特許拒絶査定不服審判
2022-016918
内部プリントヘッド流動特徴
- 審判番号
- 2022-016918
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-515128
- 請求日
- 2022年10月24日
- 審決日
- 2024年06月25日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】フジフィルム ディマティックス, インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】柳田 征史
- 審判長/審判官
- 審判長 殿川 雅也
- 審判官 藤本 義仁
- 審判官 門 良成
- 分類
- P18 .121-WZ (B41J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-515128「内部プリントヘッド流動特徴」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 3月26日国際公開、WO2020/061508、令和 4年 1月 6日国内公表、特表2022-501219〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年9月20日(パリ条約による優先権主張2018年9月21日(以下「優先日」という。)、米国)を国際出願日とする出願であって、令和3年11月18日に手続補正書が提出され、同年12月16日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、令和4年5月20日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、その後、当審において、令和6年2月21日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)を通知したところ、これに対し、同年5月22日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和6年5月22日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の【請求項1】に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
装置において、
基板の第一面上に形成されたノズル、
前記基板内に画成され、前記基板の一面に沿って延び、前記ノズルに流体的に接続された流体通路であって、前記装置の使用中に、該流体通路中の流体が前記ノズルに供給され、
該流体通路の長さの少なくとも一部に沿って非線形であり、該流体通路の長さに沿って変動する断面を有し、
該流体通路の底部近くの幅より小さい、前記基板の第二面近くの幅を有し、断面が、該流体通路の上部から底部まで延在する縦軸に関して対称である、流体通路、および
前記基板内に画成され、前記ノズルに流体的に接続された再循環流れ通路であって、前記装置の使用中に、該ノズルから吐出されない流体は、該再循環流れ通路を通じて再循環される、再循環流れ通路、
を備える装置。」
第3 当審拒絶理由の概要
(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
<引用文献等一覧>
1.特開2012-11629号公報
2.特開2006-88493号公報
第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用例1
当審拒絶理由で引用された、本願の優先日前である平成24年1月19日に頒布された刊行物である特開2012-11629号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下、同様。)
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は液滴吐出ヘッドに係り、特に液体を循環させて圧力室に供給する液滴吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置で使用される液滴吐出ヘッドは、インク中の溶媒が揮発しやすいインク(たとえば、水を溶媒として用いたインク等)や、インク中に分散された不溶性成分や高分子化合物を多く含有するインク(たとえば、顔料や樹脂微粒子分散物を用いたインク等)を使用すると、印刷待機中だけでなく印刷中もノズルからインク中の溶媒が揮発し、ノズル近傍のインク粘度が上昇するという現象が起きる。ノズル近傍のインク粘度が高くなると、ノズル内部での流体抵抗が大きくなり、吐出するインク滴の飛翔体積や飛翔方向にバラツキが生じたり、不吐出が生じたりするなどの吐出不良が発生する。この結果、印刷媒体上に打滴されるドットの位置ズレや大きさの誤差、更にはドットの欠けを生じさせることとなる。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、逆止弁は、可動構造を備えているため、ヘッドの耐久性が低下するという欠点がある。また、メンテナンス時に逆向きに循環動作を行うことができなくなるという欠点がある。また、ノズルを高密度に配置したヘッドでは、流路構造が高精密になるため、逆止弁を採用することが技術的に困難という欠点もある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、平常時の循環では逆流を防ぎつつ、メンテナンス時などは逆方向に流れを発生させることができる液滴吐出ヘッドを提供することを目的とする。」
(ウ)「【0041】
また、本実施の形態の液滴吐出ヘッドは10は、各ノズル12の圧力室14に液体を循環させて供給する循環型の液滴吐出ヘッド10であり、液体を圧力室14に供給する供給流路20と、液体を圧力室14から回収する回収流路30を備えている。
【0042】
供給流路20は、供給流路本流22と、その供給流路本流22から分岐して形成される複数の供給流路支流(共通供給流路)24と、供給流路支流24から更に分岐して形成される複数の個別供給流路26とで構成される。
…
【0046】
回収流路30は、回収流路本流32と、その回収流路本流32から分岐して形成される複数の回収流路支流(共通回収流路)34と、回収流路支流34から更に分岐して形成される複数の個別回収流路36とで構成される。」
(エ)「【0050】
図2は、液滴吐出ヘッドの内部の概略構造を示す縦断面図である。また、図3、図4は、それぞれ図2の3-3断面図、4-4断面図である。
【0051】
同図に示すように、液滴吐出ヘッド10は、主として、ノズルプレート40と、圧力室プレート42と、振動板44と、圧力室上部プレート46とで構成される。
【0052】
ノズルプレート40は、所定の厚さを有する矩形状の基板で構成され、最下層に配置される。このノズルプレート40には、ノズル12が形成される。本例では、テーパ状のノズルが形成されているが、ノズルの形状は、これに限定されるものではない。」
(オ)「【0109】
図8は、個別供給流路と個別回収流路の他の実施の形態(3)を示す断面図である。
【0110】
同図に示すように、本例において、個別供給流路26は、その両サイドの側壁面26Bが傾斜して形成されることにより、断面積が漸次減少するように形成されている。
【0111】
また、同図(b)に示すように、個別回収流路36も、その両サイドの側壁面36Bが傾斜して形成されることにより、断面積が漸次減少するように形成されている。
【0112】
このように、断面積を減少させるために傾斜(階段状を含む)させる壁面は、底部又は天面部に限らず、側壁面部を傾斜させるようにしてもよい。また、傾斜させる壁面は、必ずしも一つの面である必要はなく、4面全てを傾斜させるようにしてもよい。
【0113】
なお、加工容易性を考慮すると、流路が基板(本例の場合、圧力室プレート42)の上面に溝として形成される場合(本例の個別供給流路26が該当)は、その底部又は側壁面部を傾斜させることが好ましい。一方、流路が基板の下面に溝として形成される場合(本例の個別回収流路36が該当)は、その天面部又は側壁面部を傾斜させることが好ましい。この場合において、基板がシリコンの場合は、エッチング等で容易に形成することができる。また、基板がSUS材料の場合は、積層数を増やすことで容易に形成することができる。なお、加工は、この他レーザ等で後から行うこともできる。
【0114】
また、個別供給流路26及び個別回収流路36の断面形状は、必ずしも四角形状である必要はなく、多角形形状の他、円形状に形成することもできる。
【0115】
また、上記実施の形態では、個別供給流路26を圧力室14の天面側に連通し、個別回収流路36を圧力室14の底面側に連通する構成としているが、双方ともに底面側に連通する構成とすることもできる。」
(カ)「【0116】
図9は、個別供給流路と個別回収流路の他の実施の形態(4)を示す断面図である。
【0117】
同図に示すように、本例において、個別供給流路26は、湾曲して形成され、その底部を傾斜させることにより、断面積が漸次減少するように形成されている。
【0118】
また、同図(b)に示すように、個別回収流路36も、湾曲して形成され、その底部を傾斜させることにより、断面積が漸次減少するように形成されている。
【0119】
このように、個別供給流路26と個別回収流路36は、必ずしも直線的に形成する必要はなく、湾曲して形成させることもできる。このように、個別供給流路26と個別回収流路36を湾曲させることにより、幅方向のコンパクト化を図りつつ、流路長を所望の長さに確保することができる。
【0120】
なお、本例では流路の底部を傾斜させることにより、断面積が漸次減少するようにしているが、両側壁面の間隔を漸次減少させて、断面積が漸次減少するようにしてもよい。」
(キ)「【0123】
個別供給流路26は、垂直部26Vと水平部26HとからなるL字状に形成され、水平部26Hの断面積が漸次減少するように形成されている(水平部26Hの天面部26HAを傾斜させることにより、水平部26Hの断面積が漸次減少するように形成している。)。
【0124】
個別回収流路36も垂直部36Vと水平部36HとからなるL字状に形成され、水平部36Hの断面積が漸次減少するように形成されている(水平部36Hの天面部36HAを傾斜させることにより、水平部36Hの断面積が漸次減少するように形成している。)。
…
【0126】
また、流路の一部の断面積を減少させる場合は、本例のように、水平部の断面積を漸次減少させるようにしてもよいし、また、図11に示すように、垂直部の断面積を漸次減少させるようにしてもよい。また、全体として、断面積が漸次減少するように形成してもよい。
【0127】
以上このように、個別供給流路26と個別回収流路36の断面積を変化させる態様は種々の形態を採用することができる。
【0128】
なお、十分な効果を得るため、個別供給流路26は、その入口部(供給流路支流24との連通部)の断面積Sinと、出口部(圧力室14との連通部)の断面積Soutとの比(Sin/Sout)が、110%以上になるように設定することが好ましい。個別回収流路36についても同様に、その入口部(圧力室14との連通部)の断面積Rinと、出口部(回収流路支流34との連通部)の断面積Routとの比(Rin/Rout)が、110%以上になるように設定することが好ましい。」
(ク)「【図8】
[図:0001416953000001.jpg]
」
(ケ)「【図9】
[図:0001416953000002.jpg]
」
(コ)「【図11】
[図:0001416953000003.jpg]
」
(サ)上記(カ)及至(コ)より、個別供給流路26は、圧力室プレート42に垂直部26Vと水平部26HとからなるL字状に形成され、水平部26Hは、湾曲して形成されるとともに、圧力室14に向かって断面積が漸次減少するように形成され、圧力室上部プレート46の供給流路支流24から垂直部26Vの両側壁面の間隔を漸次減少させて、断面積が漸次減少するように形成され、圧力室14に接続されているものが記載されているものと認められる。
(シ)上記(カ)及び(キ)より、個別回収流路36は、圧力室プレート42に垂直部36Vと水平部36HとからなるL字状に形成され、水平部36Hは、湾曲して形成されるとともに、圧力室14に向かって断面積が漸次減少するように形成され、垂直部36Vの両側壁面の間隔を漸次減少させて、断面積が漸次減少するように形成され、圧力室上部プレート46の回収流路支流34に接続されているものが記載されているものと認められる。
(ス)上記(コ)より、液滴吐出ヘッド10は、下方から、ノズルプレート40、圧力室プレート42、圧力室上部プレート46が積層され、水平部26H及び水平部36Hはノズルプレート40に沿って延びて形成されているものであることが看取できる。
上記(ア)乃至(コ)の記載事項及び上記(サ)乃至(ス)の認定事項から、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「液滴吐出ヘッド10を備えたインクジェット記録装置であって、
液滴吐出ヘッド10は、下方から、ノズルプレート40、圧力室プレート42、圧力室上部プレート46が積層され、各ノズル12の圧力室14に液体を循環させて供給する循環型の液滴吐出ヘッド10であり、
ノズル12は、所定の厚さを有する矩形状の基板で構成されたノズルプレート40に形成され、
液体を圧力室14に供給する供給流路20と、液体を圧力室14から回収する回収流路30を備え、
供給流路20は、分岐して形成される複数の供給流路支流24と、更に分岐して形成される複数の個別供給流路26を備え、
回収流路30は、分岐して形成される複数の回収流路支流34と、更に分岐して形成される複数の個別回収流路36を備え、
個別供給流路26は、圧力室プレート42に垂直部26Vと水平部26HとからなるL字状に形成され、水平部26Hは、湾曲して形成されるとともに、圧力室14に向かって断面積が漸次減少し、ノズルプレート40に沿って延びて形成され、圧力室上部プレート46の供給流路支流24から垂直部26Vの両側壁面の間隔を漸次減少させて、断面積が漸次減少するように形成され、圧力室14に接続され、
個別回収流路36は、圧力室プレート42に垂直部36Vと水平部36HとからなるL字状に形成され、水平部36Hは、湾曲して形成されるとともに、圧力室14に向かって断面積が漸次減少し、ノズルプレート40に沿って延びて形成され、垂直部36Vの両側壁面の間隔を漸次減少させて、断面積が漸次減少するように形成され、圧力室上部プレート46の回収流路支流34に接続されている、インクジェット記録装置。」
2 引用例2
当審拒絶理由で引用された、本願の優先日前である平成18年4月6日に頒布された刊行物である特開2006-88493号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録ヘッド及びインクジェット記録装置に係り、詳細には、インクを循環するための循環路を通して供給されるインクを吐出し印字を行うインクジェット記録ヘッド及びそのインクジェット記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置に関する。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したフルラインタイプの記録ヘッドでは、ノズル数の増加に伴い、ノズルからインク滴を吐出させるためにインクを加圧する圧電素子やインクを加熱する発熱素子等の駆動源の数も増加するため、印字を行う上で必要となるインク吐出エネルギーが増加する。そのため、インク吐出効率を向上させ、より少ないエネルギーでインク滴を吐出できるようにすることが求められる。また、ノズル数が多いため、記録ヘッドを高速駆動させて高速印字を行うためには、インク吐出後のノズルにインクを迅速に再充填して駆動源の駆動周波数を高められるようにすることが求められる。
【0006】
しかし、上述した特許文献1の技術では、循環路の流路断面積が流路全長に亘ってほぼ同じにされており、インクを増粘させて吐出エネルギーを発生させる電極の近傍等でも、特にインク吐出効率を考慮した構造にはなっていない。また、使用可能なインクが電気粘性流体に限られるため、汎用性に乏しい。
【0007】
特許文献2の技術の場合、ノズル及び加圧室は共通流路から分岐しており、さらに、アクチュエータ(振動板)からインクに伝達される吐出エネルギーの伝達効率を高めるために、加圧室と共通流路を連通させる供給路を狭めているが、これでは流路構造が複雑化してインク中に発生した気泡の排出性が悪化する。また、インク供給源から各共通流路へインクを充填するときのみ、循環路から分岐した吸引路にポンプを接続してインクを吸引し各共通流路及び循環路にインクを行き渡らせるようにしているため、例えばインク吐出時にインクを循環路で循環させるようなことはできない。そして、インク吐出後のノズルでは、インクの再充填がメニスカスの表面張力により行われるため、インクの再充填速度が遅くなり、駆動周波数の向上による高速印字は望めない。さらに、インクに吐出エネルギーを印加するアクチュエータは、加圧室を形成する上面板に設けられてノズルよりもインクの流動方向上流側に配置されているため、インク吐出時にインクを加圧するよう膨張したアクチュエータが元の形状に収縮するときには、加圧室ではインクが減圧され、インク吐出後のノズルへのインク再充填に更に時間か掛かる。
【0008】
また、特許文献3の技術では、パージ動作時にはインク流路からパージチャネルへとインクが流動されるが、ここでもインク吐出時にはインクを循環させておらず、インク吐出後のノズルにおけるインクの再充填はメニスカスの表面張力により行われるため、駆動周波数の向上による高速印字は望めない。さらにこの場合も、インク吐出エネルギーを発生する圧電素子がノズルよりもインクの流動方向上流側に配置されているため、インク吐出後は、膨張した圧電素子が元の形状に収縮することで圧電素子近傍のインクが減圧され、圧電素子よりも下流側に位置するノズル側へのインクの流動速度が抑えられて、再充填に更に時間か掛かってしまう。
【0009】
本発明は上記事実を考慮して、インク吐出効率を向上させてインク滴を吐出するための消費エネルギーを抑えることができるインクジェット記録ヘッド及びインクジェット記録装置を提供することを課題とする。また、インク吐出での駆動速度を向上させて印字速度を高めることができるインクジェット記録ヘッド及びインクジェット記録装置を提供することを課題とする。」
(ウ)「【0034】
このノズル32は、図2に示されるように、圧電素子30よりも共通給液流路20側(インクの流動方向での上流側)に配置されている。また、個別流路26には、圧電素子30よりも共通排液流路22側(インクの流動方向での下流側)に絞り部34が設けられている。この絞り部34は、インクの流動方向における上流側が、個別流路26の流路断面積(最大断面積)から徐々に縮小されて最小断面積に至るテーパー状に形成されており、その最小断面積がノズル32の断面積よりも大きくされている。」
(エ)「
[図:0001416953000004.jpg]
」
(オ)「
[図:0001416953000005.jpg]
」
(カ)上記(ウ)乃至(オ)より、ノズルが形成された基板には、共通給液流路20、共通排液流路22、及び個別流路26が形成されていると認められる。
上記(ア)乃至(オ)の記載事項及び上記(カ)の認定事項から、引用例2には、次の技術事項(以下「引用例2記載の技術事項」という。)が記載されているものと認められる。
「ノズルが形成された基板に、共通給液流路20、共通排液流路22、及び個別流路26が形成されているインクジェット記録ヘッド。」
第5 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
1 引用発明1の「インクジェット記録装置」、「『基板で構成されたノズルプレート40』及び『圧力室プレート42』」、「ノズル12」、及び「『供給流路20』及び『回収流路30』」は、それぞれ、本願発明の「装置」、「基板」、「ノズル」、及び「流体通路」に相当する。そして、引用発明1の「ノズル12」は、ノズルプレート40、すなわち、ノズルプレート40の面上に形成されているといえるから、本願発明の「ノズル」と引用発明1の「ノズル12」とは、基板の第一面上に形成されたものとの概念で一致する。
2 引用発明1の「供給流路20」は、液体を圧力室14に供給し、圧力室14にはノズル12が設けられているから、本願発明の「流体通路」と引用発明1の「供給流路20」とは、「ノズルに流体的に接続され」、「装置の使用中に」、「流体」を「ノズルに供給」するものとの概念で一致する。
3 引用発明1の「『個別供給流路26』及び『個別回収流路36』」は、垂直部と水平部とからなるL字状に形成され、水平部は、湾曲して形成されるとともに、圧力室14に向かって断面積が漸次減少し、ノズルプレート40に沿って延びて形成されているから、本願発明の「流体通路」と引用発明1の「『個別供給流路26』及び『個別回収流路36』」とは、「長さの少なくとも一部に沿って非線形であり」、「長さに沿って変動する断面を有」し、「基板の一面に沿って延び」るものとの概念で一致する。
4 引用発明1の「個別回収流路36」は、圧力室プレート42に形成されているとともに、垂直部の断面積が両側壁面の間隔を漸次減少させて、断面積が漸次減少して形成され、圧力室上部プレート46の回収流路支流34に接続されているところ、垂直部の幅は、圧力室プレート42の下面近傍より上面近傍の方が小さいといえ、圧力室プレート42は、ノズルプレート40上に積層されているから、本願発明の「流体通路」と引用発明1の「個別回収流路36」とは、「底部近くの幅より小さい、基板の第二面近くの幅を有」するものとの概念で一致する。
5 引用発明1の「循環型の液滴吐出ヘッド10」は、液体を圧力室14に供給する供給流路20と、液体を圧力室14から回収する回収流路30を備え、各ノズル12の圧力室14に液体を循環させて供給するものであるから、本願発明の「再循環流れ通路」と引用発明1の「『供給流路20』及び『回収流路30』」とは、「ノズルに流体的に接続され」、「装置の使用中に、該ノズルから吐出されない流体」を「再循環」させるものとの概念で一致する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
【一致点】
「装置において、
基板の第一面上に形成されたノズル、
前記基板の一面に沿って延び、前記ノズルに流体的に接続された流体通路であって、前記装置の使用中に、該流体通路中の流体が前記ノズルに供給され、
該流体通路の長さの少なくとも一部に沿って非線形であり、該流体通路の長さに沿って変動する断面を有し、
該流体通路の底部近くの幅より小さい、前記基板の第二面近くの幅を有する、流体通路、および
前記ノズルに流体的に接続された再循環流れ通路であって、前記装置の使用中に、該ノズルから吐出されない流体は、該再循環流れ通路を通じて再循環される、再循環流れ通路、
を備える装置。」
で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
本願発明の「流体通路」及び「再循環流れ通路」が、ノズルが形成された「基板内に画成されている」のに対し、引用発明1の「『供給流路20』及び『回収流路30』」は圧力室プレート42及び圧力室上部プレート46に形成されたものである点。
[相違点2]
本願発明の「流体通路」は、「断面が、流体通路の上部から底部まで延在する縦軸に関して対称である」のに対し、引用発明1の「『供給流路20』の『垂直部26V』」及び「『回収流路30』の『垂直部36V』」は両側壁面の間隔を漸次減少させて、断面積が漸次減少するように形成されているものの、上部から底部まで延在する縦軸に関して対称であるとはいえない点。
第6 判断
上記各相違点について、以下、検討する。
1 [相違点1]について
引用例2記載の技術事項の「共通給液流路20、共通排液流路22、及び個別流路26」は「ノズルが形成された基板」に形成されているから、上記相違点1に係る構成は、引用例2記載の技術事項に示されている。
ここで、引用発明1も引用例2記載の技術事項も、インクジェット記録装置の技術分野に属し、インクの循環を円滑にし、インク吐出効率を向上させるという自明の課題を備える点で共通するから、引用発明1に引用例2記載の技術事項を適用する動機付けがあるといえる。
そして、引用発明1のノズルプレート40、圧力室プレート42及び圧力室上部プレート46を、引用例2記載の技術事項のとおり、単一基板とし、以て、上記相違点1の構成とすることは、当業者が容易になし得るものである。
2 [相違点2]について
上記引用例1の記載事項である第4 1(キ)【0126】からすると、垂直部26V及び垂直部36Vは断面積が漸次減少していればよいから、垂直部26V及び垂直部36Vの上部から底部まで断面積を漸次減少しつつ、延在する縦軸に関して対称とし、以て上記相違点2の構成とすることは、当業者が適宜なし得る程度の設計的事項である
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そして、本願発明の効果も、引用発明1及び引用例2記載の技術事項から、当業者が予測し得る程度のものといえる。
第7 請求人の主張について
1 請求人は、令和6年5月22日に提出した意見書において、概略、以下のとおり主張する。
「請求項1、5、11及び12に係る本願発明は、基板(300)内に画成され、基板(300)の一面に沿って延び、ノズル(114,342)に流体的に接続された流体通路(346)という特徴的構成により、厚さの大きい基板を用いることなく、流体通路内を流れる流体全体の流体抵抗を減少させるという顕著な効果を奏します。 これに対し、引用例1及び2のいずれにも、この特徴的構成は開示も示唆もされておりません。 まず、引用例1の明細書の段落0123に「個別供給流路26は、垂直部26Vと水平部26HとからなるL字状に形成され、水平部26Hの断面積が漸次減少するように形成されている」と記載され、また、同段落0059に「このように、断面積が供給流路支流24から圧力室14に向かって漸次減少するように形成することにより、個別供給流路26は、その流路抵抗が供給流路支流24から圧力室14に向かって増大するように形成され」と記載されているので、引用例1に記載された発明において、基板の厚さが大きくなるばかりでなく、流体抵抗が高くなってしまいます。 また、引用例2において、「基板内に画成され、基板の一面に沿って延び、ノズルに流体的に接続された流体通路」について記載されておりません。 したがって、引用例1及び2に記載された発明をいかに組み合わせても請求項1、5、11及び12に係る本願発明を得ることはできません。」
2 本願発明の「流体通路」は、「前記基板内に画成され、前記基板の一面に沿って延び、前記ノズルに流体的に接続され」、「装置の使用中に、流体が前記ノズルに供給され」、「長さの少なくとも一部に沿って非線形であり」、「長さに沿って変動する断面を有し」、「底部近くの幅より小さい、前記基板の第二面近くの幅を有し」、「断面が、上部から底部まで延在する縦軸に関して対称である」としか特定されていない。
3 そして、本願発明の「流体通路」の高さが一定であるとの特定がないところ、前記2で挙げる特定事項だけで「流体抵抗を減少させるという顕著な効果」が生じるメカニズムが理解できない。
4 そうすると、上記1の請求人の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって、採用することができないものといわざるを得ない。
5 他方、上記第5のとおり、引用発明1の「個別回収流路36」は本願発明の「流体通路」に相当するから、本願発明の「流体通路」が、「流体抵抗を減少させるという顕著な効果」を生じるのであれば、同じ構造を備える引用発明1の「個別回収流路36」も「流体抵抗を減少させるという顕著な効果」を生じるはずであるから、上記1の主張は採用できない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明1及び引用例2記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-016918