は9秒、ディッピング塗布引き上げ速度は、初期速度が20mm/s、最終速度は2mm/sになるように調節し、20mm/sから2mm/sの間は、時間に対して直線的に速度を変化させた。
【0229】
このようにして、導電性基体上に表面層を有する帯電ローラを作製した。得られた帯電ローラの十点平均粗さ(Rzjis)測定は、前述した方法を用いて行った。結果を表2-1に示す。また、得られた帯電ローラの表面層膜厚は15μmであった。」
(4) 【0241】、【0242】
「【0241】
(実施例2-9)
樹脂粒子[2-1]を樹脂粒子[2-10]にかえ、添加量を60質量部相当にかえた以外は、実施例2-1と同様にして帯電ローラを作製した。なお、表面層の膜厚は、5μmになるようにディッピング引き上げ速度、塗料粘度やディッピング回数等を調整した。また、得られた帯電ローラの十点平均粗さ(Rzjis)の測定結果は、実施例2-1同様に表2-1に示した。この帯電ローラを実施例1と同様に汚れ付着促進試験を行った後、耐久画像評価を行った。結果を表2-2に示す。なお、得られた帯電ローラの表面層膜厚は、5μmであった。また、実施例2-9の帯電ローラをN/N(常温常湿:23℃/50%RH)環境に24時間以上放置した後、電気抵抗を測定したところ、7.5×105Ωであった。
【0242】
(実施例2-10)
導電性弾性層基層ローラの十点平均粗さをRzjis7.0μmに調整し、樹脂粒子[2-10]の添加量を20質量部相当にかえた以外は、実施例2-9と同様にして帯電ローラを作製した。なお、表面層の膜厚は、8μmになるようにディッピング引き上げ速度、塗料粘度やディッピング回数等を調整した。また、得られた帯電ローラの十点平均粗さ(Rzjis)の測定結果は、実施例2-1同様に表2-1に示した。この帯電ローラを実施例2-1と同様に汚れ付着促進試験を行った後、耐久画像評価を行った。結果を表2-2に示す。なお、得られた帯電ローラの表面層膜厚は、8μmであった。また、実施例2-10の帯電ローラをN/N(常温常湿:23℃/50%RH)環境に24時間以上放置した後、電気抵抗を測定したところ、帯電ローラは、3.5×105Ωであった。」
(5) 【0249】
「【表3】
[図:0001426621000004.jpg]
」
2 引用文献1から読み取れる認定事項
(1) 引用文献1の【0241】及び【0242】から、次の事項が読み取れる。
「(実施例2-10)の帯電ローラの構成は、表面層形成用塗料に添加する樹脂粒子が、20質量部相当の樹脂粒子[2-10]であり、導電性弾性層基層ローラの十点平均粗さがRzjis7.0μmに調整されていること以外は、(実施例2-1)の帯電ローラと同様であること。」
(2) 引用文献1の【0249】から、次の事項が読み取れる。
「実施例(2-10)の帯電ローラにおいて、導電性弾性層基層ローラの十点平均表面粗さは7.5μmで、帯電ローラの十点平均表面粗さは6.8μmであること。」
3 引用発明の認定
前記1の記載事項及び前記2の認定事項を総合すると、引用文献1には、(実施例2-10)の帯電ローラに関する、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(引用発明の認定に用いた記載箇所を参考までに括弧内に付してある。以下同様である。)。
<引用発明>
「直径6mm、長さ256mmの円柱形の導電性支持体(鋼製、表面はニッケルメッキ)の円柱面の軸方向中央部231mmに金属とゴムとの熱硬化性接着剤を塗布し、80℃で10分間乾燥し、この導電性支持体を、導電性弾性層ゴム一次加硫チューブに挿入し、その後、電気オーブンの中で温度150℃で1時間、加熱処理を行い、未研磨層ローラを得、(【0222】)
この未研磨層ローラのゴム部分の両端部を突っ切り、ゴム部分の長さを232mmとした後、ゴム部分を回転砥石で研磨し、中央部から両脇90mm位置を直径12.00mm、中央部を直径12.15mmのクラウン形状とし、導電性弾性層を有する基層ローラを得、(【0223】)
混合溶液210gと、メディアとしての平均粒径0.8mmのガラスビーズ200gを混合し、ペイントシェーカー分散機を用いて24時間分散し、分散後、樹脂粒子[2-10]を20質量部、添加した後、更に30分間分散して表面層形成用塗料を得、(【0227】、上記2(1)の認定事項)
この表面層形成用塗料を、導電性基体上に1回ディッピング塗布し、常温で30分間以上風乾し、次いで90℃に設定した熱風循環乾燥機にて1時間乾燥し、更に160℃に設定した熱風循環乾燥機にて1時間乾燥して、導電性基体上に表面層を形成し、(【0228】)
導電性弾性層基層ローラの十点平均表面粗さは7.5μmで、帯電ローラの十点平均表面粗さは6.8μmである、(【0249】、上記2(2)の認定事項)
帯電ローラ。(【0242】)」
第6 対比
1 対比分析
本願発明と引用発明を対比する。
(1) 構成Xについて
本願発明である「導電性ロール」と引用発明である「帯電ローラ」は、「導電性ロール」の発明である点において一致する。
(2) 構成Aについて
ア 引用発明の「導電性弾性層を有する基層ローラ」は、「円柱形の導電性支持体」を、「導電性弾性層ゴム一次加硫チューブに挿入し」、「未研磨層ローラを得」、「この未研磨層ローラのゴム部分の両端部を突っ切り、ゴム部分の長さを232mmとした後、ゴム部分を回転砥石で研磨し、中央部から両脇90mm位置を直径12.00mm、中央部を直径12.15mmのクラウン形状とし[て]」、得られたものであり、「軸線まわりに沿う外周面を有している」ものであるといえるから、本願発明の「軸線まわりに沿う外周面を有する基材」に相当する。
イ したがって、本願発明と引用発明は、「軸線まわりに沿う外周面を有する基材」を備える点において一致する。
(3) 構成Bについて
ア 引用発明の「導電性基体上に」「形成し[た]」「表面層」は、本願発明の「前記基材の外周面に配置される表層」に相当する。
イ したがって、本願発明と引用発明は、「前記基材の外周面に配置される表層」を備える点において一致する。
(4) 構成Cについて
ア 引用発明の「円柱形の導電性支持体」は、本願発明の「芯材」に相当する。
イ 引用発明においては、「導電性弾性層を有する基層ローラ」の「導電性基体」上に、本願発明の「表層」に相当する「表面層」が形成されているから、引用発明の「導電性弾性層」は、本願発明の「前記芯材と前記表層との間に配置される導電性の弾性層」に相当する。
ウ したがって、前記(2)の検討を踏まえると、本願発明と引用発明は、「前記基材は、芯材と、前記芯材と前記表層との間に配置される導電性の弾性層と、を有[する]」点において一致する。
(5) 構成Dについて
ア 引用発明の「表面層」は、「樹脂粒子[2-10]を」「添加した」「表面層形成用塗料」を「導電性基体上に」「塗布し」「乾燥して」形成したものであるから、引用発明の「表面層」が「樹脂粒子[2-10]」を有していることは明らかであり、このことは、本願発明の「前記表層は、粒子を有[する]」ことに相当する。
イ したがって、本願発明と引用発明は、「前記表層は、粒子を有[する]」点において一致する。
(6) 構成Eについて
ア 引用発明の「導電性弾性層基層ローラの十点平均表面粗さは7.5μm」であることは、本願発明の「前記基材の外周面の十点平均粗さRzは、6.0μm以上、8.0μm以下であ[る]」ことに相当する。
イ したがって、本願発明と引用発明は、「前記基材の外周面の十点平均粗さRzは、6.0μm以上、8.0μm以下であ[る]」点において一致する。
(7) 構成Fについて
ア 引用発明の「帯電ローラの十点平均表面粗さは6.8μmである」ことは、本願発明の「前記表層の外周面の十点平均粗さRzは、5.5μm以上、8.5μm以下であ[る]」ことに相当する。
イ したがって、本願発明と引用発明は、「前記表層の外周面の十点平均粗さRzは、5.5μm以上、8.5μm以下であ[る]」点において一致する。
(8) 構成Gについて
ア 引用発明においては、「直径6mm、長さ256mmの円柱形の導電性支持体」に「導電性弾性層」を形成して、「(軸方向)中央部から両脇90mm位置を直径12.00mm、(軸方向)中央部を直径12.15mmのクラウン形状」である「導電性弾性層を有する基層ローラ」を得ており、そうすると、引用発明の「導電性弾性層」は、(軸方向)中央部から両脇90mmの位置においては厚さ3mmで、軸方向中央部の位置においては厚さ3.075mmとなり、このことは、本願発明の「前記弾性層の厚さが0.5mm以上5mm以下である」ことに相当する。
イ したがって、本願発明と引用発明は、「前記弾性層の厚さが0.5mm以上5mm以下である」点において一致する。
(9) 小括
以上のとおり、本願発明と引用発明は、全ての点において一致するから、本願発明は引用発明である。また、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもある。
2 請求人の主張について
(1) 請求人の主張の内容
請求人は審判請求の理由において、次の主張をしている。
前記引用文献1(特開2008-276022号公報)には、表面層が導電性樹脂粒子、導電剤および無機粒子を含むことが記載されており(【0115】、【0121】参照)、引用発明では、導電性の樹脂粒子を有する点が、課題を解決するために必須の要件である(前記引用文献1の【0005】、【0006】、【請求項1】等参照)。そうすると、絶縁性の表面粗さ付与材を有する本願と、導電性の樹脂粒子を必須とする引用発明とでは、技術的思想が異なり、このような差違を考慮しないまま、前記引用文献1を引用文献として認定するのは相当ではなく、本願の請求項1に係る発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものではない。
(2) 請求人の主張についての検討
請求人は、絶縁性の表面粗さ付与材を有する本願と、導電性の樹脂粒子を必須とする引用発明とでは、技術的思想が異なると主張している。
しかしながら、当該主張は、本願補正発明の「前記表層は、前記絶縁性の有機粒子である表面粗さ付与剤以外の粒子を含まない」との構成に基づくものであり、すなわち、本件補正により補正された構成に基づく主張であるところ、本件補正は、前記第2に示したとおり却下されたので、当該主張は、本願発明に係る請求項の記載に基づくものではない。
そして、本願発明は、「前記表層は、粒子を有し[ている]」ものであり、前記第2の3(2)に示した実施例1~4のように、導電材であるカーボン粒子を有するものを含むものであるから、導電性の樹脂粒子を必須とする引用発明と技術的思想が異なるとまではいえない。
したがって、前記主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明であり、特許法29条1項3号に該当するものであるから、特許を受けることができない。
また、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-013822