特許拒絶査定不服審判
2023-022102
ストロークシミュレータ
- 審判番号
- 2023-022102
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-013202外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年12月26日
- 審決日
- 2024年05月27日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】株式会社アドヴィックス
- 【請求人代理人】弁理士法人 共立特許事務所
- 分類
- P18 .121-WY (B60T)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020- 13202「ストロークシミュレータ」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 8月12日出願公開、特開2021-119066、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年1月30日の出願であって、令和5年6月26日付けで拒絶理由通知がされ、令和5年9月1日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、令和5年9月15日付けで拒絶査定(「以下、原査定」という。)がされ、これに対し、令和5年12月26日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。
第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願請求項1及び2に係る発明は、以下の引用文献1及び3に基いて、また、請求項3及び4に係る発明は、以下の引用文献1~3に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献一覧>
引用文献1:特開2017-39409号公報
引用文献2:特開2011-25726号公報
引用文献3:特開2006-256408号公報
第3 本願発明
本願請求項1~5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」~「本願発明5」という。)は、令和5年9月1日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】
シリンダと、
ブレーキペダルの操作に応じて前記シリンダ内を移動するピストンと、
前記シリンダ内に配置され、前記ピストンの一方側への移動により圧縮されて前記ピストンに反力を付与する反力ゴムと、
前記反力ゴムの外周面を囲むように前記シリンダ内に配置され、前記反力ゴムが圧縮されるほど前記反力ゴムの前記一方側への移動に対する摺動抵抗を増大させるプラグと、
前記ピストンの前記一方側への移動により圧縮されて前記ピストンに反力を付与する弾性部材と、
前記ピストンと前記プラグとの間に前記弾性部材を介して配置されたストッパと、
を備え、
前記ストッパは、前記シリンダの内周面に当接しないように前記シリンダ内に配置され、
前記ストッパの前記一方側の端面には、凹部が形成され、
前記反力ゴムは、前記凹部に嵌合される凸部を有するストロークシミュレータ。
【請求項2】
前記反力ゴムの圧縮により反力が発生する前記ピストンの移動距離は、前記反力ゴム以外の弾性部材の圧縮により反力が発生する前記ピストンの移動距離以上である請求項1に記載のストロークシミュレータ。
【請求項3】
前記反力ゴム及び前記プラグの少なくとも一方には、前記シリンダ内において前記反力ゴムの前記一方側に形成された第1室と前記反力ゴムの他方側に形成された第2室とを連通させる連通溝が形成されている請求項1又は2に記載のストロークシミュレータ。
【請求項4】
前記ピストンがボトミングした状態における前記反力ゴムの体積は、前記プラグの容積以下である請求項1~3の何れか一項に記載のストロークシミュレータ。
【請求項5】
前記凹部は、前記ストッパの中心軸の周囲に複数形成され、
前記凸部は、前記反力ゴムの中心軸の周囲に複数形成されている請求項1~4の何れか一項に記載のストロークシミュレータ。」
第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付したもの。以下、同様。)。
「【0001】
本発明は、ストロークシミュレータに関する。」
「【0009】
図2は、実施例1のストロークシミュレータSSの断面図である。
ストロークシミュレータSSは、シリンダ2およびピストン3を備える。なお、図2は、ピストン3が初期位置にあり、ストロークシミュレータSSにブレーキ液が貯留されていない状態を示している。ここで、図2において、シリンダ2の軸方向(ピストン3のストローク方向)にx軸を設定し、ピストン3が初期位置からストロークする方向をx軸正方向とする。
シリンダ2は、第1シリンダ4および第2シリンダ5を有する。第1シリンダ4は、内部に小内径部6および大内径部7を有する円筒状に形成されている。小内径部6および大内径部7は同軸状に直列に配置され、大内径部7は小内径部6のx軸正方向側に設けられている。小内径部6のx軸負方向側端とピストン3のx軸負方向側端との間の空間は第1室13aとされ、油路26と接続されている。油路26は、ストロークシミュレータSSVと接続されている。第1室13aには、ストロークシミュレータバルブSSVが開弁状態のとき、マスタシリンダM/Cから流出したブレーキ液が油路26を介して流入する。第2シリンダ5は、内部に内径部8を有する円筒状に形成されている。第2シリンダ5のx軸正方向側は底部9で閉塞され、x軸負方向側は開口している。内径部8は大内径部7と同軸状に配置され、かつ、大内径部7と同一径に設定されている。第2シリンダ5のx軸負方向側端は、第1シリンダ4のx軸正方向側端にネジにより固定されている。第2シリンダ5の外周と第1シリンダ4の内周との間には、Oリング10が介装されている。第2シリンダ5の底部9には、先端部11aがx軸負方向側へ立ち上がる環状のナット部11が設けられている。ナット部11は内径部8と同軸状に配置されている。ナット部11の内部には、ゴム弾性体としての第2ゴムダンパ(第2ゴム弾性体)12が圧入されている。第2ゴムダンパ12のx軸負方向側端は、ナット部11の先端部11aよりもx軸負方向側に位置する。
【0010】
ピストン3は、シリンダ2内を第1室13aと第2室13bとに区画し、第1室13aに運転者のブレーキ操作に応じたブレーキ液が流入することでx軸正方向にストロークする。ピストン3は、第1シリンダ4の小内径部6よりも僅かに小さな外径を有する円筒状に形成されている。ピストン3の途中にはシール部材25が取り付けられ、このシール部材25により、第1室13aに流入するブレーキ液が小内径部6の内周面とピストン3の外周面との間で密閉されている。第2室13bの内部には、非圧縮性の流体(例えば、ブレーキ液)が充填されている。ピストン3のx軸正方向側端には、小径部3aが形成されている。小径部3aは、第1シート部材14に挿入されている。第1シート部材14は、両端が開口した円筒状に形成されている。第1シート部材14のx軸負方向側端には、外フランジ状の第1シート14aが設けられている。第1シート14aの外径は、小内径部6の内径よりも大きく設定されている。第1シート部材14のx軸正方向側端には、縮径部14bが設けられている。
第1シート部材14の内部には、ゴム弾性体としての第1ゴムダンパ(第1ゴム弾性体)15と、第3シート部材16の一部とが収容されている。第1ゴムダンパ15は、ピストン3のx軸正方向側端と第3シート部材16のx軸負方向側端とのx軸方向間に圧縮した状態で介装されている。第1ゴムダンパ15のばね定数は第2ゴムダンパ12よりも小さい。第3シート部材16のx軸正方向側端には、円盤状の第3シート16aが設けられている。第3シート16aは、ナット部11の先端部11aよりも大径に形成されている。第2ゴムダンパ12は、底部9と第3シート16aとのx軸方向間に挿入状態で介装されている。第3シート部材16のx軸負方向側端には、フランジ部16bが設けられている。フランジ部16bは、第1シート部材14の内径よりも僅かに小さく、かつ、縮径部14bの内径よりも大きく形成されている。第3シート部材16は、第1シート部材14に対してx軸方向に相対移動可能であり、x軸正方向への相対移動は、フランジ部16bが縮径部14bと係合することで規制される。
【0011】
第1シート部材14の外周側には、第2シート部材17が配置されている。第2シート部材17は両端が開口した円筒状に形成されている。第2シート部材17の内径は、第1シート部材14の外径よりも大きく、かつ、第1シート14aの外径よりも小さく設定されている。第2シート部材17のx軸負方向側端には、外フランジ状の第2シート17aが設けられている。第2シート部材17のx軸正方向側端には、内フランジ部17bが設けられている。第1シート部材14の第1シート14aと第2シート部材17の内フランジ部17bとのx軸方向間には、スプリングとしての第1コイルスプリング18が圧縮状態で介装されている。第1コイルスプリング18のx軸負方向側端は第1シート14aに支持され、x軸正方向側端は内フランジ部17bに支持されている。第1コイルスプリング18は、例えば、バネ鋼で形成されている。第1コイルスプリング18のセット荷重は、第1ゴムダンパ15のセット荷重と同じに設定されている。第2シート部材17の第2シート17aと第2シリンダ5の底部9とのx軸方向間には、スプリングとしての第2コイルスプリング19が圧縮状態で介装されている。第2コイルスプリング19のx軸負方向側端は、第2シート17aに支持され、x軸正方向側端は、底部9に支持されている。第2コイルスプリング19は、例えば、バネ鋼で形成されている。第2コイルスプリング19のばね定数は第1コイルスプリング18よりも大きい。第2コイルスプリング19のセット荷重は、第2ゴムダンパ12のセット荷重と同じに設定されている。また、第1ゴムダンパ15と第1コイルスプリング18との合成セット荷重は、第2ゴムダンパ12のセット荷重よりも小さく設定されている。
【0012】
次に、実施例1のストロークシミュレータSSにおけるブレーキペダルBPの踏み込み時の動作について説明する。
(第1ストローク区間)
ピストン3がx軸正方向にストロークを始めると、ピストン3と一体の第1シート部材14も同時にストロークを開始する。このとき、第1ゴムダンパ15のセット荷重は第2ゴムダンパ12のセット荷重よりも小さいため、第2ゴムダンパ12によりx軸負方向に反力を受ける第3シート部材16はストロークしない。また、第1コイルスプリング18のセット荷重は第2コイルスプリング19のセット荷重よりも小さいため、第2コイルスプリング19によりx軸負方向に反力を受ける第2シート部材17もストロークしない。よって、第1シート部材14がストロークを開始すると、第1ゴムダンパ15および第1ゴムダンパ15と並列に設けられた第1コイルスプリング18が共に圧縮を開始し、ピストン3には、第1ゴムダンパ15および第1コイルスプリング18の圧縮に伴うx軸負方向への荷重が作用する。よって、初期位置から第1シート14aが第2シート17aに当接するまでの第1ストローク区間では、第1ゴムダンパ15および第1コイルスプリング18の圧縮変形による復元力によってブレーキ操作反力が生成される。
(第2ストローク区間)
第1コイルスプリング18が所定長さだけ圧縮されると、第1シート14aが第2シート17aに当接し、第2シート部材17は第1シート部材14の第1シート14aに押されてストロークを開始する。これにより、第2コイルスプリング19が圧縮を開始する。また、第3シート部材16が第1ゴムダンパ15からx軸正方向に受ける反力が第2ゴムダンパ12のセット荷重を超えるため、第3シート部材16がストロークを開始する。よって、第1シート14aが第2シート17aに当接してから第2シート部材17のx軸正方向側端が第3シート16aに当接するまでの第2ストローク区間では、第2コイルスプリング19、第1ゴムダンパ15および第2ゴムダンパ12の圧縮変形による復元力によってブレーキ操作反力が生成される。
(第3ストローク区間)
第2シート部材17のx軸正方向側端が第3シート16aに当接すると、第3シート部材16は第2シート部材17に押されてストロークを開始する。よって、第2シート部材17のx軸正方向側端が第3シート16aに当接してから第3シート16aがナット部11の先端部11aに当接するまでの第3ストローク区間では、第2コイルスプリング19および第2ゴムダンパ12の圧縮変形による復元力によってブレーキ操作反力が生成される。
第3シート16aがナット部11の先端部11aに当接すると、ピストン3はフルストロークとなり、x軸正方向へのストロークが規制される。」
「【図2】
[図:0001411197000001.jpg]
上記引用文献1の記載より、引用文献1には、次の事項が記載されていると認められる。
・第1シリンダ4および第2シリンダ5と、ピストン3と、第2ゴムダンパ12と、第1ゴムダンパ15と、第3シート部材16とを含むストロークシミュレータSS。
・第2シリンダ5のx軸負方向側端は、第1シリンダ4のx軸正方向側端にネジにより固定されている(段落【0009】参照)。
・ピストン3は運転者のブレーキ操作に応じて第1シリンダ内をx軸正方向にストロークする(段落【0010】参照)。
・第2ゴムダンパ12は、第2シリンダ5に圧入され(段落【0009】参照)、ピストン3のx軸正方向へのストローク(第2ストローク区間および第3ストローク区間)で、ピストン3へx軸負方向への荷重(ブレーキ操作反力)を作用させる(段落【0012】参照)。
・第1ゴムダンパ15は、ピストン3のx軸正方向へのストローク(第1ストローク区間)で、ピストン3へx軸負方向への荷重(ブレーキ操作反力)を作用させる(段落【0012】参照)。
・第3シート部材16は、ピストン3と第2シリンダ5との間に、第1ゴムダンパ15を介して配置されている(段落【0010】及び図2参照)。
・図2から、第3シート部材16が第1シリンダ4内に配置される点がみてとれる。また、図2から、第3シート部材16と第1シリンダ4の内周面との間に第2コイルスプリングが存在する点が見てとれ、この配置関係にかんがみれば、第3シート部材16は、第1シリンダ4の内周面に当接していない、といえる。
上記認定事項より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
[引用発明]
「第1シリンダ4および第2シリンダ5と、ピストン3と、第2ゴムダンパ12と、第1ゴムダンパ15と、第3シート部材16とを含むストロークシミュレータSSであって、
第2シリンダ5のx軸負方向側端は、第1シリンダ4のx軸正方向側端にネジにより固定されており、
ピストン3は運転者のブレーキ操作に応じて第1シリンダ内をx軸正方向にストロークするものであり、
第2ゴムダンパ12は、第2シリンダ5に圧入され、ピストン3のx軸正方向へのストローク(第2ストローク区間および第3ストローク区間)で、ピストン3へx軸負方向への荷重(ブレーキ操作反力)を作用させるものであり、
第1ゴムダンパ15は、ピストン3のx軸正方向へのストローク(第1ストローク区間)で、ピストン3へx軸負方向への荷重(ブレーキ操作反力)を作用させるものであり、
第3シート部材16は、ピストン3と第2シリンダ5との間に、第1ゴムダンパ15を介して配置され、
第3シート部材16は、第1シリンダ4内に配置され、かつ、第1シリンダ4の内周面に当接していない、
ストロークシミュレータSS。」
2 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、車両のブレーキ装置用ストロークシミュレータに関し、特にブレーキ操作部材に操作力に応じたストロークを付与するための少なくとも1つの弾性部材が、大径端と小径端を有した略裁頭円錐形状のゴム塊により構成されているブレーキ装置用ストロークシミュレータに関するものである。」
「【0004】
ところで、上記エラストマ塊や上記ゴム塊を小径端側から圧縮するピストンの端面は平面に形成されており、エラストマ塊、ゴム塊の直径に対する長さの比率を大きくした場合、組付けられたエラストマ塊、ゴム塊の傾斜やエラストマ塊、ゴム塊の各部の寸法精度の低さにより、エラストマ塊またはゴム塊のピストン側端面とこれに対向するピストンの端面との間に多量の芯ずれが生じる可能性がある。エラストマ塊またはゴム塊のピストン側端面とこれに対向するピストンの端面との間の芯ずれ量が大きい場合、エラストマ塊、ゴム塊の圧縮時にそれらの小径端の端面に加わる荷重の偏りが大きくなり、エラストマ塊、ゴム塊の圧縮時にエラストマ塊、ゴム塊が過度に曲げ変形され、エラストマ塊、ゴム塊に亀裂等の損傷が発生する可能性がある。」
「【0006】
上記の課題を達成するため、本発明のブレーキ装置用ストロークシミュレータは、請求項1に記載したように、ブレーキ操作部材に連結される入力ピストンと、前記ブレーキ操作部材から前記入力ピストンを介して伝達されるブレーキ操作力により圧縮されて前記ブレーキ操作部材に前記ブレーキ操作力に応じたストロークを付与する少なくとも1つの弾性部材とを備え、前記弾性部材が、大径端と小径端を有した略裁頭円錐形状のゴム塊により構成されているブレーキ装置用ストロークシミュレータにおいて、前記ゴム塊を圧縮するための一対のゴム塊加圧面のうちで前記ゴム塊の前記小径端の端面と対向するゴム塊加圧面に、前記ゴム塊の前記小径端との係合により前記ゴム塊の前記小径端の前記端面と前記ゴム塊加圧面との間の芯ずれ量を所定量以下に制限する凹部が形成されていることとしたものである。」
「【0016】
マスタピストン22には、段付きシリンダ孔36が形成されている。また、マスタピストン22には、その大径の中央部の後方に位置する半径方向の孔38が形成されている。段付きシリンダ孔36は前方の小径部36aと後方の大径部36bを備えており、段付きシリンダ36内には、ストロークシミュレータSM1を構成するゴム塊40、ゴム塊加圧ピストン42、圧縮コイルスプリング44及び入力ピストン46が組み込まれている。ゴム塊40は、前方の大径端40aと後方の小径端40bを備える略裁頭円錐形状に形成されており、段付きシリンダ孔36の小径部36a内に組み込まれ、ゴム塊40の前端部は段付きシリンダ孔36の小径部36aの前端部に圧入されている。
【0017】
ゴム塊加圧ピストン42は段付きシリンダ孔36の小径部36aに摺動自在に組み込まれており、その前端面には、図1および図2に示すように、ゴム塊40の小径端40bと係合してゴム塊40の小径端40bとゴム塊加圧ピストンの前端面との芯ずれ量を、ゴム塊40が圧縮された時にゴム塊40が過度に曲げ変形されることのないように所定量以下に規制する凹部42aが形成されている。ゴム塊加圧ピストンの外周には、図1および図2に示すように、段付きシリンダ孔36の小径部36aの内部を大径部36bの内部と常時連通する溝42bが形成されている。段付きシリンダ孔36の大径部36bの内部は孔38と常時連通されているものである。」
「【0044】
上記のようにゴム塊140が圧縮される場合において、ゴム塊140の小径端とゴム塊加圧ピストン142の後端面との芯ずれ量は、ゴム塊140の小径端とゴム塊圧縮ピストン142の凹部142aとの係合により、ゴム塊140がゴム塊加圧ピストン142により圧縮された時にゴム塊140が過度に曲げ変形されることのないように所定量以下に規制されているので、ゴム塊140が過度に曲げ変形されることなく圧縮されるものである。」
第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「第1シリンダ4」は、本願発明1の「シリンダ」に相当する。
引用発明の「ピストン3」は、本願発明1の「ピストン」に相当し、引用発明の「ピストン3」が「運転者のブレーキ操作に応じてx軸正方向にストロークする」ことは、本願発明1の「ピストン」が「ブレーキペダルの操作に応じて前記シリンダ内を移動する」ことに相当する。
引用発明の「x軸正方向」は、本願発明1の「一方側」に相当する。また、引用発明の「ブレーキ操作反力」は、本願発明1の「反力」に相当する。引用発明の「ピストン3のx軸正方向へのストローク(第2ストローク区間および第3ストローク区間)で、ピストン3へx軸負方向への荷重(ブレーキ操作反力)を作用させる」ことは、ピストン3のx軸正方向への移動によりピストン3にブレーキ操作反力を付与することであり、このブレーキ操作反力は、第2ゴムダンパ12がピストン3のx軸正方向へのストロークによって圧縮されることにより発生されるといえるから、本願発明1の「前記ピストンの一方側への移動により圧縮されて前記ピストンに反力を付与する」ことに相当する。したがって、引用発明の「第2ゴムダンパ12」は、本願発明1の「反力ゴム」に相当する。
引用発明の「第2ゴムダンパ12」は、「x軸負方向側端」が「第1シリンダ4のx軸正方向側端にネジにより固定されて」いる「第2シリンダ5」に「圧入され」ているものであるから、第2シリンダ5が第2ゴムダンパ12の外周面を囲んでいるといえる。したがって、引用発明の「第2シリンダ5」は、本願発明1の「プラグ」に相当する。そうすると、引用発明の、「第2シリンダ5のx軸負方向側端は、第1シリンダ4のx軸正方向側端にネジにより固定されており」、「第2ゴムダンパ12は、第2シリンダ5に圧入され」ていることは、本願発明1の「プラグ」が「前記反力ゴムの外周面を囲むように前記シリンダ内に配置され、前記反力ゴムが圧縮されるほど前記反力ゴムの前記一方側への移動に対する摺動抵抗を増大させる」こととの対比において、「プラグ」が「前記反力ゴムの外周を囲むように配置される」との限度で一致する。
引用発明の「第1ゴムダンパ15」は、本願発明1の「弾性部材」に相当する。引用発明の「ピストン3のx軸正方向へのストローク(第1ストローク区間)で、ピストン3へx軸負方向への荷重(ブレーキ操作反力)を作用させる」ことは、ピストン3のx軸正方向への移動によりピストン3にブレーキ操作反力を付与することであり、このブレーキ操作反力は、第1ゴムダンパ15がピストン3のx軸正方向へのストロークによって圧縮されることにより発生されるといえるから、本願発明1の「前記ピストンの前記一方側への移動により圧縮されて前記ピストンに反力を付与する」ことに相当する。
引用発明の「第3シート部材16」は、本願発明1の「ストッパ」に相当する。そして、引用発明の「第3シート部材16は、ピストン3と第2シリンダ4との間に、第1ゴムダンパ15を介して配置されている」ことは、本願発明1の「ストッパ」が「前記ピストンと前記プラグとの間に前記弾性部材を介して配置され」ていることに相当する。また、引用発明の「第3シート部材16は、第1シリンダ4内に配置され、かつ、第1シリンダ4の内周面に当接していない」ことは、本願発明1の「前記ストッパは、前記シリンダの内周面に当接しないように前記シリンダ内に配置され」ることに相当する。
引用発明の「ストロークシミュレータSS」は、本願発明1の「ストロークシミュレータ」に相当する。
したがって、引用発明と本願発明1との一致点及び相違点は次のとおりとなる。
[一致点]
「シリンダと、
ブレーキペダルの操作に応じて前記シリンダ内を移動するピストンと、
前記シリンダ内に配置され、前記ピストンの一方側への移動により圧縮されて前記ピストンに反力を付与する反力ゴムと、
前記反力ゴムの外周面を囲むように配置されるプラグと、
前記ピストンの前記一方側への移動により圧縮されて前記ピストンに反力を付与する弾性部材と、
前記ピストンと前記プラグとの間に前記弾性部材を介して配置されたストッパと、
を備え、
前記ストッパは、前記シリンダの内周面に当接しないように前記シリンダ内に配置されている、
ストロークシミュレータ。」
[相違点1]
本願発明1の「プラグ」が「前記シリンダ内に配置され」、「前記反力ゴムが圧縮されるほど前記反力ゴムの前記一方側への移動に対する摺動抵抗を増大させる」のに対し、引用発明の「第2シリンダ5」は、その「x軸負方向側端」が、「第1シリンダ4のx軸正方向側端にネジにより固定されて」いるものであって、第1シリンダ4内に配置されるものではなく、また、第2ゴムダンパ12が圧縮されるほど第2ゴムダンパ12のx軸正方向への移動に対する摺動抵抗を増大させるものであるか明らかでない点。
[相違点2]
本願発明1では、「前記ストッパの前記一方側の端面には、凹部が形成され、前記反力ゴムは、前記凹部に嵌合される凸部を有する」ものであるのに対し、引用発明の「第3シート部材16」と「第2ゴムダンパ12」との接続構造について、本願発明1のような特定がない点。
(2)判断
事案に鑑み相違点2について検討する。
上記「第4 2」より、引用文献3には、ブレーキ操作部材に操作力に応じたストロークを付与するための弾性部材が、大径端と小径端を有した略裁頭円錐形状のゴム塊により構成されているブレーキ装置用ストロークシミュレータにおいて、ゴム塊を小径端側から圧縮するゴム塊加圧ピストンの圧縮面に、ゴム塊の小径端とゴム塊加圧ピストンの前端面との芯ずれ量を、ゴム塊が圧縮された時にゴム塊が過度に曲げ変形されることのないように所定量以下に規制する凹部を形成するという技術的事項が記載されていると認められる。
この引用文献3の技術的事項における、ゴム塊の小径端とゴム塊加圧ピストンの圧縮面の凹部との係合形態は、ゴム塊が圧縮された時にゴム塊が過度に曲げ変形されることのないようにするために、ゴム塊の小径端とゴム塊加圧ピストンの前端面との芯ずれ量を所定量以下に規制するために採られたものである(引用文献3の段落【0004】、【0017】及び【0044】)。
一方、引用発明の「第2ゴムダンパ12」は、「第2シリンダ5に圧入され」ているものであり、その圧入されるという形態からして、第2ゴムダンパ12が圧縮された時に第2ゴムダンパ12が過度に曲げ変形されることはないし(この点については、引用文献1の【図2】も参照のこと。)、第2ゴムダンパ12が曲げ変形されるということを示唆する記載も引用文献1にはない。
そうすると、ゴム塊の小径端とゴム塊加圧ピストンの前端面との芯ずれ量を所定量以下に規制してゴム塊が過度に曲げ変形されことを防止するために採られた引用文献3の技術的事項を引用発明に適用する動機付けはなく、引用発明及び引用文献3の技術的事項に基いて相違点3に係る本願発明1の「前記ストッパの前記一方側の端面には、凹部が形成され、前記反力ゴムは、前記凹部に嵌合される凸部を有する」構成となすことは、当業者といえども容易であったということはできない。
そして、本願発明1は、相違点3に係る本願発明1の「前記ストッパの前記一方側の端面には、凹部が形成され、前記反力ゴムは、前記凹部に嵌合される凸部を有する」構成により、シリンダ内周面に当接しないようにシリンダ内に配置されたストッパの移動時の軸ずれが抑制され、ストッパを精度良く軸方向に移動させることができるという作用効果を奏するものと認められる(明細書の段落【0031】)。
引用文献1の段落【0010】の「ピストン3のx軸正方向側端には、小径部3aが形成されている。小径部3aは、第1シート部材14に挿入されている。第1シート部材14は、両端が開口した円筒状に形成されている。第1シート部材14のx軸負方向側端には、外フランジ状の第1シート14aaが設けられている。第1シート14aの外径は、小内径部6の内径よりも大きく設定されている。第1シート部材14のx軸正方向側端には、縮径部14bが設けられている。
第1シート部材14の内部には、ゴム弾性体としての第1ゴムダンパ(第1ゴム弾性体)14と、第3シート部材16の一部とが収容されている。・・・(中略)・・・第3シート部材16のx軸負方向側端には、フランジ部16bが設けられている。フランジ部16bは、第1シート部材14の内径よりも僅かに小さく、かつ、縮径部14bの内径よりも大きく形成されている。第3シート部材16は、第1シート部材14に対してx軸方向に相対移動可能であり、x軸正方向への相対移動は、フランジ部16bが縮径部14bと係合することで規制される。」との記載を参酌すれば、引用発明の「第3シート部材16」は、ピストン3及び第1シート部材14を介して、第1シリンダ4に対して間接的に支持されているといえ、第3シート部材16が、そのx軸方向移動時に軸ずれすることは想定されていないといえる。
また、引用文献3においても、ゴム塊加圧ピストン42は、マスタピストン22に支持されており(図2参照)、軸ずれすることは想定されない。
したがって、本願発明1の上記効果は引用発明及び引用文献3の技術的事項からは予測することができない格別な作用効果であると認められる。
よって、相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献3の技術的事項に基いて容易に発明できたものとはいえない。
2 本願発明2~5について
本願発明2~5は、本願発明1をさらに限定したものであり、本願発明1の「前記ストッパの前記一方側の端面には、凹部が形成され、前記反力ゴムは、前記凹部に嵌合される凸部を有する」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
なお、引用文献2及び本願発明5について原査定時に追加で示された特開2019-99044号公報にも、相違点3に係る本願発明1の「前記ストッパの前記一方側の端面には、凹部が形成され、前記反力ゴムは、前記凹部に嵌合される凸部を有する」構成は記載ないし示唆されていない。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明1及び2は、当業者が引用発明及び引用文献3の技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。また、本願発明3及び4は、当業者が引用発明及び引用文献2、3の技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-022102