特許異議申立
2023-700021
波型鋼板製水路部材
- 審判番号
- 2023-700021
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-097087
- 登録番号
- 7098792
- 請求日
- 2023年01月11日
- 審決日
- 2023年09月11日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】JFE建材株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人きさ特許商標事務所
- 【異議申立人】岩谷 幸祐
- 審判長/審判官
- 審判長 居島 一仁
- 審判官 前川 慎喜
- 審判官 西田 秀彦
- 分類
- P1651.113-YAA(E02B) / P1651.121-YAA(E02B) / P1651.537-YAA(E02B) / P1651.538-YAA(E02B) / P1651.572-YAA(E02B) / P1651.574-YAA(E02B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第9項、特許法第113条第1項第2号、特許法第2条、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7098792号発明「波型鋼板製水路部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7098792号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔3-10〕について、訂正することを認める。
特許第7098792号の請求項3ないし5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
特許第7098792号の請求項1、2、6ないし10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7098792号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成29年3月27日に出願された特願2017-60356号の一部を令和3年6月10日に新たな特許出願(特願2021-97087号)としたものであって、令和4年7月1日にその特許権の設定登録がされ、同月11日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和5年1月11日に特許異議申立人 岩谷 幸祐(以下「申立人」という。)より、請求項1ないし10に係る特許に対して、特許異議の申立てがされ(特許異議申立書について、以下「申立書」という。)、当審より、令和5年4月28日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、その指定期間内である令和5年6月23日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)を行った。
なお、同年6月29日付けで当審から申立人に対し、訂正の請求があった旨の通知をするとともに、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが(特許法第120条の5第5項)、申立人から意見書は提出されなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「請求項2~5のいずれか一項に記載の波型鋼板製水路部材」と記載されているのを、「請求項2に記載の波型鋼板製水路部材」に訂正する。(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7~10も同様に訂正する。)
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「請求項2~6のいずれか一項に記載の波型鋼板製水路部材」と記載されているのを、「請求項2又は6に記載の波型鋼板製水路部材」に訂正する。(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8~10も同様に訂正する。)
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~7のいずれか一項に記載の波型鋼板製水路部材」と記載されているのを、「請求項1、2、6、7のいずれか一項に記載の波型鋼板製水路部材」に訂正する。(請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9、10も同様に訂正する。)
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1~8のいずれか一項に記載の波型鋼板製水路部材」と記載されているのを、「請求項1、2、6、7、8のいずれか一項に記載の波型鋼板製水路部材」に訂正する。(請求項9の記載を引用する請求項10も同様に訂正する。)
(8)訂正の単位について
訂正前の請求項4~10は、訂正前の請求項3を、直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項3~10は、一群の請求項に該当するものであり、訂正前の請求項3~10について訂正する訂正事項1ないし7は、一群の請求項に対してされたものである。
2 訂正の適否の判断
以下、各訂正事項について、訂正の適否を検討する。
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項3の訂正は、請求項3の削除を目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項4の訂正は、請求項4の削除を目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(3)訂正事項3について
訂正事項3に係る請求項5の訂正は、請求項5の削除を目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項6において引用されていた訂正前の請求項3、4又は5の記載の引用をしないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び、同ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7~10も同様。)
そして、このような訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項7において引用されていた訂正前の請求項3、4又は5の記載の引用をしないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び、同ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8~10も同様。)
そして、このような訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(6)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項8において引用されていた訂正前の請求項3、4又は5の記載の引用をしないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び、同ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。(請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9、10も同様。)
そして、このような訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(7)訂正事項7について
訂正事項7は、訂正前の請求項9において引用されていた訂正前の請求項3、4又は5の記載の引用をしないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び、同ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。(請求項9の記載を引用する請求項10も同様。)
そして、このような訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(8)独立特許要件について
訂正前の請求項1ないし10が特許異議の申立ての対象とされており、本件訂正において、上記(1)ないし(7)のとおり特許請求の範囲の減縮が行われていても、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(9)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件訂正後の請求項〔3-10〕についての訂正を認める。
第3 訂正後の本件特許発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、訂正の対象ではない請求項にかかる発明もまとめて、「本件訂正発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。(下線部は訂正箇所を示す。)
「【請求項1】
水路を形成するために用いられ、前記水路の流路方向に沿った断面が波形に形成された波付け鋼材からなる波型鋼板製水路部材であって、
前記波付け鋼材は、Tiを含有するフェライト系ステンレスのうちSUS443J1である波型鋼板製水路部材。
【請求項2】
Tiの含有量は、C:0.03(mass%)以下、N:0.03(mass%)以下とすると、4×{C(mass%)+N(mass%)}以上、且つ0.35(mass%)以下である請求項1に記載の波型鋼板製水路部材。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
Tiの含有量は、C:0.01(mass%)以上である請求項2に記載の波型鋼板製水路部材。
【請求項7】
Ti-4×{C(mass%)+N(mass%)}は、0.168以上である請求項2又は6のいずれか一項に記載の波型鋼板製水路部材。
【請求項8】
前記波付け鋼材は、磁性を有している請求項1、2、6、7のいずれか一項に記載の波型鋼板製水路部材。
【請求項9】
取付物品を取り付ける溶接部を有した請求項1、2、6、7、8のいずれか一項に記載の波型鋼板製水路部材。
【請求項10】
前記波型鋼板製水路部材は、コーナー部用であり、上流側部品と下流側部品とを有し、
前記上流側部品と前記下流側部品とを繋げる溶接部を有した請求項9に記載の波型鋼板製水路部材。」
第4 証拠一覧、特許異議申立理由の要旨、及び取消理由通知に記載した取消理由の要旨
1 証拠一覧
本件特許異議申立における証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証:「日鉄住金建材とNSSCが初の共同開発 U字フリュームが長岡市で採用 資源節約型ステンレス鋼板で耐久性3倍に」,日刊日本金属通信,株式会社日本金属通信社,平成26年12月16日,第14820号,第1面
甲第2号証:秦野正治,外3名,「微量Sn添加によりレアメタル(Cr)を削減した高純度フェライト系ステンレス鋼板(NSSC〇R FW1)の開発」,まてりあ 日本金属学会会報,公益社団法人日本金属学会,2012年1月,第51巻,第1号,p.25-27,目次((当審注:〇Rは、Rの丸囲みを表す。以下同様。)
甲第3号証:特許第4624473号公報
甲第4号証:国際公開第2013/035775号
甲第5号証:特開2016-20726号公報
甲第6号証:特開2011-214060号公報
甲第7号証:特開2015-169056号公報
2 特許異議申立理由の要旨
申立人が申立書において主張する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。(申立書1頁下から11行~2頁11行、2頁16行~3頁3行)
(1)理由1(新規性欠如)
本件特許の請求項3、4、6~10に係る発明は、本願出願前に発行された刊行物(甲第1号証)に記載された発明であるから、本件特許は、特許法第29条第1項第3号の規定を満たしていない。
(2)理由2(進歩性欠如)
本件特許の請求項1~10に係る発明は、本願出願前に発行された刊行物(甲第1号証~甲第7号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定を満たしていない。
(3)理由3(サポート要件違反)
本件特許の請求項1~10は、出願時の技術常識に照らしても、その発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満足していない。
(4)理由4(実施可能要件違反)
本件特許の発明の詳細な説明は、請求項3、4、6~10に係る発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載していないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(5)理由5(明確性要件違反)
本件特許の請求項3、4、6~10は、明確ではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定される要件を満足していない。
以上の理由で、本件特許は、特許法第113条第1項第2号および第4号に該当し、取消されるべきである。
3 取消理由通知に記載した取消理由の要旨
令和5年4月27日付け取消理由通知に記載した取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件特許の請求項3及び4,6,8ないし10に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 証拠について
1 甲第1号証について
本件特許の出願前に発行された甲第1号証には、以下の記載がある(当審で下線を付した。以下同様。)。
(1)「日鉄住金建材とNSSCが初の共同開発
U字フリュームが長岡市で採用
資源節約型ステンレス鋼板で耐久性3倍に
日鉄住金建材と新日鉄住金ステンレス(NSSC)は15日、両社が初めて共同開発したU字フリュームが新潟県長岡市で採用されたと発表した。資源節約型フェライト系ステンレス鋼板「フォワード(FW)1」を使い、耐久性を従来比3倍に向上させている。灌漑用水路や集排水路に使われるU字フリュームは 、通常はめっき鋼板を用いる 。ただ急傾斜で流れが速い場所は摩耗しやすく、樹脂製など他素材の浸食も始まっている。日鉄住金建材では3年前に急傾斜向けのU字フリュームの開発に着手し、同じ新日鉄住金グループであるNSSCとFW1での商品化に成功した。
・・・NSSCのFW1は微量の錫を転嫁した14%クロム鋼。クロム使用量を減らしながら18クロム鋼と同等以上の耐食性をもつ。・・・」(記事全文)
(2)上記(1)中の「錫を転嫁した」という記載が「錫を添加した」の誤記であることは明らかなことを踏まえ、上記(1)より、甲第1号証には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
[甲1発明]
「灌漑用水路や集排水路に使われるU字フリュームであって、
微量の錫を添加した14%クロム鋼である資源節約型フェライト系ステンレス鋼板「フォワード(FW)1」を使った、U字フリューム。」
2 甲第2号証について
本件特許の出願前に発行された甲第2号証には、以下の記載がある。
(1)「そこで著者らは,上述した高純度フェライト系の潮流の中で微量Snを添加するという前例のないアプローチによって,レアメタルであるCrを節減した高耐食フェライト系ステンレス鋼(NSSC FW1)を開発・実用化した.本稿では,開発に係る基礎検討,開発鋼の諸特性と実用例・特許取得状況について述べる.」(25頁右欄1~6行)
(2)「5. 特許
本開発に関わる特許は国内外に10件出願しており,基本特許の特許第4624473号をはじめ3件登録されている.」(27頁右欄18~20行)
(3)表1は以下のものである。
[図:0001404798000001.jpg]
3 甲第3号証について
本件特許の出願前に発行された甲第3号証には、以下の記載がある。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%にて、
C:0.001~0.02%、
Si:0.01~0.6%、
Mn:0.01~0.6%、
P:0.005~0.04%、
S:0.0001~0.01%、
Cr:13~22%、
N:0.001~0.02%、
Al:0.005~0.05%、
Sn:0.001~1%、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼であって、
該鋼表面においてX線光電子分光分析器で測定されるFe酸化物、Cr酸化物、Sn酸化物、ならびにそれら以外の酸化物のX線強度をそれぞれI(Fe)、I(Cr)、I(Sn)、I(O)とした場合、下記式(1)と式(2)に示す2つの関係を満たすことを特徴とする耐銹性に優れた高純度フェライト系ステンレス鋼。
0<I(Fe)/I(Cr)<5・・・・・式(1)、
0<I(O)/I(Sn)<3 ・・・・・式(2)
【請求項2】
さらに質量%にて、
Ti:0.05~0.35%、
Ni:0.05~0.5%、
Cu:0.05~0.5%、
Nb:0.05~0.7%、
Mo:0.005~0.5%、
Mg:0.0001~0.005%、
B:0.0003~0.005%、
Ca:0.0003~0.005%
の1種または2種以上含有していることを特徴とする請求項1に記載の耐銹性に優れた高純度フェライト系ステンレス鋼。」
(3)表2は以下のものである。
[図:0001404798000002.jpg]
4 甲第4号証について
本件特許の出願前に発行された甲第4号証には、以下の記載がある。
(1)「請求の範囲
[請求項1] 質量%で、C:0.030%以下、N:0.030%以下、Si:0.60%以下、Mn:0.01~0.5%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:13~22.5%、Ni:0.35%未満、Ti:0.05~0.30%、Al:0.01~0.2%、Cu:0.5%以下、及びMo:0.30%未満を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物であり、且つ下記の(A)式及び(B)式を満たすことを特徴とする耐食性及び加工性に優れるフェライト系ステンレス鋼。
(A)式:Cr+10Ti+10Al≧15
(B)式:Si+Cu≦1.1
(ただし、式中のCr,Ti,Al,Si,Cuは、それぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。)」
(2)「[0045] Tiは、一般にはフェライト系ステンレス鋼の溶接部においてC,Nを固定することで、粒界腐食を抑制させ、加工性を向上させる。このため、Tiは非常に重要な元素である。更に本実施形態にて対象とする腐食環境においては、Tiは、耐食性上、重要な元素である。Tiは、酸素との親和力が非常に強い。そこで、本発明者は、以下の事項を知見した。
Tiは、硝酸イオンを含む本実施形態にて対象とする腐食環境では、Crとともにステンレス鋼の表面被膜を形成する。このため、Tiは、孔食発生を抑制するのに非常に有効である。
皮膜を形成させたり、Tiを安定化元素として用いC,Nを固定させるためには、CとNの合計量(C+N)の4倍以上のTi量が必要である。しかしながら過剰な添加は製造時の表面疵の原因となるため、Ti量の範囲を0.05~0.3%とし、より望ましくは0.08~0.2%とする。」
(3)表3は以下のものである。
[図:0001404798000003.jpg]
(4)表4は以下のものである。
[図:0001404798000004.jpg]
5 甲第5号証について
本件特許の出願前に発行された甲第5号証には、以下の記載がある。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
波付け加工したコルゲート金属板を波付け方向と直交する方向に弧状ないしU字状に湾曲させた2つのコルゲート金属板部材の互いに向き合う端部どうしを重ねて土基礎上に配置され、それぞれの端部の土基礎に面する位置に形成されたボルト挿通孔を互いにボルト連結したコルゲート金属板部材の連結構造であって、
予め一方のコルゲート金属板部材の端部の前記ボルト挿通孔に前記ボルトを部材下面側から挿通して部材上面側に突出させ、前記ボルトの外径より小で谷径より大なる内径のボルト仮止め用孔を有する樹脂製の仮止めワッシャを、部材上面側に突出した前記ボルトに被せて部材上面に接近又は接触するまで押し込むことで、前記ボルトを、当該ボルト仮止め用孔に緊密嵌合させた状態として、ボルト挿通孔位置に保持し、次いで他方のコルゲート金属板部材の端部のボルト挿通孔を前記一方のコルゲート金属板部材の端部のボルト挿通孔位置に保持されている前記ボルトに通し、前記ボルトに前記ナットを螺合させ諦着して両コルゲート金属板部材を互いにボルト連結したことを特徴とするコルゲート金属板部材の連結構造。
・・・
【請求項6】
前記コルゲート金属板がステンレス板からなるコルゲートステンレス板であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のコルゲート金属板部材の連結構造。」
(2)「【技術分野】
【0001】
この発明は、波付け加工したコルゲート金属板を波付け方向と直交する方向に弧状ないしU字状に湾曲させたコルゲートU字フリュームやコルゲートパイプ等の土木施工用のコルゲート水路を構成するコルゲート金属板部材を施工する際に、2つのコルゲート金属板部材の互いに向き合う端部どうしをボルト連結するコルゲート金属板部材の連結構造、及びこれに用いる仮止めワッシャに関する。
【背景技術】
【0002】
農業用水路や工業用水路、土木工事用仮排水路等に用いられる水路材として上記のようなコルゲートU字フリュームやコルゲートパイプ等のコルゲート水路を構成するコルゲート金属板部材が知られている。また、コルゲートパイプの場合には、水路以外に簡易トンネルや道路下のカルバート等としても用いられる。
この種のコルゲート金属板部材どうしの連結は一般に、湾曲内側から見て波の山部である端部どうしを重ね、それぞれの端部に形成されたボルト挿通孔にボルトを湾曲外側(部材幅方向中央近傍では部材下面側)から挿通して湾曲内側(部材幅方向中央近傍では部材上面側)に突出させ、前記突出したボルトにナットを螺合させ諦着することにより行われる。」
(3)「【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のコルゲート金属板部材の連結構造、及びこれに用いる仮止めワッシャを実施するための形態について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0027】
本発明は、波付け加工したコルゲート鋼板やコルゲートステンレス板等のコルゲート金属板を波付け方向と直交する方向に弧状ないしU字状に湾曲させたコルゲートU字フリュームやコルゲートパイプ等のコルゲート金属板部材を施工する際に適用されるものである。」
(4)「【0038】
従来のコルゲートU字フリュームあるいはコルゲートパイプ等のコルゲート金属板部材は鋼製であり、ステンレス製のものは知られていないが、腐食が懸念される現場に設置する場合や著しく長期の設置が求められる場合、高耐食性を確保するために、ステンレス製とすることが考えられる。
この場合に、従来の鋼製仮止めワッシャを用いたとすると、鋼製仮止めワッシャに異種金属接触の電位差による錆が発生し、錆汁により設置済みのステンレス製のコルゲート金属板部材の見た目に悪影響を与えるが、本発明の樹脂製の仮止めワッシャ5を用いると、錆びることはなく錆汁の発生もないので、見た目を損なうことがない。」
(5)上記(1)ないし(4)より、甲第5号証には以下の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されているといえる。
[甲5発明]
「農業用水路や工業用水路、土木工事用仮排水路等に用いられる水路材として、波付け加工したコルゲート金属板を波付け方向と直交する方向に弧状ないしU字状に湾曲させたコルゲートU字フリュームであって、
コルゲート金属板部材はステンレス製である、
コルゲートU字フリューム。」
6 甲第6号証について
本件特許の出願前に発行された甲第6号証には、以下の記載がある。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.03%以下、N:0.03%以下、C+N:0.05%以下、Si:0.70%以下、Mn:0.50%以下、P:0.04%以下、S:0.02%以下、Cr:16~25%、Ni:1.0%以下、Ti:4×(C+N)~0.40%、V:0.1%以下、Nb:0.1%以下、Al:0.01~0.05%、およびZr:0.02~0.25%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、鋼板中の窒化物が実質的にZrNであることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項2】
前記フェライト系ステンレス鋼板において、さらに、質量%で、Cu:0.3~0.8%、Mo:0.1~2.5%、およびB:0.0002~0.002%から選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。」
(2)「【0033】
Ti:4×(C+N)~0.40%(CおよびNは各元素の含有量で、単位は質量%である。)
Tiは、溶接部の加工性や耐食性に有害なCやNをTiCやTiNとして無害化して、耐食性を向上させる効果を有する。また、連続焼鈍による鋭敏化を防止するためにもTiの添加は必要である。これらの効果を得るためには、CとNの質量%の和の4倍である4×(C+N)%以上の添加が必要である。一方、0.40%を超えて添加すると熱延板の靭性を低下させる。よってTiは4×(C+N)~0.40%の範囲に限定する。より好ましくは8×(C+N)~0.40%であり、さらに好ましくは8×(C+N)~0.35%である。」
(3)表1は以下のものである。
[図:0001404798000005.jpg]
7 甲第7号証について
本件特許の出願前に発行された甲第7号証には、以下の記載がある。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路方向に波形断面をなす波付けステンレス材からなる複数のステンレス水路材を流路方向に連結して構成するステンレス水路における角度部用のステンレス水路材を製造する角度部用ステンレス水路材の製造方法であって、
前記角度部用ステンレス水路材の下流側部分を構成する下流側パーツ及び上流側部分を構成する上流側パーツに、ステンレス水路材を長手方向に対して水路角度部に対応するそれぞれ所定角度でケガキ線を描き、前記ケガキ線に合わせて切断することで同一平面上に位置する切断端面を形成し、
前記下流側パーツと前記上流側パーツの切断端面同士を互いに突き合わせ、突き合わされた切断端面部の幅方向両端部近傍のみを溶接し、
突き合わされ幅方向両端部近傍のみを溶接された前記下流側パーツと上流側パーツとを、挟み付け手段により、両者が互いに押し付け合うようにそれぞれの切断端面と反対側から挟み付けて、互いの切断端面の山部同士及び谷部同士の波高さが一致するように突き合わされた状態に強固に保持し、
次いで、前記下流側パーツと上流側パーツとの突き合わされた切断端面部の全体を溶接して両者を一体化し、
次いで、前記溶接部に不動体皮膜処理を施すことを特徴とする角度部用ステンレス水路材製造方法。」
(2)「【0008】
本発明は、農業用水路や工業用水路、土木工事用仮設水路等のような比較的大きな断面を有する水路を対象とするもので、波付けステンレス材からなる複数のステンレス水路材を流路方向に連結して構成するステンレス水路における角度部用のステンレス水路材として、波形断面のすべての山同士、谷同士の波高さ位置がずれなく精度よく突き合わせ溶接されかつ所望の角度をなす角度部用ステンレス水路材を得ることができる角度部用ステンレス水路材の製造方法を提供することを目的とする。」
(3)「【発明の効果】
【0014】
本発明は、波付けステンレス材を湾曲させたステンレス水路材による角度部用水路材を製造する方法であり、そのような角度部用水路材を製造する場合、波形断面の素材であること、湾曲した水路材であること、斜め切断して下流側パーツと上流側パーツを得ること、斜めに切断された波付け材切断端面同士を突き合わせ溶接すること、そして素材がステンレスであることなどから、波形断面のすべての山同士、谷同士の波の高さがずれなく精度よく突き合わせ溶接されかつ所望の角度をなす角度部用ステンレス水路材を得ることは必ずしも容易ではないが、請求項1に記載の本発明の製造方法により精度よい角度部用ステンレス水路材を製造することができる。
【0015】
また、特許文献1のような厨房等の床面に設置する小さな排水溝を想定した単なるステンレス板を横断面U字状にしたものと異なり、波形断面の波付けステンレス材からなるステンレス水路材であるから、土圧に抵抗するために板厚を過大に厚くする必要がなく、ステンレスを用いても不経済とはならない。
また、水路角度部では、水と一緒に流下する砂で局部的摩耗が生じる恐れが高くなると言えるが、ステンレス材の耐磨耗性により局部的摩耗の発生を有効に防止できる。」
第6 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由についての判断
取消理由通知に記載した取消理由は、概略、請求項3の記載は特許法第36条第6項第1号の規定を満たしておらず、請求項3を引用する請求項4,6,8ないし10も同号の規定を満たさないというものである。
これに対し、取消理由の対象となった本件訂正前の請求項3、4については、上記第2のとおり、請求項3、4を削除する本件訂正が認められたので、請求項3、4についての取消理由は、その対象が存在しないものとなった。
また、同じく取消理由の対象となった本件訂正前の請求項6、8ないし10については、上記第2のとおり、本件訂正によって、訂正前の請求項3、また同項を引用する請求項4、5の記載を引用しない本件訂正発明6、8ないし10に減縮されたので、取消理由は解消した。
したがって、本件訂正発明6、8ないし10は、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものであるともいえないので、本件訂正発明6、8ないし10に係る特許は、同法第113条第4号に該当せず、取消理由及び特許異議申立理由により取り消すことはできない。
2 取消理由通知において採用しなかった申立理由についての判断
(1)理由1(新規性欠如)について
本件訂正前の請求項3、4に係る発明について、上記第2のとおり、請求項3、4を削除する本件訂正が認められたので、請求項3、4に係る発明に対する特許異議申立ては、その対象が存在しないものとなった。
以上より、以下、本件訂正発明6ないし10について検討する。
ア 対比・検討
甲1発明と、本件訂正発明6ないし10とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
[相違点1]
本件訂正発明6ないし10のいずれにおいても、水路部材の鋼材は、Tiを含有するフェライト系ステンレスのうち「SUS443J1」であるのに対し、甲1発明においてはそのような特定がされていない点。
よって、本件訂正発明6ないし10と、甲1発明との間には実質的な相違点が存在するから、本件訂正発明6ないし10は、甲1発明ではない。
イ 小括
以上のとおりであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明6ないし10は、甲第1号証に記載された発明ではない。
したがって、本件訂正発明6ないし10は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないので、本件訂正発明6ないし10に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、特許異議申立理由により取り消すことはできない。
(2)理由2(進歩性欠如)について
本件訂正前の請求項3ないし5に係る発明について、上記第2のとおり、請求項3ないし5を削除する本件訂正が認められたので、請求項3ないし5に係る発明に対する特許異議申立ては、その対象が存在しないものとなった。
以上より、以下、本件訂正発明1、2、6ないし10について検討する。
ア 対比・検討
理由2は「甲第5号証を主引例とする理由」(申立書8頁下から3行)として申し立てられていることを踏まえ、甲5発明と、本件訂正発明1、2、6ないし10とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
[相違点1’]
本件訂正発明1、2、6ないし10のいずれにおいても、水路部材の鋼材は、Tiを含有するフェライト系ステンレスのうち「SUS443J1」であるのに対し、甲5発明においてはそのような特定がされていない点。
甲5発明における、コルゲート金属板部材の「ステンレス」を、相違点1’に係る本件訂正発明1、2、6ないし10の構成のように「SUS443J1」とすることは、甲第5号証全体をみても記載も示唆もされていない。
また甲第1~4、6、7号証においても、波型鋼板製水路部材の波付け鋼材を「SUS443J1」とすることは、やはり記載も示唆もされていない。
よって、相違点1’に係る本件訂正発明1、2、6ないし10の構成は、甲5発明並びに甲第1~4、6、7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到することができたものではない。
イ 申立人の主張について
申立人は、申立書において、以下のように主張している。
「甲第5号証には、波型鋼板製水路部材に用いるステンレスの具体的な鋼種やTi含有量について明示されていない。
・・・甲第6号証には、本発明と同じ、溶接部の耐食性を向上させるために本件特許発明と同程度のTiを含有させることが記載されている。よって、当業者であれば、甲第5号証に記載の「波付け加工したコルゲート金属板を波付け方向と直交する方向に弧状ないしU字状に湾曲させた2つのコルゲート金属板部材」のステンレス板として、溶接部の耐食性を向上させる目的で、甲第6号証の「Ti:4×(C+N)~0.40 %」を含有し、「SUS443J1」と重複する化学組成を有するフェライト系ステンレス鋼板を採用することは容易になし得ることである。」(申立書10頁下から4行~11頁27行)
しかしながら、甲第6号証は、Tiを含有するフェライト系ステンレス鋼板に関する記載はあっても、「SUS443J1」についての記載あるいはSUS443J1の規格を満たすステンレス鋼板の組成についての記載を有するものではなく、このような甲第6号証から、相違点1’に係る本件訂正発明1、2、6ないし10の構成を当業者が容易に想到できるとはいえない。
以上より、申立人の主張は採用できない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1、2、6ないし10は、当業者が甲第5号証に記載された発明及び甲第1号証~甲第4号証、甲第6号証、甲第7号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件訂正発明1、2、6ないし10は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないので、本件訂正発明1、2、6ないし10に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、特許異議申立理由により取り消すことはできない。
(3)理由3(サポート要件違反)について
本件訂正前の請求項3ないし5について、上記第2のとおり、請求項3ないし5を削除する本件訂正が認められたので、請求項3、4に係る発明に対する特許異議申立ては、その対象が存在しないものとなった。
以上より、以下、本件訂正発明1、2、6ないし10について検討する。(なお、本件訂正前の請求項6、8ないし10に対してはサポート要件についての取消理由が通知されているが、ここではそれらも含めてまとめて検討することとする。)
ア 特許法第36条第6項第1号の考え方について
一般に「特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの」とされている。(平成17年(行ケ)10042号判決参照。)
以下、この観点に立って検討する。
イ 検討
申立人は、理由3について、概ね以下のとおり主張している。
「すなわち、合金の発明においては、化学組成中の元素の含有量等が少しでも異なれば,全体の特性が異なることが通常である。このため、通常の合金の審査においては、出願に係る発明の構成において合金組成を厳格に特定すること、より具体的には、含有しえるすべての元素の含有量および残部を規定することが求められている。本件特許の審査は、このような通常の合金の審査における一般的な判断手法から明らかに逸脱している。
ここで、前述のように、本件特許の図6に記載される本発明例のうち、本件特許発明の課題を解決できた例はNo.1~3のみであるが、いずれもTi以外の元素の具体的な含有量を明示したSUS443J1に属するステンレスである。本件特許の請求項1は、SUS443J1であることを明示しているものの、Ti以外の元素の含有量を特定していない。また、本件特許の請求項3は、Tiの含有量のみを規定しており、また、残部規定もないため、所定量のTiを含むステンレスは、Ti以外に如何なる量の如何なる元素を含む場合であっても、この発明の技術的範囲に属することになる。このように所定量のTiを含むステンレスとしては、JIS規格で規定されるステンレス鋼だけでも・・・など多数存在する。
ここで、本発明例No.4は、本件特許の請求項3に係る発明の技術的範囲に属するにもかかわらず、SUS443J1を用いたNo.1~3と比較して性能が劣化しており、また、請求項3に係る発明の構成を満足しない例である「SUS430」と同等である。すなわち、本発明例No.4は、耐食性が劣化しており、本件特許発明の課題を解決することができないことは明らかである。
よって、本件特許の請求項1および3は、Ti以外に、如何なる量の如何なる種類の元素を含有しえるのかを明示しておらず、出願時の技術常識に照らしても、その発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。この点、従属項である請求項2および4~10についても同様である。」(申立書15頁4行~16頁3行)
しかしながら、まず、本件訂正前の請求項3に係る主張に関しては、上記第2のとおり、本件訂正によって、本件訂正前の請求項6ないし10は、訂正前の請求項3、また同項を引用する請求項4、5の記載を引用しない本件訂正発明6ないし10に減縮された。
次に、請求項1に係る主張については、「SUS443J1」は、Ti以外の化学成分の範囲についても定める規格であるから、申立人の主張は採用できない。
そして、鋼材は「SUS443J1」であると特定される本件訂正発明1、2、6ないし10は、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)における、鋼材がSUS443J1である実施例1ないし3に関する記載を参照すれば、発明の詳細な説明(段落【0039】等)から把握される、耐食性の向上、ライフサイクルコストの低減という課題を解決できることを、当業者が認識できる範囲のものといえる。
ウ 小括
以上のとおりであるから、特許請求の範囲の請求項1、2、6ないし10の記載は特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないとの主張には理由がない。
したがって、本件訂正発明1、2、6ないし10に係る特許は、同法第113条第4号に該当せず、特許異議申立理由により取り消すことはできない。
(4)理由4(実施可能要件違反)について
本件訂正前の請求項3ないし5について、上記第2のとおり、請求項3ないし5を削除する本件訂正が認められたので、請求項3、4に係る発明に対する特許異議申立ては、その対象が存在しないものとなった。
以上より、以下、本件訂正発明6ないし10について検討する。
ア 特許法第36条第4項第1号の考え方について
一般に「方法の発明における発明の実施とは,その方法の使用をすることをいい(特許法2条3項2号),物の発明における発明の実施とは,その物を生産,使用等をすることをいうから(同項1号),方法の発明については,明細書にその方法を使用できるような記載が,物の発明については,その物を製造する方法についての具体的な記載が,それぞれ必要があるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその方法を使用し,又はその物を製造することができるのであれば,上記の実施可能要件を満たすということができる。」とされている〔平成22年(行ケ)10348号判決参照。〕。
以下、この観点に立って検討する。
イ 検討
申立人は、理由4について、概ね以下のとおり主張している。
「本件特許の請求項3は、特定の含有量のTiを含有するステンレスを用いた波型鋼板製水路部材に関する発明が記載されているが、その金属組織も鋼種も特定されていないし、また、Ti以外の元素の含有量も特定されていない。
・・・
よって、請求項3に係る発明のように、特定の含有量のTiを含有するというだけでは「ライフサイクルコストの低減および耐食性の向上が図れ、かつ、水路に用いた場合の板厚の低減が図れる波型鋼板製水路部材」(段落0007)との本件特許発明の課題を解決することは困難であり、当業者は実施をするために期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要がある。この点、SUS443J1以外の鋼種を包含する、請求項4、6~10に係る発明についても同様である。」(申立書16頁8行~17頁8行)
しかしながら、上記第2のとおり、本件訂正によって、本件訂正前の請求項6ないし10は、訂正前の請求項3、また同項を引用する請求項4、5の記載を引用しない本件訂正発明6ないし10に減縮されている。すなわち、「特定の含有量のTiを含有するというだけ」という請求人の主張はその根拠を失しており、本件訂正発明6ないし10の波型鋼板製水路部材を、当業者が製造できないとする理由はない。
よって、申立人の主張は採用できない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明6ないし10について、本件特許の発明の詳細な説明は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとの主張には理由がない。
したがって、本件訂正発明6ないし10に係る特許は、同法第113条第4号に該当せず、特許異議申立理由により取り消すことはできない。
(5)理由5(明確性要件違反)
本件訂正前の請求項3ないし5について、上記第2のとおり、請求項3ないし5を削除する本件訂正が認められたので、請求項3、4に係る発明に対する特許異議申立ては、その対象が存在しないものとなった。
以上より、以下、本件訂正発明6ないし10について検討する。
ア 特許法第36条第6項第2号の考え方について
一般に「特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきことはいうまでもない」とされている。(平成21年(行ケ)第10434号判決参照。)
以下、この観点に従って検討する。
イ 検討
申立人は、理由5について、概ね以下のとおり主張している。
(a)「本件特許の請求項3は、・・・発明特定事項のみでは本件特許発明の課題を解決できないから、当業者といえども、上記の発明特定事項の技術的意味を当業者が理解することはできない。この点、従属項である請求項4、6~10についても同様である。
前述のように、本件特許の請求項3は、Tiの含有量のみを規定しており、また、残部規定もないため、・・・以外に如何なる量の如何なる元素を含む場合であってもこの発明の技術的範囲に属することになり、発明特定事項が不足していることが明らかである。の点、従属項である請求項4、6~10についても同様である。」(申立書17頁13~最下行)
(b)「本件特許の請求項6は、「Tiの含有量は、C:0.01(mass%)以上である」を発明特定事項としているところ、その技術的意味を当業者が理解することはできない。(申立書18頁1~3行)
しかしながら、まず上記(a)の、本件訂正前の請求項3に係る主張については、上記第2のとおり、本件訂正によって、本件訂正前の請求項6ないし10は、訂正前の請求項3、また同項を引用する請求項4、5の記載を引用しない本件訂正発明6ないし10に減縮されており、すなわち、「Tiの含有量のみを規定」するものではない。
そして、上記(b)の、本件訂正前の請求項6に係る主張については、「Tiの含有量は、C:0.01(mass%)以上である」という文言自体は、引用する請求項2の記載を考慮すれば明確であり、本件訂正後の請求項6全体としても、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるような点はない。
以上より、申立人の主張は採用できない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、特許請求の範囲の請求項6ないし10の記載は特許法第36条第6項第2号の要件を満たさないとの主張には理由がない。
したがって、本件訂正発明6ないし10に係る特許は、同法第113条第4号に該当せず、特許異議申立理由により取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおり、本件訂正発明1及び2、6ないし10に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件訂正発明1及び2、6ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項3ないし5に対する本件特許異議の申立ては、申立ての対象となる請求項が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700021