特許拒絶査定不服審判
2022-014911
酸素カプセル装置
- 審判番号
- 2022-014911
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-016984外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年09月21日
- 審決日
- 2023年10月17日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社フリーポート
- 【請求人代理人】弁理士法人藤本パートナーズ
- 分類
- P18 .121-Z (A61G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-16984号「酸素カプセル装置」拒絶査定不服審判事件〔令和3年8月30日出願公開、特開2021-122425号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年2月4日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 3年10月 1日付け:拒絶理由通知書
令和 4年 2月 3日 :意見書の提出
令和 4年 6月20日付け:拒絶査定
令和 4年 9月21日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和4年9月21日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年9月21日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線は補正箇所を示すため当審が付与したものである。)
「【請求項1】
酸素を含む加圧気体中に使用者を収容し且つ収容空間を1.05~1.3気圧に加圧可能な酸素カプセル本体と、該加圧気体中に収容されている使用者の上肢、下肢及び頸部の何れか1箇所以上に装着され且つ前記使用者の最高血圧を110~160mmHgに高めるように構成された加圧ベルトとを備えた、酸素カプセル装置。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
酸素を含む加圧気体中に使用者を収容するための酸素カプセル本体と、該加圧気体中に収容されている使用者の上肢、下肢及び頸部の何れか1箇所以上に装着される加圧ベルトとを備えた、酸素カプセル装置。」
2 補正の適否
2-1 補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「酸素カプセル本体」及び「加圧ベルト」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。
2-2 本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載されたとおりのものである。
2-3 独立特許要件
(1)引用文献の記載事項等
(1-1)引用文献1
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として示され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2011-212431号公報には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
(ア)「【請求項1】
内部にて運動が可能な空間を有する密閉構造のハウジングと、該ハウジング内の気圧を大気圧より高い所定気圧に調整可能な気圧調整手段と、前記ハウジングの内部を所定波長の光で照明する照明手段とを備えたことを特徴とするカプセル装置。」
(イ)「【請求項5】
前記気圧調整手段が、前記ハウジング内の気圧を約1.2~1.4気圧に調整可能であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のカプセル装置。」
(ウ)「【請求項6】
前記ハウジングの内部に設けられ、筋肉に電気的な刺激を印加するEMS手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の装置。」
(エ)「【0008】
従って本発明の目的は、内部に高気圧トレーニング環境やリラクゼーション環境を実現すると共に、成長ホルモンの分泌を促進させ、健康を増進させることのできるカプセル装置を提供することにある。」
(オ)「【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、成長ホルモンの分泌が促進され、身体の運動による活性化効果及びリラクゼーション効果を得ることができる。従って、利用者が高気圧環境でリハビリ、トレーニングを行うことができると共に、休憩、疲労回復等の目的にも利用できる。」
(カ)「【0019】
本実施形態に係る高気圧カプセル装置1は、ハウジング内部を約1.2~1.4気圧程度の高気圧状態、より望ましくは、約1.3気圧に保ち、この高気圧状態でリハビリやトレーニング等を行うと共に、リラクゼーションを得るための装置である。以下、コンプレッサから供給された圧縮空気により内部を高気圧状態に維持し、この高気圧状態でリハビリやトレーニング等を行う例を説明する。
【0020】
図1~図6に示すように、高気圧カプセル装置1は、内部を加圧する長尺筒体の外形を有する密閉構造の、望ましくは密閉耐圧構造のハウジング10と、ハウジング10の外部に取り付けられた第1の支持手段20と、ハウジング10の外部に取り付けられた第2の支持手段30a及び30bと、ハウジング10の内部であってその筒体内側に沿って設けられる運動補助設備40と、ハウジング10の内部に取り付けられており、青色LEDを有するLED照明装置80(図5及び図6)と、ハウジング10の外部に設けられた加圧空気発生装置90と、ハウジング10の内部に取り付けられたEMS(電気的筋肉刺激)装置100(図5及び図6)とを備えている。運動補助設備40は、横方向に設置するときベッド設備となる。ベッド設備は、ハウジング10が横方向に設置されるときに、複数の板状部材(板部材52、第1の延長板54及び第2の延長板56)を並べて形成される。
【0021】
本実施形態の高気圧カプセル装置1においては、第1の支持手段20によりハウジング10が縦方向に設置されたときは、運動補助設備40が縦方向と同方向に向かって使用可能となり、第2の支持手段30a及び30bによりハウジング10が横方向に設置されたときは、ベッド設備が横方向と同方向に向かって使用可能となり、これら運動補助設備とベッド設備とは縦方向と横方向とで兼用される。ここで、長尺筒体の内側に沿って運動補助設備とベッド設備とがそれぞれ配置されている。
【0022】
ハウジング10は、内部を加圧する密閉耐圧構造のカプセル構造を有している。・・・」
(キ)「【0032】
運動補助設備40は、ハウジング10の内部に設けられて、利用者が複数の運動を行うことができるものである。例えば、運動補助設備40は、ハウジング10が縦方向に設置される際に利用者がぶらさがる運動を行う第1の運動補助器具40aと、脚又は腕の筋肉をトレーニングするための第2の運動補助器具40bとを備える。
【0033】
第1の運動補助器具40aは、ハウジング10が縦方向に設置される状態で、ハウジング10の内側の上部に水平に設置される棒状部材41を備えている。棒状部材41は、水平に設置された一対の支持アーム42と垂直に設置された一対の固定部材43との接合部の間に固定されている。固定部材43の上端は取付け具44を介してハウジング10の端部10bに固定されている。棒状部材41の設置高さは利用者がこれを掴んでぶらさがることができるように適宜に設計される。なお、棒状部材41の設置高さを調整できるようにしてもよい。
【0034】
第2の運動補助器具40bは、一対のレール51と、このレール51に摺動可能な板部材(板状部材)52と、この板部材52をレールに沿った所定方向に付勢する付勢手段70とを備える。レール51の上端は支持アーム42に固定され、下端はハウジング10の端部10aに固定されている。板部材52はローラー機構を有し、レール51に沿って自在に摺動移動することが可能である。また、板部材52は、連結軸53を介して第1の延長板(板状部材)54の一端に着脱可能に連結され、この第1の延長板54の他端は連結軸55を介して第2の延長板(板状部材)56の一端に着脱可能に連結され、第2の延長板56の他端は連結軸57を介してレール51の下端に連結されている。板部材52と第1の延長板54と第2の延長板56を屈折させた状態で椅子となる(図5参照)。この際に、ロック機構(図示せず)によって第1の延長板54をレール51にロックすることで水平状態を保つことができる。なお、ロック機構としては、蝶ねじ又はノブねじ等を使用できる。
【0035】
板部材52の一端(上端)には、弾性を有する一対の肩ガード52aが取付け部材52bを介して装着されている。肩ガード52aは取付け部材52bに対して上下方向に移動可能である。また、肩ガード52aはねじで所定の位置に固定されている。なお、肩ガード52aには、肩の形状に合わせた円弧状の板を用いてもよい。
【0036】
付勢手段70は、両端に取付け穴が設けられた取付け部を有するゴム材又はバネ部材から構成される。本例では、付勢手段70は、ゴム部材から形成される。この付勢手段70は、ねじ71によって板部材52に連動する付勢手段用取付け部52cとレール51の下端に設けられる付勢手段用取付け部51aに取付けられている。これにより、第2の運動補助器具40bを利用して脚または腕の筋肉をトレーニングすることができる。また、付勢手段用取付け部52cと付勢手段用取付け部52dには、上下方向に複数のねじ穴が設けられているため、付勢手段70の取付け位置を調整することが可能であり、使用者が自身の状態に合わせてトレーニングの強度を調整することができる。なお、付勢手段70は、付勢手段用取付け部52dと付勢手段用取付け部51bに取り付けるようにしてもよい。この場合、付勢手段70のレールに沿った付勢方向が異なってくる。」
(ク)「【0039】
本実施形態において重要なポイントは、ハウジング10の内側に、約430~470nmの、望ましくは約460nmの波長の可視光を発生する青色LEDを備えたLED照明装置80が配置されている点である。まず、ハウジング内の気圧が大気圧より高い約1.3気圧に維持されていることにより、皮膚の血管が圧迫されて血管径が縮小し、血管内皮へのずり応力が増大することから、血管内皮細胞のNOの産生量が増加し、その結果、プロスタグランジンの産生量が増加する。プロスタグランジンは知覚神経を刺激するため、IGF-1(インシュリン様成長因子-1)の産生量を増大させる。IGF-1は、人体のほとんどの細胞、特に筋肉、骨、肝臓、腎臓、神経、皮膚及び肺の細胞、を細胞成長及び発達させる。そして、青色LEDより照射される約460nmの波長の青い可視光は、知覚神経刺激作用があり、これが皮膚の知覚神経に存在すると考えられる青色受光体のクリプトクロム(Cry)によって感知されることにより、IGF-1がより一層多く産生される。」
(ケ)「【0042】
このように、本実施形態によれば、利用者が高気圧状態でリハビリやトレーニングを行うと同時に、青い光を浴びることにより、この青い光による治療効果と成長ホルモンの分泌とをより一層促すことも期待できる。特に、ハウジング内の気圧を大気圧より高い約1.3気圧に維持することと、ハウジング10の内部を青色LEDの光で照明することとの相乗効果により、IGF-1の産生が飛躍的に増大して成長ホルモンの分泌が促進され、身体の運動とも相まって、上述した皮脂腺に吸収されることによるニキビ治療効果や脂性肌の改善効果等の治療効果及び活性化効果、並びにリラクゼーション効果を共に得ることができる。」
(コ)「【0052】
このように、本実施形態によれば、ハウジング内の気圧を大気圧より高い約1.3気圧に維持することと、ハウジング10の内部を青色LED、赤色LED及び/又は黄色LEDの光で照明することと、EMS装置100を使用することとの相乗効果により、成長ホルモンの分泌が促進され、筋肉のトレーニング効果がより向上し、前述した治療効果及び活性化効果、並びにリラクゼーション効果を共に得ることができる。」
(サ)「【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、一般家庭、ホテル、オフィス、介護施設、リハビリセンター、老人ホーム、福祉施設、スポーツジム、クリニック、病院、学校、カフェ、ショッピングセンター等の一角に設置可能であり、高気圧環境及び照明環境下でリハビリ及びトレーニングかつリラクゼーション等を行う目的に利用できる。」
(シ)【図1】
[図:0001404324000001.jpg]
(ス)【図8】
[図:0001404324000002.jpg]
(セ)【図9】
[図:0001404324000003.jpg]
イ 引用文献1の記載事項からの認定事項
引用文献1には、上記ア(ア)で示したように、「内部にて運動が可能な空間を有する密閉構造のハウジングと、該ハウジング内の気圧を大気圧より高い所定気圧に調整可能な気圧調整手段と、前記ハウジングの内部を所定波長の光で照明する照明手段とを備えた」「カプセル装置」が記載されていると認められるところ、さらに以下の事項が認定できる。
(ア)上記ア(オ)及び(ケ)の記載から、ハウジング10は、利用者がその内部でトレーニングを行うことが可能な空間を有するものであると認められる。
(イ)上記ア(イ)の「気圧調整手段が、前記ハウジング内の気圧を約1.2~1.4気圧に調整可能である」との記載及び上記ア(カ)の段落【0019】の「コンプレッサから供給された圧縮空気により内部を高気圧状態に維持し」との記載から、気圧調整手段は、コンプレッサから供給された圧縮空気によりハウジング10内の気圧を約1.2~1.4気圧に調整可能であることが認定できる。
ウ 引用文献1に記載された発明
上記ア及びイの記載事項や認定事項を踏まえると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明>
「利用者がその内部でトレーニングを行うことが可能な空間を有する密閉構造のハウジング10と、該ハウジング10内の気圧を大気圧より高い所定気圧に調整可能な気圧調整手段と、前記ハウジング10の内部を所定波長の光で照明する照明手段とを備えたカプセル装置であって、
前記ハウジング10は、内部を加圧する密閉耐圧構造のカプセル構造を有し、その内部に利用者が脚又は腕の筋肉をトレーニングするための第2の運動補助器具40bを備える運動補助設備40が設けられ、前記第2の運動補助器具40bを利用して脚または腕の筋肉をトレーニングすることができ、
前記気圧調整手段は、コンプレッサから供給された圧縮空気により前記ハウジング10内の気圧を約1.2~1.4気圧に調整可能である、カプセル装置。」
(1-2)引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用文献2として示され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2008-167786号公報には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
加圧トレーニングの実行者の四肢のいずれかの所定の部位に巻付けることのできる長さとされたベルト、前記ベルトに設けられた気密とされたガス袋、前記ベルトに設けられた、四肢のいずれかの前記所定の部位に巻付けた状態で当該所定の部位に前記ベルトを固定する固定手段、を備えており、前記ガス袋に気体を充填することにより前記四肢の前記所定の部位に、当該所定の部位よりも下流側における血流を阻害するような所定の加圧力を与えられるようにされた緊締具、
及び前記緊締具が取付けられた前記四肢における、拍動に基づいて変化する物理量、脈波に基づいて変化する物理量、酸素飽和度に基づいて変化する物理量の少なくとも一つを測定することにより、拍動の数である拍動数についての拍動データ、脈波の大きさである脈波値についての脈波データ、酸素飽和度の大きさである酸素飽和度値についての酸素飽和度データの少なくとも一つを生成する測定手段、
と組合わせて用いられるものであり、前記加圧力の制御を行うようにされた加圧トレーニング装置であって、
所定の管を介して前記ガス袋に気体を送り込めるとともに、前記ガス袋から気体を抜くことができるようにされた圧力調整手段と、
前記加圧力を変化させるために、前記圧力調整手段を制御する制御手段と、
を備えており、
前記制御手段は、前記拍動データ、前記脈波データ、前記酸素飽和度データの少なくとも一つを前記測定手段から受取り、受取った前記拍動データ、前記脈波データ、前記酸素飽和度データの少なくとも一つが、前記実行者が加圧トレーニングを継続すべきでないことを示すものとなったときに、前記圧力調整手段が前記ガス袋から実行者の安全を確保できる程度に気体を抜くように前記圧力調整手段を制御するようになっている、
加圧トレーニング装置。」
イ 「【0003】
この特許に係る筋力増強方法は、加圧を用いて行う従来にはない特徴的なものである。この筋力増強方法(以下、「加圧トレーニング(TM)方法」と呼ぶ。)は、以下のような理論に基づいている。
筋肉には、遅筋と速筋とがあるが、遅筋はほとんど大きくなることがないため、筋肉を増強するには、遅筋と速筋のうち、速筋を活動させる必要がある。速筋が活動することによって生じる乳酸の筋肉への蓄積がきっかけとなって脳下垂体から分泌される成長ホルモンには、筋肉をつくり、体脂肪を分解する等の効果があるから、速筋を活動させ疲労させてやれば、速筋の、ひいては筋肉の増強が行われることになる。
ところで、遅筋と速筋には、前者が、酸素を消費して活動するものであり、また、軽い負荷の運動を行えば活動を開始するのに対し、後者が、酸素がなくても活動するものであり、また、かなり大きな負荷をかけた場合に遅筋に遅れて活動を開始するという違いがある。したがって、速筋を活動させるには、先に活動を開始する遅筋を早く疲労させる必要がある。
従来の筋力増強方法では、バーベルなどを用いた激しい運動を行わせることによって遅筋をまず疲労させ、次いで速筋を活動させることとしている。このようにして速筋を活動させるには、大きな運動量が必要であるから、長い時間がかかり、また、筋肉及び関節への負担が大きくなりがちである。
他方、筋肉の四肢の付根付近の所定の部位を締付けて加圧し、そこよりも下流側に流れる血流を制限した状態で筋肉に運動を行わせると、そこの筋肉に供給される酸素が少なくなるので、活動のために酸素を必要とする遅筋がすぐに疲労する。したがって、加圧により血流を制限した状態で筋肉に運動を行わせると、大きな運動量を必要とせずに、速筋の活動を早く生じさせることができるようになる。より詳細にいえば、四肢の付根付近の所定の部位を締付けて加圧すると、その加圧力が適当である場合には、四肢の皮膚に近いところに存在し、また、動脈より薄く硬さ(加圧による力に抗する性能)に劣る静脈が閉まり、四肢のより深いところに存在し静脈よりも厚く硬さに優れた動脈は通常の状態に近い状態となる。その状態を一定時間保つと、付根付近を締付けられた四肢の中には、動脈から供給されるものの静脈から出ていくことのできない血液が溜まった状態となる。この状態は、その四肢が運動を激しく行っている状態と非常に近いため、筋肉が激しく疲労するのである。また、筋肉の疲労は、静脈が閉じた状態となっていることにより筋肉内で生成された乳酸が筋肉の外に出にくくなることなどによっても生じる。
加圧トレーニング方法を実行することにより、運動を行ったときと同様の上述したような状態を擬似的に作り出すことができる。それにより、加圧トレーニング方法を行うと、筋力トレーニングの効果が生じ、また、成長ホルモンの分泌が促されることになる。
このような機序により、筋肉における血流を阻害することによって、筋肉の飛躍的な増強を図ることができるようになる。」
ウ 「【0008】
本発明は、気体により加圧力を四肢の少なくとも一つの基端付近に与えるタイプの加圧トレーニングシステムを、加圧トレーニングを行っている者の体調に加圧トレーニングを継続すべきでない何らかの事情が生じたときに安全策を実行させられるようにするための技術を提供することをその課題とするものである。」
(1-3)参考文献1
本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった参考文献1(加圧トレーニングの効果,[online], 2018年7月13日,[検索日 2023年9月14日],インターネット<URL:https://kaatsu-boasorte.jp/blog/4458>)には、以下の事項が記載されている。
ア 「腕と脚の付け根に専用のベルトで圧力をかけて、血流を制限して行うことで低負荷・短時間で効果を出すことが
可能な筋力トレーニングです。
血流を制限することで、筋肉を素早く低酸素化させる事が出来ます。
筋肉内が低酸素化すると、日常では使われにくい、多くの筋繊維(基礎代謝量に影響しやすい速筋繊維)を刺激する事が出来ます。」
イ 「加圧トレーニングは静脈側をやや強く制限することで腕または脚に一時的に血液が滞留します。
流れを塞き止められた川の様に、血液は次に流れる場所を探します。
それが毛細血管の拡張に繋がります。」
上記ア及びイから、参考文献1には、「加圧ベルトを装着してトレーニングを行うことにより、毛細血管の血行が改善することが周知であること。」(以下「参考文献1記載事項」という。)が開示されていると認められる。
(1-4)参考文献2
本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった参考文献2(無理のない加圧トレーニングで得られる3つの結果とは,[online], 2020年2月3日,[検索日 2023年9月14日],インターネット<URL:https://studio-th.jp/training/>)には、以下の事項が記載されている。
ア 「加圧トレーニングでは、足の付け根や二の腕に専用のベルトを巻いて血流を一時的に制限してから、血液を心臓に一気に戻すため、15分ほどの短時間で全身の血流をよくすることができます。
人間の体を循環している血液は、心臓から送り出され大動脈に入って全身に送られます。全身を巡った血液は、静脈に乗って心臓へと戻っていきます。
腕や脚のつけ根部分は太い動脈と静脈の両方が通っており、そこを加圧することで、心臓より上部は一時的に血流が減少した状態になリます。
すると、脳は危機を感じて血流を増やすよう心臓に指令を出します。
その結果、血流が増え毛細血管の隅々まで血液が行き渡るため血管が拡張します。
加圧と除圧を繰り返し行うことにより毛細血管の数が増えるため、血行がよくなるのです。」
上記アから、参考文献2には、「加圧ベルトを装着してトレーニングを行うことにより、毛細血管の血行が改善することが周知であること。」(以下「参考文献2記載事項」という。)が開示されていると認められる。
(2)対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、以下の相当関係が認められる。
ア 「空気」は酸素を含むことは技術常識であるから、後者の「コンプレッサから供給された圧縮空気」及び「カプセル装置」は、前者の「酸素を含む加圧気体」及び「酸素カプセル装置」にそれぞれ相当する。
イ 後者の「利用者がその内部でトレーニングを行うことが可能な空間」は、前者の「使用者を収容」する「収容空間」に相当する。
ウ 後者の「利用者がその内部でトレーニングを行うことが可能な空間を有する密閉構造のハウジング10」は、「内部を加圧する密閉耐圧構造のカプセル構造を有し」、「該ハウジング10内の気圧を大気圧より高い所定気圧に調整可能な気圧調整手段」を備え、「前記気圧調整手段は、コンプレッサから供給された圧縮空気により前記ハウジング10内の気圧を約1.2~1.4気圧に調整可能である」ものであるから、後者の「ハウジング10」と、前者の「酸素を含む加圧気体中に使用者を収容し且つ収容空間を1.05~1.3気圧に加圧可能な酸素カプセル本体」とは、「酸素を含む加圧気体中に使用者を収容し且つ収容空間を大気圧より高い所定気圧に加圧可能な酸素カプセル本体」の点で共通する。
以上によれば、本件補正発明と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有するものと認められる。
<一致点>
「酸素を含む加圧気体中に使用者を収容し且つ収容空間を大気圧より高い所定気圧に加圧可能な酸素カプセル本体を備えた、酸素カプセル装置。」
<相違点1>
「収容空間」の「加圧可能な」気圧の範囲について、本件補正発明では、「1.05~1.3気圧」であるのに対し、引用発明では、「約1.2~1.4気圧」である点。
<相違点2>
本件補正発明では、「加圧気体中に収容されている使用者の上肢、下肢及び頸部の何れか1箇所以上に装着され且つ前記使用者の最高血圧を110~160mmHgに高めるように構成された加圧ベルト」を備えるのに対し、引用発明では、そのような「加圧ベルト」を備えることが特定されていない点。
(3)判断
上記相違点1、2について検討する。
ア 相違点1について
本件補正発明と引用発明とは、収容空間の気圧を1.2~1.3気圧の範囲で加圧可能である点では一致しているとともに、引用発明が本件補正発明の加圧可能な範囲よりも高い気圧まで加圧可能なものであることを踏まえれば、引用発明が、1.2気圧以下で大気圧よりも高い、1.05~1.2気圧の範囲でも加圧可能であることは、当業者にとって明らかであり、相違点1は、実質的な相違点ではない。
仮に、実質的な相違点であるとしても、引用文献1の段落【0069】には、【産業上の利用可能性】として、「本発明は、一般家庭、ホテル、オフィス、介護施設、リハビリセンター、老人ホーム、福祉施設、スポーツジム、クリニック、病院、学校、カフェ、ショッピングセンター等の一角に設置可能であり、高気圧環境及び照明環境下でリハビリ及びトレーニングかつリラクゼーション等を行う目的に利用できる。」と記載されており、使用目的としては、「リハビリ」、「トレーニング」及び「リラクゼーション」であり、設置可能な箇所としては、「一般家庭、ホテル、オフィス、介護施設、リハビリセンター、老人ホーム、福祉施設、スポーツジム、クリニック、病院、学校、カフェ、ショッピングセンター」と様々であって、使用者のカプセル装置の使用目的、対象年齢及び個々の健康状態に応じて、気圧調整手段による加圧圧力を変更できるものであるから、引用発明において、ハウジング内の気圧を1.05~1.3気圧程度に調整可能にすることは、当業者であれば適宜なし得たことである。
したがって、引用発明において上記相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
イ 相違点2について
引用発明のカプセル装置は、上記(1-1)のア(エ)及び(オ)で示したように、成長ホルモンの分泌が促進され、身体の運動による活性化効果及びリラクゼーション効果を得ることを課題とするものである。
他方、引用文献2には、上記(1-2)のア及びイで示したように、「成長ホルモンの分泌が促されるように、加圧トレーニングの実行者の四肢の所定の部位に、当該所定の部位よりも下流側における血流を阻害するような所定の加圧力を与えられるようにされた緊締具」(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認定できるものである。ここで、引用文献2記載事項の上記「緊締具」は本件補正発明の「使用者の上肢、下肢及び頸部の何れか1箇所以上に装着される加圧ベルト」に相当する。
そして、引用発明と引用文献2記載事項とは、成長ホルモンの分泌を促進させるものである点で共通する。また、引用発明は「ハウジング10」「の内部に利用者が脚又は腕の筋肉をトレーニングするための第2の運動補助器具40bを備える運動補助設備40が設けられ、前記第2の運動補助器具40bを利用して脚または腕の筋肉をトレーニングすることができ」るものであり、引用文献2記載事項の緊締具は四肢等のトレーニングを行う際に用いるものである。
したがって、引用発明のカプセル装置において、内部でトレーニングを行う場合に、より成長ホルモンの分泌を促すことができるよう、引用文献2記載事項の「緊締具」を備えることは、当業者が容易に想到し得たことである。その際、引用文献2記載事項の上記「緊締具」は、「加圧トレーニングを行っている者の体調に加圧トレーニングを継続すべきでない何らかの事情が生じたときに安全策を実行させられるようにするための技術を提供することをその課題とするもの」(段落【0008】)であり、「加圧力の制御を行う」(【請求項1】)ものであるから、使用者の体調等に合わせて、「所定の加圧力」を使用者の最高血圧を110~160mmHg程度にするような圧力とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
以上より、引用発明において引用文献2記載事項を適用して上記相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
ウ 作用効果について
本件補正発明の「酸素カプセル装置」は、明細書の段落【0009】や【0012】を参照すると、「使用者の血管、特に毛細血管の機能が改善される」との効果を有するとされているところ、「血管の機能」が具体的にどのような機能を意味しているのか明確でないが、仮に、段落【0043】に記載されている「使用者Aの疲労回復の向上や血行障害の改善」や「ケガなどによって損傷した部位や老化により皮膚が衰えた部位の血行が改善され」ることを意図しているとすると、これらの効果が本件補正発明の「酸素カプセル装置」を使用した後も継続しているのか不明であり、「血管の機能が改善される」といえるのか疑問である。
そして、引用文献2の「緊締具」も、(1-2)イの段落【0003】に「四肢の付根付近の所定の部位を締付けて加圧すると、その加圧力が適当である場合には、四肢の皮膚に近いところに存在し、また、動脈より薄く硬さ(加圧による力に抗する性能)に劣る静脈が閉まり、四肢のより深いところに存在し静脈よりも厚く硬さに優れた動脈は通常の状態に近い状態となる。その状態を一定時間保つと、付根付近を締付けられた四肢の中には、動脈から供給されるものの静脈から出ていくことのできない血液が溜まった状態となる。」と記載されているように、動脈から供給される血液が溜まった状態となること、つまり血圧が高まる状態となるので、抹消側の血管(毛細血管等)に向けての血行が改善する効果を有するものといえる(なお、加圧ベルトを装着してトレーニングを行うことにより、毛細血管の血行が改善することは、参考文献1記載事項及び参考文献2記載事項にも示されているように、従来周知の事項である。)。
以上を踏まえると、本件補正発明の作用効果は、引用発明及び引用文献2記載事項から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別なものとはいえない。
エ 請求人の主張について
(ア)令和4年2月3日提出の意見書における主張について
令和4年2月3日提出の意見書では、[表1]において、「何れの加圧処置なし」、「酸素カプセルによる加圧のみ」及び「酸素カプセルにより加圧し、且つ加圧ベルトにより80mmHgに加圧」との間で効果の比較がされているが、「加圧ベルトによる加圧のみ」と「酸素カプセルにより加圧し、且つ加圧ベルトにより80mmHgに加圧」した場合との比較はされていないから、「酸素カプセルにより加圧し、且つ加圧ベルトにより80mmHgに加圧」した場合の結果が、加圧ベルトにより加圧したことにより生じているのか、加圧ベルトにより加圧したことと酸素カプセルにより加圧したこととの相乗効果として生じているのか不明である。
したがって、当該主張を参照しても、本件補正発明の作用効果は、引用発明及び引用文献2記載事項から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別なものとはいえない。
(イ)審判請求書における主張について
請求人は、審判請求書の「4.(4)ウ 容易想到性」において、「使用者の血管径を収縮させて血流速度を高めるように作用する引用発明1と、使用者の血流を阻害して血管を拡張させるように作用する引用発明2とでは、それぞれの作用が真逆であります。すなわち、引用発明1と引用発明2とでは、それぞれの作用機能が大きく異なっています。
したがって、引用発明1に引用発明2を組み合わせようとすることは、動機付けられることではありません。」と主張している。
しかしながら、引用文献1において、使用者の血管径を収縮させて血流速度を高めることは、上記(1-1)ア(ク)段落【0039】の「ハウジング内の気圧が大気圧より高い約1.3気圧に維持されていることにより、皮膚の血管が圧迫されて血管径が縮小し、血管内皮へのずり応力が増大することから」との記載を参照すれば、「皮膚の血管」の「血管径が縮小」することであって、引用文献2の(1-2)イの「四肢の皮膚に近いところに存在し、また、動脈より薄く硬さ(加圧による力に抗する性能)に劣る静脈が閉まり」との作用と共通するものであるといえる。
したがって、引用発明の作用と引用文献2記載事項の作用とは、真逆のものといえるものではないので、請求人の上記主張は、採用できない。
(4)小括
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、出願当初に添付された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 1(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載」に記載されたとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、次の理由である。
●理由1(特許法第29条第2項)について
本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載されている事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3 当審の判断
本願発明は、上記「第2 1(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載」に記載されたとおりのものであり、本件補正発明から、「酸素カプセル本体」について、「収容空間を1.05~1.3気圧に加圧可能」とする事項、及び「加圧ベルト」について、「使用者の最高血圧を110~160mmHgに高めるように構成された」との事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項の全てを含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2 2 2-3(3)」に示したように、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-014911