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特許無効審判

2022-800064

積層型無機系保護コーティング塩化ビニル系タイル及びそのコーティング方法

審判番号
2022-800064
法域
特許
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
特願2015-501300
登録番号
6065247
請求日
2022年07月07日
審決日
2024年02月08日
公報発行日
2025年04月25日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】株式会社 リンレイ
  • 【請求人代理人】大塚 明博
  • 【請求人代理人】大塚 匡
  • 【被請求人】株式会社 九州ハイテック
  • 【被請求人代理人】有吉 修一朗
  • 【被請求人代理人】筒井 宣圭
  • 【被請求人代理人】森田 靖之
  • 【被請求人代理人】遠藤 聡子
  • 【被請求人代理人】藤岡 靖和
  • 【被請求人代理人】高崎 仁
審判長/審判官
  • 審判長 居島 一仁
  • 審判官 前川 慎喜
  • 審判官 住田 秀弘
分類
P1113.121-Y (E04F) / P1113.536-Y (E04F) / P1113.537-Y (E04F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第123条、特許法第29条、特許法第36条、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第2条、特許法第169条
データ出所
審決公報(XML)

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上記当事者間の特許第6065247号発明「積層型無機系保護コーティング塩化ビニル系タイル及びそのコーティング方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第6065247号(以下「本件特許」という。平成25年12月24日(優先権主張:平成25年2月20日)国際出願、平成29年1月6日設定登録、請求項数は9。)の特許請求の範囲の請求項1ないし9に係る発明の特許を無効とすることを求める事案であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。 令和 4年 7月 7日 :審判請求書(以下「請求書」という。)の差出 令和 4年11月10日 :答弁書の提出 令和 5年 3月27日付け:審理事項通知 令和 5年 4月21日 :請求人による口頭審理陳述要領書(以下「請求人陳述要領書」という。)の提出 令和 5年 5月 8日 :被請求人による口頭審理陳述要領書(以下「被請求人陳述要領書」という。)の提出 令和 5年 5月19日 :第1回口頭審理 第2 本件発明 本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、それぞれを「本件発明1」等、総称して「本件発明」ということがある。)は、それぞれ本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1ないし9の記載は、次のとおりである。 (構成要件A~Gの分説は、請求人による。以下同様。) 「【請求項1】 A 塩化ビニル系タイルの表面にガラス質無機系保護コーティング層を形成し、 B トップコート層が鉛筆硬度試験と耐摩耗試験の相関データーに基づき測定した場合の鉛筆硬度が10H相当以上、 C かつコーティング処理後においてガラス質層が硬化する際に生じる架橋反応(縮合反応)時の収縮により塩化ビニル系タイル基材側に発生するタイル端部の反りが1mm以下である D 積層型無機系保護コーティング塩化ビニル系タイル。 【請求項2】 E 前記塩化ビニル系タイルのポリ塩化ビニルの含有量が10%~40%である請求項1記載の積層型無機系保護コーティング塩化ビニル系タイル。 【請求項3】 F 前記塩化ビニル系タイルの厚みが2mm~6mmである請求項1及び2いずれかに記載の積層型無機系保護コーティング塩化ビニル系タイル。 【請求項4】 G 前記トップコート層の表面光沢が70以上である請求項1乃至3いずれかに記載の積層型無機系保護コーティング塩化ビニル系タイル。 【請求項5】 塩化ビニル系タイルの表面に少なくともアンダーコート層、中間コート層、トップコート層の積層型無機系保護コーティング処理を施すものであって、前記アンダーコート層の硬度が3H~6H、厚みを20μm~50μm、中間コート層の硬度が6H~9H、厚みを10μm~40μm、トップコート層の硬度が10H相当以上、厚みが3μm~20μmの複数層を積層するようにした積層型無機系保護コーティング塩化ビニル系タイルのコーティング方法。 【請求項6】 前記塩化ビニル系タイルのポリ塩化ビニルの含有量が10%~40%である請求項5記載の積層型無機系保護コーティング塩化ビニル系タイルのコーティング方法。 【請求項7】 前記塩化ビニル系タイルの厚みが2mm~6mmである請求項5及び6いずれかに記載の積層型無機系保護コーティング塩化ビニル系タイルのコーティング方法。 【請求項8】 前記アンダーコート層と中間コート層とトップコート層との積層総厚みが33~110μmとする請求項5乃至7いずれかに記載の積層型無機系保護コーティング塩化ビニル系タイルのコーティング方法。 【請求項9】 前記アンダーコート層と中間コート層とトップコート層とを積層した塩ビ系タイルの表面を30℃~100℃にて1時間以上熱処理を施すようにした請求項5乃至8いずれかに記載の積層型無機系保護コーティング塩化ビニル系タイルのコーティング方法。」 第3 請求人の主張及び証拠方法 1 請求人の主張の概要 請求人は、特許第6065247号発明の特許請求の範囲の請求項1乃至9に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し(請求書、請求人陳述要領書)、証拠方法として甲第1号証ないし甲第20号証を提出している。 〔無効理由〕 (1)無効理由1(進歩性違反) ア 無効理由1-1(甲第1号証を主引用例とする進歩性違反) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に開示された周知技術に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法123条1項2号に該当し、無効とすべきである。 イ 無効理由1-2(甲第3号証を主引用例とする進歩性違反) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明あるいは甲第5号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法123条1項2号に該当し、無効とすべきである。 (2)無効理由2(実施可能要件) 本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許の請求項1ないし4に係る発明の「・・・タイル端部の反りが1mm以下」とする構成、請求項1ないし9に係る発明の「鉛筆硬度」(又は「硬度」)のパラメーター、及び請求項1ないし4に係る発明の「耐摩耗試験の相関データー」に関し、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されていないから、本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、特許法第36項第4項第1号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。 (3)無効理由3(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、「・・・タイル端部の反りが1mm以下」とすることができる構成、及び「鉛筆硬度試験と耐摩耗試験の相関データーに基づき測定した場合の鉛筆硬度が10H」の数値に関し、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明とはいえないから、特許法第36項第6項第1号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。 (4)無効理由4(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、「鉛筆硬度」(又は「硬度」)という記載に関し、不明確であり、また本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、「耐摩耗試験の相関データー」という記載に関し、不明確であるから、特許法第36項第6項第2号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。 2 証拠方法 提出された証拠は、以下のとおりである。 甲第1号証:特開2008-180077号公報 甲第2号証:特開2010-163584号公報 甲第3号証:「化学床用コーティングシステム施工仕様書 NO. 0111-1」,株式会社九州ハイテック,平成23年9月1日(作成),表紙,p.1-40 甲第4号証:「ファインコートメンテナンスシステムのご案内」,株式会社九州ハイテック、平成21年,p.1-23 甲第5号証:「株式会社九州ハイテック セラミック系コーティング剤「FINE-COAT(ファインコート)」」,株式会社九州ハイテック,平成22年11月7日,インターネット <URL:https://www.web.archive.org/web/20101107081150/http://www.k-hitec.co.jp:80/kind/chem.html> 甲第6号証:特開2000-170361号公報 甲第7号証:特開2007-46302号公報 甲第8号証:特開2005-68687号公報 甲第9号証:特開2012-78325号公報 甲第10号証:「試験計測成績書 産技総研第085-14490号」,地方行政独立法人神奈川県産業技術総合研究所,令和4年1月13日,p.1-2 甲第11号証:「試験計測成績書 産技総研第085-14489号」,地方行政独立法人神奈川県産業技術総合研究所,令和4年1月13日,p.1-2 甲第12号証:「試験計測成績書 産技総研第085-14488号」,地方行政独立法人神奈川県産業技術総合研究所,令和4年1月13日,p.1-2 甲第13号証:「試験報告書 No. T-22001279-001」,一般財団法人化学研究評価機構 高分子試験・評価センター,令和4年6月20日,p.1 甲第14号証:「試験報告書 No. T-22001279-005」,一般財団法人化学研究評価機構 高分子試験・評価センター,令和4年6月20日,p.1 甲第15号証:「試験報告書 No. T-22001279-008」,一般財団法人化学研究評価機構 高分子試験・評価センター,令和4年6月20日,p.1 甲第16号証:「試験報告書 No. T-22001279-006」,一般財団法人化学研究評価機構 高分子試験・評価センター,令和4年6月20日,p.1 甲第17号証:「試験報告書 No. T-22001279-007」,一般財団法人化学研究評価機構 高分子試験・評価センター,令和4年6月20日,p.1 甲第18号証:「月刊 名工研・技術情報 9月号」,名古屋市工業研究所,平成22年9月1日,No. 709,p.1-4 甲第19号証:「表面技術 1990年11月号」,社団法人表面技術協会,平成2年11月1日,Vol. 41,No. 11,表紙,目次,p.33-44(p.1105-1116),142(1214) 甲第20号証:「塗料一般試験方法 JIS K5400-1990」,財団法人日本規格協会,平成11年10月1日(第10刷発行),表紙,p.28-29,奥付 甲第1号証ないし甲第17号証は請求書に、甲第18号証ないし甲第20号証は請求人陳述要領書にそれぞれ添付されて提出された。 なお、「甲第1号証」等をその数字により「甲1」等ということがある。 第4 被請求人の主張及び証拠方法 1 被請求人の主張の概要 被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として乙第1号証ないし乙第8号証を提出している。 2 証拠方法 提出された証拠は、以下のとおりである。 乙第1号証:「塗料一般試験方法- JIS K5600-5-4:1999 第5部:塗膜の機械的性質- 第4節:引っかき硬度(鉛筆法)」,財団法人日本規格協会,平成11年5月31日,表紙,p.1-8,奥付 乙第2号証:「ハードコートを中心としたコーティング膜の評価技術 事例集」,株式会社技術情報協会,平成23年2月28日、序章標題頁,p.54-55,奥付 乙第3号証:「塗料一般試験方法- JIS K5600-1-4:2004 第1部:通則- 第4節:試験用標準試験板」,財団法人日本規格協会,平成16年3月20日,表紙,p.1-18,奥付 乙第4号証:「試験計測成績書 産技総研第085-22006号」,地方行政独立法人神奈川県産業技術総合研究所,令和4年8月31日,p.1-2 乙第5号証:「SPCC-SB 冷感圧延鋼板ブライト仕上げ TETSUKO 鉄/鋼切り板 【通販モノタロウ】 SPCC-SB」,[online],株式会社九州ハイテック,平成22年11月7日,インターネット <URL:https://www.monotaro.com/g/05101507/?t.q=SPCC-SB> 乙第6号証:「実験報告書」,株式会社九州ハイテック,令和4年11月9日作成 乙第7号証の1:桐村勝也,「表面アラサと塗膜厚」,実務表面技術,一般社団法人表面技術協会,1971年,18巻7号,p.334-340 (乙第7号証の2は乙7号証の1の出版情報。) 乙第8号証:「スイケイベース理論膜厚について」,株式会社九州ハイテック,令和5年5月1日作成 乙第1号証ないし乙第6号証は答弁書に、乙第7号証の1ないし乙第8号証は被請求人陳述要領書にそれぞれ添付されて提出された。 なお、「乙第1号証」等をその数字により「乙1」等ということがある。 第5 証拠の記載事項 1 甲1 (1)甲1に記載された事項 本件特許に係る出願の優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に発行された甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審が付与した。以下同様。)。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、樹脂製タイル、いわゆる、P-タイル等の各種床用保護シート、その製造方法、及びそのような床材保護シートによって保護された床材に関する。 【背景技術】 【0002】 コンクリートなどの床下面にP-タイル(塩化ビニル樹脂やオレフィン樹脂からなる樹脂製タイル)を布設してなるタイル敷き床面は、美しいために、事務所、公共施設、店舗、飲食店などで広く採用されている。 ・・・ 【0008】 ここで、特開2007-85114号公報(特許文献1)によって提案された技術は、P-タイルやシートからなる床面の表面に、保護機能を高めるために樹脂からなるハードコート層(表面保護層)が形成されている床用保護シートを貼付して保護する技術であり、上記の問題の多いワックスコーティング処理自体を不要とすることができ、かつ、柱に近い部分、部屋の隅に近い部分などへの施工も可能である。 【0009】 このような床用保護シートは、必要に応じ、ハードコート層とは反対の面には粘着剤層(接着剤層)、および、粘着剤層(接着剤層)保護のための離型性に優れた素材からなる離型層が設けられ、適当な大きさに切断されて板状にされ、あるいはロール状に巻かれて供給されて、通常は床や各種床材に、そのまま、あるいは、必要に応じて折り曲げられ、貼り合わされて用いられる。 ・・・ 【0012】 それにもかかわらず、美観維持のために耐摩耗性の面から、より高硬度な床用保護シートが求められている。しかし、鉛筆硬度6H以上のハードコート層を設けることはハードコート層とベースシートとの間の密着性が低くなり、折り曲げ時や巻き取り時にクラックが発生し、あるいは、床用保護シートのカール発生等の問題が生じてしまうために実用的でなくなると云う問題があった。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0015】 本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、床用保護シートにおいて、折り曲げ時や巻き取り時のマイクロクラックが生じにくく、フィルムのカール等が実用上許容できる範囲でありながら、ハードコート層表面が充分に硬く、耐摩耗性に優れ、実際の床材への応用時においても煙草やハイヒールなどによる美観の損傷が少ない床用保護シート、及び、そのような床用保護シートを製造コストを低く製造する製造方法を提供することを目的とする。」 イ 「【発明を実施するための最良の形態】 【0032】 本発明の床用保護シートは、上述のように、ベースシートの片面にハードコート層が設けられた床用保護シートにおいて、互いに鉛筆硬度が異なる樹脂から構成されたハードコート層が3層以上積層され、かつ、該ハードコート層が、ベースシートに接する第1のハードコート層から最外のハードコート層に向かって、これらハードコート層を構成する樹脂の鉛筆硬度が徐々に高くなるように積層されている構成を有する。 【0033】 ベースシートとしては、用途に応じて、材質、厚さを適宜決定するが、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ジアセチルセルロース樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂などが挙げられ、厚さとしては、通常、50μm以上200μm以下が挙げられる。 ・・・ 【0038】 なお、最外のハードコート層は、発明の主旨からも硬いものであることが好ましい。本発明によれば、従来では不可能であった6H以上(5Hより硬い)の鉛筆硬度を有するハードコート層を最外層として設けることも可能となるが、さらに、9H以上(9Hと同等かそれより硬い)の鉛筆硬度のハードコート層を最外層として設けることが可能となり、このとき耐摩耗性も最大となる。 【0039】 上記複数のハードコート層は、ハードコート層被形成面に、紫外線硬化型アクリル系樹脂組成物、あるいは、電子線硬化型アクリル系樹脂組成物を塗布したのち硬化させて形成する方法によると生産性が良く、安価に形成できるので好ましい。なお、種々の鉛筆硬度に相当する硬さの紫外線硬化型アクリル系樹脂組成物、及び、電子線硬化型アクリル系樹脂組成物は市販されており、日本合成化学社、十条ケミカル社等から入手可能である。 【0040】 なお、上記複数のハードコート層が、ベースシートに接する第1のハードコート層から、最外のハードコート層に向かって、これらハードコート層を構成する樹脂の鉛筆硬度が徐々に大きくなるように積層されていることが必要である。このようにハードコート層を配置することにより、上記のような鉛筆硬度が9Hあるいはそれを越える硬さのハードコート層を設けることができ、このとき、一般的な取り扱いでの、層間の剥離やマイクロクラックの発生が防止される。 【0041】 本発明の床用保護シートにおいて、ハードコート層が3層積層されていることが望ましい。2層であると、最外層として特に硬度の高いハードコート層を設けた場合に、層間の剥離やマイクロクラックの発生の可能性が生じ、また、4層以上積層した場合であっても、その積層の効果の増加は少なく、かつ、製造に要するコストが上昇し、生産性も低下する。 【0042】 各層の鉛筆硬度の配置が理想的な例としては、第1のハードコート層を構成する樹脂の鉛筆硬度が2H以上3H以下、該第1のハードコート層と上記最外のハードコート層との間に配された第2のハードコート層を構成する樹脂の鉛筆硬度が4H以上5H以下で、かつ、最外のハードコート層を構成する樹脂の鉛筆硬度が6H以上とすると耐摩耗性が高く(特に9Hとすると耐摩耗性が極めて高い)、耐久性に優れ、また、取り扱いにおいても、マイクロクラックや層間剥離の発生の可能性が極めて少ない、優れた床用保護シートを得ることができる。 【0043】 本発明における樹脂の鉛筆硬度は次のようにして調べたものである。すなわち、サンプルはポリエチレンテレフタレートからなるベースシート(厚さ100μm)の片面に厚さが20μmとなるように評価対象樹脂からなる硬化樹脂層を形成する。この硬化樹脂層に対してJIS K5600に準拠し、鉛筆としては三菱鉛筆社ユニ(UNI)のHB、F、H~9Hを用いて、鉛筆硬度(凝集破壊:表面に塗膜材質がとれたひっかききず又は破壊が、肉眼で認められる)を、測定した。 【0044】 本発明の床用保護シートにおいて、最外のハードコート層には、耐摩耗性、表面硬度、難燃性、あるいは、導電性等を向上させるために、無機粒子を配合することができる。このようなものとしては、シリカ、アルミナ、チタニア、酸化錫、酸化インジウム、酸化アンチモンなどが挙げられるが、その粒子の大きさは、一般には配合による効果が高く、かつ、視認されない程度の大きさ、例えば直径が0.01μm以上1μm以下であることが好ましく、また、配合量も最外のハードコート層用の樹脂組成物100重量部に対して0.5重量部以上50重量部以下であることが、添加による充分な効果が得られ、かつ、平滑性、層間密着性阻害性の点で好ましい。ここで、このように最外のハードコート層に無機粒子を配合し、床材の表面材と用いた場合に、歩行者が滑りにくくなると云う効果も同時に得られ、高い安全性が得られる。 ・・・ 【0046】 本発明の床用保護シートは、本発明の効果を損なわない限りにおいて必要に応じ、別の層を積層することができる。例えば、ハードコート層とは反対の面に、粘着剤層や接着剤層、さらに、離型層を設けても良く、また、出荷、運搬時の保護のために、ハードコート層の上に、さらに粘着剤付きの保護フィルム層を設けることもでき、これらの場合も本発明に含まれる。 【0047】 本発明に係る床用保護シートの一例Aについて図1にモデル的に断面図を示す。 図中、符号1を付して示されるベースシートの一方の面に鉛筆硬度が2H以上3H以下の第1のハードコート層2、鉛筆硬度が4H以上5H以下の第2のハードコート層3、及び、鉛筆硬度が6H以上の最外のハードコート層4がこの順に積層されている。最外のハードコート層4中には無機粒子4aとしてシリカ粒子が配されている。 【0048】 また、ベースシート1の他方の面には、粘着剤層5を介して離型紙層6が積層されているので、必要に応じて適切な形状にカットした後、離型紙層6を剥離して床材や床面にこの床用保護シートαを容易に貼付することができる。」 ウ 「【0062】 <床用保護シートの評価> 床用保護シートの評価としては、表面の鉛筆硬度、耐擦傷性試験、塗膜密着性試験、マイクロクラックの発生の有無、カール性、耐摩耗性、たばこによる変色(床材として)、及び、ヒールマークの発生の有無(床材として)について調べた。 【0063】 床用保護シートの表面の鉛筆硬度は、JIS K5600に準拠し、鉛筆としては三菱鉛筆社ユニ(UNI)のHB、F、H~9Hを用いて、床用保護シートの表面の鉛筆硬度(凝集破壊:表面に塗膜材質がとれたひっかききず又は破壊が、肉眼で認められる)を、測定した。 ・・・ 【0068】 マイクロクラックの発生の有無については、外径の異なる円筒管にハードコート層が外側になるように巻き付け、マイクロクラックの発生の有無を目視で判定した。 外径が1.8mmの円筒管に巻き付けたときでもマイクロクラックの発生がない場合を優れているとして“◎”、2.4mmの円筒管に巻き付けたときでもマイクロクラックの発生がない場合を優れているとして“○”とし、2.8mmの円筒管に巻き付けたときでもマイクロクラックの発生がない場合を充分であるとして“△”とし、2.8mmの円筒管に巻き付けたときにマイクロクラックが発生した場合には不充分であるとして“×”として、それぞれ評価した。 【0069】 なお、上述したような床用保護シートの運搬及び保管のための、直径18cmのロール状に巻き取る時にもマイクロクラックが発生する場合がある。このような巻き取り時にマイクロクラックが発生した場合には、マイクロクラック防止効果が全く不充分として“××”として、それぞれ評価した。 【0070】 カール性についてはそれぞれの床用保護シートをA4サイズにカットし、ハードコート面を上にして、水平な平面に室温で1時間放置した後、その端部が水平な平面からどの程度離れているかを調べた。端部と平面との間の距離が4cm未満であるとき、カールが極めて小さいとして“◎”、4cm以上8cm未満の場合を充分にカールが小さいとして“○”、8cm以上のときにはカールが大きく、実用できないとして“×”と、それぞれ評価した。 【0071】 耐摩耗性については、耐摩耗性試験、JIS A-1453「建築材料及び建築構成部分の摩耗性試験法(研磨紙法)[試験器:テーバ型摩耗試験器、摩耗輪:CS-0、摩耗紙:S42(研磨紙は摩耗回転500回毎に交換)、荷重4.9N(500gf)、回転速度600rpm]に準じておこなった。摩耗回数が3000回のとき、摩耗量が0.2g未満のとき、極めて高い耐摩耗性が得られるとして“◎”、0.2g以上0.6g未満のとき、充分な耐摩耗性が得られるとして“○”、0.6g以上のときには充分な耐摩耗性が得られないとして“×”と、それぞれ評価した。 【0072】 たばこによる変色については、押しつけテストと、継続燃焼テストの2つを行った。押しつけテストでは、塩化ビニル床材(厚さ:3mm、大きさ:30cm×30cm)に対して上記の床用保護シートを粘着剤層(東洋インキ製造社製オリバインBPS5296を厚さ45μmになるように塗布して形成)を介して貼り付けて得たP-タイル表面に、火が付いた日本たばこ産業株式会社製たばこ“キャスターマイルド”を手で押しつけて消し、その後の表面を1m離れたところから観察し、全く変色が認められないときを“2”、わずかに変色が認められるときを“1”、及び、明らかに変色が認められる場合を“0”とし、10人の結果を平均して得た値が1.8以上の場合を優れているとして“◎”、1.5以上1.7以下の場合を優れているとして“○”、1.2以上1.4以下を充分であるとして“△”、1.1未満を不充分であるとして“×”として評価した。」 エ 図1は以下のものである。 [図:0001420668000001.jpg] (2)甲1発明 前記(1)において摘記した記載事項を総合すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。(便宜のために関連する段落番号等を付した。以下同様。) [甲1発明] 「床用保護シートによって保護された床材である、塩化ビニル樹脂からなる樹脂製タイルであって、(【0001】、【0002】) 床用保護シートは、ベースシートの片面にハードコート層が設けられた床用保護シートにおいて、互いに鉛筆硬度が異なる樹脂から構成されたハードコート層が3層以上積層され、かつ、該ハードコート層が、ベースシートに接する第1のハードコート層から最外のハードコート層に向かって、これらハードコート層を構成する樹脂の鉛筆硬度が徐々に高くなるように積層されている構成を有し、(【0032】) このとき、一般的な取り扱いでの、層間の剥離やマイクロクラックの発生が防止され、(【0040】) 9H以上(9Hと同等かそれより硬い)の鉛筆硬度のハードコート層を最外層として設けると、耐摩耗性も最大となり、(【0038】) 複数のハードコート層は、種々の鉛筆硬度に相当する硬さの樹脂組成物で、最外のハードコート層に無機粒子を配合したもので、(【0039】、【0044】) マイクロクラックの発生の有無については、外径の異なる円筒管にハードコート層が外側になるように巻き付け、マイクロクラックの発生の有無を目視で判定し、外径が1.8mmの円筒管に巻き付けたときでもマイクロクラックの発生がない場合を優れているとして“◎”、2.4mmの円筒管に巻き付けたときでもマイクロクラックの発生がない場合を優れているとして“○”とし、2.8mmの円筒管に巻き付けたときでもマイクロクラックの発生がない場合を充分であるとして“△”とし、2.8mmの円筒管に巻き付けたときにマイクロクラックが発生した場合には不充分であるとして“×”として、それぞれ評価されるものであり、(【0068】) 床用保護シートの運搬及び保管のための、直径18cmのロール状に巻き取る時にもマイクロクラックが発生する場合があるが、このような巻き取り時にマイクロクラックが発生した場合には、マイクロクラック防止効果が全く不充分として“××”として、それぞれ評価されるものであり、(【0069】) ベースシートの他方の面には、粘着剤層を介して離型紙層が積層され、適切な形状にカットした後、離型紙層を剥離して床材にこの床用保護シートを貼付するもので、(【0048】) 床用保護シートをA4サイズにカットし、ハードコート面を上にして、水平な平面に室温で1時間放置した後、その端部が水平な平面からどの程度離れているかを調べ、端部と平面との間の距離が4cm未満であるとき、カールが極めて小さいとして“◎”、4cm以上8cm未満の場合を充分にカールが小さいとして“○”、8cm以上のときにはカールが大きく、実用できないとして“×”と、評価されるものである、(【0070】) 塩化ビニル樹脂からなる樹脂製タイル。」 2 甲2 (1)甲2に記載された事項 本件優先日前に発行された甲2には、以下の事項が記載されている。 ア 「【背景技術】 【0002】 従来、床の保護材としては市販のワックスが一般的で、このワックスは主成分が合成樹脂とロウから構成されているために、耐久性に乏しく直ぐに光沢が落ちて被膜がなくなると言った問題点があった。また、耐水性や耐酸性、耐アルカリ性、耐溶剤性に乏しいために黒ずみや変色が発生しやすく、定期的な剥離が必要となり廃液処理が必要で環境にも不適な工法となる。近年、このワックスに代る工法として各種コーティング剤が注目を浴びており、シリコーン系コーティング剤やアルコキシシラン系コーティング剤、紫外線照射型樹脂コーティング剤、ワックス強化型コーティング剤などが多種にわたって商品化されている。しかしながら、いずれのコーティング剤においても下記に示すような問題点などが多くあり、実用化に至っていないのが現状である。 【0003】 シリコーン系やアルコキシシラン系コーティング剤はシランの加水分解によってシラノールを生成し、このシラノールの縮合反応によってシロキサン結合を有し、ガラスに近い骨格の膜を形成する。この膜はシランの選定によって1H~8H位の被膜を形成することができ、床用コーティング剤として高硬度で光沢のある仕様とすることができる。しかしながら、重歩行の床などに耐えうるコーティング仕様にするには少なくとも8Hを超える硬度が必要となる。これは歩行により土砂などを持ち込むためにその研磨力に耐えうるだけの硬度が必要となるからで、この高硬度を得るためにシリコーンやアルコキシシラン単体で高硬度を得ることは、シランの選定などによりある程度は可能ではあるが、上記、8Hを超える硬度を得ることは困難となる。また、高硬度を得るためには設計されたコーティング剤は柔軟性に乏しく、曲げや衝撃に対して割れが発生し易くなる傾向にある。従って塩ビタイル特有の変形に追従できずにコーティング剤にクラックが発生したり、架橋収縮によりタイルなどの反りが発生しやすくなる。反面、このような問題を解決するために硬度を低くするとクラックやタイルの反りの問題点は解消されるが、重歩行に耐えられずに著しい塗膜の劣化、例えば黒ずみや歩行による深傷の侵入などが発生して美観を著しく損ねて修復困難な状態になる可能性がある。更にシリコーン単体やアルコキシシラン単体の場合にはコーティング剤の帯電抵抗値が1×1015Ωと高いために、歩行により静電気が発生しやすくなるなどの問題点もあった。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0074】 本発明においては、コーティング後に全く熱処理を施さなくても充分な硬化が短時間に促進され、粘度が3cSt(mm2/s)以下で床面に流し込んだ時に膜厚が3~7μmに自己平滑化するような適切な流動性を有すると共に、塗膜後90分若しくはそれ以内に指触乾燥し、硬度が鉛筆硬度で8Hを越え、柔軟性を有する塩ビ系化学床のためコーティング剤としてある程度の柔軟性(可撓性)を向上させてひび割れやクラックを防止させ、さらに光沢が60以上、帯電抵抗値が1×1010Ω以下である化学床保護用可撓性付与常温硬化型無機質コーティング剤を提供するものである。 【発明の作用】 【0075】 ▲1▼塗膜の厚みについて; 一般に塗膜の厚みと硬度の関係は、塗膜が厚いほど硬度測定値は高くなり、逆に塗膜が薄いほど硬度測定値は低い数値を示す。本願発明は粘度が3cSt(mm2/s)以下で床面に流し込んだ時に3~7μmと薄膜に自己平滑するにも係らず、硬度が8Hを超える数値が得られるため、例えば、前記引用文献)と比べて、低粘度で硬度の高いコーティング剤である。 【0076】 ▲2▼薄膜で高硬度、高光沢、高自己流動性が必要な理由; 塩ビ系タイルなどに使用する場合にはコーティング剤に可撓性を付与さなければならないが、そのためには可撓性付与剤を添加する方法と、もう一つの方法はコーティング剤の薄膜化を図ることで可とう性を付与させる方法がある。一般的に膜厚が薄いほど塩ビタイルなどの変形に追従しやすくなる傾向にある。しかしながら薄膜化を図ると硬度が犠牲となるために、これを補うべく超微粒コロイダルシリカを使用して、薄膜にて高硬度の特性を有する材料とすることが可能となる。また、石材や塩ビタイルなどに塗布する場合、既に鏡面仕上げや光沢のある塩ビタイルなどに塗布する場合が多く、そのような場合にはコーティング剤の塗膜が厚くなりすぎ、かえって鏡面度や光沢値を落としてしまうことがある。従って超薄膜で自己流動性に優れ、尚且つ高硬度のコーティング剤が必要となる。また、塩ビタイルなどに塗布した場合、塗膜が厚いコーティング剤だと硬化収縮(架橋収縮)によりタイルの反りやクラックなどが発生し易くなる。また、塩ビタイルそのものに柔軟性(可撓性)があるために、その変形にある程度、追従できるような材料設計にしなければならない。」 ウ 「【課題を解決する手段】 【0081】 請求項1の発明は、少なくともアルコキシシランの1種もしくは2種以上が4官能及び3官能のアルコキシシランの混合物から成るポリオルガノシロキサン10~45wt%と、平均径5~20nmの超微粒コロイダルシリカ10~50wt%とを混合したものを主成分とする化学床保護用可撓性付与常温硬化型無機質コーティング剤を提供するものである。 ・・・ 【0096】 この発明においては、特に柔軟性を有するPタイルや塩ビ系化学床用コーティング剤としてある程度の柔軟性(可撓性)を付与させながら、帯電抵抗値が低く静電気の影響のないと共に、本来の高硬度、耐摩耗性、高自己流動性、高光沢を有していて、硬化時間が短縮でき特別な熱処理装置を必要とせず常温にて乾燥が可能で短時間に硬化させることができ、現場での作業性に優れた化学床保護用可撓性付与常温硬化型無機質コーティング剤を提供することができる。」 エ 「【0104】 さらに、前記コーティング剤の静電気特性を改善するためにイオン伝導剤や超微粒子の導電性酸化錫粉末と導電性酸化インジウム粉末及びこれを分散した塗料を0.1wt%~5.0wt%添加した。これらの配合割合を第1表に示す。 ・・・ 【0106】 [図:0001420668000002.jpg] [図:0001420668000003.jpg] 【0107】 上記第1表の試料1~19のコーティング剤を塩ビ系タイルに塗布して、以下の方法により塗膜評価を行いない第2表に示す。 (1)自己平滑性(粘度;3cSt(mm2/s));粘度の測定方法JIS K5600-2-2のフローカップ法に準じて行った。 (2)指触乾燥性(時間);JIS K5400に準ずる。塩ビシート面に塗布された後、塗面の中央に指先で軽く触れて、指先が汚れない状態に塗膜が形成されるまでの乾燥時間を示した。 (3)光沢度;JIS K5400に準ずる。鏡面光沢測定装置を用い、入射角と反射角とが60度の時の反射率を測定し、鏡面光沢度の基準面の光沢度を100とした場合の百分率で示した。 (4)鉛筆強度;JIS K-5400に準ずる。試験片を水平な台の上に塗膜面を上向きにして固定して約45度の角度で鉛筆を持ち、芯が折れない程度に出来るだけ強く塗膜 面に押し付けながら、試験者の前方に均一な速さで約1cm位押し出して塗膜面を引っ掻く。塗膜面の破れに生じない最も硬い鉛筆の硬度記号を示した。 (5)塗布厚;試験片の施工前後の厚みをマイクロメーターか三次元測定機にて測定した。尚、測定は塗布後、約1日経過後のものについて行った。 (6)密着性;JIS K5400記載の碁盤目法に準じ、試験片の塗面に対し1cm2中に1mm2の碁盤目を100個切り、これにセロファンテープを圧着してから剥離し、100個のうちの残存数から、JIS K5400に示す10を最良評価点数に基づき判定した。 (7)クラックの有無;塩ビタイルに塗布後、常温25℃で約1週間放置して塩ビタイルの表面にクラックの発生があるかどうかを観察する。 【0108】 [図:0001420668000004.jpg] 【0109】 第2表から理解されるように、試料1~3のものは4官能及び3官能アルコキシシランのみによる結果で、流動性(粘度)が1.3~1.4cSt(mm2/s)と3cSt(mm2/s)以下で低く自己平滑性に優れているために表面光沢度も80を越える値が得られるが、可撓性が付与させていないためにタイルの反りが激しく、試料1~3についてはクラック又は微クラックが発生した。 【0110】 それに比較して試料4~5につては、可撓性としてシリコーンアルコキシオリゴマーをパラメーターにして評価を行った。その結果、シリコーンアルコキシオリゴマーの添加量を5%から10%に増やしていくと、可撓性は改善されてクラックの発生が抑制することが出来たが多少粘度は上昇した。また、硬度は8H位と硬度劣化を起こすことが分かった。 【0111】 試料6~9については、2官能のアルコキシシランをパラメーターにして評価したところ、流動性、光沢値、硬度、塗膜厚み、密着性とも良好な結果が得られた。但し、試料9の硬度は8Hまで劣化してしまうことが分かった。 【0112】 試料10から14はコロイダルシリカをパラメーターにして評価した時の結果である。水溶性タイプのコロイダルシリカを20~50%に増やした結果では多少の流動性や光沢度の差はあるものの、良好な結果が得られた。溶剤系のコロイダルシリカについても良好な結果が得られた。 【0113】 試料15~19については、硬化触媒とシランカップリング剤の添加量をパラメーターにして評価した結果である。触媒としてリン酸系の添加量を増やしていくと、指触乾燥が大幅に短縮することが可能で、5%の添加量においては約20分位で指触乾燥することができる。一方、有機チタネートの場合も同様に添加量を増やしていくことで指触乾燥を短縮出来る。また、シランカップリング剤を2%から0.5%の範囲で添加量を変えてテストしたが特に粘度、硬度、光沢度などに顕著な差は見られなかった。」 3 甲3 (1)甲3に記載された事項 本件優先日前に発行された甲3には、以下の事項が記載されている。 ア 「ファインコートの反応について ファインコートは、硬化の際に縮合反応(架橋反応)を繰り返しながら非常に硬い皮膜を形成しますが、この縮合反応の際に塗膜が厚いほど、硬化速度が速いほど、床材が軟らかいほど、収縮量が増してクラックやタイルの反り・浮き・目地隙間の拡大などの問題が発生しやすくなります。従って、初期施工においては、層を重ね過ぎたり、硬化促進剤を入れ過ぎたり、軟らかい床材に塗布したりすると、上記のような問題を引き起こす可能性がありますので注意して下さい。 ■タイルの接着状態について ファインコートは、ワックスなどに比べて微量の硬化収縮が発生するために、タイルの接着状態が万全でないとタイルが反ったり、浮いたり、剥がれたり、目地に隙間が発生したりすることがあります。従って、新設の床ではタイルが十分に接着されていることと、既存の店舗ではタイルの末接着箇所や劣化なとが起きないことを確認してから本施工を行うようにして下さい。 ■ファインコートは、トップコート2層までの仕様です ファインコートは高硬度仕様のコーティング剤ですので、必要以上に層を重ねるとクラック(割れ)やタイルの反り、浮き、目地隙間の拡大などの問題が発生することがあります。初期メンテナンスはもちろんのこと、定期メンテナンスにおいても同日に2層以上は塗布しないようにして下さい。」(3頁17~34行) イ 「■本コーティング剤は化学床用コーティング剤です 本コーティング剤はビニール系床用(コンポジションタイル、ホモジニアスタイル、長尺シート CFシートなど)が対象です。他の用途に使用しないで下さい。また、施工の際は必す、試し施工を行ってから仕上がりや密着状態、クラックの有無、その他の確認を行って本施工を行うようにして下さい。 ■本コーティング剤は高硬度仕様のトップコーティング剤です 本コーティング剤はスーパーマーケットや各種商用店舗など、ワックスでの管理が難しい重歩行用コーティング剤として開発致しました。従って、一般的には硬質系床材(コンポジションタイルなど)が主な対象床材となりますが、ホモジニアスタイルやビニール床シート(CFシート・長尺シートなど)においても施工が可能です。但し、これらの床材の場合には、下記に示すような施工上の注意点があったり、仕様が異なったりしますので、必ず内容を確認してから施工するようにして下さい。」(5頁1~12行) ウ 「4 - 1 ファインコートの特性 [図:0001420668000005.jpg] 」(15頁) エ 「5 - 1 初期施工 [図:0001420668000006.jpg] 」(16頁) (2)甲3発明 前記(1)において摘記した記載事項を総合すると、甲3には次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。 [甲3発明] 「高硬度仕様のトップコーティング剤であるコーティング剤が施工される、ビニール系床である、コンポジションタイルあるいはホモジニアスタイルであって、(5頁) コーティング剤は、 床面に、ウレタン樹脂の「スイケイベース」を塗布、次にセラミック系の「スイケイN」の1層目を塗布、次に「スイケイN」の2層目を塗布するもので、(15、16頁) 「スイケイN」の硬度は10H相当であり、(15頁) 硬化の際に縮合反応(架橋反応)を繰り返しながら非常に硬い皮膜を形成し、この縮合反応の際に塗膜が厚いほど、硬化速度が速いほど、床材が軟らかいほど、収縮量が増してクラックやタイルの反り・浮き・目地隙間の拡大などの問題が発生しやすく、 ワックスなどに比べて微量の硬化収縮が発生するために、タイルの接着状態が万全でないとタイルが反ったり、浮いたり、剥がれたり、目地に隙間が発生したりすることがあり、 必要以上に層を重ねるとクラック(割れ)やタイルの反り、浮き、目地隙間の拡大などの問題が発生することがある、(3頁) コンポジションタイルあるいはホモジニアスタイル。」 4 甲4 (1)甲4に記載された事項 本件優先日前に発行された甲4には、以下の事項が記載されている。 ア 「VI-1.化学床用(Pタイル・シート用)」(17頁) イ 「II-1.ファインコートメンテナンスシステムとは ファインコートメンテナンスシステムとは独自に開発したセラミック系コーティング剤(ファインコート)により、メンテナンスを行う方法で、従来の樹脂ワックスが抱えていた様々な問題点を一挙にクリアした画期的なシステムです。 「ファインコート」は主成分がガラスに近い特性を有するため、非常に硬く、光沢のある塗膜を形成し、長期に渡ってその光沢を維持します。」(4頁1~5行) ウ 「II-2.ファインコートの成分と構造 ファインコートはアルコキシシラン(シリコーン)とシリカから構成される材料であり、シリコーンの持つ高光沢感とシリカの持つ高硬度を併せもつ無機系ハイブリッド材料となります。」(5頁1~3行) エ 「II-3.ファインコートの特性 下記に、ワックスとの特性比較を示します。 [図:0001420668000007.jpg] 」(6頁) オ 「V-1.各種コーティング剤との比較 [図:0001420668000008.jpg] 」(15頁) 5 甲5 (1)甲5に記載された事項 本件優先日前に発行された甲5には、以下の事項が記載されている。 ア 「化学床用コーティングシステム Pタイルや長尺シートなどの床用コーティング剤で、床面に塗布することにより、ワックスなどとは比べものにならない位の高品質な仕上がりとなります。(2層仕上げで光沢度80位)また被膜が 非常に硬いので3~12ヶ月に1回位のメンテナンスで良く、基本的に剥離作業が必要ありません。乾燥性に優れ15分位で自然乾燥するのも主な特長です。ベースコートとトップコートを準備しております。 特長 ・・・ 2.長期耐久性 セラミック系コーティング剤なので非常に硬く、光沢を長く維持します。 ・・・ 施工のフローチャート ■初期メンテナンス 前処理 ワックスの剥離、面粗し処理、脱脂処理、洗浄を行います。 乾燥 床面が充分に乾くまで乾燥させます。 ベースコート塗布 2液性のベースコートを塗布します。主剤に硬化剤を5%加えて使用します。 乾燥 約60分以上、乾燥させます。 トップコート塗布(1層目) 2液性のスイケイXか1液性のスーバーXを塗布します。 乾燥 約60分以上、乾燥させます。 中間シーラー塗布 1液性の中間シーラーを薄く塗布します。 トップコート塗布(2層目) 約15分~30分経過して、2液性のスイケイXまたは1液性のスーパーXを塗布します。 乾燥 約30分以上、乾燥させます。 ・・・ ■ファインコートの特性 [図:0001420668000009.jpg] 」 6 甲6 (1)甲6に記載された事項 本件優先日前に発行された甲6には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は装飾用床被覆材及びその製造方法に関し、より詳しくはポリ塩化ビニルシートに表面物性が優れているメラミンシートを積層したメラミンシート積層ポリ塩化ビニル装飾用床被覆材とその製造方法に関する。」 イ 「【0032】前記塩化ビニル樹脂装飾用床被覆材の基材層100はショアー硬さが50~100であり、重合度が700~1500である塩化ビニル樹脂15~25重量%、可塑剤としてジオクチルフタレート4~6重量%、充填材として炭酸カルシウム65~80重量%及び添加剤としてバリウムー亜鉛系組成物1~4重量%をブレンダー又は混合ミキサーで混合した後、バンバリミキサーで混練された塩化ビニル樹脂コンパウンドをカレンダーで120~170℃で圧延して1.6~4.6mmの厚さの硬質塩化ビニル樹脂シートに製造することもできる。」 7 甲7 (1)甲7に記載された事項 本件優先日前に発行された甲7には、以下の事項が記載されている。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、主に土足で使用される施設の床に敷設する合成樹脂製床タイルに関するものであり、詳細には施設内に持ち込まれた土・砂などの踏みつけや物品の引き摺りなどによる傷付きが防止でき、即ち、防汚性及び耐擦傷性に優れ、光沢度が高く、またそれらの効果が持続的で耐久性に優れるため、ワックスを使用したメンテナンス作業等を必要としない合成樹脂製床タイルに関するものである。」 イ 「【課題を解決するための手段】 【0020】 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、合成樹脂製床タイルの表面に、最上層が減摩剤を添加しない鉛筆硬度2H以上の塗膜で、該最上層の下面側の少なくとも1層が減摩剤を添加した、最上層よりも鉛筆硬度で1ランク以上低い塗膜である複層の表面保護層を設ける事により、土・砂などの踏みつけや物品の引き摺りなどによる傷付きが防止でき、即ち、防汚性及び耐擦傷性に優れ、光沢度が高く、またそれらの効果が持続的で耐久性に優れるため、ワックスを使用したメンテナンス作業等を必要としない合成樹脂製床タイルとなることを見い出し本発明を完成させた。」 8 甲8 (1)甲8に記載された事項 本件優先日前に発行された甲8には、以下の事項が記載されている。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、建物等の床面に貼着される塩化ビニールシートやポリオレフィンタイル(Pタイル)などの各種床材を、健全な状態で維持するために施されているUVコーティングの補修や再コーティングに、有効に用いることのできる床用UV硬化型保護シート、並びに該保護シートを用いたフロアの補修方法に関する。」 イ 「【0017】 また、本発明による床用UV硬化型保護シートを、UVコートするフロアの歩行頻度の高い部分に、選択的に貼着しておくことにより、摩耗によって光沢を失った際、その部分のみを剥離して張り替えることが可能であるため、改めてメンテナンスの専門業者に依頼する必要もなく、低いコストと極めて簡易な操作によって、フロア全体としての清浄な光沢を、長期にわたり維持することができる。」 ウ 「【実施例1】 【0043】 床用UV硬化保護シートの作製 ・・・得られた紫外線硬化型樹脂組成物を、幅200mm、長さ500mmで、厚さが75μmの市販のPETフィルム(東洋紡製・商品名コスモシャインA4300:両面易接着コート品)の片面に塗布(塗膜の厚さ10μm)した後、石英水銀灯による紫外線照射を行って硬化させ、膜厚3μmの無色透明で、光沢度80以上のアクリル系紫外線硬化樹脂皮膜を形成した。次いでその裏面に別に用意した微粘着性 接着剤層・・・を転写した後、該微粘着性接着剤の表面に防汚剤としてパーフロロカーボンをスプレーし、40°Cで3日間養生して図1に示すような実質的に3層構造の、床用UV硬化型保護シートを得た。」 第6 当審の判断 1 無効理由1(進歩性違反)について (1)無効理由1-1(甲第1号証を主引用例とする進歩性違反)について ア 本件発明1 (ア)対比 本件発明1と甲1発明を対比する。 a 甲1発明の「塩化ビニル樹脂からなる樹脂製タイル」は、本件発明1の「塩化ビニル系タイル」に相当する。 b 甲1発明において、タイル(床材)に「床用保護シートを貼付する」ことは、本件発明1において、タイルの表面に「保護コーティング層を形成」していることに相当する。 c 甲1発明において、「床用保護シートは、ベースシートの片面にハードコート層が設けられた床用保護シートにおいて、互いに鉛筆硬度が異なる樹脂から構成されたハードコート層が3層以上積層され、かつ、該ハードコート層が、ベースシートに接する第1のハードコート層から最外のハードコート層に向かって、これらハードコート層を構成する樹脂の鉛筆硬度が徐々に高くなるように積層されている構成」であることは、 本件発明1において、保護コーティングが「積層型」であることに相当する。 以上を整理すると、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点1で一致し、相違点1Aないし1Cで相違する。 <一致点1> 塩化ビニル系タイルの表面に保護コーティングを形成した、 積層型保護コーティング塩化ビニル系タイル。 <相違点1A> 本件発明1においては、保護コーティング層は、「ガラス質無機系」とされているのに対し、甲1発明においては、ハードコート層は、「最外のハードコート層に無機粒子を配合した」「樹脂組成物」とされている点。 <相違点1B> 本件発明1においては、トップコート層について、「鉛筆硬度試験と耐摩耗試験の相関データーに基づき測定した場合の鉛筆硬度が10H相当以上」とされているのに対し、甲1発明においては、最外層のハードコート層について、「9H以上(9Hと同等かそれより硬い)の鉛筆硬度」との特定にとどまる点。 <相違点1C> 本件発明1においては、「コーティング処理後においてガラス質層が硬化する際に生じる架橋反応(縮合反応)時の収縮により塩化ビニル系タイル基材側に発生するタイル端部の反りが1mm以下である」のに対し、甲1発明においてはそのような特定を有しない点。 (イ)相違点についての検討・判断 事案に鑑み、相違点1Aと1Cを合わせ検討する。 まず相違点1Aについて、甲1全体をみても、ハードコート層をガラス質とすることは記載も示唆もされておらず、さらに甲2ないし甲5をみても同様に、甲1発明のように運搬及び保管のためロール状に巻き取り得る床用保護シートのハードコート層をガラス質とすることは、記載も示唆もされていない。 そして、相違点1Cについて、まず、相違点1Cに係る本件発明1の構成は、「ガラス質層が」硬化する際に生じる架橋反応(縮合反応)時の収縮に関する数値限定であるから、ガラス質層ではない甲1発明は、相違点1Cに係る本件発明1の構成を適用する前提を欠いているというべきである。 さらに、相違点1Cに係る本件発明1の構成は、「コーティング処理後において」「硬化する際に生じる架橋反応(縮合反応)時の収縮により塩化ビニル系タイル基材側に発生するタイル端部の反り」について数値限定するものでもある。 これに対し、甲1発明は、「運搬及び保管のための、直径18cmのロール状に巻き取」られるものである、「ベースシートの片面にハードコート層が設けられ」、「ベースシートの他方の面には、粘着剤層を介して離型紙層が積層され」たシートとして構成された床用保護シートを、「適切な形状にカットした後、離型紙層を剥離して」床材(タイル)に貼付するものである。加えて、その「マイクロクラックの発生の有無」も、円筒管に巻き付けた状態、言い換えればタイルに貼付する前の状態で判定されるものである。 このような構成である甲1発明の床用保護シートが、仮に、「ハードコート層を構成する樹脂」が硬化収縮が生じるものであったとしても、タイルへ貼付される際あるいは貼付されて以降になってから硬化反応し硬化収縮が生じており、その硬化収縮によりタイル側に反りを発生させるものとは解されず(つまり、硬化収縮離型紙層とともに積層されて床用保護シートとなり、それが巻き取られて運搬及び保管され、適切な形状にカットされ、離型紙層を剥離しタイルに貼付される際あるいは貼付された以降になってから、硬化反応し硬化収縮が生じているとは解されず、タイルに貼付される以前に、タイル端部の反りを発生させ得るような硬化収縮は完了していると解するのが妥当である。)、よって、甲1発明は、相違点1Cに係る本件発明1の構成における数値限定の対象である、「コーティング処理後において」「硬化する際に生じる架橋反応(縮合反応)時の収縮により塩化ビニル系タイル基材側に発生するタイル端部の反り」が成り立つ前提を欠くというべきである。 また甲2ないし甲5をみても、床用保護シートが、タイルに貼付される際あるいは貼付されて以降になってから硬化反応し硬化収縮するということは、記載も示唆もされていない。 よって、甲1発明において、相違点1A及び1Cに係る本件発明1の構成を採用することは、甲2ないし甲5に示される技術的事項を考慮しても、当業者にとって容易になし得た事項ではない。 (ウ)請求人の主張について 上記相違点1A及び1Cに関連し、請求人は以下のように主張している。 a 「構成Cの相違点について、甲2発明は、ガラス質層が硬化する際に生じる硬化収縮(架橋収縮)によりタイルに反りが生じること、及びガラス質無機系コーティング層を備え、且つ、端部に反りが生じないタイルを開示している。また、甲3発明はガラス質層が硬化する際に生じる硬化収縮(架橋収縮)によりタイルに反りが生じること、及びガラス質無機系コーティング層を備え、トップコート層の鉛筆硬度が10Hであり、且つ端部に反りが生じないタイルを実質的に開示している。このことから、ガラス質無機系コーティング層を備え、且つ、端部に反りが生じないタイルが周知技術であることは明らかである。よって、甲1発明に甲2及び甲3に開示された周知技術を組み合わせることにより構成Cを想到することは、当業者にとって容易である。」(請求書21頁13~23行) b 「構成Cの相違点について、甲2発明及び甲3発明により、ガラス質層が硬化する際に生じる硬化収縮(架橋収縮)によりタイルに反りが生じることは開示されています。また、甲2発明及び甲3発明は、係る課題を解決し反りが生じないタイルを開示しています。反りが生じないとは1mm以下であることは明らかであり「タイル端部の反りが1mm以下」であることは実質的に開示されています。 このことから、本件特許発明1及び甲1発明の技術分野において、コーティング処理後においてガラス質層が硬化する際に生じる架橋反応(縮合反応)時の収縮により塩化ビニル系タイル基材側に発生するタイル端部の反りが1mm以下とすることは周知の技術です。」(請求人陳述要領書6頁6~15行) c 「確かに、「タイル端部の反りが1mm以下」との数値についての開示は甲第2号証及び甲第3号証の何れにも認められません。しかしながら、甲第2号証・・・甲第3号証・・・記載があることから、高硬度の保護コーティングを有するタイルに反りとクラックの発生という課題があることは周知です。また、甲第2号証・・・との記載があり、タイルの反りとクラックの発生には、タイルの反りが小さくなればクラックの発生も減少するといった相関関係にあることも周知です。・・・ 係る周知技術に基づけば、クラックの発生を防ぐために「タイル端部の反りが1mm以下」といったタイルの端部に反りを、極めて小さい反りである1mmから全く反りが生じない範囲に設定することは当業者にとって容易です。」(請求人陳述要領書8頁15行~9頁12行) d 「また、・・・甲第2号証及び甲第3号証には、明確な反りの数値の記載やクラックの発生率の開示はないものの、反りの程度をクラックの発生を防ぐことができる範囲内とした保護コーティングを有するタイルを開示しています。前述のとおりタイルの反りとクラックの発生には相関関係が認められること及び本件特許明細書の同段落「経験的に1mm以下の変形量であれば1%以内のクラックの発生量に留めることが出来る。」との記載を鑑みれば、クラックの発生を防ぐことができるタイルの反りの範囲は1mm以下、即ち、1mmから全く反りが生じない範囲内に含まれることは周知技術であるといえます。」(請求人陳述要領書9頁13行~下から3行) e 「また、コーティング剤が硬化する過程で縮合によりその面積が縮むことは技術常識であることを鑑みれば、甲1発明を構成する床用保護シートの成形時や、床用保護シートをタイルへ接着したときにタイルに反りやクラックが発生することもあり得ます。」(請求人陳述要領書10頁20~23行) 上記主張について検討する。 まず、上記aないしcにおける主張は、要約すれば、 甲2、甲3より、端部に反りが生じないタイルが周知技術であり(上記a)、 反りが生じないとは反りが1mm以下であることは明らかで、よってタイル端部の反りが1mm以下とすることは周知の技術であり(上記b)、 タイルに反りとクラックの発生という課題があり、反りが小さくなればクラックの発生も減少することも周知で、係る周知技術に基づけば、クラックの発生を防ぐため、反りを、極めて小さい反りである1mmから全く反りが生じない範囲に設定することは容易である(上記c)、 というものであり、 上記dにおける主張は、 甲2及び甲3には、反りの程度をクラックの発生を防ぐことができる範囲内とした保護コーティングを有するタイルを開示し、そして本件特許明細書の記載に鑑みれば、クラックの発生を防ぐことができるタイルの反りの範囲は1mm以下であるから、即ち、1mmから全く反りが生じない範囲内に含まれることは周知技術である(上記d)、 というものである。 しかしながら、上記(イ)で検討したように、甲1発明は、相違点1Cに係る本件発明1の構成である、「コーティング処理後においてガラス質層が硬化する際に生じる架橋反応(縮合反応)時の収縮により塩化ビニル系タイル基材側に発生するタイル端部の反り」が発生すると解されるものではないから、それに起因するタイルの反り量の範囲を特定する理由がない。 一方、上記eの主張では、「床用保護シートの成形時や、床用保護シートをタイルへ接着したとき」にタイルに反りが発生することもあり得るとしている。 しかしながら、甲1発明において、「床用保護シートの成形時」(タイル貼付前と解される)の床用保護シートの収縮がタイルに反りを生じさせる理由は見当たらず、また、上記(イ)で検討したよう、「床用保護シートをタイルへ接着したとき」になって、架橋反応(縮合反応)が生じるとは解されない。 以上のとおり、上記主張により上記(イ)における検討結果が左右されるものではない。 (エ)まとめ 以上のとおりであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2ないし甲5に開示された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2ないし4 本件発明2ないし4は、本件発明1の構成を全て含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記アで検討した理由と同じ理由により、甲1発明及び甲2ないし甲5に開示された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)無効理由1-2(甲第3号証を主引用例とする進歩性違反)について ア 本件発明1 (ア)対比 本件発明1と甲3発明を対比する。 a 甲3発明の「ビニール系床である、コンポジションタイルあるいはホモジニアスタイル」は、ビニール系床であるコンポジションタイルあるいはホモジニアスタイルは一般的に塩化ビニル樹脂を含むという技術常識を考慮すれば、本件発明1の「塩化ビニル系タイル」に相当する。 b 甲3発明において、タイルに「高硬度仕様のトップコーティング剤であるコーティング剤が施工」され、そしてそのコーティング剤は、「セラミック系の「スイケイN」」を塗布するものであることは、 本件発明1において、タイルの表面に「無機系保護コーティング層を形成」していることに相当する。 c 本件発明1においては、「積層」型無機系保護コーティングが、どのような「積層」か特定するものではないことを踏まえ、 甲3発明において、コーティング剤が、「床面に、ウレタン樹脂の「スイケイベース」を塗布、次にセラミック系の「スイケイN」の1層目を塗布、次に「スイケイN」の2層目を塗布するもの」であることは、 本件発明1において、無機系保護コーティングが「積層型」であることに相当する。 d 甲3発明において、「「スイケイN」の硬度は10H相当」であることは、 本件発明1において、「トップコート層」の「鉛筆硬度が10H相当以上」であることに相当する。 以上を整理すると、本件発明1と甲3発明とは、次の一致点2で一致し、相違点2Aないし2Cで相違する。 <一致点2> 塩化ビニル系タイルの表面に無機系保護コーティング層を形成し、 トップコート層の鉛筆硬度が10H相当以上である、 積層型無機系保護コーティング塩化ビニル系タイル。 <相違点2A> 本件発明1においては、保護コーティング層は、「ガラス質」とされているのに対し、甲3発明においては、1層目の「スイケイベース」はウレタン樹脂、高硬度仕様のトップコーティング剤を構成する2層目の「スイケイN」は「セラミック系」であり、「ガラス質」との特定を有しない点。 <相違点2B> 本件発明1においては、鉛筆硬度は、「鉛筆硬度試験と耐摩耗試験の相関データーに基づき測定した場合の」鉛筆硬度とされているのに対し、甲3発明においては鉛筆硬度に関しそのような測定についての特定を有しない点。 <相違点2C> 本件発明1においては、「コーティング処理後においてガラス質層が硬化する際に生じる架橋反応(縮合反応)時の収縮により塩化ビニル系タイル基材側に発生するタイル端部の反りが1mm以下である」とタイル反り量を特定しているのに対し、 甲3発明においては、そのようなタイル反り量の特定を有しない点。 (イ)相違点についての検討・判断 事案に鑑み、相違点2Cから検討する。 相違点2Cに係る本件発明1の構成は、タイル端部の反りが生じないというものではなく、収縮により反りが発生することを前提として、その数値範囲を特定するものである。 これに対し、甲3発明は、タイルの反りについて、「硬化の際に縮合反応(架橋反応)」を生じ、「タイルの反り」の「問題が発生」することがある旨をいうまでのものであり、「問題が発生」していないときのタイルの反りの数値範囲を特定するものではなく、さらに、「問題が発生」しているときかしていないときかにかかわらず、反りの数値自体も例示的にも示していないものである。 また、甲4、甲5、あるいは甲2、さらには甲1をみても、タイル反りの数値範囲を特定するという観点は示されておらず、さらに、反りの数値自体も例示的にも示されていない。 よって、甲3発明において、相違点2Cに係る本件発明1の構成を採用することは、甲1、甲2、甲4あるいは甲5に示される技術的事項を考慮しても、当業者にとって容易になし得た事項ではない。 (ウ)請求人の主張について 上記相違点2Cに関連し、請求人は以下のように主張している。 a 「構成Cについて、甲3発明はタイル端部の反りを1mm以下にすることを明らかにはしていないが、甲第3号証のP3の「ファインコートの反応について」の項には、「ファインコートは、硬化の際に縮合反応(架橋反応)を繰り返しながら非常に硬い被膜を形成しますが、この縮合反応の際に塗膜が厚いほど、硬化速度が速いほど、床材が柔らかいほど、縮合量が増してクラックやタイルの反り・浮き・目地隙間の拡大などの問題が発生しやすくなります。従って、初期工程においては、層を重ねすぎたり、硬化促進剤を入れすぎたり、柔らかい床材に塗布したりすると、上記のような問題を引き起こす可能性がありますので注意してください。」との記載があり、係る記載は層を重ねすぎず、硬化促進剤を適量にし、塗布する床材を適切に限定すれば、タイルに反りが生じないことを示唆するものであり、実質的にガラス質無機系コーティング層を備え、トップコート層の鉛筆硬度が10Hであり、且つ端部に反りが生じないタイルを実質的に開示しています。端部に反りが生じないとは、端部の反りが1mm以下の範囲に含まれることは明らかであるから、甲3発明は構成Cについても本件特許発明1と共通します。」(請求人陳述要領書13頁下から4行~14頁11行(19頁2~15行も同様。)) b 「構成Cは、前述のとおり、甲3発明と共通するものであるが、甲第2号証の記載から、本件特許発明の技術分野における周知技術でもあることは明らかです。 即ち、甲第2号証の段落0003には「高硬度を得るためには設計されたコーティング剤は柔軟性に乏しく、曲げや衝撃に対して割れが発生し易くなる傾向にある。従って塩ビタイル特有の変形に追従できずにコーティング剤にクラックが発生したり、架橋収縮によりタイルなどの反りが発生しやすくなる。」との記載があることから、高硬度の保護コーティングを有するタイルに反りとクラックの発生という課題があることは周知です。また、甲第2号証の段落0109には「タイルの反りが激しく、試料1~3についてはクラック又は微クラックが発生した。」との記載があり、タイルの反りとクラックの発生には、タイルの反りが小さくなればクラックの発生も減少するといった相関関係にあることも周知です。このことは、本件特許明細書段落0012において「タイルの反りが発生しなければクラックの発生も起き難い。経験的に1mm以下の変形量であれば1%以内のクラックの発生量に留めることが出来る。」と記載されていることから争いはないと思われます。 係る周知技術に基づけば、クラックの発生を防ぐために「タイル端部の反りが1mm以下」といったタイルの端部に反りを、極めて小さい反りである1mmから全く反りが生じない範囲に設定することは当業者にとって容易です。」(請求人陳述要領書14頁20行~15頁10行(19頁16行~20頁3行も同様)) c 「また、甲第2号証は段落0108の第2表において試料6、7、11~16、18及び19においてクラックの発生が認められない、即ち、反りの発生のない鉛筆硬度が9H以上の保護コーティングを有するタイルが開示されています。つまり、甲第2号証は、明確な反りの数値の記載やクラックの発生率の開示はないものの、反りの程度をクラックの発生を防ぐことができる範囲内とした保護コーティングを有するタイルを開示しています。前述のとおりタイルの反りとクラックの発生には相関関係が認められること及び本件特許明細書の同段落「経験的に1mm以下の変形量であれば1%以内のクラックの発生量に留めることが出来る。」との記載を鑑みれば、クラックの発生を防ぐことができるタイルの反りの範囲は1mm以下、即ち、1mmから全く反りが生じない範囲内に含まれることは周知技術です。」(請求人陳述要領書15頁11~21行(20頁4~14行も同様)) 上記主張について検討する。 上記aにおける主張は、要約すれば、「端部に反りが生じないとは、端部の反りが1mm以下の範囲に含まれることは明らかであるから」、甲3発明におけるタイルの「端部の反りが1mm以下の範囲に含まれる」というものである。 しかしながら、甲3発明は、「硬化の際に縮合反応(架橋反応)を繰り返」すトップコーティング剤を用いるもの、すなわち「微量の硬化収縮が発生する」ものであり、甲3全体をみても、「タイルの反り」の「問題が発生」しないときのタイルの反りがゼロmmとは記載されていない。 そして、甲3全体をみても、「タイルの反り」の「問題が発生」している場合についてもしていない場合についても、反りの数値は例示的にも示されていないのであるから、「端部の反りが1mm以下の範囲に含まれる」という主張は、その根拠を欠くというべきである。 次に、上記bにおける主張は、要約すれば、甲2の記載から、「高硬度の保護コーティングを有するタイルに反りとクラックの発生という課題があること」、「タイルの反りが小さくなればクラックの発生も減少するといった相関関係にあること」は周知であり、係る周知技術に基づけば、クラックの発生を防ぐために「タイル端部の反りが1mm以下」といったタイルの端部に反りを、極めて小さい反りである1mmから全く反りが生じない範囲に設定することは容易、というものである。 しかしながら、仮に、上記bにおける主張のように「高硬度の保護コーティングを有するタイルに反りとクラックの発生という課題があること」、「タイルの反りが小さくなればクラックの発生も減少するといった相関関係にあること」が周知であったとしても、甲2には、「クラックの発生も減少する」小さい反りなのかどうか、あるいは、「極めて小さい反り」なのかどうかにかかわらず、タイルの反りの数値について例示的にも記載されていないのであるから、「極めて小さい反りである1mmから全く反りが生じない範囲」(に設定することは容易)という主張は、その根拠を欠くというべきである。 次に、上記cにおける主張は、要約すれば、甲2では、第2表で、クラックの発生が認められない、即ち、反りの発生のないタイルが開示され、つまり、反りの程度をクラックの発生を防ぐことができる範囲内としたタイルを開示しており、タイルの反りとクラックの発生には相関関係が認められること及び本件特許明細書の記載を鑑みれば、クラックの発生を防ぐことができるタイルの反りの範囲は1mm以下、即ち、1mmから全く反りが生じない範囲内に含まれることは周知技術であるというものである。 しかしながら、上記第5の2(1)エに摘記したように、甲2の第2表は、コーティング剤を塩ビ系タイルに塗布して、自己平滑性、指触乾燥性、光沢度、鉛筆強度、塗布厚、密着性、そしてクラックの有無の評価を示したものであって、反りについての評価を含むものではなく、「試料1~3のものは・・・タイルの反りが激しく、・・・クラック又は微クラックが発生した」(段落【0109】)という記載まではみられるものの、「試料1~3」以外の、「クラックの有無」について「良好」とされているタイルについても、また「試料1~3」についても、タイルの反りがどの程度なのか例示的にも数値が記載されているものではないから、「クラックの発生を防ぐことができるタイルの反りの範囲は1mm以下」という主張は、その根拠を欠くというべきである。 なお、上記cにおける主張では本件特許明細書の記載を摘記しているが、「経験的に」と述べているまでで周知であると記載しているものでもない本件特許明細書の記載から、「クラックの発生を防ぐことができるタイルの反りの範囲は1mm以下」ということの周知性が推定されるものではない。 以上のとおり、上記主張により上記(イ)における検討結果が左右されるものではない。 (エ)まとめ 以上のとおりであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明及び甲4に記載された発明あるいは甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2ないし4 本件発明2ないし4は、本件発明1の構成を全て含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記アで検討した理由と同じ理由により、甲3発明及び甲4に記載された発明あるいは甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 無効理由3(サポート要件)について 事案に鑑み、以下、無効理由3、無効理由4、無効理由2の順で検討する。 (1)請求人の主張について 請求人は、無効理由3について、次の主張をしている。 ア 「本件特許発明1の「トップコート層が鉛筆硬度試験と耐摩耗試験の相関データーに基づき測定した場合の鉛筆硬度が10H相当以上、かつコーティング処理後においてガラス質層が硬化する際に生じる架橋反応(縮合反応)時の収縮により塩化ビニル系タイル基材側に発生するタイル端部の反りが1mm以下である」との構成は、表面を高硬度とした場合に架橋反応(縮合反応)時の収縮により塩化ビニル系タイルに反りが生じるといった周知の課題を解決する単なる目的を示すものに過ぎない。また、係る目的を達成することができた実施例についての記載は認められるが、実施例の構成が具体的ではない。また、甲第3号証には「ファインコートは、硬化の際に縮合反応(架橋反応)を繰り返しながら非常に硬い被膜を形成しますが、この縮合反応の際に塗膜が厚いほど、硬化速度が速いほど、床材が柔らかいほど、縮合量が増してクラックやタイルの反り・浮き・目地隙間の拡大などの問題が発生しやすくなります。従って、初期工程においては、層を重ねすぎたり、硬化促進剤を入れすぎたり、柔らかい床材に塗布したりすると、上記のような問題を引き起こす可能性がありますので注意してください。」との記載(P3 「2 使用にあたっての注意事項 ファインコートの反応について」)を鑑みると、「架橋反応(縮合反応)時の収縮により塩化ビニル系タイル基材側に発生するタイル端部の反りが1mm以下である」とするためには、膜厚や硬化促進剤の量を適切な量にし、塗布する床材を適切に選択することが周知であることは明らかである。してみると、本件特許の発明の詳細な説明の記載は「架橋反応(縮合反応)時の収縮により塩化ビニル系タイル基材側に発生するタイル端部の反りが1mm以下」とすることができる構成について、その一部を限定的に示したものに過ぎず、本件特許発明1の範囲よりも本件特許の発明の詳細な説明が開示する範囲が狭いことは明らかである。」(請求書27頁19行~28頁14行) イ 「・・・甲第2号証の記載及びタイルという製品の性質から、高硬度のトップコート層を保護層として有するタイルの技術分野においてタイルに反りが生じないようにすることは当業者が目指す目的であり解決されるべき課題であることは明らかです。従って、「タイル端部の反りが1mm以下」との表現は、本件特許発明1における目的・課題をどの程度解決するかを開示しているに過ぎず、どのようにして「タイル端部の反りが1mm以下」とするかが、明細書において明らかでなければ、「タイル端部の反りが1mm以下」と対応する事項が発明の詳細な説明に記載されているとはいえません。また、補足すると、「タイル端部の反りが1mm以下」とはタイルの性質であり、クラックの発生を防ぐことができる機能と捉えることもできます。このように捉えたとしても、どのようにして「タイル端部の反りが1mm以下」とするかが、明細書において明らかでなければ、「タイル端部の反りが1mm以下」と対応する事項が発明の詳細な説明に記載されているとはいえません。 この点について、・・・本件特許明細書の表4、表6には「タイル端部の反りが1mm以下」となる各層の厚みおよび鉛筆硬度が示された実施例が示されていることから、係る表4及び表6の実施例が、発明の詳細な説明における「タイル端部の反りが1mm以下」に対応する記載とも思われます。 しかしながら、・・・鉛筆硬度は相対的な測定値です。そのため、測定条件が異なれば測定値が同一であったとしても同様の効果が生じるとはいえません。鉛筆硬度の測定条件について、本件特許明細書には段落0041に膜厚みを10μmとすること、試験板として「金属鋼板」を使用することは記載されているが、その他の記載はありません。乙1には「附属書A(規定) 必要な補足情報」により提示が義務づけられている事項がありますが、これらの情報の開示はありません。また、鉛筆硬度の測定値に影響を与える鉛筆についての開示もありません。そのため、表4,6の「タイル端部の反りが1mm以下」となる実施例の各層の鉛筆硬度の測定方法を当業者は発明の詳細な説明から認識することができず、表4及び表6の実施例が、発明の詳細な説明における「タイル端部の反りが1mm以下」に対応する記載であるとはいえません。また、表4,6の「タイル端部の反りが1mm以下」となる実施例からクラックの発生を1%以下とするといった課題を常に解決することができると、当業者は認識することはできません。」(請求人陳述要領書28頁4行~29頁6行) ウ 「また、本件特許の発明の詳細な説明において、鉛筆硬度の10HはJIS規格により測定しており、「鉛筆硬度試験と耐摩耗試験の相関データーに基づき測定した場合の鉛筆硬度が10H相当」の数値については記載がない。」(請求書28頁15~17行) エ 「以上より、本件特許発明1は本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものではない。 本件特許発明2-4は本件特許発明1に従属するものであるから、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものではない。 以上より、本件特許発明1-4は本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、本件特許1-4は無効とすべきものである。」(請求書28頁18~25行) (2)判断 ア サポート要件の考え方について 一般に「特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの」とされている。(平成17年(行ケ)10042号判決参照。) 以下、この観点に立って検討する。 イ 検討 上記(1)に記載したように、無効理由3は、本件発明1の、 「B トップコート層が鉛筆硬度試験と耐摩耗試験の相関データーに基づき測定した場合の鉛筆硬度が10H相当以上、 C かつコーティング処理後においてガラス質層が硬化する際に生じる架橋反応(縮合反応)時の収縮により塩化ビニル系タイル基材側に発生するタイル端部の反りが1mm以下である」 との構成(以下、上記第2に記載した請求人による本件発明の分説に合わせ、「構成B」と「構成C」、全体を「構成BC」という。)に対し、サポート要件違反を主張するという内容であることに従い、以下、構成BCに関してサポート要件を検討する。 (ア)発明の詳細な説明に記載された発明であることについて 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。(以下、本件特許明細書の発明の詳細な説明を、単に「発明の詳細な説明」という場合がある。) a 構成Bの「トップコート層」「の鉛筆硬度が10H相当以上」ということに関して、表6に、「塩ビ系タイル」(段落【0055】)に塗布された「トップコート層」の「硬度(H)」が10H以上である実施例(硬度(H)が10である試料番号3~6、硬度(H)が11である試料番号11、12、硬度(H)が12である試料番号8、14、18、19)が記載されている。 (なお、それら以外の、試料番号1、2、7、9、10、13、15~17、20及び21は、「本発明の範囲外」(段落【0056】)とされるものである。) b 構成Bの「鉛筆硬度試験と耐摩耗試験の相関データーに基づき測定した場合の鉛筆硬度」ということに関して、段落【0041】には、「*JIS鉛筆硬度試験の規格は6Hまでであるが、実際は10Hまでの鉛筆が存在するため、その鉛筆で硬度測定試験を実施。11H以上については表1の鉛筆硬度試験と耐摩耗試験の相関データー(図1)に基づき、11H,12Hを推定(相当と)した。」との説明が記載されている。 c 構成Cの「コーティング処理後においてガラス質層が硬化する際に生じる架橋反応(縮合反応)時の収縮により塩化ビニル系タイル基材側に発生するタイル端部の反りが1mm以下である」ということに関して、段落【0064】に、「この発明においては、塩化ビニル系基材上に形成する無機系保護トップコーティン層について、コーティング剤の架橋反応時(縮合反応時)時に発生する収縮に伴う内部歪を吸収することにより、タイルの反り等を1mm以下にとどめ」と記載され、さらに、【表6】に、「塩ビ系タイル」(段落【0055】)の「タイルの反り(mm)」が1mm以下である実施例(上記aと同じ、試料番号3~6、8、11、12、14、18及び19)が記載されている。 以上aないしcを総合すれば、構成BCが発明の詳細な説明に記載されたものであることは明らかである。 (イ)発明の課題を解決できると認識できることについて a 発明の詳細な説明の記載について 発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 (a)「【技術分野】 【0001】 本発明は、本出願人が提案した特許第4957926号の改良に関し、塩化ビニル系タイルの表面に高硬度の無機質コーティングを施して、後にリコートなどのメンテナンスを必要としないメンテナンスフリー型として提供できる積層型無機系保護コーティング塩化ビニル系タイル及びそのコーティング方法に関するものである。 【背景技術】 【0002】 従来、床用タイルとしては大理石や御影石、人工石などの各種石材や、ビニル系床タイル、ビニル系シートなどの化学床用塩化ビニル系タイルなどがいろいろなところで使用されてきたが、近年ではこれに代わるべく、人工的に作られたセラミックタイルなどが使用されるようになってきた。このセラミックタイルは高温で焼結させて製作され、高硬度の特性を有する人工的な石材であり、御影石などと同等の硬さを有するため、歩行による光沢の落ちが殆どなく、施工後のメンテナンスが不要となるメンテナンスフリー型の床材として注目を浴びている。また、従来の大理石や御影石など、天然石材に比べると安価であり、最近では天然石材の代用品として使用されるだけでなく、ビニル系床タイルやビニル系シートなど、化学床用塩化ビニル系タイルに取って代わる床材としても、いろいろな商用施設などで多く使用されるまでに至った。 【0003】 しかしながら、このセラミックタイルは従来の床材にない長所を有する反面、石材同様に重量物であるために高層階での施工が困難であったり、高温焼成時に発生する巣に汚れが詰ってしまい、美観を著しく損ねたりする。また、非常に硬い素材であるが故に滑って転倒すると重大事故につながったり、長時間の歩行によって感じたりするといった多くの難題を抱えていた。よって近年では、再度、塩化ビニル系タイルやビニル系シートの使用が改めて見直されつつある。この塩化ビニル系タイルは安価であり、柔らかい床材であるために歩行性に優れ、いろいろな種類や形状を自由に選ぶことができ、新店のみだけでなく、改装店、既存店など、あらゆるところで汎用的に使用することができる。更には軽量床材であるため、高層階での使用も容易にできるなど、セラミックタイルにない特長を有している。しかしながら、施工後はワックスなどで美観の維持管理に努めなければならず、定期的にワックス掛けやバフ掛けなどの処理が必要となるため、それに相当する維持管理費が必要であった。また、このワックス工法は定期的に剥離作業が必要であり、この剥離作業に伴う廃液処理などが環境問題の観点から問題となる工法でもあった。 【0004】 ・・・塩化ビニル系タイルの表面にセラミックタイルに近いガラス系コーティング層を形成させるのは一般的に技術的に困難とされている。理由はセラミックタイルなどと異なり、塩化ビニル系タイルは130℃前後の耐熱性しか有さないため、高温焼結による高硬度化は望めず、さらには塩化ビニル系タイル自身が非常に軟らかい床材でもあるために、この表面上に超硬質ガラス系皮膜を形成して、セラミックタイルと同様の高硬度や耐摩耗性、長期光沢維持性などを有するメンテナンスフリー型コーティング層を形成するは技術的に困難とされている。 【0005】 本課題を改善すべく、前回、提案した・・・発明は、無機系コーティング層による床メンテナンス工法の提案であった。・・・ 【0006】 また、上記提案においては鉛筆硬度が9H程度と低く、セラミックタイルに比べると耐摩耗性、長期光沢維持性などが不充分であった。即ち、コーティング剤を床用として使用した場合に光沢劣化の主たる原因となるのは、砂や土砂などの持ち込みによるものが非常に多いとされる。これらの砂や土砂の硬度は9H~12Hとされているため、この硬さと同等かそれ以上の硬度を有するコーティング材でなければコーティング層の表面が摩耗し、光沢の維持は困難となり、メンテナンスフリー型タイルとして提供するのは困難である。 ・・・ 【0009】 ・・・セラミックタイルに近いメンテナンスフリー型コーティング層を得るには、従来のコーティング層よりは遥かに高硬度タイプのコーティング仕様とする必要があり、そのためには今まで以上の高硬度化や耐摩耗性、長期光沢維持性を有する仕様にしなければならない。また、その皮膜を常温硬化、又は、塩化ビニル系タイルの耐熱性温度130℃以下の熱処理にて形成しなければならない。そのためにはトップコート層に4官能シランやシリカによる膜を形成し、その皮膜が焼結体に近い(架橋密度が極めて高い)構造にしなければ超高硬度皮膜を形成することは困難である。そうなると必然的に、その縮合反応時(架橋反応)に発生する収縮による内部歪を吸収できるような構造にしなければ、タイルの反りやクラックなどの発生が問題となり、製品としては不完全となる。加えて、使用時に発生するタイルの変形などについても、ある程度は追従できるような柔軟性を付与させる必要がある。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0010】 本発明においては、コーティング層の超高硬度化を図るために、今まで以上に架橋密度の向上を図らなければならない。同時にコーティング剤の硬化時に発生する収縮による内部歪を吸収できる構造が必要となる。つまり、塩化ビニル系タイルの反りやクラックなどを吸収できるコーティング層を形成させる必要がある。それが可能となればセラミックタイルが持つ高硬度、耐摩耗性、これによる長期光沢維持性やメンテナンスフリー化、環境適合性(廃液処理が不要)などの特徴と、塩化ビニル系タイルが持つ安価さ、汎用性(新店、改装店、既存店など全てへの導入)、高層階への導入、歩行性の向上、転倒事故の回避、美観の長期維持などの特徴を併せ持つ積層型無機系保護コーティング処理付き塩化ビニル系タイル及びそのコーティング方法の提案が望まれる。」 (b)「【0011】 請求項1の発明は、塩化ビニル系タイルの表面に無機系保護コーティング層を形成し、トップコート層の鉛筆硬度が10H以上、かつコーティング処理後においてタイル端部の反りが1mm以下である積層型無機系保護コーティング塩化ビニル系タイルを提供するものである。 【0012】 この発明において、塩化ビニル系タイル上に形成する無機系保護トップコーティン層については、10H以上の高硬度仕様にしなければならないのと、その皮膜にクラックがないこと、コーティング剤の硬化収縮時にタイルの反りが1mm以下になるように抑制されることが前提である。タイルの反りが発生しなければクラックの発生も起き難い。経験的に1mm以下の変形量であれば1%以内のクラックの発生量に留めることが出来る。それにより、塩化ビニル系タイルが持っている柔軟性を犠牲にすることなく、超高硬質の皮膜を塩化ビニル系タイルの上に形成出来、ビニル系床タイルでありながら、セラミックタイルが持つ高硬度、耐摩耗性、長期光沢維持性やメンテナンスフリー、環境適合性(廃液処理が不要)と、ビニル系床タイルが持つ安価さ、汎用性(新店、改装店、既存店など全てへの導入)、高層階への導入、歩行性の向上、転倒事故の回避、美観の長期維持などの特徴を併せ持つことが出来、歩行やカート及び台車などによる使用時のタイル自体の変形や衝撃に対しても追従できる柔軟性を付与させた積層型無機系保護コーティング塩化ビニル系タイルを提供することができる。」 (c)「【0040】・・・(表1)にコーティング層の表面硬度をパラメーターにしたときの皮膜の耐摩耗性と光沢劣化性の結果を示すが、コーティング剤の硬度が低いと、当然ながら摩耗が激しく、コーティング剤の光沢が徐々に劣化していく。このテストの結果より、コーティング層の硬度は少なくとも10H以上を有する仕様でなければ耐摩耗性に優れたメンテナンスフリー化は望めない。 【0041】 [図:0001420668000010.jpg] *硬度はJIS鉛筆硬度試験により膜厚みは10μmで金属鋼板に塗布して測定。 *鉛筆硬度試験はJISK5600-5-4により測定。 *耐摩耗試験はJISH8503-1989により1時間の研磨材落下試験にて測定。 *研磨材はGC#100を使用。」 (d)「【実施例6】 【0055】 このようにコーティング剤のアンダーコート層、中間コート層、トップコート層を表6に示す硬度及び膜厚に調整して、ポリ塩化ビニルの含有量が30%~40%で、□30Cm×2mmの塩ビ系タイルであるホモジニアスタイルに塗布し、40℃にて10時間熱処理を施した。これらの各試料についてタイルの反り及びコート層表面のクラックの発生率を調べた。第6表中クラックの発生が1%以下のものには○、1%以上のものには×を付して示してある。尚、表中*印は本発明の範囲外のものである。 【0056】 [図:0001420668000011.jpg] *印は本発明の範囲外のものである。」 (e)「【0058】 また、本発明の範囲内である前記試料8のコーティング方法を表7に示すように、ポリ塩化ビニル含有量及び厚みを異なえた塩化ビニル基材に適用した。塩化ビニル系タイルの反りとコーティング剤のクラックの発生状態を示したものを下記に示す。尚、*印は本発明の範囲外のものである。 【0059】 [図:0001420668000012.jpg] *印は本発明の範囲外のものである。 *-は測定せず。 【0060】 ・・・これに対し、本発明の範囲外である塩化ビニル系タイルに適用した試料22、24のトップコート層を目視により観察したところ1%以上のクラックの発生が見られた。」 b 課題について 上記aの発明の詳細な説明の記載から、本件発明1の課題は、 「メンテナンスフリー型として提供できる積層型無機系保護コーティング塩化ビニル系タイル」(a(a)【0001】)において、 「コーティング剤を床用として使用した場合に光沢劣化の主たる原因となるのは、砂や土砂などの持ち込みによるものが非常に多いとされる。これらの砂や土砂の硬度は9H~12Hとされているため、この硬さと同等かそれ以上の硬度を有するコーティング材でなければコーティング層の表面が摩耗し、光沢の維持は困難となり、メンテナンスフリー型タイルとして提供するのは困難である。」(a(a)【0006】)という背景から、 コーティング層の硬度として「10H以上」(a(c)【0040】)という高硬度とすること(構成B)を前提として、 「塩化ビニル系タイルの表面に高硬度の無機質コーティング」(a(a)【0001】)されていても、「タイルの反りやクラックなどの発生が問題」(a(a)【0009】)とならないようにすることと、把握される(以下、「課題1」という。)。 c 課題の解決について 課題1は、タイルの反り、またクラックの発生をゼロとするということではなく、「タイルの反りやクラックなどの発生」を問題とならないものに留めるということである(発明の詳細な説明をみても、タイルの反りをゼロ、またクラックの発生をゼロに抑えることを目指す旨の記載はない。)。この点を踏まえ、課題1の解決について検討する。 すると、発明の詳細な説明には、 まず、「経験的に1mm以下の変形量であれば1%以内のクラックの発生量に留めることが出来る。それにより、塩化ビニル系タイルが持っている柔軟性を犠牲にすることなく、超高硬質の皮膜を塩化ビニル系タイルの上に形成出来」(a(b)【0012】)という記載があり、 そして、段落【0055】及び段落【0056】の表6(a(d))、並びに、段落【0058】、【0060】及び段落【0059】の表7(a(e))には、実施例として、「タイルの反り」が1mm以下の場合、クラックの発生は1%以下、(また、逆に「タイルの反り」が2~3mmもしくは4~5mmの場合、クラックの発生は1%以上)となることが記載されている。 よって、これらの発明の詳細な説明の記載から、「タイル端部の反りが1mm以下」である構成Cを有する本件発明1は、「1%以内のクラックの発生量に留めることが出来る。それにより、塩化ビニル系タイルが持っている柔軟性を犠牲にすることなく、超高硬質の皮膜を塩化ビニル系タイルの上に形成出来」(a(b)【0012】)るものであり、すなわち、課題1を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるといえる。 (なお、上記表6、7に記載される「タイルの反り」という用語の意味について補足すると、発明の詳細な説明では、「タイルの反り」とはタイル端部の反りを指す旨が説明されており(段落【0043】「タイルの反りはタイルの端部の反り」等。)、表6、7に記載の「タイルの反り」もタイル端部の反りを指すことは明らかである。) (ウ)請求人の主張について a 上記(1)アにおける主張を要約すれば、 ・構成Cは、「表面を高硬度とした場合に架橋反応(縮合反応)時の収縮により塩化ビニル系タイルに反りが生じるといった周知の課題を解決する単なる目的を示すものに過ぎない。」 ・「実施例の構成が具体的ではない。」、「本件特許の発明の詳細な説明の記載は・・・タイル端部の反りが1mm以下」とすることができる構成について、その一部を限定的に示したものに過ぎず、本件特許発明1の範囲よりも本件特許の発明の詳細な説明が開示する範囲が狭いことは明らかである。」 というものである。 しかしながら、上記(イ)cで検討したように、本件発明1の構成C(「コーティング処理後においてガラス質層が硬化する際に生じる架橋反応(縮合反応)時の収縮により塩化ビニル系タイル基材側に発生するタイル端部の反りが1mm以下」)は、課題1を解決する数値限定であって、「タイル端部の反りが1mm以下」という数値の範囲内であれば課題1を解決できると当業者が認識できるものである。これ自体が発明の課題あるいは(単なる)目的ではなく、また付け加えれば、上記1(1)アで検討したように、当業者が容易に想到できる構成でもない。 さらに、サポート要件において、発明の詳細な説明に、構成Cの数値範囲内とすることができるすべての例の記載が求められるものではない。 以上のとおり、上記主張から、本件発明1がサポート要件違反とされるものではない。 b 上記(1)イにおける主張を要約すれば、 ・発明の詳細な説明は、鉛筆硬度の測定条件について情報の開示を欠いており、「そのため、表4,6の「タイル端部の反りが1mm以下」となる実施例の各層の鉛筆硬度の測定方法を当業者は発明の詳細な説明から認識することができず、表4及び表6の実施例が、発明の詳細な説明における「タイル端部の反りが1mm以下」に対応する記載であるとはいえません。また、表4,6の「タイル端部の反りが1mm以下」となる実施例からクラックの発生を1%以下とするといった課題を常に解決することができると、当業者は認識することはできません。」 というものである。 しかしながら、上記(イ)bで検討したように、構成Bの10H以上という硬度は、実際的には 「コーティング剤を床用として使用した場合に光沢劣化の主たる原因となるのは、砂や土砂などの持ち込みによるものが非常に多いとされる。これらの砂や土砂の硬度は9H~12Hとされているため、この硬さと同等かそれ以上の硬度を有するコーティング材でなければコーティング層の表面が摩耗し、光沢の維持は困難となり、メンテナンスフリー型タイルとして提供するのは困難である。」ことに対し求められる硬度をいうものであって、測定条件によって求められる硬度の実際、言い換えれば課題1が左右されるというものではなく、よって、その測定条件によって、課題1の解決についての認識が左右されるというものではない。 以上のとおり、上記主張から、本件発明1がサポート要件違反とされるものではない。 c 上記(1)ウの主張については、構成Bの「鉛筆硬度試験と耐摩耗試験の相関データーに基づき測定した場合の鉛筆硬度が10H相当以上」という事項は、「10Hまでの鉛筆が存在するため、その鉛筆で硬度測定試験を実施。11H以上については表1の鉛筆硬度試験と耐摩耗試験の相関データー(図1)に基づき、11H,12Hを推定(相当と)し」(段落【0041】)という発明の詳細な説明の内容を一般化したものといえ、そして、鉛筆硬度の測定を課題とするものでもない本件発明1が、この鉛筆硬度の測定に関する一般化により、発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるとする理由もない。 以上のとおり、上記主張から、本件発明1がサポート要件違反とされるものではない。 d 上記aないしcでは本件発明1について検討したが、上記(1)エにおける主張によれば、本件発明2ないし4がサポート要件違反とされる理由は「本件特許発明1に従属するものであるから、本件特許の発明の詳細な説明に記載されたものではない。」というものであり、そして以上で検討してきたように、本件発明1がサポート要件違反とする理由はないから、本件発明2ないし4も、サポート要件違反とする理由はない。 (3)無効理由3の小括 上記(2)において検討したとおり、本件発明1ないし4は発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たす。 したがって、請求人の主張する無効理由3によっては、請求項1ないし4に係る特許は、特許法123条1項4号の規定に違反するものとして無効とすることはできない。 3 無効理由4(明確性要件)について (1)請求人の主張について 請求人は、無効理由4について次の主張をしている。 ア 「鉛筆硬度」の測定に関連して (ア)「本件特許発明1及び5に記載の「鉛筆硬度」との文言は、前述のとおり「鉛筆硬度」の測定は不安定なものであり、塗布する材及びその表面処理によりその数値が変更するものであるところ、発明の詳細な説明にも厳密な測定方法の限定がなく、その意味するところ及び特許発明1及び5はその外縁が不明確である。」(請求書28頁下から2行~29頁3行) (イ)「・・・鉛筆硬度は相対的な測定値です。そのため、測定条件が異なれば測定値も異なるものとなります。また、測定条件が異なれば、同一の測定値であっても同様の効果が生じるとはいえません。従って、当業者が課題を解決することができる本件特許発明1及び本件特許発明5を認識するためには、少なくとも「付属書A(規定) 必要な補足情報」が提示すべきとしている測定条件と使用する鉛筆の情報の開示が必要です。しかしながら、本件特許明細書にこれらの測定条件の開示はありません。 よって、本件特許発明1及び5は不明確です。 ・・・「真の鉛筆硬度」の測定条件について仮に当業者が過度の試行錯誤を必要とせず容易に選択できたとしても、本件特許発明1及び5における鉛筆硬度の測定条件を認識することができるわけではありません。」(請求人陳述要領書29頁11行~30頁4行) イ 「耐摩耗試験の相関データー」に関連して (ア)「また、本件特許発明1に記載の「耐摩耗試験の相関データー」は前述のとおり、10Hを超えた部分の相関を示すグラフについて何ら説明がなく、なぜ係る「耐摩耗試験の相関データー」となるのかが不明であるから、特許発明1はその外縁が不明確である。」(請求書29頁4~7行) (イ)「・・・近似曲線を描くことで推定値を求めることはあるが、7H~10Hの実測値から図1のグラフが導き出されるかは不明です。また、被請求人特許明細書は、相関データーの7H~10Hまでの測定方法について「附属書A(規定) 必要な補足情報」において提示すべきとされている測定条件等の鉛筆硬度の測定条件を十分に提示していないため、いかなる測定方法により得られた鉛筆硬度と耐摩耗試験の結果が係る相関データーとなるのかが不明です。」(請求人陳述要領書30頁7~13行) ウ 「タイル端部の反りが1mm以下」に関連して 「また、「トップコート層が鉛筆硬度試験と耐摩耗試験の相関データーに基づき測定した場合の鉛筆硬度が10H相当以上、かつコーティング処理後においてガラス質層が硬化する際に生じる架橋反応(縮合反応)時の収縮により塩化ビニル系タイル基材側に発生するタイル端部の反りが1mm以下である」との構成は周知の課題・目的を単に示すものに過ぎず、また、係る目的を達成する発明について、発明の詳細な説明においても具体的且つ十分な記載が認められず、その意味するところが不明であることから、本件特許発明1はその外縁が不明確である。」(請求書29頁8~15行) エ まとめ 「以上より、本件特許発明1、本件特許発明5、本件特許発明1に従属する本件特許発明2-4及び本件特許発明5に従属する本件特許発明6-9は明確ではなく、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、本件特許1-9は無効とすべきものである。」(請求書29頁16~20行) (2)判断 ア 明確性要件の考え方について 一般に「特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきことはいうまでもない」とされている。(平成21年(行ケ)第10434号判決参照。) 以下、この観点に従って検討する。 イ 検討 (ア)「鉛筆硬度」の測定に関連して 本件発明1における「鉛筆硬度が10H相当以上」という事項は、本件特許明細書の、「また、上記提案においては鉛筆硬度が9H程度と低く、セラミックタイルに比べると耐摩耗性、長期光沢維持性などが不充分であった。即ち、コーティング剤を床用として使用した場合に光沢劣化の主たる原因となるのは、砂や土砂などの持ち込みによるものが非常に多いとされる。これらの砂や土砂の硬度は9H~12Hとされているため、この硬さと同等かそれ以上の硬度を有するコーティング材でなければコーティング層の表面が摩耗し、光沢の維持は困難となり、メンテナンスフリー型タイルとして提供するのは困難である。」(段落【0006】)という記載を参照すれば、どのような硬さの硬度をいうのか、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものではない。 (イ)「耐摩耗試験の相関データー」に関連して 本件特許明細書の段落【0041】の「*JIS鉛筆硬度試験の規格は6Hまでであるが、実際は10Hまでの鉛筆が存在するため、その鉛筆で硬度測定試験を実施。11H以上については表1の鉛筆硬度試験と耐摩耗試験の相関データー(図1)に基づき、11H,12Hを推定(相当と)した。」という記載及び図1を参照すれば、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものではない。 なお付け加えれば、本件発明1の構成は「10H相当以上」というものであって、仮に、11H以上の鉛筆硬度の定義に、不明確な点があったとしても、そのことが直ちに第三者に不測の不利益を及ぼすほどに本件発明1を不明確とするものではない。 (ウ)「タイル端部の反りが1mm以下」に関連して 「タイル端部の反りが1mm以下」という記載は明確であり、請求人の主張は、これが不明確である根拠を構成しているとはいえない。 また付け加えれば、上記2(2)イ(イ)b、cでも検討したように、発明の詳細な説明の記載からみて、「タイル端部の反りが1mm以下」ということは、本件発明1のタイルの特性を示す発明の構成であって、これが発明の課題あるいは目的というものでもなく、発明の課題解決における技術的意味も明らかなものである。 (エ)上記(ア)ないし(ウ)では本件発明1について検討したが、上記(1)エにおける主張を踏まえれば、本件発明2ないし9について、明確性要件違反とされる理由が他にあるものではなく、そして以上検討してきたように、本件発明1を明確要件とする理由はないから、本件発明2ないし9も、明確性違反とする理由はない。 (3)無効理由4の小括 上記(2)において検討したとおり、本件発明1ないし9は不明確とはいえないから、本件特許請求の範囲の請求項1ないし9の記載は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たす。 したがって、請求人の主張する無効理由4によっては、請求項1ないし9に係る特許は、特許法123条1項4号の規定に違反するものとして無効とすることはできない。 4 無効理由2(実施可能要件)について (1)請求人の主張について 請求人は、無効理由2について次の主張をしている。 ア 「タイル端部の反りが1mm以下」に関連して (ア)「・・・「タイル端部の反りが1mm以下」とすることは目的・課題そのものに過ぎないことも明らかである。しかしながら、本件特許には係る目的・課題を解決する具体的な構成が開示されておらず、いわゆる当業者が本発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。」(請求書25頁最下行~26頁4行) (イ)「まず、甲第2号証には「高硬度を得るためには設計されたコーティング剤は柔軟性に乏しく、曲げや衝撃に対して割れが発生し易くなる傾向にある。従って塩ビタイル特有の変形に追従できずにコーティング剤にクラックが発生したり、架橋収縮によりタイルなどの反りが発生しやすくなる。」(段落0003)、「塩ビタイルなどに塗布した場合、塗膜が厚いコーティング剤だと硬化収縮(架橋収縮)によりタイルの反りやクラックなどが発生し易くなる。」(段落0076)、「・・・可撓性が付与させていないためにタイルの反りが激しく、試料1~3についてはクラック又は微クラックが発生した。」(段落0109)との記載があります。このことから、高硬度のトップコート層を保護層として有するタイルの技術分野においてタイルに反りが生じないようにすることは当業者が目指す目的であり解決されるべき課題であることは明らかです。また、タイルという製品の性質からも、反りは忌避される状態でありこれを防止することは当然に目指される目的です。従って、「タイル端部の反りが1mm以下」との表現は、本件特許発明1における目的・課題をどの程度解決するかを開示しているに過ぎず、どのようにして「タイル端部の反りが1mm以下」とするかが、明細書において明らかでなければ、その実施をすることはできません。また、補足すると、「タイル端部の反りが1mm以下」とはタイルの性質であり、クラックの発生を防ぐことができる機能と捉えることもできます。このように捉えたとしても、どのようにして「タイル端部の反りが1mm以下」とするかが、明細書において明らかでなければ、その実施をすることはできません。 ・・・確かに、段落0039、0049、0051には各層の硬度と厚みについての言及がなされており、表4及び表6には「タイル端部の反りが1mm以下」の実施例が示されていることから、係る表4及び表6の実施例の通りに各層の厚みと硬度を設定すれば、本件特許発明1の「タイル端部の反りが1mm以下」との機能・作用を生じさせることができ、本件特許発明1を実施することができるとも思われます。 しかしながら、・・・本件特許明細書の段落0033~0038には、積層型無機系保護コーティングの各層を形成するコーティング剤を組成する物質と、その分量を記載はされているものの、各層を形成するコーティング剤について個別具体的な説明がないため、各層の形成を当業者が実施できるとはいえません。 ・・・よって、当業者であっても本件特許明細書の記載から、本件特許発明1の「タイル端部の反りが1mm以下」との機能・作用を生じさせる構成を実施することができません。」(請求人陳述要領書22頁5行~23頁23行) イ 「鉛筆硬度」の測定に関連して (ア)「本件特許発明1及び5に記載の「鉛筆硬度」とのパラメータはその意味するところが不明確である。「鉛筆硬度」のパラメータについては、平成24年4月19日公開の特開2012-78325号公報(甲第9号証)において「フィルム状物や板状物などの被評価体の引っかき硬度を評価する方法として、JIS K5600に規定されている鉛筆硬度試験が従来から一般的に採用されている。しかしながら、鉛筆硬度試験では、使用する鉛筆の硬さや削り方、設置方法などにより評価結果のバラツキが発生する場合がある。また、鉛筆硬度試験では、評価装置により客観的に評価するのではなく、測定者の目視により主観的にキズの程度を評価する。このため、同じ被評価体でも、測定者によって評価結果のバラツキが発生する恐れがある。さらに、F、H、2H、3H、4H、5H・・・という、小数点以下がない断続的な値で評価するため、バラツキが大きくなり、各被評価体で真の硬度差を見出しにくいという問題があった。」(段落0002)との問題点が指摘されている。また、請求人が、第三者機関に依頼して、自社製品である床用コーティング剤RGCのトップコート剤についてアクリル板、ガラス板及び金属鋼板であるSPCC(SB),SUS304(2B)、SUS316(2B)、SUS430(2B)に塗布し、膜厚みを10μmとし、JISK5600-5-4の規格による鉛筆硬度試験をしたところ、・・・鉛筆硬度試験は塗布する材が測定結果に影響するものであることは明らかである。また、請求人はさらに、SUS316(2B)について表面をバフ研磨したものと本鏡面研磨したものについても鉛筆硬度試験を行ったところ、・・・鉛筆硬度試験は塗布する材の表面処理が測定結果に影響するものであることは明らかである。しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明における塗布する材についての記載は金属鋼板とあるのみであり(本件特許明細書段落0041)、鉛筆硬度試験の結果に影響を与える構成について十分な開示がされていない。これに、鉛筆硬度の測定結果が不安定なものであることも鑑みれば、本件特許が示す鉛筆硬度のパラメータが意味するところが不明確であり、本特許の発明の詳細な説明はいわゆる当業者が本発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。」(請求書26頁5行~27頁9行) (イ)「また、・・・乙1の「1.2」に「この方法は,鉛筆硬度に著しい差のある一連の塗板の相対的等級付けに最適である。」との記載からも明らかなように、鉛筆硬度は相対的な測定値です。そのため、測定条件が異なれば鉛筆硬度の測定値は変化します。本件特許明細書には段落0041に膜厚みを10μmとすること、試験板として「金属鋼板」を使用することは記載されているが、その他の記載はありません。乙1には「附属書A(規定) 必要な補足情報」により提示が義務づけられている事項がありますが、これらの情報の開示はありません。そのため、本件特許発明1の「タイル端部の反りが1mm以下」との機能・作用を生じさせる各層の鉛筆硬度がどのように測定されたのかが不明です。」(請求人陳述要領書23頁11~20行) (ウ)「ここで、鉛筆硬度の性質について説明すると、乙1の「1.2」に「この方法は,鉛筆硬度に著しい差のある一連の塗板の相対的等級付けに最適である。」との記載からも明らかなように、鉛筆硬度は相対的な測定値です。このことは、「月間名工研技術情報2010年9月号」に掲載された「塗膜の鉛筆硬度~試験結果の正しい評価のために~」との論文の第2列、5~9行目の「JIS規格にも記載がありますが、使用する鉛筆の製造業者間および同一製造業者のバッチ間によっても試験結果に差が生じることがあります。これは鉛筆硬度試験が絶対性能を表すものではなく、相対的な評価にすぎないことを意味します。」(甲18)との記載、「表面技術 VOL.41 No.11 1990」に掲載された「塗膜の硬度と耐摩耗性」と題された論文の「2.硬度」の項には鉛筆硬度を含む硬度の性質として「硬度という物理的意味はあいまいなことが多く、ある硬さ試験方法に基づく相対的な比較を示すことになる。特に、塗膜においては、乾燥する過程で変化したり、環境条件に左右されるため絶対的な値にはなり難い。」(甲19)との記載があるように、鉛筆硬度が測定方法の条件を同一にした場合にのみ、その測定値の比較が意味を持つ相対的な値に過ぎないことは本件特許優先日当時の技術常識です。 このような鉛筆硬度の相対性に鑑み、JIS規格は乙1の「付属書A(規定) 必要な補足情報」により、以下の測定条件を「試験方法を実施するうえで適切なものとして提示しなければならない。」としています。 a) 素地の材質、素地の厚さ及び素地調整 b) 試験塗料の素地への塗装方法 c) 乾燥(焼付け)、及び試験前の塗膜養生(適用する場合)の時間及び条件 d) マイクロメートル単位による乾燥膜厚、JIS K 5600-1-7に規定する測定方法の種別、及び単一塗膜系か多層塗膜系かの区別 e) 9.1の条件と異なる場合は、その試験の温度及び湿度 また、この測定条件について、「付属書A(規定) 必要な補足情報」は、「必要な情報は、なるべく受渡当事者間で協定されていることが望ましく、また、試験品に関連する国際規格若しくは国家規格、又はその他の文献から、全体的又は部分的に引用してもよい。」としており、測定条件を試験品に関連する国際規格若しくは国家規格、又はその他の文献に記載とするのであれば、引用部分を明示することが求められています。 以上から、鉛筆硬度試験はその相対的な性質に鑑み、少なくとも乙1の「付属書A(規定) 必要な補足情報」に記載の事項については提示することが技術常識であることは明らかです。 ・・・しかしながら、まず、乙1の「8.素地」にはJIS K 5600-1-4の規定についての言及が認められるが、「付属書A(規定) 必要な補足情報」の「試験品に関連する国際規格若しくは国家規格、又はその他の文献から、全体的又は部分的に引用してもよい。」との文言から、測定条件の提示を省略した場合、JIS K 5600-1-4の記載が測定条件となるとしたものではありません。 乙2に示されている「試験板が柔らかい」との文言は曖昧で、これをもって素地を特定できるとは思えません。 乙3に、測定条件についての言及があることは認められますが、具体的とはいえません。 ・・・そもそも、本件特許発明1が実施可能か否かと、適切な鉛筆硬度の測定を当業者が把握できるか否かは関係ありません。本件特許発明1の実施のために重要なことは、本件特許明細書段落0041及び表1に示す耐摩耗性を発揮することができる10H相当以上の測定条件が明確であることです。鉛筆硬度は乙2にも記載のとおり、素地の硬さに大きな影響を受けるものであります。そのため、極めて硬い素地を使用して測定した10Hと、比較的柔らかい素地を使用して測定した10Hとでは、比較的柔らかい素地を使用して測定した10Hの方が、コーティング自体の硬度が高く、耐摩耗性が高いことが想定されます。つまり、最低でも「付属書A(規定) 必要な補足情報」が提示を求める測定条件について開示されていなければ、本件特許発明1の実施をすることはできません。 さらには、鉛筆硬度試験に使用する鉛筆も測定値に大きく影響を与えます。このことは、乙1の「6.2 鉛筆」の項に「備考2.同程度の相対評価結果が得られることを条件として,受渡当事者間の協定によって複数製造業者の鉛筆を使用してもよい。」と記載されていることからも明らかです。同項では、続いて製品・製造会社の例を挙げたうえで、「比較試験には,同一製造業者の鉛筆を使用することを推奨する。製造業者間及び同一製造業者のバッチ間で差が認められることもある。」との記載がされています。以上の記載によれば、JIS規格では、使用する鉛筆が異なることにより鉛筆硬度試験の相対的等級付といった性質が失われてしまう、言い換えると使用する鉛筆が異なると測定値が異なるおそれがあるとしていることは明らかです。鉛筆硬度試験では、一般財団法人日本塗料検査協会の鉛筆硬度試験用の鉛筆を使用することが一般的です。しかし、鉛筆硬度試験用の鉛筆は6Hまでしか準備されていないため、7H以上の測定には市販の鉛筆を使用する必要があります。鉛筆硬度試験用の鉛筆と市販の鉛筆の違いについて、「塗料一般試験方法JIS K5400-1990」の解説の解28~29頁には「検査した鉛筆の濃度記号とビッカース硬度はよく相関するが、市販の鉛筆はばらつきが大きく、相関があるとはいえないというデータがある。」(甲20)との記載があるように、鉛筆の濃度記号とビッカース硬度の相関関係に疑義があります。このことから、使用する鉛筆の製品・製造会社が異なる場合の鉛筆硬度は、仮に同一の硬度が測定されたとしても、耐摩耗性が同様に生じるとはいえないことは明らかです。 このような鉛筆硬度試験の測定値に影響を与える鉛筆について、本件特許明細書には記載がありません。 以上から、本件特許明細書には、本件特許発明の10H相当以上の鉛筆硬度の測定条件が不明であり、当業者といえども本件特許発明1の実施をすることができないことは明らかです。」(請求人陳述要領書24頁1行~27頁2行) ウ 「耐摩耗試験の相関データー」に関連して (ア)「10Hを超えた部分の相関を示すグラフについて何ら説明がなく、なぜ係る「耐摩耗試験の相関データー」となるのかが不明であることから、いわゆる当業者が本発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。」(請求書27頁10~13行) (イ)「確かに、近似曲線を描くことで推定値を求めることはあるが、7H~10Hの実測値から図1のグラフが導き出されるかは不明です。また、・・・特許明細書は、相関データーの7H~10Hまでの測定方法について「附属書A(規定) 必要な補足情報」において提示すべきとされている測定条件等の鉛筆硬度の測定条件を十分に提示していないため、いかなる測定方法により得られた鉛筆硬度と耐摩耗試験の結果が係る相関データーとなるのかが不明です。 よって、当業者といえども耐摩耗試験の相関データーによる鉛筆硬度の測定をすることができません。」(請求人陳述要領書27頁18~25行) (2)判断 ア 実施可能要件の考え方について 一般に「方法の発明における発明の実施とは,その方法の使用をすることをいい(特許法2条3項2号),物の発明における発明の実施とは,その物を生産,使用等をすることをいうから(同項1号),方法の発明については,明細書にその方法を使用できるような記載が,物の発明については,その物を製造する方法についての具体的な記載が,それぞれ必要があるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその方法を使用し,又はその物を製造することができるのであれば,上記の実施可能要件を満たすということができる。」とされている〔平成22年(行ケ)10348号判決参照。〕。 以下、この観点に立って検討する。 イ 検討 (ア)「タイル端部の反りが1mm以下」に関連して 上記(1)アにおける主張は、要約すれば、 「どのようにして「タイル端部の反りが1mm以下」とするかが、明細書において明らかでなければ、その実施をすることはできません。」「実施例の通りに各層の厚みと硬度を設定すれば、本件特許発明1の「タイル端部の反りが1mm以下」との機能・作用を生じさせることができ、本件特許発明1を実施することができるとも思われます」が、「積層型無機系保護コーティングの各層を形成するコーティング剤を組成する物質と、その分量を記載はされているものの、各層を形成するコーティング剤について個別具体的な説明がないため、各層の形成を当業者が実施できるとはいえません。」 というものである。 しかしながら、本件特許明細書においては、「また、塩化ビニル系タイル上に形成する無機系保護トップコーティン層の架橋反応時(縮合反応時)に発生するコーティング剤の収縮に伴う内部歪を積層コーティングにより吸収し、タイルの反り等を1mm以下にとどめることが出来」(段落【0065】)と記載されているように、「タイル端部の反りが1mm以下」という構成は、「積層コーティングよりなされる」と説明されており、個別具体的なコーティング剤の選択によりなされるものではない。 そして、どのように積層するか、すなわちいかなる厚み、硬度の層を積層するかは、本件特許明細書の表6等に記載されており、よって、「タイル端部の反りが1mm以下」という構成の物を当業者が製造できないということはできない。 (イ)「鉛筆硬度」の測定に関連して 上記(1)イにおける主張は、要約すれば、鉛筆硬度は、測定条件により、測定値は同じ「10H」でも硬度が異なり、「「付属書A(規定) 必要な補足情報」が提示を求める測定条件について開示されて」おらず、使用する鉛筆を含め「本件特許発明の10H相当以上の鉛筆硬度の測定条件が不明であり、当業者といえども本件特許発明1の実施をすることができないことは明らかです。」というものである。 これについて、まず、鉛筆硬度は、文献を示すまでもなく標準的で当業者に慣用されている指標であり、本件特許明細書にその測定方法についての具体的記載がなくとも、「10H相当以上」かどうかを含め、当業者であればこれを測定することはできるものである。また、明細書は試験報告書ではなく、試験報告に求められる事項が記載されていなくても、それで直ちに実施要件違反となるものではない。 そして、測定条件によっては、数値は同じ「10H」でも硬度が異なるという主張については、本件特許明細書の、「また、上記提案においては鉛筆硬度が9H程度と低く、セラミックタイルに比べると耐摩耗性、長期光沢維持性などが不充分であった。即ち、コーティング剤を床用として使用した場合に光沢劣化の主たる原因となるのは、砂や土砂などの持ち込みによるものが非常に多いとされる。これらの砂や土砂の硬度は9H~12Hとされているため、この硬さと同等かそれ以上の硬度を有するコーティング材でなければコーティング層の表面が摩耗し、光沢の維持は困難となり、メンテナンスフリー型タイルとして提供するのは困難である。」(段落【0006】)という記載を参照すれば、どのような程度の硬さのものを対象にすればいいのか(製造すればいいのか)、当業者が理解できるものである。 (ウ)「耐摩耗試験の相関データー」に関連して 上記(1)ウにおける主張は、要約すれば、「10Hを超えた部分の相関を示すグラフについて何ら説明がなく、なぜ係る「耐摩耗試験の相関データー」となるのかが不明である」、及び、「測定条件を十分に提示していないため、いかなる測定方法により得られた鉛筆硬度と耐摩耗試験の結果が係る相関データーとなるのかが不明」というものである。 これについて、まず、「10Hを超えた部分の相関を示すグラフについて何ら説明がな」いという点については、本件特許明細書の段落【0041】の「*JIS鉛筆硬度試験の規格は6Hまでであるが、実際は10Hまでの鉛筆が存在するため、その鉛筆で硬度測定試験を実施。11H以上については表1の鉛筆硬度試験と耐摩耗試験の相関データー(図1)に基づき、11H,12Hを推定(相当と)した。」という記載及び図1を参照すれば、説明はなされているといえるものであり、そして、「測定条件を十分に提示していない」という点については、上記(ア)で検討したとおり、どのように製造すればいいのか当業者が理解できる範囲のものである。 (3)無効理由2の小括 上記(2)で検討したとおり、本件発明1ないし9について、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 したがって、請求人の主張する無効理由2によっては、請求項1ないし9に係る特許は、特許法123条1項4号の規定に違反するものとして無効とすることはできない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、無効理由1ないし4はいずれも理由がないものであり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件請求項1ないし9に係る発明についての特許を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人の負担とする。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-800064

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