2022-012873
シャント抵抗の電流値補正システムおよび方法
- 審判番号
- 2022-012873
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-532015外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年08月17日
- 審決日
- 2023年05月29日
- 公報発行日
- 2023年11月24日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (G01R)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 8項目
第1 手続の経緯
折りたたみ中(クリックで表示)
本願は、2019年(令和元年)8月26日を国際出願日とする外国語特許出願であって(パリ条約による優先権主張 2018年8月31日 韓国)、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。なお、2018年8月31日を、以下「優先日」という。
(同年 4月19日 :原査定の謄本の送達)
同年 8月17日 :審判請求書の提出
第2 本願発明
令和5年4月24日の面接において、請求人は、令和3年11月12日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1について、「請求項1の「前記電力算出部は、前記シャント抵抗に対する電流値および前記第1抵抗値に基づいて、新しい前記消費電力及び前記発熱量をさらに算出し」の「前記第1抵抗値」は、「前記第2抵抗値」の誤記である」旨説明した。
当合議体は、上記請求人の主張を認め、当該誤記を正した上で、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
「【請求項1】回路上に備えられるシャント抵抗に対する電流値および前記シャント抵抗の第1抵抗値に基づいて、前記シャント抵抗の消費電力および発熱量を算出する電力算出部と、前記シャント抵抗の周囲温度を測定する温度測定部と、算出された前記発熱量と前記シャント抵抗の熱抵抗係数に基づいて算出される前記シャント抵抗の発熱温度と前記周囲温度に基づいて、前記シャント抵抗に対する第2最終温度および電流導通前の第1最終温度に対比した前記第2最終温度の変化量を算出した後に前記第1最終温度を前記第2最終温度に変更する最終温度算出部と、算出された前記シャント抵抗の最終温度変化量と、温度変化に応じて可変する前記シャント抵抗の温度係数に基づいて前記シャント抵抗の第2抵抗値を算出する抵抗算出部と、を備え、前記電力算出部は、前記シャント抵抗に対する電流値および前記第2抵抗値に基づいて、新しい前記消費電力および前記発熱量をさらに算出し、前記最終温度算出部は、新たに算出された前記発熱量と前記熱抵抗係数に基づいて新たに算出される前記発熱温度と前記周囲温度に基づいて、新しい前記第2最終温度および変更された前記第1最終温度に対比した新しい前記第2最終温度の変化量をさらに算出し、前記抵抗算出部は、新たに算出された前記最終温度変化量と、前記温度係数に基づいて新しい前記第2抵抗値を算出する、電流値補正システム。」
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての理由1(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
理由1(進歩性の欠如)
本願発明は、優先日前に日本国内又は外国において発行された下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1 特開2017-96694号公報
第4 当審の判断
1 各引用文献に記載された事項並びに引用発明及び周知技術の認定
(1) 引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定
ア 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先日前に発行された引用文献1(特開2017-96694号公報)には、以下の記載がある。なお、下線は、当合議体が付したものであり、後記イにおいて引用発明の認定に直接用いるところに付してある。
(ア) 【0001】~【0005】
「【技術分野】【0001】この発明は、電流値算出装置および車載システムに関する。【背景技術】続きを表示(全16行)【0002】特許文献1には、電流検出回路が記載されている。この電流検出回路では四辺を有する抵抗ブリッジのうち、一辺において抵抗と直列接続されたダイオードが採用される。特許文献1に示された技術は、このダイオードの温度特性を用いることにより、当該一辺と対向する辺において設けられた電流測定用の抵抗の温度特性を吸収する。【先行技術文献】【特許文献】【0003】【特許文献1】特開昭63-128267号公報【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0004】しかしながら、特許文献1の電流検出回路に大電流が流れる場合には、ダイオードとして電流定格の大きいものを採用する必要がある。そのようなダイオードのサイズは大きく、好ましくない。【0005】そこで本発明は、パターン配線の抵抗値の温度変化を吸収するためのハードウェア構成を必要とすることなく、抵抗値の温度変化を考慮してパターン配線に流れる電流を算出できる電流値算出装置を提供することを目的とする。」
(イ) 【0009】~【0012】、【図1】
「【発明を実施するための形態】【0009】第1の実施の形態.図1は、電流値算出装置100の構成の一例を概略的に示す図である。この電流値算出装置100は車両に搭載される。車両には、例えば発電機およびバッテリなどの電源が搭載されており、この電源は負荷へと給電する。例えば電流値算出装置100は電源から負荷へと流れる負荷電流の電流値を算出する。【0010】電流値算出装置100はパターン配線2と演算処理部3と温度検出部4と電圧検出部5とを備えている。図1の例示では、これらの各構成は基板1に設けられている。基板1は例えばプリント基板であり、絶縁性を有している。パターン配線2は電流を検出するために用いられ、いわゆるシャント抵抗として機能する。つまりパターン配線2は負荷電流が流れる経路の上に設けられる。パターン配線2は例えば銅または銀などの金属によって形成されている。上述の例では、パターン配線2は、電源と負荷とを繋ぐ配線の一部として形成されてもよい。【0011】温度検出部4はパターン配線2の周辺の温度Tatmを検出し、これを演算処理部3へと出力する。図1の例示では、温度検出部4は、パターン配線2が形成される基板1の上に設けられている。温度検出部4による温度検出の手法としては、適宜の手法が採用されればよい。例えば温度検出部4はサーミスタを有していてもよい。このサーミスタの抵抗値は温度に依存して変化する。そして、このサーミスタの電圧および電流を検出し、これらに基づいてサーミスタの抵抗値を算出し、その抵抗値に基づいてサーミスタの温度を検出してもよい。【0012】電圧検出部5はパターン配線2に印加される電圧、具体的にはパターン配線2の両端間の電圧Vを検出し、これを演算処理部3へと出力する。図1の例示では、電圧検出部5も基板1に設けられている。電圧検出部5は、シャント抵抗に流れる電流の電流値を得るために、通常設けられる構成である。」
「【図1】[図:0001403312000001.jpg]」
(ウ) 【0013】、【図2】
「【0013】図2は、電圧検出部5の内部構成の一例を示している。電圧検出部5は例えば抵抗R1~R3と、差動増幅器52と、トランジスタ51とを備えている。抵抗R1の一端はパターン配線2の一端2aに接続され、他端は、トランジスタ51の一端と、差動増幅器52の第1入力端とに接続される。抵抗R2の一端はパターン配線2の他端2bに接続され、他端は、トランジスタ51の他端と差動増幅器52の第2入力端と抵抗R3の一端とに接続される。抵抗R3の他端は接地されている。かかる電圧検出部5において、パターン配線2の電圧Vは増幅されて、抵抗R3の電圧として検出される。」
「【図2】[図:0001403312000002.jpg]」
(エ) 【0014】~【0019】、【図3】
「【0014】演算処理部3は、温度検出部4が検出した温度Tatmと、電圧検出部5が検出した電圧Vとに基づいて、パターン配線2を流れる電流の電流値を算出する。図1の例示では、演算処理部3も基板1に設けられている。図3は演算処理部3と温度検出部4と電圧検出部5との接続関係の一例を示す図である。温度検出部4および電圧検出部5はそれぞれ温度Tatmおよび電圧Vを演算処理部3へと出力する。演算処理部3は例えばAD変換部31,32と電流値算出部33とを備えている。図3の例示では、AD変換部31,32は「ADC」と表記されている。AD変換部31には、温度Tatmを示すアナログ信号が入力される。AD変換部31はこれをデジタル信号に変換して、電流値算出部33へと出力する。AD変換部32には、電圧Vを示すアナログ信号が入力される。AD変換部32はこれをデジタル信号に変換して、電流値算出部33へと出力する。【0015】なおここでは、演算処理部3は例えばマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、演算処理部3はこれに限らず、演算処理部3によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。続きを表示(全12行)【0016】演算処理部3(より具体的には電流値算出部33)は、電圧Vおよび温度Tatmに基づいて、パターン配線2の抵抗値Rsを更新し、パターン配線2を流れる電流の電流値Iを電圧Vおよび抵抗値Rsに基づいて算出する。以下に具体的に説明する。【0017】パターン配線2の抵抗値Rsは以下の式で示されるように、パターン配線2の温度Tsに依存して変化することが公知である。【0018】Rs=Rs0・{1+α(Ts-T0)} ・・・(1)【0019】ここで、T0は基準温度であって、例えば摂氏25度を採用することができる。Rs0は温度が基準温度T0であるときのパターン配線2の抵抗値であって、予め実験またはシミュレーションによって求められる。αは、単位温度当たりのパターン配線2の抵抗値の変化率であり、予め実験またはシミュレーションによって求められる。抵抗値Rs0、基準温度T0および変化率αは例えば演算処理部3の記憶部などに記憶されている。」
「【図3】[図:0001403312000003.jpg]」
(オ) 【0020】~【0021】、【図4】
「【0020】ところで、パターン配線2に電流が流れると、パターン配線2は、いわゆるジュールの法則によって、その消費電力に等しいジュール熱Wで発熱する。これによってパターン配線2の温度Tsは上昇する。図4は熱モデルの一例を概略的に示す図である。この熱モデルにおいてはパターン配線2が発熱体Hthとして機能し、またパターン配線2に蓄えることができる熱量を示す容量Cthが、発熱体Hthに並列に接続されている。図4では、パターン配線2から温度検出部4までの熱抵抗Rthが示され、また温度検出部4から外部への熱抵抗Rも示されている。パターン配線2の温度Tsは以下の式で表される。熱抵抗Rthは、例えばシミュレーションまたは実験により、予め設定することができる。熱抵抗Rthは例えば演算処理部3の記憶部などに記憶されている。また熱抵抗Rthと容量Cthによる時定数を考慮するために、熱抵抗Rthを時間変化させることも可能である。例えば、重み付けしたフィルタ処理演算を行うことにより、実現可能である。これを行えば、時間変化による誤差を補正することができる。【0021】Ts=Tatm+W・Rth ・・・(2)」
「【図4】[図:0001403312000004.jpg]」
(カ) 【0022】~【0039】、【図5】
「【0022】式(1)および式(2)によれば、ジュール熱Wを算出し、温度Tatmを検出すれば、熱抵抗Rthとジュール熱Wとの積を温度Tatmに加算して温度Tsを算出することができ、温度Tsに基づいて抵抗値Rsを算出できることが分かる。図5は電流値算出装置100の動作の一例を示すフローチャートである。この動作は、例えばパターン配線2に電流が流れ始めるときに、開始される。例えば電源と負荷との間にパターン配線2が設けられる場合、電源から負荷へと電流を流して負荷が動作を開始するときに、電流値算出装置100は図5の動作を開始する。【0023】図5の例示では、ステップST1~ST5の一組を繰り返し実行する。この繰り返しの回数として整数nを採用する。整数nは1以上の整数であり、繰り返しの回数が一つ増えるたびに一つ増える。以下では、必要に応じて各値を時間的な離散値で考えるべく、各値に[n]を付記する。例えばn+1回目の処理で用いられる抵抗値Rsは抵抗値Rs[n]とも表記する。続きを表示(全36行)【0024】まずステップST1にて、温度検出部4は温度Tatmを検出し、これを演算処理部3へと出力する。なお温度検出部4が検出する温度Tatmは、負荷の運転中においてほぼ一定であってもよい。つまり、温度検出部4はパターン配線2の発熱の影響を受けにくい位置に設けられてもよい。このような位置としては、基板1のうちパターン配線2から離れた位置を採用できる。【0025】次に、ステップST2にて、電圧検出部5は電圧V[n]を検出し、これを演算処理部3へと出力する。次に、ステップST3にて、演算処理部3は電圧V[n]と抵抗値Rs[n]に基づいて、電流値I[n]を算出する。具体的には、以下の式に基づいて電流値I[n]を算出する。【0026】I[n]=V[n]/Rs[n] ・・・(3)【0027】抵抗値Rs[n]は、n=1のとき、即ち第1回目の動作においては、次のように算出できる。つまり、第1回目の動作では、負荷電流が流れた直後であるので、パターン配線2の温度Tsは温度Tatmと同程度であると考えることができる。よってTs=Tatmとして抵抗値Rs[1]が算出される。具体的には、以下の式に基づいて、抵抗値Rs[1]を算出する。【0028】Rs[1]=Rs0・{1+α(Tatm-T0)} ・・・(4)【0029】一方で、nが2以上の場合には、即ち第2回目以上の動作においては、抵抗値Rs[n]としては、前回のステップST5で算出(更新)される抵抗値Rs[n+1]を採用する。ステップST5については後に詳述する。【0030】次にステップST4にて、演算処理部3はジュール熱W[n]を算出する。例えば以下の式を用いてジュール熱W[n]を算出する。【0031】W[n]=Rs[n]・I[n]2・・・(5)【0032】次にステップST5にて、演算処理部3は、検出した温度Tatmと、算出したジュール熱W[n]とに基づいて、抵抗値Rs[n+1]を算出する。例えば、まず温度Tatmとジュール熱W[n]とに基づいて、パターン配線2の温度Ts[n]を算出する。具体的には、式(2)においてTs=Ts[n]、W=W[n]として温度Ts[n]を下式で算出する。【0033】Ts[n]=Tatm+W[n]・Rth ・・・(6)【0034】そして、式(1)においてTs=Ts[n]として抵抗値Rs[n+1]を下式で算出する。つまり、抵抗値Rsを更新する。【0035】Rs[n+1]=Rs0・{1+α(Ts[n]-T0)} ・・・(7)【0036】これにより、より実際の抵抗値Rsに近い値が、抵抗値Rs[n+1]として算出されることになる。そして、この抵抗値Rs[n+1]は次回のステップST1における抵抗値Rに採用される。したがって、ステップST3において、実際の値に近い電流値Iが算出されるのである。【0037】以上のように、本実施の形態によれば、演算処理部3の演算処理によって電流値Iを算出している。よって特許文献1に記載された温度補償のためのダイオードは不要である。なお本実施の形態では、温度検出部4が設けられるものの、この温度検出部4には、パターン配線2の電流に依存した電流が流れる訳ではない。特許文献1に記載のダイオードが不要であり、しかも温度検出部4にパターン配線2の電流は流れない。したがって、本電流値検出部100は、大きな電流が流れるパターン配線2に流れる構成にも適用しやすいのである。【0038】しかも、温度検出部4によって検出された温度Tatmを常にパターン配線2の温度Tsとみなして電流値Iを算出する場合に比べて、電流値Iの算出精度を向上することができる。つまり、パターン配線2の抵抗値Rsの温度変化を吸収するためのハードウェア構成(上記ダイオード)を必要とすることなく、抵抗値Rsの温度変化を考慮してパターン配線2に流れる電流の値を算出できる。【0039】なお、ステップST1,ST2の実行タイミングは上述の例に限らない。ステップST1はステップST5よりも前に行えばよく、ステップST2はステップST3よりも前に実行すればよい。また温度Tatmがほぼ一定となる場合には、ステップST1は1回目の動作のみ実行してもよい。即ち、2回目以降は、ステップST2~ST5の一組を繰り返し実行してもよい。」
「【図5】[図:0001403312000005.jpg]」
イ 引用発明の認定
前記アにおいて摘記した事項を総合すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明>
「パターン配線の抵抗値の温度変化を吸収するためのハードウェア構成を必要とすることなく、抵抗値の温度変化を考慮してパターン配線に流れる電流を算出できる電流値算出装置であって、(【0005】)パターン配線2は電流を検出するために用いられ、シャント抵抗として機能するものであり、(【0010】)温度検出部4はパターン配線2の周辺の温度Tatmを検出し、(【0011】)演算処理部3は、温度検出部4が検出した温度Tatmと、電圧検出部5が検出した電圧Vとに基づいて、パターン配線2を流れる電流の電流値を算出するものであり、(【0014】)続きを表示(全24行)パターン配線2から温度検出部4までの熱抵抗は、Rthであり、(【0020】)電流値算出装置100の動作は、パターン配線2に電流が流れ始めるときに開始され、(【0022】)以下のステップST1~ST5の一組を繰り返し実行するものであり(ここで繰り返しの回数を整数nとする。)、(【0023】)ステップST1にて、温度検出部4は温度Tatmを検出し、(【0024】)ステップST2にて、電圧検出部5は電圧V[n]を検出し、(【0025】)ステップST3にて、演算処理部3は電圧V[n]と抵抗値Rs[n]に基づいて、電流値I[n]を算出し、(【0025】)ここで、抵抗値Rs[n]は、n=1のとき、即ち第1回目の動作においては、負荷電流が流れた直後であるからTs=Tatmとして、次の式(4)により算出され、Rs[1]=Rs0・{1+α(Tatm-T0)} ・・・(4)(【0027】、【0028】)(ここでT0は基準温度であり、Rs0は温度が基準温度T0であるときのパターン配線2の抵抗値であり、αは、単位温度当たりのパターン配線2の抵抗値の変化率である。)(【0019】)ステップST4にて、演算処理部3はジュール熱W[n]を、次の式(5)により算出し、W[n]=Rs[n]・I[n]2 ・・・(5)(【0030】、【0031】)ステップST5にて、演算処理部3は、まず温度Tatmとジュール熱W[n]とに基づいて、パターン配線2の温度Ts[n]を、次の式(6)を用いて算出し、Ts[n]=Tatm+W[n]・Rth ・・・(6)(【0032】、【0033】)次に抵抗値Rs[n+1]を次の式(7)で算出して、抵抗値Rsを更新する、Rs[n+1]=Rs0・{1+α(Ts[n]-T0)} ・・・(7)(【0034】、【0035】)電流値算出装置。」
(2) 引用文献2に記載された事項及び技術常識の認定
ア 引用文献2に記載された事項
当審において新たに引用する、本願の優先日前に公衆に利用可能となった引用文献2(「全データを保持せずに、統計値をオンライン計算する方法」、[online]、2015年(平成27年)1月17日、[令和5年4月24日検索]、インターネット、<URL : https://myenigma.hatenablog.com/entry/20150117/1421484158>)には、以下の記載がある。
「全データを保持せずに、統計値をオンライン計算する方法はじめに最近は、プログラミングで統計値を使うことが多くなってきました。しかし、あるデータが出尽くしているような状態で解析を実施するいわゆるオフライン解析ではあまり問題にならないですが、ロボティクスのように、センサのデータを逐次的に解析するようなオンライン解析を実施するプログラムでは、統計値の計算の際に悩んでしまうことがあります。続きを表示(全13行)例えば、有るデータの平均値を計算したい時に、普通の平均の計算は全データを必要としますが、そのためにはすべてのデータをメモリ上に保持しなくてはいけません。しかし、オンライン計算が必要な組み込みシステムでは使用できるメモリが限られているという問題があります。そこで、すべてのデータを保持せずに、統計値を計算する方法が提案されているので、それらの方法を説明したいと思います。平均値の逐次計算平均値は一つ前の平均値と、これまで計算した値の数を保持することで、逐次的に平均値を計算することができます。更新の計算方法は下記の式の通りです。[図:0001403312000006.jpg]\bar{x}は平均値、xは得られた値、そしてNはデータ数になります。上記の式を使うことにより、平均値とこれまで計算に使った値のみを保持すれば良いので、受け取ったデータをすべて保持すること無く、平均値の計算することができます。」
イ 技術常識の認定
引用文献2に「データが追加された後の新たな平均値を、当該データが追加される前の平均値と、当該データが追加されたことによる平均値の変化量から計算すること」が記載されていることに例示されるように、次の技術事項は、技術常識であると認める。
<技術常識>
「ステップn+1における新たな計算値を、一つ前のステップnにおける計算値とステップn+1における当該計算値の変化量から計算すること。」
2 本願発明と引用発明の対比
(1) 対比分析
以下、請求項1の記載に沿って、本願発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「電流値算出装置」は、「抵抗値の温度変化を考慮してパターン配線に流れる電流を算出」することを課題とするものであり、パターン配線2の発熱に基づく温度変化によって抵抗値を補正することを発明特定事項として有するものであるから、「電流値補正システム」の発明である本願発明と「電流値算出装置」の発明である引用発明は、「電流値補正システム」の発明である点で一致する。
イ(ア)a 引用発明において「パターン配線2は電流を検出するために用いられ、シャント抵抗として機能するものであ[る]」から、引用発明における「パターン配線2」は、本願発明における「シャント抵抗」に相当する。
b 引用発明において「演算処理部3」が「ステップST3」において算出する「電流値I[n]」は、「パターン配線2」を流れる電流であり、「パターン配線2」が回路上に備えられるのは当然のことであるから、前記aも踏まえると、引用発明における「電流値I[n]」は、本願発明における「回路上に備えられるシャント抵抗に対する電流値」に相当する。
(イ)a 次に、本願発明における「シャント抵抗の第1抵抗値」及び「シャント抵抗の第2抵抗値」についてその意味を検討する。
b 「シャント抵抗の第1抵抗値」及び「シャント抵抗の第2抵抗値」について、本願の明細書の段落【0033】から【0036】及び【0060】には次のとおり記載されている。
「【0033】ここで、第1抵抗値とは、シャント抵抗10自体の抵抗値を意味する。」
「【0034】また、第2抵抗値とは、シャント抵抗10の可変抵抗値であって、後述する抵抗算出部106から算出されるシャント抵抗10の値を意味する。【0035】また、電流算出部102は、下記数学式1により演算される値をシャント抵抗10に導通する電流値に決定することができる。【0036】[数学式1]【数1】[図:0001403312000007.jpg](ここで、Iはシャント抵抗に対する電流値であり、Vはシャント抵抗に対する電圧値であり、Rはシャント抵抗の第1抵抗値である。)」
「【0060】次に、抵抗算出部が、算出された最終温度値変化量とシャント抵抗の温度係数に基づいてシャント抵抗の第2抵抗値を算出し(S205)、算出された第2抵抗値を電流算出部に提供することによって第1抵抗値が第2抵抗値に変更されるようにする(S206)。」
c 前記bに摘記した本願明細書の記載を参酌すると、「シャント抵抗の第1抵抗値」は、「シャント抵抗の消費電力および発熱量を算出する」ために用いられる初めの値としての「シャント抵抗10自体の抵抗値」であって、その後変更されるものであり、変更後のものは「算出された第2抵抗値」と等しい値であること(すなわち、第2抵抗値は変更後の第1抵抗値の値である。)が理解される。
d そうすると、引用発明においてn=1としたRs[1]=Rs0・{1+α(Tatm-T0)}は、初めの抵抗値であるから、本願発明の「シャント抵抗の第1抵抗値」に相当する。
(ウ) さらに、引用発明の「演算処理部3」は、「ステップST4」において、ジュール熱W[n]を式(5)「W[n]=Rs[n]・I[n]2」によって算出するものであるから、前記(ア)及び(イ)も踏まえると、引用発明における「演算処理部3」は、「回路上に備えられるシャント抵抗に対する電流値及び前記シャント抵抗の第1抵抗値に基づいて、前記シャント抵抗の消費電力を算出する」ものであるといえる。
(エ) 前記(ア)から(ウ)を踏まえると、本願発明と引用発明は、次の点で共通する。
「回路上に備えられるシャント抵抗に対する電流値および前記シャント抵抗の第1抵抗値に基づいて、前記シャント抵抗の消費電力を算出する電力算出部を備える」点。
ウ 引用発明において、「温度検出部4はパターン配線2の周辺の温度Tatmを検出[する]」から、前記イ(ア)aもふまえると、引用発明の「温度検出部4」は、本願発明の「前記シャント抵抗の周囲温度を測定する温度測定部」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明は「前記シャント抵抗の周囲温度を測定する温度測定部」を備える点で一致する。
エ(ア)a 引用発明の「演算処理部3」は、ステップST5において「温度Tatmとジュール熱W[n]とに基づいて、パターン配線2の温度Ts[n]を」、「パターン配線2から温度検出部4までの熱抵抗」である「Rth」を用いて、式(6)の「Ts[n]=Tatm+W[n]・Rth」により算出し、「ジュール熱W[n]」は式(5)「W[n]=Rs[n]・I[n]2」により算出されるから、引用発明においては、「W[n]」は、単位時間当たりのシャント抵抗の発熱量として考えられている。そして、引用発明の式(6)の第2項の「W[n]・Rth」は、本願発明の「シャント抵抗の発熱温度」に相当する。
b ここで、本願明細書の段落【0038】から【0041】の記載、特に次の【0041】の記載を参酌すると、「I2*Rはシャント抵抗10の消耗電力であり、これをシャント抵抗10に導通する電流の導通時間だけ積分することによってシャント抵抗10の発熱量を算出する」から本願発明の「発熱量」は、算出された消費電力に基づくものである。また、本願発明の「熱抵抗係数」は、「算出された前記発熱量と前記シャント抵抗の熱抵抗係数に基づいて算出される前記シャント抵抗の発熱温度」と記載されるように、「発熱量」から「発熱温度」を求めるために用いられるものであるから、引用発明の「Rth」と「熱抵抗に関する係数」である点で共通する。
c したがって、本願発明の「発熱温度」と引用発明の「W[n]・Rth」は、「算出された消費電力にもとづく発熱に関する量」と「熱抵抗に関する係数」に基づいて算出される「シャント抵抗の発熱温度」である点で共通する。
(イ)a 本願発明において、「第2最終温度値とは、シャント抵抗10の発熱温度値と周囲温度値を加えた温度値であって、上述した最終温度値算出部105から算出されるシャント抵抗10の温度値を意味する」(本願明細書【0046】)ものであるから、引用発明における式(6)の「Ts[n]=Tatm+W[n]・Rth」においてn=1とした場合の右辺の「Tatm+W[1]・Rth」は、本願発明の「前記シャント抵抗の発熱温度と前記周囲温度に基づいて」算出される「第2最終温度」に相当する。
b そして、引用発明においては、「n=1のとき、即ち第1回目の動作においては、負荷電流が流れた直後であるからTs=Tatmとして[いる]」から、引用発明における「電流導通前の第1最終温度」は「Ts=Tatm」であるといえるところ、引用発明において式(6)によって「Ts[1]」を式(6)の右辺の値とすることは、本願発明の「前記第1最終温度を前記第2最終温度に変更する」ことに相当する(令和5年4月24日の面接記録参照)。
c また、引用発明の前記a、bの算出を行う「演算処理部3」は、本願発明の「最終温度算出部」に相当する構成を備えるといえることは明らかである。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)の検討結果をまとめると、本願発明と引用発明は、次の点で共通する。
「算出された前記消費電力にもとづく発熱に関する量と前記シャント抵抗の熱抵抗に関する係数に基づいて算出される前記シャント抵抗の発熱温度と前記周囲温度に基づいて、前記シャント抵抗に対する第2最終温度を算出した後に前記第1最終温度を前記第2最終温度に変更する最終温度算出部」を備える点。
オ(ア) 引用発明の「単位温度当たりのパターン配線2の抵抗値の変化率」である「α」は、本願発明の「温度変化に応じて可変するシャント抵抗の温度係数」に相当する。
(イ) 引用発明において、「Ts[1]=Tatm+W[1]・Rth」の右辺の値は、上記エ(イ)bで示したとおり、本願発明の「第2最終温度」に相当するから、「Ts[1]」は本願発明の「第2最終温度」と同じ値である。
(ウ) 引用発明において、式(7)において「n=1」とした「Rs[2]=Rs0・{1+α(Ts[1]-T0)}」により算出された「抵抗値Rs[2]」と、本願発明における「算出された前記シャント抵抗の最終温度変化量と、温度変化に応じて可変する前記シャント抵抗の温度係数に基づいて」算出される「前記シャント抵抗の第2抵抗値」とは、前記(ア)及び(イ)を踏まえると、「算出された前記シャント抵抗の第2最終温度に関する値と、温度変化に応じて可変する前記シャント抵抗の温度係数に基づいて」算出される点で共通するといえる。
(エ) そして、引用発明の前記(ウ)の算出を行う「演算処理部3」は、本願発明の「抵抗算出部」に相当する構成を備えるといえることは明らかである。
(オ) 前記(ア)から(エ)までの検討結果をまとめると、本願発明と引用発明は、次の点で共通する。
「算出された前記シャント抵抗の第2最終温度に関する値と、温度変化に応じて可変する前記シャント抵抗の温度係数に基づいて前記シャント抵抗の第2抵抗値を算出する抵抗算出部」を備える点。
カ 引用発明においては、ステップST1~ST5の一組を繰り返し実行するものであるところ、繰り返しの回数n=2としたときに、「Rs[2]」はn=1のステップST5において求められており、「電流値I[2]」はn=2のステップST3において算出されるから、引用発明の「演算処理部3」が、n=2のステップST4において式(5)「W[n]=Rs[n]・I[n]2」においてn=2として算出すること、すなわち、「W[2]=Rs[2]・I[2]2」より「W[2]」を算出することは、本願発明の「前記電力算出部は、前記シャント抵抗に対する電流値および前記第2抵抗値に基づいて、新しい前記消費電力をさらに算出」することに相当する。
したがって、本願発明と引用発明は、「前記電力算出部は、前記シャント抵抗に対する電流値および前記第2抵抗値に基づいて、新しい前記消費電力をさらに算出する点」で共通する。
キ 引用発明において、繰り返しの回数n=2としたとき、引用発明の「演算処理部3」は、「ステップST5」において、温度Tatmとジュール熱W[2]とに基づいて、パターン配線2から温度検出部4までの熱抵抗Rthを用いて「Ts[2]=Tatm+W[2]・Rth」によりパターン配線2の温度Ts[2]を算出する。
これを踏まえると、「前記最終温度算出部は、新たに算出された前記発熱量と前記熱抵抗係数に基づいて新たに算出される前記発熱温度と前記周囲温度に基づいて、新しい前記第2最終温度および変更された前記第1最終温度に対比した新しい前記第2最終温度の変化量をさらに算出」する本願発明と引用発明は、次の点において共通する。
「前記最終温度算出部は、新たに算出された前記消費電力にもとづく発熱に関する量と前記熱抵抗に関する係数に基づいて新たに算出される前記発熱温度と前記周囲温度に基づいて、新しい前記第2最終温度をさらに算出[する]」点。
ク 引用発明において、繰り返しの回数n=2としたとき、引用発明の「演算処理部3」は「ステップST5」において、「抵抗値Rs[3]」を「Rs[3]=Rs0・{1+α(Ts[2]-T0)}」により算出する。
これを踏まえると、「前記抵抗算出部は、新たに算出された前記最終温度変化量と、前記温度係数に基づいて新しい前記第2抵抗値を算出する」本願発明と引用発明は、次の点で共通する。
「前記抵抗算出部は、新しい前記第2最終温度に関する値と、前記温度係数に基づいて新しい前記第2抵抗値を算出する」点。
(2) 本願発明と引用発明の一致点及び相違点
上記(1)の対比分析の検討結果をまとめると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
ア 一致点
「回路上に備えられるシャント抵抗に対する電流値および前記シャント抵抗の第1抵抗値に基づいて、前記シャント抵抗の消費電力を算出する電力算出部と、前記シャント抵抗の周囲温度を測定する温度測定部と、算出された前記消費電力に基づく発熱に関する量と前記シャント抵抗の熱抵抗に関する係数に基づいて算出される前記シャント抵抗の発熱温度と前記周囲温度に基づいて、前記シャント抵抗に対する第2最終温度を算出した後に前記第1最終温度を前記第2最終温度に変更する最終温度算出部と、算出された前記シャント抵抗の第2最終温度に関する値と、温度変化に応じて可変する前記シャント抵抗の温度係数に基づいて前記シャント抵抗の第2抵抗値を算出する抵抗算出部と、を備え、前記電力算出部は、前記シャント抵抗に対する電流値および前記第2抵抗値に基づいて、新しい前記消費電力をさらに算出し、前記最終温度算出部は、新たに算出された前記消費電力に基づく発熱に関する量と前記熱抵抗に関する係数に基づいて新たに算出される前記発熱温度と前記周囲温度に基づいて、新しい前記第2最終温度をさらに算出し、前記抵抗算出部は、新しい前記第2最終温度に関する値と、前記温度係数に基づいて新しい前記第2抵抗値を算出する、電流値補正システム。」である点。
イ 相違点
(ア) 相違点1
「前記シャント抵抗の第2抵抗値」及び「新しい前記第2抵抗値」を算出することについて、
本願発明においては、
それぞれ、「算出された前記シャント抵抗の最終温度変化量」及び「新たに算出された前記最終温度変化量」に基づいて算出しており、
そのために、第2最終温度だけでなく、「電流導通前の第1最終温度に対比した前記第2最終温度の変化量」及び「変更された前記第1最終温度に対比した新しい前記第2最終温度の変化量」を算出するのに対して、
引用発明においては、「電流導通前の第1最終温度に対比した前記第2最終温度の変化量」及び「変更された前記第1最終温度に対比した新しい前記第2最終温度の変化量」を算出することなく、それぞれ「Ts[1]」及び「Ts[2]」から「前記シャント抵抗の第2抵抗値」及び「新しい前記第2抵抗値」を算出する点。
(イ) 相違点2
本願発明においては、電力算出部において「消費電力」とともに「発熱量」を算出し、最終温度算出部において、「発熱量」と「熱抵抗係数」に基づいて「発熱温度」を算出しているのに対し、
引用発明においては、演算処理部3において、単位時間当たりの発熱量に相当する消費電力である「W[n]」を算出し、熱抵抗「Rth」とに基づいて発熱温度「W[n]・Rth」を算出している点。
3 本願発明への想到の容易性についての判断
(1) 相違点の想到の容易性についての判断
ア 相違点1について
(ア)a 前記1(2)イにおいて認定したとおり、「ステップn+1における新たな計算値を、一つ前のステップnにおける計算値とステップn+1における当該計算値の変化量から計算すること」は、技術常識である。
b したがって、引用発明において、Rs[n+1]をRs[n]とその変化量で表すことは、当業者が適宜なし得る設計変更にすぎない。
(イ)a 前記(ア)の考え方に沿って、以下、引用発明の式変形を記述する。
まず、引用発明においては、抵抗値Rs[n]を次式(7)で計算している。
Rs[n+1]=Rs0・{1+α(Ts[n]-T0)} ・・・(7)
b 式(7)において、一つ前の抵抗値Rs[n]は、次式(7’)により求められる。
Rs[n]=Rs0・{1+α(Ts[n-1]-T0)} ・・・(7’)
c 式(7)から式(7’)を引くと、次式(7*)が得られる。
Rs[n+1]-Rs[n]=Rs0・α・(Ts[n]-Ts[n-1]) (7*)
d 式(7*)において、Rs[n]を右辺に移項すると、次式(7”)が得られる、
Rs[n+1]=Rs[n]+Rs0・α・(Ts[n]-Ts[n-1]) (7”)
(ウ) 式(7”)において、ΔT[n]を、繰り返しの前回の温度からの変化量Ts[n]-Ts[n-1]とする。
n=1としたとき、ΔT[1]=Ts[1]-Ts[0]は、前記2(1)エ(イ)a及びbを踏まえると、本願発明における「電流導通前の第1最終温度に対比した前記第2最終温度の変化量」に相当する。
また、n=2としたとき、ΔT[2]=Ts[2]-Ts[1]は、前記2(1)エ(イ)b及びキを踏まえると、本願発明における「変更された前記第1最終温度に対比した新しい前記第2最終温度の変化量」に相当する。
そうすると、「前記シャント抵抗の第2抵抗値」及び「新しい前記第2抵抗値」を「算出された前記シャント抵抗の最終温度変化量」及び「新たに算出された前記最終温度変化量」に基づいて算出することは、引用発明において、技術常識を踏まえて、算出式を変形したことにすぎず、設計事項にすぎないといえる。
そして、このような算出方法を採用するために、「Ts[1]」及び「Ts[2]」(第2最終温度)だけでなく、「Ts[1]-Ts[0]」(「電流導通前の第1最終温度に対比した前記第2最終温度の変化量」)及び「Ts[2]-Ts[1]」(「変更された前記第1最終温度に対比した新しい前記第2最終温度の変化量」)を算出することは、技術常識を踏まえた設計変更をするための付随する設計事項にすぎず、当業者が適宜なし得るものである。
イ 相違点2について
本願発明においては、電力算出部で算出した「発熱量」と「熱抵抗係数」を用いて「発熱温度」を算出しているところ、本願明細書には、「I2*Rはシャント抵抗10の消耗電力であり、これをシャント抵抗10に導通する電流の導通時間だけ積分することによってシャント抵抗10の発熱量を算出する」(【0041】)と記載されるとおり、所定時間の積分値としての「発熱量」に基づいてシャント抵抗の「発熱温度」を算出している。
これに対し、引用発明では、「単位時間当たりの発熱量W[n]」と「熱抵抗Rth」に基づいてパターン配線2の「発熱温度」を算出しているが、当該パターン配線2の「発熱温度」は、本願発明におけるシャント抵抗の「発熱温度」と、最終的に算出すべき値としては等価であって、その導出過程において、「単位時間当たりの発熱量」と「熱抵抗」の組み合わせから算出するか、「所定時間の積分値としての発熱量」と「熱抵抗係数」の組み合わせから算出するかは、当業者が適宜選択すべき設計事項にすぎないものであり、実質的な相違点ではない。
ウ 総合評価
前記相違点1及び前記相違点2を総合的に勘案しても、本願発明が奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本願発明は、引用発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
(2) 請求人の主張について
ア 請求人の主張の内容
折りたたみ中(クリックで表示)
請求人は、審判請求書において、次の点を主張している。
引用文献1には、本願のように2つの物理量(抵抗値と最終温度)をステップごとに更新し、更新された2つの物理量に基づいて、最終温度を更新し、更新された最終温度をさらに用いて抵抗値を更新することは、開示されておらず、想到容易でもない。本願発明は、かかる構成上の相違により、「シャント抵抗の温度値が変動し続けても変動内訳を全て反映して正確な電流値を得る」(段落0005)という、引用発明から予測することのできない顕著な効果を奏する。
イ 請求人の主張についての判断
折りたたみ中(クリックで表示)
前記1(2)イにおいて認定したとおり、「ステップn+1における新たな計算値を、一つ前のステップnにおける計算値とステップn+1における当該計算値の変化量から計算すること」は、技術常識であるから、引用発明において、Rs[n+1]をRs[n]とその変化量で表すことは、当業者が適宜なし得る設計変更にすぎないところ、前記3(1)アにおいて検討したとおり、請求人の主張する相違点は、引用発明において前記技術常識を採用して算出式の設計変更をしたものにすぎないから、かかる相違点を根拠として、本願発明の進歩性を認めることはできない。
したがって、上記請求人の主張は、採用できない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2022-012873