特許訂正審判
2023-390075
微細粉粒体のもれ防止用シール材
- 審判番号
- 2023-390075
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 訂正審判(訂正の審決)
- 出願番号
- 特願2005-071666
- 登録番号
- 4818622
- 請求日
- 2023年06月01日
- 審決日
- 2023年11月15日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【請求人】三和テクノ 株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
- 【請求人代理人】森本 純
- 【請求人】庄司 進
- 【請求人代理人】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
- 【請求人代理人】森本 純
- 審判長/審判官
- 審判長 関根 裕
- 審判官 安積 高靖
- 審判官 亀ヶ谷 明久
- 分類
- P141 .537-Y (C09K) / P141 .536-Y (C09K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第126条第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第126条、特許法第126条第7項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第4818622号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第4818622号の明細書、特許請求の範囲、及び図面を、本件審判請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲、及び訂正図面のとおり訂正することを認める。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第4818622号は、平成17年3月14日に出願された特願2005-71666号の請求項1~7に係る発明について、平成23年9月9日に特許権の設定登録がされたものであり、その後、令和5年6月1日に本件訂正審判の請求がされたものである。
第2 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、「特許第4818622号の明細書、特許請求の範囲、及び図面を、本件訂正審判請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲、及び訂正図面のとおり訂正することを認める、との審決を求める。」というものである。
第3 訂正の内容
本件訂正審判の請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1~6のとおりである。
なお、訂正事項1~6の下線は、本件訂正審判請求書に記載のとおりであり、訂正箇所を示す。
1 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「使用状態では、回転体の回転方向に対し、該配列の方向が該予め定める角度θよりも大きな角度φをなすように、該配列の方向を該接線方向に対して傾斜させることを特徴とする画像形成装置における微細粉粒体のもれ防止用シール材。」の記載を、
「使用状態では、回転体の回転方向に対し、該配列の方向が該予め定める角度θよりも大きな角度φをなすように、該配列の方向を該回転方向に対して傾斜させることを特徴とする画像形成装置における微細粉粒体のもれ防止用シール材。」に訂正する。
2 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2の
「前記パイルは、該配列方向から前記予め定める角度θだけ前記接線方向側に傾斜していることを特徴とする請求項1記載の微細粉粒体のもれ防止用シール材。」の記載を、
「前記パイルは、該配列方向から前記予め定める角度θだけ前記回転方向側に傾斜していることを特徴とする請求項1記載の微細粉粒体のもれ防止用シール材。」に訂正する。
3 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4の
「前記パイル糸は、単繊維の集合または複数種類の単繊維で構成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の微細粉粒体のもれ防止用シール材。」の記載を、
「前記パイル糸は、単繊維の集合または複数種類の単繊維で構成され、
前記パイルは、前記微細粉粒体が前記もれ防止用シール材を越えて移動しようとしても、前記回転体の前記軸線方向の逆方向に案内されてるように傾いていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の微細粉粒体のもれ防止用シール材。」に訂正する。
4 訂正事項4
明細書の段落【0032】の
「微粉粒体もれ防止用シール材1の使用状態では、回転体である現像ローラ6の回転方向6bである回転の接線方向に対し、配列の方向4aが予め定める角度θよりも大きな角度φをなすように、配列の方向4aを回転方向6bに対して傾斜させる。」の記載を、
「微粉粒体もれ防止用シール材1の使用状態では、回転体である現像ローラ6の回転方向6bである回転の接線方向に対し、配列の方向2aが予め定める角度θよりも大きな角度φをなすように、配列の方向2aを回転方向6bに対して傾斜させる。」に訂正する。
5 訂正事項5
明細書の段落【0039】の
「回転体用シール材1では、織目の方向であるパイル糸の配列の方向4aを実線で示すようにたとえば45°である角度φだけ回転方向である回転方向6bに対して傾斜させ、開口部10aから破線で示すようにトナーが現像ユニットの容器外側へ行こうとするのを堰き止めるようにしている。」の記載を、
「回転体用シール材1では、織目の方向であるパイル糸の配列の方向2aを実線で示すようにたとえば45°である角度φだけ回転方向である回転方向6bに対して傾斜させ、開口部10aから破線で示すようにトナーが現像ユニットの容器外側へ行こうとするのを堰き止めるようにしている。」に訂正する。
6 訂正事項6
図3の「4a」の記載を、「2a」に訂正する。
第4 当審の判断
1 訂正事項1について
(1)訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「該接線方向」の記載の前に「該」に対応すべき「接線方向」という記載がなく、「該接線方向」の示す方向が明瞭ではなかったものを、「該接線方向」を「該回転方向」と訂正することにより、「該」が、当該記載の前の「回転体の回転方向」を意味することを明確にするものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて
明細書の【0032】には、「微粉粒体もれ防止用シール材1の使用状態では、回転体である現像ローラ6の回転方向6bである回転の接線方向に対し、配列の方向4aが予め定める角度θよりも大きな角度φをなすように、配列の方向4aを回転方向6bに対して傾斜させる。」と記載されており、回転体の「回転方向」と「接線方向」が同義で使用されているものといえるから、訂正事項1は、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項に適合するものである。
(3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかについて
訂正事項1は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、「接線方向」の記載を同義である「回転方向」に訂正するものであり、当該訂正により実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第126条第6項に適合するものである。
2 訂正事項2について
(1)訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項2に記載の「前記接線方向」の記載を「前記回転方向」と訂正するものであり、「前記接線方向」の示す方向が明瞭ではなかったものを、「前記接線方向」を「前記回転方向」と訂正することにより、「前記」が、当該記載の前の「回転体の回転方向」を意味することを明確にするものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて
前記1(2)で検討したとおり、明細書の【0032】の記載から、回転体の「回転方向」と「接線方向」が同義で使用されているものといえるから、訂正事項2は、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項に適合するものである。
(3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかについて
訂正事項2は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、「接線方向」の記載を同義である「回転方向」に訂正するものであり、当該訂正により実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第126条第6項に適合するものである。
3 訂正事項3について
(1)訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項4に、「前記パイルは、前記微細粉粒体が前記もれ防止用シール材を越えて移動しようとしても、前記回転体の前記軸線方向の逆方向に案内されるように傾いていること」を追加し、パイルの傾きを限定するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて
明細書の【0036】には、「回転の軸線7a方向は回転方向6bに垂直であるので、パイル3の傾きによって、微細粉粒体であるトナー8が回転の軸線7a方向に、微細粉粒体もれ防止用シール材1を越えて移動しようとしても、パイル3の傾斜で軸線5a方向の逆方向に案内され、もれを防ぐことができる。」と記載されており、トナー等の微細粉粒体がもれ防止用シール材を越えて移動しようとしても、軸線方向の逆方向に案内されるように、パイルが傾いていることが記載されているといえるから、訂正事項3は、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項に適合するものである。
(3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかについて
訂正事項3は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、パイルの傾きを限定して特許請求の範囲を減縮するものであり、当該訂正により実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第126条第6項に適合するものである。
なお、訂正後の請求項4に係る発明に関する独立特許要件については、以下の「7 独立特許要件について」において検討する。
4 訂正事項4について
(1)訂正の目的
訂正事項4は、明細書の【0032】の「配列の方向4a」の記載を「配列の方向2a」へと訂正するものであるが、明細書の【0032】の他の箇所や、【0034】~【0036】、【0046】、【0047】、【0055】には、「配列の方向2a」、「配列方向2a」と記載されており、一方で、「4a」については、「配列の方向2aから予め定める角度θだけ開く方向4a」(【0032】、【0034】)、「角度θで配列方向2aから傾斜した方向4a」(【0046】)、「配列方向2aに対して角度θだけ開く方向4a」(【0047】)などと、配列の方向2aを基準として角度θだけ開いた方向であることが記載されているから、【0032】の「配列の方向4a」の記載が、「配列の方向2a」の誤記であることは明らかである。
したがって、訂正事項4は、特許法126条1項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものである。
(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて
前記(1)のとおり、明細書の複数の箇所で、「配列の方向2a」、「配列方向2a」と記載され、「4a」については、配列の方向2aを基準として角度θだけ開いた方向であることが記載されており、訂正事項4は、明らかな誤記を訂正するものであるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項に適合するものである。
(3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかについて
前記(1)のとおり、訂正事項4は、明細書の【0032】における明らかな誤記を訂正するものであり、当該訂正により実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に適合するものである。
5 訂正事項5について
(1)訂正の目的
訂正事項5は、明細書の【0039】の「配列の方向4a」の記載を「配列の方向2a」へと訂正するものであるが、前記4(1)で検討したとおり、【0039】の「配列の方向4a」の記載が、「配列の方向2a」の誤記であることは明らかである。
したがって、訂正事項5は、特許法126条1項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものである。
(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて
前記(1)のとおり、明細書の複数の箇所で、「配列の方向2a」、「配列方向2a」と記載され、「4a」については、配列の方向2aを基準として角度θだけ開いた方向であることが記載されており、訂正事項5は、明らかな誤記を訂正するものであるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項に適合するものである。
(3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかについて
前記(1)のとおり、訂正事項5は、明細書の【0039】における明らかな誤記を訂正するものであり、当該訂正により実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に適合するものである。
6 訂正事項6について
(1)訂正の目的
訂正事項6は、図3における「4a」の記載を「2a」へと訂正するものであるが、前記5のとおり、図3を説明する【0039】に記載の「配列の方向4a」は、「配列の方向2a」の誤記であるから、図3における「4a」の記載は、「2a」の誤記であることは明らかである。
したがって、訂正事項6は、特許法126条1項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものである。
(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて
前記(1)のとおり、訂正事項6は、明らかな誤記を訂正するものであるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項に適合するものである。
(3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかについて
前記(1)のとおり、訂正事項6は、図面における明らかな誤記を訂正するものであり、当該訂正により実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に適合するものである。
7 独立特許要件について
前記3(1)で検討したとおり、訂正後の請求項4に係る発明についての訂正事項3は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから、訂正後の請求項4及び同項を引用する請求項7に係る発明は、特許法第126条第7項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができることを要する。
そして、本件特許に関し、大阪地方裁判所において特許権侵害損害賠償請求事件(令和4年(ワ)第9112号、令和4年(ワ)第11173号)(以下「別件侵害訴訟」という。)が係属中であり、別件侵害訴訟における、令和5年4月7日付けの第2準備書面(特許無効の抗弁)、同年6月2日付けの原告第3準備書面(被告ら提出の第1準備書面及び第2準備書面に対する反論(無効論))、原告第4準備書面(訂正の再抗弁)、同年7月12日付けの原告第5準備書面(求釈明に対する回答)、及び同年8月31日付けの被告ら第4準備書面(原告の訂正の再抗弁及び無効論に対する反論等)によれば、別件侵害訴訟においては、本件特許の請求項1に係る発明について、特許無効の理由1~6により特許無効の抗弁がされている。また本件特許の請求項4は、請求項1の従属項であり、同様の理由1~6により特許無効の抗弁がされている。さらに、前記原告第4準備書面によれば、本件訂正後の請求項4に係る発明について、独立特許要件を満たさない理由が主張がされている。
そこで、別件侵害訴訟における無効の抗弁の特許無効の理由1~6(以下「理由1~6」ともいう。)及び本件訂正後の請求項4に係る発明が独立特許要件を満たさないとする理由(以下「理由7」ともいう。)によって、本件訂正後の請求項4及び同項を引用する請求項7に係る発明が独立特許要件を満たさないこととなるか否かを、以下に判断する。
(1)理由1(経糸、緯糸、パイル糸の「径」について(明確性要件違反、実施可能要件違反))
ア 理由1の概要
(ア)明確性要件違反
請求項1には、「地糸の経糸または緯糸の径がパイル糸の径よりも細くされており」という記載があるが、次のa~cの点から、請求項1の糸の「径」という記載は明確でない。
a 明細書には、糸の「径」の定義や説明、測定方法が記載されていない。
b 糸は細い繊維の集合体であり、断面形状が不規則且つ湿度や軽い押圧で変化するため、糸の「径」を一義的に確定することは困難である。
c 当業者は糸の長さと重量を用いて糸の太さを表し、「径」を用いていない。
したがって、請求項1を引用する請求項4に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきものである。
(イ)実施可能要件違反
明細書には、糸の「径」の測定方法等の記載がないから、当業者がどのように「径」を測定ないし算出すればよいのか不明であり、また糸の「径」を測定する方法が技術常識でもないから、当業者が糸の「径」を測定できるとはいえない。
したがって、明細書の詳細な説明の記載は、請求項1を引用する請求項4に係る発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきものである。
イ 理由1により独立特許要件を満たさないか否か
(ア)明確性要件違反
請求項1は、「地糸の経糸または緯糸の径がパイル糸の径よりも細く」されるものであって、糸の「径」の相対的な大小を特定するものであり、糸の「径」の絶対値を特定するものではないから、糸の「径」の絶対値を一義的に確定することが困難であるとしても、当業者であれば、同じ条件・方法で「径」を比較すれば、糸の「径」の相対的な大小は特定可能といえるので、前記請求項1の記載が明確でないとはいえない。
したがって、請求項1を引用する請求項4、及び請求項4を引用する請求項7についても、この点で明確でないとはいえない。
(イ)実施可能要件違反
糸の「径」の絶対値を一義的に確定することが困難であるとしても、同じ条件・方法で「径」を比較すれば、複数の糸の「径」の相対的な大小は特定可能といえるので、当業者が「地糸の経糸または緯糸の径がパイル糸の径よりも細く」なるようにすることは可能であるといえる。
したがって、明細書の詳細な説明の記載は、この点で請求項1を引用する請求項4、及び請求項4を引用する請求項7に係る発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。
(2)理由2(「予め定める角度θ」について(明確性要件違反、サポート要件違反))
ア 理由2の概要
(ア)明確性要件違反
請求項1には、パイル糸について、「該配列の方向から予め定める角度θだけ開く方向に傾斜する斜毛状態で」との記載があるところ、請求項1では「角度θ」について特段の特定はされていないため、角度θは任意の角度を意味すると解される一方、明細書の【0046】の記載からは、角度θが「0度以上45度未満」を意味するとも解されるから、請求項1の記載と【0046】の記載が整合しないことになり、請求項1における「角度θ」の意義が不明確である。
したがって、請求項1を引用する請求項4に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきものである。
(イ)サポート要件違反
請求項1は、角度θを特定しないものであるが、例えば角度θが1度から10度程度といった、パイル糸が配列方向とほとんど変わらない方向に斜毛しているにすぎない角度である場合、本件特許発明の「微細粉粒体に対するシールを確実に行い、しかも当接負荷を軽減する」という課題を解決できると認識できない。
したがって、請求項1を引用する請求項4に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきものである。
イ 理由2により独立特許要件を満たさないか否か
(ア)明確性要件違反
明細書の【0046】の記載は、具体的な実施形態の一つの説明として角度θを説明するものであり、当該記載をもって角度θが定義されるわけではないから、請求項1における角度θは角度が限定されていないものであることが明らかである。
したがって、請求項1を引用する請求項4、及び請求項4を引用する請求項7についても、この点で明確でないとはいえない。
(イ)サポート要件違反
本件特許発明の課題は、明細書の【0007】からみて、「微細粉粒体に対するシールを確実に行い、しかも当接負荷を軽減することができる、画像形成装置における微細粉粒体もれ防止用シール材を提供すること」であると認める。
請求項1には、パイル糸について、「該配列の方向から予め定める角度θだけ開く方向に傾斜する斜毛状態で」と記載されており、当該記載によれば、角度θによる程度の差はあるものの、パイル糸は隣の配列のパイル糸に近づくこととなり、隙間を防止してシール性を向上させることができるとともに、パイルが重なり合う部分で高密度のシールを行うことができるため、パイル糸の立毛密度を低くすることができるので、「微細粉粒体に対するシールを確実に行い、しかも当接負荷を軽減する」という課題を解決できるものと認められる。
したがって、請求項1を引用する請求項4、及び請求項4を引用する請求項7に係る発明は、この点で発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないとはいえない。
(3)理由3(「パイル間のピッチが狭められるように毛羽立たされ」について(明確性要件違反、実施可能要件違反)
ア 理由3の概要
(ア)明確性要件違反
請求項1には、パイルについて、「パイル間のピッチが狭められるように毛羽立たされ」との記載があるが、パイルのピッチは固定されており、パイルを毛羽立たせてもピッチが狭められることはないため、前記請求項1の記載がどのような状態を意味しているのか不明確である。また、前記請求項1の記載がピッチが「狭められた」ものではなく、あくまで「パイル間の間隔が狭まったような状態」を意味するのであれば、「パイル間のピッチが狭められるように毛羽立たされ」の「ように」の具体的に意味するところが不明である。
したがって、請求項1を引用する請求項4に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきものである。
(イ)実施可能要件違反
パイルのピッチは固定されており、パイルを毛羽立たせてもピッチが狭められることはないため、当業者が「パイル間のピッチが狭められるように毛羽立た」せることが実施できるとはいえない。
したがって、明細書の詳細な説明の記載は、請求項1を引用する請求項4に係る発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきものである。
イ 理由3により独立特許要件を満たさないか否か
(ア)明確性要件違反
請求項1の「パイル間のピッチが狭められるように毛羽立たされ」との記載は、パイル間のピッチが狭められる「ように」毛羽立たせていることを特定するものであり、実際にパイル間のピッチを狭めることを特定するものではなく、パイルが毛先方向に向かって広がり、パイル間の間隔が狭められる「ように」毛羽だった状態を意味することは明確であるから、「ように」は具体的には毛先間隔が狭められる状態の例示を意味するものであることが明確である。
したがって、請求項1を引用する請求項4、及び請求項4を引用する請求項7についても、この点で明確でないとはいえない。
(イ)実施可能要件違反
請求項1の「パイル間のピッチが狭められるように毛羽立たされ」との記載は、前記(ア)で示したとおりの意味であるところ、実際にパイル間のピッチを狭めるわけではなく、パイルが毛先方向に向かって広がり、パイル間の間隔が狭められるように毛羽だった状態とすることは、当業者であれば実施し得ることである。
したがって、明細書の詳細な説明の記載は、この点で請求項1を引用する請求項4、及び請求項4を引用する請求項7に係る発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。
(4)理由4(「該接線方向」について(明確性要件違反、実施可能要件違反))
ア 理由4の概要
(ア)明確性要件違反
請求項1には、「該接線方向」との記載があるが、当該記載の前に「該」に対応すべき「接線方向」の記載は無く、明細書の記載及び技術常識を考慮しても「該接線方向」の用語は不明確である。
したがって、請求項1を引用する請求項4に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきものである。
(イ)実施可能要件違反
「該接線方向」について、明細書には何ら説明がないため、当業者はパイル糸の配列の方向を「該接線方向に対して傾斜させる」方法を明確かつ十分に把握することができない。
したがって、明細書の詳細な説明の記載は、請求項1を引用する請求項4に係る発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきものである。
イ 理由4により独立特許要件を満たさないか否か
本件訂正後の請求項1を引用する請求項4に係る発明は、「該接線方向」との記載はないため、理由4の主張は成立せず、請求項4を引用する請求項7についても同様である。
(5)理由5(「回転体の回転方向に対し、該配列の方向が該予め定める角度θよりも大きな角度φをなすように、該配列の方向を該接線方向に対して傾斜させる」について(サポート要件違反))
ア 理由5の概要
請求項1には、微細粉粒体が回転の軸線方向の逆方向に案内されることができない態様が含まれているから、「微細粉粒体に対するシールを確実に行い、しかも当接負荷を軽減する」という課題を解決できない。
したがって、請求項1を引用する請求項4に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきものである。
イ 理由5により独立特許要件を満たさないか否か
本件訂正後の請求項4に係る発明は、パイルが、「前記微細粉粒体が前記もれ防止用シール材を越えて移動しようとしても、前記回転体の前記軸線方向の逆方向に案内されるように傾いている」ものであるから、「微細粉粒体に対するシールを確実に行い、しかも当接負荷を軽減する」という課題を解決できるものである。
したがって、請求項1を引用する請求項4、及び請求項4を引用する請求項7に係る発明は、この点で発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないとはいえない。
(6)理由6(「使用状態」について(明確性要件違反、実施可能要件違反))
ア 理由6の概要
(ア)明確性要件違反
請求項1には、「使用状態」の記載があるが、「使用状態」という用語自体が明確でなく、また明細書の記載からも、「使用状態」が、シール材が画像形成装置に設置されて現像ローラが回転している状態を指すのか、単に設置されたのみの状態であるのか、あるいはその全てを含むのか、不明確である。
したがって、請求項1を引用する請求項4に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきものである。
(イ)実施可能要件違反
前記(ア)のとおり、「使用状態」の意味が不明である以上、「使用状態」を前提とした画像形成装置における微細粉粒体のもれ防止用シール材の構成を明確かつ十分に把握することができない。また、「使用状態」が「微細粉粒体もれ防止用シール材がトナーカートリッジに設置されて現像ローラもしくは感光ドラムが回転している状態」を意味するのであれば、角度θや角度φは、パイルの摺接状態や回転体の摩擦係数、回転速度等によって当然変化するため、いかなる条件で角度θを測定すれば良いか不明であり、実施可能要件に違反する。
したがって、明細書の詳細な説明の記載は、請求項1を引用する請求項4に係る発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきものである。
イ 理由6により独立特許要件を満たさないか否か
(ア)明確性要件違反
本件訂正後の請求項4に係る発明は、画像形成装置における微細粉粒体のもれ防止用シール材の発明であり、現像ローラや感光ドラムが回転し、現像ブレードやクリーニングブレードにより掻き落とされたトナーが軸線方向に漏れることを防止するものであるから、「使用状態」とは、シール材が画像形成装置に設置され、現像ローラや感光ドラムが回転している状態を指すと自然に解釈できる。よって、「使用状態」という用語の意味は明確である。
したがって、請求項1を引用する請求項4、及び請求項4を引用する請求項7についても、この点で明確でないとはいえない。
(イ)実施可能要件違反
前記(ア)のとおり、「使用状態」は明確であり、当業者は「使用状態」を前提とした画像形成装置における微細粉粒体のもれ防止用シール材の構成を明確かつ十分に把握することができる。また、「使用状態」のパイルの摺接状態等の条件を定義する必要はなく、条件によらずその「使用状態」で角度θよりも大きな角度φをなすようにすればよいことを明確且つ十分に把握することができる。
したがって、明細書の詳細な説明の記載は、この点で請求項1を引用する請求項4、及び請求項4を引用する請求項7に係る発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。
(7)理由7(本件訂正後の請求項4に係る発明が独立特許要件を満たさないとする理由について(明確性要件違反、実施可能要件違反、サポート要件違反))
ア 理由の概要
(ア)明確性要件違反
請求項4の訂正部分のうち、「・・・軸線方向の逆方向に案内されるように傾」くが、どのような作用を指しているのか、またその効果を得られる具体的な角度θ及び角度θと角度φとの関係が明確でない。
したがって、本件訂正後の請求項4に係る発明は、明確性要件を満たしていないため、独立特許要件を満たさず、特許法第126条第7項に違反する。
(イ)実施可能要件違反
角度θと角度φとの関係次第で、パイルとパイルの間の隙間を通じて微細粉粒体が軸線方向にそのまま流れ出ることはあり得るが、本件特許明細書を見ても、「微細粉粒体が・・・回転体の前記軸線方向の逆方向に案内さ」れる方法を明確かつ十分に把握することはできない。
したがって、明細書の詳細な説明の記載は、本件訂正後の請求項4に係る発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえないため、独立特許要件を満たさず、特許法第126条第7項に違反する。
(ウ)サポート要件違反
角度θと角度φとの関係次第で、パイルとパイルの間の隙間を通じて微細粉粒体が軸線方向にそのまま流れ出ることはあり得るため、本件訂正後の請求項4に係る発明は、本件発明の課題を解決できない形状の物を含むことになる。
したがって、本件訂正後の請求項4に係る発明は、サポート要件を満たしていないため、独立特許要件を満たさず、特許法第126条第7項に違反する。
イ 本件訂正後の請求項4に係る発明に対する独立特許要件を満たさないとする理由により独立特許要件を満たさないか否か
(ア)明確性要件違反
本件訂正後の請求項4の「前記パイルは、前記微細粉粒体が前記もれ防止用シール材を越えて移動しようとしても、前記回転体の前記軸線方向の逆方向に案内されてるように傾いている」という記載は、パイルが傾いていることにより、微細粉粒体が回転体の軸線方向の逆方向に案内されるように作用することを特定しようとするものであり、何ら不明確な点はない。また、そのような作用が得られる角度θ及び角度θと角度φとの関係については、明細書の【0036】に、「回転体である現像ローラ6の回転方向6bに対し、パイル3の配列方向2aが予め定める角度θよりも大きな角度φをなすように、」と角度θと角度φとの関係が記載され、「傾斜するパイル3の方向4aは、現像ローラ6の回転の回転方向6bよりも、パイル3の配列方向2a側に傾く。」、「回転の軸線7a方向は回転方向6bに垂直であるので、パイル3の傾きによって、微細粉粒体であるトナー8が回転の軸線7a方向に、微細粉粒体もれ防止用シール材1を越えて移動しようとしても、パイル3の傾斜で軸線5a方向の逆方向に案内され、もれを防ぐことができる。」と記載されており、角度θは、傾斜するパイルの方向が、回転体の回転方向よりも、パイルの配列方向側に傾くものであることが記載されている。
したがって、請求項4及び請求項4を引用する請求項7についても、この点で明確でないとはいえない。
(イ)実施可能要件違反
前記(ア)のとおり、【0036】には、パイルが、回転体の回転方向よりも、パイルの配列方向側に傾くようにすることで、微細粉粒体が回転体の軸線方向の逆方向に案内されることについて説明がされている。
したがって、明細書の詳細な説明の記載は、この点で請求項4、及び請求項4を引用する請求項7に係る発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。
(ウ)サポート要件違反
本件訂正後の請求項4に係る発明は、「パイル」が、「前記微細粉粒体が前記もれ防止用シール材を越えて移動しようとしても、前記回転体の前記軸線方向の逆方向に案内されるように傾いている」ものであるから、パイルとパイルの間の隙間を通じて微細粉粒体が軸線方向にそのまま流れ出るような角度θと角度φとの関係を取る態様は、本件訂正後の請求項4に係る発明から排除されており、「微細粉粒体に対するシールを確実に行い、しかも当接負荷を軽減する」という課題を解決できるものである。
したがって、請求項4、及び請求項4を引用する請求項7に係る発明は、この点で発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないとはいえない。
(8)小括
以上のとおり、本件訂正後の請求項4及び同項を引用する請求項7に係る発明は、前記理由1~7によって、特許出願の際独立して特許を受けることができないものではない。
また、本件訂正後の請求項4及び同項を引用する請求項7に係る発明について、他に特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。
したがって、請求項4及び同項を引用する請求項7に係る発明について、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を行う、訂正事項3に係る訂正は、特許法126条7項の規定に適合する。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-390075