特許拒絶査定不服審判
2022-017569
糖尿病バイオマーカ
- 審判番号
- 2022-017569
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-150183
- 請求日
- 2022年11月02日
- 審決日
- 2023年05月29日
- 公報発行日
- 2023年11月24日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ファイム ファーマ リミテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 三崎 仁
- 審判官 加々美 一恵
- 審判官 松本 隆彦
- 分類
- P18 .537-Z (G01N) / P18 .14 -Z (G01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-150183「糖尿病バイオマーカ」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 1月 7日出願公開、特開2021- 1899〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯の概要
本願は、2013年(平成25年)5月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年5月24日 米国(US))に国際出願した特願2015-514216号の一部を平成30年2月19日に新たな特許出願とした特願2018-27381号の一部を、令和2年9月7日に新たな特許出願としたものであって、本願の出願後の主な手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和2年10月 5日 手続補正書の提出
令和3年 9月 1日付け 拒絶理由通知
令和4年 3月 7日 意見書の提出
令和4年 6月22日付け 拒絶査定
令和4年11月 2日 審判請求書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~26に係る発明は、令和2年10月5日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~26に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
【本願発明】
被験者から抽出されたサンプルに対し、前記被験者の関節リウマチまたは多発性硬化症に対するセラピーの有効性を決定する方法であって、
CD4セントラルメモリー(CD45RO+CD62L+)T細胞サブポピュレーションを、蛍光ラベルでラベリングする段階と、
前記CD4セントラルメモリー(CD45RO+CD62L+)T細胞サブポピュレーションを、前記蛍光ラベルを用いて測定する段階と、
CD4T細胞ナイーブ(CD45RO-CD62L+)サブポピュレーションを、蛍光ラベルでラベリングする段階と、
前記CD4T細胞ナイーブ(CD45RO-CD62L+)サブポピュレーションを、前記蛍光ラベルを用いて測定する段階と、
前記セラピーの有効性を評価する段階と、
を備え、
前記セラピーの間における、前記CD4セントラルメモリーT細胞サブポピュレーションに対する前記CD4T細胞ナイーブサブポピュレーションの高い比または比の増大は、前記セラピーの有効性を示す、方法。
第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、この出願は、特許請求の範囲の請求項1の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、というものを含むものであり、おおむね、以下のとおり指摘している。
発明の詳細な説明には、1型糖尿病について具体的に開示されているものの、関節リウマチまたは多発性硬化症については何ら具体的に検討がなされていない。治療の有効性のバイオマーカーについては、実際に検討してみなければ把握し得ないことが出願時の技術常識である。そのため、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
また、自己免疫疾患として発症機構に共通点があるものの、1型糖尿病、関節リウマチ、および多発性硬化症は、それぞれ発症する組織、器官等も違えば、症状も異なっており、自己免疫疾患であることのみを理由に1型糖尿病についての記載を直ちに自己免疫疾患一般にまで拡張可能とすることはできない。そして、自己免疫疾患であること以外に、関節リウマチ、および多発性硬化症にまでも拡張可能とする根拠に関する記載は明細書中に見当たらない。
よって、請求項1に係る発明は、依然として、発明の詳細な説明に記載したものでない。
第4 当審の判断
1 本願発明に係る疾患
本願発明は、「被験者から抽出されたサンプルに対し、前記被験者の関節リウマチまたは多発性硬化症に対するセラピーの有効性を決定する方法」に係る発明であって、セラピーの有効性の決定に係る疾患は、関節リウマチまたは多発性硬化症である。
2 明細書の記載
本願の明細書には以下の記載がある。(下線は当審が付与した。)
【0002】
本発明は、概して自己免疫、糖尿病の分野に関し、より具体的には1型糖尿病および免疫マーカに関する。
【0003】
1型真性糖尿病(T1DM)の最もよく見られる形態は免疫介在性疾患であり、そこでは、自己免疫応答によってインスリン分泌β細胞が破壊される。・・・
(中略)
【0005】
しかしながら、このスクリーニングは、個々の患者に対しては限られた有用性しかない。抗体スクリーンは、T1DMの高められたリスクレベルを検出することができるが、リスクは一般的な個体群に基づいており、例えば次の数ヶ月内に疾患が発病するかどうか、または、各個人が次の5-10年間にわたって糖尿病にならないであろうかどうかについて、個々の患者に通知することができない。自己免疫性破壊の強度は患者によって変動する。従って、各個人に対してT1DMを発症する個人的リスクを通知し、疾患の発病の時間枠を示すことのできる診断方法に対する要求がある。
(中略)
【0007】
疾患の後臨床段階においてβ細胞機能を維持することを意図したセラピーに対し、T1DMの進行を測定するために刺激C-ペプチド濃度が用いられてきた(Palmer JP, et al., Diabetes 2004; 53:250-264)。しかしながらC-ペプチド濃度の使用は、長期間にわたって繰り返される侵襲的検査(いわゆる混合食負荷試験)を要する。従って、β細胞機能、故にC-ペプチド濃度を低減させる疾患の進行の評価を可能にさせるために、試験は長い間続く。
【0008】
従って、試験(予防試験および治療介入試験の両者)に対する主要評価項目としての役割を果たすより良いマーカ、並びに、T1DM自己免疫の進行性をより速く且つより信頼性高く示すことができ、従って前糖尿病および糖尿病状態を段階分けすることができるより良いマーカに対する要求がある。T1DMの治療に対するセラピーの有効性を測定することができる、および/または、合併症を検出することができるより良好な分析に対する要求もある。
【0009】
1型糖尿病における自己インスリン生成の減少に対する新たなマーカが、セントラルメモリー(CD45RO+CD62L+)T細胞サブポピュレーションに対するCD4ナイーブ(CD45RO-CD62L+)の比に、また、セントラルメモリー(CD45RO+CD62L+)T細胞サブポピュレーションレベルに見出された。糖尿病、前糖尿病、真性糖尿病への感染し易さ、または、被験者におけるそのような複数の疾病のうちの1または複数に対するセラピーの有効性を診断する方法は、患者から抽出されたサンプルの免疫蛍光分析によってCD4ナイーブ(CD45RO-CD62L+)T細胞のレベルを決定することと、患者から抽出されたサンプルの免疫蛍光分析によってCD4セントラルメモリー(CD45RO+CD62L+)T細胞のレベルを決定することと、CD4ナイーブT細胞のレベルおよびCD4セントラルメモリーT細胞のレベルを定量的に関連付けることとによって実施することができる。ここで、CD4セントラルメモリーT細胞に対するCD4ナイーブT細胞の低い比または比の減少、あるいは、CD4セントラルメモリーT細胞の高いレベルまたはレベルの増大は、自己免疫疾患、前自己免疫疾患、自己免疫への感染し易さ、またはそれらの複数の疾病のうちの1または複数に対する治療の有効性の無さを示す。前糖尿病の状況においては、T1DM特異的自己抗体の存在が、T1DM自己免疫自身の存在を示す。よって、本発明の1つの態様において本明細書に記載される方法は、糖尿病自己抗体が存在するかどうかを決定することと組合わせられる。
(中略)
【0012】
いくつかの実施形態は、真性糖尿病等、被験者における自己免疫疾患に対する治療介入の効果を監視する方法を提供する。これは、自己免疫疾患または疾病に対するセラピーを受ける被験者を選択する段階と、上記被験者からサンプルを抽出する段階と、上記サンプル中のCD4セントラルメモリー(CD45RO+CD62L+)T細胞サブポピュレーションを測定する段階および任意でCD4 T細胞ナイーブ(CD45RO-CD62L+)サブポピュレーションを測定する段階と、上記セラピーの有効性を評価する段階とを備える。ここで、セラピーの間における低いCD4セントラルメモリーT細胞レベルまたはその減少、あるいは、CD4セントラルメモリーT細胞サブポピュレーションに対するCD4 T細胞ナイーブの高い比または比の増大は、効果的なセラピーであることを示す。例えばセラピーの開始前に(またはセラピーの開始よりも後だが細胞ポピュレーションの変化の発現よりも前に)、および、継続するセラピーのおよそ3ヶ月および/または6ヶ月の時点で被験者からサンプルが抽出される。
(中略)
【0021】
1型真性糖尿病(T1DM)の最もよく見られる形態は免疫介在性疾患であり、そこでは、自己免疫応答によってインスリン分泌β細胞が破壊される。・・・
(中略)
【0026】
よって次の仮説が立つ。すなわち、アバタセプトは、ナイーブ細胞が活性化されることを妨げるということ。そして、CD4メモリーT細胞と比較してより高い濃度のCD4ナイーブT細胞の存在は、この化合物が前糖尿病被験者におけるT1DMの発病を遅延させるのに効果的であり、また、T1DM患者におけるインスリン生成の減少を遅延させるのに効果的であることを示すということである。アバタセプトは、CD4ナイーブからCD4セントラルメモリーT細胞への活性化プロセスを妨げるので、CD4セントラルメモリーT細胞レベルを減少させることにより、自己免疫に対するその効果を発揮する。このバイオマーカはまた、(糖尿病抗体と併せた)糖尿病または前糖尿病の進行性を診断するためのアバタセプト等の化合物が存在しない状態で使用することもでき、また、速い進行性の真性糖尿病への感染し易さを決定するために使用することもできる。このマーカは、自己免疫性破壊の強度および病原力、インスリン分泌β細胞の損失速度を監視することができる。
(中略)
【0029】
本明細書で使用される被験者という用語は、自己免疫障害を有するか、または有することが予期される人間またはその他の動物である。従って、いくつかの実施形態において、被験者は本明細書に提供されるような治療処置が必要であろう。好ましい被験者は哺乳動物である。被験者の例としては、これらに限定されるものではないが、ヒト、ウマ、サル、イヌ、ネコ、ネズミ、ラット、ウシ、ブタ、ヤギ、およびヒツジを含む。いくつかの実施形態において、被験者は概して糖尿病を有するまたは有すると予期されるヒト患者である。いくつかの実施形態において、被験者はここ最近200日、100日、または50日以内に糖尿病と診断されたヒト患者である。いくつかの実施形態において、被験者は1型真性糖尿病を有するヒト患者である。いくつかの実施形態において、被験者は前糖尿病のヒト患者である。いくつかの実施形態において、被験者は最近真性糖尿病と診断されたものの、残存ベータ細胞機能をまだ有しているヒト患者である。いくつかの実施形態において、被験者は1型糖尿病以外の自己免疫を有するヒト患者である。そのような自己免疫は、これらに限定されるものではないが、関節リウマチおよび多発性硬化症を含む。
(中略)
【0039】
実施例1 -試験
上記で参照した文献Lancet(参照によりその内容全体が本明細書に組み込まれる)に記載されるように、1型糖尿病と診断された複数の患者に対してアバタセプトを使用する第2相臨床試験が実施された。適格な患者達は、最近100日以内に1型糖尿病と診断され、少なくとも1つの糖尿病関連の自己抗体(マイクロアッセイされたインスリン抗体、グルタミン酸デカルボキシラーゼ-65[GAD-65]抗体、膵島細胞抗原-512[ICA-512]抗体、または膵島細胞自己抗体)を有し、0.2nmol/Lまたはそれより高い刺激C-ペプチド濃度を有する。
(中略)
【0043】
実施例2 -フローサイトメトリー
実施例1の臨床試験の被験者達からの複数の血液サンプルに対するフローサイトメトリー分析が、アバタセプトおよびプラシーボ治療群の両者に対して、0、3、6、12、および24ヶ月目に実行され、試験の終わりから6ヵ月後(30ヶ月目)に追加の分析が行われた。フローサイトメトリーは、細胞等の顕微粒子を流体の流れの中に浮遊させ、一度に1つの細胞をレーザおよび電子検出装置に通過させることによって、これらを計数および調査する通常の技術である。現在の機器は、通常、複数のレーザおよび蛍光検出器を有している。レーザおよび検出器の数を増加させることにより複数の抗体ラベリングが可能になり、また、それらの表現型マーカによって、目標とするポピュレーションをより正確に識別することができる。
(中略)
【0048】
表1は、3、6、12、および24ヶ月目に対する、CD4セントラルメモリーT細胞に対するCD4ナイーブT細胞の比に関する、logで与えられた基準値からの最小二乗平均変化、および、基準値からの標準偏差並びにp値を与える。基準値から30ヶ月目は、被験者がセラピーを止めており、30ヶ月目データとして与えられる。薬剤群およびプラシーボ群の間のp値は、同一の訪問時における複数の群間のものである。
【表1】
[図:0001403421000001.jpg]
3 判断
(1)まず、本願発明の解決しようとする課題は、上記2の【0002】~【0008】によれば、T1DM(1型真性糖尿病)の治療に対するセラピーの有効性を決定することであるところ、本願発明は、上記第2で記載したとおり、「被験者の関節リウマチまたは多発性硬化症に対するセラピーの有効性を決定する方法」であるから、本願発明の課題に対応しておらず、本願発明の課題を解決できると認識されるものではない。
(2)また、上記2によれば、本願の明細書の【0039】中の「実施例1 -試験 上記で参照した文献Lancet(参照によりその内容全体が本明細書に組み込まれる)に記載されるように、1型糖尿病と診断された複数の患者に対してアバタセプトを使用する第2相臨床試験が実施された。」という記載から、実施例1では1型糖尿病患者からサンプルを採取して各種実験が実施されたことが読み取れる。また、【0043】には実施例2について「実施例1の臨床試験の被験者達からの複数の血液サンプルに対するフローサイトメトリー分析が、アバタセプトおよびプラシーボ治療群の両者に対して、0、3、6、12、および24ヶ月目に実行され、試験の終わりから6ヵ月後(30ヶ月目)に追加の分析が行われた。」とあることからして、実施例2においても、実施例1と同様に1型糖尿病患者について実験が行われたことが読み取れる。
一方、本願の明細書には、関節リウマチや多発性硬化症の患者について、何らかの実験検討をした記載は見当たらない。
また、【0003】や【0021】には「1型真性糖尿病(T1DM)の最もよく見られる形態は免疫介在性疾患であり」との記載があり、1型真性糖尿病が免疫介在性疾患であることが読み取れる。【0009】には「CD4セントラルメモリーT細胞に対するCD4ナイーブT細胞の低い比または比の減少、あるいは、CD4セントラルメモリーT細胞の高いレベルまたはレベルの増大は、自己免疫疾患、前自己免疫疾患、自己免疫への感染し易さ、またはそれらの複数の疾病のうちの1または複数に対する治療の有効性の無さを示す。」とあり、【0012】には「いくつかの実施形態は、真性糖尿病等、被験者における自己免疫疾患に対する治療介入の効果を監視する方法を提供する。」とあり、【0026】には「アバタセプトは、CD4ナイーブからCD4セントラルメモリーT細胞への活性化プロセスを妨げるので、CD4セントラルメモリーT細胞レベルを減少させることにより、自己免疫に対するその効果を発揮する。」、「このマーカは、自己免疫性破壊の強度および病原力、インスリン分泌β細胞の損失速度を監視することができる。」とあるように、本願明細書には、CD4セントラルメモリーT細胞サブポピュレーションに対するCD4T細胞ナイーブの比が自己免疫疾患に関連することについての記載が存在する。【0029】には「本明細書で使用される被験者という用語は、自己免疫障害を有するか、または有することが予期される人間またはその他の動物である。」とあり、自己免疫障害を有する被験者を採用することについても記載が存在する。
しかしながら、これらの記載はいずれも一般的な記載にとどまり、実際に関節リウマチや多発性硬化症について患者のデータを提示したものではない。また、関節リウマチや多発性硬化症の発症や治療について、1型糖尿病との関連性を示すものでもなく、また、自己免疫疾患全体に該当するものであることをデータや作用機序に基づいて示すものでもない。実際、1型糖尿病と関節リウマチや多発性硬化症は、いずれも同じ自己免疫疾患に属するものであっても、それぞれ発症する組織、器官も違えば、症状も異なっており、それぞれに対する治療もまた異なることは、当業者にとって例示するまでもなく技術常識である。
とすると、「被験者から抽出されたサンプルに対し、前記被験者の1型糖尿病に対するセラピーの有効性を決定する方法」についてはともかく、「被験者から抽出されたサンプルに対し、前記被験者の関節リウマチまたは多発性硬化症に対するセラピーの有効性を決定する方法」に係る本願発明については、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されていないし、技術常識を勘案したとしても、本願発明が記載されているに等しいといった事情も見当たらない。
(3)以上のことから、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。
4 審判請求書での請求人の主張について
(1)請求人は、審判請求書で以下の旨主張をしている。
1型糖尿病、関節リウマチ、および多発性硬化症は、いずれも自己免疫疾患であることは、当業者にとって技術常識である。また、自己免疫の発症機構について、自己抗体が産生されることで、自己の組織を攻撃することが知られている。1型糖尿病と関節リウマチ、多発性硬化症では確かに発症する器官や症状に差異が見られるかも知れないが、これらの自己免疫疾患の発症における分子メカニズムは共通であることは当業者に広く知られている。例えば、細菌やウイルスなどの病原体が感染すると、ナイーブT細胞は増殖してエフェクターT細胞となり、病原体を排除する。感染がおさまると、大部分のエフェクターT細胞は死滅するものの、一部はセントラルメモリーT細胞として生き残ることは、どの器官であっても共通である。したがって、本願明細書にあたった当業者であれば、1型糖尿病に対して有効な本願発明の方法は、同じ自己免疫疾患である関節リウマチおよび多発性硬化症に対しても有効であると当然に理解する。
(2)請求人の主張に対する合議体の判断
上記3で述べたとおり、1型糖尿病と関節リウマチや多発性硬化症は、いずれも同じ自己免疫疾患に属するものであっても、それぞれ発症する組織、器官も違えば、症状も異なっており、それぞれに対する治療もまた異なるものである。請求人は「これらの自己免疫疾患の発症における分子メカニズムは共通である」旨の主張をしているが、当該「共通」の「分子メカニズム」が具体的にどういうものであるかについては主張がないし、例示されている「細菌やウイルスなどの病原体が感染すると、ナイーブT細胞は増殖してエフェクターT細胞となり、病原体を排除する。感染がおさまると、大部分のエフェクターT細胞は死滅するものの、一部はセントラルメモリーT細胞として生き残ることは、どの器官であっても共通である。」は、自己免疫疾患だけでなく、免疫機構一般に該当するものである。仮に、請求人の主張に沿った場合、関節リウマチまたは多発性硬化症だけでなく、ごく一般的な細菌、ウイルス感染についてのセラピーの有効性を決定する方法についてまでもが、本願明細書に記載されていることとなってしまい、到底採用することはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、少なくとも特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから、その他の拒絶の理由及び他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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