2022-015452
防汚のための散乱を使用したUV LED導波路システム
- 審判番号
- 2022-015452
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-531640外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年09月29日
- 審決日
- 2023年10月19日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
- 【請求人代理人】弁理士法人M&Sパートナーズ
- 分類
- P18 .121-Z (G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 15項目
第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)12月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2016年12月16日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、令和2年12月11日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「UV放射光を提供する光源と、導波路要素とを備える生物防汚システムであって、前記導波路要素が、前記UV放射光に対して透過性である放射光透過性材料を含み、前記放射光透過性材料が、前記放射光透過性材料とは別の組成のフェーズのための母材材料であり、前記フェーズが、350~1200nmの範囲から選択された平均粒子半径(r1)をもち、及び、0.01~0.2vol%の範囲から選択された領域の体積分率をもつ領域として、前記母材材料内において利用可能であり、前記導波路要素は板様形状であり、前記光源は前記導波路要素に少なくとも部分的に埋設されており、前記光源及び前記導波路要素が、前記放射光透過性材料を通した前記UV放射光の少なくとも一部の伝搬と、その後の第1の面と第2の面とのうちの少なくとも1つからの出光とのために適応される、生物防汚システム。」
第3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった次の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものを含むものである。
1 特表2016-525932号公報(以下「引用文献1」という。)
2 特表2016-530985号公報(以下「引用文献2」という。)
第4 引用文献の記載及び引用発明の認定
1 引用文献1(特表2016-525932号公報)について
(1)原査定において引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1(特表2016-525932号公報)には、以下の記載がある。
ア 「【0001】本開示は表面の汚染防止(若しくは一般に防汚とよばれる)のための方法と、これらの方法を実行するための装置に関する。本開示は特に船体の防汚のための方法と装置に関する。」
イ 「【0004】船体上の生物付着は、図1に図示の通り、抗力の深刻な増加をもたらし、従って燃料消費の増大をもたらす。燃料消費の最大40%の増加は生物付着に起因する可能性があると推定される。大型オイルタンカー若しくはコンテナ輸送船は1日あたり最大200.000ユーロの燃料を消費し得るので、生物付着防止の有効な方法によりかなりの節約が可能である。【0005】ここで光学的方法に基づく、特に紫外線光(UV)を用いるアプローチが提示される。ほとんどの微生物は、'十分な'UV光で死滅、不活性化、若しくは生殖不能にされることが周知である。この効果は主にUV光の総線量によって支配される。特定微生物の90%を死滅させる典型的な線量は10mW‐時間毎平方メートルであり、詳細はUV光に関する以下の段落及び添付の図面に含まれる。」
ウ 「【0016】本開示の根底にある基本的なアイデアは、汚染を避けてきれいに保つべき保護表面のかなりの量を、好適には保護表面全体、例えば船体を、殺菌光、特にUV光を発する層で覆うことである。【0017】従って、添付の請求項にかかる、保護表面の防汚の方法及び保護表面の防汚のための照明モジュール及びシステムが提供される。【0018】方法は防汚光を供給するステップと、保護表面から離れる方向に防汚光を発するステップを有し、光の少なくとも一部は保護表面から離れる方向に発せられる前に光学媒体によって保護表面の大部分にわたって配光される。実施形態において、方法は光学媒体の実質的に平面の発光面から防汚光を発するステップを有する。実施形態において方法は保護表面の大部分にわたって光を配光する光ガイドを使用し、シリコーン材料及び/又はUVグレードシリカ材料、特に石英を有する。方法は好適には保護表面が少なくとも部分的に液体環境に沈んでいる間に実行される。」
エ 「【0023】好適な実施形態において、光源はUV LEDである。少なくとも一つのUV LED若しくはUV LEDの格子は液密カプセル化に封入され得る。実施形態において少なくとも一つのUV LED若しくはUV LEDの格子は光学媒体に埋め込まれ得る。複数のUV LEDは格子に組織化され、直列/並列金網構造において電気的に接続される(後に説明される)。・・・」
オ 「【0025】シリコーン材料は他の材料と比較して少ない損失でUV光の光学透過を提供し得る。これは特に短波長光、例えば300nm未満の波長を持つUV光に当てはまる。特に効率的なシリコーン材料のグループは、一般化学式CH3[Si(CH3)2O]nSi(CH3)3に従ういわゆるメチルシリコーンであるか、若しくはそれを少なくとも有し、"n"は有機化学の慣例により任意の適切な整数を示す。このタイプのシリコーン材料は偶然にも、少なくとも他のシリコーン材料と比較して少ない損失で優れたUV透過特性を示す。・・・(中略)・・・【0026】UVグレードシリカはUV光に対して非常に低い吸収を持ち、従って光学媒体及び光ガイド材料として非常によく適している。比較的大きな物体は、大きな物体でもUV透過特性を維持しながら、UVグレードシリカの複数の比較的小さなピース若しくは部分を一緒に、及び/又はいわゆる溶融石英を用いることから作られ得る。シリコーン材料に埋め込まれるシリカ部分はシリカ材料を保護する。このような組み合わせにおいてシリカ部分は光学媒体を通る光の(再)配光のため及び/又は光ガイドからの光のアウトカップリングの促進のため、その他シリコーン材料光学媒体においてUV透明散乱体を提供し得る。・・・(中略)・・・」
カ 「【0036】汚染防止のためのシステムの一実施形態は以下を有し得る:‐防汚光を生成するための一連のUV LED;‐保護表面にわたってLED点光源から防汚光を発散させるための光発散体;‐防汚光が表面にわたって発散され得るようにさらにガイドする/発散させるための光ガイド、光ガイドはシリカ粒子又は一つ以上のシリカ被覆部分の有無を問わず、UV光に透明なシリコーン材料の薄層を有する。」
キ 「【0046】図7は基本的実施形態として、光学媒体を通して内部全反射を介して光源3から発せられる光9の少なくとも一部をガイドする液密光学媒体5に封入された複数の光源3(ここでは側面発光LED、光は主にLEDの側面から、及び多かれ少なかれ表面に平行に発せられる)を有する照明モジュール1の断面を示し、当該光学媒体は光9を散乱させ、光学媒体5から出た光9を光の標的とされる物体11(生物付着生物)の方へガイドする光学構造7をさらに備える。光学媒体5は一般に、二次元様物体が提供されるように第三次元よりも顕著に大きく二つの次元に延伸する。光9を散乱させる光学構造7は光学媒体材料の一つ以上の部分において、場合によりその全体にわたって広がり、かかる部分において分布は一般に均一であるか若しくは局在的であり得る。光学特性に加えて、摩耗及び/又は衝撃への抵抗性などの構造的特性も提供するために、異なる構造特性を持つ散乱中心が組み合わされ得る。適切な散乱体は不透明物体を有するが、主に半透明物体、例えば小気泡、ガラス及び/又はシリカが同様に使用され得る。要件は使用波長に対する屈折率の変化が生じることだけである。(当審注:第1文の「・・・内部全反射を解して光源5から発せられる光9・・・」の「光源5」は、他の記載に照らして「光源3」の明らかな誤記であるから、誤記を正して摘記した。)【0047】表面にわたって光をガイドすること及び光を発散させることの原理は周知であり、様々な分野において広く応用されている。ここで、この原理は防汚の目的でUV光に適用される。表面、例えば船体をUVで自己照射させるというアイデアは、滑らかなコーティング、化学物質、洗浄、船の速度を制御するソフトウェアなどに頼る現在の確立された防汚法とは明確に異なる方法であることが留意される。」
ク 「【0052】従って、光学媒体、特に概して平面の光ガイドの使用が提供される。光ガイドの典型的な寸法は約1mmから約10mmの厚さである。・・・」
ケ 図7は以下のものである。
「図7[図:0001408471000001.jpg]」
(2)上記(1)によれば、図7に係る「基本的実施形態」について、次の技術的事項を読み取ることができる。
ア 当該「基本的実施形態」は、【0016】及び【0017】の記載によれば、保護表面の防汚のためのシステムに係るものであることが明らかである。
イ 当該「基本的実施形態」で用いられる「標的とされる物体11(生物付着生物)の方へガイド」される「光9」は、【0016】の「殺菌光、特にUV光」の記載に照らせば、生物を死滅させるためのUV光であるといえる。
ウ 当該「基本的実施形態」で用いられる「複数の光源3」について、【0023】には「好適な実施形態において、光源はUV LEDである。」と記載されていることから、当該「複数の光源3」は、「UV LED」であることが典型的に想定されているといえる。
エ 当該「基本的実施形態」で用いられる「光学媒体」について、上記イにもよれば、UV光の透過性が高い必要があることが明らかであるところ、【0025】には「シリコーン材料は他の材料と比較して少ない損失でUV光の光学透過を提供し得る。」と記載されていることから、当該「光学媒体」は、「シリコーン材料」からなることが典型的に想定されているといえる。
(3)上記(1)及び(2)によれば、引用文献1には、図7に係る「基本的実施形態」について、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「光学媒体5を通して内部全反射を介して光源3から発せられる光9の少なくとも一部をガイドする液密光学媒体5に封入された複数の光源3を有する照明モジュール1を備えた保護表面の防汚のためのシステムであって、(【0046】・上記(2)ア)当該光学媒体は光9を散乱させ、光学媒体5から出た光9を光の標的とされる物体11(生物付着生物)の方へガイドする光学構造7をさらに備えており、光学媒体5は、二次元様物体が提供されており、光9を散乱させる光学構造7は、散乱体であって、光学媒体材料の全体にわたって広がっており、(【0046】)光9は、生物を死滅させるためのUV光であり、(上記(2)イ)光源3は、UV LEDであり、(上記(2)ウ)光学媒体5は、シリコーン材料からなる、(上記(2)エ)保護表面の防汚のためのシステム。(上記(2)ア)」
2 引用文献2(特表2016-530985号公報)について
(1)原査定において引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2(特表2016-530985号公報)には、以下の記載がある。
ア 「【0001】本発明は、半導体発光素子、特にUV発光ダイオードと共に使用する導光部材、上記導光部材の製造方法、及び上記導光部材を含む発光装置に関する。」
イ 「【0027】本発明者らは、光透過性キャリア材料(一般的にポリマーマトリクス)及びマトリクス内に分散させた散乱材料を含む複合材料から効率的な3次元導光体を形成することができることを発見した。これは、導光組成と称される。特定の条件下で形成可能又は変形可能なキャリア材料の使用は、複合材料が任意の所望の形状に形成されることを可能にする。このような3次元導光体は、光源に結合されることにより、均一発光面を有する発光体を提供することができる。このような発光装置は、UV消毒を含む多くの異なる目的に適し得る。」
ウ 「【0036】適切なキャリア材料の例は、シリコーン樹脂(例えば、ポリジメチルシロキサン、PDMS)等のシリコーン系の材料である。」
エ 「【0038】本発明に使用される散乱粒子は、反射性微粒子又はナノ粒子でもよい。例えば、粒子は、窒化ホウ素及び/若しくは酸化アルミニウム、又は入射放射線のエネルギーよりも高いエネルギーバンドギャップを持つ他の半導体材料の粒子を含んでもよい。粒子は、例えば500nm~10μmといった、200nm~30μmの範囲の平均粒径を有していてもよい。一部の実施形態では、導光部材は、様々なサイズの粒子、例えば200nmの平均粒径を持つ散乱粒子の第1の集団及び1.0μmの平均粒径を持つ散乱粒子の第2の集団を含んでもよい。【0039】キャリア材料に対する散乱粒子の重量比は、0.001~5.0%の範囲にある(キャリア材料の重量に基づく)。散乱粒子の重量比は、大部分の光子が導光材料内での多数の連続的反射によって吸収されないように、導光部材から取り出される光の量に基づいて選択されてもよい。」
(2)上記(1)によれば、引用文献2には、次の技術的事項(以下「引用文献2に記載された技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「光透過性キャリア材料及びマトリクス内に分散させた散乱材料を含む複合材料から形成された3次元導光体を、光源に結合することにより、均一発光面を有する発光体を提供することができ、このような発光装置は、UV消毒を含む多くの異なる目的に適しており、(【0027】)適切なキャリア材料の例は、シリコーン樹脂等のシリコーン系の材料であり、(【0036】)散乱粒子は、例えば500nm~10μmといった、200nm~30μmの範囲の平均粒径を有していてもよく、(【0038】)キャリア材料に対する散乱粒子の重量比は、0.001~5.0%の範囲にあり(キャリア材料の重量に基づく)、散乱粒子の重量比は、大部分の光子が導光材料内での多数の連続的反射によって吸収されないように、導光部材から取り出される光の量に基づいて選択されてもよい、(【0039】)という技術的事項。」
第5 対比並びに一致点及び相違点の認定
1 本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「保護表面の防汚のためのシステム」は、「光の標的とされる物体11」が「生物付着生物」であることから、本願発明の「生物防汚システム」に相当する。
(2)引用発明の「光源3」は、本願発明の「光源」に相当する。そして、当該「光源3」は、「UV LED」であるから、本願発明でいう「UV放射光を提供する」ものである。
(3)引用発明の「液密光学媒体5」は、「シリコーン材料からな」るところ、「光源3から発せられる光9の少なくとも一部をガイドする」ものであり、「光源3」は「UV LED」であるから、当該「液密光学媒体5」は、本願発明の「前記UV放射光に対して透過性である放射光透過性材料」に相当する。
そして、当該「液密光学媒体5」は、「光学媒体5を通して内部全反射を介して光源3から発せられる光9の少なくとも一部をガイドする」とともに「光9を散乱させ、光学媒体5から出た光9を光の標的とされる物体11(生物付着生物)の方へガイドする光学構造7をさらに備えて」いるところ、当該「光学構造7」は、「散乱体であって、光学媒体材料の全体にわたって広がって」いる。このように、引用発明においては、「液密光学媒体5」とその全体にわたって広がった「光学構造7」(散乱体)とを併せた構造が存在し、この構造が光9をガイドないし散乱させているといえることから、当該構造(以下「ガイド散乱構造」という。)が本願発明の「導波路要素」に相当し、当該「光学構造7」(散乱体)が本願発明の「前記放射光透過性材料とは別の組成のフェーズ」に相当し、当該「液密光学媒体5」は本願発明の「前記放射光透過性材料とは別の組成のフェーズのための母材材料」に相当するといえる。
(4)引用発明のガイド散乱構造(本願発明の「導波路要素」に相当。)は、「光学媒体5は、二次元様物体が提供されて」いることに照らせば、本願発明でいう「板様形状」であるといえる。
(5)引用発明の「光源3」は、「液密光学媒体5に封入され」ているから、上記(3)にも照らせば、本願発明でいう「導波路要素に少なくとも部分的に埋設されて」いるといえる。
(6)引用発明においては、ガイド散乱構造は、板様形状であるといえる(上記(4))とともに、「光9を散乱させ、光学媒体5から出た光9を光の標的とされる物体11(生物付着生物)の方へガイドする光学構造7」を備えていることに照らせば、引用発明の「光源3」及びガイド散乱構造が本願発明でいう「前記光源及び前記導波路要素が、前記放射光透過性材料を通した前記UV放射光の少なくとも一部の伝搬と、その後の第1の面と第2の面とのうちの少なくとも1つからの出光とのために適応される」ものであることは、明らかである。
2 上記1によれば、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「UV放射光を提供する光源と、導波路要素とを備える生物防汚システムであって、前記導波路要素が、前記UV放射光に対して透過性である放射光透過性材料を含み、前記放射光透過性材料とは別の組成のフェーズのための母材材料であり、前記導波路要素は板様形状であり、前記光源は前記導波路要素に少なくとも部分的に埋設されており、前記光源及び前記導波路要素が、前記放射光透過性材料を通した前記UV放射光の少なくとも一部の伝搬と、その後の第1の面と第2の面とのうちの少なくとも1つからの出光とのために適応される、生物防汚システム。」
<相違点>
「フェーズ」が、本願発明は、「350~1200nmの範囲から選択された平均粒子半径(r1)をもち、及び、0.01~0.2vol%の範囲から選択された領域の体積分率をもつ領域として、前記母材材料内において利用可能であ」るものであるのに対し、引用発明は、光9を散乱させ、光学媒体5から出た光9を光の標的とされる物体11(生物付着生物)の方へガイドする散乱体である点。
第6 判断
1 相違点について
(1)引用発明の「散乱体」は、「光9を散乱させ、光学媒体5から出た光9を光の標的とされる物体11(生物付着生物)の方へガイドする」ものであるところ、「液密光学媒体5」は、「光学媒体5を通して内部全反射を介して光源3から発せられる光9の少なくとも一部をガイドする」ものとされている。さらに、引用発明を開示する引用文献1の【0026】には、「散乱体」が「光学媒体を通る光の(再)配光のため及び/又は光ガイドからの光のアウトカップリングの促進のため」に提供されることが記載されている。
このように、引用発明における散乱体は、光源3から発せられて液密光学媒体5中を内部全反射によってガイドされる光を(再)配向させつつ、散乱させて液密光学媒体5外に取り出すために用いられるところ、当業者は、ここでいう(再)配向及び光取り出しが十分高い程度でなされることが望ましいという課題を当然認識できるのであり、このことは、引用発明が「保護表面の防汚のためのシステム」であって、この防汚が二次元様物体の液密光学媒体5から取り出されたUV光によってなされることからみても首肯できる。そして、上記の課題を認識した当業者は、引用発明における上記の散乱体の作用からみて、当該(再)配向及び取り出しの程度が、散乱体を液密光学媒体5に対してどのように設けるかによって調整可能であることも認識できるといえるし、いずれにせよ、当業者は引用発明を実施するに当たり、散乱体の設け方を適宜設計するといえる。
(2)そこで、引用発明における散乱体を液密光学媒体5に対してどのように設けるかについて検討する。
ア 引用文献2には、上記第4の2の(2)で認定した引用文献2に記載された技術的事項が記載されているところ、引用発明と上記技術的事項とは、導光体から発せられたUV光によって生物を死滅させることに関する技術である点で共通していることから、上記(1)で説示した当業者は、引用文献2に記載された技術的事項に接することができる。そして、当該技術的事項においては、散乱粒子をキャリア材料に対してどのように設けるかについて、散乱粒子の径やキャリア材料に対する散乱粒子の重量比に着目すること、さらには、当該重量比は、キャリア材料での吸収に関連する、つまり、光取り出しの程度に関連することが記載されているといえる。また、散乱粒子の径が散乱の程度に依存することは、技術常識である。
イ このように、引用発明から出発した当業者は、引用発明の散乱体の作用である(再)配向及び光取り出しが十分高い程度でなされるようにすることをも考慮して、引用文献2に記載された技術的事項を踏まえて、散乱体の径や重量比に着目し、それを適宜設計することができるといえる。そして、具体的な散乱体の径及び重量比は、それぞれ、引用文献2に記載された「200nm~30μm」及び「0.001~5.0%」の値も踏まえつつ当業者が適宜設計できるといえる。
しかるに、引用発明から出発した当業者が相違点に係る本願発明の「350~1200nmの範囲から選択された平均粒子半径(r1)」及び「0.01~0.2vol%の範囲から選択された領域の体積分率」を満たすいずれか一の態様に結果として至ることは、その数値範囲が十分に広く、しかも、特定された数値がさほど極端なものとはいえないことにも照らせば、当業者にとって適宜なし得た程度のことである。
ウ よって、相違点に係る本願発明の構成は、引用発明並びに引用文献1及び2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が適宜なし得たものである。
2 本願発明の効果について
本願発明の作用効果は、引用発明並びに引用文献1及び2に記載された技術的事項に基づいて、本願の優先日当時本願発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができた範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
3 請求人の主張について
(1)請求人は、引用文献2が開示する技術的事項の目的が本願発明の目的と異なるとか、引用文献2に記載された具体的態様が本願発明のような水に接触する表面における生物汚損を防止するような装置等とは異なるなどと主張する。
しかしながら、上記1及び第5でした認定判断は、引用文献1をいわゆる主引用文献としたものであって、引用文献2を主引用文献としたわけではないから、請求人の主張は、上記説示を正解しないものである。そして、相違点に係る本願発明の構成が、引用発明並びに引用文献1及び2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が適宜なし得たものであることは、上記1で説示したとおりである。
(2)請求人は、引用文献2には、相違点に係る本願発明の構成のような「平均粒子半径(r1)」を「350~1200nmの範囲から選択」し、かつ「体積分率」を「0.01~0.2vol%の範囲から選択」することは記載されていない旨主張するが、本願発明は「生物防汚システム」という物の発明に係るものであるから、その容易想到性を説示するためには、上記1(2)イで説示したとおり、当業者は、上記の範囲から選択するという工程を採用することに想到することを説示する必要はなく、上記の範囲に属するいずれか一の態様に至ることを説示すれば足りる。
(3)請求人は、本願発明は、限られた範囲の粒子寸法、及び、限られた範囲の粒子濃度内で効率が高められるという有利な作用効果を奏する旨主張する。
しかしながら、本願の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本願明細書等」という。)の【0030】に記載されたとおり、散乱の程度は「フェーズ」の屈折率にも依存すると解されるところ、本願発明にはその点を考慮した特定事項が存在しないことから、そもそも本願発明の特定事項によって有利な作用効果を奏するとは言い難い。
さらにいえば、本願明細書等の記載によっては、その数値範囲内の全ての部分において有利な効果を奏することを理解することができない。すなわち、この数値範囲に係る説明は、実質的には、本願明細書等の図3b及び【0097】に記載されていると解されるところ、第一に、これらには、特定の材料からなるフェーズの例が記載されているにとどまり、本願発明に含まれる他の材料においてどうなるのかは不明である。第二に、同図における各グラフは、粒子寸法の上限が1000nmとなっていたり、体積分率(VF)の単位が不明であったりするなど、上記数値範囲内の全ての部分を網羅しているとは言い難い。第三に、同図では、最適濃度(最適な体積分率)が記載されているにとどまると解されるところ、最適濃度であれば有利な作用効果を奏するとは言い難いし、また、それを措くとしても、最適濃度を示す粒子半径及び体積分率の値の組合せから、どの程度離れた値まで、有利な作用効果を奏することを維持できるといえるのかも理解できない。
よって、本願発明の作用効果によって、進歩性を認めるに足りない。
4 小括
したがって、本願発明は、引用発明並びに引用文献1及び2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-015452