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特許拒絶査定不服審判

2023-018882

リチウムイオン二次電池の製造方法

審判番号
2023-018882
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2022-074948
請求日
2023年11月07日
審決日
2024年08月19日
公報発行日
2024年11月29日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】ビークルエナジージャパン株式会社
  • 【請求人代理人】ポレール弁理士法人
審判長/審判官
  • 審判長 篠原 功一
  • 審判官 井上 信一
  • 審判官 須原 宏光
分類
P18 .121-Z (H01M)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2022- 74948「リチウムイオン二次電池の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 7月 5日出願公開、特開2022-100395〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 1.手続の経緯 本願は、2019年10月31日(優先権主張 2018年11月13日 日本国)を国際出願日として出願した特願2020-556029号の一部を令和4年4月28日に新たな出願としたものであって、その手続の経緯委は以下のとおりである。 令和5年 5月17日付け:拒絶理由通知 令和5年 7月24日 :意見書、手続補正書の提出 令和5年 8月 4日付け:拒絶査定(原査定) 令和5年11月 7日 :審判請求書の提出 2.本願発明 本願の請求項1ないし5に係る発明は、令和5年7月24日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項2】 正極電極と負極電極とをセパレータを介して対向させたリチウムイオン二次電池の製造方法であって、 前記リチウムイオン二次電池は、充放電反応に伴うリチウムイオンのインターカレーション及びデインターカレーションによる正極活物質粒子の割れを抑制するものであり、 正極集電箔の表面に第1の正極活物質粒子を含む第1のスラリーを塗布するとともに、該第1のスラリーの表面に前記第1の正極活物質粒子よりも平均粒子径が大きくかつタップ密度が高い第2の正極活物質粒子を含む第2のスラリーを塗布する塗布工程と、 前記正極集電箔の表面に塗布された前記第1のスラリーと該第1のスラリーの表面に塗布された前記第2のスラリーを乾燥させて、前記正極集電箔の表面に前記第1の正極活物質粒子を含む深層部を形成するとともに、該深層部の表面に前記第2の正極活物質粒子を含む表層部を形成する乾燥工程と、 前記乾燥工程を経て前記正極集電箔の表面に前記深層部が設けられ該深層部の表面に前記表層部が設けられた積層体を加圧するプレス工程と、 前記プレス工程を経た前記積層体を裁断して、前記表層部と前記深層部を含む正極合剤層を有する正極電極を得る裁断工程と、 前記正極電極と前記負極電極とを、前記セパレータを介して対向させ、前記正極合剤層の前記表層部を、前記セパレータを介して前記負極電極に対向させる電極群製造工程と、 を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。」 3.原査定の拒絶の理由の概要 本願の請求項2に対する原査定(令和5年8月4日付け拒絶査定)の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。 この出願の請求項2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び周知の技術事項(引用文献2、3に記載された技術事項)に基いて、その出願前にその発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1:特表2016-510941号公報 引用文献2:特開2009-163942号公報(周知技術を示す文献) 引用文献3:特開2013-239302号公報(周知技術を示す文献) 4.引用文献の記載及び引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特表2016-510941号公報)には、図面とともに以下の各記載がある。 (1)「【請求項1】 導電性基板を提供することと、 カソード活物質を含む第1のスラリ混合物を堆積させて前記導電性基板上に第1のカソード材料層を形成することと、 カソード活物質を含む第2のスラリ混合物を堆積させて前記第1のカソード材料層上に第2のカソード材料層を形成することと、 堆積されたままの状態の前記第1のカソード材料層と前記第2のカソード材料層を圧縮して所望の多孔度を達成することとを含む、多層カソード構造体を形成するための方法。 【請求項2】 前記第1のスラリ混合物と前記第2のスラリ混合物が各々独立して、 カソード活物質と、 結合剤、結合前駆体、導電性材料および溶媒のうちの少なくとも1つとを含む、請求項1に記載の方法。 ・・・・(中 略)・・・・ 【請求項4】 前記第1のスラリ混合物の前記カソード活物質のタップ密度が前記第2のスラリ混合物の前記カソード活物質のタップ密度と異なる、請求項2に記載の方法。 ・・・・(中 略)・・・・ 【請求項13】 前記第1のスラリ混合物の前記カソード活物質が第1の平均直径を有する粒子を含み、前記第2のスラリ混合物の前記カソード活物質が第2の平均直径を有する粒子を含み、前記第2の平均直径が前記第1の平均直径よりも大きい、請求項4に記載の方法。」 (2)「【0018】 図1Aは、本明細書に記載の実施形態に従って形成される1つまたは複数の電極構造体(アノード102a、102bおよび/またはカソード103a、103b)を有する両面電極を持つ部分電池セル100の概要図である。部分電池セル二重層100はLi-ion電池セル二重層であってよい。カソード構造体103(103aおよび103b)は本明細書に記載の多層電極構造体のうちのいずれかであってよい。図1Bは、本明細書に記載の実施形態に従って形成される1つまたは複数の電極構造体を有する部分電池セル120の概略図である。部分電池セル二重層120はLi-ion電池セル二重層であってよい。電池セル100、120は、本明細書に記載の一実施形態に従って、負荷101に電気的に接続される。電池セル二重層100の主要な機能構成要素には、アノード構造体102a、102b、カソード構造体103a、103b、セパレータ層104a、104bおよび115、集電体111および113、ならびに任意選択で、セパレータ層104a、104bの間の領域内に設けられる電解質(図示せず)がある。電池セル120の主要な機能構成要素には、アノード構造体102b、カソード構造体103b、セパレータ115、集電体111および113、ならびに集電体111、113の間の領域内に設けられる任意選択の電解質(図示せず)がある。様々な材料、たとえば有機溶媒中のリチウム塩が電解質として使用されてよい。電池セル100、120は、集電体111および113のための導線を持つ適切なパッケージに気密に密封されてよい。」 (3)「【0025】 図2A~2Cは、本明細書に記載の実施形態に従って形成される部分多層カソード電極構造体103の一実施形態の概略横断面図である。図3は、本明細書に記載の実施形態に従って多層カソード電極構造体を形成するための方法の一実施形態を要約する処理フローチャート300である。図2A~2Cの多層電極構造体103が処理フローチャート300を参照して論じられる。 【0026】 ブロック310で、導電性基板が提供される。導電性基板は集電体113と同様であってよい。図2Aに描くように、集電体113が、集電体113への多層カソード材料202の堆積に先立って概略的に例示される。一実施形態では、集電体113は導電性基板(たとえば、金属箔、シート、または板)である。一実施形態では、集電体113はフレキシブル導電性基板(たとえば、金属箔)である。一実施形態では、集電体113は絶縁被覆がその上に設けられる導電性基板である。一実施形態では、集電体113は、金属やプラスチック、黒鉛、ポリマー、炭素含有ポリマー、複合材、他の適切な材料などの1つまたは複数の導電性材料を含むホスト基板上に設けられる比較的薄い導電層を含んでよい。集電体113が構成されてよい金属の例には、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、スズ(Sn)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、それらの合金、およびそれらの組合せがある。一実施形態では、集電体113は穿孔される。 ・・・・(中 略)・・・・ 【0029】 ブロック320で、カソード活物質を含む第1のスラリ混合物が集電体113に堆積されて、図2Bに示すように集電体113上に第1のカソード材料層210を形成する。一実施形態では、第1のカソード材料層210は約10μm~約150μmの間の厚さを有する。一実施形態では、第1のカソード材料層210は約50μm~約100μmの間の厚さを有する。集電体113が多孔性構造体である実施形態では、第1のカソード材料層210は集電体113の細孔内に堆積されてよい。 ・・・・(中 略)・・・・ 【0044】 ブロック330で、カソード活物質を含む第2のスラリ混合物が第1のカソード材料層210に堆積されて、第2のカソード材料層220を形成する。第2のスラリ混合物は本明細書に記載のような第1のスラリ混合物と同様であってよい。第1のスラリ混合物を参照して上述したように、第2のスラリ混合物は、カソード活物質、ならびにバインダ、導電性材料および溶媒のうちの少なくとも1つを含んでよい。 ・・・・(中 略)・・・・ 【0048】 任意選択でブロック330の後に、第2のスラリ混合物は、スラリ混合物に存在する液体、たとえば溶媒を除去するために任意選択の乾燥処理に曝露されてよい。第2のスラリ混合物は、堆積処理からすべての残っている溶媒を除去するために任意選択の乾燥処理に曝露されてよい。任意選択の乾燥処理は、たとえばスラリ混合物を加熱ガス(たとえば、加熱窒素)の少なくとも1つに曝露する空気乾燥処理、真空乾燥処理、赤外線乾燥処理、およびスラリ混合物が堆積される集電体を加熱することなどの乾燥処理を含んでよいが、これに限定されない。特定の実施形態では、第1のスラリ混合物と第2のスラリ混合物との両方が同時に乾燥されてよい。 ・・・・(中 略)・・・・ 【0051】 ブロック340で、堆積されたままの状態の第1のカソード材料層210と第2のカソード材料層220は圧縮されて、所望の多孔度を達成する。いくつかの実施形態では、約2,000~7,000psiの圧力が圧縮処理の間カソード材料層に印加される。導電性基板上に堆積されたカソード材料層は、層の表面を平坦化しながら圧密粒子の所望の正味密度を達成するために、圧縮技法、たとえば、カレンダ処理を用いて圧縮されてよい。」 (4)「【0055】 特定の実施形態では、第1の層210のカソード活物質の平均粒径と第2の層220のカソード活物質の平均粒径は同様である。特定の実施形態では、第1の層210のカソード活物質の平均粒径と第2の層220のカソード活物質の平均粒径は異なる。特定の実施形態では、第1のカソード材料層210のカソード活物質と第2のカソード材料層220のカソード活物質は異なる粒径の同じ材料を含む。平均粒径の差は各層の異なる表面積および/または異なる多孔度をもたらす。」 (5)「【0058】 特定の実施形態では、多層カソード電極において、各層は他層のカソード活物質のタップ密度と異なるタップ密度を有するカソード活物質を含む。特定の実施形態では、第1のカソード材料層210は約2g/cm3と約3g/cm3との間のタップ密度を有するカソード活物質を含む。特定の実施形態では、第2のカソード材料層220は約2g/cm3と約3g/cm3との間のタップ密度を有する材料を含む。特定の実施形態では、第1のカソード材料層210は約3μmの平均粒径と約2.5g/cm3のタップ密度を有するカソード活物質を含み、第2のカソード材料層220は約10μmの平均粒径と約2.8g/cm3のタップ密度を有するカソード活物質を含む。特定の実施形態では、第1のカソード材料層210は約10ミクロンの平均粒径と約2.8g/cm3のタップ密度を有するカソード活物質を含み、第2のカソード材料層220は約3ミクロンの平均粒径と約2.5g/cm3のタップ密度を有するカソード活物質を含む。典型的に、より小さい粒子は材料のグラム当たりより高い表面積を有し、したがって、より高い多孔度を有すると予期される。より高いタップ密度が低多孔度を生み出すと考えられる。」 (6)「 [図:0001416195000001.jpg] 」 (7)「 [図:0001416195000002.jpg] 」 上記(1)ないし(7)から以下のことがいえる。 ・上記(1)の【請求項1】、(3)の記載、及び(7)(図3)によれば、引用文献1には、多層カソード構造体を形成するための方法について記載されており、カソード活物質を含む第1のスラリ混合物を堆積させて導電性基板上に第1のカソード材料層を形成し、カソード活物質を含む第2のスラリ混合物を堆積させて前記第1のカソード材料層上に第2のカソード材料層を形成する行程(ブロック320及びブロック330の工程)と、堆積されたままの状態の前記第1のカソード材料層と前記第2のカソード材料層を圧縮して所望の多孔度を達成する工程(ブロック340の工程)とを含むものである。 ここで、上記(3)の段落【0026】の記載によれば、上記導電性基板は集電体であり、例えば金属箔からなるものである。また、上記(3)の段落【0051】の記載によれば、堆積された第1のカソード材料層と第2のカソード材料層を圧縮は、例えばカレンダ処理を用いて行われるものである。 ・上記(3)の段落【0048】の記載によれば、ブロック340の工程の前に、特定の実施形態では、第1のスラリ混合物と第2のスラリ混合物との両方が同時に乾燥処理されてよいものである。 ・上記(1)の【請求項4】、【請求項13】、(4)、(5)の記載によれば、第1のカソード材料層のカソード活物質のタップ密度と第2のカソード材料層のカソード活物質のタップ密度は異なり、また、第1のカソード材料層のカソード活物質の平均粒径と第2のカソード材料層のカソード活物質の平均粒径も異なるものであり、特に上記(5)の記載によれば、特定の実施形態では、第1のカソード材料層は約3μmの平均粒径と約2.5g/cm3のタップ密度を有するカソード活物質を含み、第2のカソード材料層は約10μmの平均粒径と約2.8g/cm3のタップ密度を有するカソード活物質を含むものである。 ・そして、上記(2)の記載、及び(6)(図1A)によれば、上記多層カソード構造体(多層電極構造体)を有する部分電池セルはLi-ion電池セルであってもよく、当該電池セルは、集電体の両面に形成されたアノード構造体と集電体の両面に形成された上記多層カソード構造体とを、セパレータ層を介して対向配置してなるものである。 以上のことから、特に多層カソード構造体における第1のカソード材料層は約3μmの平均粒径と約2.5g/cm3のタップ密度を有するカソード活物質を含み、第2のカソード材料層は約10μmの平均粒径と約2.8g/cm3のタップ密度を有するカソード活物質を含む特定の実施形態に着目するとともに、多層カソード構造体を有する部分電池セルがLi-ion電池セルである場合における当該Li-ion電池セルを製造する方法を発明として捉え、上記記載及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「カソード活物質を含む第1のスラリ混合物を堆積させて金属箔からなる集電体上に第1のカソード材料層を形成し、カソード活物質を含む第2のスラリ混合物を堆積させて前記第1のカソード材料層上に第2のカソード材料層を形成する工程と、 前記第1のスラリ混合物と前記第2のスラリ混合物との両方を同時に乾燥処理する工程と、 前記乾燥処理する工程の後、堆積されたままの状態の前記第1のカソード材料層と前記第2のカソード材料層をカレンダ処理を用いて圧縮して所望の多孔度を達成する工程とを含む、多層カソード構造体を形成する工程と、を含み、 前記多層カソード構造体における前記第1のカソード材料層は約3μmの平均粒径と約2.5g/cm3のタップ密度を有する前記カソード活物質を含み、前記第2のカソード材料層は約10μmの平均粒径と約2.8g/cm3のタップ密度を有する前記カソード活物質を含み、 集電体の両面に形成されたアノード構造体と前記集電体の両面に形成された前記多層カソード構造体とを、セパレータ層を介して対向配置してなるLi-ion電池セルを製造する方法。」 5.対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明は「カソード活物質を含む第1のスラリ混合物を堆積させて金属箔からなる集電体上に第1のカソード材料層を形成し、カソード活物質を含む第2のスラリ混合物を堆積させて前記第1のカソード材料層上に第2のカソード材料層を形成する工程」を含むものであるところ、「金属箔からなる集電体」は、本願発明でいう「正極集電箔」に相当し、また、「第1のスラリ混合物」、第1のスラリ混合物が含む「カソード活物質」、「第2のスラリ混合物」、第2のスラリ混合物が含む「カソード活物質」が、それぞれ本願発明でいう「第1のスラリー」、「第1の正極活物質粒子」、「第2のスラリー」、「第2の正極活物質粒子」に相当し、引用発明においても、第1のスラリ混合物を堆積(塗布)し、その表面に第2のスラリ混合物を堆積(塗布)しているといえるものである。 そして、引用発明では、第1のカソード材料層は約3μmの平均粒径と約2.5g/cm3のタップ密度を有するカソード活物質を含み、第2のカソード材料層は約10μmの平均粒径と約2.8g/cm3のタップ密度を有するカソード活物質を含むものであることから、第2のカソード材料層を形成する第2のスラリ混合物が含むカソード活物質は、第1のカソード材料層を形成する第1のスラリ混合物が含むカソード活物質よりもその平均粒径が大きくかつタップ密度が高いと解される。 したがって、本願発明と引用発明とは、「正極集電箔の表面に第1の正極活物質粒子を含む第1のスラリーを塗布するとともに、該第1のスラリーの表面に前記第1の正極活物質粒子よりも平均粒径が大きくかつタップ密度が高い第2の正極活物質粒子を含む第2のスラリーを塗布する塗布工程」を含むものである点で一致するといえる。 (2)引用発明は「前記第1のスラリ混合物と前記第2のスラリ混合物との両方を同時に乾燥処理する工程」を含むものであるところ、乾燥処理後の第1のスラリ混合物から形成される「第1のカソード材料層」は金属箔からなる集電体上に形成されてなるものであり、乾燥処理後の第2のスラリ混合物から形成される「第2のカソード材料層」はその第1のカソード材料層上に形成されてなるものであることから、これら乾燥処理後における「第1のカソード材料層」、「第2のカソード材料層」が、それぞれ本願発明でいう「深層部」、「表層部」に相当するものである。 したがって、本願発明と引用発明とは、「前記正極集電箔の表面に塗布された前記第1のスラリーと該第1のスラリーの表面に塗布された前記第2のスラリーを乾燥させて、前記正極集電箔の表面に前記第1の正極活物質粒子を含む深層部を形成するとともに、該深層部の表面に前記第2の正極活物質粒子を含む表層部を形成する乾燥工程」を含むものである点で一致する。 (3)引用発明は「前記乾燥処理する工程の後、堆積されたままの状態の前記第1のカソード材料層と前記第2のカソード材料層をカレンダ処理を用いて圧縮して所望の多孔度を達成する工程」を含むものであるところ、かかるカレンダ処理を用いた圧縮は、カレンダローラ間を圧力(プレス)をかけながら通過させることにより行われるものであるから、本願発明と引用発明とは、「前記乾燥工程を経て前記正極集電箔の表面に前記深層部が設けられ該深層部の表面に前記表層部が設けられた積層体を加圧するプレス工程」を含むものである点で一致するということができる。 (4)本願発明では「前記プレス工程を経た前記積層体を裁断して、前記表層部と前記深層部を含む正極合剤層を有する正極電極を得る裁断工程」を含むことを特定するのに対し、引用発明ではそのような特定を有していない点で相違する。 (5)引用発明においても「Li-ion電池セル」の製造に際して電極群製造工程が含まれることは当然のことである。そして、製造される「Li-ion電池セル」は、集電体の両面に形成されたアノード構造体と前記集電体の両面に形成された前記多層カソード構造体とを、セパレータ層を介して対向配置してなるものであり、これらのうち、「集電体」及びその「集電体の両面に形成されたアノード構造体」からなるものが本願発明でいう「負極電極」に相当し、「集電体」及びその「集電体の両面に形成された多層カソード構造体」からなるものが本願発明でいう「正極電極」に相当し、「セパレータ層」が本願発明でいう「セパレータ」に相当し、引用発明にあっても、多層カソード構造体における第1のカソード材料層上に形成した第2のカソード材料層がセパレータ層を介してアノード構造体と対向することになるものである。ここで、引用発明における「第1のカソード材料層」及び「第2のカソード材料層」からなるものが本願発明でいう「正極合剤層」に相当する。 したがって、本願発明と引用発明とは、「正極電極と負極電極とを、セパレータを介して対向させ、正極合剤層の前記表層部を、前記セパレータを介して前記負極電極に対向させる電極群製造工程」を含むものである点で一致するといえる。 そして、引用発明における「Li-ion電池セルを製造する方法」にあっても、金属箔からなる集電体上に本願発明でいう「深層部」及び「表層部」を形成する工程を含むものであり、本願発明でいう「リチウムイオン二次電池の製造方法」に相当するものであるといえ、本願発明と引用発明とは、「正極電極と負極電極とをセパレータを介して対向されたリチウムイオン二次電池の製造方法」である点で一致する。 ただし、本願発明では「前記リチウムイオン二次電池は、充放電反応に伴うリチウムイオンのインターカレーション及びデインターカレーションによる正極活物質粒子の割れを抑制するものであ」ることを特定するのに対し、引用発明ではそのような特定がない点では相違する。 よって、上記(1)ないし(5)によれば、本願発明と引用発明とは、 「正極電極と負極電極とをセパレータを介して対向させたリチウムイオン二次電池の製造方法であって、 正極集電箔の表面に第1の正極活物質粒子を含む第1のスラリーを塗布するとともに、該第1のスラリーの表面に前記第1の正極活物質粒子よりも平均粒子径が大きくかつタップ密度が高い第2の正極活物質粒子を含む第2のスラリーを塗布する塗布工程と、 前記正極集電箔の表面に塗布された前記第1のスラリーと該第1のスラリーの表面に塗布された前記第2のスラリーを乾燥させて、前記正極集電箔の表面に前記第1の正極活物質粒子を含む深層部を形成するとともに、該深層部の表面に前記第2の正極活物質粒子を含む表層部を形成する乾燥工程と、 前記乾燥工程を経て前記正極集電箔の表面に前記深層部が設けられ該深層部の表面に前記表層部が設けられた積層体を加圧するプレス工程と、 前記正極電極と前記負極電極とを、前記セパレータを介して対向させ、前記正極合剤層の前記表層部を、前記セパレータを介して前記負極電極に対向させる電極群製造工程と、 を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 本願発明では「前記リチウムイオン二次電池は、充放電反応に伴うリチウムイオンのインターカレーション及びデインターカレーションによる正極活物質粒子の割れを抑制するものであ」ることを特定するのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。 [相違点2] 本願発明では「前記プレス工程を経た前記積層体を裁断して、前記表層部と前記深層部を含む正極合剤層を有する正極電極を得る裁断工程」を含むことを特定するのに対し、引用発明ではそのような特定を有していない点。 6.判断 上記相違点について検討する。 [相違点1]について 本願発明の上記相違点1に係る構成における「充放電反応に伴うリチウムイオンのインターカレーション及びデインターカレーションによる正極活物質粒子の割れを抑制する」ことに関して、本願明細書の特に段落【0058】の「このように、正極合剤層31bの表層部31sに含まれる正極活物質粒子Psの平均粒子径が、深層部31dに含まれる正極活物質粒子Pdの平均粒子径よりも大きいことで、表層部31sの正極活物質粒子Psの割れが抑制される。すなわち、正極活物質粒子Psは、相対的に平均粒子径が大きいことで、二次電池100の充放電反応に伴うリチウムイオンのインターカレーションおよびデインターカレーションによる割れを抑制することができる。」という記載によれば、本願発明が、表層部に含まれる第2の正極活物質粒子の平均粒径が、深層部に含まれる第1の正極活物質粒子の平均粒径よりも大きいという特定事項を備えることによって、上記「充放電反応に伴うリチウムイオンのインターカレーション及びデインターカレーションによる正極活物質粒子の割れを抑制する」ことができるものであると理解できる。なお、審判請求書においても「また、請求項1及び2に係る発明は、明細書段落(0058)に記載したとおり、『正極合剤層31bの表層部31sに含まれる正極活物質粒子Ps』は、『相対的に平均粒子径が大きいことで、二次電池100の充放電反応に伴うリチウムイオンのインターカレーションおよびデインターカレーションによる割れを抑制することができる。』という有利な効果を奏する。」と記載(8頁下から4行目~9頁1行目)されている。そしてさらに言えば、正極活物質粒子の割れの抑制の程度については何ら特定(限定)されていないことも踏まえると、上記相違点1に係る構成の記載は、上述した表層部に含まれる第2の正極活物質粒子の平均粒径が、深層部に含まれる第1の正極活物質粒子の平均粒径よりも大きいという本願発明が備えている特定事項を何らさらに特定(限定)するものでもない。 したがって、本願発明の上記相違点1に係る構成は、本願発明が、表層部に含まれる第2の正極活物質粒子の平均粒径が、深層部に含まれる第1の正極活物質粒子の平均粒径よりも大きいという特定事項を備えることで実現される作用を特定したにずきないものといえ、これに対して引用発明においても、表層部である第2のカソード材料層に含まれるカソード活物質の平均粒径(約10μm)は、深層部である第1のカソード材料層に含まれるカソード活物質の平均粒径(約3μm)よりも大きいのであるから、本願発明の上記相違点1に係る構成もおのずと備えるものであるということができる。 よって、上記相違点1は実質的な相違ではない。 [相違点2]について 例えば原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2009-163942号公報、特に【請求項8】、段落【0042】、図1Bを参照)、引用文献3(特開2013-239302号公報、特に【請求項1】、段落【0046】を参照)に記載のように、非水系二次電池(リチウムイオン二次電池)の製造において、帯状の正極連続体(本願発明でいう「積層体」)を裁断して所定サイズの正極電極を得るようにすることはごく普通に行われる周知の工程にすぎず、引用発明においてもかかる周知の工程を付加し、相違点2に係る構成することは当業者が適宜なし得たことである。 よって、本願請求項2に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 7.審判請求人の主張について 審判請求人は、審判請求書において「引用文献1の段落(0090)においては、『第2のカソード材料層640の多孔度』が小さい場合と大きい場合とが併記されている。・・・このように、本願の請求項1及び2に係る発明は、引用文献1のように『第2のカソード材料層』の『最終多孔度』が大きくても小さくても構わないような構成とは異なり、『表層部』において、『正極活物質粒子』の『平均粒子径』を大きくし、かつ、『空間率』を低くした構成又は『タップ密度』を高くした構成に限定し、所望の効果を奏するものとしている。したがって、本願の請求項1及び2に係る発明は、引用文献1には記載されていない課題を限定された構成により解決するものであり、引用文献1と引用文献2~6とをどのように組み合わせても想到し得るものではない。」(11頁下から4行~12頁下から2行)と主張している。 しかしながら、確かに引用文献1の段落【0090】には特定の実施形態として第2のカソード材料層の方が多孔度が小さい場合と、逆に、特定の実施形態として第2のカソード材料層の方が多孔度が大きい場合とが併記され、同様に、段落【0058】においても特定の実施形態として第2のカソード材料層の方が平均粒径が大きくかつタップ密度が高い場合と、逆に、特定の実施形態として第2のカソード材料層の方が平均粒径が小さくかつタップ密度が低い場合とが併記されているものの、これらは別々の実施形態に係るものとして記載されているのであるから、このうちの一方の実施形態に係るものに着目して引用発明のように認定することに何ら問題はなく、そして当該引用発明は、表層部である第2のカソード材料層の方が平均粒径が大きくかつタップ密度が高い構成、すなわち審判請求人がいう「限定された構成」を備えるものである以上、審判請求人の上記主張を採用することはできない。 8.むすび 以上のとおり、本願の請求項2に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-018882

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