特許拒絶査定不服審判
2023-009166
操舵装置
- 審判番号
- 2023-009166
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-029571
- 請求日
- 2023年06月05日
- 審決日
- 2024年10月16日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社ジェイテクト
- 【請求人代理人】弁理士法人あい特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 八木 誠
- 審判官 倉橋 紀夫
- 審判官 山本 信平
- 分類
- P18 .121-WZ (B62D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019- 29571「操舵装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 8月31日出願公開、特開2020-132008〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成31年2月21日に出願された特願2019-29571号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 4年11月22日付け:拒絶理由通知書
令和 5年 1月10日提出:意見書
令和 5年 4月 4日付け:拒絶査定
令和 5年 6月 5日提出:審判請求書、手続補正書
令和 6年 6月 6日付け:拒絶理由通知書
令和 6年 7月26日提出:意見書、手続補正書(以下、この手続補正 書による手続補正を「本件補正」という。 )
第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「操舵部材と、
前記操舵部材と機械的に分離された転舵機構と、
前記操舵部材に反力トルクを付与する反力モータと、
前記転舵機構を駆動する転舵モータと、
前記操舵部材に付与される操舵トルクを検出する操舵トルク検出部と、
前記操舵トルクに基づき手動操舵角指令値を設定する手動操舵角指令値設定部と、
自動操舵のための反力用自動操舵角指令値および前記手動操舵角指令値に基づき反力用統合角度指令値を演算する反力用統合角度指令値演算部と、
自動操舵のための転舵用自動操舵角指令値および前記手動操舵角指令値に基づき転舵用統合角度指令値を演算する転舵用統合角度指令値演算部と、
前記反力モータの回転角を前記反力用統合角度指令値に追従させる反力制御部と、
前記転舵モータの回転角を前記転舵用統合角度指令値に追従させる転舵角制御部とを含む、操舵装置。」
第3 拒絶の理由
令和6年6月6日付け拒絶理由通知書で当審が通知した拒絶理由のうちの理由2は、次のとおりのものを含むものである。
本願発明は、本願の特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、その特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2019-14468号公報
引用文献2:特開2015-123857号公報
第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。
ア 「【0022】
図1は、本発明の第1実施形態に係る操舵装置が適用された電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
この電動パワーステアリング装置(車両用操舵装置)1は、コラム部に電動モータと減速機とが配置されているコラムアシスト式電動パワーステアリング装置(以下、「コラム式EPS」という)である。
【0023】
コラム式EPS1は、車両を操向するための操舵部材としてのステアリングホイール(以下、「ハンドル」という)2と、このハンドル2の回転に連動して転舵輪3を転舵する転舵機構4と、運転者の操舵を補助するための操舵補助機構5とを備えている。ハンドル2と転舵機構4とは、ステアリングシャフト6、第1ユニバーサルジョイント28、中間軸7および第2ユニバーサルジョイント29を介して機械的に連結されている。
【0024】
ステアリングシャフト6は、ハンドル2に連結された第1軸8と、第1ユニバーサルジョイント28を介して中間軸7に連結された第2軸9とを含む。第1軸8と第2軸9とは、トーションバー10を介して相対回転可能に連結されている。
ステアリングシャフト6の周囲には、トルクセンサ11が設けられている。トルクセンサ11は、第1軸8および第2軸9の相対回転変位量に基づいて、トーションバー10に加えられているトーションバートルクTtbを検出する。トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクTtbは、ECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)12に入力される。」
イ 「【0027】
ハンドル2が操舵(回転)されると、この回転が、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して、ピニオン軸13に伝達される。そして、ピニオン軸13の回転は、ピニオン16およびラック17によって、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。
操舵補助機構5は、操舵補助力を発生するための電動モータ18と、電動モータ18の出力トルクを増幅して転舵機構4に伝達するための減速機19とを含む。この実施形態では、電動モータ18は、三相ブラシレスモータである。減速機19は、ウォームギヤ20と、このウォームギヤ20と噛み合うウォームホイール21とを含むウォームギヤ機構からなる。減速機19は、ギヤハウジング22内に収容されている。以下において、減速機19の減速比(ギヤ比)をrwgで表す場合がある。減速比rwgは、ウォームホイール21の角速度ωwwに対するウォームギヤ20の角速度ωwgの比ωwg/ωwwとして定義される。
【0028】
ウォームギヤ20は、電動モータ18によって回転駆動される。ウォームホイール21は、第2軸9に一体回転可能に連結されている。ウォームホイール21は、ウォームギヤ20によって回転駆動される。
電動モータ18は運転者の操舵状態に応じて駆動され、電動モータ18によってウォームギヤ20が回転駆動される。これにより、ウォームホイール21が回転駆動され、ステアリングシャフト6にモータトルクが付与されるとともにステアリングシャフト6(第2軸9)が回転する。そして、ステアリングシャフト6の回転は、中間軸7を介してピニオン軸13に伝達される。ピニオン軸13の回転は、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。すなわち、電動モータ18によってウォームギヤ20を回転駆動することによって、電動モータ18による操舵補助が可能となっている。」
ウ 「【0077】
図12は、本発明の第2実施形態に係る操舵装置が適用された電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。図12において、前述の図1の各部に対応する部分には同じ符号を付して示す。
図12の電動パワーステアリング装置1Aの機械的構成は、前述の図1の電動パワーステアリング装置1の機械的構成と同様なので、その説明を省略する。この第2実施形態では、減速機19の減速比をNで表すことにする。
【0078】
車両には、車両の進行方向前方の道路を撮影するCCD(Charge Coupled Device)カメラ125、自車位置を検出するためのGPS(Global Positioning System)126、道路形状や障害物を検出するためのレーダー127および地図情報を記憶した地図情報メモリ128が搭載されている。
CCDカメラ125、GPS126、レーダー127および地図情報メモリ128は、自動支援制御や自動運転制御を行うための上位ECU(ECU:Electronic Control Unit)201に接続されている。上位ECU201は、CCDカメラ125、GPS126およびレーダー127によって得られる情報および地図情報を元に、周辺環境認識、自車位置推定、経路計画等を行い、操舵や駆動アクチュエータの制御目標値の決定を行う。
【0079】
この実施形態では、上位ECU201は、自動操舵のための自動操舵指令値θadacを設定する。この実施形態では、自動操舵制御は、例えば、目標軌道に沿って車両を走行させるための制御である。自動操舵指令値θadacは、車両を目標軌道に沿って自動走行させるための操舵角の目標値である。このような自動操舵指令θadacを設定する処理は、周知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0080】
上位ECU201によって設定される自動操舵指令θadacは、車載ネットワークを介して、モータ制御用ECU202に与えられる。モータ制御用ECU202には、上位ECU201の他、トルクセンサ11、回転角センサ23、車体加速度センサ25、ヨーレートセンサ26等が接続されている。
トルクセンサ11は、第1軸8および第2軸9の相対回転変位量に基づいて、トーションバー10に加えられているトーションバートルクTtbを検出する。回転角センサ23は、電動モータ18のロータの回転角(以下、「ロータ回転角」という)を検出する。車体加速度センサ25は、車体加速度(車両加速度)aを検出する。ヨーレートセンサ26は、車体回転角速度(車両回転角速度)ωを検出する。モータ制御用ECU202は、これらのセンサの出力信号および上位ECU201から与えられる情報に基づいて、電動モータ18を制御する。
【0081】
図13は、モータ制御用ECU202の電気的構成を説明するためのブロック図である。
モータ制御用ECU202は、マイクロコンピュータ140と、マイクロコンピュータ140によって制御され、電動モータ18に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)131と、電動モータ18に流れる電流(以下、「モータ電流I」という)を検出するための電流検出回路132とを備えている。
【0082】
マイクロコンピュータ140は、CPUおよびメモリ(ROM、RAM、不揮発性メモリなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、ドライバトルク推定部51と、手動操舵指令値生成部141と、統合角度指令値演算部142と、制御部143とを含む。
【0083】
ドライバトルク推定部51は、回転角センサ23の出力信号と、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクTtbと、車体加速度センサ25によって検出される車体加速度aと、ヨーレートセンサ26によって検出される車体回転角速度ωとに基づいて、ドライバトルクTdを推定する。ドライバトルク推定部51の構成は、前述した図3のドライバトルク推定部51と同様なので、その詳細な説明を省略する。
【0084】
手動操舵指令値生成部141は、運転者がハンドル2を操作した場合に、当該ハンドル操作に応じた操舵角(より正確には第2軸9の回転角θ)を手動操舵指令値θmdacとして設定するために設けられている。手動操舵指令値生成部141は、ドライバトルク推定部51によって推定されたドライバトルクTdを用いて手動操舵指令値θmdacを生成する。手動操舵指令値生成部141の詳細については後述する。
【0085】
統合角度指令値演算部142は、上位ECU201によって設定される自動操舵指令値θadacに手動操舵指令値θmdacを加算して、統合角度指令値θacmdを演算する。
制御部143は、統合角度指令値θacmdに基づいて、電動モータ18を角度制御する。より具体的には、制御部143は、操舵角θ(第2軸9の回転角θ)が統合角度指令値θacmdに近づくように、駆動回路131を駆動制御する。
【0086】
制御部143は、例えば、角度制御部144とトルク制御部(電流制御部)145とを含む。角度制御部144は、統合角度指令値θacmdと、回転角センサ23の出力信号に基づいて演算される実操舵角θとの偏差に対するPD(比例微分)演算を行うことにより、電動モータ18のモータトルクの目標値であるモータトルク指令値Tmcを演算する。
【0087】
トルク制御部145は、例えば、まず、モータトルク指令値Tmcを電動モータ18のトルク定数Ktで徐算することにより、電流指令値Icmdを演算する。そして、トルク制御部145は、電流検出回路132によって検出されるモータ電流Iが電流指令値Icmdに近づくように駆動回路131を駆動する。
図14は、手動操舵指令値生成部141の構成を示すブロック図である。
【0088】
手動操舵指令値生成部141は、アシストトルク指令値設定部151と、指令値設定部152とを含む。
アシストトルク指令値設定部151は、手動操舵に必要なアシストトルクの目標値であるアシストトルク指令値Tacを設定する。アシストトルク指令値設定部151は、ドライバトルク推定部51によって推定されたドライバトルクTdに基づいて、アシストトルク指令値Tacを設定する。ドライバトルクTdに対するアシストトルク指令値Tacの設定例は、図15に示されている。ドライバトルクTdは、例えば左方向への操舵のためのトルクが正の値にとられ、右方向への操舵のためのトルクが負の値にとられている。また、アシストトルク指令値Tacは、電動モータ18から左方向操舵のための操舵補助力を発生させるべきときには正の値とされ、電動モータ18から右方向操舵のための操舵補助力を発生させるべきときには負の値とされる。
【0089】
アシストトルク指令値Tacは、ドライバトルクTdの正の値に対しては正をとり、ドライバトルクTdの負の値に対しては負をとる。そして、アシストトルク指令値Tacは、ドライバトルクTdの絶対値が大きくなるほど、その絶対値が大きくなるように設定される。
なお、アシストトルク指令値設定部151は、ドライバトルクTdに予め設定された定数を乗算することによって、アシストトルク指令値Tacを演算してもよい。
【0090】
指令値設定部152は、この実施形態では、リファレンスEPSモデルを用いて、手動操舵指令値θmdacを設定する。
図16は、指令値設定部152で用いられるリファレンスEPSモデルの一例を示す模式図である。
このリファレンスEPSモデルは、ロアコラムを含む単一慣性モデルである。ロアコラムは、第2軸9およびウォームホイール21に対応する。図16において、Jcは、ロアコラムの慣性であり、θcはロアコラムの回転角であり、Ttbは、トーションバートルクである。ロアコラムには、トーションバートルクTtb、電動モータ18から第2軸9に作用するトルクN・Tmcおよび路面負荷トルクTrlが与えられる。路面負荷トルクTrlは、ばね定数kおよび粘性減衰係数cを用いて、次式(12)で表される。
【0091】
Trl=-k・θc-c(dθc/dt) …(12)
この実施形態におけるばね定数kおよび粘性減衰係数cは、予め実験・解析等で求められた所定値が設定されている。
リファレンスEPSモデルの運動方程式は、次式(13)で表される。
Jc・d2θc/dt2=Ttb+N・Tmc-k・θc-c(dθc/dt)…(13)
指令値設定部152は、この式(13)を利用して、手動操舵指令値θmdacを設定する。その際、N・Tmcとしては、アシストトルク指令値設定部151(図14参照)によって設定されるアシストトルク指令値Tacが用いられる。
【0092】
式(13)のTtbにトルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクTtbを代入して、式(13)の微分方程式を解くことによってコラム角度θcを演算し、得られたコラム角度θcを手動操舵指令値θmdacとして設定することが考えられる。しかしながら、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクTtbには、運転者によってハンドル2に実際に加えられたドライバトルク以外の外乱も含まれている。このため、式(13)のTtbにトーションバートルクTtbを代入して手動操舵指令値θmdacを演算した場合には、運転者がハンドル2を操作していないときであっても、ドライバトルク以外の外乱に基づいて、手動操舵指令値θmdacが設定されるおそれがある。
【0093】
そこで、この実施形態では、指令値設定部152は、前記式(13)のTtbに、ドライバトルク推定部51によって推定されたドライバトルクTdを代入して、式(13)の微分方程式を解くことによってコラム角度θcを演算する。そして、指令値設定部152は、得られたコラム角度θcを手動操舵指令値θmdacとして設定する。これにより、運転者がハンドル2を操作していない場合に、ドライバトルク以外の外乱に基づいて、手動操舵指令値θmdacが設定されるのを抑制することができる。
【0094】
図12の電動パワーステアリング装置1Aでは、自動操舵指令値に手動操舵指令値が加算されて、統合角度指令値が演算され、この統合角度指令値に基づいて電動モータ18が制御される。これにより、手動操舵制御と自動操舵制御との間で切り替えを行うことなく、自動操舵制御主体での操舵制御を行いながら手動操舵が可能な協調制御を実現できる。これにより、手動操舵制御と自動操舵制御との間での移行をシームレスに行うことができ
るので、運転者の違和感を低減することができる。
【0095】
また、図12の電動パワーステアリング装置1Aでは、前述したように、運転者がハンドル2を操作していない場合に、ドライバトルク以外の外乱に基づいて、手動操舵指令値θmdacが設定されるのを抑制することができる。
図17は、図14の手動操舵指令値生成部の変形例を示すブロック図である。図17において、前述の図14の各部に対応する部分には、図14と同じ符号を付して示す。
【0096】
手動操舵指令値生成部141Aは、アシストトルク指令値設定部151Aおよび指令値設定部152Aを含んでいる。指令値設定部152Aには、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクTtbおよびアシストトルク指令値設定部151Aによって設定されたアシストトルク指令値Tacが入力する。アシストトルク指令値設定部151Aは、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクTtbに基づいて、アシストトルク指令値Tacを設定する。トーションバートルクTtbに対するアシストトルク指令値Tacの設定例は、図15の横軸をドライバトルクTdからトーションバートルクTtbに置き換えたものを用いることができる。また、指令値設定部152Aには、ドライバトルク推定部51によって推定されたドライバトルクTdが与えられる。
【0097】
ドライバトルクTdの絶対値|Td|が所定の閾値ψ(ψ>0)以上である場合には、指令値設定部152Aは、前記式(13)のTtbおよびN・Tmcに、それぞれ指令値設定部152Aに入力されたトーションバートルクTtbおよびアシストトルク指令値Tacを代入して、式(13)の微分方程式を解くことによって、手動操舵指令値θmdac(=θc)を設定する。一方、ドライバトルクTdの絶対値|Td|が閾値ψ未満である場合には、前記式(13)のTtbおよびN・Tmcに、それぞれ零を代入して、式(13)の微分方程式を解くことによって、手動操舵指令値θmdac(=θc)を設定する。
【0098】
この手動操舵指令値生成部141Aでは、トーションバートルクTtbを用いて手動操舵指令値θmdacを設定しているが、ドライバトルクTdの絶対値|Td|が閾値ψ未満である場合には手動操舵指令値生成部141Aに入力されるトーションバートルクTtbが実質的に零にされる。これにより、運転者がハンドル2を操作していない場合に、ドライバトルク以外の外乱に基づいて、手動操舵指令値θmdacが設定されるのを抑制することができる。また、トーションバートルクTtbを用いて手動操舵指令値θmdacを設定しているので、ドライバトルク推定部51によって推定されたドライバトルクTdを用いる場合に比べて、運転者のハンドル操作に対する手動操舵指令値θmdacの時間遅れを小さくできる。
【0099】
図18は、図13のモータ制御用ECUの変形例を示すブロック図である。図18において、前述の図13の各部に対応する部分には、図13と同じ符号を付して示す。
モータ制御用ECU202Aは、図13のモータ制御用ECU202と比べて、マイクロコンピュータ140A内のCPUによって実現される機能処理部の構成が異なっている。マイクロコンピュータ140Aは、機能処理部として、ハンドル操作状態判定部42と、手動操舵指令値生成部141Bと、統合角度指令値演算部142と、制御部143とを含む。
【0100】
ハンドル操作状態判定部42は、回転角センサ23の出力信号、トーションバートルクTtb、車体加速度aおよび車体回転角速度ωに基づいて、運転者がハンドルを握っているハンズオン状態であるか運転者がハンドルを握っていないハンズオフ状態であるかを判定する。ハンドル操作状態判定部42の構成は、前述した図2および図3のハンドル操作状態判定部42と同様なので、その詳細な説明を省略する。ハンドル操作状態判定部42は、ハンドル操作状態がハンズオン状態であると判定したときにはハンズオン状態信号を出力し、ハンドル操作状態がハンズオフ状態であると判定したときにはハンズオフ状態信号を出力するものとする。
【0101】
手動操舵指令値生成部141Bは、ハンドル操作状態判定部42の出力信号(ハンズオン/オフ状態信号)と、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクTtbとを用いて手動操舵指令値θmdacを生成する。手動操舵指令値生成部141Bの詳細については後述する。
統合角度指令値演算部142は、上位ECU201によって設定される自動操舵指令値θadacに手動操舵指令値θmdacを加算して、統合角度指令値θacmdを演算する。
【0102】
制御部143は、統合角度指令値θacmdに基づいて、電動モータ18を角度制御する。制御部143の構成は、図13の制御部143と同様なので、その詳細な説明を省略する。
図19は、手動操舵指令値生成部141Bの構成を示すブロック図である。
手動操舵指令値生成部141Bは、アシストトルク指令値設定部151Aと、指令値設定部152Bとを含む。
【0103】
アシストトルク指令値設定部151Aは、手動操舵に必要なアシストトルクの目標値であるアシストトルク指令値Tacを設定する。アシストトルク指令値設定部151Aの動作は、図17のアシストトルク指令値設定部151Aの動作と同様なので、その詳細な説明を省略する。
指令値設定部152Bには、トルクセンサ11によって検出されるトーションバートルクTtbおよびアシストトルク指令値設定部151Aによって設定されたアシストトルク指令値Tacが入力する。また、指令値設定部152Bには、ハンドル操作状態判定部42の出力信号(ハンズオン/オフ状態信号)が与えられる。
【0104】
ハンドル操作状態判定部42の出力信号がハンズオン状態信号である場合には、指令値設定部152Bは、前記式(13)のTtbおよびN・Tmcに、それぞれ指令値設定部154Bに入力されたトーションバートルクTtbおよびアシストトルク指令値Tacを代入して、式(13)の微分方程式を解くことによって、手動操舵指令値θmdac(=θc)を設定する。一方、ハンドル操作状態判定部42の出力信号がハンズオフ状態信号である場合には、指令値設定部152Bは、前記式(13)のTtbおよびN・Tmcに、それぞれ零を代入して、式(13)の微分方程式を解くことによって、手動操舵指令値θmdac(=θc)をに設定する。
【0105】
この手動操舵指令値生成部141Bでは、トーションバートルクTtbを用いて手動操舵指令値θmdacを設定しているが、ハンドル操作状態判定部42の出力信号がハンズオフ状態信号である場合には手動操舵指令値生成部141Bに入力されるトーションバートルクTtbが実質的に零にされる。これにより、運転者がハンドル2を操作していない場合に、ドライバトルク以外の外乱に基づいて、手動操舵指令値θmdacが設定されるのを抑制することができる。また、トーションバートルクTtbを用いて手動操舵指令値θmdacを設定しているので、ドライバトルク推定部51によって推定されたドライバトルクTdを用いる場合に比べて、運転者のハンドル操作に対する手動操舵指令値θmdacの時間遅れを小さくできる。
【0106】
以上、この発明の第2実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。例えば、前述の第2実施形態では、指令値設定部152、152A、152B(図14、図17、図19参照)は、リファレンスEPSモデルに基づいて手動操舵指令値θmdacを設定しているが、指令値設定部152、152A、152Bは他の方法によって手動操舵指令値θmdacを設定してもよい。
【0107】
例えば、指令値設定部152、152A、152Bは、ドライバトルクTd(図14の場合)またはトーションバートルクTtb(図17または図19の場合)と手動操舵指令値θmdacとの関係を記憶したマップを用いて、手動操舵指令値θmdacを設定してもよい。
また、前述のおよび第2実施形態では、この発明をコラムタイプEPSに適用した場合の例を示したが、この発明は、コラムタイプ以外のEPSにも適用することができる。また、この発明は、ステアバイワイヤシステムにも適用することができる。」
エ 「
[図:0001418014000001.jpg]
」
オ 「
[図:0001418014000002.jpg]
」
(2)引用発明
上記1の記載から、引用文献1には、以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「ハンドル2と、
前記ハンドル2と機械的に連結されている転舵機構4と、
前記転舵機構4に伝達される操舵補助力を発生するための電動モータ18と、
前記ハンドル2に連結されたトーションバー10に加えられているトーションバートルクTtbを検出するトルクセンサ11と、
前記トーションバートルクTtbを用いて手動操舵指令値θmdacを生成する手動操舵指令値生成部141Bと、
自動操舵のための自動操舵指令値θadacに前記手動操舵指令値θmdacを加算して、統合角度指令値θacmdを演算する統合角度指令値演算部142と、
前記統合角度指令値θacmdに基づいて前記電動モータ18を角度制御する制御部143とを備える電動パワーステアリング装置。」
2 引用文献2
(1)引用文献2の記載
引用文献2には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。
ア 「【0026】
図1を参照して、操舵装置1の構成について説明する。
操舵装置1は、操舵機構10、転舵機構20、および、制御装置30を有している。操舵装置1は、操舵部材110の操作に基づいて転舵輪100を転舵させる。操舵装置1は、操舵部材110と転舵輪100とが機械的に連結されていないステアバイワイヤシステムを構成している。
【0027】
操舵機構10は、ステアリングシャフト11、操舵駆動部12、および、舵角制限機構15を有している。ステアリングシャフト11には、操舵部材110、操舵駆動部12、および、舵角制限機構15が接続されている。操舵機構10は、操舵部材110の操作を妨げる力(以下、「操舵反力」)を操舵部材110に付与する。
【0028】
操舵駆動部12は、操舵モータ13および減速機14を有している。操舵モータ13は、減速機14に接続されている。そして、操舵モータ13の回転が減速機14により減速されてステアリングシャフト11に伝達されることにより、モータトルクが操舵反力としてステアリングシャフト11に付与される。
【0029】
舵角制限機構15は、操舵部材110の回転角を転舵輪100が転舵可能な範囲に制限する。なお、舵角制限機構15の一例として、特開2013-1183号公報の回転制限機構が挙げられる。
【0030】
転舵機構20は、操舵機構10と機械的に連結されていない。転舵機構20は、転舵輪100を転舵させる。転舵機構20は、ラックシャフト21、タイロッド22、および、転舵駆動部23を有している。
【0031】
ラックシャフト21の長手方向の両端部には、タイロッド22が接続されている。タイロッド22は、ナックル(図示略)を介して転舵輪100に接続されている。
転舵駆動部23は、転舵モータ24およびボールねじ機構25を有している。転舵モータ24は、ラックシャフト21と同軸に配置されている。転舵モータ24のロータ(図示略)は、ボールねじ機構25と接続されている。そして、ロータの回転は、ボールねじ機構25によりラックシャフト21の往復動に変換される。そして、ラックシャフト21は、往復動することによりタイロッド22を介して転舵輪100を転舵させる。
【0032】
制御装置30は、操舵モータ13および転舵モータ24の動作を制御する。制御装置30には、操舵モータ13、転舵モータ24、操舵角センサ31、トルクセンサ32、操舵切替操作部33、車速センサ121、ヨーレートセンサ122、および、カメラ123が電気的に接続されている。
【0033】
操舵角センサ31は、ステアリングシャフト11の回転角度(以下、「操舵角θs」)に応じた信号を制御装置30に出力する。操舵角θsが「0°」のとき、車両が直進するときの操舵部材110の位置である中立位置を示す。操舵角θsは、操舵部材110が中立位置から右旋回方向に操作されるとき、正の値を示す。操舵角θsは、操舵部材110が中立位置から左旋回方向に操作されるとき、負の値を示す。
【0034】
トルクセンサ32は、ステアリングシャフト11に付与されたトルク(以下、「操舵トルクTS」)に応じた信号を制御装置30に出力する。
操舵切替操作部33は、運転者の切替操作に基づいて手動転舵モードおよび自動転舵モードを切り替えるための指示信号を制御装置30に出力する。」
イ 「【0037】
制御装置30が実行する制御内容について説明する。
制御装置30は、手動操舵モード、自動操舵モード、調整モード、および、緊急操舵モードを有している。」
ウ 「【0040】
制御装置30は、自動操舵モードを実行しているとき、調整モードまたは緊急操舵モードに変更するか否かを判定するモード選択制御を実行する。以下、図2を用いて、モード選択制御の処理手順について説明する。
【0041】
制御装置30は、ステップS11において手動操舵条件が成立したか否かを判定する。
手動操舵条件は、以下の(a)および(b)の条件を有する。制御装置30は、(a)および(b)のいずれかの条件を満たすとき、手動操舵条件が成立したと判定する。
(a)操舵トルクTSの絶対値がトルク閾値TSX以上であること。
(b)操舵切替操作部33(図1参照)により手動操舵モードに変更する操作がされたこと。
【0042】
なお、トルク閾値TSXは、運転者が操舵部材110を操作したと判定するための値を示す。トルク閾値TSXは、試験等により予め設定されている。
制御装置30は、ステップS11において肯定判定のとき、ステップS12において車両が緊急回避しているか否かを判定する。
【0043】
制御装置30は、操舵部材110(図1参照)の回転速度(以下、「操作速度ω」)の絶対値が操作速度閾値ωX以上か否かを判定することに基づいて、ステップS12の判定を行う。なお、操作速度閾値ωXは、通常の車両運転時に到達しにくい操作速度であると判定するための値を示す。操作速度閾値ωXは、試験等により予め設定されている。なお、制御装置30は、操舵角θsを微分することにより操作速度ωを算出する。
【0044】
制御装置30は、ステップS12において肯定判定したとき、ステップS13において緊急操舵モードを実行する。一方、制御装置30は、ステップS12において否定判定したとき、ステップS14において調整モードを実行する。そして、制御装置30は、調整モードが終了した後、ステップS15において手動操舵モードを実行する。
【0045】
制御装置30は、ステップS11において否定判定したとき、すなわち、手動操舵条件が成立しないとき、処理を一旦終了する。このため、制御装置30は、自動操舵モードを継続する。
【0046】
図1および図3を参照して、各操舵モードにおける制御の内容について説明する。
制御装置30は、手動操舵モードを実行しているとき、操舵部材110に操舵反力を付与する反力付与制御、および、操舵部材110の操作に基づいて転舵輪100を転舵させる車輪転舵制御を実行する。また制御装置30は、自動操舵モードを実行しているとき、車線(図示略)内に車両を維持させるように転舵角θwを変更する自動操舵制御を実行する。また制御装置30は、調整モードを実行しているとき、操舵角θsと転舵角θwとの関係を予め規定された関係に調整する、すなわち、操舵角θsと対応操舵角θsrとの偏差をなくすように操舵部材110の操作位置を調整する位置調整制御を実行する。また制御装置30は、緊急操舵モードを実行しているとき、操舵部材110の動作に応じて転舵機構20を制御する緊急操舵制御を実行する。
【0047】
反力付与制御の詳細な内容について説明する。
制御装置30には、車速VS、操舵角θs、およびモータトルクの関係を示すマップ(図示略)が記憶されている。マップにおいて、モータトルクは、車速VSが小さくなるにつれて大きくなる。
【0048】
制御装置30は、車速VS、操舵角θs、およびモータトルクの関係を示すマップを用いて、車速VSおよび操舵角θsに応じたモータトルクを算出し、この算出したモータトルクを目標モータトルクとして設定する。制御装置30は、操舵トルクTSが目標モータトルクとなるように操舵モータ13をPWM制御する。
【0049】
車輪転舵制御の詳細な内容について説明する。
制御装置30には、操舵角θsと転舵角θwとの関係を示したマップ(以下、「マップMP」)が記憶されている。マップMPは、一例として、図3に示されたマップが挙げられる。図3に示されるように、マップMPは、操舵角θsおよび転舵角θwは比例関係を有する。図3の直線SLは、操舵角θsと転舵角θwとの予め規定された関係を示している。また制御装置30には、車速VSの大きさに応じて直線SLの傾きが変更されたマップMPが記憶されている。制御装置30は、マップMPを用いて、転舵角θwに対応する操舵角(以下、「対応操舵角θsr」)を算出する。
【0050】
制御装置30は、車速VSに応じたマップMPを選択する。そして、制御装置30は、選択されたマップMPを用いて、操舵角θsに対応する転舵角を算出し、この転舵角を目標転舵角として設定する。そして、制御装置30は、転舵角θwが目標転舵角となるように転舵モータ24をPWM制御する。
【0051】
自動操舵制御の詳細な内容について説明する。
制御装置30は、路面の画像を処理することにより、車線を規定するマーカ(白線)を検出する。そして、制御装置30は、マーカに基づいて車線内に車両を維持するための目標転舵角を算出する。そして、制御装置30は、転舵角θwが目標転舵角となるように転舵モータ24をPWM制御する。なお、操舵部材110は、自動操舵制御が実行されている期間において、中立位置(θs=0°)に維持される。
【0052】
位置調整制御の詳細な内容について説明する。
制御装置30は、自動操舵モードから手動操舵モードに変更するとき、マップMPに基づいて、転舵角θwから対応操舵角θsrを算出する。制御装置30は、操舵角θsが対応操舵角θsrとなるように操舵モータ13をPWM制御する。これにより、操舵角θsと転舵角θwとの関係が予め規定された関係となるように調整される。制御装置30は、操舵角θsが対応操舵角θsrに向けて変更されている間、自動操舵モードを維持している。そして、制御装置30は、操舵角θsが対応操舵角θsrに一致したとき、自動操舵モードから手動操舵モードに切り替える。
【0053】
緊急操舵制御の詳細な内容について説明する。なお、図3を参照する以下の説明において、符号が付された操舵装置1の構成要素は図1の操舵装置1の構成要素を示す。
緊急操舵制御は、緊急車輪転舵制御および緊急反力付与制御を含む。緊急車輪転舵制御および緊急反力付与制御は、車両が緊急回避していないときの車輪転舵制御および反力付与制御とは異なる制御を実行する。緊急操舵制御は、車両の緊急回避が完了した後、操舵角θsと転舵角θwとの関係を予め規定された関係となるように調整する。
【0054】
緊急車輪転舵制御は、操舵角θsの変化量に応じて転舵輪100を転舵させる点は、車輪転舵制御と同様である。しかし、目標転舵角の算出方法が車輪転舵制御とは異なる。詳しくは、制御装置30は、車両が緊急回避していると判定したとき、そのときの転舵角θwを記憶する。そして、制御装置30は、マップMPを用いて、操舵部材110の操作により変更された操舵角θsに対応する転舵角を算出する。そして、制御装置30は、算出した転舵角に記憶した転舵角θwを加算した値を目標転舵角として算出する。そして、制御装置30は、車輪転舵制御と同様に転舵角θwが目標転舵角となるように転舵モータ24をPWM制御する。
【0055】
また、制御装置30は、目標転舵角が転舵角θwの許容範囲の上限値θwmaxよりも大きいとき、目標転舵角を転舵角θwmaxに設定する。制御装置30は、目標転舵角が転舵角θwの許容範囲の下限値θwminよりも小さいとき、目標転舵角を転舵角θwminに設定する。
【0056】
緊急車輪転舵制御について、図3を用いて例示すると次のようになる。
制御装置30は、自動操舵モードを実行している場合において、例えば転舵輪100が右旋回方向に転舵されて転舵角θwが転舵角θwa(θwa>0°)となった状態で車両が緊急回避していると判定したとき、転舵角θwaを記憶する。
【0057】
運転者の操舵部材110の操作により操舵角θsが「0°」から操舵角θsvに変更されたとき、制御装置30は、マップMPから操舵角θsvに対応する転舵角θwbを算出する。この転舵角θwbが操舵部材110の操作に基づく転舵角となる。そして、制御装置30は、車両は予め転舵角θwa分が転舵された状態であるため、転舵角θwbに転舵角θwaを加算した値(θwb+θwa)を目標転舵角として設定する。したがって、実際の操舵が操舵角θsvに対して、転舵輪100は、転舵角θwaに対応する対応操舵角θsraと操舵角θsvとの合計(θsv+θsra)の操舵角に応じて転舵する。
【0058】
このように、操舵装置1は、緊急車輪転舵制御を実行することにより、調整モードを実行することなく、すなわち操舵角θsと転舵角θwとの関係を予め規定された関係に調整することなく、手動操舵モードを開始している。このため、操舵装置1は、手動操舵モードにおいて、操舵角θsと対応操舵角θsrとのずれを含んだ関係を保持した状態で操舵部材110の操作に基づいて転舵機構20により転舵輪100を転舵させている。
【0059】
緊急反力付与制御は、対応操舵角θsrおよび車速VSに応じた操舵反力を操舵部材110に付与する点は、反力付与制御と同様である。一方、緊急反力付与制御は、目標モータトルクの算出方法が反力付与制御とは異なる。詳しくは、制御装置30は、車両が緊急回避していると判定したとき、緊急車輪転舵角により算出された目標転舵角に対応する対応操舵角θsrと、車速VSとに基づいて目標モータトルクを算出する。そして、制御装置30は、反力付与制御と同様に操舵トルクTSが目標モータトルクとなるように操舵モータ13をPWM制御する。
【0060】
また、制御装置30は、目標転舵角が転舵角θwmaxまたは転舵角θwminにあり、かつ、そのときの目標操舵角が操舵角θsの許容範囲内にある場合、操舵角θsが目標操舵角に達するときに操舵モータ13により操舵反力を大きくする。これにより、転舵角θwmaxおよび転舵角θwminに対応する対応操舵角θsrを超えて操舵されることが抑制される。
【0061】
緊急反力付与制御について、図3を用いて例示すると次のようになる。
制御装置30は、自動操舵モードを実行している場合において、例えば転舵輪100が右旋回方向に転舵されて転舵角θwが転舵角θwa(θwa>0°)となったときに車両が緊急回避していると判定したとき、転舵角θwaを記憶する。
【0062】
運転者の操舵部材110の操作により操舵角θsが「0°」から操舵角θsvに変更されるとき、転舵角θwaに対応する対応操舵角θsraを操舵角θsvに加算した値(θsv+θsra)と、車速VSとに基づいて目標モータトルクが算出される。この目標モータトルクに応じた操舵反力が操舵部材110に付与される。
【0063】
このように、操舵装置1は、緊急反力付与制御を実行することにより、実際に転舵輪100が転舵している転舵角θwに対応する対応操舵角θsrに基づく操舵反力をステアリングシャフト11に付与する。」
(2)引用文献2記載事項
上記1の記載から、引用文献2には、以下の技術的事項が記載されている(以下「引用文献2記載事項」という。)。
「操舵部材110と、
前記操舵部材110と機械的に連結されていないステアバイワイヤシステムを構成している転舵機構20と、
モータトルクを操舵反力として、ステアリングシャフト11を介して操舵部材110に付与する操舵モータ13と、
転舵輪100を転舵させる転舵機構20の転舵モータ24と、
制御装置30とを有し、前記制御装置30は、
対応操舵角θsraと実際の操舵角θsvとを加算した合計の操舵角(θsv+θsra)に応じて前記転舵モータ24をPWM制御し、
前記対応操舵角θsraと前記操舵角θsvとを加算した前記合計の操舵角(θsv+θsra)に応じて前記操舵モータ13をPWM制御する、操舵装置1。」
第5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「ハンドル2」は前者の「操舵部材」に相当し、以下同様に「転舵機構4」は「転舵機構」に、「トーションバートルクTtb」は「操舵トルク」に、「前記ハンドル2に連結されたトーションバー10に加えられているトーションバートルクTtbを検出する」態様は「前記操舵部材に付与される操舵トルクを検出する」態様に、「トルクセンサ11」は「操舵トルク検出部」に、「手動操舵指令値θmdac」は「手動操舵角指令値」に、「前記トーションバートルクTtbを用いて手動操舵指令値θmdacを生成する」態様は「前記操舵トルクに基づき手動操舵角指令値を設定する」態様に、「手動操舵指令値生成部141」は「手動操舵角指令値設定部」に、それぞれ相当する。
また、後者の「前記転舵機構4に伝達される操舵補助力を発生するための電動モータ18」は、技術常識から通電時に保持トルクを生じ、当該保持トルクが転舵機構4と機械的に連結されているハンドル2に反力トルクとして付与されつつ、転舵機構4を駆動しているといえるから、前者の「前記操舵部材に反力トルクを付与する反力モータと、前記転舵機構を駆動する転舵モータ」と、「前記操舵部材に反力トルクを付与し、前記転舵機構を駆動するモータ」という限りにおいて一致し、以下同様に、「自動操舵のための自動操舵指令値θadacに前記手動操舵指令値θmdacを加算して、統合角度指令値θacmdを演算する統合角度指令値演算部142」と「自動操舵のための反力用自動操舵角指令値および前記手動操舵角指令値に基づき反力用統合角度指令値を演算する反力用統合角度指令値演算部と、自動操舵のための転舵用自動操舵角指令値および前記手動操舵角指令値に基づき転舵用統合角度指令値を演算する転舵用統合角度指令値演算部」とは、「自動操舵のための自動操舵角指令値および前記手動操舵角指令値に基づき統合角度指令値を演算する統合角度指令値演算部」という限りにおいて一致し、「前記統合角度指令値θadmdに基づいて前記電動モータ18を角度制御する制御部143」と「前記反力モータの回転角を前記反力用統合角度指令値に追従させる反力制御部と、前記転舵モータの回転角を前記転舵用統合角度指令値に追従させる転舵角制御部」とは、「前記モータの回転角を前記統合角度指令値に追従させる制御部」という限りにおいて一致する。
さらに、後者の「備える」態様は前者の「含む」態様に、同様に、「電動パワーステアリング装置」は「操舵装置」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「操舵部材と、
転舵機構と、
前記操舵部材に反力トルクを付与し、前記転舵機構を駆動するモータと、
前記操舵部材に付与される操舵トルクを検出する操舵トルク検出部と、
前記操舵トルクに基づき手動操舵角指令値を設定する手動操舵角指令値設定部と、
自動操舵のための自動操舵角指令値および前記手動操舵角指令値に基づき統合角度指令値を演算する統合角度指令値演算部と、
前記モータの回転角を前記用統合角度指令値に追従させる制御部とを含む、操舵装置。」
という点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
転舵機構について、本願発明は、「前記操舵部材と機械的に分離された転舵機構」であるのに対し、引用発明は、前記ハンドル2と機械的に連結されている転舵機構4である点。
[相違点2]
モータに関し、本願発明は、「前記操舵部材に反力トルクを付与する反力モータと、前記転舵機構を駆動する転舵モータ」であるのに対し、引用発明は、前記転舵機構4に伝達される操舵補助力を発生するための電動モータ18である点。
[相違点3]
統合角度指令値演算部に関し、本願発明は、「自動操舵のための反力用自動操舵角指令値および前記手動操舵角指令値に基づき反力用統合角度指令値を演算する反力用統合角度指令値演算部と、自動操舵のための転舵用自動操舵角指令値および前記手動操舵角指令値に基づき転舵用統合角度指令値を演算する転舵用統合角度指令値演算部」であるのに対し、引用発明は、そのように構成されていない点。
[相違点4]
制御部に関し、本願発明は、「前記反力モータの回転角を前記反力用統合角度指令値に追従させる反力制御部と、前記転舵モータの回転角を前記転舵用統合角度指令値に追従させる転舵角制御部」であるのに対し、引用発明は、そのように構成されていない点。
第6 判断
1 相違点について
(1)上記相違点1~4は、いずれも、本願発明が操舵部材と機械的に分離された転舵機構と、操舵部材に反力トルクを付与する反力モータと、転舵機構を駆動する転舵モータとを含むものであることに基づく相違点であることから、以下、相違点1~4をまとめて検討する。
(2)引用文献2には、上記第4の2(2)に記載したとおり、以下の引用文献2記載事項が記載されている。
「操舵部材110と、
前記操舵部材110と機械的に連結されていないステアバイワイヤシステムを構成している転舵機構20と、
モータトルクを操舵反力として、ステアリングシャフト11を介して操舵部材110に付与する操舵モータ13と、
転舵輪100を転舵させる転舵機構20の転舵モータ24と、
制御装置30とを有し、前記制御装置30は、
対応操舵角θsraと実際の操舵角θsvとを加算した合計の操舵角(θsv+θsra)に応じて前記転舵モータ24をPWM制御し、
前記対応操舵角θsraと前記操舵角θsvとを加算した前記合計の操舵角(θsv+θsra)に応じて前記操舵モータ13をPWM制御する、操舵装置1。」
(3)上記第4の1(1)ウに記載したとおり、引用文献1の【0107】には、
「この発明は、ステアバイワイヤシステムにも適用することができる。」
と記載されており、ステアバイワイヤシステムを採用することが示唆されている。
よって、引用発明に、引用文献2記載事項のようなステアバイワイヤシステム、すなわち、操舵部材110と機械的に連結されていない転舵機構20を採用し、また、引用発明の電動モータ18に代えて、モータトルクを操舵反力として操舵部材110に付与する操舵モータ13、及び、転舵輪100を転舵させる転舵機構20の転舵モータ24を採用して、上記相違点1及び2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
(4)引用発明において、統合角度指令値θacmdに基づいて電動モータ18を角度制御されると、それに応じて転舵機構4に伝達される操舵補助力が制御されると共に、転舵機構4と機械的に連結されているハンドル2に付与される保持トルクが制御される。
そして、引用文献2記載事項は、操舵モータ13も転舵モータ24も、同じ操舵角に追従するように制御されており、上記示唆に基づいて引用文献2記載事項のステアバイワイヤシステムを採用する際に、操舵モータ13も転舵モータ24も同じ操舵角である統合角度指令値θacmdに追従するように制御させること、及び、そのための各制御部、すなわち反力制御部と操舵角制御部とを設けることは、いずれも当業者が容易に想到し得ることである。さらに、それに応じて引用発明の統合角度指令値演算部142の内、操舵モータ13用の統合角度指令値θacmdを演算する部分を反力用統合角度指令値演算部とし、転舵モータ24用の統合角度指令値θacmdを演算する部分を転舵用統合角度指令値演算部とすることは、当業者が適宜なし得ることである。
よって、引用発明に引用文献2記載事項を採用して、上記相違点3及び4に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
(5)そして、上記相違点1~4を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2記載事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
2 審判請求人の主張について
(1)令和6年7月26日提出の意見書において、審判請求人は以下のように主張している。
ア 「引用文献1は、電動パワーステアリングシステム(以下、「EPS」という。)、つまり、ハンドルと転舵機構が機械的に連結されているものであり、反力は、転舵輪が転舵することに起因して、路面→転舵輪3→転舵機構4→ステアリングシャフト6→ハンドル2→運転者と伝達される。
そのため、EPSにおいては、電動モータ18が意図的に反力を発生させるものではない。電動モータ18が意図的に反力を発生させるものではないことから、引用文献1には、「反力用の指令値」を演算することについて開示もされていないし示唆もされていない。」
イ 「合議体は、引用文献2の段落[0062]における「対応操舵角θsraに操舵角θsvを加算して目標モータトルク用の合計の操舵角を算出し([0062]参照。)」という制御装置30の動作に関し、この「対応操舵角θsra」が本願の請求項1に係る発明における「反力用自動操舵角指令値」に相当するといったような認定をなされている。
しかしながら、段落[0062]に記載されている制御は、自動操舵モード時に行われる制御ではなく、車両が障害物等と衝突するのを緊急に回避させるために、自動操舵モードを解除して運転者の操舵に応じて転舵角を制御する緊急操舵モードにおける緊急反力付与制御であるので、この認定には承服できない。」
(2)審判請求人の上記主張について、以下検討する。
ア 上記アについて
上記第5で対比したように、引用発明の電動モータ18が保持トルクを生じ、当該保持トルクが転舵機構4と機械的に連結されているハンドル2に反力トルクとして付与されることは、技術常識であり、当業者であれば当然理解できることである。
確かに、審判請求人が主張するように、転舵輪が転舵することに起因する路面から伝達される力が主たる操作反力となることは明らかであるが、だからといって、前記電動モータ18の保持トルクが反力に相当しないものとはいえない。
また、上記第4の1や第5には、引用文献1に「反力用の指令値」を演算することについて開示や示唆がされているとは記載していない。
上記1(4)にて説示したように、引用発明にステアバイワイヤシステムを採用する際に、操舵モータ13用の統合角度指令値θacmdを演算することは、当業者が容易になし得ることであり、その操舵モータ13用の統合角度指令値θacmdが、本願発明の「反力用統合角度指令値」に相当する。
イ 上記イについて
上記第4の1、第5、1及びアに記載したように、引用文献2に記載の「対応操舵角θsra」が本願発明における「反力用自動操舵角指令値」に相当するといったような認定は、していない。
上記1(4)及びアにて説示したように、引用発明にステアバイワイヤシステムを採用する際に、操舵モータ13用の統合角度指令値θacmdを演算することは、当業者が容易になし得ることであり、その操舵モータ13用の統合角度指令値θacmdが、本願発明の「反力用統合角度指令値」に相当し、操舵モータ13用の統合角度指令値θacmd。の自動操舵指令値θadacが本願発明の「反力用自動操舵角指令値」に相当する。
なお、本願発明1においても、本願の【0008】に「この発明の一実施形態では、前記反力用自動操舵角指令値と前記転舵用自動操舵角指令値とが、共通の自動操舵角指令値からなる。」と記載されているとおり、反力用自動操舵角指令値と転舵用自動操舵角指令値とが同じ指令値であることを包含している。
ウ 小括
よって、審判請求人の主張は、当を得たものではない。
3 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-009166