特許拒絶査定不服審判
2022-020310
正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池
- 審判番号
- 2022-020310
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-074347
- 請求日
- 2022年12月15日
- 審決日
- 2024年01月22日
- 公報発行日
- 2024年07月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エコプロ ビーエム カンパニー リミテッド
- 【請求人代理人】岡部 讓
- 【請求人代理人】本田 亜希
- 【請求人代理人】齋藤 正巳
- 審判長/審判官
- 審判長 山田 正文
- 審判官 須原 宏光
- 審判官 小池 秀介
- 分類
- P18 .113-Z (H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021- 74347「正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年12月27日出願公開、特開2021-197360〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和3年4月26日(パリ条約による優先権主張2020年6月18日 韓国)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 4年 2月 8日付け:拒絶理由通知
令和 4年 5月11日 :意見書、手続補正書の提出
令和 4年 8月 8日付け:拒絶査定
令和 4年12月15日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 5年 2月28日付け:前置報告
令和 5年 4月28日 :上申書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1ないし13に係る発明は、令和4年12月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】
小粒子の第1リチウム複合酸化物および大粒子の第2リチウム複合酸化物を含むバイモーダル(bimodal)形態の正極活物質であり、
前記正極活物質は、前記第1リチウム複合酸化物の前駆体である第1水酸化物前駆体と、前記第2リチウム複合酸化物の前駆体である第2水酸化物前駆体と、の混合物を同時焼結により調製され、
前記第1リチウム複合酸化物に含まれるMn濃度αおよび前記第2リチウム複合酸化物に含まれるMn濃度βは、下記の式1を満たす、正極活物質。
[式1]
|α(mol%)-β(mol%)|≦2.0」
第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち理由1(特許法第29条第1項第3号)は次のとおりである。
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
引用文献1.特開2020-035605号公報
第4 引用文献1の記載及び引用発明
1 引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。以下同様。)。
「【0112】
[実施例1]
(晶析工程:ステップS1)
反応槽(60L)に純水を所定量入れ、攪拌しながら槽内温度を49℃に設定した。この反応槽内にニッケル:コバルト:マンガンのモル比が85:5:10となるように、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンの2.0Mの混合水溶液と、アルカリ溶液である25質量%水酸化ナトリウム溶液、錯化剤として25質量%アンモニア水を反応槽に同時に連続的に添加した。このとき混合水溶液の滞留時間は8時間となるように流量を制御し、反応槽内のpHを12.0~12.6に、アンモニア濃度を10~14g/Lに調整した。反応槽が安定した後、オーバーフロー口から金属複合水酸化物の粒子を含むスラリーを回収した後、濾過を行い金属複合水酸化物のケーキを得た。濾過を行ったデンバー内にある複合水酸化物140gに対して1Lの純水を通液することで、不純物の洗浄を行った。
【0113】
濾過後の粉を乾燥し、Ni0.85Co0.05Mn0.10(OH)2+α(0≦α≦0.4)で表される金属複合水酸化物の粒子を得た。得られた金属複合水酸化物の粒子の体積平均粒径Mvは、12.0μmであり、粒径のばらつき指数は0.96であった。
【0114】
(分級工程:ステップS10)
得られた金属複合水酸化物の粒子を、乾式分級機(日鉄鉱業株式会社製エルボージェットLabo型)を用い、小粒径側と大粒径側の質量比率が30:70となるようにカットポイントを設定して分級処理を行った。得られた第1の粒子群(小粒径側の粒子群:s1)の体積平均粒径Mvは5.6μm、粒径のばらつき指数は0.56であり、第2の粒子群(大粒径側の粒子群:s2)の体積平均粒径Mvは13.4μm、粒径のばらつき指数は0.75であった。また得られた第1の粒子群(s1)と第2の粒子群(s2)の質量比率は28:72であった。第1の粒子群(s1)と第2粒子群(s2)の粒径、比表面積、タップ密度を表1に示す。
【0115】
(混合工程:ステップS20a)
得られた第1の粒子群(s1)を、大気雰囲気下で600℃に5時間保持する熱処理(ステップS2)を行った。第1の粒子群(s1)は、熱処理により金属複合水酸化物から金属複合酸化物へ転化した。熱処理後の第1の粒子群(s1)に対して、水酸化リチウムを、リチウム量(Li)とニッケル、コバルト及びマンガンの合計メタル量(Me)との原子比(以下、Li/Meと表す)が1.02になるように秤量した。その後、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて金属複合水酸化物の粒子と十分に混合し、第1のリチウム混合物を得た。
【0116】
(焼成工程:ステップS30a)
得られたリチウム混合物を、酸素気流中にて820℃で10時間保持して焼成し、その後、解砕して第1の焼成体(リチウム金属複合酸化物の粒子)を得た。
【0117】
(混合工程、焼成工程:ステップS20b、ステップS30b)
同様に第2の粒子群(s2)に対しても、第1の粒子群(s1)と同じ条件で熱処理、水酸化リチウムとの混合、焼成、解砕を行い、第2の焼成体(リチウム金属複合酸化物の粒子)を得た。」
「【0121】
(比較例1)
実施例1の分級工程(ステップS10)で得られた第1の粒子群(s1)と第2の粒子群(s2)の金属複合水酸化物の粒子を質量比でs1:s2=28:72となるように混合した。つまり、分級前の金属複合水酸化物の粒子を模擬した試料である。この金属複合水酸化物の粒子を実施例1と同じ条件で、熱処理、水酸化リチウムとの混合、焼成工程を行い、実施例1の混合工程は行わず正極活物質を作製し、電気化学特性評価に供した。」
ここで、引用文献1には、比較例1の正極活物質に関して、次の事項が記載されている。
・比較例1の正極活物質は、実施例1の分級工程(ステップS10)で得られた第1の粒子群(s1)と第2の粒子群(s2)の金属複合水酸化物の粒子を混合し、この金属複合水酸化物の粒子を実施例1と同じ条件で、熱処理、水酸化リチウムとの混合、焼成工程を行って作製したものである。(段落【0121】)
・実施例1の分級工程(ステップS10)では、Ni0.85Co0.05Mn0.10(OH)2+α(0≦α≦0.4)で表される金属複合水酸化物の粒子を分級処理を行い、小粒径側の第1の粒子群(s1)と大粒径側の第2の粒子群(s2)とを得ている。(段落【0113】、【0114】)
・段落【0115】ないし【0117】によれば、実施例1では、第1の粒子群(s1)と第2の粒子群(s2)に対して、熱処理、水酸化リチウムとの混合、焼成工程を行いリチウム金属複合酸化物の粒子を得ているので、第1の粒子群(s1)と第2の粒子群(s2)を混合した金属複合水酸化物の粒子に対して、実施例1と同じ条件で、熱処理、水酸化リチウムとの混合、焼成工程を行っている比較例1は、混合した金属複合水酸化物の粒子に、熱処理、水酸化リチウムとの混合、焼成工程を行って、リチウム金属複合酸化物の粒子を形成しているものと認められる。
2 引用発明
以上によれば、引用文献1には正極活物質に関して、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「Ni0.85Co0.05Mn0.10(OH)2+α(0≦α≦0.4)で表される金属複合水酸化物の粒子を分級処理を行い、小粒径側の第1の粒子群(s1)と大粒径側の第2の粒子群(s2)とを得て、
第1の粒子群(s1)と第2の粒子群(s2)の金属複合水酸化物の粒子を混合し、
熱処理、水酸化リチウムとの混合、焼成工程を行って形成されたリチウム金属複合酸化物の粒子からなる、
正極活物質。」
第5 本願発明と引用発明の対比
1 引用発明の「リチウム金属複合酸化物の粒子」は、「小粒径側の第1の粒子群(s1)」と「大粒径側の第2の粒子群(s2)」を混合した後に、焼成して形成しているので、小粒径の「リチウム金属複合酸化物の粒子」と大粒径の「リチウム金属複合酸化物の粒子」が混合していることは明らかである。
そうすると、引用発明の「正極活物質」は、小粒径の「リチウム金属複合酸化物の粒子」と大粒径の「リチウム金属複合酸化物の粒子」を含むバイモーダル形態の「正極活物質」である。
したがって、引用発明の「正極活物質」は、本願発明の「小粒子の第1リチウム複合酸化物および大粒子の第2リチウム複合酸化物を含むバイモーダル(bimodal)形態の正極活物質」に相当する。
2 引用発明は「金属複合水酸化物の粒子」である「第1の粒子群(s1)」と「第2の粒子群(s2)」を、水酸化リチウムと混合して焼成を行い「リチウム金属複合酸化物の粒子」を形成しているので、「第1の粒子群(s1)」及び「第2の粒子群(s2)」は、「リチウム金属複合酸化物」の前駆体である金属複合水酸化物前駆体といえる。
そうすると、引用発明の「小粒径側の第1の粒子群(s1)」は、小粒径の「リチウム金属複合酸化物」の前駆体である金属複合水酸化物前駆体といえるので、本願発明の「前記第1リチウム複合酸化物の前駆体である第1水酸化物前駆体」に相当する。同様に、引用発明の「大粒径側の第2の粒子群(s2)」は、大粒径の「リチウム金属複合酸化物」の前駆体である金属複合水酸化物前駆体といえるので、本願発明の「前記第2リチウム複合酸化物の前駆体である第2水酸化物前駆体」に相当する。
そして、引用発明の「正極活物質」は「第1の粒子群(s1)と第2の粒子群(s2)」「を混合し、熱処理、水酸化リチウムとの混合、焼成工程を行って」「リチウム金属複合酸化物の粒子」を形成しているのであるから、「第1の粒子群(s1)」と「第2の粒子群(s2)」との混合物を同時焼成している。
したがって、引用発明の「正極活物質」は、小粒径の「リチウム金属複合酸化物」の前駆体である金属複合水酸化物前駆体の「小粒径側の第1の粒子群(s1)」と、大粒径の「リチウム金属複合酸化物」の前駆体である金属複合水酸化物前駆体の「大粒径側の第2の粒子群(s2)」との混合物を同時焼成により調整されているといえる。
よって、引用発明の「正極活物質」が「小粒径側の第1の粒子群(s1)」と「大粒径側の第2の粒子群(s2)」との混合物を同時焼成により調整されていることは、本願発明の「前記正極活物質は、前記第1リチウム複合酸化物の前駆体である第1水酸化物前駆体と、前記第2リチウム複合酸化物の前駆体である第2水酸化物前駆体と、の混合物を同時焼結により調製され」ていることに相当する。
3 引用発明の小粒径の「リチウム金属複合酸化物の粒子」と大粒径の「リチウム金属複合酸化物の粒子」は、「Ni0.85Co0.05Mn0.10(OH)2+α(0≦α≦0.4)で表される金属複合水酸化物の粒子」を分級した「小粒径側の第1の粒子群(s1)」と「大粒径側の第2の粒子群(s2)」から形成されているので、含まれるMn濃度に相違はない。
したがって、引用発明の小粒径の「リチウム金属複合酸化物の粒子」に含まれるMn濃度をα、大粒径の「リチウム金属複合酸化物の粒子」に含まれるMn濃度をβとすると、|α(mol%)-β(mol%)|は略0であり、このことは、本願発明の「前記第1リチウム複合酸化物に含まれるMn濃度αおよび前記第2リチウム複合酸化物に含まれるMn濃度βは、下記の式1を満たす」「[式1] |α(mol%)-β(mol%)|≦2.0」ことに含まれる。
第6 判断
上記「第5 1」ないし「第5 3」から両者に相違点はなく、本願発明は引用文献1に記載された発明である。
第7 請求人の主張について
1 請求人は、令和5年4月28日の上申書において、概略次の主張をしている。
引用文献1の分級後の第1の粒子群と第2の粒子群を混合した粒子群は、分級前の粒子群(前駆体)とは、明らかに異なる性状の粉体となっており、引用文献1に記載する前駆体とはいえない。
また、本願に記載する共沈法で得られた粉体は、引用文献1に記載の中和晶析法で得られた粉体に相当し、本願明細書には、引用文献1において記載の前駆体の分級に関する記載も示唆もされていない。よって、本願発明に記載の前駆体が分級工程を経て得られたものを含むと解釈する余地はない。
したがって、引用文献1の記載を基にして、引用文献1に記載の分級工程を経て得られた、第1の粒子群を第1水酸化物前駆体と、第2の粒子群を水酸化物前駆体と解釈して、本願発明に当てはめる論理付けには無理がある。
2 上記主張について検討する
請求人のいうところの「性状」が何を指すのか明らかでないが、引用発明における分級後の粒子は分級前の粒子を分級したにすぎないものであるから、分級後の「第1の粒子群(s1)」と「第2の粒子群(s2)」はいずれも、分級前と組成も略同一であるといえる。そして、引用発明は「第1の粒子群(s1)と第2の粒子群(s2)」「を混合し、熱処理、水酸化リチウムとの混合、焼成工程を行って」「リチウム金属複合酸化物」を形成しているので、「第1の粒子群(s1)」と「第2の粒子群(s2)」は、「リチウム金属複合酸化物」の基になる物質、つまり前駆体といえるのものである。
また、本願の請求項1には、「第1水酸化物前駆体」と「第2水酸化物前駆体」がどのような製造方法で得られたかを特定する記載はない。
そして、引用発明の「第1の粒子群(s1)」は小粒径であり、「第2の粒子群(s2)」は大粒径である。してみると、引用文献1に記載の分級工程を経て得られた第1の粒子群は、本願の請求項1に係る発明の第1水酸化物前駆体と、引用文献1に記載の分級工程を経て得られた第2の粒子群は、本願の請求項1に係る発明の第2水酸化物前駆体と解釈できる(上記「第5 2」参照)。
よって、上記主張を採用することができない。
第8 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-020310