特許拒絶査定不服審判
2023-013971
空洞充填方法
- 審判番号
- 2023-013971
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-089942
- 請求日
- 2023年08月18日
- 審決日
- 2025年12月15日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日油技研工業株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人眞久特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 古屋野 浩志
- 審判官 居島 一仁
- 審判官 立澤 正樹
- 分類
- P18 .121-WZ (E21D) / P18 .537-WZ (E21D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019- 89942「空洞充填方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年11月19日出願公開、特開2020-186537〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和元年5月10日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和4年12月27日付け:拒絶理由通知
令和5年 3月 7日 :意見書・手続補正書の提出
同年 6月13日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。)
(同月20日 :原査定の謄本の送達)
同年 8月18日 :審判請求書・手続補正書の提出
令和6年 8月 1日付け:拒絶理由通知
同年 9月27日 :意見書・手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1乃至4に係る発明は、令和6年9月27日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
(本願発明)
「 【請求項1】
ポリオール化合物、三量化触媒及び発泡剤を含むA液と、イソシアネート化合物を含むB液とを、A液:B液=1:2.8~3.5の体積比で混合し、前記A液に含まれる前記ポリオール化合物及び前記発泡剤に由来する水酸基の当量に対し、前記B液に含まれる前記イソシアネート化合物に由来するイソシアネート基の当量が3.4~4.9倍となる硬化性薬液を調整し、
前記硬化性薬液を施工対象である、トンネル覆工背面の空洞、建造物基礎下の空洞、建造物構造内の空洞、及び横坑から選ばれる少なくとも一つの空洞部に注入し、
前記硬化性薬液が硬化することにより、前記硬化性薬液に対して3~10倍の体積を有し且つ2.0N/mm2以上の圧縮強さを有する発泡ポリウレタンで前記空洞部を充填する空洞充填方法であって、
前記A液には、前記空洞部の表面に沿わせることのできる柔軟な前記発泡ポリウレタンが生成するように可塑剤を含むことを特徴とする空洞充填方法。」
第3 当審で通知した拒絶理由通知の概要
当審で通知した拒絶理由は、次の概要に記した理由を含むものである。
理由1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特開2019-1839号公報
第4 引用文献に記載された事項及び引用発明について
1 引用文献に記載された事項
当審で通知した拒絶理由において引用した、本願の出願日前である平成31年1月10日に公開された特開2019-1839号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)
(1)「【0002】
従来より、不安定な岩盤や地盤の安定強化のための地盤改良用途や、人工構造物のクラックや空隙を充填する空洞充填用途において採用される方策の一つとして、無機乃至有機系グラウトの注入があり、ある程度の効果を上げている。例えば、特許文献1では、そのようなグラウトの一つとして、ポリオール及び/又は有機ポリアミン化合物、有機ポリイソシアネート化合物、並びに水からなる土質等の安定化用注入薬液組成物が、用いられている。しかし、かかる特許文献1に開示の薬液組成物は、それによって形成される発泡体の発泡倍率が全体的に高くなるところから、充分な固結強度を実現することが出来ず、大量の漏水や湧水に対しては、その水圧を支える強度が得られずに、完全に止水することが難しいという問題を内在するものであった。」
(2)「【0011】
要するに、本発明は、A液とB液とからなる二液型の薬液組成物において、かかるA液の主成分となるポリオールの90質量%以上の割合を占めるように、ポリエーテルオールを用いると共に、1分子内に3つ以上の1級及び/又は2級アミノ基を含有するポリアミン化合物を、A液に更に加えることによって、それらポリエーテルポリオールとポリアミン化合物のB液中のポリイソシアネートに対する反応性の違いを利用して、混合直後でも湧水に希釈され難い薬液組成物が形成されるように構成したものであり、これにより、所期の目的を達成したところに、大きな特徴を有しているのである。そして、それらA液やB液は、具体的には、以下の如く構成されることとなるのである。
【0012】
<A液>
先ず、本発明に従う地盤注入用薬液組成物を構成する二液のうちの一つであるA液中には、その主成分となるポリオールの90質量%以上を占めるように、ポリエーテルポリオールが含有せしめられ、更にそれと共に、1分子内に3つ以上の1級及び/又は2級アミノ基を含有するポリアミン化合物が、必須の成分として含有せしめられることとなる。」
(3)「【0019】
ところで、本発明にあっては、A液に、更に触媒を含有せしめることも有効である。そこで使用される触媒としては、金属触媒及び3級アミン触媒のうちの少なくとも何れかを含有させることが出来、中でも金属触媒及び3級アミン触媒の両方の触媒を併用することが、より好ましい。なお、金属触媒の含有量は、ポリオールの100質量部に対して0.1~5質量部程度、好ましくは0.5~2.5質量部程度である。また、3級アミン触媒は、ポリオールの100質量部に対して、一般に0.1~5質量部程度、好ましくは0.5~2.5質量部程度の割合で、含有せしめられることとなる。これらの触媒の含有量が、0.1質量部よりも少ないと、反応に対する寄与が低下し、強度発現が遅くなる問題があり、一方5質量部よりも多くなると、反応が速くなり過ぎて、反応速度の制御が困難となる問題がある。また、金属触媒と3級アミン触媒を併用することによって、薬液組成物を単に混合した場合や、その混合物が湧水と接した場合の何れの場合も、直ちにA液とB液とが反応し、必要十分な強度の反応生成物を形成させることが出来る。
・・・
【0021】
(3級アミン触媒)
また、3級アミン触媒には、外部の水との接触により発泡が意図される場合において、イソシアネート成分と水との反応を促進する作用を有する泡化触媒、イソシアネート成分とポリオール成分との反応を促進する作用を有する樹脂化触媒、更にはイソシアネート成分の3量化を促進する作用を有するイソシアヌレート化触媒等があるが、それらは、何れも、公知のものの中から適宜に選択されることとなる。」
(4)「【0023】
<B液>
(ポリイソシアネート)
一方、本発明に従う地盤注入用薬液組成物を構成する二液のうちの他の一つであるB液は、従来と同様に、ポリイソシアネートを必須成分として調製されてなるものであり、本発明にあっては、そのようなB液中におけるポリイソシアネートの含有量が70~100質量%、好ましくは80~100質量%、より好ましくは90~100質量%となるように、調製されることが望ましい。かかるポリイソシアネートの含有量が70質量%よりも少なくなると、反応生成物の強度が低下する問題がある。そのため、B液におけるポリイソシアネートの割合は高い方が望ましく、B液をポリイソシアネートのみで形成しても、何等差支えない。
【0024】
さらに、本発明においては、かかるB液の必須成分であるポリイソシアネートは、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する有機系イソシアネート化合物であり、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(クルードMDI)、トリレンジイソシアネート、ポリトリレンポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネートの他、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー、ポリイソシアネートのイソシアヌレート変性体、カルボジイミド変性体等を挙げることが出来る。これらのポリイソシアネート成分は、単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。一般的には、反応性や経済性、取扱性等の観点から、MDIやクルードMDIが好適に用いられる。」
(5)「【0028】
さらに、本発明においては、上述の如きA液及びB液には、発泡剤として、水、炭化水素、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロオレフィン、ハイドロクロロフルオロオレフィン等を添加することも可能である。この発泡剤は、特に限定されるものではないが、水が好適に用いられる。水は、B液のポリイソシアネートと反応して、炭酸ガスを発生するものであるところから、発泡剤として機能するものである。また、かかる発泡剤の配合量は、特に限定されるものではないが、A液の100質量部に対して、0.1~2質量部程度の割合とすることが好ましい。
【0029】
なお、本発明に従う薬液組成物を構成する、上述の如きA液及びB液には、それぞれ、その使用目的に応じて、従来と同様な各種の添加剤を添加せしめることが可能である。例えば、A液又はB液に対する添加剤としては、整泡剤、減粘剤等を挙げることが出来る。これらの添加剤は、A液を構成するポリオールの100質量部に対して0.1~3質量部程度、好ましくは0.3~1質量部程度の割合において用いられることとなる。また、B液を構成するポリイソシアネートの100質量部に対して0.1~3質量部程度、好ましくは0.3~2質量部程度の割合となるように、用いられることとなる。
・・・
【0031】
加えて、減粘剤は溶剤として用いられ、A液又はB液に溶解されて、それらの液を減粘する働きを有するものであって、そのような機能を有するものである限りにおいて、特に限定されるものではなく、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等のエーテル類;プロピレンカーボネート等の環状エステル類;ジカルボン酸メチルエステル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類;石油系炭化水素類等が挙げられる。これらは、単独で用いられてもよく、2種以上を併用して、用いられてもよい。」
(6)上記(5)の記載から、「A液及びB液には、発泡剤として、水」が「添加」され、「水は、B液のポリイソシアネートと反応して、炭酸ガスを発生するもの」であるから、「B液のポリイソシアネートと反応」する「発泡剤」としての「水」は、「A液」に添加されるものであると認められる。
また、上記(5)の記載から、「A液及びB液」には、「減粘剤」が「添加」され、「溶解」されて、「液を減粘する働きを有する」ことから、「液を減粘する働きを有する」「減粘剤」を「A液」に「添加」することができると認められる。
(7)「【0032】
また、かくの如きA液とB液から構成される本発明に従う地盤注入用薬液組成物の使用に際しては、それら両液が、使用時に混合されて、目的とする地盤、岩盤等に対して、注入や流し込み等によって導入され、反応硬化せしめられることにより、基礎を形成することとなる。なお、かかるA液とB液との混合体積比(A:B)は、A液中の水酸基含有量とB液中のイソシアネート基含有量によって適宜に変化せしめられることとなるが、一般に、体積基準にて、A:B=1:0.5~1:3、好ましくは1:1~1:2.5の範囲内において、採用されることとなる。また、それらA液やB液の使用方法についても、それらの使用の直前に、二液の混合が確実に行われ得る手法であれば、特に制限はなく、従来から公知の注入手法や流し込み手法が、適宜に採用されることとなる。
【0033】
そして、それらA液とB液とを混合したとき、本発明に従う薬液組成物にあっては、有利には、発泡倍率が1~15倍となるように構成されることとなる。特に、湧水が出るような地盤へ注入するときに用いられる場合、発泡剤を実質的に配合することなく、発泡倍率は1~2倍、好ましくは1~1.5倍、より好ましくは1~1.3倍となるように設定されることが望ましい。A液とB液とを混合して、水中又は水存在下の地盤へ注入したときの発泡倍率は、発泡剤となる外部の水と接触することで、1~15倍となるように設定され、例えば、止水用途では5倍以下、地山固結用途では5~15倍程度の発泡倍率となるように、目的に応じて適宜に調整されることとなる。
【0034】
特に、湧水のある地盤に注入された薬液組成物にあっては、水と接触しない部分は発泡が1~2倍程度の低い発泡倍率に抑えられる。一方、水と接触せしめられる部分が、2倍程度よりも高い発泡倍率において発泡するという部分的乃至は段階的な発泡形態が実現されることとなるのである。このときの地盤に注入された反応生成物は、その外側の水と接触する部分の発泡倍率は高くなるが、内側の水と接触しない部分は発泡倍率の低い高強度の硬化反応生成物を与える形態となるために、湧水の水圧を充分に支え得る強度を有利に実現することが出来るのである。」
2 引用発明
上記「1」からみて、引用文献1には下記の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明」という。)
「人工構造物の空隙を充填する空洞充填用途において採用される方策として、グラウトの注入があり、グラウトの一つとして、注入薬液組成物が用いられ(【0002】)、
A液とB液とからなる二液型の薬液組成物であり(【0011】)、
地盤注入用薬液組成物を構成する二液のうちの一つであるA液中には、その主成分となるポリオールの90質量%以上を占めるように、ポリエーテルポリオールが含有せしめられ(【0012】)、
A液に、更に触媒を含有せしめることも有効であり、使用される触媒としては、金属触媒及び3級アミン触媒のうちの少なくとも何れかを含有させることが出来(【0019】)、
3級アミン触媒には、イソシアネート成分の3量化を促進する作用を有するイソシアヌレート化触媒があり(【0021】)、
地盤注入用薬液組成物を構成する二液のうちの他の一つであるB液は、ポリイソシアネートを必須成分として調製されてなるものであり(【0023】)、
ポリイソシアネートは、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(クルードMDI)、トリレンジイソシアネート、ポリトリレンポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートであり(【0024】)、
A液には、発泡剤として、水が添加され、発泡剤の配合量は、A液の100質量部に対して、0.1~2質量部程度の割合とすることが好ましく(【0028】)、
A液には、各種の添加剤を添加せしめることが可能であり、添加剤としては、減粘剤を挙げることが出来(【0029】)、
減粘剤は溶解されて、それらの液を減粘する働きを有するものであって(【0031】)、
A液とB液から構成される地盤注入用薬液組成物の使用に際しては、それら両液が、使用時に混合されて、目的とする地盤、岩盤等に対して、注入や流し込み等によって導入され、反応硬化せしめ(【0032】)、
A液とB液との混合体積比(A:B)は、A液中の水酸基含有量とB液中のイソシアネート基含有量によって適宜に変化せしめられることとなるが、体積基準にて、A:B=1:0.5~1:3の範囲内において、採用されることとなり(【0032】)、
A液とB液とを混合したとき、発泡倍率が1~15倍となるように構成されることとなり(【0033】)、
湧水の水圧を充分に支え得る強度を有利に実現することが出来る(【0034】)、
人工構造物の空隙を充填する空洞充填用途において採用される方策。」
第5 対比・検討・判断
1 本願発明について
(1)本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「人工構造物の空隙を充填する空洞充填用途において採用される方策」は、「空洞」への「空洞充填」による対策であるから、本願発明の「空洞充填方法」に相当する。
イ 引用発明の「ポリオール」、「発泡剤」、「ポリイソシアネート」は、本願発明の「ポリオール化合物」、「発泡剤」、「イソシアネート化合物」に相当する。
また、引用発明の「3級アミン触媒」は、イソシアネート成分の3量化を促進する作用を有するイソシアヌレート化触媒」であるから、本願発明の「三量化触媒」に相当する。
そうしてみると、引用発明の「A液」は、「主成分となるポリオールを含有し」、「発泡剤として、水が添加され」、「3級アミン触媒」を含有するものであるから、本願発明の「ポリオール化合物、三量化触媒及び発泡剤を含むA液」に相当し、また、引用発明の「B液」は、「ポリイソシアネートを必須成分として調製されてなるものであ」るから、本願発明の「イソシアネート化合物を含むB液」に相当する。
ウ 引用発明の「地盤注入用薬液組成物」は、「反応硬化」する「A液とB液とからなる」ものであり、本願発明の「硬化性薬液」に相当する。
エ 引用発明の「人工構造物の空隙」は、「地盤注入用薬液組成物」が「注入」される箇所であり、本願発明の「施工対象」に相当し、引用発明の「人工構造物の空隙」へ「地盤注入用薬液組成物」を「注入」することは、本願発明の「硬化性薬液を施工対象である空洞部に注入」することに相当する。
オ 引用発明は、「主成分となるポリオールを含有」し、「発泡剤として、水が添加され」た「A液」と、「ポリイソシアネートを必須成分として調製」される「B液」とを「混合」し、「混合」した際の反応により、発泡ポリウレタンが形成されることは明らかであり、引用発明において、「A液」と「B液」が混合されたものが、本願発明の「発泡ポリウレタン」に相当する。
カ 引用発明の「それら両液が、使用時に混合されて、目的とする地盤、岩盤等に対して、注入や流し込み等によって導入され」ることで、空洞部が充填されることは明らかであり、本願発明の「前記空洞部を充填すること」に相当し、また、引用発明の「地盤注入用薬液組成物の使用」で「反応硬化せしめられること」は、本願発明の、「前記硬化性薬液が硬化すること」に相当する。
(2)一致点・相違点
したがって、本願発明と引用発明とは、
<一致点>
「ポリオール化合物、三量化触媒及び発泡剤を含むA液と、イソシアネート化合物を含むB液とを混合し、硬化性薬液を調整し、
前記硬化性薬液を施工対象である空洞部に注入し、
前記硬化性薬液が硬化することにより、発泡ポリウレタンで前記空洞部を充填する空洞充填方法。」
である点において一致し、下記の点で相違する。
<相違点1>
本願発明は、「A液:B液=1:2.8~3.5の体積比で混合し」ているのに対して、引用発明は、「体積基準にて、A:B=1:0.5~1:3の範囲内において」「混合」しているものあり、一部重複はあるものの、数値範囲が異なる点。
<相違点2>
本願発明は、「前記A液に含まれる前記ポリオール化合物及び前記発泡剤に由来する水酸基の当量に対し、前記B液に含まれる前記イソシアネート化合物に由来するイソシアネート基の当量が3.4~4.9倍となる」ように「調整」されているのに対して、引用発明では、そのような「調整」が行われていない点。
<相違点3>
本願発明は、「前記硬化性薬液を施工対象である、トンネル覆工背面の空洞、建築物基礎下の空洞、建築構造物内の空洞、及び横坑から選ばれる少なくとも一つの空洞部に注入し」ているのに対して、引用発明は、「注入薬液組成物」を「人工構造物の空隙」に「充填」している点。
<相違点4>
本願発明は、「発泡ポリウレタン」が「前記硬化性薬液に対して3~10倍の体積を有し」ているのに対して、引用発明は、「発泡倍率が1~15倍」であり、一部重複はあるものの、数値範囲が異なる点。
<相違点5>
本願発明は、「空洞部を充填する」「発泡ポリウレタン」が「2.0N/mm2以上の圧縮強さを有する」のに対して、引用発明では、「空洞」を「充填」したものの圧縮強さについて規定されていない点。
<相違点6>
本願発明は、「前記A液には、前記空洞部の表面を沿わせることができる柔軟な前記発泡ポリウレタンが生成するように可塑剤を含む」のに対して、引用発明では、「A液」には、「液を減粘する働きを有する」「減粘剤」が「添加」されている点。
2 検討・判断
以下、相違点1~6について検討・判断する。
(1)相違点1について
本願発明の混合の体積比も引用発明の混合の体積基準での比も、施工対象である空洞部を充填して塞ぐためのものであり、数値範囲に一部重複する範囲がある等、同様の混合の体積比であると認められる。
そして、引用文献1の【0023】には、「<B液>(ポリイソシアネート)」について、「・・・地盤注入用薬液組成物を構成する二液のうちの他の一つであるB液は、従来と同様に、ポリイソシアネートを必須成分として調製されてなるものであり、・・・かかるポリイソシアネートの含有量が70質量%よりも少なくなると、反応生成物の強度が低下する問題がある。そのため、B液におけるポリイソシアネートの割合は高い方が望ましく、B液をポリイソシアネートのみで形成しても、何等差支えない。」、
【0025】には、「・・・A液中の主成分となるポリオールを構成するポリエーテルポリオールと、ポリアミン化合物とは、B液におけるポリイソシアネートに対して、並行して反応せしめられることとなるが、それらA液とB液の混合直後には、反応速度の違いにより、ポリアミン化合物との間において優先的に反応が起こり、そして反応の後半において、ポリエーテルポリオールとイソシアネートが反応するようになる。このような反応形態により、硬化時間が大きく変化することなく、混合物は注入直後より増粘挙動を示し、水に希釈され難い反応生成物を形成することで、水に混入され難くなり、白濁も有利に防ぐことが可能となるのである。」、
【0032】には、「・・・なお、かかるA液とB液との混合体積比(A:B)は、A液中の水酸基含有量とB液中のイソシアネート基含有量によって適宜に変化せしめられることとなるが、一般に、体積基準にて、A:B=1:0.5~1:3、好ましくは1:1~1:2.5の範囲内において、採用されることとなる。・・・」、
とそれぞれ記載されている。
したがって、引用文献1から、A液とB液の混合において、反応速度の違いから、「ポリエーテルポリオール」と「ポリイソシアネート」の反応は前半に他の反応と並行して行われることに加え、反応の後半においても反応するものであり、また、反応生成物の強度を確保するために、「ポリイソシアネート」の割合を高くし、イソシアネートのイソシアネート基含有量を高くすることが望ましいことが理解できる。
そうしてみると、引用発明において、反応に用いられるB液に含まれるイソシアネート化合物に由来するイソシアネート基の当量比を高くすることを考慮して、引用発明のA液とB液の体積比の数値範囲の最適化、好適化は当業者が適宜なし得る設計的事項と認められ、引用発明において、混合の体積比を「A液:B液=1:2.8~3.5の体積比で混合」とすることは、当業者が容易になし得たことである。
(2)相違点2について
引用発明において、「A液とB液との混合体積比(A:B)は、A液中の水酸基含有量とB液中のイソシアネート基含有量によって適宜に変化せしめられることとなるが、体積基準にて、A:B=1:0.5~1:3の範囲内において、採用されることとなり」と記載されていることから、「A液中の水酸基含有量とB液中のイソシアネート基含有量」を「混合」する際に考慮することも認められる。
そして、引用文献1において、「A液とB液との混合体積比(A:B)」は、「体積基準にて、A:B=1:0.5~1:3、好ましくは1:1~1:2.5の範囲内」と記載があり、実施例として、A:B=1:1、もしくは、A:B=1:2に限られるとしても、課題の記述からそれ以外も対象となるし、排除される特段の事情もないことから、少なくとも上記の「範囲内」において、適宜なし得るものであると認められる。
さらに、引用文献1において、背景技術等の湧水に関連する記載からみると、「ポリイソシアネート」の割合を高くし、イソシアネートのイソシアネート基含有量を高くすることが望ましいことが理解できる。
そうしてみると、引用発明において、反応に用いられるB液に含まれるイソシアネート化合物に由来するイソシアネート基の当量比を高くすることを考慮して、「A液中の水酸基含有量とB液中のイソシアネート基含有量」の数値範囲の最適化、好適化は当業者が適宜なし得る設計的事項と認められ、引用発明において、「前記A液に含まれる前記ポリオール化合物及び前記発泡剤に由来する水酸基の当量に対し、前記B液に含まれる前記イソシアネート化合物に由来するイソシアネート基の当量が3.4~4.9倍」とすることは、当業者が容易になし得たことである。
(3)相違点3について
ア 引用文献1は、段落【0002】に「従来より、不安定な岩盤や地盤の安定強化のための地盤改良用途や、人工構造物のクラックや空隙を充填する空隙充填用途において採用される方策として、無機乃至有機系グラウドの注入」を行った場合、「充分な固結強度を実現することが出来ず、大量の漏水や湧水に対しては、その水圧をさせる強度が得られずに、完全に止水することが難しいという問題」を解決するために、「地盤改良用途」の具体例として「薬液組成物」を「地盤注入」しているものである。
イ そして、引用文献1の段落【0002】には、背景技術として、「不安定な岩盤や地盤の安定強化のための地盤改良用途」および「人工構造物のクラックや空隙を充填する空洞充填用途」のいずれにおいても生じる「大量の漏水や湧水」に対する問題が内在することが記載されていると認められる。
ウ さらに、引用文献1の段落【0002】に従来技術として提示された特許文献1(特開平7-26263号公報)においても、段落【0007】において、「硬質発泡ポリウレタン」を「シールド工事」の「裏込め材」として用いることが記載されている。
エ 上記ア~ウをふまえると、「大量の漏水や湧水」に対する問題を解決するために、「薬液組成物」を充填するにあたり、引用発明において「注入薬液組成物」を「充填」する対象である「人工構造物の空隙」として、「トンネル覆工背面の空洞」を想定することできると考えられ、「注入薬液組成物」を「充填」する対象である「人工構造物の空隙」として、「トンネル覆工背面の空洞」とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。
また、仮にそうでないとしても、上記ア~ウの記載、及び、トンネルを成功する際、大量の漏水や湧水が発生するという技術常識を考慮すると、引用発明において「注入薬液組成物」を「空隙」に「充填」する対象である「人工構造物の空隙」として、「トンネル覆工背面の空洞」を対象とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
オ そして、相違点3に関して、請求人は、令和6年8月8日に提出された意見書(以下、「意見書」という。)盤注入用薬液組成物は地盤、岩盤に注入して基礎を形成するものであり、本願発明に係る空隙充填方法のように、トンネル覆工背面の空洞、建築構造物基礎下の空洞、建築構造物内の空洞、及び横坑から選ばれる少なくとも一つの空洞部に注入するものではありません。」、「しかしながら、引用文献に係る地盤注入用薬液組成物は基礎が形成されていない地盤、岩盤に注入して基礎を形成するものであり(段落0032参照)、既に基礎が形成されているトンネル覆工背面の空洞、建築構造物基礎下の空洞、建築構造物内の空洞、又は横坑に充填されるものとは相違することは明らかです。」と主張している。
しかし、上記ア~エの判断から、引用発明の「薬液組成物」が「充填」される対象は、地盤/岩盤に限られず、「大量の漏水や湧水」が発生する箇所に適宜可能であると考えられ、当該請求人の主張を採用することはできない。
(4)相違点4について
本願発明の硬化性薬液に対する発泡ポリウレタンの体積も引用発明の発泡倍率も、施工対象である空洞部を充填して塞ぐためのものであり、数値範囲に一部重複する範囲がある等、同様の硬化性薬液に対する発泡ポリウレタンの体積であると認められる。
そして、引用文献1の【0023】には、「<B液>(ポリイソシアネート)」について、「・・・地盤注入用薬液組成物を構成する二液のうちの他の一つであるB液は、従来と同様に、ポリイソシアネートを必須成分として調製されてなるものであり、・・・かかるポリイソシアネートの含有量が70質量%よりも少なくなると、反応生成物の強度が低下する問題がある。そのため、B液におけるポリイソシアネートの割合は高い方が望ましく、B液をポリイソシアネートのみで形成しても、何等差支えない。」、
したがって、引用文献1から、反応生成物の強度を確保する必要があることが理解できる。
そうしてみると、引用発明において、A液とB液とを混合した反応生成物の強度を確保するために、「発泡倍率」を規定することは、数値範囲の最適化、好適化は当業者が適宜なし得る設計的事項と認められ、引用発明において、「発泡ポリウレタン」の「体積」を「硬化性薬液に対して3~10倍の体積」とすることは、当業者が容易になし得たことである。
(5)相違点5について
引用発明において、「人工構造物の空隙を充填する」際、「湧水の水圧を充分に支え得る強度を有利に実現することが出来る」ことが求められることから、充填され、硬化性薬液が硬化された結果、所望の強度を備える必要があることは明らかである。
そうしてみると、引用発明において、「空洞部を充填する」「発泡ポリウレタン」が、「2.0N/mm2以上の圧縮強さを有する」ことに臨界的意義は認められないことから、引用発明において、「2.0N/mm2以上の圧縮強さを有する発泡ポリウレタンで前記空洞部を充填する」ことは、当業者が容易になし得たことである。
(6)相違点6について
ア 引用文献1の【0029】には、「なお、本発明に従う薬液組成物を構成する、上述の如きA液及びB液には、それぞれ、その使用目的に応じて、従来と同様な各種の添加剤を添加せしめることが可能である。例えば、A液又はB液に対する添加剤としては、整泡剤、減粘剤等を挙げることが出来る。これらの添加剤は、A液を構成するポリオールの100質量部に対して0.1~3質量部程度、好ましくは0.3~1質量部程度の割合において用いられることとなる。また、B液を構成するポリイソシアネートの100質量部に対して0.1~3質量部程度、好ましくは0.3~2質量部程度の割合となるように、用いられることとなる。」と記載されており、「薬液組成物」の粘度を下げる添加剤である「減粘剤」を添加することが出来ることが記載されている。
イ そして、引用文献1には、「薬液組成物」の粘度に関して、【0005】に、「加えて、湧水の流れを止水すべく、上述の如き薬液組成物を注入する場合において、ポリオール及びアミン化合物を含む(A)成分とポリイソシアネートを含む(B)成分とを混合して注入したときから、それらが反応して、発泡・硬化が始まるまでには、タイムラグが発生することとなるが、湧水のある地盤に注入したときに、このタイムラグのために、薬液組成物が水と混ざり、希釈されることによって、注入した薬液組成物も湧水の流れによって流れ、充分な止水が出来なくなる問題や、湧水に流された薬液組成物が、水質汚染の原因になるという問題が発生する。このため、その対策として、薬液の粘度を上げることや、反応速度を上げる等の対策の採用が考えられるのであるが、粘度を上げた場合には、薬液を注入する際の注入圧が過大となって、装置や設備への負荷が大きくなる問題が発生し、また反応速度を上げた場合には、硬化が速くなり過ぎて、薬液が亀裂や地山内に充分に浸透しないという問題が惹起されるようになる。」と記載されている。すなわち、「薬液」の「粘度」に関して、粘度を上げた場合に薬液を注入する際の注入圧が過大となること、および、反応速度を上げた場合に効果が速くなり過ぎて、充分に浸透しないこと、が記載されている。
ウ ここで、粘度とは、物質の内部摩擦を示す物理量であり、粘度が高い物質は流れにくく、低い物質は流れやすい特性を有する。また、物質の表面の分子が他の分子に及ぼす力を指す表面張力との関係において、粘度が低い物質は表面張力が低くなる。また、表面張力が低い場合、対象物との接触角が小さくなり、そのぬれ性が高くなる。そして、ぬれ性が高いことは、対象物への物質の追従性が良くなることを意味し、これらの物理量に相関性があることは技術常識である。
エ 上記ア~ウをふまえると、引用発明の「薬液組成物」を構成する「A液又はB液に対する」「添加剤」として添加された「減粘剤」は、「薬液組成物」の粘度を小さくし、結果として、注入した対象物への追従性が良くなると考えられる。
オ そして、本願の発明の詳細な説明【0050】に、「可塑剤は、発泡ポリウレタンに柔軟性を付与して、空洞をなしている地山の複雑な表面に沿わせながら発泡ポリウレタンを生成させることができる。」と記載されていることも考慮すると、本願発明1の「可塑剤」は、「前記空洞部の表面に沿わせることができる柔軟な前記発泡ポリウレタンが生成するように」「A液」に含まれるものであるから、「A液」と「B液」とが混合して、「発泡ポリウレタン」を生成する過程において「空洞部の表面に沿わせることができる」ように、「可塑剤」が含まれていると認められる。
カ そうしてみると、引用発明の「減粘剤」は、本願発明の「可塑剤」と、注入される硬化性薬液を柔軟にするという共通の機能及び作用を有するものであると認められ、引用発明の「減粘剤」は、注入される硬化性薬液を柔軟にする点において本願発明の「可塑剤」と共通する。
そして、引用発明の「減粘剤」の添加は、粘度を小さくすることにより、注入した対象物への追従性が良くなるものであるから、「減粘剤」の添加により、「薬液」が減粘されて「亀裂」の表面に沿って浸透すると認められる。
よって、相違点6に係る本願発明の構成は、引用発明と実質的に相違するものではない。
キ 相違点6に関して、請求人は、意見書において、「このことは、引用文献には、空洞部の表面に沿わせることができる柔軟な発泡ポリウレタンが生成するように可塑剤をA液に配合することは全く記載されていないことからも明らかです。」、「また、引用文献には、注入する地盤、岩盤との関係で可塑剤を配合することは全く記載されておりません。」と主張している。
しかし、上記のように、引用発明では、充填される「A液」に「減粘剤」が添加され、減粘されることにより、「亀裂」の表面に沿って浸透し、内部への浸透が充分に行われるものであり、引用発明の「減粘剤」は、注入される硬化性薬液を柔軟にする点において本願発明の「可塑剤」と共通することから、相違点6に係る本願発明の構成は、引用発明と実質的に相違するものではなく、上記請求人の主張を採用することはできない。
3 本願発明のまとめ
各相違点については、前記2で検討したとおりであり、また、相違点1~6を総合的に勘案しても、本願発明の奏する効果としては、当業者にとって予測困難であり、かつ、格別顕著なものを認めることはできない。
よって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-013971