特許拒絶査定不服審判
2023-001576
インスリンとプラムリンタイドの送達システム、方法、およびデバイス
- 審判番号
- 2023-001576
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-570941
- 請求日
- 2023年01月31日
- 審決日
- 2023年09月19日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】イーライ リリー アンド カンパニー
- 【請求人代理人】小林 浩
- 【請求人代理人】片山 英二
- 【請求人代理人】日野 真美
- 審判長/審判官
- 審判長 山澤 宏
- 審判官 中野 裕二
- 審判官 山内 裕史
- 分類
- P18 .113-Z (G16H) / P18 .121-Z (G16H) / P18 .575-Z (G16H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-570941「インスリンとプラムリンタイドの送達システム、方法、およびデバイス」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年12月26日国際公開、WO2019/246381、令和 3年10月21日国内公表、特表2021-528758〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(令和元年)6月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2018年6月22日、米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和4年 2月25日付け:拒絶理由通知書
令和4年 5月20日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年 9月28日付け:拒絶査定
令和5年 1月31日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和5年1月31日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年1月31日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項27の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「 患者のグルコースを制御するためのシステムであって、
薬剤を前記患者に送達するように構成されている薬剤送達デバイスと、
初期ボーラス送達量および遅延ボーラス送達量を含むボーラス送達スケジュールを計算するための手段であって、前記遅延ボーラス送達量および前記初期ボーラス送達量の相対量が、少なくとも部分的に、食前のグルコースレベルを上限閾値および下限閾値と比較することに基づき、前記初期ボーラス送達量および前記遅延ボーラス送達量の前記相対量がさらに、
(i)前記食前のグルコースレベルが前記上限閾値を越える場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量を超える、
(ii)前記食前のグルコースレベルが前記下限閾値と前記上限閾値との間である場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量と等しい、及び
(iii)前記食前のグルコースレベルが前記下限閾値未満である場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量未満である、
の少なくともいずれかに基づく、前記手段と
を含む
前記システム。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和4年5月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項31の記載は次のとおりである。
「 患者のグルコースを制御するためのシステムであって、
薬剤を前記患者に送達するように構成されている薬剤送達デバイスと、
初期ボーラス送達量および遅延ボーラス送達量を含むボーラス送達スケジュールを計算するための手段であって、前記遅延ボーラス送達量および前記初期ボーラス送達量の相対量が、少なくとも部分的に、食前のグルコースレベルを閾値と比較することに基づく、前記手段と
を含む前記システム。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項31に記載された発明を特定するために必要な事項である「閾値」及び「前記遅延ボーラス送達量および前記初期ボーラス送達量の相対量」の内容について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項31に記載された発明と補正後の請求項27に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項27に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献1の記載、引用発明
ア 原査定(令和4年9月28日付け拒絶査定)の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2011-518634号公報(平成23年6月30日出願公表。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付した。以下同じ。)。
「【0006】
[0006]インスリンボーラス投与量または単にボーラスは、食前もしくは食後または高血糖レベルの発現中に炭水化物負荷を中和するように送達され得る。インスリンの量(ボーラス投与量)は、摂取物、血糖に関係し得るいくつかのパラメータ、及び以下を含む患者固有のパラメータに依存し得る。
・消費される食事中の炭水化物(カーボ)の量、あるいは「サービング」と定義され、1サービング=15グラムのカーボである。
・炭水化物対インスリン比(CIR)、すなわち、1インスリン単位によって調節される炭水化物の量。
・インスリン感度(IS)、すなわち、1インスリン単位によって低下される血中ブドウ糖値の量。
・現在の血中ブドウ糖レベル(CBG)。
・目標血中ブドウ糖レベル(TBG)、すなわち、所望の血中ブドウ糖レベル。糖尿病を患っているほとんどの人に対するTBGは、90mg/dLから130mg/dLの範囲である。
・剰余インスリン(RI)、すなわち、最近のボーラス送達後に体内に残っている、依然として活性なインスリンの量。このパラメータは、ボーラス送達の間の時間間隔が短い(たとえば、5時間未満)状況において該当し得る。
・カーボ吸収に影響し、したがって血液中の糖上昇率に影響するパラメータ。たとえばグリセミック指数(GI)、脂肪または繊維含量など。」
「【0012】
[0012]現在、ほとんどのインスリンポンプは、ボーラス送達パターンをユーザにプログラムさせる。最も一般的な送達パターンは、以下の通りである。
1.即時型(「定期」、「通常」)ボーラス:全ボーラス投与量が最速ポンプ送達速度で送達される。
2.持続型ボーラス:全ボーラスが、長期間(たとえば、30分間から8時間)かけて一定の速度で送達される。
3.組合せボーラス(「デュアルウェーブ」):ボーラス投与量の一部が即時型ボーラスとして送達され、それ以外のボーラス投与量は持続型ボーラスとして送達される。一般に、即時型ボーラス部分と持続型ボーラス部分との間の比(百分率)は、たとえば、Smiths Medical MD(旧名Deltec Medical)に譲渡された米国特許第6,852,104号に記載されるように、患者によって選択することができる。
【0013】
[0013]現在の装置では、ボーラス送達パターンを調整するために、ユーザが、ボーラス送達の継続期間(持続型ボーラス及び組合せボーラスの延長部分用)、即時型ボーラス部分と持続型ボーラス部分(組合せボーラス用)との比というパラメータの1つまたは複数をプログラムすることができる。実際には、ボーラスパターンについてのユーザの決断は任意であり、単に直観に基づく。ボーラスパターンをプログラムする手段を含む従来のポンプに関連したそれ以外の欠点は、以下の通りである。
・ユーザフレンドリでないいくつかのディスプレイのナビゲーションを要求するので、ユーザインタフェースを複雑にするデータ入力の必要性。
・年少の子供にとっての問題点は、英数字パラメータの読解及びタイプ入力に関連するので、データ入力を習得することであり得る。
【0014】
[0014]本明細書において使われる用語に対して、以下の定義が与えられる。
・「GI」(グリセミック指数)は、炭水化物が血中ブドウ糖レベルにどのように影響するかに基づく、炭水化物に関する序列体系を指す。
・「GL」(グリセミック負荷」)は、食事におけるカーボの量に、食事のGIを乗算し、100で割ったものを指す。
・「CIR」(炭水化物対インスリン比)は、1インスリン単位によって調節される炭水化物の量を指す。
・「IS」(インスリン感度)は、1インスリン単位によって低下する血中ブドウ糖値の量を指す。
・「投与量」または「ボーラス投与量」は、食事中の炭水化物を中和するために投与されるインスリンの量(たとえば、6単位(6U))を指す。
・「送達パターン」は、投与された投与量の時間をかける送達のパターンを指す(たとえば、6Uの投与量は、2時間で4Uを、さらに4時間で2Uを送達することができる)。
・「ボーラス」は、ボーラス投与量及び送達パターンの組合せを指す。
・「グリッド」または「ボーラスグリッド」は、セルから構築される2次元以上の行列を指す。(たとえば、3D行列は、カーボを示すX軸、血中ブドウ糖を示すY軸、グリセミック指数を示すZ軸を含む)各グリッドは、CIR、IS、及び目標血中ブドウ糖(TBG)のようなパラメータの異なる組合せに専用である。
・「セル」は、グリッドを成す多くのユニットの1つを指す。各セルは、グリッドの相異なる軸に示されるパラメータの組合せ(たとえば、GI、BG、及びカーボ負荷の範囲の組合せ)を表す。」
「【0023】
[0043]いくつかの実施形態では、摂取物のカーボ負荷、摂取物のGI及びユーザのBGの各組合せ向けに予め決定される所定のインスリンボーラスを推奨するのに、セルの3次元行列を用いることができる。この実装形態では、各セルは、ユーザインタフェース要素を表すことができ、(たとえばボーラス構成に対応することができる。こうしたボーラス構成は、予め決定し、ボーラスセレクタのメモリに格納することができる。いくつかの実施形態では、こうしたボーラス構成は、製造元、親、医師及び/またはユーザによって予め決定することができる。所定のデータベースは、ボーラスセレクタによって、「ボーラスグリッド」と呼ばれる3Dグリッドに並べられた複数のセルとして図表的に表示することができる。」
「【図5】
[図:0001407481000001.jpg]
」
「【0024】
[0044]図5は、ボーラスセレクタの3次元グリッドの簡略化した例を示す。炭水化物摂取量範囲はグリッドの「x」軸に提示され、血中ブドウ糖レベル(BG)はグリッドの「y」軸に提示され、GIレベルはグリッドの「z」軸に提示される。たとえば、吸収を決定する摂取物の特性を表す他の任意のパラメータ(たとえば、脂肪含量、繊維含量、調理時間)を、グリッドの「z」軸に提示してもよい。ボーラスグリッドはまた、ユーザに、(たとえば)BGの範囲、摂取物の炭水化物負荷、及び摂取物のGIの組合せに依存して、ボーラスグリッドの中からセルを選択させる。
【0025】
[0045]したがって、いくつかの実施形態では、ボーラスの投与量は、インスリン投与量の値を予め定義する炭水化物負荷及びBGの所定の組合せ(「グリッド」)から選択することができる。たとえば、グリッドの「x」軸(カーボ負荷)と「y」(BG)軸の交差は、所定のボーラス投与量に対応し得る。
【0026】
[0046]ボーラスの送達パターンは、食事含量に従って選択することができる。たとえば、食事のグリセミック指数である。したがって、たとえば、ボーラス投与量(「x」軸と「y」軸の交差から導出される)との「z」軸(GI)の交差は、最終選択ボーラス、すなわち投与量及び送達パターンに対応する。以下のリストは、送達パターンのいくつかの例を挙げる。
1 全投与量が即座に送達される。
2 投与量の一部は即座に、それ以外は2時間かけて送達される。
3 投与量の一部は即座に、それ以外は4時間かけて送達される。
4 全投与量が6時間かけて送達される。
【0027】
[0047]いくつかの実施形態では、ユーザは、たとえば、血中ブドウ糖(BG)値の所与の範囲(たとえば、BG<100、100<BG<200、200<BG<300、300<BG)、炭水化物負荷の範囲(たとえば、カーボ<45、45<カーボ<105、カーボ<105)及びグリセミック負荷の所与の範囲(たとえば、GL<10、11<GL<19、GL>20)に対応する、インスリンボーラスの所定の3次元グリッドからインスリンボーラス投与量を選択することもできる。送達パターンは、たとえば、摂取物のグリセミック負荷に従って決定することができる。」
「【0039】
[0060]本開示によるいくつかの実施形態は、体内に治療流体(すなわち、インスリン)を送達することができる可搬型薬物送達システム/装置を開示する。いくつかの実施形態では、このシステム/装置は、身体分析物レベル(すなわち、ブドウ糖)を監視することもできる。薬物送達システムは、調剤パッチユニットを備えてよく、いくつかの実施形態では、遠隔制御ユニットと組み合わせることができ、遠隔制御ユニットは、調剤パッチユニットと通信し、治療流体送達、ユーザ入力及びデータ獲得のプログラミングを可能にする。別の実施形態では、プログラミングは、調剤パッチユニット上に配置されたボタンを操作することによって手動で実施することができる。」
「【図7】
[図:0001407481000002.jpg]
」
「【0057】
[0078]図7は、ユーザの皮膚5に接着することができる調剤パッチユニット(これ以降、「パッチユニット」)1010と、調剤パッチユニット1010と通信し、そうすることによってプログラミング、ユーザ入力及びデータ獲得を可能にする遠隔制御ユニット1008とを備えるインスリン注入装置1000を示す。パッチユニット1010は、患者へのインスリンの送達を可能にするように皮膚5を貫通し得るカニューレ6に取外し可能に接続することができる。パッチユニット1010は、ユーザの皮膚5に接着されるほぼ平らなシートとして構成され得る専用のクレードルユニット20に付着させることができる。クレードルユニットは、パッチユニット1010の接続/切断を可能にし得る。この構成の例示的な実施形態は、その開示内容全体が参照によって本明細書に組み込まれている、本願の権利者が所有する同時係属の米国特許出願第12/004,837号及び国際特許出願第PCT/IL07/001578号で論じられている。
【0058】
[0079]手動入力は、調剤パッチユニット1010上に配置された1つまたは複数のボタン/スイッチ1011によって遂行され得る。調剤パッチユニット1010は、その開示内容全体が参照によって組み込まれている、本願の権利者が所有する同時係属の米国特許出願第11/397,115号及び国際特許出願第PCT/IL2009/000388号に示すように、再利用可能部分1及び使い捨て部分2を備える1つのハウジングまたは2つのハウジングを付着させられ得る。遠隔制御ユニット1008は、ソフトウェア特徴として実装することができるボーラスセレクタ2000を含み得る。遠隔制御ユニット1008は、プロセッサ2010と、メモリ2020と、ボタン、スイッチ、タッチスクリーン、音声/可聴コマンド装置/受信機などの入力手段2030と、ディスプレイ2040と、たとえば、可聴手段(たとえば、ブザー)及び/または振動手段(たとえば、バイブレータ)などの他の指示手段とを備え得る。入力手段2030は、ボーラスセレクタ2000用及び調剤パッチユニット1010プログラミング用に提供され得る。
【0059】
[0080]インスリンボーラス投与量に対する選択肢は、ディスプレイ2040上にボーラスセレクタ2000によって、所定の推奨ボーラス投薬量及び所定の推奨送達パターンを含むセルをもつ3次元グリッドとして提供することができる。適切なセル及び対応するインスリン投与量及び送達パターンは、たとえば、血中ブドウ糖、カーボ含量、及びGIまたはGLから選択される少なくとも1つのパラメータに従って、所定の3Dテーブルから選択することができる。3Dボーラスグリッドは、たとえば、カーボを示すX軸、血中ブドウ糖を示すY軸、グリセミック指数を示すZ軸を含み得る。たとえば、X軸及びY軸の各交差が、ボーラス投与量を定義し得る。Z軸とのボーラス投与量の各交差は、ボーラス投与量が投与されるべき送達パターンを定義し得る。所定の推奨ボーラス投薬量及び所定の推奨送達パターンをもつこのようなテーブルはさらに、「ボーラスグリッド」と呼ばれ、2つ以上のグリッドのどの組合せもさらに、「ボーラスグリッドセル」または「セル」と呼ばれることになる。
【0060】
[0081]ボーラスグリッドセルは、現在の血中ブドウ糖レベル、消費されたまたはこれから消費される食事のカーボ負荷のユーザによる概算、及び消費されたまたはこれから消費される食事のGIまたはGLのユーザによる概算の任意選択の組合せに対応する所定のボーラス投与量及び送達パターンを含み得る(このようなグリッドの例が、図5、6に示される)。いくつかの実施形態では、ボーラスグリッドは、予め決定し、ボーラスセレクタ2000のメモリに格納することができる。」
「【図8】
[図:0001407481000003.jpg]
」
「【0062】
[0083]図8は、推奨インスリンボーラス投薬量及び推奨送達パターンを選択する方法の一例を表すブロック図を示す。たとえば、この方法は、ボーラスセレクタによって実装することができる。いくつかの実施形態では、ユーザ固有ボーラスの選択のために、予め確立されたインスリンボーラスをもつ3次元グリッドが、ボーラスセレクタのメモリから取り出され得る。複数のグリッドは、ボーラスセレクタのメモリに保存することもできる。各グリッドは、IS、CIR、及びTBGなど、ユーザ固有パラメータの異なる組合せに適し得る。適切なグリッドは、ユーザがこうしたパラメータを入力したとき、メモリから取り出すことができる。
【0063】
[0084]ボーラスは、格納された各ボーラスグリッド中のカーボ負荷、GI、及び血中ブドウ糖レベルの各組合せ向けに予め決定することができる。ユーザは、こうしたパラメータの適切な組合せを選択し、ボーラスセレクタに入力し、いくつかの実施形態では、この組合せに対応するグリッドのセルを自動的に取り出すことができる。このセルは、取り出されたボーラスグリッドから、投与量及び送達パターンを記述するボーラスを提供し得る。適切なボーラスは、予定されるカーボ摂取(負荷及びGI)ならびに血中ブドウ糖レベルの実際の測定の結果の組合せに対応するべきである。血中ブドウ糖レベルの測定値は、ユーザによって入力することも、いくつかの実施形態では、ボーラスセレクタと通信する血糖計または連続ブドウ糖モニタ(CGM)から自動的に取得することができる。ボーラス送達パターンは、GI関連送達ボーラスをユーザ向けに適合させる一連の検査に従って予め決定することもできる。こうした検査は、注入装置の初期セッティング中にユーザによって実施することができる。
【0064】
[0085]いくつかの実施形態では、IS、CIR及び目標BG値(図8では、たとえば、201、201’、201’’と指定する)は、患者によってボーラスセレクタ内にロードすることができ、患者固有のボーラスグリッドは、それに従って202で取り出し、患者に対して表示することができる。203で、表示ボーラスグリッドからの推奨ボーラスが選択され得る。選択は、(たとえば)予定される摂取物のカーボ負荷、摂取物のGI及び/または血中ブドウ糖(BG)レベルに基づいてよい。こうしたパラメータは、ボーラスグリッド内に提示することができ、この例では、「x」軸はカーボ範囲であり、「y」軸はBG範囲であり、「z」軸はGI範囲である。こうしたパラメータの当該組合せの選択は、204と指定される。
【0065】
[0086]血中ブドウ糖レベルは、たとえば、血糖計、連続皮下ブドウ糖センサなど、適切などのブドウ糖センサからも取得することができる。ブドウ糖測定は、ボーラス選択の直前に実施することができる。予定されるカーボ負荷及びGIは、ユーザによって評価することができる。」
「【0068】
[0089]ユーザは、204で、選択ボーラス投与量及び送達パターンを受諾することができる。いくつかの実施形態では、たとえば206に示すように、ユーザは、ボーラスグリッドをナビゲートし、代替ボーラス(代替投与量及び/または送達パターン)を取り出すことによって、選択ボーラスを手動で修正することができる。
【0069】
[0090]いくつかの実施形態によると、205で、ユーザは、選択ボーラスを(ボーラスグリッドからのものではない)代替ボーラスで置き換えることができる。ボーラスが204でボーラスセレクタによって選択されるか、206で修正され選択されるか、それとも205で選ばれるかに関わらず、ボーラス送達は、209で、遠隔制御ユニットから伝送されるコマンドによって、及び/または調剤パッチユニット上に配置され得る手動ボーラスボタンによって開始することができる。
【0070】
[0091]一実施形態では、3Dボーラスグリッドの軸(たとえば、炭水化物摂取範囲がグリッドの「x」軸に提示され、血中ブドウ糖レベルがグリッドの「y」軸に提示され、GLレベルがグリッドの「z」軸に提示される)は、予めセットされたカーボ負荷の範囲、GLの範囲、及び血中ブドウ糖レベルの範囲を含み得る。ボーラスは、カーボ負荷範囲、GL範囲及び血中ブドウ糖レベルの範囲の各組合せに対して予め決定することができる。
【0071】
[0092]いくつかの実施形態では、3Dボーラスグリッドの軸は、カーボ負荷の範囲、GIの範囲及び血中ブドウ糖レベルの範囲を含み得る。いくつかの実施形態では、GLの範囲は所定ではなく、GIの選択範囲及びカーボ負荷の範囲からボーラスセレクタによって算出される。たとえば、ボーラスは、カーボ負荷範囲、算出されたGL範囲、及び血中ブドウ糖レベルの範囲の各組合せに対して予め決定することができる。」
「【0112】
[00133]図21a乃至図21fは、ボーラスセレクタによってユーザに推奨され得る例示的な所定のボーラス送達パターンのグラフ表現を示す。たとえば、図21aは、全ボーラス投与量が可能な限り素早く送達される送達パターンを示す。このパターンは、消化管から素早く吸収される食事、すなわち、高グリセミック指数をもつことを属性とする食事に適し得る。このような食事の例は、コーンフレークまたは果物である。」
「【図21d】
[図:0001407481000004.jpg]
」
「【0114】
[00135]図21dは、ボーラス投与量の一部分が即座に送達され、残りの投与量が長時間かけて均一に送達される送達パターンを示す。図示するパターンでは、即時型部分は総投与量の60%であり、残りは40%である。残りの部分は、2時間かけて送達される。たとえば、このような送達パターンは、果物及びパスタなど、素早く(高GI)及びゆっくりと(中間GI)吸収される炭水化物両方を含む食事に適し得る。
【0115】
[00136]図21dに示すパターンは、中間グリセミック指数に対応する食事の前に、上昇した血中ブドウ糖値が補正される必要があるときにも適し得る。BGの補正に必要とされるインスリンは、ボーラスの即時型部分に含めればよく、ゆっくりと吸収される食事は、進行中の比較的長い時間間隔に含めればよい。たとえば、ユーザが、中間GIに対応する食事をとることを予定しており、ユーザの現在のBGが高い場合、以下の2つのボーラスが用いられ得る。
・高BGレベルを目標値にもっていくために送達される即時型補正ボーラス
・食事と中間GIのバランスをとるために時間をかけて送達される持続型ボーラス」
イ ここで、引用文献1に記載されている事項について検討する。
(ア)上記【図5】の記載、上記【0024】の「図5は、ボーラスセレクタの3次元グリッドの簡略化した例を示す。炭水化物摂取量範囲はグリッドの「x」軸に提示され、血中ブドウ糖レベル(BG)はグリッドの「y」軸に提示され、GIレベルはグリッドの「z」軸に提示される。」との記載及び上記【0060】の「ボーラスグリッドセルは、現在の血中ブドウ糖レベル、消費されたまたはこれから消費される食事のカーボ負荷のユーザによる概算、及び消費されたまたはこれから消費される食事のGIまたはGLのユーザによる概算の任意選択の組合せに対応する所定のボーラス投与量及び送達パターンを含み得る(このようなグリッドの例が、図5、6に示される)。」との記載から、引用文献1には、「ボーラスグリッドセルは、現在の血中ブドウ糖レベル(BG)、消費されたまたはこれから消費される食事のカーボ負荷のユーザによる概算、及び消費されたまたはこれから消費される食事のGIまたはGLのユーザによる概算の任意選択の組合せに対応する所定のボーラス投与量及び送達パターンを含み、BGの範囲は「高BG」、「中BG」又は「低BG」に分類されていること」が記載されていると認められる。
(イ)上記【0039】の「本開示によるいくつかの実施形態は、体内に治療流体(すなわち、インスリン)を送達することができる可搬型薬物送達システム/装置を開示する」及び「薬物送達システムは、調剤パッチユニットを備えてよく、いくつかの実施形態では、遠隔制御ユニットと組み合わせることができ、遠隔制御ユニットは、調剤パッチユニットと通信し、治療流体送達、ユーザ入力及びデータ獲得のプログラミングを可能にする」との記載から、引用文献1には、「薬物送達システムであって、調剤パッチユニットと、調剤パッチユニットと通信し、治療流体送達、ユーザ入力及びデータ獲得のプログラミングを可能にする遠隔制御ユニットとを含む薬物送達システム」が記載されていると認められる。
(ウ)上記【図7】の記載及び上記【0057】の「図7は、ユーザの皮膚5に接着することができる調剤パッチユニット(これ以降、「パッチユニット」)1010と、調剤パッチユニット1010と通信し、そうすることによってプログラミング、ユーザ入力及びデータ獲得を可能にする遠隔制御ユニット1008とを備えるインスリン注入装置1000を示す。パッチユニット1010は、患者へのインスリンの送達を可能にするように皮膚5を貫通し得るカニューレ6に取外し可能に接続することができる。」との記載から、引用文献1には、「インスリンを患者に送達するように構成されている調剤パッチユニット」が記載されていると認められる。
(エ)上記【0112】の「図21a乃至図21fは、ボーラスセレクタによってユーザに推奨され得る例示的な所定のボーラス送達パターンのグラフ表現を示す。」との記載、上記【図21d】の記載、上記【0114】の「図21dは、ボーラス投与量の一部分が即座に送達され、残りの投与量が長時間かけて均一に送達される送達パターンを示す。図示するパターンでは、即時型部分は総投与量の60%であり、残りは40%である。残りの部分は、2時間かけて送達される。」との記載及び上記【0115】の「図21dに示すパターンは、中間グリセミック指数に対応する食事の前に、上昇した血中ブドウ糖値が補正される必要があるときにも適し得る。BGの補正に必要とされるインスリンは、ボーラスの即時型部分に含めればよく、ゆっくりと吸収される食事は、進行中の比較的長い時間間隔に含めればよい。たとえば、ユーザが、中間GIに対応する食事をとることを予定しており、ユーザの現在のBGが高い場合、以下の2つのボーラスが用いられ得る。
・高BGレベルを目標値にもっていくために送達される即時型補正ボーラス
・食事と中間GIのバランスをとるために時間をかけて送達される持続型ボーラス」との記載から、引用文献1には、「ユーザが、中間GIに対応する食事をとることを予定しており、ユーザの現在のBGが高い場合、ボーラスセレクタによってユーザに推奨され得るボーラス送達パターンは、高BGレベルを目標値にもっていくために送達される即時型補正ボーラスの投与量が総投与量の60%であり、、食事と中間GIのバランスをとるために時間をかけて送達される持続型ボーラスの投与量が総投与量の40%であること」が記載されていると認められる。
ウ 上記ア、イから、特に下線部に着目すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「薬物送達システムであって、
インスリンを患者に送達するように構成されている調剤パッチユニットと、
調剤パッチユニットと通信し、治療流体送達、ユーザ入力及びデータ獲得のプログラミングを可能にする遠隔制御ユニットと、
遠隔制御ユニットは、ソフトウェア特徴として実装することができるボーラスセレクタを含み得、
ボーラスグリッドセルは、現在の血中ブドウ糖レベル(BG)、消費されたまたはこれから消費される食事のカーボ負荷のユーザによる概算、及び消費されたまたはこれから消費される食事のGIまたはGLのユーザによる概算の任意選択の組合せに対応する所定のボーラス投与量及び送達パターンを含み、
BGの範囲は「高BG」、「中BG」又は「低BG」に分類されており、
推奨インスリンボーラス投薬量及び推奨送達パターンを選択する方法は、ボーラスセレクタによって実装することができ、
ボーラスは、格納された各ボーラスグリッド中のカーボ負荷、GI、及び血中ブドウ糖レベルの各組合せ向けに予め決定することができ、
ユーザは、こうしたパラメータの適切な組合せを選択し、ボーラスセレクタに入力し、いくつかの実施形態では、この組合せに対応するグリッドのセルを自動的に取り出すことができ、
このセルは、取り出されたボーラスグリッドから、投与量及び送達パターンを記述するボーラスを提供し得、
表示ボーラスグリッドからの推奨ボーラスが選択され得、
選択は、(たとえば)予定される摂取物のカーボ負荷、摂取物のGI及び/または血中ブドウ糖(BG)レベルに基づいてよく、
こうしたパラメータは、ボーラスグリッド内に提示することができ、この例では、「x」軸はカーボ範囲であり、「y」軸はBG範囲であり、「z」軸はGI範囲であり、
ブドウ糖測定は、ボーラス選択の直前に実施することができ、
ボーラス送達は、遠隔制御ユニットから伝送されるコマンドによって開始することができ、
ユーザが、中間GIに対応する食事をとることを予定しており、ユーザの現在のBGが高い場合、ボーラスセレクタによってユーザに推奨され得るボーラス送達パターンは、高BGレベルを目標値にもっていくために送達される即時型補正ボーラスの投与量が総投与量の60%であり、食事と中間GIのバランスをとるために時間をかけて送達される持続型ボーラスの投与量が残りの40%であること
を含む薬物送達システム。」
(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「薬物送達システム」は、「インスリンを患者に送達」し、「高BGレベルを目標値にもっていくために送達される」ものであるから、患者のグルコースを制御するためのシステムであることは明らかである。
したがって、引用発明の「薬物送達システム」は、本件補正発明の「患者のグルコースを制御するためのシステム」に相当する。
(イ)引用発明の「インスリン」は、本件補正発明の「薬剤」に相当する。
したがって、引用発明の「インスリンを患者に送達するように構成されている調剤パッチユニット」は、本件補正発明の「薬剤を前記患者に送達するように構成されている薬剤送達デバイス」に相当する。
(ウ)引用発明の「即時型補正ボーラスの投与量」及び「持続型ボーラスの投与量」は、それぞれ、本件補正発明の「初期ボーラス送達量」及び「遅延ボーラス送達量」に相当する。また、引用発明の「投与量」及び「ボーラス送達パターン」は、本件補正発明の「ボーラス送達スケジュール」に相当する。さらに、引用発明において、「遠隔制御ユニットは、ソフトウェア特徴として実装することができるボーラスセレクタを含み得」、「ユーザは、こうしたパラメータの適切な組合せを選択し、ボーラスセレクタに入力し、いくつかの実施形態では、この組合せに対応するグリッドのセルを自動的に取り出すことができ」、「このセルは、取り出されたボーラスグリッドから、投与量及び送達パターンを記述するボーラスを提供し得」、「ユーザが、中間GIに対応する食事をとることを予定しており、ユーザの現在のBGが高い場合、ボーラスセレクタによってユーザに推奨され得るボーラス送達パターンは、高BGレベルを目標値にもっていくために送達される即時型補正ボーラスの投与量が総投与量の60%であり、食事と中間GIのバランスをとるために時間をかけて送達される持続型ボーラスの投与量が残りの40%であること」から、引用発明の「遠隔制御ユニット」は、即時型補正ボーラスの投与量及び持続型ボーラスの投与量を含む投与量及びボーラス送達パターンを計算するための手段に相当するといえる。
したがって、引用発明の「遠隔制御ユニット」は、本件補正発明の「初期ボーラス送達量および遅延ボーラス送達量を含むボーラス送達スケジュールを計算するための手段」に相当する。
(エ)引用発明の「現在のBG」は、「ユーザが、中間GIに対応する食事をとることを予定して」いることから、本件補正発明の「食前のグルコースレベル」に相当する。また、引用発明において、「BGの範囲は「高BG」、「中BG」又は「低BG」に分類されて」いるが、上記(2)の【0027】の記載及び分類技術分野の技術常識に照らせば、数値範囲であるBGの範囲は、上限閾値および下限閾値と比較することに基づいて、高中低の3段階に分類されていることは明らかである。そうすると、引用発明において、「高BG」に分類される場合とは、現在のBGが上限閾値を越える場合であり、「中BG」に分類される場合とは、現在のBGが下限閾値と上限閾値との間である場合であり、「低BG」に分類される場合とは、現在のBGが下限閾値未満である場合であることも明らかである。さらに、引用発明において、「遠隔制御ユニットは、ソフトウェア特徴として実装することができるボーラスセレクタを含み得」、「ユーザが、中間GIに対応する食事をとることを予定しており、ユーザの現在のBGが高い場合、ボーラスセレクタによってユーザに推奨され得るボーラス送達パターンは、高BGレベルを目標値にもっていくために送達される即時型補正ボーラスの投与量が総投与量の60%であり、食事と中間GIのバランスをとるために時間をかけて送達される持続型ボーラスの投与量が残りの40%であること」から、引用発明の「遠隔制御ユニット」は、持続型ボーラスの投与量および即時型補正ボーラスの投与量の相対量が、少なくとも部分的に、現在のBGを「高BG」、「中BG」又は「低BG」に分類されることに基づき、前記即時型補正ボーラスの投与量および持続型ボーラスの投与量の相対量がさらに、現在のBGが高い場合、即時型補正ボーラスの投与量が、持続型ボーラスの投与量を超える、に基づくものといえる。
したがって、上記(ウ)を踏まえると、引用発明の「遠隔制御ユニット」は、本件補正発明の「前記遅延ボーラス送達量および前記初期ボーラス送達量の相対量が、少なくとも部分的に、食前のグルコースレベルを上限閾値および下限閾値と比較することに基づき、前記初期ボーラス送達量および前記遅延ボーラス送達量の前記相対量がさらに、
(i)前記食前のグルコースレベルが前記上限閾値を越える場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量を超える」、「に基づく、前記手段」に相当する。
イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「患者のグルコースを制御するためのシステムであって、
薬剤を前記患者に送達するように構成されている薬剤送達デバイスと、
初期ボーラス送達量および遅延ボーラス送達量を含むボーラス送達スケジュールを計算するための手段であって、前記遅延ボーラス送達量および前記初期ボーラス送達量の相対量が、少なくとも部分的に、食前のグルコースレベルを上限閾値および下限閾値と比較することに基づき、前記初期ボーラス送達量および前記遅延ボーラス送達量の前記相対量がさらに、
(i)前記食前のグルコースレベルが前記上限閾値を越える場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量を超える、
に基づく、前記手段と
を含む
前記システム。」
(相違点)
前記初期ボーラス送達量および前記遅延ボーラス送達量の前記相対量がさらに、本件補正発明では、「(i)前記食前のグルコースレベルが前記上限閾値を越える場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量を超える、
(ii)前記食前のグルコースレベルが前記下限閾値と前記上限閾値との間である場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量と等しい、及び
(iii)前記食前のグルコースレベルが前記下限閾値未満である場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量未満である、
の少なくともいずれかに基づく」のに対し、引用発明では、(i)前記食前のグルコースレベルが前記上限閾値を越える場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量を超える、に基づく構成については特定されているが、「(i)前記食前のグルコースレベルが前記上限閾値を越える場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量を超える、
(ii)前記食前のグルコースレベルが前記下限閾値と前記上限閾値との間である場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量と等しい、及び
(iii)前記食前のグルコースレベルが前記下限閾値未満である場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量未満である、
の少なくともいずれかに基づく」構成については明確に特定されていない点。
(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点について
(ア)本件補正発明の「(i)前記食前のグルコースレベルが前記上限閾値を越える場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量を超える、
(ii)前記食前のグルコースレベルが前記下限閾値と前記上限閾値との間である場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量と等しい、及び
(iii)前記食前のグルコースレベルが前記下限閾値未満である場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量未満である、
の少なくともいずれか」という事項は、選択肢を有するものとなっている。このような選択肢が請求項に記載されている場合、当該請求項に係る発明は、いずれか一の選択肢のみを発明特定事項とする発明を含むといえるから、本件補正発明の発明特定事項が「(i)前記食前のグルコースレベルが前記上限閾値を越える場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量を超える」という選択肢である場合の相違点について検討することとする。
本件補正発明と引用発明の対比では、「(i)前記食前のグルコースレベルが前記上限閾値を越える場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量を超える」という事項は引用発明が有していることから、この相違点は実質的な相違点であるとはいえない。
してみると、本件補正発明と引用発明との間に相違点はない。
したがって、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明である。
また、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ)なお、念のため、本件補正発明の発明特定事項が「(ii)前記食前のグルコースレベルが前記下限閾値と前記上限閾値との間である場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量と等しい、及び
(iii)前記食前のグルコースレベルが前記下限閾値未満である場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量未満である、の少なくともいずれか」という選択肢である場合の相違点についても以下検討する。
BGレベルを目標値にもっていくために送達される即時型補正ボーラスの投与量は、現在のBGが低くなればなるほど少なくてよいことは、文献を示すまでもなく、本願の優先日前における周知技術であったと認められる。
したがって、ユーザが、中間GIに対応する食事をとることを予定しており、ユーザの現在のBGが高い場合、ボーラスセレクタによってユーザに推奨され得るボーラス送達パターンは、高BGレベルを目標値にもっていくために送達される即時型補正ボーラスの投与量が総投与量の60%であり、食事と中間GIのバランスをとるために時間をかけて送達される持続型ボーラスの投与量が残りの40%である引用発明において、上記周知技術を適用し、ユーザの現在のBGが高い場合よりも少し低い場合(本件補正発明の「前記食前のグルコースレベルが前記下限閾値と前記上限閾値との間である場合」に相当。)、即時型補正ボーラスの投与量を総投与量の50%とし、食事と中間GIのバランスをとるために時間をかけて送達される持続型ボーラスの投与量を残りの50%とし(本件補正発明の「前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量と等しい」に相当。)、また、ユーザの現在のBGがさらに低い場合(本件補正発明の「前記食前のグルコースレベルが前記下限閾値未満である場合」に相当。)、即時型補正ボーラスの投与量を総投与量の50%未満とし、食事と中間GIのバランスをとるために時間をかけて送達される持続型ボーラスの投与量を残りの50%以上とする(本件補正発明の「前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量未満である」に相当。)ことは、当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、この相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
イ 請求人の主張について
(ア)請求人は、令和5年1月31日提出の審判請求書において、
「そして、上記補正により、本願の請求項1に係る発明(以下、本願発明1とする)は、
「前記薬剤送達デバイスと通信し、初期ボーラス送達量および遅延ボーラス送達量を含むボーラス送達スケジュールを計算するように動作する制御ロジックを含むコントローラであって、前記遅延ボーラス送達量および前記初期ボーラス送達量の相対量が、少なくとも部分的に、食前のグルコースレベルを上限閾値及び下限閾値と比較することに基づき、前記初期ボーラス送達量および前記遅延ボーラス送達量の前記相対量がさらに、
(i)前記食前のグルコースレベルが前記上限閾値を越える場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量を超える、
(ii)前記食前のグルコースレベルが前記下限閾値と前記上限閾値との間である場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量と等しい、及び
(iii)前記食前のグルコースレベルが前記下限閾値未満である場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量未満である、
の少なくともいずれかに基づく、前記コントローラ」との特徴を有するものとなりました。
(b)本願発明と引用発明との対比
引用文献1には、本願発明1の上記特徴について開示も示唆もされておりません。
まず、拒絶査定でご指摘されている引用文献1の記載箇所(段落[0030]、[0036]、図5)等では、「即時型ボーラス」と、「持続型ボーラス」のいずれかが排他的に選択されることが開示されており、「初期ボーラス送達量および遅延ボーラス送達量を含むボーラス送達スケジュール」において、「前記遅延ボーラス送達量および前記初期ボーラス送達量の相対量が、少なくとも部分的に、食前のグルコースレベルを閾値と比較することに基づく」ことを開示又は示唆するものではありません。
ましてや、上記事項を開示も示唆もしていない引用文献1は、「前記遅延ボーラス送達量および前記初期ボーラス送達量の相対量が、少なくとも部分的に、食前のグルコースレベルを上限閾値及び下限閾値と比較することに基づ」くことや、当該相対量が少なくとも上記(i)~(iii)の少なくともいずれかに基づくことについて開示又は示唆しているとはいえません。
また、引用文献2も同様に、本願発明の上記特徴を開示も示唆もしておりません。
さらに、引用文献1及び2は、上記のように本願発明の特徴を開示も示唆もしていないのに加え、本願発明の技術的思想ないし有利な効果(遅延ボーラス送達量および初期ボーラス送達量の相対量を、食前のグルコースレベルと閾値との比較により変えることで、遅延ボーラス送達量が、胃腸症状のリスクを減らすのに役立つことができることや、早期の食後低血糖症のリスクを軽減するのに役立つことができることなど)についても何ら着目していません。
したがいまして、本願発明1は、引用文献1に記載の発明に対し新規性を有し、かつ、引用文献1~2から当業者が容易に想到できたものではなく、進歩性を有すると思料します。
(c)小括
独立請求項27及び28に係る発明は、本願発明1の上記特徴と同様の特徴を含みます。また、請求項2-26及び29-51は、請求項1又は28の従属項です。したがいまして、請求項1-51に係る発明は、新規性及び進歩性を有すると思料します。」と主張する。
以下、請求人の上記主張について検討する。
(イ)特徴の開示について
上記(3)アの(エ)及び上記アで説示したとおり、引用文献1は、「前記遅延ボーラス送達量および前記初期ボーラス送達量の相対量が、少なくとも部分的に、食前のグルコースレベルを上限閾値及び下限閾値と比較することに基づ」くことや、当該相対量が少なくとも上記(i)~(iii)の少なくともいずれか((i)を選択肢とした場合)に基づくことについて開示しているといえる。
したがって、当該主張は採用できない。
(ウ)技術的思想ないし有利な効果について
本願明細書には以下の記載がある。
「【0204】 特定の実施形態では、コントローラ24は、インスリンおよびプラムリンタイドのボーラスを送達するためのボーラス送達スケジュールを計算する制御ロジックを含む。ボーラスは、上記の様々なア手法を使用して計算することができる。ボーラス送達スケジュールは、経時的にボーラスの送達を広げることができる。例えば、ボーラス送達スケジュールは、最初のボーラス送達量とそれに続く1つ以上の遅延ボーラス送達量を含むことができる。遅延ボーラス送達量でボーラスの一部分を送達することにより、胃腸症状および早期の食後低血糖のリスクを減らすことができる。」
一方、引用文献1には、上記技術的思想ないし有利な効果に着目しているという明示的な記載はない。
しかしながら、引用発明のボーラス送達パターンも、本願補正発明同様、持続型ボーラスの投与量でボーラスの一部分を送達しているから、引用発明も、本願補正発明同様、胃腸症状及び早期の食後低血糖のリスクを減らすことができる効果を有しているといえる。そうすると、引用文献1は、上記技術的思想ないし有利な効果に着目しているといえる。
したがって、当該主張は採用できない。
(エ)上記(イ)、(ウ)のとおりであるから、請求人の上記主張は採用できない。
ウ したがって、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明であり、また、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条1項3号に該当し、また、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和5年1月31日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-59に係る発明は、令和4年5月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-59に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項31に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項31に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の概要は次のとおりである。
本願請求項1-2、31-33に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。また、本願請求項1-2、31-33に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、上記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、上記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「上限閾値および下限」及び「前記初期ボーラス送達量および前記遅延ボーラス送達量の前記相対量がさらに、
(i)前記食前のグルコースレベルが前記上限閾値を越える場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量を超える、
(ii)前記食前のグルコースレベルが前記下限閾値と前記上限閾値との間である場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量と等しい、及び
(iii)前記食前のグルコースレベルが前記下限閾値未満である場合、前記初期ボーラス送達量が、前記遅延ボーラス送達量未満である、
の少なくともいずれかに基づく」という限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用文献1に記載された発明であり、また、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明であり、また、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。
第4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。また、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-001576