特許拒絶査定不服審判
2022-008386
締緩用工具
- 審判番号
- 2022-008386
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-119793
- 請求日
- 2022年06月01日
- 審決日
- 2023年09月19日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社 アイダ
- 【請求人代理人】北上 日出登
- 審判長/審判官
- 審判長 刈間 宏信
- 審判官 鈴木 貴雄
- 審判官 田々井 正吾
- 分類
- P18 .121-WZ (B25B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-119793「締緩用工具」拒絶査定不服審判事件〔平成31年1月10日出願公開、特開2019-967〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件審判に係る出願は、平成29年6月19日にされた特許出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和2年12月24日付け:拒絶理由の通知
令和3年 3月 8日 :意見書・手続補正書の提出
令和3年 6月22日付け:拒絶理由の通知
令和3年10月28日 :意見書・手続補正書の提出
令和4年 2月22日付け:拒絶査定
令和4年 6月 1日 :拒絶査定不服審判の請求
令和4年 7月19日 :請求の理由の補正(方式)
令和5年 2月21日付け:当審による拒絶理由の通知
令和5年 5月 1日 :意見書の提出
第2 本件発明
本件の請求項1~7に係る発明は、令和3年10月28日に提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定されるとおりのものであって、本件の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、以下に記載のとおりである。
「 【請求項1】
建造物における複数の躯体の連結に用いられる締緩用工具であって、
軸部と、
前記軸部の一端側に設けられ、前記躯体それぞれの連結用孔の位置合わせをするための位置合わせ部と、
前記軸部の他端側に設けられたラチェットハンドルとを備え、
前記ラチェットハンドルには、先端工具を取り付けるための差込角が設けられている
ことを特徴とする位置合わせ部付きラチェットハンドル。」
第3 当審拒絶理由
当審が、令和5年2月21日付けで通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)のうち、本件発明に対する理由の概要は、以下のとおりである。
本件発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2記載の技術的事項並びに周知の課題に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開昭58-40272号公報
引用文献2:実願平3-86109号(実開平5-85554号)の
CD-ROM
引用文献3:実願平5-56217号(実開平7-27761号)の
CD-ROM(周知技術を示す文献)
第4 各引用文献の記載事項及び引用発明等
1 引用発明1
(1)引用文献1に記載された事項
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。以下同じ。)。
ア 特許請求の範囲(第6、8項)
「6)着脱自在の工具付属品を受容するための工具において、ハンドルと、該ハンドルに取付けられたヘッドと、該ヘッドに固定されており、該着脱自在の工具付属品を受容するための駆動軸と、該駆動軸の長手方向の通し孔内に受容された回動自在の細長ピンと、該駆動軸に設けられた穴内に受容された玉止め金と、前記ピンに形成されており、常態においては前記玉止め金を受容して該玉止め金を前記駆動軸から外方に突出させて前記工具付属品に設けられた凹部に係合し、該工具付属品を該駆動軸に堅く保持させるような深さを有する第1凹部と、該ピンに形成されており、該ピンが選択的に回動されたとき該玉止め金を受容して該玉止め金を引込めて該工具付属品を解放するようになされた第2凹部とから成る工具。
・・・
8)前記工具付属品はボルトなどを回すためのソケットである特許請求の範囲第1、2、3、5または6項記載の工具。」
イ 発明の詳細な説明
(ア)第3ページ右上欄第1~13行
「本発明の目的は、ボックススパナにソケットまたはその他の工具付属品を堅く保持し、それらをスパナから容易に解放するための機構を提供することである。この機構は、着脱自在のソケットまたはその他の工具付属品を有する動力工具および衝撃工具を含むすべての手持ち工具(手で持って操作する工具)に使用することができ、特に、手持ちラチェット式ボックススパナに使用することができる。
ここに述べる型式のボックススパナは、ハンドルと、ヘッドと、着脱自在のソケットまたは他の工具付属品を受容するための断面正方形または六角形等の駆動軸を有している。」
(イ)第4ページ右上欄第15行~同ページ左下欄第4行
「しかしながら、上記米国特許の迅速解放機構は、ソケットを駆動軸に確実に錠止し、ソケットの偶発的な抜けを防止するための手段を提供していない。このような錠止手段が加えられれば、例えば橋や高いビルジング等での作業の場合動力工具や、衝撃工具や、ボックススパナにとって極めて有利である。高い場所での作業の場合、ソケットが偶発的に抜け落ちるようなことがあれば、下にある高価な、あるいは繊細な機械や設備にとって危険であり、人命にかかわるおそれもある。」
(ウ)第5ページ左上欄第5~9行
「本発明は、ハンドルと、ヘッドと、ソケットなどの交換工具付属品を取付けるための断面正方形または六角形の駆動軸とを備えた通常の手持ちラチェット式ボックススパナに適用した場合について説明する。」
(エ)第6ページ右下欄第7行~第7ページ左上欄第16行
「ピン2および駆動軸9の組立体全体は任意の慣用手段によってスパナのヘッド1に固定する。図示の好ましい実施例では、リング13と、スパナのヘッド1に切設した溝15内に嵌着させる解放自在のばね14によって上記組立体をヘッド1に固定する。
本発明のこの特定の実施例では、駆動軸9の、ソケット16を受容する部分は、断面正方形であり、各かどが面取りされている。駆動軸の側壁の1つに玉止め金12を受容するための穴24が穿設されている。この実施例においては、駆動軸9のソケット受容端に細長ピン2を突出させ、該ピンの円形面が使用者にみえるようにする円形開口11が設けられている。
第1図を参照すると、スパナが迅速解放モードにあり、ソケット16が駆動軸9から解放されたところが示されている。操作つまみ3は、ソケット16を解放するために押込まれた位置にあるところが実線で示されている。操作つまみ3の点線で示された位置は、ソケットを保持する通常位置である。ラチェット逆転レバー19は、慣用の態様でスパナに取付けられている。」
ウ 図面(第1図、第2a図)
「
[図:0001404156000001.jpg]
」
(2)引用文献1の記載からわかること
引用文献1の上記(1)の記載から、引用文献1には以下の事項が記載されていることがわかる。
ア 上記(1)イ(ア)及び(イ)の記載から、引用文献1には、橋やビルジング等の高い場所での作業に用いられる手持ちラチェット式ボックススパナに関する発明が記載されていることがわかる。
イ 上記(1)イ(ウ)及び(エ)の記載及び上記(1)ウの第1図から、引用文献1に記載された手持ちラチェット式ボックススパナは、ハンドルと、ハンドルの端側に設けられたヘッド1とを備えていることがわかる。
ウ 上記(1)イ(ウ)及び(エ)の記載及び上記(1)ウの第1図から、引用文献1に記載されたボックススパナのヘッド1には、ソケット16を取り付けるための駆動軸9が設けられていることがわかる。
(3)引用発明1の認定
上記(1)及び(2)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
「橋やビルジング等の高い場所での作業に用いられる手持ちラチェット式ボックススパナであって、
ハンドルと、
ハンドルの端側に設けられたヘッド1と、を備え、
ヘッド1には、ソケット16を取り付けるための駆動軸9が設けられている
手持ちラチェット式ボックススパナ。」
2 引用文献2記載の技術的事項
(1)引用文献2に記載された事項
引用文献2には、以下の事項が記載されている。
ア 明細書(【考案の詳細な説明】)
(ア)段落【0001】~【0005】
「 【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は鉄骨建造物や鉄塔の組上げ時に使用するトルクレンチに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鉄骨建造物等の組上げ作業時には、鉄筋間のボルト孔合わせをシノで行い、ボルトをボルト孔に差込んだ後ナットを螺合し、トルクレンチを用いてボルト締めを行っていた。
【0003】
【考案が解決しようとする課題】
ところで、鉄骨建造物や鉄塔の組上げ作業は、高所で行なわれることが多いが、作業者がトルクレンチとシノの2つの工具を高所に運び、そこで2つの工具を使い分けてボルト締め作業を行うことは、作業の円滑さを損い、作業能率を低下させるという問題があった。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本考案は上記従来例の問題点を解消するため、握杆部の後端をテーパ形状にし、この部分を孔合せ用シノ部としたトルクレンチを提供するものである。
【0005】
【作用】
本考案によれば、トルクレンチに一体に孔合せ用シノ部を形成したので、鉄骨建造物等の組上げ作業時には、鉄骨間のボルト孔合わせを、トルクレンチの後端のシノ部を利用して行うことができ、次いでボルトをボルト孔に差込んだ後ナットを螺合し、トルクレンチを用いて所定トルクでボルト締めを行うことができる。」
(イ)段落【0006】~【0008】
「 【0006】
【実施例】
図1、図2に基き本考案の実施例を説明する。図面において、1は握杆部、2はヘッド、3はヘッド2を握杆部1に枢支する枢軸である。ヘッド2にはソケット部4が回転可能に支持され、このソケット部4にラチェットホイール5が一体的に回転するように取付けられている。6はソケット部4が正逆回転の一方を選択してフリー回転できるように設けた方向切換可能なラチェット爪である。握杆部1内には、所定トルクに達するまでヘッド部2を拘束し、所定トルクを越えたときヘッド部2を回動させるトルク設定機構が内蔵されている。ラチェットホイール5及びラチェット爪6による一方向回動機構及び前記トルク設定機構は、例えば実公昭59-38994号公報等に示されるように周知の機構であるので、説明を省略する。
【0007】
握杆部1の後端は、テーパ形状に形成され、シノ部7となっている。このシノ部7は、鉄骨建造物等の組上げ作業時に、鉄骨間のボルト孔を合わせるために用い、相重なるボルト孔にテーパ部を利用してシノ部7を挿入し、ボルト孔の中心を合致させる機能を有している。
【0008】
上記実施例はメガネレンチソケット部を備えたトルクレンチに関するものであるが、本考案は各種トルクレンチに適用することができる。」
(ウ)段落【0009】
「 【0009】
【考案の効果】
本考案によれば、孔合わせ、ボルト等の締付け、締付けトルク管理の3つの機能を備えたトルクレンチを提供することができる。この結果、鉄骨建造物等の高所での組上げ作業に本考案のトルクレンチを用いると、作業能率を格段に向上させることができると共に持ち運びが便利となる。」
イ 図面(【図1】~【図2】)
「【図1】
[図:0001404156000002.jpg]
【図2】
[図:0001404156000003.jpg]
」
(2)引用文献2の記載からわかること
引用文献2の上記(1)の記載から、引用文献2には以下の事項が記載されていることがわかる。
ア 上記(1)ア(ア)及び(ウ)の記載から、引用文献2には、高所で行われる鉄骨建造物や鉄塔の組上げ時に使用するトルクレンチに関する技術的事項が記載されていることがわかる。
イ 上記(1)ア(ア)及び(イ)の記載から、引用文献2に記載されたトルクレンチは、握杆部1と、握杆部1の後端に設けられ、鉄骨間のボルト孔を合わせるためのシノ部7と、握杆部1の他端側に設けられ、ソケット部4及びラチェットホイール5が一方向に回転可能に支持されるボルト締めを行うヘッド2と、を備えることがわかる。
(3)引用文献2記載の技術的事項の認定
上記(1)及び(2)から、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2記載の技術的事項」という。)が記載されているといえる。
「高所で行われる鉄骨建造物や鉄塔の組上げ時に使用するトルクレンチであって、
握杆部1と、
握杆部1の後端に設けられ、鉄骨間のボルト孔を合わせるためのシノ部7と、
握杆部1の他端側に設けられ、ソケット部4及びラチェットホイール5が一方向に回転可能に支持されるボルト締めを行うヘッド2と、を備えること。」
3 周知の課題
(1)引用文献3に記載された事項
引用文献3の明細書には、以下の事項が記載されている。
「 【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、ラチェット回動機構により回動されるソケット部材を具備したラチェットレンチにおいて、建築現場等での足場の組立て時に適したシノ付早廻しラチェットレンチに関するものである。
・・・
【0005】
【考案が解決しようとする課題】
ところで、足場の設置作業においては、上述の通り、工具を必要とすべき作業が2種類あるので、通常、作業者はいずれの工具をもただちに使用できるように、上記2種類の工具、すなわちレンチとシノを常時携帯するようにしている。
【0006】
ところが、このように2種類の工具を常時携帯するのでは、工具の保管面での煩雑さがあるのでこれを解消する必要があり、また、足場の設置は高所での作業が強いられるものであるから、作業者の負担とならないように携帯工具重量の軽減を図り、さらに工具交換作業を容易に行える方が好ましい。
・・・
【0010】
【作用】
本考案によれば、ナット等の締結に使用されるレンチ本体と、針金の締め付け等に使用されるシノ部材とを主軸部材及びハンドル部材を介して連結することによりレンチ及びシノという2種類の工具を一体化したので、工具の保管や携帯に極めて有利であるとともに、落下防止用ロープも一本ですむという利点がある。」
(2)高所での作業における周知の課題
引用文献2の、上記2(1)ア(ア)(例えば段落【0003】)及び(ウ)(段落【0009】)の記載のほか、引用文献3の上記(1)の記載、さらには一般常識からみて、以下の課題は、本件出願前において周知であったといえる。
「高所での作業のために作業者が持ち運ぶ工具の数を少なくしたいとの課題。」(以下「周知の課題」という。)
第5 本件発明と引用発明1との対比
1 本件発明特定事項と引用発明特定事項との相当関係
本件発明(上記第2)と、引用発明1(上記第4の1(3))とを対比すると、以下の関係にある。
(1)引用発明1における「手持ちラチェット式ボックススパナ」は、橋やビルジング等の高い場所での作業に用いられるものであって、当該スパナのヘッド1に取り付けられるソケット16が、ボルトなどを回すためのもの(上記第4の1(1)アの第8項)であることを踏まえると、ボルトを締めたり緩めたりすることで、建造物における複数の躯体の連結にも使用可能な工具であることは明らかであるから、引用発明1における「橋やビルジング等の高い場所での作業に用いられる手持ちラチェット式ボックススパナ」は、本件発明における「建造物における複数の躯体の連結に用いられる締緩用工具」に相当する。
(2)引用発明1における「ハンドル」は、その端側にヘッド1が設けられ、またボックススパナの一般的な形状を考慮すれば、本件発明における「軸部」に相当する。
(3)引用発明1における「ソケット16」は、ボルトを回すためのものであって(上記第4の1(1)アの第8項)、「手持ちラチェット式ボックススパナ」の端側のヘッド1の駆動軸9に取り付けられるものであるから、本件発明における「先端工具」に相当する。また、引用発明1における「駆動軸9」は、その「ソケット16」を取り付けるためのものであって、その形状は、断面正方形または六角形である(上記第4の1(1)イ(ウ)及び(エ))から、本件発明における「差込角」に相当する。
(4)引用発明1における「手持ちラチェット式ボックススパナ」の「ヘッド1」には、ソケット16を取り付けるための駆動軸9が設けられており、また当該ボックスパナが「ラチェット式」である点、及び、「ラチェット逆転レバー19は、慣用の態様でスパナに取付けられている」(上記第4の1(1)イ(エ))との記載からみて、ソケット16を駆動軸9に取り付けてボルトを回す(上記第4の1(1)アの第8項)際に、当該「ヘッド1」はラチェットハンドルとして機能することが明らかである。してみると、引用発明1における「ヘッド1」は、本件発明における「ラチェットハンドル」に相当する。
また、引用発明1の「ヘッド1」は、ハンドルの端側に設けられていることから、引用発明1の「ハンドルの端側に設けられたヘッド1」は、「軸部の端側に設けられたラチェットハンドル」である限りにおいて、本件発明1の「軸部の他端側に設けられたラチェットハンドル」と一致する。
そして、引用発明1の「手持ちラチェット式ボックススパナ」は、「工具」である限りにおいて、本件発明1の「位置合わせ部付きラチェットハンドル」と一致する。
2 本件発明と引用発明1との一致点
上記1を踏まえると、本件発明と引用発明1とは以下の<一致点>にて一致する。
<一致点>
「建造物における複数の躯体の連結に用いられる締緩用工具であって、
軸部と、
前記軸部の端側に設けられたラチェットハンドルとを備え、
前記ラチェットハンドルには、先端工具を取り付けるための差込角が設けられている
工具。」
3 本件発明と引用発明1との相違点
他方、本件発明と引用発明1とは以下の<相違点>にて相違する。
<相違点>
本件発明における「工具」は「位置合わせ部付きラチェットハンドル」であって、「前記軸部の一端側に設けられ、前記躯体それぞれの連結用孔の位置合わせをするための位置合わせ部」を備えているのに対し、
引用発明1における「工具」は「手持ちラチェット式ボックススパナ」(締緩用工具)であって、ハンドル(軸部)のヘッド1(ラチェットハンドル)が設けられた端側とは反対側の一端側に、本件発明の「位置合わせ部」に相当する部分を備えているか不明である点。
第6 相違点に対する当審の判断
上記相違点について検討する。
1 上記第4の2(3)に示した引用文献2記載の技術的事項における「シノ部7」は、握杆部1のヘッド2が設けられた端側とは反対側の後端に設けられ、高所で行われる鉄骨建造物等の組上げ作業時に、鉄骨間のボルト孔を合わせるために用い、相重なるボルト孔に挿入し、ボルト孔の中心を合致させる機能を有する(段落【0007】)ものであることから、本件発明1の「位置合わせ部」と同様の構造・機能を有するものである。
2 引用発明1と引用文献2記載の技術的事項とは、いずれも高所で使用されるボルトを締緩させる工具である点で技術分野や機能が共通する上に、引用文献2に記載のトルクレンチにおいてボルト締めの際に「ボルト孔合わせ」(段落【0003】)を行う必要性は、引用発明1のボックススパナでボルト締めの作業を行う際においても、当然に内在されているといえる。
3 また、両者は、高所での作業効率の向上を図る点(引用文献1については第4の1(1)イ(イ)、引用文献2については段落【0003】)で課題が共通するとともに、高所での作業のために作業者が持ち運ぶ工具の数を少なくしたいとの課題は、周知の課題(上記第4の3(2))であって、引用発明1においても内在する課題であるといえる。
4 したがって、引用文献2記載の技術的事項に触れた当業者であれば、1つの工具でボルト孔合わせとボルト締めを行うことができるように、引用発明1に引用文献2記載の技術的事項を適用し、引用発明1の「手持ちラチェット式ボックススパナ(締緩用工具)」の、ハンドルのヘッド1が設けられた端側とは反対側の一端側に、引用文献2記載の技術的事項の「シノ部7」を設けることで、上記相違点に係る本件発明のようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
第7 請求人の意見書での主張
1 本件審判請求人(以下単に「請求人」という。)は、令和5年5月1日に提出の意見書(以下単に「意見書」という。)にて、以下の主張をする。
(1)引用文献1はソケットを頻繁に付け替える機械工を対象とするものであり、建築作業現場では直径が異なるボルトが多数あるということはなく、この点、両者は想定している作業現場が相違する。このような使用現場の相違も影響し、当該引用文献1には格別、位置合わせ部と締結部材の入れ替えの煩雑さや工具を多数所持する労力に関する記載はない上、ラチェットハンドルの反対側に関しては記載すら無いから、本件発明が課題を解決するための構成に関し、示唆等がされているとは認めるに足りる証拠があるとはいえない(意見書第2~3ページ3.(2)(ii))。
(2)引用文献2のような締結工具の用途はレンチ部分にボルトやナットを挿入してボルトやナットの締め付けに利用するものであり、本件発明に係るラチェットハンドルは、回転式の工具を取り付けて回転させるものであり、本件発明とトルクレンチは構成、作用、機能が異なる(意見書第3ページ 3.(2)(iii))。また、引用文献2のような締結工具では、適用箇所の間隔が狭い場合、ヘッド部分がトルシアボルトのピンテールに当接してしまい、ヘッド部分が邪魔になって使用することができない(意見書第3~6ページ 3.(2)(v))。
(3)引用文献1で着目されているのはソケットの着脱の煩雑さの解消のみであり、引用文献2では高所作業者の携帯物品の多さによる課題に着目されていない。つまり、本願の課題を解決するという観点がいずれにもなく、両者を組み合わせて本件発明に容易に相当するための内容の示唆については開示されていない(意見書第3ページ 3.(2)(iv))。
(4)本件発明の課題は、高所の建築作業現場において、腰回りに多数の工具を携帯しなければならない作業者にとって、締結孔の位置合わせ部と、駆動回転工具の代替の締結工具の双方を個別に携帯するより、一体化されていれば都度腰から締結孔の位置合わせ部材を取り出してから位置合わせ部材を収納し、次に締結部材を取り出してまた収納するという作業は煩雑(明細書段落【0012】等)であり、かつ、メガネレンチを複数所持しつつ位置合わせ部材も併せて携帯する労力を解消することにある(意見書第2ページ3.(2)(i))。
従来、差込角付きラチェットハンドルが土木・建築工事に利用されておらず、本発明のように、建造物における複数の躯体それぞれの連結用孔の位置合わせをするための位置合わせ部を一端に、他端にラチェットハンドルを備えるものが提案されていなかった(意見書第6ページ 3.(2)(v))。
本件における発明者は、ラチェットハンドルと躯体の連結用孔の位置合わせ部を組み合わせることにより、多種多様なトルクレンチおよびシノを持ち運ぶという作業者の負担軽減と、さらに場合によって切削工具を取り付けることもでき、加えて間隔が狭い箇所でも使用可能となる工具を想到した(意見書第6~7ページ 3.(2)(v))。
2 請求人の主張に対する当審の見解
上記1(1)~(4)の請求人の主張について、以下の(1)~(4)でそれぞれ検討する。
(1)引用文献1には、「例えば橋や高いビルジング等での作業」及び「高い場所での作業」でのボックススパナの使用を考慮している点が明記されている(第4の1(1)イ(イ))から、本件発明と想定している作業現場が相違するということはない。そして、橋やビルジング等での作業に使用することを想定しているのであれば、引用発明1は、建造物における複数の躯体の連結にも使用可能な工具であることは明らかであり(第5の1(1))、その場合、ボルト締めの際にはボルト孔合わせを予め行う必要性があることも自明である(第6の2)。また、引用文献1には、高所での作業では工具の落下に注意を払う必要があることが示唆され(第4の1(1)イ(イ))、高所での作業にて工具を多数所持する労力に関する課題は本件出願前において周知であることは、上述のとおりである(第4の2(2)、第6の3)。さらに、本件発明が課題を解決するための構成に関しても、引用発明1に引用文献2記載の技術的事項を適用することにより容易に想到し得たものである(第6の4)。
したがって、請求人の上記1(1)の主張は採用できない。
(2)引用文献2記載の技術的事項については、握杆部1のヘッド2が設けられた端側とは反対側の後端に設けられ、鉄骨建造物等の組上げ作業時に、鉄骨間のボルト孔を合わせるために用い、相重なるボルト孔に挿入し、ボルト孔の中心を合致させる機能を有する「シノ部7」に着目(第6の1)し、当該「シノ部7」の引用発明1への適用の容易想到性を判断した(第6の2~4)のであるから、ヘッド2の構造上の違いについての請求人の主張は当を得ていない。
したがって、請求人の上記1(2)の主張は採用できない。
(3)引用発明1と引用文献2記載の技術的事項とは、高所での作業効率の向上を図る点(上記第6の3)で課題が共通するから、両者を組み合わせて本願発明に容易に想到するための内容の示唆については開示されているといえる。また、引用文献2には、高所作業者の携帯物品の多さによる課題について明記されている(第4の2(1)アの段落【0003】)。さらに、高所での作業のために作業者が持ち運ぶ工具の数を少なくしたいとの課題は、周知の課題(第4の3(2))であり、引用発明1においても内在される課題である。
したがって、請求人の上記1(3)の主張は採用できない。
(4)請求人が主張するように、本件発明の課題を解決するための従来提案されていない工具が本件発明であるとしても、引用発明1に引用文献2記載の技術的事項を適用することで本件発明を想到することが容易であることは、上記第6の1~4に示したとおりであり、本件発明が奏する効果についても、引用発明1及び引用文献2記載の技術的事項からみて、格別顕著な効果であるともいえない。
したがって、請求人の上記1(4)の主張は採用できない。
(5)よって、請求人の主張については、いずれも採用することができない。
第8 むすび
以上のとおり、本件発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-008386