特許拒絶査定不服審判
2018-006911
電磁力推進器
- 審判番号
- 2018-006911
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-194809
- 請求日
- 2018年05月01日
- 審決日
- 2019年12月02日
- 公報発行日
- 2020年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】丸山 裕
- 審判長/審判官
- 審判長 柿崎 拓
- 審判官 藤井 昇
- 審判官 久保 竜一
- 分類
- P18 .536-WZ (H02K) / P18 .1 -WZ (H02K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項特許法36条4項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016-194809号「電磁力推進器」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月22日出願公開,特開2018- 46731号〕について,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は,成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は,平成28年9月12日(受付日:平成28年9月13日)の出願であって,平成29年11月22日付けで拒絶理由が通知され,平成30年1月7日付け(受付日:平成30年1月9日)で意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが,同年3月29日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年5月1日付け(受付日:同年5月2日)で拒絶査定不服審判が請求された。そして,平成31年3月14日付けで当審により拒絶理由が通知され,令和元年5月10日付け(受付日:令和元年5月13日)で意見書が提出されるとともに手続補正がなされ,令和元年7月3日付けで通知書が通知されたところである。
第2 請求項1に記載されたもの
本願の請求項1に記載されたものは,令和元年5月10日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
電磁石の磁力に反発する重石とその重石を自由体とし直線往復運動させるガイドレールと重石に反発する磁力を生成する電磁石からなり電磁石を外側になる様にした形で回転させ,遠心力により電磁石側に押し出される重石を円運動の定位置で電磁石に瞬間的な強電流を流して生成した磁力の反発力で押し返しその反作用を推進力として取り出す電磁力推進器。」
第3 当審における拒絶の理由
当審が平成31年3月14日付けで通知した拒絶理由のうち理由1及び4の概要は,次のとおりである。
「1)(実施可能要件)この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
4)(発明該当性)この出願の下記の請求項に記載されたものは,下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。
記
<理由1>
図1,図7,図9の説明を参照すると,推進力生成装置のガイドレール3は回転軸に結合され,電磁石4の底面は保護カバー9に接合されて一体化されている。
そして,段落【0012】の説明及び図5の図示内容では,回転数を上げることにより遠心力を強くして,重石2が円運動の中心方向に押し戻されないようにして重石2が等速円運動の軌跡上に位置したまま,dの位置の電磁石4に増幅電流を流すと,d位置の電磁石4と該電磁石4と接続されたのガイドレール3上にある重石2間に反発力が働いて,重石2の位置が不変であるからd位置の電磁石4が図5の下方に移動し,全体で推進力が働く旨の説明がなされている。
この点について検討する。
(1)請求人が主張するような回転数が高く遠心力が強い状態においては,重石2が電磁石4の鍔部に押し付けられることとなる。この時,重石2にかかる遠心力により電磁石4の鍔部を外方に押す力(つまり,保護カバー9を外方に押す力)をF1とする。また,反対側(b位置)の重石2にも遠心力がかかり電磁石4の鍔を外方にF1で押しているから,上下方向にかかる力は釣り合っている。
(2)ここでd位置の電磁石4に増幅電流が流れると,該位置の電磁石4と重石2間に反発力(磁力)が働くが,請求人の主張によれば,重石2の位置は変わらないのであるから,重石2は電磁石4の鍔に押し付けられたまま,重石2には内方に反発力G1がかかるため,重石2が電磁石4の鍔を外方に押す力はF1-G1と減少するが,d位置の電磁石4にも外方に反発力G1がかかることになる。
そうすると,d側の電磁石4が保護カバー9を外方に押す力は,G1+(F1-G1)=F1となり,反対側(b側)の電磁石4が保護カバー9を外方に押す力F1と釣り合ったままである。
したがって,仮に,請求人が主張する回転数を上げることにより遠心力を強くすることによって,重石2が円運動の中心方向に押し戻されないという前提が正しいとしても推進力は働くことはない。
(3)また,本願に記載された電磁力推進器は,人や物を運搬できる推進力を発生するものであるから(段落【0005】),継続的に推進力を発生させようとするものである。
そして,その推進力を用いて移動しようとするのであれば,図1の外部電動モータ10を含む装置全体又は図9の外部動力18を含む装置全体が当該装置により発生される推進力でもって移動する移動装置(例,搬送台車)の上に載置されることとなる。
その場合,外部電動モーター10や外部動力18により回転軸を回転させ保護カバー内の電磁石4に誘導電流を発生させたとしても,前記装置全体が載置された前記移動装置内での力のやり取りはあっても,前記装置全体が載置された移動装置内で系は閉じており,外部との間で何ら力をやり取りするものではないから,前記装置全体が載置された移動装置を動かす推進力は働くことはない。
(4)また,段落【0012】に「電磁力の反発力が力点,遠心力が支点,推進力が作用点となり,推進力を得ることができる。」と記載されているがどのようなことを示しているのか不明である。
(5)したがって,発明の詳細な説明の記載を参照しても,請求項1の発明を実施できる程度に記載されていない。
<理由4>
請求項1に記載されたものは,<理由1>(2),(3)で述べたように自然法則に反するものであるから,発明に該当しない。 」
第4 判断
1.実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について.
(1)請求項1に記載されたものの課題及び作用効果について
令和元年5月10日付けの手続補正により補正された本願明細書には以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
・「【技術分野】
【0001】
本発明は,推進器に関するものである。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
宇宙,空中,水中,場所を限定せず,波,風を発せず,音も静かで,触れても安全な推進器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は,遠心力を用いた重石を地面,水,大気に代わる踏み台とし,円周上の一定方向(推進方向)で電磁石を用い電磁力(反発力)の反作用を推進力として,推進するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の電磁力推進器は,宇宙,空中,水中,場所を限定せず,周囲に波,風,および騒音を発せずに,人や物品を運搬できる推進力を発生するものである。また,外部動力として電気モーターを使用する事により,光発電や原子力発電で宇宙空間において継続推進や方向転換が出来る。」
・「【0008】
実施例1は電磁界(誘導電流)を用いて推進方向を特定する方法である。図1は,本発明装置の回転体(推進器)の構造を示すものである。回転体は制御信号生成部品(図2),推進力生成部品(図3),および電力生成部品(図8)で構成される。各部品は構造的(物理的)に接合され,かつ,電気配線で接続され,一体と成って回転する。回転は外部電動モーター10によるものである。」
・「【0009】
図2は,本発明装置の回転体の制御信号生成部品であり円周上の一つの方向を検出する方法である。非回転体の外部磁力11による,ひとつの磁界内を回転体が回転する際の誘導電流を誘導コイル(円周位置検出用)1で抽出する。誘導電流は1回転,1サイクルの単相交流である。これは円運動の定位置を特定するために用いる。この単相交流は磁界検出回路増幅プリント基板6で交流(AC)結合を行い,変圧直流である制御信号とし,マイコン制御回路プリント基板7に送られる。
【0010】
図3は,本発明装置の回転体の推進力生成部品であり電磁石4と重石(永久磁石)2とガイドレール3で構成される。回転軸とガイドレール3と電磁石4は構造的(物理的)に接合されている。重石(永久磁石)2は固定されていない自由体でありガイドレール3に沿って直線往復運動する構造と成っている。ガイドレール3は重石2を回転させる役割と永久磁石である重石2の磁極の向きを固定する役割もする。回転体が回転している時,重石(永久磁石)2は遠心力で外側の電磁石4側へ常に押し出される。」
・「【0012】
図5は,本発明装置の推進力抽出の説明図2であり,図4の説明での遠心力を回転数を上げることにより遠心力を強くし,重石(永久磁石)2が円運動の中心方向へ押し戻されない様にし,等速円運動を保持する場合を表現している。遠心力は重石2の質量,回転速度を考慮することにより強化可能である。電磁力は導線の太さ,コイルの巻き数を考慮する事により強化可能である。重石2の磁力はネオジム磁石や超電導の技術で強化可能である。また,装置の重量も材料や構造を考慮し軽量化できる。これにより[遠心力]>[推進器を動かすに足りる力]かつ[電磁力(反発力)]>[推進器を動かすに足りる力]の条件を満たす場合,電磁石4が円運動の外方向へ押し出される。電磁石4の反発力が人間の足(タイヤ),重石2に働く遠心力が踏み板(地面)となり,電磁石4と構造的(物理的)に接合されている回転軸(推進器)の推進力を得ることができる。また,推進器の回転体部分を増設することにより,推進力を増強できる。」
・「【0022】
実施例2は光センサー19を用いた推進方向を操作する方法である。他に磁気センサー,赤外線センサー等が考えられるが,図10は,光センサー19(フォトレジスタ・Cdsセル)を用いた円周位置検出方式の説明図である。(実施例2)本発明装置の回転体の推進力生成部品毎に光センサー19を設け,円運動の定位置(推進方向)外部に非回転体である光源20を設置して,推進力生成部品毎の光センサー19(Cdsセル)が光を検知するとマイコン制御回路が整流昇圧蓄積回路の対応するユニットのコンデンサの蓄電量を判断し,十分な電荷が蓄積されている場合,パワーMOSFETのゲートに電流を流し対応するユニットのコンデンサに蓄積された電気エネルギーを瞬間的に電磁石4に通電し電磁力の反発力で電磁石4を円運動の外側へ押し出し,本発明の推進力として取り出すものである。この場合,光源20の位置が舵の役目となる。」
・図1,図3,図5,図7,図9,図10には,以下の内容が図示されている。
<図3>
<図5>
<図7>
<図9>
<図10>
なお,本願明細書の段落【0005】の「光発電や原子力発電で宇宙空間において継続推進や方向転換が出来る。」ことは,出願当初の明細書,特許請求の範囲,又は図面に何ら記載されていない。
(2)請求項1に記載されたものにおける「推進力」を得るための構造について
その構造は,本願の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの「電磁石の磁力に反発する重石とその重石を自由体とし直線往復運動させるガイドレールと重石に反発する磁力を生成する電磁石からなり電磁石を外側になる様にした形で回転させ,遠心力により電磁石側に押し出される重石を円運動の定位置で電磁石に瞬間的な強電流を流して生成した磁力の反発力で押し返しその反作用を推進力として取り出す電磁力推進器。」である。
(3)検討
ア.本願明細書の段落【0005】によれば,請求項1に記載された「電磁力推進器」は,「人や物品を運搬できる推進力を発生するものであ」ると説明されている。
そして,本願明細書の段落【0008】,【0009】や段落【0022】の記載からみて,円運動の定位置を特定して,定位置が来る度に推進力を発生させようとするものであるから,その推進方向に継続して推進力を得るものとして説明されている。
また,本願明細書の段落【0005】の記載では,電気モーターは,外部動力としているが,段落【0008】の記載からみて回転軸と外部電動モーター10は接続関係にあるといえ,段落【0010】の記載から,「回転軸,ガイドレール3,電磁石4が構造的(物理的)に接合されて」おり,重石2は固定されてはいないがガイドレール3に沿って直線往復運動する構成が前提とされている。
そうすると,請求項1に記載されたものにより人や物品を運搬するのであれば,図1の外部電動モータ10を含む装置全体又は図9の外部動力18を含む装置全体が人や物品を載せて当該装置により発生される推進力でもって移動する移動装置(例,搬送台車)の上に載置されることとなる。
その場合,外部電動モーター10や外部動力18により回転軸を回転させ保護カバー内の電磁石4に誘導電流を発生させたとしても,前記装置全体が載置された前記移動装置内での力のやり取りはあっても,前記装置全体が載置された移動装置内で系は閉じており,当該移動装置の周囲の媒介物等との間に,連続的な反作用や他の外力が作用しないだけでなく,連続的でない反作用や他の外力も作用しないから,前記装置全体が載置された移動装置を動かす推進力は働くことはない。
イ.本願の図1,図7,図9の説明を参照すると,推進力生成装置のガイドレール3は回転軸に結合され,電磁石4の底面は保護カバー9に接合されて一体化されている。
そして,段落【0012】の説明及び図5の図示内容では,回転数を上げることにより遠心力を強くして,重石2が円運動の中心方向に押し戻されないようにして重石2が等速円運動の軌跡上に位置したまま,dの位置の電磁石4に増幅電流を流すと,d位置の電磁石4と該電磁石4と接続されたのガイドレール3上にある重石2間に反発力が働いて,重石2の位置が不変であるからd位置の電磁石4が図5の下方に移動し,全体で推進力が働く旨の説明がなされている。
この点について検討する。
(ア)請求人が主張するような回転数が高く遠心力が強い状態においては,重石2が電磁石4の鍔部に押し付けられることとなる。この時,重石2にかかる遠心力により電磁石4の鍔部を外方に押す力(つまり,保護カバー9を外方に押す力)をF1とする。また,反対側(b位置)の重石2にも遠心力がかかり電磁石4の鍔を外方にF1で押しているから,上下方向にかかる力は釣り合っている。
(イ)ここでd位置の電磁石4に増幅電流が流れると,該位置の電磁石4と重石2間に反発力(磁力)が働くが,請求人の主張によれば,重石2の位置は変わらないのであるから,重石2は電磁石4の鍔に押し付けられたまま,重石2には内方に向けて反発力G1がかかるため,重石2が電磁石4の鍔を外方に押す力はF1-G1と減少するが,d位置の電磁石4にも外方に向けて反発力G1がかかることになる。
そうすると,d側の電磁石4が保護カバー9を外方に押す力は,G1+(F1-G1)=F1となり,反対側(b側)の電磁石4が保護カバー9を外方に押す力F1と釣り合ったままである。
実施例としては,図1や図7のように三連構成推進力生成部品となるが,その場合も上記(ア)(イ)と同様に力は釣り合ったままである。
したがって,仮に,請求人が主張する回転数を上げることにより遠心力を強くすることによって,重石2が円運動の中心方向に押し戻されないという前提が正しいとしても推進力は働くことはない。
ウ.動作原理が明らかでない場合において,実際に請求項1に記載されたものが動作したことの実証実験が重要であるが,そのように実際に動作した実施結果については本願明細書には何ら開示がない。
そして,請求項1に記載されたものの「電磁力推進器」が推進力を得る構造について,本願明細書の発明の詳細な説明を参照してもその動作原理が理解できず,また,動作原理が理解できないまま実施しようとしても,本願明細書の発明の詳細な説明には,それを動作させるのに十分な情報が開示されていない。
(4)請求人の主張について
ア.請求人は,令和元年5月10日付け意見書にて,「『外部との間で何ら力のやり取りをするものでない』との指摘ですが,先に記述した様に重石2は構造的(物理的)に接合しておらず,外部に相当する(別系)と考えており,タイヤと地面の関係を電磁石4(反発力)と重石2(遠心力)で構築するものです。」 旨主張するが,前述したように,「回転軸,ガイドレール3,電磁石4が構造的(物理的)に接合されて」おり,重石2は固定されてはいないがガイドレール3に沿って直線往復運動する構成が前提とされているから,重石2及び電磁石4はともに上記装置全体が載置された移動装置内のものであり,外部に相当する別系とは認められないから,請求人の上記主張は採用できない。
イ.請求人は,令和元年5月10日付け意見書にて,「電磁力の反発力は電磁石4と重石2をお互いに遠ざける様に働きます。『重石2には内方に反発力G1がかかり』や『d位置の電磁石4にも外方に反発力G1がかかる』等,別の力として考えることは誤りです。電磁力の反発力が打ち消されることはありません。エネルギー保存の法則により電磁力の反発力が推進力に置き換わるのです。」旨主張している。
しかしながら,電磁石4と重石2をお互いに遠ざけるように働く電磁石の反発力としては,「重石2に内方に向けてかかる反発力G1」と「d位置の電磁石4に外方に向けてかかる反発力G1」とが同時にかかるものであり,両方の力を考慮することに何ら誤りはないから,請求人の上記主張は採用できない。
(5)小括
したがって,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1に記載されたものを実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから,特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない。
2.発明該当性(特許法第29条第1項柱書)について
請求項1に記載されたものは,1.(3)ア.イ.で述べたように自然法則に反するものであるから,発明に該当しない。
したがって,この出願の請求項1に記載されたものは,下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。
第5 むすび
この出願は,発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず,また,この出願の請求項1に記載されたものは,特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない
そうすると,本願は,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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