特許拒絶査定不服審判
2023-012900
バイオメトリックの個人化オーディオ処理システム
- 審判番号
- 2023-012900
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-000273
- 請求日
- 2023年08月02日
- 審決日
- 2024年08月19日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】ハーマン インターナショナル インダストリーズ インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】山本 秀策
- 【請求人代理人】森下 夏樹
- 審判長/審判官
- 審判長 篠塚 隆
- 審判官 富澤 哲生
- 審判官 村松 貴士
- 分類
- P18 .121-WY (G06F) / P18 .537-WY (G06F) / P18 .536-WY (G06F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019- 273「バイオメトリックの個人化オーディオ処理システム」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 7月22日出願公開、特開2019-121401、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成31年1月4日(パリ条約による優先権主張2018年1月4日、米国)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和4年11月29日付け:拒絶理由通知書
令和5年 2月28日 :意見書、手続補正書の提出
令和5年 4月 4日付け:拒絶査定
令和5年 8月 2日 :拒絶査定不服審判の請求、手続補正書の提出
令和6年 4月19日付け:拒絶理由通知書
令和6年 7月 3日 :意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
本願請求項1~15に係る発明(以下「本願発明1」~「本願発明15」という。)は、令和6年7月3日提出の手続補正書により補正された(この補正を、以下「本件補正」という。)特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1,7,13は、次のとおりの発明である。
「【請求項1】
音声信号を使用者に再生するためのコンピュータ実装方法であって、
使用者に関連するバイオメトリックデータまたは1つ以上の使用者アプリケーションからの二次使用者パラメータのうちの少なくとも1つを含む第1の使用者パラメータセットを受信することと、
第1のオーディオトラックを受信することと、
前記第1のオーディオトラックの音響特性を反映する第1の値のセットを生成することと、
前記第1の使用者パラメータセットと、前記第1の値のセットと、所与の使用者パラメータを対応する気分パラメータとマッピングするエントリを含む第1のルックアップテーブルとに基づいて、価数値および覚醒値を含む第1の気分パラメータセットを判定することと、
前記第1の気分パラメータセットと、価数値および覚醒値の範囲を対応する所定の気分とマッピングするエントリを含む第2のルックアップテーブルとに基づいて、第1の所定の気分を判定することと、
前記第1の所定の気分に基づいて、第1の音響プロファイルを選択することであって、前記第1の音響プロファイルは、第1の音響パラメータセットを含む、ことと、
前記第1の音響パラメータセットに基づいて、音声出力デバイスに第1の音声信号を再生させることと
を含む、コンピュータ実装方法。」
「【請求項7】
1つ以上のプロセッサによって実行されるとき、前記1つ以上のプロセッサに、
使用者に関連するバイオメトリックデータまたは1つ以上の使用者アプリケーションからの二次使用者パラメータのうちの少なくとも1つを含む第1の使用者パラメータセットを受信するステップと、
第1のオーディオトラックを受信するステップと、
前記第1のオーディオトラックの音響特性を反映する第1の値のセットを生成するステップと、
前記第1の使用者パラメータセットと、前記第1の値のセットと、所与の使用者パラメータを対応する気分パラメータとマッピングするエントリを含む第1のルックアップテーブルとに基づいて、価数値および覚醒値を含む第1の気分パラメータセットを判定するステップと、
前記第1の気分パラメータセットと、価数値および覚醒値の範囲を対応する所定の気分とマッピングするエントリを含む第2のルックアップテーブルとに基づいて、第1の所定の気分を判定するステップと、
前記第1の所定の気分に関連する第1の音響プロファイルを選択するステップであって、前記第1の音響プロファイルが第1の音響パラメータセットを含む、ステップと、
前記第1の音響パラメータセットに基づいて、音声出力デバイスに第1の出力音声信号を出力させるステップと
を実行させる命令を含む、1つ以上の非一時的コンピュータ可読媒体。」
「【請求項13】
個人化オーディオシステムであって、
第1のバイオメトリックデータを生成するように構成された少なくとも1つのセンサと、
第1の音響プロファイルを記憶するように構成されているメモリと、
前記少なくとも1つのセンサと前記メモリとに連結されたプロセッサと
を含み、前記プロセッサは、
前記第1のバイオメトリックデータを受信することと、
第1のオーディオトラックを受信することと、
前記第1のオーディオトラックの音響特性を反映する第1の値のセットを生成することと、
前記第1のバイオメトリックデータと、前記第1の値のセットと、所与の使用者パラメータを対応する気分パラメータとマッピングするエントリを含む第1のルックアップテーブルとに基づいて、価数値および覚醒値を含む第1の気分パラメータセットを判定することと、
前記第1の気分パラメータセットと、価数値および覚醒値の範囲を対応する所定の気分とマッピングするエントリを含む第2のルックアップテーブルとに基づいて、第1の所定の気分を判定することと、
前記第1の所定の気分に基づいて、前記第1の音響プロファイルを選択することであって、前記第1の音響プロファイルは、第1の音響パラメータセットを含む、ことと、
前記第1の音響パラメータセットに基づいて、音声出力デバイスに第1の音声信号を再生させることと
を実行するように構成される、個人化オーディオシステム。」
なお、本願発明2~6は本願発明1を、本願発明8~12は本願発明7を、本願発明14,15は本願発明13を、それぞれ減縮した発明である。
第3 原査定の概要
原査定(令和5年4月4日付け拒絶査定)の概要は、次のとおりである。
この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
発明の詳細な説明の段落[0025]、[0040]、[0043]、[0044]、[0046]、[0048]の記載は、いずれも機能的な記載にとどまり、実際にどのような処理を行えば、気分の判定を行えるのかが記載されていない。
例えば、段落[0025]の記載において、そもそも覚醒値、価数値がどのようなものか不明であり、どのような覚醒値、価数値をどのような気分としてマッピングするのかも不明である。また、段落[0044]の記載において、どのようなパラメータが「快活」ではないのかが不明である。
他の段落についても同様であり、ルックアップテーブルを用いてマッピングすることは記載されているものの、入力値そのものも不明であるし、具体的にどのようにマッピングするのかが記載されておらず、使用者パラメータから気分の判定を行うことが出来る程度に記載されているとはいえない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1~16に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
第4 当審拒絶理由の概要
当審が令和6年4月19日付けで通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。
1 理由1(明確性)
この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
請求項2には、「前記第1のオーディオトラックの音響特性を反映する第1の値のセットを生成することであって、前記第1の値のセットは、前記第1の使用者パラメータセットに含まれる」と記載されているが、「第1の値のセット」が「第1の使用者パラメータセットに含まれる」とは、「第1の値のセット」がどのような特性のものであることを特定しているのか不明である。
よって、請求項2に係る発明は明確でない。
2 理由2(進歩性)
本願請求項1,3~5,8,10~16に係る発明は、以下の引用文献1,2に記載された発明に基づいて、本願請求項2,7,9に係る発明は、以下の引用文献1~3に記載された発明に基づいて、本願請求項6に係る発明は、以下の引用文献1,2,4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1: 特開2006-6355号公報
引用文献2: 特許第3978548号公報
引用文献3: 特開2009-266005号公報
引用文献4: 特開平9-51239号公報
第5 引用文献の記載、引用発明等
1 引用文献1、引用発明
(1)当審拒絶理由にて引用された引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審による。以下同様。)。
「【0014】
〔1〕 映像音響再生装置の例
図1はこの発明を映像音響再生装置に適用した場合の一例を示す。この映像音響再生装置は、対象者の覚醒度および感情価の値に応じて再生される映像や音響を制御するものである。
【0015】
このため、映像音響再生装置は、視聴者から非接触で生体情報を取得する非接触型の生体情報センサとして、この例においては、サーモグラフィ11およびビデオカメラ12を有し、これらの出力が生体情報解析回路16に供給される。
【0016】
この場合、図2に示すように、サーモグラフィ11は視聴者の顔の表面温度を測定し、この測定結果を生体情報解析回路16が解析して鼻孔および末梢部の温度の時間変化から呼吸および脈拍の変化を間接的に求める。また、ビデオカメラ12は視聴者の顔を撮影し、生体情報解析回路16は、ビデオカメラ12の出力から頬、眉間、額などのあらかじめ設定した点の変位量を求める。つまり、視聴者の頬骨筋や皺眉筋などが伸縮すると、頬、眉間、額などに設定した点が変位するので、その変位量から筋肉の伸縮量を知ることができ、その結果、筋電を間接的に測定できる。
【0017】
さらに、映像音響再生装置は、視聴者の身体に装着されて生体情報を取得する接触型の生体情報センサとして、この例においては、呼吸センサ13、脈拍センサ14および筋電センサ15を有し、これらの出力も生体情報解析回路16に供給される。
【0018】
この場合、呼吸センサ13は、視聴者の胸あるいは腹に装着され、脈拍センサ14は視聴者の指先に装着され、生体情報解析回路16は、センサ13、14の出力から視聴者の呼吸および脈拍の変化を求める。また、筋電センサ15は、図3に示すように、視聴者の頬、眉間、額に装着された電極であり、生体情報解析回路16は、筋電センサ15の出力から筋電を求め、活動部位、振幅の大きさおよびその変化量を求める。
【0019】
なお、センサ11~15およびそのセンサ出力は、視聴者の視聴状況、測定条件、測定環境などに応じて適切なものだけを使用することができる。
【0020】
そして、生体情報解析回路16の解析結果が、マイクロコンピュータ20に供給されて視聴者の覚醒度および感情価が算出され、その結果にしたがって映像および音響が適切に再生される。すなわち、マイクロコンピュータ20は、プログラムを実行するCPU21と、各種のプログラムの書き込まれたROM22と、ワークエリア用のRAM23とを有し、これらがシステムバス29を通じて互いに接続されている。
【0021】
この場合、ROM22には、CPU21が実行するプログラムの一部として、例えば図4に示すようなルーチン100も用意される。このルーチン100の詳細については後述するが、ルーチン100は、視聴者の生体情報に基づいて視聴者が映像や音響を心地よく感じるように、映像信号あるいは音響信号を制御するためのものである。なお、図4においては、ルーチン100は、この発明に関係する部分だけを抜粋して示している。」
「【0026】
このような構成において、ユーザインターフェイス25を操作すると、DVDプレーヤ36により映像信号および音響信号が再生され、その映像信号が、映像音響制御回路26および表示制御回路27を通じてディスプレイ37に供給されて映像が表示されるとともに、音響信号が、映像音響制御回路26および音響処理回路28を通じてスピーカ38に供給されて音響が再生される。
【0027】
そして、このとき、CPU21によりルーチン100が実行されて、ディスプレイ37の映像およびスピーカ38の音響に対する視聴者の覚醒度および感情価が算出され、この算出結果により、視聴者が映像や音響を心地よく感じるように、その映像および音響が制御される。
【0028】
すなわち、ルーチン100が実行されると、ステップ101において、生体情報解析回路16から、センサ11~15により測定された生体情報がマイクロコンピュータ20に取り込まれ、次にステップ102においてステップ101により取り込まれた生体情報から覚醒度および感情価が算出される。この算出方法については、〔2〕により後述するが、それぞれ正および負の極性を取り得るアナログ値として算出される。
【0029】
続いて、処理はステップ103に進み、このステップ103において、ステップ102により算出された覚醒度および感情価の極性が判別され、その極性の組み合わせにしたがって処理が分岐される。すなわち、覚醒度が正および負の値を取り得るとともに、感情価も正および負の値を取り得るので、覚醒度および感情価を2次元の座標により表現すると、図5に示すようになり、このとき、
領域1は、覚醒度>0、かつ、感情価>0(覚醒度が高く、心地よい)
領域2は、覚醒度>0、かつ、感情価<0(覚醒度が高いが、不快である)
領域3は、覚醒度<0、かつ、感情価>0(覚醒度が低くいが、心地よい)
領域4は、覚醒度<0、かつ、感情価<0(覚醒度が低く、不快でもある)
となる。
【0030】
そこで、覚醒度および感情価が領域1に含まれる場合には、このときの映像および音響を心地よく感じていると視聴者の心理状態を推定し、処理はステップ103からステップ111に進む。そして、ステップ111においては、ディスプレイ37およびスピーカ38に供給される映像信号および音響信号を変更することなくステップ101に戻る。つまり、領域1の場合には、視聴者がこのときの映像および音響に満足していると判断し、それらの再生状態を変更しない。
【0031】
しかし、覚醒度および感情価が領域2に含まれる場合には、このときの映像および音響を不快に感じていると視聴者の心理状態を推定し、処理はステップ103からステップ112に進む。そして、ステップ112において、視聴者の不快感を取り除くため、例えば、ディスプレイ37に供給される映像信号の直流レベルや交流レベルを下げてディスプレイ37に表示される映像の輝度やコントラストを下げる。また、スピーカ38に供給される音響信号のレベルを下げたり、周波数特性を変更するなどしてスピーカ38から出力される音響の音量を下げたり、低域や高域を弱めたり、あるいはリズムを弱めたりする。そして、その後、処理はステップ101に戻る。
【0032】
なお、ステップ112により設定した状態が所定の期間にわたって続くときには、視聴者の覚醒度および感情価が改善されないときなので、このときには、ステップ112により、例えば映像および音響の再生が停止される。
【0033】
さらに、覚醒度および感情価が領域3に含まれる場合には、処理はステップ103からステップ113に進み、このステップ113において、覚醒度を高めて満足度を高めたり、気分を高揚させたりするため、ステップ112とは逆に、例えば、ディスプレイ37に供給される映像信号の直流レベルや交流レベルを上げてディスプレイ37に表示される映像の輝度やコントラストを上げる。また、スピーカ38に供給される音響信号のレベルを上げたり、周波数特性を変更するなどしてスピーカ38から出力される音響の音量を上げたり、低域や高域を強めたり、あるいはリズムを強調したりし、その後、ステップ101に戻る。
【0034】
なお、例えば視聴者がユーザインターフェイス25を通じて就寝モードに設定している場合に、この領域3の状態になったときには、視聴者の安眠を妨げないため、このときの再生状態を維持する。
【0035】
また、覚醒度および感情価が領域4に含まれる場合には、このときの映像および音響を不快に感じていると視聴者の心理状態を推定し、処理はステップ103からステップ112に進み、領域2の場合と同様、視聴者の不快感を取り除く。
【0036】
したがって、ルーチン100によれば、視聴者は映像および音響を常に心地よく視聴することができる。
【0037】
こうして、上述の映像音響再生装置によれば、複数の生体情報センサ11~15から得られる複数の生体情報を利用して、視聴者の覚醒度および感情価を算出しているので、視聴者の心理状態とその強度を推定することができる。そして、その推定結果により心理状態に最適な状態で映像および音響を再生することができる。
【0038】
〔2〕 覚醒度および感情価の算出
視聴者の覚醒度および感情価が、現在、図5のどこに位置しているかは、次に述べる〔2-1〕、〔2-2〕の処理により知ることができる。そして、視聴者の現在の覚醒度および感情価が例えば図5の点Pにあるとき、その覚醒度および感情価が、点Pを含む曲線Aのどちらに向かうかは、覚醒度および感情価の変化の履歴から判断することができる。
【0039】
したがって、視聴者の現在の状態にもっともふさわしい映像および音響を常に提供することができる。また、視聴者の状態が良好なときには、これを維持したり、視聴者の状態が不良なときには、これを抑制したりすることができる。
【0040】
〔2-1〕 覚醒度の算出
覚醒度は、生体情報センサが非接触式および接触式のどちらであっても、呼吸数や脈拍数の初期値または標準値に対する変動から求めることができる。すなわち、覚醒度は、
覚醒度=Rrm-Rrr ・・・ (1)
Rrm:単位時間あたりの呼吸数の測定値
Rrr:単位時間あたりの呼吸数の初期値または標準値
または
覚醒度=Prm-Prr ・・・ (2)
Prm:単位時間あたりの脈拍数の測定値
Prr:単位時間あたりの脈拍数の初期値または標準値
から算出することができる。なお、脈拍数として心拍数を利用する場合にも、(2)式により覚醒度を求めることができる。
【0041】
〔2-2〕 感情価の算出
感情価は、筋電センサ15の出力を使用して、例えば次の(3)式により算出することができる。
感情価=∫|Vemg(t)|dt-Vemg_init ・・・ (3)
Vemg:筋電の振幅の測定値
Vemg_init:筋電の振幅の積分値(初期値)
または
感情価=∫|Vemg(t)|dt-Vemg_ref ・・・ (4)
Vemg_ref :筋電の振幅の積分値(標準値)
なお、正の感情価の決定は頬骨筋の筋電により行い、負の感情価の決定は皺眉筋あるいは輪筋の筋電により行うことができる。」
「【図1】
[図:0001413954000001.jpg]
」
「【図4】
[図:0001413954000002.jpg]
」
(2)上記(1)の記載は、「映像音響再生装置」(段落【0014】)において、視聴者の生体情報に基づいて視聴者が音響を心地よく感じるように音響信号を制御する(段落【0021】)方法を示すものといえる。
(3)上記(1)の記載及び上記(2)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「映像音響再生装置において、視聴者の生体情報に基づいて視聴者が音響を心地よく感じるように音響信号を制御する方法であって、
映像音響再生装置は、脈拍センサ14および筋電センサ15を有し、これらの出力が生体情報解析回路16に供給され、
脈拍センサ14は視聴者の指先に装着され、生体情報解析回路16は、センサ14の出力から視聴者の脈拍の変化を求め、筋電センサ15は、視聴者の頬、眉間、額に装着された電極であり、生体情報解析回路16は、筋電センサ15の出力から筋電を求め、活動部位、振幅の大きさおよびその変化量を求め、
生体情報解析回路16から、センサ14、15により測定された生体情報がマイクロコンピュータ20に取り込まれ、取り込まれた生体情報から覚醒度および感情価が算出され、
算出された覚醒度および感情価の極性が判別され、その極性の組み合わせにしたがって処理が分岐され、
領域1は、覚醒度>0、かつ、感情価>0であり、覚醒度および感情価が領域1に含まれる場合には、このときの音響を心地よく感じていると視聴者の心理状態を推定し、スピーカ38に供給される音響信号を変更することはなく、
領域2は、覚醒度>0、かつ、感情価<0であり、覚醒度および感情価が領域2に含まれる場合には、このときの音響を不快に感じていると視聴者の心理状態を推定し、スピーカ38に供給される音響信号のレベルを下げたり、周波数特性を変更するなどしてスピーカ38から出力される音響の音量を下げたり、低域や高域を弱めたり、あるいはリズムを弱めたりし、
領域3は、覚醒度<0、かつ、感情価>0であり、覚醒度および感情価が領域3に含まれる場合には、覚醒度を高めて満足度を高めたり、気分を高揚させたりするため、スピーカ38に供給される音響信号のレベルを上げたり、周波数特性を変更するなどしてスピーカ38から出力される音響の音量を上げたり、低域や高域を強めたり、あるいはリズムを強調したりし、
領域4は、覚醒度<0、かつ、感情価<0であり、覚醒度および感情価が領域4に含まれる場合には、このときの音響を不快に感じていると視聴者の心理状態を推定し、領域2の場合と同様、視聴者の不快感を取り除き、
覚醒度は、
覚醒度=Prm-Prr
Prm:単位時間あたりの脈拍数の測定値
Prr:単位時間あたりの脈拍数の初期値または標準値
から算出し、
感情価は、筋電センサ15の出力を使用して、
感情価=∫|Vemg(t)|dt-Vemg_init
Vemg:筋電の振幅の測定値
Vemg_init:筋電の振幅の積分値(初期値)
により算出する方法。」
2 引用文献2
当審拒絶理由にて引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0003】
搬送波復元回路は大体位相同期ループ(phase locked loop:以下、PLLと略する)から構成される。PLLは位相エラー検出器と、ループフィルタと、三角関数ルックアップテーブルとからなる。ここで、位相エラー検出器は受信信号で変調による位相成分が取り除かれた純粋な搬送波位相成分信号から位相エラーを検出する。ループフィルタにより高域成分が取り除かれた位相エラーは三角関数ルックアップテーブルに印加されて位相補正信号(cosθ-jsinθ)を発生させ、この位相補正信号は受信信号と複素乗算されることにより元の搬送波を復元する。
【0004】
この際、位相補正信号(cosθ-jsinθ)を発生させるにおいて必要なサイン関数値とコサイン関数値をメモリに格納されたルックアップテーブルを用いて発生させる場合、直接関数値を計算する回路を用いる場合に比べて更に高速で処理することができるので、現在多様な応用分野で広く用いられている。
【0005】
図1は従来の三角関数ルックアップテーブルの入出力関係を示したものであり、第1位相信号(θ’)は2πモジュロ演算器11により2πで除算した残り値である第2位相信号(θ)として出力される。サインルックアップテーブル12とコサインルックアップテーブル13では第2位相信号(θ)をアドレスとする位置に格納されたサイン関数値(sinθ)とコサイン関数値(cosθ)が各々出力される。
【0006】
一方、図1に示したサインルックアップテーブル12とコサインルックアップテーブル13をROMで具現する場合、図2に示したようなメモリマップを得ることができる。ここで、例示したサインルックアップテーブル12は0と2πの間に存在するnビットの第2位相信号(θ)に対する2n個のサイン関数値を格納している。」
「【図1】
[図:0001413954000003.jpg]
【図2】
[図:0001413954000004.jpg]
」
3 引用文献3
当審拒絶理由にて引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0039】
次に、楽曲データベース34aのなかから所望の楽曲を検索する楽曲検索について説明する。所定のユーザ操作が行われると、楽曲検索をするための楽曲検索画面が液晶ディスプレイ28に表示される。該楽曲検索画面において楽曲名やアーティスト名等を入力または指定する操作が行われると、CPU20は、該操作にしたがって楽曲データベース34aを検索し、検索条件にマッチする楽曲を再生する。
【0040】
しかし、楽曲名等を入力または指定する検索方式の場合、ユーザにとって、曲調等を容易に想起できる特定の楽曲名等を除けば、その時々の感情や気分または状況等に適した楽曲を検索することは難しい。このため、実際にはユーザの気分等に適した楽曲が楽曲データベース34aのなかに記憶されている場合でも、そのような楽曲が有効に検索されないことが多い。一方、上記特許文献1(特開2007-11913号公報)のような感覚的な楽曲検索を可能とさせる検索方式の場合には、ユーザの感情や気分または状況等に適した楽曲を容易に検索できるように思われる。ところが、ユーザは、上述したように自身の感情や気分または状況等を客観的に判断できない限り、自身の嗜好に合った楽曲を無意識のうちに選択する傾向にある。このため結局のところ、ユーザの感情や気分または状況等に適した楽曲が検索されないことが多い。
【0041】
そこで、ユーザの感情や気分または状況等に適した楽曲検索をより高度に実現する楽曲検索方法やプログラム、装置等の提供が望まれている。このような要望に応えるべく、本発明に係るカーナビゲーション装置100は、画像取得デバイス60を有する。また、画像取得デバイス60により取得された画像データを用いて、図2のフローチャートに示される楽曲検索処理を実行する。画像取得デバイス60には、例えば車内に設置された車室内カメラや、持ち運び可能なコンパクト型DSC(Digital Still Camera)、液晶パネル28に実装されたスキャナデバイス等が想定される。車室内カメラは、例えば運転手や同乗者の顔を撮影できる位置に固定されたDSCである。車室内カメラやコンパクト型DSC等は、カーナビゲーション装置100のUSBポート等に接続される。
【0042】
ユーザにより画像取得デバイス60を使用した撮影やスキャン操作が行われると、該画像取得デバイス60により取得された画像データがDSP38に入力される(ステップ1、以下、本明細書および図面においてステップを「S」と略記する。)。撮影される対象には例えば車室内や、車窓から見える森林、海、山、ビル街等の風景が、スキャンされる対象には例えば雑誌や写真等が想定される。ここでは車室内カメラにより運転手の顔(例えば笑顔)が撮影された場合を例に説明する。なお、上記撮影等のタイミングは、ユーザが画像取得デバイス60を操作したタイミングに限らない。画像取得デバイス60による撮影等は、例えば自動車のエンジンが駆けられた時(カーナビゲーション装置100の電源投入直後)や、所定時間経過する毎に自動的に行われるようにしてもよい。
【0043】
DSP38は、画像取得デバイス60からの画像データを解析して該画像の画像特徴データを算出する(S2)。算出された画像特徴データは、CPU20に転送される。ここで画像特徴データは、画像の特徴点を所定の評価項目毎に数値化して表したデータである。画像特徴データを構成する評価項目には、例えば「喜」、「怒」、「哀」、「楽」等の感情に関する項目や、「森林」、「都会」、「海」、「山」等の風景に関する項目がある。それ以外にも「元気」、「癒し」、「クール」、「ホット」、「テンポ」、「明るさ」等の様々な項目が想定される。ここでは説明の便宜上、画像特徴データは、「テンポ」と「明るさ」の2項目で構成され、各項目について画像を0~99の100段階で評価したデータとする。なお、画像認識された風景や人の顔、表情等を評価してその特徴を数値化する技術の詳細は、例えば特開2007-328675号公報等に開示されている。
【0044】
S3の処理においてCPU20は、S2の処理で転送された画像特徴データを検索キーとして楽曲データベース34aにアクセスする。次いで、該画像特徴データと、各楽曲管理レコードの「特徴」フィールドにエントリされた楽曲特徴データとを比較してその一致度(%)を計算する。そして、一致度の高い上位所定数の楽曲特徴データに関連付けられた楽曲データを検索結果として得る。
【0045】
ここで楽曲特徴データは、DSP38による楽曲解析処理により楽曲の特徴を所定の評価項目毎に数値化して表したデータである。すなわち、DSP38は、音楽CD等に記録された楽曲データをリッピングする際、楽曲データの予め定められたデータ解析開始点から一定のフレーム長に対してFFT(Fast Fourier Transform)処理を行い、パワースペクトルを算出する。次いで、算出されたパワースペクトルに基づき楽曲特徴データを算出する。算出された各楽曲特徴データは、対応する楽曲管理レコードの「特徴」フィールドにエントリされる。なお、楽曲解析処理においては、上記画像解析処理と同じく、楽曲データは「テンポ」と「明るさ」の2項目で評価され、その特徴が各項目について0~99の100段階で数値化される。このような楽曲解析処理の詳細は、例えば特許文献1(特開2007-11913号公報)等に開示されている。
【0046】
図3に、S3の処理を説明するためのグラフを示す。図3の縦軸は評価項目「テンポ」に、横軸は評価項目「明るさ」に対応する。図3においては、楽曲データベース34aに蓄積された各楽曲データ(図3中●印)が、各評価項目を軸とする仮想的な二次元座標領域上に楽曲特徴データにしたがって配置されている。また、S2の処理で算出された画像特徴データ(図3中印A)が、該二次元座標領域上に画像特徴データにしたがって配置されている。S2の処理においては、S1の処理で笑顔が撮影されたことに基づき、評価項目「テンポ」、「明るさ」がともに高い画像特徴データが算出されている。該二次元座標領域上において印Aに近い●印ほど、S2の処理で算出された画像特徴データと一致度の高い楽曲データであることを示している。したがって、S3の処理においては、該二次元座標領域上において印Aにより近い上位所定数の●印の楽曲データが検索結果として得られる。
【0047】
CPU20は次いで、S3の処理で得られた検索結果に基づきプレイリストを作成する(S4)。次いで、作成されたプレイリストを液晶ディスプレイ28の最前面に割込表示させて(S5)、図2の楽曲検索処理を終了する。なお、プレイリストには、S3の処理で検索された楽曲が一致度の高い順にリストされる。プレイリスト表示後は、楽曲再生が該プレイリストの曲順にしたがって自動的に、またはユーザ操作を受け付けた段階で開始される。プレイリスト中の楽曲がフィンガータッチまたはペンタッチにより選択された場合には、再生される楽曲が変更される。ユーザ操作によりランダム再生機能やリピート再生機能が設定されている場合には、プレイリスト内の楽曲がランダムに再生されたりリピートで再生されたりする。
【0048】
上記においては、運転手が笑顔(楽しい感情や気分等)であることが画像解析処理によりカーナビゲーション装置100側で判断された上で、評価項目「テンポ」、「明るさ」がともに高い、楽しい感情や気分等に適した楽曲が検索される。すなわち、本発明の特徴的処理たる楽曲検索処理によれば、運転手の感情や気分等が表情を通じて客観的に判断された上で、該判断結果にしたがった、つまり運転手の感情や気分等に適した楽曲が検索される。
【0049】
また、画像取得デバイス60によって撮影される対象が風景である場合を考える。例えば山道を走行中に森が撮影された場合には、該撮影された森の画像に基づき、森の特徴点を数値化した(例えば評価項目「テンポ」、「明るさ」がともに低い)画像特徴データが算出される。この結果、評価項目「テンポ」、「明るさ」がともに低い、森のイメージに適した楽曲が検索される。すなわち、本発明の特徴的処理たる楽曲検索処理によれば、走行場所の状況等が風景画像に基づき判断された上で、該判断結果にしたがった、つまり走行場所の状況等に即した楽曲が検索される。
【0050】
このようにカーナビゲーション装置100は、ユーザに感情や気分または状況等を自らの主観によって判断させること無く、客観的な判断に基づきユーザの気分等に適した楽曲を速やかに検索することができる。また、本発明に係る楽曲検索処理においては、ユーザの感情や気分または状況等がその時々で変わるため、検索される楽曲が一部のジャンルに偏らない等のメリットがある。様々な楽曲を聴取するうちに、ユーザにとって嗜好に合う新たな楽曲が発見されることもある。」
4 引用文献4
当審拒絶理由にて引用された引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0026】図1において、11はオーディオ信号入力手段、12は音質調整装置、13は増幅器、14はスピーカ、15は音質入力手段、16は音質表示手段、17は補正特性抽出手段、18は制御手段である。
【0027】試聴者は、音質表示手段16にて表示された心理カテゴリー軸を参照しながら、音質入力手段15によって、希望の音質を入力する。同時に、入力された音質が音質表示手段16に表示される。
【0028】ここで心理カテゴリー軸とは、図2のように、対となる音質表現語を用いて音質を試聴者が複数段階(図では7段階)で評価し、得点を与える尺度軸のことである。また入力する音質は、この尺度軸上の尺度値である。この場合の得点は、1点から7点まで等間隔につけているが、この得点は順序尺度であれば良い。」
「【0035】以上のように、試聴者は、音質表示手段16を参照しながら音質入力手段15を用いて希望の音質を入力する。そして入力された音質に対応した補正特性が補正特性抽出手段17によって抽出される。この補正特性の抽出は、音質を振幅周波数特性との線形一次結合の形で表現した重回帰式に基づいて抽出される。」
「【0042】上述のようにして抽出された補正特性が、制御手段18によって音質調整装置12に設定される。一方、オーディオ信号入力手段11にて入力された信号は、音質調整装置12において補正特性によって音質調整され、増幅器13を通じてスピーカ14より再生される。」
第6 当審拒絶理由の理由2(進歩性)について(引用発明との対比・判断)
1 本願発明1について
(1)対比
ア 本願発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「映像音響再生装置において、視聴者の生体情報に基づいて視聴者が音響を心地よく感じるように音響信号を制御する方法」における「音響信号」は、当然、「視聴者」に再生されるものであるから、引用発明の上記「方法」は、「音響信号」を「視聴者」に再生されるためのものであるといえる。
また、引用発明の上記「方法」は、「生体情報解析回路16」における「視聴者の脈拍の変化を求め」る処理や「マイクロコンピュータ20」における「覚醒度および感情価」の「算出」処理を含むものであり、それらの処理はコンピュータに実装されているといえる。
そして、引用発明の「音響信号」、「視聴者」は、それぞれ本願発明1の「音声信号」、「使用者」に相当する。
よって、引用発明の上記「方法」は、後述する相違点を除き、本願発明1の「音声信号を使用者に再生するためのコンピュータ実装方法」に相当する。
(イ)引用発明は、「覚醒度」、「感情価」をそれぞれ「覚醒度=Prm-Prr」、「感情価=∫|Vemg(t)|dt-Vemg_init」から「算出」するものであり、ここで、「Prm:単位時間あたりの脈拍数の測定値」、「Vemg:筋電の振幅の測定値」、「Vemg_init:筋電の振幅の積分値(初期値)」であるから、引用発明は、「単位時間あたりの脈拍数」及び「筋電の振幅」を受信することと、「単位時間あたりの脈拍数」及び「筋電の振幅」に基づいて、「覚醒度」及び「感情価」を含むパラメータセットを判定することとを含むといえる。
そして、「単位時間あたりの脈拍数」及び「筋電の振幅」が、「視聴者」に関連するデータであることは明らかであり、引用発明における当該「単位時間あたりの脈拍数」及び「筋電の振幅」と、本願発明1の「使用者に関連するバイオメトリックデータまたは1つ以上の使用者アプリケーションからの二次使用者パラメータのうちの少なくとも1つを含む第1の使用者パラメータセット」とは、上記(ア)を踏まえると「使用者に関連するバイオメトリックデータを含む第1の使用者パラメータセット」であるという限度で一致する。
また、引用発明の「覚醒度」、「感情価」、それらを含む上記パラメータセットは、それぞれ、本願発明1の「覚醒値」、「価数値」、「第1の気分パラメータセット」に相当する。
よって、引用発明は、本願発明1の「使用者に関連するバイオメトリックデータまたは1つ以上の使用者アプリケーションからの二次使用者パラメータのうちの少なくとも1つを含む第1の使用者パラメータセットを受信すること」に相当する構成を含むものである。
また、引用発明における「単位時間あたりの脈拍数」及び「筋電の振幅」に基づいて、「覚醒度」及び「感情価」を含むパラメータセットを判定することと、本願発明1の「前記第1の使用者パラメータセットと、前記第1の値のセットと、所与の使用者パラメータを対応する気分パラメータとマッピングするエントリを含む第1のルックアップテーブルとに基づいて、価数値および覚醒値を含む第1の気分パラメータセットを判定すること」とは、「前記第1の使用者パラメータセットに基づいて、価数値および覚醒値を含む第1の気分パラメータセットを判定すること」である点で共通する。
(ウ)引用発明は、「覚醒度および感情価の極性が判別され、その極性の組み合わせにしたがって」、例えば、「覚醒度>0、かつ、感情価<0」の場合に「このときの音響を不快に感じていると視聴者の心理状態を推定」するものであるから、引用発明は、「覚醒度」及び「感情価」を含むパラメータセットに基づいて、「視聴者の心理状態を推定」することを含むといえる。
そして、引用発明における「視聴者の心理状態」を「推定」することは、本願発明1における「第1の所定の気分」を「判定する」ことに相当する。
これらの点について、上記(イ)を踏まえると、引用発明における「覚醒度」及び「感情価」を含むパラメータセットに基づいて、「視聴者の心理状態を推定」することと、本願発明1の「前記第1の気分パラメータセットと、価数値および覚醒値の範囲を対応する所定の気分とマッピングするエントリを含む第2のルックアップテーブルとに基づいて、第1の所定の気分を判定すること」とは、「前記第1の気分パラメータセットに基づいて、第1の所定の気分を判定すること」である点で共通する。
(エ)引用発明は、例えば、「覚醒度>0、かつ、感情価<0」の場合に「このときの音響を不快に感じていると視聴者の心理状態を推定し、スピーカ38に供給される音響信号のレベルを下げたり、周波数特性を変更するなどしてスピーカ38から出力される音響の音量を下げたり、低域や高域を弱めたり、あるいはリズムを弱めたり」するものであるから、引用発明は、「視聴者の心理状態」に基づいて、「音響信号」のプロファイルを選択することであって、前記プロファイルは、「レベル」や「周波数特性」を含むことと、「レベル」や「周波数特性」に基づいて、「スピーカ38」に「レベル」等が変更された「音響信号」を再生させることとを含むといえる。
そして、引用発明の「音響信号」のプロファイル、「レベル」や「周波数特性」、「スピーカ38」、「レベル」等が変更された「音響信号」は、それぞれ、本願発明1における「第1の音響プロファイル」、「第1の音響パラメータセット」、「音声出力デバイス」、「第1の音声信号」に相当する。
これらの点について、上記(ウ)を踏まえると、引用発明は、本願発明1の「前記第1の所定の気分に基づいて、第1の音響プロファイルを選択することであって、前記第1の音響プロファイルは、第1の音響パラメータセットを含む、こと」及び「前記第1の音響パラメータセットに基づいて、音声出力デバイスに第1の音声信号を再生させること」ことに相当する構成を含むものである。
イ 上記アから、本願発明1と引用発明とは、次の点で一致する。
(一致点)
「音声信号を使用者に再生するためのコンピュータ実装方法であって、
使用者に関連するバイオメトリックデータまたは1つ以上の使用者アプリケーションからの二次使用者パラメータのうちの少なくとも1つを含む第1の使用者パラメータセットを受信することと、
前記第1の使用者パラメータセットに基づいて、価数値および覚醒値を含む第1の気分パラメータセットを判定することと、
前記第1の気分パラメータセットに基づいて、第1の所定の気分を判定することと、
前記第1の所定の気分に基づいて、第1の音響プロファイルを選択することであって、
前記第1の音響プロファイルは、第1の音響パラメータセットを含む、ことと、
前記第1の音響パラメータセットに基づいて、音声出力デバイスに第1の音声信号を再生させることと
を含む、コンピュータ実装方法。」
ウ また、本願発明1と引用発明とは、次の点で相違する。
(相違点1)
本願発明1は、「第1のオーディオトラックを受信することと」、「前記第1のオーディオトラックの音響特性を反映する第1の値のセットを生成することと」を含むのに対して、引用発明は、そのような工程を含むものではない点。
(相違点2)
「価数値および覚醒値を含む第1の気分パラメータセットを判定すること」を、本願発明1では、「前記第1の使用者パラメータセット」に加えて「前記第1の値のセット」及び「所与の使用者パラメータを対応する気分パラメータとマッピングするエントリを含む第1のルックアップテーブル」にも基づいて行うのに対して、引用発明では、「単位時間あたりの脈拍数」及び「筋電の振幅」に基づいて、「覚醒度=Prm-Prr」、「感情価=∫|Vemg(t)|dt-Vemg_init」から「算出」して行うものである点。
(相違点3)
「第1の所定の気分を判定すること」を、本願発明1では、「前記第1の気分パラメータセット」に加えて「価数値および覚醒値の範囲を対応する所定の気分とマッピングするエントリを含む第2のルックアップテーブル」にも基づいて行うのに対して、引用発明では、「覚醒度」及び「感情価」を含むパラメータセットに基づいて、「覚醒度および感情価の極性が判別され、その極性の組み合わせにしたがって」行うものである点。
(2)判断
そこで、まず「第1の値のセット」において相互に関連する相違点1,2についてまとめて検討する。
音声信号の音響特性を反映する値のセットを生成し、当該値のセットと、使用者のパラメータセットとに基づいて、当該音声信号を再生する際に適用する音響プロファイルを選択するための気分パラメータセットを判定することは、引用文献1~4のいずれにも記載されておらず、本願の優先日前における周知技術であるともいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用文献1~4に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
2 本願発明2~15について
本願発明7、本願発明13は、本願発明1に対応する、それぞれ「非一時的コンピュータ可読媒体」、「個人化オーディオシステム」の発明であり、いずれも相違点1,2に対応する発明特定事項を含むものである。
また、本願発明2~6は本願発明1を、本願発明8~12は本願発明7を、本願発明14,15は本願発明13を、それぞれ減縮した発明である。
そうすると、本願発明2~15も、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても引用文献1~4に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 小括
以上から、当審拒絶理由の理由2は解消した。
第7 当審拒絶理由の理由1について
本件補正の結果、補正前の請求項2に記載されていた「前記第1の値のセットは、前記第1の使用者パラメータセットに含まれる」との記載は、補正後においていずれの請求項にも記載されないこととなった。
よって、当審拒絶理由の理由1は解消した。
第8 原査定について
請求項1,7,13の「前記第1の使用者パラメータセットと、前記第1の値のセットと、所与の使用者パラメータを対応する気分パラメータとマッピングするエントリを含む第1のルックアップテーブルとに基づいて、価数値および覚醒値を含む第1の気分パラメータセットを判定する」との記載及び「前記第1の気分パラメータセットと、価数値および覚醒値の範囲を対応する所定の気分とマッピングするエントリを含む第2のルックアップテーブルとに基づいて、第1の所定の気分を判定する」との記載における「価数値」及び「覚醒値」というパラメータは、請求人が審判請求書(4~5頁)において主張するように周知のものである。
そして、請求項1,7,13の上記記載に対応して、発明の詳細な説明には、「使用者パラメータセット」等を用いて「気分パラメータセット」を判定する工程についての説明が、例えば【0030】、【0031】、【0040】、【0041】等に、また、「気分パラメータセット」等を用いて「気分」を判定する工程についての説明が、例えば段落【0032】、【0033】、【0047】、【0048】等に記載されており、その内容に不足の点は特段見いだせない。
そうすると、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1~15に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとはいえない。
よって、原査定を維持することはできない。
第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-012900