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特許拒絶査定不服審判

2024-000596

熱収縮性糸を有する編まれた保護スリーブおよびその構築方法

審判番号
2024-000596
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2021-542533
請求日
2024年01月15日
審決日
2025年08月18日
公報発行日
2026年02月27日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】システムズ・プロテクション・グループ・ユー・エス・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
  • 【請求人代理人】弁理士法人深見特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 小宮 慎司
  • 審判官 打出 義尚
  • 審判官 綿引 隆
分類
P18 .121-Z (D04C)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
データ出所
審決公報(XML)

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特願2021-542533「熱収縮性糸を有する編まれた保護スリーブおよびその構築方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 7月30日国際公開、WO2020/154458、令和 4年 3月11日国内公表、特表2022-518057〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2020年(令和2年)1月23日(パリ条約による優先権主張 2020年1月22日(US)アメリカ合衆国、2019年1月23日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 令和5年3月30日付け:拒絶理由通知書 令和5年6月28日 :意見書、手続補正書の提出 令和5年9月 8日付け:拒絶査定 令和6年1月15日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 令和6年1月15日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和6年1月15日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであり、本件補正後の請求項9の記載は、次のとおりである。(下線部は、手続補正書の記載のとおりである。) 「 【請求項9】 両端部間で中央長手方向軸に沿って長さ方向に延在する、縫い目のない周方向に連続的な可撓性の管状の壁を備え、前記壁は、第2の複数の糸と編まれた第1の複数の糸を含み、前記第1の複数の糸および前記第2の複数の糸は、互いに異なる熱収縮率を有し、前記壁は、前記壁を所定の温度に曝す前における第1の厚さおよび前記壁を前記所定の温度に曝した後における第2の厚さを有し、前記第2の厚さは、前記第1の厚さよりも25~90パーセント大きく、 前記第1の複数の糸は、編まれたままの長さの少なくとも10パーセント長さ方向に収縮し、前記第2の複数の糸は、編まれたままの長さの2パーセント未満で長さ方向に収縮する、編まれた保護スリーブ。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲の記載 本件補正前の、令和5年6月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項9の記載は次のとおりである。 「 【請求項9】 両端部間で中央長手方向軸に沿って長さ方向に延在する、縫い目のない周方向に連続的な可撓性の管状の壁を備え、前記壁は、第2の複数の糸と編まれた第1の複数の糸を含み、前記第1の複数の糸および前記第2の複数の糸は、互いに異なる熱収縮率を有し、前記壁は、前記壁を所定の温度に曝す前における第1の厚さおよび前記壁を前記所定の温度に曝した後における第2の厚さを有し、前記第2の厚さは、前記第1の厚さよりも25~90パーセント大きい、編まれた保護スリーブ。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項9に記載された発明を特定するために必要な事項である「第1の複数の糸」及び「第2の複数の糸」について、「前記第1の複数の糸は、編まれたままの長さの少なくとも10パーセント長さ方向に収縮し、前記第2の複数の糸は、編まれたままの長さの2パーセント未満で長さ方向に収縮する」との限定を付加するものであって、本件補正前の請求項9に記載された発明と本件補正後の請求項9に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項9に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載のとおりのものである。 (2)引用文献1の記載、及び引用発明 ア 引用文献1の記載 原査定の拒絶の理由で、引用文献1として引用された米国特許出願公開第2018/0057982号明細書には、次の記載がある。なお、翻訳文は、引用文献1のパテントファミリーである特表2019-525025号公報を参考にして、合議体が作成した。(下線は、引用箇所を示すために当審において付加した。以下同様。) 「[0043] Referring in more detail to the drawings, FIGS. 1 and 1A schematically illustrate a braided protective tubular sleeve, referred to hereafter as sleeve 10, constructed in accordance with one aspect of the disclosure. In FIG. 1, the sleeve 10 is shown disposed about an elongate member 12 to be protected, with the sleeve 10 shown in a second, diametrically shrunken, fully assembled state about the elongate member 12, referred to hereafter as shrunken state or second state. In FIG. 1A, the sleeve 10 is shown in an “as braided”, first, diametrically enlarged, non-shrunken assembly state, referred to hereafter as non-shrunken state or first state. The sleeve 10 has an elongate, braided wall 14 having a circumferentially continuous, tubular outer periphery 16 and inner cavity 17 extending along a central longitudinal axis 18 between opposite open ends 20, 22. It is to be understood that by being circumferentially continuous and tubular, that the sleeve 10 does not have lengthwise extending free side edges, but rather is seamless such that the wall cannot be unwrapped or opened along its length. The wall 14 includes at least two different types of yarn, including at least one or a plurality of shrinkable yarns 24 and at least one or a plurality of non-shrinkable, or substantially non-shrinkable yarns 26. It is to be recognized that by substantially non-shrinkable, what is meant is that the yarn 26 may shrink somewhat, such as up to between about 1-10% of its original length, but nowhere near to the extent as the shrinkable yarn 24, which shrinks about 20% or more of its original length. As such, upon braiding the sleeve 10, the wall 14 has both the shrinkable yarn 24 and the non-shrinkable yarn 26 extending in opposite helical directions along the length of the sleeve in braided fashion with one another. Upon finish braiding the sleeve 10, the elongate member 12 is disposed through the cavity 17, such as wires, a wire harness, or conduit, for example, while the sleeve 10 is in the non-shrunken first state. As a result of the wall 14 being non-shrunken, the elongate member 12 is able to be easily fed through the cavity 17 of the sleeve 10. Then, with the sleeve 10 properly positioned along the elongate member 12, the sleeve 10 is heated to a sufficient temperature to cause the shrinkable yarn(s) 24 to shrink without causing damage to the non-shrinkable yarn(s), thereby causing the wall 14 to shrink significantly in diameter into close, snug abutment with an outer surface of the elongate member 12.」 (段落0043の翻訳文) 「図面をより詳細に参照すると、図1および図1Aは、本開示の1つの局面に従って構築される、以下スリーブ10とよばれる、編組された保護管状スリーブを概略的に示す。図1には、スリーブ10が、保護対象となる細長い部材12の周りに配置されるように示される。スリーブ10は、以下、収縮された状態または第2の状態とよばれる、細長い部材12の周りにおける直径方向に収縮された完全に組み付けられた第2の状態で示される。図1Aには、スリーブ10が、以下、収縮されていない状態または第1の状態とよばれる、「編組されたままの」直径方向に拡大された収縮されていない組付け部品の第1の状態で示される。スリーブ10は、両開放端部20,22間で中心長手方向軸18に沿って延在する周方向に連続した管状の外周16と内側キャビティ17とを有する細長い編組された壁14を有する。周方向に連続的かつ管状であることによって、スリーブ10は、長手方向に延在する自由側縁部を有しないが、むしろ壁はその長さに沿って巻き付けられず開かれないように縫い目がないということが理解されるべきである。壁14は、少なくとも1本のまたは複数の収縮可能な糸24と、少なくとも1本のまたは複数の非収縮可能または実質的に非収縮可能な糸26とを含む、少なくとも2つの異なるタイプの糸を含む。実質的に非収縮可能な糸によって、意味されることは、糸26は、その元の長さの最大約1~10%の間など若干収縮し得るが、その元の長さの約20%以上収縮する収縮可能な糸24としての範囲とはかけ離れているということであると認識されるべきである。このように、スリーブ10を編組する際、壁14は、互いに編組された態様でスリーブの長さに沿って反対の螺旋方向に延在する収縮可能な糸24および非収縮可能な糸26の両方を有する。スリーブ10が収縮されていない第1の状態にある間、たとえばワイヤ、ワイヤハーネスまたは管など、スリーブ10を編組することを終える際に、細長い部材12は、キャビティ17を通って配置される。壁14が収縮されてない結果、細長い部材12は、スリーブ10のキャビティ17を通って容易に供給されることができる。そして、スリーブ10が細長い部材12に沿って適切に配置された状態で、スリーブ10は、非収縮可能な糸にダメージを生じさせることなく、収縮可能な糸24を収縮させるのに十分な温度まで加熱され、これにより、壁14を、直径が細長い部材12の外面に密接したぴったりとした当接になるように十分に収縮させる。」 「【0044】 With the shrinkable yarn(s) 24 being braided in a non-shrunken state, the sleeve 10 is formed with the wall 14 being enlarged such that the cavity 17 is suitably sized to readily receive the elongate member 12 therethrough. The ratio between the first, “as braided” diameter and the second, as shrunken diameter can range between about 1.5 to 10, or greater. As such, if the elongate member 12 has enlarged fittings, connectors, oddly shaped branches, or the like, it can still be easily inserted through the cavity 17 of the sleeve 10 while in the enlarged, first state. The shrinkable yarn 24 can be provided as either multifilament and/or monofilament, and can be provided having a size ranging between about 50 to 10000 denier. Upon disposing the elongate member 12 through the cavity 17, the wall 14 can be activated to shrink into close fit, snug relation about the elongate member 12 (FIG. 1) via selected application of at least one of heat, fluid, and ultraviolet radiation, depending on the type of shrinkable yarn 24 used. Accordingly, the sleeve 10 becomes fixed or substantially fixed (meaning the sleeve is in static frictional engagement with the elongate member 12, but could possibly be moved relative to the elongate member 12 if a force sufficiently strong is applied thereto along an axial and/or rotational direction, but otherwise the sleeve 10 is maintained in a static location relative to the elongate member 12 as desired) and located about the elongate member 12 without need for secondary fixation mechanisms, thereby doing away for the need for clamps, straps, tape, or the like. Further yet, the braided wall 14 becomes densified upon being shrunken, and thus, the protective attributes of the wall 14, such as impact resistance, abrasion resistance, impermeability, among other things, are greatly increased. For example, the density can increase from a first density in the non-shrunken state to a second density in the shrunken state by about 2 times or greater, and in one sample, the density increased from 249 kg/m3 to 446 kg/m3, by way of example and without limitation. In addition, with the single wall 14 being brought into a close, snug fit about the elongate member 12, the thickness and outer envelop of the wall 14 is minimized, thereby being useful in tight areas. In one sample, the finish thickness of the wall 14 was about 3.6 mm, by way of example and without limitation.」 (段落0044の翻訳文) 「収縮可能な糸24が収縮されていない状態で編組されることによって、キャビティ17がそこを通る細長い部材12を容易に受容するように好適にサイズ決めされるように拡大されている壁14を有して、スリーブ10は形成される。「編組されたまま」の第1の直径と収縮されたときの第2の直径との間の比率は、約1.5~10またはそれ以上の間の範囲にあり得る。このように、細長い部材12が拡大された付属品、コネクタ、独特な形状の分岐などを有する場合、それは、拡大された第1の状態にある間、依然としてスリーブ10のキャビティ17を通って容易に挿入されることができる。収縮可能な糸24は、マルチフィラメントおよび/またはモノフィラメントのいずれかとして提供され得、約50~10000デニールの間の範囲の大きさを有して提供され得る。キャビティ17を通って細長い部材12を配置する際、用いられる収縮可能な糸24のタイプに応じて、熱、流体、および紫外線照射の少なくとも1つの選択された印加を介して、壁14は活性化されて細長い部材12の周りに密接嵌合のぴったりとした関係になるように収縮し得る(図1 )。したがって、スリーブ10は、二次的な固定機構の必要なく、細長い部材12の周りに、固定されまたは実質的に固定され(スリーブは細長い部材12との静止した摩擦係合にあるが、軸方向および/または回転方向に沿ってそこに十分に強い力が加えられた場合には細長い部材12に対して動かされる可能性があるが、そうでなければスリーブ10は所望の通りに細長い部材12に対して静止した位置に維持されることを意味する)、配置される。これにより、クランプ、ストラップ、テープなどの必要をなくす。またさらに、編組された壁14は、収縮される際、密度を高くされるため、とりわけ耐衝撃性、耐摩耗性、不浸透性などの壁14の保護特性は大いに上昇する。たとえば、密度は、収縮されてない状態における第1の密度から収縮された状態における第2の密度まで、約2倍以上増加され得る。1つの例では、例示であって限定ではないが、密度は249kg/m3から446kg/m3まで増加された。加えて、単一の壁14が細長い部材12の周りへの密接なぴったりとした嵌合に持ち込まれることによって、壁14の厚さおよび外囲が最小化されることにより、狭いエリアで有用となる。1つの例では、例示であって限定ではないが、壁14の仕上げ厚さは、約3.6mmであった。」 「[0045] The non-shrinkable or substantially non-shrinkable yarns 26 can be provided as multifilaments and/or monofilaments of at least one or more of PET, nylon, PP, PE, PPS, PEEK, and Nomex material yarns. The denier of the non-shrinkable yarns 26 can range from 50 to 10000. It has been found that relatively bulky multifilaments provide the increased loft to further facilitate dampening impact forces, while also enhancing flexibility of the sleeve 10. The number of yarn ends, including shrinkable and non-shrinkable yarns 24, 26, can be adjusted as desired for the intended application.」 (段落0045の翻訳文) 「非収縮可能または実質的に非収縮可能な糸26は、PET、ナイロン、PP、PE、PPS、PEEK、およびノーメックス材料糸の少なくとも1つのマルチフィラメントおよび/またはモノフィラメントとして提供され得る。非収縮可能な糸26のデニールは、50~10000の範囲であり得る。比較的嵩高いマルチフィラメントは、衝撃力を減ずることをさらに容易にするような増加された嵩高性を提供するとともに、スリーブ10の可撓性を高めることがわかっている。収縮可能な糸24および非収縮可能な糸26を含む、糸の端部の数は、意図された用途のために所望のとおりに調整され得る。」 「[0049] In FIGS. 2A and 3A, a portion of the sleeves 10, 10′ of FIGS. 2 and 3 are illustrated in a shrunken state, while it is to be recognized that the remain unseen portion of the sleeves 10, 10′ is the same. In each embodiment, it can be seen that by having a combination of the shrinkable and non-shrinkable yarns 24, 26, an outer surface 16, 16′ of each sleeve 10, 10′ is texturized via the shrunken yarns 24 pulling radially inwardly on the non-shrunken yarns 26 upon being shrunken, thereby creating a plurality of lofted pillows 32 of material from each of the non-shrunken yarns at the plurality junctions between the shrinkable and non-shrinkable yarns 24, 26. The lofted pillows 32 protruded radially outwardly in lofted fashion from the radially constricted, shrunken yarns 24, thereby acting to provide relatively soft, discrete, enhanced impact resistance zones 32, which together, act to greatly enhance the impact resistance of the sleeve. It is to be recognized that the pillow zones 32 are immediately adjacent one another as a result of the substantially increased wall density created upon shrinking the wall, and thus, though the zones are discrete and separate, they act together to greatly increase the impact resistance of the sleeve 10, 10′.」 (段落0049の翻訳文) 「図2Aおよび図3Aには、図2および図3のスリーブ10,10’の一部が収縮された状態で示されるが、スリーブ10,10’の残りの見えない部分は同様であることが認識されるべきである。各実施形態では、収縮可能な糸24および非収縮可能な糸26の組み合わせを有することによって、各スリーブ10,10’の外面16,16’は、収縮される際に、非収縮可能な糸26を径方向内側に引く収縮された糸24を介してテクスチャー化され、これにより、収縮可能な糸24と非収縮可能な糸26との間の複数の合流点において、非収縮可能な糸の各々からの材料からなる複数の嵩高い枕部32を形成することを確認することができる。嵩高い枕部32は、径方向に縮径された収縮された糸24から嵩高くなるように径方向外側に突出し、これにより、ともにスリーブの耐衝撃性を大幅に高めるように作用する比較的柔らかい別個の高められた耐衝撃性ゾーン32を提供するように作用する。枕部ゾーン32は、壁を収縮する際に形成される実質的に増加された壁密度の結果として互いに直接隣接するため、ゾーンが別個であり分離されていても、それらはともにスリーブ10,10’の耐衝撃性を大幅に増加させるように作用する。」 イ 引用発明 上記アによれば、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。なお、認定の根拠となる記載箇所等を括弧内に示した。 「以下スリーブ10とよばれる、編組された保護管状スリーブであって、(段落0043) スリーブ10は、両開放端部20,22間で中心長手方向軸18に沿って延在する周方向に連続した管状の外周16と内側キャビティ17とを有する細長い編組された壁14を有し、(段落0043) スリーブ10は、縫い目がなく、(段落0043) 壁14は、互いに編組された態様でスリーブの長さに沿って反対の螺旋方向に延在する収縮可能な糸24および非収縮可能な糸26の両方を有し、(段落0043) 糸26は、その元の長さの最大約1~10%の間など若干収縮し得るが、その元の長さの約20%以上収縮する収縮可能な糸24としての範囲とはかけ離れており、(段落0043) スリーブ10は、非収縮可能な糸にダメージを生じさせることなく、収縮可能な糸24を収縮させるのに十分な温度まで加熱され、これにより、壁14は収縮し、(段落0043) 編組された壁14は、収縮される際、密度を高くされるため、とりわけ耐衝撃性、耐摩耗性、不浸透性などの壁14の保護特性は大いに上昇し、(段落0044) 比較的嵩高いマルチフィラメントは、スリーブ10の可撓性を高め、(段落0045) スリーブ10の外面16は、収縮される際に、非収縮可能な糸26を径方向内側に引く収縮された糸24を介してテクスチャー化され、これにより、収縮可能な糸24と非収縮可能な糸26との間の複数の合流点において、非収縮可能な糸の各々からの材料からなる複数の嵩高い枕部32を形成し、嵩高い枕部32は、径方向に縮径された収縮された糸24から嵩高くなるように径方向外側に突出し、これにより、ともにスリーブの耐衝撃性を大幅に高めるように作用する比較的柔らかい別個の高められた耐衝撃性ゾーン32を提供するように作用する(段落0049) スリーブ10。」 (3)対比 本件補正発明と、引用発明とを対比する。 ア(ア)引用発明の「両開放端部20,22」及び「中心長手方向軸18」は、それぞれ、本件補正発明の「両端部」及び「中央長手方向軸」に相当する。 (イ)引用発明の「スリーブ10」は、「縫い目がなく」、「可撓性を高め」たものであることを踏まえると、引用発明の「両開放端部20,22間で中心長手方向軸18に沿って延在する周方向に連続した管状の外周16と内側キャビティ17とを有する細長い編組された壁14」は、本件補正発明の「両端部間で中央長手方向軸に沿って長さ方向に延在する、縫い目のない周方向に連続的な可撓性の管状の壁」に相当する。 イ(ア)引用発明の「収縮可能な糸24」及び「実質的に非収縮可能な糸26」は、それぞれ、本件補正発明の「第1の複数の糸」及び「第2の複数の糸」に相当する。 (イ)引用発明の「壁14」が、「互いに編組された態様でスリーブの長さに沿って反対の螺旋方向に延在する収縮可能な糸24および非収縮可能な糸26の両方を有」することは、本件補正発明の「壁」が、「第2の複数の糸と編まれた第1の複数の糸を含」むことに相当する。 (ウ)また、引用発明の「収縮可能な糸24」及び「実質的に非収縮可能な糸26」について、「糸26は、その元の長さの最大約1~10%の間など若干収縮し得るが、その元の長さの約20%以上収縮する収縮可能な糸24としての範囲とはかけ離れて」いる。よって、引用発明の「収縮可能な糸24」及び「実質的に非収縮可能な糸26」と本件補正発明の「前記第1の複数の糸および前記第2の複数の糸」とは、「互いに異なる熱収縮率を有」する点で共通する。 ウ 引用発明の「スリーブ10」は、「非収縮可能な糸にダメージを生じさせることなく、収縮可能な糸24を収縮させるのに十分な温度まで加熱され、これにより、壁14は収縮」するから、「壁14」は所定の温度に曝されて「加熱」されるといえる。また、引用発明の「壁14」が「加熱」の前後で厚さを有することは明らかである。そうすると、引用発明の「壁14」と本件補正発明の「壁」とは、「所定の厚さを有し、所定の温度に曝される」点で一致する。 エ 引用発明の「スリーブ10」は「編組された保護管状スリーブ」であるから、引用発明と本件補正発明とは、「編まれた保護スリーブ」である点で一致する。 オ 一致点・相違点 以上のことから、本件補正発明と引用発明は、次の点で一致し、相違する。 (ア)一致点 「両端部間で中央長手方向軸に沿って長さ方向に延在する、縫い目のない周方向に連続的な可撓性の管状の壁を備え、前記壁は、第2の複数の糸と編まれた第1の複数の糸を含み、前記第1の複数の糸および前記第2の複数の糸は、互いに異なる熱収縮率を有し、前記壁は、所定の厚さを有し、所定の温度に曝される、編まれた保護スリーブ。」 (イ)相違点1 所定の温度に晒される壁の厚さに関し、本件補正発明は、「前記壁は、前記壁を所定の温度に曝す前における第1の厚さおよび前記壁を前記所定の温度に曝した後における第2の厚さを有し、前記第2の厚さは、前記第1の厚さよりも25~90パーセント大き」いのに対して、引用発明では、当該構成について特定されていない点。 (ウ)相違点2 本件補正発明は、「前記第1の複数の糸は、編まれたままの長さの少なくとも10パーセント長さ方向に収縮し、前記第2の複数の糸は、編まれたままの長さの2パーセント未満で長さ方向に収縮する」のに対して、引用発明の「糸26」は「その元の長さの最大約1~10%の間など若干収縮し」、引用発明の「収縮可能な糸24」は「その元の長さの約20%以上収縮する」ものの、これらの糸が、編まれたままの長さの何パーセント長さ方向に収縮するかについて特定されていない点。 (4)相違点の判断 上記相違点1、2についてまとめて検討する。 ア 引用発明は、「スリーブ10の外面16は、収縮される際に、非収縮可能な糸26を径方向内側に引く収縮された糸24を介してテクスチャー化され、これにより、収縮可能な糸24と非収縮可能な糸26との間の複数の合流点において、非収縮可能な糸の各々からの材料からなる複数の嵩高い枕部32を形成し、嵩高い枕部32は、径方向に縮径された収縮された糸24から嵩高くなるように径方向外側に突出」するもの、すなわち、収縮された糸24が非収縮可能な糸26を径方向内側に引くことによって、径方向に縮径された収縮された糸24から嵩高くなるように径方向外側に突出した嵩高い枕部32を形成するものである。引用発明における、このような嵩高い枕部32の形成機序に加えて、「糸26は、その元の長さの最大約1~10%の間など若干収縮し得るが、その元の長さの約20%以上収縮する収縮可能な糸24としての範囲とはかけ離れて」いることからして、引用発明は、加熱されて収縮した後の「壁14」の厚さが、加熱されて収縮する前の「壁14」の厚さよりも大きいといえる。 イ また、引用発明の「収縮可能な糸24および非収縮可能な糸26」は、「互いに編組された態様でスリーブの長さに沿って反対の螺旋方向に延在する」ものであるから、加熱されて壁14が収縮する際に、「編まれたままの長さ」の「長さ方向」にも収縮するといえる。 ウ そうすると、壁を所定の温度に曝すことにより、壁の厚さが増大する点、糸が編まれたままの長さの長さ方向に収縮する点は実質的な相違点ではなく、壁の厚さの増大率及び「第1の複数の糸」と「第2の複数の糸」のそれぞれに設定された編まれたままの長さの長さ方向の収縮率の数値範囲(以下、これらをまとめて「本件補正発明の数値範囲」という。)が実質的な相違点である。 エ 請求項に数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合において、相違点がその数値限定のみにあるときは、限定された数値の範囲内において奏される効果が引用発明の示された証拠に開示されていない有利なものであり、異質、又は同質であるが際だって優れたものであって、本願の優先日時点の技術水準から当業者が予測できたものでない場合を除き、進歩性を有していないと判断される。よって、以下、「本件補正発明の数値範囲」内において奏される効果について検討する。 オ 「本件補正発明の数値範囲」のうち、「前記第2の厚さは、前記第1の厚さよりも25~90パーセント大き」いことによる効果として、本願の明細書の段落0006には、「スリーブの編まれた壁の厚さは、熱収縮性糸を熱収縮させる前における厚さに対して約25~90パーセント増加され、増加された壁厚さは、摩耗に対する増大した耐性、ほつれに対する増大した耐性、汚染の侵入に対する増大した耐性、増大した断熱性のレベル、および高温熱条件に対する増大した保護のレベルを提供する」ことが記載され、段落0013には、「耐摩耗性を増大させ、汚染の侵入に対する耐性を増大させ、壁の耐熱性を増大させる」ことが記載されている。 また、「前記第1の複数の糸は、編まれたままの長さの少なくとも10パーセント長さ方向に収縮し、前記第2の複数の糸は、編まれたままの長さの2パーセント未満で長さ方向に収縮する」ことによる効果として、本願の明細書の段落0016には、「壁を所定の温度に曝す際、増大した壁の厚さに寄与し、したがって耐摩耗性を増大させ、汚染の侵入に対する増大した耐性、および壁の増大した耐熱性に寄与する」ことが記載されており、さらに審判請求書において請求人は、「補正後の本願請求項1に係る発明は、上記の構成要件A7を備えていますので、編まれた保護スリーブの壁の有効厚さが、熱収縮性糸を熱収縮する前における厚さから、熱収縮性糸を熱収縮した後における厚さまで増大され、壁の密度が、熱収縮性糸を熱収縮させる前における密度から、熱収縮性糸を熱収縮させた後における密度まで増大され、その結果、摩耗に対する増大した耐性、増大した断熱性のレベル、高温熱条件に対する増大した熱保護、ならびに壁をある長さに切断する際における糸のほつれおよび使用中におけるスリーブの端部のほつれに対する増大した耐性を含む相乗効果を提供します(本願明細書の段落[0030])。」と主張している。 しかしながら、下記(ア)~(エ)のとおり、本件補正発明が引用発明と比較して、本願の優先日時点の技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであるとはいえない。 (ア)「耐摩耗性」及び「汚染の侵入に対する耐性」について 引用発明も「とりわけ耐衝撃性、耐摩耗性、不浸透性などの壁14の保護特性は大いに上昇」するものであるところ、引用発明は、本件補正発明の「耐摩耗性」及び「汚染の侵入に対する耐性」との効果と同質の効果を有しているといえる。 (イ)「耐熱性」、「断熱性」及び「高温熱条件に対する増大した熱保護」について 耐熱性に関し、本願の明細書の段落0016に「壁を所定の温度に曝す際、増大した壁の厚さに寄与し、したがって…壁の増大した耐熱性に寄与する」と記載されていることから、壁の厚さが増大することによって耐熱性の増大がもたらされるものと理解される。一般に、壁の厚さが増大すれば耐熱性が増大することは本願の優先日時点の技術常識といえるから、本件補正発明と同様に、壁を所定の温度に曝すことによって壁の厚さが増大する引用発明においても、耐熱性が増大するという効果が奏されることは、当業者であれば予測できたものといえる。 断熱性及び熱保護に関しても同様であって、本願の明細書の段落0006、0013、0016、0030の記載から、壁の厚さ及び密度が増大することによって断熱性及び熱保護がもたらされるものと理解されることから、同様に壁の厚さ及び密度が増大する引用発明においても、断熱性及び熱保護が得られることは当業者であれば予測できたものといえる。 (ウ)「ほつれに対する増大した耐性」について 引用発明は、「編組された壁14は、収縮される際、密度を高くされる」ものである。壁14の壁密度を大きくすれば、ほつれに対して耐性が増大することは当業者にとって明らかであるから、引用発明において、ほつれに対して耐性が増大することは、当業者が予測できたものである。 (エ)さらに、本願の明細書、審判請求書及び技術常識を参酌しても、「本件補正発明の数値範囲」の内と外とにおいて、上記(ア)~(ウ)の各効果について、量的に顕著な差異があると理解することはできないから、「本件補正発明の数値範囲」において顕著な効果が奏されると理解することもできない。 カ 以上のことから、数値限定により特定される本件補正発明が有する効果は、引用発明と比較して、本願の優先日時点の技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであるとは認められないから、上記相違点1、2に係る構成は、当業者が必要に応じて適宜なし得る設計事項にすぎない。 (5)小括 以上のとおり、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和6年1月15日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~17に係る発明は、令和5年6月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~17に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項9に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項9に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものを含む。 3 引用文献1に記載された発明 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、上記第2[理由]2(2)アに記載したとおりであり、引用文献1に記載された発明は、上記第2[理由]2(2)イの「引用発明」のとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、上記第2[理由]2で検討した本件補正発明から、上記第2[理由]2(3)オ(ウ)の相違点2に係る限定事項を削除したものであるから、上記第2[理由]2(3)と同様に対比すると、本願発明と引用発明とは上記第2[理由]2(3)オ(ア)の点で一致し、上記第2[理由]2(3)オ(イ)の点(相違点1)で相違する。 そして、上記第2[理由]2(4)のとおり、引用発明の「壁14」について、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることであるから、本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願の請求項9に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2024-000596

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