特許拒絶査定不服審判
2023-016173
歯周病の診断方法、使用、キット
- 審判番号
- 2023-016173
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-555156
- 請求日
- 2023年09月26日
- 審決日
- 2024年12月02日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
- 【請求人代理人】伊東 忠重
- 【請求人代理人】伊東 忠彦
- 【請求人代理人】宮崎 修
- 審判長/審判官
- 審判長 南 宏輔
- 審判官 加々美 一恵
- 審判官 ▲高▼見 重雄
- 分類
- P18 .537-Z (G01N) / P18 .121-Z (G01N) / P18 .113-Z (G01N) / P18 .14 -Z (G01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-555156「歯周病の診断方法、使用、キット」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月17日国際公開、WO2019/197642、令和 3年 8月26日国内公表、特表2021-521424〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯の概要
本願は、2019年(平成31年)4月12日(パリ条約による優先権主張 2018年4月12日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、本願の出願後の主な手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和2年12月10日 手続補正書の提出
令和5年 3月28日付け 拒絶理由通知
令和5年 6月28日 意見書、手続補正書の提出
令和5年 8月 1日付け 拒絶査定
令和5年 9月26日 審判請求書、手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~19に係る発明は、令和5年9月26日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~19に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項6に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
【請求項6】
ヒト患者の唾液試料において、前記ヒト患者が歯周病であるかを評価するためのバイオマーカーとしての、以下の:
α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)及びプロフィリン、又は
α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、プロフィリン及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9);
のタンパク質の使用。
なお、本願発明は、令和5年9月26日に提出された手続補正書で補正はなされておらず、拒絶査定時の請求項6と同一である。
第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、以下のものを含む。
(進歩性)この出願の請求項6に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特表2015-529333号公報
第4 当審の判断
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
本願優先日前に公知となった刊行物で、原査定の引用文献1として引用された特表2015-529333号公報(以下、「引用文献1」という。)には以下の記載がある。なお、下線は合議体が付した。
ア 特許請求の範囲
【請求項1】
歯周疾患の状態を診断するための方法であって、以下:
歯肉溝滲出液(GCF)サンプルおよび唾液サンプルの少なくとも一方を提供すること;
歯周炎の特定の状態を同定するための1セットのタンパク質バイオマーカーを選択すること;および
歯周疾患の前記状態を診断するための、前記選択されたセットのタンパク質バイオマーカーの発現レベルを決定すること、
を含む、方法。
【請求項2】
前記セットのタンパク質バイオマーカーを、歯肉炎の状態と歯周炎の状態とを区別するために選択する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記セットのタンパク質バイオマーカーに、アルファ-1-酸性糖タンパク質1および2、マトリクスメタロプロテイナーゼ-9、ペプチジル-プロリルcis-transイソメラーゼA、ならびにハプトグロビン関連タンパク質(IPI00431645.1)からなる群から選択される、少なくとも1種のタンパク質が含まれる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
イ 発明の詳細な説明
【0002】
歯肉炎は、歯茎の軟部組織炎症を伴う、歯周疾患の非破壊形態(non-destructive form)である。歯肉炎は、典型的には、歯に付着した、細菌性バイオフィルムまたは歯垢の身体的応答(bodily response)として起こる。適切な処置が欠如する場合には、歯肉炎は、歯周炎へ進行し得、これは、歯周疾患の破壊形態(destructive form)を代表する。歯周炎は、より軽度の前記疾患(a milder of the disease)から開始し得るが、これは後に、重度の歯周炎へ進行する。歯周炎は、常に歯肉炎の発現が先行する。・・・
【0044】
例
例1
歯肉溝滲出液(GCF)および唾液のプロテオームを分析して、例えば、歯肉炎、軽度の歯周炎、および重度の歯周炎などの異なる口腔疾患の状態のバイオマーカーを同定した。GCFおよび唾液サンプルを、何人かの患者の口腔から非侵襲的に採取した。フーリエ変換-タンデム質量スペクトル計(FT MS/MS)に連結された、液体クロマトグラフィー法を使用して、前記サンプル内からタンパク質バイオマーカーを分離して、前記タンパク質バイオマーカーを同定した。
【0045】
健康な口腔状態および疾患の口腔状態を区別するであろうバイオマーカーのパネルを試行して解明するために、前記FT MS/MSプロテオームアプローチを、歯周病について健康なボランティア、歯肉炎のボランティア、軽度のおよび重度の歯周炎のボランティア、ならびに無歯ボランティア(無歯対照)から採取したサンプルに適用した。特に、前記FT MS/MSアプローチがなされることにより:
1.歯周病について健康的かおよび疾患的かを区別すること
2.歯肉炎および歯周炎を区別すること
3.軽度および重度の歯周炎を区別すること
ができる、新規なタンパク質バイオマーカーを、歯肉溝滲出液(GCF)および誘導唾液の非推定プロテオーム分析により見出した。
【0046】
研究計画
表1
[図:0001421929000001.jpg]
【0047】
患者ボランティアの5つの群を、表1に定義するとおりに採用した。臨床的に示唆され得るルーチンの治療以外に計画された介入なしで(with no interventions planned other than routine therapy that may be clinically indicated)、前記研究を横断的研究として行った。サンプリングのために、1回の来院のみがベースラインにおいて必要であったが、群3および4の患者は、ルーチンの歯周測定(periodontal scaling)、歯根表面創面切除および予防を必要とし、したがって、彼らの治療の完了後、再検査され、3か月後にサンプリングした。したがって、縦断的分析が、群3および4について利用可能であった。前記臨床評価を、熟練した研究歯科医(a trained study dental surgeon)により実行した。
【0048】
サンプル採取
ボランティアは、標準ろ紙片(Periopapers(登録商標))上で非侵襲的に、前記歯肉(歯茎)縁から採取されたGCFの6個のサンプルを提供することを求められた。彼らはまた、滅菌マーブル(sterile marble)を彼らの口腔内を5分間回転させて、体積測定用段階的滅菌ガラス採取バイル(a graduated sterile glass collection vile)中に吐き出すことより、誘導唾液サンプルを提供することを求められた。
【0049】
GCFおよび唾液を、10人のボランティアから採取し、そのそれぞれを5つの表現型群:健康、歯肉炎、軽度の歯周炎、重度の歯周炎、およびa -ve対照群(a -ve control group)として無歯患者、に明確に定義した。したがって、合計50人のボランティアを採用してサンプリングした。前記歯周組織炎を除去して改善された健康を回復するために、歯周炎のボランティア(群3および4)を次いで非外科的に処置した。GCFおよび唾液をまた、これらの2つの群においては、処置後3か月後に採取して、縦断的データを提供した。
【0050】
表2は、ベースライン時点および治療後の時点で、5つの発現型群を表す50人の患者から得られた平均臨床データを提示する。GCFおよび唾液サンプルを、10人のボランティアから採取し、そのそれぞれを5つの表現型群:群I(健康)、群II(歯肉炎)、群III(軽度の歯周炎)、群IV(重度の歯周炎)、群V(陰性対照群としての無歯患者)、に明確に定義し、ここで、前記表現型群を、予め定義された臨床データ閾値に基づいて定義する。前記歯周組織炎を除去して改善された健康を回復するために、歯周炎のボランティア(群3および4)を、非外科的に処置したので、「ベースライン」および「再調査」の両方の臨床データを有する。
【0051】
表2
[図:0001421929000002.jpg]
【0052】
サンプル処理
GCFサンプル
GCFサンプルを、ボランティア毎に6本の歯の近心面頬面(mesio-buccal)サイトから、従来のとおりに(as is convention)30秒間、Perotron 8000(登録商標)で体積を読み、Periopaper片上に採取した(Chapple et al 1999)。これらを1.5mL スクリュートップクライオチューブ中の、400μLの100mM 炭酸アンモニウム緩衝液中に置いた。前記GCFサンプルを、直ちに-80℃まで凍結した。分析に先立って、GCFを氷上で解凍した。前記チューブを30秒間ボルテックスして、溶液を清潔なスナップトップエッペンドルフチューブ中に除去した。200μLの炭酸アンモニウム(100mM)を、前記片に添加した。これらを、30秒間、再度ボルテックスして、13,000RPMで5分間、再度遠心分離した。溶液を除去して、前のものに添加した。群内の各サンプルから、150μLを合わせて、群毎に、単一の「プールされた(pooled)」サンプルを得た。個別の患者サンプルを戻して(held back)、いったん好ましいバイオマーカーパネルが解明されたところで、患者特有レベルでの研究後の再評価が可能となるようにした。したがって、6×1.5mL「母集団」サンプルが、表3に示すとおり、MSによるプロテオーム分析に利用可能であった。
【0053】
表3
[図:0001421929000003.jpg]
【0054】
唾液サンプル
唾液の分泌を、滅菌マーブルを使用して誘導し、15mLファルコンチューブ中に5分間採取した。チューブを、-80℃で凍結させた。分析に先立って、前記唾液を4℃で解凍した。追加のファルコンチューブを、解凍前に秤量して、透明の(clarified)唾液を移動した。いったん解凍されたところで、前記唾液を、1.5mL スナップトップエッペンドルフチューブ中に等分して、13,000RPMで5分間、遠心分離した。上澄みを、前記予め秤量されたチューブ中に移動した。前記破片ペレット(debris pellet)をまた、今後の分析のために保持した。唾液の重量および体積の両方を記録した。群毎に、10μLの各唾液サンプルを、GCFサンプルと同様のやり方で合わせた。しかしながら、GCFとは異なり、唾液は、無歯患者群(群5)から利用可能であったため、合計7×105μLの「母集団」の唾液サンプルとなった。GCFについては、前記個別の患者サンプルを戻して、今後の「患者レベル」分析が可能となるようにした。前記プールされた唾液サンプルを、13,000RPMで5分間、遠心分離して、100μLを保持した。これは、最終サンプル中に、破片が移動されないことを保証するものであった。炭酸アンモニウム(100μL、200mM)を、各サンプルに添加した。
【0055】
LC FT MS/MSによるサンプル分析
ジチオトレイトール(dithiothrietol)を、GCFおよび唾液サンプルの両方に添加し(20μL、50mM)、これらを、60℃で45分間振とうしながらインキュベートして、あらゆるジスルフィド結合を還元した。前記サンプルを、ヨードアセトアミド(100μL、22mM)の添加および暗所での25分間室温でのインキュベートの前に室温に戻した。ヨードアセトアミドは、システイン残基上の遊離チオール基をアルキル化する。ジチオトレイトール(2.8μL、50mM)を添加して、残留する、あらゆるヨードアセトアミドをクエンチした。1μgのLys-C(リシン残基のC末端でタンパク質を切断するもの)を、各サンプル(1:100 酵素:タンパク質)に添加して、37℃で振とうしながら4時間インキュベートした。2μgのトリプシン(リシンおよびアルギニン残基のC末端でタンパク質を切断するもの)を添加し、一晩37℃で、消化を継続した。
【0056】
前記サンプルを、(iTRAQラベリングに必要な)脱塩に先立って真空遠心分離乾燥した。前記サンプルを酸性化して(200μL、0.5% TFA)、マクロトラップ(Michrom)を使用して脱塩を行った。前記トラップをアセトニトリルで湿らせ(3×50%、200μL)、続いてトリフルオロ酢酸で洗浄した(3×0.1%、200μL)。前記サンプルを、次いで前記トラップをにより負荷し、溶離液は、再度前記トラップを通った。前記トラップを、再度トリフルオロ酢酸で洗浄し(3×0.1%、200μL)、最終的にペプチドをアセトニトリルで溶離した(70%、100μL)。前記サンプルを、真空遠心分離乾燥した。
【0057】
前記乾燥サンプルを、以下の表4に示すとおり、前記iTRAQ 8-plexラベルでラベルした。前記ラベリングにより、全てのサンプルが連続的に混合され、一連の条件下で、三連で(in triplicate)行うことが可能となる。続いて、前記個別群のサンプルを、前記iTRAQラベルから同定した。
【0058】
表4
【表4】
[図:0001421929000004.jpg]
【0059】
全ての個別のサンプルを、GCFおよび唾液のそれぞれについて、一緒に混合する前に、前記サンプルをラベルして2時間室温でインキュベートした。前記合わせたサンプル(1つのプールされた唾液および1つのプールされたGCF)を、真空遠心分離乾燥した。前記サンプルを、前記SCXシステムのための100μLの移動相A中に再懸濁させた(10mM KH2PO4、pH 3、20% MeCN)。前記ペプチドを上記の移動相Aおよび移動相Bを使用した、強カチオン交換クロマトグラフィーを使用して、分離した(10mM KH2PO4、500mM KCl、pH 3、20% MeCN)。勾配を、90分間かけた。15個の画分を回収した。画分15および12を合わせて、同様に13および14を合わせて、13画分を得た。
【0060】
図2および3を参照して、214nmで記録された前記UVを有する、得られたSCX UVトレースを、唾液サンプルおよびGCFサンプルのそれぞれについて示す。前記唾液およびGCFサンプルを、次いで、上記のマクロトラップLCカラムで脱塩して、真空遠心分離して、200μLの0.1%ギ酸中に再度懸濁した。20μLの前記サンプルを、2個のジップチップ(ziptip)で脱塩して、20μL中で溶離した。
【0061】
画分分析
各画分を、三連で、LC-MS/MSにより分析した。ペプチドを移動相A(0.1% ギ酸)中で、150mm Acclaim PepMap100 C18カラム上に負荷した。ペプチドを、350nl/分の流速で、3.2%から44%の移動相B(アセトニトリル+0.1% ギ酸)の線形勾配により、分離した。3.2%の移動相Bにおいて再平衡化する前に、前記カラムを、次いで90%の移動相Bで洗浄した。前記カラムオーブンを、35℃まで加熱した。前記LCシステムを、Advion Triversa Nanomate(Advion,Ithaca,NY)に連結し、これは、1.7kVのスプレー電圧で前記ペプチドを注入した。ペプチドを、前記LTQ-Orbitrap Velos ETD(Thermo Fischer Scientific,Bremen,ドイツ国)中に、直接注入した。前記質量分析計に、フルFT-MSスキャン(m/z 380~1600)を行い、続いて、3種の最も存在量のあるイオンの解離衝突誘起解離(CID)MS/MSスキャンを行い、これに続いて同一の3種のイオンの高エネルギー衝突解離(HID)を行った。前記CIDスペクトルを使用して、前記ペプチドを同定し、前記HCDスペクトルを使用してそれらを定量した。
【0062】
データ分析
前記データを、Proteome Discoverer(V1.2,Thermo Fisher Scientific)を使用して分析した。データを技術的反復(technical repeat)として分析した。MascotおよびSEQUESTアルゴリズムを使用して、使用した同一の設定で前記データを探索した。前記データベースは、Socranskyにより記載されたとおりの、口腔細菌が補充された前記IPIヒトデータベースであった。このデータベースを、リバースバージョン(reverse version)で連結して、過誤率(false discovery rate)を提供した。前記データを、以下の設定で探索した:セミトリプシンを、最大で2個の切断部欠如を有する前記酵素として選択し、前記前駆体イオンについて5ppmの質量精度であり、フラグメントイオン質量許容差を0.5Daに設定した(semi-trypsin was selected as the enzyme with a maximum of 2 missed cleavages,5 ppm mass accuracy for the precursor ion,fragment ion mass tolerance was set to 0.5 Da)。システインのカルボキシアミドメチル化ならびにN-末端およびリシン残渣へのiTRAQ添加を、静的修正として設定した。セリン、トレオニンおよびチロシンのホスホリル化を、メチオニンの酸化およびチロシンへのiTRAQ添加と同様に、可変修正(variable modification)として設定した。
【0063】
各技術的複製からの前記探索結果を合わせて、2つまたは3つ以上のペプチドで同定されたタンパク質を、同定されたとおりに分類した。唯一のペプチドのみが、タンパク質定量に使用され、タンパク質グループ化を用いた(唯一のペプチドを含むタンパク質のみが使用された)。
【0064】
GCF分析予備結果-見出されたタンパク質
全てのGCFサンプルの前記分析から、270種のタンパク質が、2つまたは3つ以上のペプチドで同定された。これは、264種のヒトタンパク質および6種の細菌タンパク質を含むものであった。前記同定されたタンパク質を、添付の追加の表1において、関連する定量値に沿って示す。全てのタンパク質を、健康な対照群に対する比で示す(ラベル113-健康)。このデータを、続いて、採取されたGCF体積に正規化して、またlog変換して(底2)、陽性または陰性生存量値を得た。
【0065】
あらゆる前記疾患状態において、単に同定されるタンパク質はなかった。前記タンパク質の大部分は、健康なもの、歯肉炎および疾患間での、存在量の減少を示した(歯肉炎では229種の、軽度の歯周炎では195種の、および重度の歯周炎では174種のタンパク質が、健康なものと比較してより低い存在量であった)。前記群にわたる存在量のこの減少は、組織がより炎症を起こすものとして、および表2に証明されるとおり、GCF体積の増加によるものであり得る。代替的に、GCFの「非正規化」分析を、この問題に対処するために行ってもよく、これは、文献において認識されている(Lamster et al 1986,Chapple et al 1994&1999)。
【0066】
見出されたタンパク質に行われた、GCFクラスタリング分析
見出されたタンパク質を、前記PolySNAP 3ソフトウェアを使用してクラスタリングした。PolySNAP 3は、各一次元タンパク質プロファイルを、他の全てと比較し、ピアソンパラメータのおよびスピアマン非パラメータの相関係数の加重平均を使用して、類似スコアを生じさせる。前記プロファイルを、主成分分析、ガンマ統計法、および計量多次元尺度法(MMDS)を含む統計法の組み合わせを使用してクラスタリングした。前記データを、次いで、系統樹、PCAプロット、およびMMDSプロットで視覚化した。この分析において、群平均リンク階層的クラスタリング法および完全リンク階層的クラスタリング法を使用して、前記データをグループ化した。全ての場合において、使用したクラスターの数を、自動的にPolySNAP 3により設定した。
前記群平均クラスタリングから、3回のクラスタリングを行った。最大数のタンパク質を有する前記群を、各点において再クラスタリングした。
【0067】
第1回のクラスタリング
図4を参照すると、第1回の分析により、6個のクラスターが提供された。クラスター1は、前記タンパク質の大部分(243種のタンパク質)を含み、クラスター2は、19種のタンパク質を含み、クラスター3、5および6は、それぞれ1種のみのタンパク質を含み、クラスター4は、5種のタンパク質を含むものであった。
【0068】
引き続き図4を参照すると、クラスター4は、疾患の間に存在量が減少するが、分割後に(post-resolution)ベースラインに戻らない、1セットのタンパク質を含むため、関心の対象であり得る。クラスター2として同定された前記19種のタンパク質は、歯周炎でのレベルのようにベースラインに戻る前に、歯肉炎で存在量の増加を示す。これは、血液を含む前記GCFサンプルの1種によるものであり得るが、出血は、歯肉炎および歯周炎の決定的な臨床サインであり、血液関連タンパク質は、健康および疾患について極めて識別的であり得る。ヘモグロビンアルファおよびベータを含むこの群において同定された、数種の血液関連タンパク質がある。これは、血液が存在する可能性があるにもかかわらず、歯肉炎および歯周炎および健康を区別し得る群として関心の対象であり得る。クラスター3および5は、例えば、未処置の歯周炎を、健康/歯肉炎と区別すると思われる。
前記タンパク質、同定された、関心のあるクラスターである、クラスター3、4および5を、添付の追加の表2に示す。
【0069】
第2回のクラスタリング
図5を参照すると、図4のクラスター1からの前記243種のタンパク質を再クラスタリングし、合計4つの群を得た。群1Aは、前記タンパク質の主要部(233種)を含み、群1Bおよび1Cは、それぞれ2種のタンパク質を含み、群1Dは、6種のタンパク質を含むものであった。群1Dは、歯周炎で増加する前に、健康および歯肉炎間でほとんど変化を示さない。軽度の歯周炎および処置された軽度の歯周炎間で相対的存在量が下落して、前記処置された重度の歯周炎でベースラインへ戻っている。群1Cで同定された前記2種のタンパク質は、前記処置されたサンプル中で前記ベースラインに向かって戻る前に、歯肉炎まで減少して2つの歯周炎群まで大きく減少して、疾患に従うと思われる(appear to follow)。かかるタンパク質は、処置が成功したか否かの結果測定として分析したものと想定され得る。
関心のあるクラスター中で同定された前記タンパク質である、クラスター1Cおよび1Dを、添付の追加の表3に示す。
【0070】
第3回のクラスタリング
図6を参照すると、図5のクラスター1Aからの前記233種のタンパク質を再度クラスタリングし、4つのクラスターを得たが、存在量の変化は、ここでは、対数スケールで2より小さい(4倍の増加/減少)。最大クラスター(1A1)は、なお171種のタンパク質を含み、クラスター1A2は、50種のタンパク質を含み、1A3は、10種のタンパク質を含み、1A4は、2種のタンパク質を含むものであった。再び、この分析において、潜在的に関心のある群があるように思われる。
関心のある各クラスター中で同定された前記タンパク質である、クラスター1A3および1A4を、添付の追加の表4に示す。
【0071】
最終回のクラスタリング
図7を参照すると、図6のクラスター1A1からの前記171種のタンパク質について、最終回のクラスタリングが行われた。これにより、図6に示す4つの群が得られた。この分析から、関心があると思われるクラスターはない。
複数回のクラスタリング分析により、GCF中に、歯周炎の異なる疾患状態を区別し得る、いくつかの群があることが示唆される。
【0072】
唾液分析予備結果-見出されたタンパク質
全ての唾液サンプルを、GCFサンプルと同様に分析した。314種のタンパク質が、2つまたは3つ以上のペプチドで同定され、これは、307種のヒトタンパク質および7種の細菌タンパク質を含むものであった。1種のタンパク質を、1種のサンプル群(無歯)においてのみ同定した。前記同定されたタンパク質を、添付の追加の表5において、関連する定量値に沿って示す。
【0073】
見出されたタンパク質に行われた唾液クラスタリング分析
第1回のクラスタリング
前記クラスタリング分析について、前記無歯サンプルは含まれなかった。PolySNAP 3を使用してクラスタリング分析を行った。図8を参照すると、第1回のクラスタリングにより、5個のクラスターを得た。最大クラスター(1)は、297種のタンパク質を含む一方で、クラスター2および5は、それぞれ1種のタンパク質を含むものであった。クラスター3は、11種のタンパク質を含み、クラスター4は、3種のタンパク質を含むものであった。前記GCFデータセットと同様に、疾患で下方制御されて処置後にベースラインに戻らない、タンパク質の群がある。クラスター2は、重度の歯周炎を、より軽度の状態と区別すると思われる。
関心のある前記クラスターにおいて同定された前記タンパク質である、クラスター2を、添付の追加の表6に示す。
【0074】
第2回のクラスタリング
図9を参照して、図8からのクラスター1を、再クラスタリングして、さらに4つのクラスター群を得た。最大の群は、166種のタンパク質を含むものであった(クラスター1A)。クラスター1Bおよび1Dは、それぞれ14種および1種のタンパク質を含むものであった。これらの2つの群は、歯肉炎/軽度の歯周炎および重度の歯周炎を区別し得る。しかしながら、両方の場合において、重度の歯周炎への前記シグナルは健康レベルに近いが、処置後に、軽度および重度の歯周炎の両方についてタンパク質存在量の増加が起こる。クラスター1Cは、116種のタンパク質を含むものであった。この群において、健康および歯肉炎間ではほとんど変化を示さず、その後、重度の歯周炎への大幅な増加の前に、軽度の歯周炎への増加がある。これらの値は、前記処置されたサンプルにおいて減少するが、前記歯肉炎の群より、なお高いレベルである。
関心のある各クラスターにおいて同定された前記タンパク質である、クラスター1Bおよび1Cを、添付の追加の表7に示す。
【0075】
第3回のクラスタリング
図10を参照すると、図9からのクラスター1Aを、再クラスタリングした。クラスター1Aにより、5つの群が得られ、最大クラスター(1A1)は、150種のタンパク質を含むものであった。ここでは、いかなる顕著なクラスターがあるとも思われない。クラスター1A4により、3種のタンパク質が提供され、クラスター1A5により、1種のタンパク質が提供された。クラスター1A4および1A5における前記タンパク質バイオマーカーは全て、軽度の歯周炎におけるものよりは大きく、重度の歯周炎におけるものよりは小さい、健康および歯肉炎間でタンパク質存在量の増加または減少を示す。
クラスター1A4および1A5において同定された前記タンパク質を、添付の追加の表8に示す。
【0076】
図11を参照すると、図9からのクラスター1Cを、再クラスタリングして、3つのクラスターを得た。クラスター1C2は、7種のタンパク質を含み、これらは、処置後の減少の前の、重度の歯周炎まで、タンパク質存在量の近線形的増加を示す。この群は、さらにクラスタリングされなかった。クラスター1C2において同定された前記タンパク質を、添付の追加の表9に示す。
【0077】
最終回のクラスタリング
図12を参照すると、図10からのクラスター1A1を再クラスタリングした。5つのクラスターが観測され、重度の歯周炎についての存在量の増加を示すタンパク質の群(クラスター1A1b)が観測されたが、その他の群には観測されなかった。このクラスター中で同定された、5種のタンパク質があった。クラスター1A1bにおいて同定された前記タンパク質を、添付の追加の表10に示す。
【0078】
GCFおよび唾液データセットの比較
前記2個のデータセットにおいて観測された前記タンパク質を比較して、唾液およびGCFサンプルの両方において見出されたタンパク質バイオマーカーを同定した。図13を参照すると、95種のタンパク質が、前記GCFおよび唾液中で同定され、図13のベン図の重複領域により表される。これは、前記GCFデータセットで同定されたタンパク質の総数のおよそ3分の1である。
【0079】
前記重複領域において観測された前記タンパク質を、添付の追加の表11に示す。追加の表11中の前記タンパク質についての関連する存在量データを回収して、続いて、観測された前記タンパク質存在量について変換して、Log(2)比を描いた。さらに、前記GCFについての2つの値を測定して、一方を回収した体積に正規化し、他方についてはしなかった。
【0080】
GCFが、唾液の構成成分であるとされる場合には、および唾液が、前記同一のGCF体積に正規化されない場合には、前記3つの値を比較することが有用であり得る。これらの三重の値の分析は、これらのタンパク質のいくつかが極めて類似のプロファイルを有することを示す。存在量の値の大きな増加または減少を伴う、それらのタンパク質バイオマーカーのいくつかを、図14~17に描く。
・・・
【0097】
[図:0001421929000005.jpg]
[図:0001421929000006.jpg]
[図:0001421929000007.jpg]
・・・
ウ 引用文献1の【0097】に記載されている【表9】「追加の表5」の「A6:114/113」欄は、【0058】を参酌するに、唾液疾患状態が健康な場合に対する歯肉炎の場合のタンパク質の存在量の比の値を示し、同様に「A6:116/113」欄は、唾液疾患状態が健康な場合に対する重度の歯周炎の場合のタンパク質の存在量の比の値を示す。ここで、「プロフィリン-1」は「A6:114/113」欄が2.306であって、「A6:116/113」欄が7.249である。これは、当該タンパク質の存在量が歯肉炎の場合は健康な場合に比較して2.306倍であったこと、重度の歯周炎の場合は健康な場合に比較して7.249倍だったことを示す。
同様にアルファ-1-酸性糖タンパク質2は、「A6:114/113」欄が1.535であって、「A6:116/113」欄が4.699である。これは、当該タンパク質の存在量が歯肉炎の場合は健康な場合に比較して1.535倍であったこと、重度の歯周炎の場合は健康な場合に比較して4.699倍だったことを示す。
同様にアルファ-1-酸性糖タンパク質1は、A6:114/113」欄が1.424であって、「A6:116/113」欄が4.423である。これは、当該タンパク質の存在量が歯肉炎の場合は健康な場合に比較して1.424倍であったこと、重度の歯周炎の場合は健康な場合に比較して4.423倍だったことを示す。
(2)引用発明、および引用文献1に記載された技術的事項
上記(1)より、引用文献1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考のため、認定の根拠となった主な箇所を括弧内に示す。
(引用発明)
「歯周疾患の状態を診断するための方法であって、以下:
唾液サンプルを提供すること;
歯周炎の特定の状態を同定するための1セットのタンパク質バイオマーカーを選択すること;および
歯周疾患の前記状態を診断するための、前記選択されたセットのタンパク質バイオマーカーの発現レベルを決定すること、
を含む、方法であって、(請求項1)
前記セットのタンパク質バイオマーカーに、アルファ-1-酸性糖タンパク質1および2が含まれる、(請求項7)
方法。」
また、上記(1)より、引用文献1には、下記の技術的事項(以下、「引用文献1に記載された技術的事項」という。)が記載されていると認められる。なお、参考のため、認定の根拠となった主な箇所を括弧内に示す。
(引用文献1に記載された技術的事項)
「唾液サンプル中のプロフィリン-1は、歯肉炎の場合は健康な場合に比較して2.306倍、重度の歯周炎の場合は健康な場合に比較して7.249倍のタンパク質の存在量を示すこと(【0058】、【0097】、上記ウ)」
2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「唾液サンプル」は、本願発明の「唾液試料」に相当する。また、引用発明の「唾液サンプル」は、引用文献1の【0046】~【0047】で患者ボランティアから採取されており、ヒト患者由来であることは明らかである。
引用発明の「歯周炎」は、本願発明の「歯周病」に相当する。
引用発明の「アルファ-1-酸性糖タンパク質1および2」は、本願発明の「α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)」に相当する。
引用発明の「歯周疾患の状態を診断するための方法」において、「歯周炎の特定の状態を同定するための1セットのタンパク質バイオマーカーを選択する」ことや、「前記セットのタンパク質バイオマーカーに、アルファ-1-酸性糖タンパク質1および2が含まれる」ことは、本願発明の「ヒト患者が歯周病であるかを評価するためのバイオマーカーとしての、α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)のタンパク質の使用」に相当する。
以上によれば、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また相違する。
(一致点)
ヒト患者の唾液試料において、前記ヒト患者が歯周病であるかを評価するためのバイオマーカーとしての、以下の:
α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)
のタンパク質の使用。
(相違点)
本願発明では、ヒト患者が歯周病であるかを評価するためのバイオマーカーとしてさらにプロフィリンを使用するのに対し、引用発明ではプロフィリンを使用していない点。
3 判断
上記1(2)の引用文献1に記載された技術的事項に記載したように、プロフィリン-1タンパク質の存在量は、歯肉炎の場合は健康な場合に比較して2.306倍、および重度の歯周炎の場合は健康な場合に比較して7.249倍である。そして、当該技術的事項を踏まえると、重度の歯周炎の場合は歯肉炎の場合に比較して7.249/2.306すなわち3.144倍だったと理解でき、これは、プロフィリン-1(本願発明の「プロフィリン」に相当することは明らかである。)が、ヒト患者が重度の歯周炎の場合に、健康な場合や歯肉炎の場合に比較して3倍~7倍以上のタンパク質の存在量を示すものであり、誤差の範囲を大きく越えて差示的であるといえる。そうすると、プロフィリンは「ヒト患者が歯周病であるかを評価するため」に良好に使用できるものと認められる。また、疾患の評価に際して、より精度よく評価を行うために複数のマーカーを組み合わせることは、例示するまでもなく周知慣用である。以上によれば、引用発明においてヒト患者が歯周病であるかを評価する際に、α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)に加えて、既に歯周病であるかを評価するために良好に使用できることが示されたプロフィリンを使用し、本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たものであるし、プロフィリンの使用を阻害するような事情も見当たらない。
また、本願明細書に開示された実施例を見るに、【0102】の【表1】の最上行はα-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)とプロフィリンをバイオマーカーとして使用した場合のAUC LOOCV値(バイオマーカーとしての性能の評価値)が0.885であり、α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)とプロフィリンの組み合わせがバイオマーカーとして機能することが読み取れるが、その機能は、【表1】に列挙されている他のバイオマーカーの組み合わせと比べて特に優れているものではない。一方、上記1(1)ウに記載したことに基づくと、アルファ-1-酸性糖タンパク質1では、タンパク質の存在量が重度の歯周炎の場合は歯肉炎の場合に比較して4.423/1.424すなわち3.106倍になるし、アルファ-1-酸性糖タンパク質2では、4.699/1.535すなわち3.06倍になる。すなわち、引用文献1において、α-1-酸性糖タンパク質1、2は、重度の歯周病の場合に健康な場合や歯肉炎の場合に比較して1.4倍~3倍以上のタンパク質の存在量を示し、上述のようにプロフィリンも同様に3倍~7倍以上のタンパク質の存在量を示す。このことに鑑みると、α-1-酸性糖タンパク質とプロフィリンの組み合わせは十分にバイオマーカーとして機能することが理解できる。以上によれば、本願発明の効果は、引用発明や引用文献1から予想される効果に比して、進歩性の存在を推認できる程の格別の効果であるとは認めることができない。
したがって、本願発明は、引用発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 審判請求書における主張
審判請求人は、審判請求書において、「補正後の本願発明と、引用文献に記載の発明を対比すると、本願発明では、病態の指標についてタンパク質の濃度について定量的に検討するのに対し、引用文献1に記載の発明では、プロテオソームの分析により、タンパク質プロファイルの重複領域におけるタンパク質の存在量の変化からバイオマーカーを選択する発明に関し、そもそも発明が異なります。」と主張しているので、これについて検討する。
引用発明は唾液試料中のタンパク質の存在量を確認しているのであって、タンパク質プロファイルの重複領域(引用文献1の【0078】、【0079】を参酌するに、唾液試料とGCF試料の重複を意味すると思われる。)におけるタンパク質の存在量を確認しているものではないし、引用発明は本願発明と同様にタンパク質の存在量を見ているものであるから、この点で本願発明と相違するものではなく、審判請求人の主張は採用することができない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-016173