特許拒絶査定不服審判
2024-004658
直流漏電検出装置
- 審判番号
- 2024-004658
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-069478
- 請求日
- 2024年03月18日
- 審決日
- 2025年11月20日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日東工業株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人クスノキ特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 濱野 隆
- 審判官 道祖土 新吾
- 審判官 喜々津 徳胤
- 分類
- P18 .536-WZ (G01R)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020- 69478「直流漏電検出装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年10月14日出願公開、特開2021-165691〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1 手続の経緯
本願は、令和2年4月8日の出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和5年11月14日付け:拒絶理由通知書
令和6年 1月10日 :意見書、手続補正書の提出
同年 1月25日付け:拒絶査定
(同月30日 :原査定の謄本の送達)
同年 3月18日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和7年 5月29日付け:拒絶理由通知書
同年 7月17日 :意見書の提出
2 本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和6年3月18日に提出された手続補正書により補正された請求項1に記載された次に示す事項により特定されるとおりのものである。
「 【請求項1】
通過する正極側配線と負極側配線に流れる直流電流の差に応じて磁化される磁気コアと、磁気コアに巻回される励磁コイルと、励磁コイルに供給する電圧を発生させる発振手段と、励磁コイルの線間電圧を検出する検出部と、を備える直流漏電検出装置であって、
発振手段は、プラス側の電圧とマイナス側の電圧が交互に周期的に繰り返される三角波状の電圧を発生させるものであり、
励磁コイルの線間電圧を検出することで得られた、正の半波の最大値と、電圧波形の正常時の線間電圧である基準電圧の正の半波の最大値に関する情報と、を比較し、かつ、負の半波の最小値と、電圧波形の正常時の線間電圧である基準電圧の負の半波の最小値に関する情報と、を比較して、前者の比較結果と後者の比較結果の違いにより正極側配線と負極側配線のいずれで漏電が発生しているかを判定する判定部と、を備えた直流漏電検出装置。」
3 当審における拒絶の理由の概要
当審において令和7年5月29日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶の理由は、次のとおりである。
理由1(実施可能要件違反)について
本願の発明の詳細な説明は、本願発明について「励磁コイルの線間電圧を検出すること」により、何故「直流漏電」を「検出」することができるのか、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
4 本願の発明の詳細な説明に記載された事項
本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体によるものである。
また、発明の詳細な説明において参照される図面も示す。
(1) 背景技術
「【技術分野】
【0001】
本発明は、直流漏電検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気コアを利用した漏電検出の方法が知られている。零相変流器を貫通する電線に流れる電流差Igに応じてZCTに磁束Φを発生させ、この磁束Φから二次巻線に誘導された電圧を検出することで漏電の発生を検出する方法である。この方法は、電磁誘導の法則を利用したものであり、磁束が変化する場合に電圧を検出できる。交流の場合は、電流の向きや大きさが変動するため、この方法で、常に監視を行うことができる。
【0003】
一方、交流の漏電の検出と同様に、磁気コアを利用して直流の漏電を検出しようとする場合、スイッチのオン、オフによる瞬間的な変化があったときには電流の変化に起因する電圧が現れるが、通常、電線に流れる電流は時間によって変化しないため、電圧は現れない。このような挙動の場合、微小な漏電電流の場合や同じ放電電流のまま続く場合には、異常状態を検出することができない。」
(2) 発明の概要
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本件の発明者は、この点について鋭意検討することにより、解決を試みた。本発明が解決しようとする課題は、簡易な回路構成で、漏電が正極側又は負極側のいずれで発生したのかを判定することができる漏電検出回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、直流電流が流れる正極・負極配線が通過し、電流の差に応じて磁化される磁気コアと、磁気コアに巻回される励磁コイルと、励磁コイルに供給する電圧を発生させる発振手段と、励磁コイルの線間電圧を検出する検出部と、検出部で検出された励磁コイルの線間電圧に関する情報を基準電圧に関する情報と比較して、正極側・負極側での漏電の発生を判定する判定部と、を備えた直流漏電検出装置とする。」
(3) 実施の形態
「【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に発明を実施するための形態を示す。図1に示されていることから理解されるように、本実施形態の直流漏電検出装置1は、通過する正極側配線83と負極側配線84に流れる直流電流の差に応じて磁化される磁気コア11と、磁気コア11に巻回される励磁コイル12と、励磁コイル12に供給する電圧を発生させる発振手段13と、励磁コイル12の線間電圧を検出する検出部14と、検出部14で検出された励磁コイル12の線間電圧に関する情報を基準電圧に関する情報と比較して、正極側配線83と負極側配線84のいずれで漏電が発生しているかを判定する判定部15と、を備えた構成である。このため、簡易な回路構成で、漏電が正極側又は負極側のいずれで発生したのかを判定することができる漏電検出回路を提供することが可能となる。また、電流を測定するためにCTを介在させる必要が無く、デューティ比を変化させる回路も必要でないため、簡易な構成とすることができる。」
「【図1】
[図:0001431637000001.jpg]
」
「 【0016】
図1に示すことから理解されるように、実施形態の直流漏電検出装置1は、直流電源81と、直流電源81から供給される電流を利用する負荷82と、の間に介在する正極側配線83と負極側配線84が、筒状の磁気コア11を通過するように配置されている。地絡が生じていない、通常の状態の場合、正極側配線83と負極側配線84は、同じ大きさの電流が流れる。この場合、この電流により磁気コア11に磁束が生じることはなく、励磁コイル12にも影響は与えない。
【0017】
ところで、発振手段13により励磁コイル12に向けて電圧をかけると、励磁コイル12には、その度に線間電圧が生じる。図2に示す例では、発振手段13である発振回路により励磁コイル12に向けてかけられる電圧は矩形波状であり、プラス側の電圧とマイナス側の電圧が交互に周期的に繰り返されるものである。この際、励磁コイル12の線間電圧は、図2に示すように、プラスからマイナス若しくはマイナスからプラスに切り替わったタイミングで大きく変化する。その後の線間電圧は、次の切り替えが行われるまでの間、徐々に0に近づくように変化する。励磁コイル12は、自己誘導作用により電流変化を妨げる方向に起電力を発生するからである。」
「【図2】
[図:0001431637000002.jpg]
」
「 【0018】
図1及び図2に示す状態が、地絡が生じていない場合の例であるが、図3に示すことから理解されるように、正極側配線83で地絡により地絡電流Iaが地面側に流れた場合、正極側配線83ではIe+Iaの電流が流れ、負極側配線84には、Ieの電流が流れることになる。つまり、磁気コア11を通過する正極側配線83と負極側配線84において、流れる電流が異なるものになる。より具体的には、図3に示す例では、正極側配線83に流れる電流のほうが負極側配線84に流れる電流の大きさより大きくなる。このため、磁気コア11に磁束が発生する。磁気コア11に巻かれた励磁コイル12の線間電圧は、この磁束の影響を受ける。つまり、地絡による漏電が発生すると磁気コア11に磁束が発生し、磁気コア11に発生した磁束が励磁回路の励磁コイル12に影響を及ぼす。」
「【図3】
[図:0001431637000003.jpg]
」
「 【0019】
図3に示す例では、矩形波電圧の正の半波では励磁コイル12の磁束の向きと磁気コア11の磁束の向きが同様である。この場合、図4に示すことから理解されるように、地絡の不発生時と地絡の発生時を比べると励磁コイル12の線間電圧は、地絡の発生時のほうが高くなる。これは、磁気コア11に発生する磁束と、励磁コイル12に発生する磁束が、同じ向きになった場合には、お互いが結びつきあうことにより、電流が上昇し、線間で電圧が大きくなるように作用するからである。そのため、基準電圧より線間電圧のピーク値が高くなる。一方、矩形波電圧の負の半波では、励磁コイル12の磁束の向きと磁気コア11の磁束の向きが逆となる。つまり、負のピーク値は基準電圧より高くなり、立下りの過渡応答の変化が急になる。よって、全体の波形として基準電圧より上方に来るように形成される。この波形を判定部15で判定して、正極側配線83で漏電が生じたと判定を行う。」
「【図4】
[図:0001431637000004.jpg]
」
「 【0020】
一方、図5に示すように、負極側配線84で地絡により地絡電流Iaの電流が地面側から流れた場合にも、磁気コア11を通過する正極側配線83と負極側配線84において、流れる電流が異なるものになる。より具体的には、図5に示す例では、負極側配線84に地絡電流Iaが流れ込むため、負極側配線84に流れる電流のほうが正極側配線83に流れる電流の大きさより大きくなる。このため、磁気コア11に磁束が発生する。磁気コア11に巻かれた励磁コイル12の線間電圧は、この磁束の影響を受ける。」
「【図5】
[図:0001431637000005.jpg]
」
「 【0021】
図5に示す例では、矩形波電圧の正の半波では励磁コイル12の磁束の向きと磁気コア11の磁束の向きが逆である。この場合、図6に示すことから理解されるように、地絡の不発生時と地絡の発生時を比べると励磁コイル12の線間電圧は、地絡の発生時のほうが低くなる。これは、磁気コア11に発生する磁束と励磁コイル12に発生する磁束とが異なる向きであった場合には、お互いが磁束を打ち消しあうため、電流が低下し、電流が低下すると線間電圧が低下するように作用するからである。そのため、基準電圧より線間電圧のピーク値は低くなる。一方、矩形波電圧の負の半波では、励磁コイル12の磁束の向きと磁気コア11の磁束の向きが同じとなる。つまり、負のピーク値は基準電圧より低くなり、立下りの過渡応答の変化が急になる。よって、全体の波形として基準電圧より下方に来るように形成される。この波形を判定部15で判定して、負極側配線83で漏電が生じたと判定を行う。」
「【図6】
[図:0001431637000006.jpg]
」
「 【0022】
このように本発明の直流漏電検出装置1を用いれば、励磁コイル12の線間電圧を正常時と比べることで、正極側配線83と負極側配線84のいずれに漏電が生じているのかを推測することができる。なお、本実施形態においては、正極側配線83に漏電が生じた際に線間電圧のピーク値が高くなり、負極側配線84に漏電が生じた際に線間電圧のピーク値が低くなると説明したが、これは発振手段13の電圧の印加の向きや、励磁コイル12の巻き方、向きによって反転するものである。そのため、あらかじめ正極側配線83で漏電が生じた際にはピーク値が通常時よりも高くなると設定しておくものである。」
(4) 実施の形態(三角波)
「 【0025】
また、発振手段により励磁コイルに向けて掛けられる電圧として三角波を与えた場合を示した波形の変化を図9、図10に示す。このように三角波を与えたとき、三角波電圧の正の半波では最大値が減少し、負の半波では最小値が増加するような傾向が見られた。この減少量により漏電の発生が判定できる。また、正極側で漏電が生じた場合には、図9に示すように、正の半波の最大値の減少値より、負の半波の最小値の増加量の方が小さくなる。一方、負極側で漏電が生じた場合には、図10に示すように、負の半波の最小値の増加量より、正の半波の最大値の減少値が小さくなる。判定部15はこの最大値と最小値の変化量の違いにより正極側配線か負極側配線のどちらかで漏電が起きたことを判定できる。」
「【図9】
[図:0001431637000007.jpg]
」
「【図10】
[図:0001431637000008.jpg]
」
「 【0026】
また、この変化量の違いを用いた別の判定方法としては、変化量の閾値を設定しておき、正の半波の最大値の減少値もしくは負の半波の最小値の変化量が閾値を超えた場合に正極側配線か負極側配線のどちらかで漏電が起きたことを判定する例を挙げることができる。」
(5) その他の実施形態
「 【0027】
以上、実施形態を例に挙げて本発明について説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、各種の態様とすることが可能である。例えば、発振手段により励磁コイルに向けてかけられる電圧は、矩形波状である必要はなく、ノコギリ波、正弦波などでもよい。
【0028】
また、発振手段により励磁コイルに向けてかけられる電圧は、一定の電圧が周期的に生じるようなものでなくてもよい。
【0029】
また、発振手段により励磁コイルに向けてかけられる電圧は、極性を反転させるものでなくても良い。つまり、プラスの電圧若しくはマイナスの電圧の何れかだけがかけられるものでも良い。」
5 当合議体の判断(動作原理から見た実施可能要件の検討)
(1) 「直流漏電検出装置」について
ア 検出される漏電の時間変化について
本願発明は、その請求項の末尾の記載からも明らかなように「直流漏電検出装置」の発明である。そうすると、検出される漏電としては「直流」のものが想定されており、時間変化することは想定されていないものと認められる。このことは、本願明細書及び図面における以下のような開示からも首肯できる。
(ア) 段落【0003】には、本願発明が解決しようとする背景技術(従来技術)が抱える課題について「・・・通常、電線に流れる電流は時間によって変化しないため、電圧は現れない。このような挙動の場合、微小な漏電電流の場合や同じ放電電流のまま続く場合には、異常状態を検出することができない」と記載されていること。
(イ) 前記4(3)で摘記した実施の形態では電源として「直流電源81」が用いられていること。
(ウ) 段落【0018】には「直流電源81」から供給される、時間変化のない直流電流Ieとともに、漏電としての地絡電流Iaが、「Ie+Ia」として記載されているが、前記地絡電流Iaが時間変化することは記載されていないこと。
(エ) 漏電が生じている際の線間電圧の時間変化を示す【図4】、【図6】、【図9】及び【図10】において漏電状況が時間変化することが読み取れないこと。
イ 「直流漏電検出装置」という語句について
もっとも、「直流漏電検出装置」という語句が、直流の漏電を検出する装置という意味ではなく、直流電流の電源を用いて漏電(例えば、地絡の発生時に生じる漏電の時間変化)を検出する装置を意味するのであれば、本願発明が検出する漏電が時間変化するものを想定していると解する余地がないわけではない。
しかしながら、本願の明細書及び図面の記載から、上述のように解する根拠を見出すことはできないし、日本語の通常の理解として、「直流漏電検出装置」は、直流の漏電を検出する装置であると解するのが自然であるから、時間変化する漏電を検出するものとして解するのは適当ではない。
(2) 本願発明の動作原理の検討
ア 矩形波状の電圧を用いた場合の実施の形態
本願明細書の段落【0015】~【0026】には、発明を実施するための形態が記載されており、そのうち段落【0017】~【0022】には、発振手段13である発振回路により励磁コイル12に向けてかけられる電圧は矩形波状であり、プラス側の電圧とマイナス側の電圧が交互に周期的に繰り返される場合の実施形態が記載されている(以下「矩形波実施形態」ということがある。)。
(ア) 正極側配線83で漏電が生じた場合
a 正極側配線83に地絡による漏電が発生した場合について、段落【0018】には、地絡電流Iaにより、磁気コア11に磁束が発生することが記載されている。また、段落【0019】には「図3に示す例では、矩形波電圧の正の半波では励磁コイル12の磁束の向きと磁気コア11の磁束の向きが同様である。この場合、図4に示すことから理解されるように、地絡の不発生時と地絡の発生時を比べると励磁コイル12の線間電圧は、地絡の発生時のほうが高くなる。これは、磁気コア11に発生する磁束と、励磁コイル12に発生する磁束が、同じ向きになった場合には、お互いが結びつきあうことにより、電流が上昇し、線間で電圧が大きくなるように作用するからである。」と記載されている。
b すなわち、発振手段13により加えられる矩形波電圧が正の半波の場合には、磁気コア11に発生する磁束(漏電による磁束)と励磁コイル12に発生する磁束(矩形波電圧の正の半波により発生する磁束)が結びつきあうことにより、励磁コイルの線間電圧が基準電圧からシフトすることが記載されているものと認められる。
c また、矩形波電圧が負の半波の場合にも励磁コイルの線間電圧に影響を与えるため、結果として、正極側配線83で漏電が生じた場合には「全体の波形として基準電圧より上方に来るように形成される」(段落【0019】)ことが記載されているから、矩形波電圧が正の半波、負の半波のいずれの場合であっても、磁気コア11に発生する磁束(漏電による磁束)と励磁コイル12に発生する磁束が結びつきあうことにより、励磁コイルの線間電圧が基準電圧からシフトすることが開示されているといえる(なお、本願明細書には「基準電圧」の定義は記載されていないが、漏電がない場合の電圧を「基準電圧」と呼称しているものと認められる。)。
(イ) 負極側配線84で漏電が生じた場合
段落【0020】~【0021】には、負極側配線84に地絡による漏電が発生した場合について記載されているところ、「全体の波形として基準電圧より下方に来るように形成される」ことが記載されているから、前記(ア)において述べたことは同様に当てはまるものである。
(ウ) 誘導起電力の発生についての検討
a しかし、前記(1)で検討したように、本願発明における地絡電流(漏電)は時間変化しないものであり、そのような時間変化しない電流によっては励磁コイルへの線間電圧への影響は生じないものと認められる。
b このことは、励磁コイルに発生する誘導起電力VLは、磁束Φ=LIの時間変化、すなわちインダクタンスLが一定であれば励磁コイルを流れる電流Iの時間変化dI/dtに比例するものであるとの物理法則から明らかである。
(本願の【図2】にもVL=L・dI/dtとの式が記載されているところ、地絡電流Iaが時間変化しない場合には、dIa/dt=0となるから、VL=0となるはずである。)
c この点に関し、本願明細書の段落【0003】にも「通常、電線に流れる電流は時間によって変化しないため、電圧は現れない。このような挙動の場合、微小な漏電電流の場合や同じ放電電流のまま続く場合には、異常状態を検出することができない。」と記載されているところ、上記a、bの検討はこの記載からも裏付けることができる。
d すなわち、時間変化しない漏電によって磁気コア11に発生する(時間変化しない)磁束は、どのように励磁コイル12に発生する磁束と結びつこうとも、通常は励磁コイルの線間電圧や電流に影響を与えないものと認められる。
e したがって、前記(ア)及び(イ)において述べたような基準電圧からのシフトが、何故生じるのか理解することができない。
イ 三角波状の電圧を用いた場合の実施の形態
(ア) 三角波を用いた場合の動作原理
本願発明は、請求項1の記載に基づけば、「発振手段は、プラス側の電圧とマイナス側の電圧が交互に周期的に繰り返される三角波状の電圧を発生させるもの」であり、審判請求書において示された補正の根拠も考慮すると、本願明細書の段落【0025】、【図9】及び【図10】で開示される実施の形態、すなわち、発振手段により励磁コイルに向けて掛けられる電圧として三角波を与えた場合の実施の形態(以下「三角波実施形態」ということがある。)に基づくものと認められる。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明には、励磁コイルに加えられる電圧が三角波である場合には、矩形波が加えられた場合と異なる動作原理であることは開示されていないから、三角波実施形態においても、矩形波実施形態の場合と同様の動作原理によって励磁コイルの線間電圧が変化することが意図されていると考えることが自然であるといえる。
(イ) 動作原理に対する検討
しかし前記ア(ウ)で検討したように、励磁コイルに印加される周期的に変化する電圧がどのような形状であっても、物理法則が教えるところによれば、時間変化しない漏電は励磁コイルの線間電圧に影響を与えないから、三角波実施形態においても同様に、時間変化しない漏電は励磁コイルの線間電圧や電流に影響を与えないものと認められる。
さらにいえば、矩形波実施形態では、正極側配線83からの漏電の際には励磁コイルの線間電圧は「全体の波形として基準電圧より上方に来るように形成される」のに対し、三角波実施形態では異なる挙動を示しており、これがどのような理由であるのかは明らかとされていない。
(ウ) 三角波実施形態における実験結果の検討
a ここで、あらためて段落【0025】をみると、「また、発振手段により励磁コイルに向けて掛けられる電圧として三角波を与えた場合を示した波形の変化を図9、図10に示す。このように三角波を与えたとき、三角波電圧の正の半波では最大値が減少し、負の半波では最小値が増加するような傾向が見られた。」と記載されている。
b すなわち、文章の末尾が過去形で記載されているから、【図9】、【図10】の結果は、実際に行われた実験結果であると考えることが自然であるが、前記ア(ウ)や前記(イ)で検討したように、物理法則からは【図9】、【図10】の実験結果は説明できない。
c そうすると、本願明細書には開示されていない特別な条件が存在することによって、【図9】、【図10】のような実験結果が得られた可能性がある。
d しかし、本願明細書には、このような特別な条件が何ら開示されておらず、またこのような実験結果が得られるような特別な条件が当業者に周知であるなどの特段の事情も認められない。
(エ) 段落【0027】~【0029】の記載
a なお、本願明細書の段落【0027】には、励磁コイルに向けてかけられる電圧が矩形波状である必要はないこと、段落【0028】には、一定の電圧が周期的に生じるようなものでなくてもよいこと、段落【0029】には、励磁コイルに向けてかけられる電圧は、プラスの電圧若しくはマイナスの電圧の何れかだけがかけられるものでもよいことが記載されている。
b 上記記載によると、本願発明の動作原理は、磁気コア11に発生する磁束(漏電による磁束)と励磁コイル12に発生する磁束が結びつきあうことを前提としつつも、励磁コイル12に印加される電圧の種類によらないことを踏まえると、結局は、磁気コア11に発生する磁束(漏電による磁束)の方に着目して、漏電の発生を判定しているように思われる。
c そうすると、励磁コイル12に磁束を発生させることの技術上の意義が不明となるから、こういった記載を含む本願明細書の開示にあたった当業者は、本願発明の動作原理が一体どのようなものであるのか、理解できないものといわざるを得ない。
(3) 請求人の主張について
ア 請求人の主張の内容
直流漏電によって磁気コア11が定常的にバイアス磁化されていると、励磁コイル12から加えられる周期的な電圧に対する磁気コア11の応答が、漏電の有無や方向によって変化する。明細書には具体的には記載していないが、磁気コア11の応答の変化は、例えば、透磁率、磁気飽和特性、ヒステリシスループの影響が挙げられる。この変化が、励磁コイル12の線間電圧波形に影響を及ぼす。すなわち、漏電がない場合には磁気コアはバイアスされず、励磁コイルの線間電圧は基準波形を示すが、漏電がある場合、磁気コアがバイアスされることで、励磁コイルの磁束変化と直流漏電による磁束が「結びつきあう」(または「打ち消しあう」)ことによって、励磁コイルの線間電圧波形が基準波形から変化する現象が生じる。なお、「結びつきあう/打ち消しあう」とは、定常的な漏電磁束が、励磁コイルによる動的な磁束変化に対する磁気コアの磁化特性を変化させ、その結果、励磁コイルに誘導される起電力の波形に影響を与えることを意味する。
明細書には、波形への影響の理由の詳細な説明は省いているが、このような記載が無くとも、生じる結果に変わりはなく、用いる条件などが変わるわけではないため、波形への影響の理由の詳細な説明を知らずとも、実施することは可能である。
イ 請求人の主張に対する当審の見解
(ア) 前記アのとおり、請求人は「結びつきあう/打ち消しあう」とは、定常的な漏電磁束が、励磁コイルによる動的な磁束変化に対する磁気コアの磁化特性を変化させ、その結果、励磁コイルに誘導される起電力の波形に影響を与えることを意味する旨主張する。
しかし、本願明細書の段落【0019】には「結びつきあう」ことの意味については「磁気コア11に発生する磁束と、励磁コイル12に発生する磁束が、同じ向きになった場合には、お互いが結びつきあうことにより、電流が上昇し、線間で電圧が大きくなるように作用する」と明記されており、磁気コアの磁化特性の変化に基づく説明がされていないから、請求人の上記主張とは異なっている。
それどころか、前記(2)イ(エ)で検討したように、本願明細書の段落【0027】には、励磁コイルに向けてかけられる電圧が矩形波状である必要はないこと、段落【0028】には、一定の電圧が周期的に生じるようなものでなくてもよいこと、段落【0029】には、励磁コイルに向けてかけられる電圧は、プラスの電圧若しくはマイナスの電圧の何れかだけがかけられるものでもよいことが記載されており、請求人の上記主張に従えば、上記記載されたような励磁コイルにかけられる電圧の種類の如何を問わず、誘導される起電力の波形が漏電磁束により変化を受けることになるから、請求人の上記主張は明細書における開示された範囲を越えたものとなっている。
そして、時間変化しない漏電によって磁気コア11に発生する(時間変化しない)磁束は、どのように励磁コイル12に発生する磁束と結びつこうとも、通常は励磁コイルの線間電圧や電流に影響を与えないから、段落【0019】の開示は、定常的な漏電磁束が、励磁コイルに誘導される起電力の波形に影響を与えることの説明になっていないことは、前記(2)ア(ウ)で検討したとおりである。
(イ) なお、請求人が本願明細書の発明の詳細な説明で提示する先行技術文献である特開2012-63218号公報は、磁気コアの磁気飽和特性を利用したものであり(なお、原査定の拒絶の理由で引用される特開平9-243697号公報(引用文献1)及び特開平6-118111号公報(引用文献2)も同様。)、請求人がいうところの「定常的な漏電磁束が、励磁コイルによる動的な磁束変化に対する磁束コアの磁化特性を変化させ、その結果、励磁コイルに誘導される起電力の波形に影響を与える」ものに相当するものと考えられる。しかし、以下に検討する理由から、磁気飽和という物理現象を考慮しても、磁束が「結びつきあう」との本願発明の動作を説明することはできない。
すなわち、前記先行技術文献に開示されるような方法で磁気飽和特性を利用する場合には、磁気コアに発生する磁束と励磁コイルに発生する磁束が同じ向きになった場合には、磁気コアに発生した磁束が十分に大きくなると、磁束密度が変化しない磁気飽和の状態、すなわちインダクタンスが生じないこととなって、L・dI/dtで表現される線間電圧は、漏洩電流がない場合に比べて小さくなることが想定される。しかしこの想定は、本願【図4】の実験結果及び段落【0019】における「磁気コア11に発生する磁束と、励磁コイル12に発生する磁束が、同じ向きになった場合には、お互いが結びつきあうことにより、電流が上昇し、線間で電圧が大きくなるように作用する」との説明とは、前記(ア)で検討したような電流の時間変化が考慮されているか否かという観点だけでなく、その電圧変化(漏洩電流がない場合と比べて増加するか、減少するか)の観点からも、相容れないものとなっている。
(ウ) さらに、請求人は、「明細書には、波形への影響の理由の詳細な説明は省いているが、このような記載が無くとも、生じる結果に変わりはなく、用いる条件などが変わるわけではないため、波形への影響の理由の詳細な説明を知らずとも、実施することは可能である。」と主張している。
この点に関し、請求項1には「励磁コイルの線間電圧を検出することで得られた、・・・・正極側配線と負極側配線のいずれで漏電が発生しているかを判定する」とあり、本願発明は、直流漏電の発生と励磁コイルの線間電圧の変化の間に何らかの因果関係があることを前提条件としているといえる。
しかしながら、前記(2)イ(イ)において述べたとおり、通常は時間変化しない漏電は線間電圧に影響を与えないことを考慮すると、上記因果関係は存在しないと考えるのが自然であって、因果関係の存在を前提条件とするためには、前記(2)イ(ウ)で検討したような特別な条件が必要とされるところ、本願の明細書の発明の詳細な説明にはその特別な条件についての開示が一切なく、今回提出された意見書を参照しても、上記特別な条件について理解できない。
(エ) したがって、請求人の主張は採用できない。
(4) まとめ
前記(2)及び(3)で検討したとおり、本願発明においては、検出される漏電は「直流」であって、漏電によって磁気コアに発生する磁束は、通常は励磁コイルの線間電圧に影響を与えないから、本願の発明の詳細な説明は、本願発明について、「励磁コイルの線間電圧を検出すること」により、何故「直流漏電」を「検出」することができるのか、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものと認めることができない。
6 むすび
以上検討のとおり、本願は、請求項1に係る発明について、発明の詳細な説明の記載が、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていないから、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-004658