2022-016888
脳および脊髄に局所冷却を提供するシステム
- 審判番号
- 2022-016888
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-126183外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年10月21日
- 審決日
- 2024年11月07日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ミネトロニクス, インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】恩田 誠
- 【請求人代理人】恩田 博宣
- 【請求人代理人】本田 淳
- 分類
- P18 .121-WZ (A61F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 13項目
第1 手続の経緯
折りたたみ中(クリックで表示)
本願は、2016年(平成28年)10月 6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年10月 6日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2018-517538号の一部を令和 2年 7月27日に新たな特許出願としたものであって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
同年 6月17日付け:拒絶査定
同年 6月17日 :意見書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~12に係る発明は、令和 5年11月24日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】処置部位の局所冷却を提供するためのシステムであって、前記システムは、CSF(脳脊髄液)含有空間を含む前記処置部位にアクセスするように構成されたカテーテルと、前記カテーテルに結合され、前記処置部位と流体連通するポートを含む処置ユニットと、続きを表示(全13行)前記カテーテル上に位置した複数の温度センサーと、を備え、前記処置ユニットは、前記処置部位と前記処置ユニットとの間で前記CSFの流れを誘発するポンプを備え、前記CSF含有空間から受けた所定量のCSFを冷却するように構成された温度制御ユニットを含み、かつ、前記処置ユニットは、前記カテーテル上に位置した複数の温度センサーから、一定期間にわたって脳室から予め定められた距離において脳実質温度を測定し、測定された脳実質温度に基づいて、前記温度制御ユニットによるCSFの温度制御の速度を温度制御の目標速度と比較し、前記温度制御の速度が前記温度制御の目標速度と異なる場合には、温度制御の速度を変更するように構成される、システム。」
第3 当審の拒絶理由
令和 6年 3月 7日付けで当審が通知した拒絶理由は、本願発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
第4 引用文献の記載事項及び引用発明
折りたたみ中(クリックで表示)
1 引用文献1
上記引用文献1には、以下の事項が記載されている。
ア「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、主として脳神経外科手術および術後の集中治療で使用する脳室外誘導管に関し、より具体的には(1)脳液の外誘導(ドレナージ)機能、(2)脳室内圧の測定機能、(3)脳室内、皮質下および皮質における深部脳波の測定機能、(4)脳室内、皮質下および皮質における脳温の測定機能を有する多目的脳室外誘導管(ドレナージチューブ)に係わる。」
イ「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、脳室ドレナージを設置しながら手術および/または集中治療する患者等重症患者の集中治療においては、臨床的に脳を直接的にモニターしながら、例えば全身麻酔中の変化、重症脳疾患患者治療中の変化、低体温療法中の変化あるいは蘇生後脳症の病態解明に関する情報をリアルタイムに得て、脳に最適な環境をつくり、最適治療を行うことが重要である。
【0004】そのためには集中治療に必要なデータ即ち脳圧、深部脳波、脳の温度、髄液中の成分などの変化をモニターする必要がある。特に、僅かな脳温の差が虚血による神経細胞障害の程度に大きく影響するとすれば、虚血に弱いとされている海馬等を含む脳深部温を至適に調節するためには脳温測定は不可欠と考えられる。」
ウ「【0007】
【発明の実施の形態】本発明は、上記したように脳波電極と温度センサーを備えた外誘導管であるから、まず脳室外誘導を必要とする水痘症、脳亢進状態等の病態の患者の頭部に1箇所穿頭術を施す。通常は右前頭部に穿頭を設ける。この穿頭部分の硬膜を切開し、通常は右側脳室に脳室穿刺針により脳室穿刺を施行する。この脳室穿刺針を抜去し、穿刺によりつけられた道筋に従って本発明に係わる多目的脳室外誘導管を挿入する。
【0008】外誘導管の先端より6.5cmの位置に標線が設けられており、この標線を脳表の位置に一致させると管の先端は脳表から6.5cmの深さに位置することになる。この外誘導管は、頭皮に糸で縫合固定される。これにより、外誘導管先端から0.5cmの位置にある髄液導入開口は側脳室からモンロー孔に位置し、外誘導管後端は排液のためにY字コネクタに接続して脳室内の髄液を外誘導し、あるいは三方弁を介して脳室内圧を測定することができる。
【0009】また、先端から1.5cmの位置には、脳室用の脳波電極および温度センサーが配設される。更に、脳表から0.5cmおよび2.0cmの位置には皮質(灰白質)および皮質下(白質)用の脳波電極および温度センサーが設けられる。
【0010】脳室内用、皮質下用、皮質用の各脳波電極および温度センサーから外部に接続されるリード線は、外誘導管の内管と外管との隙間に設置される。これらリード線は外誘導管とともに頭蓋外に出て、外部モニターに接続され、深部脳波および脳の温度のモニターリングができる。」
エ「【0012】内管12は後端13においてY字型コネクター24の管継手26に接続され、コネクター24の側管28に設けた三方弁30を切り替えて髄液ドレナージ32または頭蓋内圧測定34を行う。また髄液ドレナージ32を脊髄に戻す閉回路(図示しない)を設けて回路の中間が精密に温度制御された恒温槽内(図示しない)を通過するようにして、後述する脳温測定との協働で虚血性脳血管障害患者の治療における脳温をコントロールし、軽度低体温法による脳保護を行うこともできる。
【0013】図2は本発明に係わる多目的脳室外誘導管10の脳内挿入部分の拡大図示で、外管18の外壁36には先端部14から6.5cmの位置に脳表38の相当位置を示す標線40が刻設され、サーミスター温度センサー42と脳波電極44の計測ユニット46a,46b,46cが標線40から先端部14の方向に0.5cmの距離に位置する第1位置48a、2.0cmの距離に位置する第2位置48bおよび5.0cmの距離に位置する第3位置48cの各位置に埋設される。」
オ「
[図:0001420642000001.jpg]
」
2 引用発明
上記ア~オを総合すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「集中治療で使用する、脳液の外誘導機能と、皮質下および皮質における脳温の測定機能を有する多目的脳室外誘導管であって、温度センサーを備えた多目的脳室外誘導管を脳内に挿入して、その先端を脳表から6.5cmの深さに位置させることにより、多目的脳室外誘導管先端から0.5cmの位置にある髄液導入開口を側脳室からモンロー孔に位置させ、脳表から0.5cmの第1位置48aおよび2.0cmの第2位置48b位置に皮質(灰白質)および皮質下(白質)用の温度センサーが設けられ、脳の温度のモニターリングができる、多目的脳室外誘導管を有するとともに、多目的脳室外誘導管を設置しながら行う集中治療において、低体温療法中の変化に関する情報をリアルタイムに得て、脳に最適な環境をつくり、最適治療を行うため、集中治療に必要な脳の温度の変化をモニターする必要から、回路の中間が精密に温度制御された恒温槽内を通過するようにして、脳温測定との協働で虚血性脳血管障害患者の治療における脳温をコントロールし、軽度低体温法による脳保護を行う、髄液ドレナージ32を脊髄に戻す閉回路。」
3 引用文献2
上記引用文献2には、以下の事項が記載されている。
ア「【0002】
1. 発明の分野
対象の脳および/または身体の温度を制御および/または調整するための機器、システム、および方法が開示される。」
イ「【0004】
現在、全身用機器が広く用いられているが、選択的機器は強力な利点を提供する。選択的冷却は、脳と身体核心部との間に温度勾配を作り出すことを可能にし、これにより身体核心部の冷却に関連する合併症を低減でき、その結果、患者の安全性が向上するとともに、脳組織を深く冷却して神経保護を達成することが可能となる。」
ウ「【0150】
脳の迅速かつ大幅な冷却は、脊髄周囲を循環する脳脊髄液(CSF)の温度を下げ、これにより、脊髄の全体的な冷却が達成される。チューブを通して口および食道に冷液を導入すると、脳幹に非常に近い組織に流れが接触する際に、熱対流による高率の熱伝達がもたらされ、このことは、脳底動脈卒中または脳幹の他の損傷の症例においても役立つ可能性がある。加えて、頭部から(例えば頚静脈を介して)戻ってくる血液の冷却によって、心臓内の血液が冷却され、次にこの血液は、大動脈を通って、脊髄を灌流する椎骨動脈へと駆出される。食道および胃内への冷液導入による縦隔の冷却は、上大静脈および下大静脈を介して心臓に戻ってくる血液を冷却する。この冷却された血液は、次に脊髄へと駆出される。ニューロンへのダメージから、永続的な神経学的ダメージが神経細胞体に生じることがあるが、大動脈血の温度を下げることによって達成される全体的な体温低下は、この神経学的ダメージを最小にすることおよび炎症反応を軽減することにも役立つ。」
エ「【0290】
いくつかの例において、ベースユニットは、流体を患者の中または患者から外に移動させるための原動力を提供する、患者に入る流体に熱を加える、もしくは患者に入る流体から熱を除去する、および/または患者の状態に関する特定のデータ(例えば、上記温度および/または圧力読みを含む)を表示するように構成され得る。ベースユニットは、1つの温度の簡単な閉ループフィードバック制御を提供することもできるし、またはより洗練された態様において、ユーザが患者温度のための特定の時間経過をプログラムする、例えば指定された速度で所与の温度設定値に近づき、指定された期間、指定された温度の近くに患者を保持し、および指定された速度で患者を再加温することを許容することもできる。」
第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
1 引用発明の「側脳室からモンロー孔」にわたる部位は、本願発明の「処置部位」に相当し、以下同様に、「多目的脳室外誘導管」は「カテーテル」に、「脳液」及び「髄液」は「CSF(脳脊髄液)」に、「脳」は「脳実質」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明の、「軽度低体温法による脳保護を行う」ために、「脳内に挿入し」た「多目的脳室外誘導管」の「髄液導入開口を側脳室からモンロー孔に位置させ」、「髄液ドレナージ32を脊髄に戻す閉回路」は、側脳室からモンロー孔にわたる部位が髄液(脳液)の含有空間を含むことは明らかであるから、本願発明の、「処置部位の局所冷却を提供するためのシステムであって、」「CSF(脳脊髄液)含有空間を含む前記処置部位にアクセスするように構成されたカテーテル」「を備え」る「システム」に相当する。
2 引用発明の、「多目的脳室外誘導管」の「脳表から0.5cmの第1位置48aおよび2.0cmの第2位置48b位置に」設けられる「温度センサー」は、本願発明の「前記カテーテル上に位置した複数の温度センサー」に相当する。
3 引用発明の「髄液ドレナージ32を脊髄に戻す閉回路」のうち、多目的脳室外誘導管以外の部分は、本願発明の「処置ユニット」に相当する。
そして、引用発明の閉回路において、当該部分が、多目的脳室外誘導管に結合され、かつ、側脳室からモンロー孔にわたる空間と流体連通することを踏まえれば、引用発明の上記部分は、本願発明の「前記カテーテルに結合され」る「処置ユニット」に相当する。
また、引用発明において、上記部分は、「精密に温度制御された恒温槽」を含み、当該恒温槽は側脳室からモンロー孔にわたる空間から外誘導した髄液を温度制御する、より具体的には「低体温療法」のための冷却をするものであること、「髄液ドレナージ32を脊髄に戻す閉回路」であるから髄液の流れを生じさせるためのポンプ等の駆動手段を有すること、「多目的脳室外誘導管」の「脳表から0.5cmの第1位置48aおよび2.0cmの第2位置48b位置に」設けられる「温度センサー」により「脳の温度のモニターリング」をすること及び当該モニターリングが「集中治療に必要な脳の温度の変化をモニターする必要から」通常一定期間にわたって行われることを踏まえれば、引用発明の上記部分は、本願発明の「前記処置部位と前記処置ユニットとの間で前記CSFの流れを誘発するポンプを備え、前記CSF含有空間から受けた所定量のCSFを冷却するように構成された温度制御ユニットを含み、かつ、」「前記カテーテル上に位置した複数の温度センサーから、一定期間にわたって脳室から予め定められた距離において脳実質温度を測定」する「処置ユニット」に相当する。
4 そうすると、両者は、
「処置部位の局所冷却を提供するためのシステムであって、前記システムは、CSF(脳脊髄液)含有空間を含む前記処置部位にアクセスするように構成されたカテーテルと、前記カテーテルに結合される処置ユニットと、前記カテーテル上に位置した複数の温度センサーと、続きを表示(全11行)を備え、前記処置ユニットは、前記処置部位と前記処置ユニットとの間で前記CSFの流れを誘発するポンプを備え、前記CSF含有空間から受けた所定量のCSFを冷却するように構成された温度制御ユニットを含み、かつ、前記処置ユニットは、前記カテーテル上に位置した複数の温度センサーから、一定期間にわたって脳室から予め定められた距離において脳実質温度を測定する、システム。」
である点で一致し、次の各点で相違する。
[相違点1]
本願発明は、処置ユニットが「前記処置部位と流体連通するポートを含む」のに対し、引用発明は、そのように特定されていない点。
[相違点2]
本願発明は、「測定された脳実質温度に基づいて、前記温度制御ユニットによるCSFの温度制御の速度を温度制御の目標速度と比較し、前記温度制御の速度が前記温度制御の目標速度と異なる場合には、温度制御の速度を変更するように構成される」のに対し、引用発明は、そのように特定されていない点。
第6 判断
1 相違点の検討
(1)まず、上記相違点1について検討する。
引用発明の閉回路は、多目的脳室外誘導管とそれ以外の部分とが結合されて流体連通しているところ、そのような流体連通する構造では、通常、連結部分としてのポート等が使用されることを踏まえれば、引用発明において上記相違点1に係る本願発明の事項とする程度のことは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
(2)次に、上記相違点2について検討する。
上記第4の3ア~エのとおり、引用文献2には、脳脊髄液(CSF)の温度を下げて脊髄の全体的な冷却を行う際に、その温度制御を指定された速度で所与の温度設定値に近づけるようにすることが記載されている。
引用発明は、「低体温療法中の変化に関する情報をリアルタイムに得て、脳に最適な環境をつくり、最適治療を行うため、集中治療に必要な脳の温度の変化をモニターし」「脳温をコントロール」するものであるから、脳への影響を考慮してCSFの温度変化を制御する際に、引用文献2の上記記載事項を適用して上記相違点2に係る本願発明の事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
2 効果について
そして、本願発明の奏する効果は、引用発明及び引用文献2の記載事項から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎず、格別顕著なものではない。
3 小括
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2022-016888