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特許拒絶査定不服審判

2023-004064

原子核からの光子放出を生成するシステム及び方法

審判番号
2023-004064
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-516793外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2023年03月09日
審決日
2024年05月13日
公報発行日
2024年10月25日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .536-Z (H01S)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020-516793「原子核からの光子放出を生成するシステム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年12月13日国際公開、WO2018/226597、令和 2年 7月30日国内公表、特表2020-522899〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2018年(平成30年)6月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2018年5月23日 米国、2017年11月14日 米国、2017年6月5日 米国)を国際出願日とする外国語特許出願であって、その手続の経緯の概略は次のとおりである。 令和 2年 1月 6日 :翻訳文の提出 令和 4年 3月18日付け:拒絶理由通知書 同年 9月21日 :誤訳訂正書及び意見書の提出 同年11月 4日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) (同月14日 :原査定の謄本の送達) 令和 5年 3月 9日 :審判請求書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和4年9月21日に提出された誤訳訂正書による特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1及び請求項1の記載を引用する請求項14の記載は、次のとおりである。 「 【請求項1】 フォノンを生成するデバイスと、 原子核を含む凝縮物質媒体と、 を備え、 前記フォノンは、前記原子核と相互作用し、前記核にエネルギーを移動させて前記核に光子を放出させることによって前記原子核のうちの幾つかの核状態に影響を及ぼし、かつ 前記フォノンを生成するデバイスは、細長プレートと、該細長プレートの第1の端部及び第2の端部にそれぞれ取り付けられた第1のクランプ及び第2のクランプとを備え、該第1のクランプ及び該第2のクランプは、前記細長プレートの前記第1の端部及び前記第2の端部に応力を印加し、前記細長プレート内に転位の運動を引き起こすように構成されている、原子核からの光子放出を生成するシステム。」 「 【請求項14】 エネルギーは、アップコンバージョンを介して前記核に移動される、請求項1に記載のシステム。」 第3 原査定の拒絶の理由の概要 本願発明に対する原査定の拒絶の理由の概要は、発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識を考慮しても、フォノン核カップリングによるフォノン媒介励起を起こすことができるのか不明であるから、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないのであり、したがって、本願は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない、というものである。 第4 当審の判断 1 当審の判断の概要 本願発明は、「前記フォノンは、前記原子核と相互作用し、前記核にエネルギーを移動させて前記核に光子を放出させることによって前記原子核のうちの幾つかの核状態に影響を及ぼ[す]」ことを発明特定事項とするところ、当該「前記核にエネルギーを移動させ[る]」ことは、請求項1の記載を引用する請求項14の記載により特定されるとおり、「エネルギーは、アップコンバージョンを介して前記核に移動される」ことを含んでいる。 しかしながら、発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識からは、フォノンが原子核と作用し、アップコンバージョンを介して原子核にエネルギーを移動させること(以下「フォノンによるアップコンバージョン」という。)を実現できることが裏付けられているとはいえず、しかも、発明の詳細な説明が、当業者が当該エネルギーを移動させることを再現性をもって実現できるように記載されているともいえない。 したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 2 当審の判断の詳細な説明 (1) 本願の発明の詳細な説明等の記載 本願発明における「前記フォノンは、前記原子核と相互作用し、前記核にエネルギーを移動させて前記核に光子を放出させることによって前記原子核のうちの幾つかの核状態に影響を及ぼ[す]」こと、及び、フォノンによるアップコンバージョンについて、本願の発明の詳細な説明(令和4年9月21日に提出された誤訳訂正書で誤訳訂正されたもの)及び図面には次の記載がある。下線は、特に関連する記載について、当合議体が付したものである。 ア 【0006】-【0008】 「【背景技術】 【0006】 原子核はエネルギーを吸収することができ、その結果、そのような核は励起状態に置かれる。核の励起を発生させるために、エネルギーは、核の外部から核内に結合させることもできるし、核自体の内部の核反応から生み出すこともできる。異なる核種は異なる離散的なエネルギー準位を示す。離散的なエネルギー準位は、核状態としても知られている。それぞれの核は、一致したエネルギーをそのような核内に移動させることができる場合に、これらのエネルギー準位に励起することができ、また、一致したエネルギーをそのような核から外部に移動させることができる場合に、これらのエネルギー準位から脱励起することができる。所与の核の可能な励起状態に対応するエネルギー準位は、特定の核種の核が含む中性子及び陽子の数等のその内部組成によって決まる。核の可能な励起状態のエネルギー準位は、それらの核の核共鳴としても知られている。核は、励起状態にあるとき、より低い励起状態、又は、核の基底状態としても知られている非励起状態に変化することができる。より高い励起状態からより低い励起状態又は基底状態への移行プロセスは、脱励起として知られている。脱励起の過程において、元の状態と結果の状態との間の差に対応するエネルギー量が核の外部に移動する。 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 図1を参照すると、原子核の励起及び脱励起は、通常、それぞれ光子を介したエネルギーの吸収102若しくは放出104、又は、それぞれ中性子若しくは荷電粒子等のエネルギー粒子の吸収101若しくは放出103を通じて起こる。これらの手法は、広範囲の原子力工学の応用を可能にするが、それらに関連した不利点がある。光子又はエネルギー粒子を介した原子核の励起の場合、通常、電磁的手段を通じて粒子を所望のエネルギー準位に加速する粒子加速器等の大規模で高価な資本設備が必要となる。さらには、エネルギーが、励起核から光子及びエネルギー粒子に移動されると、その結果発生する放射は、多くの場合、人間を貫通し、人間に危険であるとともに、利用して、より望ましい形のエネルギーに変換することが困難である。したがって、よりシンプル、より経済的、かつより安全な方法で用いることができる原子核の励起及び脱励起の別の方法が有用である。 【課題を解決するための手段】 【0008】 概して1つの態様において、本発明は、フォノンを生成するデバイスと、原子核を含む凝縮物質媒体とを備える、原子核からの光子放出を生成するシステムを特徴とする。フォノンは、原子核と相互作用し、核にエネルギーを移動させて核に光子を放出させることによって原子核のうちの幾つかの核状態に影響を及ぼす。」 イ 【図1】 「 [図:0001414698000001.jpg] 」 ウ 【0015】-【0019】 「【発明を実施するための形態】 【0015】 本発明は、フォノン媒介エネルギー交換を通じて原子核を励起することによって、光子線源等の有用な放射線源を、特定のエネルギー準位において特定の角度方向(例えば、コリメートされている)に生成するシステム及び方法に関する。また、本発明は、放射性線源及び励起原子核から熱等の有用なエネルギーを生成するシステム及び方法にも関する。具体的には、本発明は、フォノン相互作用を介して励起核状態内及び励起核状態外にエネルギーを移動させる新規な方法を教示する。 【0016】 以下の段落では、最初に、フォノン核カップリング(phonon-nuclear coupling)を中心に、原子核のフォノン媒介励起及びフォノン媒介脱励起の基本となる物理原理を紹介する。次に、フォノン核カップリングに基づくエネルギー交換メカニズムを簡潔に紹介する。最後に、開示された方法及び装置によって示されるような作用中のそのようなメカニズムの巨視的効果及びそれらの効果の可観測性を紹介する。 【0017】 フォノン核カップリング フォノンは、固体の原子格子等の凝縮物質内の原子又は分子の周期的弾性配置における原子の集団励起と定義される。フォノンは、振動モードに関連したエネルギーの量子とみなすことができる。振動モードは、接続原子の周期運動の特定の空間的出現を表す。励起モードには、その励起モードの周波数、振幅、及び対応する総エネルギーが関連付けられる。量子力学的には、励起モードの総エネルギーは、フォノンをエネルギーの量子として含むとみなすことができる。フォノンモードという用語は、そのようなモードを指すのに用いられる。フォノンエネルギーは、原子の空間構成に依存するフォノンモードの周波数に比例する。励起フォノンモードにおけるフォノンの数は、励起フォノンモードの総エネルギーをフォノンエネルギーによって除算したものである。励起フォノンモードの総エネルギー(したがって、フォノンの数)は、振動振幅の平方に比例する。原子核の内部状態と、そのような核が関与する励起フォノンモードとの間のカップリングは、フォノン核カップリングとして表される。フォノン核カップリングは、原子核が、振動する構造体の一部であるとき、例えば、それぞれの核が、共通の励起フォノンモードを受ける同じ格子に結合されているときに発生する可能性がある。核は、格子(又は、秩序がない場合には非晶質構造体)の主要構成要素である。格子に振動が存在する場合、振動する核の内部状態は、フォノン交換を介して振動にカップリングすることができる。 【0018】 フォノン核カップリングがいつどのようにして現れるのかは、変量の数に依存する。励起の場合、元の核状態と結果の核状態との間のエネルギー差は、対応する数のフォノンの形のエネルギー、若しくは他の核からの核励起エネルギー、又はそれらの組み合わせの対応する量によって一致されなければならない。同様に、脱励起の場合、元の核状態と結果の核状態との間のエネルギー差は、格子が受けることができる対応する数のフォノン、若しくは他の原子核の励起、又はそれらの組み合わせによって吸収可能でなければならない。存在するフォノンの数又は特定の凝縮物質環境において受けることができるフォノンの数、及びフォノンのエネルギー準位は、振動モード及び周波数を決定する格子内の原子組成及び配置と、格子を振動させることができる種々のトリガーの存在とに依存する。 【0019】 図2は、原子核のフォノン媒介励起201及びフォノン媒介脱励起202のメカニズムを概略的に示している。フォノン核カップリングは、励起フォノンモードにおけるフォノンエネルギー及びフォノンポピュレーション、励起フォノンモードのタイプ(バンドヘッドモード及び他の空間的に一様なモード又は自己相似モードが、フォノン核カップリングに基づくメカニズムが現れる可能性を最大にするので好ましい)、並びに励起フォノンモード、核種の配置、それらのエネルギー準位、及びそれらの初期状態による影響を受ける核種等の該当する変量を決定するシステム構成に応じて、強度が変化し得る。フォノン核カップリングの強度を決定する他の変量は、振動する原子間の位相一様度、及び、振動に関与する原子の数(大きなディッケ係数(Dicke factor))である。これらの変量の双方について、より高い値ほど、より強いフォノン核カップリングをもたらす。所与の凝縮物質環境におけるフォノン核カップリングの強度に応じて、フォノン核カップリングは、複数の異なるメカニズム及び対応する効果を通じて現れることができる。」 エ 【図2】 「 [図:0001414698000002.jpg] 」 オ 【0020】-【0023】 「【0020】 発生する幾つかのメカニズムのフォノン核カップリング強度が十分に高くなると、以下で説明する巨視的効果を観測することができる。ただし、まず、前置きとして種々のエネルギー交換メカニズムを説明する。 【0021】 フォノン核カップリングから得られるエネルギー交換メカニズム フォノン核カップリングは、その発生が、上述した変量を形作る特定の境界条件に依存する、以下の複数の異なるメカニズムを通じて現れることができる。 ・励起移動:共通の励起フォノンモードによって媒介されるエネルギーは、励起核から、より低い励起状態又は基底状態にある他の核に移動する。レシーバー核及びドナー核はともに、同じ振動格子に結合されていることに起因して同じフォノンモードと相互作用する。このメカニズムが発生する確率は、レシーバー核及びドナー核のエネルギー準位が一致している場合に高くなる。励起移動は、共鳴することができ、そのように励起された核の核位相コヒーレンスとして現れ、さらに、これは、(核自体が、格子のように整然と配置されている場合に)異方性光子放出をもたらすことができる。比較的高いエネルギーが励起フォノンモードに存在する場合、励起移動は非共鳴となることもでき、一連の励起移動として現れ、可観測の非局在化効果をもたらすことができる。そのような非共鳴励起移動では、オフ共鳴状態(仮想状態としても知られている)が、共鳴励起移動の場合よりも広範囲を占める。そのようなオフ共鳴状態の間、フォノンモードは、移動に関与する核の核状態からのエネルギーの一部を一時的に収容することができる。励起フォノンモードのエネルギーが、所与の構成において更に増加された場合、同じ原理によって、非共鳴励起移動は、利用可能なフォノンモードが原子核とエネルギーを交換するので、アップコンバージョン(又は、励起がシステムに既に存在する場合には、ダウンコンバージョン)に移行することができる。 ・アップコンバージョン:アップコンバージョンは、多数の連続した非共鳴励起移動を介して発生する:フォノンは、当該フォノンを受ける振動格子の一部である原子核にエネルギーを移動させる。したがって、移動されたエネルギーは、原子核の励起と、励起フォノンモードにおける同等のエネルギー減少とをもたらす。このメカニズムが発生するには、利用可能な励起フォノンモードが、エネルギーを受ける核を、それらの元の状態からそれらの結果の状態に励起するのに十分なエネルギーを有する必要がある。 ・ダウンコンバージョン:フォノンを受ける振動格子の一部である励起原子核からのエネルギーは、それらの核から当該フォノンに移動する。したがって、移動されたエネルギーは、より低い励起状態又は基底状態への原子核の脱励起と、利用可能なフォノンモードの同等のエネルギー増加とをもたらす。このメカニズムが発生するには、振動格子は、脱励起する核の元の核状態と結果の核状態との間のエネルギー差を吸収するのに十分なエネルギーを励起フォノンモードにおいて受けることができる必要がある。 ・サブディビジョン:共通の励起フォノンモードによって媒介されるエネルギーは、励起核から、一致していないエネルギー準位を有する基底状態核に移動する。潜在的なレシーバー核がそれらのエネルギー準位に基づいて収容することができるエネルギー量子が、脱励起するドナー核から潜在的に入手可能なエネルギー量子よりも少ない場合、ドナー核から放出されるエネルギーは、2つ以上の受信核に移動することができる。量子コヒーレントプロセスとして進行するには、何らかのエネルギー不一致を(部分的な)アップコンバージョン又はダウンコンバージョンによって作り出す必要がある。 【0022】 それぞれのメカニズムが現れる条件は、上記で論述した変量に関する特定のシステム構成から結果として得られるフォノン核カップリングの強度に依存する。重要なパラメーターは、励起フォノンモードにおけるエネルギーと、格子における核種の構成(核種の空間分布及びそれらのそれぞれのエネルギー準位/遷移エネルギー)とである。これらの双方は、巨視的なサンプル間で変化し得る(又は、そのように設計することができる)ので、実際は、多くの場合に、複数のメカニズムの重ね合わせを所与の実施態様においてそれぞれの境界条件に応じた正確な比率で観測することができる。実施者の観点からすると、産業への応用に関して、所与の実施態様において可観測な効果をもたらすメカニズムが、一般に最適なものである。 【0023】 一般的な原理としての励起移動は、上掲のメカニズムの全ての前提条件であり、アップコンバージョン及びダウンコンバージョン等のメカニズムは、多数の非共鳴励起移動の結果として現れることを強調しておく。所与の格子構成において、上記メカニズムのそれぞれの相対的な存在は、上記格子における特定の励起フォノンモード及びそれらの総エネルギーを示すことができる。さらに、核の所与の格子構成において、所与の核遷移に焦点を当てると、どのメカニズムが現れるのかを決定する残りの重要な動作パラメーターは、影響を受ける核の共通の励起フォノンモードのエネルギーである。このエネルギーは、多くの場合、振動の振幅によって求められる。フォノン核カップリング強度とともに(上述した格子構成では、励起フォノンモードのエネルギーの増加とともに)、メカニズムは、次の順序、すなわち、共鳴励起移動、非共鳴励起移動、アップコンバージョン(又は、核励起が既に存在する場合には、ダウンコンバージョン/サブディビジョン)で現れる。したがって、本明細書では、共鳴励起移動等のメカニズムを下位のメカニズムとして記載し、アップコンバージョン等のメカニズムを上位のメカニズムとして記載する。具体的には、他の全ての条件が同じである場合、励起移動等の下位のメカニズムが励起フォノンモードにおいて現れるのに必要なエネルギーは、アップコンバージョン等の上位のメカニズムと比較して少ない。したがって、励起移動に続いて起こる効果を特徴付けるものは、フォノン核カップリング強度に関して凝縮物質環境を診断及び最適化する適した開始点である。」 カ 【0024】-【0028】 「【0024】 巨視的効果:非局在化 励起移動メカニズムは、対応する放射線放出の非局在化効果及び角度異方性効果をもたらし、それらの効果は、動作中のフォノン核カップリングに基づくメカニズムの適したオブザーバブルになる。非局在化が意味するものは、光子放出の空間分布が変化することである。そのような効果は、上記で前置きとして説明したフォノン媒介励起及びフォノン媒介脱励起のフォノン核カップリングに基づくメカニズムとともに、光子放出(放射崩壊)を介した通常の脱励起が、励起核の非ゼロの確率を有する異なる可能性で残っていることから発生する。これは、光子を容易かつ確実に検出することができ、そのような光子は、アプリケーションにおいて用いることができるので、有用である。光子放出を介した核の励起状態の脱励起が、その核自体がフォノン媒介エネルギー交換(例えば、励起移動、アップコンバージョン、又はサブディビジョン)を介して以前に励起された後に発生する場合、脱励起に起因する光子の放出のロケーションは、フォノン媒介エネルギー交換が存在しない場合に光子が放出された箇所と異なる。換言すれば、1つ以上の共通の励起フォノンモードの存在下では、通常ならば励起核も放射性核も含まないロケーションから光子放出が発生する。同様に、1つ以上の共通の励起フォノンモードの存在下では、励起核又放射性核を含むロケーションから光子放出の欠如が発生する。そのような非局在化が巨視的に可観測であるか否かは、励起がこのように移動する距離(移動が繰り返された場合の距離を含む)に依存する。励起移動が非共鳴であるとき、すなわち、他の条件が全て同じである場合に、励起フォノンモードのエネルギーが同等に高いか、又は、影響を受ける核状態エネルギーが比較的低いという条件下では、励起移動の距離が増加し、したがって、その巨視的可観測性が高まる。非共鳴励起移動を示す原子核の所与の構成では、例えば、利用可能なフォノンモードをより高い周波数において励起すること又は振動の振幅を増加させる(フォノンポピュレーションを増加させる)ことを通じて、励起フォノンモードにおいて利用可能なエネルギーを増加させることによって、アップコンバージョンレジームに入ることができる。 【0025】 非局在化効果が、核の間のフォノン媒介エネルギー交換に続いてどのようにして起こるのか説明図を図11~図14に示す。図11は、フォノン核カップリングメカニズムを可能にする十分大きなエネルギーの共通の励起フォノンモードを受けることが可能な同じ原子格子内の3つの異なる核(Co-57、Fe-57、及び別のFe-57)のロケーションを例示として示している。この例では、ロケーションAにおける1がCo-57核であり、ロケーションBにおける2がFe-57核であり、ロケーションCにおける3がFe-57核である。図12は、これらの3つのロケーションを考慮したときに、放射崩壊から発生する可観測な光子放出の通常の予想を示している。ロケーションB及びロケーションCからの光子放出は予想されない。ロケーションAでは、Co-57核が、ベータ崩壊を介してFe-57*核、すなわち、励起状態にあるFe-57核に崩壊した後に、光子放出が予想される。その直後に、そのような励起されたFe-57*核は、通常どおり、光子放出を介してその基底状態に脱励起する。結果として生じる光子は、その後、ロケーションAから発生した光子放出1201として観測することができる。上述した励起フォノンモードの存在によって、他の結果が可能になる。そのような可能な結果のうちの1つを図13に例示として示す。Co-57のベータ崩壊後、上記フォノンモードが存在すると、Fe-57*は、光子放出を介して脱励起しないが、フォノン媒介励起移動を介して脱励起する。ロケーションAにおけるFe-57*核の励起エネルギーは、共通のフォノンモードを介して、ドナー核から脱励起した同じエネルギー量子を核励起として収容することができるロケーションBにおける基底状態のFe-57核(受信核)に移動する。これが当てはまる理由は、ドナー核及びレシーバー核の双方が同じ核種Fe-57であることから、それらのエネルギー準位が同一であるからである。図13に示すこの例では、ロケーションBにおいて現在励起されているFe-57*核は、通常どおり(放射崩壊を介して)脱励起し、ロケーションBから光子を放出する。この場合、光子は、装置の動作中、すなわち、上述した励起フォノンモードが存在する場合、予想外にロケーションBにおいて観測され(1301)、予想外にロケーションAにおいては観測されない。図14は、確率的結果のサブセットを考慮して、この特定の例をより一般的に拡張したものである。共通の励起フォノンモードの存在下であっても、ロケーションAにおけるFe-57*核は、特定の確率を有する光子放出を介して通常どおり脱励起することができる。一般的な場合に、通常の脱励起が起こる前に励起移動が繰り返し発生する確率も存在する。 【0026】 励起移動を介した非局在化の上記前置き及び図11~図13における例は、個々の核及びそれらの核の光子放出の微視的なロケーションに焦点を当てている。次のセクションでは、巨視的な含意を論述する。 【0027】 通常の条件下では、巨視的に観測される局在的放出強度は、局在的なCo-57の濃度に比例すると予想される。フォノン媒介非共鳴励起移動が存在する場合、巨視的に観測される局在的放出強度は、もはやCo-57の濃度と一致しない。 【0028】 巨視的なエリアを考えるとき、統計も同様に考えなければならない。この場合、上記微視的な例において推論されるような予想される光子放出の絶対的存在又は不在を引き起こすのではなく、非局在化効果は、特定のエリアにおいてフォノン媒介脱励起が支配的である場合には、そのエリアの平均光子放出の減少として現れ、特定のエリアにおいてフォノン媒介励起が支配的である場合には、そのエリアの平均光子放出の増強として現れる。したがって、潜在的なドナー及びレシーバーが、そのエネルギーが、幾つかの実施形態における開示された装置の動作中のように、フォノン核カップリングに基づくメカニズム及び効果を可能にするほど十分大きい共通の励起フォノンモードに接続されている限り、フォノン核カップリング関連メカニズムの存在は、幾つかの場合には、高密度の励起核と低密度の基底状態の潜在的なレシーバー核とを有するエリアからの光子放出の減少を通じて観測することができ、幾つかの場合には、低密度の(of)励起核と高密度の基底状態の潜在的なレシーバー核とを有するエリアからの光子放出の増加を通じて観測することができる。その結果、励起フォノンモードの存在下における光子放出の空間分布の変化は、フォノン核カップリングに続いて起こる効果であり、原子核のフォノン媒介励起及びフォノン媒介脱励起を観測、診断、及び使用するのに用いることができる。本発明では、これが該当する。」 キ 【図11】-【図14】 「【図11】 [図:0001414698000003.jpg] 【図12】 [図:0001414698000004.jpg] 【図13】 [図:0001414698000005.jpg] 【図14】 [図:0001414698000006.jpg] 」 ク 【0029】-【0031】 「【0029】 巨視的効果:角度異方性 フォノン核カップリングに基づくメカニズムを再現可能に用いて、巨視的に可観測な効果を引き起こす別の方法は、フォノン媒介共鳴励起移動から得られる角度異方性を通じたものである。換言すれば、作用中のフォノン核カップリングメカニズムは、通常の脱励起(放射崩壊)から放出される光子の角度分布の変化をもたらす。この効果は、共鳴励起移動の場合のように、共通のフォノンモードを通じて励起されるとき、励起核の位相が一致していることに起因して予想される。したがって、励起核は、その場合、同一の核整列にあり、光子が通常の脱励起(放射崩壊)を通じて放出されるとき、同一角度の光子放出をもたらす。その結果、フォノン媒介共鳴励起移動によって引き起こされる核励起からの光子放出は、多くの場合にコリメートされている。特に単一エネルギー準位にあるコリメート光子放出は、X線リソグラフィー及びマイクロマシニング等の複数の産業上の利用を有する。 【0030】 特殊な取り扱いが行われない場合、励起状態核の通常の脱励起からの光子放出は、等方的である、すなわち、その角度分布が一定であると予想される。その理由は、放出核の核整列がランダムであり、放出核が多数ある場合、統計は、所与の立体角にわたって一定の放出分布になるからである。コリメーション及びビーム形成の巨視的な観測結果は、多数の光子放出核がフォノン媒介共鳴励起移動を介して励起されているときに発生することができる。このように励起されている光子放出核のサブセットが小さい場合、そのようなメカニズムは、光子放出の角度分布の変化として巨視的に現れる。具体的には、所与の立体角にわたって観測される放出は、その場合、依然としてランダムな方位を有するとともに一定の角度分布で光子を放出する幾つかの核からの放出と、フォノン媒介エネルギー交換を通じて整列されているとともに光子をコリメートな態様で放出する他の核からの放出との重ね合わせである。その結果、励起フォノンモードが存在する場合、光子放出の角度分布の変化は、フォノン核カップリングに続いて起こる効果であり、原子核のフォノン媒介励起及びフォノン媒介脱励起を観測、診断、及び使用するのに用いることができる。本発明では、これが該当する。 【0031】 アップコンバージョンの結果として、核位相コヒーレンス及び光子放出の対応するコリメーションを達成するには、凝縮物質媒体内に共鳴励起移動も発生することができる領域を有することが必要である。アップコンバージョンは、自動的かつ必然的にコリメートされた放出をもたらすものではない。アップコンバージョンが起こる凝縮物質媒体内のロケーションと比較して、共鳴励起移動ロケーションは、共鳴励起移動を支配的にするために、比較的弱いフォノン核カップリング強度を有する必要がある。より低いフォノン核カップリング強度は、上記で論述したフォノン核カップリング強度を決定する変量を調整することによって達成することができる。このことから、アップコンバージョンからのコリメート光子放出のための産業用デバイスは、各領域において異なるフォノン核カップリングに基づくメカニズムが支配する少なくとも2つの領域(初期励起移動のためのアップコンバージョン及びコリメーションのための共鳴励起移動等)を必要とする。双方を組み合わせると、その場合、既に励起された状態なしで核状態のフォノン媒介励起からコリメート光子放出を得ることができる。」 ケ 【0034】 「【0034】 貢献の再表示 本発明は、原子核のフォノン媒介励起及びフォノン媒介脱励起を再現可能で可観測に用いるシステム及び方法を提供する。これを行うために、本発明は、フォノン媒介励起移動によって引き起こされる非局在化効果及び角度異方性効果を利用する。提示された方法及び装置は、フォノン核カップリングと、これに続いて起こる提示されたエネルギー交換メカニズムとの再現可能で可観測な存在を初めて確立するものである。したがって、本発明は、原子力技術者のツールボックス内の新たなツールと、より一般的には、フォノンに基づく原子力工学の新たな分野との基礎を築くものである。」 コ 【0037】-【0042】 「【0037】 システムアセンブリ システムの一例示的な実施形態の概略図を側面図で図3Aに示す。図3Bは、同じ例示的な実施形態を底面図で示している。システム300は、サンプルアセンブリ310、ロケーションBにおけるX線検出器304、シンチレーション検出器305及びガイガーカウンター306を備える。サンプルアセンブリ310は、プレート301、及びプレート301の端部を支持する2組のクランプ303を備える。1つの例では、プレート301は、細長プレートであり、3インチ×6インチ×5/32インチの寸法を有する。1つの例では、プレート301は、圧延低炭素鋼材(McMaster-Carr社部品番号1388K546)から作製されたスチールプレートである。そのようなスチールプレートは、約108/cm2~約1016/cm2程度の転位密度を有することが知られている。転位は、機械的応力が印加されると、凝縮物質格子内を運動する結晶学的欠陥である。運動転位は、その結果として、局在的な格子振動、すなわち、上記セクションにおいて論述したような励起フォノンモードを生成及び散乱する。そのような励起フォノンモードのエネルギーは、対応する振動の周波数及び振幅に依存する。低速の運動転位は、既に存在するフォノンの散乱に効果的であり(非等方分布及び非平衡分布をもたらす)、新たなフォノンを作り出すことにも効果的である。計算に基づくと、運動転位は、THzレジームにおける高周波数フォノンを散乱することが予想される。そのような高周波数は、その結果として、高いフォノンエネルギーをもたらす。転位運動は、圧縮応力、引張応力、及び/又はせん断応力の印加中等に塑性変形によって引き起すことができる。 【0038】 スチールプレート301の中心点には、放射性基材302が配置される。具体的には、約250 μCiの放射能を有する0.1 M HCl溶液(Eckert & Ziegler社からのもの)による57CoCl2の0.05 ml液滴が用いられる。この溶液の液滴は、蒸着させるために1時間にわたって放置され、スチールプレートの表面上に約12 mmの直径を有するグレーのリングを形成する。サンプルアセンブリは、この時、図3Cに示すように、下層にあるスチールプレートに結合された、蒸着された57CoCl2溶液のリング状基材302を備える。基材302は、核励起の線源として動作する、数が減少していく放射性Co-57核を含む。基材302は、Co-57核の崩壊の結果生じる安定した短寿命の存在の励起Fe-57*核と、以前のCo-57崩壊から得られた基底状態にあるFe-57核も提供する。更なる基底状態のFe-57核は、鉄にある自然発生したFe-57に起因して、下層にあるスチールプレート301に存在する。蒸着された溶液から得られたリング状基材302は、エポキシ樹脂(J-B Weld社の50112 Clear 25 ml ClearWeld Quick-SettingEpoxy Syringe)によって覆われる。基材の上部の円形形状のエポキシ樹脂層は、直径が約30 mmであり、厚さが約0.5 mmである。この段落で説明したサブシステムは、サンプルとして以下で参照される。 【0039】 そのような構成における別のフォノン源は摩擦である。直前の段落で説明したサンプル等のシステムが応力を受けると、プレートと基材との界面、基材とエポキシ樹脂との界面、及びプレートとエポキシ樹脂との界面等の境界(物質間の境界、粒界等を含む)において、摩擦が発生する。 【0040】 次に、2つのクランプ303は、図3Bに示すように、動作中に機械的応力を提供するようにスチールプレートの対向するコーナーに緩く取り付けられている。各クランプ303は、寸法2インチ×6インチ×1インチの2つの合板を備え、クランプによって覆われたスチールプレート上の各エリアが、約1.5インチの2辺の長さを有する二等辺三角形を形成するように、スチールプレート301のコーナーを覆っている。3つの7mmのホール307が、各合板に穿孔されている。これらのホールは、図3Bに示すように、三角形を形成するように位置決めされる。次に、6つの1/4-20ボルト308及び対応するナット309並びにワッシャー311がねじ留めされ、各クランプ303の双方の合板を接続する。ナット309及びボルト308は、十分に締め付けられて、クランプ303を所定の位置に保持するが、この時点、すなわち、動作前においては付加的な応力を作用させない。 【0041】 スチールプレート301と、エポキシ樹脂に覆われた蒸着基材302と、スチールプレートのコーナー上のクランプ303とを備えるサンプルアセンブリ310全体は、次に、3つの検出器304、305、306が固定位置に取り付けられたシンプルなマウンティングラックに配置される。 【0042】 サンプルの物質組成及びその微細構造は重要であり、この例示的な実施形態では、それに応じて選ばれている。第1に、サンプルは、励起又は脱励起される核に影響を及ぼす励起フォノンモードにおいて十分なフォノン及び十分に高いフォノンエネルギーを受けることができる必要がある。このセクションに提示される例示的な実施形態の場合、これには、上述したサンプルアセンブリ、具体的には、スチールプレート、基材、及びエポキシ樹脂カバーの凝縮物質環境が該当する。第2に、サンプルは、物質内にフォノンを生み出すことが可能である必要がある。このセクションに提示される例示的な実施形態では、フォノンは、応力誘導転位運動及び摩擦を介して生成される。第3に、関与する物質の離散エネルギー準位と、励起及び脱励起に関連した結果のエネルギー量子とを考慮する必要がある。核の励起が起こるには、励起フォノンモード若しくは他の励起核、又は双方の組み合わせのいずれかによって十分なエネルギーを提供する必要がある。核の脱励起が起こるには、フォノンモード若しくは他の核、又は双方の組み合わせが、脱励起から解放されるエネルギーを吸収可能である必要がある。このセクションにおいて提示される例示的な実施形態では、Fe-57核のエネルギー準位は、この点に関して中心的役割を果たす。図4は、Fe-57核のエネルギー準位400を示している。Fe-57核は、基底状態(0 keV)と、14 keVの励起状態及び136 keVの励起状態の2つの励起状態とを示す。Co-57核の崩壊の結果、136 keVの高側の励起状態に励起されたFe-57*核が生じる。この励起核は、その後、136 keVの励起エネルギーを放出して基底状態に直接脱励起する(401)こともあるし、122 keVの励起エネルギーを放出して、14 keVの低側の励起状態に脱励起し(402)、第2のステップにおいて、この14keVの低側の励起状態から基底状態に脱励起する(403)こともある。その結果として、14 keV、136 keV、及び122keVの離散エネルギー量子が、原子核の励起又は脱励起に関与するものとして利用可能である。サンプルには基底状態のFe-57核が多数存在するので、サンプルは、それによって、エネルギー準位が潜在的なドナー核と一致する多数の潜在的なレシーバー核を含む。この潜在的なドナーエネルギー準位及びレシーバーエネルギー準位の一致によって、励起状態にあるFe-57と基底状態にあるFe-57との間でフォノン媒介脱励起及びフォノン媒介励起が発生する確率が高まる。このセクションに提示される例示的な実施形態の場合、所望の反応が発生する確率を最大にするために、エネルギー放出及びエネルギー吸収の容量の一致がこのように考慮されている。」 サ 【図3A】-【図3C】、【図4】 「【図3A】 [図:0001414698000007.jpg] 【図3B】 [図:0001414698000008.jpg] 【図3C】 [図:0001414698000009.jpg] 【図4】 [図:0001414698000010.jpg] 」 シ 【0043】-【0048】 「【0043】 検出 図12~図14に示すように、フォノンが存在しない場合、励起核は、通常どおり光子放出を介して脱励起すると予想することができる。Fe-57が関与する例示的な実施形態では、14 keV、136 keV、及び122 keVの解放されるエネルギー量子は、その後、以前のCo-57核(ベータ崩壊後はFe-57*核)の箇所から放出されたエネルギー光子として観測することができる。そのような光子の観測は、ガンマ線/X線分光計304によって生成される光子エネルギースペクトルを通じて行われる。1つの例では、ガンマ線/X線分光計304は、Amptek社のX123分光計である。別の例では、ガンマ線/X線分光計344は、Ortec社の高純度Geガンマ線分光計である。そのような光子エネルギースペクトル500(ガンマ線/X線スペクトル)は、図5に示すように、Co-57の通常の核脱励起から得られる光子放出からの14 keVのエネルギー準位501、136 keVのエネルギー準位503、及び122 keVのエネルギー準位502においてピークを示す。本明細書では、Fe-57の14 keVの遷移を低側エネルギー核遷移と記載し、Fe-57の122 keVの遷移及び136keVの遷移を高側エネルギー核遷移と記載する。 【0044】 同様に、そのような放出光子は、ガイガーミュラー(GM)カウンター306を用いてカウントとして観測される。GMカウンター306は、検出器がカバーする立体角内の光子の存在を検出し、それらの光子をカウントする。一方、GMカウンター306は、光子のエネルギーを解明しない。毎秒の検出カウントを検出器から取り出し、タイムスタンプを割り当て、記憶することができる。エネルギーの解明を欠いているにもかかわらず、GMカウンター306は、非局在化効果及び角度異方性効果によって引き起こされるような特定の立体角内の光子放出の変化の検出に有用である。励起されたFe-57*からの上述した光子放出の場合に、ほとんどのGMカウンターは、14 keVにあるより低いエネルギー光子と比較して122 keV及び136 keVのエネルギー準位にあるより高いエネルギー光子に最も高い感度を有する。 【0045】 このセクションに提示された例示的な実施形態では、動作中にサンプルの放射線反応及びその変化を監視するために、3つの検出器304、305及び306が、サンプルアセンブリ310の上方及び下方の3つの別々のロケーションに配置される。この例では、図3Aに示すように、シンチレーション検出器305及びGMカウンター306は、サンプルアセンブリ310の上方に配置され、ガンマ線/X線検出器304は、サンプルアセンブリ310の下方に配置される。全ての検出器は、それぞれの側においてスチールプレートの表面から約1インチ離れた法線角度に配置される。これらの3つの検出器については、以下でより詳細に説明する。 【0046】 ロケーションBにおけるガンマ線/X線検出器304は、リング状基材の外縁に向いており、0.5 milのBe窓及び6 mm2の検出エリアを有するAmptek社のX-123 Si-PINガンマ線/X線分光計である。検出器304は、1keV~28 keVのエネルギー範囲にわたり、毎秒1つの累積スペクトルを連続記録し、2048個のチャネルを通じてそのようなスペクトルを解明する。時間依存データ解析について、図8に示すこの検出器304からの時間履歴データは、Fe-57の14.4 keV線の60個のチャネル(788 eV幅のエネルギー範囲に対応する)の合計に基づいている。 【0047】 スチールプレート301の裏面(すなわち、サンプルアセンブリ310の上方であり、リング状基材302に直接向いていない)には、シンチレーター検出器305がガンマ線分光測定に用いられる。この検出器305は、図3Bに示すように、プレート301の他方の側においてリング状サンプル基材302の上方に同心円状に配置されたロケーションYに位置決めされる。この検出器305は、250 μmのZnS(Ag)シンチレーターと、Hamamatsu社の3インチ直径を有する光電子増倍管(モデルR6233)とを用いる。Radフィルムカバーが、可視光を遮断するのに用いられる。この検出器は、Gamma Spectacular社のGS-2000-PRO高電圧ドライバーによって駆動され、結果として得られるアナログ信号は、Focusrite社の192 KHz低ノイズUSBアナログデジタル変換器を介してデジタル化される。結果として得られるデジタル信号は、オープンソースソフトウェアTheremino MCAを介してスペクトルに変換される。これらのスペクトルにおいて、2048個のチャネルは、約5 keV~200keVのエネルギー範囲を解明するのに対して、シンチレーターの選択は、検出器をより低いエネルギー光子に対して最も高感度の状態に維持する。スペクトルは、この検出器を用いて累積され、毎分1回記録され、他の検出器と同様に、タイムスタンプを割り当てられる。この検出器は、より低いエネルギーに高感度であり、表側の励起されたFe-57*核から放出される14 keVの光子がほとんど貫通することができないスチールプレートの裏側に向いているので、この検出器は、リング状サンプル基材からの122 keV線及び136 keV線等のより強力なガンマ線によって引き起こされるスチールプレートの裏側におけるX線蛍光効果に最も高感度である。したがって、この検出器は、検出器がカバーする立体角のほぼ全体にわたって、プレートの裏側におけるより高いエネルギー光子の代わりとなるものとみなすことができる。 【0048】 スチールプレートの裏側(すなわち、リング状基材302に直接向いていない)では、GMカウンター306が、立体角のこの部分において、大部分がより強力なガンマ線をカウントするのに用いられる。この検出器306は、図3Bに示すように、スチールプレートの露出したコーナーのうちの1つ(クランプがないコーナーのうちの1つ)の上方のロケーションZに位置決めされる。GMカウンターは、Ludlum社の2350-1データロガーに接続されたLudlum社のモデル44-88アルファベータガンマ線検出器プローブである。Ludlum社のデータロガーは、この検出器から毎秒約1回カウントを読み取り、タイムスタンプを割り当て、値を記録する。」 ス 【図5】 「 [図:0001414698000011.jpg] 」 セ 【0049】-【0051】 「【0049】 動作及び反応 このセクションに提示された例示的な実施形態の動作は、サンプルにおける核状態のフォノン媒介励起及びフォノン媒介脱励起を引き起こすフォノンの生成を含む。動作の効果を示すために、動作中及び動作外において、データが取得される。 【0050】 動作外においてGMカウンター306によって取得された時系列データを図7に示す。図7のグラフは、約5日の期間にわたるデータを示している。この期間中、放出光子の数は、既知のCo-57崩壊率と一致して、徐々にかつ一貫して減少している。この減少は、時間の経過とともに、Fe-57への崩壊がますます進むにつれて、残っているCo-57核の数が減少することから予想される。グラフにおける直線は、文書によって十分に立証されたCo-57の半減期に基づいて予想されるカウントの減少を示している。図6は、同様の写真を示している。図6のグラフは、動作外においてX123検出器304によって測定された光子の数を示している。上記と同様に、測定された光子の数は、Co-57の既知の半減期と一致して減少する。図6及び図7は、新規なメカニズム又は効果が起こらない場合に、この構成から予想されるデータを示している。 【0051】 装置は、フォノンを生成することによって動作する。このセクションに提示された例示的な実施形態では、フォノンは、凝縮物質サンプル内の応力誘導転位運動及び摩擦を通じて生成される。具体的には、これは、サンプルアセンブリのコーナーにあるクランプ303を、各クランプにある3つのナット309及びボルト308を介して締め付けて、約2000 lbsの通常の圧縮応力をスチールプレート301の各コーナーに生成することによって行われる。クランプ303によって誘導された応力は、スチールプレート301にわたって応力場をもたらし、スチールプレート301にわたって転位運動を引き起こす。クランプ303及びプレート301の幾何形状に起因して、応力場は、圧縮成分、せん断成分、及び伸張成分を有する。運動転位は、プレートの多くの部分に局在的なフォノンの生成及び散乱をもたらす。これらのフォノンは、その後、上述したように、フォノン核カップリングを通じて原子核と相互作用することができる。どのフォノン核カップリングに基づくメカニズム(共鳴励起移動、非共鳴励起移動、アップコンバージョン、ダウンコンバージョン、サブディビジョン)が現れるかは、(一般的には)フォノン核カップリングの強度によって決定され、この特定の実施形態では、励起フォノンモードのエネルギー(例えば、印加される応力が大きくなると、振動の振幅とともに増加する)と、対象となる核状態とによって決定される。後者の点に関して、励起フォノンモードにおける所与のエネルギーでは、より高次のメカニズム(非共鳴励起移動等)は、低側エネルギー核遷移(Fe-57の14 keV遷移等)とともに現れる傾向があるのに対して、より低いエネルギーメカニズム(共鳴励起移動等)は、より高側エネルギー核遷移(Fe-57の136 keV及び122keV遷移等)とともに現れる傾向がある。また、励起フォノンモードにおける利用可能な総エネルギーが増加された場合には、より高次のメカニズムは、高側エネルギー核遷移とともに現れることもある(及び、増加の規模に応じて、更により高次のメカニズムが、より低いエネルギー遷移に対して更に現れることがある)。これは、(上記で論述し、図3Aに示すような、現在論述している例示的な実施形態に続いて)別の例示的な実施形態において、特定の核遷移を伴うアップコンバージョン、ダウンコンバージョン、又はサブディビジョンをどのように実施することができるかということである。」 ソ 【図6】-【図7】 「【図6】 [図:0001414698000012.jpg] 【図7】 [図:0001414698000013.jpg] 」 タ 【0052】 「【0052】 図25は、動作中のアップコンバージョンを示すそのような別の例示的な実施形態を示している。この実施形態では、放射性基材がスチールプレート上に配置されていない。機械的応力は、2000 lbsから開始し、励起フォノンモードにおけるエネルギーが、アップコンバージョンメカニズムの出現を可能にする十分な大きさになるまで、徐々に増加される。これには、スチールプレートにおけるFe-57核が励起され、通常の脱励起(放射崩壊)からの対応する光子放出を観測することができるときが該当する。」 チ 【図25】 「 [図:0001414698000014.jpg] 」 ツ 【0053】-【0054】 「【0053】 図3Aに示すような例示的な実施形態の詳細な説明に戻ると、基材に近接した場所では、フォノンは、励起されたFe-57*核の脱励起及び基底状態のFe-57の励起を、励起移動を通じて媒介することができ、放出の空間分布の変化(非局在化)及び放出の角度分布の変化(角度異方性)をもたらすことができる。非局在化効果及び異方性効果は、検出器では、検出光子の減少及び増加として現れる。図8は、装置の動作中の、すなわち、クランプを介して応力を印加した後の、ロケーションBにおけるX123ガンマ線分光計304からの14keVのエネルギー範囲における時間依存光子カウントを示している。図8のグラフは、残っているCo-57核の崩壊から予想される光子放出の安定し一貫した減少に近づくまで徐々に減少する、ロケーションBにおける14 keVの光子放出の増強を示す。ロケーションB、すなわち、リング状サンプル基材のエッジにおける光子放出の増強は、このエリア内への核励起のフォノン媒介移動によって引き起こされる。1回限り印加され、所定の箇所に維持された機械的応力の印加から生じる転位運動は時間とともに減少し、これは、コールドフロー又はクリープとして説明されてきた。転位運動及び摩擦が徐々に減少するとともに、フォノンの生成又は散乱も減少し、その結果、フォノン媒介励起及びフォノン媒介脱励起の効果も減少する。図8のグラフの終了時までに、ロケーションBにおける検出器によって記録することができる可観測な非局在化効果は、もはやほぼなくなる。 【0054】 図15及び図16の概略図は、14 keVの光子放出の観測される増強の原因を更に示している。これらの2つの概略図において、参照符号321は、核が14 keVの光子を放出するエリアを示している。具体的には、図15は、動作前の例示的な装置を示している。図16は、動作中の装置、すなわち、機械的応力の印加によって生成されたフォノンを有する装置を示している。フォノンが存在する場合、基材内のCo-57のロケーションから通常どおり光子を放出する励起のうちの幾つかは、フォノン媒介脱励起を通じて脱励起され、近傍の基底状態のFe-57核のうちの幾つかは、フォノン媒介励起(非共鳴励起移動によって駆動される)を通じて励起される。その結果、多くの潜在的なドナー核に近接した多くの潜在的なレシーバー核を有するエリアからの光子放出は、フォノン媒介エネルギー交換を可能にする励起フォノンモードにおける十分に高いエネルギーの存在下において上昇する。この特定の例示的な構成では、Amptek社のX123ガンマ線分光計304が、リング状サンプル基材302に直接向いているプレート301の底部側にある唯一の検出器である。スチールプレート301が、14 keVの光子から裏側の検出器をシールドするので、ガンマ線分光計304は、Fe-57核の14 keV核準位を伴う励起及び脱励起の変化を追跡するこの例示的な構成設定において唯一の検出器である。プレート301の裏側にある検出器305、306については、表側における14 keV放出からシールドすることによって、これらの検出器が、136 keV及び122 keVがより低い状態に遷移することを伴う変化を特に追跡することが可能になる。その上、裏側の2つの異なるロケーションに2つの検出器305、306が存在することによって、より強力なガンマ線の放出の変化に関する追加の空間情報が提供される。図9は、ロケーションZに位置決めされたGMカウンター306におけるより強力なガンマ線の時間依存光子カウントを示している。動作中、グラフは、残っているCo-57核の崩壊から予想される光子放出の安定し一貫した減少に近づくまで徐々に減少する、ロケーションZにおけるより強力なガンマ線放出の増強を示す。上述したように、そのような実施形態では、システムが力学的に平衡になり、転位運動が低速になり、フォノン生成が減少するにつれて、フォノン核カップリングに基づくメカニズムからの効果は、時間とともに減少する。ロケーションZにおける増強と対照的に、ロケーションYにおける検出器305は、図10に示すように、動作(フォノン生成)中の放出の減少を示す。図17及び図18の概略図は、ロケーションY及びロケーションZにおける122 keV及び136keVの光子放出の観測される増強及び減少の原因を更に示している。図17は、動作前の例示的な装置を示している。参照符号322は、核が、Fe-57*核の136 keVエネルギー準位の通常の脱励起から122 keV及び136 keVの光子を放出するエリアを示している。図17における光子放出は、基材322の周囲に等方的である。図18は、動作中の装置、すなわち、機械的応力310の印加によって生成されたフォノンを有する装置を示している。フォノンが存在し、共鳴励起移動が現れると、サンプル基材内の励起されたFe-57*のうちの幾つかは、フォノン媒介脱励起を介して脱励起され、基底状態のFe-57核のうちの幾つかは、フォノン媒介励起を通じて励起される。その結果、フォノン媒介励起を通じて励起された核は、それらの核整列に整列し、それらの核が通常どおり(放射崩壊を通じて)脱励起すると、それらの光子は同等の放出角度で放出される。巨視的には、これは、光子放出の全体的な角度分布の変化(全立体角における幾つかの部分では増強、及び、他の部分では減少)として現れる。図18に示すように、光子放出は、特定の角度に集中する。図17及び図18は、動作中に、光子放出の角度分布の変化が、ロケーションZ及びロケーションYにおける検出器の観測結果のそれぞれ増強及び減少をどのようにもたらすのかを示している。この装置のこの特定の実施形態の動作及び提示された方法の実施からの上述した効果は、異なる検出器、異なる検出器ロケーション、及び異なるサンプルを用いることを含めて、非常に多くの回数、再現及び確認された。したがって、この実施形態、基本となる方法、観測された効果及び関連するメカニズムは、再現可能性が非常に高く、非常に有効であるとみなすことができる。」 テ 【図8】、【図15】-【図16】 「【図8】 [図:0001414698000015.jpg] 【図15】 [図:0001414698000016.jpg] 【図16】 [図:0001414698000017.jpg] 」 ト 【図9】-【図10】、【図17】-【図18】 「【図9】 [図:0001414698000018.jpg] 【図10】 [図:0001414698000019.jpg] 【図17】 [図:0001414698000020.jpg] 【図18】 [図:0001414698000021.jpg] 」 ナ 【0055】 「【0055】 図19を参照すると、別の実施形態では、サンプルアセンブリ300は、クランプ303から機械的応力を受けている間加熱される。50 Wの加熱電力を有するシリコーンゴム加熱パッド312が、プレートの裏面に取り付けられ、プレートのエッジにおける2つの小さなばねを通じて所定の位置においてスチールプレートと接触した状態でこのパッドを維持するように押下される。動作中、この実施形態では、上述したように、機械的応力がクランプ303に印加される。ここでの相違は、動作中に、プレート301が、3時間以上のDC熱パルスを通じて加熱され、この加熱が、スチールプレート301の熱膨張と、膨張したスチールが固定クランプ303を押圧することに伴う機械的応力の増加とを一時的にもたらすということである。1つの例では、スチールプレートの温度上昇は75℃である。この手法によって、(機械的応力の増加に起因した)フォノン生成の増加に対する光子放出応答の本来の位置での測定が可能になる。換言すれば、プレートアセンブリを実験所及び検出器から運び去る必要なく、機械的応力は増加される。図20は、そのような実施形態からのデータを示している。この実施形態では、データにおける核応答を、その機械的原因により直接的にリンクさせることができる。」 ニ 【図19】-【図20】 「【図19】 [図:0001414698000022.jpg] 【図20】 [図:0001414698000023.jpg] 」 (2) 原子核の励起についての本願出願時の技術常識 原子核の励起について、次の事項は本願出願時の技術常識であると認められる。参考として、当該事項が技術常識であることを裏付ける本願の発明の詳細な説明の段落番号を括弧内に示す。 ア 原子核は、核状態として知られる離散的なエネルギー準位を示し、元の核状態と結果の核状態との間のエネルギー差に一致したエネルギーを原子核内に移動させることができる場合に、結果の核状態、すなわち、エネルギー準位に励起することができる。(【0006】、【0018】) イ 原子核の励起は、光子を介したエネルギーの吸収や、中性子又は荷電粒子等のエネルギー粒子の吸収を通じて起こる。(【0007】) ウ フォノンを介して原子核にエネルギーを移動させて原子核を励起すること、すなわち、本願の発明の詳細な説明でいう「フォノン核カップリング」に基づくエネルギー交換は、本願出願時にはそのような現象自体公知ではなく、観測もされていない。(【0015】、【0034】) エ 本願の発明の詳細な説明で励起状態の原子核として用いられているFe-57核の低側のエネルギー準位は、14keVである。(【0042】、【図4】) オ フォノンエネルギーは、たかだかmeVオーダーである。 (3) 本願発明におけるアップコンバージョンについて 発明の詳細な説明には、本願発明の「前記フォノンは、前記原子核と相互作用し、前記核にエネルギーを移動させ[る]」こと、特に、前記1で指摘したとおり本願発明に含まれるフォノンによるアップコンバージョンについて、次の記載がある。該当する記載がある段落番号を括弧内に示す。 ア 励起移動では、共通の励起フォノンモードによって媒介されるエネルギーは、励起核から、より低い励起状態又は基底状態にある他の核に移動し、比較的高いエネルギーが励起フォノンモードに存在する場合、励起移動は非共鳴となることもでき、一連の励起移動として現れ、励起フォノンモードのエネルギーが、所与の構成において更に増加された場合、非共鳴励起移動は、利用可能なフォノンモードが原子核とエネルギーを交換するので、アップコンバージョンに移行することができる(【0021】)。アップコンバージョン及びダウンコンバージョン等のメカニズムは、多数の非共鳴励起移動の結果として現れる(【0023】)。 イ アップコンバージョンでは、フォノンは、当該フォノンを受ける振動格子の一部である原子核にエネルギーを移動させ、移動されたエネルギーは、原子核の励起と、励起フォノンモードにおける同等のエネルギー減少とをもたらす。このメカニズムが発生するには、利用可能な励起フォノンモードが、エネルギーを受ける核を、それらの元の状態からそれらの結果の状態に励起するのに十分なエネルギーを有する必要がある。(【0021】) ウ 非共鳴励起移動を示す原子核の所与の構成では、利用可能なフォノンモードをより高い周波数において励起すること又は振動の振幅を増加させる(フォノンポピュレーションを増加させる)ことを通じて、励起フォノンモードにおいて利用可能なエネルギーを増加させることによって、アップコンバージョンレジームに入ることができる。(【0024】) エ どのフォノン核カップリングに基づくメカニズム(共鳴励起移動、非共鳴励起移動、アップコンバージョン、ダウンコンバージョン、サブディビジョン)が現れるかは、フォノン核カップリングの強度によって決定され、励起フォノンモードのエネルギー(例えば、印加される応力が大きくなると、振動の振幅とともに増加する)と、対象となる核状態とによって決定され、励起フォノンモードにおける所与のエネルギーでは、より高次のメカニズム(非共鳴励起移動等)は、低側エネルギー核遷移(Fe-57の14 keV遷移等)とともに現れる傾向があり、励起フォノンモードにおける利用可能な総エネルギーが増加された場合には、より高次のメカニズムは、高側エネルギー核遷移とともに現れることもあり、これは、特定の核遷移を伴うアップコンバージョンをどのように実施することができるかということである。(【0051】) オ アップコンバージョンを示す実施形態では、放射性基材がスチールプレート上に配置されておらず、機械的応力は、2000 lbsから開始し、励起フォノンモードにおけるエネルギーが、アップコンバージョンメカニズムの出現を可能にする十分な大きさになるまで、徐々に増加される。これには、スチールプレートにおけるFe-57核が励起され、通常の脱励起(放射崩壊)からの対応する光子放出を観測することができるときが該当する。(【0052】、【図25】) (4) 当審の判断 ア 本願の発明の詳細な説明の記載が本願発明について実施可能要件を満たすために必要な事項 前記(1)によれば、本願発明の技術的意義は、原子核の励起及び脱励起は、通常、光子又はエネルギー粒子の吸収若しくは放出を通じて起こるところ、これらの励起及び脱励起を用いる手法は、粒子加速器等の大規模で高価な資本設備が必要となるとともに、発生する放射が、多くの場合人間に危険であるため、より望ましい形のエネルギーに変換することが困難であるという課題があった(【0007】)ことから、その課題を解決するために、フォノンを生成するデバイスと、原子核を含む凝縮物質媒体とを備える、原子核からの光子放出を生成するシステムを提供することにあると認められる。そして、当該システムでは、フォノンは、原子核と相互作用し、核にエネルギーを移動させて核に光子を放出させることによって原子核のうち幾つかの核状態に影響を及ぼすもの(【0008】)であると認められる。 しかるに、このような技術的意義をもつ本願発明は、「フォノンを生成するデバイス」によって生成されたフォノンが、「凝縮物質媒体」に含まれる「原子核と相互作用し、前記核にエネルギーを移動させて前記核に光子を放出させることによって前記原子核のうちの幾つかの核状態に影響を及ぼ[す]」ことを発明特定事項としているところ、さらに、当該「前記核にエネルギーを移動させ[る]」ことは、請求項1の記載を引用する請求項14の記載によって特定されるとおり、「エネルギーは、アップコンバージョンを介して前記核に移動される」ことを明らかに含んでいる。そうすると、本願の発明の詳細な説明の記載が本願発明について実施可能要件を満たすというためには、上記記載及び本願出願時の技術常識に基づいて、当業者が上記発明特定事項、つまり、フォノンを生成するデバイスによって生成されたフォノンが原子核と相互作用し、そのフォノンのエネルギーが原子核に移動することによって原子核から光子が放出すること(以下、この光子放出を「本件フォノン核カップリング起因光子放出」という。)を実施できる必要があるのが当然であるが、それのみならず、上記発明特定事項に明らかに含まれる「エネルギーは、アップコンバージョンを介して前記核に移動される」こと、つまり、フォノンを生成するデバイスによって生成されたフォノンのエネルギーがアップコンバージョンを介して原子核に移動することによって原子核から光子が放出すること(以下、この光子放出を「本件アップコンバージョン起因光子放出」という。)を実施できる必要があるといえる。 しかるに、前記(2)ウで示した本願出願時の技術常識のとおり、本件フォノン核カップリング起因光子放出の前提となるところの、フォノンを介して原子核にエネルギーを移動させて原子核を励起すること、すなわち、本願の発明の詳細な説明でいう「フォノン核カップリング」に基づくエネルギー交換について、本願出願時にはそのような現象が存在すること自体公知とはいえない上、観測もされていないのであり、そうである以上、本件アップコンバージョン起因光子放出の前提となるフォノンによるアップコンバージョンもまた、本願出願時にそのような現象が存在すること自体公知ではなく、観測もされていないといえる。 そして、本願発明の属する核物理学の技術分野においては、前記(2)アで示したように、元の核状態と結果の核状態との間のエネルギー差に一致したエネルギーを原子核内に移動させることができる場合に、結果の核状態、すなわち、エネルギー準位に励起することができること、さらに、前記(2)エ及びオで示したように、Fe-57核の低側のエネルギー準位は14keVであるのに対して、周波数によって決定されるフォノンのエネルギーはたかだかmeVオーダーであり、両者の大きさは106倍程度異なっていることが技術常識であると認められる。そして、励起フォノンモードが、エネルギーを受ける核をそれらの元の状態からそれらの結果の状態に励起するのに十分なエネルギー有するためには、前記(3)ウに照らせば、特定の原子核にエネルギーを与えるフォノンポピュレーションを106程度まで増加させる必要があるところ、106のフォノンが実質的に同時に特定の原子核にエネルギーを移動させる確率は圧倒的に低く、本願出願時の核物理学の常識からはそのようなことが生じるとは考え難いといえる。 そうすると、当業者が発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて、上記のフォノンによるアップコンバージョン及び本件アップコンバージョン起因光子放出を実施することができるというためには、単に理論的な考察によりその実現可能性を示すのみでは足りず、これらの現象を実現できることを実験的に示し、さらに、これらの現象を再現性をもって実現できる程度に具体的な条件を示す必要があるというべきである。 イ 実験的な裏付けと具体的な条件の記載について そこで、本願の発明の詳細な説明の記載をみると、当該記載には、実際にフォノンによるアップコンバージョン及び本件アップコンバージョン起因光子放出を実現できることが実験的に示されておらず、フォノンによるアップコンバージョンを再現性を持って実現できる程度の具体的な条件もまた不明である。 すなわち、前記(3)オで示したように、発明の詳細な説明には、フォノンによるアップコンバージョンを示す実施形態として、放射性基材がスチールプレート上に配置されていない形態が記載されており、励起フォノンモードにおけるエネルギーが、アップコンバージョンメカニズムの出現を可能にする十分な大きさになり、スチールプレートにおけるFe-57核が励起され、通常の脱励起(放射崩壊)からの対応する光子放出を観測することができるまで、機械的応力を2000 lbsから開始して徐々に増加することが記載されているものの(【0052】、【図25】)、実際に光子放出(本件アップコンバージョン起因光子放出)を観測できたことは記載されていない。 この点、【0053】及び【図8】には、応力印加時に光子放出又はガンマ線放出が増強するとの実験結果が示されているが、これは非局在化効果(この非局在化効果は、【0021】及び【0024】によれば、非共鳴励起移動によるものとされている。)によるものとされており、多数の連続した非共鳴励起移動を介して発生するとされているアップコンバージョンが起こったことをただちに示すものではないし(【0021】)、そもそもフォノン核カップリングによる励起移動であることを直接的に観測(例えば、フォノンのエネルギーを測定することにより実際に原子核からフォノンにエネルギーが移動したことを観測することなどが考えられる。)したものでもない。それを措き、【図8】の光子放出の増強についてみると、ロケーションBにおけるガンマ線/X線検出器304は、放射性のリング状基材の外縁に向いており、その6mm2の検出エリアの一部にリング状基材が含まれているところ(【0046】、【図3B】)、当該光子放出の増強は、仮にそれが生じているとしても、応力の印加によりスチールプレートが変形し、ガンマ線/X線検出器304の検出エリアとリング状基材の相対的な位置関係が変化したことに起因するものとも考えられ、【図8】の応力印加時の光子放出又はガンマ線放出の増強が、直接的には観測されてはいないフォノン核カップリングによる非共鳴励起移動によるものであることをただちに意味するとはいえない。 また、【0054】並びに【図9】【図10】、【図17】及び【図18】では、光子放出の角度分布の変化(この光子放出の角度分布の変化は、【0021】及び【0029】によれば、共鳴励起移動によるものとされている。)がロケーションZ及びロケーションYにおける検出器の観測結果の増強及び減少をもたらすとされているが、アップコンバージョンによるものではない(【0021】)。さらにいえば、【図9】及び【図10】で示される固定されたロケーションZ及びロケーションYにおける観測結果の増減からただちに光子放出の角度分布の変化を読み取ることはできないし、それはフォノン核カップリングによる共鳴励起移動によるものであることを直接観測したものでもない。そして、ロケーションZ及びロケーションYにおける検出器の観測結果の増強及び減少は、仮にそれが生じているとしても、【図8】について説示したのと同様に、応力の印加によりスチールプレートが変形し、シンチレーション検出器305及びGMカウンター306の検出エリアとリング状基材の相対位置が変化することに起因するものとも考えられ、ロケーションZ及びロケーションYにおける検出器の観測結果の増強及び減少が直接的に観測されてはいないフォノン核カップリングによる共鳴励起移動によるものであることをただちに意味するとはいえない。 【0055】及び【図20】についても同様であるが、特に【0055】にはスチールプレート301が熱膨張することが明記されており、各検出器の検出エリアと放射性のリング状基材の相対位置が変化していることが強く推認される。 さらに発明の詳細な説明の他の記載を見ても、実際にフォノンによるアップコンバージョンが実現できることを実験的に示した記載は存在しない。 ウ 理論的な実現可能性についての記載について 前記(3)ウには、アップコンバージョンレジームに入るためには、利用可能なフォノンモードをより高い周波数において励起すること又は振動の振幅を増加させる(フォノンポピュレーションを増加させる)ことを通じて、励起フォノンモードにおいて利用可能なエネルギーを増加させることが、同エには、励起フォノンモードのエネルギーを大きくするために、印加される応力を大きくして振動の振幅を増加させることが示唆されている。 しかしながら、この記載は、機械的応力を印加することによるアップコンバージョンの実現可能性を述べるにとどまるのであって、前記(2)ウで示した本願出願時の技術常識や、放射性同位体を含有しない圧延低炭素鋼材であるスチールプレートのコーナーをクランプして応力を与えてもガンマ線が放射されることはないことが本願出願時の技術常識であることを勘案すれば、単に実現可能性を述べる記載をもって、実際にフォノンによるアップコンバージョンが実現できることが裏付けられているとはいえない。 エ 小括 以上のとおり、本願の発明の詳細な説明には、実際にフォノンによるアップコンバージョンを実現できることが実験的に示されておらず、フォノンによるアップコンバージョンを再現性をもって実現できる程度に具体的な条件が示されていないから、当業者が本願発明に含まれるフォノンによるアップコンバージョンを実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 (5) 請求人の主張について ア 請求人は、種々の文献を挙げて、フォノンによるアップコンバージョンが実施可能であることを主張しているようであるが、フォノンを介して原子核にエネルギーを移動させて原子核を励起すること、すなわち、本願の発明の詳細な説明でいう「フォノン核カップリング」に基づくエネルギー交換について、本願出願時にはそのような現象が存在すること自体公知とはいえない上、観測もされていないのであり、そうである以上、本件アップコンバージョン起因光子放出の前提となるフォノンによるアップコンバージョンもまた、本願出願時にそのような現象が存在すること自体公知ではなく、観測もされていないこと、したがって、本願の発明の詳細な説明が実施可能要件を満たすためには、単に理論的な考察によりその実現可能性を示すのみでは足りず、これらの現象を実現できることを実験的に示し、さらに、これらの現象を再現性をもって実現できる程度に具体的な条件を示す必要があることは前記(4)アに記載したとおりである。そして、本願出願時にはそのような現象が存在すること自体公知ではなく、観測もされていない、フォノンによるアップコンバージョンを実験的に示すことが本願出願時の技術常識で補えるとは到底考えられないことに照らせば、この点についての発明の詳細な説明の記載の不足を、他の文献によって補うことにより、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであると主張したとしても、前記(4)の判断を左右しない。さらにいえば、請求人が挙げる文献のうち、本願の出願時に公知であるいずれの文献においても、フォノンによるアップコンバージョンの実験的な裏付けは記載されていない(このことは、本願の発明の詳細な説明の【0034】にも「提示された方法及び装置は、フォノン核カップリングと、これに続いて起こる提示されたエネルギー交換メカニズムとの再現可能で可観測な存在を初めて確立するものである。」と記載されているとおりである。)。 イ 請求人は、57CoCl2からなる放射性基材302の存在を前提としてフォノン媒介励起が発生する確率が高まる旨を主張しているが、本願発明では57CoCl2からなる放射性基材302は発明特定事項とされてはいないし、本願発明に含まれるアップコンバージョンに係る実施形態(【0052】、【図25】)においては「放射性基材がスチールプレート上に配置されていない」から、放射性基材302の存在を前提とした請求人の主張は、アップコンバージョンが実現可能であることの根拠として採用できない。 ウ 請求人は、超伝達に関する参考文献を挙げた上で、本願発明は超伝達のメカニズムを原子核のシステムに初めて適用したものであることを主張しているが、単に実現可能性について述べるにとどまるものであり、実際にフォノンによるアップコンバージョンを実現できることが実験的に示されておらず、フォノンによるアップコンバージョンを再現性をもって実現できる程度に具体的な条件が示されていないとの前記(4)の判断を左右するものではない。 エ 請求人は、フォノン核カップリングによる非局在化効果と異方性効果は図8~図10に実験的に示されている旨や、フォノンを介した核励起移動の実験的証拠はMetzler 2019 "Experiments to Investigate Phonon-Nuclear Interactions"(MIT Dspace(https://dspace.mit.edu/handle/1721.1/121824))に記載されている旨を主張しているが、図8~図10の実験結果がフォノンによるアップコンバージョンが実施できることを実験的に示したものではないことは前記(4)イで検討したとおりであるし、発明の詳細な説明の記載の不足を、他の文献によって補うことにより、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであると主張したとしても、前記(4)の判断を左右するものではないことは前記アでも述べたとおりである。さらにいえば、実験的証拠とされる文献は本願出願後に公開された文献であり、これをもって実施可能要件を満たすことの裏付けとして採用する余地はない。 オ 請求人はその他にも低エネルギー核反応についてなど縷々主張しているが、いずれも実際にフォノンによるアップコンバージョンを実現できることが実験的に示されておらず、フォノンによるアップコンバージョンを再現性をもって実現できる程度に具体的な条件が示ことに変わりはない。 したがって、請求人の主張を採用することはできない。 (6) 小括 したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 3 当審の判断のまとめ 以上検討のとおり、本願は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。 第5 むすび 以上のとおり、本願は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-004064

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