特許無効審判
2022-800025
弾塑性履歴型ダンパ
- 審判番号
- 2022-800025
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2014-124689
- 登録番号
- 5667716
- 請求日
- 2022年03月25日
- 審決日
- 2024年03月28日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】大和ハウス工業 株式会社
- 【請求人代理人】芝 哲央
- 【請求人代理人】小菅 一弘
- 【請求人代理人】森林 克郎
- 【請求人代理人】山上 和則
- 【請求人代理人】雨宮 沙耶花
- 【請求人代理人】大林 良寛
- 【被請求人】Next Innovation 合同会社
- 【被請求人代理人】鮫島 正洋
- 【被請求人代理人】高橋 正憲
- 【被請求人代理人】石橋 茂
- 【被請求人代理人】藤田 達郎
- 審判長/審判官
- 審判長 前川 慎喜
- 審判官 住田 秀弘
- 審判官 居島 一仁
- 分類
- P1113.113-YAA(E01D) / P1113.121-YAA(E01D) / P1113.536-YAA(E01D) / P1113.537-YAA(E01D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 行政事件訴訟法46条特許法135条特許法169条2項民事訴訟法61条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第134条の2第1項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第44条第1項、特許法第135条、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第5667716号発明「弾塑性履歴型ダンパ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第5667716号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-20〕について訂正することを認める。
特許第5667716号の請求項1、2、4、5、7~20に係る発明についての本件審判の請求は成り立たない。
特許第5667716号の請求項3、6に係る発明についての本件審判の請求を却下する。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 請求の趣旨及び答弁の趣旨
1 請求の趣旨
特許第5667716号の請求項1~20に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。
2 答弁の趣旨
本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。
第2 手続の経緯
1 本件特許の出願の経緯の概略
特許第5667716号(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成24年12月14日に出願された特願2014-222012号(以下「原出願」という。優先日は平成23年12月16日。)の一部を平成26年6月17日に新たな特許出願としたものであって、平成26年12月19日に設定登録がなされた。
2 本件無効審判の手続の経緯
本件特許無効審判における手続の経緯は以下のとおりである。
令和 4年 3月25日:審判請求書提出
令和 4年 7月22日:審判事件答弁書、訂正請求書提出
令和 5年 5月26日:審理事項通知(起案日)
令和 5年 7月 7日:口頭審理陳述要領書、上申書提出(請求人)
令和 5年 8月 4日:口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
令和 5年 9月 1日:上申書提出(請求人)
令和 5年 9月 1日:第1回口頭審理
令和 5年 9月14日:上申書差出(請求人)
令和 5年 9月15日:上申書提出(被請求人)
令和 5年10月 2日:上申書提出(請求人)
令和 5年10月 2日:上申書提出(被請求人)
なお、請求人提出の審判請求書、令和5年7月7日付け口頭審理陳述要領書、被請求人提出の審判事件答弁書、令和5年8月4日付け口頭審理陳述要領書を、それぞれ、請求書、請求人要領書、答弁書、被請求人要領書ということがある。
第3 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨
特許第5667716号の明細書、特許請求の範囲を本件請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~20について訂正することを求める。
2 訂正の内容
令和4年7月22日提出の訂正請求書をもってされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を
「建物及び/又は建造物に適用可能な弾塑性履歴型ダンパであって、
一対の第一補強部と、
前記一対の第一補強部を連結し、互いの向きを異ならせて設けられた板状の一対の剪断部と、
前記一対の剪断部は、連結部を介して一連に設けられ、
前記一対の第一補強部の両端間にそれぞれ接続した一対のプレートとを備え、
前記剪断部は、前記第一補強部に対して傾斜を成し、
前記第一補強部は、前記剪断部に、該第一補強部と該剪断部とのなす角が鋭角となるように形成され、
前記剪断部は、入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とする弾塑性履歴型ダンパ。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4の「請求項1-3の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。」という記載を、
「請求項1又は2に記載の弾塑性履歴型ダンパ。」と訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5の「請求項1-4の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。」という記載を、
「請求項1、2及び4の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。」と訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7の「請求項6記載の弾塑性履歴型ダンパ。」という記載を、
「請求項1、2、4及び5の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。」と訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8の「請求項6又は7記載の弾塑性履歴型ダンパ。」という記載を、
「請求項1、2、4、5及び7の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。」と訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9の「請求項6又は7記載の弾塑性履歴型ダンパ。」という記載を、
「請求項1、2、4、5及び7の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。」と訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10の「請求項6-9の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。」という記載を、
「請求項1、2、4、5及び7-9の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。」と訂正する
(請求項10の記載を引用する請求項11、請求項11を引用することにより請求項10の記載を間接的に引用する請求項12、及び請求項10を直接的又は間接的に引用する請求項17も同様に訂正する。)。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項13の「請求項6-12の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。」という記載を、
「請求項1、2、4、5及び7-12の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。」と訂正する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項14の「請求項6-12の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。」という記載を、
「請求項1、2、4、5及び7-12の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。」と訂正する。
(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項15の「請求項6-14の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。」という記載を、
「請求項1、2、4、5及び7-14の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。」と訂正する。
(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項16の「請求項6-15の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。」という記載を、
「請求項1、2、4、5及び7-15の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。」と訂正する。
(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項18の「請求項1-17の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。」という記載を、
「請求項1、2、4、5及び7-17の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。」と訂正する
(請求項18の記載を引用する請求項19、及び、請求項18の記載を直接的又は間接的に引用する請求項20も同様に訂正する。)。
(15)訂正事項15
ア 訂正事項15-1
訂正前の明細書の段落【0007】を、
「本発明に係る弾塑性履歴型ダンパは、建物及び/又は建造物に適用可能な弾塑性履歴型ダンパであって、一対の第一補強部と、前記一対の第一補強部を連結し、互いの向きを異ならせて設けられた板状の一対の剪断部と、前記一対の第一補強部の両端間にそれぞれ接続した一対のプレートとを備え、前記一対の剪断部は、連結部を介して一連に設けられ、前記剪断部は、前記第一補強部に対して傾斜を成し、前記第一補強部は、前記剪断部に、該第一補強部と該剪断部とのなす角が鋭角となるように形成され、前記剪断部は、入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収を行う。
例えば、前記剪断部は、平面状を成す。また、前記連結部は、前記剪断部と一体、別体の何れであっても良い。」
と訂正する。
イ 訂正事項15-2
訂正前の明細書の段落【0008】を、
「また、前記剪断部は、傾斜方向が互いに異なる部分が交互に並ぶ波形を成すようにしても良い。更に、前記一対のプレートは、入力により互いに異なる方向に変位する第一構造物と第二構造物とにそれぞれ接合されているようにしても良い。」
と訂正する。
2 訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の「一対の剪断部」について、「前記一対の剪断部は、連結部を介して一連に設けられて、」との構成を付加限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
イ 新規事項の有無
訂正事項1で付加限定した「前記一対の剪断部は、連結部を介して一連に設けられて、」との構成は、
「二つの剪断部を連結部で連結してなるので、より大きな地震時の振動を吸収することが出来る。更に、二つの剪断部の向きを異ならせることで、一方向だけでなく複数の方向からの地震時の振動を吸収することが出来る。」(段落【0014】)、
「図2に示すように、本発明が適用された弾塑性履歴型ダンパ10は、二つの剪断部11、11を連結部12で連結して全体が一連となるように形成されている。」(段落【0022】)、との記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。
ウ 特許請求の範囲の拡張、変更の存否
訂正事項1は、「前記一対の剪断部は、連結部を介して一連に設けられて、」との構成を付加限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
(3)訂正事項3、4
訂正事項3、4は、上記訂正事項2において請求項3が削除されたことに伴い、それぞれ請求項4、5が記載を引用する複数の請求項のうち、請求項3の記載を引用しないものとする訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
(4)訂正事項5
訂正事項5は、訂正前の特許請求の範囲の請求項6を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
(5)訂正事項6~14
訂正事項6~14は、上記訂正事項2において請求項3が削除され、上記訂正事項5において請求項6が削除されたことに伴い、それぞれ請求項7、8、9、10、13、14、15、16、18が直接的又は間接的に記載を引用する複数の請求項のうち、請求項3、6の記載を引用しないものとする訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
(6)訂正事項15(15-1、15-2)
訂正事項15は、訂正事項1、2及び5に伴い、訂正後の特許請求の範囲の記載と整合を図るために、発明の詳細な説明の記載を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
(7)一群の請求項について
訂正前の請求項1~20について、請求項2~20は、直接または間接的に請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~20に対応する訂正後の請求項1~20は、特許法第134項の2第2項に規定する一群の請求項である。
3 訂正請求のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とし、同法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~20について訂正することを認める。
第4 本件発明について
1 本件訂正発明
上記第3のとおり本件訂正請求による本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1ないし20に係る発明(以下、請求項番号に従って「本件訂正発明1」等といい、全体を「本件訂正発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
なお、(A)~(H)、(K)の分説記号は、請求書の記載に基づいて合議体で付した。
「【請求項1】
(A)建物及び/又は建造物に適用可能な弾塑性履歴型ダンパであって、
(B)一対の第一補強部と、
(C)前記一対の第一補強部を連結し、互いの向きを異ならせて設けられた板状の一対の剪断部と、
(K)前記一対の剪断部は、連結部を介して一連に設けられ、
(D)前記一対の第一補強部の両端間にそれぞれ接続した一対のプレートとを備え、
(E)前記剪断部は、前記第一補強部に対して傾斜を成し、
(F)前記第一補強部は、前記剪断部に、該第一補強部と該剪断部とのなす角が鋭角となるように形成され、
(G)前記剪断部は、入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収を行うことを特徴とする
(H)弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項2】
前記剪断部は、傾斜方向が互いに異なる部分が交互に並ぶ波形を成すことを特徴とする請求項1記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記一対のプレートは、入力により互いに異なる方向に変位する第一構造物と第二構造物とにそれぞれ接合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項5】
前記剪断部は、平面状を成すことを特徴とする請求項1、2及び4の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
前記連結部は、前記剪断部と一体又は別体であることを特徴とする請求項1、2、4及び5の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項8】
前記一対の剪断部の間隔は、前記連結部側から反対側の端部に向かって鋭角状に漸次広がるように形成されていることを特徴とする請求項1、2、4、5及び7の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項9】
前記一対の剪断部の間隔は、前記連結部側から反対側の端部に向かって鈍角状に漸次広がるように形成されていることを特徴とする請求項1、2、4、5及び7の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項10】
前記剪断部は、前記連結部と反対側の端部に前記第一補強部を有することを特徴とする請求項1、2、4、5及び7-9の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項11】
前記第一補強部は、前記剪断部に対して一連に設けられていることを特徴とする請求項10記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項12】
前記第一補強部は、前記剪断部と一体又は別体であることを特徴とする請求項11記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項13】
前記剪断部及び前記連結部は、前記プレートを介して、基盤上に固設されていることを特徴とする請求項1、2、4、5及び7-12の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項14】
前記剪断部及び前記連結部は、前記プレートを介して、相対する基盤間に固設されていることを特徴とする請求項1、2、4、5及び7-12の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項15】
前記連結部は、第二補強部によって補強されていることを特徴とする請求項1、2、4、5及び7-14の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項16】
前記剪断部と前記連結部は、曲げ加工によって一連に形成されていることを特徴とする請求項1、2、4、5及び7-15の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項17】
前記剪断部と該剪断部を補強する前記第一及び/又は第二補強部は、曲げ加工によって一連に形成されることを特徴とする請求項10又は11に記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項18】
前記剪断部には、孔部が形成されていることを特徴とする請求項1、2、4、5及び7-17の何れかに記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項19】
前記孔部は、前記剪断部の外周部に形成されていることを特徴とする請求項18記載の弾塑性履歴型ダンパ。
【請求項20】
前記孔部は、前記剪断部の外周部の内側に形成されていることを特徴とする請求項18又は19記載の弾塑性履歴型ダンパ。」
第5 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人の主張する請求の理由(無効理由)は、請求書、請求人要領書、令和5年9月1日付け上申書、令和5年9月14日差出の上申書、令和5年10月2日付け上申書の記載からみて、概略、次のとおりのものとして整理することができる。
(1)無効理由1(進歩性)
本件発明1、3、6、7、8及び10は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証に記載された構成、甲第3号証に例示されるような選択的事項に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきである。
(2)無効理由2(進歩性)
本件発明1、3、6、7、8及び10は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第4号証から甲第6号証に記載された周知の構成に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきである。
(3)無効理由3(新規性、進歩性)
本件発明1、2、3、6、7、8及び10は、甲第12号証に記載された発明と同一であり新規性がないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないか、甲第12号証及び甲第13号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきである。
(4)無効理由4(進歩性)
本件発明1、3、6、7、8及び10は、甲第2号証に記載された発明、及び甲第1号証、甲第12号証及び甲第14号証に記載された周知の構成と、甲第13号証に記載された構成に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきである。(なお、請求人の提出するすべての書面に記載された主張を踏まえると、「甲第13号証」は「甲第12号証」の誤記と認められる。)
(5)無効理由5(サポート要件違反)
本件発明1~20は、発明の詳細な説明に記載されていない発明であるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(6)無効理由6(明確性要件違反)
本件発明1~20は、特許を受けようとする発明が明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(7)無効理由7(実施可能要件違反)
本件特許明細書における発明の詳細な説明には、本件発明1~20を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(8)無効理由8(分割要件違反、進歩性)
本件出願の特許請求の範囲に記載された事項は、原出願(特願2012-273962号)の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内ではないから、本件出願は、特許法第44条第1項に規定する適法な分割ではなく、原出願のときにしたものとみなすことができないため、本件発明1~20は、原出願の公開公報である甲第15号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきである。
(第2回口頭審理調書の「請求人」の「2」参照。)
なお、上記無効理由1~無効理由4における「出願前」は、「本件特許の原出願の優先日前」を意味するものである。
2 証拠方法
請求人が提出した証拠は、次のとおりである。(以下、「甲第1号証」等を「甲1」等ということがある。)
甲第1号証:特開2007-51452号公報
甲第2号証:特開2011-64028号公報
甲第3号証:特開2009-47193号公報
甲第4号証:実願昭50-30814号(実開昭51-111715号)のマイクロフィルム
甲第5号証:加藤勉 著、「鉄骨構造」(建築構造学大系18)、彰国社、1974年3月10日
甲第6号証:特開2000-297498号公報
甲第7号証:特開2010-43415号公報
甲第8号証:特開2009-293254号公報
甲第9号証:特開2009-287231号公報
甲第10号証:特開2009-203788号公報
甲第11号証:特開平11-324220号公報
甲第12号証:特開2010-121384号公報
甲第13号証:特開2007-239241号公報
甲第14号証:特開2000-73603号公報
甲第15号証:特開2013-144922号公報
甲第16号証:拒絶理由通知書(平成26年9月2日付け、特願2014-124689号)
甲第17号証:手続補正書(平成26年10月22日付け、特願2014-124689号)
甲第18号証:特許第5667716号公報
甲第19号証:2方向載荷を受けるせん断パネルダンパーの弾塑性挙動に関する研究、鋼構造年次論文報告集 第17巻 2009年11月、財団法人日本鋼構造協会、平成21年11月19日、557~564頁
甲第20号証:特開2010-71044号公報
甲第21号証:特開2007-283330号公報
甲第22号証:特開平9-268701号公報
甲第23号証:特開2006-299737号公報
上記の甲1~18は請求書に、甲19~23は請求人要領書にそれぞれ添付して提出されたものである。
また、令和5年7月7日付け上申書に添付して提出された甲第24号証~甲第27号証は、それぞれ参考資料1~参考資料4と読み替えた。(第1回口頭審理調書の「請求人」の「4」参照。)
第6 被請求人の主張及び証拠方法
1 被請求人の主張の概要
被請求人の主張する答弁の理由(無効理由に対する反論)は、答弁書、被請求人要領書、令和5年9月15日付け上申書、令和5年10月2日付け上申書の記載からみて(特に答弁書19頁1行~20頁末行)、概略、次のとおり整理することができる。
(1)無効理由1
請求人が主張する甲1発明の認定は誤っている。甲第1号証から認定される正しい発明(甲1発明′)と本件訂正発明は、相違点1′を有しているが、請求人が提示する何れの引用例(甲2及び3)も相違点1′に係る構成に組み合わせることができず、仮に組み合わせることができるとしても、甲2には相違点′に係る構成が開示されていないので、甲1′発明に基づき当業者が本件訂正発明を容易に想到することはできない。
(2)無効理由2
請求人が主張する甲1発明の認定は誤っている。甲第1号証から認定される正しい発明(甲1発明1′)と本件訂正発明は、相違点1′を有しているが、請求人が提示する引用例(甲5)は相違点1′に係る構成に組み合わせることができず、仮に組み合わせることができるとしても、甲5には相違点1′に係る構成が開示されていないので、甲1発明1′に基づき当業者が本件訂正発明を容易に想到することはできない。
(3)無効理由3
請求人が主張する甲12発明の認定は誤っている。甲第12号証から認定される正しい発明(甲12発明′)と本件訂正発明は、同一でないから新規性を有する。また、甲12発明′に甲13から読み取れる技術を適用しても本件訂正発明に想到しないため、進歩性を有する。
(4)無効理由4
請求人が主張する甲2発明の認定は誤っている。甲第2号証から認定される正しい発明(甲2発明1′)と本件訂正発明は、相違点1′を有しているが、請求人が提示する何れの引用例(甲1、甲12及び甲14)も相違点1′に係る構成に組み合わせることができず、仮に組み合わせることができるとしても、甲1、甲12及び甲14には相違点1′に係る構成が開示されていないので、甲1′発明に基づき当業者が本件訂正発明を容易に想到することはできない。
(5)無効理由5
本件訂正発明にかかる「弾塑性履歴型ダンパ」の構成は、明細書の発明の詳細な説明に記載されており、当該記載は、当業者が本件訂正発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとなっていることは明らかである。
したがって、本件訂正発明について、サポート要件違反は生じない。
(6)無効理由6
本件訂正発明の「補強部」、「向き」及び「板状」は、本件訂正明細書及び技術常識からその意味は明確である。
したがって、本件訂正発明の「補強部」、「向き」及び「板状」について、明確性要件違反は生じない。
(7)無効理由7
第一補強部と剪断部とのなす角が鋭角となる例は、本件訂正明細書【0023】【0039】及び【図11】(D)に記載されている。
したがって、本件訂正発明について、実施可能要件違反は生じない。
(8)無効理由8
被請求人は、本件の答弁書と同日に提出した訂正請求書において、本件訂正発明の請求項3の削除を請求した。
よって、本件訂正発明の請求項3について分割要件違反を指摘する請求人の主張は失当である。
2 証拠方法
被請求人が提出した証拠は、次のとおりである。「乙第1号証」等を「乙1」等ということがある。
乙第1号証:訴状(令和3年6月21日付け、東京地裁 令和3年(ワ)第15964号 特許権侵害損害賠償請求事件(以下「関連訴訟」という。))
乙第2号証:原告第1準備書面(令和3年11月19日付け、関連訴訟)
乙第3号証:原告第2準備書面(訂正の再抗弁)(令和4年2月10日付け、関連訴訟)
乙第4号証:原告第3準備書面(有効論)(令和4年2月10日付け、関連訴訟)
乙第5号証:原告第4準備書面(令和4年4月15日付け、関連訴訟)
乙第6号証:原告第5準備書面(令和4年5月2日付け、関連訴訟)
乙第7号証:原告第6準備書面(有効論)(令和4年6月27日付け、関連訴訟)
乙第8号証:答弁書(令和3年7月20日付け、関連訴訟)
乙第9号証:被告第1準備書面(令和3年9月14日付け、関連訴訟)
乙第10号証:被告第2準備書面(令和3年9月24日付け、関連訴訟)
乙第11号証:被告第3準備書面(令和3年11月19日付け、関連訴訟)
乙第12号証:被告第4準備書面(令和4年2月10日付け、関連訴訟)
乙第13号証:被告第5準備書面(令和4年4月15日付け、関連訴訟)
乙第14号証:被告第6準備書面(令和4年5月12日付け、関連訴訟)
乙第15号証:被告第7準備書面(令和4年6月24日付け、関連訴訟)
乙第16号証:せん断パネル型制震ストッパー、橋梁用デバイス研究会
乙第17号証:岩島秀樹 外1名 編著、建築瑕疵の法律と実務、平成27年10月30日、185頁
乙第18号証:建築学用語辞典 第2版、社団法人日本建築学会、1999年9月8日、113頁
乙第19号証:「形鋼」の頁、ウィキペディア、令和4年2月出力、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BD%A2%E9%8B%BC
乙第20号証:「軽量形鋼(ケイリョウカタコウ)」の頁、建築用語辞典、東建コーポレーション株式会社、令和4年1月24日印刷
https://www.token.co.jp/estate/useful/archipedia/word.php?jid=00016&wid=00108&wdid=01
乙第21号証:小学館「大辞泉」編集部 編集、大辞泉、株式会社小学館、1176頁
乙第22号証:根太とは?1分でわかる意味、寸法、間隔、材質、鉄骨と木材の根太、建築学生が学ぶ構造力学、令和4年2月、
http://kentiku-kouzou.jp/struc-nedanituite.html
乙第23号証:特許第4705759号公報
乙第24号証:建築技術性能証明 評価シート、性能証明番号:GBRC 性能証明 第06-20号改4 、取得者 竹中工務店、
乙第25号証:新築・リニューアルで「波形鋼板耐震壁」採用件数が増大 ~2009年性能評価改定でRC造建物に加えS造建物にも適用が広がる~、竹中工務店、2010年8月3日
http://www.takenaka.co.jp/solution/asset/namigata/
乙第26号証:波形鋼板耐震壁WAVYが高い耐震性能とフレキシブルな内部空間を実現します、波形鋼板耐震壁、竹中工務店、令和4年1月27日印刷
https://www.takenaka.co.jp/solution/asset/namigata/
乙第27号証の1:新村出 編、広辞苑第7版、2018年1月12日、2188頁
乙第27号証の2:新村出 編、広辞苑第7版、2018年1月12日、2187頁
乙第27号証の3:新村出 編、広辞苑第7版、2018年1月12日、536頁
乙第27号証の4:新村出 編、広辞苑第7版、2018年1月12日、1772頁
乙第27号証の5:新村出 編、広辞苑第7版、2018年1月12日、1981頁
乙第27号証の6:新村出 編、広辞苑第7版、2018年1月12日、850頁
乙第27号証の7:新村出 編、広辞苑第7版、2018年1月12日、2848頁
乙第27号証の8:新村出 編、広辞苑第7版、2018年1月12日、1420頁
乙第27号証の9:新村出 編、広辞苑第7版、2018年1月12日、186頁
乙第27号証の10:新村出 編、広辞苑第7版、2018年1月12日、164頁
乙第28号証:高山峯夫 外2名、しくみ図解シリーズ 耐震・制震・免震が一番わかる、2017年7月7日、86~87頁
乙第29号証:鋼構造制震設計指針、日本建築学会、2014年11月20日、73~76頁
乙第30号証:財団法人国際科学振興財団 編、科学大事典、株式会社丸善、平成17年2月28日、600-601頁
乙第31号証:笠井和彦、鑑定書、令和3年9月3日
乙第32号証:野中哲也、意見書、令和4年4月14日
乙第33号証:特許・実用新案審査基準 第II部第2章第2節サポート要件、特許庁
乙第34号証:建築学用語辞典、社団法人日本建築学会 編集、1999年9月8日、234~235頁
乙第35号証の1:ハナダユキヒロ、許容応力度計算が簡単にわかる、たった3つのポイント、建築学生が学ぶ構造力学、令和4年6月6日印刷
乙第35号証の2:ハナダユキヒロ、検定比とは?1分でわかる意味、求め方、部材検定比と荷重、安全率、建築学生が学ぶ構造力学、令和4年6月6日印刷
乙第36号証:特許・実用新案審査基準 第III部第2章第2節進歩性、特許庁
乙第37号証:新村出 編、広辞苑、株式会社岩波書店、2018年1月12日、2774頁
乙第38号証:特許・実用新案審査基準 第II部第2章第3節明確性要件、特許庁
乙第39号証:原告第7準備書面(充足論)(令和4年8月31日付け、関連訴訟)
乙第40号証:原告第9準備書面(「ねじれ」について)(令和4年12月23日付け、関連訴訟)
乙第41号証:原告第11準備書面(令和5年3月31日付け、関連訴訟)
乙第42号証:原告第12準備書面(令和5年5月31日付け、関連訴訟)
乙第43号証:原告第13準備書面(令和5年7月20日付け、関連訴訟)
乙第44号証:被告第9準備書面(令和4年10月28日付け、関連訴訟)
乙第45号証:被告第10準備書面(令和4年12月23日付け、関連訴訟)
乙第46号証:被告第11準備書面(令和5年3月2日付け、関連訴訟)
乙第47号証:新村出 編、広辞苑第7版、2018年1月12日、186頁
乙第48号証:新村出 編、広辞苑第7版、2018年1月12日、899頁
乙第49号証:新村出 編、広辞苑第7版、2018年1月12日、2334頁
乙第50号証:新村出 編、広辞苑第7版、2018年1月12日、977頁
第7 当審の判断
1 証拠の記載
(1)甲第1号証
ア 甲1記載事項
甲1には以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、台風または地震などによる繰返しせん断力作用下において、座屈に伴う不安定挙動を示すことなく繰返し特性を安定化した建設構造物に敷設する金属薄板を備えたエネルギー吸収部材、及びエネルギー吸収部材に備える金属薄板の座屈発生後繰返し挙動を安定化した金属薄板を備えたエネルギー吸収部材の製造方法に関する。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、構造物などに設置されるせん断型エネルギー吸収部材が、せん断力作用の繰返し履歴の下で座屈を伴いながらも安定的にエネルギーを吸収することを目的とする。」
(ウ)「【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の構造物に敷設する金属薄板を備えたエネルギー吸収部材は、金属薄板と金属薄板の周囲に備わる枠とを備え、エネルギー吸収部材を構造物に設置する前に前記エネルギー吸収部材に予め設定した変形を加えて、エネルギー吸収部材を構造物に設置した後の繰返し変形を受けたときに前記エネルギー吸収部材が安定した繰返し変形をする、ことを特徴とする。また、対向する2辺の前記枠が、端部板を形成することを特徴とする。
【0025】
また、本発明のエネルギー吸収部材は、前記構造物の梁、柱及び間柱のそれぞれの間、または前記構造物の梁、柱及び間柱の一部として敷設することを特徴とする。
【0026】
また、本発明のエネルギー吸収部材は、前記金属薄板が、鋼、銅、アルミニウム及びそれらの合金で形成されることを特徴とする。」
(エ)「【実施例】
【0038】
本発明のエネルギー吸収部材は、その一例を図1及び図2に示すように金属薄板よりなる矩形薄板平板と、この矩形薄板平板の周辺に矩形薄板平板形状を維持するように配置される枠と、より構成されるものである。本発明のエネルギー吸収部材においては、図1及び図2に示す矢印方向に荷重が作用する。このとき、本発明のエネルギー吸収部材の矩形薄板平板は、せん断変形する。図4に示すように、矩形薄板平板に予め付与するせん断変形は、本発明のエネルギー吸収部材を構造物に設置後に作用する外乱により想定される最大応答変位以上から約3倍程度の大変形を予め経験させておくことで、図5に示すように設置後のエネルギー吸収部材の履歴挙動が安定化するようになる。
【0039】
実施例1
エネルギー吸収部材を形成する金属薄板(ウエブ)は、板厚が2mmで且つ4辺の長さが500mmの正方形平板である。この正方形平板の左右の側面に、板厚が12mmであり且つ幅が200mmであるフランジ板(枠)を取り付け且つこの正方形平板の上下の辺に端部板(枠)を取り付ける。上述した形状のエネルギー吸収部材(図2に示す)は、最大応答変位以上から約3倍程度の変形を与えるせん断応力が加えられる。せん断応力が加えられたエネルギー吸収部材の数値解析をした結果を図3、図5及び図6に示す。それぞれ図の縦軸は、作用するせん断力の大きさであり、且つ横軸はせん断変形角を示す。」
(オ)「【0042】
実施例2
本発明の金属薄板より構成されたエネルギー吸収部材1を、種々の構造物に取り付けた好ましい例を図9~図14に図示する。本発明の金属薄板2より構成されたエネルギー吸収部材1の取り付け方法は、建築構造物の梁5や柱6が鉄骨及びコンクリートで形成されている場合、エネルギー吸収部材1を梁5や柱6にボルト(図示せず)で締結する。また、建築構造物の梁5や柱6が木材で形成されている場合、エネルギー吸収部材1を梁5や柱6に釘及びネジ(図示せず)で締結する。
【0043】
エネルギー吸収部材1を構造物に取り付ける時期は、新築時、耐震補強時、及び耐震改修時のいずれの時であっても良い。また、本発明のエネルギー吸収部材1の構造物への取り付け位置は、図9に示す構造物の間柱4の一部として取り付けることができる。図10には、エネルギー吸収部材1を、構造物の間柱4及び壁部材7の双方の中間的な部材として取り付けた例を示す。また、図11に示すように、エネルギー吸収部材1を構造物の壁部材7として取り付けることもできる。さらに、図12に示すようにエネルギー吸収部材1を構造物の梁5や柱6の接合位置に配置すること、図13に示すようにエネルギー吸収部材1を構造物の斜材8(梁リンク部材)の間であって梁5の一部として配置すること、図14に示すようにエネルギー吸収部材1を構造物の柱6と柱6の間の梁5の一部の境界梁として配置することもできる。」
(カ)「【0044】
実施例3
本発明においては、金属薄板の対角線方向の引っ張り変形により予め変形を付与でき、この金属薄板を直接構造物に敷設してエネルギー吸収部材を形成することができる。一方、本発明においては、エネルギー吸収部材の周辺形状を維持するために枠(フランジ板)を、図15~図20に示すように金属薄板の上下左右に取り付けることができる。
【0045】
本発明のエネルギー吸収部材1は、図15及び図16に示すように、矩形平板の金属薄板1(当審注:「金属薄板1」は「金属薄板2」の誤記と認める。)と、その形状を維持するために金属薄板の周囲を囲う枠3(フランジ)とから形成される。また、この枠3は、図16に示すように、対向する上下の2辺を端部板3’とし、左右の2辺を枠3とすることもできる。上記構成以外に、次に示すエネルギー吸収部材を形成することができる。
【0046】
a)枠に取り付け孔または取り付けネジを設けたエネルギー吸収部材(図示せず)
b)金属薄板を並列に複数備えたエネルギー吸収部材(図17)
c)金属薄板を直列に複数備えたエネルギー吸収部材(図18)
d)上記a)及びb)を組み合わせたエネルギー吸収部材(図示せず)
e)金属薄板の表面を覆う付属板9を備えたエネルギー吸収部材(図19)
f)塗装膜、断熱材、耐火被膜10などの表面処理がなされた金属薄板を備えたエネルギー吸収部材(図20)」
(キ)図1、図2、図16、図18は以下のものである。
a 図1
「
[図:0001424882000001.jpg]
」
b 図2
「
[図:0001424882000002.jpg]
」
c 図16
「
[図:0001424882000003.jpg]
」
d 図18
「
[図:0001424882000004.jpg]
」
(ク)上記(カ)【0045】の「この枠3は、図16に示すように、対向する上下の2辺を端部板3’とし、左右の2辺を枠3とすることもできる。」、及び同【0046】の「c)金属薄板を直列に複数備えたエネルギー吸収部材(図18)」との記載を踏まえると、上記(キ)d(図18)から、金属薄板2を直列に2枚備え、枠3は、2枚の金属薄板2の間及び両端に設けた枠3と、対向する上下の2辺に設けた端部板3’とからなり、2枚の金属薄板2と両端の枠3とは直交していること、が看取できる。
(ケ)上記(エ)【0038】の「本発明のエネルギー吸収部材においては、図1及び図2に示す矢印方向に荷重が作用する。」との記載を踏まえると、上記(キ)b(図2)の符号「τ」が付された矢印から、エネルギー吸収部材1には、金属薄板2の面内方向に荷重が作用することが看取できる。
イ 甲1発明
上記ア(エ)【0038】の「エネルギー吸収部材の矩形薄板平板」は、上記ア(カ)【0045】の「エネルギー吸収部材1」の「金属薄板2」を示すから、上記ア(エ)の実施例1及び(オ)の実施例2を前提として、上記ア(カ)の実施例3に着目すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。
「剪断変形する矩形平板の金属薄板2と、その形状を維持するために金属薄板2の周囲を囲う枠3(フランジ)とから形成される、金属薄板2の面内方向に荷重が作用するエネルギー吸収部材1であって、
金属薄板2は直列に2枚備え、
枠3は、直列の2枚の金属薄板2の間と両端に設けた枠3と、対向する上下の2辺に設けた端部板3’からなり、
2枚の金属薄板2と左右両端の枠3とは直交しており、
建築構造物の梁5や柱6にボルトで締結するものであって、間柱4の一部として、構造物の間柱4及び壁部材7の双方の中間的な部材として、壁部材7として取り付けたり、梁5や柱6の接合位置や、斜材8(梁リンク部材)の間であって梁5の一部として、柱6と柱6の間の梁5の一部の境界梁として配置することもできる、
エネルギー吸収部材1。」
(2)甲第2号証
ア 甲2記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁上部構造と橋梁下部構造との間に設置されるせん断パネル型ダンパー、及びこのせん断パネル型ダンパーを用いた橋梁の支承構造、並びにこの支承構造が採用された橋梁に関する。
・・・
【0003】
ここで、建築物に用いられるせん断パネル型ダンパーに要求される能力と、橋梁に用いられるせん断パネル型ダンパーに要求される能力とを比較すると、建築物に用いられるせん断パネル型ダンパーは、建築物の各階に設置されるため、そのせん断変形量は少なくてもよい。一方、橋梁に用いられるせん断パネル型ダンパーは、建築物に用いられるせん断パネル型ダンパーの数十倍もの変形能力が要求される。このため、橋梁に用いられるせん断パネル型ダンパーとして、建築物に用いられるせん断パネル型ダンパーとは異なった、大変形性能のせん断パネル型ダンパーの開発が必要とされている。
【0004】
また、建築物に用いられるせん断パネル型ダンパーは、建築物の垂直構面(柱と梁で構成される垂直な平面)に設置されるため、構面内の一方向の動きのみを考慮すればよい。一方、橋梁は、地震等の際、橋梁上部構造と橋梁下部構造とが平面視において2次元的に相対移動する。このため、橋梁に用いられるせん断パネル型ダンパーには、このような2次元的な動きに対応するせん断パネル型ダンパーが必要となってくる。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
橋梁に用いられるせん断パネル型ダンパーは、パネル部が面内方向(パネル部の面に沿った方向)へ変形することで、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーを吸収する。しかしながら、地震等の際、橋梁上部構造と橋梁下部構造とは平面視において2次元的に相対移動する。このとき、従来のせん断パネル型ダンパーは、パネル部に面内方向以外の荷重がかかる場合がある。このため、従来のせん断パネル型ダンパーは、パネル部に面内方向以外の荷重成分がかかってパネル部が面外方向(面内方向と垂直な方向)に変形してしまった場合、パネル部が面内方向にうまく変形できず、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーを吸収することができないかもしれないという課題があった。
【0008】
本発明は上述のような課題を解決するためになされたものであり、せん断パネル型ダンパーに面内方向以外の荷重がかかった場合でも、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーを吸収することができるせん断パネル型ダンパー、及びこのせん断パネル型ダンパーを用いた橋梁の支承構造、並びにこの支承構造が採用された橋梁を得ることを目的とする。
・・・
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、せん断パネル型ダンパーに面内方向以外の荷重がかかった場合でも
、この荷重の面内方向成分はパネル部に伝達され、この荷重の面外方向成分は荷重伝達抑制手段によってパネル部に伝達されることを防止される。このため、パネル部は面外方向に傾斜はするが、パネル部が面外方向に変形することを抑制できる。したがって、せん断パネル型ダンパーは、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーを吸収することができる。」
(ウ)「【0015】
実施の形態1.
(橋梁全体構造)
図1は、本発明の実施の形態1に係る橋梁の一例を示す縦断面模式図である。なお以下では、水平面内の橋軸方向をX方向、水平面内の橋軸に垂直方向をY方向、鉛直方向をZ方向として説明する。また、図1を含め、以下の図面では、実物とは縮尺比を一部異ならせて示している。
【0016】
図1(a)に示すように、橋梁100は、図示しない地盤に立設された橋梁下部構造102と、橋梁下部構造102に設置された可動支承103と、可動支承103に水平方向で移動自在に支承された橋梁上部構造105と、地震発生時に橋梁上部構造105の動きを減衰させるせん断パネル型ダンパー10と、を有している。
【0017】
橋梁下部構造102は、図示しない地盤に立設された橋脚部102aと、橋脚部102aの上部に設けられた橋脚張り出し部102bと、を備えている。そして、可動支承103は橋脚部102aの上面に設置され、せん断パネル型ダンパー10は橋脚張り出し部102bの張り出し部の上面に設置されている。
【0018】
可動支承103は橋梁上部構造105からの鉛直方向荷重を支承すると共に、橋梁上部構造105に温度変化による伸縮が発生した場合等に、橋梁上部構造105を橋梁下部構造102に対して水平方向に移動させるものである。そのため、可動支承103自体が変形自在であったり、可動支承103と橋梁上部構造105との当接部が摺動自在であったりするが、本発明は、その形式を限定するものではない。」
(エ)「【0021】
(せん断パネル型ダンパーの構成)
続いて、図2を用いて、せん断パネル型ダンパー10の詳細について説明する。
図2は、本発明の実施の形態1に係るせん断パネル型ダンパーの構成を示す正面図である。
せん断パネル型ダンパー10は、パネル部11、載荷部材12、及び荷重伝達抑制手段20を備えている。
【0022】
パネル部11は、板状部材であり、正面視において略矩形状の四隅に円弧状フレアー11aが形成された形状となっている。このパネル部材は、例えばLYP-100(公称降伏点が100N/mm2)等の極低降伏比鋼により形成されている。極低降伏比鋼は、普通鋼の一種であるSS400に比べて適度な低降伏性を有し、延性が極めて高い鋼材である。例えば、LYP-100は、SS400に対して、0.2%の永久ひずみに対応した応力(0.2%オフセット値σ0.2)が約1/3(80N/mm2)であり、伸び変形量が約3倍(60%)もある。
なお、パネル部11の材質は、極低降伏比鋼に限らず、延性の高い普通鋼、アルミニウム合金、銅、又は非磁性鋼等であってもよい。これらの材質を組み合わせてパネル部11を形成してもよい。
パネル部11は、その下辺が橋梁下部構造102の例えば上面に固定され、橋梁下部構造102の上面に立設されている。
【0023】
なお、パネル部11の形状や、パネル部11の橋梁下部構造102への固定構造は、本実施の形態1で示す構成に限定されるものではない。例えば、パネル部11の正面視における形状を、円弧状フレアー11aの形成されていない略矩形状としてもよい。また例えば、パネル部11の橋梁下部構造102への固定構造は、パネル部11の下辺と橋梁下部構造102の上面との間に連結板等を設け、この連結板等を介して、パネル部11と橋梁下部構造102とを間接的に固定してもよい。
【0024】
ブロック状の載荷部材12は、橋梁上部構造105の例えば下面に設けられている。この載荷部材12は、その側面12aがパネル部11の側辺11b(より詳しくは側辺11bの上方)と対向するように、橋梁上部構造105に設けられる。このとき、載荷部材12の側面12aとパネル部11の側辺11bとの間には、所定寸法の間隙が形成されている。
【0025】
載荷部材12の側面12aとパネル部11の側辺11bとの間に形成された間隙には、つまり、載荷部材12の側面12aとパネル部11の側辺11bとの間には、荷重伝達抑制手段20が設けられている。この荷重伝達抑制手段20は、載荷部材12にかかる荷重のうち、Y方向(橋軸と垂直な方向)の荷重成分がパネル部11に伝達することを抑制するものである。この荷重伝達抑制手段20は、転動体21、及びこの転動体21を保持する保持部材22を備えている。保持部材22は、例えばパネル部11の側辺11b上方に設けられており、載荷部材12の側面12aとパネル部11の側辺11bとの間に略球状の転動体21を転動自在に保持している。このとき、転動体21と載荷部材12の側面12aとの間、及び転動体21とパネル部11の側辺11bとの間には、所定寸法の間隙が形成されている。
【0026】
なお、荷重伝達抑制手段20は、本実施の形態1に係る構成に限定されるものではない。例えば、保持部材22は、載荷部材12の側面12aに設けられていてもよい。また例えば、転動体21は、略円筒形状としてもよい。また例えば、転動体21と載荷部材12の側面12aとの間、及び転動体21とパネル部11の側辺11bとの間に間隙が形成されない構成としてもよい。
【0027】
(せん断パネル型ダンパーの動作)
次に、図3を用いて、せん断パネル型ダンパー10の動作について説明する。
図3は、本発明の実施の形態1に係るせん断パネル型ダンパーの動作説明図である。なお、図3(a)は、動作後のせん断パネル型ダンパー10の上部近傍を示す平面図である。図3(b)は、動作後のせん断パネル型ダンパー10を示す正面図である。また、図3(a)には、動作前のパネル部11の上辺中心軸1aと、動作後のパネル部11の上辺中心軸1bも示している。
【0028】
地震等が発生すると、橋梁下部構造102と橋梁上部構造105とは、平面視において2次元的に相対移動する。例えば、橋梁上部構造105が橋梁下部構造102に対して、図3(a)の紙面左上方向(図3(a)に示す荷重200の方向)に移動するとする。そして、載荷部材12には、図3(a)の矢印方向に荷重200がかかっているとする。
【0029】
このように橋梁下部構造102と橋梁上部構造105とが相対移動する場合、従来のせん断パネル型ダンパーの上辺は平面視において橋梁上部構造105に追従するので、従来のせん断パネル型ダンパーの上辺は図3(a)に示す中心軸1aの位置となる。つまり、従来のせん断パネル型ダンパーは、その下辺が中心軸1bの位置となり、その上辺が中心軸1aの位置となる。このため、従来のせん断パネル型ダンパーのパネル部は、面内方向(パネル部の面に沿った方向、図3(a)ではX方向)と垂直な方向である面外方向に変形することとなる。したがって、パネル部が面内方向にうまく変形できず、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーを吸収することができない場合がある。
【0030】
一方、上述のように橋梁下部構造102と橋梁上部構造105とが相対移動する場合、本実施の形態1に係るせん断パネル型ダンパー10は、パネル部11の一方の側辺11b側(図3における右側)において、パネル部11の側辺11bと載荷部材12の側面12aとの間に荷重伝達抑制手段20の転動体21が挟持されることとなる。このため、パネル部11の側辺11bと載荷部材12の側面12aとの間で転動体21が転動することにより、載荷部材12にかっている荷重200の面外方向成分202がパネル部11に伝達されることが抑制される。これにより、パネル部11の上辺が中心軸1bの位置(平面視においてパネル部11の下辺の位置)に移動することができ、パネル部11が面外方向に変形することを抑制できる。
【0031】
また、このとき、パネル部11には、主に荷重200の面内方向成分201がかかることとなる。このため、図3(b)に示すように、パネル部11が面内方向にうまく変形することができ、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーを吸収することができる。
【0032】
以上のように、本実施の形態1に係るせん断パネル型ダンパー10は、パネル部11の側辺11bと載荷部材12の側面12aとの間に荷重伝達抑制手段20が設けられているので、荷重200の面外方向成分202がパネル部11に伝達されることを抑制できる。このため、パネル部11が面内方向にうまく変形することができ、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーを吸収することができる。
【0033】
また、パネル部11は、SS400に比べて適度な低降伏性を有し、延性が極めて高い極低降伏比鋼によって形成されている。このため、地震エネルギーの吸収性能が増大する。
【0034】
なお、橋梁下部構造102と橋梁上部構造105との間へのせん断パネル型ダンパー10の設置方法は、本実施の形態1の設置方法に限定されるものではない。例えば、せん断パネル型ダンパー10のパネル部11の上辺を橋梁上部構造105の例えば下面に固定し、載荷部材12を橋梁下部構造102の例えば上面に固定してもよい。つまり、本実施の形態1に係るせん断パネル型ダンパー10の設置方法とは上下逆さまにせん断パネル型ダンパー10を設置しても、同様の効果を得ることができる。
【0035】
また例えば、本実施の形態1ではパネル部11を側面視において略垂直に設けているが、パネル部11を側面視において斜めや水平となるように設けてもよい。本発明においては、パネル部11の側辺11bにおける橋梁下部構造102と直接的又は間接的に接する側を側辺11bの下方と称し、パネル部11の側辺11bにおける橋梁上部構造105と直接的又は間接的に接する側を側辺11bの上方と称する。
【0036】
また、本実施の形態1に係るパネル部11にはリブが設けられていないが、例えば図4に示すように、パネル部11の側辺11bにリブ13を設けてもよい。これにより、パネル部11の面外方向の剛性が向上し、パネル部11の面外方向への変形をより抑制することができる。
また、パネル部11に設けられるリブ13の位置は側辺11bに限らず、たとえば、パネル部11の面上に側辺11bに沿ってリブ13を延設してもよい。
なお、図4に示すパネル部11の形状は、円弧状フレアー11aが形成されていない略矩形状となっている。」
(オ)「【0065】
実施の形態6.
(橋梁、支承構造)
本実施の形態6では、実施の形態1~実施の形態5に示したせん断パネル型ダンパーを設置した橋梁の支承構造の一例について説明する。なお、本実施の形態6において、特に記述しない項目については実施の形態1~実施の形態5と同様とする。
【0066】
図11(a)~図13(g)は、本発明の実施の形態6に係る橋梁支承構造の一例を示す平面図である。なお、図11(a)~図13(g)では、せん断パネル型ダンパーの設置位置の理解を容易とするために、移動支承の図示を省略している。また、図11(a)~図13(g)では、実施の形態1~実施の形態5に示したせん断パネル型ダンパーの総称として、せん断パネル型ダンパー90と示している。つまり、せん断パネル型ダンパー90は、実施の形態1~実施の形態5に示したせん断パネル型ダンパーのいずれであってもよいということである。また、図11(a)~図13(g)では、せん断パネル型ダンパー90のパネル部が橋梁下部構造102の上面に直接的又は間接的に設置された場合を例に説明する。
【0067】
橋梁上部構造と橋梁下部構造とが平面視において2次元的に相対移動可能な橋梁支承構造の場合、例えば図11(a)~図12(e)のようにせん断パネル型ダンパー90を設置してもよい。つまり、設置されるせん断パネル型ダンパー90の一部は、その面内方向(下辺長手方向に同じ)がX軸方向(橋軸方向)となるように設置される。また、設置されるせん断パネル型ダンパー90の残りの一部は、その面内方向がY軸方向(橋軸方向と垂直な方向)となるように設置される。
【0068】
このようにせん断パネル型ダンパー90を設置することにより、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーのX軸方向成分は、面内方向がX軸方向となるように設置されたせん断パネル型ダンパー90によって吸収される。また、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーのY軸方向成分は、面内方向がY軸方向となるように設置されたせん断パネル型ダンパー90によって吸収される。したがって、耐震性能に優れた橋梁支承構造及び橋梁を得ることができる。
【0069】
なお、図11(a)~図12(e)に示すように、面内方向がX軸方向となるように設置されたせん断パネル型ダンパー90の設置位置や設置数、面内方向がX軸方向(当審注:「X軸方向」は「Y軸方向」の誤記と認める。)となるように設置されたせん断パネル型ダンパー90の設置位置や設置数は任意である。
【0070】
また、橋梁上部構造と橋梁下部構造とが平面視において2次元的に相対移動可能な橋梁支承構造の場合、例えば図12(f)のように、せん断パネル型ダンパー90の面内方向がX軸にもY軸にも向かないようにせん断パネル型ダンパー90を設置してもよい。つまり、面内方向が平面視で放射状となるようにせん断パネル型ダンパー90を設置する等、一部のせん断パネル型ダンパー90の面内方向がその他のせん断パネル型ダンパー90の面内方向と異なるように設置すればよい。このようにせん断パネル型ダンパー90を設置しても、各せん断パネル型ダンパー90は、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーの各々の面内方向成分を吸収する。したがって、耐震性能に優れた橋梁支承構造及び橋梁を得ることができる。」
(カ)図2、図4、図11、図12は以下のものである。
a 図2
「
[図:0001424882000005.jpg]
」
b 図4
「
[図:0001424882000006.jpg]
」
c 図11
「
[図:0001424882000007.jpg]
」
d 図12
「
[図:0001424882000008.jpg]
」
(キ)上記(カ)b(図4)をみると、パネル部11とリブ13とは直交していることが看取できる。
イ 甲2発明
(ア)上記(オ)【0066】の「図11(a)~図13(g)では、実施の形態1~実施の形態5に示したせん断パネル型ダンパーの総称として、せん断パネル型ダンパー90と示している。つまり、せん断パネル型ダンパー90は、実施の形態1~実施の形態5に示したせん断パネル型ダンパーのいずれであってもよいということである。」との記載を踏まえると、上記アに記載された「せん断パネル型ダンパー10」と「せん断パネル型ダンパー90」は同じものであることから、上記アを総合すると、甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認める。
「パネル部11、載荷部材12、及び荷重伝達抑制手段20を備えた、橋梁上部構造と橋梁下部構造との間に設置されるせん断パネル型ダンパー10であって、
パネル部11は、極低降伏比鋼により形成された板状部材であって、
パネル部11の橋梁下部構造102への固定構造は、パネル部11の下辺と橋梁下部構造102の上面との間に連結板等を設け、この連結板等を介して、パネル部11と橋梁下部構造102とを間接的に固定しており、
ブロック状の載荷部材12は、その側面12aがパネル部11の側辺11bの上方と対向するように、橋梁上部構造105の下面に設けられており、
載荷部材12の側面12aとパネル部11の側辺11bとの間には、載荷部材12にかかる荷重のうち、Y方向(橋軸と垂直な方向)の荷重成分がパネル部11に伝達することを抑制する荷重伝達抑制手段20が設けられ、この荷重伝達抑制手段20は、転動体21、及びこの転動体21を保持し、パネル部11の側辺11b上方に設けられた保持部材22を備えており、載荷部材12の側面12aとパネル部11の側辺11bとの間に略球状の転動体21を転動自在に保持しており、荷重200の面外方向成分202がパネル部11に伝達されることを抑制できるため、パネル部11が面内方向にうまく変形することができ、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーを吸収することができるものであって、
パネル部11の側辺11bにリブ13を設けてもよく、これにより、パネル部11の面外方向の剛性が向上し、パネル部11の面外方向への変形をより抑制することができるものであり、
パネル部11とリブ13とは直交しており、
せん断パネル型ダンパーの設置位置については、
橋梁上部構造と橋梁下部構造とが平面視において2次元的に相対移動可能な橋梁支承構造の場合、設置されるせん断パネル型ダンパー10の一部は、その面内方向(下辺長手方向に同じ)がX軸方向(橋軸方向)となるように設置され、設置されるせん断パネル型ダンパー10の残りの一部は、その面内方向がY軸方向(橋軸方向と垂直な方向)となるように設置され、両せん断パネル型ダンパー10の設置位置や設置数は任意であって、
また、せん断パネル型ダンパー10の面内方向がX軸にもY軸にも向かないようにせん断パネル型ダンパー10を設置してもよい、
せん断パネル型ダンパー10。」
(イ)甲2発明の認定について、請求人は、発明の比較対象として引用した先行文献からは、複数の発明を認定することが可能であって、甲2自体が特許出願の対象とした発明が、従来から知られたせん断パネルダンパーに、転動体を有する荷重伝達制御手段を設けるという技術思想であるが、そこからは、荷重伝達制御手段を設けない、従来からのせん断パネルダンパーを認定できる旨(請求人要領書71頁下から5行~72頁2行)、主張する。
しかしながら、甲2の記載によれば、「従来のせん断パネル型ダンパーは、パネル部に面内方向以外の荷重がかかる場合がある。このため、従来のせん断パネル型ダンパーは、パネル部に面内方向以外の荷重成分がかかってパネル部が面外方向(面内方向と垂直な方向)に変形してしまった場合、パネル部が面内方向にうまく変形できず、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーを吸収することができないかもしれないという」(【0007】)「課題を解決するためになされたものであり」(【0008】)、この課題を解決するために、「せん断パネル型ダンパーの動作」(【0021】)は、「地震等が発生」【0028】し、「橋梁下部構造102と橋梁上部構造105とが相対移動する場合、」「せん断パネル型ダンパー10は、パネル部11の一方の側辺11b側(図3における右側)において、パネル部11の側辺11bと載荷部材12の側面12aとの間に荷重伝達抑制手段20の転動体21が挟持されることとなる。このため、パネル部11の側辺11bと載荷部材12の側面12aとの間で転動体21が転動することにより、載荷部材12にかっている荷重200の面外方向成分202がパネル部11に伝達されることが抑制される。これにより、パネル部11の上辺が中心軸1bの位置(平面視においてパネル部11の下辺の位置)に移動することができ、パネル部11が面外方向に変形することを抑制できる」(【0030】)ことで、「このとき、パネル部11には、主に荷重200の面内方向成分201がかかることとなる。このため、図3(b)に示すように、パネル部11が面内方向にうまく変形することができ、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーを吸収することができる。」(【0031】)ものであって、該動作により、「せん断パネル型ダンパーに面内方向以外の荷重がかかった場合でも、この荷重の面内方向成分はパネル部に伝達され、この荷重の面外方向成分は荷重伝達抑制手段によってパネル部に伝達されることを防止される。このため、パネル部は面外方向に傾斜はするが、パネル部が面外方向に変形することを抑制できる。したがって、せん断パネル型ダンパーは、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーを吸収することができる。」(【0013】)との効果を奏するものである。
以上の点を踏まえると、甲2に記載された荷重伝達制御手段20は、甲2に記載されたひとまとまりの技術的思想を構成する要素のうち必須(不可欠)の構成であり、当該構成を無視して、甲2発明を認定することは許されない。
よって、上記甲2発明の認定に誤りはなく、請求人の主張は採用できない。
(3)甲第3号証
ア 甲3の記載事項
甲3には以下の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパー装置および構造物に関し、詳しくは、建築分野や土木分野、機械分野等における構造物や工作物の振動(地震や風等に起因するものや交通振動、機械振動等)を抑制するために用いられるダンパー装置、およびダンパー装置を備えた構造物に関する。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に記載された従来の制振壁では、鋼板の面外座屈を有効に防止するためには、比較的狭い間隔で縦リブや横リブを溶接接合する必要があることから、溶接に要する加工工数や鋼材数量が増大し、製造コストの低減を図ることが困難であるという問題がある。さらに、溶接時の熱によって鋼板の金属組織が変化してしまい、設計時に期待したせん断変形性能や履歴減衰性能が得られない可能性や、金属疲労に伴う亀裂が生じやすくなって継続使用の耐久性が低下する可能性もある。
また、従来の制振壁では、比較的狭い間隔で縦リブや横リブを配置したとしても、これらのリブで囲まれた内部の鋼板は、面外方向への変形が規制されていないため、繰り返しのせん断変形が作用すると局部的な面外座屈の発生が避けられず、金属疲労が生じて性能低下を招いてしまうという問題もある。
【0005】
本発明の目的は、比較的簡単かつ安価に製造でき、かつ初期の性能が維持できるダンパー装置、およびダンパー装置を備えた構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のダンパー装置は、構造物において互いに相対移動が生じうる一対の対象位置の間に取り付けられ、当該相対移動に伴って減衰力を発揮するダンパー装置であって、前記一対の対象位置同士を結ぶ第1軸と前記相対移動の方向に沿った第2軸とに略平行な平板状に形成され、互いに対向する一対の第1端縁部側が前記対象位置に固定されるパネル体と、前記パネル体における前記第1端縁部と交差した一対の第2端縁部に固定され、当該パネル体の両面から厚さ方向に突出して設けられた端縁補強体と、前記パネル体における両面の略全面に沿って設けられ、当該パネル体の面外方向への変形を規制する面外変形規制手段と、前記パネル体の両面と前記面外変形規制手段との付着を防止する付着防止手段と、前記端縁補強体と前記面外変形規制手段とを所定距離だけ離隔させる離隔手段とを備え、前記対象位置間に相対移動が生じた際に、前記付着防止手段を介して対向する前記面外変形規制手段により面外変形が規制された状態で前記パネル体が面内にせん断変形し、このせん断変形に応じた減衰力が発揮されるとともに、当該パネル体のせん断変形に伴って変形する前記端縁補強体と前記面外変形規制手段との接触が前記離隔手段により防止されることを特徴とすることを特徴とする。
【0007】
以上の本発明によれば、面外変形規制手段によりパネル体の面外変形を規制するとともに、付着防止手段を介することでパネル体のせん断変形を拘束せず、パネル体の略全体がせん断変形して減衰力が発揮できるとともに、面外座屈や局部変形が防止でき、エネルギー吸収性能の優れたダンパー装置が実現できる。そして、パネル体の表面に付着防止手段を介して配置した面外変形規制手段によってパネル体の面外変形を規制したことで、従来の制振壁のようにパネル体に縦横のリブを溶接接合する必要がないため、溶接時の熱による力学的性質の変化や局部的な応力集中が防止でき、金属疲労が生じにくい良好な変形性能が得られる。さらに、溶接が不要にできることから、製造技術や製造設備を比較的簡単なものにすることができ、製造コストの低減を図ることができる。また、従来の制振壁では、縦横のリブで囲まれた部分のパネル体に関し、面外変形が生じないようにするために、幅厚比B/t(Bはリブ間隔、tはパネル体の板厚)の制限があった(例えば、B/t<25)のに対し、本発明によれば、実質的にパネル体の幅厚比B/tの上限をなくすことができ、幅厚比B/tが25を大きく上回った場合でも、前述のように面外座屈を防止して変形性能を確保することができる。
【0008】
また、パネル体に端縁補強体を固定したことで、パネル体が負担するせん断力と釣り合う軸力(曲げモーメント)を端縁補強体で負担し、ダンパー装置全体としての曲げ-せん断機構が構成できる。そして、端縁補強体と面外変形規制手段との間に離隔手段を設け、変形した際の端縁補強体が面外変形規制手段に接触しないようになっているので、パネル体や端縁補強体に局部的な応力が発生することがなく、ダンパー装置の曲げ-せん断機構が確保でき、ダンパー装置の挙動を安定化することができる。
なお、パネル体が第1軸と第2軸とに「略平行に」形成される状態とは、第1軸および第2軸の両軸を含む平面と平行にパネル体が形成された状態、あるいは第1軸および第2軸の少なくとも一方に対して若干の傾斜を有してパネル体が形成された状態、のいずれの状態も意味し、上述の作用効果が得られる範囲であれば、パネル体が第1軸や第2軸に対して若干の傾斜を有していてもよい。
【0009】
この際、本発明のダンパー装置では、前記パネル体および端縁補強体は、それぞれ鋼材から断面略H字形に一体化され、H字形のウェブが当該パネル体で構成され、一対のフランジが当該端縁補強体で構成されていることが好ましい。
そして、前記端縁補強体は、前記パネル体よりも高強度の鋼材から形成されていることが好ましい。
さらに、前記パネル体は、普通鋼材よりも降伏点強度が低い鋼材から形成されていることが好ましい。
また、前記端縁補強体は、普通鋼材よりも強度が高い鋼材から形成されていることが好ましい。
【0010】
このような構成によれば、断面略H字形のウェブをパネル体とし、フランジを端縁補強体とするとともに、端縁補強体をパネル体よりも高強度の鋼材から形成することで、パネル体がせん断降伏した後も端縁補強体を弾性状態に維持することができ、ダンパー装置の挙動を安定させてエネルギー吸収性能を高めることができる。そして、端縁補強体に高強度の鋼材(高張力鋼)を用いれば、その断面積や板厚が小さくできることや、弾性ひずみ範囲を拡大することで、相対的なせん断剛性を低くしつつ曲げ強度が確保でき、パネル体のせん断力負担を高めてせん断降伏しやすくできる。さらに、パネル体に降伏点強度が低い鋼材、つまり低降伏点鋼(軟鋼、極軟鋼)を用いれば、小さな変形でせん断降伏させるとともに、大変形領域まで安定した変形性能が確保でき、エネルギー吸収性能を一層高めることができる。
なお、パネル体および端縁補強体を一体化した「断面略H字形」とは、パネル体の両端縁に一対の端縁補強体を交差させて固定した際の断面形状を表しており、パネル体の幅寸法と比較して端縁補強体の幅寸法が小さい場合にはI字形に見えるが、このようなI字形のものも「断面略H字形」に含まれる。さらに、パネル体と端縁補強体とが直交したものに限らず、また、一対の端縁補強体同士が平行でなくてもよい。」
(ウ)「【0021】
図2に示すように、ダンパー装置10は、鋼材製でH字形断面を有したダンパー装置本体11と、このダンパー装置本体11の四周側方を囲んで設けられる角形の鋼管12と、この鋼管12の内部に充填される充填コンクリート13とを有して構成されている。鋼管12の内面には、図示を省略するが適宜な大きさおよび間隔で凹凸が形成されており、鋼管12と充填コンクリート13との付着力が高められている。そして、充填コンクリート13は、その外側への移動が鋼管12によって拘束され、後述するせん断パネル14に対して位置決めされている。すなわち、鋼管12によって拘束手段が構成されている。
【0022】
ダンパー装置本体11は、図3にも示すように、H字形断面のウェブを構成する矩形板状のせん断パネル(パネル体)14と、一対のフランジを構成する各々板状の端縁補強体としての側部板材15と、せん断パネル14および側部板材15の上下に接合されて取付部材4、5にそれぞれ固定される固定用板材16とを有して構成されている。すなわち、本実施形態では、取付部材4の下端部と取付部材5の上端部とがそれぞれ対象位置であり、これらを結ぶ上下方向が第1軸であり、梁3に沿った相対移動方向が第2軸であり、せん断パネル14は、第1軸および第2軸の両方と平行に配置されている。さらに、せん断パネル14の上下端縁によって一対の第1端縁部が構成され、これらの第1端縁部に沿って固定用板材16が接合され、せん断パネル14の左右端縁によって一対の第2端縁部が構成され、これらの第2端縁部に沿って側部板材15が接合されている。」
(エ)「【0024】
以上のようなダンパー装置本体11では、地震等により建物1に層間変形が生じた場合に、上下の取付部材4、5を介して上下の固定用板材16が左右に移動し、せん断パネル14が平行四辺形状に変形するせん断変形が生じる。これにより、せん断パネル14にせん断力が作用し、このせん断力が大きくなる(地震の水平力が大きくなる)と、せん断パネル14がせん断降伏することとなる。そして、せん断パネル14にせん断力が作用すると、このせん断力と釣り合うように側部板材15に軸力が生じ、左右の側部板材15に生じた逆向きの軸力がダンパー装置本体11における曲げモーメントとなる。このように、建物1に地震等の水平力が作用することによって、ダンパー装置本体11には、せん断パネル14のせん断力と、側部板材15の軸力(曲げモーメント)とが発生することになり、これらの変形と応力との関係は、設計条件に応じて適宜設定されている。
【0025】
次に、図2に示すように、ダンパー装置10は、ダンパー装置本体11の側面略全体に巻き付けて貼り付けられたシート体としての絶縁材17と、側部板材15の両面に貼り付けられたスペーサとしてのクッション材18とを有して構成されている。絶縁材17は、樹脂製の面状粘着テープなどから形成されており、その外側表面は、摩擦係数が小さく(滑りやすく)なっており、充填コンクリート13と付着せず摺接可能に構成されている。そして、絶縁材17は、0.2mm程度の厚さ寸法を有して形成され、この厚さ寸法分の間隔が、せん断パネル14の両面と充填コンクリート13との間に形成されている。このような絶縁材17によれば、前述のようにせん断パネル14がせん断変形した際に、このせん断変形が充填コンクリート13で拘束されず、かつせん断パネル14の面外への変形が充填コンクリート13で規制される。すなわち、充填コンクリート13によって面外変形規制手段が構成され、絶縁材17によって付着防止手段が構成されている。」
(オ)図2、図3は以下のものである。
a 図2
「
[図:0001424882000009.jpg]
」
b 図3
「
[図:0001424882000010.jpg]
」
イ 甲3技術事項
上記アを総合すると、甲3には以下の技術事項(以下「甲3技術事項」という。)が記載されているものと認める。
「建築分野や土木分野等における構造物の振動を抑制するために用いられるダンパー装置において、
鋼材製でH字形断面を有したダンパー装置本体11と、このダンパー装置本体11の四周側方を囲んで設けられる角形の鋼管12と、この鋼管12の内部に充填される充填コンクリート13とを有して構成されているダンパー装置10であって、
ダンパー装置本体11は、H字形断面のウェブを構成する矩形板状のせん断パネル(パネル体)14と、一対のフランジを構成する各々板状の端縁補強体としての側部板材15と、せん断パネル14および側部板材15の上下に接合されて取付部材4、5にそれぞれ固定される固定用板材16とを有して構成されており、
充填コンクリート13によって面外変形規制手段が構成されて、せん断パネル14の面外への変形が充填コンクリート13で規制され、
パネル体と端縁補強体とが直交したものに限らず、また、一対の端縁補強体同士が平行でなくてもよいこと。」
(4)甲第4号証
ア 甲4の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
(ア)「本考案は軽量I形鋼の改良に関する。
従来の軽量I形鋼は第3図のようなものであつた。しかし、この構造のものは次の欠点があつた。第一に、荷重による作用力Wを受けた場合に、ウエブ部5が座屈を起こしやすかつた。第二に、当然ながらI形鋼としてのみしか使用できず、同一部材を溝形鋼としても使用すると言うことは不可能であつた。
本考案は、従来技術のこれらの欠点を有しない軽量形鋼、即ち、ウエブ部が座屈を起こしにくいと共に、I形鋼としても溝形鋼としても使用できる軽量形鋼、を得ることを目的とし、それは次の手段で達成される。」(明細書1頁12行~2頁4行)
(イ)「第1図に本考案の一実施例を示す。そこにおいて、全体としてのI形鋼は、二個の溝形鋼1を1個の継手部2(これは独立の部材)を介して連結することによつて形成されている。その連結は、外方へ(即ち第1図のx方向へ)広がるテーパ部3を有するそれぞれの嵌合溝部4に継手部2を嵌合することによりなされている。嵌合溝部4はそれぞれの溝形鋼1のウエブ5に形成されている。継手部2の断面形状は該テーパ部3に係止し得る形状になされている。こうすることによりx方向へ溝形鋼1を引く抜こうとしてもテーパ部3に継手部2が係止するので引き抜けない。以上の連結手段によつて、二個の溝形鋼1は互いにウエブ部5の背面6を当接させた状態で連結され、全体としてI形鋼を形成している。
以上の構成にすると、第一に、ウエブ部5が座屈を起こしにくい。即ち、荷重による作用力Wが加わると、それぞれの溝形鋼1のウエブ部5は互いに相手の背面6を押す方向にたわもうとし、その結果、それぞれのウエブ部5はたわむことができないのである。つまり、きわめて座屈を起こしにくい状態になつているのである。また第二に、継手部2を第1図において紙面と直交する方向へ引き抜けば、それぞれの溝形鋼1は独立して使用できる。つまり、組立てることによつてI形鋼として、分解することによつて溝形鋼として用いることができる。」(明細書2頁12行~3頁18行)
(ウ)第1図は以下のものである。
a 第1図
「
[図:0001424882000011.jpg]
」
イ 上記アを総合すると、甲4には次の技術事項(以下「甲4技術事項」という。)が記載されている。
「二個の溝形鋼1を互いにウエブ部5の背面6を当接させた状態で1個の継手部2を介して連結することによって形成されている、全体としてのI形鋼において、
その連結は、それぞれの溝形鋼1のウエブ5に形成され、外方へ広がるテーパ部3を有するそれぞれの嵌合溝部4に継手部2を嵌合することによりなされており、
ウエブ部が座屈を起こしにくいと共に、I形鋼としても溝形鋼としても使用できる軽量形鋼、を得ること。」
(5)甲第5号証
ア 甲5記載事項
甲5には、以下の事項が記載されている。
(ア)「3・3・3 せん断
曲げをうけるはり(曲げモーメントは材長に沿って変化している)の断面が図3.49に示すようにソリッドな断面で、主軸上にせん断力Qが作用している場合には、断面内のせん断応力分布は曲げ応力度との釣合いから、」(99頁5~8行)
(イ)「すなわち式(3.65)で与えられるようなS点にせん断力を作用させない限り、断面にはねじれが生ずることになる。このS点のことをせん断中心またはねじれの中心という。みぞ形鋼の場合は図示のようにせん断中心は断面の外にあるから、フランジ上に荷重をかけたのではねじれを防ぐことはできなかったわけである。
このせん断中心の位置は上の計算からも明らかなように、断面の幾何学的形状に固有の値であり、材のねじれ、座屈を考える上に重要な点である。軽量形鋼のJIS(JIS G 3350)の付表にはせん断中心の位置が示してあるが、一般的な形鋼類についてのせん断中心位置の算式を表3.7に示しておく」(101頁末行~102頁7行)
(ウ)表3.7は以下のものである。
[図:0001424882000012.jpg]
(エ)「3.3.4 ねじり
鉄骨構造におけるはりは曲げのみならず、ねじりを受ける場合が多い。たとえば図3.55(a)は大ばりと小ばりの接合部であるが、大ばりそのものは重心とせん断中心が一致した対称断面であっても、小ばりの支点反力の作用位置が偏心するために大ばりはねじりモーメントMrを受ける。」(102頁下から8~2行)
(オ)上記(ウ)の表3.7の左から2列目の図から、断面が、V字状に配置された2枚のプレートと、それらの両端に、内側に曲げられた部分が存在することが看取できる。
イ 甲5技術事項
上記アを総合すると、甲5には次の技術事項(以下「甲5技術事項」という。)が記載されているものと認める。
「曲げをうけるはりに用いる形鋼において、断面が、V字状に配置された2枚のプレートと、それらの両端に、内側に曲げられた部分が存在すること。」
(6)甲第6号証
ア 甲6記載事項
甲6には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、形鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】従来のH形鋼は、鉄鋼メーカーの圧延工程で形成されていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】圧延工程で形成されるために、生産コストは極めて安いが、肉厚製品しか得られないし、表面のめっき処理などの後処理もできなかった。本発明は、H形鋼の有する強度上の特徴を活かし、薄板で、めっき処理などの可能な形鋼を提供することを課題としている。同時に、薄鋼板で形成されているC形鋼の欠点をカバーして、バランスのとれた形鋼を提供することを課題としている。」
(イ)「【0005】
【発明の実施の形態】図1に示すのは、厚さ2.3ミリメートルの亜鉛めっき鋼板を、ロールフォーミング成形で形成したZ形鋼1の一例である。互いに平行で同じ巾の二枚のフランジ2と、二枚のフランジの中点を結ぶ線上に、ウェブ3があり、フランジの端部とウェブの端部を直線で連結した形状である。ウェブ3の中心線上には所定の間隔で貫通孔4を設ける。
【0006】
【実施例1】図2に示すのは、Z形鋼1の一例である。素材としては厚さ3.2ミリメートルの亜鉛めっき鋼板をメッキ鋼板を用いている。用途はさまざまであるが、主として、建築土木における梁材などに用いる。
【0007】断面の外周形状の大きさは巾10センチメートル、高さ20センチメートルである。形状を説明すると、上端を形成する巾10センチメートルのフランジ2の左端には、下方に直角に屈折された長さ3センチメートルのリップ5を付設する。リップと反対側のフランジの右端には、下方に直角に屈折された巾2センチメートルのアングル6を付設する。アングルの下端に連続して、斜めに走るトラス7を付設する。トラス7は左右の中央に形成される、長さ10センチメートルのウェブ3の上端に繋がる。」
(ウ)「【0017】以上と比較して、この発明のZ形鋼は、形状がウェブの中点が点対称の中心とした形状であり、図6のように全体を台形に形成した特殊な場合以外は、左右・上下のどちらに向けても強度が略同じである。又、フランジが中心線上にあるので、横方向に並べた時に、フランジ面間の距離が等しくなり、使用し易い。
【0018】使用材料の割に大きな強度がえられ、両端のフランジを活かして使用すると、大きな断面二次モーメントが得られる。又、上と下・左と右の強度が略同じであるので、強度設計がし易く都合がよい。」
(エ)図1、図2は以下のものである。
a 図1、図2
「
[図:0001424882000013.jpg]
」
イ 甲6技術事項
上記ア(エ)の図1は、Z形鋼1の断面図であることは自明であるから、上記アを総合すると、甲6には次の技術事項(以下「甲6技術事項」という。)が記載されているものと認める。
「ウェブの中点が点対称の中心とした形状であるZ形鋼1において、
断面形状が、互いに平行で同じ巾の二枚のフランジ2と、二枚のフランジの中点を結ぶ線上に、ウェブ3があり、フランジ2の端部とウェブ3の端部を直線で連結した形状であること。」
(7)甲第7号証
ア 甲7の記載
甲7には以下の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、制震デバイスに関し、さらに詳しくは、地震により建物に発生した水平方向への変形に対して曲げ降伏することにより水平方向への地震エネルギーを吸収して地震による建物の揺れを低減させる制震デバイスに関するものである。」
(イ)「【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明に係る制震デバイスは、建物の柱と梁とで囲まれた面内に設置される制震デバイスであって、上梁と下梁との間を橋渡しするように設置される曲げ降伏可能なダンパー部材と、前記上梁と下梁のそれぞれに取付され、前記ダンパー部材の軸方向と略直交する一方向の両側から前記ダンパー部材の端部をそれぞれ挟持する挟持部材とを備えるとともに、前記ダンパー部材の一方の端部と前記挟持部材との間に、両部材間の摩擦力を低減する低摩擦材が介在され、前記ダンパー部材の軸方向と、前記ダンパー部材の前記軸方向および前記一方向の両方向と略直交する他方向に、前記ダンパー部材の一方の端部を摺動可能としたことを要旨とするものである。
【0011】
この際、前記ダンパー部材は、1本または2本以上の鋼材により構成されていることが望ましい。そして、前記鋼材は、H形鋼であると良い。このとき、前記H形鋼の端部のフランジ部間に、補強用鋼板が取付されていることが望ましい。」
(ウ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る制震デバイス10は、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造などの建物の柱42と梁44とで囲まれた面内に設置されるものである。制震デバイス10は、大規模な建物に好適に適用されるが、住宅などにも適用可能である。
【0018】
制震デバイス10は、曲げ降伏可能なダンパー部材12と、ダンパー部材の端部を挟持する挟持部材14とを備えている。ダンパー部材12は、建物の柱42と梁44とで囲まれた面内の上梁44と下梁44との間を橋渡しするように配置される。挟持部材14は、上梁44と下梁44のそれぞれに取付される。挟持部材14は、ダンパー部材12の軸方向と略直交する面内水平方向の両側から、ダンパー部材12の端部をそれぞれ挟持している。
【0019】
制震デバイス10は、履歴減衰により地震エネルギーを吸収・消費させる履歴型の制震デバイスであり、地震により建物に発生する面内水平方向への変形に対しダンパー部材12が曲げ降伏することにより、地震エネルギーを吸収・消費させることができる。
【0020】
ダンパー部材12としては、例えば、1本または2本以上の鋼材により構成されるものを示すことができる。ダンパー部材12を形成する鋼材としては、H形鋼、溝形鋼、リップ溝形鋼、山形鋼などの形鋼や、円筒や角筒などの鋼管、鋼板、または鋼棒などが挙げられる。好ましくは形鋼であり、より好ましくはH形鋼である。H形鋼は、曲げ強度に比較的優れており、曲げ降伏する際のエネルギー吸収能力に優れる点などから好ましい。既製のH形鋼を材料とすることができるため、入手が容易で低コストであり、汎用性に優れ、広く普及させやすいという利点も有する。
【0021】
ダンパー部材12が2本以上の鋼材により構成される場合には、例えば、鋼材の数量を変化させて、建物の規模等に応じて制震デバイス10の剛性や耐力を調整することができる。これにより、制震デバイス10を間柱として用いたり、壁内に用いるなど、バリエーションに富んだ制震建物の設計が可能になる。
【0022】
曲げに対する降伏点を調整するなどの観点から、鋼材のサイズや板厚、材質などを適宜定めることができる。鋼材の材質としては、特に限定されるものではないが、例えば、鋼、アルミニウム、ステンレス、またはこれらの合金などを示すことができる。また、鋼材は、一般的な構造用鋼材であっても良いし、構造用鋼材よりも降伏点の低い鋼材であっても良い。一般的な構造用鋼材としては、例えば設計基準強度が235、325、355、385、440(N/mm2)からなる鋼材などを例示することができる。一方、低降伏点鋼材としては、例えば設計基準強度が80、100、120、160、225(N/mm2)からなる鋼材などを例示することができる。
【0023】
図2には、ダンパー部材12を構成する鋼材の一例を示している。図示される鋼材は、H形鋼よりなる。図2(a)は、H形鋼16aのフランジ面側を見た図であり、図2(b)は、H形鋼16aのウェブ面側を見た図である。H形鋼16aの両端部は、それぞれ、補強用鋼板22、24が取付され、補強されている。補強用鋼板22は、フランジ部18間を橋渡しするように、H形鋼16aのウェブ部20から立設されている。補強用鋼板24は、ウェブ面20を覆うように、フランジ部18間を橋渡ししている。補強用鋼板22、24により、H形鋼16aの端部は剛性が高まるとともにへたりにくくなり、ダンパー部材として高いエネルギー吸収能力を発揮することができる。
【0024】
次いで、図3および図4に、上記図2に示すH形鋼16aを用いた第一実施形態に係る制震デバイス10の取付構造を示す。図3および図4に示す構造は、梁44より突出された突部46間に制震デバイス10を取付した例について示している。突部46は、建物の梁44の製作時にあらかじめ梁44に形成されたものであっても良いし、既存の建物を後から補強する際に梁44に取付けしたものであっても良い。
【0025】
図3に示すように、上梁44に取付される挟持部材14は、略L字型をした一対のL形鋼26aと、L形鋼26aとL形鋼26aとを連結する4本の鋼棒28とにより構成されている。
【0026】
L形鋼26aは、突部46とフランジ面が合わせられ、ボルト締めにより突部46と一体化されている。また、L形鋼26aの互いに向き合ったフランジ面間には、ダンパー部材12を構成する複数本のH形鋼16aの上端部が配置され、一対のL形鋼26aにより、面内の水平方向両側から、H形鋼16aの上端部が挟持されている。そのため、H形鋼16aの上端部は、面内の水平方向には、一対のL形鋼26aにより拘束され、面外方向およびH形鋼16aの軸方向には、一対のL形鋼26aとの間の摩擦接合により拘束されている。これにより、ダンパー部材12の上端部は梁44に固定されている。
【0027】
また、H形鋼16aの上端部の面外方向両外側には、4本の鋼棒28が配置されており、鋼棒28の端部は、L形鋼26aの互いに向き合ったフランジ面に、ボルト締めにより固定されている。これにより、L形鋼26aとL形鋼26aとが連結されている。そして、4本の鋼棒28は、H形鋼16aの上端部と接触した状態で取付されており、H形鋼16aの上端部は、鋼棒28によっても挟持され、面内の水平方向、面外方向およびH形鋼16aの軸方向には、摩擦接合により拘束されている。
【0028】
下梁に取付される挟持部材14も、一対のL形鋼26aと、4本の鋼棒28とにより構成されている。上梁44側と同様、L形鋼26aは、突部46とフランジ面が合わせられ、ボルト締めにより突部46と一体化されている。また、L形鋼26aの互いに向き合ったフランジ面間には、ダンパー部材12を構成する複数本のH形鋼16aの下端部が配置され、一対のL形鋼26aにより、面内の水平方向両側から、H形鋼16aの下端部が挟持されている。
【0029】
H形鋼16aの下端部の面外方向両外側には、4本の鋼棒28が配置されており、鋼棒28の端部は、L形鋼26aの互いに向き合ったフランジ面に、ボルト締めにより固定されている。これにより、L形鋼26aとL形鋼26aとが連結されている。4本の鋼棒28は、図5、6に示すように、H形鋼16aの下端部とは間隔をあけて配置されている。この間隔は、面外方向への変形に対し、H形鋼16a下端部がある程度動くことができるような遊びとなっており、面外方向への変形による力がH形鋼16a下端部に作用しないようになっている。すなわち、ダンパー部材12の下端部を面外方向で拘束するものにはなっていない。
【0030】
さらに、H形鋼16aの下端部とL形鋼26aとの間には、両部材間の摩擦力を低減する低摩擦材が介在されている。これにより、面外方向およびH形鋼16aの軸方向には、H形鋼16aの下端部が摺動可能となっている。低摩擦材としては、例えば、グリースや、フッ素樹脂材などが挙げられる。低摩擦材は、液状、ゲル状、シート状等の種々の形状にすることができる。
【0031】
そして、このような構成としたため、H形鋼16aの下端部は、面内の水平方向には、一対のL形鋼26aにより拘束されているが、面外方向およびH形鋼16aの軸方向には、拘束されていない。そのため、水平方向への変形による力のみがダンパー部材12に作用し、面内の垂直方向(軸方向)への軸力や面外方向への変形による力がダンパー部材12に作用するのが抑えられる。すなわち、軸力や面外方向の力による履歴への影響が抑えられ、制震デバイス10が本来吸収すべき面内の水平方向への変形に対して安定してエネルギー吸収能力を発揮することができる。
【0032】
H形鋼16a間には、大変形時に発生するH形鋼16a同士の接触や密着による耐力上昇や耐力低下を防ぐためのフィラー板30が配置されている。下端部側のフィラー板30とH形鋼16aとの間には、上記低摩擦材が介在されていることが好ましい。」
(エ)図1、図3は以下のものである。
a 図1
「
[図:0001424882000014.jpg]
」
b 図3
「
[図:0001424882000015.jpg]
」
(8)甲第8号証
ア 甲8の記載
甲8には、以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、肉厚が薄くとも面内せん断座屈耐力が大きなパネルに関するものであり、また、肉厚が薄くとも面内せん断座屈耐力が充分な形鋼、および耐力壁に関するものである。」
(イ)「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかるせん断パネルは、方形状パネルの平行な二辺の中間部に、他の二辺と平行となる段差状折れ部を設けるものである。
本発明にかかる他のせん断パネルにおいて、段差状折れ部は、段差部分がその左右のパネル部分に対して、谷側の角度が90度若しくはそれ未満の鋭角を成して屈曲している。
本発明にかかる他のせん断パネルは、段差状折れ部を、単数若しくは複数設けてあるものである。
本発明にかかる形鋼は、ウェブとなるパネル部分の幅方向中間部に、フランジと平行となる段差状折れ部を設けてある。
本発明にかかる他の形鋼において、段差状折れ部は、段差部分がその左右のパネル部分に対して、谷側の角度が90度若しくはそれ未満の鋭角を成して屈曲している。
本発明にかかる他の形鋼は、段差状折れ部を、単数若しくは複数設けてある。
本発明にかかる耐力壁は、左右の柱部と上下の横架部とによって軸組みした方形の開口部に、パネルを取り付け、前記パネルの左右幅方向中間部に、左右の柱部と平行となる段差状折れ部を設けてある。
本発明にかかる他の耐力壁は、段差状折れ部は、段差部分がその左右のパネル部分に対して、谷側の角度が90度若しくはそれ未満の鋭角を成して屈曲している。
【発明の効果】
【0007】
本発明は以上の構成を有し、以下の効果を得ることが可能である。
<a>パネル部分に段差状の折れ部を設けることで、段差状折れ部を境界とした複数の領域にパネル部分を分断して、見かけ上幅厚比を小さくすることになる。併せて面外曲げ剛性を付加することで、折れ部を境界とした左右の領域にまたがる全体座屈の発生を抑制している。従って板厚を厚くすることなく幅厚比が小さくなり、面内せん断座屈耐力が向上する。
<b>本発明を実施しない平板では弾性座屈するようなものでも、本発明を実施することによって、せん断降伏するまでせん断座屈を起こさないようにすることができる。その際、初期面内せん断剛性、せん断降伏耐力は、平板のものと同じままで、本発明を実施したパネル部分は、その弾性せん断座屈耐力は計算上4倍になる。そのため、材料に400N/mm2級の鋼材を用いた平板の幅厚比が400程度のものでも、本発明を実施することで、せん断降伏するまで弾性座屈しないようにすることができる。
<c>段差状折れ部を設けることで、塑性変形能力が向上し、その繰り返し挙動も大変形時まで安定化することができる。本発明を実施したパネルは、その弾性せん断座屈耐力は計算上4倍となるが、その際塑性変形能力もほぼ4倍になると考えてよく、平板でその幅厚比が100程度の薄さのパネルに本発明を実施すれば、繰り返し挙動は安定化し、十分耐震設計上必要な塑性変形能力を有することになる。
<d>段差状折れ部の形状が単純であることから、従来の薄板に関する計算によって同様に比較的精度良く定量的に力学性能を求めることが出来、その性能を把握し易い。
<e>板厚を厚くすることがないため、材料を余分に使用することなく、重量も重くならず、施工性も変わらない。
<f>リブなどを設けることがないため、その製造に特別の技量や知識が必要とならない。
<g>段差状折れ部は、折り曲げるだけでよく、折り曲げ段差部分も小さく、製作も現行の折り曲げ技術で十分対応可能である。
<h>段差状折れ部は、見かけ上の幅厚比を小さくするだけのため、単数若しくは極く僅かの数の段差状折れ部を設けるだけのため、パネル自体の大きさが小さくとも実施でき、パネルの小型化が容易である。
<i>本発明を実施したパネルダンパー、形鋼、耐力壁において、上記と同様の効果を達成できる。
<j>段差状折れ部の段差部分が、その左右のパネル部分に対し、90度若しくはそれ以下の鋭角を成していることにより、段差部分はその左右の領域をより明確に分断して、折れ部を境界とした左右の領域にまたがる全体座屈の発生を抑制する。」
(ウ)「【実施例1】
【0008】
<1> せん断パネル
実施例1では、せん断パネルAをパネルダンパーとして使用している。
せん断パネルAは方形状であって、その左右幅b方向の中間部分に、上下方向に連続する段差状折れ部Bが形成されている。
段差状折れ部Bは、段差部分1が、パネルAの幅b方向中間部分に折り込まれて形成してある。
実施例では、幅bが500mmであるのに対して、段差部分1の幅sは20mmである。
段差部分1の幅sは、薄肉板であれば20mm程度、或るいはそれ以上、若しくはそれ以下であってもよいが、あまり大きくなると壁材などとして使用する場合、段差状折れ部Bが表面に出っ張り過ぎて好ましくない。
パネルAの厚みtに対する段差部分1の幅sの好適な値は、幅に対する板厚の比(s/t)として2~10程度、より好ましくは3~5程度である。
前記段差部分1は、その左右のパネル部分2、3に対して、谷折り側の角度θが90度、若しくはそれ未満の鋭角に折り込まれて、左右のパネル部分2、3の間に、段差部分1による段差が生じている。
谷折り側の角度θの好ましい値は、85~90度程度である。
図1に示す耐力パネルAは、段差部分1が、その左右のパネル部分2、3に対して、谷折り角度θがほぼ90度となっているが、図2に示す耐力パネルAでは、それより小さい鋭角を成している。
谷折り角度θとは、図5に示す通りである。」
(エ)「【実施例3】
【0016】
<6>形鋼
図8及び図9に示す実施例は、本発明を形鋼に実施した例である。
実施例のI形鋼は、本発明のパネルAに相当するウェブ8と、そのウェブ8の両端に固定されたフランジ9・9より成る。
ウェブ8は、6mmの厚さtの鋼板を使用し、その幅bは500mmであって、その中間に段差状折れ部Bを設けて、幅bが二等分されている。
段差状折れ部Bの段差部分1の幅sは、20mmとなっている。
フランジ9には、厚さftが12mmの鋼板が使用され、その幅wは200mmとなっている。
ウェッブ8の厚さtが薄くとも、段差状折れ部Bが設けられて、その幅厚比が半分にな
っており、座屈し難くなっている。
図10に示すのは、現在行われている折板技術によって、一枚物の鋼板を折って、形鋼を形成した例である。」
(オ)図1、図8、図9は以下のものである。
a 図1
「
[図:0001424882000016.jpg]
」
b 図8
「
[図:0001424882000017.jpg]
」
c 図9
「
[図:0001424882000018.jpg]
」
(9)甲第9号証
ア 甲9の記載
甲9には以下の記載がある。
(ア)「【0001】
本発明は、風や地震等に起因する住宅等の小規模建築物の振動を抑制するための住宅用制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、風や地震等に起因する構造物の振動を抑制するための制振構造体として、図1に示すように、構造用鋼から成る柱1、1と梁2、2とで囲まれた枠体内に構造用鋼の水平部材5と傾斜部材3、3とから成る山形架構を配置し、梁2と山形架構の水平部材5とをダンパー8を介して結合してなるものが用いられている(特許文献1参照。)。なお、図1中、4は傾斜部材3の一端を柱1と梁2の交点に固定するための接ぎ手部材であり、6は傾斜部材3の他端を水平部材5に結合するための接ぎ手部材である。また、7は水平部材5を梁2に連結するための結合部材である。
このような制振構造体にあっては、山形架構の水平部材5と梁2とを結合するダンパー8として普通鋼部材や低降伏応力鋼部材等を用い、地震等の振動エネルギーを当該ダンパー8の変形により吸収させて構造物全体の振動を小さくしようとするものである。
【0003】
そして、エネルギー吸収量をより多くするために、前記ダンパー8に各種の改良が施されている。上記特許文献1でも、ダンパー8を、特殊形状にしている。
また、例えば特許文献2では、ダンパーを湾曲した形状を有すると共に、梁の延在方向に並設された複数の板状部を備えており、前記ダンパーの板状部の初期長L0を、設計地震外力によって2本の柱と2本の梁で形作られた枠体が最大変形した時点における上記板状部の長さをLとした場合に、下記の式で求められる平均歪度εの値がダンパーを構成する低降伏応力鋼の引っ張り試験における降伏領域と歪み硬化領域との境界の歪度以下になるように設定している。なお、ε=L/L0-1である。」
(イ)「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の住宅用制振装置は、その目的を達成するため、上部および下部の2本の横材と、左部および右部の2本の縦材とが互いにピン接合されて矩形の枠体が形作られているとともに、下部横材の両内側端近傍にそれぞれの一端が固着され、他端がそれぞれ枠体の中央部方向に伸びる2本の斜材が配され、当該2本の斜材のそれぞれの他端が両端に固着された斜材受け材の上面と前記上部横材の中央部下面との間にダンパーが取り付けられた制振装置であって、当該制振装置を構成する横材、縦材、斜材受け材およびダンパーが軽量形鋼から構成されており、前記横材および縦材を構成する軽量形鋼は、その溝部を前記枠体の内側に向けて配されているとともに、前記ダンパーは、前記横材を構成する軽量形鋼のフランジ内面間隔と同じ寸法のフランジ外面間隔を有し、両フランジの中央部に長手方向に沿って複数の孔が連穿されており、両フランジの先端部が上部横材のフランジ間に挿入されてドリルねじで上部横材を構成する軽量形鋼のフランジに取り付けられているとともに、当該ダンパーを構成する軽量形鋼のウエブ外面が溝部を下方に向けて配された軽量形鋼からなる前記斜材受け材のウエブ外面にドリルねじで取り付けられていることを特徴とする。」
(ウ)「【0023】
またこの斜材15、15’の他端は、前記横材11、12を構成する軽量形鋼と同寸法のフランジ内面間隔を有する軽量形鋼からなる斜材受け材16のフランジ内に挿入され、溶接接合またはドリルねじ接合で固着されている。
斜材受け材16の上面と上部横材11の中央部下面との間に、本発明の特徴の一つであるダンパー17が、ドリルねじ18で着脱可能に取り付けられている。すなわち、ダンパー17を構成する軽量形鋼のフランジ外面間隔は、上部横材11のフランジ内面間隔と同じ寸法とされ、図4に示すように、両フランジの先端部が上部横材11のフランジ間に挿入されてドリルねじ18で横材を構成する軽量形鋼のフランジに、着脱可能な状態で取り付けられている。また、このダンパー17を構成する軽量形鋼のウエブ下面が前記斜材受け材16を構成する軽量形鋼のウエブ外面にドリルねじ18で着脱可能な状態で取り付けられている。
【0024】
軽量形鋼から形作られたダンパー17には、その両フランジの中央部に複数の孔20が連穿されている。この孔の存在によって、ダンパー17が、変形時にダンパーの塑性変形によりエネルギーを吸収することにより、制振装置としての機能を果たすことになる。
エネルギー吸収量をより多くして制振機能を向上させるためには、ダンパー17を形作る鋼板の機械的性質にもよるが、連穿される孔の形状を工夫する必要がある。孔に挟まれるフランジ部材料が塑性変形する際に応力集中を受けやすい孔形状とすること、また孔の数やダンパーの板厚を調整することによって建物や設置場所に適したエネルギー吸収性能を発揮することができる。具体的には、当該ダンパーの長手方向に沿って長く、その孔の両側部に鋭角の応力集中部を有している形状とすることが好ましい。
【0025】
このようなフランジに複数の孔が連穿された軽量形鋼製ダンパーの製作は、適宜幅の鋼板の両側部に複数の孔を連穿した後、当該鋼板にロールで曲げ加工を施し、その後に、適宜長さに切断することにより形作られる。
また、上記斜材受け材16のウエブ外面両端に倒れ止め材19、19’が固着されていることが好ましい。倒れ止め材19、19’は、ダンパーが左右に振動する際に、振動方向のみの水平移動とするために、倒れ止め材は上下方向の突っ張り材として働き、さらに振動方向と直交方向に横倒れすることを防止する。この倒れ止め材19、19’がないとダンパー17はそれ自体を形作る軽量形鋼の長手方向とフランジ面に垂直な方向に変形横倒れして、連穿孔を有するフランジ部鋼板がきれいに塑性変形せず、効率的にエネルギー吸収をすることができなくなる。
【0026】
この倒れ止め材19、19’を形作る軽量形鋼には、上部横材11を構成する軽量形鋼のフランジ内面間隔と同じ寸法のフランジ外面間隔を有する軽量形鋼が用いられる。倒れ止め材19、19’の下端が斜材受け材16のウエブ外面に溶接法またはドリルねじ接合で固着され、上端が上部横材11を構成する軽量形鋼の両フランジ間に遊挿されている。
上記態様では、倒れ止め材19、19’は斜材受け材16のウエブ外面に設けられているが、ダンパー自体に取り付けたもよい。この場合には、図5に示すように、ダンパーを構成する軽量形鋼のダンパー17部の両端にウエブ、フランジを残存させ、この両フランジを上部横材11の両フランジ間に遊挿させる形態で倒れ止め材とすることができる。
後記のように、不幸にも地震等の被害を受け、振動エネルギーを吸収することにより破損したダンパー17を取り外し、新たなダンパー17を再び組み込む際、前記倒れ止め材19、19’がドリルねじで斜材受け材16のウエブ上面に取り付けられていると、あるいは前記倒れ止め材19、19’がダンパー自体に取り付けられていると、前記ダンパー17の交換が行いやすくなる。」
(エ)図2は以下のものである。
a 図2
「
[図:0001424882000019.jpg]
」
(10)甲第10号証
ア 甲10の記載
甲10には以下の記載がある。
(ア)「本発明は、風や地震等に起因する住宅等の小規模建築物の振動を抑制するための住宅用制振装置に関する。」(【0001】)
(イ)「当該制振装置を構成する横材、縦材、斜材受け材およびダンパーが軽量形鋼から構成されており」(【0006】)
(ウ)図3は以下のものである。
a 図3
「
[図:0001424882000020.jpg]
」
(11)甲第11号証
ア 甲11の記載
甲11には以下の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、住宅等の建築物の梁材、柱材、根太材、母屋材等として使用される建築用構造形材に関する。
【0002】
【従来の技術及びその課題】一般に、形材としては、熱間圧延による肉厚のH形鋼や溝形鋼等の形鋼があるが、これは比較的大型の構造物に使用されるもので、一戸建て住宅のような比較的小規模の建築物の構造形材にはほとんど使用されない。従って、そのような小規模建築物の構造形材としては、従来より帯鋼板を冷間成形した軽量形鋼や、帯鋼板を溶接して所要断面形状とした形鋼が使用されている。」
(イ)「【0007】
【課題を解決するための手段】請求項1に係る発明の建築用構造形材は、互いに溶接により接合される複数の金属板によって所要断面形状の形材に形成されると共に、当該形材の一部又は全部が二重層状に密着した状態に形成されて、その二重層界面部が振動減衰作用部(5、15、25、35、45、55)となっていることを特徴とする。」
(ウ)「【0013】
【発明の実施の形態】図1は、本発明に係る断面H形の建築用構造形材1の一例を示す。この形材1は、帯状鋼板をプレス加工により断面コ字形に成形した一対のコ字形板材2、2を、そのウエブ部2a、2a相互が密着するように背合わせにして、断面H形の主体3を形成し、このH形主体3を形成する両コ字形板材2、2のそれぞれ隣合うフランジ部2b、2bに比較的薄い帯状の銅板製外板4を密着状態に当接し、各外板4の側端縁部と各フランジ部2bの先端縁部とを溶接Wすることによって、全体が断面H形の形材に形成されたものである。しかして、この形材1においては、ウエブ1A、即ち主体3を形成する両コ字形板材2、2のウエブ部2a、2aが二重層状に密着した状態となって、その二重層界面部が振動減衰作用部5となっており、また各フランジ1B、即ち各コ字形板材2とフランジ部2bと各外板4とも二重層状に密着した状態となって、その二重層界面部が振動減衰作用部5となっている。」
(エ)「【0026】
【発明の効果】請求項1に係る発明の建築用構造形材は、互いに溶接により接合される複数枚の金属板によって所要断面形状の形材に形成されたもので、当該形材の一部又は全部が二重層状に密着した状態に形成されて、その二重層界面部が振動減衰作用部となっているから、この形材を梁材、柱材、根太材、母屋材等として使用したとき、二重層部の何れか一方に作用した外力による振動は、二重層界面部の振動減衰作用部によって瞬時に減衰され、それにより形材は振動できない状態となって、騒音を生ずることがなく、従って防音性が要求される建築用構造形材としてきわめて有用である。また、この建築用構造形材によれば、形材の厚さを部分的又は全体的に厚くしたり、薄くすることができ、形材の使用目的に応じた板厚の変更が可能となる。」
(オ)図1は以下のものである。
a 図1
「
[図:0001424882000021.jpg]
」
(12)甲第12号証
ア 甲12記載事項
甲12には以下の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
架構の構面に設けられた既存壁の耐震改修方法、及び建物に関する。
【背景技術】
【0002】
開口部を備える既存壁の耐震改修では、コンクリートを増し打ちしたり、制振ブレース等の制振要素を設置したりして、耐力、靭性を高めることが一般的に行われる。しかしながら、コンクリートを増し打ちした場合、建物の重量が増加するだけでなく、耐力の増強に伴って剛性が増大して建物周期が短くなり、建物に作用する地震力が増大する恐れがある。更に、コンクリート増し打ち工法では、型枠の設置、コンクリート打設、コンクリート養生等の煩雑な作業を伴うため、工期が長期化する懸念がある。
【0003】
一方、制振ブレース等のエネルギー吸収機構を備える制振部材と、剛性の大きい既存壁とを併用すると、既存壁の剛性によって建物の変形が小さくなり、建物の変形によってエネルギーを吸収する制振部材の制振効果を低下する恐れがある。
【0004】
ところで、特許文献1には、既存建物の架構に波形鋼板を設置する耐震補強方法が提案されている。また、特許文献2には、架構を構成する左右の柱との間にスペースを空けて波形鋼板を設置した制振間柱が提案されている。これらの特許文献1、2に開示された波形鋼板は、鋼板を波形形状に加工して構成され、その折り筋を横にして架構の構面に配置される。従って、この波形鋼板は、鉛直方向にアコーディオンのように伸縮するため架構の構成する上下の梁等を拘束せず、ラーメン構造としての変形性能(靭性)を阻害しない。一方、波形鋼板は水平力に対しては抵抗可能であり、架構に耐力を付与することができる。更に、鋼板の材質強度、板厚、重ね合わせ枚数、波形のピッチ、波高等を変えることでその耐力を調整可能であり、設計自由度が高く、優れた耐震性能を有している。しかしながら、特許文献1、2は既存壁を活用するものではない。
【特許文献1】特開2006-37628号公報
【特許文献2】特開2006-37581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の事実を考慮し、既存壁を活用した耐震改修方法を提供する目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の耐震改修方法は、柱と上下の水平部材とから構成された架構の構面に設けられた既存壁の開口部の上下の内壁に鋼板の横辺を固定し、該鋼板の縦辺に沿って又は平行に、前記既存壁に前記水平部材に至るスリット又は溝を形成する。
【0007】
上記の方法によれば、既存壁にスリット又は溝を形成して耐力を小さくする一方で、開口部の上下の内壁に鋼板の横辺を固定して架構全体の靭性を大きくする、いわゆる靭性型の耐震補強を行う。即ち、鋼板の縦辺に沿って又は縦辺と平行に、既存壁にスリット又は溝を形成することで架構の層間変形量を大きくすると共に、開口部の上下の内壁に横辺が固定された鋼板のせん断変形量を大きくして耐震効果を発揮させる。
【0008】
ここで、地震等により架構に水平力が作用すると、架構がラーメン構造としての耐震性能を発揮すると共に、開口部の上下の内壁が水平方向に相対変位し、鋼板に水平力が伝達される。これにより、鋼板がせん断変形して耐震効果を発揮する。また、水平力に対して鋼板が降伏するように設計することで、鋼板の履歴エネルギーによって振動エネルギーが吸収され、制振効果を発揮する。このように、既存壁を活用して鋼板を架構に設置することで、耐震性能に優れた耐震改修を行うことができる。」
(イ)「【0020】
上記の方法によれば、鋼板が波形鋼板とされている。波形鋼板は、水平力に対しては抵抗可能であり、せん断変形することで耐震性能を発揮する。また、水平力に対して波形鋼板耐震壁が降伏するように設計することで、鋼板の履歴エネルギーによって振動エネルギーが吸収され、制振効果を発揮する。従って、耐震性能・制振性能に優れた耐震改修を行うことができる。更に、鋼板を波形形状とすることで、せん断座屈耐力・変形性能を向上させることができ、通常の鋼板を用いる場合よりもせん断座屈防止手段としての補剛リブを減らすことができる。また、波形鋼板は、折り筋と直交する方向には剛性が弱いというアコーディオン効果を有するため(図1(A)では鉛直方向の剛性が弱い)、上下の水平部材の曲げ変形を阻害しない特性、及びクリープや積載荷重の変化による水平部材のたわみ増大に起因する軸力変動がない特性を有するため、既存建物の性能を向上させることが容易である。
(ウ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る耐震改修方法、及び耐震改修方法によって改修された建物について説明する。図1(A)及び図1(B)には、本発明の実施形態に係る耐震改修方法によって改修された建物10が示されている。
【0025】
建物10を構成する架構12は、左右の鉄筋コンクリート(以下、「RC」という)造の柱14、16とRC造の上下の梁18、20(水平部材)によって構成され、ラーメン構造とされている。上下の梁18、20にはそれぞれ上連結部40A、下連結部40Bが設けられている。上連結部40A及び下連結部40Bは後述するように既存壁40の一部で構成されており、上連結部40Aは梁18の下面から下向きに突出して設けられ、下連結部40Bは梁20の上面から上向きに突出して設けられている。
【0026】
上連結部40Aと下連結部40Bとの間には波形耐震部材26が配置されている。波形耐震部材26は波形鋼板28(鋼板)と枠体30とを備えている。波形鋼板28は、鋼板を波形形状に折り曲げ加工して構成されており、その折り筋を横(折り筋の向きを横方向)にして架構12の構面に配置されている。波形鋼板28の材料としては、普通鋼(例えば、SM490、SS400等)や低降伏点鋼(例えば、LY225等)等が用いられる。
【0027】
波形鋼板28の左右の端部には、縦フランジ32A、32Bがそれぞれ設けられている。この縦フランジ32A、32Bはプレート状に形成されており、波形鋼板28の左右の端部に沿って溶接固定されている。また、波形鋼板28の上下の端部には、鋼製の横フランジ34A、34Bがそれぞれ設けられている。この横フランジ34A、34Bは、プレート状に形成されており、波形鋼板28の上下の端部に沿って溶接固定されている。これらの縦フランジ32A、32B及び横フランジ34A、34Bは、各々の端部同士が溶接等によって接合されており、これによって波形鋼板28の外周部を囲む枠体30が構成されている。なお、縦フランジ32A、32B及び横フランジ34A、34Bはそれぞれ波形耐震部材26の縦辺、横辺に相当する。
【0028】
横フランジ34A、34Bはそれぞれ上連結部40Aの内壁42A(開口部の上の内壁)、下連結部40Bの内壁42B(開口部の下の内壁)に固定されており、これによって上連結部40Aと下連結部40Bとが波形耐震部材26によって連結されている。波形耐震部材26と左右の柱14、16との間にはそれぞれ開口36A、36Bが設けられており、これらの上連結部40A、下連結部40B、及び波形耐震部材26によって間柱が構成されている。
【0029】
なお、枠体30を構成する縦フランジ32A、32B及び横フランジ34A、34Bはプレート状に限らず、H型鋼、L型鋼、チャネル鋼等でも良い。また、波形耐震部材26のせん断座屈強度・耐力が小さい場合には、波形鋼板28に上下方向に延びる補剛リブを溶接等により接合してせん断座屈を防止することが望ましい。」
(エ)「【0038】
次に、実施形態に係る耐震改修方法の作用について説明する。
【0039】
図4は、地震時等における架構12及び波形耐震部材26の変形状態を示している。なお、図4では、理解を容易にするために架構12及び波形耐震部材26の変形状態を誇張して示している。
【0040】
図4に示すように、風や地震等によって架構12に水平力(矢印F方向)が作用し、架構12に層間変形が生じると、波形鋼板28のアコーディオン効果によって上下の梁18、20の曲げ変形が阻害されないため、架構12がラーメン構造としての耐震性能を発揮する。また、上連結部40A及び下連結部40Bから水平力が波形耐震部材26に伝達され、波形鋼板28がせん断変形する。これにより、波形鋼板28が水平力に抵抗して耐震効果を発揮する。また、水平力に対して波形鋼板28が降伏するように設計することで、鋼板の履歴エネルギーによって振動エネルギーが吸収され、制振効果を発揮する。
【0041】
このように波形耐震部材26を用いることで、耐震性能、制振性能に優れた耐震補強を行うことができる。即ち、既存壁40C、40Dを撤去し、既存壁40の耐力を小さくする一方で、変形性能に優れた波形耐震部材26を設置して耐力を付与する。これにより、架構12の層間変形量が大きくなり、架構12がラーメン構造としての耐震性能を発揮すると共に、開口部42の上下の内壁42A、42Bに固定された波形耐震部材26に水平力が伝達されて耐震性能を発揮する。」
(オ)「【0044】
これに対して本実施形態における波形耐震部材26は、板厚、波形の形状(波形のピッチ、波高等)を変えることでその設置幅を調整可能であり、制振ブレースと比較して室内等のスペースを有効利用することができる。また、既存壁40にスリット46A、46Bを設け、更には既存壁40C、40Dを撤去することで、既存壁40の剛性・耐力を調整可能であるため、波形耐震部材26に耐震性能、制振性能を発揮させることができる。」
(カ)「【0046】
更に、波形耐震部材26とラーメン構造としての架構12とは、ともに変形性能が優れるため、これらの波形耐震部材26及び架構12の耐力を加算することができる。即ち、一般的にRC造の既存壁40の最大耐力を呈する変形角(以下、「最大耐力変形角」という)は、RC造の壁を設けないラーメン構造の最大耐力変形角よりも大幅に小さく、これらの耐力を単純に加算することはできない。一方、波形耐震部材26の最大耐力変形角は、板厚、波形の形状(波形のピッチ、波高等)を変えることで調整可能であり、また、その変形角は通常、RC造の壁を設けないラーメン架構の最大耐力変形角と近い値となるため、これらの耐力を加算することができる。
【0047】
また、波形鋼板28は、鋼板を波形形状とすることで、せん断座屈耐力・変形性能を向上させることができ、通常の鋼板を用いる場合よりもせん断座屈防止手段としての補剛リブを減らすことができる。また、波形鋼板28は、折り筋と直交する方向には剛性が弱いというアコーディオン効果を有するため、上下の梁18、20の曲げ変形を阻害しない特性、及びクリープや積載荷重の変化による梁18、20のたわみ増大に起因する軸力変動がない特性を有するため、建物10の性能を向上させることが容易である。」
(キ)「【0071】
また、上記の実施形態では、波形鋼板28をその折り筋を横(折り筋の向きを横方向)にして開口部42等に設置したがこれに限らず、その折り筋を縦(折り筋の向きを上下方向)にして開口部42等に設置しても良い。折り筋を縦にした場合は、波形鋼板28に軸力が導入されないように、波形耐震部材26を上連結部40A及び下連結部40Bに固定する時期を考慮することが望ましい。具体的な対策の1つとして、施工中の柱部材等の軸変形が収束する、耐震改修の最終段階で波形耐震部材26を上連結部40A及び下連結部40Bに設置することが望ましい。更に、同一の開口部42内に複数の波形耐震部材26を対向させて配置しても良いし、波形耐震部材26には、図23(A)~(D)の断面形状を有する波形鋼板28を用いても良い。更に、架構12には、少なくとも一つの波形鋼板26が配置されていれば良い。
【0072】
また、上記の実施形態では、波形耐震部材26を用いたがこれに限らず、図21(A)及び図21(B)に示すように、平板状の鋼板98を用いた耐震部材96を用いても良い。耐震部材96は、鋼板98及び枠体99から構成されている。鋼板98には、波形鋼板28と同様に、左右の端部に鋼製の縦フランジ100A、100Bが設けられ、上下の端部に鋼製の横フランジ102A、102Bが設けられており、これらの縦フランジ100A、100B及び横フランジ102A、102Bによって鋼板98の外周部を囲む枠体99が構成されている。そして、横フランジ102A、102Bを開口部42の上下の内壁面42A、42B(上連結部40Aの下面、及び下連結部40Bの上面)に接着工法又はスタッド等によってそれぞれ固定することで、上連結部40A及び下連結部40Bが耐震部材96によって連結され、間柱が構成される。また、鋼板98の鋼板面にはせん断座屈防止用の補剛リブ104が格子状に設けられている。この補剛リブ104は適宜省略可能であるが、波形鋼板28と比較して平板状の鋼板98はせん断座屈し易いため、補剛リブ104を設けることが望ましい。
【0073】
更に、図22(A)及び図22(B)に示すように、断面C型の鋼板を用いた耐震部材106を用いても良い。耐震部材106は、複数(図21では3つ)の断面C型の鋼板108を備えている。これらの3つの鋼板108は、フランジ部を対向させて上下方向に隣接配置され、対向するフランジ部に貫通されるボルト及びナット(不図示)によって接合されている。これらの鋼板108の左右の端部には、鋼製の縦フランジ110A、110Bが設けられている。また、最上段の鋼板108の上部、及び最下段の鋼板108の下部には、固定部材112がそれぞれ設けられている。鋼製の固定部材112は、固定プレート112Aに接合板112Bを立設して断面T字型に構成され、固定プレート112Aは、開口部42の上下の内壁面42A、42B(上連結部40Aの下面、及び下連結部40Bの上面)に接着工法又はスタッド等によって接合され、接合板112Bにはボルト114によって鋼板108が接合されている。これにより、上連結部40A及び下連結部40Bが耐震部材106によって連結され、間柱が構成される。
なお、図22に示す構成では、耐震部材106を、上下に隣接配置された複数の鋼板108で構成したが、左右に隣接配置された複数の鋼板108で構成しても良く、また、耐震部材106を一つの鋼板108で構成しても良い。
これらの鋼板98、108は、地震等により架構12に層間変形が生じた場合に、せん断変形して、耐震性能又は制振性能を発揮し得る。」
(ク)「【図面の簡単な説明】
【0078】
・・・
【図23】(A)~(D)は本発明の実施形態に係る波形鋼板の断面形状を示す断面図である。」
(ケ)図1、図4、図22、図23は以下のものである。
a 図1
「
[図:0001424882000022.jpg]
」
b 図4
「
[図:0001424882000023.jpg]
」
c 図22
「
[図:0001424882000024.jpg]
」
d 図23
「
[図:0001424882000025.jpg]
」
(コ)上記(ケ)a(図1b)をみると、波形鋼板28の上下の端部は、波形鋼板28の上下方向に延びており、該端部と横フランジ34A、34Bとは直交していることが看取できる。
また、上記(ウ)【0040】の「架構12に水平力(矢印F方向)が作用し」との記載を踏まえると、上記(キ)b(図4)に示された矢印Fが示す水平力は、架構12の面内方向に作用していることが看取できる。
イ 上記アを総合すると、甲12には次の発明(以下「甲12発明」という。)が記載されているものと認める。
「左右の鉄筋コンクリート(以下、「RC」という。)造の柱14、16とRC造の上下の梁18、20(水平部材)によって構成される建物10の架構12において、梁18の下面から下向きに突出して設けられている上連結部40Aと、梁20の上面から上向きに突出して設けられている下連結部40Bと、の間に配置された波形耐震部材26であって、
波形耐震部材26は波形鋼板28(鋼板)と枠体30とを備えており、
波形鋼板28は、材料として普通鋼や低降伏点鋼等が用いられる鋼板を波形形状に折り曲げ加工して構成され、その折り筋を横(折り筋の向きを横方向)にして架構12の構面に配置されており、
波形鋼板28の左右の端部には、プレート状に形成されている縦フランジ32A、32Bがそれぞれ設けられ、波形鋼板28の左右の端部に沿って溶接固定されており、
波形鋼板28の上下の端部には、プレート状に形成されている鋼製の横フランジ34A、34Bがそれぞれ設けられ、波形鋼板28の上下の端部に沿って溶接固定されており、
これらの縦フランジ32A、32B及び横フランジ34A、34Bは、各々の端部同士が溶接等によって接合されており、これによって波形鋼板28の外周部を囲む枠体30が構成され、縦フランジ32A、32B及び横フランジ34A、34Bはそれぞれ波形耐震部材26の縦辺、横辺に相当し、
波形鋼板28の上下の端部は、波形鋼板28の上下方向に延びており、該端部と横フランジ34A、34Bとは直交しており、
横フランジ34A、34Bはそれぞれ上連結部40Aの内壁42A(開口部の上の内壁)、下連結部40Bの内壁42B(開口部の下の内壁)に固定されており、これによって上連結部40Aと下連結部40Bとが波形耐震部材26によって連結されており、
これらの上連結部40A、下連結部40B、及び波形耐震部材26によって間柱が構成されており、
風や地震等によって架構12の面内方向に水平力が作用し、架構12に層間変形が生じると、波形鋼板28のアコーディオン効果によって上下の梁18、20の曲げ変形が阻害されないため、架構12がラーメン構造としての耐震性能を発揮し、また、上連結部40A及び下連結部40Bから水平力が波形耐震部材26に伝達され、波形鋼板28がせん断変形することにより、波形鋼板28が水平力に抵抗して耐震効果を発揮し、また、水平力に対して波形鋼板28が降伏するように設計することで、鋼板の履歴エネルギーによって振動エネルギーが吸収され、制振効果を発揮し、
波形鋼板28は、鋼板を波形形状とすることで、せん断座屈耐力・変形性能を向上させることができ、通常の鋼板を用いる場合よりもせん断座屈防止手段としての補剛リブを減らすことができ、
波形鋼板28を、その折り筋を縦(折り筋の向きを上下方向)にして開口部42等に設置しても良い、
波形耐震部材26。」
(13)甲第13号証
ア 甲13記載事項
甲13には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、建物に地震動が作用した場合における建物の応答加速度や応答変位を低減し、これにより建物の損傷を防止するために用いられる制震ダンパの一つである弾塑性ダンパに関する。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、製造が容易である、座屈を防止し得る弾塑性ダンパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、建物の制震のために用いられる弾塑性ダンパに係り、前記建物への取付に供される上端部及び下端部を有する金属製の板状体からなる。前記板状体は、その上下両端部の一方から他方に向けて上下に伸びる少なくとも1つの窪みを有する。
【0008】
前記窪みは、前記上下両端部の一方から他方まで伸びるものとすることができる。前記板状体は、例えば、その窪みを横切る横断面の形状が波形を呈するものとすることができる。」
(ウ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1を参照すると、鉄筋コンクリート造の建物10に適用された本発明に係る弾塑性ダンパが全体に符号12で示されている。
【0013】
弾塑性ダンパ12は、建物10の上下の梁14、16に、これらの梁から下方及び上方へそれぞれ伸びる鉄筋コンクリート製の上下のブラケット18を介して取り付けられている。
【0014】
図2に示すように、弾塑性ダンパ12は金属製の板状体20からなり、その上端部22及びその下端部24においてそれぞれ両ブラケット18に埋め込まれている。好ましくは、両端部22、24にこれらの上方及び下方にそれぞれ伸びる複数のアンカー部材(図示せず)が設けられる。
【0015】
弾塑性ダンパ12は、前記鉄筋コンクリート造の建物に限らず、鉄骨造の建物(図5参照)、鉄筋鉄骨造の建物(図示せず)あるいは木造の建物(図示せず)に適用することができる。また、弾塑性ダンパ12は新築の建物及び既存の建物のいずれにも適用することができる。
【0016】
図2に示すように、弾塑性ダンパ12を構成する板状体20は、その上下両端部22、24の一方からその他方に向けて上下に伸びる複数の窪み26を有する。
【0017】
窪み26を有する板状体20は、矩形の平面形状を有する金属板にプレス加工を施すこと、すなわち前記金属板に折り曲げ加工を施すことにより形成することができる。図示の例では、板状体20はその両面にそれぞれ窪み(凹条)26と該凹条に対応する凸条27とが現れる波形の横断面形状を有する(図3参照)。前記板状体の形成は、前記金属板のプレス加工による他、例えば比較的厚さの厚い金属板の一部を削り取ってその片面又は両面に少なくとも1つの窪みを形成することにより、行うことができる。
【0018】
このような窪み26を設けることにより、板状体20に高い曲げ剛性を与えることができ、これにより、建物10に取り付けられた板状体20が地震動により水平方向への剪断力を受けて変形(剪断変形)するときの座屈及びこれに伴う急激な耐力低下の発生を効果的に防止することができる。剪断変形をする板状体20は、これが降伏した後、安定した履歴特性を発揮し、地震エネルギを効果的に吸収する。
【0019】
板状体20は前記プレス加工のような成型技術を用いることにより容易にまた短時間で大量に製造することができる。
【0020】
窪み26は少なくとも1つあればよく、また窪み26の数量は任意に定めることができる。複数の窪み26は、窪み26に対して直交する横方向(図1において左右方向)に等しい間隔をおいて、板状体20上に均等に配置されていることが望ましい。しかし、不等間隔であるいは不均等に配置することは妨げられない。
【0021】
図示の例では、各窪み26は、比較的細長くかつその長さ方向に関して幅寸法が変化しない同一のものとされているが、これに限らず、幅寸法がより大きい若しくはより小さいもの、又は前記長さ方向に関して幅寸法が変化するものとすることができる。
【0022】
また、図示の例では、各窪み26を横切る横断面形状がほぼ半円形からなるが、他の横断面形状(例えば矩形)に定めることができる。各窪み26の深さ寸法については任意に定めることができる。」
(エ)「【0024】
板状体20は、吸収すべき地震エネルギの設定量に合わせて、これを構成する材料として、普通鋼、高強度鋼、低降伏点鋼、極低降伏点鋼、ステンレス鋼、アルミニウム等から任意に選択し、また板状体20の大きさ、厚さ寸法等を定めることができる。特に前記低降伏点鋼又は極低降伏点鋼からなる板状体20は、比較的小さい剪断力を受けてその変形を開始することから、前記鉄筋コンクリート造の建物の制震に適する。」
(オ)図1、図2、図3は以下のものである。
a 図1
「
[図:0001424882000026.jpg]
」
b 図2
「
[図:0001424882000027.jpg]
」
c 図3
「
[図:0001424882000028.jpg]
」
イ 甲13技術事項
上記アを総合すると、甲13には次の技術事項(以下「甲13技術事項」という。)が記載されているものと認める。
「建物10の上下の梁14、16に、これらの梁から下方及び上方へそれぞれ伸びる鉄筋コンクリート製の上下のブラケット18を介して取り付けられ、その上下両端部22、24の一方からその他方に向けて上下に伸びる複数の窪み26を有する金属製の板状体20からなる弾塑性ダンパ12において、
板状体20は、上端部22及びその下端部24においてそれぞれ両ブラケット18に埋め込まれており、
窪み26を有する板状体20は、矩形の平面形状を有する金属板にプレス加工を施すこと、すなわち前記金属板に折り曲げ加工を施すことにより形成することができ、
このような窪み26を設けることにより、板状体20に高い曲げ剛性を与えることができ、これにより、建物10に取り付けられた板状体20が地震動により水平方向への剪断力を受けて変形(剪断変形)するときの座屈及びこれに伴う急激な耐力低下の発生を効果的に防止することができ、
窪み26は少なくとも1つあればよく、また窪み26の数量は任意に定めることができること。」
(14)甲第14号証
ア 甲14の記載
甲14には以下の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は極低降伏点鋼製パネルを用いた制震パネルダンパとそれを用いた制震構造に関する。」
(イ)「【0006】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について説明する。図1(A)は制震パネルダンパの正面図、(B)は同断面平面図を示す。本実施の形態による制震パネルダンパ30は、上下のエンドプレート32と、これら上下のエンドプレート32間に設けられた極低降伏点鋼製パネル部33と、フランジ36から構成されている。
【0007】前記エンドプレート32は普通鋼から正方形に形成され、エンドプレート32には、制震パネルダンパ30を建物躯体側に取り付けるための取り付け孔(不図示)が複数形成されている。
【0008】前記極低降伏点鋼製パネル部33は2枚の極低降伏点鋼製パネル34からなり、各極低降伏点鋼製パネル34は矩形板状に形成されており、平面視した場合に十字状に互いに直交するように配置されている。より詳細には、平面視した場合にそれら極低降伏点鋼製パネル34の交点がエンドプレート32の中心に位置し、各極低降伏点鋼製パネル34が、エンドプレート32の輪郭をなす正方形の各辺に平行するように設けられている。2枚の極低降伏点鋼製パネル34のうち、一方の一枚は単体34Aから構成され、他方の一枚は分割された2つの半体34Bから構成されている。前記各半体34Bは、平面視した場合互いに同一直線上に位置するように前記一方の一枚34Aの中央の両面にそれぞれ溶接により固定されている。なお、2枚の極低降伏点鋼製パネル34の上端と下端はそれぞれエンドプレート32に溶接により固定されている。
【0009】前記フランジ36は普通鋼からなり各極低降伏点鋼製パネル34の両側に設けられている。前記フランジ36は、極低降伏点鋼製パネル34の厚さ方向に延在する幅を有して上下に延在し(言い換えると、フランジ36はその面を極低降伏点鋼製パネル34の面と直交する方向に向けて上下に延在し)、幅方向の中央部が極低降伏点鋼製パネル34の端部に溶接などにより固定され、フランジ36の上下の端部は対応するエンドプレート32に溶接などにより固定されている。
【0010】このような構成からなる制震パネルダンパ30は、例えば、従来と同様に建物躯体中に連結されて用いられる。制震パネルダンパ30では2枚の極低降伏点鋼製パネル34が直交して設けられており、水平方向の全方向からの震動について、それら震動をX成分とY成分とに分担して2枚の各極低降伏点鋼製パネル34がそれぞれ塑性変形し、これにより水平面における全方向についての震動エネルギを吸収できる。そして、上下のエンドプレート32の間に2枚の極低降伏点鋼製パネル34が十字状に設けられているので、従来の2つの制震パネルダンパをL字状やT字状に並べて配設する場合に比べ小さなスペース内に配設でき、また、取り付けの手間も1つの制震パネルダンパを取り付ける場合と同様であり、したがって取り付けも簡単になされ、コストダウンを図る上でも有利となる。」
(ウ)「【0016】
【発明の効果】以上の説明で明らかなように本発明の制震パネルダンパによれば、水平方向の全方向からの震動について、それら震動をX成分とY成分とに分担して極低降伏点鋼製パネルが塑性変形し、これにより水平面における全方向についての震動エネルギを吸収できる。そして、上下一対のエンドプレートの間に極低降伏点鋼製パネル部が設けられているので、従来の2つの制震パネルダンパをL字状やT字状に並べて配設する場合に比べ小さなスペース内に配設でき、また、取り付けの手間も1つの制震パネルダンパを取り付ける場合と同様であり、したがって取り付けも簡単になされ、コストダウンを図る上でも有利となる。本発明の制震パネルダンパは、従来のように建物躯体中に配置されるのみならず、二つの建物が近接して設けられる場合に、これら建物から突設された張り出し部の間に配置されて好適である。」
(エ)図1は以下のものである。
a 図1
「
[図:0001424882000029.jpg]
」
(15)甲第21号証
ア 甲21の記載
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、主に鋼構造建築物の梁材等に用いられる組立形鋼に関し、より詳しくは鋼材の寸法や板厚を増加させずに強軸まわりの曲げ剛性を向上させた組立形鋼に関するものである。
【背景技術】
【0002】
H形鋼をはじめとする形鋼は、建築構造における柱材や梁材として利用されている。これら形鋼は、ユニバーサル圧延機によりフランジとウェブが一体となって製造される「圧延形鋼」と、複数の鋼帯を溶接により組み立てて製造される「組立形鋼」に分類される。本発明は後者の「組立形鋼」に関するものである。
【0003】
まず、本発明が対象とする組み立て形鋼の構成を、図1および図6を用いて説明する。組立形鋼は、互いに対向する一対のフランジ13、14と、この一対のフランジを連設するウェブ15から形成され、ウェブ15がフランジ13、14のほぼ中央に配置されたものはH形鋼1(斜視図を図1に示す)、ウェブ15がフランジ13、14の端部に配置されたものはC形鋼2(斜視図を図6に示す)と一般的に呼ばれ区別されている。また形鋼では、図7に例示するように、断面の寸法形状により、その断面重心73が幾何学的に一律に定められる。この断面重心を通り、上下フランジと平行な軸が強軸71、これに直行する軸が弱軸72と各々定義されるが、本発明では、強軸71まわりの曲げ剛性EIを向上させるための技術を対象にしている。」
(イ)「【0055】
また、上述した例においては、あくまでH形鋼1のフランジ13、14に対して高ヤング率鋼を適用する場合を例にとり説明をしてきたが、これに限定されるものではない。例えば、図4(a)に示すように、C形鋼2の上下フランジの各々の先端にリップ16を設けたリップ溝形鋼のフランジ13、14に適用してもよいし、図4(b)に示すようにZ形鋼のフランジ13、14として適用するようにしてもよい。また、図4(c)に示すようにΣ形の鋼材のフランジ13、14として適用してもよいし、図4(d)に示すように、ウエブ15が2本立設された形鋼のフランジ13、14として適用するようにしてもよい。さらに図4(e)~(g)に示すように、箱形鋼やハット形鋼のフランジ部13、14に適用してもよいことも勿論よく、いずれもH形鋼1や溝形鋼2と同一の技術的思想に基づくものであるといえる。」
(ウ)図4は以下のものである。
a 図4
「
[図:0001424882000030.jpg]
」
(16)甲第22号証
ア 甲22の記載
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は建築部材としての梁材、母屋、あるいは鋼部材と木質部材との合成パネルの芯材として使用される鋼製溝形鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、建築材料として例えばプレハブパネルの枠材として合成パネルが使用されている。合成パネルは一般に木質合板、石膏ボード、パーティクルボード、鉄板などの板材に、芯材として軽溝形鋼やリップ付溝形鋼がスクリュー、釘、接着剤などの接合部材によって接合されている。」
(イ)「【0010】
【発明が解決しようとする課題】前述のように内方補剛リブ付溝形鋼は従来の溝形鋼に比べ部材耐力が下回るか、また補剛リブの形成位置によって上回ったにしてもその差は僅かであり、部材耐力の向上効果は余り得られていない。本発明はこのような内方補剛リブ付溝形鋼では得られない高い部材耐力を有する溝形鋼を供給することを課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決する本発明の溝形鋼は、そのウエブ部に、ウエブ部の外側方向に最大突出寸法がフランジ部の幅の60%以下の突出部(補剛リブ)を形成した断面形状を有することを特徴とする。すなわち、ウエブ部の断面のせん断中心を図心(重心)から遠ざかる方向に補剛リブ(外方補剛リブ)を設ける。
【0012】溝形鋼がかゝる断面形状を有することにより、従来技術で使用されている内方補剛リブを設けた溝形鋼に比べモード1の単位断面積当りの部材耐力が上昇するとともに、モード3の部材耐力も内方補剛リブをもたない従来の溝形鋼に比べて上昇する。その結果、本発明の溝形鋼は部材の部材耐力を大幅に上昇せしめることができたのである。」
(ウ)「【0017】また、ウエブ内方へ張出すと、張出し長さの増加に伴って部材耐力は低下した。次に溝形鋼2F4を溝形鋼2F1と同様にリップ付溝形鋼2Dを基準にして図3(1)に示すようにウエブ外方へ5mm間隔で25mmまでウエブ中心部を張出すと、図3(2)に示すように張出し長さ15mmのところで部材耐力のピークを迎えた。したがってこの場合も、少くともフランジ幅の60%以内の長さを外方へ張出せば部材耐力の向上を得ることができる。
【0018】また、ウエブ内方へ張出すと、図3(2)に示すように溝形鋼2E5-1の場合は溝形鋼2Dに比べ部材耐力が上昇するが、その差は微々たるものに過ぎず、更に張出して溝形鋼2E5-2の場合になると溝形鋼2Dよりも部材耐力が低下した。したがって内方張出しの効果はほとんどなかった。また、溝形鋼2F5の場合は図4(1)に示すようにウエブ外方への張出し偏平部分9-4の幅を同一にしてこの偏部部分とフランジ5の境界との間の傾斜部分を張出すことによって、5mm間隔で25mmまでの張出し長さを付与した。」
(エ)図3は以下のものである。
a 図3
「
[図:0001424882000031.jpg]
」
(17)甲第23号証
ア 甲23の記載
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、H型鋼を一例とするフランジとウェブとを有する構造材、当該構造材を接続してなる接続構造体、及び構造材の接続方法に関し、特に構造材どうしの接続を、ウェブの両端からはみ出す部材を用いることなく達成する技術に関する。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、ウェブとフランジとを本体部に有する構造材について、ウェブの幅方向の本体部両端からはみ出す部材を用いることなく、高い接続強度をもって構造材どうしを接続することを可能にする構造材、接続構造体、及び構造材の接続方法を提供することを目的とする。」
(ウ)「【0087】
構造材は、以上に例示したものの他、図16に例示するような様々な断面形状を採り得る。図16(a)に例示する構造材は、ハット(帽子)型の断面形状を有しており、1対のウェブ1A、1B、及びフランジ2A、2B、3を有している。図16(b)に例示する構造材は、オメガ(Ω)型の断面形状を有しており、ウェブ1A~1C、及びフランジ2A、2B、3を有している。図16(c)に例示する構造材は、Z型の断面形状を有しており、ウェブ1及びフランジ2、3を有している。また、図16(d)に例示する構造材は、略L型の断面形状を有しており、ウェブ1及びフランジ2、3を有している。
【0088】
図16(e)に例示する構造材は、S型の断面形状を有しており、ウェブ1、1A、1B、及びフランジ2、3を有している。図16(f)に例示する構造材は、山形の断面形状を有しており、ウェブ1A、1B、及びフランジ2A、2B、3を有している。図16(g)に例示する構造材は、変形H型ないし変形I型の断面形状を有しており、ウェブ1A、及びフランジ2、3を有している。図16(g)の例では、フランジ2に比べてフランジ3は幅が狭くなっている。
【0089】
図16(h)に例示する構造材は、変形H型ないし変形I型の断面形状を有しており、ウェブ1及びフランジ2、3を有している。図16(h)の例では、ウェブ1は、フランジ2及び3の幅方向中心からずれた位置に設けられている。図16(i)に例示する構造材は、変形T型の断面形状を有しており、ウェブ1及びフランジ3を有している。図16(i)の例では、ウェブ1は、フランジ3の幅方向中心からずれた位置に設けられている。
【0090】
図16(j)に例示する構造材は、台型の断面形状を有しており、1対のウェブ1A及び1B、及びフランジ2、3を有している。図16(j)の例では、フランジ3はフランジ2よりも幅が狭くなっている。図16(k)に例示する構造材は、傾斜H型ないし傾斜I型の断面形状を有しており、ウェブ1及びフランジ2、3を有している。図16(l)に例示する構造材は、図13に示した構造材116の変形であり、1本の断面T型の構造材と2本の傾斜T型の構造材とが、長手方向に沿った軸の周りに放射状に配置された構造を有している。即ち、図16(l)に例示する構造材は、ウェブ1A~1C、及びフランジ3A~3Cを有しており、ウェブ1A~1Cは幅方向端部において互いに連続している。」
(エ)図16は以下のものである。
a 図16
「
[図:0001424882000032.jpg]
」
2 無効理由6
(1)明確性要件の判断基準
特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、その技術的範囲に属するか否かの判断が困難となることにより第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から検討することが相当である。
(2)判断
上記「第4の1」に記載された請求項1の記載によれば、
(a)「剪断部」に関し、「入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収を行う」「板状の」「剪断部」を「互いの向きを異ならせて」「一対」設けるものであること、
(b)「連結部」に関し、「剪断部」を「連結」するものであること、
(c)「第1補強部」に関し、「剪断部」に対して「傾斜」を成すように「連結」され、「該第1補強部と該剪断部とのなす角が鋭角となるように形成」されたものであること、
(d)「剪断部」が「入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収を行う」ものであることから、「剪断部」に「連結」された「連結部」、「第1補強部」も、「剪断部」の「入力」に伴う「変形」の影響を受けること、
の事項が読み取れ、各構成の技術的意義、相互の接続関係を明確に把握することができるから、請求項の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)請求人の主張について
ア 請求人は、(a)本件発明の請求項1の「補強部」は、「補強」が何に対してどういう意味で補強するのか、発明の詳細な説明を参酌しても理解できず、「補強部」の意味は明確でなく、なお、補強する対象に対してその機能を補うものでなければならないところ、その寸法(厚さ、長さ)にも範囲(限度)があるものと想定されるが、そのような点についても発明の詳細な説明の記載を参酌しても明確でないし、また、(b)「互いの向きを異ならせて設けられた板状の一対の剪断部」における、当該「向き」の方向及び「板状」の具体的構成が不明確であるから、本件発明の請求項1は明確でない旨(請求書61頁下から5行~62頁23行)、主張している。
イ 上記アの主張について検討する。
上記(a)に関し、「第一補強部」の「補強」の意味について、少なくとも何らかの部材の強さを補っているといえるところ、該「補強」していることが特許請求の範囲の請求項1において、水平方向には、「一対の第一補強部」と「一対の剪断部」が存在し、「一対の第一補強部」は、「一対の剪断部」に連結されていることから、「第一補強部」は、「剪断部」を補強していることは明らかであって、また、該連結については、図2~図4、図11、図22等をみても、同様に「第一補強部」と「剪断部」が連結されていること看取できる。
また、請求項17には、「前記剪断部と該剪断部を補強する前記第一及び/又は第二補強部は、」と記載されているように、請求項1に記載された「第一補強部」は、「剪断部」を補強していることが示されている。
そして、「第1補強部」について、発明の詳細な説明及び図面には、多数の実施の形態が示されており、その形状は設計者が意図する「補強」の程度に応じて形状を適宜採用するものであるから、特許請求の範囲にその寸法や向きまで具体的に特定することまで求めるものではない。
次に上記(b)に関し、「剪断部」の「向き」については、後記3(3)アに記載した問題(課題)を解決できる「向き」であることを当業者であれば認識することができるし、「板状」については、「板」が「金属や石などを薄く平たくしたもの。」(乙10)を意味し、「状」が「すがた、ありさま。」(乙8)を意味することから、「板状」は、金属を薄く平たくしたすがたを意味するといえる。そして、本件特許の図面(図2~図4、図7、図8、図22等)において、「剪断部」の「向き」及び「板状」についての具体例が示されており、上記の「向き」や「板状」の意味と整合している。よって、本件訂正発明1の「剪断部」の「向き」及び「板状」は明確である。
したがって、請求人の主張は採用できない。
(4)無効理由6のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1及び本件訂正発明1を直接又は間接的に引用する本件訂正発明2、4、5、7~20は明確であるから、請求人の主張する無効理由6は理由がない。
3 無効理由5
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのが相当である。
(2)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明及び図面には以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物や橋梁等において上部構造物と下部構造物との間に設置され、常時や所定レベルまでの地震に対しては上部構造の変位を拘束するストッパとして機能し、所定レベル以上の地震に対しては剪断塑性変形することによりダンパとして機能する弾塑性履歴型ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1-3には、橋梁の支承構造に用いられる低降伏点鋼を用いた剪断パネル型ダンパが記載されている。この剪断パネル型ダンパは、建築物や橋梁等において上部構造物と下部構造物との間において、下部構造物に固定設置され、常時や所定レベルまでの地震に対しては上部構造の変位を拘束するストッパとして機能し、所定レベル以上の地震に対しては剪断塑性変形することによりダンパとして機能する。具体的に、この剪断パネル型ダンパは、水平変位に対し剪断変形が生じるとき、剪断部の履歴減衰を利用して地震時の振動を低減させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3755886号公報
【特許文献2】特許第4192225号公報
【特許文献3】特開2007-198002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、何れの特許文献の剪断パネル型ダンパにおいても、剪断部を一つしか有しておらず、所定レベル以上の地震に対して、一方向からの水平力に対してしかダンパとして機能しない。したがって、例えば、橋軸方向の水平力に対してダンパとして機能するように剪断パネル型ダンパを設置した場合に、橋軸方向以外の方向からの水平力が加わると、剪断パネル型ダンパは、入力のあった水平力を十分に減衰させることが出来ない。地震の際に何れの方向から所定レベル以上の水平力の入力があるのかは、予測困難である。
【0005】
また、剪断パネル型ダンパの設置に際しては、想定される入力方向に対して高精度にダンパの剪断変形方向を合わせる設置角度設定が必要とされる。
【0006】
本発明は、所定レベル以上の地震の際に、複数の方向からの入力に対してダンパとして機能し得る弾塑性履歴型ダンパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る弾塑性履歴型ダンパは、建物及び/又は建造物に適用可能な弾塑性履歴型ダンパであって、一対の第一補強部と、前記一対の第一補強部を連結し、互いの向きを異ならせて設けられた板状の一対の剪断部と、前記一対の第一補強部の両端間にそれぞれ接続した一対のプレートとを備え、前記剪断部は、前記第一補強部に対して傾斜を成し、前記第一補強部は、前記剪断部に、該第一補強部と該剪断部とのなす角が鋭角となるように形成され、前記剪断部は、入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収を行う。
【0008】
また、前記剪断部は、傾斜方向が互いに異なる部分が交互に並ぶ波形を成すようにしても良い。更に、前記第一補強部は、互いに平行に配置されているようにしても良い。更に、前記一対のプレートは、入力により互いに異なる方向に変位する第一構造物と第二構造物とにそれぞれ接合されているようにしても良い。更に、一対の剪断部が連結部を介して一連に設けられているようにしても良い。例えば、前記剪断部は、平面状を成す。また、前記連結部は、前記剪断部と一体、別体の何れであっても良い。
【0009】
連結部により一体化された一対の剪断部の形状は、前記一対の剪断部の間隔を前記連結部を鋭角又は鈍角として、前記連結部と反対側の端部に向かって漸次広がるようにした、略V字状としても良い。
【0010】
前記剪断部は、前記連結部と反対側の端部に第一補強部を設けるようにしても良い。この場合、前記第一補強部は、前記剪断部に対して一連に設けられていても良く、更に前記剪断部と一体(例えば曲げ加工)又は別体(例えば溶接接合)であっても良い。
【0011】
また、前記剪断部及び前記連結部は、基盤上に固設し、下部構造物に固定するようにしても良い。更に、基盤と相対してプレートを設け、前記剪断部の先端部や前記第一補強部が上部構造物側のストッパに直接突き当たるのではなく、前記プレートの端面が上部構造物側のストッパに突き当たるようにしても良い。
【0012】
更に、前記連結部は、第二補強部によって補強されていても良い。
【0013】
更に、前記剪断部には、貫通した孔部を一つ又は複数形成することも出来る。一つ又は複数の孔部を設けることによって、低降伏点鋼を用いなくても、通常の鋼材で同様な低降伏点を実現することが出来る。勿論、低降伏点鋼に前記孔部を形成して、降伏点や座屈点を調整するようにしても良い。また、衝撃によって、前記剪断部が剪断弾塑性変形した際に、剪断部にクラック等が発生することを防止出来、更に、前記剪断部の前記基盤との接合部に形成したときには、溶接箇所を少なくすることも出来る。前記孔部は、前記剪断部の外周部や、その内側に、貫通孔やスリットによって形成することが出来る。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、二つの剪断部が設けられているので、所定レベル以上の地震の際に、剪断部が直接又は間接に上部構造物のストッパに突き当たり、突き当たったときの衝撃を剪断部が剪断弾塑性変形することにより減衰させることが出来る。また、二つの剪断部を連結部で連結してなるので、より大きな地震時の振動を吸収することが出来る。更に、二つの剪断部の向きを異ならせることで、一方向だけでなく複数の方向からの地震時の振動を吸収することが出来る。」
イ 「【0022】
[2.弾塑性履歴型ダンパの説明]
図2に示すように、本発明が適用された弾塑性履歴型ダンパ10は、二つの剪断部11、11を連結部12で連結して全体が一連となるように形成されている。このような弾塑性履歴型ダンパ10には、剪断部11、11に、一般構造用鋼材に比べ延性に富み、降伏点に対して上下限の規格値を有するため性能安定性に優れた構造用鋼材である低降伏点鋼を用いることが出来る。また、弾塑性履歴型ダンパ10には、地震エネルギを塑性歪エネルギによって吸収させるものであるため、地震時には確実に塑性化し、履歴挙動のバラツキが小さく、降伏点の許容範囲が狭い低降伏点鋼が好適である。
【0023】
低降伏点鋼で形成される剪断部11、11は、例えば矩形板状を成し、平面状を成している。そして、一端部は、平面板状の連結部12に溶接接合等で固定されている。なお、連結部12も、低降伏点鋼が用いることが可能である。また、剪断部11、11と連結部12とは、一連の低降伏点鋼板を曲げ加工で形成するようにしても良い。剪断部11、11の他端部は、剪断部11、11の端部を外側に広げるようにコーナ部を介して補強部13、13が曲げ加工によって形成されている。勿論、補強部13、13は、剪断部11、11に対して溶接接合でも良い。補強部13、13は、ここでは外側にほぼ90度折曲されているが、剪断部11、11に対して外側に広がっていれば、剪断部11、11と成す角が鋭角であっても鈍角であっても良い。このように、平面板状の連結部12と一体化された二つの剪断部11、11は、連結部12の側から補強部13、13側に向かって漸次広がり、略V字状を成し、ここでは、剪断部11、11の延長線の交点が鋭角となるように形成されている。なお、剪断部11及び連結部12に、低降伏点鋼を用いることに限定されるものではなく、一般構造用鋼材等を用いるようにしても良い。
【0024】
一体化された剪断部11、11と連結部12は、下部構造物2との取付部の基盤となるベースプレート14に溶接接合等で固設される。このベースプレート14は、一体化された剪断部11、11と連結部12より大きな鋼板であり、矩形状を成す。そして、略V字状を成す一体化された剪断部11、11と連結部12は、ベースプレート14の幅方向中心線と剪断部11、11間の中心線とがほぼ一致する位置に固定される。また、このベースプレート14は、下部構造物2に対してアンカーボルト等で固定される。
【0025】
更に、一体化された剪断部11、11と連結部12を挟んでベースプレート14の反対側にも、プレート15が設けられ、プレート15には、一体化された剪断部11、11と連結部12が溶接接合等で固定される。このプレート15は、上部構造物1側に位置するものであり、ベースプレート14と同様なものであっても、異なるものであっても良い。ここでは、ベースプレート14と同じものが用いられる。そして、プレート15には、一体化された剪断部11、11と連結部12が剪断部11、11間の中心線とプレート15の幅方向中心線とがほぼ一致する位置に固定される。このプレート15の短辺側端面、すなわち橋軸直角方向と平行な端面15a、15aは、上部構造物1のストッパと突き当たる部分となる。
【0026】
一方、上部構造物1側は、図1(B)及び図2に示すように、上部構造物1の横桁1bにストッパ16、16が設けられている。ストッパ16、16は、橋軸方向に離間して設けられ、これらストッパ16、16の間に、下部構造物2に固定された弾塑性履歴型ダンパ10が配設される。弾塑性履歴型ダンパ10は、剪断部11、11間の中心線を橋軸方向にして、下部構造物2にアンカーボルト等で固定される。かくして、弾塑性履歴型ダンパ10は、主として橋軸方向の所定レベル以上の水平力の入力があったとき、上部構造物1のストッパ16、16とプレート15の橋軸直角方向と平行な端面15a、15aとが突き当たり、突き当たったときの衝撃を剪断部11、11や連結部12が剪断塑性変形することにより減衰させる。
【0027】
具体的に、図3(A)に示すように、弾塑性履歴型ダンパ10は、橋軸方向の入力があったとき、図3(B)に示すように、連結部12のベースプレート14側の角近傍の剪断部11、11及び連結部12が塑性変形して振動を減衰させる。なお、連結部12のベースプレート14側の角近傍の剪断部11、11及び連結部12の変形の程度は、橋軸方向の入力の場合、入力の大きさによって異なることになる。
【0028】
また、図4(A)に示すように、橋軸に対して斜めの方向から所定レベル以上の入力があったときには、図4(B)に示すように、入力のあった方向と近い剪断部11が大きく塑性変形し振動を減衰させる。なお、図4の例では、橋軸に対して10°傾いた方向から入力があった状態を示している。連結部12のベースプレート14側の角近傍の剪断部11、11及び連結部12の変形の程度は、入力の角度や入力の大きさによって異なることになる。
【0029】
以上のような弾塑性履歴型ダンパ10は、二つの剪断部11、11を有しているので、剪断部が一つの場合に比べ、より大きな振動を吸収することが出来る。また、剪断部11、11がV字状に開くように形成されているので、例えば、剪断部11、11間の中心線が橋軸方向となるように設置されたときにも、橋軸方向からの入力だけでなく、橋軸に対して斜めの方向からの振動も減衰させることが出来る。」
ウ 「【0033】
更に、弾塑性履歴型ダンパ10としては、ベースプレート14やプレート15を省略しても良い。ベースプレート14を省略したときには、下部構造物2に一体化された剪断部11、11と連結部12を固定するようにすれば良い。また、プレート15を省略したときには、剪断部11、11の先端部や補強部13、13が直接ストッパ16、16に突き当たるようにすれば良い。このようにすることで、弾塑性履歴型ダンパ10の部品点数の削減を図ることが出来る。勿論、ベースプレート14やプレート15を用いた方が、性能の安定性が向上する点で好ましい。」
エ 図面
(ア)図3
「
[図:0001424882000033.jpg]
」
(イ)図4
「
[図:0001424882000034.jpg]
」
(3)判断
上記(2)の記載によれば、発明が解決しようとする課題として、「何れの特許文献の剪断パネル型ダンパにおいても、剪断部を一つしか有しておらず、所定レベル以上の地震に対して、一方向からの水平力に対してしかダンパとして機能しない。」ことから、「橋軸方向の水平力に対してダンパとして機能するように剪断パネル型ダンパを設置した場合に、橋軸方向以外の方向からの水平力が加わると、剪断パネル型ダンパは、入力のあった水平力を十分に減衰させることが出来ない。」(【0004】)こと、及び「剪断パネル型ダンパの設置に際しては、想定される入力方向に対して高精度にダンパの剪断変形方向を合わせる設置角度設定が必要とされる。」(【0005】)との問題があったところ、これらの問題を解決するために、「所定レベル以上の地震の際に、複数の方向からの入力に対してダンパとして機能し得る弾塑性履歴型ダンパを提供すること」(【0006】)を目的として、本件訂正発明1は、「互いの向きを異ならせて設けられた板状の一対の剪断部」との構成を採用することにより、「剪断部」が「入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収を行う」ものであり、また、「一対の剪断部は、連結部を介して一連に設けられ」、「一対の第一補強部を連結」し、「一対の第一補強部の両端間に」「一対のプレート」を「それぞれ接続した」構成を備えるものである。
かかる構成を備えることにより、「弾塑性履歴型ダンパ10は、剪断部11、11間の中心線を橋軸方向にして」「固定」した場合について、「主として橋軸方向の所定レベル以上の水平力の入力があったとき、上部構造物1のストッパ16、16とプレート15の橋軸直角方向と平行な端面15a、15aとが突き当たり、その衝撃を剪断部11、11や連結部12が剪断塑性変形することに減衰させる」(【0026】)ものであり、また、「弾塑性履歴型ダンパ10は、橋軸方向の入力があったとき、」「連結部12のベースプレート14側の角近傍の剪断部11、11及び連結部12が塑性変形して振動を減衰させ」、「連結部12のベースプレート14側の角近傍の剪断部11、11及び連結部12の変形の程度は、橋軸方向の入力の場合、入力の大きさによって異なることにな」り(【0027】、図3)、「橋軸に対して斜めの方向から所定レベル以上の入力があったときには、」「入力のあった方向と近い剪断部11が大きく塑性変形し振動を減衰させ」、「連結部12のベースプレート14側の角近傍の剪断部11、11及び連結部12の変形の程度は、入力の角度や入力の大きさによって異なることになる」(【0028】、図4)ものであるから、例示される橋軸に対して10°傾いた方向から入力があった状態に限ることなく、様々な入力の角度や入力の大きさにおいても、同様に剪断塑性変形することにより減衰させることが理解できる。
したがって、本件訂正発明1は、【0004】~【0006】の課題を解決するものと、当業者が認識できる。
(4)請求人の主張について
ア 請求人は、請求項1は、「入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収を行う」とのみ特定され、どの方向からの荷重にも対応しうるかのように機能的に特定しており、発明の詳細な説明に記載された機序(【0028】)を有さない、又は、発明の課題(【0006】)を奏さない態様を包含しており、同じく、「互いの向きを異ならせて設けられた板状の一対の剪断部」と特定しているが、発明の詳細な説明には、当該剪断部がプレートに垂直であるものしか記載されておらず、また、当該剪断部がプレートに垂直でなければ、上部構造物を支持できず、せん断パネルダンパーとして機能しないことから、発明の課題を達成しえないものを包含していることから、請求項1の発明は、本件発明が解決しようとする課題を解決することができないものも含む旨(請求書59頁4行~61頁下から6行)、主張している。
イ 上記アの主張について検討すると、本件訂正発明1の「入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収を行う」ことは、設計者が意図する方向からの水平力の入力に対応すればよい程度のものであって、本件明細書の記載全体からみて、請求人が主張するように、すべての方向からの荷重に対して最大限のエネルギー吸収を行うことまで求めるものとは認められない。
また、本件訂正発明1の「弾塑性履歴型ダンパ」は、上部構造物の垂直荷重を支持するものとは限られず、「上部構造物1のストッパ16、16と、プレート15の橋軸直角方向と平行な端面15a、15aとが突き当たり、突き当たったときの衝撃を剪断部11、11や連結部12が剪断塑性変形することにより減衰させる」ものであるから、「剪断部」と「プレート」とは、当該衝撃を受容する程度の強度で固定されていればよいものであり、請求人が主張する剪断部がプレートに垂直でなければならないことが、発明の課題を解決するに当たって必須の構成とはいえない。
よって、請求人の主張は採用できない。
(5)無効理由5のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1及び本件訂正発明1を直接又は間接的に引用する本件訂正発明2、4、5、7~20は、発明の詳細な説明に記載された発明であるから、請求人が主張する無効理由5は理由がない。
4 無効理由7
(1)実施可能要件の判断基準
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する。
(2)判断
上記2(2)(c)で示した「「剪断部」に対して「傾斜」を成すように「連結」され、「該第1補強部と該剪断部とのなす角が鋭角となるように形成」されたもの」とされる「第一補強部」は、上記2(3)イで示したとおり「「剪断部」を補強する」意義を有するものであって、第1補強部は、剪断部とのなす角が鈍角であるものだけでなく、鋭角のものであっても、上記意義を満足するように、機能することを、当業者は理解する。よって、当業者は、過度の試行錯誤を要することなく、本件訂正発明1を実施することができる。
(3)請求人の主張について
請求人は、本件発明の請求項1は、「該第一補強部と該剪断部とのなす角が鋭角となる」と特定しているが、発明の詳細な説明には、当該角が鈍角の例しか説明されていないから、本件発明は、発明の詳細な説明には、その請求項1に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない旨(請求書62頁24行~63頁14行)、主張する。
しかしながら、本件特許の願書に添付した明細書には、
「・・・補強部13、13は、ここでは外側にほぼ90度折曲されているが、剪断部11、11に対して外側に広がっていれば、剪断部11、11と成す角が鋭角であっても鈍角であっても良い。・・・」(【0023】)
「・・・更に、図11(D)に示すように、補強部13、13は、外側に張り出すように形成される際、剪断部11、11と成す角が、図11(A)-(D)の直角の場合と異なり、鋭角となるようにしても良い。・・・」(【0039】)と記載され、
また、以下に図11(D)を示すように、剪断部11と補強部13との成す角度が鋭角であることが看取できる。
よって、本件訂正発明1で特定される「該第一補強部と該剪断部とのなす角が鋭角となる」ことは、発明の詳細な説明及び図面に記載されており、かつ、上記したように、鋭角のものであっても、上記意義を満足するように、機能することを、当業者は理解するから、当該特定を含む本件訂正発明1は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものと認められ、また、本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2、4、5、7~20についても同様であるから、請求人の主張する無効理由7は理由がない。
〔図11(D)〕
「
[図:0001424882000035.jpg]
」
5 無効理由1について
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明の「建築構造物の梁5や柱6に締結するものであ」って、「矩形平板の金属薄板2と、その形状を維持するために金属薄板の周囲を囲う枠3(フランジ)とから形成される、金属薄板2の面内方向に荷重が作用して剪断変形するエネルギー吸収部材1」は、本件訂正発明1の「建物及び/又は建造物に適用可能な弾塑性履歴ダンパ」に相当する。
(イ)甲1発明の「枠3」は、「剪断変形する矩形平板の金属薄板2」「の形状を維持するために金属薄板の周囲を囲う」ものであるから、「金属薄板2」を補強する機能を有するものと認められ、「枠3」において、少なくとも「直列の2枚の金属薄板2の」「左右両端に設けた枠3」は、本件訂正発明1の「一対の第一の補強部」に相当する。
甲1発明の「直列に2枚備え」る「剪断変形する矩形平板の金属薄板2」は、本件訂正発明1の「板状の一対の剪断部」に相当する。
してみると、本件訂正発明1の「前記一対の第一補強部を連結し、互いの向きを異ならせて設けられた板状の一対の剪断部」と、甲1発明の「両端に」「枠3を」「設けた」「直列に2枚備え」る「剪断変形する矩形平板の金属薄板2」とは、「前記一対の第一補強部を連結」する「板状の一対の剪断部」で共通する。
(ウ)甲1発明の「直列の2枚の金属薄板2」と、そ「の間」に「備えた」「枠3」の関係についてみると、金属薄板2の間に設けられた枠3を介して、金属薄板2は一連に設けられていることになるので、該「枠3」は、「直列の2枚の金属薄板2」の「連結部」といえる。
してみると、甲1発明の「直列の2枚の金属薄板2の間」に「枠3」を「設けた」ことは、本件訂正発明1の「前記一対の剪断部は、連結部を介して設けられ」ていることに相当する。
(エ)甲1発明において、「枠3」は、「金属薄板の周囲を囲う」ものであるから、「枠3」のうち「対向する上下の2辺に設けた端部板3’」は、「直列の2枚の金属薄板2の」「両端に設けた枠3」の両端間に接続されているといえる。してみると、甲1発明の「対向する上下の2辺に設けた端部板3’」は、本件訂正発明1の「一対の第1の補強部の両端間にそれぞれ接続した一対のプレート」に相当する。
(オ)甲1発明の「2枚の金属薄板2と左右両端の枠3とは直交して」いることは、本件訂正発明1の「前記剪断部は、前記第一補強部に対して傾斜を成し」ていることに相当する。
(カ)本件訂正発明1の「第一補強部は、剪断部に、第一補強部と剪断部とのなす角が鋭角となるように形成され」ることと、甲1発明の「2枚の金属薄板2と左右両端の枠3とは直交して」いることとは、第一補強部は、剪断部に、第一補強部と剪断部とのなす角が特定の角度となるように形成され」ることで共通する。
(キ)甲1発明において、「エネルギー吸収部材1」に「金属薄板2の面内方向に荷重が作用」して「金属薄板2」が「剪断変形する」ことは、本件訂正発明1の「剪断部は、入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収を行うこと」に相当する。
(ク)以上を総合すると、本件訂正発明1と甲1発明とは、
「建物及び/又は建造物に適用可能な弾塑性履歴型ダンパであって、
一対の第一補強部と、
前記一対の第一補強部を連結した板状の一対の剪断部と、
前記一対の剪断部は、連結部を介して一連に設けられ、
前記一対の第一補強部の両端間にそれぞれ接続した一対のプレートとを備え、
前記剪断部は、前記第一補強部に対して傾斜を成し、
前記剪断部は、入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収を行う弾塑性履歴型ダンパ。」で一致するものの、以下の点で相違している。
〔相違点1〕連結部を介して一連に設けられる板状の一対の剪断部について、本件訂正発明1は、互いの向きを異ならせて設けられたものであるのに対し、甲1発明は、金属薄板2が2枚、直列に備えられている点。
〔相違点2〕第一補強部は、剪断部に、第一補強部と剪断部とのなす角を、本件訂正発明1は、鋭角になるように形成されるのに対し、甲1発明は、金属薄板2と枠3とは直交している点。
イ 判断
上記相違点1、2について検討する。
(ア)相違点1について
a まず、一対の剪断部を、互いの向きを異ならせて設けることについて、検討する。
甲1発明の「エネルギー吸収部材1」は、「建築構造物の梁5や柱6にボルトで締結するものであって、間柱4の一部として、構造物の間柱4及び壁部材7の双方の中間的な部材として、壁部材7として取り付けたり、梁5や柱6の接合位置や、斜材8(梁リンク部材)の間であって梁5の一部として、柱6と柱6の間の梁5の一部の境界梁として配置することもできる」ものであって、「金属薄板2の面内方向に荷重が作用」することからみて、建築構造物の架構の構面に沿って設け、該構面に沿って作用する荷重に対応することを前提としており、そして、甲1発明の「金属薄板2」も、「直列に2枚」備えるとおり、該構面に沿うように設けることに適した構造となっている。
してみると、上記の前提を有する甲1発明において、上記の架構の構面に沿って設けている「エネルギー吸収装置1」の「直列に2枚」備えた「金属薄板2」を、少なくとも一方を該構面以外の方向に角度を付けて配置することにより互いに向きを異ならせたものに設計変更することは、当業者が思いつくものではない。
また、甲1の【0009】、【0010】等の記載からは、甲1発明の「金属薄板」を備えた「エネルギー吸収部材」は、座屈による面外変形を許容し且つ面内変形を小さいままで、全体としての面内変形を大きくしたものであって、不安定な座屈が発生しないようにしながら同時に面外変形を許容し、全体としての面内方向への変形を大変形まで安定させるとの目的のために、「エネルギー吸収部材1」には、図2の金属薄板2の面内方向へのせん断応力を加えるものとなっていることが理解できる。また、【0046】及び【図17】~【図18】の変形例も、並列(b)や、並列と直列の組み合わせ(c)であって、複数の金属薄板2の面内方向は一致させるものであることが認定できる。これらの事実からは、甲1発明において、金属薄板を安定的に変形させる方向(想定されるエネルギーの方向)は、一つの方向であって、複数の方向を設けることは想定されておらず、甲2発明において、複数の金属薄板2の面内方向を異ならせることには阻害要因があるといえる。
b 次に、甲2には、上記第7の1(2)イで示した甲2発明が記載されている。
甲2発明の「せん断パネル型ダンパー」は、その「設置位置については、橋梁上部構造と橋梁下部構造とが平面視において2次元的に相対移動可能な橋梁支承構造の場合、設置されるせん断パネル型ダンパー90の一部は、その面内方向(下辺長手方向に同じ)がX軸方向(橋軸方向)となるように設置され、設置されるせん断パネル型ダンパー90の残りの一部は、その面内方向がY軸方向(橋軸方向と垂直な方向)となるように設置され、両せん断パネル型ダンパーの設置位置や設置数は任意であって、また、せん断パネル型ダンパー90の面内方向がX軸にもY軸にも向かないようにせん断パネル型ダンパー90を設置してもよい」ものであるところ、2つの「せん断パネル型ダンパー」の面内方向を、X軸方向とY軸方向に設置したり、X軸にもY軸にも向かないよう設置することは、本件訂正発明1の「互いに向きを異ならせて設け」ることに相当する。
しかしながら、甲1発明は、上記(a)で説明したように、建築構造物の架構の構面に沿って設け、該構面に沿って作用する荷重に対応することを前提としているのに対し、甲2発明は、橋梁上部構造と橋梁下部構造との間に設置されるものであって、2次元的に相対移動可能な橋梁支承構造の場合、それらの面内方向が、一部をX軸方向に、残りの一部をY軸方向に設置したり、X軸にもY軸にも向かないように設置されるものであるから、両発明は、対象となる構造物や対象となる入力する外力の方向が相違している。
また、この相違について甲2に「ここで、建築物に用いられるせん断パネル型ダンパーに要求される能力と、橋梁に用いられるせん断パネル型ダンパーに要求される能力とを比較すると、建築物に用いられるせん断パネル型ダンパーは、建築物の各階に設置されるため、そのせん断変形量は少なくてもよい。一方、橋梁に用いられるせん断パネル型ダンパーは、建築物に用いられるせん断パネル型ダンパーの数十倍もの変形能力が要求される。このため、橋梁に用いられるせん断パネル型ダンパーとして、建築物に用いられるせん断パネル型ダンパーとは異なった、大変形性能のせん断パネル型ダンパーの開発が必要とされている。また、建築物に用いられるせん断パネル型ダンパーは、建築物の垂直構面(柱と梁で構成される垂直な平面)に設置されるため、構面内の一方向の動きのみを考慮すればよい。一方、橋梁は、地震等の際、橋梁上部構造と橋梁下部構造とが平面視において2次元的に相対移動する。このため、橋梁に用いられるせん断パネル型ダンパーには、このような2次元的な動きに対応するせん断パネル型ダンパーが必要となってくる。」(上記第7の1(2)ア(ア)【0003】及び【0004】)と記載されているように、橋梁に用いられるせん断パネル型ダンパーは、要求される変形能力が建築物に用いられるものに比べて数十倍違うことや、動きの向きが一方向か2次元かの違い等の説明がなされている。これらの相違を勘案すると、甲1発明に甲2発明の配置を適用する動機付けは存在しないと言わざるを得ない。
それに加えて、上記a後半で検討したように、甲1発明において、複数の金属薄板2の面内方向を異ならせることには阻害要因があることからも、甲1発明に甲2発明の配置を適用することはない。
c 以上のことから、相違点1に係る連結部の構成について検討するまでもなく、甲1発明に甲2発明を適用することにより、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
(イ)相違点2について
甲3には、上記1(3)イに示した甲3技術事項が記載されており、甲3技術事項には、「パネル体」と「端縁補強体」との角度について、「パネル体と端縁補強体とが直交したものに限らず、また、一対の端縁補強体同士が平行でなくてもよい」ことが例示されているものの、該直交でも平行でないことについて、それ以上の詳細な特定はみられず、甲3においても、該直交でも平行でもないことの意義について記載されていない。
ここで、甲3をみると、【0004】~【0007】、【0021】、【0025】、図2等の記載によれば、甲3発明は、「繰り返しのせん断変形が作用すると局部的な面外座屈の発生が避けられず、金属疲労が生じて性能低下を招いてしまうという問題」(【0004】)等を解決するために、鋼管12内に充填された充填コンクリート13が、絶縁材17を介して、パネル体14の面外方向への変形を規制する面外変形規制手段として機能するものである。とすれば、【0010】の「パネル体と端縁補強体とが直交したものに限らず、また、一対の端縁補強体同士が平行でなくてもよい。」との記載において、パネル体と端縁補強体との連結の角度に厳密さが求められないのは、面外変形規制手段により、すでに、パネル体の面外方向への変形が規制されており、端縁補強体により面外方向への変形を規制する機能の重要性が低下しているからだと推測される。
この点について、甲1の【0009】の「エネルギー吸収部材をリブで補強したりして幅厚比を小さくする」との記載、及び図16等において、ウエブ2とフランジ3が直交していることや、甲2の【0036】の「パネル部11の側辺11bにリブを設けてもよい。これにより、パネル部11の面外方向の剛性が向上し、パネル部11の面外方向への変形をより抑制することができる。」との記載、及び図6等においてパネル部41とリブ42とが直交していることからみて、甲3のパネル体14と端縁補強体15について、パネル体14の強度をより向上させるには直交していることが望ましく、直交以外の角度については、直交時未満の強度となると考えられるから、これらの事実は、上記推測を裏付けるものといえる。
以上の検討から、甲3技術事項の「パネル体と端縁補強体とが直交したものに限らず、また、一対の端縁補強体同士が平行でなくてもよい」との構成は、甲3技術事項の「充填コンクリート13によって面外変形規制手段が構成されて、せん断パネル14の面外方向への変形が充填コンクリート13で規制され」た構造を対象とするものであるから、当該構造を有しない甲1発明の「金属薄板2」と「枠3」との角度について、甲3技術事項のように直交や平行でないことを採用する動機付けが存在しない。
よって、甲1発明に甲3技術事項を適用することにより、上記相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
また、仮に、甲1発明に、甲3技術事項を適用し得たとしても、その適用には、「充填コンクリート13によって面外変形規制手段が構成されて、せん断パネル14の面外への変形が充填コンクリート13で規制され」るとの構成を伴うものであるから、甲1発明に、甲3技術事項を適用した発明において、相違点1に係る構成を採用することには、阻害要因が存在することとなる。
したがって、いずれにせよ、甲1発明に基づいて、本件訂正発明1を構成することは、当業者が容易になし得たことではないといえる。
ウ 請求人の主張について
(ア)上記相違点1の一対の剪断部を互いの向きを異ならせて設けることに関し、請求人は、甲2発明は、複数のパネル部の向きをそれぞれ変えることにより、多方向から入力されるエネルギ-を吸収することができるようにして、耐震性能を向上させることを可能とする発明であるところ、甲1発明のエネルギー吸収部材も、地震によるエネルギーを吸収することを目的としており、より耐震性能が向上することが望ましいことは自明であるから、複数の剪断部を用いて弾性履歴型ダンパを構成する際に、甲2発明のせん断部の向きを互いに異ならせることによって耐震性能の向上を図ることができる構成を甲1発明に適用して、相違点1の構成とすることは、当業者にとって容易なことである旨(請求書29頁2~21行)、主張する。
しかしながら、甲1発明のエネルギー吸収部材1は、金属薄板2を2枚備えるものであるが、該2枚の金属薄板2を直列に配置しており、また、上記(ア)aで検討したとおり、2枚の金属薄板2は建築構造物の架構の構面に沿って設けているものである。
そして、上記イ(ア)bで検討したとおり、甲1発明の「エネルギー吸収部材1」は、建築構造物の架構の構面に沿って設け、金属薄板2の面内方向へのせん断応力を加えるものであることを前提にするものであり、甲1発明に甲2発明の配置を適用する動機付けは存在しないから、請求人の主張は採用できない。
(イ)上記相違点2に関し、請求人は、本件発明において、剪断部は第一補強部に対して所定の角度を持って傾斜をなすものであるが、本来、その傾斜の角度をどのような角度に選択するかは、当業者が適宜選択する程度の事項にすぎないものであり、そして、甲3発明には、同じく地震等による振動を剪断パネル14のせん断変形によりエネルギー吸収を行うダンパー装置において、せん断パネルの両端縁に設けた端縁補強体15をパネルに直交させたり、あるいは、直交以外の形態としてもよいことが示されており、直交、すなわち直角以外の形態は鈍角と鋭角しかないから、甲1発明について相違点2に係る構成とすることは、当業者にとって容易である旨(請求書29頁22~30頁7行)、
及び、甲3号証の段落【0010】の「パネル体と端縁補強体とが直交したものに限らず、また、一対の端縁補強体同士が平行でなくてもよい。」との記載は、H字形の場合、パネル体と端縁補強体は直交することになるが、直交するものでなくて良いし、また端縁補強体同士が平行でなくても良いとされているから、パネル体と端縁補強体は任意の形態で組み付けることが可能であることを説明しており、例えば下図のような形態があり得る旨、(請求人要領書3頁下から4行~4頁15行及び図)、主張する。
「
[図:0001424882000036.jpg]
」
しかしながら、甲3技術事項の「パネル体と端縁補強体とが直交したものに限らず、また、一対の端縁補強体同士が平行でなくてもよい」ことを甲1発明に適用することについては、上記イ(イ)で検討したとおり、阻害要因が存在するから、請求人の主張は採用できない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲1発明、甲2発明及び甲3技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件訂正発明7、8及び10について
本件訂正発明7、8及び10は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用することで、本件訂正発明1の構成をすべて備えているものであるから、上記(1)で検討した理由と同じ理由により甲1発明、甲2発明、甲3技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)無効理由1のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1、7、8及び10は、甲1発明、甲2発明、甲3技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
6 無効理由2について
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲1発明との対比は、上記1(1)アのとおりであり、その一致点及び相違点は、上記1(1)イで示したとおりである。
イ 判断
上記1(1)イで示した相違点1及び2について検討する。
相違点1について
相違点1に対して請求人が提示した甲4~甲11には、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成は記載されていない。
まず、甲4~甲6には、それぞれ甲4技術事項ないし甲6技術事項(上記1(3)~(6)の各イ)が記載されている。甲4技術事項は、ウエブ部5にテーパ部3を有する嵌合溝部4と背面6を備え、甲5技術事項は、形鋼の断面が、V字状に配置された2枚のブレートと、それらの両端に、内側に曲げられた部分を有し、甲6技術事項は、Z形鋼1において、フランジ2とウェブ3と、フランジ2の端部とウェブ3の端部を直線で連結した形状を有しており、これらの部材及び部材を連続させた部分が、互いの向きを異ならせて設けられた一対の板状の部分(以下「一対の板状の部分」という。)、該一対の板状の部分の外側に一対の折れ曲がった延長した部分(以下「一対の折れ曲がった部分」という。)、該一対の板状の部分を連続させた部分(以下「連続する部分」という。)といえる。しかしながら、これらの型鋼は、一般的に柱や梁として用いられる構造材であるから、ダンパとして機能する主要部分である「剪断部」は存在しないし、そのために該「剪断部」を補強する補強部も存在しない。
よって、甲4技術事項ないし甲6技術事項の形鋼は、ダンパとして機能するものではないから、上記「一対の板状の部分」、「一対の折れ曲がった部分」及び「連続する部分」は、その形状が本件訂正発明1の「一対の剪断部」、「一対の第一補強部」及び「連結部」の形状に近似したとしても、本件訂正発明1の「一対の剪断部」、「一対の第一補強部」及び「連結部」に相当するものではなく、よって、甲4技術事項ないし甲6技術事項を甲1発明に適用する動機付けは存在しない。
続いて、甲7~甲11について検討すると、それらにはダンパーとして用いられた形鋼が記載されているものの、本件訂正発明1における「一対の剪断部」、「一対の第一補強部」及び「連結部」に相当する構成は記載されておらず、さらにそれらの形鋼は、ダンパーとして機能するための付加的な改良を加えた上でダンパーとして用いているものである。
以上のことから、甲1発明、甲4技術事項~甲6技術事項及び甲7~甲11に記載された事項に基づいて、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
(イ)相違点2について
相違点2については、上記1(2)イで検討したとおりであるから、甲1発明に甲3技術事項を適用することにより、上記相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
ウ 請求人の主張について
上記相違点1及び2に関し、請求人は、
甲4、甲5及び甲6から、
(a)形鋼において、一対のリップ(フランジ)を連結し、互いの向きを異ならせて設けられた一対のプレートを備えること、
(b)形鋼において、リップ(フランジ)は、プレートに、リップ(フランジ)とプレートとのなす角が鋭角となるように形成すること、
は周知技術であり、
甲7~甲11から、形鋼をダンパーなどとして振動吸収用部材として用いることは慣用手段であるから、
周知技術として示した形鋼を、当業者であればせん断パネルダンパーの技術として把握することができ、リップ(フランジ)を第一補強部として、また、プレートを剪断部として用い、相違点1及び相違点2に係る構成とすることは、当業者にとって容易である旨(請求書36頁6~11行、40頁4~21)、主張する。
ここで甲7~甲11をみると、
甲7には、H形鋼16aにより構成されるダンパー部材12であって、H形鋼16aの上端部を、L形鋼26aにより挟持されて摩擦接合により拘束され、下端部を、低摩擦材が介在されてL形鋼26aにより挟持されて、H形鋼16aの下端部が摺動可能となっていることが、
甲8には、段差部分1を中間部分に折り込まれて形成した段差状折れ部Bを形成したせん断パネルに相当するウェブ8と、フランジ9よりなるI形鋼が、
甲9及び甲10には、変形時にダンパーの塑性変形によりエネルギーを吸収するために、その両フランジの中央部に複数の孔20が連穿されている軽量形鋼から形作られたダンパー17が、
甲11には、一対のコ字形板材2、2を、そのウエブ部2a、2a相互が密着するように背合わせにし、両コ字形板材2、2のそれぞれ隣合うフランジ部2b、2bに比較的薄い帯状の銅板製外板4を密着状態に当接し、各外板4の側端縁と各フランジ部2bの先端縁部とを溶接Wすることにより形成された全体が断面H形の形材であって、作用した振動は瞬時に減衰されて騒音を生ずることがなく、防音性が要求される建築用構造形材として有用であることが、それぞれ記載されている(上記1(7)~(11)の下線部の記載を参照。)。
これらの記載によれば、形鋼の固定に特徴があったり(甲7)、形鋼に構造上の変形を加えたり(甲8~甲11)していることからみて、請求人が主張するように、あらゆる形鋼がダンパなどの振動吸収用部材として用いることが慣用手段とまではいえない。
そして、仮に甲4~甲6に記載の形鋼が上記相違点1及び2に係る本件訂正発明1の構成に係る形状と近似した形状を備えているとしても、甲7~甲11に接した当業者が、甲4技術事項~甲6技術事項の形鋼を請求人が主張するようにせん断パネルダンパーとして把握することはできないから、甲1発明のエネルギー吸収部材1の形状を変更する動機付けにはなり得ず、請求人の主張は採用できない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲1発明、甲3技術事項~甲6技術事項及び甲7~甲11に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件訂正発明7、8及び10について
本件訂正発明7、8及び10は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用することで、本件訂正発明1の構成をすべて備えているものであるから、上記(1)で検討した理由と同じ理由により、甲1発明、甲3技術事項~甲6技術事項及び甲7~甲11に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)無効理由2のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1、7、8及び10は、甲1発明、甲3技術事項~甲6技術事項及び甲7~甲11に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
7 無効理由3について
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲12発明を対比する。
(ア)まず、本件訂正発明1の「第一補強部」、「剪断部」、「連結部」の関係についてみると、「一対の第一補強部を連結し、互いの向きを異ならせて設けられた板状の一対の剪断部」であって、「一対の剪断部は、連結部を介して設けられ」ていることからみて、本件訂正発明1は、一対(2つ)のうちの一方の第一補強部、一対(2つ)のうちの一方の板状の剪断部、連結部、他方の板状の剪断部、他方の第一補強部が一連に連結して備えるものと認められる。
(イ)上記(ア)の関係に対して、甲12発明は、「波形耐震部材26は波形鋼板28(鋼板)と枠体30とを備えており、波形鋼板28は、材料として普通鋼や低降伏点鋼等が用いられる鋼板を波形形状に折り曲げ加工して構成され」ており、「波形鋼板28を、その折り筋を縦(折り筋の向きを上下方向)にして開口部42等に設置しても良い」ものであって、「波形鋼板28の左右の端部には、プレート状に形成されている縦フランジ32A、32Bがそれぞれ設けられ」ていることから、甲12発明の「波形鋼板28」と「縦フランジ32A、32B」は、本件訂正発明1の「剪断部」と「第一補強部」に相当する。
しかしながら、「板状」とは、本件明細書【0023】の記載を参照するに、「平面状」をなす状態を意味するものと認められるから、甲12発明の「波形鋼板28」は、「板状」とはいえない。
また、甲12発明において、2つの「縦フランジ32A、32B」の間に存在するものは、1つの「波形鋼板28」であることから、上記(ア)の関係を踏まえると、甲12発明は、本件訂正発明1のように、「前記一対の第一補強部を連結し、互いの向きを異ならせて設けられた板状の一対の剪断部と、前記一対の剪断部は、連結部を介して一連に設けられ」るとの構成を備えていない。
(ウ)甲12発明の「波形耐震部材26」は、「左右の鉄筋コンクリート(以下、「RC」という。)造の柱14、16とRC造の上下の梁18、20(水平部材)によって構成される建物10の架構12」に「配置され」るものであるから、「建物及び/又は建造物に適用可能な」ものである。
また、甲12発明の「波形耐震部材26」は、「材料として普通鋼や低降伏点鋼等が用いられる鋼板を波形形状に折り曲げ加工して構成され」た「波形鋼板28」「を備えて」いることから、「弾塑性履歴型ダンパ」といえるから、これらの検討を踏まえると、甲12発明の「波形耐震部材26」は、本件訂正発明1の「建物及び/又は建造物に適用可能な弾塑性履歴型ダンパ」に相当する。
(エ)甲12発明において、「波形鋼板28を、その折り筋を縦(折り筋の向きを上下方向)にして開口部42等に設置しても良い」場合の「波形鋼板28の上下の端部に沿って溶接固定されて」いる「プレート状に形成されている鋼製の横フランジ34A、34B」は、「これらの縦フランジ32A、32B及び横フランジ34A、34Bは、各々の端部同士が溶接等によって接合されており、これによって波形鋼板28の外周部を囲む枠体30が構成され」ていることからみて、本件訂正発明1の「前記一対の第一補強部の両端間にそれぞれ接続した一対のプレート」に相当する。
(オ)甲12発明における「波形鋼板28の上下の端部は、波形鋼板28の上下方向に延びており、該端部と横フランジ34A、34Bとは直交して」いる構成(以下「波形鋼板上下構成」という。)について、「波形鋼板28を、その折り筋を縦(折り筋の向きを上下方向)にして開口部42等に設置しても良い」場合には、波形鋼板28を、その折り筋が「横(折り筋の向きを横方向)」であるものを「縦(折り筋の向きを上下方向)」となるように用いることとなるから、甲12発明の上記波形鋼板上下構成の「波形鋼板28の上下の端には、波形鋼板28の上下方向に延びる端部が設けられ」ることにおいて「上下」が「左右」に読み替えられ、同構成において「該端部と」「直交」するものが「横フランジ34A、34B」から「縦フランジ32A、32B」となることから、甲12発明の上記波形鋼板上下構成を「その折り筋を縦(折り筋の向きを上下方向)にし」た場合の配置である、波形鋼板28の左右の端部は、波形鋼板28の左右方向に延びており、該端部と縦フランジ32A、32Bとは直交する構成(以下「波形鋼板左右構成」という。)とは、本件訂正発明1の「前記剪断部は、前記第一補強部に対して傾斜を成」すことに相当する。
(カ)本件訂正発明1の「前記第一補強部は、前記剪断部に、該第一補強部と該剪断部とのなす角が鋭角となるように形成され」ることと、上記(オ)で検討した甲12発明の波形鋼板左右構成(波形鋼板28の左右の端部は、波形鋼板28の左右方向に延びており、該端部と縦フランジ32A、32Bとは直交する構成)とは、「前記第一補強部は、前記剪断部に、該第一補強部と該剪断部とのなす角が所定の角度となるように形成され」ていることで共通する。
(キ)甲12発明の「折り筋を横」にした「波形鋼板28」は、「風や地震等によって架構12の面内方向に水平力が作用し」た際に、「波形鋼板28がせん断変形することにより、波形鋼板28が水平力に抵抗して耐震効果を発揮し、また、水平力に対して波形鋼板28が降伏するように設計することで、鋼板の履歴エネルギーによって振動エネルギーが吸収され、制振効果を発揮」するところ、「折り筋を縦」にしたものについての意義は甲12には明記されていない。
しかしながら、「波形鋼板28」は、少なくとも「材料として普通鋼や低降伏点鋼等が用いられる鋼板を波形形状に折り曲げ加工して構成され」る程度のものであるから、その「折り筋を縦」にしたものにおいても、水平方向の荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収を行えることは自明である。
この点について、甲13技術事項の「その上下両端部22、24の一方からその他方に向けて上下に延びる複数の窪み26を有する金属性の板状体20からなる弾塑性ダンパ12」が「水平方向への剪断力を受けて変形(剪断変形)する」ことと整合する。
よって、甲12発明の「折り筋を縦」にした「波形鋼板28」は、「風や地震等によって架構12の面内方向に水平力が作用し」た際に、「波形鋼板28がせん断変形することにより、波形鋼板28が水平力に抵抗して耐震効果を発揮し、また、水平力に対して波形鋼板28が降伏するように設計することで、鋼板の履歴エネルギーによって振動エネルギーが吸収され、制振効果を発揮」するものといえ、甲12発明の「折り筋を縦」にした「波形鋼板28」がかかる「制震効果を発揮」することは、本件訂正発明1の「前記剪断部は、入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収を行うこと」に相当する。
(ク)以上を総合すると、本件訂正発明1と甲12発明とは、次の一致点Aで一致し、相違点A-1及び相違点A-2で相違する。
〔一致点A〕
「建物及び/又は建造物に適用可能な弾塑性履歴型ダンパであって、
一対の第一補強部と、
前記一対の第一補強部を連結した剪断部と、
前記一対の第一補強部の両端間にそれぞれ接続した一対のプレートとを備え、
前記剪断部は、前記第一補強部に対して傾斜を成し、
前記第一補強部は、前記剪断部に、該第一補強部と該剪断部とのなす角が所定の角度となるように形成され、
前記剪断部は、入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収を行う弾塑性履歴型ダンパ。」
〔相違点A-1〕
剪断部について、本件訂正発明1は「前記一対の第一補強部を連結し、互いの向きを異ならせて設けられた板状の一対の剪断部と、前記一対の剪断部は、連結部を介して一連に設けられ」とあるように、互いの向きを異ならせて設けられた一対(2つ)備えるものであり、そして、該一対の連結部を介して設けられているのに対し、甲12発明は、そのような構成を備えるものではない点。
〔相違点A-2〕
第一補強部は、剪断部に、該第一補強部と該剪断部とのなす角について、本件訂正発明1は、鋭角となるように形成されているのに対し、甲12発明は、左右方向に延びる端部と縦フランジ32A、32Bとが直交している点。
イ 判断
上記相違点A-1及びA-2は、実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は、甲12発明と同一ではない。
続いて、上記相違点A-1及びA-2について検討する。
(ア)相違点A-1について
まず、「剪断部」が「板状」であることについて検討すると、甲12に「波形鋼板28は、鋼板を波形形状とすることで、せん断座屈耐力・変形性能を向上させることができ、通常の鋼板を用いる場合よりもせん断座屈防止手段としての補剛リブを減らすことができる。 」(【0047】)と記載され、該通常の鋼板とは板状の鋼板であることからみて、甲12発明は、鋼板を通常のものではなく波形形状とすることに意義があるから、剪断部に通常の鋼板を用いて板状とすることには、阻害要因が存在する。
続いて、剪断部を一対(2つ)とした上で、互いの向きを異ならせ、連結を介して一連に設けることについて検討すると、甲12発明において、「波形鋼板28」は「波形耐震部材26」に備えられており、該「波形耐震部材26」は、「建物10の架構12において、梁18の下面から下向きに突出して設けられている上連結部40Aと、梁20の上面から上向きに突出して設けられている下連結部40Bと、の間に配置された」ものであって、「風や地震等によって架構12の面内方向に水平力が作用」するものであるから、甲12発明の「波形鋼板28」が「架構12」の上下の連結部40A、40B間に配置され、架構12の面内方向に水平力が作用することを踏まえると、甲12発明の「波形鋼板28」を、新たに追加してもう一つ設けて一対とし、さらに一対としたうちの少なくとも一方の「波形鋼板28」を上記架構12の面以外の方向に配置する動機付けは存在しない。そして、剪断部を一対にする理由がなければ、一対の剪断部を連結部を介して一連に設ける理由もない。
よって、甲12発明の「波形鋼板28」に代えて「板状の剪断部」として一対設け、さらに互いの向きを異ならせ、連結部を介して設けられるものとすることにより、上記相違点A-1に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
(イ)相違点A-2について
甲3には、上記1(3)イに示した甲3技術事項が記載されており、甲3技術事項には、「パネル体」と「端縁補強体」との角度について、「パネル体と端縁補強体とが直交したものに限らず、また、一対の端縁補強体同士が平行でなくてもよい」ことが例示されているものの、該直交でも平行でないことについて、それ以上の詳細な特定はみられず、甲3においても、該直交でも平行でもないことの意義について記載されていない。
そして、甲3技術事項の上記の例示の適用についても、上記5(1)イ(イ)で述べたとおり、甲3技術事項の「パネル体と端縁補強体とが直交したものに限らず、また、一対の端縁補強体同士が平行でなくてもよい」との構成は、甲3技術事項の「充填コンクリート13によって面外変形規制手段が構成されて、せん断パネル14の面外方向への変形が充填コンクリート13で規制され」た構造を対象とするものであるから、当該構造を有しない甲12発明の「波形鋼板28」の端部と「縦フランジ32A、32B」との角度について、甲3技術事項のように直交や平行でないことを採用する動機付けが存在しない。
甲12発明において、「波形鋼板」の端部と「縦フランジ32A、32B」について、甲3技術事項を適用することにより、上記相違点A-2に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
ウ 予備的検討
合議体の検討による対比は、特に上記ア(ア)で検討したことを前提とした上記アのとおりであるが、付加的に、請求人の主張する甲12発明の認定及び本件訂正発明1と甲12発明との対比に沿った検討を行う。
(ア)対比
上記イ(オ)で検討した甲12発明の波形鋼板左右構成において、「折り筋」の一つを本件訂正発明1の「互いに向きを異ならせて設けられた板状の一対の剪断部」に相当すると仮定すると、甲12発明の「波形鋼板28」には、「板状の一対の剪断部」が横方向に多数連続して形成されたものといえ、一つの「折り筋」のうちの互いに向きを異ならせた板状の部分を接続する部分は、本件訂正発明1の「連結部」に相当し、「波形鋼板28」の左右両端に縦フランジ32A、32Bは、本件訂正発明1の「一対の第一補強部」に相当することとなる。
しかしながら、「一対の第一補強部」は、「剪断部」に対して「傾斜」を成すように「連結」され、「該第1補強部と該剪断部とのなす角が鋭角となるように形成」されたものであるところ、上記したように、甲12発明の「折り筋」の一つが、「板状の一対の剪断部」及び「連結部」に相当することから、例えば、「縦フランジ32A」に隣接する「折り筋」の一つが、本件訂正発明1の「板状の一対の剪断部」及び「連結部」に相当するとした場合、「縦フランジ32B」は、「板状の剪断部」に「連結」されるものではない。また、甲12発明の「縦フランジ32A」、「縦フランジ32B」に隣接する「折り筋」のうちの板状の部分を、本件訂正発明1の「板状の剪断部」に相当するとした場合、その間の波形鋼板28の部分は、複数の板状の部分が連続しているものであって、かかる集合体が、「一対の剪断部」を一連に設けるための「連結部」であるとはいえない。
これらの点及び上記アにおける対比を踏まえると、本件特許発明1と甲12発明とは、次の一致点Bで一致し、相違点B-1及びB-2で相違している。
〔一致点B〕
「建物及び/又は建造物に適用可能な弾塑性履歴型ダンパであって、
一対の第一補強部と、
互いの向きを異ならせて設けられた板状の一対の剪断部と、
前記一対の剪断部は、連結部を介して一連に設けられ、
前記一対の第一補強部の両端間にそれぞれ接続した一対のプレートとを備え、
前記剪断部は、入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収を行う弾塑性履歴型ダンパ。」
〔相違点B-1〕
本件訂正発明1は、一対の板状の剪断部が1つであり、一対の第一補強部を連結しているのに対し、甲12発明は、一対の板状の剪断部が多数存在し、該多数存在する剪断部に対して、その左右に縦フランジ32A、32Bが連結されている点。
〔相違点B-2〕
第一補強部は、剪断部に、該第一補強部と該剪断部とのなす角が、本件訂正発明1は、鋭角となるように形成されているのに対し、甲12発明は直交している点。
(イ)判断
上記相違点B-1及びB-2は、実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は、甲12発明と同一ではない。
続いて、上記相違点B-1及びB-2について検討する。
a 相違点B-1について
甲12発明の「波形鋼板28」は、「鋼板を波形形状に折り曲げ加工して構成され」たものであるから、多数設けられた一対の剪断部のうちの1つの一対の剪断部(折り筋)に着目する理由や動機付けは存在しない。また、甲12発明の「縦フランジ32A,32B」は、「波形鋼板28の外周を囲む枠体30」を構成するものであって、甲12の【0029】によれば、「プレート状に限らず、H形鋼、L形鋼、チャネル鋼等でも良い」ことからみて、「波形鋼板28」を補強する機能を備えているといえるから、「波形鋼板28」の折り筋の1つ1つに「縦フランジ32A、32B」を組み込むと、「波形鋼板28」が剪断変形する機能を阻害することとなるから、甲12発明の1つの折り筋ごとに鋼製の縦フランジを配置することは、当業者が思いつくことではない。
一方、甲13には上記1(13)イに示した甲13技術事項が記載されており、甲13技術事項は、複数の窪み26を有する金属性の板状体20からなる弾塑性ダンパ12において、窪み26は少なくとも1つあればよいものである。ここで、仮に甲12発明に甲13技術事項の窪み26を1つにすることを適用したものは、1つの窪みが形成された部分と、窪み以外の平板状となった多くの部分となるため、全体的にほぼ平板のものとなり、かつ、少なくとも窪みと縦フランジ32Aまたは32Bのどちらかとは直接連結しなくなるから、一対の剪断部を一つのみとしたものは、上記相違点B-1に係る本件訂正発明1の構成となるものではない。
以上のことから、甲12発明に甲13技術事項を適用することにより、上記相違点B-1に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
b 相違点B-2について
甲12の図面には、「波形鋼板28」の各種の凹凸形状が記載されているところ、そのうち、その端部と枠30との連結構造が明確に示されたものは、図18であるが、本件訂正発明1のように、鋭角ではない。また、その他の図には、「波形鋼板28」の端部の枠30との連結構造が示された図は見当たらない。
特に、図23は、図面の簡単な説明に、「(A)~(D)は本発明の実施形態に係る波形鋼板の断面形状を示す断面図である。」と記載されているように、波形鋼板の断面形状を示すに留まり、「波形鋼板28」の端部の枠30との連結構造がどのようになっているかは示されていない。
そして、甲12発明のような波形の鋼板の端部と、枠体との連結構造において、そのなす角を鋭角とすることを示唆する証拠は、提示されていない。
以上のことから、相違点B-2に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
エ 請求人の主張について
(ア)甲12発明の認定について
a 請求人は、波形鋼板28について折り筋を縦にした甲12発明は、
(B)一対の縦フランジと、
(C)前記一対の縦フランジを連結し、互いの向きを異ならせて設けられた板状の一対のせん断変形する部位と、を備え、
(F)前記縦フランジは、前記せん断変形する部位に、該縦フランジと該せん断変形する部位とのなす角が鋭角となるように形成され、
(K)前記一対のせん断変形する部位が連結部を介して一連に設けられていること、を備える旨(請求書46頁4~20行、29~末行)、主張する。
b しかしながら、上記ア(ア)及び(イ)で検討したとおり、甲12発明の「波形鋼板28」が本件訂正発明1の(1つの)「剪断部」に相当するに過ぎず、「波形鋼板28」が、上記主張でいうところの(1つの)「せん断変形する部位」に相当するにとどまり、一対(2つ)存在しないから、上記(C)の構成の構成を備えておらず、また、上記ア(オ)で検討したとおり、上記(F)の構成を備えていない。
よって、請求人の主張は採用できない。
c また、上記主張の(C)の構成の「鋭角」について、請求人は、「請求人が甲12に記載されている発明として認定した発明は、波形鋼板として【図23】(C)の三角波の形状のものを採用した上で、折り筋を縦にした波形鋼板を用いた発明であるから、三角波の波形鋼板と横フランジとは、なす角が鋭角となることは下図のとおり明らかである旨(請求人要領書56頁7~14行及び図)、主張する。
「
[図:0001424882000037.jpg]
【図23】の鋼板に横フランジを描き加えた図
(左側は【図23】(A)、右側は【図23】(C)に、横フランジを加えた。)」
しかしながら、【図23】(C)は、波形鋼板の断面形状を示す断面図(上記1(12)ア(ク))でしかないところ、上記主張の右側の図の説明として、「【図23】(C)に、横フランジを加えた」とあるとおり、鋼板と横フランジとの接合部は、請求人が書き加えたものであって、甲12に記載されたものではないから、【図23】(C)において、「三角波の波形鋼板と横フランジとは、なす角が鋭角となる」技術を導き出せるものとはいえない。
よって、請求人の主張は採用できない。
(ウ)予備的主張について
a 請求人は、予備的主張として、本件発明の弾塑性履歴型ダンパ(せん断パネルダンパー)は、請求項1に従属する請求項2において、剪断部が交互に並ぶ波形を成す形状としたものを含むとしているから、甲12発明の実施例の一対のせん断変形する部位を複数連ねて波形とした形状を含むと解され、本件発明の構成要件(C)等で特定された「一対の剪断部」が「一対の剪断部のみ」から成る構成に限定して解釈した場合、本件発明と甲12発明は、本件発明の構成要件(C)等で特定された「一対の剪断部」は、「一対の剪断部のみ」であることを意味するのに対し、甲12発明の「一対のせん断変形する部位」は、複数の当該部位を有する形態が示されている点、で相違する(相違点2)が、
甲12には、波形耐震部材26を設置幅に応じて板厚や波形の形状を適宜調整してもよいことが記載されているとともに(【0044】)、波形のピッチ、波高等を変えることでその耐力を調整可能とも記載されており(【0004】)、そして、同じ波形の鋼板を用いたせん断パネルダンパーに関する甲13にも、波形の形状を任意に設定できること、窪みを1つだけ設ける構成としてもよいことの開示があるから、甲12(当審注:「甲12」は「甲13」の誤記と認める。)に記載された示唆に基づき、窪みを1つ設ける構成を甲12発明において採用し、「一対の剪断部のみ」から成る相違点2に係る構成とすることは当業者にとって容易である旨(請求書49頁下から5行~50頁10行、52頁下から4行~53頁10行)、
甲12号証の【0004】、【0046】、甲13号証の【0016】、【0020】の記載から、甲12号証の「波形鋼板」において、必要に応じて、波型のピッチ、波高を調整して(変えて)、甲13号証の「窪みを1つ」にすることは、当業者にとって容易であり、この点を、模式的に図示すると下図のようになる(請求人要領書8頁5~末行、9頁図)旨、主張する。
「
[図:0001424882000038.jpg]
」
しかしながら、請求項2に記載された「前記剪断部は、傾斜方向が互いに異なる部分が交互に並ぶ波形を成すこと」における「前記剪断部」の「前記」が指し示すものは、請求項1における「一対の剪断部」における(1つの)「剪断部」であるから、本件訂正発明1と甲12発明との相違点は、上記ア(ク)で示した相違点A-1及び相違点A-2で相違しているものであって、請求人が相違点2として主張するところの「甲12発明の「一対のせん断変形する部位」は、複数の当該部位を有する形態が示されている」ものではないから、請求人の主張は、その前提において誤りがあり、採用できない。
また、甲12に「波形鋼板28は、鋼板を波形形状とすることで、せん断座屈耐力・変形性能を向上させることができ、通常の鋼板を用いる場合よりもせん断座屈防止手段としての補剛リブを減らすことができる。 」(【0047】)と記載されていることからみて、甲12発明は、鋼板を通常のものではなく波形形状とすることに意義があるから、甲13の「窪み26の数量は任意に定めることができる」との示唆に基づいて、波形形状の波の数を適宜調整することまでは設計事項であるとしても、同記載の「窪み13は少なくとも1つあればよく」との示唆に基づいて、波の数を1つとすることは、甲12の上記したせん断座屈耐力・変形性能を向上することに反することとなるから、当該構成を採用することには阻害要因があるといえる。
仮に、甲12発明の波形鋼板28の波の数を1つにすることができたとしても、「窪み」とは、「周囲よりも凹んでいる部位」を意味するから、甲13技術事項が示す「窪み」を1つだけとすることは、周囲よりも凹んでいる部位を1つとする構成であって、1つの「窪み」と、その余の部分が面内方向を向いた平板状の部分となるものである。そして、かかる構成が、相違点B-1にかかる構成とならないことは、上記「(イ)a」で説示したとおりである。しかも、甲13に「このような窪み26を設けることにより、板状体20に高い曲げ剛性を与えることができ、これにより、建物10に取り付けられた板状体20が地震動により水平方向への剪断力を受けて変形(剪断変形)するときの座屈及びこれに伴う急激な耐力低下の発生を効果的に防止することができる。」と記載されていることからみても、甲13の「窪み」を適用するに際しては、「変形(剪断変形)するときの座屈及びこれに伴う急激な耐力低下の発生を効果的に防止する」「窪み」として適用すべきであって、かかる機能を奏するものか定かでない上記図の1つの山状のものとする理由は存在しない。
なお、上記図の1つの山状のものは、請求人が提出したどの証拠にも記載されていない。
そして、本件訂正発明1は、「剪断部」を、「互いの向きを異ならせた板状の一対の剪断部」とし、「前記一対の剪断部は、連結部を介して一連に設けられ」ることにより、「二つの剪断部が設けられているので、所定レベル以上の地震の際に、剪断部が直接又は間接に上部構造物のストッパに突き当たり、突き当たったときの衝撃を剪断部が剪断弾塑性変形することにより減衰させることが出来る。また、二つの剪断部を連結部で連結してなるので、より大きな地震時の振動を吸収することが出来る。更に、二つの剪断部の向きを異ならせることで、一方向だけでなく複数の方向からの地震時の振動を吸収することが出来る。」(【0014】)との効果を得られるものである。
この点について、本件特許の明細書をみると、「橋軸に対して10°傾いた方向から入力があった状態を示している」図4の例では、「橋軸に対して斜めの方向から所定レベル以上の入力があったときには、」「入力のあった方向と近い剪断部11が大きく塑性変形し振動を減衰させ」ることが示され、「連結部12のベースプレート14側の角近傍の剪断部11,11及び連結部12の変形の程度は、入力の角度や入力の大きさによって異なることになる。」(【0028】)ことが記載されている。
これらの効果は、甲12、13に記載も示唆もされておらず、本件訂正発明1の構成が奏するものとして当業者が予測することのできなかったものであり、かつ当該構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著なものであるというべきであるから、本件訂正発明1の進歩性を肯定するに十分な顕著な効果である。よって、甲12発明において、当該構成を採用することが設計的事項であるとはいえない。
以上のことから、請求人の主張は採用できない。
オ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲12発明と同一ではなく、また、甲12発明、甲13技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件訂正発明2、7、8及び10について
本件訂正発明2、7、8及び10は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用することで、本件訂正発明1の構成をすべて備えているものであるから、上記(1)で検討した理由と同じ理由により、甲12発明と同一ではなく、また、甲12発明、甲13技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)無効理由3のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1、2、7、8及び10は、甲12発明と同一ではなく、また、甲12発明、甲13技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
8 無効理由4について
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲2発明を対比する。
(ア)甲2発明の「極低降伏比鋼により形成された板状部材であ」る「パネル部11」「を備えた、」「橋梁上部構造と橋梁下部構造との間に設置されるせん断パネル型ダンパー10」は、本件訂正発明1の「建物及び/又は建造物に適用可能な弾塑性履歴型ダンパ」に相当する。
(イ)甲2発明の「パネル部11の側辺11bに」「設け」た「リブ13」は、「パネル部11の面外方向の剛性が向上し、パネル部11の面外方向への変形をより抑制することができるものであ」るから、本件訂正発明1の「一対の第一補強部」に相当する。
(ウ)甲2発明において、「パネル部11は、極低降伏比鋼により形成された板状部材であって、」「パネル部11が面内方向にうまく変形することができ、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーを吸収することができるものであ」ることから、甲2発明の「パネル部11」は、本件訂正発明1の「剪断部」に相当する。よって、本件訂正発明1の「前記一対の第一補強部を連結し、互いの向きを異ならせて設けられた板状の一対の剪断部」と甲2発明の「側辺11bにリブ13を設け」た「パネル部11」とは、「前記一対の第一補強部を連結する、板状の剪断部」で共通する。
(エ)甲2発明の「パネル部11の側辺11bにリブ13を設けてもよく、」「パネル部11とリブ13とは直交して」いることは、本件訂正発明1の「前記剪断部は、前記第一補強部に対して傾斜を成し」ていることに相当する。
(オ)本件訂正発明1の「前記第一補強部は、前記剪断部に、該第一補強部と該剪断部とのなす角が鋭角となるように形成され」ることと、甲2発明の「パネル部11とリブ13とは直交して」いることとは、「前記第一補強部は、前記剪断部に、該第一補強部と該剪断部とのなす角が所定の角度となるように形成され」ていることで共通する。
(カ)甲2発明において、「パネル部11は、極低降伏比鋼により形成された板状部材であって、」「パネル部11が面内方向にうまく変形することができ、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーを吸収することができるものであ」ることは、本件訂正発明1の「前記剪断部は、入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収を行うこと」に相当する。
(キ)以上の検討を総合すると、本件訂正発明1と甲2発明とは、
「建物及び/又は建造物に適用可能な弾塑性履歴型ダンパであって、
一対の第一補強部と、
前記一対の第一補強部を連結する板状の剪断部と、
前記剪断部は、前記第一補強部に対して傾斜を成し、
前記剪断部は、入力により荷重を受けたときに、変形してエネルギー吸収を行う弾塑性履歴型ダンパ。」で一致するものの、以下の点で相違している。
〔相違点a〕
板状の剪断部について、本件訂正発明1は、互いの向きを異ならせて設けられた一対のものであって、該一対のものが連結部を介して一連に設けられているのに対し、甲2発明は、一つであって、そのために互いの向きを異ならせて設けたものではなく、連結部を介して一連に設けられたものでもない点。
〔相違点b〕
本件訂正発明1は、一対の第一補強部の両端間にそれぞれ接続した一対のプレートを備えているのに対し、甲2発明は、一対のプレートを備えていない点。
〔相違点c〕
第一補強部は、剪断部に、該第一補強部と該剪断部とのなす角が、本件訂正発明1は、鋭角となるように形成されているのに対し、甲2発明は、パネル部11とリブ13とは直交している点。
イ 判断
上記相違点a~cについて検討する。
(ア)相違点aについて
甲2発明は、「設置されるせん断パネル型ダンパー90の一部は、その面内方向(下辺長手方向に同じ)がX軸方向(橋軸方向)となるように設置され、設置されるせん断パネル型ダンパー90の残りの一部は、その面内方向がY軸方向(橋軸方向と垂直な方向)となるように設置され、両せん断パネル型ダンパー90の設置位置や設置数は任意であって、
また、せん断パネル型ダンパー90の面内方向がX軸にもY軸にも向かないようにせん断パネル型ダンパー90を設置してもよい」ものである(特に、甲2の図11(b)や図12(f)で示されている。)から、せん断パネル型ダンパー90を2つ(一対)用い、互いの向きを異ならせることは、甲2発明が実質的に備える構成といえる。
しかしながら、甲2発明は、「荷重伝達抑制手段20」により、「荷重200の面外方向成分202がパネル部11に伝達されることを抑制できるため、パネル部11が面内方向にうまく変形することができ」るものであるから、「せん断パネル型ダンパー90」同士を連結してしまうと、連結した一方の「せん断パネル型ダンパー90」に対し他方の「せん断パネル型ダンパー90」からもたらされる面外方向成分202の影響も受けることとなり、「荷重伝達抑制手段20」の上記「荷重200の面外方向成分202がパネル部11に伝達されることを抑制できる」との機能を阻害することとなる。
また、連結された一方の「せん断パネル型ダンパー90」の面内方向は、連結された他方の「せん断パネル型ダンパー90」の面外方向となり、互いの「パネル部11」の面内方向への変形を妨げ、それぞれの「パネル部11が面内方向にうまく変形することができ」ないものとなるから、「せん断パネル型ダンパー90」同士を連結することには、阻害要因がある。
さらに、甲2発明の「せん断パネル型ダンパー90」は、「パネル部11の側辺11bにリブ13を設けてもよく、これにより、パネル部11の面外方向の剛性が向上し、パネル部11の面外方向への変形をより抑制することができるものであ」るから、「リブ13」を設けてもよいとされる「側辺11b」同士を連結部を介して一連のものとして、上記の「パネル部11の面外方向の剛性が向上し、パネル部11の面外方向への変形をより抑制することができる」機能を有する「リブ13」を排除した上で「パネル部11」同士を連結することには、阻害要因があり、当業者が設計変更するとは認められない。
以上のことから、互いに向きを異ならせて設けた「パネル部11」を連結部を介して一連に設けることにより、上記相違点aに係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
(イ)相違点bについて
甲2発明の「せん断パネル型ダンパー10」は、「載荷部材12」を備えており、「載荷部材12の側面12aとパネル部11の側辺11bとの間に略球状の転動体21を転動自在に保持しており、荷重200の面外方向成分202がパネル部11に伝達されることを抑制できるため、パネル部11が面内方向にうまく変形することができ、橋梁下部構造と橋梁上部構造とを相対的に移動させるエネルギーを吸収することができる」との機能を有するものである。
よって、仮に、ダンパーの上下に一対のプレートを備えることが周知又は公知技術(甲1、甲11、甲12)であるとしても、甲2発明の「パネル部11の下辺と橋梁下部構造102の上面との間に連結板等を設け、この連結板等を介して、パネル部11と橋梁下部構造102とを間接的に固定して」いることに加えて、パネル部11の上辺にまでプレートを設け、当該プレートを介した固定に変えると、パネル部11自体に、上辺のプレートを介して、面内方向の外力だけでなく、面外方向の外力までも伝達されることとなるから、かかる変更には、阻害要因が存在するといえる。
したがって、甲2発明及び公知又は周知技術に基づいて、上記相違点bに係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
(ウ)相違点cについて
上記5(1)ア(ク)で示した相違点2と同じであるから、上記5(1)イ(イ)で検討した理由と同じ理由により、甲2発明に甲3技術事項を適用することにより、上記相違点cに係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
ウ 請求人の主張について
請求人は、本件発明1と甲2発明とを対比すると、
本件発明1の構成要件(D)において、一対のプレートが一対の第一補強部の両端間に接続されているのに対し、甲2発明1では、連結板が一対のリブ42の一方の端部間に配置されている点(相違点1)、
本件発明1の構成要件(F)において、第一補強部と剪断部とのなす角が鋭角であるのに対し、甲2発明の第一補強部に相当するリブ42と剪断部に相当するパネル部41とのなす角が直角である点(相違点2)、で相違しており、
相違点1については、連結板が一対のリブ42の一方の端部間にのみ配置されているが、せん断パネルダンパーの上下にプレートを設けることは周知である(甲1、甲12、甲14)から、相違点1は、当業者が周知技術を参考として適宜採用しうる設計的事項にすぎないことであり、
相違点2については、剪断部と補強部がなす角が鋭角となる構成とすることは、甲3に示された事項からも容易であり、甲2発明において剪断部に相当するせん断パネル型ダンパー90と第一補強部に相当するリブ42のなす角として鋭角を選択し、相違点2の構成とすることは、当業者が適宜設定する程度のことにすぎない旨(請求書55頁1行~57頁10行)、主張する。
しかしながら、上記相違点1については、上記イ(イ)で相違点bについて検討したとおり、阻害要因の存在により、せん断パネルダンパーの上下にプレートを設けることは、当業者が容易になし得たことではない。
また、相違点2については、上記1イ(イ)で相違点2について検討したとおり、甲3に記載のパネル体と端縁補強体とがなす角度を鋭角とすることは明確に記載されていないから、甲2発明のせん断パネル型ダンパー90とリブ42のなす角として鋭角を選択することは、請求人が主張するように当業者が適宜設定する程度のこととはいえない。
よって、請求人の主張は採用できない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲2発明、甲1、甲12及び甲14に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件訂正発明7、8及び10について
本件訂正発明7、8及び10は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用することで、本件訂正発明1の構成をすべて備えているものであるから、上記(1)で検討した理由と同じ理由により、甲2発明、甲1、甲12及び甲14に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)無効理由4のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1、7、8及び10は、甲2発明、甲1、甲12及び甲14に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
9 無効理由8
請求人は、(a)本件発明の請求項3は請求項1を引用していることを踏まえると、請求項1の「該第一補強部と該剪断部とのなす角が鋭角」であり、かつ、請求項3の「前記第一補強部は、互いに平行に配置されている」構成は、原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されておらず、(b)本件の出願当初の請求項に「前記一対の第一補強部と前記剪断部とで、・・・Σ字形を成し」との記載があったところ、「・・・Σ字形を成すことが、発明の詳細な説明に記載されていない。・・・」と指摘した拒絶理由通知に対する補正により、「・・・該第一補強部と該剪断部とのなす角が鋭角で形成され」と補正したが、その従属項である請求項3では、一対の第一補強部は互いに平行であることが特定されており、これがΣ字形であることを意味するから、少なくとも請求項3に係る本件発明は新規事項を有するから、本分割出願は、分割要件を満たしていないため、原出願の時にしたものとみなされず、平成26年6月17日に出願したものとみなされ、そして、本件の請求項1~20に係る発明は、原出願の公開公報である特開2013-144922号公報(甲15)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨(請求書63頁15行~64頁下から5行)、主張する。
しかしながら、上記第3のとおり、請求項3の記載を削除する本件訂正は認められるから、請求項3は存在しないものとなった。
したがって、請求人が違反していると主張する分割要件は満たされるものとなり、原出願の時にしたものとみなされるから、本件訂正発明1、2、4、5、7~20は、原出願の公開公報である甲15に記載された発明ではなく、甲15に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでのないから、無効理由8は理由がない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、無効理由1~8はいずれも理由がないものであり、請求人の主張及び証拠方法によっては、請求項1、2、4、5、7~20に係る発明についての特許を無効とすることはできない。
また、請求項3及び6は、本件訂正により存在しないものとなったため、請求項3及び6に係る発明についての本件無効審判請求は、不適法な請求であって補正をすることができないものとなったから、特許法第135条の規定により却下すべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論の通り審決する。
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2022-800025