特許拒絶査定不服審判
2023-014383
非磁性材料によって作られた回転車及び部分円錐面があるベアリングを備えるアセンブリー
- 審判番号
- 2023-014383
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-001390
- 請求日
- 2023年08月25日
- 審決日
- 2024年09月25日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ウーテーアー・エス・アー・マニファクチュール・オロロジェール・スイス
- 【請求人代理人】山川 茂樹
- 審判長/審判官
- 審判長 濱野 隆
- 審判官 中塚 直樹
- 審判官 素川 慎司
- 分類
- P18 .121-Z (G04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特願2022- 1390「非磁性材料によって作られた回転車及び部分円錐面があるベアリングを備えるアセンブリー」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 8月 3日出願公開、特開2022-113124〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和4年1月7日に出願された外国語書面出願であって(パリ条約による優先権主張 2021年1月22日 欧州特許庁)、その手続の経緯の概略は、以下のとおりである。
なお、2021年1月22日を以下「優先日」という。
令和4年 1月 7日 :翻訳文の提出
同年10月19日付け:拒絶理由通知書
令和5年 1月31日 :意見書、手続補正書の提出
同年 4月19日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月25日 :原査定の謄本の送達)
同年 8月25日 :審判請求書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~13に係る発明は、令和5年1月31日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次の記載により特定されるとおりのものである。
「【請求項4】
回転車と、ベアリングを備えるアセンブリー(10)であって、
前記回転車には、少なくとも1つのピボット(17)があり、前記ピボット(17)は少なくとも部分的に非磁性材料を含有し、
前記ベアリングには、前記ベアリングの本体に穴(8、28)が形成されている面(6、26)があり、この面(6、26)は、前記穴(8、28)の入口にて機能的な形状を有し、
前記機能的な形状は、部分円錐面(12、22)の形であり、
前記ピボット(17)の前記非磁性材料は、銅を含有する材料、パラジウムを含有する材料、又はアルミニウムを含有する材料から選択される合金を含有し、さらに、その合金が
38~43重量%のパラジウム、
35~40重量%の銀、
18~23重量%の銅、及び
0.5~1.5重量%の亜鉛
を含有する合金である
ことを特徴とするアセンブリー。」
第3 原査定の概要
原査定の本願発明に係る拒絶の理由2の概要は、次のとおりである。
(進歩性の欠如)本願発明は、下記の引用文献1に記載された発明、及び、下記の引用文献2に例示された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1.特開2019-90801号公報
引用文献2.特開2020-8573号公報(周知技術を示す文献)
第4 当審の判断
1 引用文献の記載事項及び引用発明の認定等
(1) 引用文献1の記載事項及び引用発明の認定
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用され、優先日前に発行された特開2019-90801号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
なお、下線は当審が付したもので、引用発明の認定に直接用いる箇所に付した。
(ア) 段落【0001】~【0003】
「【0001】
本発明は、特に時計用ベアリングを形成する穴石の製造方法に関するものである。
【0002】
本発明は、さらに、かかる穴石に関し、さらに、かかる穴石を有する時計ムーブメントの地板および時計ムーブメントに関する。
【0003】
本発明は、さらに、かかる時計ムーブメントの地板および/またはかかる時計ムーブメントの受けを備えた時計に関する。」
(イ) 段落【0020】~【0024】
「【0020】
上述のように、本発明は、真軸に接触して、最小限の摩擦で真軸を回転動可能にするための、時計27用のベアリングを形成することが可能な、穴石2に関するものである。この場合、本発明により、回転可能に取り付けられる要素のためのベアリング装置の全体または一部をなし得る穴石2を製造することが可能となることは明らかである。
【0021】
本発明によれば、その穴石2を含むか、もしくはその穴石2で形成されるようなベアリングは、図8に示す時計27の時計ムーブメント28の地板29aもしくは受け29bに取り付けられるためのものであるか、または地板29aもしくは受け29bの全体もしくは一部を形成するためのものである。ただし、このような穴石2は、時計製作の分野に限定されるものではなく、ベアリングに対して可動に取り付けられる任意の要素に適用することができる。
【0022】
効果的に、本発明によれば、穴石2は、トラニオンとも呼ばれる真軸を受容するための貫通孔20を有する本体を備える。効果的に、本発明によれば、本体は、上面21aおよび下面21bを有し、そのうちの1つは、貫通孔20に連通した機能要素19を含む。
【0023】
図1および2は、本発明による穴石2の一例を示している。この穴石2は、好ましくは中心位置に貫通孔20を備えた略環状の本体を有し、その貫通孔20は、上面21aに開口するとともに、穴石2の下面21bに含まれる機能要素19に開口している。すなわち、孔20は、上面21aに連通するとともに、下面21bに位置する略円錐状の凹部に連通しており、このように、下面21bは、この機能要素19を含んでいる。機能要素19は、このように、穴石2のテーパ係合面を形成している。また、孔20の周囲に位置する穴石本体の内壁24は、真軸との接触を最小限にするとともに潤滑を促すための丸みを帯びた領域を有していることも注目される。真軸との接触を最小限とすることにより、真軸との摩擦を低減することが可能であることは注目される。
【0024】
変形例では、この穴石2は、上面21aに形成された1つの機能要素19を含むこともでき、または穴石2の同じ面21a、21bに形成された複数の同一または非同一の機能要素を含むことができることは、注目される。同様に、機能要素19は、略円錐状の凹部に決して限定されるものではなく、異なる形状を有するものであるか、または、いくつかの組み合わせ形状をなすものであってよいことは、注目される。」
(ウ) 【図1】、【図2】
「【図1】
[図:0001419831000001.jpg]
」
「【図2】
[図:0001419831000002.jpg]
」
イ 引用発明の認定
(ア) 技術常識を踏まえた認定事項
a 引用文献1には、前記ア(ア)に摘記したように、「本発明は、さらに、かかる穴石に関し、さらに、かかる穴石を有する時計ムーブメントの地板および時計ムーブメントに関する。」(【0002】)との記載があり、また、前記ア(イ)に摘記したように、「本発明によれば、その穴石2を含むか、もしくはその穴石2で形成されるようなベアリングは、図8に示す時計27の時計ムーブメント28の地板29aもしくは受け29bに取り付けられるためのものであるか、または地板29aもしくは受け29bの全体もしくは一部を形成するためのものである。」(【0021】)との記載がある。
b ここで、上記記載には、「時計ムーブメント」、「穴石2」、「地板29a」、「受け29b」という語句が登場するところ、機械式時計のムーブメントにおいて、「ガンギ車」などの歯車や「てんぷ」などの垂直な軸のある部品は、「地板」を基盤にして「受け」が上から挟み込んで固定されており、軸のまわりには穴の開いた石(穴石)と、その上に穴の開いていない受石が上下に設けられて、軸が回転運動や往復運動をすることは、当該分野での技術常識である。
<参考図1>
所毅「「時計技術解説」機械式時計―I.機械式時計概論―」マイクロメカトロニクス(日本時計学会誌)2020年6月、Vol.64,No.222、41頁の図5を引用
「
[図:0001419831000003.jpg]
」
<参考図2>
「時計に石が必要な理由とは?」という記事から引用。
https://museum.seiko.co.jp/knowledge/trivia05/
「
[図:0001419831000004.jpg]
」
c 上記技術常識を踏まえると、引用文献1の段落【0020】の「回転可能に取り付けられる要素のためのベアリング装置の全体または一部をなし得る穴石2」という記載における「回転可能に取り付けられる要素」が、ガンギ車などの歯車を含むものであることは明らかである。
(イ) 前記(ア)の認定事項も踏まえつつ、前記アの引用文献1の記載事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「時計27用のベアリングを形成することが可能な穴石2を有する時計ムーブメントであって、(【0002】、【0020】)
穴石2は、回転可能に取り付けられる要素のためのベアリング装置の全体または一部をなし得るものであって、(【0020】)
回転可能に取り付けられる要素には、ガンギ車などの歯車が含まれ、(前記(ア)の認定事項)
穴石2は、トラニオンとも呼ばれる真軸を受容するための貫通孔20を有する本体を備え、(【0022】)
この穴石2は、中心位置に貫通孔20を備えた略環状の本体を有し、その貫通孔20は、上面21aに開口するとともに、穴石2の下面21bに含まれる機能要素19に開口しており、孔20は、上面21aに連通するとともに、下面21bに位置する略円錐状の凹部に連通しており、このように、下面21bは、この機能要素19を含み、機能要素19は、穴石2のテーパ係合面を形成している、(【0023】)
穴石2を有する時計ムーブメント。(【0002】)」
(2) 引用文献2の記載事項と周知技術1、技術常識1の認定
ア 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用され、優先日前に発行された特開2020-8573号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア) 段落【0001】~【0005】
「【0001】
本発明は、枢動軸を中心として少なくとも1つの尖軸を含むシャフト状部分を備える計時器構成部品に関する。
【0002】
本発明はまた、少なくとも1つのそのような計時器構成部品を備える計時器振動子に関する。
【0003】
本発明はまた、少なくとも1つのそのような振動子および/または少なくとも1つのそのような計時器構成部品を含む計時器ムーブメントに関する。
【0004】
本発明はまた、少なくとも1つのそのようなムーブメント、および/または少なくとも1つのそのような振動子、および/または少なくとも1つのそのような計時器構成部品を含む計時器に関する。
【0005】
本発明は、計時器構成部品および歯車セットの分野に関し、より詳細には、振動子または計時器ムーブメントに備わった歯車セットを作成する分野に関する。」
(イ) 段落【0007】
「【0007】
本発明は、磁気タイプの機構を分散しなければならない環境で使用することができる鋼鉄心軸を有する従来の計時器歯車セットの一代替形態を提供することを提案する。」
(ウ) 段落【0014】~【0018】
「【0014】
特に指定のない限り、本記述の組成は、重量パーセント組成である。
【0015】
本発明は、枢動軸Dを中心とした少なくとも1つの尖軸3を含むシャフト状部分2を備える計時器構成部品1に,とりわけ歯車セットに関する。
【0016】
このシャフト状部分の材料に関しては、シャフト状部分は、銅/ベリリウム合金のビッカース(Vickers)硬さ380HV+/-20と20AP鋼鉄または類似のもののビッカース硬さ740HV+/-30の間のビッカース硬さを有することが好ましい。
【0017】
本発明によれば、このシャフト状部分2を形成する材料は、少なくとも銀およびパラジウムを含有し、かつ450HVよりも大きなビッカース硬さを有する非磁性合金である。
【0018】
特定の一実施形態では、計時器構成部品1は、完全に非磁性である。」
(エ) 段落【0027】~【0028】
「【0027】
別の特定の組成では、シャフト状部分2の、少なくとも銀およびパラジウムを含有するこの非磁性合金は、銀、パラジウム、および銅を含有する三元合金であり、質量で20%~50%のパラジウム、および20%~50%の銀、および20%~40%の銅を含有し、銀、銅、およびパラジウムの質量の合計は100%以下である。銅には、合金の硬度を実質的に高める効果がある。
【0028】
有利な一変形形態では、この非磁性三元合金は、質量で36%~40%のパラジウム、38%~42%の銀、19%~23%の銅を含有し、銀、パラジウム、および銅の質量の合計は100%以下である。この非磁性三元合金は、450HV~510HVの間の、より詳細には、470HV~490HVの間のビッカース硬さを有する。したがって、この合金は良好な機械加工性を有し、かつこの合金の機械的挙動は鋼鉄の機械的挙動に近いので、この合金は、任意の輪郭を旋盤で仕上げた計時器構成部品のための有利な材料を形成する。したがって、この合金は、非磁性歯車セットに、または少なくとも非磁性歯車セット心軸に、特により適している。」
(オ) 段落【0037】
「【0037】
一変形形態では、少なくとも銀およびパラジウムを含有するこの非磁性合金は、より高い強度および硬さを得るために、質量で0%~0.1%の亜鉛を含有し、前記合金成分の質量の合計は100%に等しい。」
イ 周知技術1の認定
前記アで摘記した引用文献2の記載に例示されているように、次の技術事項は、周知技術(以下「周知技術1」という。)であると認められる。
[周知技術1]
「計時器構成部品に関し、シャフト(回転軸)部分をパラジウム、銀、銅、を含有する非磁性合金で形成すること。」
ウ 技術常識1の認定
前記アで摘記した引用文献2の記載(特に【0037】)に例示されているように、次の技術事項は、技術常識(以下「技術常識1」という。)であると認められる(例えば、国際公開第2019/145434号の段落[0022]、特開2017-145496号公報の段落【0022】、国際公開第2013/099682号の段落【0016】を参照)。
[技術常識1]
「パラジウム、銀及び銅の三元合金部材の硬さを向上するために、亜鉛を添加すること。」
2 対比
(1) 対比分析
本願発明と引用発明を対比する。
ア 「回転車」について
引用発明の「回転可能に取り付けられる要素」は、「ガンギ車などの歯車」を含むから、本願発明の「回転車」に相当する。
イ 「ベアリング」について
(ア) 引用発明の「穴石2」は、「回転可能に取り付けられる要素のためのベアリング装置の全体または一部をなし得るもの」であるから、本願発明の「ベアリング」に相当する。
(イ) 引用発明の「穴石2」の「略環状の本体」は、本願発明の「ベアリングの本体」に相当する。
(ウ) 引用発明の「穴石2」の「略環状の本体」の「中心位置」にある「貫通孔20」は、本願発明の「ベアリングの本体」に「形成」された「穴(8、28)」に相当する。
(エ) 引用発明の「穴石2の下面21b」は、本願発明の「ベアリングの本体に穴(8、28)が形成されている面(6、26)」に相当する。
(オ) したがって、本願発明と引用発明は、「ベアリングには、前記ベアリングの本体に穴が形成されている面があ[る]」という点において共通する。
ウ 「アセンブリー」について
(ア) 引用発明の「時計ムーブメント」は、「回転可能に取り付けられる要素のためのベアリング装置の全体または一部をなし得る」「穴石2」「を有する」ものであるから、「ガンギ車などの歯車」を含む「回転可能に取り付けられる要素」と「穴石2」を備えるものであることは明らかである。
(イ) そうすると、引用発明の「時計ムーブメント」は、本願発明の「回転車と、ベアリングを備えるアセンブリー(10)」に相当する。
(ウ) したがって、本願発明と引用発明は、「回転車と、ベアリングを備えるアセンブリー」の発明である点において一致する。
エ 「ピボット」について
(ア) 引用発明の「真軸」は、「ガンギ車などの歯車」の回転軸を意味することは明らかであるから、本願発明の「回転車」にある「少なくとも一つのピボット(17)」に相当する。
(イ) したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。
「前記回転車には、少なくとも1つのピボットがあ[る]」点。
オ 「機能的な形状」について
(ア) 引用発明において、「穴石2」は「下面21bに含まれる機能要素19に開口して」おり、「開口」した「機能要素19」は、本願発明の「前記穴(8、28)の入口」に相当する。
(イ) ここで、引用発明の「機能要素19」は、「穴石2のテーパ係合面を形成している」から、「穴石2」は「真軸」を「テーパ」で「係合」して「受容する」ことになり、「機能要素19」には「係合」する機能に対応した形状が形成されているといえるから、「穴石2」の「下面21b」は、「開口」した「機能要素19」にて機能的な形状を有しているといえる。
(ウ) したがって、本願発明と引用発明は、「ベアリングの本体に穴が形成されている面は、前記穴の入口にて機能的な形状を有し」ているという点において一致する。
カ 「部分円錐面」について
(ア) 引用発明の「貫通孔20」は「下面21bに位置する略円錐状の凹部に連通して」いるところ、これは「開口」した「機能要素19」が「略円錐状の凹部」であることを意味するといえる。
(イ) ここで、「機能要素19」は「略円錐状の凹部」であるとしても、引用文献1の図1から、錐の頂部がない「円錐台(切頭円錐)」であることが見て取れるから、引用発明の「機能要素19」が「略円錐状の凹部」であることは、本願発明の「前記機能的な形状は、部分円錐面(12、22)の形であ[る]」ことに相当する。
(ウ) したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。
「前記機能的な形状は、部分円錐面の形であ[る]」点。
(2) 一致点及び相違点の認定
上記(1)の対比分析の検討結果をまとめると、本願発明と引用発明は、次のアに示す一致点において一致し、後記イに示す相違点において相違する。
ア 一致点
「回転車と、ベアリングを備えるアセンブリーであって、
前記回転車には、少なくとも1つのピボットがあり、
前記ベアリングには、前記ベアリングの本体に穴が形成されている面があり、この面は、前記穴の入口にて機能的な形状を有し、
前記機能的な形状は、部分円錐面の形である、
アセンブリー。」である点。
イ 相違点
本願発明において、
「前記ピボット(17)は少なくとも部分的に非磁性材料を含有し、」
「前記ピボット(17)の前記非磁性材料は、銅を含有する材料、パラジウムを含有する材料、又はアルミニウムを含有する材料から選択される合金を含有し、さらに、その合金が
38~43重量%のパラジウム、
35~40重量%の銀、
18~23重量%の銅、及び
0.5~1.5重量%の亜鉛
を含有する合金である」
のに対して、引用発明においては、「真軸」の材料は不明である点。
3 判断
前記相違点について検討する。
(1) ピボットの材料について
前記1(2)イにおいて周知技術1として認定したとおり、
「計時器構成部品に関し、シャフト(回転軸)部分をパラジウム、銀、銅、を含有する非磁性合金で形成すること。」
は周知である。
そうすると、引用発明において、「真軸」をパラジウム、銀、銅を含有する非磁性合金で形成することにより、前記相違点に係る「銅を含有する材料、パラジウムを含有する材料、又はアルミニウムを含有する材料から選択される合金を含有」するように構成することは、当業者ならば格別の困難性はない。
(2) 合金材料の成分比について
引用文献2の段落【0028】で示されている非磁性合金の成分重量%をみると、パラジウム、銀、及び銅については、本願発明の成分重量%範囲と重なる範囲となっている。
そして、前記相違点の程度の範囲内において、非磁性合金材料の成分比をどのようなものとするかは、強度や硬さなどの必要とされる特性に応じて当業者が適宜選択すべき設計事項の範囲内のものである。
(3) 亜鉛の添加について
前記1(2)ウにおいて技術常識1として認定したとおり、
「パラジウム、銀及び銅の三元合金部材の硬さを向上するために、亜鉛を添加すること。」
は技術常識である。
引用発明において、「真軸」の強度や硬さを向上させる動機はあるというべきであって、本願の明細書の記載を参酌しても、亜鉛の添加量を0.5~1.5重量%としたことについての技術的な意義は開示されていないから、引用発明において、「真軸」をパラジウム、銀、銅を含有する非磁性合金で形成する際、亜鉛を添加することは、当業者にとって自明な設計変更にすぎず、その添加量をどの程度にするかについても、当業者が適宜選択すべき設計事項の範囲内のものである。
(4) 総合評価
前記(1)~(3)において検討したとおり、前記相違点に係る本願発明の構成は、当業者が容易に想到し得たものである。
そして、本願発明の奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測困難であり、かつ、格別顕著なものを認めることはできない。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術1、技術常識1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5) 請求人の主張について
ア 請求人の主張内容
審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由」において、請求人は、おおよそ次のような主張をしている。
(ア) 引用文献2には、三元合金が、パラジウム、銀、銅、及び亜鉛の各元素を含むことまでは記載されていない。
(イ) 引用文献2の段落【0027】には「銀、銅、およびパラジウム」を使用するもののみが記載されている。
(ウ) 引用文献2の段落【0037】には「銀、およびパラジウム」に「亜鉛」を加えたものを使用するもののみが記載されている。
イ 請求人の主張についての検討
(ア) 引用文献2の段落【0027】には、「別の特定の組成では、シャフト状部分2の、少なくとも銀およびパラジウムを含有するこの非磁性合金は、銀、パラジウム、および銅を含有する三元合金であり、…」と記載されており、「銀、パラジウム、および銅を含有する三元合金」が「少なくとも銀およびパラジウムを含有するこの非磁性合金」の一例として挙げられており、これを受けて同段落【0037】では「一変形形態では、少なくとも銀およびパラジウムを含有するこの非磁性合金は、より高い強度および硬さを得るために、質量で0%~0.1%の亜鉛を含有し、前記合金成分の質量の合計は100%に等しい。」と記載されているのであるから、段落【0037】でいう「少なくとも銀およびパラジウムを含有するこの非磁性合金」が「銀、パラジウム、および銅を含有する三元合金」を含むことは明らかである。
したがって、引用文献2の上記記載から、パラジウム、銀、銅、及び亜鉛の各元素を含むことまでは記載されていないとする請求人の主張を採用することはできない。
(イ) 仮に請求人の主張に沿って検討しても、前記3(3)において説示したとおり、「合金部材の強度や硬さを向上するために、亜鉛を添加すること」は技術常識であるから、「銀、パラジウム、および銅を含有する三元合金」において「より高い強度および硬さを得るために、」亜鉛を追加する程度のことは当業者が容易に想到し得たものである。
したがって、請求人の前記主張は、いずれにしても採用することはできない。
第5 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-014383