特許拒絶査定不服審判
2024-010014
測定装置
- 審判番号
- 2024-010014
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-092663
- 請求日
- 2024年06月17日
- 審決日
- 2025年07月03日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ドクター エンジニール ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト
- 【請求人代理人】寺町 健司
- 審判長/審判官
- 審判長 道祖土 新吾
- 審判官 小島 寛史
- 審判官 南川 泰裕
- 分類
- P18 .113-Z (G01R) / P18 .121-Z (G01R) / P18 .575-Z (G01R)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-92663号「測定装置」拒絶査定不服審判事件〔令和5年1月6日出願公開、特開2023-1887号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和4年6月8日(パリ条約による優先権主張2021年6月21日、ドイツ連邦共和国)の出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。なお、2021年(令和3年)6月21日を以下「優先日」という。
令和5年 6月27日付け:拒絶理由通知書
同年10月 2日 :意見書、手続補正書の提出
同年10月31日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和6年 1月18日 :意見書、手続補正書の提出
同年 2月13日付け:補正の却下の決定
同日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月21日 :原査定の謄本の送達)
同年 6月17日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和6年6月17日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年6月17日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 補正の内容
令和6年6月17日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の補正をするものであり、本件補正により、次の(1)に示す本件補正前(令和5年10月2日にされた手続補正後のものをいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は、後記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正された。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前
「【請求項1】
電流線(40)と、第1の測定位置(51)と、第2の測定位置(52)と、クーラントチャネル(30)と、前記クーラントチャネル(30)内に設けられたクーラント(80)と、を備える測定装置(20)であって、
前記電流線(40)は、前記クーラントチャネル(30)内に配置され、
前記第1の測定位置(51)が前記電流線(40)に設けられ、前記第2の測定位置(52)が前記電流線(40)に前記第1の測定位置(51)から離れて設けられ、
前記電流線(40)を通って流れる電流(I)により生じる前記電流線(40)の測定区間(41)での電圧を測定することが可能であり、
前記測定区間(41)が、前記第1の測定位置(51)と前記第2の測定位置(52)との間に画定され、
前記クーラント(80)が流体形態であり、少なくとも部分的に、前記第1の測定位置(51)と前記第2の測定位置(52)との間の領域で前記電流線(40)と直接接触する、測定装置(20)。」
(2) 本件補正後
「【請求項1】
測定区間(41)および前記測定区間(41)の外側に配置された第1の電流線区間(42)を有する電流線(40)と、第1の測定位置(51)と、第2の測定位置(52)と、クーラントチャネル壁(34)を有するクーラントチャネル(30)と、クーラントポンプ(100)により前記クーラントチャネル(30)に圧送され、前記クーラントチャネル(30)内に設けられたクーラント(80)と、を備える測定装置(20)であって、
前記電流線(40)の前記測定区間(41)および前記第1の電流線区間(42)と、第1の測定位置(51)と、第2の測定位置(52)とは、前記クーラントチャネル(30)内に配置されて前記クーラント(80)で冷却されており、
前記第1の測定位置(51)が前記電流線(40)に設けられ、前記第2の測定位置(52)が前記電流線(40)に前記第1の測定位置(51)から離れて設けられ、
前記電流線(40)を通って流れる電流(I)により生じる前記電流線(40)の測定区間(41)での電圧を測定することが可能であり、
前記測定区間(41)が、前記第1の測定位置(51)と前記第2の測定位置(52)との間に画定され、
前記クーラント(80)が液体からなる流体形態であり、少なくとも部分的に、前記第1の測定位置(51)と前記第2の測定位置(52)との間の領域で前記電流線(40)と直接接触する、測定装置(20)。」
2 補正の目的
(1) 本件補正のうち請求項1についてする補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項について、次のアからエの限定をするものである。
ア 「電流線(40)」について、「測定区間(41)および前記測定区間(41)の外側に配置された第1の電流線区間(42)を有する」ものに限定すること。
イ 「クーラントチャネル(30)」について、「クーラントチャネル壁(34)を有する」ものに限定すること。
ウ 「クーラント(80)」について、「クーラントポンプ(100)により前記クーラントチャネル(30)に圧送され[る]」ものであり、かつ、「液体からなる」ものに限定すること。
エ 「前記電流線(40)は、前記クーラントチャネル(30)内に配置され[る]」ことについて、より下位概念の「前記電流線(40)の前記測定区間(41)および前記第1の電流線区間(42)と、第1の測定位置(51)と、第2の測定位置(52)とは、前記クーラントチャネル(30)内に配置されて前記クーラント(80)で冷却されて[いる]」ことに限定すること。
(2) そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
(3) したがって、本件補正のうち請求項1についてする補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
3 独立特許要件の判断
本件補正のうち請求項1についてする補正は、前記2のとおり、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するから、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。
(1) 本件補正発明
ア 本件補正発明の認定と分説
本件補正発明は、前記1(2)に摘記した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
ここで、検討の便宜上、本件補正発明の構成を次のとおり構成Xと構成Aから構成Hまでに分説する。なお、必要に応じて改行を加えて表記した。また、参考図として、本願の【図1】に部材名を記入したものを掲載する。
<本件補正発明の分説>
A 測定区間(41)および前記測定区間(41)の外側に配置された第1の電流線区間(42)を有する電流線(40)と、
B1 第1の測定位置(51)と、第2の測定位置(52)と、
C クーラントチャネル壁(34)を有するクーラントチャネル(30)と、
D クーラントポンプ(100)により前記クーラントチャネル(30)に圧送され、前記クーラントチャネル(30)内に設けられたクーラント(80)と、を備える
X 測定装置(20)であって、
E 前記電流線(40)の前記測定区間(41)および前記第1の電流線区間(42)と、第1の測定位置(51)と、第2の測定位置(52)とは、前記クーラントチャネル(30)内に配置されて前記クーラント(80)で冷却されており、
B2 前記第1の測定位置(51)が前記電流線(40)に設けられ、前記第2の測定位置(52)が前記電流線(40)に前記第1の測定位置(51)から離れて設けられ、
F 前記電流線(40)を通って流れる電流(I)により生じる前記電流線(40)の測定区間(41)での電圧を測定することが可能であり、
G 前記測定区間(41)が、前記第1の測定位置(51)と前記第2の測定位置(52)との間に画定され、
H 前記クーラント(80)が液体からなる流体形態であり、少なくとも部分的に、前記第1の測定位置(51)と前記第2の測定位置(52)との間の領域で前記電流線(40)と直接接触する、
X 測定装置(20)。
<参考図>
【図1】
[図:0001429629000001.jpg]
イ 課題・作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある。なお、下線は、当合議体において付したものである。
「【背景技術】
【0002】
(特許文献1)に、平坦な半導体モジュールを有するパワー半導体回路であって、半導体モジュールが、電流伝導バスバー構成の上部バスバーに直接配置され、冷却デバイスがバスバー構成に一体化されている、パワー半導体回路が開示されている。
【0003】
(特許文献2)には、基体及び少なくとも1つの冷却リブを有するバスバーを冷却するためのデバイスと、電源回路とが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許第10 2004 018 469号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10 2016 200 724号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の1つの目的は、新規の測定装置、新規の電子回路、及び新規の車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、独立請求項の主題によって達成される。
【0007】
測定装置が、電流線と、第1の測定位置と、第2の測定位置と、クーラントとを備え、第1の測定位置が電流線に設けられ、第2の測定位置が電流線に第1の測定位置から離れて設けられ、電流線を通って流れる電流により生じる電流線の測定区間での電圧を測定することが可能であり、測定区間が、第1の測定位置と第2の測定位置との間に画定され、クーラントが流体形態であり、少なくとも部分的に、第1の測定位置と第2の測定位置との間の領域で電流線と直接接触する。クーラントは、測定位置の区間で電流線の良好な冷却を可能にし、したがって温度効果による測定への影響が小さくなる。すなわち、例えば、多くの材料の比電気抵抗は温度に依存する。冷却は、特に電流線での電流が高いときに有利である。
…(中略)…
【0012】
1つの好ましい実施形態によれば、測定装置は、クーラントチャネル壁を有するクーラントチャネルを備え、クーラントがクーラントチャネル内に設けられ、電流線の測定区間が、少なくとも部分的にクーラントチャネル内に配置される。クーラントチャネルの使用は、例えばクーラントポンプを用いてクーラントチャネル内にクーラントの流れを生成することを可能にする。
【0013】
1つの好ましい実施形態によれば、電流線は、少なくとも部分的にクーラントチャネルの測定区間の外側に配置される。測定区間の外側にある電流線の冷却は、電流線の電気抵抗、したがって電流線を通る電流の流れによる電力損失を減少させる。」
(2) 引用文献の記載事項及び引用発明等の認定
ア 引用文献2の記載事項及び引用発明の認定
(ア) 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先日前に発行された文献である特開昭50-149958号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。なお、当合議体により、後記(ウ)の引用発明の認定に用いる記載に下線を付した。
a 1頁左下欄12行~2頁左上欄10行、第1図、第2図、第4図
「この発明は、温度上昇にともなう抵抗値の変化を極小に押えかつ通電々流を従来のものより格段に大きくできるようにしたシャント抵抗に関するものである。
従来より使用されているシャント抵抗を第1図に沿って説明すると、第1図aは縦断面、第1図bは第1図のb-b線に沿って切断した状態を示す断面図であり、シャント抵抗は一般に温度係数の小さいマンガン板(当審注:引用文献2の末尾(4頁右下欄以降)に掲載された手続補正書により、「マンガン板」は「マンガニン板」に補正されている。これ以降に記載される「マンガン板」についても同様である。)1と電気端子2、絶縁物3、ねじ4とから構成されており、第2図に示すように、電源5によって電気的な負荷(たとえば、モータやヒータなど)6に通電する場合に、その通電々流を測定するのに用いられている。」
「(第1図)
[図:0001429629000002.jpg]
(第2図)
[図:0001429629000003.jpg]
」
「すなわち、電気回路の途中に直列にシャント抵抗7(この抵抗値は既知)を接続し、通電時のシャント抵抗7の両端間の電圧降下を電圧計8で測定することにより、オームの法則、
電流=電圧/抵抗によって、通電々流を測定するものである。
したがって、その抵抗値は電流を通電することによる発熱で変化してはならない。
ところで、上記従来のシャント抵抗は第1図a,bに示す構成から明らかなように、通常空気中に放置された状態で使用されるために、通電々流の増加にともなって、マンガン板1および電気端子2、マンガン板1と電気端子2との接続個所18で発熱が起り、第4図の破線で示すごとく、ある電流値以上になると、抵抗が変化し始める。」
「(第4図)
[図:0001429629000004.jpg]
」
このため、通電可能な電流値の上限がどうしても小さくなる。すなわち、シャント抵抗の使用可能測定レンジが限定されるものである。
この発明は、このような点にかんがみなされたもので、電流を通電することにより生じる発熱でその抵抗値が変化することを極小に押さえ、かつ通電可能な電流値の上限を大きくできるシャント抵抗を提供するものである。」
b 2頁左上欄11行~左下欄1行、第3図
「次に、この発明のシャント抵抗の一実施例について図面に基づき説明すれば、第3図はその構成を示す図であり、第1図a,bと同一部分は同一符号を付して述べれば、同図における1は抵抗体となるマンガン板、2は電気端子、4はねじであり、このように、マンガン板1およびねじ4を有する電気端子2を使用する点は第1図a,bにて示す従来のシャント抵抗と同様である。」
「(第3図)
[図:0001429629000005.jpg]
」
「しかしながら、この発明では、電気端子2の一部(電気端子2は図より明らかなように、マンガン板1の両端に設けられており、その相対向する部分)およびマンガン板1は電気絶縁性のよい沸騰性冷媒(たとえば、フロン系冷媒、フロリナート系冷媒)9を入れた密閉容器10内に浸漬されている。
この密閉容器10と両電気端子2間には絶縁物11が介在されて電気的に互いに絶縁されている。
この密閉容器10は沸騰部12および凝縮部13と連通されており、このうち、沸騰部12は密閉容器10の上部に密閉容器10と一体に設けられており、この沸騰部12の一端(図示の右端)より蒸気吐出管14を介して凝縮部15の一端に連結されている。
この凝縮部13の他端は凝縮液管15を介して密閉容器10の底部近傍に連結されている。これより明らかなように、密閉容器10は凝縮部13、蒸気吐出管14および凝縮液管15から構成されているとともに、これらの部材により一つの自然循環ループを形成している。」
c 2頁左下欄2行~3頁左上欄11行
「さて、このような構成において、電気端子2を通してマンガン板1に通電すると、マンガン板1は金属固有の抵抗のために、ジュール熱を発生するが、いま、ジュール熱で単位面積、単位時間当り発生する熱量をQ〔Kcal/m2hr〕、マンガン板1の温度をθw〔℃〕、周囲冷媒の温度をθ∞〔℃〕にすると、
Q=h(θw-θ∞)・・・・・・・・・・(1)
の関係がある。
ここで、hは熱伝達率で単位は〔Kcal/m2hr℃〕である。そして、このhの大体の値は静止した空気中で1~20〔Kcal/m2hr℃〕、沸騰状態にあるフレオン系冷媒中で1500~45000〔Kcal/m2hr℃〕である。
上記のように、沸騰性冷媒9に侵漬された(当審注:引用文献2の末尾(4頁右下欄以降)に掲載された手続補正書により、「侵漬」は「浸漬」に補正されている。)マンガン板1が発熱するとマンガン板1の表面から気泡が発生し、いわゆる沸騰状態になる。
この沸騰状態では、前述したように、同じ発熱量Qを放熱する場合でも、hの値が非常に大きいため、(θw-θ∞)が小さくて済むことになる。そして、この沸騰状態では、hの値は発熱量Qとともに増大するため、マンガン板1に通電する電流が増大しても、すなわち、発熱量が増大しても、(θw-θ∞)の値がほとんど変化しない。
このことは、温度変化にともなうマンガン板1の抵抗変化を極小にし得ることを意味する。マンガン自体は、抵抗値の温度変化にともなう変化がきわめて小さいのであるが、零ではなく、また、空気中でマンガンが発熱すると、その表面が酸化されたりして、みかけ上の抵抗値が変化する。さらに、抵抗値が変化しない通電可能な電流値の上限は第4図の実線で示すように、
空気中(破線)での上限値の2倍以上である。
すなわち、この第4図は、マンガン線を使って空気中とフレオン系冷媒中(実線)で通電した場合の抵抗値の変化を示したものであり、横軸に電流、縦軸に抵抗をとったもので、電流値I1を境にして空気中では抵抗値が変化し始めるが、フレオン冷媒中では、電流値I2まではほとんど変化しない。そして、I2/I1=2である。なお、第4図の「×」印は溶断したことを示している。
また、マンガン板1の通電により、沸騰蒸発した冷媒蒸気は蒸気吐出管14を通って凝縮部15へ行き、この凝縮部(これは、自然放冷、ファンによる強制空冷、水冷などのごとく、冷媒方法は何んでもよい)13で、凝縮液化されて、凝縮液管15を通って沸騰性冷媒9の部分に戻る。」
d 3頁右上欄15行~左下欄7行
「以上のように、この発明によれば、密閉容器中に沸騰性冷媒を充填し、この沸騰性冷媒中に抵抗値の温度変化の少ないマンガン板などの金属の抵抗体を浸漬するようにしたので、温度変化による抵抗値の変動を極小にすることができ、また、抵抗体の発熱にともなう酸化などを防止することができ、したがって、信頼性が高くなるものである。
また、抵抗体を沸騰性冷媒中に浸漬するようにしているので、通電可能な電流値の上限を従来のシャント抵抗の2倍以上に増加でき、したがって、使用可能範囲を大幅に伸ばすことができるものである。」
(イ) 引用文献2の記載から読み取れる事項の認定
a 前記(ア)aにおいて摘記したとおり、引用文献2には、従来技術の説明として次のとおり記載されている。なお、引用文献2の末尾(4頁右下欄以降)に手続補正書が掲載されているから、当該手続補正書により補正された明細書等の内容は、引用文献2に実質的に開示されているといえる。このため、これ以降において、引用文献2の記載については、前記(ア)において注記した補正事項を反映したうえで掲載することとする。
「従来より使用されているシャント抵抗を第1図に沿って説明すると、第1図aは縦断面、第1図bは第1図のb-b線に沿って切断した状態を示す断面図であり、シャント抵抗は一般に温度係数の小さいマンガニン板1と電気端子2、絶縁物3、ねじ4とから構成されており、第2図に示すように、電源5によって電気的な負荷(たとえば、モータやヒータなど)6に通電する場合に、その通電々流を測定するのに用いられている。
すなわち、電気回路の途中に直列にシャント抵抗7(この抵抗値は既知)を接続し、通電時のシャント抵抗7の両端間の電圧降下を電圧計8で測定することにより、オームの法則、
電流=電圧/抵抗によって、通電々流を測定するものである。」
b また、引用文献2の第2図をみると、電源5、負荷6及びシャント抵抗7が配線により直列に接続されてループ状の電気回路を形成し、シャント抵抗7の両端近傍に電圧計8が接続されていることが看て取れる。
c(a) ここで、前記(ア)bにおいて摘記したとおり、引用文献2には、一実施例の説明として、次のとおり記載されている。
「次に、この発明のシャント抵抗の一実施例について図面に基づき説明すれば、第3図はその構成を示す図であり、第1図a,bと同一部分は同一符号を付して述べれば、同図における1は抵抗体となるマンガニン板、2は電気端子、4はねじであり、このように、マンガニン板1およびねじ4を有する電気端子2を使用する点は第1図a,bにて示す従来のシャント抵抗と同様である。
しかしながら、この発明では、電気端子2の一部(電気端子2は図より明らかなように、マンガニン板1の両端に設けられており、その相対向する部分)およびマンガニン板1は電気絶縁性のよい沸騰性冷媒(たとえば、フロン系冷媒、フロリナート系冷媒)9を入れた密閉容器10内に浸漬されている。」
(b) 前記(a)の記載から、引用文献2の一実施例は、第1図a、b及び第2図に示された従来技術と共通する構成を有するものであり、従来技術の構成を前提として、これを改良したものといえるから、一実施例の構成として特に説明のない事項については、従来技術と同様の構成を有するものであることが明らかである。
d 前記cの検討を踏まえると、前記aに示したとおり、引用文献2には、従来技術の構成として、「電気回路の途中に直列にシャント抵抗7(この抵抗値は既知)を接続し、通電時のシャント抵抗7の両端間の電圧降下を電圧計8で測定することにより、…(中略)…通電々流を測定するものである。」と記載されているから、一実施例においても当該記載と同様の構成を有するといえる。そうすると、引用文献2には、一実施例の構成として、シャント抵抗7及び電流計8を含む電流測定装置が開示されていると認められる。
e 前記a~dを総合すると、引用文献2には、一実施例の構成として、次の事項(以下「認定事項1」という。)が記載されていると認められる。
<認定事項1>
「シャント抵抗7及び電流計8を含む電流測定装置であって、
電源5、負荷6及びシャント抵抗7が配線により直列に接続されてループ状の電気回路を形成し、シャント抵抗7の両端近傍に電圧計8が接続されており、
電気回路の途中に直列にシャント抵抗7(この抵抗値は既知)を接続し、通電時のシャント抵抗7の両端間の電圧降下を電圧計8で測定することにより、オームの法則によって、通電々流を測定するものである、
電流測定装置。」
(ウ) 引用発明の認定
前記(イ)において認定した事項及び前記(ア)に摘記した引用文献2の記載事項を総合すると、引用文献2には、一実施例(第3図)に係る次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、認定の根拠となる記載箇所等を括弧内に示した。
<引用発明>
「シャント抵抗7及び電流計8を含む電流測定装置であって、(認定事項1)
電源5、負荷6及びシャント抵抗7が配線により直列に接続されてループ状の電気回路を形成し、シャント抵抗7の両端近傍に電圧計8が接続されており、(認定事項1)
電気回路の途中に直列にシャント抵抗7(この抵抗値は既知)を接続し、通電時のシャント抵抗7の両端間の電圧降下を電圧計8で測定することにより、オームの法則によって、通電々流を測定するものであり、(認定事項1)
シャント抵抗7は、マンガニン板1およびねじ4を有する電気端子2を使用するものであり、(前記(ア)bの記載事項)
電気端子2を通してマンガニン板1に通電すると、マンガニン板1は金属固有の抵抗のために、ジュール熱を発生し、(前記(ア)cの記載事項)
マンガニン板1の両端に設けられている電気端子2の相対向する部分およびマンガニン板1は電気絶縁性のよい沸騰性冷媒(たとえば、フロン系冷媒、フロリナート系冷媒)9を入れた密閉容器10内に浸漬されており、(前記(ア)bの記載事項)
この密閉容器10は沸騰部12および凝縮部13と連通されており、このうち、沸騰部12は密閉容器10の上部に密閉容器10と一体に設けられており、この沸騰部12の一端より蒸気吐出管14を介して凝縮部15の一端に連結されており、(前記(ア)bの記載事項)
この凝縮部13の他端は凝縮液管15を介して密閉容器10の底部近傍に連結されており、密閉容器10は凝縮部13、蒸気吐出管14および凝縮液管15から構成されているとともに、これらの部材により一つの自然循環ループを形成しており、(前記(ア)bの記載事項)
マンガニン板1の通電により、沸騰蒸発した冷媒蒸気は蒸気吐出管14を通って凝縮部15へ行き、この凝縮部13で、凝縮液化されて、凝縮液管15を通って沸騰性冷媒9の部分に戻る、(前記(ア)cの記載事項)
電流測定装置。(認定事項1)」
イ 引用文献3及び7の記載事項及び周知技術1の認定
(ア) 引用文献3に記載された事項
前置報告書において引用された、本願の優先日前に発行された文献である実願昭51-159646号(実開昭53-7675号)のマイクロフィルム(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。
a 明細書3頁1~2行
「本考案は、高周波大電流に使用するシャントに関するものである。」
b 明細書8頁2~7行
「また、上記の如きシャントを水冷するための機器は、特にシャントの水冷のためにのみ新たに設備することなく、例えば溶接機においては溶接トーチ、溶接用電源設備内の電力用トランジスタ等の水冷のために設備された水冷機器例えば冷却水循環装置等を兼用してもよい。」
(イ) 引用文献7に記載された事項
当審において新たに引用する、本願の優先日前に発行された文献である特開2014-190722号公報(以下「引用文献7」という。)には、次の記載がある。
「【0037】
一方、図1、図4に示すように、電池モジュール4を冷却する水冷冷却手段15が備えられている。即ち、冷却水が電池モジュール4のヒートシンク等に送られ、冷却水により電池モジュール4(電池セル5)が冷却される。」
「【図4】
[図:0001429629000006.jpg]
」
「【0038】
水冷冷却手段15は、例えば、バッテリーケース3の取出し部11(入口部)に循環配管21の冷却水の供給側の端部が接続され、バッテリーケース3の後側(取出し部11の反対側:出口部)に循環配管21の冷却水の排出側の端部が接続されている。バッテリーケース3の内部には、取出し部11(入口部)から電池モジュール4の所定部位(ヒートシンク等)を循環して出口部まで繋がる配管部材22が備えられている。
【0039】
バッテリーケース3の外側に配される循環配管21には、電池モジュール4を冷却した後の冷却水を冷却する熱交換器(例えば、蒸発器)23が備えられている。熱交換器23で冷却された冷却水は圧送手段としての給水ポンプ24により循環配管21を介して配管部材22に圧送される。
【0040】
つまり、熱交換器23で冷却された冷却水が給水ポンプ24により配管部材22に送られ、電池モジュール4の所定部位を循環した冷却後の冷却水が熱交換器23に循環される冷却系が構築されている。」
(ウ) 周知技術1の認定
前記(ア)及び(イ)にそれぞれ示した引用文献3及び引用文献7の摘記事項に例示されているように、次の技術事項は、本願の優先日前に当業者にとって周知技術であったと認められる。(以下「周知技術1」という。)
<周知技術1>
「冷却水をポンプで圧送させて循環させることにより、冷却対象物を冷却する冷却手段。」
(3) 本件補正発明と引用発明の対比
ア 対比分析
本件補正発明と引用発明を対比する。
(ア) 構成Xの観点(測定装置)
「測定装置」の発明である本件補正発明と「電流測定装置」の発明である引用発明は、「測定装置」の発明である点において一致する。
(イ) 構成Aの観点(電流線)
a 構成Aは、「測定区間(41)および前記測定区間(41)の外側に配置された第1の電流線区間(42)を有する電流線(40)」を備えることである。
b 引用発明は、「シャント抵抗7の両端近傍に電圧計8が接続されて[いる]」ものであり、「通電時のシャント抵抗7の両端間の電圧降下を電圧計8で測定することにより、オームの法則によって、通電々流を測定するものであ[る]」から、「電圧計8が接続され[る]」「シャント抵抗7の両端近傍」の間の区間は、本件補正発明の「測定区間」に相当する。
c また、引用発明は、「電源5、負荷6及びシャント抵抗7が配線により直列に接続されてループ状の電気回路を形成[する]」ものであるところ、「配線」は、「シャント抵抗7」を「電源5」及び「負荷6」に接続するものであって、「シャント抵抗7」の外側に存在し、そこに電流が流れることは明らかであるから、当該「配線」における電流が流れる区間は、本件補正発明の「前記測定区間の外側に配置された第1の電流線区間」に相当する。
d そして、引用発明の「シャント抵抗7」及び「配線」は、これらを合わせて、本件補正発明の「電流線」に相当する。
e したがって、本件補正発明と引用発明は、構成Aの観点について、次の点において一致する。
「測定区間および前記測定区間の外側に配置された第1の電流線区間を有する電流線」を備える点。
(ウ) 構成B1及び構成B2の観点(第1の測定位置及び第2の測定位置)
a 構成B1は、「第1の測定位置(51)と、第2の測定位置(52)」を備えることであり、構成B2は、「前記第1の測定位置(51)が前記電流線(40)に設けられ、前記第2の測定位置(52)が前記電流線(40)に前記第1の測定位置(51)から離れて設けられ[る]」ことである。
b 前記(イ)の検討を踏まえると、引用発明における「電圧計8が接続され[る]」「シャント抵抗7の両端近傍」のうち一方の端部の近傍は、本件補正発明の「第1の測定位置」に相当する。そして、引用発明において、当該一方の端部の近傍が「シャント抵抗7」に設けられることは、本件補正発明の「前記第1の測定位置が前記電流線に設けられ[る]」ことに相当する。
c 同様に、引用発明における「電圧計8が接続され[る]」「シャント抵抗7の両端近傍」のうち他方の端部の近傍は、本件補正発明の「第2の測定位置」に相当する。そして、引用発明において、当該他方の端部の近傍が「シャント抵抗7」に設けられることは、各端部の近傍が互いに離れていることは明らかであるから、本件補正発明の「前記第2の測定位置が前記電流線に前記第1の測定位置から離れて設けられる」ことに相当する。
d したがって、本件補正発明と引用発明は、構成B1及び構成B2の観点について、次の点において一致する。
「第1の測定位置と、第2の測定位置」を備え、
「前記第1の測定位置が前記電流線に設けられ、前記第2の測定位置が前記電流線に前記第1の測定位置から離れて設けられる」点。
(エ) 構成Cの観点(クーラントチャネル)
a 構成Cは、「クーラントチャネル壁(34)を有するクーラントチャネル(30)」を備えることである。
b 引用発明の「密閉容器10」は、「電気絶縁性のよい沸騰性冷媒(たとえば、フロン系冷媒、フロリナート系冷媒)9を入れた」ものであり、「凝縮部13、蒸気吐出管14および凝縮液管15から構成されているとともに、これらの部材により一つの自然循環ループを形成して[いる]」ものであるから、本件補正発明の「クーラントチャネル」に相当する。
また、引用発明の「密閉容器10」が、密閉容器を形成するための壁を有することは自明であるから、引用発明は、本件補正発明の「クーラントチャネル壁」に相当する構成を有する。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、構成Cの観点について、次の点において一致する。
「クーラントチャネル壁を有するクーラントチャネル」を備える点。
(オ) 構成Dの観点(クーラント)
a 構成Dは、「クーラントポンプ(100)により前記クーラントチャネル(30)に圧送され、前記クーラントチャネル(30)内に設けられたクーラント(80)」を備えることである。
b 引用発明の「密閉容器10」に「入れた」「電気絶縁性のよい沸騰性冷媒(たとえば、フロン系冷媒、フロリナート系冷媒)9」は、本件補正発明の「前記クーラントチャネル内に設けられたクーラント」に相当する。
c 一方、引用発明の「沸騰性冷媒9」は、「マンガニン板1の通電により、沸騰蒸発した冷媒蒸気は蒸気吐出管14を通って凝縮部15へ行き、この凝縮部13で、凝縮液化されて、凝縮液管15を通って沸騰性冷媒9の部分に戻る」ものであって、ポンプにより圧送されるものではない。
d 以上の検討結果を踏まえると、本件補正発明と引用発明の構成Dの観点における一致点及び相違点は、次の(a)及び(b)に示すとおりである。
(a) 構成Dの観点における一致点
「前記クーラントチャネル内に設けられたクーラント」を備える点。
(b) 構成Dの観点における相違点
「クーラント」について、
本件補正発明においては、「クーラントポンプ(100)により前記クーラントチャネル(30)に圧送され[る]」ものであるのに対して、
引用発明においては、「マンガニン板1の通電により、沸騰蒸発した冷媒蒸気は蒸気吐出管14を通って凝縮部15へ行き、この凝縮部13で、凝縮液化されて、凝縮液管15を通って沸騰性冷媒9の部分に戻る」ものである点。
(カ) 構成Eの観点(クーラントによる冷却対象)
a 構成Eは、「前記電流線(40)の前記測定区間(41)および前記第1の電流線区間(42)と、第1の測定位置(51)と、第2の測定位置(52)とは、前記クーラントチャネル(30)内に配置されて前記クーラント(80)で冷却されて[いる]」ことである。
b 引用発明は、「マンガニン板1の両端に設けられている電気端子2の相対向する部分およびマンガニン板1は電気絶縁性のよい沸騰性冷媒(たとえば、フロン系冷媒、フロリナート系冷媒)9を入れた密閉容器10内に浸漬されて[いる]」ものである。
c ここで、引用発明は、「シャント抵抗7の両端近傍に電圧計8が接続されて[いる]」ものであるが、当該「両端近傍」の「電圧計8」への接続位置が、「マンガニン板1」及びその「両端に設けられている電気端子2」のうちのどの位置であるのか明らかでないから、当該接続位置が「沸騰性冷媒9を入れた密閉容器10内に浸漬」しているか明らかでなく、「両端近傍」の間の区間(本件補正発明の「測定区間」に相当する。)のうち少なくとも一部が「沸騰性冷媒9」に浸漬しているといえても、その全てが「沸騰性冷媒9」に浸漬しているのかも明らかでない。
d また、引用発明の「配線」(配線における電流が流れる区間が本件補正発明の「第1の電流線区間」に相当する。)については、「沸騰性冷媒9」に浸漬しているものではない。
e 以上の検討結果を踏まえると、本件補正発明と引用発明の構成Eの観点における一致点及び相違点は、次の(a)及び(b)に示すとおりである。
(a) 構成Eの観点における一致点
「前記電流線の前記測定区間の少なくとも一部は、前記クーラントチャネル内に配置されて前記クーラントで冷却されている」点。
(b) 構成Eの観点における相違点
本件補正発明においては、「前記電流線(40)の前記測定区間(41)および前記第1の電流線区間(42)と、第1の測定位置(51)と、第2の測定位置(52)とは、前記クーラントチャネル内に配置されて前記クーラントで冷却されて[いる]」のに対して、
引用発明においては、マンガニン板1の両端に設けられている電気端子2の相対向する部分およびマンガニン板1が、沸騰性冷媒9を入れた密閉容器10内に浸漬されており、配線については、沸騰性冷媒9に浸漬しているものではない点。
(キ) 構成Fの観点(測定区間における電圧の測定)
a 構成Fは、「前記電流線(40)を通って流れる電流(I)により生じる前記電流線(40)の測定区間(41)での電圧を測定することが可能であ[る]」ことである。
b 引用発明は、「通電時のシャント抵抗7の両端間の電圧降下を電圧計8で測定することにより、オームの法則によって、通電々流を測定するものであ[る]」ところ、「通電時のシャント抵抗7の両端間の電圧降下」は、「シャント抵抗7の両端間」を流れる電流により生じるものであることは明らかであるから、本件補正発明の「前記電流線を通って流れる電流により生じる前記電流線の測定区間の電圧」に相当する。
また、引用発明における「電圧降下を電圧計8で測定すること」は、本件補正発明の「電圧を測定することが可能であ[る]」ことに相当する。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、構成Fの観点について、次の点において一致する。
「前記電流線を通って流れる電流により生じる前記電流線の測定区間の電圧を測定することが可能である」点。
(ク) 構成Gの観点(測定区間の画定)
a 構成Gは、「前記測定区間(41)が、前記第1の測定位置(51)と前記第2の測定位置(52)との間に画定され[る]」ことである。
b 前記(イ)において検討したとおり、引用発明の「電圧計8が接続され[る]」「シャント抵抗7の両端近傍」の間の区間は、本件補正発明の「測定区間」に相当する。
また、前記(ウ)において検討したとおり、引用発明における「電圧計8が接続され[る]」「シャント抵抗7の両端近傍」のうち一方の端部の近傍は、本件補正発明の「第1の測定位置」に相当し、引用発明における「電圧計8が接続され[る]」「シャント抵抗7の両端近傍」のうち他方の端部の近傍は、本件補正発明の「第2の測定位置」に相当する。
そうすると、引用発明は、本件補正発明の「前記測定区間が、前記第1の測定位置と前記第2の測定位置との間に画定される」ことに相当する構成を有する。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、構成Gの観点について、次の点において一致する。
「前記測定区間が、前記第1の測定位置と前記第2の測定位置との間に画定される」点。
(ケ) 構成Hの観点(クーラントと電流線の接触形態)
a 構成Hは、「前記クーラント(80)が液体からなる流体形態であり、少なくとも部分的に、前記第1の測定位置(51)と前記第2の測定位置(52)との間の領域で前記電流線(40)と直接接触する」ことである。
b 前記(オ)において検討したとおり、引用発明の「電気絶縁性のよい沸騰性冷媒(たとえば、フロン系冷媒、フロリナート系冷媒)9」は、本件補正発明の「クーラント」に相当する。
そして、両発明は、「前記クーラントが流体形態である」点において共通する。
c また、引用発明において、「マンガニン板1の両端に設けられている電気端子2の相対向する部分およびマンガニン板1は電気絶縁性のよい沸騰性冷媒(たとえば、フロン系冷媒、フロリナート系冷媒)9を入れた密閉容器10内に浸漬されて[いる]」から、沸騰性冷媒9は、少なくとも部分的に、「電圧計8が接続され[る]」「シャント抵抗7の両端近傍」の間の領域でシャント抵抗7(「配線」と合わせて本件補正発明の「電流線」に相当する。)と直接接触しているといえる。
d 以上の検討結果を踏まえると、本件補正発明と引用発明の構成Hの観点における一致点及び相違点は、次の(a)及び(b)に示すとおりである。
(a) 構成Hの観点における一致点
「前記クーラントが流体形態であり、少なくとも部分的に、前記第1の測定位置と前記第2の測定位置との間の領域で前記電流線と直接接触する」点。
(b) 構成Hの観点における相違点
「クーラント」について、本件補正発明においては、「液体からなる」ものであるのに対して、引用発明においては、「沸騰性冷媒9」である点。
イ 一致点及び相違点
前記アの対比分析の結果をまとめると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次の(ア)及び(イ)に示すとおりである。
(ア) 一致点
「測定区間および前記測定区間の外側に配置された第1の電流線区間を有する電流線と、第1の測定位置と、第2の測定位置と、クーラントチャネル壁を有するクーラントチャネルと、前記クーラントチャネル内に設けられたクーラントと、を備える測定装置であって、
前記電流線の前記測定区間の少なくとも一部は、前記クーラントチャネル内に配置されて前記クーラントで冷却されており、
前記第1の測定位置が前記電流線に設けられ、前記第2の測定位置が前記電流線に前記第1の測定位置から離れて設けられ、
前記電流線を通って流れる電流により生じる前記電流線の測定区間の電圧を測定することが可能であり、
前記測定区間が、前記第1の測定位置と前記第2の測定位置との間に画定され、
前記クーラントが流体形態であり、少なくとも部分的に、前記第1の測定位置と前記第2の測定位置との間の領域で前記電流線と直接接触する、測定装置」の発明である点。
(イ) 相違点
a 相違点1
「クーラント」について、
本件補正発明においては、「液体からなる」ものであり、かつ、「クーラントポンプ(100)により前記クーラントチャネル(30)に圧送され[る]」ものであるのに対して、
引用発明においては、「沸騰性冷媒9」であり、「マンガニン板1の通電により、沸騰蒸発した冷媒蒸気は蒸気吐出管14を通って凝縮部15へ行き、この凝縮部13で、凝縮液化されて、凝縮液管15を通って沸騰性冷媒9の部分に戻る」ものである点。
b 相違点2
本件補正発明においては、「前記電流線(40)の前記測定区間(41)および前記第1の電流線区間(42)と、第1の測定位置(51)と、第2の測定位置(52)とは、前記クーラントチャネル内に配置されて前記クーラントで冷却されて[いる]」のに対して、
引用発明においては、マンガニン板1の両端に設けられている電気端子2の相対向する部分およびマンガニン板1が、沸騰性冷媒9を入れた密閉容器10内に浸漬されており、配線については、沸騰性冷媒9に浸漬しているものではない点。
(4) 判断
ア 相違点1について
(ア) 前記(2)イ(ウ)において周知技術1として認定したとおり、次の技術事項は、本願の優先日前に当業者にとって周知の技術であった。
「冷却水をポンプで圧送させて循環させることにより、冷却対象物を冷却する冷却手段。」
(イ) 引用発明の沸騰性冷媒9による冷却手段と周知技術1は、クーラントを循環させて冷却対象物を冷却する冷却手段という点で共通するものであるから、引用発明において、沸騰性冷媒9による冷却手段に代えて周知技術1の冷却手段を採用することにより、相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
イ 相違点2について
(ア)a 前記(2)ア(ア)aにおいて摘記したとおり、引用文献2には、次の記載がある。
「ところで、上記従来のシャント抵抗は第1図a,bに示す構成から明らかなように、通常空気中に放置された状態で使用されるために、通電々流の増加にともなって、マンガニン板1および電気端子2、マンガニン板1と電気端子2との接続個所18で発熱が起り、第4図の破線で示すごとく、ある電流値以上になると、抵抗が変化し始める。」
b 前記aに示したとおり、引用文献2には、シャント抵抗7に電流を流すと、マンガニン板1だけでなく、マンガニン板1と電気端子2との接続個所18や電気端子2においても発熱が生じることが示されているから、引用発明において、電気端子2に接続される配線についても、電気端子2から熱が伝わることにより、電気端子2に隣接する部分が高温になることは、当業者にとって明らかである。
そして、金属の温度が上昇するとその抵抗値が上昇することは、例示するまでもなく技術常識であり、抵抗値の上昇によって通電時に電力損失が生じることも自明の事項である。
そうすると、引用発明において、マンガニン板1及び電気端子2の相対向する部分だけでなく、電気端子2の全体及び電気端子2に接続される配線のうち電気端子2に隣接する部分についても冷却することに、当業者は動機付けられるといえる。
(イ) また、一般的に発熱部を冷却する場合に、発熱部に隣接する箇所においても発熱部からの伝熱により温度が上昇して冷却の必要が生じるものであるところ、発熱部及び当該発熱部に隣接する部分のどこまでを冷却するかは、冷却コストとのバランス等を考慮しながら、当業者が適宜決定し得る設計事項にすぎない。
(ウ) したがって、引用発明において、マンガニン板1及び電気端子2の相対向する部分だけでなく、電気端子2の全体及び電気端子2に接続される配線のうち電気端子2に隣接する部分(第1の電流線区間)についても冷却することとし、これらを密閉容器10(クーラントチャネル)内に配置してクーラントで冷却することにより、相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
ウ 総合評価
前記ア及びイにおいて検討したとおり、引用発明において、前記相違点1及び2に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、引用発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
そして、相違点1及び2を総合的に勘案しても、本件補正発明が奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 請求人の主張について
(ア) 請求人の主張内容
請求人は、審判請求書において、原査定の拒絶の理由における理由3(新規性の欠如)、及び、理由2(進歩性の欠如)のうち引用文献2を主引用文献とする理由について、概略、次のとおり主張している。
引用発明は、シャント抵抗7のマンガニン板1及びその両端の電気端子を冷却するだけであって、電気端子の外側の配線を冷却する構成についての開示がない。
また、密閉容器10は、相互に連通する沸騰部12及び凝縮部13を有しており、沸騰性冷媒9は、沸騰部12においてマンガニン板1の発熱により気化して凝縮部13へ移動して、そこで気化した沸騰性冷媒9が冷却されることで凝縮して沸騰部12に戻ることにより循環するものであるから、密閉容器10内にある液体状態の沸騰性冷媒9を、ポンプを用いて圧送する構成は原理的に不要である。
このように、本件補正発明が「前記クーラントチャネル(30)内に圧送されることで設けられたクーラント(80)」を備えており、「前記測定区間(41)の外側に配置された第1の電流線区間(42)」が「前記クーラントチャネル(30)内に配置されて前記クーラント(80)で冷却され」る構成であるのに対して、引用発明はそのような構成ではない点で、本件補正発明とは相違する。
さらに、本件補正発明では、電流線のうち、測定区間および測定区間以外の部分である第1の電流線区間の両方をクーラントで冷却することで、測定区間の抵抗値の変動を抑制するだけではなく、電流線を広範囲に冷却することにより電流線の測定区間以外の電気抵抗を減少させて、電流線を通って電流が流れることによる電力損失を減少させるという特有の効果を奏するものである。
(イ) 請求人の主張についての検討
本件補正発明における「前記クーラントチャネル(30)内に圧送されることで設けられたクーラント(80)」を備えており、「前記測定区間(41)の外側に配置された第1の電流線区間(42)」が「前記クーラントチャネル(30)内に配置されて前記クーラント(80)で冷却され」る構成については、前記ア及びイにおいて、相違点1及び2についてそれぞれ検討したとおり、当業者が容易に想到し得たことである。
また、請求人が主張する、電力損失を減少させるという効果についても、金属の温度が上昇するとその抵抗値が上昇することは技術常識であり、抵抗値の上昇によって通電時に電力損失が生じることも自明の事項であるから、第1の電流線区間を冷却するという本件補正発明の構成により、電力損失を減少させるという効果があることは、当業者にとって自明であって、予測・発見困難であり、かつ、格別顕著なものとはいえない。
したがって、前記(ア)に示した請求の主張は採用することができない。
オ 独立特許要件の判断のまとめ
以上検討のとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合しない。
4 本件補正の却下の決定の理由のむすび
前記3(4)オのとおり、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明について
本件補正は、前記第2のとおり却下したので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の1(1)参照)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の本願発明に対する拒絶の理由のうち、理由3(新規性の欠如)、及び、理由4(進歩性の欠如)のうち引用文献2を主引用文献とする理由の概要は、次のとおりである。
理由3(新規性の欠如) 本願発明は、その優先日前に発行された下記の引用文献2に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
理由4(進歩性の欠如) 本願発明は、その優先日前に発行された下記の引用文献2に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献2.特開昭50-149855号公報
3 各引用文献に記載された事項及び引用発明の認定等
引用文献2に記載された事項及び引用発明は、前記第2の3(2)アにおいて示したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明から、前記第2の2(1)のアからエに示した限定を省いたものである。
そうすると、前記第2の3(3)アに示した本件補正発明と引用発明の対比分析を踏まえれば、本願発明と引用発明に相違点は存在しないから、本願発明は、引用発明であり、また、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条1項3号に該当するため、又は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-010014