特許拒絶査定不服審判
2023-014479
ハイブリッドパワーモジュール
- 審判番号
- 2023-014479
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-576829
- 請求日
- 2023年08月28日
- 審決日
- 2024年02月08日
- 公報発行日
- 2024年07月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ウルフスピード インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】山本 修
- 【請求人代理人】宮前 徹
- 【請求人代理人】大牧 綾子
- 審判長/審判官
- 審判長 須田 勝巳
- 審判官 山崎 慎一
- 審判官 打出 義尚
- 分類
- P18 .113-Z (H02M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第164条、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-576829「ハイブリッドパワーモジュール」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年12月30日国際公開、WO2020/263386、令和 4年 9月12日国内公表、特表2022-539524〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2020年(令和2年)4月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2019年6月25日(以下、「優先日」という。)、2019年7月8日,共に米国)を国際出願日とする出願であって、令和4年12月12日付けで拒絶の理由が通知され、令和5年3月8日に意見書とともに手続補正書が提出され、同年4月20日付けで拒絶査定(謄本送達日同年4月28日)がなされ、これに対して同年8月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ、同年10月11日付けで審査官により特許法164条3項の規定に基づく報告がなされ、令和6年1月17日に上申書の提出がなされたものである。
第2 本願発明について
1 本願発明
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和5年8月28日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものと認める。なお、「1A」~「1E」の記号は、それぞれの構成要件を特定するために当審で付加したものであり、それぞれを、「構成要件1A」~「構成要件1E」という。
「1A 第1のパワースイッチング端子および第2のパワースイッチング端子と、
1B 複数のパワー半導体デバイスとを備え、前記複数のパワー半導体デバイスは、
1B-1 少なくとも1つの絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)と、
1B-2 少なくとも1つの金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)とを備え、
1C 前記少なくとも1つのIGBTおよび前記少なくとも1つのMOSFETは、前記第1のパワースイッチング端子と前記第2のパワースイッチング端子との間に並列に結合され、
1D 前記少なくとも1つのIGBTおよび前記少なくとも1つのMOSFETは、シリコンカーバイド半導体デバイスであり、
1E 前記少なくとも1つのIGBT、および前記少なくとも1つのMOSFETは、スイッチング損失を低減するために制御信号に応答して個別に制御される、パワーモジュール。」
2 引用例
(1)引用例に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した、本願の優先日前に既に公知である、特開2012-253202号公報(平成24年12月20日公開。以下、これを「引用例」という。)には、関連する図面と共に、次の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。)
ア 「【0011】
図1は、本実施形態によるパワーモジュールの構成の一例を示す図である。図1に示すように、本実施形態によるパワーモジュール22には、MOSFETチップ11とIGBTチップ12とが同一パッケージ内に並列接続して搭載されている。また、パワーモジュール22は、コレクタ端子15、エミッタ端子16、IGBTゲート端子17、MOSFETゲート端子18、制御エミッタ端子19、電流センス端子20、および温度センス端子21を備えており、MOSFETゲート端子18、制御エミッタ端子19、電流センス端子20、および温度センス端子21はゲートドライバ13に接続されている。また、MOSFETチップ11は、電流センサおよび温度センサを備えている。なお、フライホイールダイオード14については、当該フライホイールダイオード14に代えて、MOSFETチップ11の寄生ダイオード部あるいは他のダイオードチップを搭載する場合もある。」
イ 「【0013】
ゲートドライバ13では、伝達された電流検知信号および温度検知信号に基づいて、MOSFETチップ11およびIGBTチップ12の動作を制御する。ゲートドライバ13は、温度検知信号により損失を推定し、電流検知信号による電流値と合わせてパワーモジュール22のスイッチング周波数を概略推定する。そして、これらの推定結果に基づいて、MOSFETチップ11のみを動作させるのか、あるいは、MOSFETチップ11とIGBTチップ12との両方を動作させるのか、いずれの方がパワーモジュール22の損失を小さく抑えられるのかを判断し、最適な(損失が小さい)方を選択して制御を行う。」
ウ 「【0019】
なお、図3では静特性を示しているが、スイッチング損失については、一般的にユニポーラタイプであるMOSFETの方が、バイポーラタイプであるIGBTよりも損失が小さい。また、高周波数の場合は、MOSFETのみを動作させた方が損失が小さくなると考えられる。
【0020】
以上のことから、ゲートドライバは、電流センサが検知した電流値と温度センサが検知した接合温度とに基づいて、MOSFETチップ11のみを動作させる、あるいは、MOSFETチップ11およびIGBTチップ12の両方を動作させることができる。」
エ 「【0030】
また、チップにSiC(SiC素子)を用いた場合は、チップにSiを用いた場合と比べてIGBT部の立ち上がり電圧(閾値電圧、Vth)が高くなるため、MOSFET部を設けることによってオン電圧を下げて損失を低減することができる(図3参照)。また、チップ全体の面積に対してMOSFET部の面積を最適にすることで、チップ全体としての特性をより向上させることができる。なお、SiCは、IGBT部のみに用いてもよく、MOSFET部およびIGBT部の両方に用いてもよい。」
オ 「図1
[図:0001412136000001.jpg]
」
(2)引用発明
ア(ア)上記(1)記載事項アの「図1は、本実施形態によるパワーモジュールの構成の一例を示す図である…中略…パワーモジュール22には、MOSFETチップ11とIGBTチップ12とが同一パッケージ内に並列接続して搭載され」との記載及び上記記載事項(1)オ(図1)から、引用例には、“MOSFETチップ11とIGBTチップ12とが同一パッケージ内に並列接続して搭載され”た“パワーモジュール22”が記載されているといえる。
(イ)上記(1)記載事項アの「パワーモジュール22は、コレクタ端子15、エミッタ端子16、IGBTゲート端子17、MOSFETゲート端子18…中略…を備えており、MOSFETゲート端子18…中略…はゲートドライバ13に接続されている」との記載、及び(1)記載事項オ(図1)を参照すると、「ゲートドライバ13」には、「IGBT12」のゲート端子に接続される「IGBTゲート端子17」を読み取ることができるから、引用例には、“コレクタ端子15、エミッタ端子16、IGBTゲート端子17、MOSFETゲート端子18を備え、MOSFETゲート端子18及びIGBTゲート端子17はゲートドライバ13に接続され”ることが記載されているといえる。
(ウ)上記(1)記載事項アの「MOSFETチップ11は、電流センサおよび温度センサを備えている」との記載から、引用例には、“MOSFETチップ11は、電流センサおよび温度センサを備え”ることが記載されているといえる。
(エ)上記(ア)~(ウ)を総合すると、引用例には、“MOSFETチップ11とIGBTチップ12とが同一パッケージ内に並列接続して搭載され、コレクタ端子15、エミッタ端子16、IGBTゲート端子17、MOSFETゲート端子18を備え、MOSFETチップ11は、電流センサおよび温度センサを備え、MOSFETゲート端子18及びIGBTゲート端子17はゲートドライバ13に接続されたパワーモジュール22”が記載されているといえる。
イ 上記(1)記載事項イの「ゲートドライバ13では、…中略…MOSFETチップ11およびIGBTチップ12の動作を制御する。ゲートドライバ13は、温度検知信号により損失を推定し、電流検知信号による電流値と合わせてパワーモジュール22のスイッチング周波数を概略推定する。そして、これらの推定結果に基づいて、MOSFETチップ11のみを動作させるのか、あるいは、MOSFETチップ11とIGBTチップ12との両方を動作させるのか、いずれの方がパワーモジュール22の損失を小さく抑えられるのかを判断し、最適な(損失が小さい)方を選択して制御を行う」との記載から、引用例には、“ゲートドライバ13は、温度検知信号により損失を推定し、電流検知信号による電流値と合わせてパワーモジュール22のスイッチング周波数を概略推定し、これらの推定結果に基づいて、MOSFETチップ11およびIGBTチップ12の動作を制御し、MOSFETチップ11のみを動作させるのか、あるいは、MOSFETチップ11とIGBTチップ12との両方を動作させるのか、いずれの方がパワーモジュール22の損失を小さく抑えられるのかを判断し、損失が小さい方を選択して制御を行”うことが記載されているといえる。
ウ 上記(1)記載事項ウの「スイッチング損失については、一般的に…中略…MOSFETの方が、…中略…IGBTよりも損失が小さい。また、高周波数の場合は、MOSFETのみを動作させた方が損失が小さくなる」(【0019】)との記載から、引用例には、“スイッチング損失については、一般的に、MOSFETの方がIGBTよりもスイッチング損失が小さく、高周波数の場合は、MOSFETのみを動作させた方が損失が小さくな”ることが記載されているといえる。
エ 上記(1)記載事項ウの「ゲートドライバは、電流センサが検知した電流値と温度センサが検知した接合温度とに基づいて、MOSFETチップ11のみを動作させる、あるいは、MOSFETチップ11およびIGBTチップ12の両方を動作させることができる」(【0020】)との記載から、引用例には、“ゲートドライバは、電流センサが検知した電流値と温度センサが検知した接合温度とに基づいて、MOSFETチップ11のみを動作させる、あるいは、MOSFETチップ11およびIGBTチップ12の両方を動作させることができ”ることが記載されているといえる。
オ 上記(1)記載事項エの「チップにSiC(SiC素子)を用いた場合…中略…SiCは、IGBT部のみに用いてもよく、MOSFET部およびIGBT部の両方に用いてもよい」との記載から、引用例には、“MOSFET部およびIGBT部は、シリコンカーバイド素子を用いても良い”ことが記載されているといえる。
カ 以上、上記ア~オより、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「MOSFETチップ11とIGBTチップ12とが同一パッケージ内に並列接続して搭載され、コレクタ端子15、エミッタ端子16、IGBTゲート端子17、MOSFETゲート端子18を備え、MOSFETチップ11は、電流センサおよび温度センサを備え、MOSFETゲート端子18及びIGBTゲート端子17はゲートドライバ13に接続されたパワーモジュール22であって、
ゲートドライバ13は、温度検知信号により損失を推定し、電流検知信号による電流値と合わせてパワーモジュール22のスイッチング周波数を概略推定し、これらの推定結果に基づいて、MOSFETチップ11およびIGBTチップ12の動作を制御し、MOSFETチップ11のみを動作させるのか、あるいは、MOSFETチップ11とIGBTチップ12との両方を動作させるのか、いずれの方がパワーモジュール22の損失を小さく抑えられるのかを判断し、損失が小さい方を選択して制御を行い、
スイッチング損失については、一般的に、MOSFETの方がIGBTよりも損失が小さく、高周波数の場合は、MOSFETのみを動作させた方が損失が小さくなることから、ゲートドライバは、電流センサが検知した電流値と温度センサが検知した接合温度とに基づいて、MOSFETチップ11のみを動作させる、あるいは、MOSFETチップ11およびIGBTチップ12の両方を動作させることができ、
MOSFET部およびIGBT部は、シリコンカーバイド素子を用いても良い
パワーモジュール22。」
3 対比及び判断
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)構成要件1Aについて
引用発明の、「コレクタ端子15」及び「エミッタ端子16」は、それぞれ異なる端子であり、また、引用発明の「MOSFETチップ11とIGBTチップ12」は、いずれも“パワースイッチング素子”といい得るところ、これら「MOSFETチップ11とIGBTチップ12」に接続される「コレクタ端子15」及び「エミッタ端子16」は、それぞれ構成要件1Aの「第1のパワースイッチング端子」および「第2のパワースイッチング端子」に相当するといえるから、引用発明は構成要件1Aの「第1のパワースイッチング端子および第2のパワースイッチング端子」に相当する構成を有する。
(2)構成要件1Bについて
引用発明の「パワーモジュール22」は、「MOSFETチップ11とIGBTチップ12とが同一パッケージ内に並列接続して搭載され」たものであるところ、「MOSFETチップ11とIGBTチップ12」が、“半導体デバイス”であることは、当該技術分野における当業者にとって明らかである。
そうすると、引用発明は、「MOSFETチップ11とIGBTチップ12」という、複数のパワー半導体デバイスを備えたものといえるから、上記(1)の認定も踏まえ、引用発明は、構成要件1Bのうち、「複数のパワー半導体デバイスとを備え」との構成を有するといえる。
(3)構成要件1B-1について
引用発明の「IGBTチップ12」は、構成要件1B-1の「絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)」に相当するものである。
そして、構成要件1B-1のうち、「少なくとも1つの」との構成は、「絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)」が1つの場合を含むことから、引用発明は、構成要件1Bのうち「前記複数のパワー半導体デバイスは、」の部分と構成要件1B-1の「少なくとも1つの絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)」を備えるとの構成を有するといえる。
(4)構成要件1B-2について
引用発明の「MOSFETチップ11」は、構成要件1B-2の「金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)」に相当するものである。
そして、上記(3)でも検討したとおり、構成要件1B-2の「少なくとも1つの」との構成は、「金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)」が1つの場合を含むことから、引用発明は、構成要件1Bのうち「前記複数のパワー半導体デバイスは、」の部分と構成要件1B-2の「少なくとも1つの金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)とを備え」るとの構成を有するといえる。
(5)構成要件1Cについて
引用発明の「MOSFETチップ11とIGBTチップ12とが同一パッケージ内に並列接続して搭載され」ているところ、引用発明の「MOSFETチップ11とIGBTチップ12」とは、「コレクタ端子15」及び「エミッタ端子16」の間に並列に結合されているといえるから、上記(1)~(4)の対比を踏まえると、引用発明は、構成要件1Cの「前記少なくとも1つのIGBTおよび前記少なくとも1つのMOSFETは、前記第1のパワースイッチング端子と前記第2のパワースイッチング端子との間に並列に結合され」るとの構成を有するといえる。
(6)構成要件1Dについて
引用発明の「MOSFET部およびIGBT部」は、「シリコンカーバイド素子を用いても良い」ものであるところ、当該「MOSFET部およびIGBT部」は、「MOSFETチップ11とIGBTチップ12」のことを意味するものであるから、上記(3)及び(4)の対比を踏まえて、引用発明は、構成要件1Dの「前記少なくとも1つのIGBTおよび前記少なくとも1つのMOSFETは、シリコンカーバイド半導体デバイスであ」るとの構成を有するといえる。
(7)構成要件1Eについて
引用発明の「ゲートドライバ13」は、「MOSFETチップ11およびIGBTチップ12の動作を制御」するものであるところ、引用発明の当該「ゲートドライバ13に接続され」る「MOSFETゲート端子18」及び「IGBTゲート端子17」は、それぞれ、「MOSFETチップ11」及び「IGBTチップ12」を、「ゲートドライバ13」からの制御信号に応じて、個別に制御するための端子であることは、当業者にとって自明である。
そして、引用発明の「ゲートドライバ13」は、「MOSFETチップ11のみを動作させるのか、あるいは、MOSFETチップ11とIGBTチップ12との両方を動作させるのか、いずれの方がパワーモジュール22の損失を小さく抑えられるのかを判断し、損失が小さい方を選択して制御を行」うことから、引用発明の「パワーモジュール22」は、「MOSFETチップ11」及び「IGBTチップ12」の側からみれば、「パワーモジュール22」の損失(以下、この損失を、「引用発明における損失」という。)を低減するために「ゲートドライバ13」からの制御信号に応答して個別に制御されるといえる。
一方、構成要件1Eのうち、「スイッチング損失を低減するために」との特定事項に関し、特許請求の範囲には、特に「スイッチング損失」に関する特段の限定事項が記載されていない。そして、構成要件1Eは、本願発明の「パワーモジュール」が備える「少なくとも1つのIGBT」及び「少なくとも1つのMOSFET」に関し、「制御信号に応答して個別に制御される」ものであることを特定するとともに、当該「制御」にあたっては、その制御が、「スイッチング損失を低減するため」であることを特定するものである。
そこで、構成要件1Eにおける、「スイッチング損失」に関し、特許請求の範囲に特定されている事項のみからは、必ずしもその意味内容が明らかとはいえないところ、本願明細書の記載を参酌すると、段落【0011】、【0038】~【0040】には、次の記載が認められる。
「【0011】
[0009]1つの実施形態では、並列に結合されたシリコンカーバイドIGBTおよびシリコンカーバイドMOSFETを含むパワーモジュールを動作させる方法は、MOSFETを遮断モードにする前に、IGBTを遮断モードにすることによって、パワーモジュールを順方向導通モードから遮断モードにスイッチすることと、少なくとも1つのIGBTを順方向導通モードにする前に、少なくとも1つのMOSFETを逆方向導通モードにすることによって、パワーモジュールを遮断モードから順方向導通モードにスイッチすることとを含む。このようにパワーモジュールを動作させることにより、パワーモジュールのスイッチング損失が、大幅に低減され得る。
…
【0038】
[0045]図4に示すように、スイッチ位置SWは、第1の制御端子32および第2の制御端子38を有する。IGBT28およびMOSFET30に別個の制御端子を提供することは、パワーモジュール10によって実現されるいくつかの性能上の利点を可能にし得る。特に、IGBT28およびMOSFET30は、パワーモジュール10におけるスイッチング損失を最小化するスイッチング制御スキームが使用され得るように(たとえば、図示されていないスイッチング制御回路構成からのスイッチング制御信号によって)個別に制御され得る。
【0039】
[0046]図7は、本開示の1つの実施形態による、スイッチング損失を最小化するためにパワーモジュール10内のIGBT28およびMOSFET30を制御するための方法を例示するフロー図である。第1に、パワーモジュール10は、MOSFET30を遮断モードにする前に、IGBT28を遮断モードにすることによって、第1のパワースイッチング端子34と第2のパワースイッチング端子36との間で電流が導通される順方向導通モードから、第1のパワースイッチング端子34と第2のパワースイッチング端子36との間で電流が導通されない遮断モードへ切り替えられ得る(ステップ100)。MOSFET30の前にIGBT28を遮断モードにすると、パワーモジュール10におけるスイッチング損失が減少する。なぜなら、IGBT28は一般に、デバイス内の少数キャリアの再結合時間のために、順方向導通モードから遮断モードに移行するのに、はるかに長い時間がかかるからである。
【0040】
[0047]第2に、パワーモジュール10は、IGBT28を順方向導通モードにする前に、MOSFET30を逆方向導通モードにすることによって、遮断モードから順方向導通モードへ切り替えることができる(ステップ102)。IGBT28を順方向導通モードにする前にMOSFET30を逆方向導通モードにすることによって、逆回復プロセスによってドリフト領域から掃引されるのではなく、電荷が再結合することを可能にすることによって逆回復損失を軽減し、それによって、パワーモジュール10におけるスイッチング損失が減少する。」
以上の記載からは、構成要件1Eにおける「スイッチング損失を低減する」との特定事項は、“MOSFETを遮断する前にIGBTを遮断することによって、パワーモジュールのスイッチング損失を低減する”こと(以下、「限定解釈」という。)を意味するものと解される余地はある。
しかしながら、特許請求の範囲の請求項1には、上記第2の1に記載したとおりの事項のみが特定されるにとどまり、構成要件1Eにおける「スイッチング損失を低減する」との特定事項を、上記の限定解釈の意味で限定的に解釈すべき事情は存在しない。(なお付言するならば、特許請求の範囲には、請求項1を引用する請求項にも、上記限定解釈に関する特定事項を含む請求項は存在しない。)
そして、引用発明の「ゲートドライバ13」は、「推定」された「スイッチング周波数」に基づいて、「MOSFETチップ11およびIGBTチップ12の動作を制御し」て上記引用発明における損失を低減するものであることに加え、引用発明は、「スイッチング損失については、一般的に、MOSFETの方がIGBTよりも損失が小さく、高周波数の場合は、MOSFETのみを動作させた方が損失が小さくなる」との前提にたち、「ゲートドライバ」が、「電流センサが検知した電流値と温度センサが検知した接合温度とに基づいて、MOSFETチップ11のみを動作させる、あるいは、MOSFETチップ11およびIGBTチップ12の両方を動作させることができ」るものでもあることからして、引用発明の「ゲートドライバ13」は、上記「推定」された「スイッチング周波数」によって「MOSFETチップ11」及び「IGBTチップ12」をオンオフする時に生じる損失、すなわち「スイッチング損失」を考慮して、「MOSFETチップ11」及び「IGBTチップ12」を個別に制御しているともいえる。
したがって、上記(3)及び(4)の対比を踏まえ総合的に判断すると、引用発明は、本願発明の構成要件1Eの「前記少なくとも1つのIGBT、および前記少なくとも1つのMOSFETは、スイッチング損失を低減するために制御信号に応答して個別に制御される、パワーモジュール」に相当する構成を有するといえる。
(8)小括
以上、(1)~(7)の検討から、引用発明と本願発明との間に構成上の差異を見いだすことはできない。
したがって、本願発明は、引用発明であり、特許法29条1項3号の規定により、特許を受けることができないものである。
第3 審判請求書及び上申書における主張について
審判請求人は、審判請求書及び上申書において、本願発明について概ね次のような主張を行っている。
「引用文献1は、同一パッケージ内に並列接続されたMOSFETチップ11とIGBTチップ12を有するパワーモジュール22に関し、MOSFETチップ11とIGBTチップ12の動作を制御するゲートドライバ13を備えるパワーモジュールに関する(引用文献1、段落〔0011〕、〔0013〕等)。MOSFETチップ11には、MOSFETチップ11を流れる電流を検出する電流センサが設けられている(引用文献1、段落〔0012〕等)。ゲートドライバ13は、電流センサが検出した電流値に基づいて、パワーモジュール22の負荷が短絡していると判断すると、先にIGBTチップ12、次いでMOSFETチップ11をオフにする」(引用文献1、要約)。
したがって、上述したように引用文献1は、請求項1に係る本願発明の上記構成を開示も示唆もしない。むしろ、引用文献1は、「ゲートドライバ13は、電流センサが検出した電流値に基づいて、パワーモジュール22の負荷が短絡していると判断すると、先にIGBTチップ12、次いでMOSFETチップ11をオフにする」ことを教示している(引用文献1、要約)。
よって、請求項1に係る本願発明は特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項に該当しないものである。請求項1に従属するその他請求項に係る発明も同様である。」
上記主張は、概ね引用文献1(引用例)には、本願発明の構成要件1Eが記載されていないことを主張するものであるが、その点は、上記第2の3(7)において説示したとおりであるから、上記主張は採用できない。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、本願優先日前に頒布された引用例に記載された発明であり、特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-014479