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特許拒絶査定不服審判

2024-011244

フォトマスクブランク、フォトマスクの製造方法、および表示装置の製造方法

審判番号
2024-011244
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2022-010168
請求日
2024年07月08日
審決日
2025年12月18日
公報発行日
2026年03月27日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】HOYA株式会社
  • 【請求人代理人】弁理士法人 津国
審判長/審判官
  • 審判長 岡田 吉美
  • 審判官 波多江 進
  • 審判官 小澤 尚由
分類
P18 .121-Z (G03F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2022- 10168「フォトマスクブランク、フォトマスクの製造方法、および表示装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年10月12日出願公開、特開2022-153264〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、令和4年1月26日の出願であって(優先権主張 令和3年3月29日)、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。 令和6年 1月12日付け:拒絶理由通知書 同年 4月26日 :意見書、手続補正書の提出 同年 5月15日付け:拒絶査定(以下「原査定」という) (同月21日 :原査定の謄本の送達) 同年 7月 8日 :審判請求書、手続補正書の提出 以下、令和3年3月29日を「優先日」という。 第2 本願発明 1 本願発明の認定 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和6年7月8日提出の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1の記載は、次のとおりである。 <本願発明> 「透明基板上にパターン形成用薄膜を有する表示装置製造用フォトマスクブランクであって、 前記パターン形成用薄膜は、チタン(Ti)と、ケイ素(Si)と、窒素(N)を含有するチタンシリサイド化合物からなり、 前記パターン形成用薄膜は、チタンとケイ素とを含有するチタンシリサイド化合物の粒子が、前記パターン形成用薄膜の膜厚方向に向かって伸びる柱状構造を有し、 前記パターン形成用薄膜に含まれる酸素の含有率は、7原子%以下であり、 前記パターン形成用薄膜は、前記フォトマスクブランクの断面を80000倍の倍率で走査型電子顕微鏡観察により得られた画像における前記パターン形成用薄膜の厚み方向の中心部を含む領域について、縦64ピクセル×横256ピクセルの画像データとして抽出し、前記画像データをフーリエ変換することにより得られた空間周波数スペクトル分布において、空間周波数の原点に対応した最大信号強度に対して0.8%以上の信号強度を有する信号が、最大空間周波数を100%としたときに空間周波数の原点から6.7%以上離れた空間周波数にある空間周波数スペクトルが存在している ことを特徴とする表示装置製造用フォトマスクブランク。」 2 本願発明の分説 検討の便宜上、本願発明の構成を次のように構成Xと構成Aから構成Eまでに分説する。また、参考図として、本願の【図1】を元に部材名を記入したものを掲載する。 (構成X)透明基板上にパターン形成用薄膜を有する表示装置製造用フォトマスクブランクであって、 (構成A)前記パターン形成用薄膜は、チタン(Ti)と、ケイ素(Si)と、窒素(N)を含有するチタンシリサイド化合物からなり、 (構成B)前記パターン形成用薄膜は、チタンとケイ素とを含有するチタンシリサイド化合物の粒子が、前記パターン形成用薄膜の膜厚方向に向かって伸びる柱状構造を有し、 (構成C)前記パターン形成用薄膜に含まれる酸素の含有率は、7原子%以下であり、 (構成D)前記パターン形成用薄膜は、前記フォトマスクブランクの断面を80000倍の倍率で走査型電子顕微鏡観察により得られた画像における前記パターン形成用薄膜の厚み方向の中心部を含む領域について、縦64ピクセル×横256ピクセルの画像データとして抽出し、前記画像データをフーリエ変換することにより得られた空間周波数スペクトル分布において、空間周波数の原点に対応した最大信号強度に対して0.8%以上の信号強度を有する信号が、最大空間周波数を100%としたときに空間周波数の原点から6.7%以上離れた空間周波数にある空間周波数スペクトルが存在していることを特徴とする (構成X)表示装置製造用フォトマスクブランク <参考図> [図:0001432626000001.jpg] 3 課題・作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載 本願の明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある(下線は、合議体による。)。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、表示装置製造用フォトマスクブランク、表示装置製造用フォトマスクの製造方法、および表示装置の製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、LCD(Liquid Crystal Display)を代表とするFPD(Flat Panel Display)等の表示装置では、大画面化、広視野角化とともに、高精細化、高速表示化が急速に進んでいる。この高精細化、高速表示化のために必要な要素の1つが、微細で寸法精度の高い素子および配線等の電子回路パターンを作製することである。この表示装置用電子回路のパターニングにはフォトリソグラフィが用いられることが多い。このため、微細で高精度なパターンが形成された表示装置製造用の位相シフトマスクおよびバイナリマスクといったフォトマスクが必要である。 …(中略)… 【0005】 特許文献3には、透明基板上にパターン形成用薄膜を有するフォトマスクブランクが記載されている。特許文献3には、フォトマスクブランクが、パターン形成用薄膜をウェットエッチングにより透明基板上に転写パターンを有するフォトマスクを形成するための原版であることが記載されている。また、特許文献3には、フォトマスクブランクのパターン形成用薄膜が、遷移金属と、ケイ素とを含有し、柱状構造を有していることが記載されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0006】 【特許文献1】特許第2966369号公報 【特許文献2】特開2005-522740号公報 【特許文献3】特開2020-95248号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 近年の高精細(1000ppi以上)のパネル作製に使用されるフォトマスクとしては、高解像のパターン転写を可能にするために、フォトマスクであって、かつホール径で、6μm以下、ライン幅で4μm以下の微細なパターン形成用薄膜パターンを含む転写用パターンが形成されたフォトマスクが要求されている。具体的には、径または幅寸法が1.5μmの微細なパターンを含む転写用パターンが形成されたフォトマスクが要求されている。 【0008】 また、より高解像のパターン転写を実現するため、露光光に対する透過率が20%以上のパターン形成用薄膜(位相シフト膜)を有するフォトマスクブランク(位相シフトフォトマスクブランク)および、露光光に対する透過率が20%以上のパターン形成用薄膜パターン(位相シフト膜パターン)が形成されたフォトマスク(位相シフトマスク)が要求されている。なお、フォトマスクブランクのパターン形成用薄膜をパターニングすることにより得られるフォトマスクは、被転写体へのパターン転写に繰り返し用いられるため、実際のパターン転写を想定した紫外線に対する耐光性(紫外耐光性)も高いことが望まれる。また、フォトマスクブランクおよびフォトマスクは、その製造時および使用時において、繰り返し洗浄されるため、洗浄耐性(耐薬性)が高いことも望まれる。 【0009】 露光光に対する透過率の要求と紫外耐光性(以下、単に耐光性)および耐薬性の要求を満たすため、パターン形成用薄膜を構成する金属シリサイド化合物(金属シリサイド系材料)における金属とケイ素の原子比率におけるケイ素の比率を高くすることが効果的な方法の一つとして考えられる。しかしながら、ケイ素の比率が高い金属シリサイド化合物薄膜の場合には、ウェットエッチングレートが大幅に遅く(ウェットエッチング時間が長く)なる。そのため、金属シリサイド化合物薄膜のパターン形成用薄膜と、透明基板とのエッチング選択比が低下するとともに、ウェットエッチング液による透明基板へのダメージが発生し、透明基板の透過率が低下する等の問題がある。したがって、パターン形成用薄膜のウェットエッチングレートを速くすることにより、透明基板との十分なエッチング選択比を確保して、透明基板の損傷を低減あるいは抑制することが望まれる。しかしながら、エッチングレートを増大しつつ、高い耐薬性および耐光性を満たすことは容易ではない。 【0010】 遷移金属とケイ素とを含有する遮光膜を備えたバイナリフォトマスクブランクにおいて、ウェットエッチングによって遮光膜に遮光パターンを形成する際にも、耐光性および耐薬性についての要求がある。 【0011】 また、高精度なパターン転写を行うには、フォトマスクのパターン形成用薄膜に形成された微細パターン(パターン形成用薄膜パターン)のエッジの断面形状が、垂直に近い形状であることが好ましい。微細パターンの断面形状が、垂直に近い形状であるフォトマスクを用いることにより、高解像のパターン転写をすることが可能になる。 【0012】 また、フォトマスクが有する微細パターンのLER(line edge roughness)は重要な指標である。LERとは、フォトマスクの微細パターンを上面視したときの、該微細パターンのエッジがなす形状の凹凸の大きさを示す指標である。高解像のパターン転写を可能にするために、フォトマスクのLERは良好であることが好ましい。しかしながら、高いエッチングレート、高い耐光性および耐薬性、良好なエッジの断面形状および良好なLERといった特性を全て満たすパターン形成用薄膜を得ることは容易ではない。 【0013】 本発明は、上述の問題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明は、パターン形成用薄膜に微細パターン(パターン形成用薄膜パターン)をウェットエッチングする際のエッチング時間を短縮でき、高い耐光性および耐薬性を有するとともに、垂直に近いエッジの断面形状および良好なLERを有する微細パターンを形成できる表示装置製造用フォトマスクブランクを提供することを目的とする。 【0014】 また、本発明は、高い耐光性および耐薬性を有するとともに、垂直に近いエッジの断面形状および良好なLERを有する微細パターン(パターン形成用薄膜パターン)を備える表示装置製造用フォトマスクの製造方法、および表示装置の製造方法を提供することを目的とする。 …(中略)… 【発明の効果】 【0025】 本発明によれば、パターン形成用薄膜に微細パターン(パターン形成用薄膜パターン)をウェットエッチングする際のエッチング時間を短縮でき、高い耐光性および耐薬性を有するとともに、異方性のウェットエッチング特性を有する事での垂直に近いエッジの断面形状および良好なLERを有する微細パターンを形成できる表示装置製造用フォトマスクブランクを提供することができる。」 「【発明を実施するための形態】 …(中略)… 【0030】 図2は、別の実施形態のフォトマスクブランク10の膜構成を示す模式図である。図2に示すフォトマスクブランク10は、透明基板20と、透明基板20上に形成されたパターン形成用薄膜30(例えば位相シフト膜)とを備える。」 「【図2】 [図:0001432626000002.jpg] 」 「【0031】 本実施形態のフォトマスクブランク10は、表示装置を製造するために用いられるフォトマスク100を製造するために、好ましく用いることができる。 【0032】 本明細書において、「パターン形成用薄膜30」とは、遮光膜および位相シフト膜などの、フォトマスク100において所定の微細パターンが形成される薄膜のことをいう。なお、本実施形態の説明では、パターン形成用薄膜30の具体例として位相シフト膜を例に、パターン形成用薄膜パターン30aの具体例として位相シフト膜パターンを例に説明する場合がある。遮光膜および遮光膜パターンなど、他のパターン形成用薄膜30およびパターン形成用薄膜パターン30aにおいても、位相シフト膜および位相シフト膜パターンと同様である。 【0033】 本実施形態の表示装置製造用フォトマスクブランク10のパターン形成用薄膜30は、チタン(Ti)と、ケイ素(Si)と、窒素(N)を含有する材料からなる。パターン形成用薄膜30は、柱状構造を有する。パターン形成用薄膜30に含まれる酸素の含有率は、7原子%以下である。本発明者らは、このようなパターン形成用薄膜30に微細パターンを形成した場合には、例えば特許文献3に記載されているような位相シフト膜の場合と比べて、ウェットエッチングレートが大きく(透過率が同程度の場合を比較)、微細パターン(パターン形成用薄膜パターン)の断面形状が、より垂直に近い断面形状になり、微細パターンが高い耐光性および耐薬性を有し、良好なLERの微細パターンを得ることを見出し、本発明に至った。 【0034】 以下、本実施形態の表示装置製造用フォトマスクブランク10を構成する透明基板20、パターン形成用薄膜30(例えば位相シフト膜)およびエッチングマスク膜40について、具体的に説明する。 …(中略)… 【0036】 <パターン形成用薄膜30> 本実施形態の表示装置製造用フォトマスクブランク10(以下、単に「本実施形態のフォトマスクブランク10」という場合がある。)のパターン形成用薄膜30(以下、単に「本実施形態のパターン形成用薄膜30」という場合がある。)は、チタン(Ti)と、ケイ素(Si)と、窒素(N)を含有する材料からなる。このパターン形成用薄膜30は、位相シフト機能を有する位相シフト膜であることができる。 【0037】 パターン形成用薄膜30は、チタンと、ケイ素とを含有するチタンシリサイド系材料で構成され、さらに窒素を含むことができる。 【0038】 本実施形態のパターン形成用薄膜30に含まれる酸素の含有率は、7原子%以下である。 【0039】 パターン形成用薄膜30の性能が劣化しない範囲で、パターン形成用薄膜30は酸素を含むことができる。軽元素成分である酸素は、同じく軽元素成分である窒素と比べて、消衰係数を下げる効果がある。ただし、パターン形成用薄膜30の酸素含有量が多い場合には、垂直に近い微細パターンの断面、LERおよび高い洗浄耐性を得ることに対して悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、パターン形成用薄膜30の酸素の含有率は、7原子%以下であることが好ましく、5原子%以下であることがより好ましい。パターン形成用薄膜30は、酸素を含まないことができる。 【0040】 パターン形成用薄膜30は、窒素を含有する。上記チタンシリサイドにおいて、軽元素成分である窒素は、同じく軽元素成分である酸素と比べて、屈折率を下げない効果がある。そのため、パターン形成用薄膜30が窒素を含有することにより、所望の位相差(位相シフト量とも言う。)を得るための膜厚を薄くできる。また、パターン形成用薄膜30に含まれる窒素の含有率は、40原子%以上であることが好ましい。窒素の含有率は、40原子%以上70原子%以下であることがより好ましく、45原子%以上60原子%以下であることがさらに好ましい。 【0041】 また、パターン形成用薄膜30には、上述した酸素、窒素の他に、膜応力の低減および/またはウェットエッチングレートを制御する目的で、炭素およびヘリウム等の他の軽元素成分を含有してもよい。 【0042】 パターン形成用薄膜30に含まれるチタンとケイ素の原子比率は、チタン:ケイ素=1:1から1:10の範囲であることが好ましい。この範囲であると、パターン形成用薄膜30のパターン形成時におけるウェットエッチングレート低下を、柱状構造により抑制する効果を大きくすることができる。また、パターン形成用薄膜30の洗浄耐性を高めることができ、透過率を高めることも容易となる。パターン形成用薄膜30の洗浄耐性を高める視点からは、パターン形成用薄膜30に含まれるチタンとケイ素の原子比率(チタン:ケイ素)は、1:1から1:10の範囲であることが好ましく、1:1から1:8の範囲であることがより好ましく、1:1から1:6の範囲であることがさらに好ましい。 【0043】 このパターン形成用薄膜30は複数の層で構成されていてもよく、単一の層で構成されていてもよい。単一の層で構成されたパターン形成用薄膜30は、パターン形成用薄膜30中に界面が形成され難く、断面形状を制御しやすい点で好ましい。一方、複数の層で構成されたパターン形成用薄膜30は、成膜のしやすさ等の点で好ましい。 【0044】 <<柱状構造>> 本実施形態のパターン形成用薄膜30は、柱状構造を有する。 【0045】 パターン形成用薄膜30の柱状構造は、パターン形成用薄膜30を断面SEM観察により確認することができる。すなわち、本実施形態における柱状構造は、パターン形成用薄膜30を構成するチタンとケイ素とを含有するチタンシリサイド化合物の粒子が、パターン形成用薄膜30の膜厚方向(上記粒子が堆積する方向)に向かって伸びる柱状の粒子構造を有する状態をいう。なお、本実施形態においては、膜厚方向の長さがその垂直方向の長さよりも長いものを柱状の粒子とすることができる。すなわち、パターン形成用薄膜30は、膜厚方向に向かって伸びる柱状の粒子が、透明基板20の面内に渡って形成されている。また、パターン形成用薄膜30は、成膜条件(スパッタリング圧力など)および膜組成を調整することにより、柱状の粒子よりも相対的に密度の低い疎の部分(以下、単に「疎の部分」ということもある)も形成されている。なお、ウェットエッチングの際のサイドエッチングを効果的に抑制し、パターン断面形状をさらに良化するために、パターン形成用薄膜30の柱状構造の好ましい形態としては、膜厚方向に伸びる柱状の粒子が、膜厚方向に不規則に形成されていることが好ましい。パターン形成用薄膜30の柱状の粒子は、膜厚方向の長さが不揃いな状態であることがさらに好ましい。パターン形成用薄膜30の疎の部分は、膜厚方向において連続的に形成されていることが好ましい。また、パターン形成用薄膜30の疎の部分は、膜厚方向に垂直な方向おいて断続的に形成されていることが好ましい。 【0046】 パターン形成用薄膜30の柱状構造の好ましい形態としては、上記断面SEM観察により得られた画像について、フーリエ変換した指標を用いて、以下のように示すことができる。すなわち、フォトマスクブランク10の断面を80000倍の倍率で断面SEM観察により得られた画像のうち、パターン形成用薄膜30の厚み方向の中心部を含む領域について、縦64ピクセル×横256ピクセルの画像データとして抽出し、この画像データをフーリエ変換により空間周波数スペクトルを得る。このようにして得られたパターン形成用薄膜30の柱状構造の空間周波数スペクトルは、空間周波数の原点(すなわち、空間周波数がゼロ。)に対応した最大信号強度に対して0.8%以上の信号強度を有する状態であることが好ましい。このような信号強度を有する状態は、柱状構造に明確な周期性があることに対応する。画像データをフーリエ変換した空間周波数スペクトルの画像は、画像の中心が原点に対応する。また、空間周波数スペクトルは、その原点(空間周波数がゼロ)で最大信号強度になる。パターン形成用薄膜30を上記に説明した柱状構造とすることにより、ウェットエッチング液を用いたウェットエッチングの際、パターン形成用薄膜30の膜厚方向にウェットエッチング液が浸透しやすくなる。そのため、パターン形成用薄膜30のウェットエッチングレートが速くなり、ウェットエッチング時間を大幅に短縮することができる。したがって、パターン形成用薄膜30が、ケイ素リッチなチタンシリサイド化合物であっても、ウェットエッチング液による透明基板20へのダメージを起因とした、透明基板20の透過率の低下が生じない。また、パターン形成用薄膜30が膜厚方向に伸びる柱状構造を有しているので、ウェットエッチングの際のサイドエッチングが抑制される。そのため、パターン形成用薄膜パターン30aのパターン断面形状は良好になる。また、パターン形成用薄膜パターン30aのLERが良好になる。 【0047】 また、パターン形成用薄膜30は、フーリエ変換することにより得られた空間周波数スペクトル分布の最大信号強度に対する0.8%以上の信号強度を有する信号が、最大空間周波数を100%としたときに、空間周波数の原点から6.7%以上離れた空間周波数にあることが好ましい。空間周波数スペクトルの画像の中心(原点)を通る横方向(例えば、図5Dの一点鎖線Xの方向)の座標は、フーリエ変換元の画像データの横方向(例えば、図5Cのx方向であり、透明基板20の上に形成されたパターン形成用薄膜30の断面図において、透明基板20と、パターン形成用薄膜30との境界線と平行な方向)の空間周波数成分に対応する。空間周波数スペクトルの画像の中心(原点)を通る縦方向(例えば、図5Dの一点鎖線Yの方向)の座標は、フーリエ変換元の画像データの縦方向(例えば、図5Cのy方向であり、パターン形成用薄膜30の膜厚方向)の空間周波数成分に対応する。いずれの方向においても、空間周波数スペクトルの画像の中心から外周に向かって、対応する空間周波数は大きくなる。パターン形成用薄膜30の柱状構造の周期性は、横方向(例えば、図5Cのx方向)に対応する空間周波数の信号強度(例えば、図5Dの一点鎖線Xの方向の空間周波数の信号強度)を指標とすることが好ましい。この場合、最大空間周波数は、空間周波数スペクトルの画像の中心を通る横方向の座標での最大値(画像でいう横方向の外縁であり、図5Dの例では、画像の中心を通る一点鎖線Xの±100%の位置の信号強度)になる。なお、最大信号強度に対する0.8%以上の信号強度を有する信号が6.7%以上離れているということは、例えば図5Aに示すようなフーリエ変換元の画像データに一定以上高い空間周波数成分が含まれていることを示している。すなわち、このような状態は、パターン形成用薄膜30が微細な柱状構造である状態を示している。このように、空間周波数が原点から離れた位置にあるほど、パターン形成用薄膜30をウェットエッチングにより形成して得られるパターン形成用薄膜パターン30aのラインエッジラフネス(LER)が小さくなり、より良好な値になる。」 「【図5A】 [図:0001432626000003.jpg] 【図5B】 [図:0001432626000004.jpg] 【図5C】 [図:0001432626000005.jpg] 【図5D】 [図:0001432626000006.jpg] 」 「【0048】 <<エッチングレート>> 本実施形態の表示装置製造用フォトマスクブランク10のパターン形成用薄膜30は、チタン(Ti)と、ケイ素(Si)と、窒素(N)を含有する材料からなり、柱状構造を有するので、高いエッチングレートを有する。具体的には、フォトマスク100のエッチングで使用される下記のエッチング液AおよびBに対して、高いエッチングレートを有する。 【0049】 エッチング液Aとしては、フッ化水素酸、珪フッ化水素酸、およびフッ化水素アンモニウムから選ばれた少なくとも一つのフッ素化合物と、過酸化水素、硝酸、および硫酸から選ばれた少なくとも一つの酸化剤と、水とを含むエッチング液が挙げられる。 【0050】 エッチング液Bとしては、フッ化水素アンモニウムと、過酸化水素と、リン酸、硫酸および硝酸から選ばれる少なくとも一つの酸化剤と、水とを含むエッチング液が挙げられる。 【0051】 本実施形態のパターン形成用薄膜30は、フッ化水素アンモニウムと、過酸化水素と、水とを含むエッチング液(エッチング液A)を用いてエッチングした時のエッチングレートが、2.5nm/分以上かつ12.0nm/分以下であることが好ましく、4.0nm/分以上かつ8.0nm/分以下であることがより好ましい。エッチング液Aとして、フッ化水素アンモニウムを0.1~0.8重量%、過酸化水素を0.5~4.0重量%、水を含むエッチング液を用いることができる。 …(中略)… 【0071】 <<パターン形成用薄膜形成工程>> まず、透明基板20を準備する。透明基板20の材料は、露光光に対して透明であれば良い。具体的には、透明基板20は、合成石英ガラス、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、および低熱膨張ガラス(SiO2-TiO2ガラス等)などから選択されるガラス材料で構成されることができる。 【0072】 次に、透明基板20上に、スパッタリング法により、パターン形成用薄膜30を形成する。 【0073】 パターン形成用薄膜30の成膜は、所定のスパッタターゲットを用いて、所定のスパッタリングガス雰囲気で行うことができる。所定のスパッタターゲットとは、例えば、パターン形成用薄膜30を構成する材料の主成分となるチタンとケイ素を含むチタンシリサイドターゲット、またはチタンとケイ素と窒素を含むチタンシリサイドターゲットなどである。所定のスパッタリングガス雰囲気とは、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガスおよびキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスからなるスパッタリングガス雰囲気、または、上記不活性ガスと、窒素ガスと、場合により、酸素ガス、二酸化炭素ガス、一酸化窒素ガスおよび二酸化窒素ガスからなる群より選ばれるガスとを含む混合ガスからなるスパッタリングガス雰囲気である。パターン形成用薄膜30の形成は、スパッタリングを行う際における成膜室内のガス圧力が、0.4Pa以上3.0Pa以下、好ましくは0.43Pa以上3.0Pa以下になる状態で行うことができる。チタンは他の遷移元素であるモリブデンおよびジルコニウムと比較して大幅に軽い元素であるため、ガス圧力の範囲をこのように設定することで、パターン形成用薄膜30に柱状構造を形成することができる。この柱状構造により、後述するパターン形成時におけるサイドエッチングを抑制できるとともに、高エッチングレートを達成することができる。チタンシリサイドターゲットのチタンとケイ素の原子比率は、チタン:ケイ素=1:3から1:7までの範囲であることが好ましい。このような原子比率のチタンシリサイドターゲットを用いることにより、ウェットエッチングレートの低下を柱状構造によって抑制する効果が大きく、パターン形成用薄膜30の耐光性および耐薬性を高めることができ、透過率を高めることも容易になる。 …(中略)… 【0085】 図1に示す実施形態のフォトマスクブランク10は、パターン形成用薄膜30上にエッチングマスク膜40が形成されている。少なくともこのパターン形成用薄膜30は、柱状構造を有している。また、図2に示す実施形態のフォトマスクブランク10は、パターン形成用薄膜30が形成されている。このパターン形成用薄膜30は柱状構造を有している。 【0086】 図1および図2に示す実施形態のフォトマスクブランク10は、ウェットエッチングによりパターン形成用薄膜30をパターニングする際に、膜厚方向のエッチングが促進される一方でサイドエッチングが抑制される。そのため、パターニングにより得られるパターン形成用薄膜パターン30aの断面形状は良好であり、所望の透過率を有する(例えば、透過率が高い。)。実施形態のフォトマスクブランク10を用いることにより、パターン形成用薄膜パターン30aを、短いエッチング時間で形成することができる。したがって、本実施形態のフォトマスクブランク10を用いることにより、ウェットエッチング液による透明基板20へのダメージを起因とした透明基板20の透過率の低下がなく、高精細なパターン形成用薄膜パターン30aを精度よく転写することができるフォトマスク100を製造することができる。 …(中略)… 【実施例】 【0119】 以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 【0120】 (実施例1) 実施例1のフォトマスクブランク10を製造するため、まず、透明基板20として、1214サイズ(1220mm×1400mm)の合成石英ガラス基板を準備した。 【0121】 その後、合成石英ガラス基板を、主表面を下側に向けてトレイ(図示せず。)に搭載し、インライン型スパッタリング装置のチャンバー内に搬入した。 【0122】 透明基板20の主表面上にパターン形成用薄膜30を形成するため、まず、第1チャンバー内のスパッタリングガスの圧力を0.45Paにした状態で、アルゴン(Ar)ガスと、窒素(N2)ガスとで構成される混合ガスを導入した。そして、チタンとケイ素を含む第1スパッタターゲット(チタン:ケイ素=1:6.7)を用いて、反応性スパッタリングにより、透明基板20の主表面上にチタンとケイ素と窒素を含有するチタンシリサイドの窒化物を堆積させた。このようにして、チタンシリサイドの窒化物を材料とする膜厚171nmのパターン形成用薄膜30を成膜した。なお、このパターン形成用薄膜30は、位相シフト効果を有する位相シフト膜である。 【0123】 次に、パターン形成用薄膜30付きの透明基板20を第2チャンバー内に搬入し、第2チャンバー内にアルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスとの混合ガスを導入した。そして、クロムからなる第2スパッタターゲットを用いて、反応性スパッタリングにより、パターン形成用薄膜30上にクロムと窒素を含有するクロム窒化物(CrN層)を形成した。次に、第3チャンバー内を所定の真空度にした状態で、アルゴン(Ar)ガスとメタン(CH4)ガスの混合ガスを導入し、クロムからなる第3スパッタターゲットを用いて、反応性スパッタリングによりCrN上にクロムと炭素を含有するクロム炭化物(CrC層)を形成した。最後に、第4チャンバー内を所定の真空度にした状態で、アルゴン(Ar)ガスとメタン(CH4)ガスの混合ガスと窒素(N2)ガスと酸素(O2)ガスとの混合ガスを導入し、クロムからなる第4スパッタターゲットを用いて、反応性スパッタリングによりCrC上にクロムと炭素と酸素と窒素を含有するクロム炭化酸化窒化物(CrCON層)を形成した。以上のように、パターン形成用薄膜30上に、CrN層とCrC層とCrCON層の積層構造のエッチングマスク膜40を形成した。 【0124】 このようにして、透明基板20上に、パターン形成用薄膜30とエッチングマスク膜40とが形成されたフォトマスクブランク10を得た。 【0125】 (実施例2および3、並びに比較例1~5) 表1に、実施例2および3、並びに比較例1~5のパターン形成用薄膜30の製造条件を示す。パターン形成用薄膜30の製造条件以外は、実施例1と同様に、透明基板20上に、パターン形成用薄膜30と、エッチングマスク膜40とを形成して、実施例2および3、並びに比較例1~5のフォトマスクブランク10を得た。ただし、表1に示すように、実施例2および3、並びに比較例1~5のパターン形成用薄膜30の製造条件は、実施例1のパターン形成用薄膜30の製造条件とは異なる。したがって、実施例2および3、並びに比較例1~5のパターン形成用薄膜30は、実施例1のパターン形成用薄膜30とは異なる。表1において、混合ガスがAr+N2と記載されているものは、スパッタリング時に、アルゴン(Ar)と窒素(N2)との混合ガスを用いたことを示し、混合ガスがAr+N2+Heと記載されているものは、アルゴン(Ar)と窒素(N2)とヘリウム(He)との混合ガスを用いたことを示し、混合ガスがAr+N2+He+NOと記載されているものは、アルゴン(Ar)と窒素(N2)とヘリウム(He)と一酸化窒素(NO)との混合ガスを用いたことを示す。なお、各実施例および比較例のそれぞれのパターン形成用薄膜の膜厚は、所望の光学特性(透過率、位相差)となるように、適宜調整した。また、実施例1の透過率は50%であり、比較例1(モリブデンシリサイド系)の透過率は、比較のため、50%程度のものとすることを検討した。しかしながら、モリブデンシリサイド系の膜材料では、透過率50%のパターン形成用薄膜を形成することが困難だった。そのため、比較例1の透過率は40%とした。 【0126】 (フォトマスクブランク10の評価) 上述の実施例および比較例のフォトマスクブランク10のパターン形成用薄膜30を、下記の項目により評価した。 …(中略)… 【0128】 <パターン形成用薄膜30の組成の測定> 実施例および比較例のフォトマスクブランク10のパターン形成用薄膜30について、X線光電子分光法(XPS)による深さ方向の組成分析を行った。実際の測定には、透過率の測定と同様に、ダミー基板を用いた。 【0129】 フォトマスクブランク10に対するXPSによる深さ方向の組成分析結果において、パターン形成用薄膜30は、透明基板20とパターン形成用薄膜30との界面の組成傾斜領域、および、パターン形成用薄膜30とエッチングマスク膜40との界面の組成傾斜領域を除いて、深さ方向に向かって、各構成元素の含有率はほぼ一定だった。表2に膜組成(原子%)の測定結果を示す。なお、パターン形成用薄膜30に酸素が含有されている理由は、成膜時のチャンバー内に微量の酸素が存在していたためであると考えられる。 【0130】 <膜構造の測定> 実施例および比較例のフォトマスクブランク10の転写パターン形成領域の中央の位置において、80000倍の倍率で断面SEM(走査型電子顕微鏡)観察を行った。実際の観察には、透過率の測定と同様に、ダミー基板を用いた。表2に観察結果を示す。表2の「膜構造」欄に、「柱状」と記載されているものは、パターン形成用薄膜30の断面SEM観察により、パターン形成用薄膜30が柱状構造を有していることを示す。すなわち、「柱状」と記載されている実施例および比較例では、パターン形成用薄膜30を構成する化合物の粒子が、パターン形成用薄膜30の膜厚方向に向かって伸びる柱状の粒子構造を有していることが確認できたことを意味する。特に、実施例1、2および3では、パターン形成用薄膜30の柱状の粒子構造は、膜厚方向の柱状の粒子が不規則に形成されており、かつ、柱状の粒子の膜厚方向の長さも不揃いな状態であることが確認できた。また、これらの実施例では、パターン形成用薄膜30の疎の部分は、膜厚方向において連続的に形成されていることも確認できた。 【0131】 <空間周波数スペクトルの測定> 上述のような80000倍の倍率での断面SEM観察により得られた実施例および比較例の画像について、パターン形成用薄膜30の厚み方向の中心部を含む領域について、縦64ピクセル×横256ピクセルの画像データとして抽出した。例えば、実施例1の縦64ピクセル×横256ピクセルの画像データを図5Aに示す。図5Aにx方向及びy方向を示す記号を付した図を図5Cとして示す。図5Cに「y」として示した上下方向は、パターン形成用薄膜30の断面の厚み方向であり、「x」として示した横方向は、透明基板20の上に形成されたパターン形成用薄膜30の断面図において、透明基板20と、パターン形成用薄膜30との境界線と平行な方向である。図5A及びCのイメージにおいて、画像データの値が大きいほど白く、画像データの値が小さいほど黒く表示されている。さらに、図5Aに示す画像データについてフーリエ変換を行った。例えば、実施例1の縦64ピクセル×横256ピクセルの画像データについてフーリエ変換を行った結果を図5Bに示す。図5BにX方向及びY方向を示す記号を付した図を図5Dとして示す。また、図5Dのフーリエ変換の画像において、「X」として示した一点鎖線は、その画像の中心を原点とし、その原点を通る横方向の線である。一点鎖線上の図5Dの画像の画素は、横方向の空間周波数成分であり、図5Cに「x」として示す横方向の空間周波数成分に対応する。図5B及びDでは、フーリエ変換した空間周波数成分の信号強度を各画素の明暗で示している。図5B及びDの画像において、信号強度の値が大きいほど白く、信号強度の値が小さいほど黒く表示されている。図5B及びDの横軸は、二次元画像データのフーリエ変換の通常の手法にしたがって、画像の中心の空間周波数が一番低く、画像の両端の空間周波数が最も高くなるように図示している。図5B及びDの横方向は、縦64ピクセル×横256ピクセルの画像データをフーリエ変換したときの最も高い空間周波数(両端の空間周波数)を±100%として、空間周波数の比率で示している。図5B及びDの縦方向についても同様である。また、図5Eに、図5B及びDのフーリエ変換の画像において、その画像の中心を原点とし、その原点を通る横方向の線(図5Dの「X」として示した一点鎖線)の上の空間周波数の比率と、その空間周波数に対応する信号強度との関係を示す。すなわち、図5Eの横軸は、図5A及びBに示すパターン形成用薄膜30の断面の「x」として示す横方向に対応する空間周波数の比率であり、図5Eの縦軸はその空間周波数に対応する信号強度である。さらに、図5Eの原点を中心として横軸及び縦軸を拡大したグラフを図5Fに示す。」 「【図5E】 [図:0001432626000007.jpg] 【図5F】 [図:0001432626000008.jpg] 」 【0132】 例えば、実施例1では、フーリエ変換により得られた空間周波数スペクトル分布において、空間周波数の原点の信号強度(最大信号強度)は3100000で、上記最大信号強度とは別に、45746の信号強度を有する空間周波数スペクトルが存在していることを確認した。実施例1では、空間周波数の原点に対応した最大信号強度に対して、45746/3100000=0.015(すなわち1.5%)となり、パターン形成用薄膜30は、0.8%以上の信号強度を有する柱状構造であった。このように、実施例および比較例のフォトマスクブランク10の断面を80000倍の倍率で走査型電子顕微鏡観察により得られた画像について、パターン形成用薄膜30の厚み方向の中心部を含む領域について、縦64ピクセル×横256ピクセルの画像データとして抽出し、画像データをフーリエ変換することにより得られた空間周波数スペクトル分布において、空間周波数の原点に対応した最大信号強度に対して0.8%以上の信号強度を有する空間周波数スペクトルが存在している場合には、表2の「所定の信号強度を有する空間周波数スペクトルの有無」欄に「有り」と記載した。 【0133】 また、表2に、上述の空間周波数の原点に対応した最大信号強度に対して0.8%以上の信号強度を有する信号が、空間周波数の原点からどの程度離れた空間周波数にあるかを示す。表2の「所定の信号の空間周波数の原点からの距離」欄に示す値は、最大空間周波数(すなわち、横軸256ピクセルの両端に対応する最大空間周波数)を100%として、どの程度離れた空間周波数にあるかをパーセントで示している。例えば、図5Bに示すような実施例1のフーリエ変換の画像について、空間周波数の原点、すなわち、図5Bの画像の中心を原点(0)として、横軸256ピクセルの両端に対応する最大空間周波数を1(100%)としたときに、上記空間周波数の原点に対応した最大信号強度に対して1.5%の信号強度の信号(上述の45746の信号強度を有する空間周波数の信号)は、原点から0.086、すなわち、8.6%離れた位置に信号を有する柱状構造を持ったパターン形成用薄膜30であった。 【0134】 比較例4の縦64ピクセル×横256ピクセルの画像データを図6Aに示す。実施例1の場合と同様に、図6Aに示す画像データについてフーリエ変換を行った結果である画像データを図6Bに示す。実施例1の場合と同様の手順で、図6Bのフーリエ変換の画像から導き出した空間周波数と信号強度の関係のグラフを図6Cに示す。図6Cの原点を中心として横軸及び縦軸を拡大したグラフを図6Dに示す。また、実施例1の場合と同様の手順で、実施例2と実施例3の各断面SEMから切り取られた縦64ピクセル×横256ピクセルの各画像データから導き出した空間周波数と信号強度の関係のグラフの拡大図を図7及び図8に示す。なお、ここに掲載していない他の実施例および比較例のフーリエ変換等の各画像においても、同様の手順で作成した。実施例1と同様の手順で、実施例2および3と比較例1から比較例5のそれぞれについて、「所定の信号強度を有する空間周波数スペクトルの有無」と「所定の信号の空間周波数の原点からの距離」を表2に示す。 …(中略)…」 「【図6A】 [図:0001432626000009.jpg] 【図6B】 [図:0001432626000010.jpg] 【図6C】 [図:0001432626000011.jpg] 【図6D】 [図:0001432626000012.jpg] 【図7】 [図:0001432626000013.jpg] 【図8】 [図:0001432626000014.jpg] 」 「【0148】 <フォトマスク100の断面形状> 得られたフォトマスク100の断面を走査型電子顕微鏡により観察した。図9~12に、実施例1、並びに比較例1、4および5の断面形状を示す。なお、実施例2および3は、実施例1と同等の結果であり、図示は省略している。また、比較例2および3は、比較例1と同等の結果であったため、これらも図示を省略している。パターン形成用薄膜パターン30aの断面は、パターン形成用薄膜パターン30aの上面(透明基板に接する面と対向する面)、下面(透明基板に接する面)および側面(上面と下面とをつなぐ面)から構成される。このパターン形成用薄膜パターン30aの断面の角度は、断面視において、パターン形成用薄膜パターン30aの上面と側面との接点を接点Aとし、側面と下面との接点を接点Bとしたとき、接点Aと接点Bとを結ぶ直線と、透明基板の主表面とがなす角度をいう。表2の「断面形状(角度)」欄に、実施例および比較例のフォトマスク100のパターン形成用薄膜パターン30aの断面の角度を示す。断面の角度が90度に近いほど、断面形状は良好であるといえる。 【0149】 実施例1~3のフォトマスク100のパターン形成用薄膜パターン30aは、垂直に近い断面形状を有していた。したがって、実施例1~3のフォトマスク100に形成されたパターン形成用薄膜パターン30aは、位相シフト効果を十分に発揮できる断面形状を有していた。一方、比較例1~4は、実施例1~3よりも断面の角度が小さく、断面形状が劣っていた。なお、図12に示すように、酸素(O)を8%含有する比較例5は、パターン形成用薄膜パターン30aの側面と透明基板の主表面との境界近傍において、必要なパターン形成用薄膜パターン30aの欠けがウェットエッチング時に生じたため、実施例および他の比較例と比較できるような断面の角度は測定できなかった。 【0150】 実施例1~3のパターン形成用薄膜30は柱状構造を有する。具体的には、断面SEM写真の観察結果から、実施例1~3のパターン形成用薄膜30は、柱状の粒子構造(柱状構造)を有しており、膜厚方向に伸びる柱状粒子が不規則に形成されている。また、断面SEM写真の観察結果(例えば、実施例1の図5A)から、実施例1~3のパターン形成用薄膜30は、相対的に密度の高い各柱状の粒子部分と、相対的に密度の低い疎の部分とで形成されている。このような柱状の粒子構造を有する実施例1~3のパターン形成用薄膜パターン30aが、ウェットエッチングにより良好な断面形状となったのは、以下のメカニズムによるものと考える。 【0151】 すなわち、パターン形成用薄膜30をウェットエッチングによってパターニングする際に、パターン形成用薄膜30における疎の部分にエッチング液が浸透することにより、膜厚方向にエッチングが進行しやすくなる。一方、膜厚方向に対して垂直な方向(透明基板の主表面に平行な方向)には柱状の粒子が不規則に形成されており、この方向の疎の部分が断続的に形成されている。そのため、膜厚方向に対して垂直な方向へのエッチングが進行しづらくてサイドエッチングが抑制されることになる。以上のようなメカニズムにより実施例1~3の、パターン形成用薄膜30が、柱状の粒子構造(柱状構造)を有する場合には、パターン形成用薄膜パターン30aにおいて、垂直に近い良好な断面形状が得られたと考えられる。柱状構造を有さない比較例4(実施例1~3と同様にチタンシリサイド系のパターン形成用薄膜)の断面角度が、実施例1~3のものに比較して、大きく低下していることからも、柱状構造が良好な断面形状の形成に寄与することは、明らかである。 【0152】 また、実施例1~3のパターン形成用薄膜パターン30aには、エッチングマスク膜パターンとの界面と、透明基板との界面とのいずれにも浸み込みは見られず、透明基板表面の損傷も見られなかった。そのため、313nm以上436nm以下の波長範囲の光を含む露光光、より具体的には、i線、h線およびg線のうち少なくとも1つを含む複合光の露光光において、優れた位相シフト効果を有するフォトマスク100が得られた。 【0153】 以上のことから、実施例1~3のフォトマスク100を露光装置のマスクステージにセットし、表示装置用の基板上のレジスト膜に露光転写した場合、2.0μm未満の微細パターンを含む転写用パターンを高精度に転写することができるといえる。 【0154】 <耐光性・耐薬性> 透明基板20上に、実施例1~3および比較例1~5のフォトマスクブランク10で用いたパターン形成用薄膜30を形成した試料を用意した。この実施例1~3および比較例1~5の試料のパターン形成用薄膜30に対して、波長300nm以上の紫外線を含むメタルハライド光源により合計照射量10kJ/cm2になるように、紫外線を照射した。所定の紫外線の照射の前後で透過率を測定し、透過率の変化[(紫外線の照射の前の透過率)-(紫外線の照射の後の透過率)]を算出することにより、パターン形成用薄膜30の耐光性を評価した。透過率は、分光光度計を用いて測定した。 【0155】 実施例1においては、紫外線照射前後の透過率の変化は、0.3%(0.3ポイント)と良好であり、実施例2および3も同等の結果であった。また、実施例1~3と同様にチタンシリサイド系のパターン形成用薄膜を有する比較例4および5も、比較的良好であった。一方、モリブデンシリサイド系のパターン形成用薄膜を有する比較例1においては、紫外線照射前後の透過率の変化は、0.9%(0.9ポイント)であり、比較例1は、実施例1~3よりも劣る結果となった。また、比較例2および3も同様に、実施例1~3よりも劣る結果となった。以上から、実施例1~3のパターン形成用薄膜は、耐光性の高い優れた膜であることがわかった。 【0156】 透明基板20上に、実施例1および比較例1のフォトマスクブランク10で用いたパターン形成用薄膜30を形成した試料を用意した。この実施例1および比較例1の試料のパターン形成用薄膜30に対して、硫酸と過酸化水素水の混合液によるSPM洗浄(洗浄時間:5分)と、アンモニアと過酸化水素と水との混合液によるSC-1洗浄(洗浄時間:5分)を1サイクルとして、5サイクルの洗浄試験を行い、パターン形成用薄膜30の耐薬性を評価した。 【0157】 パターン形成用薄膜30の耐薬性は、洗浄試験を行う前と行った後の波長200nm~500nmの範囲での反射率スペクトルを測定し、反射率が下に凸となる最低反射率に対応する波長(ボトムピーク波長)の変化量によって評価した。 【0158】 耐薬性評価の結果、チタンシリサイド系のパターン形成用薄膜を有する実施例1においては、洗浄1サイクル当たりのボトムピーク波長の変化量は0.4nmと小さく、耐薬性は良好であった。一方、モリブデンシリサイド系のパターン形成用薄膜を有する比較例1においては、洗浄1サイクル当たりのボトムピーク波長の変化量は1.0nmと大きく、耐薬性は実施例1よりも劣る結果となった。 【0159】 以上のように、耐光性が高い実施例1のパターン形成用薄膜30は、耐薬性も高く、したがって、実施例2~3、および比較例4~5のチタンシリサイド系のパターン形成用薄膜も、耐薬性が高い薄膜であると考えられる。一方、耐光性が低い比較例1のパターン形成用薄膜30は、耐薬性も低い。したがって、比較例2~3のモリブデンシリサイド系のパターン形成用薄膜も、比較例1と同様に、耐薬性が低い薄膜であると考えられる。 【0160】 <LER(line edge roughness)> LERは値が小さいほど、パターン形成用薄膜を上面視したときのエッジの形状がより滑らかで直線形状に近いことを意味する。すなわち、LERは小さいほど好ましい。LERは、次のようにして評価した。 【0161】 まず、実施例1~3および比較例1~5のフォトマスク100のそれぞれを、パターン形成用薄膜の上面(透明基板20と接する面と対向する面)側から、走査型電子顕微鏡により観察を行い、12000倍の倍率でパターン形成用薄膜のエッジを含む画像を取得した。この画像から、アドバンテスト社のMASK MVM-SEM E3620(登録商標)用の測長ソフトPMSiteを用いて、LERを測定した。 【0162】 比較例1~3のLERに関しては、比較例1(透過率40%)が67.9nm、比較例2(透過率29%)が36.0nm、比較例3(透過率21%)が31.6nmであり、透過率が高いほど(ケイ素含有量が多いほど)、LERが悪化することがわかった。これに対し、実施例1(透過率50%)のLERは29.0nm、実施例2(透過率33%)のLERは17.7nm、実施例3(透過率23%)のLERは30.1nmであり、透過率が高くてもLERが悪化することはなかった。また、実施例1と比較例1との比較、実施例2と比較例2との比較、および実施例3と比較例3との比較においても、実施例1~3は、比較例1~3よりも優れたLERを有し、エッジの形状がより滑らかで直線形状に近いことがわかった。 【0163】 比較例1~3(モリブデンシリサイド系)は、比較的高い透過率とするためにケイ素の含有量を多くしたものであり、高いケイ素含有量に起因するエッチングレートの低下を抑制するため、柱状構造としたものである。本発明者らの検討によると、実施例1~3(チタンシリサイド系)は、柱状構造を形成しやすく、成膜時の真空度が高くても良好な柱状構造とすることができた。一方、比較例1~3は、実施例1~3よりもスパッタリングガス圧を高く(0.8Pa以上)した場合に、柱状構造となるものであった。このため、比較例1~3においては、成膜時のスパッタリングのチャンバー内の酸素量が実施例よりも多くなり、これにより、比較例1~3のパターン形成用薄膜が、実施例1~3よりも多くの酸素を含有し、結果的に、比較例1~3のLERが劣化したと考えられる。なお、比較例4は、実施例と同様に良好なLERを有していたが、上述のとおり、断面形状が実施例よりも劣化していたため、高精度なパターン転写に用いるフォトマスクとしては不十分であった。また、比較例5は、実施例1~3と比較して、LERが劣っていた上、断面形状が劣化していたため、高精度なパターン転写に用いるフォトマスクとしては不十分であった。 【0164】 <エッチングレートの測定A> エッチング液Aとして、フッ化水素アンモニウムと、過酸化水素と、水とを含むエッチング液を用意した。具体的には、エッチング液Aは、フッ化水素アンモニウムを0.1~0.8重量%、過酸化水素を0.5~4.0重量%、及び水を含むエッチング液である。エッチング液Aを用いて、実施例1~3および比較例1~5のパターン形成用薄膜30のエッチングを行い、エッチングレートを測定した。表2の「エッチングレートA」欄に、エッチング液Aによる実施例1~3および比較例1~5のパターン形成用薄膜30のエッチングレート(単位:nm/分)を示す。 【0165】 表2に示す結果から、実施例1(透過率50%)のエッチング液Aによるエッチングレートは、比較例1(透過率40%)及び比較例4(透過率42%)のエッチングレートより大きいことが理解できる。実施例2(透過率33%)のエッチング液Aによるエッチングレートは、比較例2(透過率29%)のエッチングレートより小さかったが、フォトマスクの製造においては、十分な値であった。さらに、実施例3(透過率23%)のエッチング液Aによるエッチングレートは、比較例3(透過率21%)のエッチングレートより大きいことが理解できる。なお、比較例5では、エッチングレートは大きい結果が得られたが、図12に示すように、パターン形成用薄膜パターン30aの側面と透明基板の主表面との境界近傍において、必要なパターン形成用薄膜パターン30aの欠けが生じ、位相シフト効果を十分には発揮できないものであった。したがって、実施例1~3のフォトマスク100は、良好な断面形状を有するとともに、比較例1~5のフォトマスク100と比較して、エッチングレートが概ね向上しているといえる。 【0166】 以上により、実施例1~3のパターン形成用薄膜は、所望の光学特性(透過率、位相差)を満たしつつ、高い耐光性(耐薬性)、高いエッチングレート、良好な断面形状およびLERを全て兼ね備えた、これまでにはない優れたものであることが明らかとなった。 …(中略)… 【0170】 【表1】 [図:0001432626000015.jpg] 【0171】 【表2】 [図:0001432626000016.jpg] 」 第3 原査定の拒絶の理由の概要 本願発明は、原査定時の請求項1及び請求項2の記載を引用する請求項3に係る発明に対応するところ、原査定の拒絶の理由のうち、本願発明である当該請求項3に係る発明についての理由2(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。 請求項3に係る発明は、その優先日前に発行された下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 記 <主たる引用文献> 引用文献1.特開2020-95248号公報 <周知技術を示す文献> 引用文献2.特開2007-271891号公報 引用文献3.特開2003-195479号公報 第4 当合議体の判断 1 引用文献に記載された事項と引用発明等の認定 (1) 引用文献1に記載された事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に発行された引用文献1(特開2020-95248号公報)には、以下の事項が記載されている。下線は当合議体が付したものである。 ア 特許請求の範囲 「【請求項1】 透明基板上にパターン形成用薄膜を有するフォトマスクブランクであって、 前記フォトマスクブランクは、前記パターン形成用薄膜をウェットエッチングにより前記透明基板上に転写パターンを有するフォトマスクを形成するための原版であって、 前記パターン形成用薄膜は、遷移金属と、ケイ素とを含有し、 前記パターン形成用薄膜は、柱状構造を有していることを特徴とするフォトマスクブランク。 【請求項2】 前記パターン形成用薄膜は、 前記フォトマスクブランクの断面を80000倍の倍率で走査電子顕微鏡観察により得られた画像について、前記パターン形成用薄膜の厚み方向の中心部を含む領域について、縦64ピクセル×横256ピクセルの画像データとして抽出し、前記画像データをフーリエ変換することにより得られた空間周波数スペクトル分布において、空間周波数の原点に対応した最大信号強度に対して1.0%以上の信号強度を有する空間周波数スペクトルが存在していることを特徴とする請求項1記載のフォトマスクブランク。 【請求項3】 前記パターン形成用薄膜は、前記1.0%以上の信号強度を有する信号が最大空間周波数を100%としたときに空間周波数の原点から2.0%以上離れた空間周波数にあることを特徴とする請求項2記載のフォトマスクブランク。 …(後略)」 イ 技術分野(【0001】) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、フォトマスクブランク、フォトマスクブランクの製造方法、フォトマスクの製造方法及び表示装置に関する。」 ウ 発明が解決しようとする課題・課題を解決するための手段・発明の効果(【0005】~【0022】) 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 近年の高精細(1000ppi以上)のパネル作製に使用される位相シフトマスクとしては、高解像のパターン転写を可能にするために、位相シフトマスクであって、かつホール径で、6μm以下、ライン幅で4μm以下の微細な位相シフト膜パターンが形成された位相シフトマスクが要求されている。具体的には、ホール径で1.5μmの微細な位相シフト膜パターンが形成された位相シフトマスクが要求されている。 また、より高解像のパターン転写を実現するため、露光光に対する透過率が15%以上の位相シフト膜を有する位相シフトマスクブランクおよび、露光光に対する透過率が15%以上の位相シフト膜パターンが形成された位相シフトマスクが要求されている。なお、位相シフトマスクブランクや位相シフトマスクの洗浄耐性(化学的特性)においては、位相シフト膜や位相シフト膜パターンの膜減りや表面の組成変化による光学特性の変化が抑制された洗浄耐性を有する位相シフト膜が形成された位相シフトマスクブランクおよび洗浄耐性を有する位相シフト膜パターンが形成された位相シフトマスクが求められている。 露光光に対する透過率の要求と洗浄耐性の要求を満たすため、位相シフト膜を構成する金属シリサイド化合物(金属シリサイド系材料)における金属とケイ素の原子比率におけるケイ素の比率を高くすることが効果的であるが、ウェットエッチング速度が大幅に遅く(ウェットエッチング時間が長く)なるとともに、ウェットエッチング液による基板へのダメージが発生し、透明基板の透過率が低下する等の問題があった。 そして、遷移金属とケイ素とを含有する遮光膜を備えたバイナリマスクブランクにおいて、ウェットエッチングによって遮光膜に遮光パターンを形成する際にも、洗浄耐性についての要求があり、上記と同様の問題があった。 【0006】 そこで本発明は、上述の問題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、遷移金属とケイ素とを含有する位相シフト膜や遮光膜といったパターン形成用薄膜に転写パターンをウェットエッチングにより形成する際に、ウェットエッチング時間を短縮でき、良好な断面形状を有する転写パターンが形成できるフォトマスクブランク、フォトマスクブランクの製造方法、フォトマスクの製造方法及び表示装置の製造方法を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者はこれらの問題点を解決するための方策を鋭意検討した。まず、パターン形成用薄膜における遷移金属とケイ素の原子比率を、遷移金属:ケイ素が1:3以上である材料とし、パターン形成用薄膜におけるウェットエッチング液によるウェットエッチング時間を短縮するため、パターン形成用薄膜に酸素(O)が多く含まれるように成膜室内に導入するスパッタリングガス中に含まれる酸素ガスを調整してパターン形成用薄膜を形成した。その結果、転写パターンを形成するためのウェットエッチング速度は速くなったものの、位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜においては、露光光に対する屈折率が低下するために、所望の位相差(例えば180°)を得るための必要な膜厚が厚くなってしまう。また、バイナリマスクブランクにおける遮光膜においては、露光光に対する消衰係数が低下するために、所望の遮光性能(例えば、光学濃度(OD)が3以上)を得るための必要な膜厚が厚くなってしまう。パターン形成用薄膜の膜厚が厚くなることは、ウェットエッチングによるパターン形成においては不利であるとともに、膜厚が厚くなるため、ウェットエッチング時間の短縮効果としては限界があった。一方で、上述した遷移金属とケイ素の原子比率(遷移金属:ケイ素=1:3以上)とすると、パターン形成用薄膜の洗浄耐性を高められる等の有利な点があるため、この点においても、上述した遷移金属とケイ素の組成比から外れるようにすることは好ましくない。 【0008】 そこで、本発明者は発想を転換し、成膜室内におけるスパッタリングガスの圧力を調整して、膜構造を変えることを検討した。基板上にパターン形成用薄膜を成膜する際には、成膜室内におけるスパッタリングガス圧力を0.1~0.5Paとすることが通常である。しかしながら、本発明者は、スパッタリングガス圧力をあえて0.5Paよりも大きくして、パターン形成用薄膜を成膜した。そして、0.8Pa以上3.0Pa以下のスパッタリングガス圧力でパターン形成用薄膜を成膜したところ、薄膜としての好適な特性を備えたうえで、パターン形成用薄膜に転写パターンをウェットエッチングにより形成する際に、エッチング時間を大幅に短縮でき、良好な断面形状を有する転写パターンが形成できることを見出した。そして、このようにして成膜されたパターン形成用薄膜は、通常のパターン形成用薄膜には見られない、柱状構造を有していた。本発明は、以上のような鋭意検討の結果なされたものであり、以下の構成を有する。 【0009】 (構成1)透明基板上にパターン形成用薄膜を有するフォトマスクブランクであって、 前記フォトマスクブランクは、前記パターン形成用薄膜をウェットエッチングにより前記透明基板上に転写パターンを有するフォトマスクを形成するための原版であって、 前記パターン形成用薄膜は、遷移金属と、ケイ素とを含有し、 前記パターン形成用薄膜は、柱状構造を有していることを特徴とするフォトマスクブランク。 …(中略)… 【発明の効果】 【0020】 本発明に係るフォトマスクブランクまたはフォトマスクブランクの製造方法によれば、転写パターン用薄膜をウェットエッチングにより要求される微細な転写パターンを形成する際に、パターン形成用薄膜を洗浄耐性等の視点からケイ素リッチな金属シリサイド化合物にした場合であっても、ウェットエッチング液による基板へのダメージを起因とした透明基板の透過率の低下がなく、短いエッチング時間で、良好な断面形状を有する転写パターンが形成できるフォトマスクブランクを得ることができる。 …(後略)」 エ 発明を実施するための形態(【0024】~【0063】) 「【発明を実施するための形態】 【0024】 実施の形態1.2. 実施の形態1、2では、位相シフトマスクブランクについて説明する。実施の形態1の位相シフトマスクブランクは、エッチングマスク膜に所望のパターンが形成されたエッチングマスク膜パターンをマスクにして、位相シフト膜をウェットエッチングにより透明基板上に位相シフト膜パターンを有する位相シフトマスクを形成するための原版である。また、実施の形態2の位相シフトマスクブランクは、レジスト膜に所望のパターンが形成されたレジスト膜パターンをマスクにして、位相シフト膜をウェットエッチングにより透明基板上に位相シフト膜パターンを有する位相シフト膜を形成するための原版である。 【0025】 図1は実施の形態1にかかる位相シフトマスクブランク10の膜構成を示す模式図である。 図1に示す位相シフトマスクブランク10は、透明基板20と、透明基板20上に形成された位相シフト膜30と、位相シフト膜30上に形成されたエッチングマスク膜40とを備える。 図2は実施の形態2にかかる位相シフトマスクブランク10の膜構成を示す模式図である。 図2に示す位相シフトマスクブランク10は、透明基板20と、透明基板20上に形成された位相シフト膜30とを備える。 以下、実施の形態1および実施の形態2の位相シフトマスクブランク10を構成する透明基板20、位相シフト膜30およびエッチングマスク膜40について説明する。」 「【図1】 [図:0001432626000017.jpg] 【図2】 [図:0001432626000018.jpg] 」 「【0026】 透明基板20は、露光光に対して透明である。透明基板20は、表面反射ロスが無いとしたときに、露光光に対して85%以上の透過率、好ましくは90%以上の透過率を有するものである。透明基板20は、ケイ素と酸素を含有する材料からなり、合成石英ガラス、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、低熱膨張ガラス(SiO2-TiO2ガラス等)などのガラス材料で構成することができる。透明基板20が低熱膨張ガラスから構成される場合、透明基板20の熱変形に起因する位相シフト膜パターンの位置変化を抑制することができる。また、表示装置用途で使用される透明基板20は、一般に矩形状の基板であって、該透明基板の短辺の長さは300mm以上であるものが使用される。本発明は、透明基板の短辺の長さが300mm以上の大きなサイズであっても、透明基板上に形成される例えば2.0μm未満の微細な位相シフト膜パターンを安定して転写することができる位相シフトマスクを提供可能な位相シフトマスクブランクである。 【0027】 位相シフト膜30は、遷移金属と、ケイ素とを含有する遷移金属シリサイド系材料で構成される。遷移金属として、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)などが好適であり、特に、モリブデン(Mo)であるとさらに好ましい。 また、位相シフト膜30は、少なくとも窒素または酸素を含有していることが好ましい。上記遷移金属シリサイド系材料において、軽元素成分である酸素は、同じく軽元素成分である窒素と比べて、消衰係数を下げる効果があるため、所望の透過率を得るための他の軽元素成分(窒素など)の含有率を少なくすることができるとともに、位相シフト膜30の表面および裏面の反射率も効果的に低減することができる。また、上記遷移金属シリサイド系材料において、軽元素成分である窒素は、同じく軽元素成分である酸素と比べて、屈折率を下げない効果があるため、所望の位相差を得るための膜厚を薄くできる。また、位相シフト膜30に含まれる酸素と窒素を含む軽元素成分の合計含有率は、40原子%以上が好ましい。さらに好ましくは、40原子%以上70原子%以下、50原子%以上65原子%以下が望ましい。また、位相シフト膜30に酸素が含まれる場合は、酸素の含有率は、0原子%超40原子%以下であることが、欠陥品質、耐薬品性に於いて望ましい。 遷移金属シリサイド系材料としては、例えば、遷移金属シリサイドの窒化物、遷移金属シリサイドの酸化物、遷移金属シリサイドの酸化窒化物、遷移金属シリサイドの酸化窒化炭化物が挙げられる。また、遷移金属シリサイド系材料は、モリブデンシリサイド系材料(MoSi系材料)、ジルコニウムシリサイド系材料(ZrSi系材料)、モリブデンジルコニウムシリサイド系材料(MoZrSi系材料)であると、ウェットエッチングによる優れたパターン断面形状が得られやすいという点で好ましく、特にモリブデンシリサイド系材料(MoSi系材料)であると好ましい。 また、位相シフト膜30には、上述した酸素、窒素の他に、膜応力の低減やウェットエッチングレートを制御する目的で、炭素やヘリウム等の他の軽元素成分を含有してもよい。 位相シフト膜30は、透明基板20側から入射する光に対する反射率(以下、裏面反射率と記載する場合がある)を調整する機能と、露光光に対する透過率と位相差とを調整する機能とを有する。 位相シフト膜30は、スパッタリング法により形成することができる。 【0028】 この位相シフト膜30は柱状構造を有している。この柱状構造は、位相シフト膜30を断面SEM観察により確認することができる。すなわち、本発明における柱状構造は、位相シフト膜30を構成する遷移金属とケイ素とを含有する遷移金属シリサイド化合物の粒子が、位相シフト膜30の膜厚方向(上記粒子が堆積する方向)に向かって伸びる柱状の粒子構造を有する状態をいう。なお、本願においては、膜厚方向の長さがその垂直方向の長さよりも長いものを柱状の粒子としている。すなわち、位相シフト膜30は、膜厚方向に向かって伸びる柱状の粒子が、透明基板20の面内に渡って形成されている。また、位相シフト膜30は、成膜条件(スパッタリング圧力など)を調整することにより、柱状の粒子よりも相対的に密度の低い疎の部分(以下、単に「疎の部分」ということもある)も形成されている。なお、位相シフト膜30は、ウェットエッチングの際のサイドエッチングを効果的に抑制し、パターン断面形状をさらに良化するために、位相シフト膜30の柱状構造の好ましい形態としては、膜厚方向に伸びる柱状の粒子が、膜厚方向に不規則に形成されているのが好ましい。さらに好ましくは、位相シフト膜30の柱状の粒子は、膜厚方向の長さが不揃いな状態であるのが好ましい。そして、位相シフト膜30の疎の部分は、膜厚方向において連続的に形成されていることが好ましい。また、位相シフト膜30の疎の部分は、膜厚方向に垂直な方向おいて断続的に形成されていることが好ましい。位相シフト膜30の柱状構造の好ましい形態としては、上記断面SEM観察により得られた画像について、フーリエ変換した指標を用いて、以下のようにあらわすことができる。すなわち、位相シフト膜30の柱状構造は、位相シフトマスクブランクの断面を80000倍の倍率で断面SEM観察により得られた画像について、位相シフト膜30の厚み方向の中心部を含む領域について、縦64ピクセル×横256ピクセルの画像データとして抽出し、この画像データをフーリエ変換により得られた空間周波数スペクトルは、空間周波数の原点に対応した最大信号強度に対して1.0%以上の信号強度を有する状態であることが好ましい。位相シフト膜30を上記に説明した柱状構造とすることにより、ウェットエッチング液を用いたウェットエッチングの際、位相シフト膜30の膜厚方向にウェットエッチング液が浸透しやすくなるので、ウェットエッチング速度が速くなり、ウェットエッチング時間を大幅に短縮することができる。従って、位相シフト膜30が、ケイ素リッチな金属シリサイド化合物であっても、ウェットエッチング液による基板へのダメージを起因とした透明基板の透過率の低下がない。また、位相シフト膜30が膜厚方向に伸びる柱状構造を有しているので、ウェットエッチングの際のサイドエッチングが抑制されるので、パターン断面形状も良好となる。 【0029】 また、位相シフト膜30は、フーリエ変換することにより得られた空間周波数スペクトル分布の最大信号強度に対する1.0%以上の強度信号を有する信号が最大空間周波数を100%としたときに空間周波数の原点から2.0%以上離れた空間周波数にあることが好ましい。最大信号強度に対する1.0%以上の強度信号を有する信号が2.0%以上離れているということは、一定以上高い空間周波数成分が含まれていることを表している。すなわち、位相シフト膜30が微細な柱状構造である状態を示しており、この空間周波数が原点から離れた位置にあるほど位相シフト膜30をウェットエッチングにより形成して得られる位相シフト膜パターン30aのラインエッジラフネスが小さくなるので好ましい。 【0030】 位相シフト膜30に含まれる遷移金属とケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:3以上1:15以下であることが好ましい。この範囲であると、位相シフト膜30のパターン形成時におけるウェットエッチングレート低下を、柱状構造により抑制する効果を大きくすることができる。また、位相シフト膜30の洗浄耐性を高めることができ、透過率を高めることも容易となる。位相シフト膜30の洗浄耐性を高める視点からは、位相シフト膜30に含まれる遷移金属とケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:4以上1:15以下、さらに好ましくは、遷移金属:ケイ素=1:5以上1:15以下が望ましい。 …(中略)… 【0060】 実施の形態5. 実施の形態5では、表示装置の製造方法について説明する。表示装置は、上述した位相シフトマスクブランク10を用いて製造された位相シフトマスク100を用い、または上述した位相シフトマスク100の製造方法によって製造された位相シフトマスク100を用いる工程(マスク載置工程)と、表示装置上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程(露光工程)とを行うことによって製造される。 以下、各工程を詳細に説明する。 …(後略)」 オ 実施例3(【0086】~【0094】) 「【0086】 実施例3. A.位相シフトマスクブランクおよびその製造方法 実施例3の位相シフトマスクブランクは、実施例1の位相シフトマスクブランクにおけるエッチングマスク膜を有しない位相シフトマスクブランクである。 実施例3の位相シフトマスクブランクを製造するため、実施例1と同様に、透明基板20として、1214サイズ(1220mm×1400mm)の合成石英ガラス基板を準備した。 実施例1と同じ成膜方法を用い透明基板20の主表面上に位相シフト膜30を形成するため、まず、第1チャンバー内のスパッタリングガス圧力を1.4Paにした状態で、アルゴン(Ar)ガスと、窒素(N2)ガスと、ヘリウム(He)ガスで構成される不活性ガス(Ar:18sccm、N2:13.5sccm、He:50sccm)を導入した。この成膜条件により、透明基板20上にモリブデンシリサイドの酸化窒化物からなる位相シフト膜30(膜厚:150nm)を形成した。 このようにして、透明基板20上に、位相シフト膜30が形成された位相シフトマスクブランク10を得た。 【0087】 得られた位相シフトマスクブランク10の位相シフト膜について、レーザーテック社製のMPM-100により透過率、位相差を測定した。位相シフト膜の透過率、位相差の測定には、同一のトレイにセットして作製された、合成石英ガラス基板の主表面上に位相シフト膜30が成膜された位相シフト膜付き基板(ダミー基板)を用いた。その結果、透過率は24%(波長:405nm)位相差は183度(波長:405nm)であった。 【0088】 この得られた位相シフトマスクブランク10の位相シフト膜30について、X線光電子分光法(XPS)による深さ方向の組成分析を行った結果、実施例1と同様に、位相シフト膜30は、深さ方向に向かって、各構成元素の含有率はほぼ一定であった。また、モリブデンとケイ素の原子比率は、1:5であり、1:3以上1:15以下の範囲内であった。また、軽元素である酸素、窒素、炭素の合計含有率は、52原子%であり、50原子%以上65原子%以下の範囲内であった。また、酸素の含有率は、0.3原子%であり、0原子%超40原子%以下の範囲内であった。 【0089】 次に、得られた位相シフトマスクブランク10の転写パターン形成領域の中央の位置において、80000倍の倍率で断面SEM観察を行った結果、位相シフト膜30が、柱状構造を有していることが確認できた。すなわち、位相シフト膜30を構成するモリブデンシリサイド化合物の粒子が、位相シフト膜30の膜厚方向に向かって伸びる柱状の粒子構造を有していることが確認できた。そして位相シフト膜30の柱状の粒子構造は、膜厚方向の柱状の粒子が不規則に形成されており、かつ、柱状の粒子の膜厚方向の長さも不揃いな状態であることが確認できた。また、位相シフト膜30の疎の部分は、膜厚方向において連続的に形成されていることも確認できた。さらに、この断面SEM観察により得られた画像について、位相シフト膜30の厚み方向の中心部を含む領域について、縦64ピクセル×横256ピクセルの画像データとして抽出した(図10(a))。さらに、図10(a)に示す画像データについてフーリエ変換を行った(図10(b))。フーリエ変換により得られた空間周波数スペクトル分布において、空間周波数の原点の信号強度(最大信号強度)は31590000で、上記最大信号強度とは別に、47230の信号強度を有する空間周波数スペクトルが存在していることを確認した。これは、空間周波数の原点に対応した最大信号強度に対して、47230/3159000=0.015(すなわち1.5%)となり、位相シフト膜30は、1.0%以上の信号強度を有する柱状構造であった。 【0090】 また、図10(b)のフーリエ変換の画像について、空間周波数の原点、すなわち、図10(b)の画像の中心を原点(0)として、横軸256ピクセルの両端を1(100%)としたとき、上記空間周波数の原点に対応した最大信号強度に対して1.5%の信号強度の信号は、上記原点から0.078、すなわち、7.8%離れた位置に信号を有する、空間周波数の大きい微細な柱状構造を持った位相シフト膜30であった。 また、実施例1と同様に、この位相シフト膜30の膜厚中心付近において、暗視野平面STEM観察を行った。その結果、実施例1と同様に位相シフト膜30には、各柱状の粒子と、疎の部分が形成されていることが確認された。 …(中略)… 【0094】 なお、上述の実施例では、遷移金属としてモリブデンを用いた場合を説明したが、他の遷移金属の場合でも上述と同等の効果が得られる。 また、上述の実施例では、表示装置製造用の位相シフトマスクブランクや、表示装置製造用の位相シフトマスクの例を説明したが、これに限られない。本発明の位相シフトマスクブランクや位相シフトマスクは、半導体装置製造用、MEMS製造用、プリント基板用等にも適用できる。また、パターン形成用薄膜として遮光膜を有するバイナリマスクブランクや遮光膜パターンを有するバイナリマスクにおいても、本発明を適用することが可能である。 また、上述の実施例では、透明基板のサイズが、1214サイズ(1220mm×1400mm×13mm)の例を説明したが、これに限られない。表示装置製造用の位相シフトマスクブランクの場合、大型(Large Size)の透明基板が使用され、該透明基板のサイズは、一辺の長さが、300mm以上である。表示装置製造用の位相シフトマスクブランクに使用する透明基板のサイズは、例えば、330mm×450mm以上2280mm×3130mm以下である。…(後略)」 (2) 引用発明の認定 前記(1)に摘記した引用文献1の記載事項を総合すると、引用文献1には、実施の形態5の表示装置の製造方法で用いられる実施の形態2の位相シフトマスクブランクについて、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 <引用発明> 「透明基板上にパターン形成用薄膜を有するフォトマスクブランクであって、 前記フォトマスクブランクは、前記パターン形成用薄膜をウェットエッチングにより前記透明基板上に転写パターンを有するフォトマスクを形成するための原版であって、 前記パターン形成用薄膜は、遷移金属と、ケイ素とを含有し、 前記パターン形成用薄膜は、柱状構造を有しており、(【請求項1】) 前記パターン形成用薄膜は、 前記フォトマスクブランクの断面を80000倍の倍率で走査電子顕微鏡観察により得られた画像について、前記パターン形成用薄膜の厚み方向の中心部を含む領域について、縦64ピクセル×横256ピクセルの画像データとして抽出し、前記画像データをフーリエ変換することにより得られた空間周波数スペクトル分布において、空間周波数の原点に対応した最大信号強度に対して1.0%以上の信号強度を有する空間周波数スペクトルが存在しており、(【請求項2】) 前記パターン形成用薄膜は、前記1.0%以上の信号強度を有する信号が最大空間周波数を100%としたときに空間周波数の原点から2.0%以上離れた空間周波数にあり、(【請求項3】) フォトマスクブランクは、位相シフトマスクブランク10であって、(【0024】) 表示装置製造用の位相シフトマスクブランクであり、(【0094】) 位相シフトマスクブランク10は、透明基板20と、透明基板20上に形成された位相シフト膜30とを備え、(【0024】) 位相シフト膜30は、遷移金属と、ケイ素とを含有する遷移金属シリサイド系材料で構成され、(【0027】) 遷移金属として、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)などが好適であり、チタン(Ti)が好適であり、特に、モリブデン(Mo)であるとさらに好ましく、(【0027】) 位相シフト膜30は、少なくとも窒素を含有しており、(【0027】) 位相シフト膜30に酸素が含まれる場合は、酸素の含有率は、0原子%超40原子%以下であることが、欠陥品質、耐薬品性に於いて望ましく、(【0027】) 遷移金属シリサイド系材料としては、遷移金属シリサイドの窒化物が挙げられ、【0027】 この位相シフト膜30は柱状構造を有しており、この柱状構造は、位相シフト膜30を断面SEM観察により確認することができ、柱状構造は、位相シフト膜30を構成する遷移金属とケイ素とを含有する遷移金属シリサイド化合物の粒子が、位相シフト膜30の膜厚方向(上記粒子が堆積する方向)に向かって伸びる柱状の粒子構造を有する状態をいい、位相シフト膜30の柱状構造は、位相シフトマスクブランクの断面を80000倍の倍率で断面SEM観察により得られた画像について、位相シフト膜30の厚み方向の中心部を含む領域について、縦64ピクセル×横256ピクセルの画像データとして抽出し、この画像データをフーリエ変換により得られた空間周波数スペクトルは、空間周波数の原点に対応した最大信号強度に対して1.0%以上の信号強度を有する状態であり、位相シフト膜30を上記に説明した柱状構造とすることにより、ウェットエッチング液を用いたウェットエッチングの際、位相シフト膜30の膜厚方向にウェットエッチング液が浸透しやすくなるので、ウェットエッチング速度が速くなり、ウェットエッチング時間を大幅に短縮することができ、従って、位相シフト膜30が、ケイ素リッチな金属シリサイド化合物であっても、ウェットエッチング液による基板へのダメージを起因とした透明基板の透過率の低下がなく、位相シフト膜30が膜厚方向に伸びる柱状構造を有しているので、ウェットエッチングの際のサイドエッチングが抑制されるので、パターン断面形状も良好となり、(【0028】) 位相シフト膜30は、フーリエ変換することにより得られた空間周波数スペクトル分布の最大信号強度に対する1.0%以上の強度信号を有する信号が最大空間周波数を100%としたときに空間周波数の原点から2.0%以上離れた空間周波数にあり、最大信号強度に対する1.0%以上の強度信号を有する信号が2.0%以上離れているということは、一定以上高い空間周波数成分が含まれていることを表しており、すなわち、位相シフト膜30が微細な柱状構造である状態を示しており、この空間周波数が原点から離れた位置にあるほど位相シフト膜30をウェットエッチングにより形成して得られる位相シフト膜パターン30aのラインエッジラフネスが小さくなるので好ましく、(【0029】) 位相シフト膜30の洗浄耐性を高める視点からは、位相シフト膜30に含まれる遷移金属とケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:4以上1:15以下が望ましい、(【0030】) フォトマスクブランク」 (3) 引用文献1技術事項の認定 前記(1)に摘記した引用文献1の記載事項から、引用文献1には、引用発明の位相シフトマスクブランクの具体例としての実施例3の位相シフトマスクブランクについて、次の技術事項(以下「引用文献1技術事項」という。)が記載されていると認められる。 <引用文献1技術事項> 「引用発明の位相シフトマスクブランクの実施例3について、(【0086】) 位相シフト膜30は、モリブデンとケイ素の原子比率は、1:5であり、軽元素である酸素、窒素、炭素の合計含有率は、52原子%であり、酸素の含有率は、0.3原子%であり、(【0088】) 空間周波数の原点に対応した最大信号強度に対して1.5%の信号強度の信号は、上記原点から7.8%離れた位置に信号を有する、空間周波数の大きい微細な柱状構造を持った位相シフト膜30であること。(【0090】)」 2 対比 (1) 対比分析 本願発明と引用発明を対比する。 ア 構成Xの観点 構成Xは、「透明基板上にパターン形成用薄膜を有する表示装置製造用フォトマスクブランク」の発明であることを特定するものである。 引用発明は、「透明基板上にパターン形成用薄膜を有するフォトマスクブランク」の発明であって、「表示装置製造用の位相シフトマスクブランク」である。 そうすると、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。 「透明基板上にパターン形成用薄膜を有する表示装置製造用フォトマスクブランク」の発明である点。 イ 構成Aの観点 構成Aは、「前記パターン形成用薄膜は、チタン(Ti)と、ケイ素(Si)と、窒素(N)を含有するチタンシリサイド化合物からな[る]」ことである。 (ア) 引用発明は、次のa~dの構成を備えている。 a 「位相シフト膜30は、遷移金属と、ケイ素とを含有する遷移金属シリサイド系材料で構成され[ること。]」 b 「遷移金属として、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)などが好適であり、チタン(Ti)が好適であり、特に、モリブデン(Mo)であるとさらに好まし[いこと。]」 c 「位相シフト膜30は、少なくとも窒素を含有して[いること。]」 d 「遷移金属シリサイド系材料としては、遷移金属シリサイドの窒化物が挙げられ[ること。]」 (イ) そうすると、構成Aの観点における本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のa及びbに示すとおりである。 a 構成Aの観点における一致点 「前記パターン形成用薄膜は、「モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)」のうちの一つと、ケイ素(Si)と、窒素(N)を含有する遷移金属シリサイド化合物からな[る]」点。 b 構成Aの観点における相違点 遷移金属シリサイド化合物における遷移金属元素が、 本願発明においては、「チタン(Ti)」であるのに対して、 引用発明においては、「モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)」のうちの一つである点。 ウ 構成Bの観点 構成Bは、「前記パターン形成用薄膜は、チタンとケイ素とを含有するチタンシリサイド化合物の粒子が、前記パターン形成用薄膜の膜厚方向に向かって伸びる柱状構造を有[する]」ことである。 (ア) 引用発明においては、「この位相シフト膜30は柱状構造を有しており」、「柱状構造は、位相シフト膜30を構成する遷移金属とケイ素とを含有する遷移金属シリサイド化合物の粒子が、位相シフト膜30の膜厚方向(上記粒子が堆積する方向)に向かって伸びる柱状の粒子構造を有する状態をい[う]」。 (イ) 前記(ア)及び前記イを踏まえると、構成Bの観点における本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のa及びbに示すとおりである。 a 構成Bの観点における一致点 「前記パターン形成用薄膜は、遷移金属元素とケイ素とを含有する遷移金属シリサイド化合物の粒子が、前記パターン形成用薄膜の膜厚方向に向かって伸びる柱状構造を有[する]」点。 b 構成Bの観点における相違点 遷移金属シリサイド化合物における遷移金属元素が、 本願発明においては、「チタン(Ti)」であるのに対して、 引用発明においては、「モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)」のうちの一つである点。 エ 構成Cの観点 構成Cは、「前記パターン形成用薄膜に含まれる酸素の含有率は、7原子%以下であ[る]」ことである。 (ア) 引用発明においては、「位相シフト膜30に酸素が含まれる場合は、酸素の含有率は、0原子%超40原子%以下であることが、欠陥品質、耐薬品性に於いて望まし[い]」とするものである。 (イ) そうすると、構成Cの観点における本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次のa及びbに示すとおりである。 a 構成Cの観点における一致点 「前記パターン形成用薄膜に含まれる酸素の含有率は、40原子%以下であ[る]」(との条件を満たす)点。 b 構成Cの観点における相違点 パターン形成用薄膜に含まれる酸素の含有率が、 本願発明においては、「7原子%以下」であるのに対して、 引用発明においては、「酸素が含まれる場合は、酸素の含有率は、0原子%超40原子%以下」である点。 オ 構成Dの観点 構成Dは、次の技術事項である。 「前記パターン形成用薄膜は、前記フォトマスクブランクの断面を80000倍の倍率で走査型電子顕微鏡観察により得られた画像における前記パターン形成用薄膜の厚み方向の中心部を含む領域について、縦64ピクセル×横256ピクセルの画像データとして抽出し、前記画像データをフーリエ変換することにより得られた空間周波数スペクトル分布において、空間周波数の原点に対応した最大信号強度に対して0.8%以上の信号強度を有する信号が、最大空間周波数を100%としたときに空間周波数の原点から6.7%以上離れた空間周波数にある空間周波数スペクトルが存在している」こと。 (ア) 引用発明は、次の構成を備える。 「位相シフト膜30の柱状構造は、位相シフトマスクブランクの断面を80000倍の倍率で断面SEM観察により得られた画像について、位相シフト膜30の厚み方向の中心部を含む領域について、縦64ピクセル×横256ピクセルの画像データとして抽出し、この画像データをフーリエ変換により得られた空間周波数スペクトルは、空間周波数の原点に対応した最大信号強度に対して1.0%以上の信号強度を有する状態であり」、「位相シフト膜30は、フーリエ変換することにより得られた空間周波数スペクトル分布の最大信号強度に対する1.0%以上の強度信号を有する信号が最大空間周波数を100%としたときに空間周波数の原点から2.0%以上離れた空間周波数にあ[る]」こと。 (イ) そうすると、構成Dの観点における本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次のa及びbに示すとおりである。 a 構成Dの観点における一致点 「前記パターン形成用薄膜は、前記フォトマスクブランクの断面を80000倍の倍率で走査型電子顕微鏡観察により得られた画像における前記パターン形成用薄膜の厚み方向の中心部を含む領域について、縦64ピクセル×横256ピクセルの画像データとして抽出し、前記画像データをフーリエ変換することにより得られた空間周波数スペクトル分布において、空間周波数の原点に対応した最大信号強度に対して所定の値(「p」とおく。)%以上の信号強度を有する信号が、最大空間周波数を100%としたときに空間周波数の原点から所定の値(「q」とおく。)%以上離れた空間周波数にある空間周波数スペクトルが存在している」点。 以下、この点を「フーリエ解析条件」という。 b 構成Dの観点における相違点 「フーリエ解析条件」における(p、q)の値が、 本願発明においては、(p、q)=(0.8、6.7)であるのに対して、 引用発明においては、(p、q)=(1.0、2.0)である点。 (2) 一致点及び相違点 前記(1)の対比分析の結果をまとめると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次のア及びイに示すとおりである。 ア 一致点 「透明基板上にパターン形成用薄膜を有する表示装置製造用フォトマスクブランクであって、 前記パターン形成用薄膜は、「モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)」のうちの一つと、ケイ素(Si)と、窒素(N)を含有する遷移金属シリサイド化合物からなり、 前記パターン形成用薄膜は、遷移金属元素とケイ素とを含有する遷移金属シリサイド化合物の粒子が、前記パターン形成用薄膜の膜厚方向に向かって伸びる柱状構造を有し、 前記パターン形成用薄膜に含まれる酸素の含有率は、40原子%以下であり、 前記パターン形成用薄膜は、前記フォトマスクブランクの断面を80000倍の倍率で走査型電子顕微鏡観察により得られた画像における前記パターン形成用薄膜の厚み方向の中心部を含む領域について、縦64ピクセル×横256ピクセルの画像データとして抽出し、前記画像データをフーリエ変換することにより得られた空間周波数スペクトル分布において、空間周波数の原点に対応した最大信号強度に対して所定の値p%以上の信号強度を有する信号が、最大空間周波数を100%としたときに空間周波数の原点から所定の値q%以上離れた空間周波数にある空間周波数スペクトルが存在している 表示装置製造用フォトマスクブランク」の発明である点。 イ 相違点 (ア) 相違点1(チタン(Ti)の選択及び酸素含有率の好適化に係る相違点) 本願発明においては、 遷移金属シリサイド化合物における遷移金属元素が「チタン(Ti)」であり、 パターン形成用薄膜に含まれる酸素の含有率が「7原子%以下」であるのに対して、 引用発明においては、 遷移金属シリサイド化合物における遷移金属元素が「モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)」のうちの一つであり、 「酸素が含まれる場合は、酸素の含有率は、0原子%超40原子%以下」である点。 (イ) 相違点2(フーリエ解析条件に係る相違点) フーリエ解析条件(「前記パターン形成用薄膜は、前記フォトマスクブランクの断面を80000倍の倍率で走査型電子顕微鏡観察により得られた画像における前記パターン形成用薄膜の厚み方向の中心部を含む領域について、縦64ピクセル×横256ピクセルの画像データとして抽出し、前記画像データをフーリエ変換することにより得られた空間周波数スペクトル分布において、空間周波数の原点に対応した最大信号強度に対して所定の値p%以上の信号強度を有する信号が、最大空間周波数を100%としたときに空間周波数の原点から所定の値q%以上離れた空間周波数にある空間周波数スペクトルが存在している」との条件)における(p、q)の値が、 本願発明においては、(p、q)=(0.8、6.7)であるのに対して、 引用発明においては、(p、q)=(1.0、2.0)である点。 3 判断 (1) 相違点についての検討 ア 相違点1(チタン(Ti)の選択及び酸素含有率の好適化に係る相違点)について (ア) 検討の焦点-選択発明の成立性 遷移金属シリサイドにおける遷移金属元素が、引用発明においては、「モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)」のうちの一つであり、引用発明を開示する引用文献1には、具体的な実験例に相当する実施例としては、遷移金属元素が「モリブデン(Mo)」のものしか開示されておらず、「酸素が含まれる場合は、酸素の含有率は、0原子%超40原子%以下」であるところ、前記の五つの遷移金属元素の選択肢から「チタン(Ti)」を選択し、酸素の含有率を「7原子%以下」に選択することについて、「選択発明」として進歩性を認めるべきか否かについて検討する。 (イ) 「チタン(Ti)」の選択について a 「チタン(Ti)」を選択したことの技術上の意義 前記第2の3に摘記した本願明細書における発明の詳細な説明の記載のうち、特に実施例の記載を参酌すると、モリブデンシリサイド系(MoSiON)の比較例1~3に比較して、チタンシリサイド系(TiSiON)の実施例1~3について次のi)からiv)までのことが理解できる。 i) 耐光性が高いこと(【0154】~【0155】参照)。 ii) 耐薬性が高いこと(【0156】~【0159】参照)。 iii) LER(line edge roughness)が小さく好ましいこと(【0160】~【0163】参照)。 iv) エッチングレートが高いこと(【0164】~【0171】参照)。 そして、相違点1のうち遷移金属元素としてチタン(Ti)を選択したことは、このような効果上の差違を生じるための必要条件であるということが理解できる。 b 「チタン(Ti)」を選択したことについての進歩性の評価 (a) 前記aのチタン(Ti)選択についての技術上の意義のうち、「iv) エッチングレートが高いこと」は、引用発明を開示する引用文献1の【発明が解決しようとする課題】及び【発明の効果】についての記載を参酌すると、引用発明が主たる目的としている効果であり、本願発明は引用発明の延長線上にいるものと位置づけられるといえる。 そうすると、引用発明の遷移金属元素の五つの選択肢のうちの実施例として開示されている「モリブデン(Mo)」以外のものとしては「タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)」の四つの選択肢しかないことも踏まえれば、「iv) エッチングレートが高いこと」という観点から、「モリブデン(Mo)」以外の選択肢についても実験的に検証して、遷移金属元素の選択の最適化又は好適化を図ることには、当業者には十分な動機があり、この最適化又は好適化の作業は、当業者にとっては通常の創作能力の発揮にすぎないというべきである。 (b) 次に、残る三つの技術上の意義である、「i) 耐光性の高いこと」、「ii) 耐薬性が高いこと」、及び、「iii) LER(line edge roughness)が小さく好ましいこと」について検討する。 まず、引用発明は、「位相シフト膜30の洗浄耐性を高める視点からは、位相シフト膜30に含まれる遷移金属とケイ素の原子比率は、遷移金属:ケイ素=1:4以上1:15以下が望まし[い]」ものであるとしていることから理解されるとおり、「ii) 耐薬性が高いこと」も、引用発明が目的とするものであり、この観点から各遷移金属元素を検証することも、引用発明の延長線上のことにすぎない。 また、引用発明は、「この空間周波数が原点から離れた位置にあるほど位相シフト膜30をウェットエッチングにより形成して得られる位相シフト膜パターン30aのラインエッジラフネスが小さくなるので好ましく」としていることから理解されるとおり、「iii) LER(line edge roughness)が小さく好ましいこと」も、引用発明が目的とするものであり、この観点から各遷移金属元素を検証することも、引用発明の延長線上のことにすぎない。 もっとも、「i) 耐光性の高いこと」については、引用文献1には明記はないものの、フォトマスクとして要求される基本的なことにすぎず、前記検証の指針に従って実験的に検証する結果として容易に発見されるものであるし、前記の「iv) エッチングレートが高いこと」や「ii) 耐薬性が高いこと」及び「iii) LER(line edge roughness)が小さく好ましいこと」に比較して、従たる効果であって、主たる効果を目的とした最適化・好適化が自明である以上、選択発明としての進歩性を認めるほどの効果の顕著性があるとは評価できない。 (c) 以上のとおりであるから、遷移金属元素して「チタン(Ti)」を選択したことの本願発明の技術上の意義を考慮しても、当該選択した点について進歩性を認めることはできない。 (ウ) 酸素の含有率が7原子%以下であることについて a 酸素の含有率が7原子%以下であることの技術上の意義 前記第2の3に摘記した明細書における実施例の記載(【0148】~【0149】参照)を参酌すると、酸素の含有率が7原子%以下である実施例1~3のフォトマスク100のパターン形成用薄膜パターン30aは、垂直に近い断面形状を有していたのに対して、酸素の含有率が8原子%である比較例5は、パターン形成用薄膜パターン30aの側面と透明基板の主表面との境界近傍において、必要なパターン形成用薄膜パターン30aの欠けがウェットエッチング時に生じていたことが理解できる。 さらに、実施例1~3に対して比較例5は、LERにおいても劣ることが理解できる(【0163】参照)。 そうすると、パターン形成用薄膜30の酸素の含有量が7原子%以下であることは、垂直に近い微細パターンの断面の形成及び良好なLERを得るための必要条件であるということが理解できる。 b 「酸素の含有率が7原子%以下」の選択についての進歩性の評価 他方、引用発明は、「位相シフト膜30に酸素が含まれる場合は、酸素の含有率は、0原子%超40原子%以下であることが、欠陥品質、耐薬品性に於いて望まし[い]」ものであるから、当業者は、酸素の含有率が高すぎると欠陥品質、耐薬品性の点で好ましくないことを理解することができる。 また、引用発明を開示する引用文献1には、モリブデンシリサイド系ではあるもの、「酸素の含有率は、0.3原子%であ[る]」もの(引用文献1技術事項)、すなわち、「0原子%超40原子%以下」のうちゼロに極めて近いものが実施例として開示されており、引用発明においては、「位相シフト膜30に酸素が含まれる場合は、酸素の含有率は、0原子%超」とされていることからみて、酸素が可及的に小さい含有率しか含まれない場合を当然に想定しているといえる。 そして、引用発明は、「ウェットエッチングの際のサイドエッチングが抑制されるので、パターン断面形状も良好となり」としているように、引用発明においても断面形状は評価の対象となっているものである。 そうすると、引用発明において、遷移金属元素の選択肢として「チタン(Ti)」を選択した上で、欠陥品質、断面形状や耐薬品性を考慮して、酸素含有量を可及的に少なくすることは、当業者が容易に想到し得たことであり、その具体的な値を実験的に好適化して決定することは、当業者にとっては通常の創作能力の発揮にすぎない。 以上のとおりであるから、本願発明における酸素の含有率が7原子%以下であることを限定したことの技術上の意義を踏まえても、「酸素の含有率が7原子%以下」と限定したことをもって進歩性を認めることはできない。 イ 相違点2(フーリエ解析条件に係る相違点)について (ア) 本願発明のフーリエ解析条件の技術上の意義 本願の明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、本願発明において、空間周波数の原点に対応した最大信号強度に対して0.8%以上の信号強度を有する信号の空間周波数があることは、柱状構造に明確な周期性があることに対応する(【0046】参照)。 そして、最大空間周波数を100%としたときに空間周波数の原点から6.7%以上離れた空間周波数であることは、パターン形成用薄膜30が微細な柱状構造である状態を示している(【0047】参照)。 (イ) 引用発明のフーリエ解析条件の技術上の意義 引用発明において、「位相シフト膜30は、フーリエ変換することにより得られた空間周波数スペクトル分布の最大信号強度に対する1.0%以上の強度信号を有する信号が最大空間周波数を100%としたときに空間周波数の原点から2.0%以上離れた空間周波数にあり、最大信号強度に対する1.0%以上の強度信号を有する信号が2.0%以上離れているということ」も、「一定以上高い空間周波数成分が含まれていることを表しており」、「位相シフト膜30が微細な柱状構造である状態を示して[いる]」とされている。 (ウ) 相違点2についての評価 本願発明におけるフーリエ解析条件の(p、q)は、チタンシリサイド系(TiSiON)の実験データに基づいて算出した値であり、引用発明における(p、q)は、モリブデンシリサイド系(MoSiON)の実験データに基づいて算出した値であるとの差はあるものの、両者は、パターン形成用薄膜が微細な柱状構造である状態を示しているという点において技術上の意義は同じであることを踏まえれば、引用発明において、遷移金属元素の選択肢として「チタン(Ti)」を選択した上で(p、q)の値を実験的に最適化又は好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎず、相違点2をもって進歩性を認めることはできない。 ウ 総合検討 前記ア及びイで検討したとおり、引用発明において、相違点1及び2に係る本願発明の構成を備えるようにすることは、引用発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本願発明が奏する効果としては、本願発明の構成が奏するものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。 したがって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2) 請求人の主張についての検討 ア 請求人の主張その1 a 請求人は、本願発明が進歩性を有する根拠として、次の(a)及び(b)の点を主張している。 (a) 引用文献1の実施例としては、遷移金属としてモリブデン(Mo)を用いた位相シフト膜30のみが記載されており、位相シフト膜がチタンを含むこと及びチタンシリサイド化合物であることは記載されていない。 (b) 空間周波数スペクトル分布に関する事項が確認されたのは遷移金属としてモリブデン(Mo)を用いた位相シフト膜30のみであるから、引用文献1には、本願発明の発明特定事項である「前記パターン形成用薄膜は、チタン(Ti)と、ケイ素(Si)と、窒素(N)を含有するチタンシリサイド化合物からなり」、「空間周波数の原点に対応した最大信号強度に対して0.8%以上の信号強度を有する信号が、最大空間周波数を100%としたときに空間周波数の原点から6.7%以上離れた空間周波数にある空間周波数スペクトルが存在している」ことは記載されていない。 b 請求人の上記主張は、相違点1及び相違点2に係る技術事項が引用文献1には記載されていないことを主張するものであるところ、引用文献1には、遷移金属元素の五つの選択肢の一つとしてチタン(Ti)が開示されており、これを選択した点に進歩性が認められないことは、前記(1)ア(イ)において検討したとおりであり、相違点2についても容易に想到し得たことであることは前記(1)イ(ウ)において検討したとおりであるから、請求人の主張は前記(1)ウの結論を左右するものではない。 イ 請求人の主張その2 (a) 請求人はまた、断面形状の角度が引用文献1の実施例1~3より本願の実施例1~3の方が優れていることや、引用文献1には、耐光性、耐薬性、LERの評価は記載されておらず、本願の実施例1~3は本願の比較例1~3(MoSiON膜)と比べて、耐光性、耐薬性、LERが優れており、本願発明は引用文献1の実施例のMoSiNO膜及び本願の比較例であるMoSiON膜と比べて予測できない顕著な効果を奏する旨主張している。 (b) 請求人の主張する効果が、「本願発明の構成が奏するものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果」といえないことは、前記(1)において検討したとおりであるから、請求人の主張は前記(1)ウの結論を左右するものではない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2024-011244

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