特許拒絶査定不服審判
2023-019786
マニホールド、冷却装置、および情報処理システム
- 審判番号
- 2023-019786
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-027081
- 請求日
- 2023年11月22日
- 審決日
- 2024年08月05日
- 公報発行日
- 2024年08月30日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】富士通株式会社
- 【請求人代理人】向山 直樹
- 審判長/審判官
- 審判長 篠塚 隆
- 審判官 富澤 哲生
- 審判官 野崎 大進
- 分類
- P18 .121-WY (G06F) / P18 .537-WY (G06F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020- 27081「マニホールド、冷却装置、および情報処理システム」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 9月 9日出願公開、特開2021-131753、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年2月20日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和5年 7月12日付け:拒絶理由通知書
令和5年 9月 6日 :意見書の提出、手続補正書の提出
令和5年10月19日付け:拒絶査定
令和5年11月22日 :拒絶査定不服審判の請求、手続補正書の提出
令和6年 1月31日付け:前置報告書
第2 原査定の概要
原査定(令和5年10月19日付け拒絶査定)の概要は、次のとおりである。
1 理由1
(明確性)この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
請求項1には、「液体の給水配管と、前記給水配管から流入した前記液体を排水する排水配管と、を有し、前記給水配管及び前記排水配管の少なくとも一方は、前記給水配管又は前記排水配管の内壁と前記液体とを隔て、前記液体の凍結に起因する体積膨張によって加わる圧力によって前記内壁との間の気体層の体積が減少する方向に変形する、前記内壁側に凸の曲線の形状の壁とを有することを特徴とするマニホールド。」との記載があるが、「液体の給水配管と、前記給水配管から流入した前記液体を排水する排水配管と、を有」することと「マニホールド」とは整合していない。
よって、請求項1~7に係る発明は明確でない。
2 理由2
(進歩性)本願請求項1~8に係る発明は、以下の引用文献1~3に記載された発明に基づいて、本願請求項9に係る発明は、以下の引用文献1~4に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1: 特開2009-170877号公報
引用文献2: 実願昭55-75408号(実開昭56-176270号)のマイクロフィルム
引用文献3: 特開昭56-156334号公報
引用文献4: 特開2018-74100号公報
第3 本願発明
本願の請求項1~9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」~「本願発明9」という。)は、令和5年11月22日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1,8,9は次のとおりのものである。
「【請求項1】
複数の冷却対象に向けて液体を供給する複数の配管の各々との複数の第1の接続口を長手方向に配置しており、前記複数の第1の接続口の少なくとも一部よりも長手方向における下部に配置した給水口から流入した前記液体であって、ポンプを介して前記給水口から給水された前記液体を前記複数の配管に分岐して前記複数の冷却対象に向けて供給する給水配管と、
前記給水配管から前記複数の配管を介して前記複数の冷却対象に向けて供給された前記液体を、長手方向に配置された複数の第2の接続口から回収して、前記複数の第2の接続口の少なくとも一部より長手方向における下部に配置した排水口から前記ポンプに排水する排水配管と、
を有し、
前記給水配管及び前記排水配管の少なくとも一方は、
前記給水配管又は前記排水配管の内壁と前記液体とを隔て、前記液体の凍結に起因する体積膨張によって加わる圧力によって前記内壁との間の気体層の体積が減少する方向への変形であって、前記内壁側に凸の曲線の形状に変形するように、前記給水口または前記排水口よりも長手方向における上部に配置された壁と
を有する
ことを特徴とするマニホールド。」
「【請求項8】
複数の冷却対象に向けて液体を供給する複数の配管の各々との複数の第1の接続口を長手方向に配置しており、前記複数の第1の接続口の少なくとも一部よりも長手方向における下部に配置した給水口から流入した前記液体であって、ポンプを介して前記給水口から給水された前記液体を前記複数の配管に分岐して前記複数の冷却対象に向けて供給する給水配管と、前記給水配管から前記複数の配管を介して前記複数の冷却対象に向けて供給された前記液体を、長手方向に配置された複数の第2の接続口から回収して、前記複数の第2の接続口の少なくとも一部より長手方向における下部に配置した排水口から前記ポンプに排水する排水配管と、
前記給水配管と前記排水配管とに前記複数の配管を介して接続される複数の熱冷却用のプレートと、
を有し、
前記給水配管及び前記排水配管の少なくとも一方は、
前記給水配管又は前記排水配管の内壁と前記液体とを隔て、前記液体の凍結に起因する体積膨張によって加わる圧力によって前記内壁との間の気体層の体積が減少する方向への変形であって、前記内壁側に凸の曲線の形状に変形するように、前記給水口または前記排水口よりも長手方向における上部に配置された壁と
を有する
ことを特徴とする冷却装置。」
「【請求項9】
複数の冷却対象に向けて液体を供給する複数の配管の各々との複数の第1の接続口を長手方向に配置しており、前記複数の第1の接続口の少なくとも一部よりも長手方向における下部に配置した給水口から流入した前記液体であって、ポンプを介して前記給水口から給水された前記液体を前記複数の配管に分岐して前記複数の冷却対象に向けて供給する給水配管と、前記給水配管から前記複数の配管を介して前記複数の冷却対象に向けて供給された前記液体を、長手方向に配置された複数の第2の接続口から回収して、前記複数の第2の接続口の少なくとも一部より長手方向における下部に配置した排水口から前記ポンプに排水する排水配管と、
前記給水配管と前記排水配管とに前記複数の配管を介して接続される複数の熱冷却用のプレートと、
前記複数の冷却対象の何れかであるプロセッサを格納し、前記格納されたプロセッサから発生する熱を前記複数の熱冷却用のプレートのうち少なくとも何れかのプレート内に流れる液体によって吸収可能な位置に設けられる情報処理装置と、
を有し、
前記給水配管及び前記排水配管の少なくとも一方は、
前記給水配管又は前記排水配管の内壁と前記液体とを隔て、前記液体の凍結に起因する体積膨張によって加わる圧力によって前記内壁との間の気体層の体積が減少する方向への変形であって、前記内壁側に凸の曲線の形状に変形するように、前記給水口または前記排水口よりも長手方向における上部に配置された壁と
を有する
ことを特徴とする情報処理システム。」
なお、本願発明2~7は、本願発明1を減縮した発明である。
第4 引用文献の記載、引用発明等
1 引用文献1、引用発明
(1)引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審による。以下同様。)。
「【0013】
図1は、循環冷却装置100の概略図を示している。循環冷却装置100は、発熱素子55(回路基板に取り付けられた集積回路として示しているが、回路基板本体であっても、他の発熱素子であってもよい。)に取り付けられた熱交換器20と、流体を循環させるためのポンプ30と、複数のフィン46が任意に設けられ、循環冷却装置100から更に熱を取り除く除熱器40と、熱交換器20において測定された温度に基づいて、ポンプ入力電圧を制御するコントローラ50とを備える。流体は、流入口32から流れ込み、ポンプ30によって多孔質構造(図示せず)に引き込まれ、流出口34から出る。好ましい実施の形態では、電気浸透流ポンプを用いるが他の種類のポンプを用いて本発明を実現してもよいことは明らかである。
【0014】
更に図1に示すように、流体は、管114を介して熱交換器20を流れ、続いて、管110を介して除熱器40を流れ、更に他の管112を介して、ポンプ30の流入口32に戻る。コントローラ50は、電子回路であり、熱交換器20内の温度センサから又は冷却される発熱素子55の温度センサからの信号が、信号線120を介して、このコントローラ50に供給される。コントローラ50は、この入力信号に基づいて、信号線122を介して、ポンプ30に接続された電源(図示せず)に信号を供給することによって、所望の熱性能を達成するために、ポンプ30による流体の流量を調整する。この実施の形態では、特定のフロー方向を示しているが、本発明では、このフロー方向を逆にしてもよい。
【0015】
流体温度が凝固点以下に低下すると、氷による詰まりが生じる。氷が形成される速度は、流体が冷却される速度に依存し、この速度は、少なくとも部分的に、表面積対体積比に依存する。循環冷却装置100内の一部の領域で氷が成長し続けると、過度の流体圧が生じることがある。これにより生じる圧力は、例えば、管110、112、114、熱交換器20、40のチャネル及び/又はポンプ30内のチャンバといった個々の要素を破裂又は破損する虞がある。後に詳細に説明するように、個々の要素は、流体又は水の凍結時の膨張を許容するように設計する必要がある。」
「【0023】
他の実施の形態においては、図5に示すように、装置又はポンプ80は、流入チャンバ82及び流出チャンバ84を有するハウジング88を備える。ポンピング構造89は、ハウジング88の底面側と、ハウジング88の上面側とに流入チャンバ82及び流出チャンバ84を分離している。ポンピング構造89は、ポンプ流入口81からポンプ流出口86に液体を流す。流入チャンバ82、流出チャンバ84は、流体で略満たされる。ポンプ80で使用される液体は、好ましくは、水である。なお、本発明では、他の如何なる適切な液体を用いてもよい。
【0024】
更に図5に示すように、流入チャンバ82及び流出チャンバ84内には、エアポケット85、87が設けられている。エアポケット85、87は、好ましくは、流入チャンバ82、流出チャンバ84内で流体が凍結しはじめる位置から最も遠くに配設される。流入チャンバ82、流出チャンバ84内における凍結によって膨張した氷は、エアポケット85、87によって占められている空間に侵入し、流入チャンバ82、流出チャンバ84内の圧力は、僅かに上昇する。しかしながら、空気は、十分な圧縮性を有し、比較的小さい力で大きく圧縮できるため、氷の膨張は、容易に受容される。エアポケット85、87は、好ましくは、流入チャンバ82、流出チャンバ84内の流体の量に比例する体積を有する。エアポケット85、87は、好ましくは、5~25%の間の所定のレベルの流体の膨張を受容できる。」
「【図1】
[図:0001413203000001.jpg]
」
「【図5】
[図:0001413203000002.jpg]
」
(2)上記(1)において、特に段落【0023】~【0024】に着目すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「流入チャンバ82及び流出チャンバ84を有するハウジング88を備え、
ポンピング構造89は、ハウジング88の底面側と、ハウジング88の上面側とに流入チャンバ82及び流出チャンバ84を分離し、
ポンピング構造89は、ポンプ流入口81からポンプ流出口86に液体を流し、流入チャンバ82、流出チャンバ84は、流体で略満たされ、ポンプ80で使用される液体は、水であり、
流入チャンバ82及び流出チャンバ84内には、エアポケット85、87が設けられており、流入チャンバ82、流出チャンバ84内における凍結によって膨張した氷は、エアポケット85、87によって占められている空間に侵入し、
エアポケット85、87は所定のレベルの流体の膨張を受容できる、
ポンプ80。」
2 引用文献2
引用文献2には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「この考案にかかる排水トラップは、管体の一部がU字形に湾曲することによって構成されている水封部の内部に、封水凍結時の体積膨張を吸収しうる弾性体を収容してなることを特徴としている。」(明細書3頁14~17行)
「第4図は、弾性体として、軸方向に伸縮可能な蛇腹管3”を用いる場合の例を示す。蛇腹管3”の両端は排水トラップ1の両端のフランジ部で止めつけられるようになっている。すなわち、この例では、排水トラップ1の水封部2は、蛇腹管3”が内側に嵌着された2重管構造となっており、排水は蛇腹管3”の内側を通る。蛇腹管3”は、これまでに説明した他の弾性体と異なり、外力を受けたとき、軸方向に伸長でさるものでなければならないが、それ自体の体積が必ずしも減少するものでなくてもよい。蛇腹管3”は、その内部に溜められている水6が凍結してその体積が増加する場合に、軸方向に伸びて、水の体積の増加分を水封部2の外側に誘導し、これによって水封部2の内壁面にかかる圧力を吸収緩和する役目を果たす。」(明細書7頁9行~8頁3行)
「
[図:0001413203000003.jpg]
」
3 引用文献3
引用文献3には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「1は屋外水道管の立上り部にして、2はこの先端に取り付けられた蛇口、3、3’はエルボ、4はエルボ3、3’間の立管、5は立管4内に挿入した内圧吸収物体にして、この内圧吸収物体5は第2図に示すように内部7に空気を充満した柔軟性(弾性)を有する外殻6から成り、水の流れの抵抗にならないように流路を確保している。」(2欄18行~3欄4行)
「次に、外殻6は実施例の場合立管4と独立して形成しているが、第4図に示すように立管4の内壁部4’に形成してもよい。
本発明は以上のように、屋外水道管の立上り部1内の立管4内に内圧吸収物体5を挿入したので、冬期間において気温が下り、水道管内の水が凍結しても、この凍結時の立管4内における水(氷)の体積の増大(内圧の増大)分は、内圧吸収物体5が第3図に示すように変形(凹む)して吸収し、立管4側に破壊を伴う内圧としては作用しない。」(3欄10~19行)
「
[図:0001413203000004.jpg]
」
4 引用文献4
引用文献4には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0010】
図1は、実施形態に係るラックマウント型情報処理装置10の外観を示した図である。ラックマウント型情報処理装置10は、板状の電子機器を差し込むスロットを筐体内に複数有する。ラックマウント型情報処理装置10は、配管1を介して冷媒循環装置(以下、「CDU:Coolant Distribution Unit」という)2に接続されている。ラックマウント型情報処理装置10は、CDU2から供給される液体の冷媒を各スロットの電子機器へ供給するマニホールド配管を内部に有する。なお、図1では、各スロットが上下方向に沿って並ぶラックマウント型情報処理装置10が図示されている。しかし、ラックマウント型情報処理装置10は、各スロットが横方向に沿って並ぶものであってもよい。
【0011】
図2は、実施形態に係るラックマウント型情報処理装置10内の全体構造を示した図である。実施形態に係るラックマウント型情報処理装置10は、図2に示すように、電子機器15を差し込むスロット11が並ぶ方向に沿って延在するマニホールド配管12A,12Bを有する。マニホールド配管12Aは、CDU2から各電子機器15へ至る冷媒の経路の一部を形成する。マニホールド配管12Aの各スロット11に対応する部位には、マニホールド配管12Aと電子機器15とを繋ぐ柔軟な2本のホース(本願でいう「接続配管」の一例である)13A1、13A2が並列に繋がっている。マニホールド配管12Bは、各電子機器15からCDU2へ至る冷媒の経路の一部を形成する。マニホールド配管12Bの各スロット11に対応する部位には、電子機器15とマニホールド配管12Bとを繋ぐ2本のホース13B1,13B2が並列に繋がっている。各電子機器15には、冷媒が内部を流通する2つの液冷部品14-1,14-2が設けられている。液冷部品14-1にはホース13A1,13B1が接続され、液冷部品14-2にはホース13A2,13B2が接続されている。液冷部品14-1,14-2は、何れも冷却対象のユニット(例えば、演算処理装置等の各種発熱部品)に設けられている。
【0012】
図3は、実施形態に係るラックマウント型情報処理装置10内における電子機器15とマニホールド配管12A,12Bとの接続状態を示した図である。ラックマウント型情報処理装置10では、液冷部品14-1がホース13A1,13B1を介してマニホールド配管12A,12Bに接続され、液冷部品14-2がホース13A2,13B2を介してマニホールド配管12A,12Bに接続されている。すなわち、電子機器15には、液冷部品14-1と液冷部品14-2とを互いに直接接続する冷媒用の配管が不要である。本実施形態に係るラックマウント型情報処理装置10であれば、液冷部品14-1と液冷部品14-2とを直接接続する冷媒用の配管が不要なので、電子機器15に実装する電子部品の設置スペースの減少による電子部品の実装密度の低下を防ぐことができる。また、各液冷部品14-1,14-2がマニホールド配管12Aから冷媒の供給を直接受けるため、液冷部品14-1,14-2間で冷媒の温度差が生じることもなく、各液冷部品14-1,14-2が適正に冷却される。」
「【図1】
[図:0001413203000005.jpg]
【図2】
[図:0001413203000006.jpg]
【図3】
[図:0001413203000007.jpg]
」
第5 原査定の理由2について(引用発明との対比・判断)
1 本願発明1について
(1)対比
ア 本願発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用文献1における段落【0013】~【0015】等の記載を参照すると、引用発明の「ポンプ80」における「流出チャンバ84」は、循環冷却装置において、「ポンプ流出口86」を介して冷却対象に向けて「液体」を供給する手段として機能し、同じく「流入チャンバ82」は、「流出チャンバ84」から冷却対象に向けて供給された「液体」を回収する手段として機能することが理解できる。
そして、引用発明の「ポンプ80」は、「液体」を供給する上記手段及び「液体」を回収する上記手段を有するところ、引用発明の「ポンプ80」と、本願発明1の「マニホールド」とは、「流体回路要素」である点で共通するといえる。
以上から、引用発明における「ポンプ流出口86」を介して冷却対象に向けて「液体」を供給する手段としての「流出チャンバ84」と、冷却対象に向けて供給された「液体」を回収する手段としての「ポンプ流出口86」と、を有する「ポンプ80」と、本願発明1における「複数の冷却対象に向けて液体を供給する複数の配管の各々との複数の第1の接続口を長手方向に配置しており、前記複数の第1の接続口の少なくとも一部よりも長手方向における下部に配置した給水口から流入した前記液体であって、ポンプを介して前記給水口から給水された前記液体を前記複数の配管に分岐して前記複数の冷却対象に向けて供給する給水配管と」、「前記給水配管から前記複数の配管を介して前記複数の冷却対象に向けて供給された前記液体を、長手方向に配置された複数の第2の接続口から回収して、前記複数の第2の接続口の少なくとも一部より長手方向における下部に配置した排水口から前記ポンプに排水する排水配管と」を「有」する「マニホールド」とは、「冷却対象に向けて液体を供給する手段と」、「前記液体を供給する手段から冷却対象に向けて供給された前記液体を回収する手段と」、を有する「流体回路要素」である点で共通する。
(イ)引用発明は、「流入チャンバ82及び流出チャンバ84内には、エアポケット85、87が設けられており、流入チャンバ82、流出チャンバ84内における凍結によって膨張した氷は、エアポケット85、87によって占められている空間に侵入し」、「エアポケット85、87は所定のレベルの流体の膨張を受容でき」るものであるから、引用発明の、「流入チャンバ82」、「流出チャンバ84」は、それぞれ、「流入チャンバ82」、「流出チャンバ84」の内壁と液体とを隔て、前記液体の凍結に起因する体積膨張によって加わる圧力によって前記内壁との間の気体層の体積が減少する方向へ変形するように配置された「エアポケット85」、「エアポケット87」を有するといえる。
そして、引用発明の「エアポケット85」又は「エアポケット87」は、本願発明1の「壁」に相当する。
これらの点について、上記(ア)を踏まえると、引用発明における「流入チャンバ82及び流出チャンバ84内には、エアポケット85、87が設けられており、流入チャンバ82、流出チャンバ84内における凍結によって膨張した氷は、エアポケット85、87によって占められている空間に侵入し」、「エアポケット85、87は所定のレベルの流体の膨張を受容でき」ることと、本願発明1における「前記給水配管及び前記排水配管の少なくとも一方は」、「前記給水配管又は前記排水配管の内壁と前記液体とを隔て、前記液体の凍結に起因する体積膨張によって加わる圧力によって前記内壁との間の気体層の体積が減少する方向への変形であって、前記内壁側に凸の曲線の形状に変形するように、前記給水口または前記排水口よりも長手方向における上部に配置された壁と」を「有する」こととは、「前記給水する手段及び前記回収する手段の少なくとも一方は」、「前記給水する手段又は前記回収する手段の内壁と前記液体とを隔て、前記液体の凍結に起因する体積膨張によって加わる圧力によって前記内壁との間の気体層の体積が減少する方向へ変形するように、配置された壁と」を「有する」ことである点で共通する。
イ 上記アから、本願発明1と引用発明とは、次の点で一致する。
(一致点)
「冷却対象に向けて液体を供給する手段と、
前記液体を供給する手段から冷却対象に向けて供給された前記液体を回収する手段と、
を有し、
前記給水する手段及び前記回収する手段の少なくとも一方は、
前記給水する手段又は前記回収する手段の内壁と前記液体とを隔て、前記液体の凍結に起因する体積膨張によって加わる圧力によって前記内壁との間の気体層の体積が減少する方向へ変形するように、配置された壁と
を有する、
流体回路要素。」
ウ また、本願発明1と引用発明とは、次の点で相違する。
(相違点1)
「冷却対象」が、本願発明1では、「複数」であるのに対して、引用発明では、「複数」であることが特定されるものではない点。
(相違点2)
「冷却対象に向けて液体を供給する手段」が、本願発明1では、「複数の冷却対象に向けて液体を供給する複数の配管の各々との複数の第1の接続口を長手方向に配置しており、前記複数の第1の接続口の少なくとも一部よりも長手方向における下部に配置した給水口から流入した前記液体であって、ポンプを介して前記給水口から給水された前記液体を前記複数の配管に分岐して前記複数の冷却対象に向けて供給する給水配管」であるのに対して、引用発明では「ポンプ80」における「流出チャンバ84」であって、冷却対象に向けて「液体」を供給するものの、複数の配管の各々との複数の第1の接続口を長手方向に配置しているものではなく、前記複数の第1の接続口の少なくとも一部よりも長手方向における下部に配置した給水口から液体が流入するものではなく、ポンプを介して前記給水口から給水された前記液体を前記複数の配管に分岐するものでもなく、また、それ自体が配管を構成していない点。
(相違点3)
「冷却対象に向けて供給された前記液体を回収する手段」が、本願発明1では、「前記給水配管から前記複数の配管を介して前記複数の冷却対象に向けて供給された前記液体を、長手方向に配置された複数の第2の接続口から回収して、前記複数の第2の接続口の少なくとも一部より長手方向における下部に配置した排水口から前記ポンプに排水する排水配管」であるのに対して、引用発明では「ポンプ80」における「流入チャンバ82」であって、冷却対象に向けて供給された「液体」を回収するものの、回収を長手方向に配置された複数の第2の接続口から行うものではなく、前記複数の第2の接続口の少なくとも一部より長手方向における下部に配置した排水口から前記ポンプに排水するものでもなく、また、それ自体が配管を構成していない点。
(相違点4)
「壁」に関して、それが「変形」する態様及び配置が、本願発明1では、「前記内壁側に凸の曲線の形状に変形」するものであり、「前記給水口または前記排水口よりも長手方向における上部に」配置されたものであるのに対して、引用発明では、「エアポケット85」及び「エアポケット87」のいずれも、そのように特定されるものではない点。
(相違点5)
「流体回路要素」が、本願発明1では「マニホールド」であるのに対して、引用発明では「ポンプ80」である点。
(2)判断
そこで、まず、「冷却対象」に関するものである点で相互に関連する相違点1~3について、まとめて検討する。
給水口から給水された液体を複数の冷却対象に向けて液体を供給する複数の配管に分岐して複数の冷却対象に向けて供給する給水配管や、複数の冷却対象に向けて供給された液体を複数の接続口から回収して排水口から排水する排水配管は、例えば引用文献4(段落【0011】等参照)に示されているように周知技術である。
しかしながら、引用発明は、「ポンプ80」であって、それ自体に含まれる構成である「流出チャンバ84」、「流入チャンバ82」をそれぞれ給水配管、排水配管に変更する動機付けがあるとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用文献1~4に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
2 本願発明2~9について
本願発明2~7は、本願発明1を減縮した発明である。また、本願発明8,9は、実質的に本願発明1のすべての発明特定事項を含む、それぞれ「冷却装置」、「情報処理システム」の発明である。
そうすると、本願発明2~9も本願発明1と同様の理由により、当業者であっても引用文献1~4に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 小括
以上から、原査定の理由2を維持することはできない。
第6 原査定の理由1について
令和5年11月22日提出の手続補正書による補正の結果、請求項1の記載は、「給水配管」、「排水配管」について、それぞれ、「複数の冷却対象に向けて液体を供給する複数の配管の各々との複数の第1の接続口を長手方向に配置しており、前記複数の第1の接続口の少なくとも一部よりも長手方向における下部に配置した給水口から流入した前記液体であって、ポンプを介して前記給水口から給水された前記液体を前記複数の配管に分岐して前記複数の冷却対象に向けて供給する」ものであること、「前記給水配管から前記複数の配管を介して前記複数の冷却対象に向けて供給された前記液体を、長手方向に配置された複数の第2の接続口から回収して、前記複数の第2の接続口の少なくとも一部より長手方向における下部に配置した排水口から前記ポンプに排水する」ものであることが特定されるものとされた。
これにより、請求項1における「給水配管」及び「排水配管」についての記載と「マニホールド」との記載との不整合は解消している。
よって、原査定の理由1を維持することはできない。
第7 前置報告書について
前置報告書では、原査定における引用文献4を主たる引用文献として、本願発明1~9は進歩性を欠く旨が指摘されているので、この点について、以下、検討する。
本願発明1と、上記第4の4の記載がある引用文献4に記載された発明とを対比すると、両者は、少なくとも次の点で相違する。
本願発明1では、「前記給水配管及び前記排水配管の少なくとも一方」が、「前記給水配管又は前記排水配管の内壁と前記液体とを隔て、前記液体の凍結に起因する体積膨張によって加わる圧力によって前記内壁との間の気体層の体積が減少する方向への変形であって、前記内壁側に凸の曲線の形状に変形するように、前記給水口または前記排水口よりも長手方向における上部に配置された壁と」を有するのに対して、引用文献4に記載された発明では、「マニホールド配管12A」及び「マニホールド配管12B」のいずれも、そのように特定されるものではない点。
ここで、配管内に、当該配管の内壁と液体とを隔て、液体の凍結に起因する体積膨張によって加わる圧力によって内壁との間の気体層の体積が減少する方向へ変形する壁を配置することは、例えば引用文献2(上記第4の2を参照)、引用文献3(同3を参照)に示されているように周知技術である。
しかしながら、引用文献4には、「マニホールド配管12A」及び「マニホールド配管12B」のいずれかについて、その内部の冷媒の凍結に起因する体積膨張によって加わる圧力を減少させるべき課題があることは記載されておらず、自明でもない。
よって、引用文献4に記載された発明に上記周知技術を適用する動機付けがあるとはいえない。
以上から、本願発明1は、当業者であっても引用文献4に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本願発明2~9についても同様に、引用文献4に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-019786