特許拒絶査定不服審判
2023-000360
溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板及びその製造方法
- 審判番号
- 2023-000360
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-158429
- 請求日
- 2023年01月10日
- 審決日
- 2023年12月15日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】JFEスチール株式会社
- 【請求人代理人】杉村 憲司
- 【請求人代理人】吉田 憲悟
- 【請求人】JFE鋼板株式会社
- 【請求人代理人】杉村 憲司
- 【請求人代理人】吉田 憲悟
- 審判長/審判官
- 審判長 池渕 立
- 審判官 佐藤 陽一
- 審判官 山口 大志
- 分類
- P18 .113-Z (C23C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-158429「溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 9月26日出願公開、特開2022-140247〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和 3年 9月28日(優先権主張 令和 3年 3月11日)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 4年 7月 4日付け:拒絶理由通知
令和 4年 9月 2日 :意見書の提出
令和 4年10月20日付け:拒絶査定
令和 5年 1月10日 :審判請求書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~12に係る発明は、本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
めっき皮膜を備える溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、Al:45~65質量%、Si:1.0~4.0質量%及びMg:1.0~10.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記不可避的不純物中のNi含有量が、前記めっき皮膜の総質量に対して0.010質量%以下であることを特徴とする、溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板。」
第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
1 本願の請求項1~6、8~11に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
また、本願の請求項1~6、8~11に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2 本願の請求項7~12に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2016-166415号公報
引用文献2:特表2011-514934号公報
第4 引用文献1の記載事項
1 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、「溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板とその製造方法」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。
(1)「【請求項1】
鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、25~80質量%のAl、1.2質量%未満のSi及び0.1超え~25質量%のMgを含有し、前記主層がSiを含まないことを特徴とする、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
【請求項2】
前記主層がMg-Zn系化合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
【請求項3】
前記Mg-Zn系化合物がMgZn2であることを特徴とする、請求項2に記載の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
【請求項4】
25~80質量%のAl、1.2質量%未満のSi及び0.1超え~25質量%のMgを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなり、浴温が600℃以下であるめっき浴中に、下地鋼板を浸漬させて溶融めっきを施すことを特徴とする、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記溶融めっき後の鋼板を、20℃/sec以上の平均冷却速度で380℃まで冷却することを特徴とする、請求項4に記載の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法。」
(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な平板部及び端部の耐食性を有するとともに、加工部の耐食性にも優れた溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板及びその製造方法に関するものである。」
(3)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、溶融Al-Zn系めっき鋼板については、上述したように、その優れた耐食性から長期間屋外に曝される屋根や壁などの建材分野に使用されることが多い。そのため、近年の省資源・省エネルギーについての要求から、製品の長寿命化を図るべく、より耐食性に優れた溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の開発が望まれていた。
また、引用文献1~3に開示された溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板では、めっき主層に生成したMg2Siが、耐食性の向上効果があるものの、めっき主層の硬質化を招くことから、曲げ加工を行った際にめっき皮膜が割れてクラックを生じ、結果として加工部の耐食性(加工部耐食性)が劣るという問題があった。そのため、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板については、加工部耐食性の改善も望まれていた。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑み、良好な平板部及び端部の耐食性を有するとともに、良好な加工性をもつことで加工部耐食性にも優れた溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板、並びに、該溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法を提供することを目的とする。」
(4)「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく検討を重ねた結果、めっき皮膜を構成する主層(以後、「めっき主層」という場合もある。)中のMg2Siについては、耐食性向上効果があるものの、めっき主層の硬質化を招き、加工性を低下させること、また、前記主層中に存在する単相Siについては、カソードサイトとなり、周囲のめっき皮膜の溶解を招くことから、いずれもなくす必要があることに着目した。
そして、本発明者らは、さらに鋭意研究を重ね、前記めっき皮膜中に含まれるSi成分の含有量を低減し、前記主層中にSi成分を含まないようにすることによって、前記めっき主層中からMg2Siをなくすことができるため、めっき主層の加工性を改善できるともに、加工部耐食性についても向上でき、また、単相Siをなくすことができるため、平板部及び端部の耐食性についても向上できることを見出した。」
(5)「【0016】
(溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板)
本発明の対象とする溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板は、鋼板表面にめっき皮膜を有し、該めっき皮膜は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層からなる。そして、前記めっき皮膜は、25~80質量%のAl、1.2質量%未満のSi及び0.1超え~25質量%のMgを含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有する。
【0017】
前記めっき皮膜中のAl含有量は、耐食性と操業面のバランスから、25~80質量%とし、好ましくは35~65質量%である。めっき主層のAl含有量が25質量%以上であれば、Alのデンドライト凝固が起こる。これにより、主層は主としてZnを過飽和に含有し、Alがデンドライト凝固した部分(α-Al相のデンドライト部分)と残りのデンドライト間隙の部分(インターデンドライト部分)からなり、且つ該デンドライト部分がめっき皮膜の膜厚方向に積層した耐食性に優れる構造を確保できる。またこのα-Al相のデンドライト部分が、多く積層するほど、腐食進行経路が複雑になり、腐食が容易に下地鋼板に到達しにくくなるので、耐食性が向上する。極めて高い耐食性を得るためには、主層のAl含有量を35質量%以上とすることがより好ましい。一方、主層のAl含有量が80質量%を超えると、Feに対して犠牲防食作用をもつZnの含有量が少なくなり、耐食性が劣化する。このため、主層のAl含有量は80質量%以下とする。また、主層のAl含有量が65質量%以下であれば、めっきの付着量が少なくなり、鋼素地が露出しやすくなった場合にもFeに対して犠牲防食作用を有し、十分な耐食性が得られる。よって、めっき主層のAl含有量は65質量%以下とすることが好ましい。
【0018】
また、Siは下地鋼板との界面に生成する界面合金層の成長を抑制する目的で、耐食性や加工性の向上を目的にめっき浴中に添加され、必然的にめっき皮膜に含有される。具体的には、Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の場合、めっき浴中にSiを含有させめっき処理を行うと、鋼板がめっき浴中に浸漬されると同時に鋼板表面のFeと浴中のAlやSiが合金化反応し、Fe-Al系及び/又はFe-Al-Si系の化合物を生成する。このFe-Al-Si系界面合金層の生成により、界面合金層の成長が抑制される。
ただし、Siは、Mg2Siを生成してめっき主層の硬質化を招き、加工性を低下させるという問題や、前記主層中に単相Siとして存在する場合には、カソードサイトとなって周囲のめっき皮膜の溶解を招くという問題がある。そのため、めっき皮膜中のSi含有量は1.2質量%未満とし、より確実に単相Siをなくすという点からは、Si含有量を0.6質量%未満とすることが好ましい。
【0019】
そして、本発明では、前記めっき主層がSiを含まないことを特徴とする。前記主層中にSiが存在しない場合、上述した、Mg2Siや単相Siが生成することもないため、所望の耐食性及び加工部耐食性を実現できる。
上述したように、めっき皮膜中のSiは、Fe-Al系及び/又はFe-Al-Si系の化合物を生成するために用いられるので、めっき皮膜中のSiの含有量を1.2質量%未満と低減することで、前記主層中からSiをなくすことができる。
ここで、本発明でいう単相Siとは、単独で相を形成しているSiのことであり、前記主層中のSiのうち、Al、Zn、Mg、Fe等と化合物を形成しているSiや、Al、Zn、Mg、Fe等及びその化合物中に固溶したSiを除いたものである。
【0020】
図1は、本発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板について、加工部のSiの存在状態をSEM-EDXにより示したものであるが、本願発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板では、めっき皮膜の合金層中のみにSiが存在していることがわかる。
また、本発明において、前記主層中にSiが含まれないことを確認するためには、前記主層のX線回折を用いる。つまり、該X線回折によって、Siのピークが検出されなければ、その主層は、Siを含んでいないものとしている。なお、前記X線回折の条件については、特に限定はされない。例えば、電圧:30kV、電流:10mA、CuKα管球(波長λ:0.154nm)、測定角度2θ:10~90°の条件下で実施できる。
【0021】
さらに、前記めっき皮膜は、Mgを0.1超え~25質量%含有する。前記めっき主層が腐食した際、腐食生成物中にMgが含まれることとなり、腐食生成物の安定性が向上し、腐食の進行が遅延する結果、耐食性が向上するという効果がある。
ここで、前記めっき皮膜のMg含有量を0.1質量%超えとしたのは、0.1質量%超えとすることで、Mgによる腐食遅延効果を得ることができるからである。一方、前記Mgの含有量を25質量%以下としたのは、含有量25質量%以下とすることで、効果が飽和することなく、製造コストの上昇を抑え、めっき皮膜の組成管理を容易に行えるためである。
【0022】
また、前記Mgは、めっき主層において、MgZn2等のMg及びZnを含む化合物(Mg-Zn系化合物)を生成することが好ましい。前記めっき主層におけるMgは、Siと結合してMg2Siを生成する以外には、α-Alに固溶するか、Znと結合してMgZn2等のMg-Zn系化合物を生成して存在するのみである。そのため、Mg-Zn系化合物が存在することで前記Mg2Siの生成を抑制できる。
【0023】
また、めっき皮膜中にMgを5質量%以上含有することで、本発明で課題とする塗装後耐食性の改善が可能となる。Mgを含まない従来の溶融Al-Zn系めっき鋼板のめっき層が大気に触れると、α-Al相の周囲に緻密、且つ安定なAl2O3の酸化膜が直ぐに形成され、この酸化膜による保護作用によってα-Al相の溶解性はインターデンドライト中のZnリッチ相の溶解性に比べ非常に低くなる。この結果、従来のAl-Zn系めっき鋼板を下地に用いた塗装鋼板は、塗膜に損傷が生じた場合、傷部を起点に塗膜/めっき界面でZnリッチ相の選択腐食を起こし、塗装健全部の奥深くに向けて進行して大きな塗膜膨れを起こすことから、塗装後耐食性が劣る。一方、Mgを含有した溶融Al-Zn系めっき鋼板を下地に用いた塗装鋼板の場合、インターデンドライト中に析出するMg2Si相やMg-Zn化合物(MgZn2、Mg32(Al,Zn)49等)が腐食の初期段階で溶け出し、腐食生成物中にMgが取込まれる。Mgを含有した腐食生成物は非常に安定であり、これにより腐食が初期段階で抑制されるため、従来のAl-Zn系めっき鋼板を下地に用いた塗装鋼板の場合に問題となるZnリッチ相の選択腐食による大きな塗膜膨れを抑制できる。その結果、めっき層にMgを含有させた溶融Al-Zn系めっき鋼板は優れた塗装後耐食性を示す。Mgが5質量%以下の場合には、腐食時に溶け出すMgの量が少なく、上記に示した安定な腐食生成物が十分に生成されないことから、塗装後耐食性が向上しないおそれがある。逆に、Mgが10質量%超えの場合には、効果が飽和するだけでなく、Mg化合物の腐食が激しく起こり、めっき層全体の溶解性が過度に上昇する結果、腐食生成物を安定化させても、その溶解速度が大きくなるため、大きな膨れ幅を生じ、塗装後耐食性が劣化するおそれがある。よって、優れた塗装後耐食性を安定的に得るためには、Mgを5超え~10質量%の範囲で含有させることが好ましい。」
(6)「【0024】
さらに、より優れた耐食性を得る点からは、前記めっき皮膜にCaをさらに含有することが好ましい。さらに、前記めっき皮膜がCaをさらに含有する場合には、合計含有量が0.2~25質量%であることが好ましい。上記合計含有量とすることで、十分な腐食遅延効果を得ることができ、効果が飽和することもないためである。
【0025】
さらにまた、前記MgやCaと同様に、腐食生成物の安定性を向上させ、腐食の進行を遅延させる効果を奏することから、前記主層は、さらにMn、V、Cr、Mo、Ti、Sr、Ni、Co、Sb及びBのうちから選択される一種又は二種以上を、合計で0.01~10質量%含有することが好ましい。
【0026】
なお、前記界面合金層は、下地鋼板との界面に存在するものであり、前述の通り、鋼板表面のFeと浴中のAlやSiが合金化反応して必然的に生成するFe-Al系及び/又はFe-Al-Si系の化合物である。この界面合金層は、硬くて脆いため、厚く成長すると加工時のクラック発生の起点となることから可能な限り薄いことが好ましい。
【0027】
ここで、前記めっき皮膜の界面合金層及び主層は、研磨及び/又はエッチングしためっき皮膜の断面を、走査型電子顕微鏡等を用いることによって観察できる。断面の研磨方法やエッチング方法はいくつか種類があるが、一般的にめっき皮膜断面を観察する際に用いられる方法であれば特に限定はされない。また、走査型電子顕微鏡での観察条件は、例えば加速電圧15kVで、反射電子像にて1000倍以上の倍率であれば、界面合金層及び主層を明確に観察することが可能である。
また、主層中に、Mgや、Ca、Mn、V、Cr、Mo、Ti、Sr、Ni、Co、Sb及びBのうちから選択される一種又は二種以上が存在するか否かについては、例えばグロー放電発光分析装置でめっき皮膜を貫通分析することにより確認することができる。ただし、グロー放電発光分析装置を用いるのはあくまでも一例であり、前記主層中のMgや、Ca、Mn、V、Cr、Mo、Ti、Sr、Ni、Co、Sb及びBの有無・分布を調べることができる方法であれば、他の方法を用いることも可能である。
【0028】
また、上述したCa、Mn、V、Cr、Mo、Ti、Sr、Ni、Co、Sb及びBのうちから選択される一種又は二種以上は、前記主層中において、Zn、Al及びSiから選択される一種又は二種以上と金属間化合物を生成していることが好ましい。めっき皮膜を形成する過程において、Α-Al相がZnリッチ相より先に凝固するため、前記めっき主層において金属間化合物は凝固過程でΑ-Al相から排出されてZnリッチ相に集まる。Znリッチ相はΑ-Al相より先に腐食するため、腐食生成物中にCa、Mn、V、Cr、Mo、Ti、Sr、Ni、Co、Sb及びBのうちから選択される一種又は二種以上が取り込まれることになる。この結果、より効果的に腐食の初期段階における腐食生成物の安定化を図れる。
【0029】
なお、前記Mgや、Ca、Mn、V、Cr、Mo、Ti、Sr、Ni、Co、Sb及びBのうちから選択される一種又は二種以上が、Zn、Al及びSiから選択される一種又は二種以上と金属間化合物を生成しているか否かを確認する方法としては、次の方法がある。めっき鋼板の表面から広角X線回折によってこれらの金属間化合物を検出する方法、若しくは、めっき皮膜の断面を透過電子顕微鏡中で電子線回折によって検出するなどの方法等が用いられる。また、これら以外の方法でも、前記金属間化合物を検出できる方法であれば、いずれの方法を用いても構わない。」
(7)「【0033】
(溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法)
次に、本発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法について説明する。
本発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法は、25~80質量%のAl、1.2質量%未満のSi及び0.1超え~25質量%のMgを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなり、浴温が600℃以下であるめっき浴中に、下地鋼板を浸漬させて溶融めっきを施すことを特徴とする。
かかる製造方法によって、良好な平板部及び端部の耐食性を有するとともに、加工部耐食性にも優れた溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板を製造できる。
【0034】
本発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造方法では、特に限定はされないが、連続式溶融めっき設備において製造を行う方法が通常採用される。
【0035】
本発明の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板に用いられる下地鋼板の種類については、特に限定はされない。例えば、酸洗脱スケールした熱延鋼板若しくは鋼帯、又は、それらを冷間圧延して得られた冷延鋼板若しくは鋼帯を用いることができる。
また、前記前処理工程及び焼鈍工程の条件についても特に限定はされず、任意の方法を採用することができる。
【0036】
前記溶融めっきの条件については、前記下地鋼板にAl-Zn系めっき皮膜を形成できれば特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、前記下地鋼板を還元焼鈍した後、めっき浴温近傍まで冷却し、めっき浴に浸漬させ、その後、ワイピングを行うことによって所望の膜厚のめっき皮膜を形成することができる。
【0037】
前記溶融めっきのめっき浴は、25~80質量%のAl、1.2質量%未満のSi及び0.1超え~25質量%のMgを含み、残部がZn及び不可避的不純物からなる。
また、前記めっき浴は、さらなる耐食性の向上を目的として、Caをさらに含むこともできる。
さらに、前記めっき浴には、Mn、V、Cr、Mo、Ti、Sr、Ni、Co、Sb及びBのうちから選択される一種又は二種以上を、合計で0.01~10質量%含有することもできる。このような組成のめっき浴とすることにより、耐食性がさらに向上しためっき皮膜を得ることが可能となる。」
(8)「【実施例】
【0043】
次に、本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
常法で製造した板厚0.5mmの冷延鋼板を下地鋼板として用い、連続式溶融めっき設備において、サンプル1~55の溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造を行った。
めっき皮膜の組成及びX線回折によるめっき主層におけるSiの有無、めっき皮膜の厚さ、並びに、めっき後の鋼板の平均冷却速度については表1に示す。
なお、サンプルとなる全ての溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の製造では、めっき浴の浴温は590℃とした。
【0044】
(加工性の評価)
溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の各サンプルについて、同板厚の板を内側に3枚挟んで180°曲げの加工(3T曲げ)を施した後、曲げ加工部の外側をSEMによって観察し、クラック開口幅を測定した。クラック開口幅については、観察視野中の大きなクラックから順番に3つのクラック開口幅を測定し、その平均とした。
各サンプルのクラック開口幅について、以下の基準に従って評価した。
○:クラック開口幅<30μm
×:クラック開口幅≧30μm
【0045】
(めっき耐食性の評価)
(1)平板部及び端部耐食性評価
溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の各サンプルについて、日本自動車規格の複合サイクル
試験(JASO-CCT)を行った。JASO-CCTについては、図2に示すように、特定の条件で、塩水噴霧、乾燥及び湿潤を1サイクルとした試験である。
各サンプルの平板部及び端部について、赤錆が発生するまでのサイクル数を測定し、以下の基準に従って評価した。
○:赤錆発生サイクル数≧400サイクル
△:300サイクル≦赤錆発生サイクル数<400サイクル
×:赤錆発生サイクル数<300サイクル
(2)曲げ加工部耐食性評価
溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の各サンプルについて、同板厚の板を内側に3枚挟んで180°曲げの加工(3T曲げ)を施した後、曲げの外側に日本自動車規格の複合サイクル試験(JASO-CCT)を行った。JASO-CCTについては、図2に示すように、特定の条件で、塩水噴霧、乾燥及び湿潤を1サイクルとした試験である。
各サンプルの加工部について、赤錆が発生するまでのサイクル数を測定し、以下の基準に従って評価した。
○:赤錆発生サイクル数≧400サイクル
△:300サイクル≦赤錆発生サイクル数<400サイクル
×:赤錆発生サイクル数<300サイクル
【0046】
【表1】
[図:0001407436000001.jpg]
【0047】
表1から、本発明例の各サンプルは、比較例の各サンプルに比べて、平板部、端部及び加工部のいずれの耐食性についても優れることがわかる。
【0048】
(実施例2)
実施例1において製造した溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板のうち、複数のサンプル(サンプル番号については表2を参照。)について、ウレタン樹脂系ベースの化成皮膜(日本パーカライジング(株)製 CT-E-364)を施した。なお、化成皮膜の付着量は1g/m2である。
めっき皮膜の組成及びX線回折によるめっき主層中のSiの有無、めっき皮膜の厚さ、並びに、めっき後の鋼板の平均冷却速度については表2に示す。
【0049】
(化成耐食性の評価)
(1)平板部及び端部耐食性評価
化成皮膜を形成した溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の各サンプルについて、日本自動車規格の複合サイクル試験(JASO-CCT)を行った。JASO-CCTについては、図2に示すように、特定の条件で、塩水噴霧、乾燥及び湿潤を1サイクルとした試験である。
各サンプルの平板部及び端部について、赤錆が発生するまでのサイクル数を測定し、以下の基準に従って評価した。
○:赤錆発生サイクル数≧500サイクル
△:400サイクル≦赤錆発生サイクル数<500サイクル
×:赤錆発生サイクル数<400サイクル
(2)曲げ加工部耐食性評価
化成皮膜を形成した溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の各サンプルについて、同板厚の板を内側に3枚挟んで180°曲げの加工(3T曲げ)を施した後、曲げの外側に、日本自動車規格の複合サイクル試験(JASO-CCT)を行った。JASO-CCTについては、図2に示すように、特定の条件で、塩水噴霧、乾燥及び湿潤を1サイクルとした試験である。
各サンプルの加工部について、赤錆が発生するまでのサイクル数を測定し、以下の基準に従って評価した。
○:赤錆発生サイクル数≧500サイクル
△:400サイクル≦赤錆発生サイクル数<500サイクル
×:赤錆発生サイクル数<400サイクル
【0050】
【表2】
[図:0001407436000002.jpg]
【0051】
表2から、本発明例の各サンプルは、比較例の各サンプルに比べて、平板部、端部及び加工部のいずれの耐食性についても優れることがわかる。」
第5 引用文献1に記載された発明
1 引用文献1には、
「鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、25~80質量%のAl、1.2質量%未満のSi及び0.1超え~25質量%のMgを含有し、前記主層がSiを含まないことを特徴とする、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。」に関する発明が記載されている(請求項1)。
2 上記1のめっき皮膜の化学組成に関し、段落【0016】には、「めっき皮膜は、25~80質量%のAl、1.2質量%未満のSi及び0.1超え~25質量%のMgを含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有する」ことも記載されている。
また、上記1の発明に関し、実施例2として、「実施例1において製造した溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板のうち、複数のサンプル(サンプル番号については表2を参照。)について、ウレタン樹脂系ベースの化成皮膜(日本パーカライジング(株)製 CT-E-364)を施した。」ものが記載されている(段落【0048】)。
3 そうすると、引用文献1には、特に実施例2のNo.5のめっき鋼板に着目すると、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明>
ウレタン樹脂系ベースの化成皮膜を施した、鋼板表面にめっき皮膜を有する溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、下地鋼板との界面に存在する界面合金層と該合金層の上に存在する主層とからなり、55質量%のAl、1.1質量%のSi及び2.3質量%のMgを含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、前記主層がSiを含まない、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板。
第6 本願発明と引用発明との対比・判断
1 対比
(1)引用発明における、「鋼板表面にめっき皮膜を有する」ことは、本願発明における、「めっき鋼板」が、「めっき皮膜を備える」ことに相当する。
(2)引用発明における、「溶融」「めっき鋼板」は、本願発明における、「溶融」「めっき鋼板」に相当する。
(3)引用発明の「めっき皮膜」が「55質量%のAl、1.1質量%のSi及び2.3質量%のMgを含有し 、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有」することは、本願発明の「めっき皮膜」が「Al:45~65質量%、Si:1.0~4.0質量%及びMg:1.0~10.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有」することに相当する。
(4)そうすると、本願発明と引用発明とは、以下の一致点において一致するとともに、以下の相違点1、相違点2において相違する。
<一致点>
「めっき皮膜を備える溶融めっき鋼板であって、
前記めっき皮膜は、Al:45~65質量%、Si:1.0~4.0質量%及びMg:1.0~10.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有する、溶融めっき鋼板。」である点。
<相違点1>
本願発明は、「Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板」であるのに対し、引用発明は、「Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板」である点。
<相違点2>
めっき皮膜の組成について、本願発明は、「不可避的不純物中のNi含有量が、めっき皮膜の総質量に対して0.010質量%以下である」のに対し、引用発明は、Ni含有量が特定されていない点。
2 判断
(1)相違点1について
ア 本願発明の「Al-Zn-Si-Mg系めっき」において、「系」の意味は、本願発明のめっき皮膜にNiが含まれていてもNiが明示されていない点や、Srを含む請求項7においても、Srが明示されていない点からみて、めっき皮膜に、必須成分としてAl、Zn、Si及びMgが含まれており、必須成分以外の成分も含有可能であるとの意味であると認められる。
そして、引用発明のめっき皮膜も、Al、Zn、Si及びMgを必須成分として含むものであり、引用文献1の段落【0025】に記載されているようにMn等の必須成分以外の成分を含有可能なものであるから、「系」の有無は、実質的な相違点ではない。
イ 本願発明の「Al-Zn-Si-Mg系」における、元素の表記順について、発明の詳細な説明には、その技術的意味が何ら記載されていないから、上記元素の表記順に特段の技術的意味は無く、単に、めっき皮膜に、Al、Zn、Si及びMgが含まれているとの意味であると認められる。
そして、引用発明のめっき皮膜も、Al、Zn、Si及びMgを含むものであるから、上記元素のうちSiとMgの表記順の相違は、実質的な相違点ではない。
ウ よって、相違点1は実質的な相違点ではない。
(2)相違点2について
ア 引用文献1の段落【0025】には、「前記MgやCaと同様に、腐食生成物の安定性を向上させ、腐食の進行を遅延させる効果を奏することから、前記主層は、さらにMn、V、Cr、Mo、Ti、Sr、Ni、Co、Sb及びBのうちから選択される一種又は二種以上を、合計で0.01~10質量%含有することが好ましい。」と記載されているため、引用発明のめっき組成の残部に、これらのNi等の元素が含まれていると解する余地がある。
しかしながら、「良好な平板部及び端部の耐食性を有する」(段落【0007】)ことを課題の一部とする引用文献1において、「腐食生成物の安定性を向上させ、腐食の進行を遅延させる効果を奏する」Ni等の元素とその含有量が表2に記載されていないということは、上記効果を奏するためにNi等の元素の意図的添加(合計で0.01~10質量%の含有)はされておらず、仮に含有されていたとしても不可避的不純物として0.01質量%未満の含有に限られるものと解するのが合理的である。
イ よって、相違点2は実質的な相違点ではない。
(3)請求人の主張について
ア 請求人は、令和 5年 1月10日提出の審判請求書(以下、「審判請求書」という。)の3.(3)(i)の第3段落において、「引用文献1の[0037]の記載からは、「不可避的に含有されるNiの量が0.01質量%未満と解される」理由が、どこにもないと考えられます。」と主張する。
しかしながら、上記(2)において検討したとおり、引用発明の不可避的不純物中のNi含有量は、0.01質量%未満であるといえる。
よって、請求人の主張は採用できない。
イ 請求人は、審判請求書の3.(3)(i)の第3段落において、「合金の分野においては、意図的に元素を添加しない場合であっても、Ni等の不可避的不純物がめっき皮膜中に含まれることは技術常識であり、その含有量は本願発明のように低く制御しない場合には、0.01質量%を超えることが多く、引用文献1に記載された発明についても、「不可避的に含有されるめっき皮膜中のNi量が0.01質量%未満と解される」ということはないと考えられます。」と主張する。
当該主張について、合金の分野においては、意図的に元素を添加しない場合であっても、Ni等の不可避的不純物がめっき皮膜中に含まれることは技術常識であると認められるが、その含有量が0.01質量%を超えることが多いという点については、その根拠は示されておらず、上記主張を採用することはできない。
一方、引用文献1に記載された発明は、「25~80質量%のAl、1.2質量%未満のSi及び0.1超え~25質量%のMgを含み、残部がZn及び不可避的不純物」という基本組成を有するめっき鋼板であれば、引用文献1に記載された発明が解決しようとする課題である、「良好な平板部及び端部の耐食性を有する」(段落【0007】)ことを解決し得るものであると認められる。
ここで、引用文献1において、Mn、V、Cr、Mo、Ti、Sr、Ni、Co、Sb及びBは、腐食生成物の安定性を向上させ、腐食の進行を遅延させる効果を奏することを目的として、合計で0.01~10質量%添加される任意の元素であるから、めっき皮膜が、これらのNi等の任意元素を合計で0.01質量%を超える量で含有すると、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の耐食性が向上するので、上記基本組成のめっき皮膜によって課題が解決し得るかを正確に評価することができなくなってしまう。
仮に、請求人が述べるように、不可避的不純物量を制御せず、Ni等の不可避的不純物が0.01質量%を超える量で含まれるとすると、Ni等の任意元素の添加効果により、溶融Al-Zn-Mg-Siめっき鋼板の耐食性が向上することとなるので、Ni等の任意元素を含まない上記基本組成を有するめっき鋼板が、「良好な平板部及び端部の耐食性を有する」ことが正確に評価されていないこととなり不合理であるから、実施例1,2においては、Ni等の任意元素の含有量が不可避不純物レベルに低減されていると考えるのが相当であり、Ni等の不可避的不純物量が制御されていないという主張は不合理である。
よって、引用発明において、Mn、V、Cr、Mo、Ti、Sr、Ni、Co、Sb及びBが不可避的不純物としてめっき浴中に混入するとしても、これらの含有量を、合計で0.01質量%未満に制限されていると考えるのが合理的である。
よって、請求人の主張は採用できない。
ウ 請求人は、令和 4年 9月 2日提出の意見書の(4)(i)の第4段落において、「しかしながら、引用文献1に記載された発明には、「不可避的に含有されるNiの量が0.01質量%未満と解される」理由は、どこにもないといえます。引用文献1の[0037]では、拒絶理由の中で認定されているように、不可避的不純物として「Ni等を0.01~10質量%含有することができる」点が開示されているのであって、この記載からは、審査官殿がいわれるような「Niの量が0.01質量%未満」ではなく、逆に「Niの量が0.01質量%を超える」と解されることが、技術的に自然であるためです。」と主張する。
しかしながら、令和 4年 7月 4日付け拒絶理由通知には、「[0037]の、Ni等を0.01~10質量%含有しても良い旨の記載をみるに、上記溶融めっき層中に意図せず不可避的に含有されるNiの量は0.01質量%未満と解される。」と記載されるとおり、「不可避的不純物として「Ni等を0.01~10質量%含有することができる」」ことは認定していない。
また、引用文献1において、Niは、「耐食性がさらに向上しためっき皮膜を得ること」を目的とした任意添加成分として記載されているのであるから、そのような目的がないのであれば、Niは添加されず、「Niの量が0.01質量%未満」となると解するのが自然である。
よって、請求人の主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-000360