特許拒絶査定不服審判
2023-020406
電磁波吸収材料及び電磁波吸収樹脂成型体
- 審判番号
- 2023-020406
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-182052
- 請求日
- 2023年12月01日
- 審決日
- 2024年11月11日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】三恵技研工業株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人IPRコンサルタント
- 【請求人】学校法人 龍谷大学
- 【請求人代理人】弁理士法人IPRコンサルタント
- 【請求人】国立大学法人 岡山大学
- 【請求人代理人】弁理士法人IPRコンサルタント
- 審判長/審判官
- 審判長 山澤 宏
- 審判官 村松 貴士
- 審判官 北元 健太
- 分類
- P18 .113-WY (H05K) / P18 .121-WY (H05K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-182052「電磁波吸収材料及び電磁波吸収樹脂成型体」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 4月 8日出願公開、特開2021- 57545、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和元年10月2日の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和5年 5月11日付け:拒絶理由通知
令和5年 6月 6日 :意見書、手続補正書の提出
令和5年 9月15日付け:拒絶査定(原査定)
令和5年12月 1日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和6年 8月19日付け:拒絶理由通知(当審拒絶理由)
令和6年 9月25日 :意見書、手続補正書の提出
第2 原査定の概要
原査定(令和5年9月15日付け)の概要は次のとおりである。
本願の請求項1ないし6に係る発明は、以下の引用文献A、Bに記載された発明及び引用文献C、Dに記載された周知技術に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
A.特開2015-144294号公報
B.特開2019-99989号公報
C.特開2019-29549号公報
D.特開2017-45946号公報
第3 当審拒絶理由の概要
当審が令和6年8月19日付けで通知した拒絶理由の概要は次のとおりである。
1 理由1(新規性)
本願の請求項1に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2 理由2(進歩性)
本願の請求項1に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2、3に記載された周知技術に基づいて、本願請求項2-4に係る発明は、以下の引用文献1、4に記載された発明及び引用文献2、3に記載された周知技術に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.特開2019-99989号公報(原査定の引用文献B)
2.特開2019-29549号公報(原査定の引用文献C)
3.特開2017-45946号公報(原査定の引用文献D)
4.特開2015-144294号公報(原査定の引用文献A)
第4 本願発明
本願請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明4」という。)は、令和6年9月25日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】
電磁波吸収材を用いて45~110GHzの周波数を有する電磁波を吸収させる方法であって、
前記電磁波吸収材は、
炭素材の表面がグラフェン構造を有する炭素ナノ構造体によって被覆され、
前記炭素ナノ構造体がカーボンナノウォールであり、
前記炭素材が炭素繊維であり、
前記炭素ナノ構造体に金属元素が含まれないこと、
を特徴とする電磁波吸収方法。
【請求項2】
前記電磁波吸収材を樹脂基材中に分散させること、
を特徴とする請求項1に記載の電磁波吸収方法。
【請求項3】
前記樹脂基材が炭素繊維強化熱可塑性樹脂であること、
を特徴とする請求項2に記載の電磁波吸収方法。
【請求項4】
前記樹脂基材が自動車用エンブレム又は自動車用バンパーであること、
を特徴とする請求項2又は3に記載の電磁波吸収方法。」
第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1(引用文献B)、引用発明
(1)引用文献1(引用文献B)
当審拒絶理由に引用した上記引用文献1(原査定の引用文献B)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審による。以下同様。)。
「【0005】
一方で、従来から知られている炭素繊維は各種マトリックスの強化材としての需要が高まっており、マトリックスとの相互作用を高めるために種々の表面改質方法が提案されている。例えば、特許文献2(特開2013-231245号公報)においては、炭素繊維にメカノケミカル処理を施すことによって、炭素繊維由来ではない原子を表面に付着させる方法が提案されており、特許文献3(特開2017-193791号公報)においては、炭素繊維に電解酸化処理を施すことによって、表面に凹凸を形成させる方法が提案されている。」
「【0009】
以上のような状況に鑑み、本発明の目的は、金属触媒を使用することなく簡便に炭素ナノ構造体を製造する方法、及び炭素繊維の表面を簡便に炭素ナノ構造体化する表面改質方法を提供することにある。」
「【0040】
(2)炭素ナノ構造体被覆炭素繊維
本発明の炭素繊維の表面改質方法によって、炭素ナノ構造体によって表面被覆された炭素繊維を得ることができる。図2に本発明の炭素繊維(炭素ナノ構造体被覆炭素繊維)の概略断面図を示す。
【0041】
炭素繊維8は直径が1μm~20μmであり、表面に炭素ナノ構造体20が形成している。また、炭素繊維8の長さは特に限定されず、一般的に知られている長繊維又は短繊維等を用いることができる。ここで、炭素ナノ構造体20は密に形成されており、炭素繊維8の表面の全域を被覆した状態となっている。ここで、炭素ナノ構造体20は炭素繊維8の表面近傍のCによって形成されていることから、炭素繊維8と炭素ナノ構造体20は比較的良好な密着性を有しており、炭素繊維8を各種マトリックスの強化材として使用する場合に、炭素繊維8と各種マトリックスとの間の相互作用を増加させることができる(炭素繊維の機械的性質をより反映させることができる)。
【0042】
炭素ナノ構造体20はナノメートルオーダーの大きさを有する炭素構造体であり、基本的にグラフェン構造を有している。炭素ナノ構造体20は特に限定されず、例えば、カーボンナノチューブ(単層又は多層)やグラフェンが数枚積層したカーボンナノウォールを挙げることができる。また、炭素ナノ構造体20は酸化されていてもよく、例えば、酸化された炭素ナノ構造体20としては、酸化グラフェンを挙げることができる。
【0043】
また、炭素ナノ構造体20には金属元素が含まれていない。一般的に、気相法では金属粒子を触媒として炭素ナノ構造体が形成されるが、炭素ナノ構造体20は、炭素繊維8の表面近傍のCの切断及び再結合によって形成したものであり、金属元素は含まれていない。即ち、金属元素を内包する炭素ナノ構造体と比較して、優れた導電性等を有している。
【0044】
また、炭素繊維8は、短繊維とすることが好ましく、ミルドファイバーとすることがより好ましい。ミルドファイバーは機械的な粉砕によって炭素繊維を短繊維化したものであり、表面近傍に欠陥や歪が導入されていることから、C=C結合の切断及び再結合による炭素ナノ構造体の形成をより効率的に進行させることができ、表面により多くの炭素ナノ構造体20を形成させることができる。」
(2)引用発明
上記(1)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「マトリックスの強化材として使用する際にマトリックスとの相互作用を高めるために、表面を炭素ナノ構造体化した炭素繊維であって、
炭素繊維8は直径が1μm~20μmであり、表面に炭素ナノ構造体20が形成しており、
炭素ナノ構造体20は炭素繊維8の表面の全域を被覆した状態となっており、
炭素ナノ構造体20はナノメートルオーダーの大きさを有する炭素構造体であり、グラフェン構造を有しており、
炭素ナノ構造体20は、グラフェンが数枚積層したカーボンナノウォールであり、
炭素ナノ構造体20には金属元素が含まれておらず、
炭素繊維8は、ミルドファイバーである、
炭素ナノ構造体被覆炭素繊維。」
2 引用文献2(引用文献C)
当審拒絶理由に引用した上記引用文献2(原査定の引用文献C)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0084】
この吸収層としては、例えば、金属粉(金属材料)および導電性高分子材料等の導電吸収材料を主材料として構成される導電吸収層、炭素系材料および導電性高分子材料等の誘電吸収材料を主材料として構成される誘電吸収層、軟磁性金属等の磁性吸収材料を主材料として構成される磁性吸収層等が挙げられ、これらを単独あるいは併用してもよい。なお、この吸収層は、前記主材料の他に、バインダー樹脂を含有することが好ましい。」
「【0089】
また、炭素系材料としては、例えば、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブのようなカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、CNナノチューブ、CNナノファイバー、BCNナノチューブ、BCNナノファイバー、グラフェンや、カーボンマイクロコイル、カーボンナノコイル、カーボンナノホーン、カーボンナノウォールのような炭素等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。」
3 引用文献3(引用文献D)
当審拒絶理由に引用した上記引用文献3(原査定の引用文献D)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0063】
この電磁波遮断層3は、如何なる導電性材料を含有するものであってもよく、この導電性材料としては、例えば、導電性高分子、金属および金属酸化物のうちの少なくとも1種を含む金属系粒子、ならびに、炭素系材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、中でも、導電性高分子を含むものであることが好ましい。これらの中でも、導電性高分子は、材料自体が吸収性に優れるものであることから、導電性高分子を含む電磁波遮断層3の膜厚(厚み)を比較的薄く設定したとしても、電磁波遮断層3に、特に優れた吸収性を発揮させることができる。したがって、電磁波遮断層3に、吸収層としての機能を発揮させつつ、その薄膜化および軽量化が可能である。」
「【0067】
また、炭素系材料(導電性カーボン)としては、例えば、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブのようなカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、CNナノチューブ、CNナノファイバー、BCNナノチューブ、BCNナノファイバー、グラフェンや、カーボンマイクロコイル、カーボンナノコイル、カーボンナノホーン、カーボンナノウォール、カーボンブラック、カーボンファイバ、グラフェンのような炭素等が挙げられる。」
4 引用文献4(引用文献A)
当審拒絶理由に引用した上記引用文献4(原査定の引用文献A)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0046】
本発明のEMI遮蔽複合材料には、CNT導入繊維材料とともに複合材料を形成するためのマトリクス材が含まれる。このマトリクス材には、例えば、エポキシ、ポリエステル、ビニルエステル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンケトン、ポリフタルアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、フェノールホルムアルデヒド及びビスマレイミドが含まれる。本発明において有用なマトリクス材には、周知のマトリクス材の全てを含むことができる(Mel M.Schwartz, Composites Handbook(2d ed. 1992)参照)。より一般に、マトリクス材には、熱硬化性及び熱可塑性の両方の樹脂(ポリマー)、金属、セラミック及びセメントを含むことができる。
【0047】
マトリクス材として有用な熱硬化性樹脂には、フタル酸/マレイン酸タイプのポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール系樹脂、シアン酸塩、ビスマレイミド及びナド末端封鎖ポリイミド(nadic end-capped polyimide)(例えば、PMR-15)が含まれる。熱可塑性樹脂には、ポリスルホン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、多硫化物(polysulfide)、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド-イミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート及び液晶ポリエステルが含まれる。」
第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明における「炭素ナノ構造体被覆炭素繊維」と、本願発明1における「電磁波吸収材」は、「材料」である点において共通する。
イ 引用発明における「炭素ナノ構造体被覆炭素繊維」は「マトリックスの強化材として使用する」ものであるから、引用発明は「炭素ナノ構造体被覆炭素繊維」を「使用する」方法を示しているといえる。したがって、上記アを踏まえると、引用発明における当該方法と、本願発明1における「電磁波吸収材を用いて45~110GHzの周波数を有する電磁波を吸収させる方法」とは、「材料を用いる方法」である点において共通する。
ウ 引用発明における「炭素繊維8」は、本願発明1における「炭素材」に相当する。また、引用発明における「グラフェン構造を有して」いる「炭素ナノ構造体20」は、本願発明1における「グラフェン構造を有する炭素ナノ構造体」に相当する。したがって、引用発明における「炭素ナノ構造体20は炭素繊維8の表面の全域を被覆した状態となって」いることは、本願発明1における「炭素材の表面がグラフェン構造を有する炭素ナノ構造体によって被覆され」ることに相当する。
エ 引用発明における「炭素ナノ構造体20」が「カーボンナノウォールであ」ることは、本願発明1における「炭素ナノ構造体がカーボンナノウォールであ」ることに相当する。
オ 引用発明における「炭素繊維8」は、本願発明1における「炭素繊維」に相当する。
カ 引用発明における「炭素ナノ構造体20には金属元素が含まれて」いないことは、本願発明1における「炭素ナノ構造体に金属元素が含まれない」
ことに相当する。
キ したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「材料を用いる方法であって、
前記材料は、
炭素材の表面がグラフェン構造を有する炭素ナノ構造体によって被覆され、
前記炭素ナノ構造体がカーボンナノウォールであり、
前記炭素材が炭素繊維であり、
前記炭素ナノ構造体に金属元素が含まれない、
方法。」
(相違点)
本願発明1は「電磁波吸収材を用いて45~110GHzの周波数を有する電磁波を吸収させる方法」であるのに対し、引用発明は「炭素ナノ構造体被覆炭素繊維」の用途が特定されていない点。
(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
本願発明1における、上記相違点に係る「電磁波吸収材を用いて45~110GHzの周波数を有する電磁波を吸収させる」構成について、引用文献1には、記載も示唆もなく、実質的なものである。
引用文献2、3には、カーボンナノウォールなどの炭素系材料を電磁波吸収材料として用いる周知技術が開示されているものの、表面を炭素ナノ構造体化した炭素繊維が45~110GHzの周波数を有する電磁波を吸収させる用途に有効なことを示すものではないから、当該周知技術を参酌しても、引用発明における「炭素ナノ構造体被覆炭素繊維」を45~110GHzの周波数を有する電磁波を吸収させる用途に用いることを当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
また、本願発明1の相違点に係る発明特定事項は、引用文献4にも開示されておらず、本願の出願日前において周知技術であったともいえない。
よって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明、及び、引用文献2-4に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
2 本願発明2-4について
本願発明2-4は、本願発明1を減縮した発明である。したがって、本願発明1の相違点に係る構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、及び、引用文献2-4に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第7 原査定について
上記第6で説示したとおり、本願発明1-4は、当業者が引用文献A、B(引用文献4、1)に記載された発明及び引用文献C、D(引用文献2、3)に記載された周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。
第8 当審拒絶理由について
1 理由1(新規性)について
上記第6で説示したとおり、本願発明1は、引用文献1に記載された発明ではないから、当審拒絶理由通知における新規性欠如の拒絶の理由は解消した。
2 理由2(進歩性)について
上記第6で説示したとおり、本願発明1は、当業者が引用文献1に記載された発明、及び、引用文献2、3に記載された周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、本願発明2-4は、当業者が引用文献1、4に記載された発明、及び、引用文献2-3に記載された周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、当審拒絶理由通知における進歩性欠如の拒絶の理由は解消した。
第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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