意匠無効審判
2023-880003
かばん
- 審判番号
- 2023-880003
- 法域
- 意匠
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 意願2017-018064外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 1606558
- 請求日
- 2023年01月13日
- 審決日
- 2023年09月04日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】エルメス・アンテルナショナル
- 【請求人代理人】高松 薫
- 【請求人代理人】鈴岡 正
- 【請求人代理人】石田 晃士
- 【請求人代理人】椿原 直
- 【被請求人】トムズアンドコレクティブ 株式会社
- 【被請求人代理人】大谷 元
- 分類
- D1113.25 -Z (B4-1) / D1113.113-Z (B4-1) / D1113.121-Z (B4-1)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 意匠法第5条、意匠法第3条、意匠法第48条、意匠法第6条、商標法第4条第1項第15号、意匠法第52条、特許法第169条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の意匠登録第1606558号「かばん」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。
結論
結 論
意匠登録第1606558号の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 請求の趣旨及び答弁の趣旨
1 請求の趣旨
次を結論とする審決を求める。
(1)登録第1606558号意匠の登録を無効とする。
(2)審判費用は被請求人の負担とする。
2 答弁の趣旨
次を結論とする審決を求める。
(1)登録第1606558号意匠の登録を維持する。
(2)審判費用は請求人の負担とする。
第2 手続の経緯
1 本件意匠の出願から意匠公報の発行までの経緯
本件意匠についての、出願から本件無効審判請求の前までの手続の経緯の概略は以下のとおりである。
平成29年 8月23日 :出願(意願2017-18064)
同年 9月13日 :新規性の喪失の例外証明書提出書の提出
平成30年 2月 2日付け:拒絶理由通知書
同年 3月23日 :意見書及び手続補足書の提出
同年 4月17日付け:登録査定
同年 5月18日 :意匠権の設定登録
同年 6月11日 :意匠公報の発行
2 本件無効審判の手続の経緯
本件無効審判における手続の概略は、以下のとおりである。
令和 5年 1月13日 :審判請求書の提出
同年 4月20日付け:無効審判事件答弁書の提出
同年 7月11日 :口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
同年 7月27日 :口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
同年 8月 8日 :口頭審理
第3 請求人が主張する無効理由
1 無効理由1(意匠法5条2号に該当)
登録意匠第1606558号(以下「本件登録意匠」という。甲第62号証。別紙第1参照。)は、請求人の周知・著名な商標である請求人の商品「バーキン」の立体的形状(商標登録第5438059号(以下「バーキン商標」という。甲第1号証。別紙第2参照。)。蓋を本体内部に差し込んだ態様は甲第29号証及び甲第30号証に表されている。別紙第3及び別紙第4参照。)と類似の形状を表するものであり、請求人の業務に係る商品と混同を生じるおそれがある意匠、すなわち、他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠であるから、意匠法5条2号に該当し、同法同条の規定により意匠登録を受けることができない意匠であり、その登録は同法48条1項1号により無効とされるべきである。
2 無効理由2(意匠法5条2号に該当)
本件登録意匠は、請求人の周知・著名な商標である、請求人のブランド「HERMES」の頭文字である欧文字「H」をデザイン化した商標(商標登録第4672965号、指定商品:かばん金具等、以下「H商標1」という。甲第38号証。別紙第5参照。)と同一又は類似する標章を、本体正面に付された南京錠に表するものであり、請求人の業務に係る商品と混同を生じるおそれがある意匠、すなわち、他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠であるから、意匠法5条2号に該当し、同法同条の規定により意匠登録を受けることができない意匠であり、その登録は同法48条1項1号により無効とされるべきである。
3 無効理由3(意匠法5条2号に該当)
本件登録意匠は、請求人の周知・著名な商標である、請求人のブランド「HERMES」の頭文字である欧文字「H」をデザイン化した商標(商標登録第5864813号、指定商品:かばん用の金属製留具等、以下「H商標2」という。甲第39号証。別紙第6参照。)と同一又は類似する標章を、本体正面に付された南京錠に表するものであり、請求人の業務に係る商品と混同を生じるおそれがある意匠、すなわち、他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠であるから、意匠法5条2号に該当し、同法同条の規定により意匠登録を受けることができない意匠であり、その登録は同法48条1項1号により無効とされるべきである。
4 無効理由4(意匠法3条1項3号に該当)
本件登録意匠は、商標登録第5438059号(バーキン商標)に関する商標公報(甲第1号証)に記載された意匠(以下「引用意匠1」という。)と類似するものであり、意匠登録出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠に類似するものであるから、意匠法3条1項3号に該当し、同法同条同項の規定により意匠登録を受けることができず、その登録は同法48条1項1号により無効とされるべきである。
5 無効理由5(意匠法3条1項3号に該当)
本件登録意匠は、楽天市場「abientot」販売ページ(甲第55号証。別紙第7参照。)に記載された意匠(以下「引用意匠2」という。)と類似するものであり、意匠登録出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠に類似するものであるから、意匠法3条1項3号に該当し、同法同条同項の規定により意匠登録を受けることができず、その登録は同法48条1項1号により無効とされるべきである。
6 無効理由6(意匠法3条2項に該当)
本件登録意匠は、その出願前に公知となった引用意匠2の形状と、その出願前に公知となった引用意匠3ないし5(引用意匠3ないし5については、後記第4の4(1)イを参照。)の本体両側面に複数の突起を設ける形状とを組み合わせたものにすぎず、当業者であれば容易に創作することができたものであり、意匠法3条2項に該当し、意匠法48条1項1号により、その登録は無効にされるべきものである。
第4 当事者の主張及び証拠方法
1 無効理由1(「バーキン商標」に基づき意匠法5条2号に該当する)
(1)請求人の主張
ア 本件登録意匠はバーキン商標と類似すること
(ア)バーキン商標の内容
請求人は、請求人の商品「バーキン」の立体的形状について、以下の商標権を有している(甲1)。
登録番号 第5438059号
登録日 2011年(平成23年)9月9日
指定商品 ハンドバッグ
(イ)バーキン商標の周知・著名性
請求人は、1837年ティエリ・エルメスによりフランスにて創業され、バッグ、高級婦人服、アクセサリー等で知られる高級ブランドである(甲第2号証。別紙第8参照。)。
請求人の商品「バーキン」は、1984年(昭和59年)に発表され、フランスの著名な女優であるジェーン・バーキンが愛用したことで「バーキン」の名称で世界的に広く知られることとなっている。
請求人による長年の販売活動及び広告宣伝活動等により、バーキンの立体的形状(バーキン商標)は、請求人の出所標識として識別力を獲得しているとして、2011年(平成23年)、特許庁により商標登録が認められるに至っている。また、裁判所においても、遅くとも2009年(平成21年)までに、バーキン商標が、請求人の出所表示として著名となっていることが認められている(知財高判令和2年12月17日・WESTLAW2020WLJPCA12179001(甲61))
以上のとおりであり、バーキン商標は、遅くとも本件登録意匠の出願前から現在に至るまで、請求人の出所を表示する標識として周知著名である。
(ウ)本件登録意匠とバーキン商標との類似性
a 本件登録意匠とバーキン商標を比較すると、本件登録意匠は、以下の点において、バーキン商標と共通する。
・正面および背面が底辺のやや長い台形状、本体各側面が縦長の二等辺三角形状である点
・本体背面上部に端部を縫合され、本体各側面を通り、本体正面の上部まで延在する左右一対のベルトが設けられている点
・前記左右一対のベルトを本体正面の上部中央にて固定することができる先端にリング状を形成した固定具が設けられている点
・本体正面上部に設けられたハンドルの端部より外側の位置において、前記各ベルトを固定することができる左右一対の補助固定具が設けられている点
・本体正面上部及び背面上部に、円弧状をなす一対のハンドルが縫合されている点
b 他方で、本件登録意匠は、以下の2点において、バーキン商標と異なっている(なお、本件登録意匠には本体正面に南京錠が付属しているのに対して、バーキン商標には南京錠が付属していないが、南京錠はあくまでバッグの付属品であり、後述するとおり、バーキンにも付属品として南京錠が付属していることから、南京錠の有無は、差異点には含めない)。
・バーキン商標に存在する蓋部が、本件登録意匠には存在しない点
・本件登録意匠の本体各側面に存在する複数の突起が、バーキン商標には存在しない点
c この点、バーキンが実際には蓋を閉めることなく、開放したまま本体内部に差し込んだ態様で使用されるという実情があること(甲28ないし甲31)、そのように蓋を開放したまま本体内部部に差し込んだ態様の形態についても、請求人の出所を表示する標識として需要者に認識されていることに鑑みれば、上記b記載の蓋部の有無に関する差異点は、需要者の注意を惹くものではない。
また、本体正面を外側に向けて持つのが一般的であるハンドバッグという物品の性質上、需要者の注意を最も惹く要部は本体正面の構成であること、本件登録意匠の出願時点でハンドバッグの側面に複数の突起を設ける構成は公知であったこと(甲58ないし甲60)に照らすと、上記b記載の本体各側面の突起の有無に関する差異点もまた需要者の注意を惹くものとはいえない。
むしろ、本件登録意匠は、需要者が最も注意を惹かれる本体正面において、蓋部の存否を除けば、バーキン商標の形態上の特徴全てで共通していること、本件登録意匠を本体正面から看た場合、その形状は、蓋を開放したまま本体内部に差し込んだ状態のバーキンと酷似することに照らせば、全体としてバーキン商標との共通点が差異点を凌駕し、本件登録意匠は、バーキン商標と需要者の視覚を通じて起こさせる美感を同じくするものといえる。
したがって、本件登録意匠は、バーキン商標と類似しており、少なくとも混同を生じるおそれがある程に紛らわしい形状であるといえる。
イ 後記(2)に対する意見
(ア)意匠法5条2号において間題となるのは、意匠の類似性(意匠法3条1項3号)ではなく、需要者における混同のおそれである。意匠法5条2号に該当するというためには、混同のおそれの存在を基礎付けるだけの「デザイン間の近似性」(出所表示機能が生じる部分の形状の近似性)があれば足り、意匠が類似であること(意匠法3条1項3号)まで要しない。
また、被請求人自身が主張するように、混同のおそれがあるか否かは、「デザイン間の近似性、物品の競合関係の強弱、表示の周知著名度の強弱」等の「諸要素を総合的に勘案して」判断されるのであって、デザイン間の「類似性」のみを理由に、混同のおそれの有無が判断されるわけでもない。本件においては、[1]バーキンと相手方登録意匠に係る物品がいずれもハンドバッグであり、物品間に強い競合関係があること、[2]登録されたバーキン商標の蓋を閉めた形状だけではなく、蓋を開放したまま本体内部に差し込んだ態様の形状も請求人の出所を表示する標識として需要者に広く知られている、という事情がある。これらの事情は、混同のおそれの存在を裏付けるものである。
(イ)さらに、被請求人は、バーキン商標と本件登録意匠の差異点に関して縷々主張するが、被請求の主張はいずれも取引の実情(需要者の認識)を省みない点において誤りである。
a すなわち、まず蓋部の有無に関し、被請求人は、「「蓋部」の開閉はバーキン商標の機能の問題であって、意匠(かばんの外観形状)の問題ではない。」旨主張する(後記(2)イ(ウ)a)が、意匠法5条2号の該当性の判断に関して間題にすべきは、意匠の類似性ではなく、需要者の混同のおそれの有無であることは上述したとおりである。需要者がバーキンのどのような形状からその出所を請求人であると認識できているかが重要なのであって、需要者に認識されている形状が使用態様によって複数あることは何らおかしいことではない。
そして、バーキンにおいては、登録されたバーキン商標の蓋を閉めた形状(甲1)だけではなく、蓋を開放したまま本体内部に差し込んだ態様の形状(甲5、甲7、甲14、甲20、甲32ないし甲35など)も請求人の出所を表示する標識として広く需要者に認識されているのであって、蓋部のない本件登録意匠に接した需要者において、その出所を請求人のバーキンまたは請求人と組織上、営業上何等かの関係を有する者の商品であると混同するおそれがあることは明白である。
b 次に、本体各側面部分の突起の有無に関し、被請求人は、「突起が本体各側面に形成されているかばんにおいて、本体各側面を気にしない需要者なんていない」と主張する(後記(2)イ(ウ)b)。
しかしながら、被請求人は、「本体各側面を気にしない需要者なんていない」ことを裏付ける証拠は全く提出していない。もとより、本体正面を外側に向けて持つのが一般的であるハンドバッグという物品の性質上、需要者の注意を最も惹く部分は本体正面部分であり、本体各側面は需要者の注意を惹きにくいことは公知の事実と思われる。
以上に加えて、ハンドバッグの側面部分に複数の突起を設ける構成が公知であったことからすれば、需要者において本体各側面部分の突起の有無は些末な差であるといえ、この差異を理由に混同のおそれが否定されることはあり得ない。
c なお、被請求人は、「その他の差異点」などとして、バーキン商標は、「蓋部があることによって、本体正面のハンドルの接続部分が蓋部で隠れて見えないようになっている」、「蓋部があることによって、本体の上部開口部が蓋部で覆われて見えないようになっている」旨主張する(後記(2)イ(ウ)c)が、いずれも「蓋部の有無」の差異点をいうにすぎないものであり、「その他の差異点」があるわけではない。
(ウ)以上のとおりであり、バーキン商標と本件登録意匠とを比較した場合に、蓋部の有無と突起の有無に差異があることは問題となり得ず、バーキンと相手方登録意匠に係る物品がいずれもハンドバッグであり、物品間に強い競合関係があること、登録されたバーキン商標の蓋を閉めた形状だけではなく、蓋を開放したまま本体内部に差し込んだ態様の形状も請求人の出所を表示する標識として需要者に広く知られていること、バーキン商標(蓋を開放したまま本体内部に差し込んだ態様の形状も含む)と本件登録意匠が近似することからすれば、需要者における混同のおそれはなお生じることは明白である。
ウ 小括
以上のとおり、本件登録意匠は、本体に請求人の業務に係る商品を表示する標章として周知著名なバーキン商標と類似する標章(立体的形状)を表するものであり、請求人の業務に係る商品と混同を生じるおそれがあるから、意匠法5条2号により意匠登録を受けることができないものである。
(2)被請求人の主張
ア 意匠法5条2号の考え方
(ア)混同を生ずるおそれ
5条2号の「混同を生ずるおそれ」については、「「混同」とは、他人に物品と出願された意匠を具現した物品とが並列的に対比したとき相互に誤認されることをいうのではなく、物品の出所について誤認混同することをいう」(満田重昭・松尾和子編「注解意匠法」192頁)とされている。また、「混同を生ずるおそれ」と規定されているため、混同が生じた事実が存在しなくとも、そのおそれがあれば、本号が適用される(同旨 前記注解192頁)。さらに、この「混同」とは、「本号が不正競争法的性質を有するところから、「混同」は、AとBとを取り違える狭義の混同に限らず、物品の出所について相互に関連性があると想定する広義の混同で足りると解すべきである。」といわれている(前記注解192頁)。
イ 「バーキン商標」について
(ア)請求人製品(バーキン商標)について
請求人の主張のように、バーキン商標は、2011年には請求人の出所標識として識別力を獲得していると考えられる。しかし、バーキン商標と本件意匠登録は非類似である。
(イ)また、請求人は、バーキン商標と本件意匠登録の差異点が以下の2点だと主張している。
a 「蓋部」の有無
b 本体各側面の「突起」の有無
(ウ)バーキン商標と本件意匠登録との差異点について説明する。
a 蓋部の有無
バーキン商標には「蓋部」が存在するが、本件意匠登録には「蓋部」は存在しない。この点、請求人は、甲28~甲37を挙げて、「多くの需要者によって実際には蓋として使用されていない。・・・蓋部の有無に関する差異点は需要者の注意を惹くものではない」などと主張している。しかしながら、甲5~甲27においては、「蓋部」を閉じた状態の使用例も多数挙がっている。すなわち、「蓋部」を使用するかしないかは、バーキン商標を購入した者の自由であり、意匠(かばんの外観形状)の問題とはまるで関係がない。したがって、本件意匠登録には「蓋部」が存在しないので、「蓋部」の開閉という概念が存在しない。
請求人は、「蓋部」の開閉に基づいた使用状態をことさらのように主張しているが、「蓋部」の開閉はバーキン商標の機能の問題であって、意匠(かばんの外観形状)の問題ではない。意匠は、物品の外観であり、蓋の有無は、意匠を認定する上で非常に重要である。この点、請求人の主張は論点をすり替えただけであり、この点だけを考慮しても本件意匠登録はバーキン商標と類似していないと、容易に理解できる。
b 本体各側面の「突起」の有無
本件意匠登録の本体各側面には複数の突起が設けられているが、バーキン商標にはそのような突起がない。
この点、請求人は、「需要者の注意を最も惹く要部は本体正面の構成であること、・・・ハンドバッグの側面に複数の突起を設ける構成は公知である(甲58~甲60)」などと主張している。本件登録意匠を参照すれば容易に理解できることであるが、本体各側面に複数の突起があることも本件意匠登録の要部の1つである。本件意匠登録と甲58~甲60とを比較すれば一目瞭然である。つまり、それらは、特許庁の審査においても参考文献として挙げられたものも含んでおり、突起を含めたかばん全体の意匠で比較されていることがわかる。また、突起が公知であるとしても、突起が本体各側面に形成されているかばんにおいて、本体各側面を気にしない需要者なんていないと考えられる。もちろん、バーキン商標の本体各側面には複数の突起が形成されていないので、需要者は側面を気にしないであろう。しかしながら、本件意匠登録にはそもそも複数の突起が本体各側面に形成されているので、バーキン商標と本件意匠登録との需要者の注意を惹く要部を同じように認定することはできない。この点を考慮しても本件意匠登録はバーキン商標と類似していないと、容易に理解できる。
c その他の差異点
バーキン商標は、蓋部があることによって、本体正面のハンドルの接続部分が蓋部で隠れて見えないようになっている。この点も差異点である。
また、バーキン商標は、蓋部があることによって、本体の上部開口部が蓋部で覆われて見えないようになっている。この点も差異である。
このような差異点があるにも関わらず、都合のよい差異点だけを挙げての主張は、根拠に乏しいと言わざるを得ない。
(エ)小括
上記の意匠法5条2号の考え方に沿って、バーキン商標と本件意匠登録を比較しても、両者は明らかに非類似であるため、本件意匠登録は「他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠」には該当しない。
2 無効理由2及び無効理由3(「H商標1」及び「H商標2」に基づき意匠法5条2号に該当する)
(1)請求人の主張
ア H商標の内容
請求人は、請求人のブランド「HERMES」の頭文字である欧文字「H」を左右に各描かれた複数の縦線とその間をつなぐ複数の横線により表した標章について、以下の商標権を有している(甲38、甲39)。
(ア)H商標1
登録番号 第4672965号
登録日 平成15年(2003年)5月16日
商品区分 第18類
指定商品 かばん金具等
(イ)H商標2
登録番号 第5864813号
登録日 平成28年(2016年)7月8日
商品区分 第18類
指定商品 かばん用の金属製留具等
イ H商標の周知・著名性
請求人は、エルメス商品の中でも主力商品であるハンドバッグ等について、遅くとも1960年以降、通称「カデナ」と呼ばれる南京錠(以下「カデナ」という。)を付属品(留め具)として付けて販売しているところ、H商標は、当該カデナの本体に表示されている標章である。
請求人が販売するハンドバッグ等に付属するカデナには、1960年以降今日に至るまで約60年以上にわたって、一貫してH商標が付されているところ、当該カデナが付属するエルメス商品には、上記バーキンの他、「ケリー」、「ボリード」、「リンディ」、「ピコタンロック」などがあり、請求人が販売するハンドバッグのほとんどの商品に及んでいる(甲40)。
また、H商標は、バーキンやケリーをはじめとするハンドバッグ等に付属するカデナに表示されているため、女性誌などにバーキンやケリーなどが写真で紹介される際には、本体正面にカデナが付された状態の写真が掲載される場合も多く(甲15、甲21、甲42ないし甲50)、カデナに表示されているH商標は、バーキンやケリーの立体的形状と同様に、多くの需要者・取引者による認識の対象となっている。
殊更に、請求人が長年にわたり、ハンドバッグ等にカデナを付属品として付けて販売していることから、カデナは請求人のブランド「HERMES]の「シンボル的なアイテム」と評価されており(甲51)、インターネット上にはエルメスのカデナを取り上げた記事も散見されるところ、それらの記事ではH商標が付された請求人のカデナが写真付きで掲載されている(甲第52号証及び甲第53号証。別紙第9及び別紙第10参照。)。加えて「HERMES」と関係のない付属品としての「カデナ」一般の説明においても、「ブランド「HERMES(エルメス)」のバッグなどに付属している南京錠のこと」とわざわざ請求人のブランド「HERMES」が紹介され、H商標が付されたカデナの写真が掲載されており(甲第54号証。別紙第11参照。)、H商標が請求人の出所標識として需要者に強く印象付けられている。
以上のとおりであり、H商標は、バーキン商標と同様に、遅くとも本件登録意匠の出願前から現在に至るまで、請求人の出所を表示する標識として周知著名である。
ウ 本件登録意匠(本体正面のカデナ)に付された標章とH商標の類似性
本件登録意匠の本体正面に付されたカデナには、左右に各描かれた複数の縦線とその閧をつなぐ複数の横線により表された欧文字の「H」からなる標章が付されているところ、当該本件登録意匠(本体正面のカデナ)に付されている同標章は、H商標と同一または少なくとも類似するものであることは明らかである。
エ 後記(2)に対する意見
後記(2)ア(エ)の被請求人の主張はいずれも理由がない。
aに関しては、意匠登録出願を行うに際しては「願書に意匠登録を受けようとする意匠を記載した図面を添付して・・・提出しなければならない」(意匠法6条)とされており、被請求人は、意匠登録を受けようとする意匠として「金属製留具」を付した本件登録意匠を出願し、登録を受けたものである。このため、「金属製留具」が本件登録意匠の一部を構成するものではない旨の主張は、自身の出願内容と矛盾するものであり理由がない。
また、本体正面を外側に向けて持つのが一般的であるハンドバッグという物品の性質上、需要者の注意を最も惹く部分は本体正面部分である以上、本件登録意匠の本体正面部の中央に位置する「金属製留具」が需要者の注意を惹くことはいうまでもない。
bに関しては、そもそも「本件意匠登録の意匠的な判断にはなり得ず、H商標を表したものであるということにはならない」との主張の趣旨が判然としないが、上記と同様、被請求人は、意匠登録を受けようとする意匠としてH商標又はH商標に類似する標章が付された「金属製留具」を本体正面に付属させた本件登録意匠を出願し、登録を受けたものであって、被請求人が本件登録意匠にH商標又はH商標に類似する標章を表したことは明白である。
cに関してはおよそ理由となっていない。審査官が不登録事由の存在を見過ごして登録される可能性を考慮に入れて不服申立ての手続きが法律上設けられているのである。
dに関しては、本件登録意匠に関して、それを実際にどのように実施するかは被請求人の判断であるが、被請求人の実際の実施態様によって本件登録意匠の内容が変わるわけではない。出所表示機能を有するH商標又はH商標に類似する標章が付された「金属製留具」を本体正面に付属させた本件登録意匠を出願し、登録を得た以上、実際の実施品の金属製金具にH商標又はH商標に類似する標章が付されているか否かによって、本件登録意匠の内容が変わるわけではない。
e及びfに関しては、需要者における混同のおそれに関する理解に誤りがある。
すなわち、商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」について、最高裁は、「当該商標をその指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という。)に使用したときに、当該商品等が他人の商品又は役務(以下「商品等」という。)に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(以下「広義の混同を生ずるおそれ」という。)がある商標を含むものと解するのが相当である」と判断している(最判平成12年7月11日民集54巻6号1848頁(レール・デュタン事件))。
本件登録意匠(の実施品)に接する需要者は、その出所を請求人と系列会社等の緊密な営業上の関係又は請求人からライセンスを受けた同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の商品であると混同するのであって、その場合には、本件登録意匠の実施品を購入した需要者がクレームを述べないことも、物品の価格帯が異なることも十分にありうるのだから、被請求人の主張する事実は広義の混同の生ずるおそれを否定する理由とはおよそならない。
以上から、被請求人の主張にはいずれも理由がなく、被請求人がH商標の識別力及び著名性を認めていることを併せて考えれば、本件登録意匠はH商標又はH商標に類似する標章を表しているため、本件登録意匠は請求人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある。
オ 小括
以上のとおり、本件登録意匠は、本体正面に付されたカデナにおいて、本体に請求人の業務に係る商品を表示する標章として周知著名なH商標と同一または少なくとも類似する標章を表するものであって、請求人の業務に係る商品と混同を生じるおそれがあるから、意匠法5条2号により意匠登録を受けることができないものである。
(2)被請求人の主張
ア 「H商標」について
(ア)請求人ブランド(H商標)について
請求人の主張のように、H商標は、2011年には請求人の出所標識として識別力を獲得していると考えられる(甲40~甲54)。
しかし、本件意匠登録はH商標を表していない。
(イ)H商標は、指定商品を「かばん金具等」(甲38)、「かばん用の金属製留具」(甲39)とする登録商標である。
(ウ)また、請求人は、本件意匠登録は、本体正面に付された金属製留具において、H商標と同一又は類似する標章を表すると主張している。
(エ)本件意匠登録の本体正面に付された金属製留具について説明する。
a 本件意匠登録は、「かばん」の意匠であり、本体正面に付された金属製留具は、本件意匠登録の本質的な部分ではなく、本件意匠登録の一部を構成するものではない。そのため、本件意匠登録の要部ではない。そのため、本件意匠登録の需要者の注意を最も惹く要部は、かばんの全体的な形状であり、本体正面に付された金属製留具は、需要者の注意を最も惹く要部とはなり得ない。
b また、本件意匠登録は、本体正面に付された金属製留具に模様が入った状態で登録されているが、金属製留具に模様を入れることはかばんの販売者の一般的な行為である。つまり、販売者が金属製留具に付す模様を決定するだけであり、本件意匠登録の意匠的な判断にはなり得ず、H商標を表したものであるということにならない。
c 本件意匠登録は、特許庁の審査を経て登録されたものであり、特許庁審査官が著名なH商標を看過するはずもない。
d 被請求人は、本件意匠登録に係るかばんの実際の販売形態について、本体正面に付された金属製留具には何の模様を付していない。本件意匠登録に係るかばんの実際の販売形態は、意匠権の効力範囲内の実施であり、金属製留具の模様の有無は、本件意匠登録の意匠権の効力を何ら制限するものではなく、意匠の本質的な部分でないことが容易に理解できる。
e 本件意匠登録の製品購入者からクレームが一切発生していない。
f 本件意匠登録に係るかばんは、H商標が付された請求人のかばんとは、そもそも価格帯が違っている。そのため、需要者が、両者を混同するはずがない。
イ 本体正面に付された金属製留具に表記の模様について
本件登録意匠の本体正面に付された金属製留具に表記の模様(以下、単に本件模様と称する)は、本件登録意匠の要部を構成しない。そのため、本件模様を、H商標と同一又は類似する標章として比較する必要がない。本件登録意匠の要部を構成しないと言えるのは、本件模様の有無で、本件登録意匠の要旨に何ら影響を与えないからである。
次に、本件登録意匠の要旨を考える。
意匠の「要旨」とは、その意匠の属する分野における通常の知識に基づいて、願書の記載及び願書に添付した図面等から直接的に導き出せる具体的な意匠の内容をいうとされている。
したがって、本件模様は、本件登録意匠の要部を構成するものでもなく、本件登録意匠の要旨にも影響しないと言える。
ウ 小括
上記の意匠法5条2号の考え方に沿って、H商標が本件意匠登録に含まれているかを検討しても、出所の混同が明らかに発生していないため、本件意匠登録は「他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠」には該当しない。
3 無効理由4及び無効理由5(引用意匠1及び引用意匠2に類似するので意匠法3条1項3号に該当)
請求人の主張
本件登録意匠は、引用意匠1及び引用意匠2と類似するものであるから、意匠法3条1項3号に該当する。
ア 本件登録意匠が引用意匠1(バーキン商標)と類似すること
本件登録意匠が、引用意匠1(バーキン商標)と類似することは、前記1(1)ア(ウ)において述べたとおりである。
イ 本件登録意匠が引用意匠2と類似すること
(ア)引用意匠2の内容
引用意匠2は、甲第55号証に記載された意匠である。甲第55号証が公開された具体的な年月日は不明であるが、甲第55号証に記載されたバッグのレビュー欄には、最も古いレビューが2013年4月25日に投稿されていること(甲56)、甲第55号証に記載されたバッグと同一のバッグが掲載されている別の販売サイトの「登録情報」欄には「取り扱い開始日:2017年5月19日」と記載されていることから(甲57)、甲第55号証のサイトは少なくとも本件登録意匠の出願日である2017年(平成29年)8月23日よりも前に公開されたものである。
(イ)本件登録意匠と引用意匠2の類似性
a 両者は以下の点において共通する。
(a)正面および背面が底辺のやや長い台形状、本体各側面が縦長の二等辺三角形状である点
(b)本体背面上部に端部を縫合され、本体各側面を通り、本体正面の上部まで延在する左右一対のベルトが設けられている点
(c)前記左右一対のベルトを本体正面の上部中央にて固定することができる先端にリング状を形成した固定具が設けられている点
(d)本体正面上部に設けられたハンドルの端部より外側の位置において、前記各ベルトを固定することができる左右一対の補助固定具が設けられている点
(e)本体正面上部及び背面上部に、円弧状をなす一対のハンドルが縫合されている点
b 他方で、本件登録意匠は、以下の点において、引用意匠2と異なっている(なお、本件登録意匠には本体正面にカデナが付属しているのに対して、引用意匠にはカデナが付されていないように見えるが、引用意匠にも付属品としてカデナが付属していることが伺えることから(甲55・5ページ右下の写真)、カデナの有無は、差異点には含めない)。
(a)本件登録意匠の本体各側面に存在する複数の突起が、引用意匠2には存在しない点
c この点、本体正面を外側に向けて持つのが一般的であるハンドバッグという物品の性質上、需要者の注意を最も惹く要部は本体正面の構成であること、後述するように、本件登録意匠の出願時点でハンドバッグの側面に複数の突起を設ける構成は公知であったこと(甲58ないし甲60)に照らすと、上記b(a)の差異点は需要者の注意を惹くものとはいえない。
むしろ、本件登録意匠は、需要者が最も注意を惹かれる本体正面において、引用意匠2の構成を全て(上記a(a)ないし(e)の点)で共通していることに照らせば、全体として共通点が差異点を凌駕し、本件登録意匠は、引用意匠2と需要者の視覚を通じて起こさせる美感を同じくするものといえる。
したがって、本件登録意匠は、引用意匠2と類似する。
ウ 後記(2)に対する意見
(ア)本件登録意匠と意匠登録出願前に日本国内又は外国において公衆に利用可能となった意匠である引用意匠1(バーキン商標)とは類似していること
基本的に請求人が前記1(1)ア(ウ)で述べたとおりであり、被請求人の主張に対する反論は、前記1(1)イ(イ)において述べたとおりである。
本件では、バーキン商標と本件登録意匠の差異点は、意匠全体に与える影響が極めて軽微であり、差異点以外の構成が完全に共通することから、両者の意匠的効果は類似であるといわざるを得ない。
(イ)本件登録意匠は、意匠登録出願前に日本国内又は外国において公衆に利用可能となった意匠である引用意匠2と類似していること
a まず、被請求人は、引用意匠2が意匠登録出願前に公衆に利用可能となった点につき疑義を述べる(後記(2)イ(ア))。
しかし、その具体的な理由について、レビュー欄の日付が順序立っていないということのみを指摘するだけである。
レビュー表示に関するアルゴリズムがどのようなものであるかは公表されていないため、いかなる理由でこのような順序でレビューが表示されているか、理由を明らかにすることはできない。ただ、レビューそのものを偽造する等の行為は、その内容によっては景品表示法等の各種の法規制に抵触しうる。それにもかかわらず、ECサイトが敢えて信用に値しないレビュー年月日を表示するとは考え難い。
被請求人の主張は抽象的な指摘に過ぎず、引用意匠2が意匠登録出願前に公衆に利用可能となった意匠であることは容易に認定が可能である。
b 次に、被請求人は、本件登録意匠と引用意匠2の差異点を指摘する(後記(2)イ(ウ))が、いずれも美感に影響を与えない些末な点を殊更に取り上げて主張するものにすぎない。
すなわち、まず、平面図において上面を閉口した際の側面上部の形状に関していえば、開口部を折り畳む方法は、機能上奇数回折り返すことが必然であり、選択の幅が極めて狭いものである。引用意匠2のように1度折り返すか本件登録意匠のように3度折り返すかの違いによって美感に大きな差が生じるとは言い難い。
次に、側面の形状について、被請求人は、本件登録意匠の底面側の辺の長さが相対的に長いため三角形の形状に違いが生じると主張する。しかし、基本的な形状として、底面に相応する1辺が他の1辺よりも短い二等辺三角形であることには何ら変わりがなく、全体的な美感に対する影響はほとんどない。
また、被請求人は、背面におけるベルトの露出部分が取っ手にかかるか否かについて、差異が生じると主張する。しかし、これも、鞄の上面を確実に閉口する上でベルトの強度を維持するためには、ベルトを背面に露出させることが有効であるところ、当該機能性を維持することを前提にすれば、ベルトの一部が露出することは必然であり、選択の幅が極めて狭いものである。その位置関係が多少異なることで、美感に大きな差が生じるとは言い難い。
したがって、実質的な差異点は、本体各側面にある複数の突起のみであり、当該差異点が需要者の注意を惹く美観を想起させるものではないことは前記イ(イ)で述べたとおりである。
エ 小括
以上のとおりであり、本件登録意匠は、本件登録意匠の出願前に公知となった引用意匠1(バーキン商標)及び引用意匠2に類似するものであり、意匠法3条1項3号に該当して意匠登録を受けることができないものである。
(2)被請求人の主張
ア 本件意匠登録と甲1の非類似
バーキン商標との比較で説明したように、両者は意匠として全く似ていない。つまり、両者は非類似の意匠である。
イ 本件意匠登録と甲55の非類似
(ア)甲55の公開時期について
請求人は、甲56のレビュー及び甲57の登録情報をもって本件意匠登録の出願日よりも前に甲55が公開されたと主張する。しかしながら、レビュー欄の日付が順序だっておらず、信ぴょう性にかける。したがって、甲55の公開が本件意匠登録の出願日よりも前かどうかには疑問が残る。
(イ)両者の非類似について
ただし、甲55が本件意匠登録の出願日よりも前であってとしても、両者は非類似である。
請求人は、甲55と本件意匠登録の差異点が以下の1点だと主張している。
・本体各側面の「突起」の有無。
(ウ)甲55と本件意匠登録との差異点について説明する。
a 側面形状
甲55は、ベルトをした状態においては、正面上部及び背面上部が直接接触するように近接する形状になっている。
それに対し、本件意匠登録は、ベルトをした状においては、側面の中央部が外側に突出するように変形し、正面上部及び背面上部の間に側面の一部が挟まるように近接する形状になっている。
また、甲55は、側面が縦に長い二等辺三角形状となっている。
それに対し、本件意匠登録は、底面が広くなっている関係で、側面が正三角形状とまでは言えないが、正三角形状に近い二等辺三角形状となっている。
b 背面形状
本件意匠登録は、背面において、ベルトの露出部分がハンドルの付け根部分にかかっていない。
それに対し、甲55は、背面において、ベルトの露出部分がハンドルの付け根部分にかかっている。
c 側面の突起の有無
本件意匠登録の本体各側面には複数の突起が設けられているが、甲55にはそのような突起がない。
d 両者の比較
請求人は、両者の差異点を本体各側面の突起の有無だけと主張している。しかしながら、上記したように、両者には、突起の有無以外にも、差異点がある。しかもどの差異点も、意匠を判断するにあたり非常に重要であり、需要者の注意を惹く要部となり得る。つまり、意匠の判断に重要な差異点が複数ある以上、本件意匠登録は甲55と類似していないと、容易に理解できる。
このような差異点があるにも関わらず、都合のよい差異点だけを挙げての主張は、根拠に乏しいと言わざるを得ない。
(エ)甲55と本件意匠登録を比較しても、両者は明らかに非類似であるため、意匠法3条1項3号に該当しない。
ウ 意匠法3条1項3号に該当しないこと
本件登録意匠と、引用意匠群とは、意匠的にはまったく似ていない。
高額のバッグを購入予定の需要者は、バッグの全体を観察するのが社会通念上、当然のことである。つまり、正面、裏面、側面、底面、上面、内部まで、観察した上で購入するかどうかを決定する。このような需要者層において、本件登録意匠を引用意匠群と誤認混同することはあり得ない。
なお、審査官の瑕疵のための無効審判制度であることは重々承知しているが、本件登録意匠の類比判断において、本件登録意匠と引用意匠群とを類似だと判断することはあり得ない。
4 無効理由6(意匠法3条2項に該当)
(1)請求人の主張
本件登録意匠は、本件登録意匠の出願前に公知となった引用意匠2の形状と、本件登録意匠出願前に公知となった下記引用意匠3及び引用意匠4の本体両側面に複数の突起を設ける形状とを組み合わせたものにすぎず、当業者であれば容易に創作することができたものであり、意匠法3条2項に該当する。
ア 本件登録意匠のうち、本体両側面に突起を設けない構成は本件登録意匠の出願前に公知であったこと
本件登録意匠の本体両側面に突起を設けない構成については、上記引用意匠2の構成と共通し、本件登録意匠の出願前に公開された甲第55号証に記載されており、本件登録意匠の出願前に公知となっていた。
イ バッグの本体両側面に突起を設ける構成は本件登録意匠の出願前に公知であったこと
バッグの本体両側面に突起を設ける構成については、以下の刊行物に記載された意匠に採用されており、本件登録意匠の出願前に公知となっていた。
引用意匠3(甲第58号証。別紙第12参照。)
出願日 2015年12月18日
出願番号 意願2015-28261
登録日 2016年4月15日
登録番号 意匠登録第1549775号
公報発行日 2016年5月23日
引用意匠4
下記の刊行物に記載された意匠(甲第59号証。別紙第13参照。)
特許庁意匠課公知資料番号:HH28454934
発行日:2017年(平成29年)1月2日
文献名:大韓民国意匠公報
登録番号:30-0888326
発行国:大韓民国
発行者:大韓民国特許庁
引用意匠5
下記の刊行物に記載された意匠(甲第60号証。別紙第14参照。)
特許庁意匠課公知資料番号:HJ24023953
受入日:2012年8月10日
公知日:2012年8月6日
文献名:Christian Louboutin/Justine
spiked leather shoulder bag/
NET-A-POT
発行者:リシュモン アンテルナシオナル ソシエテアノニム
ウ 創作容易性
本件登録意匠に係る「かばん」の分野においては、複数のかばんの構成要素を組み合わせて一つのかばんを構成することは、本件登録意匠の出願前からごく一般に行われているところ、本件登録意匠は、本件登録意匠の出願前に公知となった引用意匠2の形状に、本件登録意匠の出願前に公知となった上記引用意匠3ないし引用意匠5の本体両側面に複数の突起を設ける構成とを組み合わせたものにすぎない。
そうすると、本件登録意匠は、本件登録意匠に係る「かばん」の分野における通常の知識を有する者であれば容易に創作することができたものであり、意匠法3条2項に該当して意匠登録を受けることができないものである。
エ 後記(2)に対する意見
(ア)被請求人は、概略、引用意匠2に、引用意匠3から引用意匠5までを組み合わせたとしても、本件登録意匠とはなりえず、容易に意匠の創作をすることができないと主張する(後記(2))。
しかし、被請求人の主張に理由はなく、本件登録意匠は、当業者において容易に創作が可能であった。
(イ)すなわち、意匠審査基準では、ありふれた手法と軽微な改変の解釈において、「出願された意匠において、出願前に公知となった構成要素や具体的態様がありふれた手法などによりそのままあらわされているのではなく、それらの構成要素や具体的態様に改変が加えられた上であらわされている場合は、当該改変が、その意匠の属する分野における「軽微な改変」にすぎないものであるか否かを検討する。」とする。
(ウ)この点、本件においては、被請求人が主張するように、引用意匠3から引用意匠5のそれぞれの側面を引用意匠2の側面と置き換えたとしても、本件登録意匠とはならない。
しかし、当業者にとって、引用意匠3から引用意匠5までを比較検討すれば明らかなとおり、突起の具体的な個数にかかわらず、多数の突起(引用意匠3から引用意匠5まで)を、側面全体(引用意匠4及び引用意匠5)に、等間隔(引用意匠3から引用意匠5まで)、かつ水平及び垂直に直列で(引用意匠4)設けることは、鞄の属する分野の創作の実態に照らして極めてありふれたものである。等間隔かつ水平及び垂直に直列の状態を維持して突起の個数及び範囲を変更することは、「軽微な改変」に過ぎない。
したがって、引用意匠3から引用意匠5のそれぞれの側面を引用意匠2の側面と置き換えたときに本件登録意匠とはならずとも、本件登録意匠のように突起の個数を垂直方向に10、水平方向に9としたことは「軽微な改変」であって、等間隔、かつ水平及び垂直に直列で各側面前面に突起を設けることは、なお「置き換え」に過ぎないから、当業者にとって容易に創作が可能である。
(2)被請求人の主張
ア 引用意匠2(甲55)の形状と引用意匠3(甲58)との組み合わせについて
甲58に表されている突起を、甲55に組み合わせたとしても、甲55の側面の高さ方向の中央から下方にだけ突起が形成されることになり、本件意匠登録になり得ない。つまり、請求人に主張は失当である。
イ 引用意匠2(甲55)の形状と引用意匠4(甲59)との組み合わせについて
甲55に表されている突起を、甲55に組み合わせたとしても、甲55の側面の上下方向の列数が3列になるだけであり、本件意匠登録になり得ない。つまり、請求人に主張は失当である。
ウ 引用意匠2(甲55)の形状と引用意匠5(甲60)との組み合わせについて
甲60に表されている突起の形状、大きさ、個数は、本件意匠登録の突起の形状、大きさ、個数と明らかに異なっている。そのため、甲60に表されている突起を、甲55に組み合わせたとしても、甲55の側面に甲60の突起が形成されるだけであり、本件意匠登録になり得ない。つまり、請求人に主張は失当である。
エ 引用意匠2(甲55)の形状に、引用意匠3(甲58)、引用意匠4(甲59)、引用意匠5(甲60)の本体両側面に複数の突起を設ける構成を組み合わせたとしても、本件意匠登録になり得ず、意匠法3条2項に該当しない。
オ 意匠法3条2項に該当しないこと
本件登録意匠は、引用意匠群との組み合わせでは容易に想到することができない。意匠的にもそうであるが、そもそもバッグの構造が異なっており、どのように組み合わせても本件意匠登録になり得ない。
5 証拠方法
(1)請求人
請求人は、以下の甲第1号証ないし甲第61号証(枝番を含む。全て写しであると認められる。)を、審判請求書の添付書類として提出し、甲第62号証(写し)を、口頭審理陳述要領書の添付書類として提出した。
甲第1号証 商標登録第5438059号に関する商標公報(写し)
甲第2号証 ウィキペディア(Wikipedia)(写し)
甲第3号証 ブティック一覧(写し)
甲第4号証 an・an 2001年6月29日号(株式会社マガジン
ハウス)(部分、写し)
甲第5号証 Harper′s BAZAAR 2004年10月号
(エイチビー・ジャパン株式会社)(部分、写し)
甲第6号証 ELLE 2005年9月号(株式会社アシェット婦人画
報社)(部分、写し)
甲第7号証 Grazia 2005年12月号(株式会社講談社)
(部分、写し)
甲第8号証 high fashion 2006年2月号(文化出版
局)(部分、写し)
甲第9号証 ELLE 2006年3月付録 ELLE ACCESS
ORIES(株式会社アシェット婦人画報社)(部分、
写し)
甲第10号証 Precious 2006年3月号(株式会社小学館)
(部分、写し)
甲第11号証 marie claire 2006年4月号(株式会社
アシェット婦人画報社)(部分、写し)
甲第12号証 婦人画報 2006年3月号(株式会社アシェット婦人画
報社)(部分、写し)
甲第13号証 Precious 2006年4月号(株式会社小学館)
(部分、写し)
甲第14号証 Precious 2006年5月号(株式会社小学館)
(部分、写し)
甲第15号証 L′OFFICIEL Japon 2006年6月号
(株式会社アム アソシエイツ)(部分、写し)
甲第16号証 Precious 2006年6月号(株式会社小学館)
(部分、写し)
甲第17号証 VOGUE NIPPON 2006年9月号(有限会社
コンデナスト・ジャパン)(部分、写し)
甲第18号証 FRAU 2006年7月20日号(株式会社講談社)
(部分、写し)
甲第19号証 Precious 2006年8月号(株式会社小学館)
(部分、写し)
甲第20号証 和楽 2006年8月号(株式会社小学館)(部分、写し
)
甲第21号証 L′OFFICIEL Japon 2006年10月号
(株式会社アム アソシエイツ)(部分、写し)
甲第22号証 婦人画報 2006年10月号(株式会社アシェット婦人
画報社)(部分、写し)
甲第23号証 ELLE 2007年2月号(株式会社アシェット婦人画
報社)(部分、写し)
甲第24号証 OCEANS 2007年2月号(株式会社インターナシ
ョナル・ラグジュアリー・メディア)(部分、写し)
甲第25号証 Precious 2007年1月号(株式会社小学館八
部分、写し)
甲第26号証 世界のファッション名品一流品大図鑑2007年度版
(株式会社小学館)(部分、写し)
甲第27号証 Domani 2007年4月号(株式会社小学館)
(部分、写し)
甲第28号証 YAHOO!JAPAN知恵袋(写し)
甲第29号証 質かんてい局「~HERMES【エルメス】バーキンの
定価・素材の豆知識・バーキン慣れした女はこう持つ~」
(写し)
甲第30号証 ブランドの手帳「オシャレにエルメスのバーキンを持つ
3つのポイント」(写し)
甲第31号証 「バーキンは開けっ放しで正解なんだ」と確信した瞬間
ファッションで何とか乗り切る子育てライフ(写し)
甲第32号証 「賢いバーキンの買い方?バーキンの購入に成功した4人
のお話」(写し)
甲第33号証 「ブランドバッグの大様、エルメスの魅力について」ジュ
エルカフェ買取コラム」(写し)
甲第34号証 RakutenRakuma出品ページ(写し)
甲第35号証 abox「エルメスの代名詞「バーキン」が誕生したワケ
」(写し)
甲第36号証 スーパーコピー優良サイト出品ページ(写し)
甲第37号証 ANKOPI出品ページ(写し)
甲第38号証 商標登録第4672965号に関する商標公報(写し)
甲第39号証 商標登録第5864813号に関する商標公報(写し)
甲第40号証 「エルメスのバッグの付属品を全て解説!付属品の有無は
買取価格に影響するの?」ブランド買取First
Class(写し)
甲第41号証 商標登録第5438058号に関する商標公報(写し)
甲第42号証 婦人画報 1986(昭和61)年10月号(株式会社
アシェット婦人画報社)(部分、写し)
甲第43号証 FRaU 1994年12月号(株式会社講談社)
(部分、写し)
甲第44号証 ミス家庭画報 1996年1月号(株式会社世界文化社)
(部分、写し)
甲第45号証 ブランズオフ・コレクション 1999年11月号(成美
堂出版株式会社)(部分、写し)
甲第46号証 エルメス パーフェクトブック 2002年5月号(株式
会社ワニマガジン社)(部分、写し)
甲第47号証 GINZA 2005年10月号(株式会社マガジンハウ
ス)(部分、写し)
甲第48号証 Precious 2008年2月号(株式会社小学館)
(部分、写し)
甲第49号証 Precious 2009年6月号(株式会社小学館)
(部分、写し)
甲第50号証 AneCan 2009年7月号(株式会社小学館)
(部分、写し)
甲第51号証 RINKAN[エルメス カデナのお話」(写し)
甲第52号証 「エルメス:バーキンについているカデナについて」
(ザ・ゴールド東仙台店)(写し)
甲第53号証 「エルメスのモチーフカデナとは?」ブランドの宅配買取
・通販【7yorku】(写し)
甲第54号証 「付属品について」Brandearオークション!
(写し)
甲第55号証 楽天市場「abientot」販売ページ(写し)
甲第56号証 楽天市場「abientot」甲第55号証に記載されて
いる商品のレビューページ(写し)
甲第57号証 Amazon販売ページ(写し)
甲第58号証 登録意匠第1549775号に関する意匠公報(写し)
甲第59号証 特許庁意匠課公知資料番号:HH28454934に
係る資料(写し)
甲第60号証 特許庁意匠課公知資料番号:HJ24023953に
係る資料(写し)
甲第61号証 知財高裁令和2年12月17日判決・WESTLAW
2020WLJPCA12179001(写し)
甲第62号証 本件登録意匠(意匠登録第1606558号の意匠)に
関する意匠公報(写し)
第5 当審の判断
当審では、本件登録意匠について認定をし、無効理由4ないし6について判断をしてから、無効理由3、無効理由2、無効理由1の順に判断をする。
1 本件登録意匠
(1)本件登録意匠の意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は、意匠公報(請求人が提出した「甲第62号証」。別紙第1参照。)の記載によれば「かばん」である。
(2)本件登録意匠の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形態」という。)
ア 全体の構成
全体は、上部が開口した有底略箱状の本体に、前後一対の把手を取り付けて、背面から正面にかけてベルトを設け、ベルトを留めるための南京錠を付けたものである。
本体正面は略横長長方形状(縦横比が約3:4)であり、本体側面は、最も広い底部の幅を本体正面全幅の約4/7とする縦長の略二等辺三角形状であり、本体正面中央部の高さ:把手の高さ(本体から飛び出た長さ)が約4:2である。
イ 本体の態様
イ-1 本体の外形は、正面の左端及び右端の底面付近がやや外側に広がっており、正面上端がごく緩やかな凸弧状に表されている。本体の底面は略角丸横長長方形状であって、円錐台形状の小さな4つの底鋲が角部寄りに設けられている。
イ-2 本体の口部(本体上端部)のやや下に左右一対のベルトが水平方向に配されており、本体正面中央上部にはベルトの端部を固定するための部材(以下「固定具」という。)が設けられ、左端寄り及び右端寄りにはベルトを通すループ状の部材(以下「補助固定具」という。)が設けられている。固定具は、縦長長方形状の基板と、基板中央から突設した、先端にリングを有する棒状体から成り、補助固定具は側面視略縦長ロ字状の環状体である。本体の正面と背面の左端付近及び右端付近には、ベルトを通すための縦長スリット孔が形成されている。
イ-3 本体側面の態様
本体側面の略上半部は窄められていて、平面から見て、内側、外側、内側の順に折り返されている。上面が開口した状態では、本体側面の略上半部は左右に広がり、本体側面全体が略縦長台形状となる。
本体側面の上部には、左端付近、中央左、中央右及び右端付近の4箇所に、ベルトを通すための縦長スリット孔が形成されており、左端付近の孔から中央左の孔までの間と、中央右の孔から右端付近の孔までの間に、ベルトが現れている。
そのベルトの直下から下端付近までの側面(側面全高の約4/7)の表面には、同形同大の90個の略コーン形状の小突起が格子状に並んで形成されており、上下10段、左右9列に構成されている。
ウ ベルトの態様
ベルトは、本体背面の左端寄り及び右端寄りで先端が内向き三角形状である端部が固着され、本体のスリット孔を通って本体正面に回り込んで補助固定具を通り、固定具(本体の正面中央上部)の上でベルトの左右の端部が重なっている。その端部には、変形横長六角形状のプレートが設けられており、プレートの中央には横長長方形状の孔が形成されている。固定具の棒状体がその孔を通り、回動して垂直になったリングに南京錠が掛けられて、ベルトの端部が固定具から外れるのを防いでいる。
エ 南京錠の態様
(ア)全体
丸棒体が略逆U字に曲がった引っ掛け部を除いた全体がやや薄い略直方体状であって、略正方形状の正面と背面の左側と右側が、中央にいくにつれて緩やかに膨出している。中央の面が緩やかな凹面状に形成されている。
(イ)正面の態様
正面には、複数の溝によって略H形の凹凸模様が形成されている。左右には端付近から3本の縦溝が、中央上下には倒コ字状の溝が、中央には2本の横溝が、それぞれ形成されている。すなわち、中央には上下4本の横溝が形成されている。倒コ字状の溝の内側に一回り小さい倒コ字状の凸条が形成されて、その凸条の内側が浅い凹部になっている。
左右の縦溝群と中央(2本の横溝)の幅の関係について、左側群の幅:中央の幅:右側群の幅の比は約1:1.5:1である。
オ 把手の態様とベルトとの関係
把手は、全体が略半長円形状であって、本体部との接合部分が鳥の水かき様に薄く広がっており、その先端(下端)が下向き三角形状に表されている。
正面から見ると、その三角形状部分の直ぐ上に被さるようにベルトが配されており、ベルトが本体部との接合部分の中央を横切っている。
カ 色彩
本体側面、把手及びベルトが黒色であり、本体正面、本体背面及び本体底面が薄灰色である。固定部、補助固定具、ベルト端部のプレート及び南京錠は銀色(金属調)である。
2 無効理由4について
本件登録意匠が、引用意匠1(商標登録第5438059号に関する商標公報に記載された意匠)に類似し、意匠法3条1項3号に掲げる意匠に該当するか否かについて検討する。
(1)引用意匠1
ア 引用意匠1について
引用意匠1は、商標登録第5438059号(バーキン商標)に関する商標公報(甲第1号証。別紙第2参照。)に記載された意匠である。すなわち、引用意匠1は、本件登録意匠の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠であると認められる。
イ 引用意匠1の意匠に係る物品
上記公報の記載によれば、引用意匠1の意匠に係る物品は「ハンドバッグ」である。
ウ 引用意匠1の形態
引用意匠1の形態は、以下のとおりである。なお、本件登録意匠の向きに合わせて、ベルトが固定されている面を正面として認定する。
(ア)全体の構成
全体は、上部を蓋部で覆った有底略箱状の本体に、前後一対の把手を取り付けて、背面から正面にかけてベルトを設けたものである。
本体正面は略台形状(縦横比が約4:5)であり、本体側面は、最も広い底部の幅を本体正面全幅の約4/7とする縦長の略二等辺三角形状であり、本体正面中央部の高さ:把手の高さ(本体から飛び出た長さ)が約5:2である。
(イ)本体の態様
(イ-1)本体には、背面の上端から正面の上部に回り込むように蓋部が被さっており、正面から見た蓋部の左右幅は、本体上部の左右幅よりもやや大きい。蓋部の上端(正面上端)はごく緩やかな凸弧状に表されている。
その蓋部の左端及び右端は略クランク状に切り欠かれて、中央部左右に把手を通すための切り込みが形成されて、倒「〔 」形の下端を有する同形同大の3つの舌片が下方に垂れるように表されている。左側と右側の舌片の中央には、側面視略縦長ロ字状の環状体である補助固定具を通すための縦長スリット孔が形成されており、中央の舌片の中央には固定具の棒状体を通す孔があると推認される。
(イ-2)本体上端部のやや下に左右一対のベルトが水平方向に配されており、本体の正面と背面の左端付近及び右端付近には、ベルトを通すための縦長スリット孔が形成されている。
(イ-3)本体側面の態様
本体側面の略上半部は窄められていて、内側、外側、内側の順に折り返されていると推認される。
(ウ)ベルトの態様
ベルトは、本体背面の左端寄り及び右端寄りで先端が内向き三角形状である端部が固着され、本体のスリット孔を通って本体正面に回り込んで、蓋部の縦長スリット孔から露出した補助固定具を通り、蓋部の中央舌片(本体の正面中央上部)の上でベルトの左右の端部が重なっている。その端部には、変形横長六角形状のプレートが設けられており、プレートの中央には横長長方形状の孔が形成されている。固定具の棒状体がその孔を通り、回動して垂直になったリングにより、ベルトの端部が固定具から外れるのを防いでいる。正面から見ると、ベルトは蓋部の3つの舌片の中央を横切るように表されている。
(エ)把手の態様
把手は、全体が略半長円形状であって、背面から見ると、本体部との接合部分が鳥の水かき様に薄く広がっており、その先端(下端)が下向き三角形状に表されている。
(オ)色彩
固定部の棒状体、補助固定具及びベルト端部のプレートは金色(金属調)であり、それ以外は全て黒色である。
(2)本件登録意匠と引用意匠1の対比
ア 意匠に係る物品の対比
本件登録意匠の意匠に係る物品はかばんであり、引用意匠1の意匠に係る物品はハンドバッグであるので、共に携行して身の回り品などを収納するものであるから、意匠に係る物品の用途及び機能は共通する。
イ 形態の対比
(ア)形態の共通点
(共通点1)本体の共通点
正面上端はごく緩やかな凸弧状に表されており、本体側面は、最も広い底部の幅を本体正面全幅の約4/7とする縦長の略二等辺三角形状である。本体上端部のやや下に左右一対のベルトが水平方向に配されており、本体の正面と背面の左端付近及び右端付近には、ベルトを通すための縦長スリット孔が形成されている。
(共通点2)本体側面の共通点
本体側面の略上半部は窄められていて、内側、外側、内側の順に折り返されている
(共通点3)ベルトの共通点
ベルトは、本体背面の左端寄り及び右端寄りで先端が内向き三角形状である端部が固着され、本体のスリット孔を通って本体正面に回り込んで補助固定具を通り、本体の正面中央上部で左右の端部が重なっている。その端部には、変形横長六角形状のプレートが設けられており、プレートの中央には横長長方形状の孔が形成されている。固定具の棒状体がその孔を通り、回動して垂直になったリングにより、ベルトの端部が固定具から外れるのを防いでいる。
(共通点4)把手の共通点
把手は、全体が略半長円形状であって、本体部との接合部分が鳥の水かき様に薄く広がっており、その先端(下端)が下向き三角形状に表されている。
(イ)形態の相違点
(相違点1)本体の相違点
前後一対の把手を除いた本体正面が略横長長方形状(縦横比が約3:4)であるか、略台形状(縦横比が約4:5)であるかで相違し、本体正面中央部の高さ:把手の高さ(本体から飛び出た長さ)が約4:2であるか、約5:2であるか、で相違する。
(相違点2)蓋部の有無
引用意匠1の本体には、背面の上端から正面の上部に回り込むように蓋部が被さっており、3つの舌片が下方に垂れるように表されて、左側と右側の舌片の中央には補助固定具を通すための縦長スリット孔が形成され、中央の舌片の中央には固定具の棒状体を通す孔があるが、本件登録意匠には蓋部がない。
(相違点3)本体側面の相違点
本件登録意匠では、本体側面の上部に現れているベルトの直下から下端付近までの側面表面に90個の略コーン形状の小突起が格子状(上下10段、左右9列)に並んで形成されているが、引用意匠1にはそのような小突起は形成されていない。
(相違点4)ベルト周辺の相違点
本件登録意匠では、ベルトが、把手における本体部との接合部分の中央を横切るように表されているが、引用意匠1では、ベルトは蓋部の3つの舌片の中央を横切るように表されている。
(相違点5)南京錠の有無
本件登録意匠には、固定具の棒状体のリングに南京錠が掛けられており、その南京錠の正面には、略H形の凹凸模様が表されているが、引用意匠1には南京錠は掛けられていない。
(相違点6)色彩の相違点
本件登録意匠では、本体側面、把手及びベルトが黒色であり、本体正面、本体背面及び本体底面が薄灰色である。固定部、補助固定具、ベルト端部のプレート及び南京錠は銀色(金属調)である。
これに対して、引用意匠1では、固定部の棒状体、補助固定具及びベルト端部のプレートは金色(金属調)であり、それ以外は全て黒色である。
(3)本件登録意匠と引用意匠1の類否判断
ア 意匠に係る物品の類否判断
本件登録意匠と引用意匠1の意匠に係る物品は、その用途及び機能が共通するので、同一である。
イ 形態の共通点及び相違点の評価
両意匠の意匠に係る物品は、「かばん」又は「ハンドバッグ」であって、需要者が実際に手で持つものであるから、需要者は、全方向から物品を詳細に観察することとなり、また、その使用方法や使用状態に関係して、本体の口部(本体上端部)の態様や、把手の態様、ベルト及びベルト周辺の態様についても特に注意を払うこととなる。したがって、両意匠の類否判断においては、これらを前提として、需要者の視点から、物品の各部の形状を評価することとする。
(ア)形態の共通点の評価
「かばん」又は「ハンドバッグ」の物品分野の意匠においては、本件登録意匠の出願前から、本体側面を略二等辺三角形状としてその略上半部を内側、外側、内側の順に折り返し、本体上端部のやや下に左右一対のベルトを水平方向に配して、本体の正面と背面の左端付近及び右端付近にベルトを通すための縦長スリット孔を形成した意匠は既に見受けられる(例えば、意匠登録第1389843号の意匠。別紙第15参照。)ので、需要者は、これらの共通点に注意を払うとはいい難い。また、本体側面の最も広い底部の幅を本体正面全幅の約4/7とすることも、この物品分野の意匠においては本体の高さと奥行きの比が様々であるので、この共通点に需要者が注目するとはいえない。したがって、共通点1及び共通点2が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
次に、ベルトの先端が本体背面の左端寄り及び右端寄りで内向き三角形状である点や、ベルトがスリット孔を通って本体背面から正面に回り込んで補助固定具を通り、正面中央上部でベルトの左右の端部が重なる点、その端部に変形横長六角形状のプレートが設けられて、プレート中央に横長長方形状の孔が形成されている点、把手の本体部との接合部分が鳥の水かき様でその先端(下端)が下向き三角形状に表されている点は、需要者が特に注意を払う部位に係る相違ではあるものの、これらの点を有する意匠が本件登録意匠の出願前から既に見受けられる(例えば、意匠登録第1389843号の意匠。別紙第15参照。)ことを踏まえると、共通点3及び共通点4が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいといわざるを得ない。
(イ)形態の相違点の評価
これに対して、本件登録意匠と引用意匠1の形態の相違点については、以下のとおり評価される。
まず、相違点2で指摘した、蓋部の有無の相違については、引用意匠1の蓋部が背面の上端から正面の上部に被さっており、また、3つの舌片が下方に垂れるような特徴的な態様であるから、需要者は一見して引用意匠1の蓋部に気が付くというべきであり、蓋部の無い本件登録意匠と比較して需要者に異なる視覚的印象を与えているということができる。そして、ベルトが、把手における本体部との接合部分の中央を横切るように表されているか(本件登録意匠)、蓋部の3つの舌片の中央を横切るように表されているか(引用意匠1)の相違(相違点4)も、蓋部の有無に連動する相違であるから、同様に需要者に異なる視覚的印象を与えている。したがって、相違点2及び相違点4が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
次に、本体側面に形成された小突起の有無の相違(相違点3)についても、本件登録意匠に形成された小突起が本体側面のベルトの直下から下端付近までの大きな範囲を占めており、小突起の数も90個と多いことから、そのような小突起が無い引用意匠1と比較すると、本件登録意匠を観察する需要者は引用意匠1とは異なる美感を抱くこととなる。そして、本件登録意匠の小突起の形状は略コーン形状であって、その配列は上下10段、左右9列の格子状であるところ、このような形状と配列の小突起が、「かばん」又は「ハンドバッグ」の物品分野の意匠においてありふれていて需要者の注意を惹くことはないとはいい難い。
したがって、相違点3が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
また、南京錠の有無の相違(相違点5)は、南京錠の意匠全体に占める面積は小さいものの、その有無については需要者が気付くというべきであり、本件登録意匠の南京錠とその周辺のベルト端部のプレートが共に銀色(金属調)であって視覚的に目立つこと、及びそれらが本体の正面中央上部の目立つ位置にあることから、本件登録意匠の南京錠は、それが無い引用意匠1に比べて、異なる視覚的印象を需要者に与えているといえる。したがって、相違点5が両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度認められる。
そして、本件登録意匠においては、本体側面、把手及びベルトが黒色であり、薄灰色である本体正面、本体背面及び本体底面よりも濃い色彩で表されているという色分けがなされているところ、この色分けは、小突起が有る本体側面と、把手の本体部との接合部分の中央を横切るようなベルトの存在を際立たせているというべきであるから、そのような色分けがなされていない引用意匠1に比較して、需要者に異なる視覚的印象を与えているといえる。したがって、色彩に係る相違点6が両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度認められる。
他方、前後一対の把手を除いた本体正面が略横長長方形状(縦横比が約3:4)であるか、略台形状(縦横比が約4:5)であるかの相違、及び本体正面中央部の高さ:把手の高さ(本体から飛び出た長さ)が約4:2であるか、約5:2であるかの相違は、「かばん」又は「ハンドバッグ」の物品分野の意匠においては本体正面の縦横比や把手の相対的高さが様々であるので、それらの相違に需要者が注目するとはいえない。したがって、相違点1が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
ウ 総合判断
以上のとおり、本件登録意匠と引用意匠1は、意匠に係る物品が同一であるが、形態においては、共通点が類否判断に及ぼす影響がいずれも小さいのに対して、相違点は総じて類否判断に及ぼす影響は大きく、共通点が需要者に与える美感を覆して本件登録意匠と引用意匠1を別異のものと印象付けるものであるから、本件登録意匠は、引用意匠1に類似するということはできない。
(4)小括
引用意匠1(商標登録第5438059号に関する商標公報に記載された意匠)は、本件登録意匠の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠ではあるものの、本件登録意匠は、引用意匠1に類似せず、意匠法3条1項3号に掲げる意匠には該当しないので、同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないとはいえない。
したがって、請求人が主張する無効理由4には、理由がない。
3 無効理由5について
本件登録意匠が、引用意匠2(楽天市場「abientot」販売ページに記載された意匠)に類似し、意匠法3条1項3号に掲げる意匠に該当するか否かについて検討する。
(1)引用意匠2
ア 引用意匠2について
引用意匠2は、楽天市場「abientot」販売ページ(甲第55号証。別紙第7参照。)に記載された意匠である。なお、同ページにおいて、形態が最もよく現されている灰色の色彩の意匠(例えば、甲第55号証2頁上段右に斜視図が、同11頁上段右に正面図が、同頁中段右に右側面図が、それぞれ現されている。)について認定する。
イ 引用意匠2の公開について
上記販売ページのレビュー記事(甲第56号証)において、引用意匠2を購入したとのレビュー(引用意匠2の図入り)が、2013年9月19日付けのレビューとして掲載されているので(甲第56号証4頁)、甲第55号証は本件登録意匠の出願日(2017年8月23日)前に公開されたものであると推認することができる。すなわち、引用意匠2は、本件登録意匠の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠であると認められる。
この点について、被請求人は、甲第56号証の「レビュー欄の日付が順序だっておらず、信ぴょう性にかける。したがって、甲55の公開が本件意匠登録の出願日よりも前かどうかには疑問が残る。」(前記第4の3(2)イ(ア))と主張している。しかし、甲第56号証1頁中段の記載によれば、同号証に掲載されている15件のレビューは、全517件中のレビューのうち「購入者のみ」で絞り込んだものであると解せられ、掲載順については2022年のものが優先され、2010年代のものは画像有りが優先されて、画像有り/画像無しの中では「参考になったと回答」した人数が多いものが優先されていると解される。そうすると、然るべきアルゴリズムによってレビューの優先順位が決定されているということができる。したがって、被請求人の主張を採用することはできない。
ウ 引用意匠2の意匠に係る物品
上記販売ページの記載によれば、引用意匠2の意匠に係る物品は「バッグ」である。
エ 引用意匠2の形態
引用意匠2の形態は、以下のとおりである。
(ア)全体の構成
全体は、上部が開口した有底略箱状の本体に、前後一対の把手を取り付けて、背面から正面にかけてベルトを設けたものである。
本体正面は略台形状(縦横比が約5:7)であり、本体側面は、最も広い底部の幅を本体正面全幅の約2/5とする縦長の略二等辺三角形状であり、本体正面中央部の高さ:把手の高さ(本体から飛び出た長さ)が約8:5である。
(イ)本体の態様
(イ-1)本体の外形は、正面上端が水平状に表されている。甲第55号証7頁に掲載された黒色のバッグの意匠(引用意匠2と同形であると推認される。)には本体の底面が現されており、その形状は横長長方形状であって、小さな4つの底鋲が角部寄りに設けられている。
(イ-2)本体の口部(本体上端部)のやや下に左右一対のベルトが水平方向に配されており、本体正面中央上部にはベルトの端部を固定するための部材(以下「固定具」という。)が設けられ、左端寄り及び右端寄りにはベルトを通すループ状の部材(以下「補助固定具」という。)が設けられている。固定具は、縦長長方形状の基板と、基板中央から突設した、先端にリングを有する棒状体から成り、補助固定具は側面視略縦長ロ字状の環状体である。本体の正面と背面の左端付近及び右端付近には、ベルトを通すための縦長スリット孔が形成されている。
(イ-3)本体側面の態様
本体側面の略上半部は窄められていて、平面から見て、内側に窪んでいる。甲第55号証7頁に掲載された黄土色のバッグの意匠(引用意匠2と同形であると推認される。)には上面が開口した状態が現されており、本体側面の略上半部は左右に広がり、本体側面全体は、略縦長台形状となる。
本体側面の上部には、左端付近及び右端付近の2箇所に、ベルトを通すための縦長スリット孔が形成されており、両者の間にベルトが現れている。
(ウ)ベルトの態様
ベルトは、本体背面(上述の黒色のバッグの意匠に現されている。)の左端寄り及び右端寄りに配されて、先端が、把手の本体部との接合部分に覆われている。そして、本体のスリット孔を通って本体正面に回り込んで補助固定具を通り、固定具(本体の正面中央上部)の上でベルトの左右の端部が重なっている。その端部には、変形横長六角形状のプレートが設けられており、プレートの中央には横長長方形状の孔が形成されている。固定具の棒状体がその孔を通り、回動して垂直になったリングにより、ベルトの端部が固定具から外れるのを防いでいる。
(エ)把手の態様とベルトとの関係
把手は、全体が略半長円形状であって、本体部との接合部分(上述の黒色のバッグの意匠に現されている。)が略逆釣鐘状に薄く広がっており、その先端(下端)が下向き三角形状に表されている。
正面から見ると、その三角形状部分の直ぐ上に被さるようにベルトが配されており、ベルトが本体部との接合部分の中央を横切っている。
(オ)色彩
固定部、補助固定具及びベルト端部のプレートは銀色(金属調)であり、それ以外は全て灰色である。
(2)本件登録意匠と引用意匠2の対比
ア 意匠に係る物品の対比
本件登録意匠の意匠に係る物品はかばんであり、引用意匠2の意匠に係る物品はバッグであるので、共に携行して身の回り品などを収納するものであるから、意匠に係る物品の用途及び機能は共通する。
イ 形態の対比
(ア)形態の共通点
(共通点1)本体の共通点
本体側面は縦長の略二等辺三角形状であって、本体上端部のやや下に左右一対のベルトが水平方向に配されており、本体の正面と背面の左端付近及び右端付近には、ベルトを通すための縦長スリット孔が形成されている。
(共通点2)本体側面の共通点
本体側面の略上半部は窄められている。
(共通点3)ベルトの共通点
ベルトは、本体背面の左端寄り及び右端寄りに配されており、本体のスリット孔を通って本体正面に回り込んで補助固定具を通り、本体の正面中央上部で左右の端部が重なっている。その端部には、変形横長六角形状のプレートが設けられており、プレートの中央には横長長方形状の孔が形成されている。固定具の棒状体がその孔を通り、回動して垂直になったリングにより、ベルトの端部が固定具から外れるのを防いでいる。
(共通点4)把手の共通点
把手は、全体が略半長円形状であって、本体部との接合部分が薄く広がっており、その先端(下端)が下向き三角形状に表されている。正面から見ると、その三角形状部分の直ぐ上に被さるようにベルトが配されており、ベルトが本体部との接合部分の中央を横切っている。
(共通点5)色彩の共通点
固定部、補助固定具及びベルト端部のプレートが銀色(金属調)である。
(イ)形態の相違点
(相違点1)本体の相違点
本件登録意匠の正面上端はごく緩やかな凸弧状に表されているが、引用意匠2のそれは水平状に表されている。
前後一対の把手を除いた本体正面が略横長長方形状(縦横比が約3:4)であるか、略台形状(縦横比が約5:7)であるかで相違し、本体正面中央部の高さ:把手の高さ(本体から飛び出た長さ)が約4:2であるか、約8:5であるか、で相違する。
(相違点2)ベルトの相違点
本件登録意匠の本体背面では、先端が内向き三角形状であるベルトの端部が表されているが、引用意匠2の本体背面では、ベルトの先端が、把手の本体部との接合部分に覆われている。
また、本件登録意匠では、ベルトの本体部との接合部分の形状が鳥の水かき様であるが、引用意匠2では、その形状は略逆釣鐘状である。
(相違点3)本体側面の小突起の有無
本件登録意匠では、本体側面の上部に現れているベルトの直下から下端付近までの側面表面に90個の略コーン形状の小突起が格子状(上下10段、左右9列)に並んで形成されているが、引用意匠2にはそのような小突起は形成されていない。
(相違点4)本体側面の構成態様
本件登録意匠の本体側面略上半部は内側、外側、内側の順に折り返されているが、引用意匠2のそれは内側に窪んでいるのみである。
本体側面の最も広い底部の幅が、本体正面全幅の約4/7であるか、約2/5であるか、で相違する。
(相違点5)ベルト周辺の相違点
本件登録意匠の本体側面の上部には、左端付近、中央左、中央右及び右端付近の4箇所に、ベルトを通すための縦長スリット孔が形成されており、左端付近の孔から中央左の孔までの間と、中央右の孔から右端付近の孔までの間に、ベルトが現れている。
これに対して、引用意匠2の本体側面の上部には、左端付近及び右端付近の2箇所に、ベルトを通すための縦長スリット孔が形成されており、両者の間にベルトが現れている。
(相違点6)南京錠の有無
本件登録意匠には、固定具の棒状体のリングに南京錠が掛けられており、その南京錠の正面には、略H形の凹凸模様が表されているが、引用意匠2には南京錠は掛けられていない。
(相違点7)色彩の相違点
本件登録意匠では、本体側面、把手及びベルトが黒色であり、本体正面、本体背面及び本体底面が薄灰色である。
これに対して、引用意匠2では、それらは全て灰色である。
(3)本件登録意匠と引用意匠2の類否判断
ア 意匠に係る物品の類否判断
本件登録意匠と引用意匠2の意匠に係る物品は、その用途及び機能が共通するので、同一である。
イ 形態の共通点及び相違点の評価
両意匠の意匠に係る物品は、「かばん」又は「バッグ」であって、需要者が実際に手で持つものであるから、需要者は、全方向から物品を詳細に観察することとなり、また、その使用方法や使用状態に関係して、本体の口部(本体上端部)の態様や、把手の態様、ベルト及びベルト周辺の態様についても特に注意を払うこととなる。したがって、両意匠の類否判断においては、これらを前提として、需要者の視点から、物品の各部の形状を評価することとする。
(ア)形態の共通点の評価
「かばん」又は「バッグ」の物品分野の意匠においては、本件登録意匠の出願前から、本体側面を略二等辺三角形状としてその略上半部を窄ませて、本体上端部のやや下に左右一対のベルトを水平方向に配して、本体の正面と背面の左端付近及び右端付近にベルトを通すための縦長スリット孔を形成した意匠は既に見受けられる(例えば、意匠登録第1389843号の意匠。別紙第15参照。)ので、需要者は、これらの共通点に注意を払うとはいい難い。したがって、共通点1及び共通点2が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
次に、ベルトが本体背面の左端寄り及び右端寄りに配されている点や、ベルトがスリット孔を通って本体背面から正面に回り込んで補助固定具を通り、正面中央上部でベルトの左右の端部が重なる点、その端部に変形横長六角形状のプレートが設けられて、プレート中央に横長長方形状の孔が形成されている点、把手の本体部との接合部分が薄く広がって先端が下向き三角形状に表され。正面から見てその三角形状部分の直ぐ上に被さるようにベルトを配した点は、需要者が特に注意を払う部位に係る相違ではあるものの、これらの点を有する意匠が本件登録意匠の出願前から既に見受けられる(例えば、意匠登録第1389843号の意匠。別紙第15参照。)ことを踏まえると、共通点3及び共通点4が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいといわざるを得ない。
また、固定部、補助固定具及びベルト端部のプレートが銀色(金属調)である点も、「かばん」又は「バッグ」の物品分野の意匠においては、固定部などに金属を用いることはありふれているので、需要者が特に注意を払うとはいい難いので、共通点5も両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいといえる。
(イ)形態の相違点の評価
これに対して、本件登録意匠と引用意匠2の形態の相違点については、以下のとおり評価される。
まず、相違点3で指摘した、本体側面の小突起の有無の相違については、本件登録意匠に形成された小突起が本体側面のベルトの直下から下端付近までの大きな範囲を占めており、小突起の数も90個と多いことから、そのような小突起が無い引用意匠2と比較すると、本件登録意匠を観察する需要者は引用意匠2とは異なる美感を抱くこととなる。そして、本件登録意匠の小突起の形状は略コーン形状であって、その配列は上下10段、左右9列の格子状であるところ、このような形状と配列の小突起が、「かばん」又は「バッグ」の物品分野の意匠においてありふれていて需要者の注意を惹くことはないとはいい難い。したがって、相違点3が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
また、南京錠の有無の相違(相違点6)は、南京錠の意匠全体に占める面積は小さいものの、その有無については需要者が気付くというべきであり、本件登録意匠の南京錠とその周辺のベルト端部のプレートが共に銀色(金属調)であって視覚的に目立つこと、及びそれらが本体の正面中央上部の目立つ位置にあることから、本件登録意匠の南京錠は、それが無い引用意匠1に比べて、異なる視覚的印象を需要者に与えているといえる。したがって、相違点6が両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度認められる。
そして、本件登録意匠においては、本体側面、把手及びベルトが黒色であり、薄灰色である本体正面、本体背面及び本体底面よりも濃い色彩で表されているという色分けがなされているところ、この色分けは、小突起が有る本体側面と、把手の本体部との接合部分の中央を横切るようなベルトの存在を際立たせているというべきであるから、そのような色分けがなされていない引用意匠2に比較して、需要者に異なる視覚的印象を与えているといえる。したがって、色彩に係る相違点7が両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度認められる。
他方、前後一対の把手を除いた本体正面が略横長長方形状(縦横比が約3:4)であるか、略台形状(縦横比が約5:7)であるかの相違、本体正面中央部の高さ:把手の高さ(本体から飛び出た長さ)が約4:2であるか、約8:5であるかの相違、及び本体側面の最も広い底部の幅を本体正面全幅の略4/7であるか、約2/5であるかの相違は、「かばん」又は「バッグ」の物品分野の意匠においては本体正面の縦横比、把手の相対的高さ及びマチの相対的大きさが様々であるので、それらの相違に需要者が注目するとはいえない。また、正面上端がごく緩やかな凸弧状であるか水平状であるか、背面視ベルトの先端が覆われているか否か、ベルトの本体部との接合部分の形状が鳥の水かき様であるか略逆釣鐘状であるかの相違は、いずれも限られた部位における相違であるからそれ程目立たず、需要者が特に注意を払うとはいい難い。加えて、本体側面略上半部の折り返しの相違や、それに伴うスリット孔の個数の相違については、本件登録意匠のように内側、外側、内側の順に折り返されるものと、引用意匠2のように内側に窪んでいるのみのものは、どちらもありふれているので、需要者はこれらの相違にも注意を払うとはいい難い。したがって、相違点1、相違点2、相違点4及び相違点5が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
ウ 総合判断
以上のとおり、本件登録意匠と引用意匠2は、意匠に係る物品が同一であるが、形態においては、共通点が類否判断に及ぼす影響がいずれも小さいのに対して、相違点3、相違点6及び相違点7が類否判断に及ぼす影響は大きく、その余の相違点が類否判断に及ぼす影響が小さいとしても、共通点が需要者に与える美感を覆して本件登録意匠と引用意匠2を別異のものと印象付けるものであるから、本件登録意匠は、引用意匠2に類似するということはできない。
(4)小括
引用意匠2(楽天市場「abientot」販売ページに記載された意匠)は、本件登録意匠の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠ではあるものの、本件登録意匠は、引用意匠2には類似せず、意匠法3条1項3号に掲げる意匠には該当しないので、同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないとはいえない。
したがって、請求人が主張する無効理由5には、理由がない。
4 無効理由6について
本件登録意匠が、引用意匠2ないし5の形態に基づいて、当業者が容易に創作をすることができた意匠であるか否かについて検討する。
(1)引用意匠2
引用意匠2の認定は、前記3(1)のとおりであり、引用意匠2の形態は、本件登録意匠の出願前に公然知られていたと認められる。
(2)引用意匠3
ア 引用意匠3について
引用意匠3は、本件登録意匠の意匠登録出願前である平成28年(2016年)5月23日に日本国特許庁が発行した意匠公報(別紙第12参照)に掲載された、意匠登録第1549775号の意匠である。すなわち、引用意匠3の形態は、本件登録意匠の出願前に公然知られていたと認められる。
イ 引用意匠3の意匠に係る物品
上記公報の記載によれば、引用意匠3の意匠に係る物品は「バッグ」である。
ウ 引用意匠3の形態
引用意匠3の形態は、以下のとおりである。
(ア)全体の構成
全体は、上部が開口した有底略箱状の本体に、前後一対の把手を取り付けたものである。
本体正面は略横長長方形状(縦横比が約5:6)であり、本体側面は、最も広い底部の幅を本体正面全幅の約4/7とする縦長の略二等辺三角形状であり、本体正面中央部の高さ:把手の高さ(本体から飛び出た長さ)が約5:2である。
(イ)本体の態様
(イ-1)本体の外形は、正面上端が水平状に表されて、左上と右上の角部が角丸に表されている。本体の底面(最下面)は横長長方形状であって、円錐台形状の小さな4つの底鋲が角部寄りに設けられている。
(イ-2)本体側面の態様
本体側面の略上半部はやや窄められていて、平面から見て、内側、外側、内側の順に折り返されている。
本体側面の下部、高さが本体下から約1/3.5の高さまでの略台形状の範囲の表面には、同形同大の46個の略コーン形状の小突起が略千鳥状に並んで形成されており、上下7段、左右は7列と6列が交互に構成されている。小突起の左右の間隔は、上にいくにつれてしだいに狭くなっている。
(ウ)把手の態様
把手は、全体が略半長円形状であって、本体部との接合部分が先尖り状に表されている。
(3)引用意匠4
ア 引用意匠4について
引用意匠4は、本件登録意匠の意匠登録出願前である平成29年(2017年)1月2日に日本国特許庁が受け入れた特許庁意匠課公知資料(番号:HH28454934。別紙第13参照。)であって、同日に発行された大韓民国意匠商標公報に掲載された、登録番号30-0888326の意匠である。すなわち、引用意匠4の形態は、本件登録意匠の出願前に公然知られていたと認められる。
イ 引用意匠4の意匠に係る物品
上記公報の記載によれば、引用意匠4の意匠に係る物品は「バッグ」である。
ウ 引用意匠4の形態
引用意匠4の形態は、以下のとおりである。なお、本件登録意匠の向きに合わせて引用意匠4の向きを認定する。
(ア)全体の構成
全体は、上部が開口した有底略箱状の本体に、左右一対の把手を取り付けたものである。
本体正面は略横長長方形状(縦横比が約5:6)であり、本体側面は、最も広い底部の幅を本体正面全幅の約2/7とする縦長の略台形状であり、本体正面中央部の高さ:把手の高さ(本体から飛び出た長さ)が約5:2である。
(イ)本体の態様
(イ-1)本体の外形は、正面の左端及び右端が緩やかな内向き弧状に表されており、正面上端が水平状に表されている。本体の底面(最下面)は横長長方形状である。
(イ-2)本体側面の態様
本体側面は弧状面状に外側に膨らんでおり、平面から見た側面上端は凸弧状に表されて、底面から見た側面下端は直線状である。すなわち、本体側面は上にいくにつれて外側に膨らんでおり、正面から見ると、本体側面の左端と右端は上にいくにつれてやや外側に広がっている。
本体側面のほぼ全面にわたって、その表面には、同形同大の36個の略円錐台形状の突起が格子状に並んで形成されており、上下12段、左右3列に構成されている。
(ウ)把手の態様
把手は帯状であって、正面の上端付近から背面の上端付近に側面視略ループ状になるように配されており、本体部との接合部分は、略円形状リベットで留められている。
(エ)色彩
本体側面、本体底面及び把手が黒色であり、本体正面及び本体背面が白色である。突起及び略円形状リベットは銀色(金属調)である。
(4)引用意匠5
ア 引用意匠5について
引用意匠5は、本件登録意匠の意匠登録出願前である平成24年(2012年)8月10日に日本国特許庁が受け入れた特許庁意匠課公知資料(番号:HJ24023953。別紙第14参照。)であって、リシュモン アンテルナシオナル ソシエテアノニムがWebで公開した「Justine spiked leather shoulder bag」の意匠である。すなわち、引用意匠5の形態は、本件登録意匠の出願前に公然知られていたと認められる。
イ 引用意匠5の意匠に係る物品
上記公知資料の記載によれば、引用意匠5の意匠に係る物品は「かばん」である。
ウ 引用意匠5の形態
引用意匠5の形態は、以下のとおりである。なお、本件登録意匠の向きに合わせて引用意匠5の向きを認定する。
(ア)全体の構成
全体は、上部が開口した有底略箱状の本体に、ショルダーベルトを取り付けたものである。
本体正面は略横長長方形状(縦横比が約1:1.1)であり、本体側面は縦長の略台形状であると推認され、本体正面中央部の高さ:把手の高さ(本体から飛び出た長さ)が約5:4である。
(イ)本体の態様
(イ-1)正面上端は、凹弧状に表されている。
(イ-2)本体側面の態様
本体側面のほぼ全面にわたって、多数の粒状の小突起が略格子状に並んで形成されている。
(ウ)把手の態様
ショルダーベルトは、2箇所が環状金具で接合された3連の帯であって、本体側面の左上端から右上端にわたって配されている。本体部との接合部分にも環状金具が用いられている。
(エ)色彩
ショルダーベルトを構成する3連の帯と本体部は黒色であり、環状金具は銀色(金属調)である。
(5)創作非容易性の判断
かばんの物品分野において、本体側面のほぼ全面にわたって突起を略格子状に並べて形成することは、引用意匠4及び引用意匠5に見られるように、本願の出願前に公然知られている。そして、同分野において、小突起の形状を同形同大の略コーン形状とすることも、引用意匠3に見られるように、本願の出願前に公然知られている。
しかしながら、本件登録意匠のように、側面全高の約4/7の表面に90個の小突起を上下10段、左右9列に構成した形態は引用意匠2ないし5には見られず、その上、本件登録意匠の本体側面には、小突起の最上段のすぐ上にベルトが現れており、ベルトと小突起が共に本体側面に配されるという独特の美感を醸し出す創作がなされているところ、このような形態は引用意匠2ないし5には見られない。
したがって、引用意匠2ないし5に基づいて、当業者が容易に本件登録意匠の創作をすることができたということはできない。
(6)請求人の主張について
請求人は、「多数の突起(引用意匠3から引用意匠5まで)を、側面全体(引用意匠4及び引用意匠5)に、・・・設けることは、鞄の属する分野の創作の実態に照らして極めてありふれたものである。・・・突起の個数及び範囲を変更することは、「軽微な改変」に過ぎない。」と主張する(前記第4の4(1)エ(ウ))。
しかしながら、ベルトと小突起を共に本体側面に配して、ベルトの直下から下端付近までの側面(側面全高の約4/7)の表面に小突起を構成した形態は独特のものであって、引用意匠2ないし5の限りでは、その創作が容易であるとはいい難い。したがって、請求人の主張を採用することはできない。
(7)小括
以上のとおり、引用意匠2ないし5の形態は本件登録意匠の出願前に公然知られていたものの、本件登録意匠は、引用意匠2ないし5の形態に基づいて、当業者が容易に創作をすることができたものではないので、意匠法3条2項が規定する意匠には該当せず、意匠登録を受けることができないとすることはできない。
したがって、請求人が主張する無効理由6には、理由がない。
5 無効理由3について
本件登録意匠が、「H商標2」との関係において、意匠法5条2号に規定する意匠に該当するか否か、すなわち、他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠であるか否かについて検討する。
(1)他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠か否かの判断について
意匠法5条は、工業上の利用可能性、新規性、及び創作非容易性等の登録要件等を満たす意匠であっても、公の秩序、善良の風俗を害するおそれがある意匠や、産業の発展を阻害するおそれがある意匠については、公益的な理由から、意匠登録を受けることができないことを規定したものである。
この意匠法5条の趣旨からすれば、出願された意匠が出所の混同を生じる場合は、当該出願を拒絶すべきであり、同法同条第2号はそれを規定した条文であると解される。
そして、同法同条同号の「他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠」には、例えば、外観形態に、需要者に対して他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある形態が表されている意匠や、外観形態の一部に、需要者に対して他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠が含まれると解される。
したがって、本件登録意匠の場合は、その形態に着目して、他人の業務に係る物品と混同を生じるおそれがあるか否かを判断する。
(2)「H商標2」について
H商標2(登録商標第5864813号。別紙第6参照。)は、商標権者がエルメス・アンテルナショナル(本件審判事件の請求人)である登録商標であって、指定商品を第6類、第14類、第16類、第18類、第25類及び第26類とするものである。指定商品の中に、「かばん用の金属製留具」を含む第18類が含まれている。
H商標2は図形の商標であり、その図形は、全体が略正方形状であって、複数の溝のような筋によって略H形を呈している。左右には、それぞれ3本の縦溝様筋が端付近から等間隔に並んで配されており、内側の縦溝様筋になるにつれて上端の位置が下がり、下端もごく僅かに下がっている。左右の縦溝様筋群はほぼ左右対称に表されているが、左側の群の幅が右側のそれよりも若干幅が広く、左側群の幅:中央(余白)の幅:右側群の幅の比は約1.1:2.2:1である。
図形全体の上下方向ほぼ中央に、余白を横切るように3本の横溝様筋が等間隔に並んで配されており、各筋の下端には、略半レンズ状の灰色の面取り様部が表されている。図形の最上部にも、左端から右端にかけて、略半レンズ状の灰色の面取り様部が表されて、左右6本の縦溝様筋の上端がその面取り様部の疑似稜線を切り欠くように表されている。すなわち、これらの4つの面取り様部は、図形があたかも立体形状であるかのように表されている。
(3)本件登録意匠の南京錠正面の態様とH商標2の態様の対比
ア 前記1(2)エ(イ)で認定した本件登録意匠の南京錠正面の態様と、上述したH商標2の態様を対比すると、主として以下の点が相違する。
(相違点1)中央の横溝(又は横溝様筋)が、4本(本件登録意匠)であるか、3本(H商標2)であるかで相違する。
(相違点2)H商標2には4つの面取り様部が表されているが、本件登録意匠には面取りは形成されていない。
(相違点3)左側群の幅:中央の幅:右側群の幅の比が、約1:1.5:1(本件登録意匠)であるか、約1.1:2.2:1(H商標2)であるかで相違する。
イ しかし、以下のとおり、これらの相違点はいずれも大きな相違ではなく、両者の共通点を圧するものではない。
相違点1について、横溝が4本か3本かの相違は、1~2本と5本以上との相違の場合とは異なり、それほど目立つ相違ではく、両者を全体として比較した際に大きな相違であるとはいえない。
相違点2については、H商標2に表された面取り様部の面積が小さく、特徴のある視覚的印象を与えるほどのものではないので、両者を全体として比較した際に大きな相違であるとはいえない。
相違点3についても、左側群の幅:中央の幅:右側群の幅の比が約1:1.5:1か、約1.1:2.2:1かの相違は、左側群、中央及び右側群が略H形を成す共通点がもたらす共通した印象を左右するほどの相違ではない。
ウ 小括
そうすると、本件登録意匠の南京錠正面の態様は、H商標2の態様の特徴を備えているということができる。
(4)H商標2の著名性とエルメス・アンテルナショナルの業務について
ア H商標2の著名性
被請求人も首肯するとおり(前記第4の2(2)ア(ア))、H商標2は、エルメス・アンテルナショナル(請求人)の出所を表示する標章として著名であるということができる。
請求人は、ハンドバッグ等について、通称「カデナ」と呼ばれる南京錠(以下「カデナ」という。)を付属品(留め具)として付けて販売しているところ、H商標2は、当該カデナの本体に表示されている標章である。例えば、甲第52号証2頁(別紙第9参照)、甲第53号証4頁(別紙第10参照)及び甲第54号証(別紙第11参照)に掲載された商品には、H商標2が使用されている。
そして、女性誌などにバーキンやケリーをはじめとするハンドバッグ等が写真で紹介される際には、本体正面にカデナが付された状態の写真が掲載される場合が多く(甲15、甲21、甲42ないし甲50)、カデナは請求人のブランド「HERMES]の「シンボル的なアイテム」と評価されている(甲51)。
イ 請求人の業務
請求人は、ハンドバッグ等を製造販売する企業であり、日本においても、「大手百貨店の主要店には比較的多く出店している。日本におけるエルメスの売上は、アメリカ合衆国、フランスに次ぐ世界第3位で、世界全体の売上の13%を占めている。2001年6月28日には、日本での旗艦店「メゾンエルメス」(en:Maison Hermes)を東京・銀座の晴海通り沿いにオープンしている(甲第2号証。別紙第8参照。)」ので、請求人は、カデナを含むハンドバッグ等に業務として関わっている。
ウ 小括
そうすると、H商標2は請求人の出所を表示する標章として著名であり、請求人は、そのH商標2を使用したカデナを含むハンドバッグ等に業務として関わっている。
(5)物品分野の関連性について
H商標2である商標登録第5864813号(別紙第6参照)の指定商品の中には「かばん用の金属製留具」を含む第18類が含まれており、本件登録意匠に設けられている南京錠は、この「かばん用の金属製留具」に相当する。
そして、上述したとおり、請求人はハンドバッグ等を製造販売する企業であるから、本件登録意匠の意匠に係る物品「かばん」の分野と、請求人の業務に係る物品分野の関連性は非常に高いといえる。
(6)混同を生ずるおそれについて
以上のとおり、
H商標2は請求人の出所を表示する標章として著名であり、請求人は、そのH商標2を使用したカデナを含むハンドバッグ等に業務として関わっており(前記(4)ウ)、
本件登録意匠の意匠に係る物品「かばん」の分野と、請求人の業務に係る物品分野の関連性は非常に高く(前記(5))、
本件登録意匠の南京錠正面の態様は、H商標2の態様の特徴を備えているので(前記(3)ウ)、
そのような南京錠を有する本件登録意匠は、請求人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがあるといわざるを得ない。
したがって、本件登録意匠は、他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠であると認められ、意匠法5条2号に規定する意匠に該当する。
(7)被請求人の主張について
被請求人は、「本件意匠登録は、「かばん」の意匠であり、本体正面に付された金属製留具は、本件意匠登録の本質的な部分ではなく、本件意匠登録の一部を構成するものではない。そのため、本件意匠登録の要部ではない。」(前記第4の2(2)ア(エ)a)と主張した上で、「本件登録意匠の本体正面に付された金属製留具に表記の模様(以下、単に本件模様と称する)は、本件登録意匠の要部を構成しない。そのため、本件模様を、H商標と同一又は類似する標章として比較する必要がない。」(前記第4の2(2)イ)と主張する。
しかしながら、前記(1)に摘示したとおり、意匠法5条2号の「他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠」には、外観形態の一部に、需要者に対して他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠が含まれると解されるから、金属製留具(南京錠)正面の態様が本件登録意匠の要部であるか否かにかかわらず、上述のとおり、本件登録意匠は同法5条2号に規定する意匠に該当すると判断され得る。したがって、被請求人の主張を採用することはできない。
また、被請求人は、「本件意匠登録に係るかばんは、H商標が付された請求人のかばんとは、そもそも価格帯が違っている。そのため、需要者が、両者を混同するはずがない。」(前記第4の2(2)ア(エ)f)と主張する。
しかしながら、本件意匠登録に係るかばんと、H商標2が付されたかばんの価格帯が異なるとしても、それが上記(6)の判断に影響を及ぼすとはいい難く、また、請求人が甲第61号証により示した(前記第4の1(1)ア(イ))、令和2年(ネ)第10040号損害賠償請求控訴事件(令和2年12月17日)において、「控訴人は、被控訴人商品と控訴人商品等は価格が大きく異なること、・・・から、需要者が被控訴人商品と控訴人商品等を誤認混同するおそれはなく、・・・と主張する。しかし、・・・控訴人商品等は被控訴人商品の形態と類似するから、価格・・・に相違があることを考慮しても、被控訴人商品と控訴人商品等は具体的な取引において誤認混同のおそれがあるものと認められ」ると判示されていることを踏まえると、被請求人の主張を採用することはできない。
(8)小括
以上のとおりであるから、本件登録意匠は、「H商標2」との関係において、意匠法5条2号に規定する意匠に該当し、同法同条の規定により意匠登録を受けることができない意匠であり、その登録は同法48条1項1号により無効とされるべきである。
よって、請求人が主張する無効理由3については、理由がある。
6 無効理由2について
本件登録意匠が、「H商標1」との関係において、意匠法5条2号に規定する意匠に該当するか否か、すなわち、他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠であるか否かについて検討する。
(1)他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠か否かの判断について
前記5(1)と同じである。
(2)「H商標1」について
H商標1(登録商標第4672965号。別紙第5参照。)は、商標権者がエルメス・アンテルナショナル(本件審判事件の請求人)である登録商標であって、指定商品を第14類及び第18類とするものである。指定商品の中に、「かばん金具」を含む第18類が含まれている。
H商標1は図形の商標であり、その図形は、全体が縦幅と横幅がほぼ等しい略H形を呈しており、複数の縞によって構成されている。左右には、それぞれ3本の灰色の縦縞が端から等間隔に並んで配されており、左右対称に表されている。灰色の縦縞の間には、それと太さが同じである白色の縦縞が配されている。
図形全体の上下方向ほぼ中央に、略H形の水平部分を構成するように2本の灰色の横縞が等間隔に並んで配されており、その上下には、倒コ字状の灰色の縞が表されている。すなわち、中央には上下4本の灰色の横縞が表されている。それらの横縞の間には、それと太さが同じである白色の横縞が配されている。
略H形の水平部分を構成する左右の幅(縦縞の群の幅)は、略H形の切り欠きの幅(左右の間の幅)よりもやや広く。左側群の幅:左右の間の幅:右側群の幅の比は約1.2: 1 :1.2である。
(3)本件登録意匠の南京錠正面の態様とH商標1の態様の対比
ア 前記1(2)エ(イ)で認定した本件登録意匠の南京錠正面の態様と、上述したH商標1の態様を対比すると、主として以下の点が相違する。
(相違点1)全体が、略正方形状(本件登録意匠)であるか、略H形(H商標1)であるかで相違する。
(相違点2)本件登録意匠では、左端の縦溝の外側と右端の縦溝の外側に若干の余地部があり、倒コ字状の溝の内側に一回り小さい倒コ字状の凸条が形成されて、その凸条の内側が浅い凹部になっているが、H商標1では、左端と右端に灰色の縦溝が配され、略H形の切り欠きの縁に倒コ字状の灰色の縞が配されている。
(相違点3)左側群の幅:中央の幅:右側群の幅の比が、約1:1.5:1(本件登録意匠)であるか、約1.2: 1 :1.2(H商標1)であるかで相違する。
イ しかし、以下のとおり、これらの相違点はいずれも大きな相違ではなく、両者の共通点を圧するものではない。
相違点1及び相違点2については、本件登録意匠の溝の左側群、中央及び右側群に着目すると、これらが組み合わさって略H形を呈しており、また、H商標1における灰色の縞と白色の縞が繰り返されるパターンは、縦溝と横溝が繰り返し表されている本件登録意匠と同様の視覚的印象を与えているので、これらの共通点を圧する大きな相違であるとはいえない。
相違点3についても、左側群の幅:中央の幅:右側群の幅の比が約1:1.5:1か、約1.2: 1 :1.2かの相違は、左側群、中央及び右側群が略H形を成す共通点がもたらす共通した印象を左右するほどの相違ではない。
ウ 小括
そうすると、本件登録意匠の南京錠正面の態様は、H商標1の態様の特徴を備えているということができる。
(4)H商標1の著名性とエルメス・アンテルナショナルの業務について
ア H商標1の著名性
H商標1は、上述したとおり全体が略H形であって、中央上下に切り欠きがあり、本件登録意匠の南京錠正面のように略正方形状ではない。そして、請求人が提出した甲号証には、H商標1のように灰色の縞と白色の縞から構成された金具が取り付けられたかばんの例は掲載されておらず、全体が略H形である金具も、甲第53号証3頁左(別紙第10参照)に掲載されたものがあるのみである。
そうすると、請求人の主張及び立証の限りでは、H商標1が請求人の出所を表示する標章として著名であるとはいい難い。
イ 請求人の業務
請求人は、ハンドバッグ等を製造販売する企業であり、日本においても、「大手百貨店の主要店には比較的多く出店している。日本におけるエルメスの売上は、アメリカ合衆国、フランスに次ぐ世界第3位で、世界全体の売上の13%を占めている。2001年6月28日には、日本での旗艦店「メゾンエルメス」(en:Maison Hermes)を東京・銀座の晴海通り沿いにオープンしている(甲第2号証。別紙第8参照。)」ので、請求人は、ハンドバッグ等に業務として関わっている。
ウ 小括
そうすると、請求人はハンドバッグ等に業務として関わっているものの、H商標1は請求人の出所を表示する標章として著名であるとはいい難い。
(5)物品分野の関連性について
H商標1である商標登録第4672965号(別紙第5参照)の指定商品の中には「かばん金具」を含む第18類が含まれており、本件登録意匠に設けられている南京錠は、この「かばん金具」に相当する。
そして、上述したとおり、請求人はハンドバッグ等を製造販売する企業であるから、本件登録意匠の意匠に係る物品「かばん」の分野と、請求人の業務に係る物品分野の関連性は非常に高いといえる。
(6)混同を生ずるおそれについて
以上のとおり、
請求人は、ハンドバッグ等に業務として関わっており(前記(4)ウ)、
本件登録意匠の意匠に係る物品「かばん」の分野と、請求人の業務に係る物品分野の関連性は非常に高く(前記(5))、
本件登録意匠の南京錠正面の態様は、H商標1の態様の特徴を備えている(前記(3)ウ)。
しかしながら、H商標1は請求人の出所を表示する標章として著名であるとはいい難いので(前記(4)ウ)、本件登録意匠が、請求人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがあるとはいえない。
したがって、本件登録意匠は、他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠ではないので、意匠法5条2号に規定する意匠に該当しない。
(7)請求人の主張について
請求人は、H商標1について、「バーキンやケリーをはじめとするハンドバッグ等に付属するカデナに表示されているため、女性誌などにバーキンやケリーなどが写真で紹介される際には、本体正面にカデナが付された状態の写真が掲載される場合も多く(甲15、甲21、甲42ないし甲50)、カデナに表示されているH商標は、バーキンやケリーの立体的形状と同様に、多くの需要者・取引者による認識の対象となっている。」(前記第4の2(1)イ)と主張する。
しかしながら、甲15、甲21、甲42ないし甲50の甲号証には、H商標1のように灰色の縞と白色の縞から構成された金具の例は掲載されておらず、全体が略H形である金具の例も掲載されていない。したがって、請求人の主張を採用することはできない。
(8)小括
以上のとおりであるから、本件登録意匠は、「H商標1」との関係において、意匠法5条2号に規定する意匠には該当しないので、同法同条の規定により意匠登録を受けることができない意匠であるとはいえない。
したがって、請求人が主張する無効理由2には、理由がない。
7 無効理由1について
本件登録意匠が、「バーキン商標」との関係において、意匠法5条2号に規定する意匠に該当するか否か、すなわち、他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠であるか否かについて検討する。
(1)他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠か否かの判断について
前記5(1)と同じである。
(2)「バーキン商標」について
請求人は、本件登録意匠が、請求人の周知・著名な商標である請求人の商品「バーキン」の立体的形状と類似の形状を表するものであり、請求人の業務に係る商品と混同を生じるおそれがある意匠、すなわち、他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠であると主張し、その立体的形状が商標登録第5438059号(甲第1号証。別紙第2参照。)に表されており、蓋を本体内部に差し込んだ態様が甲第29号証及び甲第30号証(別紙第3及び別紙第4)に表されていると述べている。
商標登録第5438059号に表された形態の認定は、前記2(1)ウのとおりである。
甲第29号証及び甲第30号証に表された、蓋を本体内部に差し込んだ態様は、以下のとおりである。
甲第29号証の態様(別紙第3第3頁)
本体の蓋部は口部の内側に折り込まれており、正面から見ると隠れている。ベルトの先端は把手の位置で止まっており、やや下に下がっている。本体正面中央上部には固定具が露出しており、その固定具は、縦長長方形状の基板と、基板中央から突設した、先端にリングを有する棒状体から成る。把手の右側の基部に、キーケースをぶら下げる紐が繋がれている。固定部、補助固定具及びベルト端部のプレートは金色(金属調)であり、それ以外は全て茶色である。
甲第30号証の態様(別紙第4第2頁右)
本体の蓋部は口部の内側に折り込まれており、正面から見ると隠れている。ベルトの先端は把手の位置で止まっており、下に下がっている。本体正面中央上部には固定具が露出しており、その固定具は、縦長長方形状の基板と、基板中央から突設した、先端にリングを有する棒状体から成る。把手の右側の基部に、キーケースをぶら下げる紐が繋がれている。固定部、補助固定具及びベルト端部のプレートは金色(金属調)であり、それ以外は全て黒色である。
(3)本件登録意匠の形態とバーキン商標の形態の対比
ア 前記1(2)で認定した本件登録意匠の形態と、上述したバーキン商標(蓋を本体内部に差し込んだ態様を含む)の形態を対比すると、主として以下の点が相違する。
(相違点1)本件登録意匠では、本体側面の上部に現れているベルトの直下から下端付近までの側面表面に90個の略コーン形状の小突起が格子状(上下10段、左右9列)に並んで形成されているが、バーキン商標にはそのような小突起は形成されていない。
(相違点2)本件登録意匠には、固定具の棒状体のリングに南京錠が掛けられており、その南京錠の正面には、略H形の凹凸模様が表されているが、バーキン商標には南京錠は掛けられていない。
(相違点3)本件登録意匠では、本体側面、把手及びベルトが黒色であり、本体正面、本体背面及び本体底面が薄灰色である。これに対して、引用意匠2では、それらは全て単一色である。
イ そして、これらの相違点は、いずれも大きな相違であって、本体側面のベルトの直下から下端付近までの大きな範囲に90個の小突起がある本件登録意匠は、小突起がないバーキン商標に比べて構成要素が多く、需要者はバーキン商標の特徴のみを感得するとはいい難い。また、本件登録意匠に見られる南京錠の存在や、本体側面、把手及びベルトが濃い色彩で色分けされている特徴も、そのような特徴のないバーキン商標に比べてより複雑であるというべきであり、本件登録意匠がバーキン商標の特徴のみを感得するとはいい難い。
ウ 小括
そうすると、本件登録意匠の形態は、バーキン商標に比べて要素が多く複雑であって、バーキン商標の特徴をそのまま備えているということはできず、バーキン商標とは大きく異なるというべきである。
(4)バーキン商標の著名性とエルメス・アンテルナショナルの業務について
ア バーキン商標の著名性
バーキン商標は、エルメス・アンテルナショナル(請求人)の出所を表示する形態として著名であるということができる。例えば、ウィキペディアにおける「エルメス」の説明記事には、蓋を本体内部に差し込んだ態様のバーキンのバッグが紹介されており(甲第2号証3頁。別紙第2参照。)、また、請求人が甲第61号証により示した(前記第4の1(1)ア(イ))、令和2年(ネ)第10040号損害賠償請求控訴事件(令和2年12月17日)において、バーキン商標の形態について「被控訴人(当審注:エルメス アンテルナショナル)による販売、広告宣伝活動を通じて、遅くとも、平成21年までには、被控訴人がその出所であることを示す表示として著名となり、被控訴人の著名な商品等表示(不競法2条1項2号)に該当するに至ったものと認められる。」であると判示されている。
イ 請求人の業務
請求人は、ハンドバッグ等を製造販売する企業であり、日本においても、「大手百貨店の主要店には比較的多く出店している。日本におけるエルメスの売上は、アメリカ合衆国、フランスに次ぐ世界第3位で、世界全体の売上の13%を占めている。2001年6月28日には、日本での旗艦店「メゾンエルメス」(en:Maison Hermes)を東京・銀座の晴海通り沿いにオープンしている(甲第2号証。別紙第8参照。)」ので、請求人は、ハンドバッグ等に業務として関わっている。
ウ 小括
そうすると、バーキン商標は請求人の出所を表示する形態として著名であり、請求人は、ハンドバッグ等に業務として関わっている。
(5)物品分野の関連性について
バーキン商標である商標登録第5438059号(別紙第2参照)の指定商品は「ハンドバッグ」を含む第18類であって、本件登録意匠はこの「ハンドバッグ」に相当する。
そして、上述したとおり、請求人はハンドバッグ等を製造販売する企業であるから、本件登録意匠の意匠に係る物品「かばん」の分野と、請求人の業務に係る物品分野の関連性は非常に高いといえる。
(6)混同を生ずるおそれについて
以上のとおり、
バーキン商標は請求人の出所を表示する形態として著名であり、請求人は、ハンドバッグ等に業務として関わっており(前記(4)ウ)、
本件登録意匠の意匠に係る物品「かばん」の分野と、請求人の業務に係る物品分野の関連性は非常に高い(前記(5))。
しかしながら、本件登録意匠の形態は、バーキン商標に比べて要素が多く複雑であって、バーキン商標の特徴をそのまま備えているということはできず、バーキン商標とは大きく異なるというべきであるから(前記(3)ウ)、本件登録意匠が請求人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがあるとはいえない。
したがって、本件登録意匠は、他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠ではないので、意匠法5条2号に規定する意匠に該当しない。
(7)請求人の主張について
請求人は、本件登録意匠とバーキン商標との類似性について、「本体正面を外側に向けて持つのが一般的であるハンドバッグという物品の性質上、需要者の注意を最も惹く要部は本体正面の構成である・・・本件登録意匠を本体正面から看た場合、その形状は、蓋を開放したまま本体内部に差し込んだ状態のバーキンと酷似することに照らせば、全体としてバーキン商標との共通点が差異点を凌駕し、本件登録意匠は、バーキン商標と需要者の視覚を通じて起こさせる美感を同じくするものといえる。したがって、本件登録意匠は、バーキン商標と類似しており、少なくとも混同を生じるおそれがある程に紛らわしい形状であるといえる。」(前記第4の1(1)ア(ウ)c)と主張する。
しかしながら、本件登録意匠は、バーキン商標の特徴をそのまま反映したものではなく、バーキン商標にはない他の要素が付加されたものであって、例えば、本件登録意匠では、本体側面、把手及びベルトが黒色に、本体正面、本体背面及び本体底面が薄灰色に、色分けがなされているところ、そのような色分けがなされていないバーキン商標と比較すると、需要者は一見して
その相違に気が付くというべきである。したがって、「本件登録意匠を本体正面から看た場合、その形状は、蓋を開放したまま本体内部に差し込んだ状態のバーキンと酷似する」との請求人の主張を採用することはできない。
(8)小括
以上のとおりであるから、本件登録意匠は、「バーキン商標」との関係において、意匠法5条2号に規定する意匠には該当しないので、同法同条の規定により意匠登録を受けることができない意匠であるとはいえない。
したがって、請求人が主張する無効理由1には、理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由3については理由があり、本件登録意匠は、意匠法5条2号に規定する意匠に該当し、同法同条の規定に違背して登録されたものであるから、その登録は、同法48条1項1号の規定により無効とすべきものである。
審判に関する費用については、意匠法52条で準用する特許法169条2項で準用する民事訴訟法61条の規定により、被請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-880003